二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 絆された想い / 第一章[03] ( No.4 )
日時: 2010/04/25 04:05
名前: 御伽 氷柩 (ID: KoVjVisw)

 八雲たちはリーベ公園の噴水の前にある、献花として置かれたヒルガオを眺めていた。噴水の水飛沫に当てられる花弁が、日光で輝いている。
 事件発生から二週間たった今、後ろでは子供達が元気よく飛び回って遊んでいる。事件のことは記憶からなくなったのかもしれない。

「ここで最初の被害者、行沢春香さんが強姦され殺害されていた場所です」

 静寂ができていた中、石井がマニュアル通りとでも言うように言った。八雲は短く返事をするが、献花から目をそらさない。
 コイツは今、恐らく晴香ちゃんを思い出してる。
 昔、まだ海雲が一歳の頃、八雲と晴香はよくここに散歩に来ていた。八雲と海雲ちゃんはベンチに座ると日向ぼっこをする猫のように眠っていたらしいが、晴香ちゃんはその二人の姿を見るのが好きだって言ってたな。
 その後買い物をして帰宅する最中、この公園のすぐ傍で、晴香は八雲と海雲を庇って蛇行運転する大型トラックに撥ねられて死亡した。
 僕のせいだ、と未だに自分を攻め続ける八雲を見ると、「うじうじするな」と殴りたくなる自分がいるが、それを実行できずにいた。顔に出さずに落ち込む八雲を殴れば、粉々に砕けてしまいそうだったからだ。
 それに加え、被害者の名前がハルカ。しかも強姦殺人。最悪の組み合わせだ。
 後藤はゆっくりと大きく息を吐いた。

「……ここに、何かあるか?」

「誰一人いません。次、行きましょう」

 早口で言い残すと、一人ですたすたと歩いて行ってしまった。いつもだったら文句を言うところだが、あんな奴に言ったっていつも以上に聞きやしない。自分を責め続ける八雲を見れば、晴香ちゃんは泣くだろうに。
 にしても、石井の奴は配慮が足りない。せめて苗字だけにすればいいものを、フルネームで言いやがって。
 後藤が進まない為に立ち止まっていた石井の後頭部を叩き、八雲後を追っていった。
 石井が患部を押さえながらも追っていく。転んだ。

   ◆

 すでに車に乗り込んでいた二人に追いついた石井は、素早く運転席に乗ってエンジンをかけた。我々は警察なのに、交差点に路駐なんてしていいのだろうか。
 それに、ここの交差点は晴香ちゃんが死んだ場所。警察が違反している姿を見せたくない。
 石井はいつもより強くアクセルを踏んで、車を発進させた。

「次の現場はどこです?」

 後部座席から聞こえた八雲の声は、少し違うように感じた。やっぱり私以上に、八雲氏は晴香ちゃんの死に敏感なんだ。
 チラリとバックミラー越しに八雲へ視線を送ると、ボーっと窓の外を眺めている。心ここにあらずという感じだ。もしかしたら晴香ちゃんを探しているのかもしれない。

「つ、次は住宅街です。被害者はカップルで、女性は同じく強姦に遭っています」

「住宅街で二人殺し、加えて強姦ですか?」

「はい。少し離れた場所で殺害されたようですが、遺体は移動させられていました。女性の体内から体液が検出されていたと報告を受けましたので、間違いはありません」

 八雲が感じる疑問に報告を受けたことを言ったが、石井も気になっていた。住宅街で二人も殺害し、加えて強姦などとは無理がある。
 土地から一人を不意打ちで殺せたとしても、もう一人が黙っているだろうか? 反撃こそしなくとも、普通は逃げたり助けを呼んだりする。それとも逃げられない状況だったのだろうか。

「被害者に共通点もねぇし、何がなんだかわからねぇ。それに一番最近の奴は手足は切断されて、内臓なんて原形を留めてるものなんてなかったよ」

 後藤は苦虫を噛み潰したような顔で拳を振るわせ、ダッシュボードを殴る。車内が一瞬揺れた。
 今回の被害は、回数を増すごとに酷くなっていった。最初の被害者は強姦の後刺殺だったと言うのに、最近発見された四体目の遺体はばらばらに近い状態に加え、腹を抉られていた。
 あれは人間のすることじゃない。異常だ。石井は現場写真を見たとき、悲鳴を上げながら卒倒しそうになるのを堪えながらそう思った。思い出しただけで恐ろしい。記憶が甦り、イメージされそうになった現場写真を消そうと首を横に振った。

   ◆

「あれって、国枝さんだよね?」

「あ、あぁ」

 コンクリートの壁に隠れながら、雪が言った。
 幽霊が出たと言う噂の場所で、カジュアルな服装の国枝と呼ばれた男が合掌していた。目の前には白いヒルガオの花が置いてある。恐らく彼が持ってきた献花だろう。

「お化けが出るって、知らないのかな?」

「んなこと知るかよ。でも、国枝さんがここにいるってことは、もしかして幽霊って沢木さんなんじゃないのか?」

「あ、そういえば……ここで通り魔に殺されたんだもんね」

 知り合いが死んだことで落ち込みながら話す二人とは裏腹に、海雲はじっと国枝を見ていた。否、実際にはその目にもう一人だけ見えている。
 合掌する国枝の隣でパンク系の格好をした青年が、じっと彼を見据えていた。今にも泣きそうな表情で、唇をかみ締めている。幽霊とは彼のことだったのだろうか。

「ねぇ、幽霊って男の人なの?」

「ん? あぁ、女……って、そしたら沢木さんじゃねぇじゃん」

 真相が掴めたと思った矢先、その推理が崩れた。雄介は落胆し、小さくため息を零す。

「でも、見たのは三柳さんだよ」

「あの酒ババアか。なら噂が本当かも信じられねぇよ」

 二人は海雲がいることも忘れ、勝手に会話を進めていく。まぁ、この二人はいつもそうだ。何だかんだいいながらもいつも二人の世界に入る。
 海雲、邪魔だったかも。

「とりあえず、幽霊もいないし帰ろうぜ。斉藤は俺等と逆方向だろ? また明日な」

 無駄足だった、と来た道を戻っていく雄介。雪は海雲に挨拶したあとにひょこひょこと追いかけていった。やっぱり幼馴染は羨ましい。
 二人が見えなくなった後、海雲は再びコンクリートの壁に隠れながら、国枝を見据えた。やっぱり、見間違いではない。あそこにいる二人の男は生きている人間と死者の魂。
 これはお父さんに言うべきかな? でもきっと「僕には関係ない」とか言うんだろうな。
 海雲は一度深呼吸したあと、国枝の下へ早足で向かった。