二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: イナクロ〜なくしたくない物〜更新再開の大号令〜 ( No.347 )
- 日時: 2015/03/17 12:12
- 名前: 柳 ゆいら ◆JTf3oV3WRc (ID: x/gr.YmB)
☆番外編☆第三十二話 「鉄」
冬の駅のホームは、たとえ地下鉄でも寒い。
ぶるっと身を震わせ、バッグのなかにしまってあった友撫用の薄桃のマフラーを、妹に巻いてあげる。慣れない感触のマフラーに、友撫は最初、どら焼きを食べる手を止めて、嫌そうな顔をしたが、ちょっとすると、なんでもない顔で、どら焼きをもぐもぐ食べ出す。
降りる駅をメモで確認しながら、横髪を耳にかける。
——切られたときより、ちょっと、伸びたかも。
(え?)
ふとよぎった考えに、自問する。
ちょっと伸びた? 切られたって、なに?
きょとんとして立ち尽くす風花なんて気にせず、友撫はどら焼きをもぐもぐ。
首をふる度、さらりとかすかに乾いた音を出す髪の先を、そっとつかむ。
これは……切られた髪なの?
「おねえちゃん。おでんしゃ、きた。」
舌足らずな友撫の発言に、風花ははっと我に返る。
どら焼きを食べながら友撫が言ったとおり、暗いトンネルの奥からライトが見え、ガタゴトとという馴染みの音も聞こえてくる。
あわてて友撫のどら焼きをバッグにしまい、乗車の準備をする。
「どらやきぃ……。」
「駄目。お電車のなかじゃ、食べちゃ駄目なの。」
「ううぅ……。」
不満そうに頬をふくらませる友撫の頭を、風花はよしよしとなでてあげる。
ぷしゅーっと空気の抜ける音がして、電車の扉が開く。
☆
ぼんやりして駅を逃そうとしていた友撫の手をがっちりつかんで、風花は目的地のホームに降り立つ。しょうじきなところ、自分もだいぶこっくり来てた。電車のなかが、あまりにもあったかいから……。
風花も友撫も、ふたりして目じりをごしごしして、眠たそうにしながら、改札を通りぬける。
「ほら、ちゃんと歩いて?」
「うぅん……ねむいぃ、おねえちゃんん……。」
「お姉ちゃんも眠いよ……;;」
いますぐ壁に寄りかかって寝たいくらいだよ。
心のなかでつぶやいておいて、友撫の手を引いて、駅の外に出る。
駅の前にある自動販売機付近で待ち合わせ。
自動販売機の前にはベンチがあるから、そこで座っていていいと言われている。
ベンチにふたりそろって腰を下ろし、バッグから毛布を出して、友撫のひざにかける。
「ん……?」
「ちょっと寒いでしょ? これで暖かいよ。」
「うん……。」
毛布を一瞥すると、友撫は風花にどら焼きを請求する。
ほんと、もうこの子は……。
ちいさくため息をもらしながら、友撫にどら焼きを渡す。すると、彼女は奪うようにしてそれを受け取り、もぐもぐとさっそく食べはじめる。
☆
「っ……。」
衝撃を感じて、———はうずくまる。
ぼやける視界は、四角い床と、そこにしたたり落ちる赤い液体だけを映しだしていて。
頭上から聞こえるのは、くすくすという笑い声。
(なん、で……。)
「ちょっと、起きてるゥ〜?ww」
「ぐぇっ……。」
今度は腹に重いなにかが食いこみ、腹をおさえて「く」の字にからだを折る。
額が床につく。鼻につんと来る、鉄の香り。
「はい、土下座〜ww」
「キャハハッ、受けるっww」
「やだぁ、最高っww」
複数人の笑い声に、意識にもやがかかりはじめる。
なんで、どうして、こんな……。
———が、なにをしたの。
ツインテールがちいさくこすれる音をたてる。
「ちょっとぉ。寝てんじゃないわよ。」
髪をつかまれ、無理矢理顔を上げさせられる。
もうこれ以上、痛いのはいらないよ……。
視界がかすんでいて、———を殴り続ける子どもの女らしき人物の顔が、特定できない。
「屋上、行くわよ。」
数分後、———は宙に浮いていた。