二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【稲妻】可笑しな確率の噺【話集】 ( No.330 )
日時: 2011/01/17 17:22
名前: 宮園 紫奔 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)

※甘ったるい
※小鳥遊ちゃん×リュウジ
※マイナーとか言うなし
※時期は三期リュウジ代表落ち後、前提として二期真帝の頃に忍は明王と付き合っていた
※あくまでも二人ともMというわけじゃない


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「ていうかアンタ、本当に宇宙人だったの?」
「何回言ったらわかる、宇宙人だったってば!」

 のろのろと、ちらほらと雪が舞いつつある曇り空の下を緑川と一緒に歩くのは、中々悪くない。やりすぎない程度に互いに過去の傷をつつき合う、冗談を飛ばして談笑をしながらも互いの距離を縮めないようにする保護シールのような会話を交わすのは、結構嫌でもない。最初のほうこそは何か発するたびに雰囲気が沈み、お互い沈黙を抱えながら歩くだけだった。それでも段々慣れてくると、過去のエイリア石絡みのあれこれ、まあ黒歴史とか言われるようなことを自嘲しながら振り返ることができる。中々遊戯的なもので、あの時の自分に『頭おかしいんじゃねーの』だのなんだのと客観的な文句を浴びせていくのは若干爽快なものだった。ああ周囲はこんな風に自分達を傍観していたのだと思うと、羞恥と一緒にこらえきれない笑いが込み上げてくる。結局なんだかんだいっても感情の渦に巻き込まれてドラマの展開のように感じていたのはその登場人物達だけなのだろう。何も知らない人が見たら、はたまた全て冷静に受け止めれる人が見たなら、きっとあの時のあたし達を嘲笑していたに違いない。まあそれもそれでいいと、諦めに似た感情で思う。どうせ終わってしまったことだし、最終的にはもう綺麗に締めくくられたのだから、掘り返してもいいことなどまずない。アイツのことは、あんまり思い出したくないし。けど真・帝国学園の時を思い出すと、必ずアイツが介入してくる。別にアイツに気があるとかそういうわけじゃなく、ただ単にアイツがキャプテンで一番あたしを関わりが深かったからだけなのだ。恋慕だとかそういうものは、もうアイツに向けるには消費期限がとおに過ぎてしまっている。腐って今にも黴でも生えてきそうだ。記憶を消せたらいいのに、そう心の中で呟いてから、もしそんなことができたら今あたしは緑川とこうやって談笑などしていないのかと疑問がわいた。深く考えることでもなさそうで、もしくは考え出すと止まらなくなりほかの思考がお粗末になってしまいなので、脳内の隅っこの引き出しにでもしまっておくことにした。暇を持て余しすぎて死にそうにでもなったら、引っ張り出してみよう。

「そっちは、虎の威を借る狐だったくせに」
「アンタはその威を知らしめるモルモットね」

 そもそもジェミニストームが現れて学校を破壊し始めなかったら、エイリア石の脅威などわからずに、真・帝国学園はそこまで強く見られなかっただろうから。まあ所詮あたし達は緑川の言うように虎の威を借る弱っちい狐だったんだし。エイリア石という虎の威に後押しされ、道具で強くなっただけなのにあたかも自分の力でその強さを手に入れたかのように胸を張ってグラウンドに立つ卑怯で臆病な狐。佐久間と源田は、その末に虎に食われちゃったんだけど。それも自業自得だと思うし、かといって彼らが強さのためにそこまでしたのにはわからなくもない。あたし達真・帝国学園のメンバーはほとんどが無理やりに集められエイリア石に依存すると同時に激しい憎悪を抱いていたけれど、彼らが本気で強さを求めているのはわかっていたから。

「モルモットって嫌な響き……」
「よく実験に使われる動物のことを指して使われる言葉だもの。当然でしょ」

 ぐたっとうなだれるようにして顔を顰めてぼやく緑川にそういうと、緑川は露骨につまらなさそうな顔をした。どこか悲しげというか、いやでもそれはそこまではっきりとしていなくて、その感情らの輪郭はあやふやすぎてよくつかめなくて。なんとなく、エイリア石を手を出した直後の頃の佐久間と源田に似ていた。自らの期待が高すぎたと知った、けれども絶望や失望などはない、あくまでもプラス思考なその感情ら。緑川の表情に刻み込まれたそれらが何を意味しているのか、どんなことを思っているのか、上手く掴み取ることはできない。何か言うべきなのかとあたしが計りかねていると、緑川は少しうつむいて、一瞬躊躇してから、言った。

「……なんか小鳥遊を見てると、守りたくなるよ」

 ふっと耳に飛び込んできたその言葉を聞いて、思考やら湧き上がってくる感情らがまとまる前に素早く体が動いた。ひゅ、と自分の腕が宙を切る音が耳に届いて、次いでばしんと鈍い音がした。「いっ……!」とたたかれた個所を抑えてむっと顔を顰めて見せる緑川を見据えて、先ほど言われた言葉を頭の中で反芻させてみる。
 『小鳥遊を見てると、守りたくなるよ』。淡く苦笑しながら、緑川は言った。反芻してみて一番最初に湧き上がってきたのは確かで微かな苛立ちで、そして————

「……ば、か」

 なんでそんな顔して言うの。
 なんでそんな普通に言うの。
 なんでそんな綺麗に言うの。
 なんでそんな、なんで、なんで、
 なんで、アイツと同じことを言うの?
 
 悲しい、切ない、苦しい、痛い、混乱——喉をかきむしってぐちゃぐちゃに血にまみれて死んでしまいたいぐらいの、負の感情の波が押し寄せてくる。心臓がばくばくと鳴って上手く呼吸ができなくなって嫌な汗が背中を伝って鳥肌を立たせて脚ががくがくと震えてそれに振動するかのように体中が震えて膝から力が抜けてあたしのプライドだとかそんなものどうでもよくなってあふれてくる涙を押し殺す努力をしなくて無様に垂れ流して薄汚れた歩道に膝をついて心臓を守るように腕を抱いて黒い地面を見つめてぐらりと視界がゆがんで吐き気が喉の奥にへばりついて眼球がきりきりと痛んで胃が悲鳴を上げて心臓がきゅっと絞られてるような痛みに弱音を吐いてへたってしまいたくて体中を空虚な虚無感だけが包み込んで可笑しな浮遊感で感覚が全部あやふや曖昧になって五感が奪われていってそれで、それ、で?

@ほりゅー