二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 雨夢楼〜儚い少女の夢物語〜 ≪ボカロ曲小説化≫挿し絵うp☆ ( No.7 )
日時: 2012/01/12 18:10
名前: 夏茱萸 (ID: lkF9UhzL)

第二帳〜少女は罪と共に生きる〜


遊郭街の一角で、今日も震える肩を寄せ合う貧しい幼子二人。

「寒いね〜。早く春が来てしまえば、私たちも楽になれるのにね」

ふぅっと白い息を吐きながら、美香が呟いた。
その言葉を聞いてもう一人——鈴華がそうね、と口元だけを綻ばせる。

「そういえば、ここニ、三日私たちまともに食事を取ってないわ。鈴はお腹すいてない?大丈夫?」

「うん、多分大丈夫よ。お腹も昨日から鳴らないし…」

自身の腹部に手を当てながら問うてくる美香に、鈴華は同じポーズを取りながら答えた。

美香はそれを見て何を思ったのか、唐突に

「ね、食べ物貰いに行きましょうよ!」

微笑みながらそう言った。





*   *   *   *   *   *



「…ねぇ美香、やっぱり止めよう?見つかったら怖いところへ連れてかれちゃうんだよ?昔お母さんが言ってたもん…」

「平気よ。私が捕まるわけないじゃない」

遊郭街から少し歩けば小さくも大きくもない街に出る。
美香たちは店と店のわずかな隙間で、店内の様子、街を行き交う人々の流れを見つめていた。


「今よ鈴!私についてきて!」


美香は小さく叫ぶと、鈴華の手を引き、店内に忍び込んだ。
薄暗く湿り、もう客足が何年も途絶えている様子のこの店でも美香や鈴華にとっては宝の館のように見えた。

「すごい…たくさんお菓子やパンがある!」

「そうでしょ?昔お兄様に連れてきてもらったことがあるの。その時はここも綺麗でお客様もたくさんいたんだけど…もう使われてないみたい」

「でも、じゃあここの食べ物って腐ってるんじゃ…」

心配そうにみつめる鈴華の頭を、美香はそっと撫でた。
そしていつものようにニッコリと笑いながら言った。

「パンは腐ってるかもしれないけど…お菓子は消費期限っていうのが長いから腐ってないのよ!(多分だけどね)だから大丈夫なの!」

「美香ってほんとに物知りね。じゃあこれ、好きなだけ持っていっていいの?」

「うん!」

既に大量の菓子を抱え込んでいた美香に問うと、元気な返事と明るい笑顔が返ってきた。

それを見た鈴華も次々と菓子を自身の腕へと抱き込んでいく。
もう幾つも入らないだろうというところで二人はその店を出ることにした。




夕暮れの帰り道二人は片方の手で菓子を抱え、もう片方の手で互いの手を握っていた。

美香は鈴華の顔を見ないまま、そっと呟いた。






















『ずっと一緒にいようね』




















「やったね!ね?捕まるなんて絶対にないって言ったでしょ?」

「うん、でも…」



店から盗んできた菓子を見つめながら、二人は色々と話し合っていた。
美香は帰りの言葉を呟いた表情はどこへいったのか分からないくらい満面の笑みだった。早く菓子を食べたいらしいのだが、鈴華はどうにも気が引ける様子だ。

次第に美香も焦れったいのか鈴華を軽く睨みつけた。

「あのね鈴。今私たちは家も家族もないの。そんな中でどうして誰かに遠慮する必要があるの?家族がいる人はお菓子やパンやご飯だって買ってもらえるわ。それがどんなに貧しくても、お金が本当に一銭もない私たちよりマシでしょうよ。だけどね、私たちは何もないわ。遠慮なんてしてたら、私たちは死んじゃうのよ?鈴はそうやって死んでいきたいの?」

「…それは…」

美香の言葉を聞き、鈴華は暫く考え込む。そして結果的に菓子を、飢えを凌ぐためにと食べることにした。
そっと一粒の飴を手に取り、紙を剥いで口に含んだ。

甘いいちご味と硬い感触が舌の上で転がり、鈴華の心を落ち着かせた。
美香もそれを見てニコリと微笑み、少しだけ湿っているスナック菓子を口にする。


「これ全部食べ終わったときには、きっと満腹ね」

蒼い瞳で鈴華が微笑むと、美香も花が咲いたように笑った。

「あ、鈴華が笑った〜!」

「え?何それ!私そんなに笑ってなかった?」

「そりゃあもう、こんな感じでしゅんとしたような…」

美香が顔真似をしてやると、今度は鈴華が満面の笑みを見せる。
その顔には、昔の様な俯き憂う瞳など欠片もなかった。

「…言ったでしょ?ずっと一緒にいようねって。私は、一緒にいるなら鈴には笑っていてほしい。ね?」



夕暮れに誓ったあの言葉。



『ずっと一緒にいようね』



大きくなっても私は、貴女は…



本当にずっと一緒にいられるの…———?