二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
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- 四つ葉のクローバー
- 日時: 2012/09/17 00:02
- 名前: 田村 (ID: exZtdiuL)
 スコープに映る行軍中の歩兵。6…7…8人。8人の小部隊。前から4人めの歩兵の足を狙い、引き金を引く。ジャングルに銃声が響き、見晴らしの良い位置で歩兵が倒れる。瞬間、小隊は散り散りになり、姿を隠す。
 足を撃たれた歩兵は倒れたまま動かない。40秒程して仲間の歩兵が辺りを警戒しながら撃たれた歩兵の元へ近づく。スコープの真ん中にその歩兵の頭を合わせ、また引き金を引く。頭が揺れ、膝から落ちる。
 パパパパパパ、と銃声。ジャングルの中に隠れてサブマシンガンを連射しているようだが、こちらの位置が掴めていない以上、自分の位置を知らせるだけだ。二人の歩兵をヘッドショットで撃ち抜く。
 さすがにこちらの位置がわかったようで、残りの4人がこちらへ駆けてくる、瞬間。ジャングルから熊のような大男が現れて素手で3人の歩兵をなぎ倒した。残りの1人の歩兵は叫び声をあげようとしたが、その時には背後から近づいてきた男にナイフで喉を切り抜かれていた。
 無線機を取り出す。
 「・・・よし。足を撃ったのは捕虜として連れてきてくれ。おつかれさん」
 ***
 終わらない紛争地帯で腕の立つ謎の東洋人3人組の傭兵のことが噂になり始めていた。
 「コーヒー出来ました?俺のぶんもあるっすよね?」
 テントに入ってきたこの一見チャラチャラした小柄な男は『シーフ』と呼ばれている。素早く動き、隠れ、生命を奪うのが盗賊のようだ、と自分で言って自分でこの名前にした恥ずかしい奴だ。
 「いやおめーの分とかねーから。自分の分は自分で作れよ」
 そう言ってコーヒーをすする2メートル近くある大男は『ベア』と呼ばれている。現地の人間がこいつを見て熊だと思ったのが由来だ。熊よりでかい。
 シーフが俺の方を見て言う。
 「ちょっとノーバディさん!俺の分!!」
 俺だけ名前が長いんだよな。俺も短い名前のが良かったんだけど。敵兵の間で「居ないのに撃たれる」って評判になったので、この名前に。3人とも本名は知っているが、身元バレが怖いし、なによりここだと名前なんてたんなる識別記号だから。
 「ちゃんとあるよ。ほら」
 そう言ってシーフに水筒を渡す。
 「水じゃねえっすか!」
 「いや、俺らも水だよ。なあ、ベア」
 「間違いない。水だ」
 「完全に芳しい香りしてるじゃないっすか!騙せると思ってんのか!バカかあんたら!」
 安全な野営地では気も緩む。同郷の人間と一緒ならば、なおさらだ。俺たち3人は日本人で、同じ地元で、一緒に傭兵になった仲間だった。俺とベアは同学年。シーフはひとつ下。
 3人でボランティアで海外に来たが、紛争がはじまり、そのまま傭兵をやることになってしまった。いや、こういうと巻き込まれたみたいだな。それは違う。
 俺は、自ら進んで傭兵になった。
