二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: —雨夢楼—amayumerou ≪ボカロ曲小説≫コメ募集中! ( No.18 )
- 日時: 2012/01/12 18:08
- 名前: 夏茱萸 ◆2uA.rd.h2M (ID: lkF9UhzL)
- 参照: http://www.hanakotoba.name/
第三帳後篇〜少女は離れることに怯える無意味さを知る〜
「お兄さん方、ちょいと寄っていきなよ!サービスするよ〜?」
店の中から客を捕まえようと必死になって手を伸ばす、美しい遊女たち。鈴華はそれらに蔑む様な目を向けると、さっさと自身の準備に取り掛かった。
「滑稽…とでも言いたいのかしら?鈴華」
「…春香姉様!いついらしたのですか?」
鈴華が突然の声に振り向くと、桃色のさらさらとした髪を手で弄びながらクスクスと微笑む女性の姿があった。
「しかも滑稽だなんて…私、そんな風には」
「あら、一瞬その可愛らしい目が歪んだように見えたんだけど…見間違いかしら?」
春香と呼ばれるこの女性…昔この遊郭街の頂点にいた花魁だ。
豪華絢爛な着物に身を包み、高部屋に座り街を見下す様は、男のみならず女までもが見入ってしまうほど美しかった。
柔らかい物腰で鈴華に尋ねる春香は、その当時の面影がまだ多々と残っていた。
「…あんな風にはなりたくないというだけです。どうして自分のプライドを捨ててまで、下衆な男に媚び諂わないとならないのですか」
「生きていくためよ。この汚い世界で、プライドなんて邪魔になるだけなの。鈴華にはきっと、永遠にわからない理でしょうね」
「ッそれは私が…この世界の酸いも甘いも知らずに店一番の遊女になったからですか?」
「あら、その辺は理解出来てるのね。偉いじゃない」
どんなに鈴華が顔を歪めても、春香はその微笑みを決して崩すことはなかった。まるで微笑んでいる仮面を付けているようだと、鈴華は唇を噛んだ。
「…お姉様、仕度が出来ません。部屋を出てください」
「手伝ってあげましょうか?」
「いいです!私はプライドを捨てるつもりなんてありません!」
鈴華は春香にそう怒鳴ると、さっさと色とりどりの着物に目をやってしまった。
「ふふ、女性同士に遠慮なんているのかしら。いまいち鈴華は分かっていないわ…」
呟くようにそう言うと、じゃあねと手を振り春香は部屋を後にした。
「…約束、守れるかなぁ…美香」
春香が部屋を出たのを確認すると、溜息交じりにそう囁いた。
美香と離れたのは海人の祖父のせいだった。約束を交わしたその翌日、いきなり海人の祖父が遠出から帰宅したのだ。
美香と鈴華の顔を見るなり、唐突に言ってきた言葉が
『あぁ海人!今美香を売ってきたから、明日にでも艶子屋という遊郭外の店へ連れて行くといい』
意味がわからなかった。
理解が出来なかったし、美香も言葉を失っていた。
あの爺、美香を売り込んだんだ…
あの日のことを思い出すと、今でも鈴華は苛立ちが収まらないでいる。遊郭へ行く道のりで美香は微笑みながら鈴華に、きっとすぐに会えるからと言っていた。
『心配しないで?鈴。絶対に戻ってくるから、ね?』
『…じゃあ…私も遊女になるわ!嫌よ、美香を一人で待っているのなんて!』
『そんな…鈴、いいの?あ、そういえば海人兄も、暫く出張なんだよね…また当分帰ってこないのかなぁ』
『…約束…結局二人とも守れなかったね』
『え?』
『…ずっと一緒に、いようねって…』
『い、一緒にいれるに決まってるじゃない!何で破る前提なのよ』
『あ…ごめん…』
確か、こんな会話をしていたっけ…
そりゃ遊女になるなんて怖いし、絶対私には向いていないと思うけど…
でも、あんなところに美香を一人で行かせるくらいなら、そんなの全然どうってことない。
それに…もう一人ぼっちなんて、一人ぼっちで待つなんて…絶対にやだ。
『ね、鈴…もし、二人が違うお店の遊女になってしまったら、そのお店でどっちが先に一番になるのか勝負しようよ!そうすればきっと寂しくないよ!だって、目標があれば楽しくなるでしょう?』
『うん…そうだね!また一緒にこんな風に、二人で並んで歩こうね!』
『あんまり遅いと、私が迎えに行くよ?…鈴が一番になるまで、いつまでも待ってるから』
夏のはずなのに、何故かやけに肌寒く感じたあの日の夜。
二人で手を繋いで華やかな遊郭街へと歩いていく間に、またいくつか約束が増えてしまった。
「もう!これから仕事だっていうのに、思い出しちゃったじゃないの!…寂しいじゃないのよぉ、美香ぁ〜…」
着替えようと準備しかけた時に思い出してしまったものだから、鈴華は半脱げの状態でぺたんとその場に座り込んでしまった。
「リンちゃ〜ん!着替え終わったら早く出てきてくださーい!指名五つも入ってますよ〜ッ!」
裏方で働いている鈴華の友人、恵野玖実が源氏名で鈴華を呼んだ。
鈴華は、着替えを手伝って頂戴と玖実に言うと
客を選びに行くために、店の高部屋へと上がって行った。