二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: アヴァロンコード ( No.1 )
日時: 2012/08/17 02:04
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ゆっくりと、炎につつまれて滅んでゆく世界…。

いつも見ている、夢。

「あぁ、またこの夢」

ティアはゆっくりと目を開けた。

業火に焼かれる世界から、のどかな草原と、青空に移り変わる景色。

しばらくそのまま寝転んで、最近よくみる夢について考えていた。

「いったいなんなんだろ…。変な夢…」

すると、ある言葉が心に響いた。

手を差し出し、受け取るがよい、と。

なんともなしに、手を差し出した彼女は瞬きした後に、その手の中に赤い紙があるのに気づいた。

いままで持ってたっけ?

そんな感じの驚きしか感じない。

その紙に書かれた、目をつぶる角の生えた少年の姿など、余り気に留めない。

そしてふと、思いついたことがあって起き上がる。

少女の背後に、そびえる古い石碑。

それを振り返るティアは、夢の中で同じものを見た気がしてならなかった。

立ち上がり、石碑に近づく。

黒い石碑はティアの身長の二倍はあった。

横幅も広くて、石碑のはるか遠くの景色にあるフランネル城よりも存在感があった。

「なんて書いてあるんだろ?」

いままで気にもしなかった石碑。

前面に上から下までびっしりと、彼女の知らない言葉でないか書かれている。

もっと勉学を極められる身分であったなら、読めたかもしれない。

ティアは石碑の文字のくぼみを手でなぞりながら、読めないことが少し悔しかった。



その彼女のいる丘から何キロか先の草原に、5人の兵士が歩いていた。

この軍団の先頭に立つのは左目から頬にかけ長い傷のある男。

左腕に丸い縦を装備したヴァイゼン帝国のヒース将軍だ。

ティアの住むカレイラ王国と敵対関係にあるヴァイゼン帝国の将軍一味。

もちろん彼らは敵地に偵察に来ていた。

敵地をよく見ようといきまく先頭三名をよそに、その背後から黒い鎧をまとう二人の兵士は同時に立ち止まった。

先頭を行くヒース将軍と、銀の鎧の兵士は二人が立ち止まったことに気づかない。

黒い鎧の二人は、頷き会うと互いに反対方向へと歩んでいった。

一人は東に、もう一人はティアのいる西の、陽だまりの丘へ。



Re: アヴァロンコード ( No.2 )
日時: 2012/08/17 00:30
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアは石碑から手を離した。

じっと見つめていたその石碑から、異様な気配を感じ取ったからだ。

しかし、ティアは後ずさらなかった。

危険と言うよりは…むしろ興味のほうが勝った。

その石碑の黒い表面に、黄色の目が出現した。

ぎろりとした爬虫類のような目。

瞳孔は緑で、しっかりとティアをみつめて…いやにらんでいる?

「ひっ?!」

思わず後ずさりしそうになるティア。

それをとどめたのは、その目の後に続いて赤い表紙が出てきたからだ。

赤い本は言葉も出ないティアの目の前にふわりとうきあがり、その全貌を見せた。

そして、ゆっくりティアのもとに降ってきた。

「え、え…?」

ティアはその落ちゆく本を両手で受け止めると、その開いたページをみた。

なんと、ティアがいるではないか。

「私のことがかいてある…?」

本の中のティアは優しく微笑んでこちらを見つめている。

肩までの褐色の髪、茶色の瞳、着ている服装、銀の髪飾り。

どれをとってもティアに間違いなかった。

それを認めたティアは首をかしげた。

「いったい、なんで?」

この不思議な本はいったいなんなのだろう?

見た感じ、読んだこともないほどの分厚さだ。

いったい、この変な本はこんなに何について書かれているの?

それを知りたくてティアは次のページをめくろうとした。



「におう、におうぞ!」

ティアは、はっとして振り返った。

本を反射的に閉じて胸に抱える。

彼女の目の前には、黒い鎧の兵士。

「?! 帝国の?!」

彼女は本に気をとられすぎて、帝国軍の兵士に気が付かなかった。

おまけに、切り立った丘の崖のほうに立つ石碑に向いていたので、余計に気が付かなかった。

(どうしよう、この人ヴァイゼン帝国の兵士だ…)

ティアは剣を習っていたのだが、途中放棄し昼寝続きの日々を送っていたため、あまり自信がない。

あぁ、こんなことなら道場に通っていればよかった!

倒せないかもしれないけど、せめて逃げることくらいなら出来たかもしれないのに。

しかし彼女自身気づいていないが、ティアは剣などもっていなかったし、買うこともできない高価な代物だ。

道場では借り物の剣で訓練していた。

「おまえ、預言書を持っているな?」

兵士の言葉で我に帰った。

「預言書をこちらにわたせ。さすれば、命だけは助けてやろう」

預言書が何のことだかわからないが、この本を渡すのはよくない気がした。

なのでティアはきつく胸に抱き、後ずさった。

それをみて、兵士が嘲笑する。

「愚か者め。大人しく渡せばよかったものを」

言うなりボキボキと兵士の体が変化し始めた。

黒い鎧を突き破って、灰色の皮膚があらわになる。

「え?!」

ティアの目の前にはもう兵士の姿はなかった。

代わりに、角の生えた巨大な牛のような生き物が突っ立っていた。

それにおどろいて後ろへ倒れたティア。

「それなら殺して奪うまでよ!」

その声にぎゅっと目をつぶった。




Re: アヴァロンコード ( No.3 )
日時: 2012/08/26 21:16
名前: めた (ID: UcmONG3e)

 第一章 炎の精霊

—蒼の大地より炎の御使いが還るとき
 北の果てにて
 地獄の門が開かれる
 人々は戸惑い、疑い、争うだろう



「させるかよ!」

強気な少年の声が聞こえたかと思うと、ティアと帝国の兵士との間に炎の壁が出来た。

硬いこぶしを振り上げてティアをつぶそうとした兵士は、熱さにひるんで数歩下がる。

ティアも驚いて目を開ける。

炎の壁が消えると、炎の渦が空中に渦を作り出した。

その回転の中、少年が渦の消滅とともに出てくる。

角の生えた本と同じサイズの少年だ。

両腕に何か付いている?

腕がすっぽりと鉄の塊に固定されている。

「久しぶりに外に出たぜえ!」

ひゃっほーと叫びながら空中を滑るように滑空し、ティアの元へやってくる少年。

(助けてくれた…のかな?でも、だれ?)

ティアは戸惑いの視線をぶつけるが、少年は気にもしない。

だがティアと同じように少年の正体を知らない火傷した兵士は少年に怒鳴る。

「なんだ、貴様ぁ!」

すると少年は「俺は炎の守護精霊、レンポ様だ」と簡単につげた。

そして唖然とするティアの方へ向いて、

「おい、こんな雑魚早く倒しちまおうぜ!」とぬけぬけといって見せた。

「こんなよえぇ奴、預言書の力を使えばいちころだ!」

(なんてはっきりと…その自身はいったいどこから来るの…こんなバケモノ相手なのに)

さらに唖然とするティア。

しかし、帝国の兵士も黙ってはいなかった。

「なんだと?馬鹿にしやがって!精霊に何が出来るって言うんだ」

するとまた、さらりとティアが驚愕することを言ってのけた。

「やるのは俺じゃねぇ。コイツだ」

「え?!」

さすがに声が出たティアに、レンポはせかすように言った。

「剣だ!剣を使え!」

ティアはとっさに持っていないのに剣を探した。

すると、きょとんとした声がティアの動きを止めた。

「預言書の使い方がわからないのか?」

ティアが今度はきょとんとする番だった。

それをみて、不便そうに鉄のかせで頭をかくレンポ。

「まぁ、しょうがねぇかぁ。めんどくせぇけど、この俺様がおしえてやらぁ!」



Re: アヴァロンコード ( No.4 )
日時: 2012/08/17 02:08
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「武器のページを開け!」

迫り来る牛の帝国の兵士をみておどおどするティアにレンポは言った。

言われるがままに武器の項目を開く。

驚いたことに、あれだけの分厚さでありながら、武器のページはすぐ見つかった。

そのページにはある剣が書かれていた。

「そこから後ろが武器のページだ。まぁ、武器つっても、いまは一つしかないけどな!」

炎の壁で敵を足止めしつつ、説明する。

「預言書に残された最後の力だ。調度いい。そのジェネシスって剣を本から引っ張り出せ!練習するぞ」

「引っ張り出す?!」

ティアはいわれるがまま、天地創世とよばれる剣の柄に触れた。

的確に言うと絵の剣の柄に触れたのだが、なんとつかめるではないか。

そのまま引き出すと、金色の鍵のような剣は現実に、形あるものとして存在し始めた。

「よし!それでアイツをさっさと倒しちまおうぜ!」

そういうと、炎の壁は消え去り、ティアめがけて帝国の兵士は突進してきた。



ティアはこれほど剣術道場に通っていてよかったと思うことはなかった。

たとえ通っていた時間よりサボって昼寝していた時間のほうが多くても、習っていないのといるとではかなり状況が変わっただろう。

とにかく自信はないけれど、剣がある。

逃げるくらいは出来るかも。

ティアは両手に構えた二つのジェネシスを巧みに操り兵にぶつかっていった。

兵士の姿で戦っていたら、ティアはおそらく負けていた。

しかし、牛のバケモノになった今では、のろまで鈍い。

力こそ上がったが、避けられてしまっては意味がない。

簡単に背後に回られて、避け様にも体の機転がうまくきかない。

体に回転をきかせ、おもいきり反動をつけた剣で思い切りその頭を引っぱたくとティアにも簡単に倒すことが出来た。


「やるじゃねぇか!」

牛のバケモノの横で息を荒げているティアにレンポは言った。

牛のバケモノあらため、帝国の兵士は気絶して野原に伸びている。

「これでも心配してたんだぜ。剣の使い方知ってんのかなぁって!でも無事倒せたし、上等だな!」

ティアはふうっと息を吐くと、その両手が急に光ったのでおどろいた。

「なに?」

いままで金色に光っていたジェネシスが、急に光を失いぼろぼろのさびた剣へ変化した。

「おっ?!」

「あれぇ…剣が…」

二人の驚いた声が重なる。

「どうやら今まで残ってた力がなくなっちまったみたいだな!まぁ、いいさ。また取り戻せばいいだけのことだからな」

ティアはぼろぼろの剣を見て少し残念だった。

けれど、自分の剣を持てた。

さびているけれど、初めての自分の剣だ。

もともと戦うことが嫌いなティアだったが、少しだけ剣を持てて誇らしげに感じた。

「ん?」

レンポの声に、振り返ると誰かがやってくる。

「戦うか!」

「…うん」

「気が合うな!いくぞ!」

また悪い奴なら、放っておけば戦えない人が傷着いてしまうかも…。

そんな理由で彼女はぼろぼろの剣を構える。

しかし、「ありゃ人間だ!見つかってややこしくなる前にいこうぜ」

その声になんとなくほっとしたティアだった。



Re: アヴァロンコード ( No.5 )
日時: 2012/08/17 02:20
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「これは我が軍の鎧?」

ティアの去った丘の上、ヒース将軍と銀の鎧の二人がいた。

黒い鎧の破片と、そばに横たわるバケモノ。

「追いますか?」

すでに追う気満々の兵士を制してヒースは諭した。

「忘れるな。ここは敵地だぞ。不要に動けばさとられる」

そういいながら、横たわる牛のバケモノにとどめを刺す。

それが自分の兵士だとはしらずに。

「偵察を続けろ」

砕けた黒い鎧の破片をすべて拾い集めると、ヒースは残りの仲間に命令を下した。



「おい!だれも追ってこないみたいだぞ!」

今まで装備していた剣が赤い表紙の本に変わっていることに気づかないほどティアは本気で走っていた。

しかしレンポに言われて、立ち止まる。

振り返ると、いままで小さかったレンポが、自分と同じくらいの等身大になっていた。

そのおかげで、両腕に付いた鉄の塊がよく見えた。

見た感じ、ひじから下が鉄の塊に飲まれていて、指先が見えない。

さらに重石がぶら下がっており、彼が手を振り回すたびにその重石も振り回されている。

かなり重いはずなのに…なんでこんなことを?

「どうした?」

ティアの視線に気づいたように言う。

「なんだ、オレのことか?」

ティアは頷いた。

そういえば、手の中にいた紙に描いてあった人に似てる。

「オレはレンポ。預言書に語り継がれる大精霊のひとり。あらゆるものを焼き尽くす、炎の精霊だぜ」

けれど、視線が合わないので不思議そうにティアをみ返す。

「あん?なに見てるんだ?」

「ええ、えっと別に…その…」

誤魔化したってわかるけどなぁと言うようにレンポは腕を持ち上げた。

「オレの手が気になるのか?」

「うん」

ティアは観念したように頷いた。

「これはな…オレと預言書をつなぐ鎖なんだ。こいつがなけりゃあ、もっと強ぇ力を出せるかも知れねえんだがな」

ティアの同情するような顔に反応したのか途端に明るい声を出した。

「ま、そんなこと言ったってしょうがねぇか!とにかく!オレ様はすげぇんだ!わかったか!」

ティアは強く頷いた。

あの炎の壁は凄かったし、と。

「へへ。おまえ、素直だな!」

そして、ひらめいたようにティアに言った。

「そうそう、いつまでも『おまえ』じゃいけねぇな。名前、なんてぇんだ?」

ティアはにっこりした。

「私、ティアっていうの」

Re: アヴァロンコード ( No.6 )
日時: 2012/08/17 02:50
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「よく聞け、ティア」

レンポは真面目そうな顔をしていった。

「おまえは預言書に選ばれた。預言書を手にした瞬間から、おまえの運命は大きく変わるだろう」

何度も言ってきたかのようになれた口調で言う。

「これからおきるすべての事は…神話になる」

ティアにはもはや理解不能できょとんとレンポをみる。

するとむっとしたようにレンポが文句を言う。

「あー!なにきょとんとしてやがるんだ!これはすっげぇことなんだぞ!」

しかしティアが首を傾げると諦めたように力を抜いた。

「…まあいいか。いずれわかるだろ」

その問題は時間に押し付けて、とにかく説明を続ける気だったらしい。

「この世界はもうすぐ滅びる。預言書が現れたってのは、そういうことだ」

ティアの目が驚きに開かれる。

(滅びるって…なんで?)

「今の世界は滅び、次の世界が作られる。コレは避けられない運命だ!おまえの役目は、この世界が滅びる前に次の世界に残すべき、価値あるものを預言書に記録していくことだ」

「記録?」

心の中に沢山の疑問がわきあがり、言い出せないまま説明が終盤に差し掛かってようやく質問できた。

「なあに、簡単だ。おまえがいろいろな場所に行くとその場所の情報が自動的に預言書に書き記されるんだ」

しかし、急に大声を出すレンポ。

その声にティアが飛び上がるほどだった。

「ここからが重要だ!お前が価値あると思う物を見つけたら、コードスキャンをするんだ」

「こーどすきゃん?」

いわれなくたって説明してやるよ、と言うようにレンポは頷いた。

「コードスキャンってのは預言書をバサッと押し付けることだ」

ティアの顔を見て、理解できる人のほうが少ないことをさとると、何かいい説明方法はないかと考えている様だった。

「あー、つまり…」

しかし、見つからなかった様で最後にはほっぽりなげた様な答えを導き出した。

「説明するのがめんどくせぇな」という答えだった。

そして、めぼしいものでも見つけたのかティアをつれて少し移動した。

二人の目の前には、炎のような花が5つほど咲き乱れており、蝶が舞っている。

「この花をコードスキャンしてみろ!近づいて押し付けるんだ」

ティアは言われたとおりに預言書を開いて、ためらいがちに花の上に預言書を押し付けた。

すると、跳ね返るような力を感じ、伏せていたはずが反動で地に足をつけて立っていた。

そしてページがめくれ、あの炎の花の絵が書かれていることを知った。

まだ名前もわからないので???と描かれている。

「わかったか?」

背後より滑るように空中を移動してレンポがティアの隣に来た。

「うん!できたよ!」

ティアはうれしそうにその花のページを見せた。

「コードスキャンしても、本当に取り込んじまうわけじゃない。情報だけが書き写されるんだ。だから、実態には何も影響はないんだぜ」

ほら、つぶれてねぇだろ、と花をさすレンポ。

たしかに、どこも変化はない。

「おまえ、どこに住んでるんだ?」

「カレイラってところに住んでるの。街とか、お城とか、公園とか沢山あるんだよ」

自分の事を聞かれる機会など、身分によりないため、それがうれしかった。

「よし、それじゃ、街とやらにいこうぜ!」



Re: アヴァロンコード ( No.7 )
日時: 2012/08/26 21:13
名前: めた (ID: UcmONG3e)

 
 

「おっ、あの石碑はメタライズじゃねーか!」

街を目指して西の方角へ草原を突っ切っていたティアは、姿を消していたレンポのこえに飛び上がった。

「びっくりしたぁ」

「そんなおどろかなくったっていいだろ」

預言書の赤い紙の挟んだページからレンポが現われる。

炎の渦を帯びて出てきた姿は、以前の小さな姿。

そのまま先に飛んでいき、メタライズと彼が呼んだ妙な石碑の元へいった。

遠目からみると、地面から生えた本の表紙のようなもので、きらきらと光っている。

石の色をした石碑だった。

ティアが走ってくるのをみると、さっそくレンポは説明を始めた。

「メタライズってのは、この世界が作られたときに散った預言書のページが石碑になったものだ。武器やアイテムを作る方法がかいてある」

へぇえ、とメタライズをしげしげと眺めるティアにレンポは得意げに言った。

「預言書に選ばれたおまえには、こいつを見ることができるんだ。ふつうのヤツには見えねぇのさ!隠されている石碑もあって調べねぇとわかんないものもあるからチェックしておけよ!さぁ、さっそくコードスキャンしようぜ」

「うん」

相手が無生物なため、ためらわず憩いよくコードスキャンすると、ページがめくれて、石碑のページが産まれた。

「ぐらでぃうす?剣みたいだけど、これは灰色で色がついてないね?」

「あぁ、コードを入れ替えて今もってる剣をコレにかえるんだ。必要なコードは…」

いいかけて慌ててティアをみる。

ティアはもちろんきょとんとしていた。

「コードの説明がまだだったな。教えてやるからさっきの剣のページを見ろ」

ティアは素直に先ほどまでジェネシスという名の剣があったページをめくる。

するとそこには錆びた剣の絵と、『錆び付いた 歴戦の剣』と描かれていた。

「あれ?何で変わってるの?さっきは天地創造とか言うやつだったのに?」

ティアの質問に、レンポは頷いた。

「右にメンタルマップという交差があるだろ。そこにコードを入れ替えることで剣の性質を変えることができるんだ」

メンタルマップは9マスの交差で、それを埋めるようにコードと言うものが入っていた。

骸骨の『病』のコードと『銅』のコードだ。

「コードをかえると言う事は、そのものの成り立ちを変えるということ。強くなったり、属性がついたり、変化させるんだ。この武器からは『病』のコードをはずせば強くなりそうだな。やってみな!」

言われたとおり、コードを組み替えると銅のソードが出来上がった。

「すごい、かわったよ!」

「ああ、こんな感じでコードを入れ替えていくんだ」

Re: アヴァロンコード ( No.8 )
日時: 2012/08/17 03:36
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「!?」

普段から武器を持たないでいるティアの目の前に、魔物が現われた。

お気に入りの昼寝ポイントの陽だまりの丘へいくときも、あまり魔物が出ないのに。

最近になって、そう、あの夢を見るころから魔物が増えてきた気がする。

「どうした、ティア?」

そして視線の先を見て首を傾げる。

「雑魚のゴブリンじゃないか。…つっても、なんか硬そうだな」

言われて気づいたが、まれに見るゴブリンは乳白色をしていたはず。

「コードスキャンしてみろ!なあに、おまえの敵じゃねーよこんなの!」

ティアはうなづいたものの、心配げにしていた。

動いてるものなんか、コードスキャンしたことないし。

「背後から狙ったほうがいいぞ!あいつも攻撃してくるからな!」

言われたとおり、最初の攻撃を回避して背後から本を押し付ける。

すると、魔物のページに代わり、メンタルマップに石のコードが入っているのがわかった。

「そのコードを取ってみな。ふつうのゴブリンに戻るから、おまえでも楽に倒せるぜ!」

さっきといってることが矛盾してる気がしたが、ティアは無事ゴブリンを倒せた。


ティアとレンポの二人組みが世界の十字路と呼ばれるところへ来ると、兵士が立っていた。

白銀の鎧を身にまとう兵士は、ここカレイラの騎士達。

「コードスキャンできるのは花やメタライズだけでなく、人間にもできるんだぜ」

「人も?でも、あれ痛くないのかな…」

レンポに促されるまま、兵士の目の前にやってきたティア。

なぜかいたずらの片棒を担がされた気がした。

しかしティアは思い切り助走をつけて逃げる覚悟でコードスキャンした。

「ん、今何か?」

しかし騎士達の反応はこんなものだった。

逆にティアのほうがビックリしてしまった。

その様子をおかしそうにレンポは見ていた。

「人にコードスキャンしても気づかれないんだぜ」

そして「他のヤツにも試してみようぜ!」といたずらする気満々の子供のように笑った。

Re: アヴァロンコード ( No.9 )
日時: 2012/08/17 04:01
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「?」

ティアはまずカレイラの王国のあるところへ歩いていった。

するとレンポは首をかしげている。

「ん?なんだ?」

ティアとその建物を交互に見ている。

「ここがどうかしたのか?」

「ここは私の家なの。小さいけど、住み心地いいところなんだよ」

ティアはうれしそうに話す。

「へぇ、おまえの家か。寄っていくか?」

すると案の定盛大に頷いた。

「レンポに紹介してあげる!」

家を紹介する、という言い方は妙だったが、ティアは気にせずに戸をあけた。

レンガの暖炉、テーブルには青い花瓶、四角い絨毯、立派なたんす、机にベット。壁掛けには沢山の文通。

見回して、ティアのどうかな、という視線に頷いてやった。

「こぎれいな部屋だな。たしかに、住み心地よさそうなところじゃねぇか。ま、俺のこの姿じゃ、狭くはないけどな!」

ティアはうれしそうに照れていた。


「カレイラを案内してあげる!カレイラは綺麗なところなんだよ!」

そう意気込んで二人はカレイラの下町から足を踏み込んだ。

「カレイラはね、下町、街、お城って形になってるの」

「三段に別れてんのか?」

ティアの後に浮遊して付いていきながら質問する。

質問したほうが手っ取り早いし、ティアも喜ぶだろう。

「うん。それで今からいくのは下町の占い横丁って言うところで—」

不意にティアが立ち止まった。

浮遊してなければ、ティアにぶつかっていただろう。

その足元には、小さい女の子がいた。

「こんにちは、あたしミーニャ」

舌足らずなこの少女を見て、レンポはティアに向き直る。

「おいおい、こんなガキと話しても時間の無駄じゃねぇか?」

「そんなこといちゃ…」

するとミーニャがレンポのほうへ向く。

「ん?なんだよ?」

「…?? おにいちゃん、だれ?」

予想外の反応に、レンポはうっとひいた。

ティアは頭上にはてなマークを浮かばせている。

「っといけねぇ、見えちまったか。霊感の強いやつには見えちまうんだよな。めんどくせぇこった!」

そういうと、かれは小さな炎の塊と化してティアノ後ろへ逃げ込んだ。

その素早さに、ミーニャは気づかなかったらしく消えたと勘違いした様だった。

「あれ?きえちゃった…ふしぎー」

そして、お家に帰らなくちゃというと家々の角を曲がって消えていった。

「またね、ミーニャ」

ティアが手を振る中、レンポは姿を現した。

「なんだ?今のガキ…」

「うーー…わかんないけど…ここにはよく来るの。でもあの子は見たことないな。きっと服装からしてお城のそばの子供だと思うよ」

「まぁいい、案内を続けてくれ」

Re: アヴァロンコード ( No.10 )
日時: 2012/08/17 04:44
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「おかしいなぁ、留守だなんて」

レンポを紹介してあげる、といわれてつれてこられたのがティアの友人の家だった。

「いやみなヤツなんだけど、面倒見てくれるの。でも、いないからしょうがないね。今度は大親友に合わせてあげるね」

ティアが笑顔でゆってくるが、レンポは一つ言い忘れていた。

だが、本人もそのことを忘れていたため言うことができなかった。

というより、いったつもりになっていた。


下町を過ぎると、急に景色が一変した。

にぎやかな町並み。

いたるところに花壇があって、道はしっかりとした舗装道路だ。

人々の服装は上等になり、建物の壁も、木ではなく石造りに変わった。

なにより下町と違うのは街を守る騎士の数だ。

下町は一人だけしかいなかった。

けれどこの中心街では騎士は沢山いる。

「すげぇな」

「うん、カレイラって綺麗でしょ!」

ティアたちの住む下町と中心街とでは大変な格差が目に見えた。

しかし、この上にはまだ町並みがある。

さらに各層があるとは…。

「私の親友はこの中心街に住んでるの」

そういうティアの目線は二階建ての立派な家にとまる。

戸を開ける手はためらわない。

きっとよく来る家なんだ。

「よく来てくれたね、ティア。ファナなら二階にいるよ」

迎えてくれたのは白髪の優しそうな老婆。

「この婆さんと知り合いなのか?」

ちらっという視線を感じて、レンポは質問してやった。

こういう視線のとき、ティアがなにか知りたがっているか、聞いてほしいときに限ることを発見していた。

すると、「どうしたんだい?そっちに何かあるのかい?」

老婆もティアの癖を知っている様で、反応した。

ティアは交互に二人を見比べた。

「なんだ?オレのことか?」

すこし小さくティアが頷いた。

「ああ、オレ達精霊はふつうのヤツにゃぁ、見えないんだ。気にすんな」

今度はおおきく頷いたのでヘレンとか言う老婆は不思議そうな顔をしていた。

二階へあがると、ティアはすかさずベットに走りよった。

日当たりのいいベットには少女がいた。

ティアと同じくらいの歳の、病弱そうな少女。

「ありがとう。来てくれたのね、ティア!」

ティアの顔を見た途端、その少女ファナは笑顔になった。

「もちろん!毎日来るって約束したもん」

ティアもうれしそうな顔をしている。

しばらく会話をしていると、預言書に興味を持ったファナが言った。

「その本は何かしら?」

ティアは一瞬レンポに視線を合わせたが、本当のことを言った。

「これは…預言書というの」

「預言書?なんだか難しそうな本ね」

みせてもいいかな、という視線を感じ頷いてやった。

どうせ読めないしな。

案の定読めず、「異国の文字かしら?」とファナは言った。

「当然だ。選ばれたものにしか読めないからな」

そっぽを向いて言うレンポに、困ったような表情で本を受け取るティア。

「そんな難しそうな本を読んでいるなんて凄いわ。今度お話を聞かせてね」

そういって別れを告げた。

下へ降りると、ファナの祖母へレンがパンをくれた。

お礼をいい、家から出てレンポに案内しようとしたとき。

「おい、今の娘だが…」

急に離しかけてきて驚いた。

ちょっと話しにくそうにしているので首をかしげた。

「病魔にやられているな。もう長くは持たないぜ」

「そんな?!」

ティアの驚いた顔に、「なんだ?あの娘を救いたいのか?」。

「もちろん!ファナが死んじゃうなんて考えられないもん…」

力強く頷いたティアにレンポは頷いた。

「それじゃ、預言書の力を使うんだな。預言書には記録したことを書き換えることが出来るんだ。しかも現実にそのことが起きるんだぜ!いろいろ試してみな!」

「うん!絶対かえてみせる」

「こんにちは、ティア!」

振り返ると緑の髪の青年がいた。

たたずまいは気弱な貴族と言ったところか。

服は立派で彼の家は二階建てであった。

「カムイさん。こんにちは」

けれどティアはそんなこと気にしない様子で挨拶し返す。

「なんだか今日は表情がさえないね」

最初否定していたティアだったが、親友の病のことでまいたようだった。

「ファナの病気、よくならないから…心配で」

「そうか、ファナの病気か。僕も気がめいることもある。小説の内容が浮かばず夜どうし考えてもまだ思い浮かばない。そんなときに迎える朝日は…そんなにつらいことか」

真剣に語るカムイに対し、レンポは「辛気臭いヤツだな」と言い放つ。

ティアも思わず笑ってしまい、なんとなく元気が出た様だった。

どうして笑うんだよ、とカムイも微笑む。

「だけどね、そんな時僕は『花』をみる。『花言葉』を思い出して乗り切るんだ。花から力を得ることも出来るのさ」

「おっなんだか凄そうなだな。草原で取り込んだ花とか見せてみようぜ!」

炎のような花をみせると、カムイはすぐに言った。

すべて暗記でもしているのだろうか、すらすらと口を付いて出るその言葉。

「カエンバナだね。その花言葉は『情熱』だ。これは素晴らしい花だね」

「へぇえ、すごい。ちゃんと覚えてるんだぁ」

ティアが感心すると、気をよくしたかムイは知らない花が合ったらもっておいで、おしえてあげるよ、と言った。

Re: アヴァロンコード ( No.11 )
日時: 2012/08/17 05:02
名前: めた (ID: UcmONG3e)

カムイのおかげで少し元気が出たティアはレンポを公園絵と案内していた。

「おいおい、案内するほうがはしゃいでるなんておかしくねぇか?」

「だって、こんな機会めったにないもん。それに、街のことを教えてあげるのは好きだから」

まぁ、ティアがそういうならいいか。

あいまいに頷いて、公園へとやってきた二人。

と、二人の目の前に誰かたっていた。

「ごきげんよう。君は確かティアくんだね」

ごきげんようなどという、上流階級の挨拶に慣れていない上、そういう身分のものに名を覚えていてもらえるなど、やはり経験したことのないティアは面食らってしまった。

「え、えっと…」

ごきげんようと返すべきなのか、こんにちはというべきなのか…。

(わかんないよ。こんなこと一回もなかったし…そうしよう)

あわあわとするティアをみて「ははは、驚くことはない」と男は言った。

「わたしはゲオルグ。このローアンの街長だ。善良なローアンの民の名前は全部覚えているからね。君たちを守るのが、私の使命なのだよ」

するとレンポが口を挟んだ。

「めずらしいな。こいつエルフだ。やつらはふつう、深い森に住み、人間の町を嫌っているんだがな」

「どうしてわかったの?」

小さな声で聞き返すティア。

無邪気な問いに、レンポは耳を見てみろよ、と言った。

じいっと見つめるティアの視線に気づいて、ゲオルグは納得したようにいった。

「この耳が気になるかね?」

こくんとかわいらしく頷くティアに、ゲオルグも頷いた。

「そう、私はエルフだ。神々に最も近い高貴な種族だ。かしこまる必要はない」

「え、神々って…」

「ふつうに接してもらってけっこう」

かなりの上から目線に対し、レンポはけんか腰な態度でむっとする。

「この傲慢…ハナにつくぜ!」

すると、噴水の脇からゲオルグの小間使いが歩いてきた。

小間使いというのは、使用人のことだ。

「ゲオルグ様。皆がお待ちです。お急ぎを」

(小間使いっつっても、やっぱ服装がスゲェな)

無駄に豪奢な小間使いだ。

けれどこのエルフのほうが豪奢だ。

「やれやれ、こう忙しいとろくに会話もできないな。これで失礼させてもらうよ」

そういうと、小間使いとともにゲオルグは噴水広場を後にした。

Re: アヴァロンコード ( No.12 )
日時: 2012/08/17 16:32
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「ふあー…緊張しちゃったよ」

ティアはふうっと息を吐いて伸びをした。

「おまえ、よくここに来るんじゃなかったのかよ?」

「うん、よく来るけど…町長さんに会うことなんて一度もなかったの」

そして急にあっと叫んだ。

「ああ、せっかくエルフに会ったんだから、コードスキャンすればよかったね」

そして残念そうにつぶやいた。

「多分もう会うことなんてないもんね。ごめんね、レンポ」

しょんぼりするティアに、気にするなよと励ましてやった。

「町長なんだろ?そのうちまた会えるさ」

そういうと、ちょっとだけ笑顔になった。

「ティア!」

と、またもやティアに声をかけるものがいた。

噴水の前の階段から、青緑色の髪の少年が歩いてくる。

「ん、誰だ?」

レンポが聞くと、ティアは口を開きかけた。

「珍しいな、こんなところで何やってんだ?」

さきに少年のほうが口を開いた。

「ちょっと散歩してたの」

親しい感じの口調なので、知り合いなのだろうと判断は出来た。

(つーか、珍しいって…ティアはよく来るんじゃなかったのか?)

「散歩?まったく、おまえはホント無邪気というか、能天気というか…」

やれやれと少年が首を振る。

けれど馬鹿にするような響きはない。

むしろそれらを喜んでいるような気がする。

「ん…?なんだ、その本は?」

その少年がティアの持つ、預言書に目を留める。

「ずいぶん大事そうにしてるな。けど、いまさらお勉強なんてしたって無理さ」

急に雰囲気が変わった少年。

ティアも少し困った顔をしていた。

「しょせん俺達貧乏人はいくら勉強したところで出世なんてできっこないさ!」

先ほどの妹を見守るような態度と打って変わって自嘲的な笑みを浮かべている。

「なんだ?このひねくれたヤツは?」

すかさずレンポが質問すると、ティアは困ったように首を振った。

「レクス…」

そうつぶやくと、ただ悲しそうにそれ以上何も言わない。

(おいおい、それで説明終わりかよ!…まぁオレもさっきコードスキャンの説明をほっぽったけど…)

「いいか、ティア。おまえはいいヤツだが、世間ってのをしらなすぎる。前に教えただろ?この街がいい例だ。三つに分かれてるだろ?真ん中が城、金持ちどもが住むところだ。その周りが街に住めるほど裕福な奴らだ。おまえの友達のファナもそうだよな?そんで、一番外側の俺たちが住む下町は貧乏層だ。騎士の数を見てみろよ!たった一人しかいないんだぜ」

レクスと呼ばれる少年はティアに熱弁をふるっている。

ティアが大人しく聞き入るので、レンポも仕方なくそれに習った。

「この世界には二種類の人間がいるんだ。金持ちと貧乏人さ。お勉強は金持ちの特権だ。俺達貧乏人がどんなにがんばったって報われないように出来ているんだ」

「それは…やっぱり違うと思う!」

突然の否定の声に、レクスはビックリした。

「ほう?言うじゃないか。じゃあ、おまえには出来るって言うのか?」

「きっと、何か出来る。そう信じてる」

ティアは預言書をぎゅっと抱きしめて強く言った。

強い意思の感じ取れる言葉に、レンポは上出来だと頷いた。

「よく言った!だからおまえが選ばれたんだ」

ティアがうん!と頷いた。

それにますます驚いたのはレクス。

目をしばたいて、じっと目の前の少女を見る。

(ホントに…ティア、だよな?)

どこからどうみても、ティアに違いない。

褐色の髪も、灰色の目も、みんな見覚えがある。

「どうしたんだ、ティア?いつもと違って熱いじゃねーか」

へんっと胸を張るレンポ。

「今は、オレ様がついているからな!」

まぁ、いい、とレクスは首を振った。

「とにかく、おまえと俺は同じ仲間…親友だ。これからも助け合って生きていこうぜ」

一方的にさっさと別れを告げてレクスは行ってしまった。

その後姿を見送りながら、ティアがやっと口を開いた。

「あの人が、さっきレンポにあわせようと思ってた人なの」

「あのひねくれやか?」

うん、とティアが頷く。

でもね、と続ける。

見上げると、幼そうな顔に、苦悩が浮かんでいた。

「なにかあったみたいなの。いつもは優しいんだけど…こういう身分とかの話になると、向きになっちゃうの」

ふーん、と首を傾げるレンポに、ティアはハッとした様だった。

そして、あわてて笑って見せると、案内を再開した。


Re: アヴァロンコード ( No.13 )
日時: 2012/08/17 17:14
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「ごめんね、それじゃ、案内を—」

そういいかけてまた声をかけられた。

「おーう、ティアちゃん、今日もかわいいのう!」

「?!」

噴水の階段から、年老いたおじいさんがやってきた。

かなりの背の低さで、黒いシルクハットや黒い正装、タキシードを着込んでいる。

鼻はつんととがっており、ステッキを突いている。

「おいおい、次はなんだよ?おまえ、変なやつと知り合いなんだな?」

レンポのぼやきを聞いてティアは顔を赤くした。

が、それをさえぎるようにその老人は再び言った。

「照れた顔もかわいいのう!」

ティアが困った顔で赤くなるので、レンポは首をかしげた。

「おまえ、こういうのが好きなんだな」

しげしげとその老人を眺めるレンポにティアはぶんぶんと首を振った。

「そそ、そんな、ちがうよ!」

「なにがじゃ?ほほう?なにかお悩みじゃな?」

深読みした老人が、ティアに歩み寄る。

「へぇ、おまえなんか悩んでたのか?」

このじいさん、少しはやるじゃないか、とレンポが言うと、老人はティアの足元にまで来た。

ティアの腰までしか伸長がないほど、年老いてしまっている。

「このビス爺さんに話してごらん。女性に関して百戦錬磨のこのワシに、できないアドバイスはない!」

「女性に百戦錬磨って…コイツいったいなんなんだ?用がないならもう行こうぜ!」







Re: アヴァロンコード ( No.14 )
日時: 2012/08/17 20:03
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「わたし、別に悩んでなんかいないんです。まだ、案内が…じゃなくて、散歩の途中だから、さようなら」

「なんじゃ、つれないのう。いつでも来るがよいぞ!」

ティアがビス爺さんに別れを告げて、城門のほうへ歩いてゆく。

「変な爺さんだったな」

「う、うん」

その話題に触れたくないのかティアはあいまいに笑って誤魔化す。

ビス爺さんと言うと、このカレイラの女性すべてに手を出した有名なナンパ男として知られているのだ。

いまではもうしわくちゃの爺さんだが、若いときはこの国の女性、エルフや、国王の王妃でさえもビスになびいたと言われている。

としおいた今でも、女性に声をかける癖はなくなっていないらしい。

ティアはふうっと息を吐いた。

「これが、カレイラの凱旋門って言われてるところなんだよ」

目の前には高い石造りのアーチ状の門。

端正な堀が入っている。

地面はすべて、うつくしいタイルで模様がかたどられている。

「大きいでしょ?」

ティアの期待するような視線に、レンポは頷いた。

何度も生まれ変わる世界を見てきた彼には、もっと巨大なものもみていたのだが、素直に頷いてやることにした。

「たしかにな。おまえの何倍だろうな?4倍くらいか?」

「んー、どうだろう。それで、この先に…」

そんな会話をしている中、叫び声がしてきた。

「いたぞー!!そっちに逃げた!」

「追えー!!」

二人の背後に、猛烈な勢いで走っていく二人の兵士たち。

その方向は、ローアンの町長、エルフのゲオルグの屋敷の方向だった。

「なんだなんだ?なんかあったみてーだな?」

興味ありげにレンポが兵士の走っていく方向を見る。

ティアも、不安げに見ている。

するとまた、「ドロテア様ー!どうかお戻りくださいー!」

叫び声がした。

女性の声で、いったいどこから…?

と、二人の間に何かが駆け抜けていった。

「な、なんだこいつ!」

その黒い塊は—ねこ?

「あ、ねこだ!」

猫に目を輝かせるティア。

追いかけようと城門を背にした瞬間、誰かが城から猛スピードで走ってきた。

「グリグリ〜!どこへいったのじゃー?」

「今度はなんだ?」

レンポは気づいたのだが、ティアは気づかない。

そのまま走ってきた人と、ティアがぶつかった。

「あう?!」

ティアは盛大に吹っ飛び、うつぶせに倒れた。

「あ、おい、ティア!」

四つんばいになって痛そうに顔をゆがめているティアに、レンポはすぐ飛んでいった。

「大丈夫か?」

「うん。…大丈夫。それより…あの人大丈夫かな」

立ち上がって、服の汚れも落とさずにティアはぶつかってきた人の元に急いだ。

よくみると、ティアはひざをすりむいているではないか。

固い石のタイルにより、すりむいたのだろう。

しかし、ティアはぶつかった人に手を差し伸べる。

そのぶつかった人はというと、豪奢なドレスに身を包み、金髪の髪にちょこんと王冠を乗っけている、ドロテア王女だった。

「大丈夫ですか?怪我は?」

ティアが声をかけると、ドロテア王女は水色のガラスのような目を怒らせて食って掛かった。

「なんじゃ、おまえは?!何故わらわの前に立っておる!ええい、邪魔じゃ!邪魔じゃ!この無礼者!」

さし伸ばされた手を無視し、すっくと自らで立ち上がる王女。

自分からぶつかったと言うのに、なんという言い分だろうか?

「まぁた、変なのが飛び出してきやがったな」

すると、黒猫がティアの足元より飛び出してきた。

その姿を見ると、ドロテアの顔が輝いた。

「ええい、どくのじゃ!」

ティアを押しのけて、猫を抱き上げる。

「あぁ、グリグリ!無事だったか!よしよし、んー…」

猫を大事そうに抱きしめて、笑うドロテアはまるで幼い子供のよう。

迷惑そうな猫と、心から喜ぶドロテアのコンビは、ほほえましかった。

グリグリという変わった名の猫を地面に下ろし、さっとドロテアはティアのほうを向いた。

「そうじゃ、おまえ!この街のものじゃな?」

「はい、そうです」

何を言われるんだろう、と不安げなティア。

レンポは猫に見つめられ、居心地の悪そうな思いをしていた。

「調度よい。街に帝国の者が忍び込んだそうなのじゃ」

「え!?」

ティアは驚きの声を上げて、しまった、とうめいた。

さっき、自分が陽だまりの丘で戦った相手は帝国軍だったではないか!

しかも、気絶させただけだし、きっとこの預言書を追ってきたんだ!

「どうしよう…レンポ!私がちゃんと倒さなかったから!」

ドロテアがいようがかまわずに、レンポに向かって会話する。

「心配するな。ここの兵士だってやわじゃねぇだろ?万が一また危なくなったら、おまえがたおしゃあいいんだよ」

しれっといってのけるレンポ。

本当にこの自信はどこからやってくるのだろう?

「なあに、心配すんな!おまえには預言書とオレ様が付いてるだろ!」

そだね、とふうっと笑うティアにドロテアが話を聞くのじゃ!と叫ぶ。

「なにををブツブツと!わらわの話を聞かんか!」

「ご、ごめんなさい!」

ふん、よろしい、というようにドロテアは続きを言い出した。

「一緒にそいつを探すのじゃ!わらわはそやつに会わねばならぬ」

ティアは目を見開いた。

「何を言ってるんですか、そんな…危険だから…」

必死で説得を試みるも、ドロテアは諦めない。

「そんな暇ねぇぜ、こんなヤツ放っておこうぜ!おまえにまだ案内してもらってる途中だしな」

もう放っておこうぜ、とレンポは放置する気満々だった。

「うー、そなたもこのドロテアの頼みを断るつもりじゃな。むうぅー、だめじゃだめじゃ!探すのじゃ〜!」

その声は大きく、駄々をこねる年齢ではないのに。

わんわんと耳に響くその声に、レンポはたまらず耳をふさいだ。

「突然わめきだしたぞ!ティア!こいつを止めろ!うるさくてかなわねぇ!」

「わかりました、案内しますね」

ティアがなだめるように言うと、ぴたっとドロテアは黙った。

「わかればよい!!」

さっきの駄々をこねる声とは逆で、きっぱり上から目線に変わった。

唖然とする二人の前、高らかに言う。

「さぁ、共に行くぞ!城のものに見つかるでないぞ!」


Re: アヴァロンコード ( No.15 )
日時: 2012/08/18 20:12
名前: めた (ID: UcmONG3e)

けれど、突然王女の歩みが止まった。

「どうしたのじゃ、グリグリ?」

ドロテア王女の足元の黒猫が、しきりに威嚇している。

上を見上げて。

つられてティアとレンポも見上げると、凱旋門の上に、人が立っている。

黒紫の鎧の、ヴァイゼン帝国の者だ。

こちらに気づいた様で、下にいるティアとドロテアに目を留めた。

そして、預言書を見るなり、不快な声で笑い出した。

「それは、預言書!カレイラに忍び込んでいて正解だった!」

言うなり、ティアめがけて地面に降り立った。

「おまえは…ヴァイゼン帝国のものじゃな?」

しかし、帝国の者の前に出たのはドロテア王女その人だった。

「言うのじゃ!我が愛しのヴァルド様は生きておられるのか!」

帝国の者は、ピンクのドレスに身を包む王女を一瞥した。

その王女の前には、黒い猫が相変わらず威嚇している。

「おい!気をつけろ!そいつ、人間じゃねぇぞ!」

レンポがドロテアに向かって言うが、無論精霊の声は届かない。

「王女様、危ない!」

代わりにティアが叫ぶが、遅かった。

帝国の者の姿が変わり始め、馬のようなバケモノに成り代わった。

黒ずんだカマを持ち、その足元に鎧が変形して散らばる。

「な、なんじゃ?!バケモノ?!」

「邪魔だああ!」

帝国のものがカマでドロテアの愛猫、グリグリをなぎ払った。

猫がふっとび、ドロテアは悲鳴を上げる。

ドロテアめがけてカマが振り下ろされるが、ティアがすかさず剣を抜いて受け止めた。

「うっ、力強いぃ」

双剣で受け止めなければ、地面にめり込んでいただろう。

けれど、ドロテア王女を守ることが出来た。

ドロテアは唖然とし、帝国のバケモノを見ている。

が、我に帰ったように猫の元に駆けつけた。

グリグリは、凱旋門のそばの、草むらに倒れていた。

ティアはドロテアが離れたのを確認すると、思い切りカマを跳ね除けた。

ガインと音がして、双方跳ね返る。

そしてバケモノとティアはにらみ合うように向かい合った。

「おし!こんなヤツ、さっさと倒すぞ!」



Re: アヴァロンコード ( No.16 )
日時: 2012/08/18 20:43
名前: めた (ID: UcmONG3e)

馬のバケモノは咆哮をあげて突進してきた。

頭突きの姿勢で、カマを水平にもちかえて走ってくる。

ティアはなんなく横に転がって回避すると、凱旋門に激突したバケモノの無防備な背中に切りかかる。

脇では、ドロテアが恐怖の悲鳴を上げる。

その腕にはぐったりする猫のグリグリがいた。

しかし、その背に攻撃しようとした途端、急な方向転換をしたバケモノと顔を向き合わせる格好となった。

「ティア!ふせろ!」

言われたとおり、地面にぺたりとふせると、頭上をびゅんっと風が通った。

どうやらカマが振り回されたらしい。

ティアの周囲、木々の破片がばらばらと落下している。

切れ味抜群のようだ。

「大丈夫か?」

起き上がるティアにレンポが声をかける。

頷くティアは、先ほどの旋回攻撃で木にカマが突き刺さって取れないらしい。

「いまだ、ティア!」

その背後から切りかかった。

Re: アヴァロンコード ( No.17 )
日時: 2012/08/20 17:26
名前: めた (ID: UcmONG3e)

今度はしとめたらしく、ヴァイゼン帝国の兵士は溶けるように消えていった。

レンポいわく、魔物は倒されて浄化されると、このように消えるのだと言う。

「今度こそ…たおせた」

ティアが安堵のため息を付く中、やっと王女の小間使いと騎士がたどりついた。

「ドロテア様!」

「ここにいたか!」

お城へと続く階段を駆け下りながら、双方安堵のため息をついている。

けれど、ドロテア王女の顔はさえない。

「嫌じゃ!グリグリ、死ぬな!」

王女の膝元で、黒猫グリグリが横たわっている。

ヘーゼル色の目は、硬く閉じられていて呼吸も浅い。

いまにも止まりそうな、はかなげな命だった。

「わたし、守れなかった…」

グリグリをかこむ輪の中、ティアが悲しそうな顔をしてつぶやいた。

すでに瀕死のグリグリは、王女の声にも反応しない。

そばで見守る騎士と小間使いも、もう手遅れと判断している。

「預言書だ」

ティアの横から、レンポがいった。

「え?」

「預言書を使え、ティア!まだ死んでない。助けられるぞ」

ティアはすかさずグリグリをコードスキャンした。

そして、そのページをみる。

そこにはグリグリの絵と、瀕死の猫と書かれている。

横の格子状のメンタルマップには、病のコードが入っている。

「希望と望みのコードを探して入れるんだ!」

ティアはとりあえずそばにいた王女、騎士、小間使いをコードスキャンした。

王女からは希望。

小間使いからは望みのコードを取ることに成功した。

さっそくメンタルマップに入れ替えると、グリグリの体が輝き始めた。

きらきらとひかり、オーロラのようなひかりの筋がその頭上に踊ると、グリグリのヘーゼル色の目が開いた。

そして自らの足で立ち上がって見せた。

「これは!!」

ドロテアが驚いてティアをみる。

「どうだ!これが預言書の力だぜ!」

Re: アヴァロンコード ( No.18 )
日時: 2012/08/22 00:03
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「! 傷が治った!」

ドロテアは戸惑いの視線をティアにぶつけ、しゃがんだ姿勢から立ちあがった。

「ひっ!?なんなの?!」

小間使いは好奇の目でティアをみつめ、ドロテアをかばうように数歩下がった。

「これはいったい?」

唖然としていた騎士は、はっと我に帰り、その手の中にあった槍の矛先をティアに向けた。

まぁ、当然と言えば当然の反応だろう。

みなの視線は感謝であふれるのではなく、異形の者を見る感じだった。

それをみて、不満な声を上げるのは炎の精霊。

「ん、なんだぁ?せっかく奇跡を見せてやったのに雰囲気わるいなぁ!」

槍を向けられて数歩さがるティア。

預言書の剣は、魔物を倒すためにある。

悪者ではなく、王女を守る騎士を倒すものではない。

しかし…。

(どうしよう、このままじゃ…)

ただ猫を助けたかったティアの耳に、騎士の冷たい声が響く。

甲冑の中、くぐもった声におもいきり不快の色がにじんでいる。

「なんだ、コイツ?」

「っ!」

ティアは迫害を受けたような気がした。

人として、今わたしは見られていない。

「ねこ…を、たすけようと…」

声が震えてしまう。

こんな疎外感、耐えられそうもなくレンポを見上げた。

「…魔術、魔術よ!」

小間使いが金切り声を上げた。

「魔術じゃねえ!奇跡だ!」

まったく、わからねぇやつらだぜ、と文句を言うレンポ。

と、突然ティアと王女ふくむ騎士たちの間に紫煙が立ち込めた。

「きゃあ!」

もくもくと視界をふせぐ煙の中、リズミカルな靴音が響いてくる。

「ふふっ」

足音が止まると、若い女性の含み笑いが聞こえてきた。

「これは…魔女だ!」

騎士が悲鳴を上げる。

ティアとレンポはただ黙って光景を見ていた。

「魔女の仕業だ!目を開くな、のろわれるぞ!」

けれど目をつぶろうとしたティアをレンポが制す。

そんなもん信じてんのかよ?という声に動きを止められたのだ。

片目だけ開けたティアの前に、女性が現れる。

赤い髪の、紫の大胆なへそだしセパレート姿の彼女はティアについてくるようあいづした。

この場から逃れられるチャンスとばかりに、ティアは女性の元にかけていった。

Re: アヴァロンコード ( No.19 )
日時: 2012/08/22 02:18
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「こっちよ」

紫煙から遠ざかり、歩き続けると下町に戻ってきていた。

舗装された道は、地面へと変わっている。

家々も、木でできており、二階建てなどとてもじゃないがなかった。

そのうちの一つ、扉に円形のまじないが描かれた家に来ると、女性がティアに入るよう促した。

「うわあ!」

中はだいたいティアの家くらいで、変わっていることといえば魔具が大量にあることだった。

「なにこれ、すごい!」

ティアの目の前には、ステッキやワンド、水晶球にろうそく。

動物の骸骨や、巨大な緑の石版、ガラスの破片をつなげたカーテン、古文書、特別な脚長蜀台が無造作に放られている。

中でも目を惹くのは、部屋の中心においてある紫のテーブルクロスのかかる机で、上にはろうそく二つと透明な水晶球が置かれている。

覗き込めば、もう一人のティアが見つめ返してくる。

レンポもちゃんとうつりこんでいた。

「驚いた?これはね、まじないの道具たちよ」

見たこともないものに感激するティアに、女性はもっとおくに入るよう促した。

「ようこそ、魔女の館へ。私はナナイーダ・シール。ナナイでいいわ」

優雅にお辞儀してみせるナナイに、ティアはおどおどしてしまう。

魔女ときいて戸惑っているのだ。

「ふん」

鼻を鳴らすのはレンポ。

宙に浮かび、ティアのそばにいた彼は、部屋を見回して憎まれ口を叩く。

「こいつ、まじない師か。どおりでうさんくせぇモノがいっぱいあるはずだぜ!」

ティアは相手に聞こえていないとわかっていたが、心配そうにナナイをみつめた。

「聞こえたら、どうするの!」

小声で言うと、どーせ聞こえてねぇよと還ってくる。

「あたしね、あなたにとっても興味があるの」

ティアの背後から回り込み、じいっと見られて、ティアは居心地悪そうに目を泳がせた。

ナナイの目が預言書に留まると、ぎゅっとだきしめた。

どうやらまじない師の彼女にもレンポは見えないらしく、そこだけは安心できた。

見えたら見えたでどうしたらいいかわかんないし。

「わかる?あなたからは他の人とは違う力を感じるの…そうあたしに似た力を」

ナナイのなめるような視線がようやく終わり、ほっとする。

しかし、ナナイの言う意味がわからない。

小首を傾げると、レンポがまた馬鹿にしたように言う。

「ふん!まじない師ごときが同じ力たぁ、片腹痛いぜ!」

またティアが飛び上がるほど大声で言うので、本当に聞こえていなくてよかった。

するとティアの目の前にふわりと降下してくる。

「いいかよく聞け。ましないの力は人が生み出した偽りの力。預言書の力とはまったく別の力だ!」

自信もっていいんだぜ?というような口調だ。

「さぁ、目を閉じて…あなたの運命をみてあげる」

ティアは大人しく目を閉じた。

「まったく無防備に目なんか閉じて!」

あきれた、というようにレンポが耳元で言うが、ティアは目をつぶったままでいた。

そのため、ナナイが不適に微笑んだのを見ることができなかった。

ナナイは意識を集中させて水晶球に両手をかざすとまじないをつぶやいた。

しかし—。

「え?何?何にも見えない?え?あ……!」

相手の心を見透かすまじないをかけたつもりだが何も見えない。

しかも、カキインという音と共にはじき返されてしまった。

ティアはゆっくりと目を開けた。

どこから見ても、自分より弱くて幼い少女。

「そんな…あなたいったい何者?」

こんな少女に負けるわけ…?

「あたしの術がきかない…」

「じゅつ?」

ティアがいうと、ナナイは苦虫を噛み潰したような顔をした。

エキゾチックな顔がゆがむ。

「どうせろくでもねぇ術でも使うつもりだったんだろがムダだぜ」

「わたし何かされそうだったの?」

気づいてないのかよ!とレンポが叫ぶ。

「目、つぶってたからかな、わかんなかったけど」

すると唐突にナナイが笑い出した。

あはははっと高らかに笑う。

「おいおい、急にどうしちまったんだ?」

「まけた、まけた。到底かなわないよ。ここまでの力の差を感じるなんてね」

吹っ切れたように笑い終えると、ナナイはもう一度ティアを眺め回した。

こん少女に負けるなんて…ねぇ。

Re: アヴァロンコード ( No.20 )
日時: 2012/08/22 02:43
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「まぁ、間の抜けたやつだけど、当たり前だ!」

レンポが言うが、ティアは複雑そうな顔をする。

「それ褒めてるの、けなしてるの?」

けれど答える前に、ナナイがひらめいたようにいった。

「もしかして!」

ティアがビックリするほどの声だった。

(声の出力は、レンポといい勝負かも)

「あなた、これを読むことが出来る?」

ナナイはそういうと、ティアを緑の石版の元へ連れて行く。

大きくて、分厚い。

「あたしの家に伝わる石版なのよ」

その石版の中心には丸い輪が彫られており、円の中に4つの紋章がある。

文字が絵と共に彫られている。

ティアの横に滑り込んできたレンポが、反応する。

「これは…予言だな」

「予言?」

ティアが聞き返すと、うんと頷いた。

「ふつうのヤツには読めない代物だ」

そこにはおまえには読めるぜ、という意味が含まれていた。

「ちゃんとした神官でないと、読めない文字なのよね。あたしみたいな—」

そこでちょっと下を向いた。

「ケガレタまじない師じゃムリなの。おばあちゃんなら読めたかも」

ティアは一歩近づいて、それを見つめた。

一つ、二つ、全部で十一の予言だ。

頭の中にビジョンが浮かび、消えてまたうかぶ。

知っている土地、知っている人。

知らない森、天高い塔、水色の洞窟、噴出す火山。

頭の中に渦が巻く。

ムシ、太陽、星、地震…。

よろよろっとティアは後ずさった。

「大丈夫?」

ナナイがねぎらうが、その顔からして期待していないようだった。

「見えたか?」

レンポの言葉にティアが頷くと、「なら信じろ、それは真実だ」と言う。

「よめたの?なんて書いてあったの?!」

ティアが真実…とつぶやくと、ナナイはヒステリックに詰め寄った。

しかし、ティアも疲れていた。

「ティア」

呼ばれてかろうじて目を合わせる。

見上げる首がしんどそうなので、レンポはティアの目線まで降りてきた。

「さっきの予言でわかっただろ。次の世界を作り出すのは預言書だ。そして次の世界に残すものを決めるのはおまえだ」

ティアは数秒黙り込んだ。

「やっぱり、この世界は滅んじゃうの…」

「滅ぶ?世界の滅びの予言だったの?!」

ナナイがティアから石版に目を移した。

けれど読めないのでもう一度ティアに目を戻す。

よめたのね、この娘!

やはり—。

「大丈夫?ちょっとこっちに来てみて」

疲れ気味のティアは無言で元の立ち居地に戻った。

水晶球のまえだ。

「おい、なんかうさんくせぇぞ。きおつけ—」

レンポがそういったまだ途中で、かたんとティアの足元の床が抜けた。

「ひゃあ?!」

叫び声一つ、ティアは床に飲まれ、隠し部屋へと落とされた。

「お、おいっ!いわんこっちゃねぇ!」

したうち一つ、レンポはあわてて追いかけていった。





Re: アヴァロンコード ( No.21 )
日時: 2012/08/22 02:52
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「あの女、やりやがったな!」

そういう彼の足元に、ティアが倒れている。

気絶までは行かないものの、伸びている。

四つんばいで昼寝でもしそうな感じだ。

「おい、大丈夫か」

声をかけるととりあえず反応はした。

「あご、いたい」

うめきながら起き上がった彼女のあごは、たしかにちょっと赤かった。

「ま、それだけの怪我ですんでよかったな」

ティアがきょろきょろと辺りを見回す。

出口は一応はあるらしいが…。

「あの扉の奥、わななんてないよね?」

不安げな声。

慰めてやる時間もないし、必要もないだろ。

「とにかく進むぞ。こんなところに長くいたっていいことなんか一つもねぇからな!」



Re: アヴァロンコード ( No.22 )
日時: 2012/08/24 01:12
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアが床下に落下したのを確認すると、ナナイはため息をついた。

後悔ではない、安堵のため息だ。

「よかったわ…」

へそだしセパレートのため、露出度が高く涼しいのだが、今はどっと汗が噴出している。

黄緑色の目を縁取る水色のアイラインに触れぬよう注意しながら額の汗をぬぐうと、彼女は石版のほうへ向いた。

「まさか読めるなんてねぇ」

しげしげともう一度石版を見るが、やはり自分には読めない。

「当たり前よねぇ」

(これが読めるほど凄い人のくせに、あんな簡単な床落としトラップにかかってくれてよかったわ。ホント、ひやひやしちゃった)

ナナイは長い赤毛を背中へさばいた。

そして奇跡の少女を探して駆け回る、騎士たちの元に密告しに行った。



「ねぇ、ここって…」

ティアがくぐもった声で呼びかけてくるが、正直、彼女がどこにいるかわからない。

「どこだよ、ティア?」

宙に浮きながら、ため息をつく。

「ここだよ!」

ティアの声が、雑多なものの下から聞こえてくる。

けれどその元に降下することは出来ない。

「ここったってなぁ、こんなきたねぇ物置んなかじゃわかんねぇぞ」

「あ、レンポもここが物置だって思ってたんだ!」

ここはナナイに落とされた場所から出た次の部屋。

もしくはとんでもなく汚い物置。

やまずみにされたいらないもの、例えば長くて分厚い絨毯、ほこりまみれの家具、長いテーブル、そのセットの椅子が5,6こ。廃棄された板切れ、窓枠、倒れた本棚?、しおれた植物入りのプランター。

そんなものが狭い部屋の中にあふれていて、唯一通ることが出来る道は、長いテーブルの下のみ。

けれどそのテーブルの足が壊れているため、かなり机高が低い。

なのでティアはレンポは先に出口のほうで待っていてと、頼んだのだ。

目の前のすすけた絨毯がもぞもぞ動いている。

そのふくらみが出口の戸に近づくと、ティアが現れた。

「やっときたか」

隠れん坊して見つかったときの子供のようにティアが笑った。

「さっさと次の部屋行くぞ!」

「また物置じゃないといいね…」

ティアが服のほこりをはたきながら言った。



Re: アヴァロンコード ( No.23 )
日時: 2012/08/24 15:18
名前: めた (ID: UcmONG3e)

物置の次の部屋は複雑なスイッチの仕掛けられる部屋だった。

部屋の端から端まで赤や青や緑、黄色のスイッチがならび、檻に入った魔物がいた。

「もしかして…」

ティアの言葉の意味はそれだけでわかる。

「あぁ、おそらく間違えたら魔物が出てくるんだろ」

こんな弱い魔物、預言書を持つティアにはいとも簡単に倒せるのだが、その姿かたちが嫌なのだろう。

脚、八本。

目、同じく八個。

いわゆるクモのモンスター。

そいつが檻の中を動くだけでびくっとして青ざめている。

その数は15程度か?

大きさはティアの頭より大きいもので、動きは素早い。

「とりあえず、なんかボタンを押そうぜ」

そう提案したもののティアは硬直している。

「あー、もう。おまえは選ばれしものなんだぞ!あんなクモにビビるなよ」

拷問だ、とばかりにティアが歩き始めた。

涙目で、檻のほうを見ている。

しかしなぁ、とレンポは思う。

どう考えたって、この部屋に扉は一つしかない。

入り口しかないのだ。

そう考えると、やはりクモのモンスターのいる奥に出口があるとしか思えない。

だがな、ティアは戦えるのか?

ひいひい言いながら一つずつボタンを押していくティアをみてため息をつく。

「ぜったい、次絶対クモでてくる…」

こりゃムリだな。



Re: アヴァロンコード ( No.24 )
日時: 2012/09/10 04:29
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「押せよ」

ティアは動かない。

「押せってば」

なんという強運。

ティアは部屋のスイッチをおし進め、最後の一つになるまで、モンスターを解放することはなかった。

けれど還ってそれが悪かったのだろう、ティアは涙目で高速に首を振っている。

きりきりとクモモンスターが鳴くと、ティアは飛び上がった。

どうしたって脱出するためには解放しなくてはならないのだ。

「おまえは少し、やすんでろ」

「え?」

そういって振り返ったティアを飛び越し、レンポはスイッチの元に飛んでいく。

ティアは何しようとしているのか一瞬で理解して、捕まえようとする。

その手をひらりとかわすと、いや、かわしてはいなかった。

スイッチ目前でがくんと体がつんのめる。

みると、ティアが彼の手枷の重石を引っ張っている。

「あー、何やってんだよ!」

今の体の大きさでは到底ティアの力のほうが強い。

絶対嫌だ、というティアの力は凄まじくつかまってしまった。

彼女の手の中に収められてしまったので、当分このままだろう動けない。

「クモは…クモは…!」

おぞましいというような顔で、ティアが震える。

「おまえなぁ、オレは守護精霊なんだぞ!手で捕まえてどうする!」

ばたばたするレンポを複雑そうにみているティア。

手のひらに収まる守護精霊って、強いのかなぁ。

その感情を読み取ったかのように、レンポがむっとする。

「おい、今オレのこと強いのかなぁって疑っただろ!」

ぎくりというわかりやすい表情をうかべるティア。

「そういえば、オレの力をまだ見せてなかったな」

そういうと、ティアに自分を離す様に言った。

「大丈夫だ。こんな雑魚、オレに任せろ」

ティアはしぶしぶ頷いて、レンポを解放した。

かれはボタンの元に飛んでいくと、迷わず炎の塊をぶつけてボタンを押した。

と、檻の格子がすべて外れ、派手な音を立ててくず折れる。

いっせいにクモモンスターがティアのもと迫り来る。

「ひあ?!」

ティアは嫌悪感に悲鳴を上げる。

けれどしっかりと剣を装備して、戦う準備をしている。

「—・—」

ティアにはわからない言語で詠唱しているレンポは、その長い言葉を終わらせた。

クモはすぐそこまで迫っている。

ティアは叫び声をのみこんだ。

レンポがまた何か叫んだのだ。

そうすると、ティアとレンポの周囲が赤く染まった。

何十もの違う色の赤の炎が周囲を埋め尽くし、ティアめがけて飛びついてきたクモが炎に飲まれて焼き尽くされる。

灼熱の炎があたりで鼓動するのがわかった。

そして15匹いたクモが、つぎつぎと蒸発してゆく。

「すごい…」

その光景はまぶしいのか、あついのか、わからない。

ティアも確かに炎に飲まれているのだが、あつくない。

それどころか安心するような気がした。

これが守護されているという安心感か。

すべてのモンスターが消えたので、炎が溶ける様に消えていった。

渦の中心、レンポがどんなもんだい、と得意げな顔をしていた。

「すごかったよ!」

駆け寄ると、気づいたことがあった。

「もしかして、疲れてるの?」

ぎくっとしたティアと同じようにわかりやすい反応をするレンポ。

んなわけねぇだろ、オレは四大精霊だぜ、というがバレバレだ。

「もしかして疲れすぎて浮けないの?」

たしかに彼は床に座り込んでいた。

足を投げ出すような姿勢で、ティアのことを見上げている。

「し、仕方ねぇだろ。枷がオレの力を縛ってるんだ。第一こんなのが無ければなぁ」

むうっとして言うが、迫力はない。

その様子がなんとなく笑えた。

「あー、何で笑うんだよ!」

「うんうん、凄いのはわかってたよ。だからおいで、運んでってあげる」


レンポのからのしおりのはさまるページを開くと、彼のページがある。

しばらく、しおりの中でやすんでいてもらおう。

目をつぶって眠るしおりを本に挟んで閉じると、出口にむかった。


Re: アヴァロンコード ( No.25 )
日時: 2012/08/24 17:26
名前: めた (ID: UcmONG3e)

やっとの思いで脱出したティアは、ナナイの案内された部屋にいた。

本棚のしたの戸から出てきた彼女はふうっとため息をついた。

見回せば、ナナイはいない。

机の上に、相変わらず水晶玉はある。

好奇心から、もう一度覗き込んだティア。

わたしにも、なにかみえるのかなぁ?

そんな心持で除いていた彼女は、自分の顔と、もう一つの顔が見えることに気づいた。

いや、もう二つ?

「おまえがティアだな」

水晶玉からハッとして顔を上げると、そこには兵士がいた。

「いたぞ、こいつだ!まちがいない」

自分が何故、兵士におわれるのかわからないティアは困ったように後退る。

「貴様がヴァイゼン帝国の内通者だな!連行する!音なし打ついて来い、われらが国王が貴様を裁く!」

内通者…?わたしが?

「違います!わたし、内通者なんかじゃない!」

けれどティアは相手にされない。

「まさか魔女の家に住み着いていたとは」

しげしげとナナイの家の中を詮索する兵士。

「怪しげな術を使ったという話も本当らしいな」

きっとドロテア王女の猫、グリグリを助けるために預言書を使ったことだろう。

レンポが起きていたら、奇跡だ!と言い張ったに違いない。

「信じてください、わたし、本当に内通者なんかじゃない!怪しげな術って…あれは、猫を助けただけです!」

しかし、槍を向けられただけだった。

「だまれ。言い訳は王の前でしろ。魔女め」

そういうと、ティアは連れて行かれた。


その光景を、ナナイは二階へ続く階段から眺めていた。

「あれは奇跡よ。だから危険なの。これで…」

ナナイはすこしため息をついた。

少しばかり後悔を含んでいた。

「これで、よかったんだよね?…おばあちゃん」



Re: アヴァロンコード ( No.26 )
日時: 2012/08/24 18:30
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアは連れて行かれる間中、レンポを起こそうか迷った。

力の消耗で、ぐったりする彼を起こすのか?

いや、だめだ。

でも、どうしたらいいの?

 兵士とティアはフランネル城の中に入った。

一度もはいったことのない彼女は、その豪華さに目を奪われていた。

まず、噴水だけのために作られた中庭。

円形の広場には美しい噴水がそびえており、左右にはよい香りのする花の群れが植えられている。

次に驚いたのは、エントランスだった。

ムダに広く、常にメイドと騎士が配属されている。

エントランスを抜けるとさらに広い部屋に入った。

床は大理石だろうか、磨き上げられて天井が写っている。

ながい絨毯は一つながりであり、十五年かけて作られたとどこかで聞いた。

「さっさと歩け」

槍の柄でつつかれて、ティアは転びそうになった。

長い階段を上がっていくと、筋肉痛になりそうだった。

やっと来た謁見の間は、開放的だった。

左右に並ぶは王の守護騎士たち。

そして驚くことに床や天井はすべて黄金でできていた。

きっと巨額の代金が支払われたのだろう。

王の前に突き出されると、ドロテアがあっと叫んだ。

「そなたはっ!」

ドロテアはティアの顔を覚えていた。

「このものがヴァイゼン帝国の内通者であるというのか?」

現カレイラ王国の王である、ゼノンバート王はティアのことを見据えていった。

ティアは王に睨まれて預言書を抱きしめた。

「そうです!」

兵士が強く頷くと、ティアの近くで覚えのある声が響いた。

「おいおい、なんだここ?」

レンポだった。

眠そうに宙に浮いている。

不安や恐怖を感じると、精霊は出てくるのだろうか?

「ヴァイゼン帝国の兵士とこのものが一緒にいるのをみたという噂があります。そこで、あやしげな魔術を使っていたとか」

するとビックリしたようにレンポが言う。

「どうなってんだ?」

小声で早口に説明すると、レンポはおこっているようだった。

「なんだと?ヴァイゼンのやつを倒してやったのに、なんでおまえが悪者にされなきゃいけねぇんだよ」

けれど、兵士たちの言い分は終わらない。

「魔女の住処に一緒にいたのです。おまえも魔女も、どうせヴァイゼンの回し者なんだろう?」

脅すような口調に、レンポが言い返す。

「どういう理屈だよ!」

すると荒れそうになったホール内に可憐な声が響いた。

「ちょっとまて、そのものは…」

ドロテア王女だった。

兵士たちは何故王女が内通者をかばうのかわから無いという表情をしている。

「その者はヴァイゼンの者ではないぞ!ヴァイゼンのバケモノはもっとこう、大きくて、馬っぽくて、大きなカマを持っている恐ろしいバケモノじゃ!」

「ぜんぜん助けになってねぇな」

レンポはため息をついた。

するとゼノンバート国王は大きな声で言う。

「もうよい!裏切り者は死刑。首をはねられて城門にさあ¥らすのがおきて」

ティアが首をすくめた。

「だが果たして本当にこのような少女がそうなのか?」

すると四方八方から意見が飛び交う。

兵士は「私は見ました!」

ドロテアは「違うのじゃ!」

レンポは「違う!だまされたんだ!」

王は手を上げて皆を黙らせた。

「聞くがよい!われらは聖なる国の子。千年の歴史を持つ神聖カレイラの民である。過ちによって無実の民を処分することはあってはならぬ。慎重に調査士、真実を見極めるのだ」

王の言葉に、兵士が恭しく頭を下げる。

「御意。それでは真実が明らかになるまでこの者は牢に閉じ込めておくということでいかがでしょう」

うむ、と王が頷く。

そして後は任せたぞ、と自らの部屋に向かっている。

「あれが王なのかよ?カッコだけで、ぜんぜんだめじゃねーか!」

すると前方よりドロテア王女が歩いてくる。

「ところでそなた、本当にヴァルド様のことをしらぬのか?」

ティアが首を振ると、ドロテアはなおも続けた。

「ヴァルド様は暗殺者に襲われ、お亡くなりになったときいたのじゃが、最近、生存の話を耳にしたのじゃ。わらわはいても立ってもいられなくなり…」

ふとそこで口をつぐんだ。

ぶんぶんと首を左右に振る王女。

「いかんいかん、話し込んでしまったわ」

そういうと、つんとそっぽを向いた。

「ふん、知らぬというのならもうよいわ!」

そしてさりながら「よいか、さっきのは…グリグリの礼じゃ!これであいこじゃからな!」という。

「なにがあいこだ、役にたたねぇお姫様だぜ!」

二人して王女を見送っていると、がしっと腕をつかまれた。

ビックリしてみあげると、兵士がいた。

「国王様は忙しい方だ。おまえの存在など忘れられる。一生牢獄で過ごすということさ!」

兵士たちがまるで楽しむようにティアを牢屋の中につれていく。

「結局こうなるのかよ!」

Re: アヴァロンコード ( No.27 )
日時: 2012/08/25 23:11
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアは三つ並ぶ牢獄のうち、一番遠い牢屋に入れられた。

勢いをつけて投げ出されたので、牢屋の床にひざを付いて転んだ。

背後で檻が閉められる冷たい金属音が響くと、ティアは振り返った。

扉は頑丈で、柵の格子から兵士が去っていくのが見える。

扉にしがみつき、みていると兵士は見張ることなく地価牢を後にしている。

「おい、どうするんだよ!いくらなんでも、ずっとこの中じゃ次の世界が牢屋になっちまう!」

レンポの言葉に、ティアはこのとき初めてことの重大さをさとったよう
な顔をした。

そして狭い牢屋中を何かないか、出られそうなところはないか、と走り回っている。

「とにかく、早くここから出ようぜ。預言書を使えばなんとかなるだろ…」

しかし壁をレンガで叩くティアは、反応しない。

聞こえていないのだろう。

「おい、何やってるんだ!」

そう叫ぶと、ティアは振り返った。

「そんなことやっても出られないぞ」

じゃあ、どうしたらいいの?とティアが困った顔でつぶやいた。

すると突然牢屋の岩の地面から岩がごっそり抜け落ちた。

そして新しく出来た穴から、ひげ面で王冠をかぶった男がこちらをにらんできた。

「うるさいわい!」

そういうと、固まっているティアを残して再び穴の中へ消えていった。

我に帰ったようにティアが振り向く。

しきりに何か言おうとしているが、考えがまとまらないらしく口をあけては閉じいる。

「今のみたか?穴から人がでてきたぞ」

代わりに言ってやると、ティアはうんうんと力図よく頷く。

「あそこから出られるんじゃねぇのか?」

すかさずティアは穴の元に走りより、派手にスッ転んだ。

「うあっ?」

驚きの叫び声をあげて、穴に頭から落下する。

地面にぶつかる音ではなく、じゃりーんという音が聞こえてきてくる。

「おい、ティア…」

穴を降下してみると、目が痛くなるほど輝く宝石の海の中に、ティアがうつ伏せで埋もれている。

ティアの真下は金貨でいっぱいだ。

ほかにも王冠や宝箱、装飾の宝剣、金の皿、色とりどりの宝石がきらきらと輝いている。

それも半端じゃない量だ。

「いたい…またあごぶつけた」

顔を上げたティアの目の前には心配するレンポではなく、妙な男が立っていた。

「なんじゃ、おまえは?」

きょとんとして財宝に埋まるティアをじろじろと見つめている。

「罪人ならおとなしく牢にでも入っておれ」

ティアは財宝をながめた。

自分の埋まるここには、たった一つ持っていっても人生が変わるものがあるのだ。

金貨の上で座りなおすと、きょろきょろ辺りを見回す。

あれ…どこいったんだろ?

するとひげの男は眼帯をしていないほうの目でにやっと笑った。

「ふふん、ワシの部屋を見て驚いたか!ワシこそがこの城の本当の主!」

「へぇ、おじさん、名前なんていうの?」

ティアの質問に、男はふんと鼻で笑った。

背の低い、ちょうどビスおじさんと同じくらいの背の高さの彼は、囚人服の上に金銀財宝を巻きつけている。

王様のベルトだろうか、ルビーをふんだんに使ったベルト、ブローチ、
腕輪をしている。

(この人、元罪人さん?)

「名前だと?そんなもん、とうの昔に捨て去ったわ!」

ティアが黙っているので、元罪人は付け加えた。

「まあ好きに呼べ」

すると探していた人の声が聞こえた。

「おい、ティア」

見上げると、空中に漂うレンポがいた。

「そこにいたんだ!」

「コイツ、たわしみたいな頭してやがるから、名前もタワシでいいんじゃねぇか?」

金貨に埋もれる預言書の上に乗っかって、失礼なことを口走る。

たしかに左右に盛り上がり、上部だけはげた頭はタワシににているが。

「じゃあ…タワシ!」

ティアがそういうと、目の前の男、あらためタワシが怪訝な顔をした。

「ふん、まあ好きに呼べばよかろう」

そういうと、ざくざくと金貨の山を歩いていく。

歩きながら、宝石やらロッドやらを手に抱えていくタワシ。

「この城はな、昔の栄光とかそんなもののぬけがらなのだ!」

振り返って、預言書を踏みそうになったので、ティアはあわててそれを引き寄せる。

数センチの差で踏まれずにすんだレンポと預言書は恨めしげにタワシを見上げた。

「使われなくなった部屋、忘れられた通路、隠された財宝…」

タワシは抱いている財宝を抱きしめた。

「すべてはこのワシのもんじゃ!」

するとティアの足元にいたレンポは途端に宙に浮いた。

「こいつ、城内について詳しそうだから、脱出ルートを知ってんじゃないのか?」

期待に胸を膨らませている。

Re: アヴァロンコード ( No.28 )
日時: 2012/08/25 23:13
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアは早速タワシに聞いてみた。

「悪いことをしてないのに、牢屋に入れられたんです」

ほう?、とタワシが上から目線でうなづく。

それでも必死にティアは説明する。

「この城から逃げたいんです」

「別にかまわんが?この魔物がうじゃうじゃいる道を抜けていけ。そこにあるぞ」

タワシは穴とは反対の方向にある、水道のような穴を指差していった。

「街の墓場の下に作られた隠し部屋に出る。鍵は墓場の上に隠した」

タワシの説明が終わると、そばにいたレンポが、ティアに言った。

「……さぁ、行こうぜティア。今度こそ本当に出発だ!」

抜け道まで来ると、目の前に大きな扉がある。

石造りで、扉の中心にはおおきな鍵穴があった。

「あれが、タワシのおっさんが言ってた扉みてーだな」

そのようだ。

「鍵をさがそうぜ!」

扉の奥でさびたはしごに手をかけて上っていくと、墓石に頭がゴツンとぶつかった。

「ん、なに?いきどまりかな?」

手で頭上の石を押してみると、ガコンと持ち上がった。

這い出すと、カレイラ墓地だった。

緑の美しい芝の上に、墓標や墓石が立っている。

親友のファナの母親も、ここに眠っているし、街のいやみな金持ち兄妹の両親も眠っている。

ティアの剣術指南したグスタフ師匠のそのまた師匠も、ここに眠る。

「?」

ティアがなんとなく黙るので、レンポは首をかしげた。

辺りを見回して、あっときづいた。

そういえば、ティアに家を見せてもらったときに両親はいなかった。

ベットも一つ分だった。

ということはティアの両親もここに?

「お墓の上にあるんだよね」

妙に明るい声でティアが言った。

そして返事も聞かずにさっさと墓の上を見歩く。

おまえの親もここにいるのか?などという質問は飲み込んだ。

なんとなく、やめておいた。

「これ!」

遠くのほうで、ティアが鍵を見つけたらしい。

ちかよれば、言わずともわかった様でコードスキャンしていた。

本の中にきちんと小さな鍵が描かれている。

それを満足げにみて、一つ提案する。

「とりあえず、街から出て森にでもいってみるか。んで、ミエリや他の奴らを探しに行こうぜ」

けれどティアはこてんと首をかしげた。

「みえり?ほかのやつ?どうして森なの?」

Re: アヴァロンコード ( No.29 )
日時: 2012/08/25 23:23
名前: めた (ID: UcmONG3e)

三段階疑問。

「ミエリってのはオレと同じ預言書の精霊だ」

精霊って一人じゃないの?と驚くティアに頷く。

そういや、はなしてなかったな。

「預言書の精霊は全部で四人いるんだぜ」

コイツ、四大精霊の意味わかってんのかなぁという顔で説明するレンポ。

「森の精霊ミエリ。何を考えてるのかわからん、天然のヤツだ。おまえ
に似てるな」

ほめて…いやけなしてるのかな?

複雑な表情のティアになおも説明を続ける。

「氷の精霊ネアキ。暗くて冷たいヤツだ」

むっと表情が変わる。

炎と氷は反対だから仕方ないのかな?

「雷の精霊ウル。頭がいいけど説教好きだ」

雷までいるんだ。

「そして炎の精霊のオレ様だ!いっちばんすげぇぜ!」

どうだ、わかったか?ときかれるがほとんど脅迫状態だ。

うん、と頷くとまた恨めしそうに手の枷をみつめた。

「これがなければもっと力を出せるんだがな…しょうがねえか」

墓石の下に戻り、石造りの扉に、鍵を差し込む。

大きな扉にそぐわぬ小さな鍵は、その扉の封を開放した。

細長くて暗い抜け道を歩いていくと、草原にたたずむ遺跡跡に出た。

ここから少し行ったところに、レンポとであった昼寝ポイントの陽だまりの丘がある。

あれから数時間しかたってないのに、何日も経過している気がした。

お城に行き、魔物と戦って、閉じ込められて、牢屋に入れられて、脱走した。

『預言書を手にしたときから、おまえの運命は大きく変わるだろう』

数時間前、レンポに言われたことが現実となっていた。

もし預言書に出会わなかったら、こんな凄いことに遭遇しなかっただろう。

「さ、森に行こうぜ!」

しみじみと遠くに見えるカレイラ王国を見つめていたティアに、レンポは元気よくそう言った。

Re: アヴァロンコード ( No.30 )
日時: 2012/08/26 00:06
名前: めた (ID: UcmONG3e)


 第二章 森の精霊

—緑の木々より森の御使いが還るとき
 北の果てより飢えた大群が大地を覆い
 実りを悲しみにかえるだろう
 争いは広がり
 人々を飲み込むだろう


ティアの住むカレイラ王国(ティアの住む王都はローアンという名の地域)の北西には、平原がある。

グラナ平原といい、低い背丈の草が覆い茂っている。

カレイラの王城、フランネル城の抜け道はここにつながっていた。

その平原をずっと北西に進めば、肥沃な森林に出る。

それはグラナトゥム森林といって、レンポとティアの次の目的地である。

緑に囲まれた森は広大で、さまざまな生き物の息吹を感じることが出来る。

そして入ったら二度と抜け出せないなどと言う、人々のうちでは有名な森の一つだった。

「なにやってんだ?」

ティアが五歩進むたびに木の幹に剣で×印をつけているので、レンポは首をひねっていた。

ここはグラナトゥム森林の入り口。

緑の森林はまだ薄く、木々の中心は開けており歩くには最適な道が出来ている。

木漏れ日を感じるまでには至らない、それほどまだ木と人との感覚が遠い。

「なにって、目印を付けとくの。まよわないように」

無邪気な声には一切の疑いがない。

さきほどグラナ草原で語ってくれた(いや、語ってきた)話では、グラナトゥム森林から帰ってきたものはいない、ということだった。

しかしやけに森の様子だとか森の番人だとか、「〜がいるらしい。〜だたらしい」という話が多い。

戻ってきたものがいないのならそんな反し出来るわけがない。

「あのなぁ、迷うのは森のせいじゃねぇ。人が勝手に恐怖やら不安を感じて精神不安定になり錯覚に陥るだけだ」

説明してやるがティアは笑顔で首を傾げる。

「しかもなぁ、おまえ帰って来る時は逆方向から来るんだぞ?これじゃ印が見えねぇじゃねーか」

ティアは森の入り口方向から印をつけているので、反対側からそれを見ることはできない。

なので、目印の意味がないのだ。

「ああ、そうだった!」

失敗した、という表情のティアに、預言書の地図を見て帰ればいいだろと文句を言う。

預言書はティアの訪れた場所すべてを記憶する。

もちろんページとしてみることが出来る。

たどってかえることは可能だ。

Re: アヴァロンコード ( No.31 )
日時: 2012/08/26 21:27
名前: めた (ID: UcmONG3e)

森の中を歩いてから数十分。

ようやく迷いの森らしくなってきた。

同じような景色どころか、見えるのはうっそうと茂る木と地面に生える草花だけだ。

空は木々で覆いつくされ、薄暗くなっている。

いや、むしろもう空が暗くなる時間なのだろうか?

