二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

第九幕 蘇芳《すおう》 ( No.19 )
日時: 2012/07/08 21:07
名前: 無雲 (ID: C5xI06Y8)

*辰馬の二つ名捏造

沈黙。
部屋の中に落ちる無音は何も語らない。
そしてその静寂の中にいる四人の男は身じろぎひとつしなかった。
「・・・・ハ、馬鹿言ってんじゃねぇよ。先生が?生きてる?あの人は死んだじゃねえか。」
重苦しい沈黙を初めに破ったのは銀時だった。その口から紡がれる言葉は、喜怒哀楽のどの感情も籠っていない。
「小太郎、冗談なら本気で怒るぜよ?」
坂本の青い瞳には鋭い光が宿っている。もしここで桂が冗談だとでも言おうものなら、彼は容赦なく桂を殴るだろう。
「・・・・・・・・・。」
高杉が無言で立ち上がり、部屋の襖に手をかけて出て行こうとする。
「待て。」
その高杉の着流しの袖を桂が座ったまま掴んだ。
高杉は桂を見下ろし、不機嫌そうに眉をよせる。
「話を・・・聞け。」
そう言った桂の瞳にはいつもの余裕は微塵もなく、かわりに必死な色が浮かんでいた。
                   ***
「幕府の動向を探るため数週間前に新岡を送り込んだ。この情報はその時新岡が持ってきたものだ。」
高杉を再び畳の上に座らせた後、桂は先程とは打って変わって淀みなく話し始めた。
「先生は表向きは処刑されたが幕臣の一人にその能力を買われ江戸城の地下に幽閉されていたらしい。」
松陽は長州でも有名な思想家であり、また学問や武芸にも優れていた。
その能力に目を付けた幕臣の一人が、処刑されるはずだった彼を江戸城の地下に幽閉したのだ。
処刑の執行の日には影武者を立て『吉田松陽』という人物を世間から抹殺した。

「・・・なあ小太郎。」
不意に銀時が口を開いた。いつものあだ名で呼ばず、名前で呼ばれたことに少々驚きながらも桂はなんだ、と返事を返す。
「本当に・・・先生は、生きてるんだな?」
その声にはいつもの気だるげなものではなく、どこか力ないものだった。
「ああ。」
桂がためらいなく言い切る。銀時はそうか、と呟き、伏せていた顔を上げる。
前髪で見えなかった赤い瞳には鋭い眼光が宿っていた。
「じゃあ、やることは決まってるよなぁ?」
銀時の言葉に三人は妖しい笑みを顔に張り付けた。
「先生を、救い出す・・・!」

幕府はこの時より存在を脅かされることとなる。
白夜叉・狂乱の貴公子・怨牙の修羅・黒焔龍こくえんりゅう
我等攘夷四傑じょういよんけつ、師を取り戻すためにいざ参らん。」
攘夷戦争最強武神が、動き出した———。