二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: [ポケモン] ギンガの星は今日も輝く ( No.5 )
日時: 2011/05/07 22:07
名前: ポテト ◆ymbs7pfL2w (ID: cZfgr/oz)

第一章 4話


「よくこんなところで仕事できるわね」

 トバリギンガビル。地下研究室にて。
 あらゆる所にコンピュータが設置されたその研究室は、ただでさえ光が届かぬ場所だというに薄暗かった。照明を全く点けておらず、コンピュータの発する電子光だけが頼りとなっている。それでもぼんやりとした明るさにしかなっていない。
 こんなところで——と、部屋のテーブルに腰掛ける女性、“ジュピター”は呆れたようにつぶやいた。
 その彼女のつぶやきに、背を向けていた人物は振り返る。

「サターンの奴に節電しろと言われたんじゃ。好きで暗くしとるわけじゃないわい」

 陰鬱そうな丸顔を肩越しに向ける老人。科学者の“プルート”である。
 彼は最近入団したばかりの新参者であるが、入団して直後、新米飛び越して幹部のポストにおさまっていた。
 どういう経緯があってそうなったか知らないが、科学者としてのプルートの力をアカギが買っているらしい。金に困っていたプルートは二つ返事でOKし、ほくほくとおいしい地位で入団が決まったのである。

 しかし組織での彼の立場は相当悪いものだった。
 何が悪いって、人間関係が非常に悪い。ボスのアカギを呼び捨てにした途端、幹部やら部下やらとにかく周囲から物凄い怒りを買ったのだ。特にマーズが凄まじい。爆弾を投げつけられた。新人いびりどころではない。殺意すら感じる。もっと老人をいたわってほしい。

「そう。それは大変」
「おい、人の研究室でケータイを充電するなっ」

 大変とか言いながら、しっかり充電コードをコンセントにつなぐジュピター。言葉と行動が伴っていない。

「式の準備は滞りなくて?」
「滞りじゃと? この天才科学者プルート様に抜かりなどないわ。これを見てみい」

 ナチュラルに話をそらされる自称天才科学者。とりあえず、式の準備とは言うまでもなく入団式のこと。
 これ、と言ってプルートはあるものを差し出す。細長いリモコンだ。番号の割り振ってあるボタンがたくさん付いている。

「こいつで舞台装置を動かすことができるでな。要望通り作ってやったわい」

 入団式はビル内のホールにて行われる。そのホールを造ったのはアカギなのだが、機械いじりの血が騒いでいろいろ設備を加えすぎた。おかげで団員達がまったく扱いきれていないという困った状況に。自業自得である。
 周囲から「なんとかして」と言われ、渋々作ったのがプルートの持つリモコンである。これひとつでみんな解決! やったね!
 ふと、プルートは顔をしかめる。

「それよりも気になることがあるんじゃが」
「なにかしら」

 幹部であるプルートを前にして、再びテーブルに腰掛け、足を組むジュピター。そうした態度が咎められないのは、彼女もまたギンガ団の幹部であるからだった。
 艶っぽい声音と仕草が定評の、ギンガ団一の美女と噂される彼女。普段から感情を露わにせず、ミステリアスな雰囲気を醸し出している。変わり者の多いギンガ団の中でも、存外悪の組織らしいポジション。
 だがやはり彼女も変わっていた。

「お前さん、なにゆえそのような……奇抜な頭をしておる」

 彼女は深い紫の長髪をしており、昨年は、その髪をまっすぐにさらっとおろしたシンプルなものだったらしい。
 それが今年は何を思ったのか。というより何があったのか。
 プルートの気になること。それは巨大な団子を取り付けたような、ジュピターの髪形。
 アップにしたのが一つと、下側の両サイドに二つ、でかいお団子ヘアーが三つも並んでいる。パンクでも、モードでも、フェミニンでも何でもない。ジャンルに属さない斬新な髪形。あえて言うならエキセントリック。

「これ? オシャレでしょ」

 「ええとっても素敵」とかそんなコメント出ようはずもない。言葉を失う。同意を求めないでほしい。
 そういえば——と、プルートは風の噂で聞いたことを思い出した。ジュピターの団での呼称が「奇天烈美女」であることを。
 平凡を嫌うという彼女は、とかく奇抜なものにこだわりを持っているらしい。ギンガ団に入ったのも「退屈しなさそう」という理由。「もちろんアカギ様の思想も素晴らしいからよ」というついでっぽい言い訳は誰も聞いていない。

 手持ちポケモンにしてもそう。ジュピターが持つのは “スカタンク”というポケモンである。
 四つ足で歩くそれは紫と白の体毛をまとい、尾は長く大ぶりで背や頭にわたってずしりと乗せている。その尾にかぶさる頭から、ぎぬろと相手を睨め付けるような眼がのぞき、思わず萎縮してしまう。
 しかし人々が萎縮するのはその点だけではない。先程述べた尾だが、実はそこから臭い液体を飛ばして攻撃するらしい。それもなかなか凄まじいものだ。さらに鳴き声がやや屁の音に近いとのこと。これと付き合うにはそれなりの度胸がいりそうである。
 それを「面白いわ」と難なく受け入れ、今やエースポケモンとして愛用するジュピター。感服します。

「あら、もうこんな時間。スカタンク、出ておいで」

 唐突に、ジュピターはモンスターボールを取り出すと、そこから例のスカタンクを呼びだした。

「スカタンク、おやつの時間よ。ポフィン食べるでしょ?」
「おい。こんな場所にポケモンを出すでない。作業の邪魔じゃ」

 プルートがそう言うのも構わず、どこからかポフィンを取り出すジュピター。自分に都合の悪いことは耳に入らない。
 ところがここから悲劇は起こった。
 スカタンクは腹が空いていたのだろうか。ポフィンを見るやいなや飛びかかり、その弾みでジュピターの手からポフィンが飛んでしまった。ポフィンはゆっくりと弧を描いて……プルートの方へと向かっていく。

「あら」
「何っ……ぐへあっ!」

 当然の流れのように、ポフィンを追いかけたスカタンクはそのまま助走をつけてプルートにダイブ。
 それほど重くはないはずだが、ずどんとのしかかった衝撃は老体に辛い。五臓六腑が飛び出すかと思った。

 バキッ。

 今なにか、不吉な音がした。体に受けた衝撃はかなりのものだが、どうやら骨が折れたわけではない。では今のは?
 音のした方をそろーっと見てみる。そこにあったのは……完成間近であったはずの、リモコンの無残な姿。
 プルートは頭を抱えた。
 入団式まで、残り三十分——。