牢屋を抜け出してグラナ平原に着いたころは日が真上だった。

そこから森林にまで来たのだから、もう夕暮れ時なのだろう。

まばゆい夕日は拝めそうもない。

「レンポがいてよかったよ」

隣でこわごわ森を進むティアが独り言のようにつぶやく。

いてよかったといわれたとうの本人はきょとんとしている。

別に何も力になるような事はしていないし、一緒に森を進んでいるだけだ。

「は?」

「だって一人でこんな森歩くのって、なんか怖いから」

改めて見回すと、まあ確かに気味悪い森。

木漏れ日など夕日のせいだろうか赤いものもあり、魔物がはびこる時間になりそうだ。

付け加えるように、ティアが顔を上げた。

「それに、火みたいに光ってくれるから安心できるんだ!」

「ん、まぁ…そういや光ってんな」

炎の精霊であるので、漂うときには炎のように少し光っている。

灯りといえば、オレしかないな。



Re: アヴァロンコード ( No.32 )
日時: 2012/08/27 00:09
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「こうやって暗いところだと光って見えるけど」

ティアがなにか考えるような仕草でレンポにいう。

「他の人にはどう見えるの?やっぱり、見えない?」

そりゃあ…、とレンポは少し考えてから言う。

あたりの葉はオレンジの光に照らされてはいない。

地面も、薄暗いまま。

「見えないんだろうな」

ランプ代わりといっても、あたりに反射することはなくただぼんやり見えるだけ。

「ふうん」

そういいながらしげしげと眺めるティア。

小さい姿に慣れてしまったが、出会った当時の等身大サイズのほうが強そうな感じがする。

そうすればまとう光の量も増えて、もっと安心できるのだけれど。

「ねえねえ」

空中を自在に漂うレンポは今度はなんだよと言いたげにこちらを向いた。

「どうして小さいままなの?」

「は?」

ティアの無邪気な質問にたいし、終始飲み込めないレンポ。

唐突なのもあるが、理解しがたい質問ばかりだった。

「なんでって…オレはこっちのほうが楽だし。場所もとらないですむだろ—」

いいかけたとき、突然数歩先で悲鳴が上がった。

「うわああああああ!!」

「?!」

ティアは驚きすぎて声も出ず、目を見開いて固まっている。

両手には預言書から具現化した剣をきつく握り締めている。

(戦える準備だけはできてんのかよ)

少し足を引いている体勢は、いつでも素早く動けるように師匠から習ったのだろう。

ティアの表情を見るからして、無意識で構えをとっているらしい。

(けっこうグスタフとか言うじじい師匠に鍛えられてるって言ってたからな。ヴァイゼンのヤツも倒せるぐらいだし、剣に関しては文句はねぇみたいだな)

感心していると、前方より足音が近づいてくる。

それも超高速で、だ。

「レンポ、炎で照らして!」

もう戦う心をきめたのだろう、力強い声でティアが言う。

「あいよ!」

軽く10メートル四方を炎で照らしてやった。

指先から炎で照らすなど、素人じみたことはしない。

自分の体全体を炎で包み、煌々と照らしてやった。

さっと光が差し、すべてが目に映る。

「な、なんだ?!灯り?!」

驚きの声を上げる—青年がいた。


Re: アヴァロンコード ( No.33 )
日時: 2012/08/27 00:30
名前: めた (ID: UcmONG3e)

青年はティアから見てもおしゃれな格好をしていた。

皮製の帽子、黄色と蒼を組み合わせた上下の服。

手にはレイピアという突剣が握られているが、歴戦のものではなく古いが使い込まれていないもの。

ティアよりも頭一つ分大きい。

ティアと灯りを見るなり、足を止めそうになった青年。

「や、やぁ、こんばんは…」

いつもの癖なのだろう自然と口をついて言葉が出ている様だった。

しかし、ハッと慌てたように止まりそうになった足を急がせる。

ティアと灯りの間を抜けて、間抜けそうに独り言を言う。

「って、そんなことしてる場合じゃないっ!」

そのまま走り去るかと思いきや、くるりとターンを決めてティアに向き直った。

だがなんだが逃げ腰だ。

怪訝そうな顔をするティアに、青年は慌てて走ってきた方向を指差す。

「君!あぶないよ、僕と一緒に逃げるんだ!だいたい女の子がこんな時間に一人で—」

しかし、青年の声はどしん、どしいん、という足音にかき消された。

ティアがふりむくと、レンポの炎に照らされてふとったゴブリンが近づいてくるところだった。

「なんだ雑魚のゴブリンじゃねぇか」

炎の中心にいるレンポが言う。

ティアもヴァイゼンの者と戦った経験からしてこの魔物は強くないことを知っていた。

恐ろしいのは外見だげだ。

だがクモモンスターより怖い外見じゃない。

しかし青年だけは反応が違った。

「ゴブリンだ、アイツは強いよ!」

けれどティアはのほほんとした口調で青年にいった。

「あれに追いかけられて困ってるんですね?」

青年はあったりまえさ!とここぞとばかりに叫ぶ。

そしてさぁ、君も早く逃げてと言うが、ティアは逃げない。

それどころか剣を構えている。

その姿には青年の胸を打つものがあった。

「そうか…。敵には背を向けないというんだね」

ティアのその姿に勇気をもらったのか、自らもレイピアを構えなおす。

そして何を血迷ったのかティアの前に踊りだして彼女をかばった。

「へっ…?」

驚いたのはティアのほうだった。





Re: アヴァロンコード ( No.34 )
日時: 2012/08/27 00:59
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「大丈夫、勇者の僕にまかせてくれ!」

そして逃げ腰の青年はレイピア片手にゴブリンに突っ込み、あっけなく吹き飛ばされた。

ティアの目の前にこてんと転がる青年。

怪我はない様だが…。

「よ、弱ぇえ…」

レンポでさえこれしかいえないほどの貧弱勇者だった。

「だ、大丈夫?」

ティアが声をかけると、情けなさそうにしていた自称勇者はすっくと立ち上がった。

「僕にはまだ取って置きの業があるからね。心配要らないよ!」

というと、ゴブリンの背後に回って剣を振り上げて思い切りゴブリンを空中にはたきあげた。

そして余り飛ばなかったが地面に激突した。

その腹に片足を乗せて自称勇者は意気込む。

「はっはっは、どうだ!これぞ僕の必殺技、ジャッジメントリンク—」

と、地面に激突したゴブリンがおきあがり、自称勇者の足をその手で掴みあげた。

先ほどから大事そうにしていた帽子が地面に落ち、飾ってあった花が散る。

「あーっ!花が!」

宙ずりにされているのに、花の心配をする自称勇者。

そして勢いを付けられてまた放り投げられた。

腰から落下した彼は、今度はけっこう痛かったらしく、うめき声を上げている。

ティアは黙って一歩踏み出すと、まず左剣でゴブリンの足を払った。

体勢を崩すゴブリンに、右剣でとどめを刺す。

腹につきたてた剣は、ゴブリンの浄化とともに解放された。

(浄化されたモンスターはまるで水分が蒸発するように消えてなくなる。もともとは欲望や悪などの集まりから出来ているため、倒されると魂が解放されて消える、と考えられている)

「はい、帽子」

その様子をビックリして見つめていた自称勇者は、ティアが自分の帽子をもって来てくれたときに尊敬のまなざしで見上げた。

「君って強いんだね!僕はてっきり君は道に迷って—」

と、ここで大事なことに気づいた様だった。

帽子を見つめて嘆く。

「おいおい、どうしたんだよコイツ?」

舞い降りてきたレンポは相変わらず光っているが、その光源範囲は徐々に狭まっていた。

眠たそうにしているところから、まだ完全回復しきっていなかったのだろう。

黄色の太陽のような色のキッとした猫目に疲労の色が浮かんでいた。

「花がこれじゃ台無しだ!またつんでこなくちゃ…けど」

思い直すように、自称勇者は暗い森のほうを向く。

言わなくてもわかる。

彼の戦力では、このまま家に帰ったほうが絶対によい。

「また森の一番奥の洞窟までとりに行かなくちゃいけないなんて」

と、眠そうだったレンポが目を輝かせた。

「洞窟?!森の一番奥にいったことあるのか!」

そして、輝く光源のまま、ティアに向き直った。

「おい!コイツに案内を頼もうぜ!ぐずぐずしてたら本当に迷っちまう」



Re: アヴァロンコード ( No.35 )
日時: 2012/08/27 15:36
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「えぇ?今から?」

森の一番奥、洞窟前まで案内してくれとティアが頼むと、自称勇者は引きつった笑みを浮かべた。

帽子に目を落とし、もう一花弁しか残っていない花を見てなにやら考えている様子。

その間中、レンポの炎は弱まり、周囲2メートルを照らすのがやっとになっていた。

心配そうにティアが見上げると、必死に眠気をこらえている。

とろんとした目は戦士喪失状態であり、瞬きの回数が増えている。

「眠いの?」

レンポに声をかけたつもりが、自称勇者が反応した。

「え?いや、疲れてはいるけど…ねむくは」

う〜ん、と断る要素や話をそらす要素を必死で探す自称勇者。

そして彼は目線を炎にずらした。

質問されるかと思って身構えたがそうではなかった。

「そういえば自己紹介がまだだったね」

(よかった、火は気にしないんだ…)

ティアの心配をよそに、青年は自己紹介を始める。

「僕はデュラン。双剣のグスタフの息子にして勇者!」

ティアの視線にまぁ、弱いけど…とつぶやく。

するとティアはビックリしたようにデュランをみた。

「グスタフさんの息子?!似てない!」

「よくおまえオレに失礼とか言うけど、おまえも同じじゃんか」

レンポがいうが、無論デュランには聞こえていない。

デュランは気を悪くするでもなく陽気に笑った。

「うん。父さんは銀髪だし、目の色も違うし、強いし、存在感が凄いし…」

だんだんと声が暗くなるデュラン。

「自虐か?」

「そ、そんなことないよ!さっきだってゴブリンに立ち向かって勇気があったよ(負けたけど)」

途端にデュランが顔を上げた。

その目は輝いている。

「ホントかい?」

うんうん、と頷くティア。

「よかった!あやうく勇者である僕は、打ち砕かれるところだったよ、ありがとう…えっと?」

名前を聞かれそびれていたティアは「私はティア」と、笑顔で言った。

レンポも紹介してあげようかな、と考えていたが炎が首を振った。

「そうか、ティアか。よしじゃあ、早く洞窟に行こう!」

デュランがそういった途端、炎が溶ける様に消えた。







Re: アヴァロンコード ( No.36 )
日時: 2012/08/27 15:53
名前: めた (ID: UcmONG3e)

途端にデュランの目の前が暗闇に包まれた。

目の前にいたティアが見えない。

「わっ!なんだ?何で松明を消したんだよティア!真っ暗じゃないか」

するとティアののほほんとした声が聞こえてくる。

すぐそばにいるのに、松明が明るすぎたせいでまったく目が暗闇に慣れない。

「え?真っ暗?」

その声は迷いの森の中、目の前も見えない真っ暗闇だというのにあせり一つ感じさせない。

「あ、そうか!」

などとひらめいたような声。

見えないんだっけ、といっているが意味がわからない。

「そして待っててねデュラン!」

と声がしてどこかへ歩き去る足音。

パニックになったのはデュランのほうだった。

リズミカルに去る足音は、まるで暗闇でも怖がっていない証拠。

「ま、待ってよ!」

言うが足音は遠くなるばかり。

(僕って、そんな怖がりだったのか?だって女の子が怖がらないほどなのに…僕は、僕は…いや怖がらないほうがおかしいだろ!何にも見えないんだぞ!)

やっぱりティアは凄いなあとびくびくしながら感心した。



Re: アヴァロンコード ( No.37 )
日時: 2012/08/27 19:19
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアにはレンポがいるので真っ暗なわけではなかった。

確かに暗いが、すぐ目が慣れたのだ。

デュランをおいて、目あてのものを探す。

「これがすんだら眠っていいよ」

となりにふわふわ浮かぶレンポに言うと、彼はあくびをしている。

「じゃあおねがい」

ティアがレンポに差し出すのは、細長い木。

枯れ草を何十にも巻いて、何かのひもでぐるぐる巻きにしてある。

油分のある樹液を少しぬりつけたからだろう、レンポが黙って触れると、瞬時に炎が燃え盛った。

「ほんとに、オレ眠っててもいいのか?」

目の前の炎を心地よさげな感じで見つめるレンポは改めて確認を取った。

ティアはすでに預言書を開いており、こくんと頷いた。

「おやすみ」

守護精霊が本の中に還ってしまうと、ティアはなんとなく心細くなったが、松明を握り締めてデュランの元に走った。

デュランはすぐに見つかった。

最初近づくティアを魔物かと思っていたらしく逃げようとしたからだ。

「なんだ、君か…」

ホットため息をつくデュランにもう一本の松明を渡す。

「まだ火はつけないでね」

言うティアに、首をひねっている。

だがかまわずティアは森の方向へ進んでいくので、案内を開始した。

最初はたわいない会話だった。

カレイラの下町に住んでいることや、カレイラについてお互い思っていること。

「へぇ!君が父さんの弟子だったとは知らなかったよ。どうりで強いわけだぁ」

ティアがデュランの父であるグスタフに剣を習っていることを告げると、彼は感心したように言った。

「他にも、グスタフさんの弟子がいて、国王のゼノンバート王も弟子なんだって。あ、練習しているところは見てないけどね」

双剣のグスタフはカレイラでも一番の剣術者で、うわさによると以前カレイラの将軍だったらしい。

「すごいなぁ。僕なんかぜんぜん相手にされないよ。でもいいさ。僕も君みたいになれるように道場に通うよ」

ティアは苦笑いをした。

確かに道場に通っていたのだが、ここのところサボっていた。

しかもいまや彼女はカレイラのお尋ね者まがいのものにされている。

無実の罪で牢屋に入れられてしまったし、脱走してきた。

またカレイラに戻る事なんて出来るのだろうか?

産まれ故郷に帰れないことはとてもつらい。

カレイラに帰れないとすると、いったいどこへ行けばよいのだろう?

ティアは心配になってきた。






Re: アヴァロンコード ( No.38 )
日時: 2012/08/27 19:44
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「あと少しだよ」

ほら、川があるだろう、とデュランが炎に照らされて光る川を指差す。

川をさかのぼると、遠くに滝が見える。

なるほど、ごうごうと聞こえた音は滝の音だったのか。

どうりでデュランが魔物だと思ってびくつかないわけだ。

「詳しいねぇ。よく来るの?」

ティアの問いにデュランは頷いた。

「僕の帽子、おしゃれだろう」

目をしばたいていたティアは頷いた。

まぁ、たしかに…。

デュランの格好に似合っている。

「この帽子に似合う花を摘みに行くのが、僕の毎日の日課なのさ」

ふふん、と笑うデュラン。

レンポがいたら弱いくせによくやるよなぁ、などといいそうだ。

「魔物とかよくいるんでしょ?平気なの?」

ティアに別に悪気はなかった。

デュランが弱いことは事実であり、ティアのほうが強い。

「ん、まぁ。最近は魔物も増えてきてちょっと危ないけど…。これが僕に一番似合う花なんだ。その為にも強くならなくちゃね」

そして少ししみじみした声で言った。

「昔僕に花をくれた女の子がいてね。その花が…」

デュランが指差した。

「この白い花なんだ」

ティアが指差された方向を見ると、白いゆりのような花が咲き乱れている。

「沢山あるんだね!」

花に駆け寄るティアの後から、頷くデュラン。

と、いきなり彼女が転んだ。

いや、花に本をぶつけている?!

「なっ、君…?!」

しかし、次の次の瞬間ティアは本を手に立っていて、花は何事もなかったかのように風に揺れている。

「あれ?僕疲れているのかな…」

コードスキャンは人に気づかれない。

確かにここでも証明された。

預言書のページにはちゃんとその花が描かれている。

覗き込んだデュランは名前を教えてくれた。

「ユウシャノハナというんだよ。僕にぴったりの花だよね」

そしてかがむと、優しく花を摘んでいく。

ティアが見ている中、デュランはユウシャノハナをリースのようにして帽子につけた。

森の中であったときと同じ格好となった。

「よし、それじゃ帰ろうか」

目標達成とばかりにデュランが言うが、ティアは動かない。

「デュラン、ありがとね。ここまでつれてきてくれて」

デュランは不安げにこちらを見ている。

「どうしたんだい、早く帰ろう?」

ティアは首を振る。

「わたしはこの洞窟に用があるの。だから一緒には帰れないの」

そしてデュランの持つ松明に火をつけてあげると、唖然とする彼をおいて洞窟へと入っていった。

「君なら、心配はないけど…僕は…はぁ」

デュランのため息が聞こえた気がした。





Re: アヴァロンコード ( No.39 )
日時: 2012/08/27 20:11
名前: めた (ID: UcmONG3e)

洞窟には言うまでもなく薄暗くて気味悪い。

岩肌に、ときどきムシが猛スピードで駆けていく。

松明を持っているので、剣は片手しか装備できない。

「不便だなぁ」

だなぁ、だなぁ…と洞窟内に反響する。

ティアはかろうじて悲鳴を飲み込んだ。

自分の声に、心臓が飛び出るかと思った。

「なにがだよ」

「?!」

ティアが一メートルほどさっとバックステップし、剣を構える。

松明まで構えている。

「オレだよ、オ〜レ!」

むっとしているのはティアの守護精霊レンポ。

もう眠くないのだろうか?

「なんだぁ〜。びっくりした…」

安堵のため息をつくティアに、それで何が不便なんだ、と聞く。

松明が邪魔で剣が装備できないことを使えると、簡単なことだと笑われた。

「剣を燃やせばいいんだよ」

「え?もやす?だってこれ鉄で出来てるから燃やせないよ」

工業的なことを口走るティアに無言で預言書を指差すレンポ。

「剣のページに炎のコードを入れてみろ」

言われたとおりティアの装備している剣のメンタルマップをいじくってみる。

鉄しかはいっていないところに、炎のコードを探してきて入れる。

すると、剣が輝きだした。

そして見る見るうちに剣自体が赤くなり、めらめらと赤い炎を燃やしている。

「すごい!」

もちろん柄はもえてはいないが、あまり熱くない。

松明のようにあたりが見えるので、これは便利だ。

「いろいろと試してみるんだぞ」

というと、また本に還ろうとした。

「えっ還っちゃうの!」

いうと、怪訝そうな顔をする。

「こんな洞窟、一人で抜けられるだろ?」

「いや、だってあの…心細いというか」

グスタフに鍛えられたとはいえ、それは剣術のみだ。

精神面は鍛えられていない。

薄暗い中、一人で歩くより仲間がいたほうがいい。

「オレは本当に消えるわけじゃねぇよ。必要なときに呼べって」

そして炎に包まれて消えようとしたとき、ティアがそれを静止した。

「この洞窟…抜けるまでに眠くなったらどこで寝ればいいの?」

よく考えれば、そのことを考えたこともなかった。

魔物がいるだろうし、高いところなどない。

地面に転がって寝るのはけっこう痛そうだ。

「どこって…おまえ、ここで寝る気か?」

「洞窟で迷ったら…徹夜で歩いたほうがいいかな」

洞窟で眠るなど経験がない。

レンポはしおりにもどって眠るし、ティアも野宿はしたことがない。

草原で寝転ぶのは日課だが、このような岩だらけでごつごつしたところに寝るのははじめてである。

「…とりあえず先に進もうぜ。出口は意外と近いかもしれない」




Re: アヴァロンコード ( No.40 )
日時: 2012/08/30 03:56
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「…」

二人はしばらく無言でいた。

目の前は、壁。

いや、壁ではなく岩である。

つまりは行き止まりだ。

預言書に視線を落とすも、ティアの行った所しか記録されないそれには出口など書き込まれていない。

「ハンマーがあったら、もし、あったら壊せるのにね…」

疲労感よりとんでもないことを口走るティア。

ハンマーで崩したとしても、その先に空の広がるところがあるわけでもないのに。

「おまえ…そうとうキてるな」

そんなティアをしげしげと眺めながらレンポが言う。

けれどティアも負けじと言い返す。

行き止まりの壁を見ながら。

「…さっきレンポも、試しに燃やしてみるかって言ったくせに」

体力の問題ではない。

精神力の問題である。

そのまま黙り込むかと思われたとき、ティアの手から剣が片方滑り落ちた。

音がして、火花が飛び散る。

「おい、おまえ…」

そろそろ限界なんじゃねぇか?、と彼が言う前に、ティアはしゃがみこんだ。

「あれ、わたし…かがもうと思ったのに」

かがんで剣を掴もうと思ったけれど、ひざの力が抜けてかくんとしゃがんだティア。

目を真ん丸くして驚いているが、もう限界らしい。

「ん、っとと?」

黙ってみている守護精霊の前で、壁に手をつきながら立ち上がろうとするが、どうにも力が入らない。

苦戦するティアに、レンポは静かに告げた。

「いいから、すわれ」

すーっと近寄ってくるレンポに、ティアは困ったような顔を向けた。

そんなティアにレンポは続けた。

「おまえはもう体力面でも精神面でも限界が来てる」

そして後ろを振り返って魔物がいないかどうか確かめる。

暗闇は、ティアの周囲を飲み込んで、黒々と染めている。

「せめてもうすこし、ましなところを…」

そうため息ながらいうと、暗闇を一気に照らすような炎を放った。

ティアが少しでも快適に眠れるところを探すためだった。

その光景はティアがおどろいて、息を呑むほど。

ティアの影が消えてしまうほど、明るい炎は洞屈中を真昼のように照らし出した。

「!!」

はるか遠くまでとどく炎のおかげで、こんな洞窟の中、柔らかな草が生えているところが見えた。

「おっ、あそこがまともそうだな!」

振り返ってティアにたずねる。

「おまえ、まだ動けるか?」

すさまじい炎に驚いていたティアは、かろうじて頷いた。

せっかく、見つけてくれたのだから、せめてその場所で力尽きよう。

「よし、じゃあいこうぜ」

Re: アヴァロンコード ( No.41 )
日時: 2012/08/30 04:32
名前: めた (ID: UcmONG3e)

こてん、とその草の上に身を落としたティアは、ふうーと息を吐いた。

「少しは…ましか?」

レンポが首をかしげて聞いてくる。

ティアはちょっと驚いたが、うんと頷いた。

「ありがとう、これならすぐ眠れそう…」

そして閉じかけた目をハッとして開く。

寝ちゃっていいのだろうか?!

「だいじょうぶ、安心しろ!オレが見張ってるからな」

その物憂げな表情を読み取ったのか、レンポが反応した。

預言書を抱えて、けれどまだちょっと心配そうなティア。

「なんだ、不安か?」

気を悪くした用にレンポが言うので、ティアは首を振った。

「じゃあ、なんだよ?腹でも減ったのか?」

見当ハズレなので、またも首を振る。

髪がなびくほど、強く左右に。

「寒い…わけでもないよな?あ、熱いか?」

すっと身を引いていくレンポにティアは困ったように笑った。

「そうじゃなくて…力をさっき使ったでしょ?レンポは眠くないの?」

ティアの質問に、レンポは数秒黙っていた。

「なんだ、そんなことか…。あんな力で疲れるようなオレじゃねぇよ。あんなの百万回やったって疲れるもんか」

そう冗談なのか本気で言ってるのかわからないことを言うと、ティアもそれ以上は言わないことにした。

「だから、おまえはさっさと寝て、元気になれ」

レンポの言葉にうなづくと、見張りは任せて目を閉じた。

「おやすみ…」

眠りにつくほんの数秒の間、明日はちゃんと、洞窟から出られたらいいけど、と考えていたティアだった。



Re: アヴァロンコード ( No.42 )
日時: 2012/08/30 05:00
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアが眠ってしまうと、レンポは一人になった。

けれど怖いなど思わない。

暗闇を好戦的な態度で見回す。

魔物が出てくれば、即燃やしてやる。

と、最初の魔物がやってきた様だった。

ティアのすやすやいう寝息につられて、無防備ところを襲うつもりなのだろう。

牛のバケモノが、手に斧を持ってやってくる。

ティアの身長の2倍のバケモノだが、レンポは鼻で笑う。

「コイツを襲うとどうなるか、わからせてやるぜ」

そういうと、空中に浮き上がり、バケモノめがけて左腕を大きく振る。

炎の槍が魔物めがけて飛んでいき、魔物は何が起こったか理解できぬ間に焼き尽くされた。

後には何も残らず、斧でさえその存在を失った。

後に控えていた仲間の魔物たちは立ち往生するかのように一歩下がるが、かまわずそれらにも炎の雨を注ぐ。

もう襲ってこようがなんだろうがムシだ。

視界に捕らえた魔物はすべて焼き尽くすことにした。

そうするほうがティアに危険が及ばない。

預言書に認められたティアは守らなくてはならない。

「まったく、このか枷がなけりゃあなぁ」

雑魚ばかり群がるこの場に枷のない自分がいたら、一瞬ですべてを終わらせられたのに。

ほぼ一掃し終えたレンポは、力温存のためティアのそばに降り立った。

ティアは相変わらずレンポの言葉を信じ、安心して眠っている。

預言書とティアと自分の枷をみながら、仲間である雷の精霊が言ったことを思い出す。

それは数千年前の、この世界が作られる前の話。

『この枷ははずせねぇのか』

と聞いたことがあった。

何でも知っている雷の精霊は、一つだけありますという。

『預言書に選ばれたものによって解放してもらえばいいのですよ。けれど、誰もその方法を知らない。ただ、我々を解放できるのは、預言書を持つものだけなのです』

そして悲しげに最後、彼は眠りに着く前に言った。

『けれど今までそれを成し遂げた預言書の持ち主はいません。残念ですが…あなたの腕はそのまま…我々も縛られ続けたままでしょう、永遠に』

「やっぱり、オレはこのまま…か」

彼にはめずらしいネガティブ発言だったが、誰もその珍しい光景を知るものはいない。

Re: アヴァロンコード ( No.43 )
日時: 2012/08/30 14:00
名前: めた (ID: UcmONG3e)

多分もうすぐ朝日が昇る頃だろう。

精霊にも体内時計というものがあって、そんなことを直感する。

ティアは座ったまま眠り続け、今もやはりそのまま。

その様子を見ながら、ほぼ最後あろうと思われる魔物を焼き尽くした。

夜から朝まで魔物と退治したレンポは、正直余り疲れてはいなかった。

精霊と言うのは預言書とのつながりが深い。

預言書の持ち主とのつながりも深く、ティアが疲れていればその分力は出しにくくなるが、元気でいればその力を枷で縛られている限界まで出すことが出来る。

しかしそれもこの枷が有効な場合のみだ。

もし仮に、枷が外れたとすれば、本来持っている力すべてを思うまま使いこなせる。

それはティアが疲れていようがいまいが関係ない。

自分の思うまま、意のままになる。

洞窟は相変わらず暗くて、少しだけほんのりと輝く部分がある。

ヒカリゴケだろうか。

太陽の届かないこんな洞窟の中で光るなんて不思議だ。

そう思い、ティアをおいてそこに近づく。

空中を滑るように移動して目当てのものを目の前にする。

やはりそれはヒカリゴケであった。

きらきらと緑色に光っている。

「なんで、ひかって…」

そしてハッとする。

そのさらに細い道の奥にはもっと沢山のヒカリゴケがいた。

どれもひかっている。

「このどっかに出口があんのか?」

強い光を放つヒカリゴケを追っていくと、ついに見つけた。

解き放たれたようなまばゆい太陽の光が、レンポを照らす。

四角く切り取ったようなその景色は壮大で雄大だ。

森は朝日のためにあかくそまり、真向かいの山脈からはもうすぐ太陽が出てくる。

フラミンゴたちが空を飛んでいき、かぜは優しい。

やっと出口を見つけたのだ。


Re: アヴァロンコード ( No.44 )
日時: 2012/08/30 18:29
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ぼうっとその美しい景色に見とれていた彼は、なんとなく気配を感じた。

眉をひそめて見回すも、その姿を捉えられない。

もしかして、ティアか?

そう思って、くるりと方向転換するとティアを探しに洞窟へ戻った。

ヒカリゴケの道を戻り、ティアが眠る場所へ近づく。

ティアはまだ眠っていた。

その腕に抱かれた預言書は、今にも滑り落ちそうになっている。

「あいかわらず、呑気なヤツだぜ」

そういうと、んっとティアが動いた。

数秒して目が開く。

レンポと目が合って、数秒。

「やっと起きたか—」

が、呼びかけるがティアはもう一度目を閉じて眠りだした。

「?!」

何だコイツ!とばかりにレンポが目を見開く。

一度起きたよな、コイツ!

目が合ったのに寝やがった!

しかし相変わらずティアは幸せそうに眠っている始末。

最初冗談で寝てるフリでもしていたのかと思ったが、そうでもないらしい。

本気で寝てるのだ、ティアは。

それがわかると、レンポは息を吸い込んだ。

「起きろ!!ティア!!」

叫ぶと、ティアが顔をしかめて意識を取り戻す。

片目を開けてうるさいなぁと言う顔をする。

「まったくこの寝坊すけが!いつまで寝てるきだよ!」

けれどティアは今井に状況が飲み込めず、目をごしごしとこすっている。

朝食はぁ?などと言いそうな始末だ。

「ん、なんだ?何かいいたいのか?」

ティアが目をこすり終えて見上げてくる。

本当に朝食を要求されるのかと思いきや、ティアが言ったのはこの一言。

うるさいよ、もう!などではなく、今何時?でもなく。

「おはよう」

「!」

そして盛大に伸びをするティアに、すっかり拍子抜けしたレンポはもう怒るのをあきらめた。

(何考えてるのかわからんヤツだ)

やれやれと首を振ると、洞窟の出口を見つけたことを教える。

そして二人して洞窟を後にした。

Re: アヴァロンコード ( No.45 )
日時: 2012/08/30 18:45
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアが洞窟より出たとき、ちょうど真向かいの山脈から朝日が出ていた頃だった。

その景色の美しいこと…先ほどレンポが目にした光景より美しかった。

朝日が森を真紅に染め、雲を赤く染める。

心地よい風に舞う草の葉も、いまは緑ではなく赤だ。

「すごい…さすがは太陽の棚」

ティアが言うが、レンポは首をかしげる。

太陽の棚?

なんだそれは、聞いたことないぞ?

察したのか、うれしそうに説明する。

「カルカゾス洞窟を抜けたここは、太陽の棚と呼ばれていてその眺めは世界一美しいんだって。綺麗だよねー!」

言うが、レンポは黙っている。

「?」

ティアはどうしたんだろうと横をむく。

レンポは不満げに辺りを見回している。

何か気に入らないらしい。

「どうしたの?」

聴いた瞬間、ハッとしたレンポの声が響いた。

「ティア、あぶない!」

Re: アヴァロンコード ( No.46 )
日時: 2012/08/31 14:39
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアは目の前に何か飛んでくるのがかろうじて見えた。

それは円形で奇妙なもの?

横に避けて、その塊を凝視する。

その塊は太陽の棚、先ほどまでティアが突っ立っていたところに着地した。

「?」

その塊は太陽の逆光により、余りよく見えない。

黒ずんだそれは、とにかく巨大。

横にも縦にも巨大で、手には巨大なハンマーだろうか、槌を持っている。

なにもかも巨大であった。

「レンポ…なに?」

精霊には見えるだろうかと、聞いてみたが返答はない。

ただ好戦的な目で相手をにらんでいる。

敵か見方か、わからないのだろう。

けれどそれは唐突にこう告げた。

「人間よ、またルドルドの森をあらしにきたか!」

そういうと、ティアにハンマーを突きつけた。

太陽の逆光に慣れてきて、ようやく顔が見えた。

目は人のものではなく、赤茶一色。黒目はない。

よく日に焼けた肌は筋肉質で、草で作った服からりゅうりゅうと盛り上がっている。

茶色のもじゃもじゃした髪は野生的で、羽飾りのような長く尾を引くものを頭につけている。

けれど観察している暇はなかった。

「気をつけろティア!」

ハッとしたときにはもう遅く、ハンマーを振り回した謎の大男は襲い掛かってきた。



そしてキツイ異臭がする。

Re: アヴァロンコード ( No.47 )
日時: 2012/08/31 15:32
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「きゃあ!」

ハンマーの攻撃を間一髪で避けたティアは恐ろしさに目を見開く。

人に似た筋肉質男はかまわずハンマーを軽々と持ち上げて地面に穴を開けている。

「大丈夫か!」

レンポが言うが、答えられない。

またもや、大男の一撃が襲ってきたのだ。

ティア目がけ振り下ろされたハンマーを、いっ回転してかわす。

が、大男も考えたもので、横蹴りを放ってきた。

前転途中で足に受けたティアは、痛みに顔をゆがめる。

そして立ち上がり、剣を構えた。

戦わなくては…殺されるかもしれない…。

そんな生存本能がティアの中で鎌首をもたげた。

構えた剣はメラメラと勢い盛んに燃えている。

その炎を見て、大男も目つきをさらに鋭くする。

大男はハンマーを肩に担ぐと、威嚇するような声を放つ。

「ぬん!」

そう一声叫ぶと、ハンマーを振り回し始めた。

「!?」

わけがわからず、とまっているティア。

目の前で大男がコマのように回っているのだ。

と、突然ギュンッとこちらに向かって飛んできた。

ハンマーの遠心力を使ったものだろう。

手で振り回し、足で踏ん張りつつ、ハンマーを行きたい方向に向けてから両足を離す—。

さすれば重いハンマーは遠心力で力を増し、大男の体ごと吹き飛ぶと言うわけだ。

けれど感心する暇はない。

その凄まじいスピードに避けきれず、双剣でガードする。

剣が折れてしまうのではないかと思うスピードで激突してきた大男。

その質量はとんでもないもので、とてもじゃないがティアの力ごときで抑えられるものではなかった。

そのまま大男と共に後方へ吹き飛び、岩に全身を打ちつけた。

「ティア!」

守護精霊である彼は空中より叫んだ。

力になってやりたいが、そうにも行かない。

守護精霊たるもの、主人の命令なしでは手助けできない。

それもすべて預言書の鎖である、枷のせいだ。

枷さえなければすぐにティアを助けられるのに。

クモの時のように力を見せることが出来るのは一度のみ。

昨夜の魔物の退治のように、願ってくれるまで、それか預言書に手出しをしようとしたときのみだ。

しかし、岩に叩きつけられたティアも、やられっぱなしではなかった。

懇親の力で、いや彼女の生存本能が力を与えたのか、双剣をクロスさせ、思い切り大男の体ごと剣で突き飛ばした。

ぬおっ?と驚きの声を上げる大男。

ティアはかまわず男に攻撃を仕掛ける。

むしろ、男のハンマーを壊そうとしている。

振り回そうと掲げれば、足蹴りをして転ばせ、ずっしりと重いハンマーを破壊しようとする。

けれどもどうにも壊せない。

白色のハンマーは鋼鉄も跳ね返す不思議な武器だった。

困ったティアはそばを飛び回る精霊を見上げた。

「レンポ!ハンマーを燃やして!」

ティアが叫んだので、レンポは返事一つ、即座に燃やした。

あれほど壊れなかったハンマーが灼熱によりぼろぼろと崩れる様を見て、大男は悲鳴を上げる。

そして熱いのもかまわず炎を消そうと必死になっている。

「へ!そんなことやったって消えるわけねぇだろ!」

土をかけて消そうとする男の姿を見て、ティアはレンポに炎を消すように願った。

不満げに炎を消し去ると、レンポはティアの元に降りてきた。

預言書のそばで、注意深く見守っている。




Re: アヴァロンコード ( No.48 )
日時: 2012/08/31 15:58
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「くっ…」

焼け爛れたハンマーの前にひざまずく大男。

失意と悔しさの混じる心境のせいで、こぶしが震えている。

素手でだって戦えるが、長年愛用してきた武器が人間の、しかもこんな弱そうな小娘に壊されたのでどうにもやるせなかった。

森の番人と言われた男が、ハンマー一つでこうも戦意を失うなんて。

目の前の少女はタダ黙っている。

剣を構えているが、じぶんにとどめを刺す気はないのだろうか?

それどころか、その剣が解けるように消えて代わりに赤表紙の本が表れた。

そしていきなり壊れた武器に向かって本を押し付け…いや、見間違いだったのだろう…。

しばらく本を開いていた少女だったが、笑顔で微笑んだ。

「大切なものだったんでしょう?壊してしまってごめんなさい」

そういった瞬間、目の前の大切な武器が輝きだした。

水色の光が覆うと、閃光の合間に無事な姿のハンマーが見えた。

大男は信じられず、ハンマーを指でなぞった。

それが本物であるとわかると、素早く手に取った。

何もかも以前と同じ。

「人間よ、おまえは何故武器を治した?おまえを負かそうとするのに?」

大男は不思議そうに少女に言った。

何故だろう、密猟者などとはちがった人間だ。

「だって…大切なものだと思ったから。それに…もう戦意みたいなのを感じなかったし、悲しんでいたから」

大男はタダ黙って少女を見ていた。



Re: アヴァロンコード ( No.49 )
日時: 2012/08/31 16:33
名前: めた (ID: UcmONG3e)

目の前の男が黙るので、ティアも黙っていた。

けれど、大男は立ち上がって地面のハンマーに手を伸ばす。

途端にレンポが身構えるが、ティアは落ち着いていた。

ベルトにハンマーを戻すと、大男はティアのほうを向いた。

「おまえからは邪気を感じない…」

するとレンポが不機嫌そうに叫んだ。

「最初から感じてねぇ癖に!」

するとまるでそういう気配を感じ取ったかのように大男は叫び返す。

「ルドルドは肉体を信じる!肉体で聞き、肉体で感じる!」

ビックリしたのはティアたちのほうだった。

二人して顔を見合わせ、精霊が見えるのだろうかと思っていた。

けれどそういう気配を感じ取っただけで、本当は見えていない。

「よき人間よ、このルドルドに何かようか?ルドルドは森の番人。聞きたいことがあってきたのだろ。よき人間には答えてやろう」

ルドルドという大男は察しがよいようで、ティアは早速質問した。

「精霊を探しているんです」

レンポはミエリという精霊について性格と名前だけしか教えてくれていない。

なので情報と言えばこれくらい。

森の番人ならば何か知っているかもしれないが…。

けれど、ルドルドは首をかしげる。

「? わからないが、森から強い力を感じる」

そういてうっそうと茂る長い森の群れを指差した。

「それだ!」

森、と言う言葉に反応してレンポが声を上げる。

そういえば、ミエリは森の精霊だといっていた…。

「きっとミエリはそこにいる!」

けれど、ルドルドは森を指差しながらにやっと笑った。

日に焼けた顔の中、歯だけが真っ白い。

「だが、崖があって行くことができない」

ティアの横でレンポが眉をひそめた。

ティアだけなんだか話についていけていない気がした。

「じゃあどうやって行くんだよ!」

レンポの言葉をやわらかく伝えると、ルドルドはふんっと鼻で笑った。

真横の守護精霊がイラッとするのを感じる。

「簡単だ。とんでいけばよい」

ルドルドの言い分に、ティアでさえ目を丸くした。

とぶ、とはつまりどういうことだ。

鳥のように飛ぶのか、崖を飛び越えるほうの跳ぶのか。

ティアの想像では後者であるが…。

それほどの崖、崖と呼べるのか?

「とべるかよ!」

「とんでいくのだ!」

すかさずレンポが言うが、またも敏感な森の番人は感じ取ったようだ。

会話のように聞こえる。

「でもどうやってとぶの?」

ティアの無邪気な質問に、ルドルドはハンマーを手にした。

Re: アヴァロンコード ( No.50 )
日時: 2012/09/02 16:41
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ルドルドはティアに直してもらったハンマーを掲げて見せた。

ティアもレンポも黙ってみている。

けれど、おそらくやることはわかっていた。

先ほどのルドルドとの戦闘最中、ルドルドが使った技だろう。

ハンマーを振り回し、遠心力を使って吹き飛ぶと言う人間離れした業。

レンポはティアを見た。

こんなヤツがあの業をできるのか?

ルドルドが目の前で先ほどのようにコマのように回っている。

ぐるぐる回転がまして、行きたい方向に吹き飛ぶ。

何度見ても人間離れしている。

(というか、こいつ人間じゃねぇな。ドワーフ…かそこらだろ)

この場に雷の精霊がいたら説明してくれただろう。

けれど他の精霊もいまは封印されて眠っている。

四大精霊は天地創世のために必要だが、逆に滅びのときにも必要な存在である。

世界を創り、世界を壊す。

預言書に導かれたものが世界をかたどり、それに精霊の力がくわわって
初めて次の世が満ちる。

永遠に繰り返されるのだろう、やがて来る正しき日に至るまで。

数千年前の、前の世界を壊した精霊たちは、崩壊の後、預言書のページと共に散らばり、美しき世界を創った。

そして世界が滅ぶときに目覚める。

いつも最後に眠り、最初に目覚めるのは預言書を守る役目にいる炎の精霊だった。

彼のいつも言う、俺が一番スゲェぜ!と言う言葉はけして過言ではない。

預言書を守る精霊は、強くてはならない。

最後に世界を滅ばせる炎が背負った役目であった。

森、氷、雷が新世界に影響を与えに飛んでいく中、預言書と共に天地創世が行われる場所に残るのは炎の精霊。

そこで眠り、そこで目覚めるのだ。

「できたよ、できた!」

物思いに沈んでいたレンポは、そのうれしそうな声に我にかえる。

みれば、ティアが預言書より引っ張り出してきたルドルドのハンマー片手にけっこう遠くのほうにいる。

「よくおまえ、預言書からハンマーを出せたな。やり方教えたっけ?」

そういうと、きょとんとするティア。

首をかしげてうなづく。

「剣と同じように取り出せばいいの?ってきいたら頷いてたけど…」

上の空だったため、何にも覚えていない。

「へへ、そうだったか?」

ティアがルドルドに近づき、お礼を言う。

ルドルドはよき人間ならば、こんなこと教えるのはたやすいといっていた。

ルドルドと戦って、飛べるようになった今、太陽は真向かいの山脈より完全に出きっていた。

「あの森は生命力、高い。美しいところだ」

だが、ルドルドは浮かない顔だ。

ハンマーの柄を何度も握りなおしている。

「だが、行くのなら気をつけろ。最近、森に変なバケモノが住み着いた」

「バケモノ?」

鸚鵡返しのようにレンポが聞き返す。

ティアも同じようにつぶやく。

するとルドルドは頷く。

「ふつうではない。いろんな体が混じる、そんなバケモノがいる」

キメラという単語を知らないのだろう。

ティアはファナのおとなりさんのひ弱な小説家、カムイのおかげで知っていた。

本に費やすお金はないが、いつも書きあがった原稿を読ませてもらって
いる。

それは勇気ある健康な青年の冒険の話であることが多かった。

きっとなりたい自分を主人公にしたのだろう。

「このごろは世界が不安定になってきてるからな。そんな化け物が生まれてもおかしくはない」

レンポはいうと、ティアに向き直った。

ルドルドは精霊の気配を感じ取っているため、ティアが独り言、もしくは幻聴を聞いているとは考えていない。

彼がもっと賢ければティアを狂人だと思っただろうが、肉体を信ずる精
神の持ち主の彼は戸惑いながらも受け入れていた。

「飛べるようになったし、いよいよミエリとのご対面だな!……前にも話したが、オレたち精霊は4人いる」

覚えているよ、とティアが相槌をうつと、レンポは先を続けた。

「オレ以外の精霊はみな封印されている。解放できるのはおまえだけだ」

数千年前世界を創ったときに、散っていった中間達。

今はその地でそれぞれ眠っている。

人に利用されて、魔物をその強力な力で封印している場合もある。

その場合は少なくはない。

「新しい世界を創る…今はまだピンこないだろうがおまえなら必ず出来る」

激励してやれば、まだ自分の運命を飲み込めていないティアも頷く。

預言書は持ち主の運命を変えてしまう力がある。

その力は持ち主どころか世界の運命さえ変えてしまうことを、この小娘はわかっているんだろうか?

まぁいい、とレンポは明るい声で続けた。

「まずは、他の精霊を解放していこうぜ。次の世界を創るためにはどっちにしろ、俺たち四大精霊の力が必要だしな。オレたちの冒険は、次の世界の神話なんだ。おまえ、神様になるんだぜ?」

「わたしが?あの、神様?」

気後れするティアは、目をしばたいている。

それだけ壮大なのだ、本人に自覚がなくてもおかしくはない。

もっと邪心があるものなら、神となることを強く望むだろう。そっちのが危ない。

(ま、これくらいのヤツが神様になんのが一番いいんだけどな…)

私が神様かぁ、などとつぶやいて眉を寄せているティアに締めくくる。

「預言書がある限り、全てはうまくいくさ!」

Re: アヴァロンコード ( No.51 )
日時: 2012/09/02 16:42
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ルドルドはティアを自分の家に招待したが断られた。

「ごめんなさい、私は先を急がないといけないんです」

若いながらも凛々しい表情でそう告げたティアは、ルドルドにあやまった。

「きにするな。またいつでもルドルドを訪ねてくるといい」

簡単な挨拶を済ませ、ティアが崖のほうへ歩いていこうとターンする直前。

犬のうなるような音がした。

「おい!何でこうなるんだよ!」

文句を言うレンポは、今ティアとともにルドルドの家である洞窟にいた。

洞窟といっても、荒っぽいつくりではない。

森にあるものだけで作られた巨大なベットと、通常のベット。

棚は壁に木をつきたてて立てかけたもので、けっこう丈夫そうだ。

もちろんキッチンなどの現代設備はないが、代わりに石で作られた炉があって、今は火が消えているがそれなりに暖は取れるだろう。

肉や魚を焼くのも出来そうだ。

生活力はとても高そうだ。

けれど椅子やテーブルは、ない。

なのでティアは、差し出されたスープを地面に直接座って食べていた。

「おねえちゃん、昨日からなんにも食べてないんでしょ?」

ティアの正面にすわるはルドルドの息子、ギム。

ルドルドのようにむさ苦しくはなく、母親似なのだろう赤毛を後ろで縛っている。

緑の大きな目は好奇心いっぱいで、服装に関してはルドルドと同じで草木の服だった。

「ねぇ、食べ終わったら街のこと教えてよ!」

ギムはティアにおかわりの森のスープを手渡してねだった。

そんな様子をあきれたように眺めるレンポ。

しかし思えば、ティアは昨日から何も食べていない。

しいて言えば、お菓子程度のパンをファナという娘のお見舞いお礼としてもらっただけだ。

「レンポはホントにたべないの?すっごくおいしいのに!」

二杯目のスープを飲み終えて、ティアが顔を上げる。

満腹になって、しあわせそうな顔だ。

「オレたち精霊は食わなくてもいいんだって…何回言わせるんだよ!」

精霊はものを食べなくてもいい。

生命エネルギーはこの世が何度繰り返されても尽きる事はない。

「おねえちゃん、さっきから誰と話してるの?なんか、いる?」

ルドルドのようにまだ鋭い感覚をもたないギムは、精霊の気配がわから
ず困惑している。

「あ、うん。そこにいるの、ほら!」

空中に漂うレンポを指差すティアだが、ギムには見えない。

ティアの指先を熱心に見ているが、なにも見えてないらしい。

不思議そうにふうん?と首をかしげている。

レンポは仕様がないので炉に向かって軽く腕を振った。

と、ボッと炎が沸き立って、目を見開くギムの目の前でめらめらと燃える。

「レンポは炎の精霊なの。今のはレンポがやったんだよ」

ティアがそういうと、ギムは息を呑んで再び空中を凝視する。

何か気配を感じたように目を流している。

Re: アヴァロンコード ( No.52 )
日時: 2012/09/02 18:17
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ギムに町の話をしたティアは、ギムが森にではなく人の多い文明の発達した街に興味があることに気づいた。

なぜだ、と聞けばギムは、「死んだ母さんが街が好きだったからだ」と言った。

「けど父さんは教えてくれるどころか逆だよ!何にも教えてくれない。教えてくるのは…森のことだけなんだよ」

うんざりするように言う。

その表情は、人間と同じ反抗期を表している。

それからしばらくして

「今日はありがとう。また忙しくない日に、街の話をしてよね」

ギムはうれしそうにティアに言った。

ティアも「スープありがとー」と手を振る。

いつまでも後ろ向きに手を振るティアにレンポはやれやれと首を振った。

「危なっかしいからちゃんと前を—」

いいかけて目の前でティアがバランスを崩す。

崖が途切れて森の木々の巨大な枝が広がるところに出たのだ。

「あっ!—っとと?」

後ろ向きに転びそうになったティアは背中を急に支えられて目を真ん丸くした。

人肌ではなくなんとなく無骨な感触。

最初レンポかと思ったが、彼は空中で今までのいきさつを眺めている。

ではこれは?

振り向くたくましい木の幹。

見たこともない巨大で、みずみずしい幹。

気づけば、足元も岩場でなく木の枝だ。

枝といっても4メートルほど幅広い巨大なものだ。

「まったく、これでわかったろ。前を見て歩けよ!」

ふうっと安堵のため息をついたティアの目の前に降下してきたレンポがそういう。

この様子は微塵も心配してないような…。

「…どうした?あぁ、この木か」

ティアがだまってあたりを見回すので、レンポも頷いた。

緑の木々がびっしりと生えそろっている。

幹は太く、葉は自らが発光してるかのように薄暗い中で緑に光っている。

その輝きは蛍のように淡い。

「この森に、ミエリがいる。だからこんなに生命力にあふれてるんだ」

吹いてくる風も、どこか優しく心地よい。

精霊の恩恵を受けたこの森は、生き生きとしている。

「それじゃ、いこっか」

早く行こうぜといわれないうちに、ティアは連なる太い枝をジャンプして進んでいった。

Re: アヴァロンコード ( No.53 )
日時: 2012/09/02 18:46
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「ここが問題の崖か」

木々の枝をわたり、今目の前に広がるのは森の中間なのだろう場所に、7メートルほどの崖がある。

ティアのたっている木の枝からほぼ平行で、崖の先にはさらに生命力を増した森が広がっている。

「よし、さっさと飛ぶぞ!」

レンポは簡単そうに言うが、ティアは喉を鳴らした。

しかし怖気づくわけには行かない。

緊張して心拍数が上がるが、ハンマーを構えた。

預言書から取り出した武器は、どんなものでも扱えるようになる。

そのおかげでティアの体につりあわない巨大ハンマーは軽々とその手に収まっている。

ハンマー投げの原理でぐるぐると振り回すティア。

そして回転する視界の中で崖を捕らえると、さっと足を地面から離した。

途端にハンマーに引っ張られて空中に踊りだす。

見る見るうちに崖が近づき、浮遊感が消えていく。

ハンマーを片手でふると、その場に着地することが出来た。

崖には青々と茂る草花と芝。

着地の衝撃は少なかった。

「無事にいけたな!」

後からついてきたレンポが、ティアに言う。

ティアはうれしそうにレンポを見上げようとしたが、視界はぐるぐると回っている。

守護精霊を視界に捕らえても、空と地面が混ざって気持ち悪くなる。

「おいおい、目でも回ったのかよ」

あきらかに心配するというより、面白がる口調に聞こえる。

「うわ…ぐるぐるしてる……。これ以上崖がないといんだけど…」

ティアは吐き気をこらえてハンマーを握り締め、深い森の中を歩いていく。

先ほどのように木の上を進まないので、目が回った状態で落下すると言うことはない。

それは幸いだった。

「そういえば、気をつけておけよ」

言われるが吐き気がして答えられない。

視線だけは合わせておく。

「キメラが出るらしいからな」

うんうん、と頷いてさらに吐き気が増す。

預言書を開いて、ハンマーから慣れている剣に装備を変えた。

ハンマーのほうが威力がありそうだが、なれない武器は持たないほうがよい。

剣を両手に森を歩いていった。

Re: アヴァロンコード ( No.54 )
日時: 2012/09/03 00:45
名前: めた (ID: UcmONG3e)

三十分ほど歩いていると、急に視界が開けた。

木々の間から一歩づつゆっくりと歩み出る。

目の前にあるのは広間。

そして広間のすぐ奥に、今までと比ではない巨大な神木が立っている。

神木は根元付近にうろのような穴が開いており、どうやら中には入れるらしい。

この神木は“西の巨木”といわれていて、どの木よりも古くから立っている。

もちろん、これと対になる“東の巨木”もあるのだが、それはまた、もうじき出会うこととなる。

「…確かに感じるぜ!この木の中にミエリがいる!」

ティアと黙って巨木を見上げていたレンポは木のうろを指し示した。

ティアは頷いて足早にうろ目指して広間の草の生えない砂地を歩いていく。

(森の精霊、ミエリ。名前からして女の子かな)

そんなことを考えて進んでいくと、ふと足が止まった。

足が止まるのとレンポがとまるように手を伸ばしたのは同じタイミングであった。

ティアにでもわかる嫌な感じ。

狙われているような、そんな感じだ。

「もしかして?」

「ああ、おそらくキメラだろう」

忘れかけていたルドルドの忠告。

それが今になって思い出され、その気配が感じ取れる。

ざり、ざりっと足がジャリを踏みしめる音が聞こえてくる。

それも前方、木のうろから。

薄暗いうろに、黄色の目が浮かび上がる。

獣の目だ。

しかし、続いて浮き出た目の数は合わせて6つ。

ぎらぎらする真っ赤な目と、やはり同じく赤い目だ。

「目が…6つ?!」

ティアの声を合図に、キメラが闇から出てきた。

その異形の姿はまさに混合獣。

ギリシャ神話にある、キマイラそのものだった。

頭は三つ。

左から ヤギ、ライオン、竜。

体もライオンで、しっぽはサソリのそれだった。

「戦うしかねぇな。おい、飛び掛ってきた隙をついて攻撃するんだ。それまでうかつに近寄るなよ!」

一応は心配してくれたらしい、乱暴すぎる声でアドバイスを受けると素直にティアは頷いた。

Re: アヴァロンコード ( No.55 )
日時: 2012/09/03 01:35
名前: めた (ID: UcmONG3e)

キメラは獲物を見る目でティアのことをじろじろと眺め回していた。

そしてぐっと伏せると、いきなりばねの様に飛んで飛び掛ってきた。

ティアはそれを見越していたように、横に転がる。

そして剣で攻撃しようとするのだが、突然キマイラの三つある頭のうち竜の頭がギロッとこちらに妙な角度で首を向けた。

緑のうろこがてらてらとひかり、赤い口をあけたかと思うと光の玉が吐き出された。

本能的に当たるとマズイとわかったので、ティアは再び転がる。

立ち上がった頃には、キマイラはこちらに向き直っていた。

そして再び牙をむいて飛び掛ってくる。

「っ!」

危ないところで避けると、今度はけたたましいこの世の物とは思えない声がとどろいた。

ヤギの頭が咆哮をあげたのだ。

ギィヤオン、という掠れたおぞましい声。

その声がとどろいた直後、自分の足元が急に真っ黒くなった。

「?!」

避ける間もなく、黒い丸が真っ赤に染まりティアを封じ込めた。

動けなくなってしまったのだ。

上半身は動くが、下半身はまったく動かない。

赤い丸に固定されてしまい、キマイラがゆっくり近づいてくるのを黙ってみているしかない。

Re: アヴァロンコード ( No.56 )
日時: 2012/09/03 02:05
名前: めた (ID: UcmONG3e)

今現在、ティアは絶体絶命であった。

砂っぽい地面に倒されて、キマイラにのしかかられているからである。

キマイラの重い前足を双剣でガードしているものの、三つある首はどれも鋭い歯で噛み付こうとしてくる。

とくにライオンのするどい牙が並ぶ口が迫ってくると、ティアはルドルドを跳ね返したときのように力を込めた。

けれど、質量の比が半端ではない。

キマイラの重みに腕がしびれて痛み出す。

「おいっ、燃やすか?!」

頭上より、レンポが言う。

そうだった、とティアは心の中で思う。

精霊は持ち主が願わないと手を貸すことが出来ないのだった。

「燃やして!」

叫べば「よっしゃ!」とレンポが火を放つ。

ティアに当たらないように火の塊がキマイラの頭に直撃し、ティアから引き離す。

飛び上がって三つの頭に燃え移る火を前足で消そうとし、後退していくキマイラ。

ティアはお礼を言いつつさっと立ち上がる。

今のうちだ、と剣を構えて走る。

キマイラは火傷による痛みでまだひるんでいる。

そんなキマイラに剣で切りかかる。

三つの頭の中で一番厄介なヤギを切り落とそうとする。

動きを封じられては、また地面に組み伏せられてしまうだろう。

「たあっ!」

叫んで思い切り振りかぶるが、ヤギの首すれすれで何かが剣をはじいた。

「なっ…」

見ればサソリのしっぽ。

針の部分で剣を受け止め、はじき返す。

「これじゃ、全身凶器…」

焼け爛れた三つの目がにらんでくると後ずさったティア。

このキマイラは隙が出来ないのだろうか…。

どこが弱点なのだろう。

いまいちわからない。

『よいかティア。敵と戦うときは、弱点を探るのだ。弱点のない敵はめったにいない。おまえが気づかないだけでな』

剣術の師であるグスタフに、そういわれたことがある。

なので必死に弱点を探る。

けれど、ゆっくり考えられそうもない。

憎しみのこもるキマイラが攻撃を再開したからだ。


Re: アヴァロンコード ( No.57 )
日時: 2012/09/03 21:38
名前: めた (ID: UcmONG3e)

キマイラの怒りのこもった攻撃に、ティアは防御ばかりを繰り返していた。

攻撃を仕掛けようにも、構えを取ると再び襲ってくるのだ。

盾を持たないティアには、防御と攻撃を同時に行うことが出来ない。

「考えろ…考えろ…」

その間中ティアはぶつぶつとつぶやいていた。

サソリのしっぽが自分めがけて突っ込んできたときも、横に転がって「弱点…弱点…」と言っていた。

じっとりと汗のにじむ額にかかった前髪を払おうとしたとき、ティアの目にレンポが映りこんだ。

「!」

ついに弱点を見つけた。

見つけることが出来たのだ。

いきなり片手にハンマーを装備すると、ふりまわしてキマイラの顔面めがけてぶん投げる。

「グッ!」

あまりの高速にキマイラは避けきれず、みごとライオンの顔に命中した。

痛みの余り、脳震盪を起こしているようだ。

ふらふらとする巨体を前足でふんばって、かろうじて立っている。

その様子を確認すると、すかさず預言書を開く。

剣のページを開き、持っているだけの炎のコードをかき集める。

炎五つを剣に組み込むと、業火の剣が生み出された。

剣にまとう炎の量は先ほどの比ではなく、激しく燃え盛っている。

預言書の持ち主でさえ、熱いと感じるほどの熱量。

炎の色は真っ赤で、先ほど太陽の棚で見た朝日と同じくらい赤い。

「よし…これでっ」

ティアは脳震盪中のキマイラに突進する勢いで駆け寄った。

キマイラは調度、悼む顔面からハンマーを押しやり、充血した目でティアを捉えるところだった。

憎悪が膨れ上がっていると思えば、ティアの思ったとおり。

「! ッウゥ…」

ティアの剣の業火にひるんだように低くうなる。

「ほう、考えたじゃねーか」

上空よりレンポが言うけれど、立場が逆転した今、ティアは果敢に突っ込んでいく。

キメラは体勢を低くして高く跳躍し、ティアを飛び越えた。

飛び掛ってこないところを見ると、やはり業火が怖いのだろう。

一度レンポの炎に顔面を焼かれて、動物的危険本能が反応したのだ。

ティアのもつ業火の剣も、さらに凄まじさを増しているのでひるんだのだろう。

とにかく、振り返ったときキマイラは森の中に消えていた。

余りの唐突な逃走に拍子抜けしてしまうティア。

思わず構えていた剣をおろす。

けれどそれがいけなかった。

レンポの忠告の声に気づいたときには、もう真後ろをキマイラに取られていた。




Re: アヴァロンコード ( No.58 )
日時: 2012/09/03 23:23
名前: めた (ID: UcmONG3e)

背中に強烈な痛みを感じた。

そして、重量も感じ、ひざが持ちこたえられずがくんとつんのめる。

このままではヤバイ。

そう感じたティアは、痛みをこらえて身を反転させた。

地面にくず折れる前に、身をいっ回転させて自分に何が起こったか悟る。

キマイラにのしかかられて、背中だろう、噛み付かれた。

その証拠に、目の前に目をぎらつかせたキマイラの口があり、その歯からは血が滴っている。

そこまで深くはないのだろう、気絶するまでの痛みではなかった。

だが、仰向けの上体で咬まれれば、相当な重体になるだろう。

竜の伸縮自在の首が伸びてきて、組み伏せたティアの無防備な喉をその下で味見するようになめた。

そして一瞬で口をあけて首に噛み付く瞬間。

ティアは硬直して目をつぶった。

首が痛む、ひどく痛む。

だが、ぐっと一瞬咬まれただけで、その後ずるずると力が抜けていき、ティアの首を離した。

キマイラの体全体が同じようにぐったりと力を失っていく。

三つの頭が、ティアのすぐ横にぐたっと横たわった。

その瞬間、ティアもしばらく意識をたった。


「ティア!!おい、ティア!」

いくども名前を呼んだ。

巨木の前で、キマイラに押しつぶされているティアに。

キマイラは、どうやら死んでいる。

腹部から貫かれた燃える剣の切っ先が、その茶色の背中から飛び出ている。

三つの頭も息絶えていて、どの目も色を失っていた。

だがそれはどうだっていい。

問題なのは、ティアが起きないこと。

首と背中をかみつかれて出血していること。

そして一番重要なのは、精霊である自分はティアに触れられないので手当てすることも、安全なところへ運ぶことも、揺り動かして起こす事も出来ない、ということだ。

「っ…どうしろってんだよ」

叫ぶくらいしかできないので、レンポはいらだっていた。

どうにか自力で目覚めてもらうしかない。

けれど、もっと重大な怪我をおっていたとしたら?

誰かを呼びに行く?

ティアを一人に出来ない。

しかも精霊はふつうのヤツには見えない。

死んだらどうしよう、これ以上怪我が悪化したらどうしよう—。

もし、起きてくれなかったらどうしたらいい?

冷静に考えられず、とにかくティアに声をかけ続けた。

だが、その体はピクリとも動かない。

かろうじて呼吸をしているだけだった。




Re: アヴァロンコード ( No.59 )
日時: 2012/09/04 17:19
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアはなかなか目覚めなかった。

もう二時間くらい意識のない状態が続いている。

揺り動かしたり、水でもぶっ掛ければ、すぐに起きたかも知れないが精霊である自分には出来ないことだ。

ティア達預言書に選ばれし者は、持ち物として精霊に触れることが出来る。

それは精霊たちを縛る枷が外れた後も、そのままだ。

けれど逆に、精霊たち持ち物は主人である選ばれし者に触れることは出来ないし、主人どころか普通のもの、小石やテーブル、人間や魔物にさえ触れられない。

しかし、もし預言書の持ち主が枷を解放してくれたなら、すべてのものに触れられるし、枷による封印も解ける。

だが、未だに預言書の封印は有効であった。

なので、精霊たちは諦めていて、期待することもはるか昔にやめてしまった。

砂地に寝転ぶティアの首の傷の出血は止まったようだった。

もともとたいした怪我ではないので、傷口より少し盛り上がった血がかさぶたになり、少しずつ硬化している。

ただ、気になるのは背中の噛み傷。

キマイラに押しつぶされているため、よく見えないが、圧迫されているのは やはりよくない。

炎の塊で突き飛ばそうと思い、その辺の石や木で練習したのち、4回中2回成功と言う微妙な状態で試すことにした。

吹き飛ばずにキマイラが燃えるようなことになっても、ティアはただちょっと熱いと思うだけで怪我することはない。

「よぉし…」

言って枷のせいで見えなくなっている両腕丸ごとをキマイラめがけて伸ばす。

重しが邪魔だが、仕方がない。

両手からいつもより大きい炎の塊をいくつも出現させると、キマイラめがけて一つずつ突進させ始めた。

けれどティアが願っていないため、いつもよりぐんと威力が落ちている。

ティアが願わなくても、小手先程度ならなんとかつかえるのだ。

一つ目はキマイラの横っ腹にあたり、キマイラが少し斜めになる。

大航海時代の船と船とが争うたびに使われた武器、大砲の原理でキマイラに攻撃していく。

毛皮が石炭のように一瞬で黒焦げになった。

黒こげ部分を的にして立て続けにぶつけまくると、ついにごろりとキマイラの黒こげ死体がティアから離れた。

「ふぅー」

疲労がたまり、地上すれすれまで降下したレンポ。

地上から見ると、背中の出血も止まっているようだったし、たいしてひどいものではないようだ。

かえってキマイラが地面に圧迫したことで、止血されたのかもしれない。

まぁとにかくこれで呼吸も楽になっただろう、と安堵していると、幸いなことにティアが目覚めた。

Re: アヴァロンコード ( No.60 )
日時: 2012/09/04 17:51
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ハッと我に帰ったようにティアは飛び起きた。

地上に踏ん張ってたつティアは、怪我は痛くないのだろうか?ぴんぴんしている。

両手には剣から姿を変えた預言書が握られており、キマイラを呆然と見ていた。

黒焦げなせいもあるが、あんな魔物を自分の力で倒せたことに驚いているのだろう。

それとも、彼女は優しいから罪悪感を抱いてるのかもしれない。

「おまえ、二時間くらい気絶してたんだぞ」

言うと、はじめてティアがこっちを見た。

キマイラ退治の事で頭がいっぱいだったのだろう。

「コイツの下敷きになってな」

「二時間!」

驚いてティアが叫ぶ。

そういえば、森は明るくなっており、気温も上がったようだ。

「レンポ、どうしてそんなところに?」

いつも目線と同じところに浮いているのに、いまは地面にいる。

しゃがんで聞いてみれば、不愉快そうに「この枷のせいだよ!」とわめく。

何をやったかわからないが、疲れたらしい。

けれど預言書に還ってしまうほどの疲労ではないと見た。

「背中噛まれたんだろ?いたくねーのか?」

再び空中に浮いたレンポはティアに首をかしげて聞いた。

その様子におお、とティアは少しながら感動した。

やっと心配してくれたらしい。

さすがに猛獣に襲われるのと、転んで金貨の山にダイブしたり、目が回る程度では明らかな差がある。

「噛まれたけど、牙がちょっと刺さったぐらいで血は止まったみたい。噛まれたときは痛かったけど、いまはそうでもないよ」

怪我がたいした事はなかったらしく、二人はそろってウロを見た。

森の精霊ミエリが封印されている場所。

ティアはだまってウロへ進んでいった。




Re: アヴァロンコード ( No.61 )
日時: 2012/09/06 18:06
名前: めた (ID: UcmONG3e)

森の精霊、ミエリ。

四大精霊の一人で、預言書の守護精霊でもある。

それが、今から解放する、あたらしき仲間。


ウロへ一歩足を踏み入れると、その美しさに心を奪われた。

薄暗いかと思っていたが、まるで教会のステンドクラスのように日の光が漏れこんでいる。

地面に射された光はぼうっとあわく、地面のコケが緑に輝いていた。

しかも、中がとんでもなく広いのだ。

ティアの家がまるまる4軒ほど入ってしまいそうな大きなウロ。

声が出ないほど見とれていたティアは、ふと真正面に目を留める。

天に向かって伸びる巨木のひときわみずみずしい若草色の内側幹に何か、ある。

「レンポ、あれって—」

横を見ると、確かにレンポはいるのだがただ黙っている。

太陽のような黄色の目は、ティアを見るばかり。

ティアは仕方がないので、それに近づいた。

黄緑の、細長い長方形のしおり。

描かれているのは…

と、急にしおりから光が放たれた。

目の前が真っ暗になるほどの、まばゆい閃光。

思わず目をつぶるティアに、とんでもなくポジティブで晴れやかな声が届いた。

「あれ?レンポ?久しぶりっ!」

目を開くと、春を現したような草花のふんわりした服に身を包んだ、妖精のような姿の少女がいた。

妖精のような羽まで生えていて、それが高速で羽ばたかれている。

もし彼女が精霊でなかったら、まちがいなく妖精である。

えんじ色の髪は長く、へそ付近まで三つ編みになっており、耳はエルフのように尖がっていた。

そしてやはり注目すべきなのは、彼女の足。

腰周りに鎖がついており、足首に四角形の枷が付けられていた。

彼女の場合飛べるからいいものの、やはり不自由なのだろうか。

「預言書が現れたのね?っていうことは…」

言う彼女は、笑顔のよく似合う優しそうで活発な顔をしている。

その表情が、すこし暗くなった。

「もう滅びのときが来ているって言うの?…まだまだかなーって思っていたのに」

するとレンポが興味なさそうに言う。

「確かにちょっと早い気もするな」

そして、気を取り直して言い直す。

「とりあえず、紹介するぜ!こいつが選ばれしもの、ティアだ」

ティアはミエリの視線に気恥ずかしくなったが、ちゃんと挨拶を済ませた。

「ふうん」

じいっと見つめてくるミエリ、空中をすべるように移動してティアの顔のまえまでくる。

そしてにっこりすると、笑顔で言う。

「うん、よろしくねティア!」

Re: アヴァロンコード ( No.62 )
日時: 2012/09/06 18:33
名前: めた (ID: UcmONG3e)


 第三章 氷の精霊

‐白き地底より氷の御使いが還るとき
 古きものの暴挙が立ち上がる
 人々は予言の書を持つものを
 あがめるだろう


無事に森の精霊の封印を溶き、仲間としたティアたち一行はとりあえず神秘的なうろを出ることにした。

ミエリが、久しぶりに外の世界を見たい、と言ったからだ。

二人の精霊がティアの両脇に引っ付いて飛ぶので、仲間が沢山増えた達成感がより味わえた。

自分を入れて三人になったので、暗い洞窟に入っても心細くない。

浮かれていたティアに、突然衝撃が走る。

地面が強くゆれたのだ。

地面だけではない、波動が伝わるように空気も強く振動した。

「うわっ!とと」

その被害を受けたレンポが、バランスを崩す。

北側に浮遊していた彼は、ティアの頭に守られた南側に浮遊していたミエリと違い、もろに被害を受けたらしい。

「なんだ!!」

今のは地震だろうか、そして北から低いうなる音が近づいてくる。

途端に轟音の原因である黒い塊が目の前を通過した。

よく目を凝らせば、一つ一つが虫であるということに気づく。

「虫たちが…暴走している」

ミエリが別の方向を指し示す。

指先を追えば、金色のばったの大群がぴょんぴょんと西の方角へ進んでいくのが見える。

その大きさはまさに巨大。ティアと同じくらいの体長だ。

150センチはあるだろうか。

「クモなんていないよね?」

150センチのクモなどごめんだ、とばかりにティアが言う。

けれど、レンポの一言により、その考えが吹き飛んだ。

「今のムシども、街のほうへ向かったな。ありゃ、相当やばいぞ」

「!?」

ティアは思わず短く声を上げた。

ミエリが気持ちを察したのだろうか、たずねてくる。

「街が心配なの?」

「うん…」

頷けば、野次が飛ぶようにレンポが馬鹿にしたように言う。

「へっおめでたい奴だ。またあんな街に戻るってか?」

奇跡を見せれば魔術といい、助けられたと思えば罠にはめられる、おまけに王女を救ったら、反逆者と間違われて投獄される。

そんなところ、ふつうなら帰らないだろう、たとえ唯一の故郷だとしても。

けれど、ティアは友達が心配だったし、大好きなカレイラが心配だった。

「わかってるけど…みんなのことが凄く心配なの…」

するとミエリがにっこりと、ティアを安心させるように笑った。

「私も街に行ってみたいな!」

2対1で、街に行くことが決まると、好きにしやがれ、とレンポは賛成した。

「じゃあ、街にしゅっぱーつ!」

相変わらず呑気で楽しそうに、ミエリが言った。


Re: アヴァロンコード ( No.63 )
日時: 2012/09/06 20:56
名前: めた (ID: UcmONG3e)

グラナトゥム森林に戻ろうかと思ったが、再び正確な出口がわからないカルカゾス洞窟に戻る気がしなかった。

迷っているうちに、空を飛んでいく虫の襲来がカレイラを襲うかもしれない。

そう思って黙っていると、どこからかある音が聞こえてくる。

夜、デュランと洞窟へ行くときに聞いたあの音…。

「!」

いきなり駆け出したティアに不意を疲れた精霊たち。

あわてて追いかけていく。

「っ…ティア?」

「あ?おい!」

それぞれ声をかけたが、ティアはとまらない。

比較的開けた森をかけぬけて、日差しの中を走り去っていく。

「やっぱりそうだぁ!」

ティアの背中を追いかけていると、ティアが立ち止まった。

その背にぶつかりそうになり、慌てて止まる。

「…?」

レンポとミエリは同時に顔を上げて、辺りをうかがう。

木漏れ日が光り、日差しが心地よい広間だった。

風にたわむ草花も豊かで、それはきっと目の前の川のおかげだろう。

ここは俗に『光り降る滝』と呼ばれる場所だ。

名前の由来は木漏れ日が滝のように降るからだそうだ。

「ここがどうしたんだ?」

聞けば、笑顔で指を刺す。

不思議に思ってみれば、滝があった。

「…うん?のどか沸いたの?」

ミエリが言うけれど、ティアは笑顔のまま首を振る。

「なんか…嫌な気がする」と、レンポがつぶやくと、それは現実となった。

「ここから下に降りれるはずだよ!ここから降りれば、凄い近道のはず!」

言い切ると、さぁ行こう!と言った。

「…」

ミエリとレンポが顔を見合わせた。

心なしか、青ざめている?

「どうしたの?こわい?」

首をかしげてきけば、レンポはむっとした。

「そっ、な!んなわけねぇだろ!仕方ねぇな…」

そういうと、後は俺が説明しとくからミエリは還っていていいぜ、とつげた。

ミエリは頷くと、預言書で眠りについた。

「レンポ?」

「おまえが滝に飛び込んだあと、数分の間オレたちは力が出せなくなる。オレ達精霊は水に弱いんだ。だから、危険だと思ったらすぐ逃げるんだぞ」

そういうと、返事も聞かず預言書に戻ってしまった。

(精霊って水に弱いんだー。レンポは炎の精霊だからわかるけど、森の精霊のミエリも水に弱いなんて…植物って水に強いんじゃないのかな)

まぁいいや、とティアは預言書を抱きかかえた。

見下ろせば、昨晩デュランと歩いたところ。

そしてそのまま滝から身を落とした。



Re: アヴァロンコード ( No.64 )
日時: 2012/09/07 18:07
名前: めた (ID: UcmONG3e)

川の水は心地よい温度で、すぐ引力が襲ってきた。

水の流れにそのまま身を任せ、片手で預言書を握り締める。

滝つぼに吸い込まれると、水中の振動を伝って轟音が全身に伝わる。

けれど痛みはない。

川から顔を上げて思い切り息を吸い込むと、自分が上がるよりも先に預言書を岸に載せた。

そして、ティアも乗り上げ服を絞る。

じゃーっと水が絞られて地面に吸い込まれると、とりぬける風が冷たく感じた。

「レンポ、ミエリ…?」

試しに呼んでみると、預言書がかすかに震えた。

預言書の隙間から、炎の塊と緑の蛍のような塊が出てきた。

その輝きが増し、レンポとミエリが姿を現した。

「平気?」

「うんー、大丈夫…。けど、力は出しにくいかなー」

ミエリが言う。

「手助けできないかもしれないけど、ティアならきっと大丈夫よね!」

その期待にこたえて、ティアは精霊の力を借りずにグラナトゥム森林を抜け出た。

グラナ平原を魔物を倒しながら突っ切っていくと、見慣れた十字路がいえてくる。

世界の十字路とよばれる十字型の分かれ道。

その四方にはカレイラ王国、ウェルドの大河、グラナ平原、大鮫の顎へと続いている。

ヴァイゼン帝国との戦いの最中に名をつけたということもあり、世界の中心がカレイラであると見せ付けるためと言う説が大きい。

名付け親はもちろん、カレイラの聖王ゼノンバートである。

その十字路に足を運ぶと、聞き覚えのある声がティアを迎えた。

「あ、戻って来れたんだ!すごいんだね!」

明るい声で迎えたのは、洞窟の前で別れた(おいてきた)デュランだった。

Re: アヴァロンコード ( No.65 )
日時: 2012/09/07 18:37
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「デュラン!」

駆け寄れば、デュランは安心したよ、と声をかけてきた。

そしてそうそう、と指を立てて話し出した。

「君がいない間、凄かったんだよ。地震が何度もあり、虫の大群が空を埋め尽くした…」

「ムシってイナゴの魔物?」

聞き返すと、デュランは深刻な顔つきで頷いた。

考えるだけでもおぞましいよ、という顔で街には被害はなかったが、数が増えてくればどうなるかわからないと告げた。

「一番凄いことは戦争だ!」

そのひときわ大きい声に、レンポが反応する。

「戦争だって!?」

「ヴァイゼン帝国が北の砦に攻めてきたんだ」

人差し指を立てて、物知り顔で続けるデュラン。

「そして、率いているのはあのヴァルド皇子なんだ。…暗殺者に襲われて亡くなったって聞いたけど生きていたんだね!」

「あぁ、ヴァルド皇子…」

ティアは投獄される前にドロテア王女からヴァルド皇子は暗殺されてしまったが、どうやら生きているらしい、と聞かされていたので知っていた。

ヴァルド皇子はカレイラとの平和締結を結ぶために来ていたのだが、その途中、暗殺者により命を奪われた。

その場所がカレイラの中央広場の公園であり、ぐらついていた帝国と王国の関係を皮肉なことに悪化させてしまった。

しかも、皇子は生きていて戦争を率いてやってくる…。

やはり、暗殺されそうになって平和締結を結ぶ考えは捨てたのだろう。

それは悲しいことだが、仕方がないのだろう。

「とにかくとにかく、いまやローアンの街も臨戦体制だよ」

人差し指をしまって腰に手をかけたデュランは、ちょっと打つ向いた感じでつぶやいた。

「僕も戦争に参加しようかな…国のために力になりたいし、活躍すれば勇者として認めてもらえるし…」

「自信なさそうねー」

ミエリが突っ込むが、デュランは気を取り直して顔を上げた。

「いけない いけない、もう夜遅いからね。家に帰るといいよ!じゃあね!」

「うん、またね!」

別れを告げて、とりあえず家にかえることにした。

戦争いついて精霊たちと話しながら帰れば、家の前に誰かいた。


Re: アヴァロンコード ( No.66 )
日時: 2012/09/07 19:01
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「どこをほっつき歩いていたんだ?」

その声ですぐにわかった。ティアの兄貴分、レクスだ。

「森のほうにちょっと…」

ティアが言うと、レクスは心配して損した、と肩をすくめた。

「まあいいや、それより見ろよ、この街の変わりよう!」

レクスがさげずんだ目で言った。

レクスはとある出来事によって、この街もカレイラも金持ちも嫌いになった。

けれど、その出来事はわからない。

親しい仲でも話さないほどの出来事だ。相当いやな思い出なのだろう。

「いまや街は戦争、戦争!戦争!!俺はやるぜ!これはチャンスなんだ」

ティアが心配そうに見てくるので、レクスはこういった。

「いいか、ティア?俺たち貧乏人が名を上げるには戦争が一番さ!」

言い終えると、レクスは妹分をみた。

赤い本を抱えた、見るからに弱そうな妹分。

彼女には剣を取って荒れ狂うよりも、安全な土地でのんびり暮らすほうがあっている。

剣術道場に通っていたけれど、たいして強くないだろ…。

「ティア、おまえは別に来なくてもいいぜ。その…おまえは弱いからな。じゃあ、行ってくる!」

「あ、レクス…行っちゃった」

戦争に出る気満々のレクスの背を見送ると、「一応、心配してくれたんだー」とミエリが言った。

「兵士志願ってのがちょっと気になるが、手っ取り早く戦争に出るにはアレが一番だな」

レンポはそういうと、ティアはビックリしたように振り返った。

「えっ、いくの」

「予言の通りなら、この戦争はネアキの解放と関係があるに違いねぇ。精霊を集めないと、次の世界は創れないしな。それに、おまえには預言書がついてるし、剣術だって強いじゃないか」

急に褒められて、ううむと悩む。

確かに剣術には自信があるけれど、道場を長らくサボっていた私は本当に強いのだろうか?

