二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 王子はただいま出稼ぎ中*隣国の王女*【原作沿い】 ( No.3 )
日時: 2012/06/02 22:37
名前: 勾菜 (ID: G2ENsTvw)

〜1〜

カエルレウム大陸北西部に位置する大国、ニーザベイム。
その首都であるディエの街路にはは、普段とはまた違った活気にあふれていた。
理由は間近に迫った春の大祭である。
長い冬を終えた喜びと再生する命の息吹
「…そして恵み豊かな季節の到来を祝うための祭り…か」
「…どうりで人が多いわけですね」
人々でにぎわう街路の一角を、押し流されるようによろよろと歩く一人の姿があった。
「王子ー!」
人の流れに懸命に抵抗して、情けない叫びをあげる銀髪の青年の姿を思い浮かべながら、レイアはふうとため息をついた。
ちらりと隣を歩くユートを見れば彼の眉間には深いしわが刻まれていて…
「…グラシエ…」
「ったく…」
そう悪態をつきながら彼は器用に人の波を分けて銀髪の青年のもとにたどり着く。
そうして、グラシエは青年の首根っこを掴むようにして、ここまでひっぱり連れてくる。

短い藍色の髪はゆるく風になびき、表情より雄弁な瞳は森の奥のにみられるような深緑。
きりっとした眉は彼の鋭利な印象をより強くする。
そして、整った表情によりハッとさせられる。
旅人のような長いマントを身にまとい、腰には護身用の剣をさげている。

彼が連れてきた青年は長い銀髪はうなじで一つに束ね、冬の空を思わせる薄水色の瞳をかくすようにして細い銀縁の眼鏡をかけている。
旅人の格好をしているが旅慣れた様子はない。

「す、すみません、レイア様にグラシエ」

苦笑を浮かべてレイアはいいのよ、と返事を返す。
「…ったく、何やってるんだ、お前は」
呆れたようにユートはイルを眺めやる。
「王子」
すみません、続けようとしたイルを遮り、ユートはイルに向かって声をひそめたまま注意を促す。

呆れたような色を宿す瞳は北国の森を思わせる濃い緑。
わずかに黄みがかった明るい茶色の髪は、首筋を隠す程度の長さで無造作に切られている。
最上級の大理石のような白い肌に、この世のものとは思えないほど整った目鼻立ち。
形のいい唇はきっちりと一文字に結ばれ、わずかに眉尻の上がった眉とともに潔癖な印象を与える。
イルと同じように旅人の恰好をしているが、ずいぶん旅慣れた様子だ。

「あのな…王子はやめろと言ったはずだ。何回言わせれば気が澄むんだ、お前は?
 国を出てからもう100回は注意しているぞ」
「いえ、まだ92回ですけど…」
ユートはそんなことは数えなくていいと、こぶしを握り締める。
「まあまあ、二人とも。言い争うと目立つわよ、いろんな意味で」
レイアはそんな二人に苦笑を洩らす。
二人ともかっこいいんだからと、内心で思っていることは秘密だ。
先程からちらちらと人々の視線を集めていることに、二人は気が付いていない。

月光を思わせる白金の髪を結いあげ、穏やかな笑みをたたえ表情と共にくるくると変わる瞳は深海を思わせる深い蒼。
うっすらと桃色に染まる頬に笑みを浮かべた唇、目鼻立ちの整った顔。
そんな全てが彼女の優しさを際立たせる。
しかし、そんな彼女も旅人の格好だ。
だが、そんな姿も不思議となじむ。

彼女も人々の視線を集める役割を十分果たしていた。

むしろ、この場にいる全員がその役割を果たしていると言っても、過言は無かった。