二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 短編集-花闇-【7/1米短編うp】 ( No.35 )
日時: 2014/07/22 14:27
名前: 帆波 (ID: 3rAN7p/m)


加誕【 いつもの場所から、君を 】




ただひっそりと、見ているだけの僕だった。

「 ごめんな、マシュー。 」

 ううん、僕は大丈夫だから、早く兄弟のところに行ってあげて? きっと兄弟も貴方を待ってる。

「 ごめん、マシュー。…俺は。 」

 貴方が謝ることじゃないよ、だからそんなに悲しい顔しないで。

「 ……抱え込まないでくれよ。俺と君は、兄弟なんだから。 」

 うん、ごめんね。でもこうでもしないと心配かけちゃうから、もっと色んな人に迷惑かけちゃうから。
 そう言うと、僕とよく似た顔の君は悲しそうな顔をして俯いた。…ごめんね、それも僕のせい。

「 オマエ、一人寂シクナイ? ズット我慢シテル、苦シクナイ? 」
「 うん、大丈夫だよ。クマ二郎さんは優しいね。 」
「 オレ、オマエトズット一緒ニ居ル。ダカラ分カル。 」
「 ……うーん、そうだね。長い付き合いだもんね。 」

 つぶらな瞳が悲しげに歪むのが見えた。昔からの友達、君にまでそんな顔をさせてしまうなんて、僕はなんて駄目な奴なんだろう。
 …なんて、言ったら今度は怒るかな。

「 実を言うとね、すっごく寂しい。皆が兄弟に構っている間、僕はずっと一人だった。でもね、仕方ないんだよ。兄弟には道しるべとなる人が必要なんだ。それがたまたま、僕の近しい人だってだけで。 」
「 …オマエ、聞キ分ケ良スギル。 」
「 だって唯一の兄弟だよ? 成長の邪魔をするようなことは絶対にしたくない。 」

 それは矛盾した愛。愛されたい、けれど兄弟のためならそれを我慢することもできて、でもやっぱり寂しい。愛しているのと、愛されたいのと。それが今はたまたま愛したい方が勝っているだけ。

「 だからいいんだ、僕はこれで。 」

 自己満足だっていい、それが誰かのためになるなら。



・ ・ ・ ・ ・


「 ……そんなこともあったね。 」

 入れたてのココアの一口飲み、落ち着いた口調で話した。

「 あったね、じゃないだろ! まったく、なんで君はいつもそうなんだい!? 頼れば良いじゃないか、君にだって甘える権利はあるんだぞ! 」
「 うん…アルのそういうとこ、本当に羨ましいよ。 」
「 …じゃあもっと欲張れよ!! 俺達は万能じゃないんだ、言葉にしなきゃわからないことだって沢山ある。それを勝手に自己犠牲にすり替えるなんて、馬鹿にも程がある! 」
「 ……しかた、ないじゃないか……ッ! 」

 バンッ、と木製のテーブルが音を立てた。物静かな彼からは想像もできないことだったが、しかしここで はいそうですねと負けてやるものか。

「 じゃあもし、僕が欲張ったら君はどうなっていたの!? もしかしたら成長が遅れて、君自身も、周りの国にも被害があったかもしれない! 発展途上でどこかの国が君を略奪しにきたらどうするの? それは君一人の問題じゃなくて、他の人にも迷惑がかかることなんだ。……誰かは礎にならなきゃいけないんだよ、それくらい、君だってわかるだろ…!? 」
「 ああわかってるさ、犠牲はどの時代も必要だからね。でも、君一人がずっとその礎になる必要はなかった。…辛いならそう言って欲しかったんだ、状況が打開できなくても、それでも共有することができればそれは一人じゃない。 」
「 ……それは、きれいごとだよ。 」
「 まあ、そうだね。歴史に”もし”はない。…だから、これからの事を考えよう。 」
「 ……。 」

 疑惑の視線が突き刺さる。けれど屈しない、俺はヒーローなんだ。大演説をする時のように手を広げて、訴えかけるように言葉を紡ぐ。

「 これから君はどうなっていくのか、どう成長して、どんな国々と関わっていくのか。前向きに真剣に考えればいい。昔には戻れなくても、昔を繰り返さないようにすることはできだろ? そうやって進んでいこうよ、兄弟。 」
「 …………僕に、 」

 涙をこらえているような震えた声だった。顔は俯き、表情は見えない。

「 ——僕に、できるかなあ、兄弟……ッ。 」

 ああ、やはり泣いていた。涙がぽろぽろ溢れだして、酷い顔。でもこれが俺が一番見たかった顔。格好悪くてもだらしなくても、兄弟の本当の心を表した表情を俺はずっと待っていたんだ。テーブルの上で震える両手をすくいとって、力強く握る。もう離しはしない、俺の大事な兄弟。

「 できるさ、なんたって俺がいるからね! 」
「 そう…だね…っ。 」
「 あー、あとフランシスとアーサーもいるぞ! 他にも君を支えてくれる奴らは、沢山いるんだ!! 」

 俺の言葉一つひとつを噛み締めるように、相槌をうち、最後にはふにゃりとした満面の笑顔を見せた。

「 じゃあ改めて、マシュー。 」


「 Happy birthday!! 生まれてきたことに感謝するんだぞ!! 」

 
 その笑顔がこれからもずっと続きますように。



(( ——届いていない一方通行、それが実はちゃんと繋がっていたりして。ああ、やっぱり世の中わかんないことだらけだ。 ))



「 後書き 」
カナちゃんの誕生日にブログにうpした短編です。題名は根緒様より頂きました。