二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 雨夢楼〜儚い少女の夢物語〜≪ボカロ曲小説化≫コメ熱烈募集中! ( No.15 )
- 日時: 2012/01/12 18:09
- 名前: 夏茱萸 (ID: lkF9UhzL)
第三帳中篇〜少女は離れることに怯える無意味さを知る〜
海人の家に到着すると、鈴華は目を見開いた。
「あの…これって本当に家なの?お城かなにかの間違いじゃ…」
「はは、鈴華ちゃんは大袈裟だな〜。僕たちの昔住んでいた家だよ。お城なんて、そんな大層なものでもないけど…先代の方々が代々僕たちに受け継いでくれた、僕たちにとってはお城みたいに立派なお家だよ。」
どっしりとして繊細な彫刻が施されている門、整備され整えられている青々とした芝生の上に、点々と並ぶ形の美しい石。
その奥には木造りの、和の家の代表といっても過言ではないような迫力のある本宅が見えた。裏庭には小さな池があり、ご丁寧に鯉まで泳いである。
まるで本当に城の一角にでも迷い込んだみたいな感覚だった。
「私、ここに住むの?こんな立派な…。門を潜ることさえできないような気がするわ」
「何を言ってるんだ、鈴華ちゃん。さぁ、入ろうか。久しぶりの我が家だよ、美香。狸寝入りはそろそろやめて、懐かしんだらどうだい?」
「…えへへ〜。ばれてたんだね」
美香は海人の背中から降りると、大きく息を吸って数回深呼吸をした。
やはり久々の自宅は懐かしいようだ。
「そういえば、美香はどうして海人が家にいない間家に住んでなかったの?追い出されたとしても、近いんだから帰ってくればよかったじゃない」
ふと頭に過った疑問を、そのまま鈴華は口にする。
すると美香は悲しそうに微笑んで、
「私のお母様は美香の本当のお母様じゃなくて、海人兄のお母様なの。ほら、私と海人兄って血が繋がっていないでしょ?…ま、この話は後回しにして家で寛ぎましょう?私もう疲れて倒れてしまいそう」
そう言って美香は門の鍵を器用に開けていく。
鈴華は美香の言葉に多少の引っ掛かりを覚えながら、開いた門を潜っていった。
本宅に着くまでの道のりの長さに苦笑しながら、美香に聞こえないように鈴華は海人にそっと聞いてみた。
「ねぇ、美香ってお母さんと何かあったの?」
海人はそんな鈴華の質問に困ったような顔をして
「う〜ん…その答えは美香から自然に話すまで待っていてくれるかな。僕からは何も言えないから…」
「…そうなんだ…嫌なこと聞いてごめんなさい」
「謝らないで鈴華ちゃん。大事な友達が悲しい顔をしていたら、原因が何なのか知りたくなるよね。気にしないで」
「うん…」
家の鍵で海人が大きすぎる玄関のドアを開けると、早速三人は中へ入った。
「…母様は不在みたいだね。どうしたんだろう…いつも家から出たりしないのに」
「お母様がお家を開けるなんて…何かあったのかしら」
玄関に足を踏み入れた途端に気付いた違和感を、海人と美香はすぐに察知したようで。
「とりあえず上がって?お茶とお茶請けでも持ってくるから、適当に寛いで休んでいてよ」
海人が微笑みながら二人に言うと、そのまま「桔梗の間」と書かれた部屋———台所へ入っていった。
その間に美香は自身の部屋、「睡蓮の間」へと鈴華を案内して休んだ。
「ふ〜、涼しいね〜!風がよく通って気持ちいいなぁ!」
「だから睡蓮の間って言うのよ、いいでしょ」
「は〜い、二人とも寛いでるところ悪いけど、お茶入れてきたよ。簡単なお茶請けしか用意出来なかったけど…」
部屋に入ってきた海人の手には、薄い緑色の湯呑みに入った緑茶と黒い正方形の皿にちょこんと乗せられた、上品な和菓子が乗った御盆があった。
「わ〜ッ!鈴華こんな綺麗なお菓子見たことない!可愛い〜!」
「喜んでもらえてよかったよ」
脚立の上へと並べられた茶請けに感動しながら鈴華は微笑んだ。
美香や海人もそれにつられて自然と顔が綻ぶ。
「…それで…あの、さっき言いかけたお母様の話なんだけど…」
美香は微笑んでいた顔から一変して真剣な顔つきになると、二人の顔をゆっくりと見上げた。
「…美香、本当に話すつもりでいたのか」
「後回しって言ったじゃない」
海人は苦虫を噛み潰したような表情をしながらも黙っていた。どうやら話をするのに反対らしい。
「…あのね、私の現在のお母様と海人兄と私の関係はさっき話したでしょ?それで…本当のお母様は私が幼少の頃亡くなられてしまったの。で、私のお母様と海人兄のお母様が仲の良かったから、私はこの家に引き取られたの。でも、私はお手伝いとかに慣れてなくって…最初の頃は失敗しても気にしないでってお母様も言ってくださったわ。だけどあまりにも失敗が多すぎて、段々お母様は私を鬱陶しがってきたの。夜中に起きてしまって時に、お父様に愚痴を言っていたわ。それで、海人兄が仕事で家を暫く空けてしまうことになって…本当は海人兄に追い出されたんじゃなくてお母様に家を出されたの。でも、海人兄は外で泣いていた私に言ってくれたの。…『迎えに行くよ、待っていて』って!本当に来てくれたのよ。海人兄、大好き!」
美香の長く悲しい過去の最後には、海人への優しいセリフがついていて、海人は思わず赤面して微笑んでいた。
それに反して鈴華の顔は泣きそうに歪んでいる。
「どうしたの?鈴」
「どうして…美香は笑っていられるの?そんなに悲しいことあったのに…」
「笑っていた方が、泣いているより何倍もいいじゃない。それに、ずっと泣いていても、私は死んでしまうだけなの。笑っているのが、私がやっと見つけた大切な生き方だから」
美香が柔らかく笑ってそういった。
鈴華は美香のその答えに泣きそうな顔も忘れ、ただ美香を唖然として眺めているだけだった。
————この人は、一年私より早く生まれてきただけなのに…ここまで考え方が違うのか…
美香の生きる意味が明るく笑うことなら、私の生き方って…?
生きる意味って、何なの?
「鈴華ちゃんはまだ、そんな事考えなくていいんだよ?」
黙りこくってしまった鈴華に海人が心配そうに囁いた。
「きっとこれからどんどん、鈴の生きる意味が見つかってくるよ!その時は、私に一番に教えてね!」
「うん、じゃあ約束ね」
「約束〜!」
窓から射す光は、月明かり。
宵闇に誓った約束は、
叶わないままで散って逝く…—————