二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 短編集-花闇-【8/16現在生存/米短編執筆中】 ( No.34 )
日時: 2014/07/01 07:27
名前: しゅみっと (ID: vsc5MjXu)


「 すみません、日本にはその、アルフレッドさんみたく自己主張の強い人が中々いなくて……。その菊、さん? も、だから免疫がなくてちょっと物珍しく思っただけなんだと思いますよ? 」
「 …本当に? 」
「 本当かどうかは知りませんが…、おそらくそんな感じの理由だと思います。 」
「 ……なんだ、君ってば良い奴なんじゃないか! HAHAHA、いやー怖い奴かと思ったんだぞ!! 」


 変わり身が早いというかなんというか……。いやそれよりも笑いながらわたしの背中叩かないでください、痛いです骨折れます。「 ん? あぁごめんごめん! ついうっかり! 」……うっかり済むレベルの力じゃないぞこれ……。
 もう、気をつけてくださいねっ。人差し指を立てて素振りをしてみるとアルフレッドさんはしょぼくれてしまい、思いのほか弄りやすいことがわかった。ようし、もっと弄ってやる……じゃなくて。今のわたしには生きるために行かなければならないところ、即ち本日の宿泊先のホテルを探すという重要な使命があるのだ。こんなことをしている場合ではない。


「 あのー、わたしそろそろ行かないと……。 」
「 ちょっと待ってくれよ! 俺が案内するって言っただろ? ここはヒーローの俺に任せておくんだぞ! 」
「 じゃあ…お願いしますね、ヒーローさん。 」
「 …! も、勿論だよ! さーて、俺から逸れないでくれよ? 日本人はちっちゃくて見失いやす「 なにか、言いました? 」…いやっ、何も言ってないぞ! 」


 あれー、何でアルフレッドさんの顔が引き攣ってるのカナー( 棒読み )。…という冗談はさておき、アルフレッドさんはわたしの手渡した地図を一瞥することもなくすいすいと進んで行く。大通りから裏路地に入り、そこからまた大通りにでて少し脇道にそれた所へ。これじゃあ本当に迷子になってしまいそうだったが、先程のやり取りをしてしまった手前、まさか逸れるわけにもいかない。必死に揺れる金髪を目印に追いながら歩くこと30分ほど。
 目の前には探し求めていたホテルの外観がそのままあって、思わず感嘆のため息を吐いた。凄い…、地図を見ずに辿り着けるなんて。此処に来るまでにアルフレッドさんは何度もわたしに話を振ってくれて、そして今も息一つ切らさない余裕な態度、対してわたしはその振りにも生返事しか返せず着いて行くだけで必死で( だって西洋人足長い…! )息が乱れている。そんなに体力がなかったのかと情けなくもあり、癪でもあり、複雑だ。


「 君大丈夫かい? ちょっと速く歩きすぎたかな……。まあゆっくり休んでくれよ。ホテルは此処で合ってるんだろう? 」
「 はっ…、はい……。ありがと、ございました……! 」
「 …本当に大丈夫かい? 」


 綺麗に澄んだ碧眼でわたしの顔を覗きこんだ。反射的にふいっと顔を反らすと、Sorryと発音の良い英語が耳に届いた。人のペースを乱すことしか出来ない人だと思っていたけど、勘違いだったみたいでなんだか恥ずかしい。その申し訳なさで顔もなんだか暑かった。
 

「 いや、ほんと大丈夫ですから。ほら、もう呼吸も整いましたし! 」
「 えー、なんだか君危なっかしくて信用ならないよ…。 」
「 なっ、なにおう! 失礼な! 」
「 わ、叩かないでくれよ! 」


 思いもよらない評価に不満を覚えてアルフレッドさんをぽこぽこと叩く。殴るではない、叩くのだ。日本人の中でも小柄なわたしとアルフレッドさんでは体格が違いすぎて、殴るという表現は当てはまらない。それでもこりずにぽこぽこ叩いていると、不意に頭に重みを感じて手を止める。大きい手、それは他でもないアルフレッドさんの手で、静止の合図でもあった。


「 はーいそこまでだぞ。君、チェックインもしなくちゃいけないんだろ? 先に済ませてきたらどうだい? 」
「 あ、そういえば……。 」
「 その大荷物じゃ動きづらいよ、もっと軽い荷物にしてから下りてきて。 」
「 ……え? 」


 それではまるで、わたしを待っているという宣言じゃないか。予想外な発言にびっくりして固まっていると、アルフレッドさんは子供っぽい笑みを浮かべてこう言い放った。


「 こうして出会えたのも何かの縁なんだぞ! 言っただろ、君一人じゃ危なっかしいから俺がこの街を案内するよ! 」
「 え、…えええ、い、いいんですか!? そんな、わたし見ず知らずの人ですよ? 」
「 What? 何言ってるんだい、俺達はこうして知り合ったじゃないか! もう十分知り合い、いいやfriendだよ! だからさっ。 」


 早く手続きしておいでよ。
 邪気のない笑顔に当てられて、わたしは頷きざるを得なかった。こくこくと必要以上に首を縦に振ってから踵を返してホテルのロビーへと入る。……顔が、暑い。きっと耳まで真っ赤だろう。そんなところを見られたくなくて、出来るだけ顔を俯かせてチャックインを済ませ、部屋に滑りこんだ。心拍数が一定以上を越えたまま収まらない。苦しい、……だけど何故か笑顔が溢れてきて。


「 ……早く、行かなきゃ! 」


 必要最低限の荷物をバッグに詰め込んで部屋を飛び出した。目指すは金髪碧眼の彼。——わたしの旅を唯一無二のものにしてくれた、彼の元へ。