二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 短編集-花闇-【7/22加短編うp】 ( No.37 )
- 日時: 2014/07/22 15:00
- 名前: 帆波 (ID: 3rAN7p/m)
「……っ、ぅ、ぐすっ、……ごめんあーさー、いまこっちみないで」
「…!?お、おい!なんで泣くんだよばかぁ!…もしかしてそんなに嫌、だったか…?」
「ちが、くて。そういうんじゃないの、ただね、うん……」
「だから泣くなって!」
次から次へと溢れ出てくる涙を抑えることができず、暫く涙を流し続けた。悲しみからくる涙ではないのは分かっている、だが純粋な嬉し涙でないことも確かで。
私が泣いている間、アーサーはずっとおろおろとして、時々私をちらっと見てはまたそらして、それを繰り返していた。私はずっと涙を拭っていて声をかける余裕すらなかったけど、やっと涙がひいてきてずび、と涙と同時に出てきた鼻水をすすり、少し鼻声になった声で言葉を吐いた。
「ごめん、アーサー。もう、大丈夫」
「…じゃあ答えてくれるか。さっきの返事と、出来れば今泣いていた理由」
「う、ん……、そうだね。そうだよね、話さなきゃ不公平だよね」
もう待つのは疲れた、そういった余裕のない表情で間髪入れず問うてきたアーサーに、性急とは思いつつもそれを責める権利は残念ながら私にはない。観念したようにどこからかわいてきた行き場のない笑いを自嘲ぎみに浮かべて、ぽつりぽつりと語りだす。
「とっても、嬉しかったよ。私もね、今の今までちゃんと自覚して、あぁこれが恋なんだなぁって思ったことはなかったけど、今はちゃんと言える。私はアーサーに恋をしてる。だからね、私も同じ気持ち。あはは、やったね。私達両思いだよ」
「じゃあなんで、泣いたんだよ。あれは明らかに嬉し涙じゃなかっただろ」
「うん……。なんかね、ずっと前からこの気持ちは叶わないんだって思っていたら、今日急に叶っちゃって…。そんなはずないって頭が否定して、疑っちゃうの。嬉しいはずなのに素直に喜べないんだよ。……ね、面倒くさいでしょ?私。こんな面倒な女、やめとくなら今のうちだよ。早めに乗り換えた方がアーサーもきっと幸せ、「ばか、いうなよ」……アーサー、」
一つ枷が外れてしまえば他もくずれ落ちるようにしてぽろぽろと口から流れ出す。早く終わりたい、逃げてしまいたい。そう思っていたのだ。だからだろう、言動はどれもこれも自己完結のようになってしまって、相手の気持ちなんて知らん振り。そんな態度が気に食わなかったのか、顔を俯かせたアーサーは私の言葉を遮って割り込んでくる。
「馬鹿な事言うんじゃねぇよッ、俺がどんだけお前のこと、好きだと、思って……っ。
じゅうねん、十年だぞばかぁ!十年前に出会って、最初は妙に大人ぶったクソガキだったくせに…。人間はデカくなんのが早ぇんだよばか……、もう立派なレディになりやがってちくしょう……」
「え、えええ、あ、アーサーさん……?」
「大体なぁ、十年も見た目変わんない奴んとこに毎年ひょこひょこ来んのがそもそもおかしいんだよ!ちょっとは疑うことを知れ!
あと警戒心が無さすぎるんだよ、レディたるものどれだけ親しくても男相手には警戒しろ。スカート短ぇんだよ、しゃがんだ時たまにパンツ見えるぐふぁあっ」
「み、見てたの!?アンタサイテーね!」
「ぐ…流石立ち直りが早いな……」
「その”お前中々やるな”的な目で見ないでよ痛いわ!……っんとにもう、ムードぶち壊しじゃないアンタの所為で」
どうしてこうなった。これからどうお涙頂戴な恋愛ドラマを繰り広げようかというときに、まったくもってこの男は。私の拳を脳天に受け、痛みで目に涙を滲ませながらも格好つけて薄く笑う様に頭を抱えたくなった。ああ…これでも私の好きな人なんですお母さん……。
はぁ、諸々詰まったため息を吐くと、いつの間にか復活していたアーサーが何か言いたげな目をして口を開いた。
「ムード?雰囲気?…そんなもんくそくらえだぜ。ずっと好きだった奴に告白してやっと両思いになれたってのに、これ以上のシリアスシーンなんて必要ないだろ。俺はお前が好きで、お前も俺が好き。それじゃだめなのか……?」
「…だめ、じゃないけどさ。アーサーはいいの?言ったよね、私面倒くさいよ?もしかしたらアーサーが女の人と話すだけで嫉妬するかもしれないし、拗ねるかもしれない。そんな子、嫌じゃない?」