(キマイラもルドルドも戦って勝てたけど…私の実力はどのくらいなんだろう)

「さ、オレ達も行ってみようぜ!兵士志願ってならきっと城のほうだ」

ティアはとりあえず城へ足を向けた。



Re: アヴァロンコード ( No.67 )
日時: 2012/09/07 19:25
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアの家からは城まで結構な距離がある。

まず下町を抜けて中心街に出て、公園を抜けてお城へと続く階段を上る—。

その途中、中心街で事は起こった。

ごきげよう?と声をかけられてティアが一歩とまる。

うっとティアの顔が嫌そうにゆがむのを見たミエリは、くるりと反転して後方を見つめた。

いったい何があるのかな、と。

そこには豪華な服と豪華なものに身をくるまれた赤毛の女性が立っていた。

豪華なものをジャラジャラつけているので、成金主義かと思ってしまう。

ティアよりは年上で、綺麗な水色の眼をしていたが意地悪そうに笑っている。

「ごきげんよう、貧乏人さん。景気はどうかしらぁ?」

いやみたっぷりな甘い声音に、ティアがしぶしぶ振り返る。

こんな中心街、貧乏人といえば下町から来たティアしかいない。

それを自覚した上で、ティアは振り返った。

「フランチェスカ、こんばんは」

無礼な相手の態度を完全無視してか、軽く挨拶を済ませ去ろうとするティア。

だが、前方にまたもや嫌なオーラを出す青年が立っている。

「やあ、ティア。相変わらず不景気そうな顔をしてるね」

「ロマイオー二…」

うわあーとティアが嫌そうな顔をする。

それもそうだろう、会って早々こんな無礼なことを言って来るのだから。

「なんなんだ,こいつ等!」

レンポは不愉快そうに二人を眺めている。

「いやいや、戦争だなんてね!けど、これは金儲けのチャンスさ!」

この場に及んでまだ金儲けを考えるいやみな双子の兄。

もう帰っていいかな、というティアの目の前で金儲けの話を悠々とし始めた。

「まあ、なぜなの?お兄様」

いやみな双子の妹、フランチェスカが芝居気たっぷりの上流階級言葉で言う。

「戦争はいろいろと物が足りなくなるからね、こういうときのために買い込んでおいてよかったよ」

「さすがお兄様!それを3倍にして売るのですわね!」

「まさか…売ってやってるんだよ?4倍さ!」

「まあ!さすがお兄様、すてき!」

こうやって金儲けするのだ、このいやみ兄妹は。

安いものを高く売りつけ、金持ちになりあがったこの兄妹は貧乏人を馬鹿にするのを楽しみにしている。

他の楽しみといえば、金貨を数えることだろう。

とにかく、熱弁をふるう嫌味兄妹の前をティアはそっと通り過ぎた。

レクスがこの場にいたら、一騒動になっただろう。


Re: アヴァロンコード ( No.68 )
日時: 2012/09/08 01:52
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「嫌な人にあっちゃった?」

ミエリが言うと、ティアは苦笑いをした。図星で間違いないようだ。

「あ、レクスいた!」

彼女の視線の先には、お城への階段を上がっていく彼の背中が小さく見えた。

したの中央公園からよく見える。

ここは今朝散々呼び止められてはなしかけられたところである。

「おーいレクスー」

口に両手を添えて叫ぶが、その姿は城門に消えていく。聞こえてないのだろう。

「しかたないなー。急ごうか」

早歩きで階段を上れば、城門に兵士が立っていた。

カレイラの白銀の鎧を身につけ、縦長の盾と鋭いハルバート(斧槍)を構えている。

ハルバートというのは、槍のように長い柄をもつ斧のことで、振り回せば殺傷能力は槍より高い。

槍のほうが軽くてすばやいこと、筋肉質でないとうまく扱えないのが玉に瑕だ。

その兵士とレクスが話していて、レクスが城の方へと入っていく。

きっと志願兵として認められたのだろう。

よし、自分もとティアが走りよれば、兵士は一瞬目を見開いて一応たずねた。

「なんだ、おまえは?志願兵か?」

頷くティアに兵士はやれやれと首を振る。

「そんな装備では無駄死にするだけだ。おまえを志願兵には出来ないな」

そして、ささと帰れとティアを追い返してしまった。

「くっそー!相手にされてねぇな。やっぱ弱そうに見えるもんな」

ティアの立ち姿を見てレンポは困ったように言う。

華奢な姿で筋肉男(ルドルド)やキマイラ、ヴァイゼン帝国の魔物を倒したなんて想像つかない。

ミエリも首をひねってティアを見つめる。

「うーん、あの人そんな装備ではだめだって言ったよね。どんな装備ならあの人に認められるんだろ?」

もっと強い武器、筋肉男のハンマー?、コードの入れ替えをして剣を強くする?などと言い合っていたが、ミエリが思いついたように言った。

「聞いたところ、あなたには剣の師匠がいるんでしょ?その人に聞いたらどうかしら!」

すると名案だとレンポも頷く。

「そうだな!なんか知ってるかもな!それじゃティア…って?」

振り返った先にはひかえめに嫌そうな顔をするティア。

「おい、どうした?」

「私、道場をサボってるから怒られるよね…」

けれど、せっかくのミエリの名案を無駄にすることはない。

怒られるだけ怒られて、戦争にいく手立てを教えてもらわねば。

「うん、でもミエリの言うとおり、いくよ!グスタフさんなら、きっと何か知ってるはず」

Re: アヴァロンコード ( No.69 )
日時: 2012/09/08 02:21
名前: めた (ID: UcmONG3e)

道場を改めて目の前にすると、となりに一軒家があるのがわかった。

表札を見れば、デュランとグスタフの家である。

下町層では珍しい、二階建てである。

ティアが知っている限り下町で二階と言えば、占い師のナナイーダくらいだ。

彼女は魔女と恐れられながらも、人々から占いを頼まれる。

商売として占いをやっているのだが、あまりにも当たりすぎるため魔女と呼ばれている。

「よし、入ろうぜ!」

両開きの木製ドアを思い切って開けると、そこは見慣れた場所。

外装の木造と違い、中は石造りである。

グスタフの剣術に耐えられるように、すべて石でできている。

けれど、その石にも数々の傷跡が残されている。

「お願いだよ、父さん」

「だめだ。おまえが行った所で死ぬだけよ。命は大切にせんと」

どうやら道場内は今、親子同士の修羅場になりつつあった。

広い道場内で、デュランとグスタフがひと悶着あったようだ。

「戦争に行けば、勇者って認めてもらえる」

「おまえなど、嵐の花のごとく散る。やめておけ、戦争は甘くはないんだぞ」

言って、息子から顔を上げる。

ティアを鋭い目で捉えると、その瞬間より息子との会話を終わらせた。

「やっときたか!大方、草原で昼寝でもしたおったのだろう」

確かに昨日までは昼寝三昧だった。

だが、今は違う。預言書に選ばれて運命が変わってしまった。

「さて、おぬしが道場に来たということは再び剣を学びに来たというのか?」

グスタフが鷹のように鋭い薄い水色の目でティアを眺める。

ティアは気おされることなく、はいと頷いた。

とたんにグスタフの形相が変わった。

とんでもない迫力で叫ぶ。

「剣術はそのように甘いものではない!帰れ!」

今度は気おされてしまい、ティアが後ずさりそうになる。

すると、聞こえないのにレンポが言い返す。

「こっちだって遊びじゃねぇ!」

すると、グスタフの大声に振り返るデュラン。

ティアの姿を見ると、おもわず父にこういった。

「ティアはとても強いよ、父さん」

「…何?」

うるさいやつめ、とグスタフが息子を振り返る。

けれど、デュランはティアが森の洞窟に入って帰ってきたことを話す。

また、魔物のゴブリンを簡単に倒してくれたことも話す。

「…」

心配そうに見守るティアに、グスタフが向き直ると、剣を構えてみよと言った。

言われるがまま、両手に剣をもち構える。

「ふっ…戦いより逃げる道を選ぶべきだな」

言えば血気盛んな炎の精霊がまたも言い返す。相手に聞こえるはずもないのに。

「くそじじい!好き勝手言いやがって!ティア、やつのいうことは気にするな!忘れるなよ、おまえは預言書に選ばれし者だ!」

レンポの言葉に頷いて、キマイラやルドルド、ヴァイゼンの兵士と戦ったことを思い出す。

そのときと、同じ顔つきになるとグスタフは片方の眉を上げた。

「ほう…本気だと言うのか?おもしろい」

言ってにやりとわらう。

この状況になることをわかっていたのだろうか。

「ならば来るがよい!」

そういうと、グスタフは道場を出て行った。

ティアも慌ててついていく。

いったい何をしようとしているのだろう?


Re: アヴァロンコード ( No.70 )
日時: 2012/09/08 19:08
名前: めた (ID: UcmONG3e)

グスタフの後をついていくと、グラナ平原に出た。

「こんなところ…来てどうするのかなー」

夜の闇の中、ミエリが蛍のように光ながらそういう。

ティアも、同じような心境で頷いた。

と、グスタフが立ち止まる。ティアも続いて立ち止まる。

「見よ、あのおぞましい姿を」

グスタフが指差す方向には、ランプに照らされてうごめく何かがいた。

よくみれば、黄金に光るイナゴのバケモノ。

「ランプに照らされる範囲に魔物がいなくなればよい」

言って、ランプの出力を最大にし、見晴らしのいい岩の上におく。

そうすると光源範囲は200メートルから300メートル。

その円形の高原の中に、イナゴのバケモノが無数に飛び跳ねている。

ロードローカストと呼ばれるこの魔物は、世界の破滅のとき、森から現れすべてを食らい尽くすという、伝説のイナゴの群れ。

その大きさは人間をこえるほど。

それが光源めがけてうようよやってくるのだ。

ティアは剣を掴む柄に力を込めた。

そして、自らも駆け出してロードローカストに立ち向かった。


ティアがロードローカストと戦っている姿を見て、グスタフは静かに頷いた。

「ついに…時が動いたか」

言って、空を眺める。

たあーっと声を上げて戦うティアの声がこだまするような気がした。


Re: アヴァロンコード ( No.71 )
日時: 2012/09/08 20:30
名前: めた (ID: UcmONG3e)

それから一時間ほど魔物と戦ったティアは、くたくたになった。

精霊の力を使えば、一瞬で四方100メートルの魔物が倒されるだろうが、頼まなかった。

グスタフに認められるには、自分の力でやらなくては。

そしてようやく、周囲200メートルを完全な安全区域をした。

200メートルを出ればきっとロードローカストはうじゃうじゃいるに違いない。

けれど、しばらくは姿を見なかった。

「見事」

ふうふうと息を荒げているティアに師であるグスタフが近寄る。

ティアは久しぶりに褒められて照れくさそうに頭をかいた。

これで認められた、と思っていたのだが…。

「それではこれより行うのが最後だ」

え、まだやるのとティアが言うと、グスタフはふっと笑った。

「おぬし、これごときでワシが認めると思っておるのか?」

ティアがいいえ、としょうがなく首を振る。

もともとそんな簡単な人ではない。

「次は何だろーな?」

レンポが言うと、タイミングよくグスタフが最後の試練を言った。

「このワシと戦うのだ」

「えっ?」

ティアは言うけれど、グスタフは気にも留めず剣を構える。

「よいな。双剣のグスタフ、参る!」

語尾が終わる前に、グスタフは大地を蹴っていた。




Re: アヴァロンコード ( No.72 )
日時: 2012/09/10 04:11
名前: めた (ID: UcmONG3e)

いきなり飛び掛ってきたグスタフを、ティアは避けられずすんでのところで防御する。

危ないところでガキンとグスタフとティアの剣が交差する。

「ふっ、あまいな」とグスタフの声が聞こえた気がして気づく。

受け止めた剣が一つしかない。

つまりもう一つの剣が自由に存在している。

そう理解した瞬間、グスタフのもう片方の剣が飛んでくる。

「っっ!」

ガードしていた剣もろともはじき返し、すかさず横に転がる。

キマイラに咬まれたところがズキンと痛んだが、そのおかげですばやく立ち上がることが出来た。

しかし、40半ばのグスタフも素晴らしい身のこなしでティアに迫る。

ほぼ立ち上がったと同時に、グスタフの剣がティアの元に向けられる。

(弱点はキマイラのときよりも簡単にわかる)

グスタフの重い一撃を受け止めて、ティアはそう考えた。

「くっ」

相手を凪ぐ攻撃が見事に防がれるので思わず歯を食いしばる。

弱点がわかっていても、それを戦術に取り入れられない。

(グスタフさんは私より年をとっている。長期戦になればスピードは落ちるけど…)

またもやすやすと攻撃を受け止められティアは一度バックステップして相手との距離をとる。

額にはすでに汗がにじんでいる。

(長期戦に持ち込むと、私の体力もなくなってくる…)

昼寝三昧をせずにきっちりと鍛錬を積んでいたら体力の心配をしなくて済んだだろう。

けれど昼寝三昧のティアは、多大な体力を培う前にサボってしまった。

そのおかげで今、グスタフの唯一の弱点を利用できずにいる。

むしろそれが弱点なのかもわからないのだが…。

「かかってこぬのなら、こちらから行くぞ!」

別の弱点はないかと遠くから見ていたティアに、グスタフは大地を蹴って応戦する。

そのすばやさは空を翔るつばめなみだ。

その攻撃を危ういところでかわすと、片方の剣を地面に突き刺して身を回転させる。

そしてはじめてグスタフの後ろを取った。

「たあ!」

「甘いわ!」

振りかぶった剣を即座に振り返ったグスタフが受け止める。

力でごり押しすれば双剣のガードを壊せたかもしれない。

けれどグスタフの後ろを取るために剣を地面に突き刺したので、襲い掛かったのは一本の剣のみ。

双剣でぶつかったならきっと身を上半身だけひねった妙な体勢のグスタフを倒せただろう。

だが一本の剣は双剣のガードを破れない。

そのままはじき返された。

そしてグスタフとティアは向き合うように攻撃態勢をとった。

だが、ティアは片方の剣しか構えていない。

もう片方は地面に突き刺さったままだ。

けれど、剣を抜き取るのを待ってくれるような状況ではない。

かまわず、再びグスタフが突っ込んできた。


Re: アヴァロンコード ( No.73 )
日時: 2012/09/10 04:25
名前: めた (ID: UcmONG3e)

その様子を上空より黙ってみている精霊たち。

ティアが力を貸してほしいと望んでないこともあるが、認めてもらうにはティア自身の力で戦うことが必要だと理解していたので、二人は何も言わず、ティアの邪魔にならないように上空にいた。

「レンポの話だと、ティアはキマイラを倒したそうね」

ミエリが隣に浮いているレンポにそういった。

レンポはしたの戦いに夢中になっていたが、あぁと反応した。

「運がよかったのかも知れねぇけど、でも倒したんだ。そうだな、他にもヴァイゼン帝国の魔物とか倒したぜ」

帝国のバケモノ?とミエリが聞き返すので、仕方なく下の戦いから視線を上げた。

「普通の兵士だったのがいきなり魔物になったんだ。そいつをティアが倒したんだぜ。キマイラよりは雑魚だけどな」

ふーん、とミエリが言うと、もういいだろとレンポは下の戦いに視線を戻す。

穏やかで慈悲深い森の精霊とは逆に、血気盛んな炎の精霊は戦いが好きでしょうがないのだ。

ミエリは別にとがめもせず、肩をすくめた。

そして慈愛に満ちた心配そうな緑の瞳で、ティアのことを見つめた。

(ティアが無事に認められればいいんだけど…)

その間にも、片方の剣で追い詰められていくティアとグスタフの戦いは続いていた。


Re: アヴァロンコード ( No.74 )
日時: 2012/09/10 21:45
名前: めた (ID: UcmONG3e)

グスタフの双剣を歯を食いしばりながら片剣でふせぐ。

いくら両手で剣を掴んでいても、一本の剣で二本の剣を防ぐと言うと、かなりきつかった。

両の手首に負担がかかり、ねじれるような痛みが走る。

(このままじゃまずい。…なんとかしないと)

グスタフの隙を見てもう一本の剣を取りに行くこと。

それさえ出来れば再び二本の剣で戦えるが…事はそう簡単なものではなかった。

何度も剣をとりにいこうとし、失敗する。

グスタフが手加減しなければ、すぐに負けていただろう。

グスタフはグスタフで、ティアがどのようにして剣を取り戻すか見ていた。

戦地で剣を落とせば、それこそ命を落としたも同じ。

すばやく収集するか、他の手を考えねばならない。

果たしてティアがどの選択をして自分に向かってくるか、楽しみで仕方がなかった。

ひとまずティアは防御に徹底して作戦を練ることにした。

どうすれば剣を引っこ抜けるだろうと。

それほど強く突き刺してないので、剣は簡単に抜けるはずだ。

けれど、今この場所からはだいたい5メートルほど離れているところにある。

ランプに照らされて刃先がきらりと輝いているのが見える。

月明かりでよく見える今はすべての炎のコードを取り除いているのでもう燃えてはいないのだ。

もし燃えていても今とはたいして変わらなかっただろう。

それどころか突き刺した草原が燃えていたかもしれない。

「どうした、もうしまいか!」

グスタフが双剣をティアの剣にぶつけてくる。

そのたびに手首が痛み、額に汗が浮く。

キン、キンという金属音が草原に響き、まるで鍛冶屋が金槌で金属を叩いているようだ。

と、その金属音に刺激されたのか、頭にある作戦がひらめく。

(そうだ!なにも、剣を取りに行くだけが唯一の手段じゃない!他にもいい作戦がある!)

ティアの茶色の瞳が希望をたたえて光るのを見ると、グスタフはにやりとした。

(ほう、なにか思いついたらしい。さて、どの手でくるか…)

と、ティアがグスタフの攻撃のタイミングを見て、思い切り同じ速度で打ち返した。

その反動でグスタフもティアも剣ごと後ろへはじかれる。

一方うしろへ踏み込むと、再び体勢を整えるグスタフ。

だがその目の前でティアがきびすを返す。

目指すは野原に刺さるあの剣だろう。

(打ち返すアイディアはいいとして…やはりとりにいく手を選んだか)

その背を追いかけて踏み込んだ瞬間、グスタフは目を見開いた。

先ほどまで背を向けていたティアがターンして今はこちらを向いている。

左手に持つ剣をこちらへと突き出し、その切っ先がグスタフの片方の剣に接触する。

ザザザッと不快な金属音が火花と共に散り、ティアの剣とグスタフの剣は絡まるような形となった。

やられた、と思った時にはティアの剣がグスタフの片方の剣をひねって数メートル先の地面に叩きつけていた。

そして次に見えたのはティアが剣を振りかぶるところ。

グスタフはティアの剣をすばやく受け止め、それをティアと同じように奪って見せた。

2メートルほど遠くにティアの剣が刺さると、ティアには武器がなくなった。

呆然と二本の剣を見つめていたティア。その表情が沈んでいく。

すっかり落ち込んだティアにグスタフは言った。

「取りに行くと見せて油断させ、自分と同じ一対一の剣で戦う方法を選んだか…なにも双剣で戦う必要はない。アイディアは沢山あるということを学んだようだな」

言えばティアはうつむいたまま頷く。

アイディアは出せても、負けてしまったことに変わりはない。

足元ばかり見ているティアに、「合格だ」とグスタフは言った。

「え?」と、ティアはすばやく顔を上げる。

「ワシに勝てばいいというわけではない」ティアの表情を見ながら続けた。

「大切なのは自分で考え、それを行動すること。おまえは見事、ワシから剣を奪った。追い詰められたあの状況でな」

そういって、自らの剣を拾いに行く。

ティアはまだ目をぱちくりさせてだまってグスタフを見ている。

だがようやく、理解できたらしく喜びが顔いっぱいに広がっていった。



Re: アヴァロンコード ( No.75 )
日時: 2012/09/10 22:05
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「やったな!」

「見てたよーティア!」

舞い降りてきた精霊達は賛美の声をかける。

ティアはすっかりうれしくなって、剣を拾いにいくことさえ忘れていた。

「うん!これで戦争についていけば、次の精霊を解放してあげることが出来る…」

そういって、思いついたように言う。

幸い、グスタフは遠くのほうまで剣を拾いにいていたので怪訝な顔をされることはなかった。

「戦争についていける装備、聞いてなかったよね」

「そうだな、今聞いたらどうだ?」

レンポに促されて、草原を駆け抜けてグスタフの元に走りよる。

グスタフは調度、ティアの分の剣を拾い終わったところだった。

剣を手渡されながら、ティアは戦争に行きたいと、そう言った。

すると、グスタフは黙ったままティアを見、そして静かに言う。

「他のものとは違い、自らの名誉のために赴くわけではないようだな」

「あたりまえだ!そんな簡単な考えでいけるか!」

レンポが言うけれど、グスタフには聞こえない。

グスタフは剣だけのティアに鼻で笑うように言った。

「おまえ、そのままでは死ぬぞ」

「なんだと?クソジジイ!」

相変わらず血気盛んなレンポが反応する。

ミエリはというと、そんな悪態さらりと受け流していた。

最初のの世界が出来たころのからの付き合いだ、もう慣れてしまっている。

「おまえは戦場で飛んでくる数多の矢をすべて避けられるか?」

この問いに、ティアは首を振る。

矢と言えども、甘く見てはいけない。

高速で飛ぶそれは、とても剣でなぎ払える代物ではない。

「盾を用意せよ!さすれば戦場で多人数を相手に不覚を取ることはなかろう」

Re: アヴァロンコード ( No.76 )
日時: 2012/09/10 22:29
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「盾を用意すればいいのね?」

グラナ平原からカレイラの街ローアンに戻ると、ミエリがそういった。

「盾なんて、オレは興味ないな」とレンポは言う。

「でも無くっちゃ、戦争にいけないのよ。どこに行けば手に入るんだろう?」

ティアも盾を持つような人を知らないので、困っていた。

「んー、街中探すしかねぇな。一人ひとり、聞いて回ろうぜ!」


そういったものの、街に知り合いはけっこう少ない。

まずは下町、レクスならば何か知っているかと思い向かってみる。

川のそばのレクスの家は、明かりは消えていた。

「レクス?」

声をかけるが返事は、ない。

「寝てるのかしらー?」

「おいおい、いくら明日が戦争だからってこの時間に寝るやついねぇだろ。まだ夕食ぐらいの時間だぜ?」

ノックすれば、答えるかもしれないと試しにやってみる。

すると、物音がしてドアが開く。

のぞく不機嫌そうな顔は確かにレクスだ。

「なんだ?」

しかもかなり機嫌が悪そうだ。

ティアがどうしたの、と聞くとますます不機嫌な顔になる。

「なんでもない…俺は寝る!」

そういってドアは閉められた。

跡に残された三人は、不思議そうに顔を見合わせただけだった。

Re: アヴァロンコード ( No.77 )
日時: 2012/09/11 17:56
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「他に心当たり、ある?」

レクスの家の前、ミエリが再び声をかける。

一番の頼みの綱だったレクスは謎の不機嫌により寝てしまった。

レクスの家のすぐ隣にある作りかけの桟橋に腰掛けてティアは記憶を思い返している。

親友のファナの家では見たことも無い。

嫌味な双子兄妹は、根性が無いので武器系統は持たない。

デュランはどうだろう?

デュランなら持ってるかも知れない。

そういうと、ミエリはにっこりした。

「じゃあ、行ってみましょ!」


一端自分の家の前に戻り、そこから東へ進むとグスタフの道場と、その家が見えてくる。

別名雷広場をぬけてデュランの家をノックする。

ちょっと待ってください、と扉の向こうから声がしてすぐさまデュランが顔をのぞかせる。

「やあ、どうしたんだい」

しかし話そうとした途端、興味津々な顔をする。

「そういえば、どうだったんだい?父さんとどこに行ってたんだ?試練とかいうやつ?」

「あぁ、えっと、イナゴの群れを退治して、グスタフさんと戦ったの」

説明すると、デュランは驚いた顔をする。

詳しい話をしてほしいとせがまれたのだが今は用事があるのだといって後日はなすことにした。

「それで?」

「盾をもってない?」




Re: アヴァロンコード ( No.78 )
日時: 2012/09/11 18:27
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「急な話だね。それじゃ戦争に行くんだね?」

頷くと、デュランはやっぱりねと頷いた。

「デュランは?」

ティアが戸口で聞けば、デュランは僕はだめさぁとうなだれる。

「父さんに止められたよ。行くなってね」

それから思い出したように、盾について話し出した。

「盾ねぇ。あいにく僕は持ってないんだ。父さんも…もう古くなって使い物にならないと思うし」

あれやこれやと思案するデュランに、ピンとひらめいたものがあったらしい。

「持ってる人、いるの!」

ティアが期待して身を乗り出すと、デュランは頷いた。

「どこのどいつだ!」

盾に興味のないレンポまでがデュランのほうへ身を乗り出す。

「持ってるかは、定かじゃないけど。でもヘレンさんがやっぱり詳しいと思うんだ」

「え?ファナの…おばあちゃんが?」

ティアが首をかしげるのも当然。

親友のファナのおばあちゃんであるヘレンは、戦いとは無縁のお年寄りだからである。

いくども遊びに言ったが、戦で名を上げたり、剣を振り回して敵をなぎ払ったなどという話はひとたびも聞いたことはない。

「あのばあさんがか?…想像できねぇ」

レンポもティアと同じ考えの様で、疑わしげに眉をひそめる。

この場でヘレンのことを知らないミエリだけが、どうしてー?っときょとんとする。

「聞いてみたらどうかな。何か、知ってるかも」

デュランがそう何度も進めてくるので、ティアは一応ヘレンを訪れることにした。

「ありがとうデュラン!」

じゃあね、と手を振って別れると、ミエリがすぐに目の前に飛んできた。

「ねぇねぇ、ティア。ヘレンって誰?どうして盾を持っていたら変な人なの?レンポってば見りゃわかるしか言わないのよ!」

むうっと膨れ面をしてミエリが言うと、レンポが肩をすくめる。

「仕方ねぇだろ、ほんとのことだ。見ればすぐ、わかるさ」

ティアも詳しくはしらないが、へレンが剣を振り回す様を想像できないので、レンポの意見には賛成だった。




Re: アヴァロンコード ( No.79 )
日時: 2012/09/11 18:51
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「ほらミエリ、ここだ」

ローアンの街に行き、ヘレンとファナの住む家を目の前にすると、レンポは言った。

「ふーん?」

ミエリは視線をティアに移し、無言の催促をする。

ティアは頷き、ドアをノックした。

パタパタとスリッパのこすれる音がして、心地よい優しい声が返事する。

ドアが開かれると、そこにはヘレンがいた。

「こんばんは、ティア。こんな時間に、どうしたんだい?」

突然の訪問に、ヘレンはうれしそうにティアを迎え入れる。

ヘレンからすればもう、ティアも孫のようなものだった。

「急に着てごめんなさい、ヘレンさん」

するとティアに椅子を勧めていた白髪のヘレンはとんでもないよ、という。

「ティアはもう孫のようなものだからね、いつでも来ていいんだよ」

言われるとティアはうれしそうな顔をする。

その様子を見ていたミエリはなるほどね、と感嘆する。

「だろ?」

「確かに、あのやさしそうな人が、戦争で活躍してたように見えないもんね」

言い終わると、ティアの耳元に飛んでいく。

「本当のところ、どうなの?」

そうささやくように聞くと、ティアは早速切り出した。

「ヘレンさん」

ティアがいうと、ヘレンはなんだい?とエプロンのすそで手をぬぐいながら振り返った。

どこからどう見ても、戦の経験のない人に見えるけれど…。

「盾を探してるの。持ってたり…するかな?」

ティアが思い切ってたずねると、背後より鈴を転がしたような笑い声が聞こえてきた。

「うふふ、そんなわけないじゃない」

「ファナ!」

振り返らずともわかる声に、ティアは思わず歓喜の声を上げる。

テーブルの元に、黄色のガウンを羽織った病弱な親友が歩いてくる。

ヘレンは心配そうにファナを気遣い、椅子に座らせた。

「大丈夫よ、おばあちゃん。ティアの顔が見れて元気なんだから!」

本当にうれしそうにファなが言うので、ヘレンもムリに部屋に返そうとはしなかった。

「ところで、盾のことなんだけど…おばあちゃんは持ってないわ」

テーブルに乗り出して、ファナがティアに物知り顔で言う。

「おばあちゃんが戦争に行くことなんてなかったわ。すくなくとも、そう聞いているの」

そうでしょ?とファナが言うと隣に座っていたヘレンがもちろんよと頷く。

そして今度は自分から話し出す。

「盾どころか、ティアのように剣術を習ったこともないよ」

ティアはがっかりしたようにそうですか、と返事をした。

ミエリもレンポも仕方ないな、他を当たろうと言っていた時。

「盾がほしいのかい?」

ヘレンがそういった。ティアは頷く。

「どうして盾なんか?」とファナが言うけれどヘレンは目をつぶって考え事をした。

その顔をティア、ファナ、精霊たちが期待を込めて見つめる。

「そうさねぇ、確か昔…町長さんのところで見たよ」

ヘレンがそういうと、ティアは急に立ち上がった。

そしてホントですか!と叫ぶ。

その剣幕に驚きながら、ヘレンは頷く。

「えぇ…親友にもらった盾だと、そういっていたけどねぇ」

「あ、ティア?!」

ありがとうございましたーっと急いでファナの家を後にするティア。

家から飛び出ると、勢いあまって誰かにぶつかってしまった。

「いたたっ」

うめき声を上げたのは、貧弱小説家、カムイだった。

Re: アヴァロンコード ( No.80 )
日時: 2012/09/11 19:10
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「ごめんなさいっ」

慌てて飛び起きたティアは地面に転がるカムイを助け起こした。

カムイはというと、別に怒らずに頭をかいていた。

「ああ、ごめんねティアくん。ちょっと信じられないものを見てしまって」

そしてぼけっとしていたが、いきなり我に帰った。

ティアの肩をつかむと、目を輝かせて言う。

「ティアくん!僕は見たんだ!」

ものすごい音量で、ティアは耳をふさごうとする。

けれどカムイは喜びでいっぱいなのか、ダンスするように体中で喜びを表す。

「何を見たんですかっ!」

大声に対抗して、ティアも声を張り上げる。

「この世のものとは思えない美しい女性をだよ!小説が完成しなくて悲しみの渦にいた僕の目の前を、その人は颯爽と歩いていった…」

ティアの肩をようやく放したカムイは、今度は目を閉じてその女性を思い出し始めた。

「まったくコイツは…挙動不審というか…」

レンポがカムイの周りを飛び回って言う。

だがもちろん本人には聞こえない。

「腰までたれる絹のような金髪、空のような瞳!何もかも完璧だった!そうさ、あの人はエルフだよ!」

力強く言ったカムイ。

「あら、エルフ?それは美人さんのはずね」

ミエリが訳知り顔で頷く。

けれど、ティアは首を傾げて一言。

「だけど…ゲオルグさんもエルフよ」

「あ、そうだね。でも、僕は小説のネタを思いついたよ。さよなら、アイディアが消えないうちに書き留めるよ!」

カムイは足早に立ち去っていった。

興奮気味のカムイをおいてとにかく盾を手に入れるべくゲオルグの家を目指そうとする。

ゲオルグの家は、公園を抜けたところにある。

王城への道のアーチに最も近く、王族に親しまれているからこその立場だった。

噴水のある公園に差し掛かったとき、怒鳴り声が聞こえた。

「なによ、下等な人間の癖にっ!」

Re: アヴァロンコード ( No.81 )
日時: 2012/09/11 20:33
名前: めた (ID: UcmONG3e)

その声は噴水の前を通り過ぎようとしていたティアにもはっきりと聞こえた。

「私に文句でもあるわけ!」

どぎつい声が暗闇を鋭く割く。

するとその声に反応して、もうひとつの低い声がうなる。

「いろいろ忙しいときに…邪魔するな!」

ものすごい剣幕の声に、ティアは視線を向ける。

ミエリやレンポも、視線を向ける。

噴水の奥に、二人の人影が見える。

一人は白銀の鎧に身を包む兵士と…女の子?

その女の子がカッと口を開く。端正な顔の美少女とは思えない勢いで兵士に指を刺す。

「偉そうなこと言うんじゃないわよ!」

少女よりふた周りほど大きい兵士によくもそんなこと言えるなぁと思わず感心してしまう。

無論そんな無礼なことを言われて兵士も黙ってはいない。

目をぎらつかせて少女をにらみつける。

「なんだとぉ…ぬ?」

その途端兵士の顔がハッとする。

ティアからは何故そのように驚いたのかはわからない。

ただ、少女はふんと高慢に鼻を鳴らした。

「貴様、その耳は!?」

「そうよ!私は高貴なる種族なのよ!」

言われて初めてティアも少女が只者ではないことに気づく。

少女の耳は、人と違いツンと鋭くとがっている。

つまりこの少女は—。

と、少女が兵士に強い口調で叫ぶ。

「はやくお父様のところに連れて行きなさい!」

「またエルフかよ!」

エルフの少女の高慢ちきな態度に、レンポはため息をついた。

エルフは人を見下していて、劣等の塊だと思っている。

「あんな面倒なヤツほっといていこうぜ!」

レンポがティアに提案すると、ミエリが否定の声を上げる。

「えー?エルフはミエリのお友達なのに」

そのとき、噴水の奥では兵士が声を上げたところだった。

三人は視線を戻す。立ち聞きする気は無いのだが、このまま去るのも忍びない。

お父様、といっていたからこのエルフの娘はゲオルグの娘だろう。

心底毛嫌いするような声を上げて兵士ははき捨てるように言った。

「おまえの相手をしているヒマはない!一人で探せ!」

そういい終わると兵士はエルフの少女を残して足早に去っていく。

「あ!待ちなさいよ!」

もちろんエルフの少女は苛立ちの声を上げて兵士に言ったが、それはムダだった。

ところが、兵士を目で追うと新たな獲物がいることに気づいたらしい。

「そこの人間、あなたよ、あ・な・た」

ティアに声をかけてきた。


Re: アヴァロンコード ( No.82 )
日時: 2012/09/11 21:34
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「あーあ、仕方ねぇなまったく」

レンポは肩をすくめてエルフに駆け寄るティアを追いかけてつぶやく。

さっさと盾を手に入れて安心したいところだったが、こんな面倒なことになるとは。

ティアはというと、すでにエルフの目の前に立っていた。

(見れば見るほど、綺麗な人…)

感心していたティアに、エルフは抑えた声で言った。

先ほどのように逃げられないようにするためなのだろう。

「話、聞いていたでしょ。私のお父様はこの街にいるの。知っている?」

ティアは頷いた。

やはり、いやきっとゲオルグのところの娘だろう。

ローアンの街にエルフは一人しかいない。

だいたい、エルフは人を嫌うので、エルフが国に二人も集まるなどほとんどない。

これは本当に珍しい現象である。

「じゃあ、話が早いわ」ティアが知っていると言うので、エルフはほっとした顔つきになった。

「案内しなさい…ええと」

なれないようにティアに言う。

きっと、人間に名を聞くなどあまりしないのだろう。

「私はティア」

エルフは二度ほど瞬きをし、ようやく微笑んだ。

「そう。私はシルフィ」

言い終わると、その微笑みは消えうせた。

「それじゃ、ティア。早速お父様のところに案内しなさい!」

どこまでも高慢なこのシルフィというエルフに、ティアは頷いた。

なんとなく、うれしかった。

シルフィの言葉が、連れて行け!から案内しろ!に変わったところがなんとなく、うれしかった。

Re: アヴァロンコード ( No.83 )
日時: 2012/09/11 22:00
名前: めた (ID: UcmONG3e)

噴水を抜けてゲオルグの家に着くと、ゲオルグは如雨露(じょうろ)片手にバラに水をあげているところだった。

ゲオルグの家は、美しい花々で満ちている。

バラは途切れることなく一直線に咲き誇り、よく切りそろえられている芝生の一角には、名前の知らない黄色の花が円形に咲いていた。

長方形の噴水は夜も朝も休むことなく水を出し続け、しかもそれが二つもあった。

庭などないティアには信じられない光景である。

けれど、シルフィはそれについて何も触れない。

きっと見慣れているか、それよりももっと凄いところからキタのかもしれない。

と、如雨露を片手にしていたゲオルグはこちらに気づく。

そして、信じられないと言うように目を見開いた。

「シルフィ!」

如雨露などほっぽリだしてこちらに走ってくる。

「お父様!心配したわ!」

シルフィもティアの脇をすり抜け、ゲオルグの元に走っていく。

抱きついて親子の感動の再開が起こるかと思いきや、ゲオルグがシルフィにお説教をし始めた。

「会って早々お説教か。見に覚えがあるぜ…」

レンポがいうと、ミエリだけが理解できたようで、口元を押さえて笑った。

「あぁ、ウルね!うんうん、確かに見に覚えがあるわー」

ティアにはさっぱりで、頭上にはてなマークを浮かべるも視線は目の前の親子に集中してしまう。

ゲオルグは怒ったようにシルフィに言う。

「それは私のセリフだ。なぜ故郷を出たんだ!?」

ゲオルグにしかられて、困った顔をするシルフィ。

先ほどの高慢な態度ではなく、通常の態度だろう。

「だってお父様、この国が帝国に狙われているって話じゃない。私、お父様を助けに来たのよ」

いいわけじみた返答に、ゲオルグがあきれた声をだす。

深くため息をついて、頭を振る。

「なんてバカなことを…すでに帝国軍が砦を攻めている。もう戻れないぞ」

しかしシルフィに反省の色は伺えない。それどころか笑みを浮かべている。

「あら?平気よ、私強いもの。人間なんかに負けないわ」

ふふんと鼻をそらせて言うシルフィ。自信満々である。

そんなシルフィをゲオルグがまたもとがめる。

「帝国を甘く見るな」そして、ティアのほうを見る。

困り果てていた表情がやさしくなり、声音も元に戻る。

「ティアくん、娘のことありがとう」

すると、シルフィがずいと二人の間にわって入った。

「そいつ、何もしてないわ。別にお礼なんていらないわよ」

こちらを見つめるシルフィの水色の瞳は完全に人を見下した目で、冷たかった。

ティアの表情が少し曇る。

「シルフィ!」途端にゲオルグが声を荒げた。

シルフィが驚いてゲオルグを見る。

「そんな態度では友達が出来ないぞ」

すると、何だ、そんなこと?とシルフィが鼻で笑う。

「平気よ、人間なんて私たちエルフの友達になれっこないわ。どうせすぐしんじゃうし」

あきれ返ったようなゲオルグに気づかないようで、高慢な態度をとり続けるシルフィ。

その態度にレンポは苛立ちを隠せないようだった。

「へっ実にエルフらしいエルフだぜ!」

ミエリもこれには少し同感した様だった。

二人とも、ティアを悪く言われるのは許せないことだった。

「世界がもうすぐ滅びちゃうのにね。友達いないなんてちょっとかわいそうかも」

そんな二人を差し置いて、ゲオルグはティアに言った。

「とにかくお礼をしないとな」

そんな必要ないってば、というシルフィを完全ムシだ。

「盾を見せてください。持っていると聞いて…」

ゲオルグは驚いたように目を開いたが、すぐ頷いた。

「あの盾を見たいと…わかった」






Re: アヴァロンコード ( No.84 )
日時: 2012/09/12 16:52
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ゲオルグの家に入ると、しばらく客間で待たされた。

預言書を抱えて椅子に座っていたティアに、シルフィはもう目も向けない。

「ありがとう」の一言もなしだ。

しかもゲオルグが二階へ盾をとりに言った瞬間、身を翻して遠くの本棚へと移動してしまった。

賢そうな顔でぺらぺらと書物をめくって斜め読みする様は、本当に綺麗。

「これでやっと盾が手に入るぜ」

「そうね。どんな盾なんだろ?」

ミエリとレンポが盾について会話をしていると、階段より足音が聞こえた。

「またせたね」

ゲオルグが丁寧に何かを持ってくる。

そしてティアの座るテーブルに、それをそっと置いた。

いつの間にか、本棚スペースに移動していたシルフィもいる。

ゲオルグは盾をくるんでいた絹をはずすと説明しだした。

盾は表面に攻撃を多く受けたためコーティングがはげているけれど、それ以外は照明を受けて鈍く光っている。

色はまさに鋼鉄。

「これは、私の古い友人からの預かり物でね」どこか懐かしむようにゲオルグは話し出した。

「この街が作られたときに、受け取ったものだ……昔の話だよ」

「ふーん」

シルフィはなんとも思わないのだろうか?

ティアは説明を聞くうちに、疑問がわく。

(この街が作られたって…500年も前の話ってことは…?ゲオルグもそれだけ生きてるってこと?)

エルフと友達のミエリに詳しく説明してもらおうかと思った瞬間、レンポが言った。

「今だ、コードスキャンするんだ!」

とっさのことだったがティアは抱えていた本を開き、勢いよく盾に押し付ける。

預言書に情報が書き込まれた。

しかしあまりに至近距離だったため、エルフの親子は目を見張る。

「え?」

「何を…!いや、何もしてないか」

コードスキャンは誰にもさとられない。

ティアが本を押し付けるのを見たとしても、見えていないのだ。

ゲオルグは盾をしきりに眺めていたが、不思議そうに首をかしげている。

シルフィはというと、興味がうせたように肩をすくめるだけだった。

「よし、さっさと城門にいくか!」

「行きましょ、ティア!」

気の早い精霊たちはティアをせかす。

「ありがとうございました、ゲオルグさん。さようなら!」

「あ、あぁ。いつでも来たまえ」

お礼を言って、ティアは城門までの長い階段を駆け上がった。

目指すは城の前の兵士だ。




Re: アヴァロンコード ( No.85 )
日時: 2012/09/12 17:25
名前: めた (ID: UcmONG3e)

城門に着いたティアを待っていたのは、兵士だけではなかった。

悪い知らせ、それが兵士と共に待機していた。

何も知らないティアと精霊の一行は城門にたどりついた。

そこには先ほどと変わらぬ兵士が突っ立っている。

「よかったぁ、まだいる!」

そういって駆け出したティアを安心したようにゆっくりと追いかける精霊たち。

「よかったー!これでネアキを首尾よく解放してもらえそうね!」

ミエリがうれしそうに言う。

繊細な氷の精霊と早く会いたくて、ミエリは今から心が躍っていた。

何事にも冷静、無関心なネアキ。預言書がネアキを封印するまでは辛辣な言葉で人を傷つけることがあった。

けれども森のように大らかで、すべてを包み込むようなミエリはネアキが大好きだった。

逆にレンポはというと、複雑そうにしている。

もともと炎と氷は相性が悪く、合えば会うでよくけんかをする。

だがまあ、同じ四大精霊と言うこともあって一緒にいるしかない。

しかも世界を創るとなると、四人全員の力が必要となるので、ティアに解放してもらう必要があった。

「志願兵か?」

ティアの剣と盾を見て、兵士がそういう。

先ほどティアがたずねてきたことをすっかり忘れているようだ。

「そうです!」

ティアが元気よく言うと、兵士はティアにこういった。

「国のために尽くそうと言う気持ちはありがたいが、もう兵は足りている」

「えー?!」

「なに?!」

目をぱちくりしているティアに代わって精霊たちが叫ぶ。

「っていうことはつまり—」

呆然としていたティアがその先を言う前に、兵士が先を述べた。

「つまりはもう締め切ったということだ」

「そんな!」

とっさに叫ぶが、兵士はかたくなに譲らない。

何度も懇願するティアに言い放つ。

「帰りなさい」



とぼとぼと城門を後にしたティア。

何度頼んでも断られた。

精霊たちも当惑気味だった。

けれど、レンポが思い切って言う。

もともと志願兵と言うのがなければこの手で行く気だった。

「しょうがねぇ」

ミエリとティアが同時に振り返る。

「こうなったらムリにでもついてっちまおうぜ」

ミエリも賛成らしく何度も頷く。

「できそうかな?どう思う、ティア?」

そして心配そうにティアの顔を覗き込む。

「やってみる価値はあると思う。いつもより早起きして兵士の後をつけていくのはどうかな」

ティアの返事に精霊たちがほっとする。

出来ないとしたら、ネアキの封印が解けないからだ。

ミエリがひときわにっこりしてティアに笑顔で告げる。

「出兵は明日の朝みたいね。今日は帰って休みましょう!」

Re: アヴァロンコード ( No.86 )
日時: 2012/09/12 18:47
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「ティア!演説、はじまったみたい!」

早起きして食べ損ねた夕飯をほおばっているティアに、ミエリが言う。

簡易な朝食を平らげ終わると、ティアは隠れていたもの陰から身を起こす。

レンポは上空より、兵士の配置と行進に使われる道を偵察しに行っている為、姿は見えない。

その代わりミエリがそばに引っ付いている。

ちょうど、用意された赤い台座に騎士団長二人に挟まれてゼノンバートが上るところだった。

群青色のビロードマントに金色の豪華な甲冑に身を包んだ王が、台座の上で身を翻しこちらを見る。

こちらといっても、集まった兵士に向かってだが。

「聖なるカレイラの子らよ!」

早速演説が始まった。

出兵前の兵士は緊張に身を固めて、しーんと静まり返っている。

「今われらの王国は北方の邪悪なる帝国からの奇襲を受け、その名誉と誇りを汚された!」

厳しいワシのような顔をさらに厳しくして、ゼノンバートは強く演説する。

「われらは誇り高きカレイラの民。受けた屈辱は晴らさなくてはならぬ!」

そう言って腰のベルトから銅の剣を引き抜いた。

そして辺りを見回して剣を天に突き上げた。

銅剣は太陽の光に反射してきらりと輝く。

「うおおお〜!!!」

その光景に兵士たちは夢中で武器を空中に掲げた。

ハルバート(斧槍)、剣、槍が空中で神々しく輝く。

ゼノンバート万歳と声が波紋のように広まっていく。

その様子を見ていたティアに、おなじみの声が響く。

「ほう…国王だけあって演説だけはうまいじゃねぇか」

見上げると、偵察より帰ってきたレンポだった。

「いけません国王様!」

と、慌てる声が聞こえてきて三人は視線を台座へと戻す。

するとそこには台座で暴れまわる国王と、それを押さえ込む二人の騎士団長たち。

「自らが前に出るなど、危険すぎます!」

そう騎士団長が言ったとき、ゼノンバートは余計に暴れた。

「ええい、離せ!カレイラの王であるこのワシが戦場に立たずしてどうする!」

そうして騎士団長のかぶとをこぶしで殴りつける。

その様子を見て、おかしそうにミエリが笑った。

「なんだか、レンポと気があいそうね!」


Re: アヴァロンコード ( No.87 )
日時: 2012/09/13 17:53
名前: めた (ID: UcmONG3e)

演説が終わると、城門より整列した兵士たちがずらずらと出てくる。

どれもピカピカに磨かれた白銀の甲冑で、見送る国民の声にますます闘志を燃やしている。

「あ、きたきたっ!」

演説が終わるといち早く世界の十字路に待機していたティア。

木陰に身を隠して待っていると、すぐ甲冑のガシャガシャいう音が近づいてくる。

北のワーグリス砦に行くには、世界の十字路を北へと進むのだ。

ティアたちの目の前で、兵士たちが足早に行進して、北へと歩いていく。

「戦争かぁ!心躍るぜ!」兵士を見送りながら、レンポが言う。

足早に進んでいく兵士を感心したように見ながら。

「みんな早く戦いたくて仕方がねぇ感じだな!」

けれども温和なミエリは表情を曇らせた。

「うーん…レンポにはそう見えるんだ」

それは違う!と強く否定せずに、ミエリはティアのほうを向いた。

「ねぇ、ティア」願うようにミエリが言う。

「もうすぐこの世界は滅びちゃうよね。それまでの間…この人たちに安らぎを与えたい?」

ミエリの願いがなくても、ティアは頷いていただろう。

その様子をうれしそうに見つめたミエリは、気合を入れるようにこぶしを握る。

「じゃあ、あなたが頑張らないとね。預言書の力を使ってこの戦いを、はやく終わらせましょ。大丈夫、あなたなら出来るわよ」

すると大人しく聞いていたレンポが横から割ってくる。

「おいおい、そんなこといわなくたってコイツは初めからやる気だぜ?」

「ふふふ、そうね。それじゃあ、行きましょう」

ティアは兵士たちの後を追って、ワーフリス砦を目指した。



Re: アヴァロンコード ( No.88 )
日時: 2012/09/13 18:32
名前: めた (ID: UcmONG3e)

カレイラが100年間守り続けているワーグリス砦。

砦といっても普段は関所として使われていた。

8年間続くヴァイゼン帝国との戦がなければ、ここは戦争目的で使われた事はなかっただろう。

「ふーん?意外と詳しいじゃねぇか」

ティアが今回の目的地であるワーグリス砦について説明してあげると、精霊たちは意外そうにしていた。

「剣術より勉強のほうが好きなんだー?」

ミエリに言われ、まさかぁ、と頭をかくティア。

彼女にとっての優先順位はこうだ。

昼寝≧剣術>勉強

しかも、もともと勉強を出来るような身分ではないため、嫌なものかどうかもわからない。

ただ、兄貴分のレクスによれば、金持ちの特権で、非常に嫌なものらしい。

「ううん。ほら、ファナの部屋にいくと沢山本があるでしょ?」

実際に行った事のあるレンポだけが頷く。

ミエリはうん?と首を傾げつつ聞いている。

「そこでたまたま歴史書があって読んだの」

そうして話していると、前方より川の音が聞こえてきた。

「うん?川?」

上り坂を越えると、川が見えてくる。

「ウェルドの大河だよ」

そのなの通り、タダの川ではない。

水しぶきを上げて、沢山の青のグラデーションが渦巻くウェルドの大河。

巨大で長い、大きな大河だった。

「ここをわたるのか?」

大きな岩がごろごろする岸辺には、すっかり丸くなった元岩が沢山転がっていた。

流木も多く、今ではすっかりサワガニの住みかとなっている。

大河の中には嵐の日にでも流れてきたのだろう、馬鹿でかい岩が突き出ている。

それも5つぐらいあるのだ。尖っていないので、きっとここまで運ばれてくる間、川の力によって削れたのだろう。

ということはもっと大きな岩だったのだ。

「ティア、気をつけてね。足をすくわれないようにそっとよ」

兵士の最後尾が再び見えなくなると、ティアたちの番だった。

預言書の精霊は水に弱い、そう聞いて預言書を高く掲げてティアは大河に一歩踏み出す。

上空には心配そうにする、精霊たち。

「ひゃあ、冷たいっ」

じいんと伝わる冷たさに、ティアは思わず震え上がる。

けれど、引っ込みかけた足を大河に沈めた。

思ったより深く、ふくらはぎまですっかり水に浸かってしまう。

「おーい、大丈夫かぁ?」

「平気…平気だよ!」

完全にムリしているとばれる声音でティアは返事する。

そして無理に足を進めて、ゆったり流れる大河に身を沈めていく。

ウェルドの大河に沈むいくつかの岩の近くでは、水流が変わるため、そこだけ水の流れが速い。

そこに気をつけて近寄らないように美しい青の川を真ん中まで来た。

この調子で行けば、わたりきれる。

そう安堵した途端、金切り声が聞こえてきた。

「ティア!」

叫ばれて頭上を見上げると、何かが飛んでくる。

白い羽の塊…あれは、ハルピュイア?





Re: アヴァロンコード ( No.89 )
日時: 2012/09/17 18:19
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ハルピュイアというのは、美しい女の人の体を持つ鳥の魔物。

その外見で何よりも美しいのは、羽のグラデーションだ。

風きりばねはエメラルド色、第一初列風きりばねは真青色だ。

<第一初列風きりばねというのは鳥の羽についている一番下の長い風きりばねのことである。ちなみにこれを幼少のときに切ってしまうと一生飛べなくなる>

外見とは裏腹に性格は凶暴。縄張り意識が高い。

谷や海に生息して、誰でも見境なく襲い掛かる。

それが今、数十派の群れを成して鋭い足の爪をむき出しにしてティアに襲い掛かってきているのだ。

とっさに避けようかと考えた。

けれども両手の中にある、赤い表紙の預言書がそれをためらわせる。

水に触れれば精霊たちは力を失ってしまう。

剣を構えるまで、時間がかかる…。

そうだっ精霊…!

とっさにティアは叫んだ。

「ハルピュイア、どうにかして!」

「よっしゃぁ!」「まかせてっ!」

とっさのことで、精霊のどちらに頼むか忘れていた。

なので二人して自分が頼まれたのだと思い、返事する。

「あ…」

二人の返事を聞いて、どちらに頼むか一瞬迷いが出たが、心配しなくてもよかった。

二人同時に詠唱しだしたからだ。

「__・__」

相変わらず、何を言っているかわからない。

ハルピュイアの輪郭がはっきり見えてきた頃、二人の詠唱が同時にやんだ。

何が起こるんだろうと、見つめているとまず目立つ炎がごうっと巻き起こった。

真っ赤なグラデーションが綺麗に渦巻いている。

と、その合間に緑色の渦が時折顔をのぞかせる。

すると突然、炎の威力が勢いを増した。

渦が二倍になり、炎が津波のようにハルピュイアに襲い掛かる。

炎と気である風は相性がよく、炎の威力を数倍にも上げることが出来るのだ。

青のウェルドの大河が、その間夕日の染まったように炎に照らされて赤くなる。

「なんか…はじめてみたときよりすごいかも…」

そうつぶやき終わる前に、炎に飲まれてハルピュイアは全滅した。

役目が終わり、炎と風が消える。

「おいおい、縛られてねぇ時のオレの力はこんなもんじゃないぜ!」

上空よりレンポが降下してくる。

あわてて手を差し出して手のひらに載せようとすると怪訝な顔をされる。

「そんなに疲れてねぇよ。今はおまえが元気だし、正式に精霊魔法を使ったからな、力を出しやすかったんだ」

差し出した手を足蹴にされた。

そこへミエリがやってくる。

「大丈夫だった、ティア?」と、心配してくれる。

頷くと、急に寒くなった。

「それじゃさっさとこの河、わたっちまおうぜ」

言われて自分が河の中で腰まで浸っていることを思い出した。

それほど精霊魔法の印象は大きかった。

Re: アヴァロンコード ( No.90 )
日時: 2012/09/13 20:51
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ウェルドの大河から上がると、吹きぬける風がとんでもなく冷たい。

グラナトゥム森林の滝から落ちたときのように、凍える。

まだ下半身だけが水に濡れただけでよかった。

スカートが太ももにまとわりつく。

なんという気色悪い感覚!

だが仕方ない。かまわず歩いていく。

 先ほどとは比にならないほどの小石が地面に散らばっている。

ウェルドの大河から離れると石は徐々に消えていき、だんだんきつい上り坂になっていく。足元は小石から土に変わる。

景色も松などの高原に生える植物が多くなった。

「バルガッツォ渓谷ってところだよ」

ティアがほぼ崖の道を歩きながら言った。

ここはバルガッツォ渓谷。深い谷と崖の道が連なる険しい道のりだ。

崖の下をのぞくと、底は見えない。

白い霧がもやもやと逆巻いているだけで、落ちたら死ぬとわかる。

けれど、そんな切り立った崖にも木々は生命強く生えている。

落ちないように小道を歩いていくと、先のほうで兵士の最後尾がいるのが見えた。

「追いついちゃったわねー」

気づかれたらもしかしたら、カレイラに返されるかもしれないので見えなくなるまで休憩にすることにした。

石に腰掛けて、松ノ木にすがりつく。

疲れてはいなかったが、背後がすぐ崖と言うこともあってすがりつきたくなる。

「おい、ここロープ切れてるぞ」

暇になったのでその辺を散策していたレンポが崖のそばの杭につながれたガードロープを指差して言う。

確かに、杭から外れてひらひらとロープがたわんでいる。

「危ないなぁ。落ちたらどうするんだろ」

言いながらある考えが脳裏を掠める。

切れたって事は…だれかおちた?

青ざめつつ崖をのぞくが霧で見えない。

ぎゃくに見えたら困るのだが…。

「なおしてあげよっか?」

崖を覗き込んでいたティアにミエリが言う。

ぱたぱたと羽を動かしてじいっと返事を待つ。

彼女はレンポの逆で足を封印されているため、飛んでいるしかない。

「できる?」聞くとミエリは笑顔のまま指をくるりと回した。

すると地面からにょきにょきとツルが生えてきて、それが切れたロープの代わりに杭に絡みつく。

しかもそのツルはとんでもなく太く、縄のように結われている。

「こっちもなんだか心配ね」

三つ並んだ杭にも指をふる。するとツタががっしりと杭を支えた。

人工の物が、一瞬にして自然に出来たもののように見えてしまう。

緑色のガードロープはミエリがウインクするとピンク色の花を咲かせた。

「これでいいわね!そろそろいきましょ!」

満足げにミエリが腰に手をあてて言う。


それから同じような崖の道を進んでいくと、少し開けたところに出る。

「橋か?」

兵士の最後尾が調度橋を渡り終えたところだった。

茶色の木で出来た橋。

見かけによらずがっしりとしたつくりのため、どんなに多くの人がわたっても壊れない。

「お?滝があるぜ!」

橋を渡っている最中レンポが橋の下に美しい白糸の滝を見つけたらしい。

「あ、魚もいる」

けれどティアは立ち止まって風にそよがれながら景色を眺めようとしない。

ひたすら、足を前に出して橋を渡ろうとする。

切り立った崖にどうやってかわからないがかけた橋。

こんな橋から下を見ると、ゾッとするだろう。

「ティア、もしかしてこわいの?」

ミエリが辺りを見回さずにもくもくと歩くティアに声をかけた。

ティアは無言のまま橋をやっと渡りきると、安堵のため息をついた。

「ふあー…やっとわたりきった…」

振り返ってやっと景色を見る。「ホントだ、きれいな滝!魚もいるね!」

崖に身を乗り出すティア。

不思議なことに崖のほうが橋より怖くないのだ。

「わかったから…おまえ落っこちるぞ!」

「ティア、あぶ…あぶないから!」

精霊に止められてティアはしぶしぶ崖から離れた。

「ワーグリス砦はまだか?」

ほっとしてレンポがつぶやく。またティアが危ない事しないうちにつきたいものだ。

「あとは、ずっと上っていくだけだよ。あと一時間くらい」

預言書を抱えなおしてティアはもう一度崖をのぞいた。


Re: アヴァロンコード ( No.91 )
日時: 2012/09/15 00:40
名前: めた (ID: UcmONG3e)

バルガッツォ渓谷、最後の崖の道に差し掛かった。

とんでもなくきつい傾斜で、ガードロープが他のところよりしっかりと作られている。

さもなくば、ふらついた拍子や、風にあおられたとき何人もの人が深い谷に落下して命を落としただろう。

それほどに標高が高いのだ。景色はひらけて連なる山々のてっぺんが見下ろせる。

ふと視線を落とせば、先ほど襲われたハルピュイアの群れが霧の合間に優雅に舞うのが見えた。

ティアたちは再び小休憩を挟んだ。

薄い霧のおかげで、まぶしい太陽は見えない。

「風が心地いいわね」

ミエリが涼しげに緑色の目を閉じて言う。

風に吹かれてミエリの長い褐色の三つ編みがゆれる。

「霧が多いみたいね。風に水分があって普通の風よりいい気持ち」

ミエリの言うとおり、ここバルガッツォ渓谷のてっぺんに当たる現在地はよく濃霧がおこる。

濃霧と言うのは字の通り、濃い霧のことである。

まるで煙の中にいるように前がまったく見えず、その中にいるだけで体温を奪われてしまう。

よくある言い伝えでは、霧の中7人の旅人が歩いていたが、濃霧から出てきたとき一人いなかったという話。

落下したのだろうか、それとも濃霧の中で何かが起こったのか…。

とにかくこの言い伝えは年少の子ども達を震え上がらせている。

「さ、小休憩は終わりだ」レンポが言った。

「すぐそこに、もう砦がある。戦争が始まるぜ」


ワーグリス砦が目の前にそびえる。

地面はすべて石のタイル張り。壁一面も燃えにくいタイル張りだ。

茶色の扉は半開きで、さまざまな物資が無造作に置かれている。

たとえば、砲台の玉とか、木の杭ブロックなど緑のテントの下にわんさかとある。

中でも一番多いのが、木のたるに入った火薬だ。

防火用の布にくるまれて配置されている。

号令が扉の奥から聞こえるので、ティアは足早に扉を潜り抜けた。

 扉を抜けた先は北の戦場とワーグリス砦を結ぶゆいいつの門。

その門は今閉じられていた。

それもそのはず、開け放てばヴァイゼンの兵がなだれ込んでくるからだ。

その門も、いまやヴァイゼンの投石器によって岩を当てられて不吉な音を出している。

今は弓兵が応戦をして、カレイラの部隊が召集するのを待ている。

ティアがいる通路は砦の中心に当たり、救護部屋・待機部屋・弓部屋・食糧庫・武器庫がある。

その通路に、いまや何千と言うカレイラの兵士が集結している。

ティアが混じりこんでも、ぜんぜん気づかないようで皆かなり緊張していた。

と、騎士団長の一人がその前線に立った。

門の直下に立ち、ハルバート(斧槍)を高く掲げて声を上げる。

「カレイラの名を知らしめよ!」

次々と声援がはじける。

「カレイラのために!聖王ゼノンバートのために!!」

合唱のように複音し、兵士たちは一気に気合を入れた。

それを合図にヴァイゼンの兵士がいる北の戦場へ向けて、門が今開け放たれた。


Re: アヴァロンコード ( No.92 )
日時: 2012/09/15 02:05
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「急げ!ネアキを早く探せ!」

なだれ込んでくるヴァイゼンの兵と、濁流のごとく流れていくカレイラの兵。

血みどろの戦が幕を開けた。

その最後尾にいたティアにレンポが叫んだ。

ティアの元にヴァイゼンの兵士が飛び掛ってくる。

子供といえど容赦はしない。

槍部隊なのだろう、槍を突き出して走ってくる。

けれどティアはあわてず、剣を振り回し槍を受け止めると木の柄をもう一方の剣で切断した。

槍を失った兵士はすぐさま腰の剣を引き抜く。

だがその隙を与えず、剣の柄を強く握って柄で兵士の鎧の胸の部分を強く突き飛ばす。

後ろへ倒れそうになった兵士を、足でけり、地面に突き飛ばすと兵士は気を失った。

さすがにティアは殺すことがまだ出来なかった。

魔物ならともかく、生身の人間はいやだ。

「ねぇ、ネアキって—」

どんなひと?と聞きたいのだが、またもや兵士が飛び掛ってくる。

今度は銀の鎧ではなく紫の鎧だ。

「おい、あれは魔物だぜ!」レンポの声に反応し、すぐさまためらわず鋼の剣で切り裂く。

鎧が砕けて緑のうろこのトカゲ男が断末魔の声を上げる。

その声に反応して新たに紫兵が沢山やってくる。

「このひとたち、みんな魔物よ!」

「ちっ、預言書を狙ってやがるなっ?」

ティアのそばより精霊たちが言う。

預言書目当てか、紫の兵士ばかりティアのもとに寄ってくる。

どれも、魔物だ。

それを片っ端から倒すと、ティアの周囲に円形の魔物人間の死体が転がった。

「これじゃ…精霊解放どころじゃないよ!」

ティアが息を荒げて嘆くと、突然前方の壁が爆発した。

ドガーンッとものすごい音が砦中に響く。

「なんだぁ?!」

もくもくと砂埃と火薬の匂いが漂う中、戦場に似合わぬ陽気な鼻歌が聞こえてくる。

灰色の砂埃から丸いシルエットが浮かんできた。

「むふっふんっふん♪」

そのシルエットがふたたび陽気に鼻歌を歌い始める。

「爆弾ふっとんだ♪」

どうやらあの爆発はこの丸いシルエットが起こした爆弾のせいらしい。

と、ミエリが軽く指を振った。

すると、どこからともなく穏やかな風が吹いてきて煙をかき消す。

そのおかげで丸いシルエットの姿がはっきりと見えた。

頭にオレンジのヘルメットをし、緑のゴーグルをつけている。

防護服もオレンジと茶色の組み合わせで、手には手袋をはめている。

背中には煙突が二つある妙な機械を背負っていた。

一度見れば男性だとわかり、中年期だと言うこともわかった。

「むふぅ?オマエ…」ティアの足元に散らばる魔物の残骸を見て男が言う。

妙な口調なのはご愛嬌だろうか?

「…けっこう、活躍しているネ」

ちょっと悔しそうにしているが、戦争は競争ではない。

「なんだ、この太っちょは!」

レンポが言うと、タイミングよく男が言った。

「ワタシはハオチイ。さすらいの研究者ネ」

「けんきゅうしゃ?」

ミエリが首をかしげる。前の世界には研究者がいなかったのだろうか?

「戦場はワタシの実験場!ワタシの爆弾で一網打尽むふぅ!」

自慢げに言うハオチイという変わった名の中年男。

歯並びの悪い口を変形させて厳しい口調に変わった。

「とにかく、ここはワタシにまかせ、オマエは帰ってネンネしてるといい!」

ティアはもちろん頷かない。戦争など嫌いだが、ネアキという氷の精霊を封印より解かなくてはならない。

するとハオチイはむっとしたようだった。

「な、なまいきネ。オマエみたいなガキには戦争はまだ早いネ!」

そういうと、気配を感じてかさっと振り向く。

そこには走ってくるヴァイゼンの兵士。

「見てるがいいネ!」いうなり、ハオチイは背中の機械のレバーを引っ張りながら走る。

機械が作動してブンブンうなり声を上げている。

と、ハオチイがレバー脇のひもを引っ張ると、ズドーンというものすごい音と共に爆発が起こった。

兵士が吹き飛び、ハオチイも爆発の渦で見えなくなる。

「?! ハオチイさん!」

駆け寄るティア。その目の前に驚くべきものがある。

ぽっかりと開いた穴。

普通ワーグリス砦に穴を開けることは不可能であるが…。

「落ちちゃった?」

「なんだあいつは?」

覗き込むミエリと、肩をすくめるレンポ。

すると、穴の一番近くにいたミエリがティアを振り返った。

「ねぇ、ティア」呼びかけにティアが反応すると先を続けた。

「あの人のいたところからなんか冷たい空気が流れ込んできてるよ!」

「冷たい空気…ティア!」ひらめいたようにレンポが言う。

「オレ達もおりてみようぜ!」


レンポの言葉により、おもいきって穴に飛び降りたティア。

着地するや否や、肌寒い冷気が全身を包み込む。

思わず身震いした。

「すっごい冷気…これって!」ミエリが期待してレンポを振り返った。

「あぁ、間違いねぇ」忌々しげにレンポが頷いた。

「このギスギスした感じ。ネアキがここにいる!」

やったー!ネアキに会えるっ!と大喜びするミエリ。

いったいどんな人なんだろう、とネアキを思い浮かべようとするが、ハオチイの声が邪魔する。

「むむむ…砦の地下にはこんなところがあったとは。ここはちょっと寒いネ」

言いながら腕を組んで二の腕あたりをさすっている。

ティアもすでに鳥肌が立っていた。

あたりは砦と同じつくりだが、それよりももっと古い感じ。

ほとんどが水色の氷に覆われて、よくはみえない。

足元も、奥へ続くとよりいっそう凍りに覆われていく。

空気中には目に見えるほどの冷気が漂っていて、吐く息も白い。

ハオチイをおいて、奥へ進もうとすると洞窟のようになっている入り口が頑丈な板の扉で固定されていた。

剣で叩こうが、レンポの炎でも突破できない。

空気中に水分が沢山あるため、炎の通りが悪いのだ。

それに不機嫌そうにレンポが文句を言う。

「くそ!この扉が邪魔だな!」

するとハオチイが氷を踏みしめてよってきた。

天井に氷柱が張り付いていて、ぽたぽた水滴の音が聞こえてくる。

「そんな武器じゃ壊れないよ。そんなにそっちに行きたい?」

頷くティアにハオチイはにんまり笑った。

「よし決めた!オマエにワタシの爆弾を授けるよ。オマエなら正しく使いこなせる。大切なのは心」

そういいながら、ハオチイは拳大の爆弾を手渡した。

ずっしり重く、見た目は黒い亀の甲羅だ。

「どんな道具も使う人の心次第ネ!」

「ありがとう、ハオチイさん!」

ティアは受け取った爆弾を早速コードスキャンした。

そうすれば、何度も取り出して使えるからだ。

「早速使ってみましょ!」ネアキに早く会いたくて、ミエリがせかす。

ティアは数歩下がって爆弾のピンを抜き、扉の元に投げる。

コーンと凍りついた床に当たり、爆弾が扉にころがる。

数秒後、固唾を呑んで見守るティアたちの目の前で、爆弾がはじけ、こっぱ微塵に扉が吹き飛んだ。

とたんに強風が吹くようにどっと冷気が押し寄せてきた。

身も凍る、肺が凍り付いてしまいそうな冷気だ。

「うう、寒いな!」

炎の精霊であるレンポが上空にて歯を食いしばって震え上がる。

その様子をすずしげにミエリが見る。

「レンポ、寒いの苦手だよね!」

相変わらず続く冷気の中、ティアはハオチイと別れて進むことにした。


Re: アヴァロンコード ( No.93 )
日時: 2012/09/15 14:57
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアでこそ、この氷洞の名前を知らないが草花にあるように、ここにもれっきとした名前がある。

トルナック氷洞という名である。

氷洞と呼ばれてもおかしくはない。岩で出来た洞窟のように氷が床、壁、天井すべてを覆っている。

青く輝く表面からはおびただしい冷気が駄々漏れていた。

「ミエリは寒くないみたいだね」

息を吐くたびに白い息が空気中に舞う。

靴を履いているのに、ヒヤッとした冷たさがジンジン伝わってくる。

指先が冷えて赤くなりつつある。

「森の精霊ってのは涼しいのを好むからな」

身の回りに炎をともらせてレンポが言った。

ミエリは寒そうにしている二人を差し置いて、涼しげに頷いた。


しばらくは細い管のような氷の道を進んでいたが、徐々に開けてきた。

氷柱が地面から天井まで貫いている。

透明で、不純物の交じりがいっさいないためか、透き通ってガラスの柱のように見える。

けれど触れれば手が張り付くような痛みが走る。

「ネアキの力で氷が力を増してるんだ」

言われてみればとんでもなく太く長い氷柱だらけだ。

どれも美しい。走ると滑ってよく転ぶ。

地面に亀裂が走っているところもあり、そこだけ青の花が咲いたように見える。

「こんな開けてきたら…道に迷っちゃうわね」

困るのも当然。

開けてきた氷洞はいまやティアの家よりも広く、フランネル城なみに広い。

しかも景色がほぼ同じだ。氷柱の数が増えるか減るかの違いのみだ。

「みてみて!綺麗よね!」

ミエリがのびのびと宙をすべって、氷床に突き刺さるようにしてはえている氷の結晶をなでた。

六角柱の結晶はティアの腕よりも太く、うっとりするほど美しい色をしている。

人は青を一番識別できる。青のグラデーションがどの色よりも美しいと感じるのだ。

たとえば虹の中に二つの青を見つけたし、一日をかけて移り行く青空の色の違い。

海の色の深さによる青のグラデーション。

紫をよく認識できない代わりに青をよく認識できるのだ。


さらに億へ無頓着に進んでいくと、冷気が増すのがわかった。

まるで冷凍庫に入ったようだ。

もしくは氷山の中に閉じ込められたような気分。

「とまれっ!」

途端にレンポが叫んだ。

ティアは本能的に足を止めた。

「クレパスだ!気をつけてすすめよ!」

彼の腕指す(レンポはひじから指先まで封印されているため指が使えない)方向にはわずかな段差に隠れた穴があった。

上空からならよくわかるけれど、地面に立った目線では氷に埋もれてわからない。

近づいてみれば、横に切り裂かれたような氷の裂け目があった。

クレパスと言うらしい。

「だんだん増えてくるみたい。上から見ると黒い穴がよく見えるわ」

Re: アヴァロンコード ( No.94 )
日時: 2012/09/15 15:44
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ミエリの言ったとおりだった。

氷洞を歩いていけばいくほど、ポツリポツリとクレパスが現れ始めた。

真っ暗の穴に吸い込まれる錯覚に陥りそうになる。

「ティアが飛べたらいいんだけど…」

つるつるの氷床に転びそうになって慌てて体勢を整える。

もう少しでクレパスに落下するところだった。

その様子をみて、ミエリが心配そうにつぶやいた。

「この世界の魔術でも、ムリだろうな」

レンポが目をつぶって言う。なにか、思い返しているようだ。

「二つ前の世界には、羽があってな。魔力を込めて飛ぶことが出来たんだ」

真っ白の鳥の羽さ、とレンポが説明する。

「今はもう魔力が薄れ始める世界になっているからな。空を飛ぶような魔術はないだろ」

ティアはもしかして飛べるんじゃないかと期待していたので、残念そうに頷いた。

Re: アヴァロンコード ( No.95 )
日時: 2012/09/15 18:40
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「なんだか、だんだん氷の結晶が増えてきたね」

徐々に道が狭まっていき、内側から輝く氷の道はいっそう美しくなる。

その氷から、さまざまな色の結晶がはえている。水色、青、緑青。

どれも美しく、宝石だと言って売り出せば誰もが信じただろう。

とくにカレイラの街の嫌味な裕福兄妹、ロマイオーにとフランチェスカは許諾の富を支払うだろう。

けれどそれを採取して持ち帰ろうと思わない。

こんなに美しいのだから、このままそっとしておきたい。

一つあったって、さびしいだけだ。

すべてがそろってはじめて美しいのだ。

その素晴らしい氷の芸術品を壊さないように、ティは慎重に進んで行った。

しばらく歩いていくと、分厚い氷の扉が行く手をふさいだ。

水色の硬い扉。浮き彫りの美しい装飾がついている。

中心にこれまたこった鍵穴がついていた。

「綺麗ね!」ミエリが驚いて言う。

「ティア、鍵を使うんだ」

それにかまわずティアに言うレンポ。

「氷のコードを鍵に入れるんだぞ」

メンタルマップに氷のコードが入ると、鉛色の鍵が一瞬にして美しい装飾の鍵へと変化した。

水色の本当に氷で出来た鍵は、手の中でひんやり冷たい。

「あけたら…ネアキがいるのね…」ミエリが氷の扉を眺めていった。

「あけるよ」

鍵穴に鍵を差し込んで、ティアは二人の精霊にきいた。

二人が頷くと、ティアは鍵をねじった。


Re: アヴァロンコード ( No.96 )
日時: 2012/09/15 19:36
名前: めた (ID: UcmONG3e)

氷の扉は錠が開いた瞬間、もろく崩れ去った。

ジュッと音がしたと思うと、さらさらした砂となった。

砂と言うよりは、むしろ粉雪だろうか…それよりはダイヤモンドダストに一番似ているだろう。

きらきらと光り輝いて消えた。

視界がはっきりすると、目の前に巨大な空間がみえた。

真っ青な空間、冷気がとりわけ厳しい。

一歩進むと、巨大な氷塊が奥にそびえていて、ピカピカ輝いている。

それもとりわけ大きくて、それでいて芸術的だった。

その氷塊より、冷気が滝のようにあふれだしている。

「きれい…」

思わずつぶやいてしまう。

「ネアキだ」

その氷塊にむかってレンポが言う。

「え?」

近づいてよくよく観察すると、氷塊に青のしおりが張り付いている。

「ネアキだわ!」ミエリがティアにうれしそうに言う。

すると、レンポが一人黙ってネアキのしおりに飛んでいく。

なにをするんだろう?と二人して見守っていると、レンポが枷のついた腕ごと振り払うようにそのしおりを炎で焼いた。

「あ!」

「ちょっとっ…レンポ!」

ティアとミエリがおどろいて声を上げる。

けれど、しおりは焼け焦げておらず真っ青に光った。

しおりが姿を徐々に精霊本来の姿を形どりはじめる。

黄土色の瞳、額に雪の結晶が描かれている。

長い髪は、紫がかった美しい青で足元までつんつん尖っている。

その髪の合間に、氷の角が横に生えている。

肌は雪のように白く、青ざめていた。

その背中には氷の羽がついている。

首に頑丈な枷がついていて、がっちりと首に縛りついている。

「ネアキって…女の子だったんだ!」

ミエリがネアキのことが大好きだといっていたので、想像していたのは男の子の氷の精霊。

しかし、実際の氷の精霊は無表情のかわいらしい顔の少女。

「ティアってば、ミエリは女の子だよ!そういえば言ってなかったもんねー」

ミエリが横からおかしそうに笑う。

そのネアキがいま封印から解かれた。

Re: アヴァロンコード ( No.97 )
日時: 2012/09/17 16:29
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ネアキは封印より目覚め、驚いたように黄土色の眼をしばたいている。

けれど、すぐ自分が燃やされたことに気づき、キッとした。

手にしていた氷の杖をレンポに向ける。

喉元に突きつけられて「うおっ」っとのけぞるレンポ。

「へへっ。久しぶりだな!」

けれど、ネアキは返事しない。

相手がレンポだからでもあるが、首についている枷によって『声』を封印されているのだ。

テレパシーにより、かすかな声を出すことは出来るが、つらつらと長く話すことはできない

なので、後ろ!というようにくるりと氷塊を振り返る。

「うん?後ろ?」

ミエリが氷塊をみあげる。

と、徐々に真っ黒の影がうつくしい氷塊を包み込んでくる。

「げっ!アイツは!」

べたーっと影が伸びるように氷から何か出てくる。

それが大柄な黒い塊になっていき、木の怪しげな剣を持った巨大悪魔になった。

悪魔はコウモリに似た顔で歯をむき出しにして二たっと笑う。

そしてどすの利いた低い声でけたけたと言った。

「礼を言うぞ。ようやく永きにわたる封印より解き放たれた!」

するとレンポが奥歯をかみ締める。

キッと相手をにらんでいる。

「ちっ、ネアキの力で封印してたのかよ!」

すると、悪魔はティアのほうへ身を乗り出す。

その巨体をかがめて、翼の不細工なコウモリ羽をきしめかせる。

「忌々しきは人間共め!」

うなるように悪魔は続ける。

「救世主クレルヴォ様を裏切り亡き者にしただけでなく第一の腹心である、この剣魔アモルフェスをも封印するとは!」

「!」精霊三人が驚いたように目を見開く。

「クレルヴォが…そんな」『…クレルヴォが…?』

クレルヴォという名前と、亡き者にされたというワードに反応する精霊たち。

なんかショックを受けているようだった。

と、悪魔はティアの腕を見ると、ハッとした様だった。

預言書を見て興奮している様だった。

「それは預言書…なるほどそれほどの時が過ぎたか」

悪魔アモルフェスが下品にグハハハッと笑う。

「預言書が再び現れたということはわれらが救世主も復活なさっている頃だろう。預言書を手土産に、クレルヴォ様の元に戻るとしよう!」

一気に叫んで悪魔はティアめがけて奇妙な目玉とギザギザの口の書かれている木の剣を振り回した。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
以下、テレパシー会話のネアキの吹き出しのみ『』で表示します。

Re: アヴァロンコード ( No.98 )
日時: 2012/09/17 16:55
名前: めた (ID: UcmONG3e)

剣魔アモルフェスはティアに立ちはだかった。

その剣を振り回し、すぐさま氷の部屋である“封印の間”の角に追い詰めてしまう。

その様子を眺める精霊たち。

『…!…』追い詰められた様を見て、ネアキが眉を寄せる。

「大丈夫、ネアキ」けれどミエリはそこまで不安が募らない。

『…なぜ…』ネアキが黄土色の瞳でミエリを振り返る。

「ティアは強いよ」


そのころ精霊たちの目下でティアはゲオルグの盾に感謝していた。

(あ、村長さんの友達の盾だっけ?)

がんがん激しい悪魔の攻撃に耐えてくれるこの盾。

500年前のものとは思えない。

「盾などつぶしてやるわ!」

剣魔アモルフェスが方向をあげて剣を振り上げる。

思い切り振りかぶれば、この盾も壊れるかもしれないと思ったのだろう。

けれど、ティアはそこにできた隙を見逃さない。

途端に構えていた剣を、アモルフェスの胸に突き刺した。

心臓一突き、ぐさりとやった。

—つもりだった。

けれど、アモルフェスは叫び声もあげない。

白目をむいてしんでもいない。

「え?」

ただ驚愕するティアの目の前に、不気味な笑みを浮かべて突っ立っている。

そしてティアの反応を面白がるようににやにやした。

「どうして…?」

おそるおそる剣を引き抜くティア。その剣には血液もいっさいついていない。

刺した傷口もすうっと消えてしまった。

後には黒紫のふさふさした毛が生えているだけ。

「このアモルフェス、命など持っていない」

呆然としているティアに剣を振り上げる。

「よって死なども存在しない!」

目の前に近づいてくる木の剣をあわてて盾で防ぐが、防御の仕方が悪く、よろめいた。

それもそのはず、死なない悪魔をどうやって倒せばいいかわからない。

攻撃しても、ふさがるならばどう戦えばいい?



Re: アヴァロンコード ( No.99 )
日時: 2012/09/17 18:13
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「死なないって…本当?」

さすがに心配そうにするミエリ。弓なりの眉が、さかさまになっている。

ネアキは目を閉じて考える。そしてこくんと頷いた。

『…たぶんそう…』

「そんな…それじゃどうやって?」

ネアキの答えに、ミエリは完全にうろたえ始めた。

いくら精霊と言えども、枷で縛られている上に不死身の相手を倒すことは出来ない。

枷がなければどうにかなったかもしれない。

自らを駆使して、封印するか、精霊の命をすべて削って無へと返すしかないが…。

すると、レンポは首をかしげた。

「なぁ」と、二人に声をかける。

「クレルヴォにあんな仲間いたか?あいつと世界を創ったときあんなのいなかったはずだぜ?」

ミエリとネアキも、頷く。

クレルヴォと聞いて、表情が暗くなる。

「クレルヴォ…悪魔となんか一緒じゃなかった」

ミエリが悲しそうに言う。

『…枷が私たちを縛りつづけた…だからクレルヴォと一緒に…いることは出来なかった…再び預言書が出てくるまで…封印させられていた…』

ネアキのかすれたテレパシー声に、二人は黙り込む。

『…きっと私たちが眠った後…なにかあった…あの悪魔もクレルヴォのこと…救世主様っていっていた…』

ネアキは首もとのかせに手をやる。

冷たくひんやりした精霊封印具。預言書との鎖。

これさえなければ…ずっと預言書の主人と一緒にいれるのに。

世界を創ったら…預言書の主人ともお別れ。

次に目覚めると、その人は死に絶えていて次の預言書の主人が選ばれる。

「クレルヴォ…は、人間に倒されたんだよな」

レンポにしては珍しく、ためらいがちな口調だ。

やはり、前の預言書の主人だけあってクレルヴォの死に悲しみを感じているのだろう。

といっても、預言書の持ち主は命に限りがある。精霊が封印から目覚める頃には当に死んでいる。

「それは…倒されなくてもわかっていたことだろ…預言書の持ち主の死なんて」

預言書の持ち主が新たに作った世界で殺されたりするのはまれだが耳にする。

そんなこと、神話をたどればわかる。

あがめられたものもいれば、クレルヴォのように倒されたり…。

けれど結果的には寿命で死ぬのだ。

「それよりも、気になったのはあの悪魔の言葉だ」

「?」と首をかしげる二人の精霊。

「預言書が再び現れたということはわれらが救世主も復活なさっている頃だろう…と言っていただろ?クレルヴォは死んだ。死んだら大精霊のオレ達でさえよみがえることはない」

ミエリとネアキも頷く。

だが、自分達が死とは無縁の存在だとわかっている。

「なのに何故、クレルヴォが復活するんだ?クレルヴォは巨人族だったけど…寿命はあった」

三人に不安がよぎる。

このことはティアに言っても仕方がない。

三人はそろって視線をティアとクレルヴォを救世主様とあがめるアモルフェスを不安げに見つめた。


Re: アヴァロンコード ( No.100 )
日時: 2012/09/17 19:36
名前: めた (ID: UcmONG3e)

精霊たちが不安げに話をしていた頃、ティアはというとアモルフェスに苦戦を強いられていた。

あれから何度か急所を突いてみたけれど、どれも空振りだった。

足、腹、首など人間であれば致命的なものなどどれも試してみた。

だがやはりアモルフェスは猟奇的な笑みを浮かべて平然としている。

ティアはすっかりあせっていた。

戦意を失う手前まで来ている。

勝てない相手に戦意がわかないのとおなじである。

(本当に…この悪魔には命がないのかな…)

どこを切っても血の一滴もでない相手。やはり不死身—。

不死身なら、やっぱり精霊たちの力も無駄になるだろう…。

「どうした人間。攻撃をやめるのか?」

疲れてきて、距離をとるティアにアモルフェスはおかしそうに言った。

アモルフェスはもてあそぶようにティアを傷つけるだけで、殺そうとはしていなかった。

けれど、つかれきったティアをみて、アモルフェスは目の色を変えた。

剣を片手にティアを再び追い詰め始めた。

ゆっくり歩いてくるアモルフェスに、ティアはティアは盾を構えながら後ずさりする。

そしてついにはトンッと背中が氷にぶつかる。角に追い詰められた。

あぁ—どうしよう—。

ティアは心の中でつぶやく。

—アモルフェスはすぐそこだ。

今度は強く振りかぶっている。

滅多刺しにするような体勢をしているアモルフェス。今にも刺してきそうだ。

「ティアっ!!!」

精霊たちの叫び。

頭上に降ってくる木の剣を剣と盾で一緒にガードする。

けれど…ガードできるか…。

もうだめかもしれない…。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・

やっと更新100いきましたー
まだまだ前半部だけど…
前、中、後すべてあわせて1000で、終わるかな…

Re: アヴァロンコード ( No.101 )
日時: 2012/09/17 20:48
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「ぐっ」

アモルフェスの口からこんな声が漏れた。

「え?」

ティアは目をしばたいてきょとんとする。

そして見る見るうちに笑顔になった。

「レンポ!」

突然名を呼ばれてビックリする炎の精霊。

「な、なんだよ?」

どうしてティアが死ななかったのか、いや死ぬより生きていたほうがいいけど…どうして…。


さかのぼること5秒前。

アモルフェスの木の剣を剣と盾で受け止めたティア。

頭をかばうように盾を、その上に剣でガードした。

まず木の剣がティアの剣に接触し、そして木の剣に小さな切れ目が出来る。

すると、アモルフェスが剣と連動するようにうめいたのだった。

そして今に至る。

名前を呼ばれて当惑気味のレンポに、ティアは叫んだ。

「アモルフェスの剣をもやして!」

ギクッといった感じで、アモルフェスが剣を握りなおす。

氷の力が一番強いこの“封印の間”で炎の威力が弱まるかと思ったが、そうでもなかった。

腕を軽く振るだけで瞬時にアモルフェスの剣が燃え上がった。

「ぎゃあ!」

かえるをつぶしたような声を出し、燃え上がる剣を手放すアモルフェス。

「!」『…!…』

おどろく精霊たちとティアの目の前で巨大だった悪魔の姿がぐんぐん縮み始めた。

「なにこれー小さい」

ミエリがすっかり小さくなったアモルフェスを見てつぶやく。

ティアのふくらはぎほどしか背の高さがない。

そんなに小さくなったアモルフェスは舌打ちをする。

「ちぃっ、覚えていろ?!」

あっかんべーっとする悪魔は、その小さい体躯を駆使してものすごい速さで封印の間を出て行こうとする。

「どこ行くのっ」

ミエリがその出口を一瞬にして植物で覆い、ぶ厚い壁を作る。

幾重にも絡まったその構造は、あり一匹も這い出れない。

緑の壁の前に、アモルフェスはさらに舌打ちする。

「ティア、このよえぇやつさっさと倒しちまえって!」

レンポがティアの隣でけしかける。

すると、アモルフェスは顔面蒼白になり植物に飛びついてその根を噛み切ろうと必死になっている。

『…させない…』

ネアキが杖をふると、植物の壁が霜に覆われていき、真っ白になる。

硬さも尋常じゃなく、アモルフェスは牙の一つを失った。

「がっ ぐふ…くそっ」

口から血を流し、小さな小さなアモルフェスはキッとティアを振り返る。

「ティア、悪魔の血が出てる、口から!」

『…もう、不死身じゃない…』

ティアはうなづいて、アモルフェスに歩み寄る。

今度は立場が逆転し、アモルフェスが角に追い詰められる番だった。

つん、とコウモリ羽が氷に詰まる。

「くっ……ふっはは!」

弱気だったアモルフェスが急に笑い出した。

「何?」

すると、急激にアモルフェスが巨大になり始めた。

元の姿に戻ると、その手にあの剣が握られている。

「もどった?!」

ティアの驚きの叫び声に、ぺっとアモルフェスは血の混ざるつばを吐く。

「血の味ってこんなだったかな…?」

長い間怪我など死なかったアモルフェスは、にいっとした。

「人間の血の味なら、覚えているんだがなぁ!」

アモルフェスは剣を燃やされないうちに、ティアに再び襲い掛かった。


Re: アヴァロンコード ( No.102 )
日時: 2012/09/18 17:17
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「く…つっ!」

アモルフェスはティアをしゃべらせないようにがんがん攻撃している。

またも、剣を攻撃されて小さくならないように。

ティアはどうにか剣を攻撃しようとするが、盾で防ぐのがやっと。

剣で攻撃しようとすれば、木の剣ではなく殴りかかるように拳が飛んでくるか、巨体の体当たりが来る。

「ふん、所詮は人間」

攻撃を繰り返すアモルフェスは見下したように言った。

「その預言書は本来の主、クレルヴォ様の元へ帰るべきなのだ!」

アモルフェスが握りこぶしをティアめがけて振り下ろすと、ひときわ大きい金属音が封印の間全体に響き渡る。

「ぅあ!」

ティアが吹き飛ばされ、後方へ2メートルほどふっとぶ。

床に全身を打ちつけ、うっとうめくティア。

アモルフェスの拳が氷を突き抜けて、冷気が舞い上がり、霧のように視界を悪くする。

「ティア!」精霊たちはティアの元へ飛んでいった。

「おい、大丈夫か!」叫ぶと、ティアは脳震盪を起こしたように頭を両手で押さえている。

「わたしたちに命令して!あなたを守るから!」

ミエリが叫ぶが、ティアはうめくばかり。

「ん、なんだよ?何が…?」

ティアが何かつぶやいているので、精霊たちはティアを覗き込む。

すると、自分達に命令するのではなく何かが壊れたといっている。

『…! 見て…』

ネアキがいち早く悟って、二人の精霊に冷気の渦巻くところを指差す。

そこにはティアの様子を楽しむように見ているアモルフェスと、その足元にある金属の破片。

鈍い銀色、少しはげた部分もある…。

「盾が…こわれちゃった」


Re: アヴァロンコード ( No.103 )
日時: 2012/09/18 17:49
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「盾が…けどだいじょうぶだ。預言書からまた出せばいい!」

ティアが痛む頭から手を離し、預言書を手元に出現させる。

それに気づいたアモルフェスは表情を変えてティアに突進してきた。

真っ黒の巨体、冷気を吹き飛ばしながらティアに体当たりをする—。

精霊たちはムリにでも封印された力を引き出そうとした瞬間、体を引っつかまれた。

「!?」『…!?…』

思考がついてゆかない。けれど柔らかな布に包まれたのはわかった。

と、全身をゆるがすような爆音と意識を失いそうになる振動が体中をめぐる。

その頃ティアはと言うと、預言書から盾と爆弾をとりだし、爆弾をアモルフェスに、盾を構えて精霊をポケットに突っ込んでいた。

「ぐお!」

アモルフェスはとっさのことで、投げつけられた物がなんなのか理解しないうちに吹っ飛ばされた。

そして木の剣がこっぱ微塵になる。

盾から身を起こしたティアは、すぐさまもう一つの爆弾を構える。

小さくなったアモルフェスはまだ衝撃でぶっ倒れている。

それに向かって爆弾を投げつける。

「やめろーー!!」

アモルフェスは寝転んだ状態から、ティアに向かって叫ぶがもう遅い。

ティアは盾を構え、アモルフェスの最期を目を閉じて迎えた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・

VSアモルフェスの回ながかった…
そして参照が気づけば700越えていまして、見てくださっている方々ありがとうございます

Re: アヴァロンコード ( No.104 )
日時: 2012/09/18 18:28
名前: めた (ID: UcmONG3e)

数秒たって、ティアは盾をおろした。

アモルフェスはすべての魔物と同じように浄化されたと思っていたが…。

そこには一人の男が横たわっている。

「!」ティアは驚いて戸惑った。

先ほどまで、戦っていた悪魔は…人間だった?!

