二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 短編集-花闇-【8/16現在生存/米短編執筆中】 ( No.33 )
日時: 2014/06/30 23:36
名前: 帆波 (ID: vsc5MjXu)

米夢【 広大でからっぽな旅日記 】



「 …なんてこったい。 」


 やはり慣れない事をするものではなかった。アナログな地図を片手に、明らか大通りではない人通りがほとんどない歩道に立ち尽くすわたしはさぞ滑稽だろう。あぁ、何故こんな事になってしまったんだったか。…そう、あの時はわたしも周りも浮かれていたのだ。良い意味でも、悪い意味でも。


 高校卒業、そして有名大学合格という学生にとってめでたい出来事に、わたし達は見事に浮かれていた。兄は友達に自慢しに颯爽と出かけ、祖父母はこりゃめでたいと赤飯と鯛料理の準備。そして両親はといえば秘蔵の酒をどこからともなく取り出し昼間から飲みだす始末。そういうわたしも、表では家族に呆れる振りをしながらも胸中は驚きと歓喜でいっぱいだった。
 そんな異常なまでのお祝いムードに当てられて、アルコールの入った母はなんと「 あんた一回くらい外国行っときなさいよぉ。社会勉強になるんじゃないぃい? 」とかいう戯言を言い始めた。そしてわたしは…、そう。渋りながらも周りの賛成に押し切られて海外旅行を決意してしまったのだ。…本当に正気の沙汰ではないと思う。国内旅行でもトラブルを五回以上は起こす母(これが残念ながら実話である)の言う事なんて聞かない方が身のためだったのに。
 ……これは身内しか知らないことだが、母の不運は”感染る”。これがどういうことか、もうお分かりだろう。


「 …あいむ迷子なう…? 」

 
 中途半端に日本語と英語を混ぜたことにあまり意味はない。しいていうなら、こうでもしないと真っ暗な現実に潰されそうだったから。は、ははは……と乾いた笑いが込み上げてくる。これも同じく意味はなく、ただ現実逃避のために笑ってみたというだけで、状況に何も変化はない。
 このまま予約済みのホテルにも辿り着けず、路頭に迷ってしまったらどうしよう。夜になったら怖い人達に目をつけられて、身ぐるみ全部剥がされたりして。そんな最悪の結末が頭を過った。泣きたくなるところを唇を噛み必死に堪えて、今は歩き続けなければ。


「 えーっと、地図の向きはあってる…よね。じゃあ真っ直ぐ行って突き当たりを右…じゃなくて左に行って、そのまた突き当たりを今度は右に……。 」
「 HEY! さっきからなにぶつぶつ言ってるんだい? 」
「 今話しかけないでください! 」
「 そ、そーりー……。 」


 まったく、人が一生懸命この状況を打開しようとしている時に話しかけてくるなんていう空気の読めない奴は一体誰だ。悪いけど貴方に構っている暇はないんだ。地図と周りの地形とを交互に睨みながら、なんとか目的地までの正確なルートを練る。あそこはああで、そこはそうして。よし、なんとかこれで迷子を脱することができそうだ。


「 君、そこ行ったら都心からもっと離れちゃうけど、いいのかい? 」
「 えっ嘘! ……っていつからいたんですかぁあああ!? え、ええええ!? ふーあーゆー!!? 」
「 今更かい!? さっきから居たのに……。 」


 さも当然のようにそこに立って私の地図を覗き込んだ男に盛大な叫び声を浴びせてやった。いやほんと、いつから居た? 「君がぶつぶつ言い出したところからだよ! 話しかけるなって君が言ったんじゃないか! 」…まじですか。
 どこの不審者だと思ったが、よくよく見れば金髪碧眼が眩しい好青年といった風貌をしている。…べつに見た目で判断してはいない、断じて。この青年、名前をアルフレッドというらしいが、この人通りの少ない地区にぽつんと立っている私を心配してくれていたようだ。一度は話しかけるなとまで言ったのに( 記憶はない。無意識だったのだろうか )、再び声をかけてくれる優しい人だとわかった。これは、頼らざるをえない…!


「 えっと…その、さっきはすみませんでした。それでもし迷惑じゃないなら、道案内をお願いしたいなーなんて…。 」
「 いいよいいいよ! なんたって俺はヒーローだからね! 人助けくらいお易い御用さ! 」
「 ひ、ひーろー? 」
「 そうだぞ、俺はアルフレッド。アメリカ合衆国のヒーローなんだ! 」


 誇らしげに胸を張って、堂々とおかしな事を言い始めたよこの人…。悪い人ではなさそうだけど、もしかして頭がちょっとあれなのだろうか。ほら、あれ。ジャパニーズ的に言えば主に中二くらいに見られるイタタタタ……な、あれ。
 哀れむような、怪しむような視線を送りつけると、頭のアホ毛らしきなにかをひょこひょこさせながら怒りだした。


「 君信じてないだろ!? 本当なんだからな! 」
「そ、そうですねーアハハ……。 」
「 まったく…日本人ってのは皆こうなのかい!? 菊といい君といい、視線が痛いんだよ……。 」


 怒りだしたかと思えば、今度はへこたれてしまったようで、元気のないチワワみたくしょぼくれている。うわあ面倒な人だな……。内心は放っておきたい衝動に駆られつつも、これから案内してもらうのに機嫌を損ねてはいけないから、少しだけ付き合ってあげることにした。