二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: [ポケモン] ギンガの星は今日も輝く ( No.3 )
日時: 2011/04/30 22:18
名前: ポテト ◆ymbs7pfL2w (ID: T3diiZRD)

第一章 2話


 ギンガ団——というものをご存じだろうか。

 シンオウ地方に存在する謎の集団。彼らはいわゆる……悪の組織であった。
 事実、輝かしい名とは裏腹に、彼らの言動は怪しいものばかりである。
 新しい宇宙を生み出すとか。夢の力を手に入れるとか。爆弾で吹き飛ばすとか。
 怪しい上に危ない集団。過激だしなにより思想が危ない。あまりお近づきにはなりたくない類。そこいらの悪の組織ですらちょっと身を引いてしまう。
 そしてそれ相応に、組織には個性的なメンバーが勢揃いしていた。

   ☆

「なんですか、これは」

 トバリギンガビル内部。最上階の団長室にて。
 ぞろぞろと吸い込まれるように入ってくる若者達を、ブラインドをわずかに開けて眺めやる人物がいる。
 ボブカットの青い髪の青年。凛とした目つきと声音で喋るのは、ギンガ団幹部の“サターン”だ。

「何って、ギンガ団に新たに入団する者達に決まっているだろう」

 当たり前じゃないかと言わんばかりに、サターンの問いに答えるのは、ギンガ団のボス“アカギ”である。
 ソファに座る彼は、痩けた頬に鋭い目つき。さらに無表情であるために、顔つきがいささか恐ろしい。
 睨みをきかすには便利な顔だが、アカギは時々この顔に不便に感じることがある。
 つい先日。トバリシティで迷子を見かけ、なんとはなしに話しかけてみた。だがもともと顔が怖いせいで、子供にものすごい泣かれてしまった。自分の方が泣けてきた。
 サターンは窓から目を離し、眉間に皺を寄せてボスに向き直る。

「こんなに来るとは聞いていませんよ」
「今年は大仕事になるから、団員の募集枠を広げただけだ。当初の二倍以上はいるはず」
「なんで自信満々なんですか。ワタシの相談なしに勝手に決めないでください」

 今日、トバリギンガビルでは新しい団員を迎えるため、入団式を執り行うことになっている。
 サターンの言うとおり、今年は約四十名ほどの採用を予定していたはずだった。だが後にアカギが「少し増やしたい」と言い出し、幹部達抜きで募集やら個人面接やらを行ったのである。
 その結果が総勢百名の新団員。頭が痛い。

「ともかく私は忙しい。あまり話しかけてくれるなよ」

 おもむろにソファから立ち上がるアカギ。部屋にある姿見を前にしながら、灰色がかった青い髪をなでつけた。今日も頭がつんつんしている。
 入団式なのでアカギは今日、団員達の前で挨拶を述べなければならない。身だしなみは大切である。
 だがサターンにとってアカギの身だしなみよりも、もっと大切なことがあった。

「そういえばアカギ様。こちらをご覧いただけましたか?」

 そう言って彼は団長机に置かれた、一つの冊子を手に取った。すっとアカギの前に差し出す。
 その冊子は、サターンが今日のためにわざわざ三徹までして書き上げた、アカギのスピーチ原稿であった。
 ボスは常日頃忙しい。部下があらかじめ原稿を用意しないといけないのである。
 しかし。差し出された冊子を、何故かアカギは不思議そうに眺めていた。なんとはなしに嫌な予感がする。
 そしてその嫌な予感は的中した。

「……その紙がどうかしたか?」
「?! ま……まさかお読みになっていないと?」
「そういえば何かしら書いてあるようだな」
「し、信じられない……」

 ぐらりと膝から崩れ、サターンは床に両手をついた。

「どうした。腹でも痛めたか」

 見当違いな心配をされるサターン。ただこの事態は腹を痛めかねないほどに深刻だった。一度も目を通していないどころか原稿の存在にすら気付いていないとはどういう事か。
 気を取り直し、サターンはすっくと立ち上がる。

「これはですね、ワタシが三徹して書き上げたスピーチ原稿です。昨日の朝にお渡ししたはずですが」
「ふむ、そうだったのか。だが私は低血圧だからな。朝は頭がはっきりしないから気付かなかったかもしれん」
「昼にもなれば嫌でもわかるでしょう」
「あまり気にしてなかった。たぶんオヤツの柿ピーを乗せるのに使ったと思う」
「なんですと!?」

 慌てて原稿をよく見てみる。裏側に、ピーナッツの油染みとかいっぱい付いていた。努力の末がなんちゅう扱い。

「読んでくださいっ。今すぐにっ」

 ズビッと原稿を突き出すサターン。
 こうなったら油染みだろうがなんだろうが読んでもらう。そうでもしてもらわなければ自分が報われない。
 だが肝心のボスはつれなかった。

「無理だ。今ちょうど髪形のセットに入ったから手が離せん」
「後でも出来るでしょうが!」
「ワックスがないな。そこの戸棚にあるかもしれん。取ってきてくれ」
「聞いてますか、人の話を!?」

 原稿よりもワックスが大事と言い張るボス。説得難しそう。サターンは再び頭を抱えるのであった。
 入団式まで、残り三十分——。