二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- がらすとかびん / ふどたか・ダーク・流血 ( No.343 )
- 日時: 2011/01/31 00:54
- 名前: 宮園 紫奔 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)
- 参照: 深夜テンションってこわい
@がらすとかびん
がーっしゃん、漫画みたいな効果音を付けるのなら、それがぴったりだった。はたまた、ばりん、だろうか。けれども現実はそんな音を奏でないで、もっと耳障りで鈍い実に心臓に悪い音を垂れ流しただけだった。つまらない、と安直に思う。もっと綺麗な、フルートやハープなどの楽器のような音が出てくれたら。そしたら、この気分も少しは落ち着くかもしれないのに。
「ねえ、明王」
返事がきっとないとわかりきっているけれど、何となく声を掛けてみる。あたしの今までの思想を知るわけもない明王にとっては、何を言っているか全くもって意味がわからないだろう。それでいい。あたしと明王の関係は、それでいいのだ。踏み込みすぎず、下がりすぎず。お互い適度な距離で、相手を傍観しあう。今回はそれが怒りと不機嫌によって助長されてしまっただけで、今まではこんなことはなかった。きっと、今回限りだ。
「あは、真っ赤だね」
ふっとぐったりとうなだれるようにして壁にもたれかかっている明王の首筋は、真っ赤だ。見ると耳の付け根辺りが切れて流血しているらしく、どばどばと水道が水を吐き出すように血があふれ出る。床へと滴り落ち領地を広げるそれは、明王の頬に刺さっていたり体に乗っかっていたり、周囲を取り囲むようにして散らばっていたりするガラスの破片に触れてその光の反射を遮った。
明王のすぐ横にあるガラスの壊れた窓に、そのガラスの成れの果てが散らばる床。そしてそれに色を付けるのは、目に痛いほど赤い血で。綺麗だなあ、とぼんやりと思う。もともと明王の顔も整っていて綺麗だったし、体つきは細いくせに頑丈で、そういう彩られる元が整っていたから余計だったんだろう。あー、あたし今すっごく異常だ。明王を突き飛ばして両手のひらが、次はまだかと疼く。なんなのあたし、このまま殺人鬼にでもなるつもり? まあ、明王は死んでないんだけどね。
「たか、なしちゃ、ん」
がらがらに掠れた声が、中途半端に開いた明王の口から洩れる。確かにそれはあたしの名前を形作っていて、でもあたしはそれを無視した。特に理由は無い。今の明王にひょこひょこと近づいて行ったって、返り討ちにされるだけだ。何されるんだろ、ジャッジスルー2じゃすまないよなあ。どうでもいいけどね、やられたらやり返すだけだから。あたしも明王もこんな精神を持ってるから、きっとあたし達はいつまで経ってもこんな関係なんだよ。でもあたしはそれで満足、今のままで十分。明王だって、きっとそう。それにこうでもしないと、あたし達は今すぐにでも破局しかねない。こんな状態でも互いに依存し合っているのだから、それは破滅的だ。いっそ出会わなければ良かったかも。
びちゃ、と明王がすぐ横——窓ガラスのない方——の小さな机の上においてあった花瓶を手に取り、中に入った花もろとも水を床にぶちまけた。あたしに向けるわけじゃなく、ただそれは要らなかったから捨てただけのよう。てことは、あたしは今からあの花瓶で攻撃されるわけか。
なんだかよくわからない花の模様が点々とつけられた花瓶から流れ出した濁った水は、床やガラス片にあたってはねながらじんわりと広がっていった。まさに竜頭蛇尾で、最初の流れ出す勢いに押され飲み込まれたガラス片や血はすぐさままた姿を現した。もっとも血は、ほとんど水と混ざり合って絵具の薄いピンク色のような頼りないものへ変化していたけれど。それらは、伸ばされた明王の両足に触れる。大して明王はそれを気にせずに、ただ機械的に、口を動かした。
「あいしてる」
思わず、思考が止まった。というより飛んだ。わっと脳内を駆け巡り脊髄を嘗め尽くしたそれは、完璧なる動揺だった。久しぶりだ、明王の口からそんな素直な言葉を聞いたのは。熱湯をかけられたみたいに体中が熱くなって、ぐるんぐるんとはらわたがうねっているみたいな変な感触がお腹に響く。
あたしは完璧に、油断っていうか、まあそんな感じのものをしてしまっていた。
「——うぐ」
がつん、ばりーん。効果音に表してみると、すごく安っぽくてコミカルだ。ただあたしが受けた衝撃と痛みは半端なくて、視界が落ち着きなくぐらぐら揺れた。目の前に赤が散って、意識がぶっ飛んでいってしまいそうになるのを必死に繋ぎ止める。だらだらと目や鼻や口を巻き添えにして流れていく生温い液体に気付いて、あたしは頭から出血しているんだと悟る。
生意気そうに、今まで伏せていた顔を上げて、にっと明王は口元に笑みを浮かべた。イラついたりとかは、珍しくしなかった。なんてゆーかさ、こういうのもいーんじゃないの? お互い様だし、たまには、ね。