「いーやまったく、全然問題ねぇな。嫉妬されても拗ねられても、お前から向けられる感情ならなんだって嬉しい。自慢じゃないが、俺だって相当面倒だぞ?お前と話した男全部して、(ピー)するかもしれない。それでもいいんだな?」
「いや、それはちょっと……「なっ、べ、別にものの例えだろ!」…なら、いい。ふふ、あはははははっ。サイコーだね私達!面倒くさい奴同士、お似合いのカップルじゃない」
「そりゃあいいな。ついでに言うと俺愛重いけど、いいよな」
「勿論。因みにどれくらい?」
「そうだな、物に換算すると毎日薔薇を千本と紅茶を百杯ってところだ。おっと、スコーンも「それは結構」…まあそれでも足りたいくらいだが……」
「…おもっ!想像以上に重いよアーサー!私愛で埋もれちゃう!」
「幸せだろ?…だがな、一つ俺達の間に障害があるんだ」
少し病んだ夫婦漫才のような要領で会話を進めていると、不意にアーサーの表情が陰る。どうしたのだろう、気持ちの面では大丈夫なはずだけど。まあ、まったくの無問題とはいわないが…。
「…お前、あと二日で帰るんだろ?」
「…あっ…」
「そうなると、次に会えるのって、一年後だよな?そんなの絶対無理だ。この気持ちを曝け出した今、歯止めなんてきかねぇぞ。仮にお前の滞在期間を伸ばせたとしても、俺にもタイムリミットがあるしな」
「そ、そうだよね…。アーサーはロンドン在住なんだっけ?私はアバディーン(イギリスの結構北の方/ロンドンは結構南の方)だし……、流石に遠い、よね」
「……そうだな、」
「…アーサー?」
口元に手をあて、考えるような仕草をするアーサーになんだか嫌な予感を覚えて恐る恐るその名を呼んでみる。アーサーはというと「Just a moment」と言って暫く考えた後、いい悪戯を思いついた悪ガキのような顔をしてこちらを向いた。にやにやによによ、……ああどうしよう、嫌な予感しかしない。
「お前、勤め先はどこだっけ?」
「え…と、一応新米のお役人ですけど…?」
「地方公務員、ってことだな、OK。それなら大丈夫だぜ、障害はなくなった!」
「…は?」
お前なに言ってるんだ、と冷ややかな視線を送るもそんな視線物ともせず自慢げな表情(によによ顔、ともいう)でびし、と私に犯人を指差す時のように人差し指を向けた。…紳士だと言うわりにお行儀が悪い。そんな指を右手で払いのけて、聞いてくれないのかオーラを出している彼に一応理由を問う。待ってました!と言わんばかりに、今度は腰に両腕を当てて、自慢げに言った。
「地方公務員、つまり国家公務員ってことだろ?それなら俺の管轄内だ、明日にでもお前の上司に連絡とってこっちに転勤させる」
「……はぁぁああああああ!?え、アーサー何いってるの!転勤って、そんなのアーサーに出来るわけ「あるんだよなぁ、それが」…因みに、私の意志は」
「お前の意志?俺と一緒にいたいなら、それはむしろお前の意志を汲んでることになるんじゃないのか?」
唖然とした。まず一つ、アーサーに一公務員を転勤させるだけの権力があったということに。二つ、……アーサーの言葉の端々から感じる愛の重さに。冷や汗を流しながら、いやいやいやいや!と体全体でちょっと待ったとかけたが当の本人には届かず、まったく的外れな事をにっこりとした笑顔で放たれる。
「よし、じゃあ決まりだな!安心しろよ、引っ越し先も俺が探しておいてやるから。へへ、まあ俺と同居、なんてことも考えたんだが流石にそれはまだ早いだろ?」
「あぁ、アーサーさん話聞いて……」
「——ああ、忘れてた!一番重要なことが言えてなかったな」
「……?」
もうなんとでもなれ、疲労の滲む表情でちらりと視線だけをアーサーに向ける。視線が混じり合った。私だけしか写していないエメラルド色の瞳に吸い込まれそうだ。
何事だと思えば、不意にアーサーの体ごとずい、と近づいてきた。ななな、なんなんだ!顔が近い、おまけに腰に手まで回されて逃亡対策は万全、逃げ出せそうにない。整った顔を前にして羞恥で爆発してしまいそうになりながら、アーサーはやっと口を開いた。
「I love you.…Me and you. Always. 」
「…っ、Me too!!」
「はっ、素直じゃねぇの」
「…アンタに言われなくないわ、ツンデレ眉毛!」
「い、言ったな!お前こそそのツンデレ眉毛が好きなんだろ!」
「うぐ……、まあ否定はしない、けど……」
「…そこは好きって言えよばかぁ!空気読め!」
その日はずっとそんな感じで別れたのだった。
そして翌日。わざわざ実家の電話番号を調べた上司によってロンドン市役所への転勤を告げられ、まじやりやがったあの男…と、朝からアーサーの別荘へ乗り込むのはまた別の話。