二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 短編集-花闇-【雑食/6/8現在生存中】 ( No.32 )
日時: 2014/06/10 07:40
名前: 帆波 (ID: vsc5MjXu)

 「 真夜中の密会 」




深夜零時を過ぎた頃。人気のまったく感じられない廃工場に、二つの人影があった。如何にもヤクザやマフィアが取引が交わされていそうな場所であるそこでは、案の定密会が行われていた。声と背丈の違いからして男と女。男の方は黒のハットと同じく黒のロングコートに身を包んで、今にも夜の闇に溶けてしまいそうだった。ただ、彼の鮮やかなオリーブグリーンだけが闇夜の中で一際存在感を醸し出していて。…女の方はというと、同じく黒のパンツスーツにファーコートを着込んだ姿。黒髪黒目の出で立ちから東洋人だとわかるものの、その肌は西洋人のように白く、この暗い空間の中では一種の青白い光を帯びているようにさえ見えた。
お互いの出方を伺うように暫く制止を保っていたが、男の方が短気なのか痺れを切らして動きを見せた。


「 ……来たんか。 」

「 まあ、ねぇ。呼ばれて行かないわけにもいかないし。 」

「 そうか。じゃあついてきい、案内する。 」


女のことなど気にかける様子もなく、ロングコートを翻してかつかつとヒール音を響かせて廃工場の奥へと入っていた男。それに続いて、女も歩き出す。いくら正当な取引といえど、相手はマフィア、警戒するにこしたことはない。暗闇の中でも周りに目を凝らして注意深く歩を進めた。


案内されたのは廃工場の奥の奥。何も考えずについて行けば確実に帰り道が解らなくなるほど入り組んだ通路の先にある一つの小部屋だった。逃走防止というやつなのか……、相手の悪意が目に見えるようだ。扉を開けて、会議室のような造りをした中に置かれた古びたソファに腰掛ける黒ずくめがいち、に。案内してきた奴も含めてさん。…三対一の威圧感が私を襲う。特に逆立った金髪をした奴からの視線が怖い。きっとアイツがボスだ。ひくり、と喉が鳴った気がしたが、ここで弱気になっては負けだと自分を叱責して。


「 そんなとこ突っ立ってんと、まあ座りいや。 」


ボスらしき金髪の右隣に座った案内役の男は、あくまで優しげな声色で促す。他の場所と比べて仄かに明るいからこそ認識できるソイツの表情はにこやかで、人懐っこそうな笑みを浮かべていた。表社会なら人気者が浮かべるであろうそれを今ここで貼り付けることに若干の嫌味を感じながらも、大人しく相手方の向かいのソファーに腰掛けた。間にテーブルが在るのがせめてもの救いだ。冷静に、焦りや動揺は悟らせずに。緊張の糸が張りつめたこの場では、少しでも弱味を見せた方が負ける。そう肝に命じて。


「 まずは、よう来てくれたなぁ。ロザイオのお気に入りっていうもんやから、俺らみたいな”中小ファミリー”には目も留めてくれへんのかと思うたわあ。 」

「 …あら、笑えない冗談を仰るのね。規模こそ大きくないものの、狙った獲物は逃がさない腕の良さと狡猾さ。それに加えて統率の取れた集団戦法…、それを持ってしても貴方方は”中小ファミリー”だなんて冗談を? 」

「 うわあ、俺らんことそないに評価してくれとったん? 光栄やわ〜、アンタみたいな人に言ってもらえると、やっぱ重みがちゃうな。 」

「 …トーニョ、世間話はそこらへんにせな、兄ちゃんもうそろそろ青筋立てて怒んでー? 」

「 おっとそうやったな、堪忍堪忍。……じゃあ、早速仕事に話に入らせてもらうで。 」


のんびりとしていて逆に苛立ちを煽るような口調が、一瞬にして零下のものへと変貌した。案内人の彼と同じ暗緑の光が私を射抜く、それはまるで心のうちを全て読み解くように。


「 最近うちのシマで悪さしてる奴ら…知っとるやんな? 前まではチンピラのやることとあんま変わらへんし、そんな餓鬼臭いことしてる奴らに構ってる暇ないと思ってたんやけど……。アイツ等最近になって急に粋がりだしてん。あれは絶対バックになんかついとる、っていうのがうちの判断でな。そこでや、成功率ほぼ100%を誇る殺し屋さんのアンタに、 」