駆け寄ると男—アモルフェスはまだ意識があった。

黒ずくめのアモルフェス。

「な、なんで…人に?」

するとアモルフェスが目を開いた。真っ赤な瞳。

まだ悪魔の気が残っているようだ。

「それは…もとは人間だったからな…」

苦しそうに息をして、こっぱ微塵になった剣を見上げる。

「悪魔って言ってたのに!」

ティアの慌てように、アモルフェスはにやっと笑う。

「俺は人間から悪魔に…魔物になった。ダインスレフに魂を食われてな」

こっぱ微塵になった木の剣はダインスレフというらしい。

剣が魂を食う?

ティアは眉を寄せる。

「俺は裏切り者アモルフェス。巨人に対向してた人間を裏切った…悪魔みたいな人間さ…そしてクレルヴォ様に悪魔にしてもらった…救世主クレルヴォ様に…」

はああっとアモルフェスが息を吸い込む。

きっとこれが最後の言葉になるだろう。

終命の吐息だ。

「そして…報いとして人間に倒された…クレルヴォ様も…人間によって…」

そしてすべての息を使い切った。

真っ赤の目が、ゆっくり閉じていく。と、その体が魔物と同じように美しく散っていった…。

「…」ティアはなんともいえぬ、悲しい心に支配されていた。

悪魔と言えど、人であったアモルフェス。

人を裏切り、人に封印されて、人に倒された。

「ちょっと、からまった!」

「仕方ねぇだろ!狭いんだから!」

『…騒々しい…狭い…もういや出たい…』

精霊たちの声に、ティアは慌ててポケットの留め金をはずした。

ロックしていたので、精霊たちはポケットに軟禁状態だったのだ。

「オレ達大精霊をポケットにいれるなんて!いざとなったとき助けられないじゃねぇか!」

すぐさまポケットより飛び出してきたレンポがティアに怒る。

「えへへ、ごめん…」

ティアは頭をかきながらあやまる。

でも、精霊たちが爆発に巻き込まれるのが嫌だったから…ポケットに避難させたんだけどなぁ。



Re: アヴァロンコード ( No.105 )
日時: 2012/09/19 21:04
名前: めた (ID: UcmONG3e)

 第四章 雷の精霊

‐黒き遺産より雷の御使いが還るとき
 禁断の槍は解き放たれる
 多くの死と悲しみが
 うずまくだろう



「ふーん、そうだったの?」

ティアからアモルフェスについて聞いた精霊たちはそういった。

ポケットに缶詰だった精霊たちはアモルフェスの最期の言葉が聞こえなかったのだ。

『…魂を食べられたおろかな人間…』

ネアキが冷たい視線を残されたダインスレフ—魂を食う剣—に向けて。

そしてその剣の元に舞い降りる。

預言書サイズの小さな体を、ダインスレフの真上にもっていくネアキ。

なんだか、悲しそうな表情だ。

『…クレルヴォ、何を考えていたの…こんな剣を与えたなんて…』

独り言のようにつぶやく。

ティアはなんといえばいいかわからず、黙ってみているしか出来ない。

精霊たちは皆押し黙って、やるせない思いに駆られているようだった。

(クレルヴォって誰なんだろう?救世主って言ってたけど…?)

質問したいのだが、いつもの天然振りがここでは出てこない。

悲しみをたたえる精霊たちに、そんなこと聞いたら帰って悲しませるだろう。

おそらく、クレルヴォという人物は精霊たちにとって大切な人だったらしい。

「ティア」

そんな表情を振り切って、レンポがティアに向き直った。

もしかしたら、クレルヴォについて教えてくれるかな…

だが違った。

剣のほうを腕指して「ダインスレフ、もらっておこうぜ。きっとこの先役に立つかもしれない」と言った。

ティアの期待はずれの顔を見て、レンポは付け加える。

「大丈夫、預言書の持ち主のオマエなら魔物になる事はない」

なんだか居心地の悪い思いで、ティアは言われたとおり、ダインスレフをコードスキャンする。

砕け散ったダインスレフは、預言書のページの上で元の形に構成されていく。

それを確認したティアは、三人の精霊を振り返った。

三人の精霊は黙ってこちらを見返している。

何か、言いたいような…ためらうそぶりを見せている。

「どうしたの…?」ティアが思い切って聞くと、三人はますますそわそわする。

口を開きかけて、うっとつまってうつむいてしまう。

けれど、ネアキが意を決したようにかすれた声で言った。

『…世界の崩壊がはやすぎる…』

一度ならず三度も、精霊たちがいった言葉。

世界の崩壊が早い…と言う言葉。

ティアにはわからない。けれど、精霊たちは不安そうにしている。

『…誰かが世界の崩壊を早めている…?』

すると、信じたくないと言う口調でレンポが言った。

「まだそうと決まってないだろ。この世界が堕落した…自業自得じゃないのか…?」

するとネアキがあきれたように眉を寄せる。

『…短絡的…それに単細胞…』

「なんだと!」

二人の口げんかが始まったが、ミエリは暗い顔を変えない。

けんかに気づいているも、放置しているようだ。

長年の付き合いの結果だろう。

「世界の崩壊を早めている誰か…まさか、ね」

ティアはネアキとレンポの口げんかに気をとられ、ミエリの意味深な言葉に首をかしげるのがやっとだった。

力まで使い出す前に、二人の精霊の仲裁に入る。

「お、落ち着いてふたりともっ」

「ティア、とめるな!だいたいコイツはいつも!」『…わたしは本当のことを言っているだけ…レンポの短絡的なのは生まれつき…』

このやり取りにミエリはようやく笑顔を取り戻した。

(そんなわけない。あの優しいクレルヴォがそんなことするわけない…)

首を振ってそんな考えを吹き飛ばすと、すっかり明るい声で告げた。

「さぁ、残る精霊はあと一人。雷の精霊ウルだよ!がんばって探そうね!」


Re: アヴァロンコード ( No.106 )
日時: 2012/09/19 18:56
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ワーグリス砦、地下のトルナック氷洞を再び戻り地上へと戻ったティア。

暖かい空気が彼らを迎える。

「戦争はどうなったのかな?」ミエリが辺りを見回して、つぶやく。

ティアや、他の精霊たちも見回す。

先ほど倒したバケモノ兵のなきがらと、壊れた武器が転がっている。

「階段がある。北の戦場はどうなってるか見ようぜ!」

言われて、階段を上っていくティア。手にはしっかりと盾と剣。

見晴台につくと弓を構えて休んでいるカレイラの戦士達が寝転がっていた。

天井のない見晴台は弓兵が主に戦うところだ。

「!?」ティアの姿を見てあわてて構える戦士達。

「大丈夫ですっ、わたしカレイラの兵士です!」

慌てて言うティアに、兵士たちは不安顔で武器を下ろす。

ただ、武器には手をかけたままだ。

そして怪訝そうに顔を見合わせて言い合う。

「なぜこんな子供が…こんな戦場に?」

「さぁ…。こんな子供いたところで役にはたたな—」

しかし先をいえなかった。みな凍りついたように固まる。

ティアの背後を見て、絶望の浮かんだ顔をする。

「ヴァイゼンの紫兵だ!」人生が終わったと言うような言い方の兵士たち。

ティアが振り返ると、紫兵と呼ばれる魔物兵がちょうど剣を振りかぶるところだった。

「あぶない!」カレイラの兵士が叫んだが、ティアは盾ですばやくガードした。

剣を受け止めると、紫兵は咆哮を挙げて本来の姿である、魔物の姿を鎧を突き破って出現させる。

「だめだ、にげろ!」カレイラの兵士たちは角の生えた巨大なバケモノに気おされてしまっている。

けれどティアは逃げずに、バケモノ兵にうってかかる。

鎧に身を包まないバケモノは、足のケンを切ってしまうとうめき声を上げてくず折れる。

そして腹部の柔らかなみぞおちに差し込むように剣を突っ込む。

すると、叫び声もなしに魔物兵がぐったりする。

「!?」カレイラの兵士たちはティアが簡単に魔物兵を倒したので声も出ない。

ただ赤茶のレンガの上に腰を下ろして呆然とその状況を見ていただけだった。

それもそのはず、士気の低いカレイラの兵士たちはバケモノの兵士と戦うのを避けていた。

紫兵は呪術をもつかうため、恐れられていたのだ。

「! また!」ティアが一息つく前に、預言書に誘われてか魔物兵がやってくる。

それをひたすら倒し、現われ倒すの繰り返し。

最終的にはティアの足元に散らばるように紫兵がわんさかとたおれていた。

「こんなの楽勝だな!」

レンポはティアの戦いぶりに満足そうに言う。

三人並んだ精霊たちは上から辺りを眺めていたが、何かを感じ取った様だった。

「!」『!』

三人同時に電気でも流れたようにびくっとする。

不安げに辺りをうかがう。

「なに?この感じ…」ものすごく不安そうなミエリがそうつぶやいた直後、ハッと何かを見つけたようだった。

切り立った崖の方向を指差して「あそこ!」と叫ぶ。

崖の上には数人のヴァイゼン兵士と双眼鏡を持つ男。それと…

「隠れてっ」

言われてあわてて身を伏せて目だけ出してのぞく。

どうやら気づかれてはいないようだ。

「あれは…」ミエリがその最後の人物に目を留める。

守られるように兵士の奥に立っている。

「クレルヴォ?!」

Re: アヴァロンコード ( No.107 )
日時: 2012/09/19 22:10
名前: めた (ID: UcmONG3e)

その頃、ティアたち一行のいる真逆の方向つまり崖の上にて。

ヴァイゼン帝国の兵士二人と、双眼鏡を構える男、奥に立つ立派な服装の青年がいる。

まず双眼鏡の男。

黄緑のどくとくな鬼のような髪型の男。年齢はいくつか不明である。

青のこれまた一風変わった洋服を着ており、杖を突いている。

長い肩掛けがあり、その下に金糸の刺繍入りの服を着込んでいる。

背後に守られている銀髪の青年、頭に金の球体王冠をかぶっている。

真っ青のマントを着ており、黒い鎧に身を包んでいる。その瞳は真っ赤で、鋭い光を放っている。

「王国軍め、思ったよりもやりますなぁ」

黄緑色の髪の年齢不詳の男、ワーマンが背後にいる青年にいった。

ワーマンは帝国の皇子の補佐役である。

もちろん、奥に立つ青年がヴァイゼン帝国の皇子、ヴァルド皇子である。

「ヒャハハハ!」戦争現場を愉快そうに見て笑うワーマン。

「まぁこの戦いも、余興に過ぎませぬ。ここは王国に一筋の希望を持たせるのも一興ですな」

ヴァルドはその言葉を黙って聴きつつ、目下の戦を見つめる。

圧倒的に帝国軍が王国郡に追い詰められている様が見える。

「最期に絶望へと変わったとき…さぞかしいたい思いをするでしょう!」

わくわくした感じで振り返るワーマン。きっと同感してほしいのだろう。

けれどヴァルドは興味うせたようにワーマンに背を向ける。

「あ、ヴァルド皇子」ワーマンが慌てて追いかける。

けれど右半身の悪いワーマンの歩くスピードよりも、ヴァルド皇子のほうがはやい。

さっさと進んでいくヴァルドに「お待ちください」と声をかける。

なだらかな崖を下るヴァルドはもちろん足を止めない。

「ヒース将軍に伝えておけ!」

ワーマンは途中彼らを守護する兵士に命令する。

いいほうの腕をおおきく振りながら、続ける。

「早く合流しろとな!」

そして言い終わると、ヴァルド皇子の元に歩いてゆく。


「ヤツは…クレルヴォだ」

崖から消えていく青年の姿を見てレンポはつぶやく。

悔しそうな表情だ。

「姿は変わっているが間違いねぇ」

すかさずミエリがレンポに叫ぶ。

「彼は倒されたんじゃなかったの?!」

こちらの表情も同じようで、絶望とか悲しみ、戸惑いが混じっている。

「あぁ、復活したんだな…アモルフェスの言うとおり…」

ネアキはそんな二人を黙ってみている。

「じゃあやっぱりあのこが、今のクレルヴォの体なのね」

完全に視界から消えたヴァルドあらためクレルヴォのいた崖を凝視するミエリ。

『…なぜ?…』ネアキがはじめて口を開く。

表情は相変わらず無表情だが…。

「軍事国家ヴァイゼンの独裁者。今度は敵同士ってわけか」

精霊たちは顔を見合わせた。

やはり、封印の間で考えていた事は正しかった。

クレルヴォが何らかの形でよみがえり世を乱している。

悲しいが、世を乱すならば敵同士になる。

「覚えておけ…やつは…オレ達の敵だ」

ためらいを振り切るようにレンポはティアに言った。

でも意を決して気持ちを切り替えたようだった。

「おそらく預言書を狙ってんだろ」

ただ、何に使うのかわからないけれど…。

「…さ!もどろうぜ!」

暗い表情を吹き飛ばすようにレンポは言った。

「砦の敵はほとんどかたずけた。戦争は大勝利だな!」


その数時間後、ティアもカレイラの兵士もいなくなったワーグリス砦。

そこにやっとのことでやってきたヒース将軍がいた。

大勢の人間の死に天までもが悲しんだのか、涙の雨が降っている。

北の戦場には死体がごろごろしていた。

壊滅状態になり、死体を持ち帰って家族に返すことも出来ない。

ただ、ヒース将軍は妙なことに気づいた。

雨の中死体をまたいで歩いていると、その多くがヴァイゼンの鎧を身にまとう魔物の死体なのだ。

「わが国の鎧を着けた魔物の死体…」

歩きながらつぶやく。

「これはいったいどういうことだ」



Re: アヴァロンコード ( No.108 )
日時: 2012/09/20 18:57
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ここはカレイラ王国。

戦争の勝利祝いのためか、町中がにぎわっている。

そして早朝だと言うのに、みなカレイラのフランネル城に集い、今か今かと噂の二人を待ち構えている。

城の場外広間の上空、フランネル城の突き出たベランダに国王の姿が見えると、みな期待を込めた視線をベランダにいっせいに上げた。

それもそのはず、いったいどんな二人が、カレイラを勝利へと導いた英雄なのか国中知りたがっていたからだ。

王の姿が完全にベランダのふちに来ると、国民は歓声を上げた。

だれかが祝いのために白いはとの群れを飛び立たせた。

紙ふぶきもカラフルな色で空中を踊り狂っている。

カレイラが勝利祝いに完全に歓喜している。

と、王がよく響く声で手を振りながらベランダにて告げる。

「皆のもの!今回の戦われらカレイラの大勝利となった!!」

王がうれしそうに言い終えると、国民も指笛を吹いたり帽子を掲げて腕を大きく振る。

「勝利を祝おうぞ!!」

その様子をベランダより見つめる精霊たち。

ミエリとネアキは黙って王の背中を見ている。レンポはというと、完全にがちがちになって緊張する英雄を励ましていた。

「おい!気を抜けってティア!大丈夫だって…まったく」

うんうん、と不安げに頷くティア。けれど顔色が悪い。

英雄を紹介しよう!と国王が叫ぶ。

びくっとしたティア。けれど呼ばれたのは隣にいるもう一人の英雄だった。

「まずは爆弾を手に多くの帝国兵を倒した、ハオチイ!!」

ハオチイはティアに笑いかけると、足早にベランダのふちに歩み寄っていく。

両腕を精一杯ふってアピールすると、国民は歓声を上げて迎えてくれる。

「そして伝承に語られるごとく預言書を持ち突然現れたカレイラの英雄!」

ハオチイも国王もティアをそろって振り返る。

国民も固唾を呑む。いったいどんな人が…?

「ほら、行けよ!」レンポに促され、ティアはおそるおそる足を踏み出した。

「ティアだ!!」

ふちにたどりつき、深呼吸する。

と、割れるような歓声と拍手がティアを包み込む。

怯えていたティアも、徐々に笑顔になり手を振った。

「天はこの若者に奇跡の力を与えた!」

ゼノンバート国王が誇らしげに言うと、それに反応するように国民も興奮する。

すっかり本来の姿を取り戻し、ハオチイと並んで手を振るティアを見て精霊たちはほっとする。

「見ろよこの扱い。ま、当然だよな?」

奇跡を最初魔術といぶかった国民が、いまや奇跡と呼び英雄扱いする様を見てレンポは言う。

けれどネアキはふんと鼻を鳴らして一言。

『…バカみたい…』

ミエリがレンポに「ネアキは、人間は信用できないから浮かれるなって言ってるよ」と言う。

するとレンポはちょっとくらいいいじゃねぇか!と国民のほうへ身を乗り出す。

『…すきにすれば?…』

「ふふ。たまにはいいかもね」

そういって三人一緒に英雄となったティアを見ていた。

Re: アヴァロンコード ( No.109 )
日時: 2012/09/20 21:39
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「さぁ、英雄達よ」

ベランダから城内に引っ込み、テラスにて国王が二人に言う。

ガラス張りの美しいテラスで、二人は椅子を進められた。

真っ白の円形のテーブルはおそらく象牙…椅子もそろって象牙でありクッションがついているためおしりは痛くない。

「…」

黙って座ると、国王も真っ赤な椅子に座る。

ハオチイの太った体系にあわせて変えられた椅子よりも、もっとずっと立派なものだ。

「娘を」

ゼノンバートが待機していた兵士にそういってティアたちに向き直る。

「よくぞ勝利へと導いた。カレイラの英雄達よ…」

そうゆっくり言って、二人を交互に見る。

「ハオチイ、おぬしには爆弾研究の研究費を出してやろうぞ。必要ならばすぐにでも用意させよう」

ハオチイはうれしそうに歯並びの悪い口でにこっと笑った。

黄色い服はどれも汚れてすすけていたため、王宮バスルームの使用を認めてやるが?と提案するのだが、ハオチイは首を振った。

「ワタシ風呂きらいなのネ。研究費については喜んで貰うむふぅ♪」

「風呂が嫌いと…では新しい服をあつらえてやろう?」

ハオチイが断ろうとしている気配を感じ取ったのだろう、「同じものを」とすばやく付け加える王。

するとぱっと顔が明るくなり、ハオチイは頷いた。

「ではお願いするネ。研究費についても…」

その返事を聞いて報酬に見合ったものを与えられたと王は安堵した。

そして今度はティアの番だというように、彼女のほうを向いた。

白い椅子に座る幼き少女英雄は空中をみつめ、微笑んでいる。

と、ゼノンバートの視線に気づきあわてて視線を戻した。

「おぬしは…その年でよく紫兵を倒せたものだ」

感心したようにつぶやくと、本人は顔を赤くしてうつむく。

手元にある赤い本を抱きしめて。

「弓兵の騎士団長から聞いている。おぬしは皆を紫兵から救ったと…。預言書を持つものが我がカレイラに現れるとはな」

誇らしげに言うが、王自体預言書がなんなのかよくわからない。

ただ、その本はなんだと聞くと預言書ですと帰ってきた。

兵士たちに聞けば、預言書と呼ばれる赤い本から武器を次々と取り出して魔物兵に打ち勝ったと言う。

「父上、今参りましたのじゃ!」

ティアを眺めていたゼノンバートは娘の元気な声を聞いて視線を扉のほうへ向ける。

茶色の美しい扉の前に、今入ってきたばかりの愛娘、ドロテアがいた。

ピンクのふんわりしたドレスに、ピンクと白のチェック柄の靴下。

大きなひし形のエメラルドブローチを胸に着けて、バラの添えられている金の王冠をかぶる金髪のショートカットの小娘。

瞳は王妃譲りでうつくしい空色。

「やや、そなたは…ティ—」「この二人はカレイラの英雄だ」

ドロテアは言いかけた言葉をそのまま飲み込み、そうかとつぶやく。

「そなたがかの有名なカレイラの英雄になったわけじゃな」

こつこつと靴音を響かせて象牙のテーブルに近寄るドロテア。

そしてふうんと二人の英雄を眺め、うんと言うようにうなづく。

「この国のために貢献したこと、わらわはうれしく思うぞ!」

言って、ゼノンバートに向き直る。

「父上、もうパーティーの用意ができた様なのじゃ!」

わくわくした感じでドロテアが言う。

「はようこと、はじめたいのじゃ!わらわはわくわくしてどうにも…!」

「おうおう、そうかそうか」

落ち着かせるようにゼノンバートはうれしそうに頷く。

そして席を立つと手を叩いて兵士たちとコマ使いを呼び寄せる。

「英雄を会場へ。娘も頼む。ただ、ティア。おぬしはもう少し残っておれ」



Re: アヴァロンコード ( No.110 )
日時: 2012/09/21 18:20
名前: めた (ID: UcmONG3e)

テラスに国王と二人の残されたティア。

いや、実際のところネアキやレンポ、ミエリが一緒にいるので一人ではないのだが…。

「ティアよ」

完全に小間使いたちの気配が消えると、ゼノンバートはティアを振り返った。

「はい…」恐る恐ると言ったかんじで、ティアが返事する。

(もしかして…牢屋脱獄したこと覚えてる?!)

ゼノンバートとこうやって会話することは初めてではない。

前に一度、ヴァイゼンの内通者だと間違えられて投獄されたのだ。

レンポと共に脱獄したのだが…どうやら本当に関心がなかったようでティアがあのときの小娘だと気づいていないようだ。

ティアとしてはそれはうれしいことだ。

けれど、本当は覚えていて牢屋に入れられてしまうのではないかとひやひやする。

「おぬしには驚いた」

ゼノンバートは椅子に座らず、ガラス張りのベランダへ近づいていく。

逆光により、王の姿が真っ黒くなる。

「その年で英雄となるなど…我が代が初めてだろう」

全国王に対しての優越感に浸っているのだろう。鼻にかけた言い方をする。

「その若き英雄に、褒美を施そうと思うておる」

くるりと振り返ったゼノンバート。

「いったい何が望みだ?」

「えっと…」

ティアはその問いに拍子抜けし、おどおどと辺りを見回す。

何がほしい?何でも与えてあげるよ。

そういわれたことは一度もない。

貧しい生活だが、急にほしいものを言えと言われても…。

「おぬしは確か下町のものだったな。上層部に家をこしらえてやってもよいが?」

上層部といえば、とんでもなく金持ちのものが住むところだ。

城の延長のような家々が立ち並ぶところ…ティアは想像して首を振った。

「では…ハオチイのように金貨でも」

ところが再び首を振るティア。

「…娘の友人としてフランネル城に住むことを認めるというのは?」

ティアはすべてを断った。

「ではいったい何が望みだ?」

すっかりこまってしまったゼノンバートはティアに言う。

これほどまで金銀財宝豪華絢爛に興味のない人を見るなんて…。

ティアはやっと口を開いた。

「王様、王様は私に何でも願いをかなえてくれますか?」

一応確認のように、ティアが聞いてくる。

ゼノンバートはもちろんだと頷く。

すると安心したようにティアがホット息をつく。

「一つでいいんです。ローアンの街にいる私の親友ファナを助けてくだされば…」

「なんだと?」

そのあまりにも無垢な願いに王は思わず聞き返していた。



Re: アヴァロンコード ( No.111 )
日時: 2012/09/21 18:35
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「はい。ファナは産まれたときから病気にかかっていて、不治の病と言われています」

ティアは王にまっすぐ目を向けて言う。

王が目をしばたいているのを気にせずに。

「王様の力で、国一番…いえ世界一のお医者さんにファナを看病してくれるようにできませんか?」

王はしばらくあっけにとられたような顔をしていたが、危うく乾きそうになった眼球を瞬きにより潤した。

「それは本気か」

一応聞いてみたところ、何のためらいもなく頷く若き英雄。

(この英雄はほんとに人間か?すぐに人にだまされるタイプではなかろうか?)

心の中で心配しつつ、王はコホンと咳をする。

そして両手をテーブルに組んで、椅子に座った。

面接でもするかのような光景である。

「それで…医者が望みと…。それはわかった」

うんうん!と元気よく頷くティアに、王は再び心配そうに眉を寄せ、言う。

「もうひとつ聞いてやろう。その願いと言うのを…」

けれどティアは喜ぶどころか困った顔をした。

「願い事…お医者さん以外で?」

うーーんと悩み始めるティアに、ゼノンバートはさすがに時計を気にしてきた。

ティアという若き英雄は、貧しいがゆえに物への欲求が極端に少ないらしい。

何がとんでもなくほしいか、手に入ったらどんなに素晴らしいかわかってないのだ。

ただ必要最低限が身の回りにあれば言いと言う下町の考えに染められてほしいものがすぐ口をついて出ないのだろう。

王はため息をついた。

「よかろう。パーティーが終わったとき再びきこう」

ほっとしたようにティアが頷く。

(この若者は本当に大丈夫なんだろうか?)

ゼノンバートは眉をしかめてティアと共に席を立った。

目指すは英雄賛美パーティー。

下町の貧民も、中層部の住民も、上層部の金持ち民も王族もみな、身分の関係なく集えるパーティーだ。


Re: アヴァロンコード ( No.112 )
日時: 2012/09/21 22:02
名前: めた (ID: UcmONG3e)

王の後について会場へ歩いていく最中、ティアはずっと悩んでいた。

それはずばり、ほしいものについてだ。

ほしいもの、またはかなえてほしいもの。

けれどティアには何一つ思いつかない。

赤い絨毯を踏みしめながら、ティアはため息をつく。

貧しい貧乏生活ゆえ、どれも手に入らないものばかりになれっこになりほしいという感覚が麻痺している。

生活できればいいという考えにより、危うく暖炉にくべるまきをほしいと言いそうになった。

(そんなこと頼んでも仕様がないし…王様も多分納得しないと思うんだよね)

ほしいもの、ほしいもの…。

念仏のように唱えて、ふと真横に浮遊している精霊たちが目に留まる。

(精霊たちってほしいものあったりするのかなぁ?)

ちょっとした好奇心に火がついてこそこそと聞いてみる。

「え?オレ達のほしいもの?」

きょとんとする精霊たち。何でそんなこと聞くんだ?と言う表情。

「そうだなぁ…オレはないな」

真っ先にレンポが答える。

「え、ないの?」意外と言うようにティアがつぶやく。

「そうねー、私もないよ」ミエリも続いて言う。

ネアキははなっから興味が無い様で参加すらしない。

ミエリの隣にふわふわとういているだけだ。

「オレ達は封印されてるから、ものに触れることが出来ないんだ」

枷をいまいましげに持ち上げて言うレンポ。

「もらったって受け取れねぇ」

まぁもらうことなんかねーだろ、オレ達は見えないんだからと肩をすくめて見せる。

「ふーん…」ちょっと残念そうに精霊たちを見上げるティア。

「じゃあ願い事は?ないの?」

期待のこもったまなざしに精霊たちはそろって顔を見合わせた。

ネアキも今度は参加したらしく、目を輝かせている。

「まぁ…あるっちゃあるが…」

なぁ?とレンポが振り返るとミエリとネアキも頷く。

「どんなこと!」ティアが詰め寄ると、精霊たちは黙ってしまう。

それぞれの視線の先には枷の存在。

「枷をはずしてほしいの?」

聞けばそれまで黙っていたネアキが頷いた。

『…預言書の持ち主しか…はずすことはできない…』

ティアがそれなら出来るかも!と手を指し伸ばすのでミエリが悲しそうに首を振る。

「だめよ、ティア。そんなことでは外れないの。第一鍵穴さえないんだよ」

ミエリを引き寄せて、腰の枷をはずしてあげようとするがムリだった。

がっちりと固定されていて動かす隙間もない。

鍵穴を探したがやはりどこにもなかった。

「…どうやったらいいのかな」

ティアが期待する目で問うのだが、三人はそろって首を振った。

「…気にすんな!」ティアの沈んだ顔を見てレンポが言う。

「オレ達は永い間ずっと封印されてきた。不自由を通り越してこれが普通になったんだ。これからもずっと封印されていても、きっとかわらねぇはずさ!」

「ティアよ。ついたぞ」

調度会場に着いたらしい。



Re: アヴァロンコード ( No.113 )
日時: 2012/09/21 22:49
名前: めた (ID: UcmONG3e)

会場は王宮内の大ホール。

頭上に豪華なシャンデリアがぶら下がっていて、きらびやかな光をホール全体に投げかけている。

床は全部大理石張り、今は多くの丸テーブルによって埋め尽くされている。

「ようこそ善良なるカレイラの民よ!」

調度ティアとゼノンバートがつくとそれを見計らってかゲオルグが両手を掲げて大声を張り上げる。

「このたびの祝い、カレイラの勇気ある英雄、ティアとハオチイのためのものである!」

うおーっと英雄の部分に反応して叫ぶ国民達。

みなおいしい料理をほおばりながらゲオルグを見ている。

「勝利に感謝し、英雄をたたえよ!さぁ、乾杯!!」

カーンとホール内に乾杯のグラスの音が響いて、中には興奮しすぎてグラス同士をぶつけて割るやからも続出した。

けれどみなニコニコと笑顔で勝利を喜んでいた。

「さぁ、みなの元へ行きなさい。皆歓迎してくれよう」

ゼノンバートはティアにハオチイを指差して言う。

ハオチイはずんぐりした体系でなければ胴上げされる勢いで褒め称えられていた。

「そして考えておくのだぞ、ほしいものを」

その言葉を背に受けてティアは国民の渦に入り込んでいた。

大勢の人ごみの中、友人達の姿を見つけたのだ。

「デュラン!レクス!」

フルーツ皿のところでパイナップルを皿に盛っていたデュランがトングを持ったまま振り返る。

レクスはというとデュランのそばにある柱に寄りかかってこちらに気づいたようだった。

「あ、やあティア!じゃなくって、英雄様だねっ」

デュランはトングを皿に戻し、ティアを迎えた。

ティアはビックリして立ち止まる。

「さっすが英雄様だ!あっという間に紫兵を倒したって聞いたよ。この話が大げさじゃないってわかってるよ…」

デュランが言い終わる前にティアは首を振った。

「デュラン!!」

ちょっと大声で言うと、デュランは口をつぐむ。

「英雄様って呼ばないで、私たちは友達でしょ?」

ちがうの?とティアが見あげるとデュランは黙る。

するとレクスが皮肉そうに笑う。

「そなこと畏れ多くてできないよ英雄様」

Re: アヴァロンコード ( No.114 )
日時: 2012/09/22 00:21
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「さっきも国王とつるんでたろ。高貴な身分と付き合って気分はどうだい?」

レクスの言葉にティアは怒る気さえなくなってしまった。

兄貴分で面倒を見てくれていたレクスが、冷たく言うなんて。

言葉も出ずに、口も開けない。

友人に英雄になっただけで一歩距離を置かれてしまうことはつらい。

黙って首を振り、ちがうよとつぶやくとレクスはため息をついた。

片腕で頭をかいてそっぽ向く。

「わかってるよ、お前が英雄になっても変わってないことは!」

タダちょっといじめてみたくなっただけだ、と言うといつものレクスに戻った。

「僕も君の友達でいること誇りに思うよ」

デュランが再びトングを片手にパイナップルを皿に盛りつけながら言う。

「おかげでこんなにおいしい果物を食べられたからね」

にっこり笑って言うデュラン。

ティアはそんな二人をみてほっとした。

ふざけていただけならば、それに越したことはない。

「ファナは…きてるかな」

「さぁ、見てないけど」

レクスも見てないようで、首をかしげる。

「また熱が出たんじゃないのか?」


ティアはその言葉に世界一の医者に診てもらえるって!という知らせを伝えたくなった。

なのでこっそりパーティーを抜け出すことにした。

Re: アヴァロンコード ( No.115 )
日時: 2012/09/22 15:40
名前: めた (ID: UcmONG3e)

パーティーの会場を抜けるのは大変だった。

大勢の人間が集まっているくせに、兵士たちは彼らのことをきっちり見ている。

興奮しすぎて暴動を起こしたり、人ごみにまぎれて泥棒やテロを起こさないように監視しているのだ。

けれど見張っているのはたいてい下っ端の兵士たち。

団長や他の年季の入った兵士たちは別室で酒を飲み明かしているのだろう。

ただ、年季の入った兵士より初任兵士のほうが任務を忠実に遂行する。

「英雄殿、どちらへ?」

ティアがこっそり扉を抜けて出て行こうとすると兵士たちが聞いてくる。

「と、トイレはどこかなーと…」

真面目な兵士たちはそうですか、と言う。

「ではご案内いたしましょう!フランネル城内はまことに広いため迷ってしまわれないように」

「え?!…はい、お願いします」

兵士の後について案内されるティア。

出口からどんどん離れてゆく。

「ファナって言うのは、ティアの友達で体が弱いの」

ネアキに熱心に説明するミエリ。

『…だからティアは医者を頼んだ…』

納得したようにネアキがつぶやくとティアはハッとした。

いまさらだが、ゼノンバートに何がほしいか聞かれていたのを思い出したのだ。

でもなかなかほしいものが浮かんでこない。

「つきましたよ」兵士が立ち止まって言う。

これまた美しい装飾の入り口。どうみてもトイレがある感じではない。

「ありがとうございます。帰りは道を覚えてるので待ってなくていいですよ」

そういうと、兵士は軽く会釈して去っていった。

「で?おまえ本当に出口の道わかんのかよ?」

聞かれて預言書のページをめくる。

地図の記録されているページには、会場への道と出口への道が書き記されている。

「戻ると、扉を守護してる兵士に止められちゃうんじゃない?」

ミエリが地図を見ながらいう。

『…別の道、探したらどう…』

「そうだね…。これだけ広いお城だから、入り口なんていっぱいあるよね!」

Re: アヴァロンコード ( No.116 )
日時: 2012/09/22 16:11
名前: らーめんま (ID: UcmONG3e)

「おい、兵士くるぞ!」

「ティア隠れてかくれてっ」

『…扉の後ろへ、はやく…』

精霊たちにせかされてティアはネアキの近くの扉に身を隠した。

数秒して兵士たちが見回りしに歩いてくる。

「いま、声聞こえなかったか?」

兵士の一人がきょろきょろして言う。

「さぁ?幽霊でも見たんじゃないか?」その隣の兵士がふざけて言い返すときょろきょろしていた兵士も笑った。

「そうだな、ここは牢獄の入り口の近くだし…幽霊かもな」

すると残りの兵士たちが顔を見合わせて苦笑する。

「おいおい、しゃれにならないぞ。さっさと行こう」

兵士たちの見回りが立ち去ると、ティアは扉よりでてきた。

茶色の扉のちょうつがいにはよく油が差されていたので、きしむ音は立てなかった。

<ちょうつがいと言うのは、扉と扉を固定する金具のこと。蝶の羽のような形をしているためちょうつがいと言われている。また、油を差さないとお化け屋敷の扉のような音を発する>

「今の話聞いたか?」

扉から頭を出したティアに精霊たちは集まっていく。

「お化けの声…?」

「それはお前の声のことだろ!そうじゃなくて、牢獄の近くって事だ」

するとミエリが首をかしげる。

「それがどうしたの?」

ネアキも黙ってはいるが同じことを考えているらしい。

「オレ達は一度牢屋に入れられたんだ。そして抜け道を使って脱獄した。そこへもう一度行けば城から出られると思うぞ」


早速牢屋へと向かったティアたち。

大理石と美しい装飾の長い廊下を抜けて牢獄行きの扉の前に来た。

牢屋に入れられたとき、この道を通ったのを思い出す。

「人がいるよ」

ミエリが言うように、扉の前には居眠りしそうなハルバート(斧槍)兵がいた。

「そうだ、いい考えがあるよ!」

ミエリがひらめいたように言った。



Re: アヴァロンコード ( No.117 )
日時: 2012/09/22 16:50
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ミエリの作戦はこうだった。

まずレンポが兵士の気をひき、ネアキがある程度はなれた兵士の脚を凍り付けにする。

固定された兵士に隠れて、ティアが預言書の鍵を使って進入するのだ。

「よーし、じゃ隠れてろよ!」

やる気満々のレンポがまず兵士の元に飛んでゆく。

精霊は普通の人には見えないため、兵士の目の前にいてもまったく気づかない。

なので、空中に火花を散らす。

「?! な、なんだ?」

目の前にはじけ飛ぶ火花に驚いて兵士は後ずさる。

鎧が背後のドアにあたってがしゃんと音を立てた。

「ほらほら、こっちだぜ!」

誘い込むように火花と炎を空中に躍らせて兵士についてこさせようとする。

「ま、魔物め!」

意を決したようにハルバートを構える兵士はおそるおそるレンポの後を追った。

「うまくいった!」

隠れているティアに報告するようにミエリはうれしそうに拳をにぎる。

そしてティアから15メートルほど離れた頃、ネアキにあいづする。

ネアキが飛んでいき、レンポに誘い込まれた兵士の脚に向かって杖を振る。

そうすると、しゃらしゃらと氷の音をさせて足が凍り付いてゆく。

「?! な、これはなんだ?!」

霜が覆って、分厚い氷が兵士の足を完全に大理石と固定する。

「おーい、いいぜ!」

合図を受けてミエリはティアに進むように促す。

「さ、扉を開けるの。うまくいったね!」


Re: アヴァロンコード ( No.118 )
日時: 2012/09/22 17:05
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「おおーい誰かきてくれー!!」

預言書の鍵を使い、扉を開けたティア。

ネアキとレンポが来るのを待っていると、氷付けにされた兵士が叫び声をあげる。

「?! レンポ、ネアキはやく!」

ミエリが慌てて叫ぶ。ティアは二人を掴んで、ドアに引っ込み内側から鍵をかけた。

「どうした?!」

くぐもった声がドアの外から聞こえてくる。

「足が、動かないんです!引っ張ってくださいよぉ!!」

哀れっぽい声を出していた兵士が安堵の声を上げるのがわかった。

「よし、みんなせーのっ!」

『…レンポ、解除しといて…』

ティアの手の中に掴まれたネアキがレンポに言う。

「しかたねぇなぁ」レンポが目をつぶって言うと、外からうわっと言う声が聞こえてくる。

多分、氷が消えて兵士たちが皆転んだのだろう。

氷が解けてさらには炎で蒸発し、後には何も残らない。

「なんだったんだいったい…ぽ、ポルターガイストか?!」

兵士たちは震え上がっている様だった。

「さぁ、ティア。行きましょう」

Re: アヴァロンコード ( No.119 )
日時: 2012/09/22 18:31
名前: めた (ID: UcmONG3e)

牢屋の前に立つとあのときの恐怖がよみがえる。

ヴァイゼン帝国の内通者と間違えられて投獄された…。

「ここに入れられたのねー」

薄気味悪い牢獄の扉を眺めてミエリが言う。

「鍵かかってるね」

扉を開けようとするがロックされている。

ということはあのままの状態と言うことだ。

自分が入れられた当時のまま放置されている。

「この鍵穴とはあわねぇな」

預言書の鍵よりももっと大きな錠前がセットされていて、金属光沢が輝いている。

「どうする?」

ティアが聞き返すとレンポは心配するなと言う。

そして両手をかぎにかざして、ティアに言う。

「鍵を溶かせと命令してくれ!」

「鍵をとか…え?鉄を溶かせるの?」

驚いて聞き返すティア。

鉄の融点はとんでもなく高い。

1000度より高かったはずだ。

そんなことできるの?!

「当たり前だろ!さぁ、はやく言ってくれ!」

ティアは感心したように頷く。「鍵を溶かして!」

力を自由に使えるようになり、見る見るうちにレンポの手にかざされた鉄がぼうっと赤く輝きだす。

「熱い…」

森の精霊ミエリがネアキの背後に隠れる。

けれど気にせずにがんがん熱を上げていく。

熱に弱い両目が熱くなり始めたころ、ぐにゃんと鍵が変形し始めた。

それからしばらくしないうちに真っ赤に発光した鉄は形を崩し、地面にボテッと溶け出した。

「さぁ、これでいけるぜ」

恐る恐る手を伸ばすと、扉は熱くない。

鍵だけにしぼって発熱させたらしい。

ティアは扉を開けて、目的の穴に向かった。

抜け道のある、タワシの隠れ家に。


「すっごーい、全部本物ね!」

『…目が痛くなる…』

初めてここに来たミエリとネアキがそれぞれ観想を言うここは、タワシの隠れ家である財宝のある部屋。

あいかわらずの成金趣味で、タワシは以前によりましてきらきらの宝石を体中に着けている。

「なんじゃ、またおまえか!」

タワシがティアに気づいてざくざくと金貨の上を歩いてやってくる。

まるで雪のように踏みしめないと、埋まってしまう勢いだ。

「こんにちは!」

いうが、フンと鼻を鳴らされた。

「また投獄されたのかい嬢ちゃん」

あわれだねぇとタワシは去っていく。

そして金の玉座に腰掛けると王冠をかぶった。

「ワシの王国で暮らすか?牢獄なんぞないぞ」

そしてガハハッと笑って冗談じゃと言う。

「上の様子は騒がしい。なんかあったのか?」

玉座にだらしなく腰掛けるタワシはティアに問う。

「英雄がどうたらと…騒がしくてしょうがないわい」

フンと鼻を鳴らすタワシ。

「まぁ…ただ飯が食えるが。だがなぁ!」

ティアがしゃべる前にマシンガンのようにはなしだすタワシ。

「何故アレがない?!この世界で一番おいしいクリームケーキ!」

そして猛烈な勢いで王冠を地面にたたきつけた。

がしゃーんと金貨が飛び散る。

「?!」

「あれほどうまいものをなぜださない!…うまいのに…何十年ぶりに食えるかと思ったのだが、なぁ」

はぁーっとため息をついたタワシ。情緒不安定である。

「クリームケーキ…か。うんわかった」

つぶやいたティアを気にせずにタワシは金貨の山にうずまった。

「じゃあな、若者よ」

そしてぐうぐう寝てしまった。

『…変な人。行こうティア…』

ネアキに言われ、ティアは先を急いだ。





Re: アヴァロンコード ( No.120 )
日時: 2012/09/22 19:36
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「ここをあがっていけば外に出られるの」

レンポと草原へ逃げた抜け道にて、ティアが言う。

そこには墓場につながるはしごと、真っ暗な草原へと続く道がある。

『…はやくいこう…』

はしごを上ると、頭に墓石が当たる。

預言書を掲げて墓石をずらすと、精霊たちがいっせいに悲鳴を上げた。

「きゃ!」『…!!…』「うわっ!」

ティアは墓石をずらし終わるとその理由を完全に理解した。

雨だ。

雨が降っているのだ。

預言書の精霊は水に弱いのだ。

濡れると力を失い、姿を現すのもやっとだ。

晴天だったのに、今は空がくらい。

「なんとかしてくれっ」

雨に濡れ続ける預言書を、言われてかばう。

ジャケットの中に入れて、抱えるように墓場を後にする。

びちゃびちゃの地面を走っていくと、もうすぐファナの家。

もうすぐというとき、ティアの目の前に人影が現れる。

「…?」

その人がティアの目の前に立ち止まり、待ち構えている…?

紅色の髪を散切りにし、一房の長い髪をたらしている。

身の丈もある剣を背に装備し、肌は浅黒い。

見たところ…砂漠の人?

「ティアか?」

その人が低い声で聞いてくる。

その人は青年で、瞳は肉食獣のような黄色の瞳。

見ていると不安になる。

不安げに頷くとその人は近づいてくる。

と、どんとみぞおちに衝撃が走る。

「うっ?!」

うめいて倒れるティア。

倒れる寸前、青年と同じような格好をした女性達が近づいてくるのがわかる。

そして手が伸びてきて…

視界がブラックアウトする。

「ティア?!おい、ティア!」

精霊たちの声ももう聞こえない。

ティアは完全に気を失った。

次に目覚めたら、カレイラよりはるか遠く離れていることも知らずに。











Re: アヴァロンコード ( No.121 )
日時: 2012/09/23 01:05
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアが次に目覚めたとき、そこは居心地の悪いところだった。

「ん…」

ゆっくりと目を開けると、真っ先に飛び込んでくるのは心配そうにティアを囲む精霊たち。

何度か瞬きして、ゆっくり起き上がると精霊たちは安心した様だった。

「ここは…?」

片目をこすりながら聞くと精霊たちは黙って柵のついた窓を指差す。

「砂漠だ」

「さばく?!」

言われて窓に飛びつくティア。柵の着いた小さな檻のような窓から背伸びして外をのぞくと、見えるのは灼熱の砂漠、サボテン、かげろうだけ。

後は似たような景色だけで、ぎらぎらの太陽とむせるような乾燥しきった空気だけが存在している。

「あつい…」ミエリがため息をつく。

「砂漠は苦手…森の力もここでは使えないし」

そういいながらネアキのほうへ飛んでゆく。そして抱きつくと生き返るーと声を出す。

「あー!ネアキがいてよかったぁ!すずしい〜!」

小窓から顔を背けると、ネアキが困ったようにミエリに抱きつかれている。

けれどそうしたくなるのもわかる。

ネアキのいる空間からみずみずしい冷気と水分を感じるからだ。

「くそ、どこに連れて行くんだ?」

レンポは閉じ込められて不機嫌そうに言う。

どうやらここは馬車か何かの荷台部分らしく、ごとごとと不定期にゆれる。

それに酔わないようにティアは地面に座り込んだ。

それに小窓から差してくる直射日光も肌に痛い。

「レンポはあついの?」

聞いてみると首を傾げられる。

「オレは…炎の精霊だし熱すぎるとかそんなことはないぜ。ただ、ここは空気が乾燥してるから力は使いやすいけどな!」

そういって炎の小さな塊を簡単に出してみせる。

「ネアキは熱い?」

『…暑苦しいけどある程度なら力出せる…ほら…』

ネアキが小窓にむかって杖を振ると、小窓が薄い氷によって閉じられる。

水色の氷は直射日光によってどんどん解けていき水になった。

それも蒸発してしまう。

『…できれば熱い所いきたくない…力使いにくいし…』

ミエリもうんうんと同意する。

「私も、砂漠はやだなー。同じ熱いなら火山がいい」

「火山?砂漠より熱そうだけど…」

ティアがいぶかしげに聞くとミエリは得意そうに言う。

「火山は生命力の塊なの!そこだと森の中と同じくらい力が使いやすいんだー」

ティアとしてはちょうどいい環境がいいので、カレイラが恋しい。

いったい何故、自分はこんな状況に置かれているのだろう?

ただカレイラの英雄賛美パーティーを抜け出して親友の元へいこうとしただけなのに…。

ファナは…今どうしているのだろう。

王様から医者を紹介されている頃かな?

と、荷馬車が止まった。

どうやらどこかについたらしい。



Re: アヴァロンコード ( No.122 )
日時: 2012/09/23 01:50
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアが目を覚ます前、かなり時間をさかのぼった頃…

英雄賛美パーティーは幕を閉じつつあった。

「ではでは皆さん!締めと言うのもあれですが今回の英雄にスピーチでも頼みましょうか!」

ゲオルグがもう夕方になったのでお開きにしようと台座に上った。

本当は夜中までやりたいが、王宮内の社交パーティーに英雄達を招待して延長パーティーを行おうと思っているため、一端閉じようと思っているのだ。

もちろんのこと、社交パーティーには下町の貧民も、中層部の民も出られない。

上層部と王家だけが参加できる高貴で上品なパーティーだ。

その豪華さも料理の比もこれまでとは比べ物にならない。

贈り物も豪華なものを用意しているし、きっと英雄達も喜んでくれるだろうと王自らが開催する予定だ。

「では、そこにいましたね…ハオチイ!」

会場内が暗くなり、スポットライトがハオチイに当たる。

ハオチイはデザートをほおばっているところだったが、いやおうなく台座へと立たされた。

「スピーチ?むふぅ…ワタシスピーチなんてしたこと—」

台座で困ったように文句を言うハオチイ。

そのスピーチ中にゲオルグは兵士たちにもう一人の英雄であるティアを探すように言った。

さきほどまだ明るかった会場を見回したとき、ティアの姿が見えなかった。

いやっとゲオルグは腕を組む。

隣ではドロテア女王といやいやおしゃべりをしている娘のシルフィが深くため息をついた。

そんなこと気にせずにゲオルグは思う。

ティアは午前中、朝早くはよく視線に入っていた。

友人達とおしゃべりしてご馳走に手を伸ばしていたが…急に見失ったのだ。

それから一度もティアを見ていない。

英雄はどこへ行った?

ハオチイはその巨体で、いとも簡単に見つけられるが…。

私の気のせいだろう、ティアはこの会場の中にいるはずだ。

「シルフィ、わるいがティアを探してきてくれないか」

ボソッと耳打ちするとシルフィは心のそこからほっとしたように返事をした。

そんなに人間と話をするのが嫌なのかと思う声音だ。

「りょーかいっ」普段はこんなこと言わないシルフィは意気揚々と人ごみに消えていく。

見つかるとよいが…。

ハオチイのスピーチもそろそろ限界だろうが、ティアが出てくるまで長引かせないと。

「ところでハオチイ、爆弾の研究はいつから?」

ゲオルグは質問を続けていった。



その頃シルフィはというと、ウざったい人ごみを抜けてティアを探していた。

(さっさと社交パーティーに行きたいものだわ!ここは下等な人間が多すぎるもの!)

ティアがいそうな場所を探すけれどいない。

ティアがよくつるんでいた人々の周りも捜索するのだが、いない?

シルフィは人ごみを三周くらいして立ち止まる。

「いったい、どこ行ったのかしら?ティアは…」

困ってしまいシルフィは扉前の兵士に聞いてみる。

「あー、ねぇ?」

「はい、何でございますか!」

打てば響くようにしゃきっとした返事が返ってくる。

シルフィは唇に薄ら笑いを浮かべて思う。

(そうそう、人間はこうでなくちゃ!)

「英雄のティアを知らない?通ったとか覚えているかしら」

すると兵士たちがなにやら話し出す。

〜だよな?〜だったよな?というしゃべり声が聞こえ、シルフィはいらだつ。

片足立ちになって待っていると、兵士が振り返った。

「大変お待たせしました!」

「当然よっ それで?」

かなり上から目線で言うけれど兵士は続ける。

「英雄様は今朝、トイレへといっておりました」

シルフィは片方の眉を上げる。

「しかし、再びこの扉を通過した覚えがありません」

「つまりトイレから帰ってきてないってこと?」

なにやってんのかしらアイツ!と言う顔でシルフィは言う。

「そう、ありがと。で、城内の警備はティアのことなんていってるの?」

腕を組んで言うシルフィに兵士たちは顔を見合わせる。

そしてそれが、と頭をかく。

「その、かわいらしいお方と申しております…」

「そ、そういう意味じゃないわよバカね!見たか見てないかって聞いてるのよ!!」

シルフィは兵士の無能さに飽き飽きした。

(なにがかわいらしいお方、よ!頭使いなさいよねっ)

慌てたように兵士がへこへこ頭を下げる。

「申し訳ありません!みていないと、言っています。ただ—」

シルフィの目の鋭さに兵士は口をつぐむ。

「牢獄付近の警護に当たっていた兵士が奇妙なことを言っておりまして」

「奇妙なこと?ティアと関係あるんでしょうね!?」

うんざりだというようにシルフィが腕を組みなおす。

薄暗いのに兵士が困った顔をしているのがわかる。

「それはわかりませんが、火花と炎を目撃し、追いかけていったら足が氷付けになったと…そう言っていました」

「…ティアと関係あるか知らないけど調査する必要があるわ!ただちに牢獄前の調査を、そして城内にティアの捜索をお願いして!」

城の関係者ではないのにその威圧感で兵士は従ってしまった。

伝令が伝わり、兵が動く。

まるでチェスでもやっているみたいに駒(兵士)が動くので知るフェは得意になった。

そしてウざったい人ごみをみてゲオルグの元へ急ぐ。

ティアが行方不明になり、牢獄前では炎と氷が現れたことを伝えなければ。

そのとき、バーンとドアが開いた。

みなの視線がそちらへ向く。

扉を開けたのは可憐な少女。

げほげほっと咳き込んでいるがどうしても伝えたいことがあるという。

「ティアが—ティアがさらわれてしまったの!」

可憐で病弱な少女、ファナはそう叫んだ。


Re: アヴァロンコード ( No.123 )
日時: 2012/09/23 14:18
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「そなたは…?」

少女の発言にざわめくパーティー内。

ゼノンバートが題材上から大声で聞くと、ファナは恐れをなさずきっぱりと言った。

「ファナです。ティアの親友の…」

そこまでいうと、ゼノンバートはティアとの会話を思い出す。

親友のファナのために、世界一の医者を用意してくれと言われたではないか。

なるほど、このこが…

「こちらに来なさい。英雄がさらわれたとはどういうことだ」

ファナは時折せきをしながら台座のほうへ進んでいく。

その間に、ファナの祖母へレンが駆け寄ってそのか細い肩を支えてやっている。

「座りなさい」

ゲオルグはファナの病状をよく知っているので椅子を勧めた。

安楽椅子に座ると、幾分か楽になった様でファナの咳の発作もおさまってきた。

「ティアは多分このパーティーにこれなかった私をたずねてきたんだと思うわ」

ファナがしゃべりだすと、場内は静まり返った。

はっきりと聞き取りやすい声なのだが、一言も聞き漏らさないようにと誰もが口をつぐんでいる。

「窓からティアが私の家に向かってくるのが見えたの。そしたらいきなり変な格好をした人がティアを気絶させてどこかへ連れ去ってしまったのよ!私、追いかけたけどティアは馬車の荷台に乗せられてしまって…」

ファナは悔しそうに表情を曇らせた。

硬く握られた拳をヘレンが優しく掴む。

「英雄がさらわれた…」おそぼそと場内にこだまする声。

皆信じられないと言う顔でお互い顔を見合わせている。

ゲオルグは娘からの報告を受けて、厳しい顔で兵士たちをにらんだ。

(英雄が抜け出したのもわからなかったとは…それにしても)

「ファナ、よく思い出しておくれ。ティアをさらった人物はどんな格好で、どの方向へ去ったんだ?」

ゆっくり落ち着かせるように言うとファナは顔を明るくした。

「はっきりと覚えているわ。ティアを気絶させた人はとても長い剣を背中にくくりつけていた…肌はたぶん私たちより暗い色。髪の長い人。皮の水筒をぶら下げていたわ」

ゲオルグはファナの記憶力のよさに感謝しながら先を促した。

「馬車は世界の十字路からグラナ平原のほうへ消えていきました」

ファナが言い終わると同時に、ゲオルグは手を叩いた。

「すぐにそちらのほうへ捜索隊を出すのだ!」

兵士たちがこぞって出て行くと、ゲオルグはゼノンバートに耳打ちする。

「牢獄前で不可解な出来事が起こりました。もしやティアと関係あるかもしれません…」

王は不快気に眉を寄せる。

「調査団を配置しろ。すぐにな」

言い放つと場内の照明をつけるように命令する。

「皆のもの、本日はお開きとする。また、英雄をさらったものに心当たりがあるものは申し出るように」

Re: アヴァロンコード ( No.124 )
日時: 2012/09/23 15:18
名前: めた (ID: UcmONG3e)

だが賢明な捜索にもかかわらずティアの行方はわからずじまいだった。

馬車のあとも、途中から消えてしまい捜索は打ち切りとなる。

ファナの家に何度も調査隊が出入りするも、それ以上の情報はつかめないでいた。

ティアの行方を知るものはだれもいない。

「砂漠で元気にやってるかしら」

ただ一人を除いて。



「んっ」

薄暗かった荷台から急に直射日光の元にさらされてティアは目を覆った。

ありえないほどまぶしい。

目を開けて歩けない、瞳孔の収縮が痛い。

「ほら、歩け」乱暴そうに言うのは女性。

両肩を掴まれて引きずられるようにどこかへ連れて行かれる。

「どういう用件でつれてきたか言い終わったら」

レンポが怒りをあらわにしてうなるように言う。

「こいつらみんな燃やしてやる!」

熱いのが苦手なミエリとネアキはうんと同意するだけでティアの後をついていくのがやっと。


真っ赤だった視界が、薄暗くなったのがわかりティアは薄目を開けた。

どうやら屋内に入ったようだ。

だが相変わらず目が痛くなるほどまぶしい。

それもそのはず案内されたここは、屋内すべてが黄金で出来ているからだ。

床も天井も壁もすべて黄金。6本ある太い柱もすべて純金だ。

おまけに快適な温度で、植物が生い茂るつぼが設置されておりミエリが安堵のため息をついた。

「よかったー!もうずっとここにいたいわ!」

ティアが自力で歩くようになると両脇にいた砂漠の民達は手を離した。

「ヒェヒェヒェ…」宮殿のおくからこんな変わった笑い声が聞こえてくる。

徐々に姿が見えてくると、その姿に驚く。

別にしわくちゃで相当な年齢のおばあちゃんだったからではない。

その姿が宙にういているから驚いたのだ。

ネアキの生み出す水色の氷のような美しいクリスタルを二つからだの回りに漂わせ、その中間に浮遊しているおぼんに乗ったおばあちゃん。

目が開いているのかわからないほどのしわくちゃおばあちゃんだが、只者ではない。

紫のゆったりした服に包まれて、オレンジのターバンを頭からたらしている。

<ターバンというのは、砂漠の民が頭に巻く分厚い鉢巻のようなもので、熱射病になるのを防ぐ>

両腕には金とラピスラズリの装飾品が並び、腰布を地面すれすれまでたらしている。

そのおばあちゃんがティアを眺めて二たっと笑う。

「よくぞサミアドの民の集落に来た」

この人いわく、この砂漠はサミアドという名を持っているらしい。

聞いたこともない。

「あたしはオオリエメド・オーフ。サミアドの長」

そういうと、軽く会釈する。

「なんのようだ、クソババア!」

レンポが怒りをこらえきれずに叫ぶと、オオリは、ん?と言うように首をかしげた。

(このひと…精霊の声が聞こえた…?)

ティアがおどろくが、オオリは気のせいかと首を振る。

(精霊の声だとわかってないみたい。姿も見えてないんだろうな)

ティアの考えはあっていて、オオリはティアに言う。

「カレイラの英雄様に来てもらったのはほかでもないさ。一つ仕事を頼まれてほしいんだよ」

「仕事?」とティアが聞き返す前にレンポはフンと鼻を鳴らす。

「ふざけんな。何でやんなきゃいけねぇんだ!」

(本当に好戦的だなぁ、レンポは…)ティアが苦笑いしているとオオリは眉を上げる。

「いやかい?」

だがオオリはティアを勝ち誇ったように眺めて続ける。

「アンタ、雷の精霊とやらを探しているんだろ?」

この言葉をきいて黙っていたミエリがビックリする。

「何故それを?!」

ティアも驚いてまじまじとオオリを見つめる。

その表情を面白そうに見つめていたオオリはまた独特な笑い方をした。

「よくお聞き。アタシはこの近くにあるシリル遺跡に入りたいんだよ。だが—」

オオリは悔しそうに目をひからせた。

「遺跡の奥には封印があって先に進めないのさ。だから預言書を使って封印を解いてほしいんだ。雷の精霊もそこにいるっていう話だよ」

ネアキが不安げにつぶやくのが聞こえた。

『…ウルの存在を知っている…預言書の存在をも知っているなんて…』

ミエリがネアキと目を合わせるとティアに言った。

「おばあちゃんと利害一致だけど、ネアキは協力に反対してるよ」

精霊たちに耳を貸している間、オオリはティアになおも言う。

「いやならいいさ。だがねアタシに協力すれば結果的に仲間を助けられるんだよ。それに迷いの砂漠を案内なしにシリル遺跡までいけるかい?」

ウル、という最後の精霊はシリル遺跡の中に封印されている。

「どうする、ティア?」

『…あなたが決めて…』

しばらく迷っていたが、ティアは決心した。

「わかりました。やります」

オオリはその答えに満足そうに頷いた。

「ヒェヒェヒェ…決まりだ。アタシについておいで」




Re: アヴァロンコード ( No.125 )
日時: 2012/09/23 16:21
名前: めた (ID: UcmONG3e)

オオリについていくと、オオリの書斎につれてこられた。

ここも金ぴかで、机のみが木製であった。

その机に地図を出すとオオリはティアに見るように言った。

「いいかい、ここが砂漠の町だよ」

オオリが指差したところに×印がついている。

精霊たちも興味心身で見つめている。

「そしてここが遺跡さ」スライドするように指をもう一つの×印に引っ張っていく。

巨大なバケモノが口をあけたような遺跡の絵がある。

ここに最後の精霊がいる…。

「道のりは厳しいよ。アンタ、アタシと協力して正解だったね」

言いながらごそごそと物を取り出している。

なにがでてくるんだろう、とティアがテーブルより顔を上げてみているとオオリは机の上にアイテムをおいた。

変わった形の水筒、飛刀、帽子、ケープのような防暑服だった。

「砂漠を歩くにはこれが必需品だよ。死なれちゃ困るからねぇ」

それをすべてティアに手渡すと、身に着けるように言った。

服はジャケットを脱いで長袖だけになると、その上から羽織った。

ケープの下に水筒、短剣を装備して、つば広の帽子をかぶる。

「サイズは調度いいみたいだね。かしてあげるよ」

そしてティアに向き直ると明日出発するからね、と告げた。


その間、オオリの宮殿で寝泊りすることになったティア。

案内役はオオリではないらしい。

昨日のティアをさらった複数の砂漠の民に連れて行ってもらうらしい。

ひ弱な肌を直射日光にさらさないように羽織ったケープはかなり役立った。

外に出たティアはオオリに感謝した。

「おい、アイツはあのときの」

レンポが何かに気づいたようにうでさす。

パオと言うテント型の家が立ち並ぶ井戸のそばに、青年が立っている。

こんなに熱い太陽の下、直射日光をあびて平気そうな顔をしている。

その青年こそ昨日ティアのみぞおちを殴った青年だ。

ティアに気づいたようでこちらを見るが、興味なさそうに視線を元に戻した。

「ムシかよ」

レンポが言うとミエリが言う。

「ネアキが言うには…この人心がないんだって」

「心がない…?」

ティアはなんとなくその剣士に近寄った。

「こんにちは」

「…なんのまねだ?」

挨拶すると剣士はただそう言う。

ティアはえっと、と反応に困るように笑う。

名前をとりあえず尋ねてみることにした。

「名前?……」

剣士は黙っていたがやっと口を開いた。

「アンワール。ただの砂の風」

『…!』

アンワールという無口な剣士がそういうと、ネアキが反応する。

それを見ていたミエリがティアに伝える。

「一瞬だけど心が瞬いたっていってるよ」

アンワールはティアに名前も聞かずに立ち去ろうとする。

なのであわててティアは言った。

「私、ティア。明日、遺跡に連れて行ってくれるんだよね」

けれどアンワールは黙ってティアを見る。

「シリル遺跡ってそんなに遠いのかな…?」

だが答えない。

ティアも意地になって話し掛け続けた。

「…しつこいやつだな」諦めたようにアンワールが少し笑った。

「だがいくら俺と話しても意味はない。俺は心なきタダの砂の風。近づくものを切り刻む刃の風。剣に命じられるまま進み、いつか散っていくだろう。俺と話していても時間の無駄だぞ」

ティアには理解不能だったが首を振った。

「…好きにしろ」

アンワールはまた諦めたように肩をすくめた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

アンワールの中二病はキャラ崩壊ではありませんw
原作でもこうなのですw

最後に参照が900こえました ありがとう!

Re: アヴァロンコード ( No.126 )
日時: 2012/09/23 16:49
名前: めた (ID: UcmONG3e)

灼熱の砂漠、サミアドの砂漠の町で一夜を明かしたティア。

オオリに起こされて目覚める。

「お目覚めかい。さぁ、準備しな」

オオリは部屋のランプに火を灯すと部屋を後にした。

「おはよーティア!」

ミエリが元気よくティアに言う。

「おはよう、ミエリ…」寝ぼけながらそういうともう二人の精霊の姿を探す。

だが二人の姿が見えない。

「あれ…?レンポとネアキは?」

不安になってミエリに言うとミエリが説明してくれる。

「私がティアのそばに、ネアキが宮殿内を、レンポが外からの侵入者を見張ってるの」

だから二人とも外だよ、とミエリが言う。

二人を迎えにいこうとティアがベットを出ると窓の外が薄暗いのに気づいた。

窓を開けると、なんとまだくらい。太陽も昇ってない時間帯だ。

その中に、一筋の炎が燃えている。

おそらくレンポだろう蛍のように飛び回っている。

「かえっておいで!」

ティアが叫ぶと、炎の塊が近づいてくる。

「なんだ?もう起きたのか」

「多分もう出発するんだと思う。日差しが強いから…」

ネアキを迎えに行くため、部屋を出るとつめたい冷気が漂ってくる。

『…起きたの…』

ティアのすがたを認めると、ネアキがティアの元に飛んでくる。

その姿が無事なのを見るとホット安心した様だった。

「ありがとう、みんな」

お礼を言って、オオリの元へ急いだ。


宮殿を出ると、オオリとアンワール、数人の女の人がいた。

それも肌を露出している服装だ。

皮膚がんにならないか心配してしまう服装である。

「やっときたかい英雄さん」

オオリが水筒を差し出して言う。受け取った水筒は重く、結構な量が入っているようだった。

「これで準備は出来たようだね。アタシはついてゆかないけど、あんたは気にせずに遺跡の封印を解いてくれればいい」

オオリに見送られてティアと砂漠の民の一行は、まだまだ薄暗い砂漠を静かに歩き出した。




Re: アヴァロンコード ( No.127 )
日時: 2012/09/23 19:07
名前: めた (ID: UcmONG3e)

砂漠の街へと続く中央砂漠は、砂嵐が凄かった。

息を吸い込むと砂埃が喉をきづつける。

薄暗い中、足元に何かがある。

躓いて転ぶと、両手のひらが石英の砂ですれて痛い。

「気をつけろよ、躓いてばかりいるとこいつらと同じ運命になるぜ」

レンポが炎であたりを照らすと大型動物の骨があった。これに躓いたらしい。

「もうすこし照らしていてくれる?」

ティアの願いを聞き入れて、レンポはランプのように炎をともらせる。

だが、それが砂漠の民には嫌がられた。

「おまえ…炎の呪術者…?」

「オオリ様と同じ力を使っている…」

砂漠の民達はティアを薄気味悪いものでも見るようにつぶやく。

「サミアドのものではないくせに…呪術を使うとはコヤツいたい…」

呪術じゃなくて、精霊の力なんだけどなぁとティアは思うが黙っていた。

預言書の存在、雷の精霊の存在を知っているサミアドの民に、これ以上情報を与えるわけには行かない。

「……ふん」

アンワールは炎をひとにらみして先を急いでいく。


「一日でつけるのかしら…」

一時間ほどぶっ通しであるいているとミエリが心配そうに言う。

地平線に日の出の筋が現れてきた。

猛暑がもうすぐ襲ってくる。

けれど砂漠の民は歩みを止めないし、シリル遺跡のようなものも見えない。

『…ティア…暑い?…』

だんだん気温が上がってきた砂漠。

ティアはネアキを見上げる。

ネアキはそんなティアを見て微笑む。杖をそっと振ってティアの周りに冷気を放つ。

ひんやりした風が体を取り巻いてティアはネアキにお礼を言う。



Re: アヴァロンコード ( No.128 )
日時: 2012/09/24 17:23
名前: めた (ID: UcmONG3e)

暑い日ざしが朝日と共に上るころ、ようやく同じ風景に終止符が打たれた。

砂漠、さぼてん、骨 だったのが砂漠、サボテン、骨、古代文明の柱…。

それっぽいものが徐々にあたりに出始めた。

「小休憩だ」

およそ三十分ぶりの休憩にティアは安堵した。

もう足が歩きにくい砂漠のせいでフラフラだ。

古の石碑の寄りかかって貴重な水分を摂取する。

水筒は幾分か軽くはなったが大切に飲んでいるため、帰りまで持つだろう。

それにアンワールが言うには、帰りは遠回りしてオアシスで水分補給する予定らしい。

なのでそこまで根つめなくてもよいだろう。

「封印の呪文ね」

ティアの足元でミエリが声を上げる。

地面すれすれに飛んで、ティアの寄りかかる石碑を見つめている。

『…それだけ神聖な場所…』

ミエリとネアキの視線を感じ、ティアは苦笑いで寄りかかっていた石碑から離れる。


それからすぐ休憩が終わった。

のろのろと歩き出すティアをうしろから砂漠の民達がせかす。

「早く歩け。朝日がもうすぐ迫ってくる」

後ろからどつかれてたまらずティアは転びそうになる。

ものすごい力だ、この人たちは力の加減を知らないのだろうか。

しかもこの女の人たちは服装こそ違うが皆同じ顔をしている。

浅黒い肌に、通った鼻、目までもがそっくりそのまま。

姉妹と言われてもこれは似すぎている。

クローンと言われたほうがよほど驚かない。

「遺跡はもうすぐだ。早く歩け」

ティアはしぶしぶ頷いて先頭を歩くアンワールについていく。

せめてもの救いは遺跡がもうすぐだと言うことだ。

そしてネアキのおかげでひんやりとした冷気を身にまとっていることだ。

Re: アヴァロンコード ( No.129 )
日時: 2012/09/24 17:57
名前: めた (ID: UcmONG3e)

猛烈な日差しが照りつける前に、どうやらついたらしい—シリル遺跡に。

ものすごくでかい建造物が、砂漠の民とティアの目の前にそびえている。

(でも…)

ティアは眉をひそめる。

(建物と言うよりは…生き物?)

ティアがそう思うのも仕様がない。

なにせここまで暑い砂漠を抜けてたどりついたシリル遺跡は大きな口をあけて鋭い牙を見せているからだ。

悪魔アモルフェスのような遺跡の入り口、牙は鍾乳石だろうか?

いやきっと、猛烈な砂嵐で岩が削れて鋭くなったのだろう。

だがそれにしてもよく出来た悪魔の顔だ。人口でないとすれば…自然にこれが出来たのだとすれば、震えが走るほど恐ろしい。

偶然にこの形が出来るなど、もはやありえない…。

その遺跡の入り口は、外側と内側の風向きの違いにより悪魔のうなる声に聞こえる。

「ぎょうぎょうしいねー、この遺跡」

「神話にはこういうもんがつきものさ!」

精霊たちの会話、ティアは我に帰ってシリル遺跡に歩いていく民達を追って悪魔の口—シリル遺跡に入っていく。

さいご、丸呑みにされるような感覚になりながら。


遺跡内はぐんと気温が落ちた。

照りつける日光から完全に遮断されて、視界も薄暗くなる。

けれど、砂漠の民の知恵、鏡を使って外から光を屋内に入れているためそれほど暗くない。

「うわぁ…」

ティアの目の前に広がるは、美しいシリル遺跡の内装。

右側には神の神官を五体、左側には正義の戦士を5体おいている。

それもその石造はティアよりもはるかに高い。

3メートルほどもあろうか?天井も恐ろしく高く、こつんこつんとティアの靴音がこだまする。

内装はすべて石造り。玄武岩を使った美しいつくりだ。

タイルはチェス盤のように一つ一つのマスの色が異なり、余計に神聖さを出している。

入り口付近にいるティアの足元、風向きの関係により舞い込んできた砂の山が出来ている。

だが、神聖な遺跡内から見るとその砂さえも砂金のように見えてしまう。

「すごい…」ミエリがもっとよく見たいとティアのも戸を離れる。

石造の間をすり抜けたり、天井付近まで飛んでいく。

十歩や二十歩じゃたどりつけない距離まで離れた民達を、ティアはゆっくり後を追う。

ティア自身、この遺跡に興味を惹かれていた。

美しいだけじゃない、厳格な何かがティアの好奇心をくすぐる。

「いたるところに封印の呪文が付けられてやがる」

レンポがその端正な壁たちを見てつぶやく。

「なにかを…封印してるんだな」

考えるようにいうレンポに、ネアキがたずねる。

『…ウルを…?』

だがレンポは首を振る。「精霊は普通の人間には見えない。もっと別の何かだ」

『…別の、なにか…』

けんかをよくする二人にしては珍しく討論しなかった。

だが、感心している暇もなく声がかかる。

「はやく、こい」


 

Re: アヴァロンコード ( No.130 )
日時: 2012/09/24 18:38
名前: めた (ID: UcmONG3e)

6つ目の神の神官と正義の戦士の巨像の間を通り抜けると、おくには同じような空間が広がっている。

ひたすらにまっすぐな道をすすんでいくとあちらこちらに崩れた後がある。

怪訝に思いながら見ているとアンワールが口を開いた。

「盗賊が神聖な遺跡を荒らしたんだ。この遺跡に奴らにとって宝と呼べる代物はないのに」

意味深な言葉を残してもくもくとすすんで行くアンワール。

ティアはくずれて砕けた神の神官像を見つめ、通り抜けた。

三つ目の部屋はとても大きなホール、天井よりもれる砂がさらさらと音を立てている。

だが先ほどのように入り口出口と呼ばれるもんが、ない。

背後にある門しか、視界に捉えられない。

うろたえるようにするティア。だが砂漠の民達は気にせずに歩みを進めていく。

「あのー、これで遺跡は全部?」

聞いてみるとアンワールが冷たくあしらう。

「見ていろ」

フンと鼻を鳴らされて立ち止まるは壁の前。

ここがどうしたの、と言うティアの目の前で一人の砂漠の民がみんなより壁側に、一歩出る。

「....・....」

レンポたちの精霊魔法の詠唱のような呪文をブツブツとつぶやいている。

だが、ながい。精霊たちならばとっくに魔法を使っているのだが、砂漠の民はまだ続けている。

およそ一分半、やっと詠唱が終わる。

砂漠の民が両手を念じるように地面にかざせば、神殿の床に小さな正方形がぷつっと現れる。

一センチほどの正方形は、伸びたり縮んだりしてなかなか砂漠の民の言うことを聞かない。

「.....・.....」

額に大粒の汗を浮かせながら再び詠唱に入る砂漠の民。

詠唱に促されるように正方形は仕方ないなぁと言うようにその面積を大きくしていく。

人が一人乗れるくらいになると、砂漠の民は詠唱をやめた。

苦しそうに荒く息をしている。

現れた正方形を改めてみると、銀の枠に獣が爪で引き裂いたような銀の筋が幾重にも入っている。

と、その上にアンワールが飛び乗る。

次の瞬間、風が渦巻いてアンワールの体を宙にうかせた。

猛烈な風量なのだろう、アンワールの紅色の束ねた髪がムチのようにうねってる。

そればかりか水筒も宙にういている。

徐々に風量が強くなり、アンワールは姿が見えなくなった。

と、風が収まる。

「これは…まじないだな」

一通り見終わってレンポが言う。

「これは風のまじないだ。ミエリの力を人工的に作ったものなんだ」

「へぇえ、凄いんだ…」

感心すると、どこがぁと怒られる。

「あんな永い詠唱やったくせにこの程度だぜ!オレ達があんな詠唱やったら世界が吹き飛ぶレベルの力が使えるし、この枷から開放されれば詠唱もやらなくていい。それにあいつを見てみろよ」

レンポが腕差すのは、風のまじないを行った民。

苦しそうにあえいでいるがほかの民達は気にも留めない。

「まじないとは身のうちに修められている魔力を消費するんだ。ああやって自身の魔力と不相応なまじないをすれば命にもかかわるぜ」

痙攣でも起こしそうなほど荒く呼吸している民に、ティアは手を貸そうとした。

ミエリに手伝ってもらえば、民の負担も減るはずだ。

「余計なことするな。お前は早く行って封印を解け」

乱雑な口調の民はティアを突き飛ばし、強制的に風のまじないの正方形に乗せる。

「ちょ、ああ?!」

しりもちをついた状態で浮き上がったティア、不自由な体勢にバランスを何度も崩しそうになる。

「ティア、落ち着いてそのままゆーっくり…」

ミエリが風の力を使い、ティアの体勢を整えていく。

ようやく地上に立ったときのような姿勢で浮いたティアは感動を覚えた。

「と、飛んでる!」

「オマエの場合浮いてるんだよ」

突っ込まれるがそんなの耳に入らない。

自由自在ではないがこうして羽もつけずに空中を浮いている。

みるみるうちに遠ざかる下の景色。

雲があればどんなに素晴らしい眺めだったろう。

だが、それもつかの間。目の前に足場が現れていきなりティアは腕を掴まれる。

ぐいっと風のまじないから強制解放されて地面にぶっ倒れる。

「いったぁ…」よろよろと立ち上がると下に下がる階段の先を歩いていく砂漠の民の女性。

ティアは後を追った。

Re: アヴァロンコード ( No.131 )
日時: 2012/09/24 19:35
名前: めた (ID: UcmONG3e)

階段を下りると巨大な亀裂が遺跡に走っていた。

だが崩壊の恐れはない。これは意図的な亀裂である。

その亀裂の前で詠唱を唱えている砂漠の民。

アンワールの次に風のまじないで先に行った民だ。

ティアの後についてきた民は全部で8人。

先について今詠唱中の民を合わせると9人。

一人足りない。旅を始めたとき民10人、アンワールにティアで12人いたのだが…。

風のまじないを使った女性がいない。

その人は倒れてしまったのだろうか?

心配になって階段を上ろうとすると別の砂漠の民が言う。

「もどるな、すすめ」

「でも、さっきまじないを使った人がいないの」

もしかして気づいてないのかなぁ、とティアが言うがそうではなかった。

「アレの役目はおわった。あの風のまじない師はもう必要ない」

それだけ言うと、呆然とするティアをがっしりと押さえつける。

なにがなんでも、進ませる気だ。

「どうしてですかっ あの人はどうなっちゃうんですか?」

腕の中で暴れながら言うと砂漠の民が言う。

「最後の間、守護者の間へいけばわかる」

砂漠の民は意味深でミステリアスすぎた。

ティアは調度詠唱が終わったため、無理やりに先を進められた。


Re: アヴァロンコード ( No.132 )
日時: 2012/09/24 22:05
名前: めた (ID: UcmONG3e)

亀裂を越えるためには浮遊のまじないが必要だった。

オオリが乗っているおぼんそっくりのプレートが出現し、またもや真っ先にアンワールが飛び乗る。

プレートは銀色で空中を移動し、反対側までアンワールを届けると再び戻ってきた。

その間にも汗をぼたぼたたらす砂漠の民—浮遊のまじない師は魔力の消費が激しいらしい。

一人また一人とわたっていく。だが皆またしてもまじない師を心配しない。

ティアの番がきて、プレートに乗せられると直立不動のままプレートが地面から離れていく。

「うわあっと…」

ぐらぐらとティアのからだがバランスを失ってゆれると、精霊たちはひやひやしてばたばたする。

「ひいっい?!」

本当に落ちそうになってティアは叫び声をあげる。

まだ次の陸地まで距離があるのにどうしよう?!

落下しそうになったとき、思わず伸ばした両手に柔らかな感触が伝わる。

恐怖で目を閉じていたけれどえ?と顔を上げた。

すると、緑色の柔らかな服、えんじ色の長い三つ編みが目に留まる。

「危なかったわ〜」

心からほっとしたようにミエリが言った。

ティアが掴んでいるのはミエリ。今は等身大になってティアを支えている。

「私たちからは触れないけど…ティアからは触れるからね。さぁ、ゆっくりもどって」

ミエリがティアをプレートに戻すと、ネアキもレンポも一安心した。

「まったく…ほんっと危なっかしいヤツだなぁ」

『…でも無事でよかった…』

ティアはミエリの手を離すと足が震えてしまってプレートにしゃがみこんだ。

「大丈夫よーティア。もうすぐ陸地だよ」


陸地に足をつけるとティアは心から安堵した。

宙刷り体験を経験した人の中には地面にキスする人もいるが…それは止めておこう…する気もないが。

「さっさと進むぞ」

アンワールは何事もなかったようにしれっと言う。

だがショックより立ち直ってティアは振り返る。

ぜいぜいと苦しそうに地面に倒れる浮遊のまじない師。

プレートが煙のように消えていく。

「まって!あの人が!」

いうけれど、誰も気にしない。

タダ単調な口調でこういうのだ。「浮遊のまじない師の役目は終わった」と。


すべては、守護者の間にてわかること。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照数がもうすぐ1000いくチョイぎりぎり…


Re: アヴァロンコード ( No.133 )
日時: 2012/09/24 20:50
名前: めた (ID: UcmONG3e)

残りの砂漠の民と、アンワール、そしてティアの合わせて10人となった。

けれど遺跡を仲間の心配をすることなく進んでいく砂漠勢。

ティアは残してきた風のまじない師と浮遊のまじない師が心配でしょうがない。

自分の魔力に不相応な強力な力を使えば命を落とす危険がある。

レンポがそういっていたから、莫大な魔力を消費してしまった二人のまじない師は大丈夫なのだろうか?

