二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: [ポケモン] ギンガの星は今日も輝く ( No.4 )
- 日時: 2011/05/01 20:16
- 名前: ポテト ◆ymbs7pfL2w (ID: C5PYK3fB)
第一章 3話
「マーズ様、そろそろ会場に参りませんと……」
「静かに! 今大事なところなのよ!」
言葉をはねつけるように二人の部下を叱咤したのは、最年少幹部の“マーズ”である。
若くも幹部としてなかなかの実力を持ち、自分よりも年上の部下達をビシバシ指導している少女だ。
ただ彼女、ちょっと困ったところがある。
アカギのことになると周りが見えなくなるのだ。
入団当初からマーズはアカギにぞっこんだった。新世界を創るという思想も気に入ったらしいが、アカギも気に入ったらしい。何がそんなにいいのか知らないが、人前で憚ることなく「アカギ様は俺の嫁」などと言っているくらいである。
だが、まったく相手にされていない。
アカギは別にマーズを嫌っているわけでも何でもないのだが、どうやらそういう恋慕を無意識に受け取らいない節がある。マーズ以外の部下にも告白だのなんだのされているらしいが全てスルー。
多くの女性は泣く泣くあきらめていくのだが、マーズだけはいまだに挑戦している。告白回数と失恋回数は日に日に伸び、団で記録更新中である。
「ですが……」
「生クリームしぼってるところだから黙ってて!」
トバリギンガビル内部。調理室にて。
今日は突然「入団式で挨拶なさるアカギ様に甘いものでリラックスを」という理由で、彼女はケーキを作り始めてしまった。燃えるような赤いショートヘアをバンダナで締め、エプロンを身につけている。やる気満々。
近づくと「邪魔」と怒られてしまうので、部下達は調理室には入れないでいる。仕方なくドア付近で遠巻きに見ていた。
しかしそろそろ時間がやばい。このまま放っておくと確実に遅刻する。故にさっきから説得を試みているのだが……。
「しかしマーズ様。これ以上時間を延ばすと式に間に合わな——」
「ふふふ、ケーキのサプライズプレゼント……我ながら名案だわ。最高だわ。ロマンチックだわ……『アカギ様、はい、あーん』なあんてねええ! あーははははは!」
マーズ様、妄想モードに突入。なんかぶつぶつ言い始めた。部下の言うことなどまったく聞いていない様子である。
それにしても、女性がお菓子を作る姿はもっとかわいらしく上品なもののはず。マーズの場合は執念と邪恋が満ちあふれ、毒でも作っているのではないかとさえ思わせる。
一心不乱に生クリームをしぼりながらぶつぶつ呟く後ろ姿。怖い。
「で……出来たああ! 何コレヤバすぎ! どうしよう!」
ヤバいのはあなたのテンションと脳内です。
ともあれようやく完成したか、と部下達は安堵した。これで自分達も式に行くことが出来る。まさか上司を放って己らだけで行くことはできない。
「ねえちょっと見てよ、見て! あたし完璧じゃね!? 写メ、写メ!」
そんな部下達の気もつゆ知らず。大興奮のマーズは嬉しそうにケータイ取り出している。暢気な。
しかしまあどんなかは気になるので見てみよう。白い生クリームが上手にデコレーションされて美味そうにも見え——。
驚いた。
顔だ。顔がある。ギンガ団のボス、アカギ様の顔が。
生クリームとイチゴに囲まれるようにデザインされたそれは、一体何を用いて作ったのか。知りたくはないが、色といい顔つきといいそっくりそのままである。
まるでそこに本人の顔を埋め込んだかのように精巧な作り。精巧すぎて食欲なくしそう。
「……それではマーズ様。急いで会場に……」
「さあ次はラッピングよ! どんな風にしようかしら?」
部下を無視して早速ラッピングを始めるマーズ。まだやるのかよ。部下達は頭を抱えた。
入団式まで、残り三十分——。