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二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 王子はただいま出稼ぎ中*隣国の王女*【原作沿い】 ( No.2 )
- 日時: 2011/12/19 20:54
- 名前: 勾菜 (ID: BeoFjUrF)
序章〜ユート〜
静まり返った室内に、さらさらとペン先の滑る音が響く。
その合間にぱちぱちと、石をぶつけあうような硬い音。
「……やはり、無理か」
小さなため息が漏れる。
声の主はがしがしと頭を乱暴にかくと、再び紙の上にペンを走らせる。
その筆跡は速度の割には乱れたところのない、精緻と言っていい筆跡だった。
そういえば…とその手がゆっくりと止まる。
「そういえば…レイアが来ると言ってなかったか…」
幾日か前にそんな手紙を読んだ気がする。
忙しすぎてすっかり忘れていた。
はたと思いだして、声の主は先ほど計算した紙を見る。
それから、計算に間違いがないことを確認するとさらに深くため息をついて、ペンを机に置いた。
「無理だな……これ以上は、さらに借金でもしない限り工面できない」
まだ若い、変声期を終えたばかりの少年の声だった。
少年は椅子の背に身を預けて瞑目する。
その部屋には初春だと言うのに、火の気が一つもない。
冷え冷えとした空気を助長するような、石造りの壁には申し訳程度に毛織の壁掛けがかけられているが、擦り切れて色あせている。
「……仕方ない」
やがて、目を開くのと同時に彼はつぶやいた。
あきらめたような言葉の内容とは裏腹に、その声にはふっきれたような妙にすがすがしい響きが宿っていた。
「こうなったら——もう、あの手を使うしかない」
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