風のまじない師はどうなったかわからないが、浮遊のまじない師はぶっ倒れた。

けれども誰も手を差し伸べずに放置していく。

『…このまじない師たち…おかしい…』

ネアキがそういうけれどそれはティアも賛成したい。

心がないだか知らないが、アンワールもどうかと思う。

「うん…。ネアキもそう思った?わたしも、この人たちおかしいと思う」

ミエリが不安そうにネアキに寄り添う。

そのきれいな森の色の目は、不吉なものでも見るかのよう。

ネアキの黄土色の視線も冷めてはいるが、はっきりと警戒の色が出ている。


「お?次は何だ?」

一向についていき、もういくつめだかわからない部屋を通り過ぎる。

すると、迷路のような道を抜けると部屋中を覆い尽くすほどの蜀台がある。

四方の壁と言う壁に突き刺さるように蜀台が取り付けられていて見ていて不気味だった。

「いったい、ここは…」

ティアが気味悪そうに数歩下がる。

真っ黒、金、銀、木、その他金属類の蜀台が何かを求めている。

すると8人いるまじない師(砂漠の民の女性)の内、二人がそろって一歩踏み出した。

蜀台が何百もあるといえばやはりすることは一つ。

すべてに火をつけるということだろうか。

「,,,,,,・,,,,,,」

二人は同時に、時には交互に詠唱を続ける。

詠唱の時点でで大粒の汗をかいており、小刻みに震えている。

そうとうな魔力を使うのだろう。

もしかして死んでしまうくらいの魔力を消費するのではないか…。

二人で唱える詠唱は長く、10分間続いた。

ふっと詠唱が途切れると二人いたうちの独りが倒れる。

「!! だいじょうぶですか?!」

硬い地面に倒れた人に駆け寄るのはティアのみ。

倒れることをわかっていたようにスペアのような人が代わりに詠唱の続きを言う。

「まだ途中までしか行ってないぜ」

レンポがつぶやく。

「魔力が足りてねぇな。このままだと…本当に死人が出るぞ」

その一言にティアは目を見開いた。

目の前の女性は痙攣しているが生きている。けれど相当ひどい有様だ。

このままでは死んでしまう。

今詠唱している二人だって魔力消費で死んでしまうかもしれない。

ティアはさっと振り返った。

「レンポ、ミエリ!」

呼びかけると待ってました!と精霊たちが目を輝かせる。

「ハルピュイアを倒した時みたいに出来る?」

さすがにレンポ一人では縛られている上に広いからムリだろうとミエリにも頼む。

「できるよ!」

ミエリが役に立ててうれしいと笑顔で言う。

「命令して!」

「すべての蜀台をつけて」

その一言で10人の目の前に強風と火炎が巻き起こった。





Re: アヴァロンコード ( No.134 )
日時: 2012/09/24 21:07
名前: めた (ID: UcmONG3e)

最初ティアが何もない空中に向かって叫ぶので、あまりの5人は不審げに見つめていた。

一人が倒れ、二人が詠唱をあと5分続けられれば火がともる。

けれど、ティアという預言書に選ばれた少女が3秒にも満たない声で誰かに命令を下すと、一瞬にして視界が燃え上がった。

ゴウオッという凄まじい音と、炎を導くように立ち回る風。

いったい何が起こったか理解できない。

詠唱を続けていた二人は口をあけたまま固まっている。

今まで犠牲にしてきた魔力が無駄になったのに気にしない。

いや、気にできない。

火をつけようと必死に魔力を犠牲にしたのに、いまや何故だかわからない力で次々と火がともっている。



(…ティアはやさしい…いろんな人に優しい…)

ネアキはティアを見上げて思った。

今もこうして誰かが死んでしまうのを防ぐために、代わりに行っている。

(…ティアなら…わたしたちの枷…はずせるかもしれない…)

そんな思いが駆け巡る。

いや、思いというより願い。

(…枷が外れたら…ティアと一緒にいられる…世界が滅んでも、生まれてもずっと…)

そうしたら枷がはずれたら、ありがとうと言おう。

辛辣な言葉しかはかなかった自分が、そんなこと人間に言たいと思うなんて、変だなとネアキは思う。


Re: アヴァロンコード ( No.135 )
日時: 2012/09/24 23:00
名前: めた (ID: UcmONG3e)

すべての蜀台が明るく炎を灯した。

それを確認するように炎と風が薄れていき、溶けるように消えた。

「ありがとう」

精霊にお礼を言うと、信じられないと言う顔でまじない師たちが振り返る。

するとゴガンと何かが崩れ落ちる音がした。

みれば、目の前の壁が観音開きになって先に進めるようになったらしい。

「…先を急ぐぞ」

アンワールだけは興味なさそうに扉へ足を進めていく。

それに続いてあっけにとられていたまじない師たちも歩いていく。

「ありえない」ぼそぼそとこの声を繰り返しながら。

ただ、炎のまじない師は倒れたままで置いていくらしい。

横たわって呼吸をしている。

見ている限りでは無事そうだ。


次の部屋につくと、景色が一変した。

今までの比にならないほどでかい部屋だ。

しかも、美しい色彩の魔方陣が地面に呪文を刻んでいる。

おそらく、四大精霊を表現して自然の力を折り込めた魔方陣なのだろう。

その中心に水色の美しいクリスタルが光に照らされて美しく光っている。

「みな、準備してくれ。最後の封印だ」

アンワールが残りの7人のまじない師い言う。

けれど、すでにつかれきっている二人は重々しく頷くだけだ。

7人はそれぞれ十メートルほどの大きさの魔方陣に配置つき、円の中の三角形の内側にあるクリスタルに向かって手を突き出す。

そして全員で詠唱し始めた。

今までの人間の声ではない。

地の底からうなるような恐ろしい声が低音詠唱を、鈴の音が響くような美しい声が高温詠唱を唱えている。

天使と悪魔の詠唱のようだ。

だけれどもやはり、何を言ってるかわからない。

けれどもどこかの歌声の様で、教会の賛美歌のようだった。

「この封印をとくのはかなりの魔力が要るな」

レンポが頭上より魔方陣全体と、クリスタルを見つめて言う。

「でも、いけそうかな」

ミエリが言うと、ネアキはこくんと頷く。

『…なんだかわからないけど…力が増している…?』

詠唱は長く、20分は続いただろうか?

突然天地を引き裂くような声が低音と高温どちらにも起こった。

心地よい歌声が、耳をふさぎたくなる雑音に変わり心のそこから驚く。

みれば、開錠のまじない師たちは全身から白い煙を出している。

いや…。

(なんだろう…あのまじない師たちは溶けている?!)

砂がさらさらととけるようにまじない師たちがどんどん解けていく。

足から美しい声を出した喉まで、やがて頭まで消えて…。

ふさっと全員が砂になった。

「?! あ、なんで?」

駆け寄った瞬間、きんっと何かが高い音を出す。

魔方陣がまばゆく輝きだし、中心のクリスタルに伝わって燦然と輝きだした。

「!!」

そのまぶしさにティアが目をつぶると、クリスタルが一筋の光を壁に向かって放つ。

「行くぞ。お前の仕事はこれからだ」

アンワールが砂になった開錠のまじない師を踏みながらティアに言う。

「この人たちしんじゃったの…?」

恐る恐ると言った感じでティアが砂を見つめるとネアキが首を振る。

『…言ったでしょ。この人たち…おかしいって…人じゃないの…砂人間なんだと思う…誰かが魔力を込めた砂人間…』

「そいつは膨大な魔力を持っているらしいな。…オオリエメド・オーフってババアじゃねぇか?」

ティアは不安げに砂を見回す。

けれど、痺れを切らしたアンワールに再度呼ばれて足を向けた。

最後の間、守護者の間にして最後の精霊の封印される地。


Re: アヴァロンコード ( No.136 )
日時: 2012/09/25 18:03
名前: めた (ID: UcmONG3e)

守護者の間にたどりついたティアとアンワール。

その底なしの大きさにティアは驚愕した。

カレイラの城、フランネル城のパーティーをやったホールよりも大きく、手すりを越えた先は断崖絶壁だった。

まったいらな壁がずっと地下深くに続き、天井へ続くだろう壁が見当たらない。

天井も上限が見えないほど高く、闇に閉ざされていて計り知れない。

重々しい鋼の石戸だろうか、それが目の前にどっしりと半開きの状態で存在している。

けれど、手を伸ばせばとどく距離ではない。

3メートルほど離れている。

半開きといっても、ティアの家が何軒も入ってしまう隙間だ。

その隙間に、じゃらりと長く太い鎖が扉をこれ以上開けないように封鎖している。

いったいこの鋼の扉、何を封印している…。

雷の精霊を…?

そこまで危険な存在なのだろうか?

と、アンワールが入り口からまっすぐ歩いていき開きかけの扉のほうへ身を乗り出す。

そして手すりに上るとその手を扉の、鎖の元へ伸ばす。

伸ばすといってもとてもつかめる距離ではないが。

「無駄なことを…」

ティアのそばで浮遊していた精霊たちがつぶやくと、それが現実のものとなる。

ゴロロ…と喉をうならせる音、そしてふいに空気を切り裂く激しい音が守護者の間にとどろいた。

パンッと音がして、アンワールが後ろへ吹っ飛ぶ。

「?!」

ティアは目を見開いたまま固まってしまう。

(なに?!)

ドタッと背中から落ちて、アンワールは顔をゆがめる。

指を火傷しているがたいした怪我ではないらしい。

「封印は有効か…」

のそりと立ち上がるアンワールを精霊たちは黙ってみる。

「ウルが手加減しなければ火傷じゃすまねぇって事わかってんのか?」

アンワールはわかっていないらしい。

指には同じような傷があまたあり、これで何度目?

『…ウルが甘くなければ…死んでる…』

物騒なことをしれっと言ってのけるネアキ。

するとアンワールはティアに言った。

「俺はおまえが封印を解き終わるまで外にいる。その鎖…封印を解いてくれ」

言い終わるとさっさと出て行ってしまう。

その後姿を目で追いながら…これを解けと言われても、と困ってしまうティア。

「おい、はやくいこうぜ」

すでに精霊たちは封印の鎖の元へ行きたくて仕様がないよう。

やっと最後の仲間に出会えるからだろう。

「大丈夫、さぁ 私たちを解放したときみたいに…」

ティアはおそるおそる足を鎖の元へ向ける。

その距離が3メートルになると、鎖に黄色のしおりがついているのが見える。

それが一瞬瞬くと、穏やかで落ち着いた声がティアを迎えた。

「姿は見えなくとも感じます。お久しぶりですね。皆さん。そしてはじめまして、預言書に選ばれし者よ」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

136でやっと四大精霊そろったー
しかも参照が1000越えと恐ろしいことにw
ありがとうございます






Re: アヴァロンコード ( No.137 )
日時: 2012/09/26 20:46
名前: めた (ID: UcmONG3e)

目の前に現れたのは、雷の精霊ウル。

光を放つような黄色の髪に、こった紋様をつけた銀の簡易な薄い鎧、腕あてをしていて紺色の手袋をしている。

足は銀色の鎧靴を履いており、鎧から広がったすそは金と銀の模様がはいっている。

手袋からはぴりぴりと漏れた静電気がクモの巣状に広がっていてきれいだ。

姿は落ち着いた雰囲気の青年。

全体からやさしそうで、賢そうな雰囲気が漂ってくる。

ウルの顔、瞳がある部分に大きな枷がついていた。

アイマスクのように分厚い黒と金の装飾の枷が、ウルの視界を奪っている。

その青年が、にこりとほほえんでティアたちに言った。

「ティア、というのですね。私は雷の精霊ウルです」

礼儀正しい挨拶にティアも緊張めによろしく、と言う。

「これで全員だな!」

レンポがうれしそうに言うと、ウルは首をかしげた。

目が隠れているため、何を考えているかわかりにくい。

「それにしても、世界の崩壊のときが思ったよりも早く訪れたようですね、なぜでしょうか…」

四度目のこの言葉。

世界の崩壊が早すぎると言うワードはどの精霊も口にした。

ティアからすれば世界の崩壊を経験したことのない身なのでよくはわからないが…精霊たちがそういうのならそうなのだろう。

「ウル、言っておかなきゃいけないことが…」

ミエリが言いにくそうに口を開いた瞬間—キンキンキンと耳を劈く(つんざく)警戒音が鳴り響き、守護者の間全体を赤く染め上げた。

「?! これは?!」

ティアも精霊たちも驚いてきょろきょろと不安げに辺りを見回す。

するとウルがやはりきましたか、とつぶやく。

どうやら、この状況を予期していたらしい。

「私を失ったことで遺跡が警戒モードに入ったようですね」

「警戒モード?!なんで…」

理解が追いつかずに聞き返すと、見えないはずなのにウルはこちらを向いた。

「このシリル遺跡は古代に存在した支配者が作り出した兵器管理施設—」

ティアがこてんと首を傾げたのでウルは言い直す。

気配でも読み取っているのだろうか、ティアの表情を読み取ったように微笑む。

「まぁ、古代の軍事施設と言ったところでしょうか」

へーそうなの、とティアが頷くと同時にどしんっと何かがふってくる。

古い遺跡石の塊で出来たブロックゴーレムだろうか?

レゴブロックを組み立てて出来たはにわの様な物体に、レンポが叫ぶ。

「やっぱりきたか!やっちまおうぜ!」

するとウルが首を振る。

「やれやれ、相変わらずせっかちですね。まずは冷静に敵を分析してください。あせりは禁物です」

先生と生徒のような光景。

ウルに諭されてレンポは苦虫を噛み潰したような顔をし、肩をすくめる。

「さっそく説教かよ」

ウルはそれ以上はかまわず、ティアに向き直る。

「ティア、落ち着いて弱点を見極めてください。あれはこの遺跡のガーディアン、トルソルです。古代の技術によって作られた石の魔物ですよ」

トルソルという石の魔物のほうを向いてウルが言う。

(…心の目みたいなので見てるのかな?精霊ってみんな不思議…)

そう思いながらもティアは剣を構える。

トルソルはまっすぐこちらに向かってくる。

その表情はまるで何も恐れないかのよう。

死をも超越した表情は悪魔アモルフェスに似ていた。

けれど、アモルフェスは剣が弱点でついには倒せた。

きっとこのトルソルも倒せるだろう…。



Re: アヴァロンコード ( No.138 )
日時: 2012/09/26 21:45
名前: めた (ID: UcmONG3e)

シリル遺跡のガーディアン、トルソルはゆっくり近づいてきた。

エスカレーターに乗っているように滑らかに進んでくるトルソルには足がない。

ウルが古代の技術によって作られた石の魔物といっていたので、サミアドの砂漠の町のことを思い出してみる。

砂漠の街に住んでいるサミアドの長、オオリ。

彼女は高等なまじない師で、民からも一目置かれている…。

聞いた話では砂嵐をまじないで防いで、オオリが住む宮殿の温度調整から何までまじないで済ませたと言う。

それほどのまじないを持ったオオリ。

しかも古くからのまじないは、サミアドを中心に継承されている。

廃れつつあるが、高度な魔力を持つものはほとんどがサミアドの出身だ…。

ということは、そのサミアドの遺跡に魔力を施した奴らは高度な魔力を保持していたに違いない。

つまり、このトルソルも魔力で作られたもの。

どこかに電池のように込められた大量の魔力の塊があるのではないか…?

と、そんなことを考えているとトルソルががくんっと動きを停止させた。

「?」

警戒しつつながめていると、トルソルの体がいきなり回転しだした。

「!!」

ブンブンと硬い体を駆使して超高速打撃技を繰り出すトルソル。

ティアは慌てて飛び退る。

あんなもの、あたったらやばい。

確実に骨折…それも骨が粉砕する複雑骨折になる。

打撲なんて生易しいものではすまない。

「…はあ!」

トルソルの回転が止み、その動きが再び一時停止した。

それを狙ってティアは剣をトルソルの首と体のつなぎ目に付き刺す—

が、ガインッと不吉な音と共に跳ね返された。

予想していなかったので、ティアはそのまましりもちをついた格好で地面に倒れた。

「剣がきかない…?」

冷や汗が出てくる。まるでアモルフェスに攻撃したときの様。

剣を壊さなければいくら攻撃したところで無駄に終わった。

だが、剣が弱点であることに気づいて倒すことだ出来た。

けど…

(トルソルは何にも持ってない…どこが弱点?!)

体中をめぐる不安にティアは押しつぶされそうになる。

その間にもトルソルは近づいてくる。無表情のまま。

そしてティアの目の前に立つと、再び回転しようとする。

ティアはあわてて盾を取り出すと防御に徹底した。

ガン!ガン!と激しい振動に盾が壊れそうと不安になる。

みしりっと音がしたときに、調度攻撃がやんだ。

トルソルは調度後ろ向きになっており、ティアは再び剣で突き刺してみた。

けれども、再び跳ね返される。

石を切ろうなんて無理なのだろうか…。

盾を新しく取り出し、ひとまずトルソルから離れた。

とおくから弱点を探ろうと思ったのだ。

Re: アヴァロンコード ( No.139 )
日時: 2012/09/27 22:30
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアがトルソルから離れ、様子を見つめていたとき…。

トルソルが不意に動きを停止させた。

それも一瞬のことで、すぐさまトルソルに変化が訪れる。

「…?」

不安げに見つめていると、トルソルはがくんっと腹部に当たる石の体を開いた。

「なに?」

ミエリが空中より不安げにつぶやく。

ひらいた腹の中身は、美しいピンクの宝玉がきらきらと光を吸い込んでいる。

ティアは目を見開き、数回瞬きすると思わずきれいとつぶやいていた。

光を吸い込んで輝きを増してゆくピンクの球体宝石。

『…これは…!!』

ネアキが急に息を呑む。そしていち早くティアにかすれた声で警告する。

『…ティアはなれて!…あの石、熱をはらみだした…!』

「え…?」

言われてハッと気づく。

トルソルの美しいピンク宝石が、警報アラームのように濃いベルミリオンに点滅し、明らかに何か危険な感じがする…

最後の吸収音がして、本当に嫌な気がした。

さっと横に転がって盾で身を隠すと、猛烈な熱気と放射音が聞こえてくる。

水道水が勢いよく発射されているようなそんな感じがする。

盾から顔を少し出してのぞいてみると、トルソルはそのままの状態でいた。

けれどその腹部、ピンクの球体からは熱線のレーザー光線が勢いよく放射されていた。

「レーザー?! うわ?!」

レーザー光線が遺跡の壁にぶち当たると、見る見るうちに熱によって真っ赤になる。

「凄い熱量…この盾もつかな」

心配になり、おもわずつぶやいてしまう。

だが凄いことに遺跡の壁には保護まじないがかけられているらしく、熱線にも耐えて溶けてしまう事はなかった。

「あの光線は鋼鉄をも溶かしますよ」

「あぁ…しかも弱点は…あそこだもんな」

レンポがレーザーを吹き終わったトルソルの腹部を指差して言う。

「コアの部分…だよね。魔力の塊で生きてるから…壊せばいいんだけどー」

ミエリは心底困った声を出す。それもそのはず…

『…コアは熱線を出すときだけに…あらわれる…』

精霊たちの言うとおりだった。

トルソルはレーザーを終えてコアと呼ばれるピンクの球体を腹の中にしまいこんだ。

機械的な動きにティアは数秒固まっていたがハッとする。

そのコアこそが先ほど自分が考えていた魔力の塊で、電池の部分であると言うことに気づいたのだ。

魔力の塊、コア。

すなわちアモルフェスの剣と同じ…トルソルの唯一の欠点なのだ。

ティアはそれを悟り、剣を握る手に力を込める。

やっと、やっと弱点を突き止めた!




Re: アヴァロンコード ( No.140 )
日時: 2012/09/27 22:59
名前: めた (ID: UcmONG3e)

弱点はわかっても、倒すとなると話は違う。

コアの部分を…魔力の塊を壊せばいいのだが…。

ティアは思わず唇をかんだ。

その肝心な部分をトルソルは完璧な守りで防御している。

つまりは手が出せないのだ。

がんがん攻めてみても、コアを出さないトルソル。

かわりに回転業をかけてティアの体中の骨を粉砕しようとする。

それを盾で何度も防御しながら、コアが出てくるそのときを待つ。

「うっ つっ!」

盾越しでもわかる激しい打撃音と振動数。

それに歯を食いしばり、足で踏ん張って耐える。

ずりずりと後退していき、盾の限界も近づく。

だが、トルソルの攻撃が…止まない。

盾を殴り壊す気なのか、盾を殴り続けるトルソル。

「うっ」

ひときわ強く殴られて、ティアの耳にビキッという音が届く。

その音がどういう意味を成しているのかわかっているティアはさっと青ざめた。

今は盾がトルソルの打撃からティアを守ってくれているが、その盾が壊れたら…。

ティアは骨を砕かれるどころではなくなる。

おそらく、命を失うほどの攻撃を何度もうけることになるだろう。

「ネアキ、トルソルの動きを一瞬でいいから止めて!」

必死に叫ぶと、ネアキが厳しい表情でトルソルに近づいていく。

そして凍りついた杖でトルソルの肩を叩くような仕草をすると、ピキピキと盾に走る亀裂の音以外の音がティアの耳に届く。

と、トルソルが異変に気づいたように下を向く。

だが、殴る手は止めない。

その足元が凍り付いていき、ティアを殴る両手まで瞬時に真っ白に凍りつく。

すると動きがピタリと止まり、ティアは荒い息と共にトルソルから離れた。

そして振り返ると預言書から爆弾を取り出し、ありったけの炎のコードを入れてトルソルに投げつけた。

もしかしたら爆弾を使った鉱山のように砕け散るかと思ったのだ。

爆弾がトルソルの背中にぶち当たり、その足元に転がる。

導火線の火が爆弾に触れるとそれは音と衝撃波を守護者の間全体に伝えた。

ボカーンと何かが砕け散った音がとどろき、ティアの元にも粉砕した石の欠片がころんころんと散らばってくる。

もしかして、やった?!

期待してみていると、煙の置くからトルソルが無傷で出てきた。

「あぁ……じゃあ、これは?」

その姿を残念そうに見て、ティアは足元の石についてつぶやく。

確かに砕けたいしなのだが…?

「ティア、あそこ!」

するとミエリが上空より指を刺す。

それをたどってみると、守護者の間、ちょうどアンワールが上った手すりが粉々に砕け散って、そこだけ手すりのない危険なエリアと化していた。

そのまま落下してしまえる…。

落ちないように気をつけなければ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照が1100越えました!
ありがとう!


Re: アヴァロンコード ( No.141 )
日時: 2012/09/27 23:26
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「ティアはトルソルの弱点について理解しているようですね」

空中よりあつまってティアの指示を待つ精霊たち。

ネアキが役目を終えて戻ってくるとウルが口を開いた。

「うん。ずいぶん前からコアの存在がどっかにあるってわかってたみたい」

ミエリがたのもしいわぁ、と微笑む。

すると、そういえば…とウルがミエリに向き直る。

なに?と首をかしげるミエリにウルが言った。

「先ほど言いかけていましたね。私に言わなければならないと…」

明るかったミエリの表情が少し暗くなるのを見てウルは声を潜めた。

「どういったことが起こっているのです?」

精霊たちは驚いたようにお互いの顔を見合った。

まさか、ウルはもう察しているのか…。

「さすがだな、ウル」

レンポが肩をすくめて言う。

「ああ、そうさ。誰かが世界の崩壊を早めているということについて、言うことがあったんだ」

「…大方の見当はついているのですね」

静かな口調でウルが言うと黙っていたミエリが口を開いた。

その表情は暗い。

「わたしたち、ティアと共にここまで来る間にいろいろと知ったの」

回りくどい言い方だが、ウルは黙って聞いている。

「支配者と呼ばれる巨人が…人間に倒されたこと」

巨人と言うワードに反応を見せたウル。

けれど、大人しくミエリの言葉が終わるのを待つ。

「その巨人は、どういうわけか復活して…人の姿を取って預言書を狙っている…その巨人の名前は—」

ミエリはここで口をつぐんだ。

「…クレルヴォ、ですね…?」

代わりにそうウルが言うと、ミエリが悲しそうに頷いた。

「クレルヴォが…けれどなぜ…」

冷静なウルでも、クレルヴォのニュースには動揺していた。

クレルヴォが人に倒され、復活し、自分が創った世界を崩壊へ導いているということに。

レンポもミエリもネアキもウルも、前の預言書に選ばれし者であるクレルヴォが何を考えているのか、理解できずにいた。

優しかったクレルヴォ、それがなぜこんなことに…。

「これは私たちが頭を悩ませても仕方がありません」

ウルはきっぱりと言った。

「クレルヴォとはこの先きっと出会うことになるでしょう。ティアと共に次の世界を創る旅に出ていればきっと…」

4人は黙ってそれぞれの疑問を胸の内にしまいこんだ。



Re: アヴァロンコード ( No.142 )
日時: 2012/09/28 19:39
名前: めた (ID: UcmONG3e)

その頃ティアはというと、トルソルから再び離れた。

いくら近距離攻撃をしてもレーザー光線を出さないので離れてみたのだ。

すると一定間隔はなれた途端、トルソルが再び動きを止めた。

がこんと腹部が持ち上がり、内部に隠れていたコア—ピンクの魔石がきらりと輝く。

「! よし…!」

すかさず光を吸収し始めたコアに向かって思いっきり走るティア。

光を吸収している今なら、トルソルは動かない。

しかも防御も何もなしで攻撃することが出来る!

トルソルの腹部に飛び込むように剣をコアに向かってきりつけるティア。

がんがんとコアを叩きつけると、そのたびに遺跡石が黒ずんでいく。

まるで光を失うような反応に、ティアはますます攻撃する手を休めない。

と、急にコアが…あんなに美しかったコアがふいに光を失った。

「え」

それにつられるようにトルソル自身も完全に黒ずんだ。

ただの遺跡石の巨像と化したトルソルは、硬直したまま動かない。

「…たおした?」

コアの部分までも石のようになり、ティアの剣を跳ね返す。

全体的に風化したようなトルソル。

不安げにそうつぶやくと、なんだか勝った心地がしない。

「たおしたのかな…?」

つんつんとつついても、剣の柄で叩いてみても反応しないトルソル。

ウルは石の魔物と言ったはず。

魔物ならば浄化されるんじゃないのか?

ただ、こんな固まるだけなんて…。

「何だよコイツ…急に固まっちまって?」

興味を惹かれたようにレンポが降りてきてティアの横に並ぶ。

トルソルは硬い表情のままこちらを見返すだけだ。

トルソルの周りをくるくる飛びながらおかしな点がないかチェックしていた。

「倒した…わけじゃねぇな」

不安げなティアの顔を見てレンポが続ける。

「もしそうなら、この守護者の間の警戒モードは解除されるだろ」

いわれてみればその通り、あいかわらず守護者の間には赤い点滅と警告音が鳴り響いている。

閉じられた扉もそのままだ。

「でも、いったいどうすればいいの?こんな石になって…」

ティアがトルソルに触れる。

「…?」

その瞬間何かを感じて目を見開くティアに、レンポは首をかしげる。

「おい、どうし—」

だがその声をミエリがさえぎった。

「トルソルが…赤く染まってきてる!」

徐々に足元から赤くなるトルソルは、まるで息を吹き返したかのよう。

「っ!!」

ティアたちの目の前で見る見るうちに蘇生は行われた。

蘇生の間中腹部のコアがまばゆく輝いている。

そのときを見計らって剣で刺そうとしたが、コアに込められた魔力がシールドを作り出している様だった。

容易にはじかれてしまう。

「そんな…」

トルソルは一瞬輝くと、その姿は完璧に光を取り戻していた。

「どうやったら倒せるの…」

今度こそ絶望に負けそうだった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

VSアモルフェスに続いてVSトルソルはけっこう長戦になりそうですね…

Re: アヴァロンコード ( No.143 )
日時: 2012/09/28 20:50
名前: めた (ID: UcmONG3e)

トルソルは不死身なのだろうか。

ティアはどうしたらいいかわからずため息をつく。

トルソルは相変わらず無傷で、いままで仮死していたのが嘘のようだ。

「弱点…じゃくてん…」

念仏のように唱えて、ティアはため息をつく。

「弱点なんてないの…?」

トルソルから離れてさえいれば、レーザーを避けて体力温存と休憩が出来る。

けれど、どうしてもそんなことやっていられない。

倒せない相手だとわかっているけれど、倒さなければ。

ガーディアンを倒さなければ一生閉じ込められたままだ。

空を見ることも、地面を踏みしめることも出来ない。

「でもー、どうやって倒せと…」

はああっと盛大にため息をついてしまう。

また一定期間の距離をあけたせいでトルソルがレーザー光線を放つ。

軽く避けて壁に寄りかかってみていると、トルソルのレーザーが破壊された壁を突き抜けて放射されるのを見た。

トルソルのレーザー光線でも溶けない石だったのに、爆弾で簡単に壊れた…。

トルソルは遺跡石っぽい…。

そこで気づいたことがあって上空にいる精霊たちの声をかけた。

「ウル」

呼びかけるとウルが降下してくる。

「どうしました?」

相変わらずの礼儀正しい答え方。

ティアは気にせずに思ったことを言う。

「トルソルって、この遺跡の石と同じ石から作られてるの?」

するとウルは感心したように頷く。

「はい、おっしゃるとおり。シリル遺跡の建築のさい壁石を取り分けて作られたのがトルソルです」

ティアがうれしそうに笑顔になったのを見て他の精霊達はそろって首をかしげた。

『…どうしたの…』

ネアキがつぶやくと、ティアはにこりとしたが返事をしなかった。

そしてそのまま、レーザーを放射し終わったトルソルの気をひくようにその眼前に立つ。

トルソルがティアに気づくとティアはふたたび距離を開けた。

「レーザーを出させたいみたいね」

ミエリが言うとおり、ティアはそれが狙いだった。

そしてトルソルが腹部を持ち上げてコアをあらわにする。

ティアはコアめがけて走り出した。






Re: アヴァロンコード ( No.144 )
日時: 2012/09/28 21:10
名前: めた (ID: UcmONG3e)

コアを攻撃するとトルソルは再び光を失った。

その姿が完全に停止すると、精霊たちは次にティアが何をするのか黙って見つめている。

ティアは普通の石の塊となったトルソルから離れ、それに向かって爆弾を投げつけた。

預言書から取り出した爆弾はトルソルにぶつかり、数秒たって派手な音を出す。

また何かが砕け散る音がしてコンクリート片のようなものが散らばってくる。

今度はどうだろう…。

もうもうと立ち込める煙の向こう側からぼんやりとしたシルエットが見える。

「まただめか…」

トルソルは無事であった。

何事もない様子でそのままの姿をかたどっている。

そのかわり壁がふっとんで落下しそうになる危険エリアの面性が増えた。

またく、とティアはため息をつく。

「どうやっても倒せない…」

そして足元に散らばる遺跡の石をけっとばすと調度それが危険エリアに入り込みそのまま闇に落下していく。

「あぁあ、トルソルもこんなふうに簡単にたおせたら…」

と、衝撃が走るようにティアは落下していく石を目で追った。

暗闇に消えていく石。

床にぶつかる衝突音は聞こえてこない。

それほど地下深いのだろう、ここは。

「!!!」

いい考えが浮かんだ。

「そうだ!そうだよ!トルソルを落とせばいいのよ!」



Re: アヴァロンコード ( No.145 )
日時: 2012/09/28 21:38
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアは早速トルソルの巨体を押した。

だが、なかなか押せない。

「ううう…」

背中で押したり、両腕をピンと伸ばして押したりしてやっとみしみしっと動き出した。

「ティア力持ち…」

ミエリが意外そうに言う。

それもそのはず、ティアは剣こそ使えるけれどトレーニングはサボっていた。

トレーニングをサボり、陽だまりの丘ですやすやと毎日昼寝生活をしていたのだ。

なので力瘤が出来るほど筋肉はないし、足こそ速いが腹筋を何度も出来る!などという得意技はないのである。

「うぐぐぐ…」

非力なその筋肉を酷使して歯を食いしばりながら重い石碑を崖のようになった危険エリアに押していく。

もう少し、と言うころになってトルソルの体が非常にも点滅し始めた。

トルソルが再び蘇生されてしまう。

「そんなの…今までの苦労が水の泡!」

火事場の馬鹿力、という懇親の力が発動してトルソルをずんずん押していく。

「おぉ…す、すげえ」

『…ティアのどこにあんな力が…』

そんな言葉しか出ないほどティアは懇親の力で押していた。

ぎりぎりの、あと少しのところ。

トルソルがもうすぐ落ちるというところでトルソルが完全復活した。

「ああ、もう!」

ティアは慌てて飛び退る。

トルソルに近づきすぎれば複雑骨折を負わされてしまう。

思ったとおりティアを振り払おうとトルソルは危険エリアで腕を振り回す。

すると、ぐらついたトルソルの体が不意にくんと後ろへ傾いた。

「!!」

そのまま あらぁっと後ろへ倒れ闇にふっと消えていったトルソル。

あわててかけよって危険エリアからのぞいてみると、もう何も見えない。

しばらくしてドガシャーーンと凄まじい音が聞こえた。

「え、これってトルソルが壊れたの?それとも床が壊れたの?」

すると守護者の間の赤い点滅が妙な具合で点滅をした。

チカチカチカとしていたのが、チカチカッと早く点滅する。

「どうやら倒したみたいですね」

ウルがそうつぶやくのが聞こえてティアはぱっと顔を明るくする。

「ほ、ほんと?!」

しかし、喜ぶティアの真後ろにどしんと何かが再びふってきた。

いやな予感がして振り返ると、またトルソルがいるではないか。

「?!…なんで?」

震える声でそういうと、ウルはおや、と言う。

「言っていませんでしたか?トルソルは一体ではありませんよ」

初耳です。

けれどにこりと微笑んでウルは続ける。

「トルソルは全部で三体います。倒されると攻撃方法が異なっていくと聞いていますよ」

(それ、笑顔で言うことじゃないよ…ウル)



Re: アヴァロンコード ( No.146 )
日時: 2012/09/28 22:18
名前: めた (ID: UcmONG3e)

とにかくティアは二番目のトルソルに向かい合った。

一番目は倒せたし、どうやって倒せばいいのかもうわかった。

けれど、またあの重いトルソルを押すなんて…無事にここを出られた暁には腰が痛くなるだろう。

あと、二の腕と太ももも。

「そういう情報はもっとはやくいえよな!」

いつもとは逆の立場になり、レンポがウルにいう。

こんな珍しい光景は今後いっさいないだろう。

「レンポに言われてしまうとは…変な感じがしますね」

「ほんと、いっつもレンポが言われてるのにねー」

『…馬鹿の一つ覚え…』

精霊たちが仲良く話をしているなか、その精霊たちの主人はと言うと二体目トルソルと戦うつもりでいた。

戦うといってもトルソルのレーザー光線のタイミングを見計らってコアを叩き落下させればいいのだ。

「こつはわかってきたけど…体力持たないよ」

トルソル2から一定距離離れながらティアがぼやく。

完全に離れきると、トルソル2はトルソル1と同じように動きを止めてコアを現せた。

「よし!」

だっとダッシュして切りかかろうとした瞬間。

ぽわんぽわんとしたピンク色の塊がコアより出てきた。

「!?」

あわてて地面に伏せて避けると球体は6つとも旋回してきてティアを追いかけてくる。

「追尾機能搭載?!」

おそらく魔力が込められているのだろう。

しつこいほど追いかけてくる。

ありがたいことにそれほどスピードは速くない。

だが何かに衝突しないと消えないらしい。

盾を構えて危ないときは身を守る。

盾にぶつかる球体は、衝撃こそ軽いがトルソルの打撃攻撃ほどの威力があった。

「これ、トルソル2に当ててみたらどうかな…」

もしかして無駄な体力を失わなくていいかもしれないと、ティアは追尾してくる3つの球体を誘うように追いかけさせてトルソルの近くへと回る込む。

トルソル2はティアを殴ろうとするが、衝撃で動きが止まる。

ぼんぼん、と自らが生み出した魔力の塊に衝突されて動きが完全に鈍くなる。

壊れてはいないけれど、コアを自分に攻撃されて相当弱ったらしい。

ティアはこれは使える、とにやりとした。


Re: アヴァロンコード ( No.147 )
日時: 2012/09/28 22:49
名前: めた (ID: UcmONG3e)

三度目の球体レーザーを利用してトルソル2はやっと硬直した。

「ああ、あんなに遠い」

ため息をつきながらティアは再び両手をトルソル2の体に押し付けた。

そして思い切り踏ん張って息を止める。

そうすると、いつもより力が出る気がした。

『…ティア、がんばってる…』

ティアの姿を見てネアキがつぶやく。

『…ウル…』

「なんでしょうか」

ネアキの冷たい声にウルは首をかしげる。

『…あなたは何を封印していたの…』

ウルはわかっていましたよ、と言うふうにほほえんでみせた。

レンポもミエリも興味を持った様でウルを見る。

「ネアキは悪魔を封印してたもんな…ウルは何を封印してたんだ?」

ウルは少し黙っていたが、口を開いた。

「槍…ですよ」

やり?と怪訝な顔をする仲間たちにウルはうなづく。

「もちろん、普通の槍ではありませんよ。一つの槍で国が一つ滅びるほどの威力の槍…というべきでしょうか」

まさか、とレンポが言う。

「天空槍?」

そうです、と頷くウル。

精霊たちはそれはまずいんじゃないかといっせいにティアを見た。

「じゃあ、あのババアの狙いは…」



Re: アヴァロンコード ( No.148 )
日時: 2012/09/28 23:24
名前: めた (ID: UcmONG3e)

二体目のトルソルを崖へ突き落とした後、これで最後だーっとティアは振り返る。

守護者の間の点滅が激しくなり、どしんと最後のトルソルがふってくる。

形はどのトルソルも一緒で、レーザーの攻撃で異なるらしい。

今度はどんな攻撃なのかなっと見ていると、そんな呑気なことやっている場合じゃないことにすぐ気づいた。

気づくというよりは、わからせられた。

コアから発せられた光線は一つではなかった。

180度にものすごいスピードで熱線を放射しているのだ。

しかもコアが現れるとすぐに熱線がでるので叩く暇がない。

「うわっ」

慌てて盾に身を隠すも、その盾が溶け出す勢いだ。

崩壊する前に熱線から解放されて暑くなった盾を放り出す。

手が火傷しそうだ。

新しく取り出した盾を装備して、おそるおそるトルソル3に歩み寄っていく。

「…」

するとトルソルは即座にコアをしまいこんでしまった。

隙がない上に、とんでもない攻撃範囲だ。

アレを直で食らったら、もしや骨まで溶かされる?

「すぐ終わると思ってたのに…」

ひやひやしつつ、トルソルの前に立ったティア。

もう一度光線を出してもらおうと構える。

ティアの手には堅固な盾とオオリからもらった飛剣。

なれない武器だが、預言書から出せばどんな武器でも使える。

試しに投げてみると、ちゃんとまっすぐ飛んだ。

そしてトルソルにぶつかって跳ね返り、精霊たちの真ん中を突っ切っていく。

「おお?!」「きゃ?!」

驚いて飛び上がる精霊たち。

試したくはないが、枷をはずしてもらえたらもしや当たっていたかも。

もしかしたら刺さっていたかも、とひやひやする精霊たち。

「ご、ごめんね、みんな!」

ティアが下より手をふって言うけれど、精霊たちは苦笑いしか出来ない。

「と、とにかく…コアに当てなきゃ」

Re: アヴァロンコード ( No.149 )
日時: 2012/09/29 16:19
名前: めた (ID: UcmONG3e)

トルソル3はコアを現した。

すぐさまティアはコアめがけて飛刀を投げつける。

外れてもいいように沢山用意した飛刀をがむしゃらに投げつける。

きんきんとコア以外の硬い部分にあたって跳ね返る音に続き、じゅわっと解ける音が聞こえてあわてて身を伏せる。

頭上に高温のレーザーがかすめていき、投げつけた飛刀達が溶けて地面にしみを残す。

きつい体勢よりトルソルを見ていると、あっと気づく。

トルソルは180度に攻撃をするけれど、その間別の角度からは無防備状態になっているのだ。

レーザーの通過したところから攻撃すればレーザーに怯えることはない。

ティアは早速飛刀をトルソルのコアめがけて投げてみた。

びゅんっと音をさせてコアにそれがぶち当たるとトルソル3が即座に停止した。

「おお…トルソルは飛刀によわいの…」

感心していたがすぐさま体を起こし、トルソル3を危険エリアに押していく。

これで最後、と懇親の力で押し、ついには落下させた。

どがしゃーんと破壊音が響き、それについで守護者の間の警戒モードが解かれた。

点滅ランプがきえて、封鎖された扉がぱっと開く。

完全に倒したようだ。

「お見事です」

「やったね!」

扉が開いたもののアンワールは姿を見せない。

どこいったんだろう、とティアがきょろきょろすると精霊たちはそろって降下してきた。

「ねぇ、ウル。なにがあるの、ここ?」

ティアがそういうと、ウルは残りの精霊たちにも促されていった。

「あれが、天空槍です」

ウルの指す方向には半開きの扉より少しだけ鈍く光る白銀のもの。

複雑な形状で、おそらく尖った槍のところは地下深いところにいるのだろう。

「まさかこの世界にまであるとは…。大規模な破壊力を持った古代兵器…とでも言っておきましょうか。旧世界の負の遺産です」

レンポがウルに言う。

「前の世界じゃよく見たな。まあ、使うやつのサイズがサイズだったからな!」

すると、守護者の間にむかって大勢の足音がぞろぞろとやってくる音がする。

「誰か来る…あの男の子だけじゃないみたい?」

ミエリがちょっと不安そうにティアにつぶやくと音の集団が守護者の間に入ってきた。

オオリエメド・オーフとアンワール、砂漠の民が数人いた。

「ヒェヒェヒェ…アタシの願いをかなえてくれたお礼だよ。約束どおり雷の精霊とやらはアンタにあげるよ」

オオリはティアを見てそう告げた。

そしてそのままティアの横を通り過ぎ、何を言うかと思ったらこんなことを言った。

「アタシはこれをもらうよ!」

先ほどウルが説明してくれた天空槍にむかって両手を差し出しながら言うオオリ。

「世界を支配できるという究極の兵器!」

するとレンポが怒ったように叫ぶ。

「こんなもんで何をしようってんだ!」

オオリは一瞬ティアの周辺に目を泳がせたがにやっと笑った。

「…?!」

なんとなく嫌な気分がしてティアは後ずさる。

(なに…?)

「ヒェヒェヒェ!!」

オオリは声高々と笑った。

そして不安げな表情のティアを見て続ける。

「この天空槍さえあれば世界はアタシの思うままさ!チラつかせて脅したり、場合によっちゃぶっ放したり…ねぇ!」

そのまま視線を天空槍に戻しオオリは昔話をするかのように言う。

「昔の人間はコイツをつかって世界を支配していた巨人を滅ぼしちまったって話じゃないか」

びくっと精霊たちが身を震わせた。

巨人、クレルヴォ、昔のこと。

この三つのワードに極度に反応するのだがまだわけを話してくれない。

クレルヴォがどういったやつだったのか。

「アタシも同じ事をするだけさ」

オオリがフンと鼻で笑う。

だがティアはみすみすそんなことをさせる気は無かった。

「そんなこと、させない!」

いうけれど、オオリは大して気にもしないような振る舞いを見せる。

ゆっくりと振り返り、じろじろとティアを見る。

「ふん、邪魔しようってのかい」

おかしそうに言うオオリ、そしてその細くてがりがりの指をパチンッとならした。

乾いた音が鳴り響くと、ティアは不意に力が抜けるのを感じた。

「う?!」

ひざの力が一気に抜けて、預言書が指から滑り落ちる。

ばたんと固い床に倒れるとオオリは満足そうに高笑いをした。

「ティア!」

精霊たちが声をかけるも、ティアは指一本動かせない。

まぶたも自然と閉じてあたりが見えない。

「砂漠につれてきたときに、まじないを仕込んだ。砂漠ののろいさ」

そんなティアにオオリは勝ち誇ったように言う。

「アンタの体はもう、うごかない。そして、そのまま砂になっちまうのさ!」

そして何も言わないティアの足元に転がっている預言書に手を伸ばす。

だが、触れる前に強力な力ではじかれた。

「なに?!」

指をちぎられるような痛みに襲われてオオリは手を引っ込める。

「そうはさせません!」「預言書には指一本触れさせねぇ!」

精霊たちが預言書の前に立ちはだかり、オオリを見えない存在で威圧する。

オオリは指をさすりながら悪態をついた。

「ちい!こしゃくだね!これが精霊とやらの力かい?!」

だが、アンワールに合図してにやりとする。

アンワールは黙ってオオリに皮袋を差し出す。

オオリは皮袋を受け取ると中身を思いっきり預言書にぶちまけた。

「きゃ!水じゃない?!」

「預言書の精霊は、水に弱いって聞いたことがあるのさ…見えはしないけど、力が弱まったのはわかるよ。だいぶ参ったようだね。しばらく牢屋に入っていてもらうよ」

オオリは手下にティアを運べと命令しながら言い捨てた。

「預言書…ねぇ。ふん、誰かさんが喜びそうさね」

そしてついに自分のものとなった世界を壊す兵器。

天空槍をうっとりと見つめた。

「どうやらアタシのほうが先に賭けに勝ったようだよ、ワーマン!!」



Re: アヴァロンコード ( No.150 )
日時: 2012/09/29 17:59
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアはやっと意識を取り戻した。

けれど、相変わらず目は開かないので物音だけがたよりである。

そんななか、声が聞こえた。

意識がなくなる最後までティアを追い詰めようとした声が。

今度はティアに優しく言うのだった。

「フェフェフェ…目覚めたかい」

(え…オオリ?!)

だが違ったらしい。

その声はおだやかで、厳格な何かが…シリル遺跡に似た何かがあった。

「オオリと間違えたかえ?安心せい、ワシはエエリ。姉とは違う」

すると、こちらは聞き覚えのある元気で強気な声。

「あのババアと似ているけど、ちょっとちがうな!」

この口の悪さは間違えようがない、レンポだろう。

すると不思議なことがおこった。

「ババアか…フェフェ。これでも昔は美人姉妹として名をとどろかせていたんだがのう」

「今でもきれいだよー、おばあちゃん!」

まるで会話しているように聞こえるではないか。

(なんで?!どういうこと…?)

目が開かないのが素晴らしくもどかしい。

一目見れたなら理解できたかもしれないのに。

ティアの視界は統一されて真っ黒。

くやしい。

(そういえば…オオリも精霊の声が聞こえたような感じだった。魔力が高いと聞こえるのかな?)

「砂漠化ののろいじゃ…」

ふいにエエリという人が悲しそうにそう告げた。

先ほどものろいをかけた張本人であるオオリもそんなことを言っていたような…。

「このままでは七日七晩で絶命し、砂漠の砂となるのう」

ティあの方を誰かが優しく触れる。

この中でそれが出来るのはエエリただひとり。

その手は親友のファナのおばあちゃんのヘレンのように暖かく、またしわだらけだった。

きっとエエリもオオリと同じくらいの外見や年齢なのだろう。

「治療するには、薬が必要さね」

『…じゃあ!…』

しかしネアキの声に首を振った様子。

「しかし、材料がないんだよ。薬を入れるための瓶ならあるんだけどね。見たとおり、幽閉の身だからね」

そして言いにくそうに告げた。

「…残念だけど、諦めるしかないよ」

(あきらめる…ということは死ぬって言うことかな)

完全に真っ黒の視界でティアは死について考えた。

七日後にしぬ…。

さけられない…薬がないから私は、もう?

「大丈夫よ、ティア!」

すると明るいミエリの声がそういった。

「預言書の力なら治療できますよ。諦めてはいけません」

するとおや、とエエリはつぶやいた。

見えないところで話が進んでいくけれど、死ぬのは嫌なのでぜひ進めてほしい。

「どうしたんだい?まだ諦めていないのかい?」

これは精霊に言ったのか、ティア自身に言ったのかよくわからないけれどティアは心の中で叫ぶ。

(絶対諦めない!)

「そうかい、わかったよ。諦めの悪いこは嫌いじゃないよ」

その声が聞こえて再び肩に手を置かれる。

すると、全身がふわりと軽くなった。

ぱちっと目が開いてエエリの顔が見えた。

「あ…れ?」

口も利けるようになり、身を起こす。

「のろいから自由にしてやったよ」

「自由に?!じゃあ私、しなないの?」

けれどエエリは首を振った。

「体の不自由は解放してやった。けど、七日目に死ぬのろいはさすがに…ねぇ」

『…その薬…名はなんと言うの…』

ネアキがエエリに言うと、エエリは声のするほうに向く。

どうやら姿は見えていないらしい。

「名をエクリサーと言うさね。作り方はあるが…」

ほら、とポケットより出されたのはすす切れたパピルス。

かさついたその紙をみると、精霊たちはそろって言う。

コードスキャンをしてと。

エエリが突っ立っている状態でエエリごとコードスキャンするとエクリサーのコードが垣間見れた。

「光、闇、望み これ入れればいいの?」

瓶をコードスキャンしててきぱきとコードを入れていく。

望みのコードを入れた瞬間治療薬—エクリサーが出来上がった。

それを預言書より取り出して恐る恐る飲み干す。

微妙に甘くてまずい水。

そんな感じだった。

「うえ、おいしくないねこれ」

いうと、エエリは目を見開く。

「おお!やはり奇跡の力じゃ!まじないごときが太刀打ちできぬか」

どうやら死ぬと言う運命から逃れられたらしい。

ホット息をついた。

「おぬしも気になっておるだろう、なぜ精霊の声が聞こえるか、と」

牢屋の中、吊りベットに腰掛けてティアに言う。

「ワシは神官の家系での。預言を後世に伝えることが役目なのさ。しかし預言書そのものを目にすることとなるとは」

急に渋い顔になるエエリ。

「ということは、世界はもう—」

「ぶっ壊れる寸前だぜ!」

力なくエエリは笑う。

「…ワシはずいぶん長く生きた。もはや悔いはない。だが—」

そこで一端口を閉じた。

そしてティアを見、悲しそうに微笑んだ。

「だが、若者達にとっては哀れなことだのう」

ミエリが共感できるよと頷く。「おばあちゃん…」

「気がかりなのは孫のことじゃ…」

急に真面目な顔をしてエエリは続けた。

遠くを見るような目で言うエエリ。

「ワシを裏切り、まじないに身を染め、大切な石版まで盗んでいった娘じゃがこの世界と共に滅びる運命とは…あわれよのう」

すると、何かに気づいたようにレンポが首をひねってつぶやく。

「孫…石版…神官…まさか!ナナイとかいうやつがそうか!?」

するとエエリが声のした方向へ首を向ける。

「ほう…孫に会ったのか?」

「ああ、だまされたり幽閉されたりしたぜ!」

嫌味のこもった返答にエエリはあの子らしい、とわらう。

「すると、あの石版の預言を見たというのか?読めたと?」

ティアが頷くとエエリは感心した。

「今まで、神官以外であの石版を読むことが出来たのはおぬしだけじゃ。ワーマンですら、読むことが出来なかった」

「ワーマン……ワーマン?!」

さらりと凄いことを口走ったエエリにティアは思わず大声で聞き返した。

ワーマンってあのヴァイゼン帝国のワーマン?!

「そうじゃ。ワシと姉、そしてワーマンは若い頃、共に学んだ仲じゃった。しかし姉とワーマンはその力におぼれ野心に取り付かれおった」

目をつぶり後悔気味に言うエエリ。

「姉はシリル遺跡に眠る天空槍を用いて世界を支配することを望んだ。ワーマンは伝説に語られる【魔王】と呼ばれる存在に目をつけた」

「【魔王】?」

ティアが聞き返すと、精霊たちはいっせいにつぶやく。

クレルヴォのこと…と。

エエリは頷き、先を続けた。

「ヤツはワシの目をかいくぐり、石版を盗み見て書き写して去った」

エエリはため息をついた。

「今、預言と同じことが起きている」

預言書を見つめ淡々と

「魔物、イナゴ、天変地異…悪い予感がする。姉とワーマン…二人の野心が世界を狂わせているのではないかとな」

そして急に立ち上がるとティアに使命を与えるかのように言った。

「行くがよい選ばれし者よ。かつて私はあの二人をとめることができなかった。だが、こうして預言書が現れた。ワシが信じてきたものは正しかった」

ふっとワラってエエリは目をつぶる。

「もはや恐れも疑いもない。二人を止める。それが…ワシの最後の役目じゃ」

そしてポケットより二つのものを取り出す。

一つはおきな鍵、もう一つはスカラベの首飾りだった。

<スカラベというのは、砂漠の地方でよみがえりをつかさどる神としてあがめられているムシのこと。日本名はフンころがし。よく翼を広げた姿が形どられている>

「これは?」

ティアが聞くとナナイにわたしておくれと言った。

そして壁のしみのような模様のところをスライドさせると鍵穴が出てきた。

「ふふ、気づかなかったろう」

そこに鍵を差し込んでエエリは牢屋の隠し戸をあけた



Re: アヴァロンコード ( No.151 )
日時: 2012/09/29 18:34
名前: めた (ID: UcmONG3e)

牢獄の隠し戸が開くと、そこは暑い日差しの下だった。

外に出られた。開放感があふれている。

砂の上に出ると、突如上から何か降ってきた。

「?!」

それはとさっと砂の上に着地すると肉食獣のような目が光る。

「アンワール!」

「おまえを行かせるわけにはゆかない」

エエリが慌てて言う。

「行かせてやれ、アンワール」

けれどアンワールは首を振る。

それどころか巨大な剣を背中からとり、かまえる。

戦う気?!

「それでも行くと言うのなら、痛めつけてでも言うことを聞かせろと言いつけられている」

ティアは心を決めて剣を取り出した。

それを左右の手に構える。

「戦うしか…ないみたい」

その言葉にアンワールは目を細めると、だっと地面を蹴った。


Re: アヴァロンコード ( No.152 )
日時: 2012/09/30 00:27
名前: めた (ID: UcmONG3e)

アンワールの剣はビックリするほど大きい。

アンワール自身もあろう刀身の長い剣でそれが今、こちらに向かって来ている。

爆弾を投げて撃退してもよかったのだが、必要異常な怪我をさせる気は無い。

飛刀も当たり所が悪ければ手に負えない。

ここはやはり、使い慣れた剣で彼の剣をどうにかするしかない。

剣を奪うには接近戦になるだろう、盾は必須だ。

「はあ!」

強い掛け声と共にアンワールが巨大な剣をティアの剣めがけて振り下ろす。

その攻撃を前転して避けたティアはほっとする。

どうやらアンワールのほうも必要いじょうな怪我を負わせる気はないらしい。

『…私が凍らせてしまえば早いのに…』

ボソッとネアキが言うけれどそんなこと頼めない。

もしアンワールが凍傷やそのまま凍って眠り続けてしまったら困るのだ。

『…ティア、やっぱり優しいの…』

「そうだよね。ティアは本当に必要なとき以外、私たちの力使わないし…私たちの枷のことも考えてくれた」

ミエリがうれしそうに言う。

でも、わかっていた。どんなに持ち主が優しくともこの枷は外れない。

前の主人だったクレルヴォもとても優しかったし、精霊たちと仲がよかった。

精霊たちもどの主人も同じで大切に思っていた。

でも、ついにはこの枷が外れることはなかった。

何故なんだろう。

もしかして外れないのだろうか。

預言書に縛られたときに、もうずいぶんとはるか昔だけれど縛られたときにこういわれたと思う。

かせは預言書の持ち主にしかはずせない。

たしか、確かそうだった。

最初の世界が滅んだときのことだ。

億単位やとても数えることが出来ないくらい前のこと。

時間が動き出した頃の話だ。

そのときからレンポは物に触れることが出来なくなり、ミエリは大地を軽やかに走ることが出来なくなり、ネアキは美しい調べを口ずさむことが出来なくなり、ウルは彩り豊かな美しい世界を目に写すことが出来なくなった。

Re: アヴァロンコード ( No.153 )
日時: 2012/09/30 01:20
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアはアンワールの剣を盾と剣でガードしながらある作戦を実行しようとしていた。

作戦と言うより、わざ?

しばらく前に、師匠であるグスタフと戦ったことがあった。

そのときに使った剣をひねって奪い取ると言う方法だ。

結局負けてしまったが、有効な手段だと褒められた。

それを今、アンワールの特大の剣でやろうとしている。

盾を使ってひねればうまくいくかもしれない。

早速攻撃型のアンワールが剣をない出来たのでさっと身を翻して盾と剣でアンワールの剣をサンドウィッチに挟みこむ。

がごんと凄まじい音がしてアンワールが目を見開いた。

「な、に?」

呆然としているアンワールの剣を思いっきりひねってその手から放り出すとティアの足元にアンワールの剣が落ちた。

「武器がなきゃ戦えないでしょ!」

ティアがうまくいったと、心臓音を高鳴らせていった。

「…」

アンワールは黙ったまま剣の元へ歩いていこうとする。

ティアがその体に剣を向けると、ようやくその足が止まった。

「武器はないが、それでもお前を行かせるわけにはゆかない。オオリからの…命令だ」

剣に突き刺さってもかまわないと言う感じで剣の元へ歩みを進めるアンワール。

もう刺さる寸前と言うところでティアは剣を引っ込めた。

「っ」

するとアンワールがふっと意識を失ってどさっとうつぶせに砂の上に倒れた。

豪快に倒れて完全に気を失っている。

「悪いね、アンワール…だがティアを行かせないと…」

アンワールを殴って気絶させたのはエエリ。

その杖で頭をぶん殴ったのだ。

「ティアよ、すまないね」

アンワールを二人で引き釣りながらエエリがすまなさ層に言う。

アンワールを牢獄の影に入れるとエエリはアンワールを眺めながら言った。

「アンワールはワシの孫のようなものじゃ。アンワールには親はいない。砂漠に残された孤児だったのじゃ」

ティアは目を見開く。

「どうして…?」

「砂漠ではそう言うことは少なくない。砂嵐に襲われたり、食糧不足で移動していたときにそうなるのじゃ。アンワールには心がないわけじゃない」

アンワールの長い紅色の髪をなでながらエエリは続ける。

「オオリは砂人間と言う魔奴隷を作るのだ。だがそれも長くは持たない。そこで姉は人間の子供の心を眠らせて、いいように使う事をし始めた。悲しい子じゃ、アンワールは」

目をつぶって気絶状態のアンワール。

そんな目にあっていたなんて。

「さぁ、オマエさんは自分のいるべきところへ行くのだ。ワシがここで自分の出来ることをするように…孫によろしくな」

ティアはエエリに見送られてカレイラへと戻っていく西の砂漠へ足を踏み入れた。


Re: アヴァロンコード ( No.154 )
日時: 2012/09/30 01:59
名前: めた (ID: UcmONG3e)

 第五章 大会

‐予言の書は古きものにより失われる
 大地は怒り、大いに揺れ
 あらゆる街を破壊する
 四つののろわれた竜は彼らの地で目覚めるだろう


西の砂漠に入り込んだティア。

だが大変なことにオオリに水筒を奪われたままだったことに気づいた。

「水筒ないけど…というかもらったもの、飛刀以外全部奪われてしまったからなぁ」

「そういえば、アイツ、このあたりにオアシスがあるっていっていたよな?」

あいつと言うのはアンワールのことだろう。

「そこにいくしかねーな」

『…それまでは、氷をなめるしかない…』

すると、ミエリがそれだけじゃないよ、と声を張り上げる。

「太陽の心配だってあるよ。ティア、帽子もケープも取られちゃったよ…」

問題は尽きない。

「そうだよ、私が草花で体中を覆ってあげる!」

「おい、おまえここ砂漠だぞ。力使えるのかよ?」

レンポに突っ込まれるがミエリは当たり前じゃないの、と言う。

ティアに願ってもらえば力は出る。

「さぁ、ティア。大火傷しないうちに私に命令して!」



ミエリのおかげで体中をツタで覆われてケープのような感じがする。

「外見は気にしちゃだめ。花くらい咲かせられるけどー」

体中緑でぐるぐるまきのティア。

「ミイラ…」

レンポに言われるが言い返せない。

まさにその通りだ。

「ミエリ、オアシスの方向とかわかる?」

植物が生い茂るオアシスをミエリならばわかるかと聞いてみる。

ミエリは風を呼んでいるように見えた。

ちょっとまってねーと目をつぶる。

しばらくすると、先陣を切って飛んでいった。


Re: アヴァロンコード ( No.155 )
日時: 2012/09/30 02:53
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ミエリの後に続いて数分。

砂漠の真ん中に、ぽっかりと美しい水色のオアシス。

「きれい…」

白い砂漠はまるで砂浜の様。

空の色が移ったオアシスは南の島の海のように美しい。

脇には、やしのような木が生えており、ここ一角だけ別次元。

「砂漠にこんなところがあるなんてな」

半径十メートルほどの範囲しかないけれど、ここは貴重な水分補給地だ。

必要以上に水を持っていってしまわないように手ですくって水を飲む。

ついでに顔を洗うと、すずしい。

「水筒がないから…ね」

残念そうに言うティアに、ネアキが首をかしげる。

『…氷にすればいいの…』

ティアのすくった水をネアキは瞬時に凍らせた。

その早業におおっと歓声を上げてしまう。

『…日差しでも解けない…水にしたいならレンポに頼めばいい…』

ティアはネアキにお礼をいった。

「ありがとう。これで水に困らないでいける」




そのころ、英雄が何日も姿を消しているのカレイラでは—

絶え間ない捜索劇が繰り広げられていた。

ティアの家は手がかりがないか調べられたし、たくさんの兵士たちが車輪の後を調べていた。

「英雄を探せ」

ほとんどウォーリーを探せじょうたいになって、国民全員が手助けをする。

けれど、どうにも手がかりは無いし見つからない。

「英雄は死んだ?」という説もはやりだしたが、村長ゲオルグによって打ち砕かれた。

強い英雄がそんなことで死ぬわけがない。

英雄という名を買われてさらわれたのならば利用価値は莫大だ。

みすみす殺すことはしないはず。



Re: アヴァロンコード ( No.156 )
日時: 2012/09/30 14:53
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「あの時私が見失わなければ…体が丈夫でいたら…すぐに出て行ってティアの元に走っていたら…」

ティアがいなくなってからというもの、ティア誘拐の唯一の目撃者であるファナは自分を責めていた。

体が悪いのに、さらに悪くしてしまいそうな勢いで自分を責め続ける。

「おまえのせいじゃないよ、ファナ…。ティアは…ティアはきっと無事だよ」

しくしくと泣き出すファナをそのたびに慰めてあげるヘレン。

ティアのことも心配だが、ファナのほうが心配だった。

真夜中に悪夢を見て悲鳴を上げたり、不意にぼろぼろと涙を流す愛しき孫娘。

最近は悪夢が怖いと、ろくに寝つけていないので体力が著しく低下している。

「困ったねぇ…」

一階に戻ったヘレンは、キッチンのいつもの立ち居地に戻ってぼそっとつぶやいた。

ファナが心配だ。

ティアがいないと、あのこの寿命の時計が早く回ってしまう。

そう、ファナは長くないかもしれないのだ。

つい先日、ティアの英雄としての頼みにより、カレイラで一番の名医がファナの元にやってきた。

診察をし始め、ファナの病状を何時間にもわたって調べ上げた。

最初は余裕の笑みを浮かべていた名医も、徐々に顔色が悪くなっていく。

それでもファナを不安にさせないように二階では笑顔でいた名医。

けど、一階におりたとたんに名医は笑顔を崩した。

「残念ですが…わたしにも原因はわかりません。さじを投げるようですが、手の施しようが…。最近強いストレスを感じているようですね。それが原因で、体のほうも相当…」

言いにくそうに名医は最後に言った。

「お嬢さんの…余命は長くないでしょう」

ヘレンはそのときのことを思い出してぎゅっと目をつぶった。

どうしてあのこが…。

いったい何故、あのこなのだ?

わたしが代わってあげれたらどんなにいいか…。

せめて、あの子がこの世からいなくなる前に—。

「ティアよ、早く帰ってきておくれ…」






Re: アヴァロンコード ( No.157 )
日時: 2012/09/30 15:27
名前: めた (ID: UcmONG3e)

デュランとレクスは親友がさらわれたときから、馬車のあとが消えた周囲を捜索していた。

時には野宿し、大雨にさらされたともあった。

「おい、デュラン。手がかりは?」

もう夕方になってあたりが見えなくなったので、レクスは野営地に戻った。

すると、先にデュランが戻っているではないか。

「やあ、おかえり。残念ながら…なにも」

「そうか」

もともと友人同士だったレクスとデュランは協力してティアを探すことにしたのだ。

「…」

無言で草原に寝転がり、質素な夕食を食べ始める。

野営地なんて、名前こそ大げさだが焚き火くらいだ、あるのは。

ぱちぱちと燃える炎の前で、絶対にお腹いっぱいになれないりょうの夕食を食べ終わる。

「それじゃ、俺食糧確保してくるから」

デュランにいって、近くの川に釣り道具を持って出かけていくレクス。

器用なレクスは魚を、努力はしているが不器用なデュランは植物やらきのこ、木の実を拾ってくる。

一緒に食べると相性が悪いので、一日交代で拾ってくることにしたのだ。

早速河に釣り針をたらしてレクスは黙って水面を見つめる。

流れ行く川の音が不安な心を穏やかにしてくれた。

近くでスズムシたちが歌いだし、優しいかぜがふいてきてレクスの髪を揺らす。

ほたるがふんわりと宙を舞い、レクスを“あのとき″へフラッシュバックさせた。

それはティアにも話した事のないむかし。

まだ自分がすさんでしまう前のこと。


「おにいちゃん、今日も勇者サマごっこしよう!」

立派な家から足を踏み出すと、いつも先に待っていた小さな妹。

その脇には笑顔で笑うデュラン。

「ほんとに勇者ごっこが好きだなぁ」

あきれたように言うけれど、ほんとうは自分も気に入っていた遊び。

「じゃあー、デュランが勇者サマでー」

妹は決まりきった配役を、さも考えているようにいう。

「あたしがお姫様!」

立派な服装の妹はレクスにとってはお姫様そのもの。

外交官の娘だもの、村長とならぶほど金持ちだ。

きれいな服も着せてもらえるし、本だって好きなときに読めた。

「お兄ちゃんはね…」

笑顔で言う妹。

「それじゃあ、魔王ね!」

「ふつう俺が勇者だろ…まあ、いいけどさ」

それから勇者ごっこを三人でして、デュランに倒される。

「ありがとう勇者サマ!お礼にこの花を受け取ってください!」

地面に座りながら魔王として姫が勇者にお礼を上げるのを見る。

いっつも同じ花。

だけどデュランは笑顔で受け取る。

「ありがたき幸せ!」

そういってユウシャノハナを帽子に刺して笑うデュラン—。


いつの間にか涙がうかんでいた。

あわてて乱暴に涙を拭ききると、思い出す。

幸せな昔ではなく、先ほどのデュランの帽子。

「アイツ、帽子の花が枯れてた…よな」

毎日の日課、とりに行かせてやれなかったな。

明日は森に行きながらティアを探して、つんできてやろ。

妹と勇者が好きだったあのはな。

…デュランの分もつんできてやろう。

お墓におくぶんがあまってたらな。


Re: アヴァロンコード ( No.158 )
日時: 2012/09/30 15:49
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「あーあ、嫌になっちゃうわ」

ドロテアの部屋の前で盛大にため息をつくエルフの少女—シルフィ。

そのアンティークドールのような端正な顔を不機嫌そうにゆがめてドアをノックする。

「なんでわたしがこんなこと—」

文句を言い終わるまでにドロテアの部屋より返事が聞こえる。

「誰じゃ!」

「報告係のシルフィです」

うんざりだっと言いたいところだが父からの頼み。

仕方ない。

「おお、そなたか。入れ!」

いくら王女といえど人間に敬語を使うなんて!

シルフィのプライドもずたずた。

けれど父の頼み。

…仕方ない。

「よく来たのう」

「ごきげよう、ドロテア様」

フンッと鼻を鳴らしたいところだが、礼儀正しくする。

「のう、グリグリは…?」

上目使いできいてくるドロテア。

相手がシルフィでは効果はない。

「あいかわらず、行方知れずです」

「なんじゃと?むう、役立たずな捜索隊じゃ!」

そう、シルフィはドロテアの愛猫、グリグリの捜索を頼まれているのだ。

切れそうになりつつもシルフィは平静を装って会釈する。

「それではわたしはこれで」

さっさと出て行こうとするシルフィにドロテアが引き止める。

「なんですか?」

するとドロテアはしばらく空中を目が泳いでいたが、観念したように言った。

「え、英雄はどうじゃ?見つかったかのう?」

「いいえ」

「そ、そうか…。ええい、さっさと探しに行くのじゃ!」

ふんっとドロテアは興味をなくしたようにシルフィに命令した。

イラットしながらもシルフィはゆっくりとドアを閉めて退室した。

「グリグリなんかより英雄のほうを探しなさいよね」

場内を検索する兵士を見てシルフィはあきれる。

別にティアのためにそういったのではない。

ティアは人間の癖に無礼者だし、人間の癖に話しかけてくるし、人間の癖にやさしく案内なんかしちゃってるし…とにかくゲオルグの負担がさっさとなくなればいいというのがシルフィの考えだった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ティアがひたすらカレイラに向けて歩いてるのは書くとつらいんで、ひたすらティアがいなくなった頃のカレイラ諸事情を書いてる…

レクスの過去やら、ファナの病状やら、シルフィの猫捜索、デュランとレクスの妹なんかが中心。


Re: アヴァロンコード ( No.159 )
日時: 2012/09/30 16:10
名前: めた (ID: UcmONG3e)

薄暗い中、レクスは釣りに行ってしまった。

暗闇の中で河に釣り針がなげられた音がしてデュランは視線を帽子に移す。

茶色のお気に入りの帽子。

勇者の帽子はいまやみすぼらしい。

美しく飾っている白い花—ユウシャノハナはしおれてしまった。

毎日の日課、花を摘んで帽子に飾ることが今は出来ないでいる。

それに…レクスの妹にも花を上げなきゃ。

何日もあいにいくの、サボってる。

サボってるわけじゃないけど、彼女のいるカレイラのあの場所は、ティアのさらわれたところより遠い。

ごめんね、あいにいけなくて。

でも友人も大切なんだ。

それにずっと野宿で、カレイラに帰ってない。

いまは命のあるものを優先させてくれ…。



「今日は勇者サマごっこしないの?」

レクスの妹はそうなの、と頷く。

なぜだかしょんぼりしている。

あぁ、そっかとデュランも納得する。

「レクスが勉強にいっちゃってるからね」

「あたし、勉強嫌い。おにいちゃんはあたしと遊ぶより勉強のほうが好きみたい」

すっかり落ち込む彼女に、デュランは声をかけずらい。

外交官の息子ともなれば勉強は強制的だ。

彼女もやがては自分をおいて勉強しにいくのだろう。

悲しい。

「そうだ、隠れん坊しようか」

魔王役のレクスがいないから使用がなく隠れん坊をする。

二人で隠れん坊とか…。

じゃんけんでデュランが隠れることになった。

外交官の広い家にかくれ、彼女が探しに来るのを待つ。

そのとき、悲劇が起きた。



Re: アヴァロンコード ( No.160 )
日時: 2012/10/01 20:11
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「もーいーかーい?」

外交官の家で広いクローゼットの中に隠れたデュラン。

レクスと彼の妹の両親が立派な身なりをして昼食をとりながらにっこりとデュランと愛娘を見守っている。

「いい遊び相手が出来てうれしいよ」

「ほんと、そうですねあなた…レクスがいないんであの子ったらへそ曲げてましたもの」

楽しそうに笑う外交官夫妻は愛娘がデュランを探しに家の中へ入ってくるとそ知らぬ顔をした。

「おかーさん。勇者サマはー?」

「さぁ—どこかしらね」

こんなところすぐ見つかってしまうだろうな、と考えていたけれどそうでもなかった。

彼女は家中を飛び回ったり転げまわったりして自分を探している様だった。

「もー、デュランったら隠れるのうまいじゃない」

すっかりデュラン探しで忙しくなった彼女はレクスのことを忘れられたようだった。

「そろそろ出てってやろうかな…」

そんなことを考えていると、ふいに乱暴な音がした。

どん、どんっと物音がして、家の入り口を重たい足音が走り回る音。

「…?」

レクスでも帰ってきたのかな?勉強がうまくいかなくっておこってるのかな?

「おにいちゃん?おかえり—きゃっ?!」

とたとたと彼女の足音が玄関のほうへ向かった途端、悲鳴が上がる。

「きゃあー?!お父さんお母さん!」

その足音が尋常じゃなく走り去っていく。

彼女の足音に続いて追いかけるように荒々しい足音が家の中に駆け抜けていく。

「なんだ、おまえは?!くっそ、何故こんなところで!!」

彼女の父親が激しく叫んで何かをひっくり返した音が響く。

「早くこっちに来て…あなたも逃げて!!」

母親が金切り声を上げた。

「おかあさーん!!」

ドタッと何かが崩れる音。

同時に濡れたものが床に散らばるおともした。

「おまえ!っくそ、くそお!!」

父親の声が恐怖と怒りで震えている。

その間にも彼女が母親を泣き叫びながら呼んでいる。

デュランは体中がしびれたように恐怖で凍りつき、その場を動けない。

暗闇の中で、声と音しか聞こえないのにデュランの震えは収まらなかった。

助けなきゃ。

いつものように—僕は勇者サマなんだから彼女を—助けなきゃ。

なのに…体中の関節が凍りついた。

心拍数が上がって息も詰まる。

もみ合う音が激しさを増して、家中の家具やら割れ物をなぎ倒す音がする。

そしてついに甲高い苦痛の悲鳴と、彼女がさらに上げる恐怖の悲鳴。

行かなくちゃ。

大きな物が倒れる音がしてデュランは涙で濡れた頬を自分で叩いた。

「おとうさん…おかあ、さん…」

彼女の声はもう弱弱しくなってる。

「や、だ。おにいちゃん…助けてお兄ちゃん…!」

彼女の声はもはやデュランを必要としていなかった。

兄であるレクスを…いつも魔王だったレクスを呼んだ。

布を引き裂くような短い悲鳴を上げて彼女はそれっきり黙りこむ。

しばらく沈黙して、何も聞こえない静かになった。

グシャグシャという奇怪な音が響き、泥沼に沈み込んだ長靴を引っ張るような音がする。

デュランは震えながらクローゼットを出る決心をした。

クローゼットの隙間から流れ出てきた花瓶の水がレクスの両手をぬらす。

そっとクローゼットの扉を開けると、デュランは絶句した。

ほんの数分前までの暖かで幸せな家庭は消え去っていた。

家中ぐちゃぐちゃで、清潔な家は跡形もない。

ばらばらの家具、砕け散った昼食たち、ちぎれて散乱した本たち。

デュランは彼女とその両親がいるであろおう背にしていた半分の部屋に顔を向けた。

「うっ…ぁああ」

嗚咽が漏れた。

ぼろぼろと涙があふれてとまらない。

震えるまま、あわてて喉元まで競りあがった吐しゃ物を手で押さえる。

そして両手にまとわりついた血液を見て気絶しそうになる。

「そんな…そんな…なんで…」

家中を染めるのは赤。

三人の体をめぐっていた命の証が、今はその家の中に撒き散らされていた。

そのもっとも真紅の部分に彼の大好きな人たちが転がっている。

デュランはそれを直視してたまらず気絶した。


「—なんで今こんなときに…思い出したんだろう」

デュランは流れた涙をぬぐった。

レクスは相変わらず釣りで、帰ってきていないけれどそれが幸いした。

勇者サマは泣かない。

いっつも笑顔で姫を助けるのだ。

(でも—結局僕はお姫様を…彼女を助けられなかったけど…)

デュランは空を見上げた。

星がきらきら光っていて、美しい。

こんなきれいな景色、一人で見るのは忍びないくらいだ。

「ミーニャ、君に会いたい…僕のお姫様…」

星がじんわりにじんでいった。


Re: アヴァロンコード ( No.161 )
日時: 2012/10/01 21:05
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ドロテアは自室のピンクの肘掛け椅子に身を投げてほうっと息をつく。

「なぜじゃ」

むうっとふくれてドロテアはかわいらしい顔を膨らませた。

「何故見つからんのじゃ!」

彼女はばんっと肘掛の椅子をぶったたいた。

するとバキンッと鋭い音がして肘掛け椅子がぶっ壊れた。

「むう、華奢な椅子じゃ…誰かおらんかー?」

文句を言いつつドロテアは高い声で小間使いを呼んだ。

すると二秒もせずにドアが開いて地味な美しい小間使いたちがそろって入ってきた。

「ドロテア様。お呼びでしょうか」

凛とした女性達はそろってかしづく。

「うむ。椅子が壊れた。新しいものに変えるのじゃ」

「い、いすですね。かしこまりました」

著とおどろいたように目をしばたいた小間使いたち。

けれどすぐにお辞儀して破壊された椅子を運び出していく。

重い椅子を5人がかりで引っ張って消えていくサマを見てドロテアはおまえ達も華奢じゃのうなどとつぶやく。

「うー。グリグリ…どこへ行ったのじゃ」

ドロテアは天が天蓋つきクイーンズベットに飛び乗ってぼやいた。

わがままな彼女にとってこれは耐え難い時間だった。

命令一つですぐに願いがかなっていたのに、見つかるまで待たされる。

「ヴァルド様の愛猫なのだぞ…はよう見つけないと。何かあっては困るのじゃ」

ドロテアはベットの上でため息をついた。

ヴァルド皇子。

銀の髪と赤い目を持ったやさしいお方。

読書が趣味で、猫を愛しているやさしくて思いやりのある人。

前に一度お会いした。

目をつぶればそのときにすぐトリップできる。


「こんにちはドロテア王女」

あったときその年齢は10にも満たなかったのにヴァルド皇子は礼儀をわきまえていた。

「む、むう。こちらこそヴァルド皇子」

ドロテアも挨拶を返す。

立派なカレイラの王城フランネル城にてそれは行われた。

今宵の社交パーティーは。悪裂していたカレイラとヴァイゼンの国交関係を見直すための友好パーティーであり、外交官やら大臣やら貴族がふんだんに招かれた豪華なパーティーであった。

「美しいお城ですね」

同い年がドロテアしかいないためか、幼く見えるのでエスコートして上げようと思ったのかヴァルド皇子はドロテアと一緒にいた。

「もちろんじゃ。わらわのお気に入りの場所なんていっち番きれいなんじゃぞ」

ふふんとふんぞり返って言うとヴァルドはにっこりした。

「そう?見ても…いいかな」

「なんじゃ?どーしても見たいというならわらわについてくるのじゃ」

得意げになってヴァルドとある場所へ、中庭に向かった。

「ここじゃ!きれいじゃろ」

ドロテアが両手を広げてくるくる回るその場所は美しい噴水と夜空、あたりを円形にかこむ花壇たちで取り囲まれている。

調度満月で、その美しさは倍増中だ。

「ほんと、きれいだね。…お礼に僕の宝物を見せてあげるよ」

ひとしきり見回った後ヴァルド皇子はさっきから抱えているかばんのふたを開いていった。

「?」

覗き込んだドロテア。

するとかばんの中からくりくりした水色の目がのぞき返してくる。

最初自分の目が反射しているかと思っていたが、それがニャッとないた。

「ひい?!」

ドロテアが飛び上がると、ヴァルド皇子はおかしそうに笑った。

「なんじゃそれは!」

ドロテアが叫ぶとヴァルド皇子は赤い目に涙をためて笑いをこらえながらかばんに手を突っ込んだ。

「大丈夫—ねこだよ」

その手には黒い猫が抱かれていた。

「グリグリって言うんだ。僕の宝物」

ヴァルドの腕の中で子猫グリグリは眠そうにあくびしていた。

「猫じゃと?ふむ…猫がすきなのじゃな」

そろそろと近寄って猫を見る。

猫は水色のガラスのような目でドロテアを見上げた。

「ミャーミャー」と鳴いてヴァルドの腕から逃れた。

「む、なんじゃ?」

猫が地面に着地して花壇のほうを向いてなく。

「あぁ、猫じゃらし…だね」

ヴァルドがしゃがんで指を刺したほうに、黄緑色のふんわりした猫のしっぽみたいなものが生えている。

「なんじゃ、雑草かの?」

ドロテアが眉をしかめて言うとヴァルドはまた笑った。

「ううん、猫が大好きな草なんだよ。ヴァイゼンにはあまりない草なんだ」


その数時間後、社交パーティーは幕閉じて、仲良くなったヴァルドともお別れになった。

お別れの言葉を述べている中で、ドロテアは両手いっぱいに猫じゃらしをかき集めてきてヴァルドにプレゼントした。

ヴァルドは笑顔を浮かべてそれを全部受け取り、ドロテアを一目ぼれさせてしまったのだった。



「…そんな皇子が戦争に立ってカレイラを襲うなど…ありえないのじゃ」

すっくと立ち上がってドロテアは部屋を飛び出した。

中庭につくと、今宵も満月。

美しい。

そこでドロテアはふっと微笑を浮かべた。

薄闇の中で水色の目が見上げているのに気が付いたのだ。

「ここにいたか、グリグリ」

んにゃーとグリグリがドロテアの足元に擦り寄ってくる。

真っ黒の毛並みと小さな体はヴァルド皇子とであったときとそのまま変わらないでいた。

魔力を持った猫らしく、その寿命も恐ろしく長いらしい。

兎のように長い耳とへびのように長いしっぽがそれを物語っている。

「おおそうか、そうか。ネコじゃらしじゃな」

ドロテアはドレスが汚れるのもかまわずに花壇の隙間にはえたネコじゃらしに手を伸ばした。

「ほら。おまえもヴァルド皇子も、ほんとうにネコじゃらしが好きじゃのう」



Re: アヴァロンコード ( No.162 )
日時: 2012/10/01 21:41
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「やっと—」

ティアは嫌と言うほど踏んできた砂から緑の大地に足を踏み込んだ。

「グラナ平原についたっ!」

ティアはそのままふかふかの芝生に体ごと突っ込み寝転んだ。

「あぁー最高」

ティアがつぶやくとレンポが言う。

「ミエリが砂漠で作った芝生でもおんなじこと言ってたよなぁ」

そのミエリはというと、生命力の乏しい砂漠で力を酷使したものだから力尽きて今は預言書にて眠っている。

「うん。ミエリの作ってくれた芝生ベットは日よけもついていて最高だった。でも、ここも最高なの」

グテーッと寝転がりティアはにへへっと笑う。

『…コメントしにくい…』

その表情にネアキがぼそっとつぶやく。

「とにかく、もう少しでカレイラだよ。ウルは初めてだよね」

立ち上がりながらティアが言うと、ウルは頷いた。

「話によると千年の歴史を持つ国らしいですから、興味がありますね」

けれど、レンポが笑って言う。

「あぁ、でも千年前のものや面影なんてどこにも—『…空気の読めないヤツ…』

すかさずネアキが杖でレンポの腹を小突いた。

「…フランネル城は千年前からあるって話だよ。あと、天空塔も…」

いわれてみればこれしかないね…とティアがつぶやくとウルは微妙に引きつった笑みを浮かべる。

「…そうですか。けれど楽しみにしていますよ」

どんな場面でも喜びを見つけ出すミエリがいればこのきまづい雰囲気から解放されたのに、と誰もが思った。


Re: アヴァロンコード ( No.163 )
日時: 2012/10/01 22:51
名前: めた (ID: UcmONG3e)

朝日と共にティアたち一行はグラナ平原の中を歩いていた。

透明な日差しがティアを優しく向かえ、そよ風は心地いい。

小川は相変わらず心穏やかな音をかなで、スズムシはそのリズムに乗って合唱する。

「やっぱりカレイラが一番いいなぁ」

歩きなれた道をすいすいと進んでいくティアが鼻歌でも歌いだしそうな雰囲気で言った。

「わたしもー!」

すっかり元気を取り戻してミエリが明るく言った。

「このくらい生き生きして命あふれるところなら、いくらだって力が使えちゃうね!」

ミエリがそういうと、他の精霊たちはほっとする。

先ほどまでと比べ物にならないほどの晴れやかさに一同胸をなでおろす。

気まずい空気をミエリが目を覚ましたおかげで吹き飛ばしてくれた。

「オマエの能天気なのも役に立つんだな」と言う言葉を慌てて飲み込んでレンポはネアキの余計なこというんじゃない、という視線をしぶしぶ受け入れる。

「あれーレクスとデュランだ」

ティアが草原の河の向こうを指差して言う。

みれば、ひねくれ屋と貧弱勇者が燃え尽きた焚き火のそばで眠っていた。

「風邪引かないかなぁ、あんなところでキャンプなんかしていて」

いや、絶対キャンプじゃないだろと思うが、そこはあえて黙っていた。

「起こしたらかわいそうだよね。先をいそごっか」

すやすや眠る二人をおいて、ティアはカレイラへの道を歩き始める。

しばらくいくと、今度はシルフィがいた。

寝不足らしく、ふらふらした足取りで何か探している。

それまた遠くの出来事なのでティアは微笑みながらこうでかくちゃななどいって通り過ぎる。

たくさんの兵士たちが遠くのほうへ誰かを探しているのが見える。

「誰かいなくなったのかな?」

呑気で天然発言するティアにレンポはお前を探してたんだろ、と言いたいがネアキがそれをさせない。

ネアキも不穏ムードは好きではない。

カレイラ王国入り口に着いたティア。

いつもいる兵士はいず、かわりに大胆なへそだしセパレートの服の女性—ナナイーダ・シールが立っていた。

ナナイはティアを見るなり驚いた顔をしていた。

「あなたまさか、帰ってきたの?あの砂漠から?」

どうやらティアの行方を知っていた様だった。

すると急に笑い出した。あはははっと高く笑う。

「すごいわ!」

なぜだかとても吹っ切れた、と言う表情をしている。

「じゃあ、オオリを出し抜いてきたのね!」

ちょっぴり尊敬のまなざしを含んだ目でティアを眺めるナナイ。

「あなたに謝らなきゃ」

「え?」

ティアが首をかしげる。

こういったことに鈍感なティア。

「あたしはオオリの命令であなたを監視していたの。命令に従わなければおばあちゃんを殺すって…」

暗い表情のままナナイが言う。

「砂漠につれてかれたのも、こいつのせいかよ」

ぼやけばティアは手のひらにあのペンダントをにぎっていた。

エエリに言われた、スカラベのペンダント。

「何もかも捨ててきたつもりだったのに結局縛られる」

もううんざりだと言うようにナナイは続けた。

「このひと、私たちとおんなじね。枷がついてるの、心に」

なんとなく深いことを言うミエリ。

「そんな人生に嫌気が差してきたわ。そんな時、あなたに出会った」

ナナイの暗い目が光を刺した。

「あなたは何もかも予想外。アタシのわなもオオリのわなも打ち破って…正直かなわないわ」

何故だかうれしそうに言うナナイ。

予想できないティアの存在を喜んでいるみたいだった。

「あたしはどうすればいいかわからないけど、あなたには本当のことを言っておきたくて—ごめんなさい」

ナナイは頭をたれた。

そんな元気をなくしたナナイにティアはすっとペンダントを差し出す。

一目見て何かわかった様だった。

「これはおばあちゃんのペンダント—!」

それを握り締めると、ナナイは目を見開いた。

ティアの手ごと握り締めたので、ナナイのみに何が起きたかわかった。

「こいつ…物見だ!」

Re: アヴァロンコード ( No.164 )
日時: 2012/10/01 23:13
名前: めた (ID: UcmONG3e)

物見のまじない師は残留が残っているものに触れると、そこにこめられた情景を見られるまじない師のことだ。

非常にまれで、回りからそれと気づかれにくいまじない師。

それがいま、目の前にいて情景を見ている。

あたりは薄暗くなり、四角い映像がビュンびゅン猛スピードであたりを円形に飛んでいく。

ティアにも見えたそれは、今まで自分が体験してきたこと。

それとエエリが体験したことらしい。

アンワールに殴られた映像、ネアキがまどを凍らせた映像、大きな宮殿の映像、レンポが見張りをしていた映像、砂漠を永遠と歩いた映像、ウルとの出会い、トルソルとの戦い、天空槍—

徐々にそれがエエリの映像へと変わっていく。

オオリに捕らえられた映像、牢屋の映像、そこからは理解できない領域だった。

ふつんっとテレビの柄電源を落としたように突如映像がやんだ。

めまいのするティアの手をナナイはするりと離した。

「おばあちゃんがオオリを止める…それに、あなたの残留に見えたあれは…あれが—精霊?」

ふらつくティアに笑いかけ、預言書を見つめたナナイ。

「あなたは強いわね。よくわかったわ、あなたにも天命がある…」

ナナイは目をつぶった。

「なんだか心が楽になったわ。ティア…ありがとう」

ネアキがつぶやいた。

ちょっとうらやましそうに言う。

『…心の枷が、はずれたみたい…』

「じゃあ、また会いましょう。大会でね」

にっこり笑ったナナイはティアに背を向けていってしまった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照1300こえました!ありがとう!