「 バックでこそこそしてる奴らをやればいい、ってわけね? 」

「 そうそう、話が早うて助かるわぁ。 」

「 それくらい誰でもわかることでしょ、一々口に出さないで。 」

「 勝ち気な嬢ちゃんやなぁホンマ。ギルちゃんから聞いとったとおりやわ。 」

「 …ギル? 」


おうむ返しにした声が思いの他低く狭い部屋の中を反響する。嫌悪するものほど目の敵にして反応して、意識してしまう。皮肉な話だ。忘れかけていた嫌な記憶を無理矢理掘り返されるような感覚に陥り、眉間に皺がよるのが自分でもわかった。だがこの関西弁の男はそんなこと気にも止めず、更に傷を抉りにくる。


「 え、もしかして知らんかったん? ギルベルト・バイルシュミット、俺らイタリアンマフィアの総元締の組織の幹部やろ。 」

「 それくらい知ってるわよ……。くそッ、アイツ他まで情報漏らしやがって……。 」

「 何々!? 嬢ちゃんとギルちゃん、何か因縁でもあんの!? うわぁ、何それめっちゃ聞きたい!! 親分その手の話めっちゃ好きやねん!! 」


ばん、とお互いの真ん中に位置するテーブルを力強く叩く音にびくりと体が震えた。ここまで関心を持たれるとは予想外だ。未知の物に対する溢れんばかりの好奇心を露にした瞳に映されては大層居心地が悪く、眉を顰め不快感を示す。あっ……という顔をしてから、誤摩化し笑いで謝罪を口にする関西弁男は、やはり信用ならない気がした。


「 うーあー、…いや、ホンマごめんって。そないに怖い顔せんでもええやん……。 」

「 あら、アナタのところのボスに比べれば可愛いもんでしょう? 」

「 あちゃー、言われてしもたなぁ、ラン。 」

「 …無駄話ばっかせんと早よ話付けえ。 」

「 ホンマや、うちんとこの方が「 ……。 」はいはいっと。…まあ、てな感じの依頼内容なんやけど、受けてもらえるんかな? 」


何故か申し訳なさそうな表情で不安げに問いかけてくる男に、先程の凄みは何だったんだと叫びたくなるのを抑えながら、ここはあくまで感情を表に出さずに返答する。釣られて愛想笑い、なんてしてやるものか。


「 ええ、勿論。断る理由がないもの。でも代金はきっちりいただくわよ。 」

「 それに関しては安心してえな。何せうちのボスは金にめっちゃ煩い人やから。 」

「 それは結構。……用件がそれだけならもう帰らせてもらえる? 仕事が立て込んでいるの。 」

「 うん、ええよ。……っと、ちょっと待ったって! 伝言、頼んでもええかな? 」


この息苦しい空間からとっととおサラバしたくて、言葉を発しつつ帰り準備( といっても服を整えて立ち上がるだけの動作だけど )をし、相手からの返事をもらえばすぐにも帰宅してやろうと計画していたのに思わぬ邪魔が入った。何とか引き止めたくて、無理矢理用件をこじつけたような声色にはあえて触れず緑色の瞳を真っ直ぐに見つめる。貼り付けたような笑みと共に、不意にその緑がぎらりと光った。


「 アンタんとこの眉毛に、カリエドが宜しく言うとった、ってな。 」

「 ( …コイツ、アーサーの知り合い……? )…、わかったわ。確かに伝えます。じゃあね、今度こそさようなら。 」


——去り際に、何を思ったのか彼をちらりと伺った。彼は変わらない笑顔をこちらに向けていた。不気味の谷を越えたロボットのように完璧に、けれどそれ故不気味さを纏ったそれは私の背筋を粟立たせるのには十分で。振り返ったことに激しく後悔の念を抱きながら、私のその場を早足で後にした。






「 もー、トーニョの悪い癖やんなぁあれ。あんな可愛い子にちょっかいかけて……。うちまで嫌われたらどうしてくれるん? 」

「 えっ、親分そんな風に見えとったん? うわぁ、それは悪いことしたなあ。けどベル、お前は心配せんでも嫌われるどころか何の印象も持たれてへんから安心しぃ? 」

「 うっわこれやからトーニョは! どうせ自分のことしか印象に残らんように誘導してたんやろ? ずるいでそれ……。 」

「 ずるくありませーん、わざわざ案内役も買って出たんやから当然の権利やろ。 」

「 …そんなこと言って、あの人に何されてもうち助けへんからね? 」





「 後書き 」
この前のマフィンパロ設定でリハビリ作品です。トマト一家( ロマ抜き )はアッセファミリーの傘下だといいな。
あと蘭兄さんの福井弁がわからなくて全然喋らせられませんでした。ごめんよ蘭兄さん……。