二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 雨夢楼〜儚い少女の夢物語〜≪ボカロ曲小説化≫コメ熱烈募集中! ( No.11 )
日時: 2012/01/12 18:09
名前: 夏茱萸 (ID: lkF9UhzL)

第三帳前篇〜少女は離れることに怯える無意味さを知る〜 


あの約束から幾年の月日が流れ、鈴華や美香は成人を迎えようとしていた。

あの頃の貧しさが嘘だったように、今は二人何不自由なく暮らしている。


…ただし、ふたり別々に離されて…











*  *  *  *  *  *  *  *


二人は相変わらず盗みを働きながら生活していた。

結局店の食料は食べれる物全て底を尽いてしまったので、暫くの絶食を二人は覚悟していた。

それが美香14歳、鈴華13歳のときだった。

「鈴…もうすっかり暑くなっちゃったね〜…暑くておかしくなりそうよ」

「しっかりして美香。大丈夫?」

「鈴は暑くないの…?」

「うん、平気よ」

顔を火照らせながら美香が嘆くと、鈴華はそれを少しでも和らげるために自身の着物で仰いで風を送る。

もう一度鈴華が大丈夫?と声をかけてあげようとした瞬間、後ろから男性の声が聞こえた。

どうやら美香を呼んでいるらしい。

「美香、大丈夫かい!?困ったな、熱病かな…」

振り向けばそこには、青い髪が印象的な優しそうな顔立ちの男が困った様子で突っ立っていた。

「あの…貴方、誰?」

恐る恐るといった感じで鈴華が男に尋ねた。

すると男は

「あぁ、僕の名は海人っていうんだ。美香の兄だよ、血は繋がっていないがね。ところでキミは美香の友達か何かかな?面倒見てくれてありがとうね」

「いえ…私は鈴華っていいます。…あの…変なこと聞くんだけど、海人さんはやっぱり、美香を迎えに来たんですか?」

「あぁそうだよ。美香から迎えに来ることを聞いていたんだね。…よかったらキミもうちへ来るかい?一人でこんなところで暮らしていくのは辛いだろう?」

意外な男———海人の言葉に鈴華は思わず目を丸くした。


「いいん、ですか?私なんかがついていっても…」

「もちろんさ。さぁ、こんな暑いところなんかじゃ僕がもたないよ。家へ帰ろう。美香を貸してご覧?」


いつのまに寝てしまったのか、海人に所謂おんぶをしてもらいながら、美香は規則正しく寝息をたてていた。


ありがとう、と鈴華が言おうとした直後に海人は小さく呟いた。


「ったく…いつから狸寝入りなんて覚えたのかな、美香は…」






ピクンと僅かに美香の肩が跳ねたような気がしたが、そのことには触れないでおこう。

本人たちは私が気付いてることに気付いていないから…


そう一人で微笑むと、鈴華は海人の後に続いて歩いていった。