また、五章のカレイラ諸事情は番外編ではなく五章の中の一部です。
だけど精霊たちやティアが出ないため—カレイラの住人達の過去偏を中心に書いてあるのでちょっと切り分けておきました。

けっこう重要なこともさらっとかかれてたりします。
レクスの生い立ちとか、妹の名前とか…。



Re: アヴァロンコード ( No.165 )
日時: 2012/10/03 00:56
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアがナナイと別れるとすぐ、あーっと叫び声があがった。

ティアのほうを指差し、信じられないと言うような声を張り上げているカレイラ、ローアンの民。

「・・・?」

どうしたんだろ?というようにティアがきょろきょろすると指差した人物が—見慣れない人が叫んだ。

「カレイラの英雄様だ?!いた・・・・・・なんでこんなところに?!」

ティアは目をぱちくりする。

何でこんなところにいるのかといわれても・・・・・・ここローアンにすんでいるのだから仕様がない。

ほかに行くあてもないし、楽しみに帰ってきたのだけれど何故そんなこといわれるのだろう。

「いたぞーっ!カレイラの英雄さまだぁ—!」

その人物は気でも狂ったように叫び、あらぬ方向に走り去っていく。

「だいじょうぶかな、あの人?」

ティアが心配そうに言うと、精霊たちは思わず笑ってしまった。

「え、なんでわらったの?」

「おまえ・・・・・・まぁ、そのまま歩いていけばわかるさ、あいつが何であんな騒いでいたのかが」

訳知り顔でレンポが言うとティアは首を傾げつつローアンの街に入っていく。

ティアは自分がさらわれたことについて街に人がどう思ったかなんて深く考えていなかった。

なので血眼になって探していたカレイラ人の苦労も知らず、のこのこと街を歩いていた。

「あ、そうだ。ファナのところに行こうかな。病気はどうかな・・・・・・」

そんな呑気なこと考えながら近道の路地裏に滑り込んだティア。

その直後、カレイラの英雄目撃情報は町中に広まっていった。

「どこだ?!—英雄がいるんだな?!戻ってきたんだな?!」

「探せ、英雄様を探せ!」

懸賞首をかけられたみたいに英雄捜索の手は広まって言った。

けれど当の本人はまったく気づいていなかった。





Re: アヴァロンコード ( No.166 )
日時: 2012/10/03 01:11
名前: めた (ID: UcmONG3e)

久しぶりにカレイラに帰ってきたレクスとデュランは早速あるニュースを聞いた。

ふらふらになって帰ってきたシルフィも同時にニュースを耳にする。

「カレイラの英雄様が帰ってきなさったぞぉ—!」

それを聞いて同時に叫んだ。

「なに?!」「えっティアが?!」「なんですってぇ?!」

そして猛スピードで辺りを見回す。

けれどカレイラの英雄—ティアの姿は見えない。

「まさか、ハオチイのことか?」

レクスがうんざりしたように言う。

期待させられた、と言うような顔。

「カレイラの英雄様—ティア殿が帰られたぞー!」

もう一度叫んだ男の声で、三人は顔をぱっと明るくした。

「ティアが帰ってきた」

その知らせでくたくたになっていた三人は活力を取り戻し、馬鹿みたいに駆け回る目撃者男の後を追って詳細を求めようと後を追いまわした。

ティアの帰路により、大通りにはその姿を見つけようと多くの人が躍り出た。

英雄の行方知れずになえていた住民達に、再び期待が沸き起こる。

ヴァイゼン帝国との戦争がもう一度起これば、英雄が二人いるだけで心強いのだ。

それが中年男と伝承少女の奇妙なコンビであっても、英雄であれば問題なし。

ふたたびウォーリーを探せあらため、英雄を探せが始まった。



Re: アヴァロンコード ( No.167 )
日時: 2012/10/03 01:50
名前: めた (ID: UcmONG3e)

けれどそのころ、ティアはというと近道である人気のない抜け道をずんずん進んでいるところだった。

もちろん誰にも出会わず、いつもよりずっとはやく親友ファナの家の前に着いた。

とんとん、とノックするとヘレンの声がした。

いつものように返事をするが、声に元気がない。

どうしたんだろう、と心配になりながらヘレンの驚く顔を想像した。

腰抜かしちゃうかな?

「はい、お待たせしましたね—」

きいっと扉を開けたへレンガ、視線をティアに合わせるとその動きが停止した。

ぴたっときれいに止まり、優しげな目が見開かれた状態でティアに釘付けになる。

その瞳孔が見る見るうちに開いていき、ゆっくりと瞬きした。

かすれた声でやっという。

「ティア…なのかい?」

その反応をおかしそうに見ながらティアは頷いた。

「久しぶりですへレンさん!」

言った瞬間ものすごい力で家の中に引きずり込まれた。


「おばあちゃん?」

ビックリしたティアの声でヘレンは我に帰ったようだった。

振り返ったヘレンは両目に涙を浮かべていて点に両手を組んで感謝の言葉を述べている。

おお神よ、とかありがとうございますとかつぶやいている。

「おばあちゃん、ファナにお医者さんを頼んだのだけど」

その言葉にヘレンがピクリと身を震わせた。

「もう来たのかな・・・・・・ファナの病気が治ればと思って王様に頼んだのだけど」

するとヘレンはしばらく黙っていたが振り返った。

「そうかい、ティアのおかげだったんだねありがとう」

そしてじっと上を見上げる。

ファナのいる、二階を。

「ファナにあってやっておくれ、ティアがいなくてすっかり元気がなくなってしまったんだよ」

そういってティアの腕を取って二階へ連れて行く。


二回はカーテンが締め切られて薄暗くなっていた。

それに驚きつつもティアはヘレンについていき、ファナの元へたどりつく。

いつもカーテンが開き、清潔な空気でいっぱいの部屋はいまや逆。

窓は閉じられている。

「ファナや・・・・・・」

へレンガベットに近づいてファナの名を呼ぶと、ファナは小さく悲鳴を上げた。

もぞもぞ動きながら涙を流して叫んでいる。

「やだ…やめて・・・・・ティアを殺さないで!」

そこでガバット起き上がって荒く息をするファナ。

「彼女はどうやら悪夢を見たようですね…それほどティアのことが心配だったのでしょう」

ウルがつぶやく。

か細い肩を震わせてヘレンにすがりついたファナはめそめそと泣き出した。

「ティアが・・・ティアが・・・」とそればかり繰り返している。

ヘレンは慌てて慰めており、ティアが帰ってきたことをすぐに伝える。

するとファナは余計に肩を震わせて泣いた。

「嘘よ!・・・嘘はもう嫌よ・・・会いたい・・・」

ティアはもう我慢できずヘレンの脇からファナのか細い肩を抱いた。

か細い肩がふるえ、泣き声が一瞬で止む。

懐かしい感覚が、まさか、と彼女に期待を込めさせた。

「・・・・・・ティ・・・ア?」

ほろほろと泣いていたファナだったが、ティアの姿を見て顔をゆがめた。

今度は悲しみで泣くのではなく、喜びの涙だろう。

「ティアなのね!よかった、帰ってきたのね!!」

あんなにひ弱だったのが嘘のようにファナは叫んだ。







Re: アヴァロンコード ( No.168 )
日時: 2012/10/03 16:41
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ヘレンはほっとした。

孫娘と、カレイラの英雄がもう一度めぐり合えば、その効果はとてつもないものだった。

「ファナったら泣き虫なんだから!」

「うん・・・でもティアが無事ならなんだっていいよ!」

ファナはあんなに体調が悪かったくせに、いまやすっかり回復している。

にっこり笑った顔は、今までの情緒不安定さが嘘だったかのように晴れやかであった。

「久しぶりに外が見たいわ・・・」

そういって自分から窓を開けた。

あんなにティアがさらわれた光景を見た窓を嫌がって閉ざしていたのに。

窓を開けるとさわやかで優しい風が部屋に滑り込んでくる。

薄暗かった部屋に渦を巻いて、新鮮な空気をファナに吹き付けている。

「生き返ったような・・・感じ」

「あ、そうだファナ」

生き返ったというワードに反応してティアが早速聞いてみる。

「お医者さんなんて言ってたの?」

するとファナは窓辺に手をかけたままさぁ?と首をかしげる。

程よい風がファナに吹き付けている様で、心地よさそうに目をつぶっている。

「わかんないの。おばあちゃんから聞いて頂戴」

ものぐさな言い方にティアはちょっと驚いた。

「私あんな精神不安定な状態だったから・・・何も覚えていないのよ」

その言葉に納得した。

けれど今ではすっかり体調がよさそうだ。

「それで・・・どうでした?」

先ほどから居心地悪そうに何度も手を組み替えるヘレンに、ティアは振り返って聞いた。

ヘレンはファナに一瞬目を向けて間を空けないようにあいまいに返事した。

「ああ・・・ティアのおかげで着てくれた名医さんね・・・」

そして床に落ちていたモップで床掃除しながらいかにも忙しいのよという演出をしている。

精霊たちは勘繰っていたけれど、ティアは根っからの天然なのでもう一度聞いてみることにした。

もちろん、治った、とか友好な薬をもらって、もうすぐ治ると言うのが前提で聞いているのだった。

「どうかな?よく・・・なるって?」

まったく悪気はないのだ。

ヘレンは一瞬動きを止めて、モップをかけるのをやめた。

ゆっくり振り返ってティアとファナの名前を呼んだ。

ファナは目を開いてベットにきちんと座りなおし、ティアもその深刻そうな顔にもしかして・・・と感づいたような表情をした。

「いいかい・・・よく聞いておくれ」

ヘレンは真実を話すつもりでいた。

「ファナの病気は・・・」

不安そうに見守る少女達を一瞬眺め目をつぶった。

「病気は—よくなるって・・・そうおっしゃっていたよ」

笑顔でそういうと、わっと少女達は歓声を上げた。

「ほんと?!ホントなのねおばあちゃん!」

「よかったぁ!」

ヘレンは本当はウソを言ってしまったのだが、それでもいいと思っていた。

「じゃあ私、ずっとティアと一緒にいられるのね!」

このファナのうれしそうな言葉を聴くまでは。


「うそをついちまったよ・・・あの二人に」

一階へ降りたヘレンはそっとつぶやいた。

ずっとティアと一緒にいられる・・・ファナは確かにそういった。

あの子は自分が若くして死ぬのだと自覚していたのだろう。

それを考えると、無駄な安心をさせてしまって思わず悔やんだ。

あぁ、なんてことを言ってしまったんだ。

治るはずもないのに・・・期待させるなんて私はなんて残酷なことを・・・。





「」

Re: アヴァロンコード ( No.169 )
日時: 2012/10/03 16:58
名前: めた (ID: UcmONG3e)

もう少しここにいたら、というファナの提案を断ってティアはファナの家を後にした。

そろそろ自分の家にいって、ベットに寝転がりたいと思ったのだ。

けれどまだ夕方にもならない。

太陽は真上で、眠るなんてもったいないのだがティアにとってはどうでもよかった。

疲れていたわけじゃないが、ベッドで眠りたい。

「なんかにぎやかだね」

先ほどからいっせいに黙り込んでいる精霊たちを不思議そうに見上げながら言うと、その声に反応したのは精霊たちではなくローアンの住民達。

ばっといっせいに首がこちらを向いてティアを捕らえる。

「いたぞ—!!!」

ものすごい怒号にハッとした精霊たちが力を無意識に使うところだった。

「な・・・なんですか—?」

大勢に取り囲まれて、ほとんど知らない人たちの顔をこわごわ見つめながらティアが言うとガシャガシャと足音が走ってくる。

「どきなさい・・・どけ!」

津波のように取り囲んでいた人の壁が取り崩されてカレイラの白銀の鎧に身を包む兵士が数人見えてきた。

ほっとするティア。

「英雄がいたぞ!!帰ってきたぞ—!!」

兵士はティアの周りで大声でそう叫んだ。

『…耳が痛くなる…いい加減にしてほしい…!』

ネアキの言葉にティアはまったくだと同意した。

そしてこちらへ、と案内される。

けれどどこへつれられているか、わかった。

「国王様に伝えよ、英雄が帰ってきたと!」


どうやらフランネル城らしい。


Re: アヴァロンコード ( No.170 )
日時: 2012/10/03 17:40
名前: めた (ID: UcmONG3e)

フランネル城につく前、兵士と共にまるでどこぞのVIPな著名人のような扱いを受けて進むティアの視線に懐かしき友の顔がちらほらと映りこむ。

<念のため説明しますが・・・VIPというのは有名人や高級官僚、またはハリウッド映画スター、大統領などのお偉いさんの通称です。ネット上の意味は含まれておりませんよ>

あっ、ティアだ!などと遠くからでもわかるように口々につぶやいているのはレクス、デュラン。

友人と呼べるのかわからないけれど、シルフィもそこにいた。

「帰ってきたんだ」「ほんと、よかったわねぇ」「戦争が起きてもこれだったら大丈夫だなぁ」

なんて声が聞こえてきてティアはちょっとがっかりする。

やはり英雄の役目は戦争で優位に立たせること、敵を打ち負かすことだから、人々の反応もそんなものでしょうがないのだろう。

英雄、か。

ティアはレクスたちに手を振りながらそう思った。

レンポは当然の結果なんだから同道としていろといっていたが、自分が英雄と呼ばれているとなんだか妙な気分だ。

敵を倒した目的も、ネアキを探すこと。

紫兵を倒しただけで英雄扱いだなんて・・・。

「民達を足止めしろ・・・英雄が城へ入れぬ!」

その声で見上げてみるとフランネル城の入り口であった。

ひしめくローアンの民達は帰ってきた英雄を一目見ようと押し合いへし合している。

そんな民達を邪魔だとばかりに兵士たちは押さえつけてティアを城の中へやっとの思いで入れた。

「さぁ、ここまでくれば安心ですぞ」

ティアのそばにたつその人は弓隊の軒師団長だった。

ティアがネアキを解放し、見晴台へと上ったときに地面に座っていた人物である。

その人が紫隊を壊滅させたティアを、英雄だと国王に知らせたのだった。

「国王様がお待ちかねです・・・ドロテア様も待っていらっしゃいますぞ」





Re: アヴァロンコード ( No.171 )
日時: 2012/10/03 18:43
名前: めた (ID: UcmONG3e)

無駄なほど広すぎるホールを抜けて、早速謁見の間につれてこられた。

謁見の間に来るのは何度目だろうか?

預言書を手にしなければこんなところこう何度も出入りしないだろう。

「おお、帰ってきたか英雄!」

立派な玉座より、国王ゼノンバートが両腕を広げていった。

その脇に用意されたこれまた豪華な玉座はドロテアの好きな色、上品な桜色の玉座だった。

その椅子よりドロテアもきれいな水色の目をじっとティアに向けている。

「はい、王様」

本当ははい、陛下というべきなのだがティアの身分ではそういうことがわからない。

けれど誰もとがめるものはいなかった。

余計にそれが茶目っ気を出しており、ふんぞり返らない英雄だと親しみをよんだようだった。

「大変であったな。して、いったいどこへ連れ去られていたのだ?」

ティアの無事を確認した後、ゼノンバートは早速本題を言った。

脇に控えるドロテアも、王族の警護に当たる騎士たちも興味心身で一斉に聞き耳を立てたのがわかった。

「サミアドという名前のついた砂漠に・・・」

ティアがしーんとした謁見の間でそういうと、いっせいに皆顔を見合わせた。

「サミアド、と?」

聞かぬ名前だ、とゼノンバートは手を打ち鳴らして誰かを呼び寄せた。

すぐさまお目当ての人物がやってきた。

学者みたいな服装の少年が転がるように謁見の間に入ってきて、手には長い筒状の羊皮紙まき金属ポールを持っている。

<羊皮紙まきというのは、古くから使われている地図まきのこと。長い棒に紙を巻きつけて紙が折れるのを防いだり、重要な絵の部分の色あせを防ぐ。巻物に似ている>

その少年がその羊皮紙をぱっと広げて内側に書かれている絵を見せた。

そしてまだ声変わりしていない透き通る声でゼノンバートに伝える。

「陛下、この右半分中央がサミアド砂漠であります」

どうやらこの世界の地図を見せているらしい。

ティアは思わず預言書を開いて最終ページのほうの世界地図を見てみた。

くすんだ色の地図が美しく描写されており、少年の言ったとおり右ページ下中央にサミアド砂漠と書き込まれている。

よくよくみればシリル遺跡があり、砂漠の街まである。

中央砂漠やら西の砂漠、東の砂漠までもが名を連ねている。

「ほうここか・・・おぬしはどうやって帰ってきたのじゃ?」

巨大地図を見ながらゼノンバートが言う。

「おぬしのことだ、サミアドの民などを返り討ちにしてきたのじゃろう?」

冗談めいて言うゼノンバート。

しかしティアは首を振った。

「いいえ陛下」少年の真似をして王様、から陛下と呼び方を改めた。

「歩いて帰ってきました」

しれっと言い放つと謁見の間にいた全員がティアをエッと凝視する。

「オマエは根性があるからな。アレくらいでめげなく帰ってきたわけだ」

「普通だったら諦めちゃうもんねー、能天気って凄いわ・・・」

『…ミエリ…(あなたが言える立場じゃないけど)』

「まぁ、めげないことはいいことですよ皆さん」

精霊たちがそれぞれ褒めてるのかけなしてるのかわからない言葉をつぶやく。

「歩いてか・・・距離にするといくらだ」

ぼそぼそっと王が少年に言う。

少年は暗記でもしていたかのようにとんでもない数値を笑顔で口走った。

「なんと!その距離をあの日数で・・・」

まことしやか信じられんと王は眼をしばたいて言う。

「むう。ティアはやはり英雄じゃの」

何かよくわからない基準でうんうん英雄は凄いと納得するドロテア王女。

正確な数値が聞こえなかった岸達は欧に合わせて苦笑いを浮かべておく。

「時に、何故おぬしはつらさられたのだ」

次の質問が始まるとティアはちょっと困った顔をした。

咳払いするフリをして精霊たちに助け舟を求める。

「なんていえばいい?」

精霊たちは空中でお互いに顔を見合わせて意見を言い合う。

「本当のこといっても平気じゃないかしら?」

「アイツ負けず嫌いなんだぜ?アイツまで古代兵器乱用しそうな気がする・・・」

ミエリの意見にレンポは反対して言う。

『…本当のこと言わないなら…何を説明するの…遺跡の話が出ても…誤魔化せるような話なんてない…』

ネアキが言うと、ウルがもっともですねと頷く。

「ここはうそをつくしかありませんね・・・」

するとレンポがにやっと笑った。

「あの国王、意地っ張りで見栄っ張りだからこういえばきっと信じるぜ!」


「水を持ってこさせるか?」

精霊たちの話が終わるまでウソのせきをし続けたティアに王は言う。

だが調度厳選されたアイディアが耳に届いたのでティアはせきをやめた。

「いえ、いりません」

断ってから王を見た。

「サミアドの民はカレイラに恐れをなしたので、戦力ほしさにさらったわけでして…」

さぁ、どんな反応をするかな?と見ていると見る見るうちにゼノンバートが笑いをこらえるように満足げな顔をした。

「ふむ、そうか・・・?カレイラがようは強いから恐れをなしたと?サミアドは思ったよい賢いようだな」

すっかり気をよくして信じきったゼノンバート。

小鼻は得意げに膨らんで自信に満ち溢れている。

「だがカレイラの英雄を甘く見たのは賢くなかったな。なにせ強国の英雄に手を出したなど—以下略」

それから数十分の間カレイラの反映とか、いかにして発展の道を歩んだのかとか、ヴァイゼン帝国まで引き込み、世界で一番強い国はカレイラ王国だとまで言った。

それほど気をよくした王はまだまだしゃべる気満々の様だった。

「のう・・・のう!宴の準備はどうなっておるのじゃ」

あっけにとられて王を眺めていた小間使いに、ドロテアはたまりかねて聞く。

ほとんどの人々、いや正直に言うと国王以外がすべてそちらに聞き入った。

「宴ですね・・・はい、もう用意はできておりますよ」

「おお、では国民達に知らせておけ。もう一度英雄賛美パーティーのやり直しをするとな!」

かしこまりました、というが小間使いは困ってしまう。

この王が話し続けている状況で出て行ってもいのだろうか?

「どうせ気づかぬ。はよういくのじゃ」

ドロテアに言われて恐る恐る出て行くと、まったく気づかれなかった。

これは彼女が影が薄いのではなく、王が自分に陶酔し切っているためだ。

あきれた皆が出て行ったとしても、王はおそらく明日の朝まで気づかないだろう。





Re: アヴァロンコード ( No.172 )
日時: 2012/10/03 22:46
名前: めた (ID: UcmONG3e)

宴の会場に人々が集まってきたようだった。

片足立ちになりいらいらしてくる王の演説を聞き流していると、救いの声がかかる。

「のう、お父様。そろそろ会場へ行かぬかの」

ドロテアが痺れを切らしてこういったのだ。

この広間にいる誰もが思う、ドロテアグッジョブ!

ドロテアマジ天使!!

そして全員で期待して長々と演説する王を見上げると—

「—なのだよ。それはつまり500年前のことでな、聖王ゼノンクロスがローアンという女性をめとって—」

王は愛娘の言葉を華麗にうけながし、すらすらと言葉をつむいでいる。

その場にいた全員の額に青筋が浮いたのは言うまでもない。

「・・・!」

とうとう痺れを切らしたドロテア女王が玉座を立った。

どうするんだろう、と見守っているとくるりと方向転換して小声で言う。

「お父様、わらわは先に会場へ行っておりますぞ」

ぼそーっと言ってそそくさと出て行くドロテア。

唖然としていたが、はっとこれに便乗するかのように騎士達がそろそろと出口に向かっていく。

「ドロテア様の警護に当たらないと・・・」

オマエもかブルータス状態に陥り、機会を失ったやからは唇をかむ。

「宴の準備が・・・」「料理運びを・・・」「怪しい者の侵入を防ぎに城門へ・・・」

といった言い訳によりあとからあとから出て行く小間使いと騎士たち。

最終的に残ったのはティアと王様専属の守護騎士達だけだ。

全員まだ終わらないゼノンバートの話にうんざりするけれど終わる気配もない。

王よ、やめてくれ!

そう叫ぼうかと思ったとき、脇に控えて羊皮紙まきを持っていた少年が羊皮紙まきを落としてしまった。

ガンッと重たい音がしてひゃあっと慌てた少年のあせる声。

それでようやくゼノンバートの声がやんだ。

中断された様で不機嫌そうに少年のほうを見る。

「すみません、陛下!!」

いやいや、君のおかげで助かったよ少年。

感謝の視線を送っていると、少年は慌ててとんでもないことを口走る。

「僕にかまわず“ありがたい”お話を・・・!」

え、ちょっと?何言ってるの、やめて!!

全員が耳を疑い、少年を思わず凝視する。

だが、ゼノンバートは頷いて調度切れたところから再び話し出した。

「勘弁してくれよ・・・オレ・・・寝るわ」

説教と長話の嫌いなレンポはため息をついて言い放つとティアの返事も聞かずに預言書へと姿をくらませた。

「わたしも・・・ちょっとつかれたかなー?」

悪いね、ティア!と言う表情でミエリが引きつりながら笑う。

『…お休み、ティア…応援してる…』

ネアキが真顔でそういい、ミエリに続く。

「えぇ、皆寝ちゃうの?」

絶望的だ、と言う視線を残ったウルにぶつける。

「確かウルは歴史とか好きだったよね?」

今まさにカレイラの千年の歴史を王が語っている。

ウルは引きつった笑みを浮かべた。

「歴史・・・ですか。私は今始めてレンポの気分がわかりましたよ。今度からお説教は短くすることにします・・・と、レンポに伝えなくては」

申し訳ないというようにウルまでも預言書に還ってしまった。

「王様・・・もう話はいいですから・・・」

つぶやくも王に聞こえるはずはなかった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照1400越えましたー
二日の間に100も参照あがるもんなんですね 本当にありがとうございます!

更新も170越えてきて、この宴が終わるともうすぐ中盤です。
中盤からティアが猛烈に不憫キャラになっていきます・・・
しかも第五章の預言の通り、何もかも失います
ゲームやってるときマジかよ・・・ってなるほどの章でしたー


Re: アヴァロンコード ( No.173 )
日時: 2012/10/04 23:23
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアと王直属の守護騎士達が解放されたのは奇跡としか言いようがなかった。

宴開始時間を大幅に通り越し、ついには我慢できなくなったドロテアにより王のカレイラ賛美は終わりを告げた。

「宴じゃ、パーティーじゃ」

語尾に音符でもつきそうなほどルンルン気分のドロテアは先ほどまでの怒りはすっかり消えたようだった。

国王でさえ目をしばたいて従うほどの剣幕で、ドロテアは怒っていたのだ。

ゼノンバートはその光景にほっとしたようで、守護騎士によって開かれた宴会会場への扉を潜り抜ける。

「さぁ、英雄賛美パーティーのやり直しと行こう!」

すっかり上機嫌の民衆達とドロテアの歓声により、パーティーは当初の英雄賛美パーティーよりも愉快で、豪華でにぎやかなものとなった。

ティアも最初の内は騒ぎっぷりにたじたじだったが、ファナがパーティーに参加したためすっかり打ち解けていた。

ヘレンは心配そうな顔を向けていたが、三十分だけの出席を許したようだった。

「おばあちゃんったら心配性なのよ。治るってわかっているのにまだ心配なのね」

にこっとワラって言うファナの片手には苦そうな色の未成年用シャンパン。

かすかなメロンの香りが漂ってくる。

「お?終わったのか・・・って前よりスゲェな!」

「んーいいにおい。メロンシャンパンね!」

『…みんな楽しそう…ほっとしたかなティアが帰ってきて…』

「にぎやかですね。これだけの人数を収容するこの部屋も相当な大きさですね?」

しれっと姿を現し始めた精霊たち。

何食わぬ顔でコメントしていくが・・・おまえ達私がながーいありがた話聞いてるときすやすや寝てたんだよね。

「あら、ティアどうしたの?顔が怖いわ」

ファナが笑いながら言う。精霊たちは訳知り顔で引きつった笑みを浮かべる。

「まぁ・・・いっか。なんか国王様がパーティーをもっと豪華にしろっていったらしいよ」

ファナの?という顔を気にせずに精霊たちに告げる。

「ムダに豪華だな。料理とか増えてるし・・・お?」

見回していたレンポの動きが止まる。

「どうしたの?食べたいのもでもあった?」

精霊はその生命エネルギーが極端に高く、食事する必要もないためめったに口にしない。

けれど一応聞いてみるとちげーよと足蹴にされる。

「あのクリームケーキ・・・?あぁ」

ミエリが首をかしげていたが、ぱっと顔を輝かせた。

ネアキは目をしばたいてミエリを見ている。

「あの人の好物でしたね・・・タワシでしたっけ」

ネアキに教えるように記憶力のいいウルはそういった。

「タワシさんかぁ。そうだね、もうもぐりこんでるかもしれないけどもっていってあげよう!」

ファナの事はヘレンに任せて、ティアはおぼんにクリームケーキを沢山乗せて外に出た。

見張り兵にはあくどく質問されたが知人に会いに行く、としつこくそう繰り返し許可をもらった。

そのかわり、数分間尾行されたが・・・。


Re: アヴァロンコード ( No.174 )
日時: 2012/10/04 23:41
名前: めた (ID: UcmONG3e)

備考を精霊たちの力で振り切って、ティアは牢獄への扉に向かう。

すると困ったことにまたあのネアキが足を凍らせた兵士が突っ立っているではないか。

その人物はこわごわと言った感じでいすにもたれている。

あたらしく椅子が設置されて、長時間の労働にも不可解な幻覚を見ないように工夫されたのだろう。

「あれは絶対幻覚じゃない・・・あの火と氷は絶対ホンモノだった・・・」

ぶつぶつとつぶやく兵士。

悔しそうにハルバート(斧槍)を握っているあたりなんかが、彼を笑いものにしたほかの兵士たちを連想させた。

「あのばにいりゃあ・・・誰だって腰抜かすだろ」

見ていなかったが氷から解放された後、彼は腰を抜かしていたらしい。

「くそ・・・犯人見つけたらタダじゃおかないぞ。牢獄にぶち込んで早速三食抜きで朝は水ぶっかけて起こしてやる」

のろいでも言うかのように兵士はそうつぶやいていた。

その犯人がすぐそばで立ち聞きしているのも知らずに。

「それじゃ、もう一度お願い」

ティアが身を隠した後、ネアキとレンポは頷いた。

「ウルに頼んで気絶させてもらうのも考えたけど・・・」

それで気を失ったままの状態になられたら困る。

悪気のないこの兵士がそれではあまりにもかわいそうだ。

「お目当ての犯人様が出てきてやったぜ?」

レンポが火花を散らしながら兵士の前でおちょくるように言う。

その火花に目を皿の様にしていた兵士はガバット立ち上がった。

そしてハルバートを振り回す。

「うわあああ」

そして先ほどの勢いはどこそこに、兵士は突然叫んだ。

「!!」

このままでは誰かきてしまうと考えたミエリは、指をぱちんと鳴らした。

すると兵士の顔にどこからかツタがはえてきてまきつく。

「ぐ?!」

恐怖の叫びを上げて兵士が口元に手を持っていったときには遅かった。

ぐねぐねした太いツルたちは兵士のうるさい口をふさぐように猿轡をかませ、その視界も奪おうとしている。

「ぐも、ぐぐが?!!」

叫びたいけれど声が出ず、おまけに両手がぴったりと体にくっついたまま縛り付けられたのでもう身動きできない。

「…最初からそうすりゃよかったんじゃねぇの?」

おとり役を奪われてむっとすねたようなレンポが言う。

ネアキもちょっと残念そうに戻ってきた。

『…仕事終わっちゃったの…』

「さぁ、早く行こう。この人はこのままでいいよね」

ミエリに促されてそっと牢屋のほうへ足を進める。

目指すは抜け道、タワシの隠れ家。




Re: アヴァロンコード ( No.175 )
日時: 2012/10/05 22:21
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「うまい…うまいぞうまし!!」

古典の活用形のようにタワシは目を輝かせて叫んだ。

顔中に、おもにヒゲにホイップクリームをたっぷりつけたタワシはティアが差し出したおぼんに感激の涙をこぼしている。

「おお、天国にいるようだ」

山積みにされたクリームケーキを口に放り込みタワシはごしごしと涙をぬぐう。

「財宝に囲まれて、至高のクリームケーキをほおばれる日が来るなんて!」

ティアは大げさそうにそういうタワシを見て預言書から新たにクリームケーキを取り出す。

価値あるもの、と認められてコードスキャンできたケーキ。

ティアも金貨の上に座り込んではむはむとほおばり始める。

すると舌にケーキが触れたその瞬間、タワシが泣き出すのもわかった。
 ・・・・
「んんんん〜!」

おいしい〜っと思わずうなってしまうほどの味、鼻腔にほんのり甘く香り高いクリームケーキの味が広がるとティアの目にも涙が浮かぶ。

「そうだろ、そうだろ?世界で一番うまい食い物だ」

ティアの感動的な顔に同意するようにタワシは頷いた。

「ふーん?そんなにうまいのか」

『…私、少し食べてみたいかも…』

けれども残念そうにケーキを差し出すティアにはかなげにワラって見せた。

「…ごめんさい。縛られていると…食べることが出来ない…物に触れられないから…」

あっと暑いものに触れたようにティアが声を上げる。

忘れていたと言う顔ですまなさ層に精霊たちを見つめている。

「気にしないで、ティア」

それをフォローするようにミエリが言う。

「私たちは食べる必要はないの。興味があるくらいで・・・まぁ、そんな顔しないで」

うん、とティアは頷いたものの心底すまなくなってクリームケーキをほおばる気になれなかった。

けれどもタワシはスピードを落とさずにがぶがぶとクリームケーキを消費していく。

「うん、うまいぞ!」

呑気そうにそう叫びながら豪快に笑った。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1500越えましたよ、ありがとうございます!!

そのうちタワシ諸事情とか書きたいですね。
実は一人ひとりの個人章があり、ドロテアとデュラン、レクスが少しだけ書かれています。
個人章ではその話の主人公の過去や、未来についてかかれます。

Re: アヴァロンコード ( No.176 )
日時: 2012/10/05 22:45
名前: めた (ID: UcmONG3e)

たっぷりしたお腹を抱えてタワシが金貨の上、ぐうぐう眠ってしまうとティアはそっとその場から立ち去った。

しょうじき居心地のいいところだったので眠気がする。

けれどファナがもうじき帰ってしまうと知っているため、最後まで一緒にパーティーをしたいと思ったのだ。

「…あっ」

牢獄へ通じる道と、カレイラのフランネル城へ戻る道の中間、ドアを開けてティアは小さく驚きの声を上げる。

「ぐふ・・・むぐ・・・!」

目の前には数分前にミエリに縛り上げられた見張り兵士がまだ転がっているではないか。

床に寝袋のように転がる兵士が一瞬、ティアの声を聞いて硬直する。

「ぐむむぐうぐ?」えいゆうさま?と言うようなイントネーションにより、ティアがその場にいることがわかった様だった。

「だめだよ、ティア」

どうしようか、と言う表情のティアにミエリが言う。

「黙って通りすぎて。私がちゃんとといておくわ」

燃やしたいなぁ、という表情のレンポ。

けれどミエリ以外はその場を少しづつ離れていく。

角を曲がりきるとミエリは両手をさっと地面にフッタ。

すると体中を縛っていたツタが解けるように解け、最後まで覆っていた目と口が解放されていく。

「ぐう・・・なんだ?!なんなんだよ!!」

自由のみになった兵士は涙ぐんで辺りを見回した。

兵士といっても、下っ端でまだ若い彼は恐怖に震えていた。

「ごめんねー、ゆるして」

ミエリが空中に向かって何かを投げる仕草をするとぽんっと兵士の怯えきったひざの上にピンク色の優しそうな風貌の花たちがはらりはらりと舞い落ちる。

「ひっ?!・・・・これは・・・」

驚いていた兵士は呆然と花吹雪を見つめて、少しばかり恐怖を忘れた様だった。

いったいなんだったのか、よくわからないと言う顔でひざの上の花たちを見つめている。

「怖がらせちゃってごめんね」

そうつげると、主人のもと、ティアのもとへと飛んでいった。



Re: アヴァロンコード ( No.177 )
日時: 2012/10/06 14:48
名前: めた (ID: UcmONG3e)

会場へ戻ると合いかわらずの盛り上がりっぷりだった。

ハオチイが不機嫌そうな顔をしているので、ティアのいない間にスピーチでもさせられていたのだろう。

「—まことにユニークなスピーチに拍手を!」

ゲオルグが台座の上から拍手しながら言うと、あたりにいたしらふの人たちは苦笑いをしながら、酔った大人たちは馬鹿みたいに笑いながら盛大に拍手を送っている。

「まぁ、ティア。どこに行っていたの?」

そんな拍手の中、ティアがファナの元に戻るとファナは元気そうに笑っている。

彼女の両手でちょこんと持つグラスには、こんどはアップルサイダーが入っているようだった。

「ちょっと牢屋にね・・・」

グラスを持ってくるボーイから飲み物をもらいながら冗談めかして言う。

「牢屋?何で牢屋になんて—」

ファナが驚いたように目をしばたくと丁度ティアを呼ぶゲオルグの声がその先を言わせなかった。

「ああ、今回はちゃんといましたね」

ティアのほうにスポットライトを照らしながらゲオルグが言う。

「さぁさぁ、お待ちかね、若き英雄ティアにスピーチを頼みましょう」

ワーッと盛り上がった会場でぎこちない足取りで台座に向かうティア。

こんな聴衆の目の前で何を話せと?!

ハオチイの哀れっぽい視線を感じて死刑台に上るような嫌な感じがする。

「大丈夫、緊張しないで」

そんなティアにゲオルグは早口でそういった。

「質問するからそれに答えるだけでいいからね」

かろうじて頷くと、ゲオルグは笑顔になった。

そしてそのままの笑顔で聴衆たちに何かを言い始める。

「まぁ、やりすぎた形であっても預言書を持つものを受け入れてくれる国でよかったぜ」

ティアの真横で精霊たちがおしゃべりし始めた。

「そうよね。三つ前の世界なんかでは異端者として殺されそうになっていたもの」

ミエリがそのときのことを思い出してか、悲しそうに言う。

「異端者というのは、普通ではないものを総称して呼んだ名称ですよ、ティア。まぁ、奇跡を自在に扱うものですから奇妙がられたり、ねたまれたりしていましたからね」

ウルがティアのいたんしゃ?という顔を見て説明する。

『…どの世界でもそう…世界の運命を任されたものを恐れるの…』

ネアキが会場中を見つめて言う。

「…いつかそうなってしまうの…」

どこかもの寂しげに言うネアキにティアは声をかけられなかった。

他の精霊たちも黙っている。

“いつかそうなってしまうの”。

ネアキの言葉がなぜだかティアの心に響いた。

心の中にすとんっと落ちていったその言葉は、なぜだかはっきりと否定できない言葉だった。

本当にそうなってしまったら、と会場中を見回す。

英雄を賞賛する沢山の目がティアに注がれている。

もしそれが、憎しみや恐怖、迫害の目つきになったらと思うと、ひどく恐ろしかった。



Re: アヴァロンコード ( No.178 )
日時: 2012/10/06 16:26
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「では、英雄になった感想は?」

皆が笑顔で見守る中、ティアはもつれる舌で必死に答えていった。

沢山人が聞いてくれてうれしいなどと思えない。

皆が英雄としてあがめてくれて、頼りにされてるんだ、なんかもおもえない。

ただ大勢から期待のこもった目で見られることに慣れていないティアは、両脚の震えを押さえるのがやっと。

声がか細く震えたりする。

「ええっと・・・私は自分を英雄だなんて思ってはいません」

本気で言っているのに会場の隅っこでたむろす嫌味兄妹のうそつけ!と言う視線が痛い。

「紫兵を倒しただけです・・・私には人は殺せませんでしたから魔物だけを退治しました。それだけです」

最後のほうおかしくなったがゲオルグが誤魔化してくれた。

「では次の質問を—戦についていった理由は?」

もはやスピーチではなく質問大会になっている。

みんなが知りたがっていることをゲオルグが聞いているようだった。

「・・・」けれどこの質問に困ってしまうティア。

救いを求めるように精霊たちを見上げると、一斉に会議みたいなのを始めだした。

「なんでんな事聞くんだよあのエルフ!」

めんどくせぇっとレンポがわめく。

「仕方ない・・・でも戦場に行ったのはネアキを助けるためだもんね・・・別にローアンの人のためじゃないし」

ミエリがため息をつきながら言う。

「そうですね・・・これ以上待たせるわけにも行きませんし・・・事実を話す以外手はないかと」

ウルがそういうとネアキがブンブンと首を振る。

首にがっしりとついた枷の鎖が音を立てる。

『…だめ…そんなことしたらティア…他の預言書の持ち主みたいになる…!』

かすれた声で言うネアキにそれはそうですが、とウルは声を落とす。

「ほかにいい案がないとなると、それしか・・・」

するとレンポが声を上げた。

「何も答える必要はねぇよ!」

そう意味のわからないことを口走った瞬間、右手をバイバイするかのように振る。

なにやってんの?と言う表情のティアと他の精霊たちはすぐに何がしたかったのかわかった。

途端にホールと言うホールのすべての蜀台から光—炎が奪われた。

「きゃあっなに?!」

「くらくなったぞー!?」

途端にホール内はざわめきと驚きに包まれた。

「おちついてください、みなさん!」

ゲオルグが言うけれど効果はない。それどころか小間使いたちはおろおろとし、ボーイは人々に押されてグラスを落としガシャンガシャンという音が連発する。

その音が敵の進入した音だと勘違いした兵士は人ごみの中武装して乗り込んでゆく。

「うわああ・・・すっごいわねこれ・・・」

ミエリがうごめく人々を見て観想を言う。

「まぁ、そろそろ戻してやるか。これで間抜けな質問コーナーもなくなっただろ」

ふんっとわらったあと、レンポは下ろしていた右手を再び掲げた。

すると炎がろうそくにともり、驚きの声を上げる民衆の前で煌々と燃え出した。

「いったい、これは・・・?」

ゲオルグまでも唖然と天井を見上げている。

シャンデリアすべてに炎がともり、テーブルと壁に添えられた蜀台にも火がともっている。

どれも残らずついている。

「いったい何が起こったのだ・・・」

「なんかやりすぎちゃったみたいね・・・」

ゲオルグの言葉を聴いてミエリがレンポに笑いかける。

「・・・仕様がないな。ポルターガイストにでもなってやるか」

そういってレンポが真っ赤な炎の塊を放った。

ひええっとみんなが身をかがめたりして炎を見ている。

「なるほど、牢屋の前でやったポルターガイストのせいにするんですね」

ウルが名案だというように言った。

「あの時目撃した兵士がいればいいのですが・・・」

すると突如声が上がった。

「アレだ!牢獄の前に出ていた・・・あいつのいっていたとおりだ!」

兵士の一人が炎の塊を指差して叫んだ。

『…わたしも…』

ネアキが杖をくるりと回すと、その杖の氷石からか、突如雪が降ってきた。

「おお?今度は雪だ!」

「雪?!やったあ!」

子供たちはすっかり興奮して雪に向かって手を差し出してぴょんぴょんと飛び跳ねる。

「絶対にあのときのポルターガイストです!ゲオルグ様!」

兵士はすっかり興奮して叫んでいた。

ゲオルグも不安顔で、この前聞いたことを思い出す。

ティアの行方がわからなくなった直後、牢獄前に炎と氷の何かが現れたと。

「わ、私にもどうすればいいか・・・」

ゲオルグはすっかり困ってしまい、とにかく食べ物たちの上に傘を差すように指示したり、雪には謝意で転げまわる子供と積もった雪の排除を指示した。

「ティア、君は知らないと思うけれど」何も知らないゲオルグはティアに説明した。

「君のいなくなった日に牢獄前でこれと同じようなことが起きたんだ」

すっかり困ったと言う表情のゲオルグ。

「またしても起こるなんて・・・それもまた同じ英雄賛美パーティーで起こるとは」

するとバタンッと扉が開いた。

「植物のポルターガイストが出たんだって聞きました!」

二人組みの兵士が入ってきて叫ぶ。

一人は青ざめて、もう一人は手にかわいらしい花を抱えている。

「おお、何てことだ・・・平和にパーティーできる日は来ないようだね」

ゲオルグはお手上げだと言うように笑った。



Re: アヴァロンコード ( No.179 )
日時: 2012/10/06 17:09
名前: めた (ID: UcmONG3e)

パーティーはなんだかんだで盛り上がって、夕方まで続いた。

ティアへの質問はレンポとネアキのおかげでつぶれ、ゲオルグはやけを起こしたようにもう雪が降ろうと炎の塊が宙へ浮こうとかまわないといった様子だった。

このフランネル城の城主であるゼノンバートも酒で出来上がっており、雪?炎?植物?なあにかまわん、っと豪快に笑っているだけであった。

しらふの人々は頭上を飛び回りながら色を変えていく炎をみあげ、さらさらとフル雪に感嘆をもらす。

「きれいじゃのう!」

ドロテアはそばに控えるシルフィに遊ばんか?と誘うが笑顔で断られている。

「結構です!」

ファナは椅子に座って笑顔でこの不思議景色を見つめていたがヘレンにより約束の時間は過ぎたと家に連れ戻されてしまった。

デュランは小さな子供の雪合戦の相手になり、レクスは積もった雪の上澄みをこっそり拝借したシャンパンに入れて水割りを飲んでいた。

その後ドジなデュランの雪の直球がレクスにぶち当たり、戦闘中になったのは言うまでもない。

サミアドの暖かい気温で育ったナナイは、雪をものめずらしげに眺めている。

ティアは—ティアはというとゲオルグにつかまっていた。

「引き止めてしまって悪いね。けれど言いそびれてしまったし・・・」

ゲオルグはワインに雪が入り込むのを見ながら言った。

「しっているかい?ローアンでは10年に一度大会が開かれるんだ」

味が微妙に変わったワインを飲んでゲオルグは顔をしかめる。

ティアはそんな微妙な味の違いがわかるほどワインを飲み込んでいるのかと思いビックリする。

ワインや酒は特別税がかかっていてとても高いのだ。

このパーティーに出ている食べ物のほとんどが高価なもので、ティアの知らない味ばかりだった。

「大会・・・あんまり記憶にはないです」

ティアがそう返事するとゲオルグは君はまだ幼かったからねと笑う。

「ともかく・・・今日から数えて五日後に迫っているんだよ。そこで君も出ないかと思ってね。どうだい、出てみるかい?」

ゲオルグに聞かれ、ティアはどうしようと迷う。

「大会ってどんなものなんですか?」

「立候補者と一対一で戦うトーナメント式のバトルロワイヤルだよ。すでに立候補している人もいてね・・・まだ開きブロックがあるんだ」

ゲオルグが手帳を取り出しながら言った。

「まだ時間はあるからね・・・親しい友人にでも相談してみるといいよ」

ゲオルグが立ち去ると、ティアは納得!と言う顔をしていた。

ナナイが言っていた、「じゃあ、また会いましょう。大会でね」と言う言葉はこういう意味だったのか。

ナナイは大会に出る・・・。

そのほかいったい誰が出るんだろう?

すると、ドラが鳴り響きパーティーの終了を知らせた。

大勢の足音と共にティアも外へ出た。

やっと宴がおわった。




Re: アヴァロンコード ( No.180 )
日時: 2012/10/07 00:58
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「大会?—あぁ、出るのかやっぱり!」

帰り道、レクスに相談してみるとレクスはやっぱりなと言う顔でティアにそういう。

「まだ決めてないけど・・・ゲオルグさんは空きブロックがまだあるから出たらどうかって言うの」

城から街へと続く長い階段を下りながらティアはレクスの反応を待つ。

レクスは数秒黙っていたが、不意に立ち止まる。

不思議に思ってティアも立ち止まると、後ろから来る人々が転びそうになった。

「どうしたの?」

聞くと、レクスは頷いた。

「オマエ、先に帰って・・・俺の家の前の桟橋で集合な!」

言うとすぐに身を翻して階段をかけ戻っていく。

「え?あーあ、いっちゃった」

それを引き止められず、むしろ引き止めるほうが不可能なのだが走り去るレクスの背を見ながらつぶやく。

こういうときのレクスってすっごく行動的なんだよな、などとぼやいているとネアキが首をかしげた。

『…どうかしたの…?』

他の精霊たちも同じ問いの様だった。

そんな彼らを見上げて苦笑するとティアは言った。

「レクスがああいう態度をとった後は、厄介なことが起きるの」

なので必ずティアは、自分が大会に放り出されるだろうと確信していた。

「あぁ、とにかく詳しいことは桟橋で待っていればわかるよ・・・きっといつものように厄介なことを持ってくるから」


街を過ぎ、下町へ戻ってくるとティアはなつかしの家に帰らず、そのままレクスの家に直行した。

するとミーニャがいて、ティアにわっと歓声を上げてかけよって来る。

「おねーちゃん、英雄サマなのね凄い!」

にっこり笑って言うミーニャはサマの使い方をわかっていない様だった。

様と、敬いの言葉をサマとし、エイユウサマという名称だと思っているらしい。

「ミーニャ、いま一人なの。遊んでくれる?」

懇願するようにミーニャが言うけれどティアは聞き覚えのある足音を聞きつけて断った。

「ごめんね。明日ならいいよ」

そういうと、ミーニャは不満げに頬を膨らませて言う。

「おねーちゃんもお勉強で忙しいのねー・・・ミーニャお勉強嫌い。皆お勉強が大好きなの。ミーニャよりお勉強は楽しいみたい」

そうしてどこかへ駆けていった。

すると行き違いのようにレクスがやってきた。

にやっと不敵な笑みを浮かべて。

(コレはかなり厄介なことになるかも)

ティアは引きつった笑みを浮かべた。




Re: アヴァロンコード ( No.181 )
日時: 2012/10/08 01:04
名前: めた (ID: UcmONG3e)

二人で桟橋に座り込んで話し込む。

レクスの家の前のこの桟橋は、つくりかけでありまだ完成していない。

それどころか長年放置され、ローアンの小川の上にちょこっと頭が出ているような奇妙な桟橋となっている。

そこでレクスは暇つぶしにとよく魚釣りをしている。

「なにしてたの?」

早速レクスにティアが聞いてみるとレクスは兄貴分の態度で言う。

妹分のオマエにはいいことを教えてやろう、と言った表情である。

「あぁ、ちょっと村長のとこにな」

ふふんと得意げに言うのでティアはやっぱり大会関連か・・・と心の中でつぶやく。

と言うことはやはり、自分は大会出場決定か・・・。

別に嫌ではないけれど。

「それでゲオルグさんになに聞いてきたの?」

足をぶらぶらさせながら聞くとレクスはなんともなしにいって見せた。

「大会出場者を聞いてきた」

小川に泳ぐ小魚を見ていたティアはぱっと顔を上げた。

「出場者?それって・・・聞いてもいいことなの?」

さぁねぇ、知らないけど?と言う顔でレクスは首をかしげる。

けれどそんなことどうでもいいといった様子。

「聞きたいか?」

ドヤ顔で言ってくるが、ティアは素直に頷いた。

「仕方ないな、じゃ教えてやるよ」

もったいぶったようにいうレクスの言葉を聴いて精霊たちもよってきた。

先ほどまで、カレイラで知っている限りのつわものだろう人の名を挙げていたのだ。

「ん、紙?」

レクスがベルトポケットから紙切れを取り出したのを見てティアは覗き込む。

精霊たちもつられ、えっと声を上げた。

「おいおい、あの自称勇者のヤツもでんのかよ!」

ぼこぼこになっちまうぞアイツ!とレンポが言うと、ミエリも苦笑いで頷く。

デュランのことを知らないネアキとウルは互いに顔を見合わせた。

「あ、お師匠様も出るんだ?」

ティアが知っている名前を見つけてうれしそうに叫ぶ。

すると何喜んでいるんだよ、とレクスは言う。

え?どうしてと言う顔のティアに人差し指を突き立てる。

「オマエ、こいつらと戦うんだぞ?グスタフは強いんだぞ?」

「え?こいつらと戦うって・・・?」

ティアがそういうと、レクスはにやりと笑った。

その瞬間、レクスが大会での選手を聞いてきただけではないこともさとった。

さっと青ざめる。

「もちろん、大会の手続きはしといたぜ。カレイラの英雄様!」

やはりこういうことになるのか・・・・・・。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照1600越えました!
ほんとうにありがとうございます!!

番外編的な個人章を、メインが終わってからまとめて書くか、両立で書くか迷ってます・・
でも両立だとメインの更新が遅くなりそうな気がする



Re: アヴァロンコード ( No.182 )
日時: 2012/10/08 02:00
名前: めた (ID: UcmONG3e)

レクスの情報によると、デュランとグスタフ親子のほかにもう一人のカレイラの英雄様であるハオチイや、城の騎士志望の兵士たち。

もちろんナナイーダも出場する。

「でもさ、こんな極秘情報をレクスに教えるなんて・・・すごいねレクスは!」

そういうと、レクスはギクッと言うような表情を一瞬し、苦笑いを浮かべにっこり笑いそうだろ、と言う。

ティアが天性の天然でなければ、レクスがローアンの町長に何したのか疑っただろう。

実際ティアと同じような天然要素のあるミエリでさえ他の精霊と同じようにじーっとレクスを見ている。

ほんとにコレ、教えてもらったのかなぁ?

まさか・・・拝借したなんてこと・・・。

「と、とにかく。オマエも今日から五日。みっちり練習するんだぞ?」

ささっと立ち上がりレクスは上から目線でそういう。

ズボンについた土を取り払いながらその紙はやるよ、と言う。

まだ座っているティアをのこして別れを告げてすぐそこの家に帰ってしまった。

残されたティアはもらった紙を今一度眺めていた。

辺りに誰もいなくなると、精霊たちはティアの元によってきて紙をのぞいたり眠そうにあくびしたり、川の水を凍らせたりと自由奔放にティアが行動に出るのを待っている。

「・・・ともかく、一回家に帰ろうか」

ようやくティアが紙をポケットにしまいこんでそういった。

その言葉に従い、彼らはティアの元に集まった。

「ね、ティア」ミエリがティアに言った。

「なに?」

いうと、ミエリはいいにくそうな感じで言う。

「さっきもらった紙ね・・・あんまり人に見せちゃだめよ」

するとティアはきょとんと瞬きする。

「デュランにも見せてあげようと思ったけど・・・ミエリが言うなら・・・うん、わかった」

お前も気づいてたか、というような精霊たちの視線にミエリは苦笑いで答える。

多分、ゲオルグは今頃選手表をなくしたとぼやいている頃だろう・・・・。




Re: アヴァロンコード ( No.183 )
日時: 2012/10/08 02:26
名前: めた (ID: UcmONG3e)

次の日からというものティアの鍛錬が始まった。

普段から剣術の鍛錬をサボらなければほんの五日の修行などたやすいものだったろう、けれど長い間サボって昼寝三昧のティアは早くも音を上げそうだった。

「もうだめ・・・こんなにまめが出来ちゃったよ」

グスタフの道場にて重くて切れ味の悪い訓練生用の剣を長時間ふるっていたせいでティアの手はぼろぼろ。

こすれた手のひらは痛々しく皮が向けてしまっている。

「だからオマエは・・・いいか?」レンポがやれやれといった感じで説明する。

預言書については詳しく知る彼はティアに詰め寄る。

「おまえが今まで剣を使って敵を倒してきたのは、正直言うとオマエの力とかそういうのじゃないんだ」

えぇ、そうなの?というティアの視線とそんなことわざわざ言わなくても・・・という精霊たちの視線も気にせずにレンポは頷く。

「前に言ったろ?預言書から取り出した武器は全部使いこなせると」

ハオチイの爆弾、ルドルドの巨大ハンマー、オオリからもらった飛刀。

言われてみれば、とくにルドルドのハンマーなんか常人なら使えるはずがない。

「思い出したか?」ティアがうんうんと頷くと先を続ける。

「いつも使っている剣は預言書のジェネシスだった剣だ。だからいつまでも振り回していられたんだよ。けどその剣は—」

預言書から出していないいわば本物の剣。

「実際に力、つまりここでは腕力だとか握力がないと扱えないってわけさ」

「そうだったんだ・・・」

ちょっと剣術に関しては得意科目だと感じていたティアだったけれど、真実を聞いてちょっと落ち込む。

ああ、悪魔やガーディアン、キメラを倒したのは預言書にサポートされてたからなんだ・・・・。

わかっていたことだけれど・・・・・。

「・・・ですが、戦術や技術はティアのものですよ。力があったとしても戦術や技術がなくてはここまでこれなかったでしょう」

ティアの沈みようを見てあわててフォローするウル。

ネアキの殺気立った視線を感じてレンポはもうそれ以上言わない。

『…ティア、あなたは選ばれた…預言書に選ばれたのだからその力を使ってもおかしくない…ティアの力と預言書の力が合わさったから…私はいまここにいる…』

いっせいにフォローされてティアはてれながら頭をかく。

「うん、ありがと・・・?!」

そして背後からイヤーなオーラを感じ凍りつく。

「なにがありがと、だ?さぼっとらんで練習せんか!」

耳元で爆弾が爆発したような大音量にティアは悲鳴に似た返事をし、重いのを忘れて剣を振り回し始めた。



Re: アヴァロンコード ( No.184 )
日時: 2012/10/08 15:14
名前: めた (ID: UcmONG3e)

朝から剣術練習をしていたティアは両手がつり、しばらくグスタフの道場の隅に置かれている長いすで休憩していた。

前々からグスタフの道場は人気だったけれど、大会が近づきその人気っぷりも急上昇していた。

道場内は広いのに、どのブロックでも最低5人は剣を振り回したりしている。

正方形の広い道場内では剣がぶつかる音、怒号、掛け声、降参だと悲鳴を上げる声で満ち溢れていた。

「ティア」

呑気に観戦していたティアに師匠であるグスタフが歩み寄ってきた。

サボっているわけではないのだがしまった!と言う顔でさっと見上げる。

冷や汗が流れてくるけれどグスタフは怒っているわけではなかった。

「なんですか・・・?」

恐る恐ると言った感じでティアが言うと、グスタフはティアの片手に重そうにぶら下がる剣を指差した。

「おぬしは自分の剣があったろう?この道場にもついに貸し出し用の剣が足りなくなるときが来た」

うれしいような困ったような表情でグスタフが続ける。

「おぬしはすまないが、大会が終わるまで自分の剣を使ってくれ・・・今もっているか?」

ティアの訓練用剣を受け取りながら聞いてくる。

ティアは預言書をちらりと見て頷いた。

「そうか、ならばよい」グスタフはためらわずに剣を持ち上げた。

「練習に励むのだぞ!」



グスタフが完全に立ち去るとティアはこっそりと預言書に手を伸ばした。

そして剣のページをめくるとそうっと剣を取り出す。

なんとなくネアキにいわれた言葉がよぎり、一目を気にしたのだった。

「やっぱりこの剣が私にはあってるなぁ」

ティアは預言書のジェネシスだった剣を持ち上げて言う。

かるがると振り回せるそれは、万年サボりのティアに非常に優しい剣であった。

「ああ、やっとやる気が出てきた気がするなぁ」

そういいながらティアは訓練に戻った。


訓練を終えたのは夕方ごろ。

預言所の剣で訓練していたティアはそれからと言うもの音を上げずに昼食も忘れて一心不乱に手合わせばかりしていた。

「もう勘弁してくださいよ」

相手役の剣士がそういうと、はじめて外が暗くなっている頃だと気づいたのだ。

「え、もうそんな時間か」

驚いて言うと、剣士はそれにもっと驚いた様だった。

「いやあ、やっぱり凄いですね英雄様は・・・」

大会で戦ったら勝ち目ない、というように転がるように逃げていった剣士。

道場内も気づけばすっかり人気がない。

ただ、ティアのブロックより7つも遠くのブロックをのぞいては。

そのブロックには二人の剣士が手合わせをしていた。

「あれ・・・デュランとグスタフさん?」

片方は必死に攻撃しているけれど、もう片方は余裕そうにやすやすと剣を防いでいる。

けれどデュランはめげずに彼の突剣、レイピアを突き出している。

「がんばってるね、あのこ」

ミエリが関心関心、というように言う。

「今度は自称勇者じゃなくって本物の勇者になれるといいんだけど」

丁度対戦相手もいなくなったことだし、ティアは親子の特訓に水をささぬよう、そっと道場を立ち去った。

「後四日かぁ、あれ・・・でも三日かな?」

道場前、雷広場と呼ばれている空き地を歩いているとティアがそんなことをつぶやいた。

精霊たちはよくわからないと言う顔で見ている。

星の数を数えるように上を向いていたティアがポケットから紙を取り出す。

「・・・見えない」

当然のことだが薄暗くなった今、そとで文章を読もうなどムリだ。

「火を—「わかったよ」

いわれなくても出してやるよと、すぐさまランプ代わりの火が出現する。

小ぶりなのは炉アーんの住民の好奇な目を避けるためだろう。

「ありがとう。・・・やっぱりそうだ」

明るい色に照らされた髪を食い入るように見つめていたティアは言う。

「なにがですか?」ウルがきく。

「大会まであと三日だよ。今日を入れて・・・」

紙を指差しながら言うティア。

確かにその部分にはきれいな文字でイヴ、つまり前夜祭のことについて書かれていた。

「大会前日の前夜祭では出場者は皆招待されてパーティーするみたい」

ティアがきれいな文字をたどりながらそういうとネアキが言う。

『…この街の人…祝い事好きみたい…何度パーティーすればいいの…』

少々あきれたと言うようにネアキがいうと、ティアは肩をすくめる。

仕方がない。カレイラの住人は—というか上層部の金持ち層は豪華なものが大好きで貧民を嫌っている。

それを心苦しいと思ったゲオルグさんが豪華なパーティーを開き、民達の交流と、差別を無くそうと言う願いで行われているのだ。

けれど帰ってそれが上流階級の食べ物や出し物に現れ、貧民は後ずさってしまう。

こんな豪華な場に、自分達貧民がいていいのだろうか、と思うくらい豪華な場面になってしまうのだ。

なので一年に何度かある街中心の祭りのほうが平民や貧民には人気があった。

「—だから練習できるのは今日を入れて三日の間だけなんだ」

レクスにもらった紙を折りたたんでポケットにしまう。

普通なら手帳を破ったような後と、日付ややることメモなどが書かれたその紙は一般的に考えて普通に入手できるような代物ではないとわかるだろう。

けれどティアは何も疑わず、レクスがゲオルグからもらったものだと信じ続けていた。


Re: アヴァロンコード ( No.185 )
日時: 2012/10/08 16:23
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアはいったん家に帰って花瓶に刺してある花を一本引き抜いた。

それはミエリに頼んで出してもらった前の世界であったと言うきれいな花。

コスモスとかいう、その控えめなピンクの花がファナは好きらしかった。

「今日もこんな夜遅くだし・・・ファナはもう寝てるかな?」

約束—ファナに毎日会いに行くという約束を破ったことのないティア。

今日も一掴みの花たちを手に、もうすぐ病気がよくなるファナの元へ出かけていった。

薄暗い街の中を走り、双子の嫌味兄妹ロマイオーにとフランチェスカに何かいわれたけれどティアはとにかく急いですべてを通り過ぎた。

ファナの家の前に着くと、ファナの寝室は小さく光がともっていた。

「よかった!・・・まだ起きてる」

それを確認してドアをノックするとヘレンが出てきた。

ティアの顔を見ると安堵したような表情になる。

「毎日ありがとうねぇ」

言いながら扉を開けてくれる。

「ファナは寝てます?」一応聞いてみるとヘレンは首を振る。

「いつもティアがくるまで起きているよ」

Re: アヴァロンコード ( No.186 )
日時: 2012/10/08 17:01
名前: めた (ID: UcmONG3e)

二階へあがると、ファナの部屋はベッドライト一つのみが光っており、カーテンの開いた窓にひっそりと書物に目を落とすシルエットが映っている。

かすかに口元がほころんでいるファナは、ティアの足音に気づいてふと目を上げる。

するとほころんでいた口元が喜びに開かれてティアの名前を呼ぶ。

「まぁ、ティア!来てくれたのね!」

うれしそうにそういうと、熱心に見てた書物をパタンと閉じる。

「こんばんは、ファナ」

そういって近づいていくと持っていたコスモスを差し出す。

「あら、ありがとう!」

毎回同じお土産だと言うのに飽きずにファナは笑顔で受け取る。

それをベッドライトのそばの大きな花瓶にいれてうれしそうに眺めた。

「コスモスだっけ?・・・この花はこのアルバムに写ってる花に似ているの」

そういうと、先ほど熱心に読み込んでいた本を開いてティアに見せる。

それは色付きの写真達で幼いファナとその母親レーナが写っていた。

最高の笑顔を見せる二人。たまに写るヘレンの姿。

どのページにもちょっと抜けてる人が撮ったのだろう、親指とか人差し指が写りこんでいる。

写っているのがファナとそのお母さんレーナとヘレンなら、撮影したのは行方不明のファナの父親だろう。

確か名前は・・・思い出せない・・・・。

「きっとお父さんが撮影したのよ。それで、その花がコレ」

ファナが指差すところにはピンク色の淡い花が写っている。

どちらかと言うと、桜の花をもっと巨大にしたような感じだ。

「でおね、この花は造花なんですって」

ティアがきょとんとすると、ウルのようにファナは優しく教えてくれた。

「造花って言うのは、偽者の花の事よ。紙や、布なんかでホンモノそっくりに作ってあるの」

色と大きさくらいしかにてない花だが、ファナは気に入っている様だった。

「きっと珍しい花か、空想の花なのね・・・」

そういうと、ファナはそっとあくびした。

「あ、ごめんなさい・・・わたしったら」

しかしティアは首を振る。

「ううん、それじゃあ明日も来るね」

「うん・・・ありがとう」

一階に下りると、精霊たちと預言書、ヘレンがいた。

気兼ねなく話せる様にと、精霊たちは一階で待機していた。

ヘレンと同じようなものだろう。

「夜ご飯まだだろう?今日は多く作りすぎてしまってね、残り物だけど・・・食べていきなさい」

暖かなスープと野菜と魚を使ったファナの体に合わせた料理を差し出すヘレン。

「ありがとう、ヘレンさん!」

お礼を言うと、ヘレンはもう一人の孫にでも笑いかけるかのように笑った。


Re: アヴァロンコード ( No.187 )
日時: 2012/10/08 18:33
名前: めた (ID: UcmONG3e)

次の日も鍛錬で終わるかと思いきや、道場内はひしめき合っていて到底は入れなさそうだった。

入り口ではいらいらと空きブロックが出来るのを待つ集団たち。

「どうする?ここで待つか?」

レンポに言われてティアは首を振った。

「どこにいくの?」

「うん、グラナ平原に行けば魔物がいるし・・・それでも相手にしてる」

そういって駆け出す。

その背中を追いかけるように誰かがティアを呼び止めた。

「おーい、まってよティア。僕もつれてってくれ!」

振り向かずともわかる声。

自称勇者のデュランだった。

「ごめんね、立ち聞きしちゃって・・・そんなつもりなかったんだけど」

駆け寄ってくるなり言い訳するデュラン。

「グラナ平原に行くんでしょ?僕も練習しようと思ったらこれでね・・・」

道場を指差して嘆くデュランをティアはついてくることを許した。

「魔物相手だから、人とはちょっと違うけど・・・でも戦わないよりはいいかなって」

「そうだよね・・・何せ明日は前夜祭でパーティーだもの。道場も朝からお休みさ」

言い合いながら世界の十字路をまがり、お目当ての草原へと歩いていく。

行き違いのように二人はローアンの町長の娘、シルフィに出会った。

シルフィは二人をみると妙なコンビが歩いているくらいしか思わなかったのだろう。

「ごきげんよー」

あからさまに不機嫌な態度で挨拶する。

「シルフィは—」ティアがいうと猛スピードでシルフィが振り返る。

すれ違いざまになっていたのだ。

「呼び捨てですって!人間の癖に!」

唖然とする二人の目の前、シルフィは日ごろからのいらつきを爆発させた様だった。

「ああもう、この国の女王様といい・・・どーしてエルフが人間にこき使われてるわけ?おかしいじゃないの!」

「まったくエルフってやつは・・・」

レンポは頭が痛いというように首を振る。

「高貴な種族と思い込んでいるからですね・・・」ウルが肩をすくめる。

「あ・・・えぇっと・・・シルフィさ、ん?」

なんて呼べばいいかわからず、どもりつつ言うティア。

「・・・いいわよシルフィで」

その様子をシルフィはため息をついてみる。

「それで、何か用なの」

もういいわよ、と諦めたようにシルフィが言うとティアは頷く。

「シルフィは大会に出ないの?」

きくと、シルフィはあたりまえでしょ?と言う。

アンティークドール調の顔が今だけ明るい。

長いプラチナブロンドを背中へ裁き、人差し指を突き出す。

「わたしは エ ル フ なのよ!弓の 名 手 なの!人間相手で戦ったら死んじゃうじゃない」

ふふんと腕を組んで言うシルフィ。

確かに戦いなれしている雰囲気。

勇ましい立ち振る舞いと月桂樹は勝利の女神っぽい。

「その言い方だと、あなたは出るのね?」

ちょっと面白そうなものを見つけたというようにシルフィが片目を開けて言う。

ティアが頷くと鋭い目をデュランに向けた。

「そこの人間もでるわけ?」

デュランはう、うんと頷く。

「あらそう。お父様が言っていたけどハオチイとか言う英雄も出るらしいわよ。それに道場の人間も、森に住む大男も出るって。あなた勝てるかしら?」

レクスと似たような兄貴分—ここでは姉貴分のようにティアに言うシルフィ。

「せいぜい怪我をしないことね!まぁ、人間同士のたたかいだもの怪我って言っても骨折程度で済むでしょう?エルフならもっとひどい怪我も治せるけど・・・まぁいいわ」

そういいながらすたすたといってしまった。

「・・・心配をするのならもっとわかりやすく言えばいいものを。ティアはきっと意味をわかってませんよ」

「骨折よりひどい怪我したら私のところに来なさいってことかな?」

精霊たちがいうが、ティアはまったくその通り。

シルフィが何が言いたかったのか不明で、先を急いだ。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ゲームだとシルフィは完璧なツンデれです
レクスは若干シスコンで、ナナイーダは危険なお姉さんです
アンワールは虚心すぎて中二病なおかつ天然。
ファナとデュランくらいが無属性です。

Re: アヴァロンコード ( No.188 )
日時: 2012/10/08 23:06
名前: 御砂垣 赤 (ID: NCmapTWN)

おひさしぶりです、めたさん。

この前のせていただいた歌、使わせて貰いました!
また今度見に来て下さい。

この文綺麗ですね。大元にも興味が出てきました。
頑張って下さい。

あと、うちの事は呼び捨てでいーですよ。

Re: アヴァロンコード ( No.189 )
日時: 2012/10/10 17:09
名前: めた (ID: UcmONG3e)

あかさんありがとうw
なんとなく呼び捨ては照れるので赤さんと呼びます

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


グラナ平原には魔物が沢山いた。

5平方メートルに1.3の魔物がひしめいている。

簡単に言えば、ぐるりと見渡しても2匹以上は必ずその姿を見つけられるということだ。

若草色の柔らかな芝生を踏んづけて、ティアは満足そうに頷く。

「コレくらい沢山いれば、夜までには倒しきらないよね!」

そういって元気よく振り向けば、デュランはレイピア片手に苦笑いを返してくる。

あぁ、そうだよね、と言う表情でイナゴの魔物。ロードローカストを見つめている。

ミエリを解放した直後から現れ始めたこの金の巨大イナゴは、その莫大な繁殖力でまたも増えつつある。

ぐりぐりした黒い目玉が気色悪い魔物だ。

デュランがその目玉を直視したため、引きつった笑みをしたまま後ずさる。

「おいティア」その様子をやれやれといった感じで見て言うレンポ。

「コイツには難しいんじゃねぇの?」

無論精霊の声はデュランに聞こえるわけもなく、デュランは無言のティアがこちらを見ているようにしか見えない。

「もっと倒しやすいところを紹介してあげたらどうかな?」

ミエリもデュランを気遣うようにそういう。

そうだね、とティアが同意してデュランに声をかけようとした瞬間。

「—・・・い、いくぞー!!」

突如掛け声と共にデュランが金の巨大イナゴ、ロードローカストに向かって走り出した。

「?!」驚いたティアとその精霊たち。

いっせいにデュランに注目して、目で追うと・・・。

ロードローカストの手前でデュランの速度がぐんと落ち、ためらいがちに逃げ腰のままレイピアを突き出す。

するとロードローカストはちらりとデュランを見、その長い足でデュランの体をどけよっと言うように蹴った。

やすやすと後転し、なさけなさそうに芝生に転がるデュラン。

「・・・一応勇気はあるようですね。多分」

『…あれで勇者だなんて名乗れるの…』

ティアにしか聞こえない精霊たちの声は、本人に聞こえていれば即刻勇者への夢を立たれる意味である。

聞こえなくてよかった、とほっとする。

「デュラン、どうする?ここの魔物は—」

声をかけるとすぐにデュランは立ち上がり、お気に入りのユウシャノハナの飾られた帽子をかぶりなおす。

「いいんだ。ここでいいんだ」慌ててそういうと、ティアにレイピアを見せる。

相変わらずレイピアはきれいで、戦った後の痕跡はない。

ティアがそれがどうしたの、と首をかしげると

「ティア、君は強いよね。だから僕に・・・僕の剣術指南をして欲しいんだ」

デュランはそういった。


Re: アヴァロンコード ( No.190 )
日時: 2012/10/10 18:13
名前: めた (ID: UcmONG3e)

何度も断るけれど必死になって頼み込む友人の願い。

ティアもついには折れて、デュランの剣術指南をすることになった。

「ありがとう、師匠様!」

にっこりして言うデュランにティアはやめてくれと言う。

「ししょうって・・・なんかそういう呼び方はちょっと」

「え?—じゃあなに・・・先生?」

ぴょンぴょン二人の周りをメリーゴウラウンドのように回るロードローカストたちを完全無視し、呑気に会話しているティアとデュラン。

天然要素の入っていない—若干ミエリに入っているが—四人の精霊たちはそれをなんともいえない表情で見守っている。

「こいつらホント、呑気だよなぁ」

自分の主人をコイツ呼ばわりして言うは炎の精霊。

「でも、ティアはいろいろなの倒してきたし・・・教えるくらい平気よね」

「それは・・・なんともいえませんが」

『…でもティアはやる気みたい…』

それぞれが空中より意見を言い合う中、やっと地上では揉め事が収まったようだ。

「じゃ、じゃあティア。まずどうすれば?」

デュランがレイピアを棒でも握るかのようにして持ち、ティアのほうを向く。

デュランの真横に着いたティアは剣を普通に持つ。

持ち方ぐらいはわかっているので難なく教えられた。

「でもよ、剣と突剣っておんなじものなのか?」というレンポの声を聞くまでは。

「いえ、根本から違いますよ」

ウルの言葉でさらにティアの動きがのろくなる。

きっと地上の主人のことなど気にせずに上空では議会が開かれているのだろう。

ウルはミエリにどこが?とねだられて先を続ける。

「まず、ティアの剣ですが・・・あれは切る、裂くものです」

ふーん?とレンポ、ミエリ、ネアキが聞き入る中、こっそりティアも聞き耳を立てる。

デュランだけはえ?と言う顔で一時停止したティアを見ている。

「そして突剣ですが、あれは突き刺すものです。なので針のような形状をしているわけです」

まるで先生のようにすらりと解説してくれるウル。

ティアもへーそうなのと頷いてしまう。

「じゃあ、ティアが教えられんのかよ?アイツ、たしか剣しか習ったことないって言ってたけど・・・」

しばしの沈黙の後、すっと精霊たちの視線がティアとデュランに降り注ぐ。


「・・・ではティア、そのレイピアをコードスキャンすることですね」

まったくレイピアの使い方を知らないとばれた今、ウルがそういう。

「預言書から出したものは、使いこなせるもんね」

そういわれ、草原で戸惑うように立つデュランのほうを振り向く。

しばらく放置していたため、どうしようかなとおろおろしていた。

そんなおろおろデュランもろとも預言書を開いてコードスキャンし、剣の代わりにデュランとおそろいのレイピアを取り出す。

さぁ、これできっと大丈夫なはずだ。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照1800越えました!
あと200で2000に・・・

デュランとの練習がおわってイヴに入ると、大会です
なんとなく全章の中で一番長くなるかもしれないですね



Re: アヴァロンコード ( No.191 )
日時: 2012/10/10 18:45
名前: めた (ID: UcmONG3e)

レイピアは剣よりも敵に接近する必要があった。

フェンシングと言えばわかりやすいだろうか。

相手に突き刺すので、急所を見極めなければならないし、思い切り突き刺さなくてはいけない。

特に硬い甲羅や皮を持つ魔物には相当な圧力が必要だった。

しかも突き刺した後、レイピアを引っこ抜かないといけない。

ティアのように預言書から新たなレイピアを取り出せるならばいいが、普通の人ではすぐに攻撃道具を失うことになる。

レイピアは剣とはまったく異なった武器だった。

それを一通り敵を倒してわかったことをデュランに教え込む。

デュランは熱心に聞き、何とか必死についていこうとしていた。


「預言書って言うのは便利だよな」

そんな地上の風景を見ながら精霊たちはまたおしゃべりを再開した。

「そうですね。いろいろなものを引き出せ、記録できる・・・」

そこでウルはなにやら考え深げな風貌で腕を組む。

残りの精霊たちはだまってウルを見ている。

こんな風にするときは、たいてい何か考えているときなのだ。

目の枷がなければ、何を考えているか一目でわかるのだが・・・。

一番最初の世界のときに縛られてしまったのでそれは無理な話だ。

『…何を考えているの…』ネアキが首をかしげると、その首の枷が音を立てる。

『…ウルがそんなに長く考ること…めったにないのに…』

ネアキの言うとおりそれは本当のことだった。

ウルは幾重にもわたって滅びては生まれてきた世界をよく知っている。

他の精霊もそうなのだが、無関心であったり忘れたりしてあまり知識を立て込むことはなかった。

けれど目を封印されてしまったウルにしてみれば、聴覚と嗅覚くらいしか役には立たなかった。

なので沢山のことを聞いたり、なるべく多くのことを知って心の目で世界を見ようとしたのだった。

「そうですね・・・」あいまいに返事しておそらく解けそうもない疑問を再び考えてみる。

「何について考えてるんだよ?」

まぁヒマだし聞いてやってもいいけど、と言う声が聞こえウルは頷いた。

「我々は何のために縛られているか、についてですよ」




Re: アヴァロンコード ( No.192 )
日時: 2012/10/10 20:09
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「オレたちが枷で縛られている理由・・・?」

ちょっと戸惑ったようにレンポやネアキ、ミエリが顔を見合わせるのがなんとなくわかる。

それもそうだろう。

自分達が何故封印されて預言書に縛り付けられているのか知る者はいないからだ。

そもそも、誰が何故そうしたのかも記憶が抜けたみたいにわからない。

「それに誰が何故こうしたのか、についてもですね」

ウルは淡々と続けていく。

「永い間ずっとこのままなのか、とも考えていました。ですが—」

ウルの言葉をネアキが代わりにかすれた声で言う。

首を少しかしげて『…けれど預言書の持ち主は…この枷をはずせると…』

あぁ、そうだと他の二人も頷くがウルはそれにあまりいい顔をしなかった。

「そうです・・・。けれどそれはいったい誰から教えられたのでしょう?私は不思議で仕様がありません」

首を振って答えれば、ふたたび困ったような沈黙。

「でも、なぁウル?」ちょっと切羽詰ったようにレンポが言う。

その声は不安でいっぱいそうだった。

「枷は・・・あきらめていたけど、この枷は預言書の持ち主がはずせるんだろ?」

願うような口調に、ウルは黙っていた。

目が見えていれば、伏し目がちになっていたことだろう。

「・・・はっきりそうだとは言いがたいですね。しかし、4人全員がそれを知っているとすると、望みはあるかもしれません・・・」

「でも、コレは誰に教えてもらったのかな・・・枷の話・・・」

ミエリが聞いてくるけれどウルはもちろんそんなこと知らない。

「おそらく、我々を枷で縛った者でしょうね・・・。それが誰かわかれば、なぜこうして縛られているか、わかるはずです」

やはりこういった答えしか出ない。

それに、自分達を預言書に縛りつけたものが誰であるかも、一番最初の世界を創ったもの、また預言書を作り出したものを知ることなんて出来ることがないだろう。

そして枷が外れることもないだろう。

二度と、美しい景色を目に焼き付けることはないのだろう・・・。





Re: アヴァロンコード ( No.193 )
日時: 2012/10/11 18:28
名前: めた (ID: UcmONG3e)

精霊たちが枷やら最初の世界を創造したものについて難しいことを考えている間、ティアはデュランと共にロードローカスト駆除を開始していた。

ある程度、使い方と攻撃の仕方を教えるだけ教えて、実地訓練に移ったのだ。

教えるといってもティアにも初めてな突剣なので師であるグスタフのようにきっぱりと教えることは出来なかった。

けれどもグスタフの練習とティアのちょっとしたアドバイスで勇気付けられたデュランは先ほどのようにびくついた様子はなくロードローカストに向かっていた。

突剣ならではの特徴を駆使して伝説の黄金バッタをめったざしにしていく。

自主訓練の成果もあってようやく倒すことが出来るようになると、デュランは浄化されていく魔物から数歩離れた。

はっきり言って、これで人と戦うことを想像すると・・・おぞましい。

大会当日では保護プロテクターを全身に着けるのだが、生身で戦うとするとこの剣で刺すように戦う羽目になるのだ。

ティアが言うにはいろいろな使い方があるというけれど、刺す以外なんの役に立つのだろう?