 日本で周りの人間と同じように勉強して、周りの人間と同じように進学して、毎日同じ事の繰り返しの仕事をしているうちに、自分の必要性がわからなくなっていった。だってそうだろう。自分は何一つ特別な人間ではないのだから。同じように生きてきた、代わりになる人間なんていくらでもいるのだから。
 自分が生きているのか死んでいるのかわからなくなった頃、二人に「自分探しにボランティアで海外に行きたい」と相談した。「面白そうだ」と言って二人はついてきた。ひょっとしたら二人も俺と同じ気持ちだったのかもしれない。
 それから、しばらくして俺は自分が生きていることが最も実感できる死地に立つことになった。いや、ひょっとしたら、俺はもう、死にたいのかもしれない。特別じゃないのならば。自分が必要じゃないのならば。
 「あー!そういうこと言うなら今日拾った『アレ』を見せるのやめようかなー!」
 拗ねてそっぽを向くシーフ。お前が拾うようなもんならそんなたいしたことないから別にいいよ、とベアと俺で声を揃える。
 「そんなこと言わないで見て下さいよ!これ!今日コレ拾ったんですよ!!」
 何も言わなくてもどうせ見せてくれるからシーフは楽だ。
 「お、四つ葉のクローバーじゃねえか」
 武器でも食料でもなく、シーフが出したのは意外にも小さな葉っぱだった。ベアが受け取り、俺に見せる。なんだシーフ、まだお前は子供かと俺が言うとシーフは少しむくれる。
 「いや、でもこれ久しぶりに見たな」
 そう言いながらベアは草の茎をもってクルクル回しながら続ける。
 「四つ葉のクローバーってのは大体1万分の1くらいの確率で見つかるんだと。基本的に葉っぱ系の植物っての葉っぱの数は奇数が多いからな。葉っぱが4つって時点で結構珍しいんだよ」
 少し驚いた。「なんだよベア、詳しいな」
 「まあな。他に5ツ葉とかもあるらしいけどな。ちなみに花言葉は『Be mine』(わたしのものになってください)だ」
 「さすがにそこまで詳しいとキモいを通り越してすごいっすね。いや、キモいかな」
 「うるせえこのやろう!!」
 シーフにベアがヘッドロックを決めて、シーフの黒目がぐるんと上に回り、夜が更けていく。この、楽しい時間は、好きだ。
 ***
 翌朝、雇い主の下っ端の下っ端、つまり俺達の小部隊の小隊長から呼び出された。俺達の腕を見込んで、3人での作戦行動。ある村まで行って、こちらの旗を立てるんだそうだ。
 プロパーなしでの作戦?そんなのありえないだろ、とは思ったが、そんなことこの下っ端に言っても仕方がないし、その村は辺境なのでちゃんと敵兵を警戒していれば楽な仕事だ。「わかりました」と言って3人でキャンプを後にした。
 俺は少し高台に腹ばいになり、スコープの向こうのシーフを見る。後方を警戒するベアも映る。村の入口まで行き、銃を構えるシーフ。左右を見て、こちらを見る。
 「クリアっす。つか、この村、死んでます」
 村は、死んでいた。メインの通りであっただろう場所にはガレキや、骨組みだけの廃屋が並んでいた。スナイパーライフルを肩にかけ、3人で何かが残っていないか探す。紛争の被害に合って全滅した村なのか、それとも村人に捨てられた村なのか。
 「いやー、こりゃ肩透かしだな。どうするノーバディ。戻るか?」
 そうベアが言った時、耳をつんざく爆発音が死んだ村に響いた。反射的に廃屋に逃げこむ。なんだ今の、グレネードか?
