二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 短編集-花闇-【雑食/黒子短編うp】 ( No.24 )
日時: 2014/05/23 23:17
名前: 帆波 (ID: QxOw9.Zd)

普夢【 蛇に睨まれた蛙ならぬ、 】


※ヘタリアマフィアパロ
※ヒロインが殺し屋。序盤だけですが殺人表現有り。






「ごめんなさいね」


…そんな事言って、本当は微塵も思っていないくせに。自嘲じみた嘲笑を自分に送りつつ、わたしの人差し指はトリガーを引いて命の灯火を見るも無惨に一つ、またひとつと奪っていく。謝罪の意味は特にない。ターゲットに罪悪感を感じているわけではないし、命を奪う行為を後ろめたく感じているわけでもない。大体、わたしみたいな奴に狙われる人間というのは、その時点でろくでもない人間ばかりなのだからそんな風に感じる必要はないのだ。
…けれど、しいて理由を一つあげるなら、それはきっと自分のため。まだわたしが、淡々と仕事をこなして人を殺すだけの殺人鬼ではないと言い聞かせるため。
この手の仕事をしている者にとって、殺しをどう思うかが最終的に狂人か正常な人間かをわける要因になると、わたしはそう思っている。人を殺すことに何も感じなくなれば、それは狂人の自滅と快楽への道へとまた一歩踏み出してしまったということだから。

大丈夫、まだわたしは、狂っていない。

パァァン、最後の一人を打ち抜いた銃声を聞き届けた。持論に縋りつかなければ精神を保てない時点でわたしも決して正常とは言えないんだろうけど、それでもまだ信じていたかったのだ。
流れ出しそうになった涙の理由など知らず、ただ、今ここで感情を露にするのは気が引けて唇をキュッと噛み締めた。





窓は閉め切られ、電球も本来の役目の二割程しか仕事をしていないほの暗いバー内では、人の顔を判別するのは至難の業。それが闇に溶け込むような、真っ黒の服に身を包んでいる人物であれば尚更無理な話だ。そして、先程から痛いほどの視線をこちらにやっている隣人もその条件を全て満たしていて、隣とはいえちらりと視界に映るだけの顔を判別することは出来ない。わかることといえば、バーに染み付く酒の匂いにも勝るほどの血の気を香らせているということくらいで。…いや、それだけで特定するには十分すぎる情報なのかもしれないが。
こと、ころん。グラスがテーブルに置かれる音と、氷が溶けて擦れる音が耳を掠める。それに続いて息を吸う音まで聞こえてきて、さてそろそろね、なんて身構えた。


「よぉ、また今日も派手にやったな?」


——そら、来た。表情は見えない、けれど声色だけで今彼がどんな顔をしているかは十分わかる。によによ、そんな擬態語が似合う、楽しげな声だった。


「あら、お互い様じゃない?貴方だっていつもより濃いわよ、血の匂い。鼻がひん曲がりそうだわ」

「ケセセッ、それこそお互い様だろーよ」

「へぇ、貴方、そんなに繊細な嗅覚してたのね?意外意外」

「いいやがったなテメェ。その匂い、今ここでもっと濃くしてやってもいいんだぜ?」


やばい、地雷を踏んだかしら。けれど言葉のわりには、あまり怒気を含んでいない声。それどころかどこか楽しげで、試しているようにも聞こえる。ただ、冗談だと判断しきれないかったのは嫌でも聞こえる銃のトリガーが指と擦れる音のせい。あぁ怖い怖い、これだから男は。…なんて、死んでも口に出さないけど。


「それは勘弁。わたし、東洋人だから血化粧は似合わないの」

「俺ら並みに白い東洋人がなんだって?冗談キツいぜ」

「何の事だか。…わたしより、貴方の方が似合うんじゃないかしら。銀髪赤目に白い肌、……寧ろ貴方以上に血化粧がお似合いな奴はいないと思うわよ。さぞ綺麗でしょうね、兎みたいで」


ここで焦りを見せればからかわれるのは目に見えている。余裕綽々を気取ってウイスキーを一口口に含んだ。幸いにも、返ってきたのは独特の笑い声で、内心ほっと胸を撫で下ろす。くだらないことで敵を増やしたくはない。

——ギルベルト・バイルシュミット。それが彼の名前だ。この道では黒鷲アドラーの名で恐れられている、この男。並みのマフィアや殺し屋ならまだしも、コイツはヨーロッパを代表するマフィア国家、イタリアの中でも最強と謳われるアッセファミリー幹部。しかもファミリー内では一、二を争う実力者ときた。本当は関わることすら躊躇うような大物に、わたしは何故か好かれてしまっているようで。
その事実だけでも大きなため息を吐きたいところではあるが……我慢我慢、とウイスキーで喉を潤した。