見ればティアはすでに大会で使用する一般剣を用いてひょいひょいと魔物を退治している。

草原に立ち、風に吹かれるその姿はなんとも頼りになる英雄である。

「ねぇティア」

そんなティアに声をかけたのは、昼時になってからだった。

なあに?と言うふうに振り返るティアは今何時だかまったくわかっていない様子。

「お昼にしないかい?」

そういうと、草原の上を歩いていた彼女が慌てた顔をする。

きっとお昼の用意をしてこなかったのだろう。

「大丈夫—僕の分を分けてあげるよ」


しばらくして草原は魔物討伐の風景から、のどかにピクニックしている風景へと移り変わっていた。

「デュラン料理上手だねー」

ふわふわしたサンドイッチに似たものをほおばってティアはデュランに言う。

お手製のジャムは木苺から作ったものらしい。

「あぁ、うん。父さんの分も作らなきゃいけないからね。工夫してるうちにだんだんと上達してきたんだよ」

デュランにはティア同様母親がいない。

父グスタフは道場を経営し、デュランは家の仕事をすべて一人でこなしていたのだ。

ティアも同じような境遇だが、のんびり気ままに暮らしている。


すっかり食べ終わり、居心地のよい草原はティアを眠りの世界へ誘う。

けれどもティアは眠気を振り払い、明日丸一日イヴを楽しむため、デュランと共に特訓に励んだ。



Re: アヴァロンコード ( No.194 )
日時: 2012/10/11 19:21
名前: めた (ID: UcmONG3e)

草原が赤く染まる夕方ごろ、ようやく二人は魔物討伐を切り上げた。

待ったいらな草原の地平線のようなところには、真っ赤な閃光が鋭く突き刺さっている。

きっと太陽の棚では、世界で一番美しい景色をルドルドとその息子ギムが見ているのだろう。

「そろそろ帰ろうか」

言われてティアは頷く。デュランとそろってカレイラのローアンへ戻ると相変わらず道場はいっぱいだった。

「君のおかげでいい特訓になったよ、ありがとう」

「うん、また明日ね」

手を振って分かれると、何をしようか迷う。

「どこへ行くの、ティア?」ミエリはティアに声をかける。

ティアは暗がりの中、決めかねていた。

空はすっかり光を奪われ、星が点々と見え始める。

けれど眠るような時刻ではないのでティアは家に帰るのをためらっていた。

「そういえば、今日はまだあの人のところへ行ってはいませんね」

腕を組んだまま、ウルがティアに言う。

「ファナのこと・・・?」

『…新しい花…あげられたらいいかもね…』

ティアはネアキを見上げて目を輝かせた。

暗い星空を背景に、淡く水色の光を放つネアキはちょっとだけ優しく微笑んだ。

「そうだね、新鮮な花をとりに行こうか!」


薄暗い中てくてくと歩いてくるティアと、その後をついてくる四つの精霊たち。

あまり行くことのない、鮫の顎と呼ばれる、世界の十字路をカレイラから直線に進んだところにある崖の道へと歩いていた。

まれにティアの持つ業火の剣によって照らされた魔物たちがまぶしそうに逃げていくのが見える。

「崖が多いからね、気をつけてねティア」

ミエリの言葉に頷いてティアは足元を炎の剣で照らしていく。

明るいのだが、よく見ようと草花に剣を近づければたちまちこげたり、燃えたりしてしまう。

「なら、光のコードを炎のコードの代わりにいれりゃあいいんだ」

そのことを相談するとレンポはさらりと言う。

「四つで光。五つで閃光になるんだぜ」

そんなムダ知識を脇で聞き流しながら、ティアは預言書を開いて光のコードを探す。

必死に探して四つの光のコードを剣に組み入れると、途端にまばゆい光がティアの視界を明るくした。

「すっごいまぶしい!」

その光は閃光ではないものの、とんでもなくまぶしかった。

懐中電灯のように装備してあたりに向けるとはるか先まで照らされる。

「コレで探しやすくなっただろ?じゃあさっさと探そうぜ」

「でも、花は夜になると眠むっちゃうのよ」せかすレンポにミエリは言う。

「眠る?」怪訝そうな顔して聞き返せばミエリはそうだよ、と頷く。

「花びらを閉じて、つぼみを閉じてしまうの。だから探しにくいかな」

当然、見つけられたら私が起こしてあげるよ、と言うミエリ。

そういえば先ほどから同士世もなく花が見つからなかった。

だが、それはミエリの言うようにつぼみになっていたからなのだ。

「この崖のようなところには、ギンツバキが咲いているかもしれませんね」

ウルがいうと、いっせいにみんなが辺りを見回し始める。

「ギンツバキというのはそのなの通り白銀色の小さな椿です。大きな植物に、寄り添うようなはえているため見つけやすいかと・・・」

けれども大きい植物が見つからない。

ウルが言うにはとても繊細そうできれいな花だという。

それをファナにあげたらきっと喜ぶのだろうなぁ。

その気持ちが伝わったのか、精霊たちも躍起になって探している。

けれどすっかり暗くなった今、もはや植物散策など不可能なのだろうか。

『…もうすぐあの人が寝てしまう…ティア、どうするの…』

ネアキのことばにティアはしぶしぶ頷く。

「そうだね・・・。急いで戻ってファナに会いに行こう」

ティアたちは結局ハクギンツバキをあきらめ、ファナの元に急いだ。




Re: アヴァロンコード ( No.195 )
日時: 2012/10/12 23:19
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「ハクギンツバキ?」

ティアにそういわれて、ファナがしばらく考えていたけれど首を振った。

「いいえ、しらないわ。見たことも、ないけど」

ベッドライトに照らされてファナがそういうと、ティアはちょっと残念そうにそっかぁとつぶやいた。

きっと先ほど話していた、見つけられなかったハクギンツバキのことをまだ残念に思っているのだろう。

「いいのよティア。あっそうだわ!」

いいアイディアがひらめいてファナは笑顔になる。

ベットから飛び起きたいくらいわくわくするアイディアだ。

「もうじき私の病気もよくなるでしょ?」

ティアは目をしばたいたまま頷く。

「うん。お医者さんの話ではそうだよ・・・」

「そうしたら、一緒に探しに行きましょう?」ティアの顔が明るくなる。

目がいつものように輝いて、自分と同じくらいわくわくしているらしかった。

「うん!そうしようね!」

「えぇ、約束ね」


そして別れ際、帰ろうとしたティアをファナが呼び止める。

階段に足を突き出した状態のまま、ティアがファナのほうを見る。

「明日の、前夜祭だけど・・・」ちょっと照れくさそうにファナが言う。

「午前中なら出歩いてもいいっておばあちゃんが言うの。だから、一緒に回らないかしら」

「もちろん、いいよ。それじゃあ、明日朝に迎えに来るからね」

ファナの笑顔に別れを告げてティアは自分の家へと帰った。

長々とで歩いたせいで疲れていた。

ベットに座って伸びをすると、預言書を枕元に寄せる。

「前夜祭か・・・祭りっていうやつ、か?」

「そうだよ。話に聞いたところすごいんだって!」

興味をそそられたように精霊たちがティアの元によってくる。

「歴史高い国ですからね、カレイラは・・・きっと大会と言うのもかなりの歴史があるに違いありませんね」

ウルの言葉にティアは頷く。

「ね、祭りって何?」

ミエリがわくわくした感じでティアに言う。

ネアキやレンポも知りたそうにを見上げている。

「祭りって言うのはね、カレイラで一年に数回ほどある簡単なお祝いみたいなものだよ」

「お祝い・・・?」目をぱちくりといった感じで瞬きするレンポ。

ネアキはまたお祝い・・・パーティーね、などとちょっとあきれている。

「そうだよ。例えば、感謝祭とかね雪祭りとか、自然に感謝したり建国王を祭ったりして祝うの。パーティーとは違うんだよ」

そうなの?と言うような視線のネアキに頷く。

「パーティーはどちらかと言うとお金持ちの人がメインなんだけど・・・お祭りは一般の人が楽しめる催しなんだよ。わたしはお祭りのほうが好きなの」

元気よく言うティアをウルはほほえましいばかりだと言うように見ている。

「では明日の前夜祭、楽しみなのですね」

「ファナちゃんともいっしょだからね。ティア、今日ちゃんと眠れるかな?」

「遠足前の子供かよ!」『…誰かさんと同じ…』

レンポとネアキのにらみ合いを完全にスルーして三人は祭りについて話を進めていく。

「お祭りでは何があるのかな?」

ミエリが聞くと、ティアは首をかしげる。

「おいしいものがいっぱいって聞いたよ。それに演劇とか縁日が沢山あるって!」

わくわくした感じのティアにウルは頷く。

「縁日ですね。ダーツや珍しいものを売っているのですよ」

ますます目を輝かせるティアにミエリは笑う。

「それじゃあ、ティア。もう寝ないと・・・寝不足だと困っちゃうよ!」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

やっと大会前日のイヴに突入します!
イヴもけっこう長いのでやっぱり第五章が一番長くなりそうです。
第六章も同じくらい長いかな・・・?


Re: アヴァロンコード ( No.196 )
日時: 2012/10/12 23:55
名前: めた (ID: UcmONG3e)

祭り—いわく前夜祭は朝から大賑わいだった。

温かな格好をしたファナをつれて中心街にまだ足も踏み入れていないのにそのにぎわいっぷりがわかる。

「たのしみだねっ」

笑いあいながら大型屋台が立ち並ぶ街道を歩いていく。

どれも見たこともないものが並んでおり、おいしそうな匂いとはしゃぐ子供たちの声であふれていた。

明るい赤や緑や水色黄色のとりどりの屋台をのぞいて歩くうちに、ファナが声を上げた。

「ねぇ、あれって何かな?」

彼女が指差す方向には大型の特注舞台が設置された屋台であった。

即興で作られたものらしく屋台の土台を隠そうともしていない。

沢山の人だかりが出来ていてワーワーと大人達の興奮した声が飛び交っている。

「のぞいてみよっか!」

ものすごい人ごいの中をファナとはぐれぬように手をつないでいく。

人だかりの合間を縫ってやっと舞台を見上げるとそこには円形の板が数個並べてあるだけだった。

「・・・?」二人して顔を見合わせているとオーと歓声が上がる。

不思議に思ってみれば誰か見知らぬ女性が、すらりと長い左手の指先に針のようなものを持っていて流し目で歓声客を見ている。

「いーぞねぇちゃん!」「中心に当てろー!」

野次はほぼ胡散臭いおじ様方たちの声であり、舞台に立つ女性はあきれたように見渡している。

けれどウウィンク一つすると歓声が沸きあがる前にさっと左手を振った。

目にも留まらぬ速さで針がなげられ、それが木の的に命中した。

5メートルも離れているのに見事針は的のほぼ中心部に突き刺さった。

「だれか私と勝負する?勝てばこの賞金をあげるわよ。負けたらねぇ、奴隷にでもなってもらおうかしら?」

セクシーなその女性がにこっとして言えば、むさい男達は我先にと試合量を払いに屋台の主人のもとへと猛ダッシュしている。

「賞金は金貨10枚よ!いい子に並びなさいね!」

「金貨十枚だって・・・すごいね」ティアが言うとファナも頷く。

それは中級騎士の給料ほどで、裕福なものでもおやそんなに?と言う金額だ。

ティアからすればそんな金額触ったことすらない。

ファナは貯金で目にしたかもしれない。

「金貨十枚で、しかも負ければあのねーちゃんの奴隷になれるんだ。これはやるしかない!」

もう二人の目の前にはそんな考えの男がわんさかと立ち並び、あっけなく負けていく。

けれどその顔はでれでれと負けちまったぁ、などと口走ってうれしそうだった。

「それじゃあ、あんた達奴隷さんはここを宣伝してきなさいよ!」

びしっと厳しい口調で女性が言うと、でれでれ男達はそろって頷いて立ち去ってしまう。

「コレはダーツですね」久しぶりに声がして、振り向けばウルだった。

「ティアもやったらどうかな?預言書の飛刀使えば楽勝よね!」

ミエリがいたずらっぽそうに言うけれどそれは無理な話だ。

『…あのダーツの矢しか使えないみたい…』

空中に浮き上がってネアキが言う。

その視線はセクシー女性が投げるダーツに集中している。

「おまえならすぐ、奴隷になりそうだぜ・・・んあ?」

ムリムリと言った感じでレンポが言うが、何かに気づいたようにそのネコ目を舞台へ向ける。

「あれは・・・あのひねくれ屋じゃないか?」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照1900越えました!
あと100で2000ですね!!

これからしばらくイヴが続きます。
でもけっこう長い文章にするので10も続かないはず・・・たぶん

ティアの楽しい時間はこのイヴと大会で終わりますからね・・・できるだけ長くしたいですが・・・

Re: アヴァロンコード ( No.197 )
日時: 2012/10/13 19:50
名前: めた (ID: UcmONG3e)

本編の前に、ひとまずダーツの初期知識を書いておきます
コレがないと多分わからないと思うので・・・
わかる!べつにしらなくていいや!って人は飛ばしちゃってください!

まずダーツを投げる円形的—ダーツボードについて説明します。
ダーツボードには外側から円が5つあります

まず外側は黒く、次にダブルリングと呼ばれる円があり、その中に真っ赤な円、トリプルリングがあります。
トリプルリングの中心にブルと呼ばれる円があります。
ブルには外側円と内側円があり、外がシングルブル。
内がインナーブル(ダブルブルともいいます)

ダーツポイントの中心はインナーブルです。
高得点は中心から外側に向かって低くなっていきます。

また、1スロー三本のダーツを投げられます。
1ゲーム三本投げられると思ってください。

本編ではダブルリング20、トリプルリング30、シングルブル50、インナーブル70点です。

多分コレくらいでわかると思います。
では本編へ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

見上げると、本当にレクスがそこにいた。

舞台に立ってダーツの矢を受け取っているところだった。

「ほんとだ!レクスだよファナ!」

すっかりビックリしてさけぶと、ファナも同じように驚いていた。

精霊たちも興味深げに視線をそちらに向けている。

その舞台の上、レクスが女性と勝負する番が来ると、野次はいっそう高まった。

「こんなガキ負かしちまってよねぇちゃん!」「オマエに勝てるのかー」

けれどレクスはこちらを一度も見ずにタダ無言で的だけを見ている。

まず女性が両手をいつものように振りながらアピールし、続けざまに的めがけて投げた。

スタンッという音と共にダーツの的に突き刺さる矢。

その切っ先は円形の赤丸に—トリプルリングのさらに中心シングルブルに刺さっている。

50点!と誰かが叫び、レクスに勝ち目がないと早くもやじっている。

そして続けて矢を投げていく。

二投目はトリプルリングに。三投目は再びシングルブルに突き刺さった。

50・30・50合わせて130点だった。

「さぁ、次アンタの番よ」

セクシー女性が腰に手を当てていう。

「わかってるでしょうけど、これは1スローのゲームだからね!1スローは三本勝負のことよ!三つのダーツを投げて総得点で競うのよ」

毎回相手にそういう女性。レクスは飽き飽きだという顔で頷く。

そしてダーツを片手で持ち上げてすっと投げた。

無重力のようにつきささったダーツの矢はダーツボードの中心に—インナーブルに突き刺さっていた。

「な、70点・・・」騒ぎに騒いでいた野次馬達は顎が外れたように驚いてしまっている。

唯一ティアだけが何故そんなことが出来たのか理解していた。

「あの人には、飛刀の才能が大いにありそうですね」ウルも感心していう。

そして二投目も三投目もそろってインナーブルに直撃した。

総合得点は210点。

満点の結果だった。

女性もすっかり驚いてしまい、野次馬はいまやレクスに祝いの言葉を浴びせている。

「賞金金貨十枚だろ?すげぇな!」けれどいくら待っても賞金は出てこない。

数分後、護衛騎士が走ってきてこの屋台の主人が逃げたということを知らされた。

野次馬達はかんかんに怒って探し回り、セクシー女性は雇い主がいなくなってうろたえている。

レクスは諦めたように舞台から降りてきて、せめてもの埋め合わせをとセクシー女性から参加料と5人分の参加料を受け取っていた。

けれど銅貨が7枚くらいで、金貨十枚には程遠かった。

「ひどいことするのね!あの人かわいそう」

「でもよ、アイツなかなかやるよな!中心に三回も当てたんだぜ!」

精霊たちがいうなか、ティアとファナはレクスをねぎらいに駆け寄った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

今回はダーツの屋台の話でした。
私もあまりダーツには詳しくないのですが、いろいろ調べて書いてみました
間違っている点があれば修正しますね



Re: アヴァロンコード ( No.198 )
日時: 2012/10/14 15:45
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「すごかったね!」

ファナがいうと、レクスは当たり前だという顔で頷く。

「まぁ、あんなの子供だましだろ?」得意げに言うがティアがネタバラシする。

「だってレクスはヒマさえあればダーツやってるもん!家中の柱を的にしてるしコレくらい簡単だったでしょ!」

「な、あれだって難しいんだぞ?ティアは一度も的に刺さらなかったし・・・センスの問題だぞ」

妹分と兄貴分の言い合いをおかしそうに見ているファナ。

その横でティアに何故飛刀の才能がないのか理解した精霊たち。

つまりは、ティアにはダーツとか投げ物のセンスがないのだ。

預言書の恩恵を受けていなければ悲惨だったろう・・・・。

「まぁとにかく・・・銅貨7枚儲かったし、何かおごってやろう」

ファナとレクスとティアはとりあえず込んだ人ごみをぬって食べ物の屋台をめぐることにした。

「珍しいものを売っている屋台があるんだ・・・」

まだ昼時ではないため食べ物や対周辺にはそこまで人ごみがない。

なので横並びに並べるほどの余裕があった。

おしゃべりしながら歩いていくとものめずらしげな香りが風に乗って運ばれてくる。

「デュランが先についてるはずなんだけど」

その香りに釣られて一軒の小型屋台に足を向ける。

香りの元のカラフルな南国風の屋台は太った男が経営していた。

やはり香りに誘われて人ごみが出来ている。

「あ、やっときたんだね!」すると人ごみの中から親しみのある声がかかる。

よいしょと人ごみを抜け出てきたデュランが、三人の前に立つ。

「何が売っているの、ここ?」ファナが興味心身で問う。

あいにく人だかりで販売物が見えないでいた。

ただ屋台の高い位置におじさんが座っているのであの人が販売人だとわかる。

「あぁ、これだよ」デュランが差し出したのは透明なガラス瓶に入った奇妙なもの。

四角形の氷のようなものがつめられている。

一センチほどの正方形のそれはわずかだがほんのり沢山の色で色づいており、ふたを開けると果物の香りがした。

「なんだよこれ」レクスがまじまじと見ていう。

精霊たちはウルを一斉に見るが、ウルも首を傾けていた。

「まずどんなものなんですか?見えませんので」

ちょっとおかしそうにウルがいうと、精霊たちは口々に特徴を言う。

「あー?透明で四角いんだよ」

『…やっぱり馬鹿…』

なんだと!とネアキとレンポがケンかに突入し、ミエリがやれやれといった感じで報告を続ける。

「ええとね・・・氷の塊みたいで色がついてるの。形はレンポのいったとおり四角形。果物の香りがするガラスみたいなものね!」

「やはり記憶にありませんね。その人自らの発明品でしょうか?」

ウルのいうとおりそれは太ったおじさんの手作り品だった。

最近発明したもので、世にあまり名をはせていないらしい。

値段が手ごろなのでデュランは早速買ったらしい。

「食べてみなよ、へんな食感なんだ・・・」

三人は差し出された瓶の中身の、四角形に手を伸ばす。

氷をもっともろくした感じの手触り。

それを口に入れると、氷のような硬い感じではなくがりっと言うようなすぐ崩れるような食感。

そして冷たいかと思っていたが案外常温だった。

色は適当らしく、水色、ピンク、黄色すべて変わった果物の味がした。

ほんのり甘いそれは粉々になるとすぐに溶けてしまい、もう一度食べたくなる味だった。

「名前はなんていうのかな、これ」

ウルが知りたそうな顔をしていたのでデュランに聞くと、果糖石だといわれた。

「あぁ、果糖ですか・・・。果物から取れた糖分のことですね」

冷静に言うその背後では残りの精霊が暴れ狂っている・・・。

ミエリが仲裁に入っているがその光景はなんだか笑えた。





Re: アヴァロンコード ( No.199 )
日時: 2012/10/14 17:19
名前: めた (ID: UcmONG3e)

昼時になると、人々の群れは方向転換したように食べ物屋台へと目的を変えた。

けれどそれを見越して昼時前に食べ物を買っていたティアたち一行は、両手に簡易食料を携帯して、娯楽屋台へと向かっていた。

ダーツ屋台は撤去されて、そこだけ広いスペースが空いている。

騎士達がその周辺を捜索しており、詐欺を働いた男の行方を追っている。

「そういえばね、さっきダーツで詐欺があったらしいね!誰かが満点優勝したのに賞金が渡されなかったって・・・」

デュランはその場にいなかったので、その真横の人物こそ優勝者だと知らない・・・。

「金貨十枚だもん、おしかったろうねその人」

それ俺、とレクスが言わないので、デュランはその人にあってみたいなぁなどといっている。

結局次の屋台に着くまでレクスは自分が満点の優勝者だといわなかった。

カメすくいや射的をやった後、ファナの帰るときが着てしまった。

「私そろそろうちに帰らないと・・・」

ファナがすまなさそうに言うと。

「なんだ、もう帰るのか」いわれてファナは頷く。

「じゃないと、夜の大会有力出場者発表にいかれないの。きっとティアが出るんですもの!絶対みたいから・・・」

ファナをファナの家に送り届けるのも一苦労だった。

もう一度込んだ人ごみを抜けていくのは、空気圧を押しているようなものだった。

無理やりに人の流れに逆らって帰れば、帰りが遅いとヘレンに怒られた。

「とにかく、ファナは夜まで大人しく眠るんだよ!でないと連れて行ってあげないからね!」

ヘレンがそういい、ファナはしぶしぶ二階へ上がっていく。

ヘレンはファナの姿が見えなくなるまでその背中を目で追っていたが、やがてティアたちに向けた。

「ありがとうねぇ。久々の外出だから、あの子も夢中になっていたんだね・・・それじゃあまた夜に会おうね」

ヘレンに別れを告げ、再び人ごみに入ろうとしたとき。

「やっと見つけたわよ—!」

少々怒り気味の声が三人にかかる。

そろって声のする方向を向くと、そこにはシルフィがいた。

「あ、シルフィ。何してるのこんなところで?」

あっけらかんとした口調でティアがたずねるとシルフィはつかつかと近寄ってくる。

それに気おされたようにデュランとレクスが一歩下がる。

「何してるのこんなところで—じゃ、ないでしょ?!」

シルフィはティアに詰め寄ると怒りを発散させている様だった。

「まったくもう!何で人間ってこんな呑気なの!!」

「・・・なんかコイツ、毎回怒ってるよな。草原であったときもそうだったし」

レンポがいう。まったくその通りだと残りの精霊たちも頷く。

「ご、ごめんね、シルフィ。何で怒るの・・・」

怒れるシルフィにたじたじのティアがそういえば火に油を注ぐ様でますます怒りのボルテージが上がる。

「何で怒っているかわかっていないっていうの!それはね、あなたがいつまでたっても見つからなかったからよ!!」

理不尽な理由で怒るシルフィ。

「探してたの?私を?あ、一緒に回りたかったの?」

言えばすぐにシルフィが真っ赤になる。

エルフ特有の長い耳まで真っ赤に染まり、クリスタル色のきれいな瞳が見開かれた。

「そ、そんなわけないでしょ!何で私が人間なんかと一緒に!!」

この五分間で一番の怒鳴りが炸裂し、ティアはひいっというように耳を覆った。

「〜っ、もういいわ!お父様があなたのことを呼んでいるのよ!!そうでなければ私があなたを探すはずないでしょ」

フンとそっぽを向いてシルフィがいう。

「ゲオルグさんが私を・・・?どうして?」

「今夜の有力選手にあなたが入っているからよ。その打ち合わせにあなたが呼ばれているの。それでわざわざ呼びに来たのよ」

ほら、いくわよ?とシルフィがいえば、ティアは慌ててレクスやデュランに向き直る。

「—というわけで、ごめんね。二人でまわってて!夜にまた会おうね!」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

もうすぐ2000いきそうですね!
ありがとうございます!

Re: アヴァロンコード ( No.200 )
日時: 2012/10/14 18:11
名前: めた (ID: UcmONG3e)

シルフィはティアを連れ出してから数分間まったくの無言だった。

早足で風を切る姿をみて、大勢の人ごみが二つに分かれる。

人目を引くきれいな容姿のシルフィはこういうときとても便利である。

一方のティアはその後を預言書を抱えて慌ててついていく。

シルフィの威容に早い早足はティアには難易度が高かった。

小走りしないと追いつけない。すぐに息が上がってしまう。

「まってよ—シルフィってば・・・」

いうが、シルフィはとまらない。

そしてあるところにつく。

シルフィの父親、ゲオルグの邸宅。

真っ白の美しいホワイトハウスにつくと、そこにはゲオルグが待ち構えていた。

如雨露片手にこちらに気づいたようだった。

美しい真紅のバラから視線を上げてああ、と顔を上げる。

「やっときたかい。シルフィ、ありがとう」

如雨露を地面に置き、ゆっくり歩み寄ってくる。

「さぁ、さぁ。こちらへおいで」

ティアをいえにまねきいれ、二階へ連れて行く。

二階に有力候補者が勢ぞろいしていると思っていたのだが・・・。

清潔な部屋の中、誰もいなかった。

「・・・?」

ティアが首をかしげていると、シルフィが部屋の奥を指差す。

「転移魔法よ」

真っ青な魔方陣がくるくると床の上に踊っている。

アレが魔法・・・?

「転移って・・・どこにつながってるの?」

聞いてみれば、シルフィは腕を組んだままフランネル城と冷たく言った。

「これこれ・・・せっかくティア君と仲良しになっていたのにそう冷たくするんじゃない」

ゲオルグがたしなめるとシルフィがまた赤くなる。

「エルフと人間は友達になれっこないの!」

まぁいいが、とゲオルグがきょとんとするティアにいう。

「シルフィのいうとおり、これはフランネル城に続いている。祭りの間城への道は封鎖されているからね。ついたら、じっとしているんだよ」

そしてぽんと背中をおされ、視界が真っ青な光に包まれた。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照がついに 2 0 0 0 越えました!
皆さん本当にありがとう!
ちなみに返信も200丁度。

これからもお願いします。

Re: アヴァロンコード ( No.201 )
日時: 2012/10/15 23:58
名前: めた (ID: UcmONG3e)

世界が反転するような気持ちの悪い感覚に、ティアはあえて目をつぶらないで耐えていた。

どこまでも真っ青な世界に視線を走らせていく。

きっと目をつぶれば余計に吐き気が増すだろう。

ブラックホールあらためブルーホールに吸い込まれる感覚が強くなり、胃が絞り上げられるような非常に気持ち悪い感じがピークに達したとき、急に真っ青な世界が崩壊した。

ちかちかする視界に、落ち着いた色がはびこってくる。

茶色の実に静粛な色たちがティアを迎えた。

「ここ・・・どこ?」

ちょっとふらつく足をムリに動かして辺りを見る。

そこは落ち着いた感じの書斎というべきところか。

茶色の高価そうなテーブルが一つ、脇には巨大なベットが置かれている。

そのほかは特に目立つものもない。

あるのは同じく茶色の本棚と、小さな机とその上に置かれた写真立て位だ。

「あのエルフは、目的地がフランネル城だっていってたけどなぁ?」

ティアと同じようにきょろきょろしていたレンポがいう。

「どうやらここは・・・・」ミエリから部屋の様子を聞いたウルがいう。

「王様の部屋のようですね・・・」

ウルのその一言にティアはビックリして振り返る。

「あの派手好きな王様の部屋?!ウソ!」

するとタイミングよく背後より声がする。

「驚いたようだね」魔法陣より出てきたのはゲオルグ。

「そうだよ、ここはカレイラの国王ゼノンバート様の部屋だよ」

ゲオルグのすぐ後からシルフィまでついてきた。

「その証拠にね、みてごらん」

ゲオルグは小さな机を指差していう。

その先には写真立て。

そこには品のいい女性が優しく微笑んでいる。

どこかで見たような女性・・・。

「ワシの妃であり、ドロテアの母であり、カレイラの華であった」

背後から王の声がした。










Re: アヴァロンコード ( No.202 )
日時: 2012/10/16 00:33
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「マイアだ。多くの国民に愛され、今はカレイラの墓地に眠っている」

ゼノンバートが扉を開けて入ってくるところだった。

先ほどの、派手好きな王様〜は聞かれていなかったようで、ティアはほっとした。

「さて、ようやく来たか英雄よ」

マイアをいとおしそうに見つめていたゼノンバートはいつもの顔に戻りティアにいう。

「待ちくたびれたぞ。さぁ、ついてくるがよい」

いうなり、くるりと背を向けて出て行く王。

ティアは彼女の前を素通りして王についていくエルフ親子を慌てておいかけた。

『…またパーティーでもするの…?』

ネアキがうんざりという表情でいう。

「えと・・・どうかな。打ち合わせとか言っていたけど・・・」

ティアはあいまいに返事した。派手好きな貴族やらがまたいて、パーティーを始めないとは言い切れなかったからだ。

とにかくカレイラの高貴なやからはパーティーがすきなのだ。

付き合わされる身としてはつらい。

「パーティーじゃないといいけど・・・」

そんなため息と共にお目当てのところへついたようだった。


国王、ティア、エルフ親子がたどりついたのはあまり広くない部屋。

そこにはすでに有力候補者たちが勢ぞろいしていた。

ハオチイやお師匠様のグスタフ、ナナイーダにルドルドまで勢ぞろいだった。

「あら、やっときたのね」ナナイーダがティアの姿を見ていう。

どうやら、ティアで最後らしかった。

預言書を抱えて慌ててみなの元へ走りよると、王が話を再開した。

「ここに集まる選ばれし5人は、大会での有力候補者—つまりは優勝者ではないかと思われる人々に集まってもらった」

みんなわかっているらしく動じない。

「もちろん一つ前の大会のように・・・予期しない優勝者が出る場合もある・・・」

国王は声を落とした。

いっせいにハオチイ、ルドルド、ティアのお師匠様のグスタフの目つきが鋭くなったからだろうか。

「・・・?」

ティアや最近カレイラにやってきたナナイは事情が飲み込めずに顔を見合わせる。

「10年前、有力候補者を勝ち抜け、勝利を手にした男がいてね・・・身元不明の名もなき戦士だった。その後の行方もわからず、今もわかっていない」

ゲオルグがナナイとティアに説明する。

そうやら目つきを悪くした彼らが、その謎の男と一戦交えて負けたらしい。

お師匠様が負けるなんて・・・いったいどんな人?

けれど深追いはしないで置こう。グスタフの機嫌は元に戻りにくい。

「とにかく、今回またあの男が来るかどうかはわからない。けれど、君たちはカレイラの・・・ローアンの大目玉だ。もうじき選手発表の時刻だからここで待機しているといい」

そういうと、小間使いが一斉に部屋に入ってきて一人ひとりに椅子をいきわたるように設置し始めた。

どれも豪華そうな椅子でさすが王宮と言ったところか。

そのうちの一つに座ると、ティアは足をぶらぶらさせながら夕刻のときを持った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

もうじき2100になりそうです!
一日一回の更新が守れるようにがんばります・・・



Re: アヴァロンコード ( No.203 )
日時: 2012/10/16 00:56
名前: めた (ID: UcmONG3e)

もうじきと迫る夕刻のとき。

オレンジの光が建物の合間よりこぼれ出ている。

そんな光の中、一人の青年がカレイラの土地を踏んだ。

カレイラでは見ぬ肌の色と、長い紅色の髪。

おなじみの肉食獣のような黄色の目をもつ彼は黙って人ごみを抜けていく。

「エエリはいったい何を考えているんだ・・・俺をこんなところへ送り込んで」

ぼそっとつぶやいた言葉はすぐに、人ごみにかき消された。

砂漠からの訪問者の小言に気を止める人などいなかった。


同時刻、ファナはもうすぐ迫る楽しい時間を心待ちにしていた。

ベットに横たわるも、眠れない。

暇つぶしにと窓を開けてそよぐ風に目を細めている。

窓辺に頬杖を着いて、もうすぐ治るだろう体を心待ちにする。

あと少ししたらすっかりよくなる。

そしてティアと一緒に草原や森を思う存分駆け回るのだ。

約束した、ギンツバキを探しに行くこともできる・・・。

そして行方不明の父親を探しに出ることも出来る・・・・。

「お父さん・・・どこにいったの?」ファナはつぶやいた。

「お母さんは死んでしまったわ・・・おばあちゃんも寂しそう」

優しすぎる風に吹かれてファナは涙を流しそうになった。

慰めるように髪をなでていく風に、ファナは涙をこらえるために瞬きをした。

「早く帰ってきてね、お父さん」

そうつぶやいた瞬間だった。

ファナの目がすっとある一点に釘付けになる。

眼下の人ごみの中に、見覚えのある人物・・・?

あれは・・・。

「! ティアをさらった人だわ!なんてこと!」

ファナは思わず叫んでいた。

「またティアをさらいに来たのかしら!どうしよう!!」

けれどすぐその人は人ごみにまぎれてしまった。

ファナはしばらく硬直していた。

見間違いだったのだろうか、と自身を疑ってしまう。

けれどそれを確かめるすべはない。



Re: アヴァロンコード ( No.204 )
日時: 2012/10/17 00:16
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアたちはそのときが来ると小間使いたちに促されていっせいに移動し始めた。

目指すのは、ゲオルグ邸宅。

なんのためにフランネル城に集合したのやら。

ふたたびゲオルグの家とフランネル城を結ぶ転移魔法を経て、落ち着きのあるゲオルグの家へと戻った。

真っ白を基調としたゲオルグの部屋につき、残りの人々が来るのを待つ。

すると、なんだか外が騒がしいのに気づいた。

いくら祭りといえど、これは声が届きすぎではないかと思うほどだ。

もしかして、ゲオルグの家の前で何か始まるのかもしれない。

もしや劇団か何かが公演でも開いたのかも。

そう思って窓をのぞくと、なんとそこにはアリエナイ数の人々がいるではないか。

ティアは思わずビックリして飛び上がりそうになった。

それもそのはず、今からここで大会出場者の発表が行われるのだ。

当然祭りとは並行しているのでたいした人数も来ないだろうと踏んでいたのだが、読みが外れたようだった。

まるで国中の人々が集まったかのようにひしめき合う人々。

それもまだまだ発展途上・・・増加中だ。

ティアはすっかり怯えてしまいまどから後ずさる。

「あらあら、すっごい人ねぇ。アタシたちって人気者ねぇ」

いつの間にか隣に来て同じように窓の外をのぞいたナナイーダ。

ティアの緊張がちがちとは打って変わって、彼女は余裕そうで人事のようにいう。

何いっているのこの人と言った感じでティアが見ると、ナナイーダは相変わらず目立つ大胆な服を着ていた。

へそを出し、肩等の露出も高い服。

どうせならもっと凄い服を着て・・・全員の視線を奪ってくれたらなぁとティアは思う。

けれどそれはムリだ。

ティアも英雄の名と共にしれわたり、目玉の一つとなった。

カレイラの英雄で、この中で最年少。目立たないほうがおかしい。

「けっこうけっこう。後十五分ほどで夕日は沈む」

ゲオルグがうれしそうにいう。

「そうしたら君たちの出番だよ。まだまだ人は増える。大いに結構」

ニコニコとうれしそうなゲオルグ。それを恨めしそうに見るティア。

ティアの心はがくがくで今にも折れそうだ。

こんな人の前でどうしろと?

「まだ慣れないのね・・・ティア」するちミエリがいう。

ティアの不安げな表情が写ったかのように彼女もまた不安顔だ。

「まったく、変なヤツだよなぁおまえは。戦いのときは果敢に挑むくせに、こういう人前に立つと震え上がるなんて!」

レンポがその横で言う。

『…人の前に立つの…こわいこと…?』

ネアキが首をかしげて聞いてくる。

ティアはゆっくりと頷いた。慣れてしまえばいいのだが、何故だかなれない。

「まぁ、これは時が解決してくれるでしょう。ティア、そんなに恐れなくともいいのですよ。普段のままでいればいいのです」

ウルが励ましてくれるが、ティアの顔色は悪いままだ。

時計の針を見上げて、一秒刻みで残り時間を削っていく針をにらみつけている。

あぁ、あと十五分ではじまってしまう・・・・。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

前夜祭メイン行事に入ります
けど、あまり長くないですね。
2,3かいたらもう大会当日です

それと2100いきました!ありがとうございます!

Re: アヴァロンコード ( No.205 )
日時: 2012/10/18 23:09
名前: めた (ID: UcmONG3e)

おお、いつの間にか参照が2250越え・・・ありがたい
すみません今テスト期間中な物で明日から連続更新復活します!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


夕日が沈み、空が暗青色に変わった直後。

金色のトランペットが甲高いファンファーレをとどろかせた。

それを合図に空に花火がうちあがり、炎色反応によって空をさまざまな色に染め上げていく。

花火とファンファーレ、歓声に包まれるここは、ローアンの町長ゲオルグ邸宅。

真っ白のホワイトハウスの屋上には、ゲオルグがいつもの真っ赤な背広を着込んで集合した見物客に手を振っている。

その一つ下のベランダにティアたち一行が待機している。

すっかり緊張でこわばるティアをよそに、ゲオルグは両手を広げて民達に語りかけた。

「善良なるカレイラの諸君!」

その声は拡声器なしでも十分に届く声だった。

「ようこそ我がローアンの街へ!」

広げた両腕をそのまま屋上の手すりにつけ、教壇から生徒に話すような姿勢になる。

「明日は待ちに待った大会の日。十年に一度の大会が開催される。今夜は前夜祭だ!」

うオーッと声が上がり、聴衆者はすっかりうれしがっている。

その声にティアはますます真っ青になり、不安げな顔をする。

すると抱えていた預言書より赤い火花を散らしながら炎の精霊—レンポが現れた。

ティアの頭上を飛び終えてそのすぐ横にふわりと浮遊する。

きょろきょろと辺りを見回してものめずらしげな表情をしている。

「お?なんだか楽しそうだな!」

あぁ、そうだった—今夜は大好きな祭りの日・・・。

さっきまで友達と楽しく過ごしていたんだったなぁ。

そういえば、ファナもレクスもデュランも見に来るって言っていた。

そう考えると、なんだか急に不安げな気分が吹き飛んだ。

うんっとうなづいて視線を民達に向ける。

視力のいい目を走らせて友人の姿を探す。

「知ってのとおりこの大会は出場者同士一対一で戦い勝ち抜き戦で優勝者を決める」

その間にもゲオルグの演説は続いている。

「優勝するのはたった一人!」いいながら左手を空に伸ばし、人差し指のみを突き出して一人の部分を強調した。

すると再び民達の歓声が重なり、ひどく興奮したものは脱帽なんかをしている。

ぶん投げた帽子が帰ってこないと知っているのだろうか・・・。

「さて、今回の大会は各地からたくさんの立候補者があつまっている」

腕をしまいゲオルグは続けた。

「四大流派の師匠たち。謎の大物。先の戦で活躍した英雄」

一区切り入れると、両手を口に添えてここ一番の声を出す。

「有力な選手を紹介しよう!」

みなの視線がすっとさがり、ゲオルグから一階下の選手達に注がれる。

いっせいに目が合いそうになり、ティアは慌ててどこか遠くのほうを見た。

背の関係から一番前の中心に立たされたティアは、嫌でも注目を浴びてしまう。

もじもじしていると、紹介が始まっていく。

ティアのすぐ横に立つナナイから順に。

「砂漠から来た魔女。ナナイ!」いっせいに注目を浴びたナナイーダは余裕層に笑みを浮かべている。

隣で超緊張モードに突入したティアなどどこ吹く風だ。

もともとエキゾチックで大胆な体つきの彼女は、コレを機に人気が上がりそうだ。

たくさんの声援のうち、半分は男性人の声だ。

「カレイラの英雄、最強の爆弾マスター、ハオチイ!」

ハオチイもにこやかに短い腕を懸命に振って歓声にこたえている。

英雄となれば、歓声も一段と高い。

「剣術道場主、双剣のグスタフ!」

ティアのお師匠さまはお辞儀をし、さすが常連というべき反応だった。

この大会の有力候補者に選ばれたの何度目だろう?

とにかく落ち着いていて、余裕があった。

「森の守護者、飛空槌のルドルド!」

筋肉隆々のルドルドも常連者であり、分厚い二の腕を構えて見せている。

結構な人気者であり、グスタフとまけず劣らず歓声も大きかった。

そしてティアは足が震えだすのを感じる。

次は自分の番だ・・・。

「そして同じくカレイラの英雄にして奇跡の本を使う勇者ティア!」

大勢の歓声に、はわわっとしていた表情をあわてて引き締める。

もっとまえにいけよっとレンポに言われておずおずと踏み出す。

そして4人と混じっておずおずと手を振った。

「他にもさまざまな国からたくさんの参加者がそろっているぞ!」

歓声に混じってゲオルグがいう。

割れるばかりの歓声にティアたち五人は精一杯手を振り替えした。

花火が打ちあがり、ファンファーレがなる中、こうして前夜祭メイン行事が巻く閉じた。





Re: アヴァロンコード ( No.206 )
日時: 2012/10/19 00:13
名前: めた (ID: UcmONG3e)

メイン行事が終了し、ゲオルグの邸宅前は再び封鎖された。

でないと、出てくる五人の有名人が帰れないからである。

もしそうでなければ、取り囲まれてあれやこれや聞かれたり、しつこいほどに何かねだられたりしてしまっただろう。

ゲオルグの計らいは完璧であった。

騎士達が立ち退き拒否者達をさっさと片付けてくれたおかげで、ティアたちが出て行くとき護衛の騎士しかいなかった。

「帰りはなんだか寂しいのね」ナナイーダがふふんと笑っていう。

なんという余裕だろうか。ティアのようにすくみあがったりせず、堂々と受け入れるタイプらしい。

「ふん。大勢いれば身動きできぬわ」グスタフがその後に続いていう。

「ルドルドもそう思うぞ。ゲオルグの計らいはとてもいい」

のしのしっとルドルドがでてくる。

「ワタシは人がいたほうが良かったネ!むふぅ」

ハオチイが出てくると、ゲオルグはゲオルグ邸宅に鍵をかけた。

王の下へ直通の転送魔法装置があるため、普段から厳しく見張りが施されているのだ。

騎士に護衛を頼むと、ゲオルグもシルフィを従えて5人の後についていく。

「さぁ、みなさん。夜間の祭りも祝ってくれたまえ」

そうわらいかけると、シルフィと共に足早に見回りだろうか?祭りに戻っていった。

「オレ達もはやくいこうぜ!」レンポが促す。

『…友達、まっているんでしょ…?』ネアキもいう。

それに頷いてティアは美しい明かり輝く祭りへ駆けていく。


ファナやレクス、デュランとは簡単に合流できた。

待ち合わせ場所を決めておいたのだ。

それはすなわち、あの果糖石のお店前。

甘い香りをたどればすぐに着くあの店だ。

「あ、いたいた!こっちだよー」デュランの声を頼りに人ごみを抜けていけば、待ち人たちの姿。

「ティア、凄かったね、人!」

ファナが興奮気味にティアにいう。きっとゲオルグ邸宅での有力者候補の演説の話だろう。

「ものすごい人だったよ。おかげで最前列にいけなかったし・・・」ぼやくのはレクス。

「でもそっちの方が5んんを良く見れたからいいじゃないか」明るくいうのはデュラン。

みな、笑顔である。

「すごいよなぁ、おまえは。この調子で大会で優勝してくれよ!」

ガッツポーズでいうレクスに笑顔で同意するファナとデュラン。

「あ、でも相手が僕だからといって手加減はやめてくれよ」慌ててデュランが付け加える。

「勇者はつねに正々堂々と戦うものなんだから!」

まだ戦うかどうかもわからないのにデュランはすでにやる気満々だった。

「お前が優勝したら一晩飲み明かそうぜ」

いつもより明るい表情のまま、レクスはそういった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

次回より、大会当日突入です。
やっぱり第五章はながいですねぇ
まだまだ五章はつづきますよ!


Re: アヴァロンコード ( No.207 )
日時: 2012/10/19 17:31
名前: めた (ID: UcmONG3e)

大会当日。ティアは何時もより早く目を覚ました。

すがすがしいほどさっぱりした空気の中、ティアはベットから身を起こす。

カレンダーには赤丸印。そう、今日は大会だ。

精霊たちの姿は見えない。きっとまだ預言書の中なのだろう。

それとも、ティアを気遣うためかもしれない。

大会が開催されるまで、まだ2時間ある。

気分を落ち着けるため、少し散歩でもしよう。


ティアは預言書を持たず、そっと家の戸を開ける。

振り向きざまに聞こえているだろうか、精霊たちに声をかけた。

「ちょっと散歩にいってくるね」

返事はなかったが、了承してくれた様なきがする。

そのまま家の外に出て早おきな者だけが味わえる、朝の世界を楽しむ。

何も考えずに歩いていると、いつの間にかティアの大好きな場所—陽だまりの丘についていた。

フランネル城がみえる。風が気持ちいい。

陽だまりの丘にある、黒い石碑に近寄る。

結局コレはなんなのかわからないまま。精霊に聞けばわかるかもしれないが・・・。

「あ、そっか・・・今は久しぶりに“ひとり”なんだ」

黒い石碑に寄りかかっていたティアは久しぶりの少し開放的で寂しい孤独感と何故だかわからない安堵感に包まれた。

何時もより穏やかな空を見上げて芝生に寝転がる。

本当に久しぶりだなぁ。こうやって一人でぼうっとするのは・・・。

心の中にまで透明になる感覚がティアをつつむ。

それからしばらくじっとして、鳥の鳴く声や風の音、草達のこすれる音に耳を傾けている。

すると気分がよくなって、なんだかリラックスできた。

そしてなんとなくまた精霊たちが恋しくなってティアは家へと戻っていった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

テスト終了
今日中にさっさと大会終わらしてやろうかなとか考えちゃってます!

しかも参照2300こえましたありがとう!!


Re: アヴァロンコード ( No.208 )
日時: 2012/10/19 18:24
名前: めた (ID: UcmONG3e)

カレイラの十年に一度の武芸大会。

それはローアンの競技場で行われる。

だだっ広い美しいタイル張りの競技場はざっと人が3〜4千人は入れる広さだ。

四角形のメイン競技リンクが6つあり、その正方形の中で選手は一対一で戦うのだ。

メイン競技リンクは石作りのさくがあり、その四方に勝利の女神像が立っている。

翼の生えた美しい女性達は剣、盾、弓、杖を握って皆目をつぶっている。

その石の柵の外は芝生になっており、観客がそこから見物できる。

ただ、爆弾、飛び道具など危険種目の場合離れて見なければならない。

6つの競技リンクのタイルはカレイラの建国歴史について描かれており、初代王の反映や、戦図、勝利図などさまざまな場面がタイルで美しく描かれている。

しかしそれだけではない。

競技場には7つめの競技リンクがあり、それは通常の二倍の大きさで競技場の中央に設置されており一番目立つのだ。

それは主に優勝決定戦のみで使用される。

と、満員状態の競技場にてやはりゲオルグが再び声を上げていた。

「皆さんお静かに!」7つ目の中心リンクにたってゲオルグが聴衆たちに言う。

「これよりカレイラ千年の歴史と伝統ある武芸大会を開催する!」

そのご、簡易ルールや手洗いの場所を詳しく伝えて、ゲオルグは本題に移る。

ゲオルグの話を合図に、わらわらとトーナメント表で合致した戦士同士が第一回戦A試合をするため、リンク上に上がってくる。

「相手が降参するか、戦闘不能になった瞬間勝ちが決まる。では—第一回戦A試合を開始する!」


そのころ控えよう選手エリアに待機しているティアは不安げにトーナメント表の目録を見つめていた。

今年は参加選手が多く、試合がA,B、Cと3区切りになっているのだ。

一回戦目で12人が争い、A,B、C合わせて36人ほどが争う。

ティアはB試合で戦うため、この次が出番であった。

「おかしいですね・・・」頭の中で計算していたウルが首をかしげる。

「第三回戦・・・誰とも戦わないものが出てきますよ」

え?ほんと?と計算し始める。

第一回戦→36人 第二回戦→18人 第三回戦→9人・・・・。

「ほんとだ!これ一対一よね?一人余る・・・」

書き間違えかしらー?とミエリが首をひねる。

「どうなんだろう・・・でもねレクスからもらった紙には特別参加者がくるんだって。その人に勝つと、優勝戦まで不戦勝でいけるらしいの」

ティアが紙を見ていうと、チートかよ!とレンポが突っ込む。

『…いったいだれ…?』

ネアキが首を傾げるも、その飛び入り参加が誰なのかわからない。

「ティアはたしか、B−2リンクよね。相手は誰かな?」

さぁっと肩をすくめる。

舞台に上がるまで、戦う相手はわからないのだ。






Re: アヴァロンコード ( No.209 )
日時: 2012/10/19 18:48
名前: めた (ID: UcmONG3e)

第一回戦A-6リンクにて、デュランはレイピアを構えていた。

初戦からこの相手か・・・。

うわあやだなぁと逃げたくなるような余裕そうな男。

頭は丸刈りでスキンヘッド、ぎらぎらする目はオマエのような雑魚、リンクに叩きつけてやるぞ!といっている。

「魔術、武術に制限はない。相手が降参するか、戦闘不能になったとき—」

ゲオルグがアナウンスを言っている間、デュランは男がにやりとしたのを見逃さなかった。

戦闘不能になったとき、に反応したところなど特に。

(うわぁ、絶対戦闘不能にするまでぼこぼこになれるんだ・・・どうしよう。僕なんでこんなところ来ちゃったんだろ?!)

ひ弱な自分がもう帰ろうよと誘ってくる。

(だめだ。せっかく練習したし、勇者になるんだ!)

レイピアをきつく握ったとき、ゲオルグの試合開始!という声が聞こえる。

「オラオラァ!」

途端に競技選手用の必須レザーアーマーをまとうスキンヘッドがティアと同じタイプの剣を手に迫ってくる。

だが双剣ではなくひとつだ。

「うひぃ!」ふるボッこにしようとする思惑ボロ見えの男の攻撃をひょいッとよけてレイピアを変わりに突き出す。

スキンヘッドもひょいッとかわすと串刺しにでもする勢いで剣をふってくる。

弱点、弱点。

ティアが戦うときに何時も無意識につぶやくこの言葉をハッと思い出した。

(そうだ!弱点を見つければ僕の勝ちさ!)

期待を込めてデュランはスキンヘッドを見る。

大柄な割には剣の攻撃がやわでデュランでも避けきれる。

しかも自分が負けるわけないと大振りに大降りで隙がいっぱいあるではないか!

(武器を取ってしまえば相手は降参するよね!)

デュランは思いっきりレイピアを剣めがけて突き刺した。

一回目も二回目もはずれ、三度目でようやく剣を吹っ飛ばした。

観客達が飛んでキタ剣を慌てて避けていく。

場外へ投げ出された剣はさくっと芝生に突き刺さり、王様の剣のように再び引き抜いてくれるときを待っていた。

「ちぃっ」

スキンヘッドはちょっとあせりだした様だった。

「やった・・・武器、とった・・・!」

デュランのこの声を聞いてスキンヘッドは素手で飛び掛ってきた。

あわててレイピアを突きつけると男はうッと詰まる。

喉元を保護されているとはいえコレはもう負けだ。

「ちっ・・・降参だよ」


第一試合・Aの部・

勝ち=★ 負け=☆

Aー1 兵士★:騎士☆
Aー2 国民☆:国民★
Aー3 ナナイ★:外来者☆
Aー4 ハオチイ★:騎士☆
Aー5 兵士★:兵士☆
Aー6 外来者☆:デュラン★


Re: アヴァロンコード ( No.210 )
日時: 2012/10/19 19:09
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアの番が来て、B−2リンクへの階段を上がっているとすでに勝利を収めたナナイーダとハオチイ、デュランが励ましてくれた。

「あなたと戦いたいから勝ってね」にこっとナナイが微笑む。

「ワタシも勝ったむふぅ♪ティアも勝ついいネ!」

爆風のすすまみれのハオチイがうれしそうにいう。

「やぁ、ティア!僕勝てたんだよ!」デュランまでもがそういう。

「君とは戦いたくないけど・・・お互いがんばろうね!」

そして笑顔のママ去っていく三人に手を振り、緊張気味にリンクへ上った。

「オマエなら余裕だな!」

レンポがしれっといてのけ、ティアに無意識にプレシャーを与える。

『…不死身の悪魔倒した…ティアなら勝てる…』

まぁ、不死身のアモルフェスを倒したのと人と戦うことを比較すれば、人に勝てないのはおかしいが・・・。

「あいてはティアとおんなじ剣ねー」ミエリが相手を見ていう。

「では、がんばってください」

試合開始!とゲオルグの声がいう。

相手はティアが英雄だと知らない外来者らしかった。

ひるまずに突っ込んできてがんがん剣をぶつけてくる。

(剣習い立て・・・?ぶつけてくるだけ、力任せ・・・)

これは・・・とおもい、ティアがその剣を思い切りはじく。

すると相手の少年はビックリしたように目を見開き、もたもたと剣を掴みなおしている。

その隙を見て、ティアは思いっきり振りかぶると野球のバットを振るように相手の剣を打った。

ガインッと凄まじい金属音がして剣が地面に落ちる。

「あわ!」少年が剣を失って困ったようにティアを見た。

「こ、降参です」たどたどしい口調でそういうと両手を挙げて降参ポーズをとる。



第一回戦・Bの部・

Bー1 外来者★:国民☆
Bー2 ティア★:外来者☆
Bー3 騎士☆:国民★
Bー4 グスタフ★:騎士隊長☆
Bー5 外来者☆:兵士★
Bー6 国民☆:ルドルド★

cの部は省略です。


Re: アヴァロンコード ( No.212 )
日時: 2012/10/20 15:27
名前: めた (ID: UcmONG3e)

人数が半分となり、18人で争うことになる。

第二回戦はA、Bふたつで、Aは4グループ。Bは5グループと別れている。

第二回線はしょっぱなからティアの出番だった。

指示されるままA−2リンクへあがるとそこにはあの人物が待っていた。

「デュラン!」

ビックリして叫ぶとデュランも同じ表情だった。

「あちゃーっ、君と当たったのか・・・」いやぁまいったまいったぁと頭をかくデュラン。

けれど先ほど一回戦を勝ち進んだことがうれしく、また彼に少し自信を付けさせたのだろう。

怯える様子はなかった。

「でもね、僕逃げないよ。だからティアも本気で戦ってくれよ!」

「へぇ、コイツ・・・前よりましになったんじゃねぇか?」

その意気込みをみて、レンポは驚いていう。

たしかにデュランは大会前の貧弱ではなくなったかも、とティアも思う。

「わかった・・・デュランも手加減なしね!」

試合開始の合図と共にティアは強く地面を蹴って、デュランのレイピアを剣で叩きつける。

「う・・・わ!」

デュランは弾き飛ばされそうになったレイピアを両手でもち、さっと引っ込める。

ぶつかり合っていた剣とレイピアの間で鋭い金属音が響く。

「っっつ」レイピアを奪おうと全体重で切りかかっていたティアは支えを失い少しよろめく。

それをチャンス!とばかりにデュランがレイピアを突き出す。

だがその瞬間、ティアがにっと笑った気がした。

ワーワー歓声を上げている観客の声など頭には響かない。

ただ、スローモーションのようにティアが身を翻してデュランのレイピアをはじき、レイピアが方向を変えて腕ごとそる。

「!!」

ティアが凄い勢いで双剣の左剣をぶんっとなぐように振り回す。

デュランの腹部めがけてであり、デュランの額に汗が浮く。

「ひわっ!」

ひょいッとエビぞりしてその攻撃をかわすと、また強い風きり音がした。

今度は何だ?!と視線を腹部から上げれば、ティアのもう一方の剣がもうすぐそこまで迫っていた。

剣の軌跡からすると、狙いはデュラン本体ではなくデュランのレイピア。

(レイピアがなくなったら負ける!!)

そうわかった途端デュランの足が勝手に動いた。

ささっとステップを踏むかのように後方へバックステップしたのだ。

そのすぐ目の前を、ほんの鼻先をレイピアをしとめ損ねたティアの剣が掠めていく。

ティアが一瞬おどろいたようにデュランを見ている。

(僕—よけきれた・・・?)

自分でも信じられずに目を見開く。


「あら、この子成長したわねー!」ぱちぱちと拍手するミエリの声でティアは我に帰った。

デュランのかわし技にちょっとビックリしたのだ。

(意外っていったら変だけど・・・いまのすごい・・・)

自分も負けていられないとデュランに攻めていく。

デュランは迫りクルティアにハッとした様だった。

その隙を突いて双剣で挟み込むようにレイピアを打ち付ける。

衝撃音とものすごい振動でデュランは腕がしびれあがった様だった。

握力の弱ったデュランのレイピアはいとも簡単に奪え、3分でティアの勝利となった。



Re: アヴァロンコード ( No.213 )
日時: 2012/10/20 15:58
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「いやぁ、まけちゃったよ・・・」勝利の決まった者同士の握手の後、デュランは頭をかきながらいった。

「やっぱりティアは凄いね。戦えてよかった」

「でも、デュラン。デュランのバックステップすごかったよ!」

そんなこといいながら第三回戦ブロック進出者専用地に行く。

まだ専用椅子は一人分子か埋まっていず、ティアを含めて二人の選手が戦いを終わらせた様だった。

まだまだリンク上では3組が争っている。

「あのときはね、なんだかわからないけどとっさに足が動いたんだよ!」

デュランが先ほどのバックステップをもう一度してみようとウサギのように飛び跳ねる。

いや、デュランの帽子についているユウシャノハナが白く長くて、まるでウサギの耳の様なので、まさにデュランは白うさぎぽかった。

「あれぇおかしいな。さっきは出来たんだけど・・・」

肩をすくめるデュラン。

「また戦ってみたら出来るんじゃないかな」ティアがいうとデュランは引きつった笑みを浮かべる。

「も、もう君と戦うことはないと思うんだ・・・ってなんだっ?!」

ボフウンッと突如リンク中央からこげ茶色の煙が上がり、空に走るように火炎が飛び散る。

ティアもデュランも観客も驚いて視線をA-5リンクへ走らせた。

「いったいなに?」」

レンポが?と思い慌てて見上げるとかなり不機嫌そうに首を振るレンポがいる。

「オレがあんなにしょぼい力なわけないだろ!」

煙は風にかき消され、リンク上がよく見える。

しかし、あんな爆発をショボイと足蹴にする精霊って・・・。

「あれだろ?ーハオチイとかいうやつ、だろ?」

煙が完全に消えると、すすまみれのリンクの中二人の人物がいる。

一人はぶっ倒れ、もう一人は丸っこいシルエット。

あのまん丸シルエット、まちがいない、ハオチイだ。

「げぇ、ぼくハオチイさんとあたらなくってよかったよ」

デュランが煙たそうにいう。

ティアもまったく同感と頷く。

「むふぅ♪ワタシの勝利ネ!」リンク上で彼がそういえば、爆弾はオチイのファンは歓声を上げる。

リンク上でぶっ倒れた人物を救護班が慌てて回収に来る。

「ああ、損傷はないと見た。よかった・・・ばらばらになったかと思いましたよ」

救護班たちがタンカにぶっ倒れた人を乗せる。

「当たり前ネ。善良な市民相手じゃ、錯乱弾・煙幕弾・催涙弾・睡眠弾・爆風弾・閃光弾くらいしか使えないネ!」

心外だぞ、とちょっとむくれるハオチイ。

救護班はとにかくぶっ倒れた人物をさっさと運び出していった。

「Bの部にお師匠様が出る!」「父さんは勝つよねきっと!」

二人はBの部開催までしばし休憩をとった。




第二回戦・Aの部・

A−1 騎士団長★:外来者☆
A−2 ティア★:デュラン☆
A−3 国民☆:兵士★
A−4 兵士☆:国民★
A−5 ハオチイ★:外来者☆

Re: アヴァロンコード ( No.214 )
日時: 2012/10/20 16:44
名前: めた (ID: UcmONG3e)

第二回戦に突入し、ティアは観客席にてグスタフを応援していた。

「お師匠様は絶対負けないもんね!」

「うん!父さんはきっと負けないよ・・・」

レクスとファナと合流して四人は一緒に観戦していた。

目の前のリンクでは、グスタフが戦っている。

相手は本大会で二人目の騎士団長さんだった。

騎士隊長を倒したグスタフは石弓の騎士隊長を意図も簡単に倒してしまう。

「すごいね、5分もかからなかった。さすがティアのお師匠様ね」

ファナが勝利したグスタフに拍手して言う。

「あれがデュランの父親だなんて信じられないよな」笑いながらレクスがいう。

「まったくそうだよ。似てないし、強くないし、似てないし・・・・」

またも自虐モードに入ったデュラン。

レクスいわく、この状態に陥ったデュランは放置するか褒める処置をすればいいらしい。

だが三人はそのどちらもしなかった。

いきなり地を揺るがすほどの大きな地響きがしたからだ。

ずうんっとまるで地震だ。

「こ、こんどはなに?またハオチイっていう人?」

ミエリがびりびりと震える空気の中不安げにいう。

『…ちがう…あそこ…!』

ネアキが指差す先には妖艶なナナイーダ筋肉隆々のルドルド。

どうやらルドルドが今の地響きをさせたらしい。

戦っている最中の戦士達も視線を走らせている。

ほぼずべての視線がB−1、そこへ集まる。

Re: アヴァロンコード ( No.215 )
日時: 2012/10/20 18:11
名前: めた (ID: UcmONG3e)

みなの注目集まるB−1リンクでは美女と野獣の戦いが繰り広げられていた。

さかのぼること5分前。

丁度開始時刻である。

「あたしをミンチにしないでね、森の守護者さん」

ウウィンクしたナナイーダにルドルドはフンッと鼻を鳴らす。

そしてナナイーダを殺さない程度に叩き潰してやろうと一歩踏み出そうとした—

    —が、出来なかった。

「ぬ?!」

両足が固定されたように動かない。

いったい何故?!

地面の足元がそこだけ円形に紫に変わっている。

「魔女が!!」

ウフふっとほほえんでいるナナイーダに向かってルドルドは思い切り鋭い目をぶつける。

「ごめんなさいね。動きとめさせてもらったわ」

そういうと、物騒なものを取り出す。

鋭く尖れた小刀を指の間に挟んで、その切っ先は天を向いている。

ナナイーダは飛刀の継承者である。

飛刀、正しくは南飛刀流派。

この魔女めが受け継いだらしい。

「さっさと終わりにしましょ」

語尾と共にびゅッと腕が振られる。

甲高い風きり音が迫ってきてドワーフであるルドルドの視界に迫ってくる小刀。

他の観客は息を呑んでいる。

コレで決まりかと、はらはらしているのだろう。だが・・・ここで終わるようなルドルドではない。

カン、カンカン、キン!と4つすべての飛刀がはじかれた。

上半身でハンマーを振り回したルドルド。

ぶおんぶおんと風車のように回転するそれに跳ね返る飛刀たち。

跳ね返った飛刀は観客達、ナナイーダめがけてぶっ飛んでいく。

「あぶないわね」

さっと身をかわすナナイーダと違って観客達は悲鳴を上げて地面に転がる。

刺さったものはいないらしい。

「ぬん!」

そこで事が起こった。

ルドルドの考えはこうだった。

地面に足を固定されているのならば、その地面をなくしてしまえば固定されない。

そして唖然とするナナイーダの目の前で猛烈な音と振動をさせながら巨大ハンマーで競技場のタイルを破壊し始めた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

あと1日で大会かきおわるかなコレ・・・
ともかく、参照が2400越えました!!ありがとうございます!

Re: アヴァロンコード ( No.216 )
日時: 2012/10/20 18:55
名前: めた (ID: UcmONG3e)

どがん、ぼこんという破壊音。

粉々になっていくタイル。

ゲオルグが止めるに止められず頭を抱えて悲鳴を上げそうになっている。

「あぁ、やめてくれ・・・やめてくれ・・・初代建国王の肖像タイルが・・・」

ぐらぐらする地面に立っていられずよろめく人々。

他の試合も試合にならず、何が起こったんだと不安に顔を見合わせたりしている。

「な、ちょっとやめなさいよ・・・!!」

石造りの女神像にしがみついたナナイーダがルドルドに叫ぶ。

だがルドルドは足元の破壊にいそしんでいるため耳を貸さない。

しかも、なにやら嫌な音まで聞こえてくる。

みち、みちり、みしっという何かが崩壊する前触れの音。

「・・・?!なんの音・・・?」

それに気づいたのはナナイーダが最初だった。

吹き飛びそうな振動に耐えながら、ナナイーダはあたりを見回す。

その黄緑色の目ははっとしてある一点を見つめる。

競技場の美しい女性の像が、その白い体に黒い不吉な亀裂を走らせている。

ゲオルグの説明ではローアンとか言う建国王ゼノンクロスのお妃だとか・・・。

いや、そんなことやってる場合じゃない!

ルドルドの破壊振動が亀裂の進行を進めている。

その真っ白な像が真っ二つの折れて墜ちてきでもしたら、何人か絶対に死ぬ!

「降参よ、降参!!」

あわてて叫んだナナイーダ。

ルドルドの動きを止めるにはこうするしかない。

悔しいけれど・・・こうするしかない。

優勝なんかより、人命のほうが大事・・・。

「ちょっと、聞いてんの!降参するわ!あなたの勝ちよ!」

盛大に叫ぶと、ようやくルドルドのタイル破壊が止まる。

「勝ち?」

ハンマーを頭上に振りかざしたままルドルドがいう。

「そうよ。だからそれ以上ハンマーを叩きつけないでくれる?あなたのせいで人が死ぬかもしれないわよ!」

やっとおさまったぁと安堵していたゲオルグがその言葉を聴いてB−1に降りてくる。

そして破壊されたタイルを悲しそうに見つめ、ナナイーダに詰め寄る。

「いったいそれはどういうことだね、ナナイーダ君。殺すとは・・・?


ナナイーダは白い巨大のお妃像を指差していう。

「あの像、亀裂が入っているでしょ。もう少しで倒れるところだったのよ、あのハンマー男がハンマーでタイルを殴り続けたらね」

はぁとため息をつくナナイーダ。

「なんと・・・ローアンの像に亀裂!」

ゲオルグの顔がさっと厳しくなる。

「もしや君はそれを止めるため・・・?」

「そうよ。じゃなきゃ人が死んでたわ・・・くやしいけど人命の方が大事よ」

ナナイーダが肩をすくめていうと突如メガホンを構えた。

「B−1での戦い、勝者はいないこととする!ルドルドは退場、ナナイーダは降参とのこと。以上!」

今迄で聞いたことのない怒りの声に誰もがぽかんとする。

怒りのオーラをまとうゲオルグに反論しそうなルドルド。

けれどきっとゲオルグがルドルドをにらむ。

「ルールにはないが、タイル破壊行為、そしてもう少しで過失致死殺人をしてしまうところでしたよ。コレは由々しき事態です」

怒ったようなゲオルグはなおも続ける。

シルフィはその隣でちょっと戸惑い気味に父親を見ている。

愛娘でもこんな顔見たことがないようだ。

「本日はハンマーの使用を一切禁止します。そして—」

悔しそうにいうゲオルグ。

「残念なことですが、ローアンの戦女神の像付近は進入禁止にします。倒れては死人が出ますから。そして破壊されたB-1エリアも進入禁止とします」



第2回戦・Bの部・

B−1 ナナイーダ☆:ルドルド☆ 両者正当な理由により失格
B−2 騎士☆:外来者★
B−3 グスタフ★:騎士団長☆
B−4 国民☆:兵士★

第3回戦進出者

ティア
グスタフ
ハオチイ
騎士団長
兵士二人
外来者
国民

飛び入り参加者の予定:優勝者決定戦後、勝ち抜いた一人と飛び入り参加者が戦う


Re: アヴァロンコード ( No.217 )
日時: 2012/10/21 10:39
名前: めた (ID: UcmONG3e)

第三回戦はAの部だけである。

このブロックが終わると、昼食のため14時まで休憩となる。

この長い昼休憩は、食べた後すぐ闘うことのないようにゲオルグが取り計らったものだ。

「ティア、がんばってね!」ミエリが競技場A−6リンクへ向かうティアにいう。

「相手は誰でしょうね?そろそろ・・・優勝候補者同士があたってもよい頃です」

ウルがいうと、丁度ティアはA-6リンクへ足を踏み出したところだった。

リンクのタイルの上には・・・まだ誰もいない。

一気に緊張が抜けてティアは盛大にため息をつく。

「まだ来ないといいけど・・・」

「誰が来るんだ?」レンポが対戦相手を見てやろうときょろきょろする。

まだ開催まで5分あるためか、他のリンク上にもあまり戦士はいない。

「あ、よかったぁ!」突如ティアが声を上げる。

「お師匠様とは当たってないみたい!」助かったぁーと嬉そうにするティア。

だが、喜びも長くは続かなかった。

「オレお前のこと心配になってきた・・・」

ティアとは反対方向を向いたレンポがいう。

え、なんで、とレンポの見ているほうを見ると—

太ったシルエットが、こっちに向かっている。

まさか・・・。

爆弾魔のハオチイと戦う事になるかもしれない。

いや、まだ望みはあるとハオチイが別のリンクへ足を向けてくれることを願う。

だが、ハオチイはA−6に迷わず足を向け、ついにリンクへはいってきた。

「次の対戦者はティアだったのネ。むふぅ、手がけんしないよ!」

そしてなにやら爆弾を取り出している。

『…ティア、ばらばらにならないでね…』ネアキが無垢な瞳でいう。

「大丈夫だよネアキ。ハオチイさんの使う爆弾は錯乱弾・煙幕弾・催涙弾・睡眠弾・爆風弾・閃光弾しかないよ」

自分の生存にかかわることについては異様な記憶力を発揮するティア。

唖然とするネアキににこりと笑う。

「だから、ばらばらにはならないと思う・・・たぶん」

焼夷弾はねーのかよ、と文句を言うレンポだがそれは爆弾ほどではないがかなり危険である。

「焼夷弾とは、炎が飛び散る爆弾のことですよ。四方八方に飛び散った炎はすぐには消せません。当たれば火傷ではすみませんよ」

なにそれー?、という顔のミエリにウルが教える。

「へぇ、じゃあ雷弾とか冷却弾とかあるの?さすがに森弾はないよね・・・?」

「冷却弾などもありますよ。雷弾・・・主に地雷専用ですが存在します。森弾は聞いたことがありませんね」

ウルは相変わらず物知りで、とりあえず知識をばら撒いてくれる。

「むふぅ・・・ティアが相手なら火薬弾を入れてもいいくらいネ・・・」

爆弾を見ながらハオチイがいう。

火薬弾はダイナマイトのことだろうか・・・。

ここで使われたらティアは間違いなく空の星となるだろう。

「冗談ね!面白いヤツむふぅ!」

ハオチイの笑い声にティアは引きつった笑みを浮かべる。

本当に冗談だといいが・・・。

「ティア、とりあえず盾は用意しておきましょうか・・・」主人が吹っ飛ばされては困ると精霊たちはいっせいに盾を使うことを薦めた。








Re: アヴァロンコード ( No.219 )
日時: 2012/10/21 19:37
名前: めた (ID: UcmONG3e)

試合開始の合図があり、ティアは早速盾を構えていた。

精霊たちの頼みで、というより強制で盾を持つことになった。

けれど、爆弾魔と戦うには盾は必須だろう。

双剣のように振り回せないのが厄介だが、自分の保身のため。

ティアは精霊を安心させるために承諾した。

「盾・・・そんなもの壊すむふぅ!」

早速振りかぶったハオチイはバレルボムと呼ばれる小柄なたるを投げてきた。

樽といってもその大きさは人の手ほどだ。

威力は少し落ちる。

それがごっと盾に当たる。

「足元キタ!!」

ティアがビックリしていうと、精霊たちがいう。

「そのまま盾で押し返してみろ!」

「衝撃には強い素材です。爆発する前に早く」

いわれるがまま盾で押し返して爆弾から遠ざかる。

「む、マズイね」

中央まで転がってきた爆弾にハオチイがつぶやく。

と、ボフウンっとまた爆風があたりを包み込む。

ハオチイの設計上で破片は飛ばず、猛烈な風の勢いで相手を倒すというまぁまぁ安全な爆弾だ。

ぶわっと猛烈な風が渦巻いた。

盾に風圧を感じてぐっと耐える。

構えた縦長の盾の隙間から、もうもうと風が進入してくる。

少し火薬くさくて鼻がひりひりする。

ぐらぐらと盾がゆれて非常にまずい状態だ。

このまま風圧が続けば、この盾が壊れてしまう・・・!

盾がなければハオチイに勝てない・・・。

ふっと風圧から解放されてティアは盾より顔をのぞかせる。

砂塵の奥には・・・リンクの一番はじっこまで離れたハオチイがいた。

両腕で顔をかばっている。

どうやらハオチイの爆風弾は諸刃の剣だったようだ。

ティアの動きを防いだが、同時に自らの動きをとめてしまったようだ。

「むふぅ・・・ワタシの爆弾やはり凄いネ」

風がやみ、ハオチイが両腕を下ろす。

しかし、次に目に入ってくるのは剣と盾を構えたティア。

凄い勢いでこちらに突進してくる。

「!!」

ハオチイはすかさず閃光弾を地面に投げつけた。

アルミニウムの燃焼により、ものすごい閃光が会場中を貫く。

<アルミニウムを燃焼、つまり燃やすと、とてつもない光が発生します。コレを直視するとしばらく視界が真っ白になります>

真っ黒の小型サングラスをつけたハオチイはうっと目をつぶったティアにどの爆弾を投げようか頭をめぐらせる。

ティアどころではなく、ティア対ハオチイ戦を観賞していた人々すべてが視界を奪われている。

だがそんなことお構いなしにハオチイはティアにあの爆弾を投げた。

自分はさっと脇に避け、その被害を免れようとする。

「睡眠弾・・・あまり痛めつけたくないからネ。ぐっすり眠るがいいネ」

ハオチイがそういった途端、さっとティアが動いた。

盾から少しかおがみえる。

その目はハオチイをしっかり捉えており焦点がしっかり合っている・・・?

「なっ?!」驚きの声を上げると、ティアはハオチイの転がした睡眠弾を鷲掴みにする。

そしてそれをハオチイに投げつけるとぽんっと音がする。

白い煙幕がハオチイにぶち当たり、ハオチイはその場にひざを着いた。

そして閉じていく目を必死に開けようとして悔しそうな表情をしている。

「油断したネ・・・」そしていうなり意識を失ってぶっ倒れた。

ぐおうぐおうと盛大にいびきをかき始める。

「盾がなかったら視界奪われて終わってたぁ・・・」

ティアが安堵感より深呼吸する。

「A−6リンクは勝負あったようです。勝者ティア!救護班はオチイ選手をベットへ運んでいってください」

と、ゲオルグの放送が終わった途端ティアが急にひざをついた。

「?!」精霊たちや見守っていた人々が驚いて駆け寄る。

ひざを突いたままぱたんとうつぶせに倒れたティア。

「ティア!」ミエリが悲鳴を上げる。

「大丈夫ですか—・・・これは・・・」

ウルがティアを見て驚く。他の精霊は不安な表情でウルを見ている。

「お、おいティアは・・・?」

するとウルはおかしそうにいう。

「寝息を立てていますよ。催眠弾の残り香で眠ってしまったようです」

その後、ティアはハオチイの隣のベットで寝かされた。

大幅な昼休みがなければ、ティアは即戦闘不能状態で失格となっていた。

だがまだ安心は出来ない。

ティアの眠る横で心配そうにファナはいう。

「試合が始まる前に起きてくれればいいけど・・・」

試合が始まるまでに目覚めなければ不不戦敗となり、第四戦に進めなくなるのだ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照2500越えました!
ありがとうございます

Re: アヴァロンコード ( No.220 )
日時: 2012/10/21 20:06
名前: めた (ID: UcmONG3e)

第三回戦結果 

A−3 グスタフ★:騎士団長☆
A−4 兵士☆:外来者★
A−5 国民★:兵士☆
A−6 ティア★:ハオチイ☆

第四回戦出場者

グスタフ
外来者
国民
ティア(予定)


お昼休みは残り30分をきった。

今は午後13時30分ちょっと過ぎ。

ティアはその頃になってようやくまどろみから目覚めた。

目を開くと、そこは白いテントの天井。

(ここは、どこ・・・?)

起き上がろうとした瞬間、鈍い痛みが頭に走る。

突如頭の内側から鈍器で殴られるような痛みがティアを襲う。

「う・・・」

小さく声を上げれば、すかさずファナの声が聞こえた。

ハッとした拍子に椅子を床に倒した様だった。

がたっと音がしてますます頭痛がひどくなる。

「ティア!よかった、私がわかる?!」

そんなことお構いなしにファナはティアの手をとると叫んだ。

あわてて救護班の人がファナに落ち着くように言う。

「き、記憶が飛んだかもしれないかもしれないんですよ!落ち着いてなんかいられない!」

ファナが珍しくおこった声を出す。

優しげな目元が涙ぐんでいて弓なりの眉はきっとしていた。

ファナが怒っている・・・。

「ファナ、大丈夫何も忘れていないよ」

声をかけてやればファナが急に涙を流した。

「よかった、よかった!ティアが私達のこと忘れてしまう可能性があるとお医者さん方が言ったから心配だったの」

笑顔のままうれし泣きするファナ。

安心したらしい。

「ショック症状はないらしい・・・君、頭痛はあるかね」

控えていた医者がティアに聞く。

ティアは頷く代わりに返事した。頷くと頭に響く。

「そうだろう・・・。強制的に眠らされると強い頭痛やショック状態に陥ることがある」

医者はカルテを取り出しながら言う。

手袋をはめた指で、指折り数えていく。

「まず記憶喪失、目覚めない、心肺停止、脳の活動停止などだ。だが、ハオチイさんは微弱なものを使用しているため、これらは95パーセント起こらない」

記憶喪失、目覚めない、心肺停止、脳の機能停止と聞いてファナは卒倒しそうになっていた。

「この薬を飲んでおきなさい。頭痛が弱まるからね。即効性だから戦いの最中に差し支えないだろう」

ぽかんとしているティアの両手にカプセル薬を置くと医者は帰ってよしという。

「あの、ご飯を食べた後30分以内でしたっけ?」

ティアが聞くと医者は驚いたように振り替える。

「まさか、食事する気なのかい。もう20分も残っていないのに」

ティアは一瞬思考を止めた。

—あと、20ぷんものこっていないのに—

ティアの首が機械のように時計の方向を向く。

現在の時刻 13時43分

試合開始時刻 14時ジャスト

もう時間がない!



Re: アヴァロンコード ( No.222 )
日時: 2012/10/22 19:25
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「ティア、そんなに食べちゃだめよ」

ティアの手からサンドイッチをもぎ取りファナがとがめる。

ええ、っとティアがファナを悲痛な面持ちで見上げる。

ここはティアの次の試合場であるA−3リンクの真下、芝生の上である。

お腹が減ってしょうがないティア。

けれどあまり食べ過ぎれば試合中に眠くなったり、すばやく動けなくなる。

相手と同じ条件で戦うため、ファナは心を鬼にしてティアの食料をすべて取り上げた。

「あとは水だけで十分・・・ごめんねティア!」

こんっと紙コップに入れた水を渡してファナはサンドイッチを持ち逃げした。

あーっとティアが叫ぶがもう後を追う時間もないし、ファナの言うことは正しい。

仕方なくすきっ腹にカプセル薬と水を流し込んだ。

「優勝したら食えばいいじゃねぇか。あの皮肉屋が飲み明かそうとかいっていたろ?」

『…ティア、この試合が終わったらサンドイッチひとかけら…ファナというこに…もらったらどう…』

精霊たちがかわるがわるティアにいうがあまり効果はない。

「ティア、もう時間よ。リンク場に上がらなきゃ」


リンクにあがるとすでに人がいた。

グスタフ・・・ではなかった。

ホット安堵するティア。

けれど相手の人はここまで勝ち抜いてきた人だ。

甘く見られない。

見た感じ、石弓を使うらしい。

ボウガンを構えている。

ボウガン相手で戦ったことはないが・・・。

「ウル、ボウガン、だよねあれ?」

ウルは頷く。

「石弓とも呼ばれていますね。爆弾同様盾を装備してください」

するとミエリがちょっと心配そうに言う。

森の深緑色の目が慈悲深くティアを見る。

「矢はスピードが速いよ・・・ティア怪我しないかな・・・」

『…接近戦に持つ込む…そうすれば怪我しないかも…』

ネアキも心配そうだ。

「あのボウガン・・・装填できる矢は2本か」

ぼそりとレンポがつぶやく。

装填?とティアが首をかしげると同時にゲオルグの試合開始の声が響く。

(そうてんってなんだろ・・・?)

その意味を知らないティアはとにかく盾を構えてボウガンを破壊すべく飛び出した。




Re: アヴァロンコード ( No.223 )
日時: 2012/10/22 19:24
名前: めた (ID: UcmONG3e)
参照: http://www.maql.co.jp/special/game/ds/avaloncode/character/

上のURLでティアや精霊たち、その他もろもろのイラストが見れますよ!
興味がある方は参照してみてください。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ティアは盾に身を隠しながら剣を構え、走る。

目指すは石弓を構える外来者の女性。

黒光りするボウガンはまだ、ティアに向けられていない。

よし、壊せるかもっ!

そう思った瞬間、どっと重い感覚がティアの動きを鈍らせる。

「?!」

ティアは思わず女性からさっと身を離し、出来るだけ距離をとり一直線上に行かないようにする。

そして視線を違和感のする盾へと走らせ驚愕した。

「た、たてが・・・」

盾の中心に、ティアの心臓の位置する部分を守っていた盾に石弓の矢が突き刺さっている。

預言書の盾でなければ、盾は崩壊してティアに怪我を負わせていただろう。

「怪我させたくはない、降参するか?」

その女性が石弓を構えてティアに聞く。

狙いはティアのアーマーに隠れた足。

断れば足をつぶして動けなくさせようという魂胆だろう。

「降参するか?」

けっこうきれいな顔の女の人が再びティアに言う。

子供はきづつけたくないという人なのだろう。

だが、ティアは首を振った。

「しかたがない」

そうつぶやくと、女性は引き金を引き絞る。

狙いはティアだ。



Re: アヴァロンコード ( No.224 )
日時: 2012/10/22 21:10
名前: めた (ID: UcmONG3e)

しゅんっと音がして、空気が切り裂かれる。

ものすごいスピードで石弓より放たれた矢がティアめがけて迫ってくる。

ティアは盾に身を隠したまま、矢を受けた。

どんとまた重みを感じる。

見ればティアの盾に再び突き刺さった矢。

盾の内側にまで到達している。

「アーマー越しでさえ当たれば打撲いじょうなのよ。どう、諦めてくれる?」

再び女性の声が聞こえてくる。

そしてパチパチンという何かをセットする音。

(何度も矢を盾で受けていたら、盾が壊れてしまう・・・預言書からもう一度出せるけどそれは・・・)

再びよぎるネアキの言葉。

行き過ぎた奇跡は恐怖を生む。

迫害された預言書の持ち主は多くいる。

“いつかはそうなるの”

だめだめっとティアは頭を振る。

それに新しい武器を出すのはなんというか、ずるではないか。

盾よりひょこりと頭を出すと丁度女性が屋を補充し終わった後だった。

がシャットこちらに向けて脅すようにしている。

「いい?見ていて」

そういうと、ばしゅっと石弓を放つ。

風きり音を伴った矢は勢いよく飛び出し、リンク上の四方を収める四つの女神像の一つ、丁度ティアと同じように剣を持つ女神にぶち当たった。

ガツッと音がして、剣の女神像の束ねられた三つ編みが吹き飛ぶ。

ぽさりと芝生の上に石の三つ編みが落ちる。

剣の女神像はボーイッシュな女神になった。

周りで観戦する人々も驚いたように声を上げている。

ティアもコレには冷や汗が出る。

「わかったでしょ。そんな盾、もうじき壊れる。そうしたら今度は・・・」

女性は石弓を再び放つ。

観客がいっせいに首をすくめ、矢の行方を目だけで追う。

矢はすぱんっと剣の女神像の首を飛ばした。

ごとりと美しき女神の頭が芝生に落ちる。

「こうなるわよ」

唖然とする観客とこわごわと見つめるティアの目の前で女性は腰の矢筒から二つの矢を取り出して言う。

きつくにらみをきかせながら石弓に矢を固定し、レバーを引いてセットしている。

「・・・?」

ティアはそれを見て首をかしげる。

(この人何してるの・・・?)

