二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 序章『アーク計画から時を経て』 ( No.1 )
- 日時: 2010/12/28 23:52
- 名前: 紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE (ID: EWuSebNO)
___『鉄塔の森』。
かつての喧騒は絶え、今は水の音だけが悲しく響き渡る発電施設『跡』。
『アラガミ』による地下施設の侵食により、大部分が水没している。
有害廃棄物の泉、一般人は決して近寄らないそこは、まさに彼らの絶好の住処。
環境の変化による緑化と乱立する鉄塔により、まるで森林の景観を呈しているその場所を
生き残った『ヒト』達はいつしかそう呼ぶようになった。
・・・曇天のなか、水たまりを蹴る音。
赤と黒の、いかにもお嬢様といった感じの
しかし機能性のある衣服をまとったブロンドの髪の少女が、息をきらして走る。
歳の頃は12か13。そのくらい。
少女が脇に持っているのは、少女が持って走るにはあまりにも大きな、銃のようなもの。
それの長さは優に少女の身長を越している。
そんな鈍重なものを持って走っている少女の右手には、紅い腕輪。
彼女が走っている理由は、紛れもなく後ろから迫ってくる化け物の所為だろう。
四足歩行型アラガミ『プリヴィティ・マータ』。
ライオンを模した同じ四足歩行型アラガミ『ヴァジュラ』の亜種とされている、寒冷地を好むアラガミ。
冷徹な仮面のような白い顔、黒くしなやかな巨大な体躯を覆う、六つの蒼いマント。
ヒトの何倍もある『氷の女王』と呼ばれるアラガミ。かの『ディアウス・ピター』程の脅威ではないにせよ、
そいつもまた、『荒神』。その中型種。
少女がここまで逃げることができている、それは『奇跡』と呼ぶにふさわしい所業と言えた。
ただし、少女が普通の少女であればの話だが。
コンテナとコンテナの間、少女は元施設の中央部へと続く道に入り込んだ。
しかし、その判断は間違いで。
少女が入った先は草と苔が生い繁り、
中央部にはまるで神々しく天井に空いた穴から漏れ出す光を浴びる樹。
そして地面は施設の壁に沿うようにして広がっている有害廃棄物の泉に囲われている。
詰まる所、袋小路。
更に不運が重なる。
少女は苔に足をとられ、すべり、転んだ。
少女の小奇麗な服は見事に泥の餌食になり、チャンスといわんばかりに
プリヴィティ・マータがその前足を振り上げ、その爪で少女を引き裂こうとする。
氷の女王を忌々しげに、少女が睨みつけた刹那。横から一条の閃光が
プリヴィティ・マータの振り上げた前足を貫いた。
「ぼさっとしてんじゃないわよ、エリナ!」
少女に、渇を入れる声。
声の主は、長い茶髪をポニーテールにした少女。
歳は15、16くらい。ブロンドの髪の少女よりも少し年上に見える。
彼女のパーカーの右袖は短い。
何故なら、紅い腕輪を嵌めているから。
「アイさんすみません、少し油断しました!」
少女が泥だらけの顔で、素早くその声に返事をし、
そして素早く起き上がり、銃口をプリヴィティ・マータに向け
巨大な銃の引き金を引き、オレンジ色の弾丸を撃ち放った。
プリヴィティ・マータの顔面に見事炸裂した弾丸は、大きな音と共に爆発した。
プリヴィティ・マータが大きな体躯をのけぞらせ、うめき声を上げる。
そして、二人の少女に背を向け駈け出した。逃亡を図るつもりだ。
その時。
「そっち行ったわよ、フウガ!」
ポニーテールの少女が、声を張り上げる。
「・・・あいよー」
ヘッドフォンを着けた銀髪、黄色いTシャツの上にカーキ色の上着を着た少年は
世界が荒廃する以前の流行り歌を口ずさむことを止めて気怠るそうに返事した。
男の歳の頃は、やはり15か16。
「あーあ、めんど・・・」
くぁ、と欠伸をする少年が担いでいるのは、燃え盛るような刃の巨大な剣。
普通の剣でいう鍔の辺りには、銃口、その両サイドにはそれぞれ半分になった盾のようなものがついている。
少年が軽々と、その大剣を持ち替える。
右手で柄を持ち、刀身に左手を添える。
すると、黒く蠢く巨大な化け物の頭部が、鍔の辺りから生えてきた。まるで刀身が化け物の舌のように見える。
少年が素早く右手を突き出す。化け物の頭がコンテナの角から飛び出したプリヴィティ・マータに、出会い頭に喰らいついた。
プリヴィティ・マータが、叫びなのか、大きな鳴き声をあげた。
「どうせ出会い頭にぶつかるなら、トースト咥えた女学生とかが良かったな・・・」
少年が化け物・・・『神機』を思い切り引き、プリヴィティ・マータの肩を引き千切る。
プリヴィティ・マータは痛みでよろめいた。が。
すぐさま体勢を立て直し、眼の前に五つの氷の槍を作りだした。
これがプリヴィティ・マータが『氷の女王』と呼ばれる由縁である。
冷気を自在に操り、その氷の槍で幾人もの人間を貫き、擂り潰してきた。
無駄に人間に似ている顔が余計に、無表情に殺戮を繰り返しているように見える。
冷徹に、冷気で全てを凍りつかせる。故に『氷の女王』プリヴィティ・マータ。
その氷の女王にも、悪寒というものが存在したのならきっとそれは今だろう。
少年が『神機』を振りかぶると同時、『神機』はプリヴィティ・マータの肩を咀嚼した。
それと同時に、『神機』は黒い風を吐き出した。
『神機』から生えた黒い頭が引っ込み、元の剣に戻る。
しかし少年を覆うのは、先程からは想像もつかないまるで『化け物』のような雰囲気。
「・・・当たってくれよ・・・」
少年は静かに言う。
少年は振りかぶった大剣に力を込める。
少年が振りかぶった大剣を、黒いオーラのようなものが覆う。
少年が大剣を振り下ろす。
少年が振り下ろした大剣は、氷の槍もろともプリヴィティ・マータの頭を斬り砕いた。
「・・・レアものだな」
黒い化け物の頭がプリヴィティ・マータの死体から『捕喰』した『コア』を見て、ヘッドフォンの少年・・・『望月フウガ』は言う。
「あーあ、服が泥だらけです・・・」
ブロンドの髪の少女・・・『エリナ=フォーゲルヴァイデ』は、泥まみれの自分の服を見て、呟いた。
「油断するからよ。最初からあそこに誘い込む作戦じゃなきゃ、貴方今頃コイツの腹の中よ」
ポニーテールの少女・・・『桐嶋アイ』は巨大な銃の銃口で砕かれたプリヴィティ・マータの頭を突きながら言った。
「おーい、早くしねえと置いて帰るぞ」
少年のその言葉に倣い、少女達は水の音が寂しく響き渡る発電所跡地を少年の方へ駆けていった。
彼らは、『ゴッドイーター【神を喰らう者】』。彼らは人類の為に、今日も闘い続ける。