 「ヤバいッスねこれ。囲まれてます。敵の数は10、2、3、40くらいっス」
 双眼鏡を覗き込みながらシーフ。
 「あー、こりゃ、やられたかもな」
 サブマシンガンのマガジンを確認しながらベア。
 やられた。
 腕の立つ3人の謎の東洋人の傭兵が邪魔なのは誰だ。敵兵か?いや、違う。敵兵だって雇われだ。仕事でやっているだけだ。じゃあ誰だ?敵味方で噂になり、それが勢いを生み出し、紛争のバランスが崩れるのを恐れる人間。国の軍部か、戦争屋か。
 誰の仕業かはわからないが、とにかく俺たちは誰かにはめられて、40人もの敵兵に囲まれているという状態だ。
 「ひとことクビって言ってくれりゃ良いのに・・・クソ!迎撃は考えないで散開して逃げるぞ!この先のB地点で落ち合おう!・・・生きてたら」
 「オウ!」「オッケッス!」
 二人の声を背中に、道を挟んだ向かいの廃屋まで走る。と、それを待っていた銃声が響く。建物の陰に逃げ込み、またすぐに隣の建物まで走る。最初に居た建物はすでにグレネードが投げ込まれ、炎に包まれている。
 一旦廃屋に隠れ、様子を伺う。熱い。左肩、と腰。右足もか。撃たれた。左肩は貫通してるようで握力がなくなってる。足はかすっただけか。まだ走れる、けど。
 ず、ず、ず、とその場にへたり込んだ。目をつぶる。そこら中で銃声が聞こえる。ここで終わりというのも、まあ、なくもないか。一瞬敵の注意を引きつけたから、多分あのふたりならその隙に逃げてるだろ。誰にも必要とされてない俺にしちゃ上出来だ。・・・ああ、熱い。痛い。
 近づいてくる人の気配がして、俺の前で止まった。さあ、おしまいだ。
 しかし−−−目を開けると、そこには子供が居た。まだ1歳くらいだろうか。満足に歩けていない。髪の毛を4箇所で結んでいる女の子。戸惑う俺の手を握って、ニコリと笑う。現地の子供だろうけど、なんでこんな所に。
 女の子の顔を見ると頬はこけていて、手は骨と皮だけになっていた。それだけでここにいる理由がわかった。それでもこの子は俺の手を握って笑ったのだ。四つ葉のクローバーに『Be mine』(わたしのものになってください)と言われたような気がした。
 「・・・いいよ。お前の為に生きるよ」
 俺はその子供を抱えて走りだした。
 ***
 待ち合わせの地点には疲弊しきった二人が居た。良かった。二人とも無事だったか。
 「お、お前!おせーよ!!死んだかと思ったじゃねーか!!」
 「いやー、ちょうど今先に行こうかって話してたんすよ」
 言葉とは裏腹に二人とも嬉しそうにしていたが、俺が抱きかかえている子供を見て目を丸くした。
 「ちょ!先輩!それ!」
 「なんだそりゃ!どーすんだよそれ!!」
 驚く二人を見て子供はキャッキャと笑っている。
 「育てようと思って」
 俺は血と、泥にまみれた手で子供の頭を撫でながら言う。
 「ジャンボ、ヤンダ。・・・日本、帰るか」
 (「よつばと!はじまり」 終)
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- Re: 四つ葉のクローバー ( No.1 )
- 日時: 2012/09/17 00:20
- 名前: たかし (ID: Mr.8bf9J)
- パパパパパパ、と銃声。 
 とか
 ず、ず、ず、とその場にへたり込んだ。
 とかこの擬音的な部分を表現するのが作者の腕の見せ所なんじゃないのかなーと
 いつも思う。
 二次創作だとしても状況報告、のような文章の流れでは
 あんまり読む気がしない。
 と思いました。
- Re: 四つ葉のクローバー ( No.2 )
- 日時: 2012/09/17 00:56
- 名前: をん (ID: tLevG4Kd)
- おもしろい! 
 続きが読みたいですね。
- Re: 四つ葉のクローバー ( No.3 )
- 日時: 2012/09/17 01:21
- 名前: スレピア (ID: uB4no500)
- 面白かったです。 
 剣呑な空気が漂う話なのに、サラッと読むことができました。
 ここらへんはやっぱり筆力の高さなんでしょうね。
 タイトルから推理すれば元ネタは分かったはずなんですけど、
 深く考えずにメタルギアソリッドか何かかと想像してた自分が恥ずかしい。
 オチを読んだときは膝を打つ感じで「ありそう」と思いました。
 【擬音について】
 語り部が表現者を目指してるようなキャラクターであるならともかく、
 そうでないなら、擬音が使われているのはごく自然なことだと僕は思います。
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