「妙に嫌味ったらしいところは相変わらずみたいで安心したぜ。だが俺様が兎ってのは気に食わねぇ。兎はお前だろうが、野うさぎ<<ハーゼ>>さんよぉ」


ハーゼ。その呼び名にグラスを弄ぶ手が止まった。
…屈辱だ、まだそんな呼び名が残っていたなんて。どうしようもなくわき上がってくるこのやり場のない苛立ちと羞恥を、唇を噛んで凌ぐ。
野うさぎ、だなんて通り名を誰かつけたのか。生憎わたしは愛くるしい愛玩動物に例えられるほど容姿に優れているわけではない。どこの誰かしらないが、そいつがわたしを見下してつけた名前のようにしか思えなくて、わたしはこの呼び名が大嫌いだ。…そういえば。
昔、野うさぎだなんて可愛らしいじゃないか、といった男がいたのを思い出す。本人は息を吐くように褒め言葉を言ったつもりで満面の笑顔を浮かべていたけど、その頃のわたしは今より少々短気で、すぐにぷつんときた。まあ其奴は腸を引きずり出してからセーヌ川に捨ててやったわけだが。要するに、わたしはその呼び名がこの上ないくらい大嫌い、ということだ。


「……誰がつけたかも分からないような呼び名を出さないでくれる?不愉快だわ。第一、兎は狩る側じゃなくて狩られる側でしょう。貴方こそ嫌味を言っているのかしら」

「いや、そんな呼び名もあったなーってだけだよ、気にすんな」

「おまっ……貴方、自分から言い出しておいてよくそんな口が聞けるものね。知ってたくせに。——もういい、こんなに不愉快な気分で飲んでても不愉快さが増すだけよ。失礼するわ」


グラスとカウンターがぶつかった音が店内に大きく反響し、間をあけず乱雑な動作で紙幣をカウンターに置いて、そそくさと出口へ歩を進めた。
——あぁ、レディがこんなに取り乱しちゃってまあ。——淑女たる者、そのくらいで取り乱すなよな。…この場面を友人達が見ればそう言われるに違いないが、そんなこと気にするものか。体裁なんてどうでもいい、兎や角言うその知人だって此処は居ないのだし、今はただあのムカつく男を視界から、消し去りたくて。


「なんだ、もういくのかよ。まーいいけどな。——だが、次会う時には考えとけよ。この前の答え……ウチにくるかこないか、な。良い答えを期待してるぜ」

「…クソが」


絞り出した声は思いのほか低く静かなバーに響き、その一言だけを呟いてそそくさとバーを後にした。




蛇に睨まれた蛙ならぬ、
(( 鷲に狙われた兎、だったりして ))




「ただいまだぜー」

「あぁおかえりなさい、ギルベルトさん。……っじゃなくて。今までどこに行ってたんです?貴方がいないおかげで仕事が山積みなのですが…」

「わりぃわりぃ、バーで兎ちゃんと戯れてたんだよ」

「…。その兎、というのは?」

「あァ?なんだよ、本田にしちゃ察し悪いな。アイツだよ、野うさぎハーゼ」

「……はぁあああああ!?あああ、貴方なんてことしてくれてるんですか!彼女はロザイオからかなり目をかけられているとか、幻の六人目だとか、手を出しづらい噂がてんこもりなんですからね!」

「んなこと知るか。それに、ロザイオってあれだろ?アーサーとフランシスを筆頭にした何でも屋集団。……眉毛と髭ならいけるって」

「それが無理だから言っているんです。ギルベルトさん、彼らを侮ってはいけませんよ。プライベートの彼らは確かに威厳にかけるかもしれない、…ですが、仲間も同然の友人に手を出されて黙っているほどボケてもいません」

「…冗談だよ、だろうな。けどよ、ウチ的には有能な人材が欲しいってのも事実だろ?少しでも可能性があるなら、俺はそれに賭けるぜ。口説き落としてやるから、俺様に任せとけ」

「……して、その本心は?」

「すげー気に入った。だから欲しい」

「はぁ…、まあそんなことだとは思いましたけどね。いくら有能とはいえ、貴方が興味のない人間にそこまで入れこむはずがありませんし」

「そういうこった。あー、次会うのが楽しみだぜ!」

「…(これはまた厄介な相手に気に入られたものですね。はて、鷲相手に兎はどれだけの間逃げ果せるか……)」







→Next 後書き