二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【稲妻】快光メランコリック【話集】 ( No.162 )
日時: 2010/08/28 08:45
名前: 烈人 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)

01-2 <感じるままの形>


 じとっとうらめしそうに半ば睨みつける形で視線を送りながら、円堂は黒板にすらすらと書かれていく彼にとっては全くもって意味のわからない数式を眺めていた。真っ白なノートをシャーペンでかつかつ叩き、大きく欠伸する。
 一方視線を送られている主——風丸は黒板に書き出されていく数式をノートに書き写しながら少々痛くなってきた頭で計算する。元から歓迎している生徒は少ない上に、思わずうだってしまう暑さのこもる風が吹き抜けることもあまり無い教室内は、昼食後だということもあってか気を抜けばすぐに寝てしまいそうな雰囲気に包まれていた。
 ふあ、と誰かが欠伸をする。担任は別に気にすることもなく、数式を書き出し解説よろしく小鳥の囀りを教室内へと響かせる。今日は新しいところへ進んだばかりのため、生徒が当てられるということは無い。それが余計に緊張感を緩め、寝やすい集中力の無い空間にすっかりと仕立て上げてしまっているのは紛れもない事実だった。

「風丸さん、」

 ぼんやりとした気だるい雰囲気の中、小さな声で彩華が風丸へと声を掛けた。二人の席は隣同士のため、控えめな声ならこれだけ静かな教室内でも目立つことは無いだろう。
 ん、と風丸が彩華へと顔を向けた。彩華は一番前の席からずっとうらめしそうな視線を送り続ける円堂を見据えながら、不思議そうに風丸へと尋ねた。

「あの、なにかあったんですか」
「……え?」
「いや……円堂さんが、朝からずっと風丸さんを睨んでるから」

 目を丸くして尋ね返す風丸に、彩華がおずおずと補足する。聞いちゃいけないことだったのかな、とぼんやりと思ったがそれは一瞬のことで、風丸は微かな苦笑いを浮かべて小さく笑い声を洩らした。

「……朝、ちょっとあってさ」

 自分が教室に入ったと同時にチャイムが鳴り、遅れて走ってきた円堂は見事に遅刻となり一時間目終了まで立たされており、どうやら待たずに先に風丸が行ってしまったことを根に持っているらしかった。
 とはいっても円堂が遅刻するのはさほど珍しいことでもなく、それに風丸も遅刻しかけたのだからどうせすぐに円堂の頭の中から消えるだろう。少なくとも、今日帝国へ行く時になれば。
 円堂のことだし、と考えながらそんなこと思っていた風丸はふと気がついて彩華に尋ねた。

「あ、そういえば聞いたか? 今日帝国に行くって」
「はい。今日の朝、秋さんに教えてもらいました」

 そっか、良かった。と風丸が言葉を返し、呆れた調子になり、睨みつけてくる円堂から視線をはずした。

「相変わらず急だろ?」

 風丸はそういって彩華に笑いかけて、答えの書かれていないノートに書いた数式へと目を向けた。今は五時間目で授業で、今日は五時間目までの日だ。後十五分ほどすれば、やっと数学から解放されるだろう。

「そうですね」

 控えめな笑い声を彩華も洩らし、必然的に二人の会話はそこで途切れることになる。だるい、いやでも眠気を誘うのったりとした空気が満ち溢れたむっとした暑さの教室で、やはり集中力をもてないままノートへと、または黒板へと目を向けた。



「……えーと、これで全員か?」

 きょろきょろと部室内に集まった部員達を見渡して、風丸が声を掛けた。「たぶん」という声に続き、「まだキャプテンが来てないけどー」がどこかから上がる。
 結局円堂は数学の授業中、残り十五分ほどだったというのに寝てしまい、今は担任の説教をくらっているころだ。

「円堂君は気にしなくても大丈夫よ。もうすぐくると思うわ」

 さすが仲が良いこともあってか、円堂とは違うクラスなのに秋が言葉を返す。恐らくほとんどお見通しなのだろう。
 円堂が来るまで出発することはできないので、数分の間部室内はごちゃごちゃとしたにぎやかというよりも騒がしい雰囲気に包まれた。笑い声や叫び声が飛び交う中、部室の扉が騒々しく開く。

「みんなーっ、遅れてごめんっ!」

 結局、円堂が来るまでみんなが集まってから十五分は経過していた。とはいえ元からこんなキャプテンだということは十分承知している部員達のため、誰も大して突っ込みを入れなかったが。