首を傾げてあっとひらめく。

コレがレンポのいう装填というものなのではないか?

二つの矢を装填し終わった女性は盾に身を隠すティアにガチャっと石弓を向ける。

「覚悟して」

いうなり二連続で矢を撃つ女性。

矢は盾に亀裂を作っていく。

さっくりと4つ突き刺さった矢同士が線を引いて亀裂を生んでいく。

そして盾の一部がボロりとくだけ落ちる。

「ど、どうしよう・・・」

もう一か八か。

ティアは盾を投げ捨てて剣を手で強く握り締め女性に飛び掛った。

女性はハッとしたようにボウガンを構える。

引き金に人差し指がかかっておりそれが連打で引かれる。

「!!」矢が刺さる!

けれどティアを迎えたのはかすれた発射音。

不発・・・?

矢はいくら引き金を引いても出てきていない・・・?

(そうか!)ティアは途端に安堵する。

(さっきレンポが言ってた!一度に装填できる矢の数は2つ!)

先ほど女性は2発連続でティアに撃った。

そして装填する間もなくティアが迎え撃った。

なので今は怖いものなし!

ティアは栄やっと剣をふると黒ボウガンを叩ききった。


第四回戦

A−3 国民☆:グスタフ★
A−6 ティア★:外来者☆

決勝戦出場者

ティア
グスタフ


Re: アヴァロンコード ( No.225 )
日時: 2012/10/23 16:59
名前: めた (ID: UcmONG3e)

決勝戦に進出する人物が二人決定し、それが師弟の関係であることがわかると、会場はさらに盛り上がった。

英雄でありグスタフの弟子ティアVS親衛隊隊長であって、英雄ティアの師匠グスタフ。

それをネタになにやら賭け事まで起こったようだ。

観客席に賭け屋台まで設けている輩がちらほらいて、ゲオルグや騎士に一掃されている。

「でも正直・・・僕はどっちを応援したらいいかわかんないよ」

観客席に身を置いているデュランが大盛り上がりの会場を見渡してつぶやく。

デュランの隣では猛然とティアを応援するファナとレクスがいる。

「そうね、お父様と友人だもの・・・」

ファナがティアのサンドイッチボックスを持っていう。

準々決勝でティアから奪ってきたものらしい。

すべての戦いが終われば食べてもいいらしい。

それまではだめッと鬼さながら勢いでここまで逃走してきたのだ。

病人とは思えない・・・。

「デュランはどっちを応援するんだよ」

ファナの隣からレクスが顔を出す。

「ティアか?親父か?」

これぞ究極の選択!とデュランはうッと詰まる。

「僕は、どっちも応援するよ」

数秒後しれっというデュラン。二人の視線を無視して勇者だからねっと意味不明な言葉をつぶやく。

「とにかく、無事でいてくれたらどちらが勝とうとかまわないよ」


Re: アヴァロンコード ( No.226 )
日時: 2012/10/23 17:28
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「大丈夫よ、ティア!あなたならきっと・・・」

どんなに励ましてもティアはしょんぼり元気がない。

さすがにミエリも諦めてしまい、困ったなぁっとティアを見る。

「ねぇ、ティア。元気出して」

はあぁ、とため息をついて青ざめるティアにミエリはそれだけいった。

あとはもうその周りを飛ぶだけ。精霊といえどこういうとき力になれない。

「何せお師匠様と対決するんですからね。ナーバスになるのもわかります」

訳知り顔でウルがいう。

なーばす?と言う顔でレンポがウルを見る。

「気分が平穏でないことですよ。落ち込んだり、憂鬱になったり、敏感なのですよ」

ふーん?と首を傾げるレンポに、ネアキがボソッという。

『…レンポは…なることはないと思う…いつも能天気だもの…』

あ?と口げんかが再来する。

ウルはやれやれと首を振って残り時間をミエリに聞く。

「あと10分で開始」

ティアに聞こえないようにつぶやくも、ティアはウああ、ッとうなだれる。

「コレは重症ですね・・・何とかなりませんか」

「ワタシでもムリ。ティアは絶対勝てないと思ってる。ティアは強いのに・・・悪魔だって倒したんだもん!」

おそらくティアの中の優位順位はこうだろう。


弱い Dランク そこらへんの魔物
↓  Cランク ヴァイゼンの兵士
↓  Bランク キマイラ
↓  Aランク 剣魔アモルフェス トルソル
最強 Sランク グスタフ

この図を頭の中で想像したウルはやれやれと頭を振る。

ティアは相当お師匠様が怖いらしい。

完全憂鬱モード、まるで悪い点数取った子供が親にテストを見せる直前のような心境のティア。

口をついて出るのはため息ばかり。

ついにはウルに怒られてばかりのレンポがいう。

「あーもう!なんだよ!」

ティアの目の前に浮遊してティアをビックリさせている。

「おまえはアモルフェスだってキマイラだって、トルソルだって全部倒してきただろうが!何であんな人間が怖いんだよ!」

正統をいうレンポ。彼にしては珍しい。

「お前が怖がるのは、グスタフじゃなくて・・・クモのモンスターだけにしろ!」

クモときいてティアが猛烈に嫌な顔をする。

「クモとグスタフ、どっちと戦いたい?」

「お師匠様と!」

即答である。

ウルは頭の中でティアの順位を並べ替える。

弱い Dランク そこらへんの魔物
↓  Cランク ヴァイゼンの兵士
↓  Bランク キマイラ
↓  Aランク 剣魔アモルフェス トルソル
最強 Sランク グスタフ
最凶 SSSランク クモ

「よおし、ほらもう時間だぜ!いって来い!」

ともかくティアはとりあえずクモよりましなグスタフと戦う決意をしたらしい。


Re: アヴァロンコード ( No.227 )
日時: 2012/10/25 16:14
名前: めた (ID: UcmONG3e)

師弟の優勝決定戦は大盛り上りがだ。

みな中央の7リンクに押しかけて、緊張気味のティアと一緒にグスタフ
が来るときを待っている。

「・・・」

ティアはその間じっと押し黙って、大きな金時計の文字盤を見つめている。

もう開始まで3分を切る。

そろそろ・・・グスタフが来る頃だ。

と、石畳を歩く足音がしてティア以外が皆一斉に振り返る。

こつこつと近づいてくる足音。

ティアの心臓の音もどんどん上がっていく。

その足音がピタリと止まる。

ティアは振り返らずに相手が視界に入ってくるのを待った。

すぐ背後に嫌なプレッシャーをがんがん感じてティアは剣で切りかかりたくなる衝動を抑えるのに必死だった。

震える視界に、白金の双剣がすうっと入ってくる。

そして長い黒のよれよれブーツと威厳あふれる・・・というか殺気あふれるグスタフがティアの目の前に完全に立った。

あぁ・・・。

ティアはグスタフと目を合わせて心の中で嘆く。

あの観客席から他の人にまじってお師匠様を応援できたらどんなにいいか・・・。

すなわち、戦いたくないのだ。

グスタフは相変わらずの鋭い鷹のような目でティアを見ている。

ティアはというともう、決心しきった表情で師匠を見返している。

もう怯えはしない。

ここまでキタのだから、やるだけやる。

勝つとかじゃなくて・・・もちろん勝てたらいいけど・・・師匠に後で褒められるような戦いを・・・。

「では、師弟の優勝決定戦!これより試合開始っ!」

大勢が集まる中、ゲオルグの声がそう告げた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2650越えました!
ありがとう

Re: アヴァロンコード ( No.228 )
日時: 2012/10/25 16:31
名前: めた (ID: UcmONG3e)

グスタフは双剣を構える弟子を見て思う。

この小娘は他の人と何か違っている。

はっきりとはわからないけれど、これが奇跡の力とかい言う物なのだろうか?

ティアという小娘、預言書と呼ばれる本で奇跡を起こし、剣でカレイラを救った英雄の一人。

今は目の前で剣を構え隙を狙っている。

以前戦ったときから、どれくらい進歩したのだろうか?

以前はこの師に勝ちを奪われ、しょぼくれていたが・・・。

戦にでて、巷で恐れられているヴァイゼンの紫兵をなぎ倒すほどになったのだ・・・。

グスタフは内心わくわくしている。

騎士団長と隊長を打ち負かしてきたけれど、グスタフを止められるものはいなかった。

英雄どもや、他の名物どもと戦えることはなかったし、弟子といえど英雄の一人のティアならば、いい勝負が出来そうだ。

「・・・!」

早速ティアが剣を構えてやってきた。

10年前勝ち逃げした“ヤツ”は来ていないらしいが、意気消沈するほどでもない。

久しぶりに、十年ぶりに骨のあるやつと戦えそうだ。


ティアと剣を交え始めたグスタフを見て、その息子デュランはちょっと不安を解いた。

試合開始直後までは、どちらも怪我をして欲しくないと不安でいっぱいだったのだが、グスタフのあの表情を見てデュランもにっこりする。

「いらない心配だったみたいだ」

「え?」

そのつぶやきに彼の隣に座るファナが振り返る。

薬を常時携帯の彼女は、今は分厚い肩掛けとひざ掛けに覆われている。

彼女の病気を心配したへレンが持ってこさせたのだという。

彼女簿祖母は相当な心配性らしい、もうじき治るといわれていうのに・・・。

「うん。ほらみなよ」そんなファナにデュランはうれしそうにいう。

「父さん、とても楽しそうな顔してる」

「・・・あれで?」

しかしファナには何時もの顔にしか見えない。

ちょっと不機嫌そうで無愛想な表情。

けれど、その子であるデュランが言うのならそうなのだろう。

しかし、デュランとグスタフは実に似ていない親子だ。

失礼ながらファナは内心でそう思っていた。

髪の色から瞳の色、朗らかな性格すべてグスタフから受け継いだものとは思えない。

しかしファナはレクスやティアのようにそれを口に出さなかった。

ただ視線をティアに向けてがんばれーっと応援を再開した。


Re: アヴァロンコード ( No.229 )
日時: 2012/10/25 17:08
名前: めた (ID: UcmONG3e)

グスタフの刀身を右剣で防いだティアは、息つく暇もなくフリーな自分の左の剣を師匠の腹部めがけて突き出す。

グスタフはそれを剣ではじくと、さっとティアより一歩はなれ一呼吸おいた。

すでに剣で七回ほど切りあった。

どれもお互いガードされ、耳障りな金属音を発生させている。

ふっと息を吐いて再びタイルを蹴ったグスタフにティアはさっと身を伏せて頭上を通り過ぎる一太刀を避ける。

そのまま伏せた状態から足を突き出しグスタフを蹴転ばす。

一瞬宙に浮いたグスタフはそのまま前転してさっと身を起こした。

再び両者にらみ合いとなり、観客席からは絶え間なく歓声が上がっている。

けれどそれはBGMとして処理され、聞き流す。

せっかく応援してくれるのだからなどと、その言葉を聴こうとするものなら隙が出来、あっという間に負けてしまう。

戦いで必須なのは集中力。

たしかに戦力や戦術がなくてはどんな相手にも勝てない。

けれどやはり集中力がなくては話にならないのだ。

今度はグスタフから攻撃を仕掛けた。

さっと身を翻し双剣を交差させながらティアめがけて振り下ろす。

一撃目はすんでのところかわされたが、二撃目は肩の薄いアーマーに引っ掛けてティアの気をそらせた。

少しひっかけた薄いアーマーはそこだけ断絶されてうっすらと血の気がにじむ肌が見える。

そのティアめがけてクロスさせた双剣を叩き落す。

「うっ」

ティアは方ひざをタイルに押し付けて頭の上で剣をくみかわし、ぐうタフの重い一撃を何とかしのいだ。

だが、上からの攻撃を下から抑えるのはとても長い間持ちこたえられない。

小刻みに腕が震えている。

「おっとー、グスタフが優位に立ちましたね—ティア、持ちこたえられるか—」

ふっと耳にゲオルグの声が入ってくる。

耳につくアナウンスが会場中を埋め尽くしていた。

他にも大勢の歓声や応援が聞こえてくる。

(まずい・・・)ティアは目を細めた。

(集中力切れ掛かってる・・・試合に集中しなきゃなのに)

ぐっと歯を食いしばってグスタフの剣を見る。

その支点は微妙に右よりだ。

と、ティアはグスタフの剣をグスタフごと右側にひねった。

右に傾いていた剣はすべるようにギイイッと耳障りな音と共にティアの剣から離れていく。

まるで滑り台だ。

重圧より解放されたティアはすぐさま立ち上がってよろけたグスタフに向き直る。

グスタフも持ち直し、ティアが攻撃する間もなくさっと振り返る。

何とか不利な状態は抜け出した。

だが振り出しに戻っただけ。

何か決定的な戦略を練らなければ・・・。







Re: アヴァロンコード ( No.230 )
日時: 2012/10/26 21:15
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアはグスタフの剣を攻防しながら意識の一部分を戦いの感覚から切り離していた。

戦いながらもぼんやりとあることを考えている。

いや、ぼんやりとではない。

必死に考えているのだ。

剣で攻撃する間も、攻撃を避ける間もずっとグスタフに勝てる戦術を考えていた。

どうにかいい戦術がなくては、グスタフに勝てない。

グスタフにいたっては、戦術なくともティアを締め上げることは可能だろう。

力と経験にねじ伏せられぬまに、いい案を思いつかなくては・・・。

と、グスタフの剣が目前に迫ってくる。

それをさっとかわしたティア。

けれどそれを狙ってグスタフは剣を持つ手を切り返してびっとティアの頬を切り裂いた。

「!!」

ちょっとした傷だったがティアはまったくの予想外で痛みに片目を瞑る。

そしてとっさのことで反撃した。

さっと流れるようについてくるグスタフの剣を防御の状態から、下からはじいたのだ。

ギンと音がしてグスタフの剣の軌道が変わり、何もない虚空に剣の切っ先が向く。

「・・・!!」

その行動でハッとあることに気づく。

電撃が走ったように目を見開き、あわててグスタフから遠のく。

グスタフは後を追うこともなく、ティアのほおを切った剣をふって、その血をぱっと払う。

地面に剣から振り払われた血の軌跡が点々と続いている。

その血を見てティアは心臓がバクバクするのがわかる。

もしかして・・・。

(コレはいい戦略かもしれない・・・)

ティアは思い切ってグスタフに走りよる。

右剣を体に寄せて防御とし、左剣を攻撃役としてグスタフの剣を払う。

グスタフはというと双方ともに防御、時に攻撃と繰り返す器用な技を見せている。

そしてティアが少しでも隙を見せればぐわっとえぐるように剣が襲ってくる。

と、グスタフの剣を防ぐとティアのわき腹付近のガードがふっと甘くなる。

ティアの目がさっと見開かれ、まずいという表情で支配される。

その見開かれた目のすぐ横を、一筋の汗が流れる。

グスタフは残念だという表情で、ティアのわき腹めがけて剣を突き出す。

なかなか楽しい勝負だった。

そうつぶやいてグスタフはティアにとどめを刺した。


キンッ


ひときわ乾いた音が会場中に響き渡る。

皆息を呑んで、いったい何が起こったのか模索中だ。

しかし誰もが理解できない。
   、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
何故、ティアがグスタフの喉元に剣を突き出しているのかを。

それは数秒前。

グスタフのとどめの剣がティアのわき腹をえぐりそうになったとき。

ティアはある戦術を始動させたのだ。

迫りクルグスタフの剣を、自らのわき腹をおとりとして使用し、下からスパンとはじいたのだ。

完全にティアの負けをさとっていたグスタフは驚いて目を見開いていた。

そしてそのままはじいた剣をグスタフの喉に突きつけたのだ。

カウンター。

それがティアの考えた戦術であった。


優勝決定戦Ⅰ

A−7 ティア★:グスタフ☆

優勝決定戦Ⅱ

A−7 ティアVS飛び入り参加様


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照が2700越えました

戦術に関しては西洋剣術をもとにしました。
でも戦術は考え付きにくい

Re: アヴァロンコード ( No.231 )
日時: 2012/10/26 21:38
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアは自分が勝利したという感覚に、ついていけないままグスタフに握手された。

力強いグスタフの握手はティアの全身を揺さぶる様だった。

「よくやった、弟子よ・・・。だがまぁ、この先は真の優勝者となってから言おう」

「真の優勝者・・・?」

ティアがいぶかしがて聞くと、グスタフは頷く。

「飛び入り参加殿との戦いで勝つことが出来れば、おまえは優勝者だ。無論負ければ優勝者ではなくなる」

え、そんなの聞いてない!と叫ぶとグスタフは肩をすくめる。

「それはゲオルグにいってくれ。とにかく、ワシはどちらが勝ても誇りに思うぞ」

意味深な言葉を残してグスタフはA−7リンクから去っていった。

「どういう意味だ?」するとすぐさま精霊の声が耳に届く。

ティアが見上げるとレンポが去っていくグスタフの背中を見つめていった。

「どちらが勝ってもうれしい・・・?あのジジイ対戦相手を知っている?」

そういわれればそうかも、とティアも首をかしげる。

グスタフにとって勝ってうれしい人。

いたかなぁとティアは首を傾げ続ける。

「もしかして・・・」するとミエリが眉をひそめてつぶやく。

精霊とティアはいっせいにミエリに視線を集める。

「心当たりでも?」ウルが聞くと自信なさげにミエリは頷く。

「それは、多分だけど、師匠としてうれしいという意味なのかな。だとすれば、ティアと同じような弟子の一人・・・かも」

ありえますね、とウルがつぶやく。

するとネアキがくるりとこちらを向く。

『…ティア知っている?…師匠さんの…強そうな弟子を…』

グスタフの弟子は結構多い。

今回の大会で最終まで残った国民達は皆、グスタフの弟子でありその数人かは兵士をも倒したつわものである。

けれどそれも今は敗者として大会を見守っているわけで、ほかに強そうな人もわからない。

これは相手を待つしかないかな、そう思いかけていたとき。

ティアの脳裏にある記憶がよみがえる。

デュランと会話した、森の道。

確かレンポは疲労により眠りについていたっけ。

そういえばあの時、自分はグスタフの弟子の一人の名を上げていたような・・・。

「!?」

その脳裏に浮かんだ名をティアはブンブン首を振って打ち消した。

そんなはずない。

絶対にそんなことはない。

顔面蒼白になり嫌な汗が出る。

「ティア?」

かろうじてレンポだけがわかるその対戦相手。

精霊たちが首をかしげる中ティアはその悪い予感が的中してしまうと確信していた。

わたしに・・・貧民の民にあのお方をぼこぼこにしろというのか?!



“グスタフさんの弟子がいて、国王のゼノンバート王も弟子なんだって。あ、練習しているところは見てないけどね”


過去のティアは笑いながらそういっていた。

Re: アヴァロンコード ( No.232 )
日時: 2012/10/26 21:56
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「さぁ、師弟の戦いも終わり、弟子であるティアの勝利となりました」

ゲオルグがアナウンスで言う。

A−7リンク上では二人の選手が顔を見合わせている。

「この優勝決定戦Ⅱでさらに面白いことになりました!」

ゲオルグはリンク上の二人を見てそういう。

「なんとこの二人、双方グスタフ殿の弟子なのです」

へぇーと驚きの声が会場を埋め尽くす。

ティアならわかっていることだが、もう一人が弟子であったとはしらなかったのだ。

「一人は英雄、一人は国王・・・グスタフ殿はさぞ鼻が高いことでしょう!」

観客がどっと笑う。

「ではゼノンバート様、戦う前の意気込みを」

リンクまで降りてきたゲオルグにメガホンを受け取りながら王は言う。

どちらかというと民衆にではなくティアにだ。

「なに、国王だからといって気にするでない。一人の人間として、おぬしと剣を切り結びたく思うぞ」

レンポいわく演説だけはうまい王、ゼノンバートは饒舌にそんなことを言ってのける。

しかしウルはさらりと毒を吐く。

「国王自らが大会に出場するなど、他にすることがないのでしょうか?」

本当に精霊たちの声が普通の人に聞こえてなくてよかった。

出なければ反逆罪とかいわれて再び投獄されてしまう。

それは避けたい。

ようやく集まった精霊たちと、価値あるものを探すことになっているのだ。

「ではティア、いいたいことは?」

ティアにメガホンを渡しながらゲオルグがいう。

ティアはあせりつつもがんばりますとだけいった。

「控えめな英雄様だね。では、ルール説明を—」

何時ものようにゲオルグがルールを説明しだす。

「—ではいいですね?コレが最後の戦いですよ。相手が降参という、もしくは戦闘不能になるまで勝敗はわかりません。では試合開始!」



Re: アヴァロンコード ( No.233 )
日時: 2012/10/26 22:43
名前: めた (ID: UcmONG3e)

カレイラの聖王ゼノンバートはグスタフの弟子である。

けっこう手厳しく習わせたため、王の腕は口先ほどではない。

カレイラの美しい白金の盾を構え、王家に伝わる名剣を構えるゼノンバートはエィアに果敢に突っ込んでいく。

盾を持たないティアはあわてて双剣でガードしている。

(双剣・・・こしゃくなやつめ)

ゼノンバートは確かにグスタフの弟子であるが、双剣の業は受け継いでいない。

身を守ることを主に教え込まれたゼノンバートは、盾を駆使した一対剣術は得意なのだが、本当は双剣を扱いたかったのだ。

それをひょいひょい目の前で扱われればゼノンバートはちょっと不服気味。

けれど目の前にいる少女はカレイラを救い、カレイラを勝利へ導いた英雄である。

誇らしい気持ちと、うらやましい気持ちが交差している。

(盾を使わないのなら攻撃一筋かと思えば・・・)

ゼノンバートの攻撃をがしんッと双剣でガードしたティア。

(双剣でガードされる。なんとも便利な剣だ)

ティアの攻撃を盾で防ぎ、ゼノンバートは盾を構えた防御状態からティアに突っ込む。

「!?」

盾の突進をとっさにかわしたティアは足蹴りでゼノンバートの盾から出た片足をつまずかせる。

「ふぬ!」

しかし、そのまま盾を落とされて足蹴りしようとした片足を盾で挟まれて身動きできない。

「っ!」

そのまま振り下ろしてくる剣をまたも双剣でガードし、エイッとひねって剣を奪い去る。

フォンフォン音を立てて飛んでいく名剣はリンクの女神にぶち当たり、惜しくも場外には出なかった。

「おぬしなかなか・・・だがまだ甘いの」

盾に突き飛ばされすっ転ぶティア。

地面に倒れたその隙に、ゼノンバートは名剣の元へ走っていく。

だがティアもそうはさせないと、ゼノンバートの鎧に剣を引っ掛けてあと少しという状態で引き止める。

そのまま剣をひねるとゼノンバートは足をとられて顎をタイルに打ちつけた。

だが腕を伸ばせば剣に届く。そして仰向けになって盾で防御時ながら攻撃すれば大丈夫・・・。

さっと剣を掴むと、ごろりと仰向けになる。

すると目の前にティアの剣が迫りくる。

「甘いわ!」

ゼノンバートは叫びつつ盾をつきだして、剣をはじいた。

だが、ティアが不適に笑ったのを見逃さない。

ひゅおっと刃が空気を切り裂く音。

あぁ、そういえば双剣だった。

そう思ったときには寝転ぶゼノンバートの喉にティアが馬乗りになる形で剣が向けられていた。

「・・・降参じゃ」

ぼそりと追うがその言葉を吐くと、シーンと静まり返っていた会場じゅうに、わああーっと歓声が沸き起こる。

獣のほえるような歓声と、英雄賛美が繰り返され、勝利祝いの爆竹がとどろく。

「おめでとうーーー!!」「英雄さまー!!」

沢山の歓声がティアをたたえている。

紙ふぶき弾が炸裂してティアの真上にさまざまな紙ふぶきが桜の花びらのように舞っている。

「おめでとう、おめでとうティア!君はこれより十年間、このカレイラで・・・いや、世界最強を名乗ってよいぞ!!」

ゲオルグがにっこり笑っていう。

「名乗ってくれなきゃ負けたワタシたちが救われないネ!」

ハオチイが笑っていう。どうやら意識を取り戻したらしい。

助け起こされた王も微笑みながらまったくだという。

「おめでとう。あなたと戦えなかったのは残念よ。けど、きっと同じ結果だったと思うわ」

ナナイーダがいう。

ルドルドもちょっと残念そうに笑っている。

「さぁ、カレイラの英雄を今一度たたえようではないか!」

ひときわ大きくいうのは王。

歓声が再びティアを包み、浮かれた気分にさせる。

ティアは頬を赤くして優勝杯を受け取った。

そして歓声に包まれて胴上げされて空腹だったけれど、とにかくなんだか楽しかった。

少しはなれたところで精霊たちはそんなティアを満足げに眺めている。

と、ネアキが不穏な気配のものを見つける。

『…?…あれは…』

その人はティアの友人・・・。

何か思いつめている。

するとミエリがどうしたのーと声をかける。

『…いや、なんでもないの…』

その友人から目を離し、ネアキは再びティアを見つめた。

あぁ、このまま幸せそうなティアがずっと続けばいい。

ネアキにしては珍しく、その口元にかすかな笑みを浮かべて。

主人の幸せを心より願った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

大会編はやっと終わりです
これより大会の夜です


Re: アヴァロンコード ( No.234 )
日時: 2012/10/26 23:35
名前: めた (ID: UcmONG3e)

すっかり大会後の賛美が盛り上がり、ドンちゃん騒ぎが収まったのは夜。

波がひいて行く様に人ごみも徐々にうせていき、ティアも家へ帰る。

「ティア、おめでとう」

本日何度目だろうか、ファナが笑顔でいう。

ものすごくうれしそうな笑顔である。

分厚いポンチョを着込んでいるくせに、先ほどかあちらほらとせきが出始めている。

ちょっと心配気味にティアが家に送っていくとヘレンがすぐにファナを看病をしてくれた。

「おめでとうティア。ファナはちょっとはしゃいだようだね・・・。とにかく、ありがとうね」

沢山の人におめでとうといわれ、褒められてティアは気分が上場のまま家に帰る。

「こつってば、調子に乗ってやがるな?」「まーいいじゃない。ティアがんばったし♪」

精霊たちもトロフィー片手にスキップで帰るティアをほほえましいと見ている。

そして家の前に行くとレクスがいた。

「あ、レクス。ここにいたんだ?」

大会会場からいち早く姿をくらませた彼はこんなところにいたのだ。

「おお、約束の品、ちゃんとあるぜ」

にいっとわらってシャンパンを担ぎ上げるレクス。

どうやらほんとに飲み明かすらしい。

本来なら未成年の飲酒は禁止ですが・・・とウルは見てみぬフリをする。

ティアは早速注がれたグラスを興味心身で見つめている。

ジンジャー色の発泡酒は果実の匂いとしゅわしゅわする泡の音が激しい。

『…』

しかしネアキだけがちょっと黙っている。

レクスを見、その心を見透かそうとしているように見える。

だがいくらがんばってもそれは出来ない。

ただ、ティアの家の前で宴会は始まった。

「沢山飲めよ!いっぱいあるんだぜ!」

レクスはワインやらシャンパンの瓶を指差して笑う。

「っと、わすれてた」

慌ててレクスがいう。

ティアは口に運びかけていたグラスを戻し、首をかしげる。

「優勝おめでとう!いやぁ、おまえならやってくれると思ってたよ!」

レクスはぐっと酒を一のみするともう一度酒を注ぐ。

「なんせおまえは今やカレイラの英油だからな!」

ティアは飲みかけたグラスをもう一度下げた。

今度は不服そうな顔でいう。

「またそういう!英雄になったからといって、私自身が変わることはないよ」

ちょっとむくれてそういうとレクスは悪い悪いと頭をかく。

「こんなオレが兄貴面しててもいいってわけか、ありがとよ」

再び酒を一気飲みしてレクスが笑う。

「オマエは英雄になってもかわってないよな、いいヤツだよ」

そういうとやっとティアはにかっとワラってグラスの中身を飲んだ。

なんだか苦甘い。

「なぁ覚えているか?アレはいつだったかな。家も家族も何もかも失った俺を、おまえは助けてくれたよな」

懐かしがるように語りだしたレクス。

「語り上戸なのですかね?」ウルは精霊同士の輪の中でそういう。

さぁ?と首をかしげる精霊たち。

「酔うと語りだす人のことですよ」何それという視線を感じてウルがいう。

ミエリは納得した様子でレクスに視線を戻す。

「あのときは本当にうれしかった。お前が助けてくれなかったら俺は絶望の中死んでいた」

すると先ほどまできょとんとした様子で話を聞いていたティアが急にぶっ倒れた。

「?!」精霊たちは皆驚いてティアを凝視する。

まさかたったいっぱいで酔いつぶれた?!

しかし、それは違うらしい。

レクスは倒れたティアを見、ギリッと奥歯をかみ締めた。

そして悔しそうにつぶやく。

「わりとあっさりだな」

「な?!」

レクスの言葉を聴いて信じられないとばかりに精霊たちは声を上げる。

ティアの親友が・・・ティアを気絶させた?

何故・・・?

呆然とする精霊の前でレクスはなおもつぶやく。

「なんだよ・・・親友の前じゃ、英雄も油断しまくりかよ・・・まったくおまえは、いつも・・・くそ!」

泣き声とも取れるその言葉に精霊たちはますます混乱する。

なぜ、気絶させた当の本人が悲しそうにいうのだ?

しかし、ティアをこのままに出来ない。

「ティア!おきてっ」「おきろぉ!」

さまざま叫んでみるもののティアはおきない。

「くそ・・・きこえねぇか・・・オマエ!なんてことを!」

レンポが怒りに任せていう。

ねこめがさらにキッとしてレクスに襲い掛からんばかりだ。

けれど精霊の声は普通の人には聞こえない。

ここで彼が炎の玉でも放っていれば存在が確認されただろう。

「何故こんなことを!」ミエリも叫ぶ。

ネアキだけは不穏な視線を向けるだけで何もいわない。

おそらく人に不愉快な感覚を抱いたのだろう。

「愚かな!しかし我々がいるかぎり預言書には触れさせない!」

ウルにしては強い口調だった。

おそらく彼も、主人に害を与えられてレクスに不快なものを覚えたに違いない。

しかし、レクスは何食わぬ顔で手にしたシャンパンの瓶を持つ。

そしてそのままバシャット預言書にぶちまけた。

予想外の行動に精霊たちは唖然とする。

「なに・・・?我々が水に弱いことをしているとは・・・このことを知っているのは・・・クレルヴォ?!」

ウルが戦慄が走ったようにいう。

しかし、もう力が出ない。

「力が出せねぇ・・・」

このままでは預言書が・・・。

おねがいだ、ティア。

目を覚ませ。

「おきて、ティア!」


Re: アヴァロンコード ( No.235 )
日時: 2012/10/27 00:03
名前: めた (ID: UcmONG3e)

レクスが精霊の眠るしおりごと、預言書を持ち上げる。

もう抗えない精霊たちは強制的にしおりへと吸い込まれる。

レクスは倒れたティアを見、こぼれたシャンパンたちを見る。

眠り薬入りのシャンパン。

罪悪感から手加減してしまったと思ったけど、そうでもなかったらしい。

地面にぱったり倒れたティアは目をさます気配さえない。

首を振って歩き出そうとするレクスに、背後でウッと息を吐く音。

ハッとして振り返ると、ティアがこちらを見上げているところだった。

まずレクスを見、預言書を見て、またレクスを見る。

そしてこぼれたシャンパンを見て震える声でいう。

「レクス・・・?預言書をかえして・・・?」

冗談だとワラって返してやりたい。

けど・・・だけど・・・。

「ごめんっ見逃してくれ!」

だっとレクスは思いっきり大地を蹴った。

「レクス!?」

慌ててティアも追いかけてくる。

足の速いティアだ、ためらわずにもっと眠り薬を入れておけばよかった!

「なんでこなことするの!」ティアが背後から叫んでくる。

その声は必死だ。

だがレクスも必死であった。

「俺はただ・・・あの頃に戻りたいだけなんだーー!!」

悲しみを振り切るかのようにレクスは叫ぶ。

夜の街にこだまする悲鳴のような叫び。

「妹を生き返らせたいだけなんだ・・・頼む!!」

ティアがすぐそこまで迫っている。

けれどつかまるわけには行かない!

「預言書・・・生き返らせること出来ないよ!」

ティアの声が必死に叫ぶ。

あぁ、そうだ。知っているよそんなこと。

レクスは歯を食いしばる。
    ・・・
だからあの人と取引したんだ。

預言書と、妹を生き返らせることを・・・。

もうすぐ、もうすぐ待ち合わせ場所。

と、視線のおくにあの人の兵士がいる。

助かった!という思いでそのすぐ横を走り抜ける。

顔に傷のある男はレクスを通した後、必死の形相で後を追いかけるティアの前に一歩踏み出した。

「?!」

ティアは避ける暇がなかった。

どんっとみぞおちに強烈な一撃をくらい、ううっと顔をゆがませる。

ハンマーでぶん殴られたかのような痛みに、ティアはその場にくず折れた。

意識だけがはっきりとしていて、精霊たちが遠のいていく・・・。

止めなきゃとわかっている。けれど腹痛がそれを許してくれない。

「悪いな、これも世界のためだ」

ティアの腹を殴った男はさらりという。

そしてためらいがちに振り返ったレクスにさっさと行けと合図する。

レクスは首を振ってレクスを止めようとするティアを振り切り、あるシルエットへと向かう。

頭に王冠をのせた、ヴァイゼン帝国の独裁者—ヴァルドあらためクレルヴォの元へ。


Re: アヴァロンコード ( No.236 )
日時: 2012/10/27 11:57
名前: めた (ID: UcmONG3e)

走り寄るレクスを見てヴァルド皇子—クレルヴォ—のそばに立っていたワーマンはにやりとする。

「うむ、手はずどおりですな」

ワーマンのほかに二人のヴァイゼン兵に囲まれたヴァルド皇子は瞬き一つで返事はしない。

その真っ赤な瞳はただレクスの持つ預言書に集中している。

しばらくして疲れきったれククスが二人の前に到着する。

ひざに両手をつき、呼吸を整えてから。

悲鳴を上げるようにいう。

「お、おい!約束どおりもってきたぞ!」

その様子を見ておかしくてしょうがないワーマン。

彼特有の奇妙な笑い方をする。

「ひはははは!さぁ、預言書をよこしなさい」

戸惑っているレクスに、ワーマンの隣にいるヴァルド皇子—クレルヴォ—が手を差し出す。

するとレクスは悲痛な面持ちで預言書に一度視線を落とした。

おそらくティアのことを思っているのだろう。

後悔や期待、当惑と言った表情が渦巻いている。

けれどわかっていた。

最終的にはこのレクスという青年は自分の言うことを聞くと。

かなり迷った表情のレクスは、苦しみの表情をヴァルド皇子—クレルヴォ—に向ける。

「なぁ・・・約束は・・・」

預言書を抱えながらレクスが言う。

「約束は守ってくれるんだよな?」

ヴァルド皇子—クレルヴォ—はその赤い目をつぶる。

人にやけがさす。

しかしレクスはそれがどういう意味なのか分からず、なおもいう。

「妹を、生き返らせてくれるんだよな?!」

悲鳴に似た叫びにヴァルド皇子—クレルヴォ—はぱっと目を開ける。

「・・・哀れな罪人よ・・・安心しろ。わが力を持ってすれば、そのような奇跡、たやすいこと」

するとレクスは一度表情を明るくし、しかしもう一度ティアのために悩む。

けれど妹とティアを天秤にかけると、どうしようもなく悲しいが妹のほうが地に下がるのだ。

ごめんティア。許してくれとはいわない。でも妹のためなんだ。

レクスは思い切り預言書を目の前の雇い主に差し出す。

もう、後戻りは出来ない。

ヴァルドは両手でそれをゆっくり受け取ると旧友にでも会うかのようにつぶやく。

でもそれは、とても旧友に向ける笑顔ではない。

「ようやくわが手元に預言書が戻ったか」

その言葉で預言書が突如光の柱を空までそびえだす。

金色の美しい光の円柱の中、そこに現れたのは・・・

精霊たちだった。

「あぁ!なんてこと!」四人一塊になっていたのに、引き離されて手を伸ばすミエリ。

けれど届かない。

『…!止めなければ!…』ネアキもそう叫ぶが、やはり伸ばした手は届かない。

「クレルヴォ!思い出すのです!」ウルも手を伸ばしていうけれどその声も手もクレルヴォにはとどかない。

「あなたじは預言書の持ち主ではない!あなたでは預言書を・・・」

遠くへ引き離されていく感覚に抗えない精霊たち。

「くそおおお!」どんなにあがいても届かない。

クレルヴォはやっとその視線を上げる。

けれどウルの言葉で心を正したわけではない。

邪魔。

そういう意味の視線をはらんだ赤い目で、クレルヴォは精霊たちを見上げた。

そしてさっと手を伸ばす。けれどもちろん精霊たちの指し伸ばす手を掴むためではない。

「邪魔だ」

その言葉で精霊たちは抗えず、回転しながらしおりと化す。

四つのしおりはやがて空を舞い、クレルヴォがぬぐうように手を振ると、爆発音と共に四方へ吹き飛ばされていく。

美しい軌跡をのこしたまま飛び去っていく精霊のしおりを見上げていたレクスはハッと我に帰る。

同じように見上げているヴァルド皇子—クレルヴォ—に必死に形相ですがりつく。

「約束を!」ヴァルド皇子の—クレルヴォ—のまだいたのかという視線を気にせずに食い下がる。

「妹を生き返らせてくれよぉ!」

ヴァルド皇子—クレルヴォ—の隣からワーマンがクククッと笑う。

するとヴァルド皇子—クレルヴォ—は目をつぶって空を見上げる。

「すべての人間は罪人なり・・・」詩を朗読するように言い出すヴァルド皇子—クレルヴォ—にレクスは意味が分からずと惑っている。

「その欲望が・・・その傲慢が・・・その存在がっ!!」

語尾と共に突然ヴァルド皇子—クレルヴォ—がキッと牙をむいた。

片手を突き出すと、いきなり魔法のような力でレクスの体を吹き飛ばす。

弾き飛ばされて5メートルほど離れたレンガに叩きつけられたレクスは悲鳴すら上げられなかった。

体中の骨が砕けたような痛みが襲ってきて、うめき声しか出ない。

「なっ!」ティアの監視をしていたヒース将軍が驚きの声を上げる。

痛みをこらえつつティアもレクスを見る。

だまされたけれど・・・それでもやはり心配だった。

(精霊たち、も、いなくなっちゃった・・・どうすれば・・・・)

地面にくず折れたままこぶしをぎゅっと結ぶ。

(預言書・・・守らなきゃ。わたしが、守らないと・・・)

しかし、今はその預言書もクレルヴォの手の中だ。

と、過去最大のいやな予感がティアの心臓の早鐘を打つ。

ものすごく嫌な感じ。

なにかが、おこる。


Re: アヴァロンコード ( No.237 )
日時: 2012/10/27 12:24
名前: めた (ID: UcmONG3e)

そのいやな予感はおそらく本当になった。

「・・・その存在が許されぬ」

すっと手を下ろしたヴァルドの背後でワーマンは熱に浮かされたように言う。

実に楽しそうでわくわくしている様子だ。

「おおお!偉大なる王よ!お許しくださいあなたのためにまた一つ、おろかではかなき夢をささげます!」

ひはははは!と笑いながらレクスを見るワーマン。

レクスは当に気絶しており、ぐったりしている。

と、その近くに・・・。

誰かがいる。

「ヒェヒェヒェ・・・おやおや、ばれちまったかい」その独特の笑い方、オオリエメド・オーフ。

冷めた目でワーマンが彼女を見る。

「久しぶりだの」そう発するオオリにワーマンは挨拶を返さず言う。

「誰かと思えば、あなたですか」

そのやり取りに気をとられていたヴァルドだったが、ふっと不敵な笑みと共に預言書の革表紙をなでる。

そしてイヤというように預言書についている目がゆがむのを確認した後、ヴァルドは気にせずに預言書を開いた。

どくんっと心臓の音のような振動が街をふるわせる。

あたりに邪気が漂い始め、ティアは嫌な予感が間違いでなかったことをさとる。

「おお!始まるぞ始まるぞ!」ワーマンは飛び切りうれしそうにいう。

「新しい時代の幕開けだ!」

うぅっとレクスが目を開いたけれど、再び痛みで意識が遠のいた様だった。

ヴァルドの開いた預言書は黒紫の嫌な気配を漂わせ、それがいつしか具現化する。

風となり、預言書を中心に渦を作り始める。

黒紫の竜巻が、預言書より噴出している。

あたりの材木が初めに吸収されていき、引きずられるような感覚がする。

ついには地に伏せていないと吸い込まれそうになるほどの突風が吹き、オオリエメド・オーフまでもたまらずレンガの漆喰に長い爪を食い込ませて耐えている。

渦はどんどん巨大化しており、夜の街すべてを飲み込むつもりなのだろうか。

その竜巻はすっかり中心街の嫌味兄妹の市場をのみこみ、破壊していく。

それだけではない、花壇や街灯なども吸い込まれ破壊される。

ティアは地面に伏せ、耐えていたけれどいつの間にかヒース将軍がヴァルド皇子の下に急いでいるのを見る。

そして腹痛を抱えながら吸い込まれてしまうのではないかとレクスの元へよたよたと進んでいく。

レクスは気絶しており、レンガに寄りかかっているもそのままでは危ない。

暴風の中レクスに手を伸ばしたとき、ティアの耳にある声が響く。

凛として優しげな声。

「ティア!」

呼ばれて振り返るとそこには



Re: アヴァロンコード ( No.238 )
日時: 2012/10/27 12:55
名前: めた (ID: UcmONG3e)

レンガにすがりつきながらこちらを見ている少女がいた。

あらぶる風に戸惑い、巨大な竜巻をこわごわ見ている。

けれどティアの姿を認識すると、レンガから身を離し暴風の中こちらへ向かってくる。

分厚いカーディガンをまとう彼女、ファナがいる・・・。

はっとしてきびすを返したティアは、ファナに走り寄る。

何故こんなところに!

風の中、よろよろ進んでくるファナ。

ティアに会えた喜びと、その姿が無事で笑顔である。

ファナに手を伸ばす。

あぶないよ、つかまって!

そういおうと口を開いた瞬間だった。


「え?・・・なに?」


不安げな声が響く。

ティアの目の前で、ファナの体がふわりと舞い上がる。

目を見開いたティアの視線の先にはファナと、ファナの背後の黒紫の竜巻・・・。

ファ ナ が 吸 い 込 ま れ て し ま う 。

あわててティアは両手をファナに向かって突き出した。

必死でファナにすがり付こうとする。

ファナも手を伸ばし、ティアの手を掴もうとする。

先ほどの精霊たちが、クレルヴォに手を伸ばしたように・・・。

けれど・・・・その手が後数ミリで触れるというのに・・・手がつながれることはなかった。

「・・・・・・・」

ファナが悲痛な顔のティアに何か言った。

悲しそうな顔で、でもはかない笑顔で何かを伝えた。

けれど必死でファナを捕まえようとするティアには、その言葉が分からない。

むなしくも、ファナの体は急激にティアからはなれ、悲鳴と共に渦にいえていく。

「・・・・・!!」

声にならない悲鳴を上げてティアは叫ぶ。

ウソだ、こんなこと・・・・あってたまるか・・・!

けれど、もうファナの姿は見えなかった。

ティアが伸ばした手も、届かなかった。


Re: アヴァロンコード ( No.239 )
日時: 2012/10/27 13:33
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアの監視から離れ、ヒース将軍は渦の中心、ヴァルドの元へ急いでいた。

黒ずむ竜巻を見つつ、これ以上近づけないとさとると、その場で叫ぶ。

「皇子!」

ヴァルドはまだ視線を預言書に向けている。

「ヴァルド皇子!」

もう一度叫ぶと、ヴァルドがこちらを向いた。

赤い目で、なんだと。

「・・・本当にこれが・・・」ヒースは今までの疑問をついに言う決心をした。

コレは何かおかしい。

皇子は・・・何をしようとしている・・・?

「理想の国家へ続く道なのでしょうか?」

まっすぐヴァルドの目を見ていうヒース。

「・・・・・・」

ヴァルドは無言でそんなヒースを見つめている。

「あなたは目指したはずだ!」

思い出させようと、ヒースは口調をきつくする。

「理想の世界を!あなたは!!」

怒鳴るようにいうと、ヴァルドの背後のワーマンがおろおろしたように目を泳がせる。

さらに何かいってやろうと近づくと、戦いなれたその耳に兵士の鎧の音が入ってくる。

かすかな音なのだがヒースには、暗闇に光がともるようにはっきりと聞こえていた。

振り返ると、カレイラの兵士がハルバート(斧槍)を構えて走ってくるところだった。

ヴァイゼンの兵士たちが腹を突かれて倒れていく。

そのほかにもこちらを目指してやってくるカレイラ兵もいる。

ヒースは背に担いだ剣を構えようと視線を走らせて異変に気づく。

ヴァルド皇子・・・?

渦のでもと、預言書を抱えていたヴァルド。

預言書を使いこなしていたはずなのに、いまや預言書が抗っていた。

黒々としていた預言書が、突如まばゆい光を放ちだしたのだ。

「な・・・んだと?ぐああああ」

その光が強くなり、ヴァルドは悲鳴を上げる。

完全にパニック状態になったワーマンが何が起こったのかとヴァルド皇子を見ている。

ヴァルドは目を瞑り、意識が遠のいたようにがっくりしている。

その腕から預言書が逃れて、パタンと地面に墜ちる。

光を放ちながら開いた状態の預言書。

そして解放された預言書は、渦を消していく。

黒ずんだ光も消えて、ごうごう吹いていた風もすっかり解けていく。

慌てて駆けつけていた兵士は倒れたヴァルド皇子を見て不審げにしていたが、竜巻が失われたことに、足を止める。

その目の前に危ないことに木材が降り注ぐ。

「うわ?!」

慌てて飛びのいたが、不幸にもさらに大きい材木の塊が天より降り注ぎ兵士の中心に激突した。

兵士も巻き込まれ数人が下敷きとなる。

竜巻に巻き込まれていた木材が落ちてきたのだ。

ばらばら墜ちてくる材木やもの達を見上げていたヴァイゼンの兵士たちはクモの子を散らすように逃げていく。

ワーマンはおろおろしながら倒れたヴァルド皇子を見る。

ヴァルドは両目を押さえてもがいている。

先ほどの預言書の光にやられたらしい。

どうしたものかとワーマンはヴァルドに近づく。

するともがくヴァルドのそば、預言書に変化は訪れた。

ページがひとりでにぷつりぷつりと取れていき、それがひとりでに宙に舞って行く。

それが何十枚も失われていく。

空中がページにあふれていた。

「何!」その光景を見ていたワーマンが叫ぶ。

「くっ、いったい何が!」

両手を伸ばして何とかページをとろうとするものの、ページはあざ笑うかのようにその手をかわしていく。

するとヴァルドが立ち上がった。

「この体では・・・」ハッと振り返るワーマンに言うでもなく一人ごちる。

地面を這い蹲るようにどこかへ向かおうとするヴァルドをワーマンと残った兵士は不安げに見つめている。

「預言書の力に耐え切れぬ・・・」

そしてそのまま立ち上がるとどこかへふらふらと歩いていく。

「あ、ヴァルド皇子!」ワーマンは慌てて声をかける。

「皆のもの!引け!引け!戻るぞ!」

ふらつくヴァルドの後を追ってその手下たちがついていく。


Re: アヴァロンコード ( No.240 )
日時: 2012/10/27 14:02
名前: めた (ID: UcmONG3e)

その頃、一人の青年が壁伝いによろよろ進んできていた。

そしてつかれきったように壁に寄りかかり、そのまま座り込んでしまう。

ため息をつき、痛みに呼吸が速くなる。

そのままなにやってんだろうと上を向いた青年。

その青年めがけて預言書のページが一枚舞い降りてくる。

「・・・・」

片手をさしだしてそれを受け取ると、そのページに描かれていたのは・・・。

じいっとそのページを見ていたレクスは、ハッとして背後に目をやる。

兵士の鎧の足音が聞こえてきてさっと顔を隠す。

あまり目立たないようにしてやり過ごすとレクスは震える足で立ち上がった。

この街にはもう戻れない・・・。

俺が・・・街をこんなにしてしまったんだ・・・。

ティアを裏切って・・・。

そのページを握り締めたレクスは、よろよろと人目を避けて逃げて行った。



その頃、街の反対側。レクスと同じく逃げ行くものがいた。

よろめきつつも歩行しているヴァルド皇子。

それについていく手下達。

その行き先を阻むように、ある人物がたち阻む。

ヒース将軍だった。

ワーマンが助けに来たのだと思って歩み寄ろうとしたとき、ヴァルドがすばやい動作でワーマンを止める。

「あなたは・・・一体何者なのです?」

ヒース将軍はヴァルドにそう問うた。

5メートほど離れているけれど、その声ははっきりと聞こえた。

それにヴァルドは微笑みながら答える。

「われはこの世界の創造主」

その言葉でヒースが剣の柄に手を置く。

その光景を見て、ヴァルドは視線を冷たくする。

「罪深き人間よ。貴様は不要だ」

その言葉と共にヴァルドはレクスを吹き飛ばしたときのように手に魔力をともらせる。

その真っ赤な光に目を見開いたヒース。

(人間なのか・・・?)

しかし先ほどのレクスのように弾き飛ばされたため思考が停止する。

バウンドするように家々の壁にぶち当たり、完全に意識を飛ばしたヒース。

地面に倒れると起き上がることはなかった。

倒れたヒースを眺めながらカレイラ出国を目指すヴァルド。

その歩みを止めるものはいなかった。


Re: アヴァロンコード ( No.241 )
日時: 2012/10/27 14:26
名前: めた (ID: UcmONG3e)

兵士たちは破壊された広場を行き来してあるものを見つけた。

重たい木の車の隙間から、小さな手が出ているのを。

「人が巻き込まれている!」

その車はすぐにどかせられた。

挟まれていた人は・・・。

「おい、この人・・・」

兵士たちは口々に頷きあう。

「英雄・・・だ」

ぐったりする少女は、まごうことなき英雄、ティア。

兵士たちは何故こんなところに英雄がいたのだろうと不審に思いつつ、タンかで運んでいく。

「おい、こちらにもいたぞ!こちらは・・・ヴァイゼンの野郎だ!」

道路に伸びているヒースを見つけてカレイラ兵が悪態をつく。

「英雄と敵国の将軍・・・何故こんなところに・・・」

「まさか、なぁ?」

「とにかく・・・コレだけの大惨事だ。目撃者がいるかも知れぬ。探しておこう」

兵士たちは不安を抱えたまま、気絶した二人をフランネル城へと運んでいく。

その頃、たった一人ぽつんと取り残された預言書はティアを待っていた。

しかし預言書を迎えに来たのはにやりとした魔女、オオリエメド・オーフだった。

精霊に守護されていないため、オオリは簡単に預言書を拾い上げた。

「ヒェヒェヒェ・・・」

漁夫の利で、簡単に手に入れられたほしいもの。

オオリは預言書を抱えると甲高い笑いと共に猛スピードで砂漠へと去っていった。


<漁夫の利というのは、二つの何かが争っているのを見ていた第三者がその二つをなんの苦労もなしに手に入れることです。ことわざでは貝と海鳥と漁師が主人公です。貝をついばもうとした海鳥が貝にくちばしを挟まれて、貝も気を抜くと食べられてしまうため強く挟んでいるしかない。その動けない状況を見ていた漁師が貝も海鳥も捕獲してしまうという話です>


Re: アヴァロンコード ( No.242 )
日時: 2012/10/27 15:16
名前: めた (ID: UcmONG3e)

フランネル城についたとき、ティアは目を覚ました。

タンカからおろされて、一人で歩かされる。

心なしか、兵士たちの態度が冷たい。

少し痛む足を引きずりながら、ティアは預言書がどうなってしまったんだろうと気にしていた。

精霊に守られない預言書は、悪用されかねない。

むしろ、精霊のいないあの本は預言書として機能するのだろうか?

精霊のことを思い出すと胸が痛い。

四方へ飛ばされていった彼らは、今どうしているだろう?

ティアが意識を失うまで見た光景は、ファナが吸い込まれていくところ、そしてヴァルド皇子が預言書を取り落とし、預言書が散っていったこと。

駆け寄ろうとしたとき、不運にも木の車が降って来たのだった。

押しつぶされてたいしてケガがないのは、奇跡としか言いようがない。

あぁ、ファナ・・・。

ティアの心は今や引き裂かれる寸前といったところ。

ファナのことを考えると悲しくて悔しくて焦燥感に襲われる。

ファナはどうなったんだろう。

一体どうなってしまったの・・・。

精霊たちも、ファナも、預言書もすべてが心配だ。

そしてレクスも・・・。

姿が見えない。

レクスは一体どこへ?相当なケガだったのだろうか?

今頃手当てを受けているのかもしれない・・・。

ずしずし重くなっていく心。うつになりそうだ。

とにかく、事実を王に伝えないと・・・。

謁見の間はもうすぐだ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

書いてて鬱になりそうな章です・・・
長い上にここからティアが猛烈に不憫に・・


Re: アヴァロンコード ( No.243 )
日時: 2012/10/27 15:52
名前: めた (ID: UcmONG3e)

謁見の間に着くと、すでに王は待っていた。

玉座から倒立しており、厳しい目でやってくるものたちを見ている。

「一体何が起きた?街で起きた騒ぎは一体なんなのだ?」

さらにしわを刻むほど厳しい顔をしたゼノンバートに兵士の一人がひざを折って話し出す。

ティアもそれを聞きたくて見聞き耳を立てた。

一体ローアンはどうな風になったんだろう?

クレルヴォはかなり派手に竜巻を暴走させたから・・・。

「ローアンの街の被害は堪大・・・一角が消えうせそこにいた人々も、建物も何もかもなくなってしまいました」

うそ!というようにティアが目を見開いた時だった。

ゼノンバートのひときわ厳しい声がとどろく。

「お前がやったというのか、ティア?」

「・・・え?」

どうしてそうなるのか分からず、ティアは思考が真っ白になる。

ティアはむしろそれを止めようとした・・・。

「オマエと、帝国軍が一緒にいたのを見たというものが何名かいる」

おそらくこの隣にいるヒース将軍がティアの腹を殴り、監視していた場面だろう。

「おぉ・・・ティア、おまえが・・・オマエがこの災厄を引き起こしたというのか?」

完全に参ったというようにゼノンバートが悲痛な面持ちでいう。

英雄という称号を与えた彼は、ティアに期待していた。

なのに、その対価がコレとはあまりにも・・・・。

「違います!私ではないです!」

ティアは慌てて叫ぶ。どうしてこんなことに?!

真実は違う・・・こうではない!

しかしティアのすぐ横から声が聞こえてくる。

みればゲオルグであった。

破壊されたローアンの町長。

やつれており、ティアを見る目には光がともっていない。

「・・・ティア君、残念だけど君が一番疑わしい」

ゲオルグは淡々とティアにいった。

「あの中心にいたのは君と、そこにいる帝国の将軍だけだ」

冷たく言うゲオルグに始めてヒース将軍が口を開いた。

「・・・確かに俺はヴァイゼン帝国の将軍だが、俺たちが今回事件を引き起こしたわけじゃない」

ティアは頷く。どうやら、この将軍はティアと同じ事実を言おうとしている。

それを聞いてほっとするものの。世間の目は冷たかった。

「黙れ、ヴァイゼンの者よ!」

ゼノンバートは事実を言ったヒースにつばを飛ばしながら荒々しく叫んだ。

「何か申し開きはあるか?」

ぎらついた目でゼノンバートがティアとヒースをにらみつける。

ティアは心が折れそうになりながらも首を振って叫んだ。

「本当にやってない!」

けれどおおそうかそうかと済まされる問題ではない。

ゼノンバートは再び獣のように叫んだ。

「ええい、らちが明かぬわ!」

そして兵士に向かって強く言う。

「このものたちから真実を聞き出せ!」

なぜ、こんなことに・・・。

ティアは震えながら兵士に連れられて牢屋へ連れて行かれた・・・。


ティアとヒースが出て行くのを見届けていると、ぐらりと地震が来る。

「ぬ・・・地震か。不吉な・・・」

ゼノンバートは玉座に倒れるように座り込んだ。

英雄に裏切られるとは・・・。

深く深くため息をついた。


Re: アヴァロンコード ( No.244 )
日時: 2012/10/27 17:23
名前: ゆめ (ID: FAqUo8YJ)

めたさんはじめまして。
ここで、めたさんと同じアヴァロンコードの小説を書いているゆめです。
最初から今までめたさんの小説を毎日読んでいて、ついにあのイベントが来たのでコメントをしてみました。
ティアが可哀想過ぎて涙目状態です。
これからも応援していますので頑張ってください。

Re: アヴァロンコード ( No.245 )
日時: 2012/10/27 17:23
名前: めた (ID: UcmONG3e)

お日様の光が届かぬ、かび臭い牢屋。

その一室に入れられて、尋問は行われていた。

この牢屋はやはり、ティアにいい思いをさせてくれない。

ティアは今、心底嫌な思いをしていた。

「言え!お前がやったんだろう!」

そう叫ぶのはティアの目の前に建つ尋問官。

尋問官は兵士である。

「ふん、何がカレイラの英雄様だ。やっぱりヴァイゼン帝国の内通者だったじゃないか!」

兵士は椅子に座りながら不安げなティアをにらみつけた。

こんなチビが金持ちでも兵士でもないのに戦争に参加して英雄の称号をもらうなど最初から間違っていたのだ。

なかなか騎士に階級できないこの兵士は大会に参加して、騎士の称号を認めてもらえるように戦っていた。

けれど結局優勝したのはこのチビ英雄だ。

自分の鍛錬不足を棚に上げて、兵士はティアを憎んでいた。

それがこんな形で復讐できるとはね。

兵士は内心ほくそ笑んでいた。

こうなったら心行くまで精神的に追い詰めてやろうじゃないか!

「さぁ、言ってしまえ!証拠は押さえてあるんだ!」

不安げなティアは証拠?と首をかしげている。

「証人をここへ」

兵士がそういうと、証人達が人組ずつはいってくる。

最初にはいてきたのはロマイオーにとフランチェスカ兄妹だった。

ティアの顔を見るなり嫌な笑顔を向けている。

「あの事件について見たものを正直に話せ」

兵士の言葉に芝居がかったようにロマイオーには話し出す。

「僕は見ました!ティアが、本を手にして街や人を吸い込んでいたのを!」

すると妹までも芝居がかったように兄にすがりつく。

「恐ろしいわ、お兄様!この人、英雄のフリをしてずっとコレを狙っていたのよ!」

おぞましいっというような冷たい視線に貫かれてティアは震えながら首を振る。

「ちがう・・・」

かすれた声にフランチェスカは高慢気味に鼻を鳴らした。

「もう、あなたの事は信じられませんわ」

完全に見下した水色の目で、にらむ彼女。

「残念だよ」

ロマイオーにはニヤつきながら鼻を鳴らす。

この状況が面白くてしょうがないらしい。

ロマイオーにもフランチェスカも兵と同じようにティアの出世を快く思っていなかった

貧乏で貧民の癖に英雄になり王族に認められるなんて、と。

だからこんな場面が来ることを待っていた。

「じゃぁ、さようなら。反逆者くん」

その言葉で、ティアは目の前が真っ暗になる。

ほんとうに・・・何故こんなことに・・・。


Re: アヴァロンコード ( No.246 )
日時: 2012/10/27 17:48
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ゆめさん、はじめまして!
おお、毎日見てくださっていたとは感謝です!
実は私もひっそりながらゆめさんの小説を見てるんです

これからもよろしくお願いします!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

一組目の証言者達がかえって行き、ティアの状態を見て意地悪く兵士は精神攻撃を開始した。

尋問とは精神攻撃が基本だ。

その点に関してはこの兵士は天才的である。

「どうした?まさかまだ自分が英雄だと思っているんじゃないだろうな?」

ティアの震える様子を見て兵士はため息をついてみせる。

「もう誰もそんなこと思ってるヤツはいない」

「・・・・」

ティアは相変わらず黙っている。

何を言ったらいいかわからず、目を伏せて下ばかり見つめている。

もしかしたらないているのかもしれない。

と、ぐらっと地震が来た。

地下にあるせいか、長く大きく感じる。

「・・・っと、やっと収まったか」

地響きに耐えかねて起立していた兵は再び椅子に座った。

そして不安げにきょろきょろしていたティアに第二の証人を呼びつける。

今度来たのはヴァイゼンから亡命してきた貧弱小説家かムイとビスコンティーというカレイラ屈指の名門家のものだった。

今はよぼよぼ爺さんだが、子はいないため、名門もこの世代で途絶えるだろう。

遊び人のため、この年齢になっても決まった女性一人と長年連れ添うという概念に納得できないらしい。

それはさておき、早速ティアにカムイが言う。

「・・・ティア君、君は一体何故こんな事をしたんだ?」

カムイが悲痛な面持ちで言う。

「君、君のせいで・・・ファナはね、いなくなったんだよ・・・」

ひそかにファナのことを好いていたかムイはいくら探しても見つからないファナがやがて、ティアのせいで失われたのだとさとったのだ。

「僕は・・・僕達ローアンの民は君の事を信じていたんだ!なのに・・・。僕は家を失ったよ・・・その上君はファナまで奪ったんだ」

ティアのことなどお構いなしにカムイはぼろぼろ泣き出した。

ファナがいなくなったのを悲しんでいいのは自分だけだというように。

「わたし・・・じゃない。どうして、こんなことに・・・」

(私のせいでファナは・・・・いなくなったの・・・?)

「おぬし、本当に魔物にでも魂を売ったのか?」

ビスコンティーの声にティアは力なく首を振った。

もう言葉さえ出ない。

(私のせいで・・・街は破壊されたの・・・?)

「信じてほしい・・・・」

か細くやっとはかれた言葉を二人は肯定することが出来なかった。

「・・・ごめん、僕はもう君の事を・・・信じられない」

カムイがそう言って去っていく。

「話すことなど何もないワイ!」

ビスコンティーはカムイの後について怒りながら去っていった。

ティアの心は断絶寸前だった。




Re: アヴァロンコード ( No.247 )
日時: 2012/10/27 18:56
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアは心をずたずたにされても、理性まではかろうじて保っていた。

なので誘導尋問に誘われて自分が犯人だなどといわなかった。

それが気に入らない兵士は奥歯をかみ締める。

どうせこの小娘も強がっているだけだ。

意志の強さなど、簡単に失われる!

「ふん、どんなに否定しようとも多くの目撃者がいる。それに、いつも持っていた本もないじゃないか。怪しげな術でも使ったんだろ?」

ティアは否定し続けた。

ティアの残っている理性まで吹き飛ばそうと塀は彼女が恐れる人を第三証人として呼んだ。

「こんの・・・バカ者がぁ!」

開口一番グスタフはティアに怒鳴った。

さすがのティアも怯えきっている。

震えながら目を見開いて、首を振っている。

けれどグスタフはティアに詰め寄る。

「そなたは何か他のものと違うと思っていたが・・・、まさかその力が人々に災いを振りまくものであったとは!」

必死にティアはグスタフにそれは違う、誤解ですといおうにもグスタフの怒りは凄まじかった。

期待していたぶん、怒りが募ったのだろう。

「弟子の罪は師匠の罪」何か決心したようにグスタフは言い放った。

「このグスタフ、道場をたたみ被害を受けた人々に償いながら暮らそうぞ!」

それを聞いてティアは必死に叫ぶ。

「そんな・・・聞いてください!」

(事実を聞いて・・・誰か信じて・・・!)

けれどグスタフは聞く耳も持たず怒鳴りつけた。

「問答無用!」そして出て行った。

戸惑うティア。

徐々に理性までが削られていく。

取調べで発狂するものもいる。

精神的に衰弱してしまう人もいる。

「ぜひ、お前に会いたいというお方がいる。通すぞ」

ティアはうなだれていた首を上げた。

会いたい人・・・?

また、文句やひどいこといわれるのかな・・・。

オマエのせいでって・・・いわれるのかな・・・。

何もしてないのに・・・・あれ?わたし何もしていないんだよね?

理性崩壊まであと少し。

ティアはどれが事実なのか忘れないように歯を食いしばった。

こんな誘導尋問に負けてはいけない!

でも・・・いったい誰が来るんだろう?

警戒しながら待っていると現れたのはハオチイだった。

「正真正銘の英雄様だ」

皮肉たっぷりに兵士が言う。

ティアは何のようなんだろうと暗い気持ちでハオチイを見つめた。

また攻められるのだろうか。

なんだが負の気分がティアの心に食いついて人に会うことを嫌わせている。

暗い気持ちがティアを蝕む。

ハオチイがやってくるとティアはどうせ何を言ってももう信じてくれないんだろうと諦めていた。

「ティア!何であんなことをしたネ!」

ハオチイはティアにいった。

ティアはただ悲しげな目をハオチイに向けている。

「私のせいじゃない・・・・」

かすれた声で言うとハオチイは首を振る。

(あぁ、もう誰も信じてくれない・・・)

「信じられないネ。街の中心部はぐちゃぐちゃネ。ワタシの爆弾でもああはならないよ」

(どうしてこんなことに・・・?なぜ・・・)

急速に落ち込んでいくティアに爆弾について語りだすハオチイ。

それを止めたのは兵士だった。

「コレでは取調べにならない・・・今日のところは牢にはいってろ!」

ティアはようやく精神攻撃から逃れることが出来た。

(明日もこんなことが続くの・・・)


それまで心は持たないだろう。


Re: アヴァロンコード ( No.248 )
日時: 2012/10/27 19:40
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアが案内されたのは普通の牢屋ではなかった。

空中に鳥かごのようなものがあり、その中に入れられた。

自由を奪われた身。

きっと籠の中の小鳥も、こうした気分なのだろう。

檻の合間から待望の自由が見える。

すぐつかめそうなところにあるのが余計に悲しい。

その檻に先客が座っていた。

背後で乱暴に檻が閉められると、かすかに檻が揺れる。

「よう・・・帰ってきたか」

片手を挙げて接してくるのはヒース。

ティアよりも先に檻に戻されていたらしい。

黙っているティアに気遣うようにヒースはいう。

「かなり絞られたみたいだな・・・それにしても」

ヒースはしゃがみこんだティアに話しかける。

「ずいぶん立派な地下牢だな・・・聖王の名が聞いてあきれる」

ふんっと鼻でいうヒース。

けれど、ティアは気分が優れず黙っていた。

事実を信じてほしかった。

みんな分かってくれると思っていたのに・・・だめだった。

無実なのに・・・また牢屋に入れられた。

それとも本当に私がやってしまったんだろうか?

預言書を暴走させて、精霊たちを・・・ファナを・・・。

あぁ、精霊たちに会いたい。

励ましてくれるかな。

慰めてくれるかな。

気にすんなよ!とレンポはいうだろう。

大丈夫ですよ、とウルはいうだろう。

人っておろか、とネアキはいうだろう。

私がついてる、とミエリはいうだろう。

そんな彼らに会いたい。

いま、彼らはどこにいるんだろう・・・。

ティアは心がねじ切れそうになった。

すると、恐ろしいほどのぐらつきがティアとヒースを襲った。

いや、二人だけではない、カレイラ・・・いや世界中がゆれた?

大地震だ。

「おいおい、ここは地下だぞ?」ヒースが不安げにいう。

と、がこーんっと頭上で大きな音がする。

「うわ!あぶないっ」

「?!」

ティアが見上げると何かが落ちてくる。

レンガ・・・・がふってくる?!

急いで避けようとして、でもそれでいいの?と心が誘いかけてくる。

ここで死んでしまったほうが楽じゃない?

悲しいまま生きるよりも、楽になったほうがいいよ。

あっちの世のほうが楽しいよ?

そんな誘いがティアの思考を一瞬止めた。

このまま・・・とどまってしまえば・・・私は・・・

レンガが迫ってくる。

ティアはすっと目を閉じた。

しかし、がつっと妨害音がしてティアは目を開ける。

いつの間にかヒースがいてティアをかばうように円形の盾でレンガをはじいたらしい。

「死ぬ気か?!」とはいわなかった。

分かってたんだろうけどそれには触れてこなかった。

「・・・さっきの地震で通れるようになったようだ。まるで奇跡だな」

ゆがんだ折は確かに人が通れそう。

逃げれる。

「・・・さて俺は行くとしよう」ヒースはさっさと歩いていく。

ティアは無心でそれを見ている。

「もし、まだ生きる気があるなら・・・」ヒースはためらいがちにティアにいった。

「ついてこい・・・」

ティアはその言葉にハッとする。

私は死のうとしていた・・・。

死んだらファナにも精霊たちにもあえないというのに。

こぼれそうになった涙をこらえて一歩踏み出した。

生きるため。

「よし、いくぞティア」




Re: アヴァロンコード ( No.249 )
日時: 2012/10/27 21:00
名前: ゆめ (ID: xJkvVriN)

えっ…読んでいたんですか…?
ふえぇ?!Σ゜゜(□)
うわああああん!!°・(ノД`)・°・

はい。ごめんなさい。暴走しました。
ティアが死のうとするなんて…。
ティア頑張って精霊達とファナを助けてね〜!!
こっちのティアとユミルも応援してるよ〜!!
ティア「あれが私なの…!?」
ユミル「こっちのティアのほうがカワイイ…。」
ティア「なんですって〜?(怒)」
↑拳握りしめて
ユミル「ごめんなさ〜い!!」

Re: アヴァロンコード ( No.250 )
日時: 2012/10/27 21:36
名前: めた (ID: UcmONG3e)

檻から地面に降り立つとそこがとんでもない広さだと分かる。

渦をかくように地底へ続く道と地上へ続く道。

道は一本きり。

螺旋階段のようだ。

出口は一つではないはずだが・・・正式な出口は兵士たちが守っているのだろう。

困ったなぁとヒースは頭をかく。

ついてこいなんていったけれど、その前に出口が分からん。

ティアは大人しくヒースの後ろに控えていて悲しげな顔をしている。

なんか、迷子を助けたみたいだな・・・。

ヒースは頭をかきながら思う。

どうにか外に出ないと・・・。

「なんて広さだ。まるで迷宮だな」

ヒースがぼやいた瞬間。

「あたりまえだ!ここは亡霊どものすむ世界。ヒドゥンメイアだからな!」

この声は・・・!

ティアは心の中である人物に特定付ける。

レンポが命名した、あのひと・・・。

「タワシさん・・・」

精霊のことを想って再び心が沈む。

だがタワシは微笑みながら挨拶する。

「よう、おまえさんとはよく出会うな」

沈んだ気分だが紛らわせるためにティアは声をかけた。

「ヒドゥンメイア?」

「そうじゃ。地下牢獄ヒドゥンメイア」かみ締めるようにそのなを言うタワシ。

ヒースとティアは興味深深で聞き入る。

「このカレイラ国の歴史の暗闇に忘れ去られた死の牢獄じゃ!」

ふーん?と聞き流しティアはもう一つの疑問も口にする。

気がまぎれればそれでいい・・・・。

「亡霊ども?」

「ここに投獄されたものは重大犯罪者か政治犯たちじゃ」訳知り顔でタワシがいう。

まるでウルみたいだなぁと思い、再び悲しみがよみがえる。

「ほとんどがそのまま忘れ去られて死んでいった。無念の思いが亡霊となてさ迷い歩いているというぞ」

ひどい話だ、とヒースがつぶやく。

地震がなければ危うくをの結末だったかもしれない。

いやぁ危ない・・・。

そしてタワシとティアを眺めていう。

「なんだ、顔見知りか?」

ティアがこくりと頷く。

「この牢獄はとてつもなく広い。奥には魔物と亡霊がうようよじゃ!」

タワシがおかしそうにいう。

何をそんな楽しそうにしてるんだこの爺さんは。

「物騒な話だな」

相槌を打つとタワシはティアとヒースを眺めた。

「どうせまた無実の罪で投獄されたんじゃろ?呼ばれる前に出てきてやったわ!」

「話が早いな。頼む」

“また”投獄された、というのが引っかかるがヒースはタワシに案内を頼んだ。


タワシの抜け道まで来ると、ヒースはお礼を言って抜け道を進んでいく。

ティアは悲しい表情のままムリに笑ってタワシに御礼を言う。

「ありがとう、タワシさん」

「・・・ふん、ずいぶん落ち込んでおるな。まぁよい、元気になったらまた会いに来るがよい!・・・ではな」

笑顔で送り出してくれたタワシ。その優しさにティアは涙が出そうだった。

「はい・・・また、クリームケーキ・・・一緒に食べようね」

泣きそうになりながらいうと、タワシは手を振る。


抜け道から出ると、相変わらず緑が広がっている。

平原を吹く優しい風は変わってない。

だが、心苦しいティアには自然の美しさに目を向けることが出来ないままでいた。

まだつらくて、怖くて、寂しい。

彼らに会いたい・・・。

ムリだよ。だって私がそれ全部壊してしまったんだから。

私が自分で幸せを壊した。

グラナ平原に何かが倒れる音が響く。

ヒースが振り返るとティアが倒れている。

「おい、ティアどうした!」

ティアはいつのまにか意識を失っていた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

やっと第五章終わりです。
第五章が絶望なら第六章は再起でしょう。

最後になりましたが参照2800越えました!ありがとうございます


Re: アヴァロンコード ( No.251 )
日時: 2012/10/27 22:57
名前: めた (ID: UcmONG3e)

 第六章 旅立ち

 —失われた力は
  価値あるものの訪れにより
  再びよみがえる



「あ、目が醒めたカ!」

ティアが目を開けると、すぐさま誰かの声が喜ぶ。

聴きなれない声だが・・・というかむしろ、ここはどこだろう?

黙っているとその声の主はなおも言う。

「ラウカは、一生懸命面倒みたゾ!」

ベットに横たわったままのティア。

その声に感謝したいけれど・・・心はずんと沈んでいる。

「ありがとう・・・」

かすれた声でつぶやくとラウカという人物は首をかしげる。

ベットから見える限り、ラウカは真っ赤な髪の少女だ。

獣の牙のようなものを首飾りにしている。

格好はやはり獣の皮で作った装飾品を身にまとっている。

そして、人と違う耳。

ひょこっと真っ赤な髪の間から、ネコのような長い耳が突き出していた。

ねこみみ・・・。

巷ではやる要素ではあるが、かわいらしいというより野生的と言ったほうがあっている。

方耳には耳輪が入っており、豹のような色である。

ラウカはティアを緑色のきれいな目で見つめる。

赤い髪はレンポを、緑の目はミエリを思い出させる。

悲しみにゆがむ表情を見て、ラウカは声を上げた。

「? 目醒めても元気ないゾ?どうしタ?」

ラウカに心配されてもティアは病んだ心が癒されないことに悲しみを感じた。

誰と話そうが、誰も信じてくれない。もういい。一人にして・・・。

ティアの心はそれを望んでいた。

けれどラウカはひらめいたようにティアにいう。

「わかっタ!おなか減っているんだナ!ラウカもおなか減っタ!」

にこっと笑顔でいうラウカ。

その声に反応するように聞き覚えのある声が聞こえてくる。

「お?やっと気が付いたな?」

ヒースだった。

ティアの表情を見て笑い声を上げる。

「ははは、驚いただろ?ここは俺の知り合いの家でね」

知り合いとは・・・きとラウカのことであろう。

見渡せば、木で作られた家だと分かる。

けっこう広くてまどまであり、光であふれている。

新鮮な空気があふれており、床もちゃんと作られ、獣のマットまであった。

そうか、ここがラウカの家・・・。

家—ときいてズキンッとティアはまた心が痛んだ。

カムイは家をなくしたといっていた。

“僕は家を失ったよ・・・その上君はファナまで奪ったんだ”

脳裏にがんがん響く悲痛な叫び。

ファナ・・・・。

思い返すだけでつらい。いっそのこと、記憶がなくなってくれたらどんなにいいか!

その表情を読み取ったのかヒースが静かに言う。

「まだショックが大きいようだな。しばらくここで気持ちの整理をするのもいいだろう」

ティアはこくんと頷いた。

その元気のない姿にラウカも言った。

「街の奴らにいじめられたカ?だいじょうぶ、ここは街から遠イ」

ティアに笑顔でラウカは言う。

「気の済むまでいるといイ!」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ゆめさん はい!見てますよー
精霊一人と契約を結ぶんだったら、私はレンポですかね・・・
そちらもがんばってください!


Re: アヴァロンコード ( No.252 )
日時: 2012/10/28 12:16
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアはベットに背を預け、ぼうっとしていた。

気持ちの整理・・・。

一体何を整理しろと・・・?

考えたくもないあの記憶達をまた思い返さないといけないのだろうか?

ティアは本能的にその記憶を心の内に閉じ込めた。

そして出来るだけ無心を装って死んだように生きていた。

すると今日もラウカがやってきて、ティアに何時もの報告をしてくれる。

「今日も街で王様がなんかしゃべってたゾ」

ベットに頬ずえをついていうラウカ。

「でも街の人たちはあまり元気がなかっタ」

そう、ヒースに頼まれて、ラウカは毎日カレイラの様子を偵察しに行っていた。

そして情報を得たりしているのだ。

ティアも知りたいだろうとラウカがティアに報告を続けている。

「ティアもまだ元気でないカ?」

街の報告を終えて、ラウカが獣の耳を横に伏せて気遣うように聞いてくる。

ティアは答えることが出来ず、ただ頷いた。

するとラウカは獣の耳をさらにたれていう。

まるで主人を心配する犬みたいだな、とティアは想う。

「そうカ・・・ラウカ、おまえの元気なところみたイ」

心配げな表情のまま、ラウカが言う。

「おまえが元気になれば狩りに連れて行ク。そうすればラウカも楽できル!だから早く元気になレ!」

自分勝手なのか、素直すぎるのか・・・ラウカは今日も狩りに出かけていった。

ラウカの家で暮らす間、食料はというと主に獣達の肉や、木の実などだ。

ラウカが狩りに出かけ、取れた獲物を分け与えてくれるのだ。

ティアがまだぼうっとしていると、いつの間にか夕方になっており戸口にラウカの姿が見えた。

そしてうれしそうにティアの元に駆け寄ってくる。

まるで百点満点を取った子供が親に自慢するように。

「今日は大きいエモノが獲れたゾ!たくさん食べて元気出セ!」

ティアはそのきょだいな肉塊をみて、目をしばたく。

するとラウカが声のトーンを落として聞いてくる。

「どうしタ?肉じゃ・・・元気でないカ?」

あまりにも悲しそうな声だったのでティアは首を振った。

けれどラウカの野生的本能はそれがウソだと見抜いていた。

「んー・・・じゃぁ、木の実とかなら元気出るカ?」

ティアはもう、素直につぶやくことにした。

「・・・わからない・・・」

苦しくて何も食べれない。

どんなにおいしいものを食べても、味が分からない。

何かを食べる気分ではないのだ・・・。

するとラウカが困ったように言う。

「自分の事もわからないのカ?変なヤツだな、おまえハ」

ごめんね、と小さく言うとラウカは首を振る。

「でも食べたらきっと元気でル。さぁ、食べるゾ!」

こんなに優しくしてくれるのに、心が反応しないなんて、とティアは悲しくなる。

まるで心が破裂して、無くなってしまったかの様だ。

ラウカはそんな壊れたティアの心を、不器用だが針で縫い戻すように支えてくれた。



Re: アヴァロンコード ( No.253 )
日時: 2012/10/28 13:26
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアとラウカはその日、気分転換にと森を一緒に歩く予定だった。

「それじゃ、ヒース!行って来るゾ!」

家の管理と狩りをヒースに任せ、ラウカとティアは家から出た。

まずティアを最初に迎えたのは、優しいかぜ。

痛んだ身体と蝕まれた心をなでるように風が触れてくる。

ミエリのことを思い出して涙が出そうになる。

それをこらえて、ティアは歯を食いしばる。

「凄いだロ!全部ラウカが作ったんダ!」

ラウカは家の出口に作られた巨大階段を見て自慢げに言う。

これは木で作られており、高さ3メートルほどもあるだろうか?

けっこう丈夫に作られており、生活力が高いらしい。

振り返って家のつくりを見てみると、それは家というよりも巨大きのこ。

黄緑色のきのこの中に住んでいるようだった。

「さぁ、行くゾ!」

ラウカはティアの手を引いて、長い階段を下りていった。

ラウカの住むここは、東の巨木と呼ばれる木の中だった。

ミエリの封印されていた、西の巨木と対になる存在だ。

その巨木のそばに、緩やかに流れる川があり、橋として巨木が架かっている。

水色の川を黙って眺めているティアを、ラウカはムリに動かそうとはしなかった。

見たいならばずっと見てればいい。

心が感じるままに。

そうすれば、ティアの心は安らぎを思い出すだろう。

「・・・・あっちは・・・?」

ティアが川を渡って、奥に行く道を指差した。

「うン。猟師の道ダ!ラウカがなずけたんだゾ」

ちょっと照れくさそうに言うラウカ。

「よし、行ってみるカ!」


猟師の道と呼ばれるこの森は、ルドルドの住むグラナトゥム森林ほど美しくは無い。

深い緑が無いのだ。

乾いた感じの森で、乾いた緑でいっぱいだった。

木漏れ日がよく目立ち、オーロラのようにティアに降り注いでいる。

「ここでいつも狩りをしてル。緑深くないけど、でもここがラウカの森ダ」

魔物たちは陰に潜んでいて、ラウカの気配に少なからず怯えているようだ。

狩られるのはイヤなのだろう。

どうやらこの森のトップに君臨するのは、ラウカらしい。

見ればラウカは獣耳をぴんっとたてて警戒しており、武器の無いティアを教われないように警戒している様だった。

守られている・・・。

守護されている感じ・・・。

「少しは元気になっただロ?」

ティアを振り返ってラウカが問う。

「森はずべてを癒してくれル・・・それに包んでもくれル」

ラウカは少し真剣になってティアを見つめた。

「・・・だから、泣いていいんだゾ」

「!」

ビックリするティアにラウカは森を見上げながら言った。

「雨が降るみたいに、泣くことは自然ダ。森は優しイ。きっとティアを慰めてくれるゾ・・・」

ラウカは最後微笑みながらそういった。

ティアはそのとき心の中に風が吹いたような感覚に襲われた。

心を閉ざしていた曇ったガラスが、見事に崩れた。

そしてティアは空を見上げた。

今まで見ていた世界が、今は違って見える。

何もかも曇っていた世界が、急に光あふれ、色を取り戻していく。

曇ったステンドガラスをぬぐうように美しさを取り戻した世界を見て、ティアはようやく涙を流した。

心を縛り付けていた枷が外れた気がした。




Re: アヴァロンコード ( No.254 )
日時: 2012/10/28 13:59
名前: めた (ID: UcmONG3e)

彼らを想って泣いた日から、ティアは少しだけ心を取り戻しつつあった。

でも、やはり元気だけはなかった。

ベットに座り込んでいると、ラウカが近寄ってくる。

「まだ元気でないみたいだナ・・・」

ラウカが心配げに言う。

「ラウカ、こんなにがんばっているのにティアはどうして元気にならなイ?」

あれからラウカは、ティアを元気付けようと再び森に連れ出したり、森に伝わる昔話をしてくれたり、珍しい木の実を採りにいってくれた。

「んー・・・ヒース、肉食べると元気になるのニ」

ラウカの視線の先にはラウカのとってきた肉にかぶりつくヒース。

実に幸せそうな顔をしている。

「ラウカ、お前がよく分からなくなってきたゾ」

「ラウカのせいじゃないよ・・・」

静かな口調で言うと、ラウカはホット安心したような顔をした。

「そうか、少し安心しタ。ラウカのしてきたこと、おせっかいじゃなかったんだナ」

にっこり笑って言うラウカ。

それに釣られて少し微笑むとラウカがぱっと明るくなる。

「そういえば、おまえここに来た時よりいっぱいしゃべるようになっタ。ラウカ、お前のこといっぱい知りたイ!」

ベットに座って振り返るような形でしゃべるラウカ。

「だからはやく元気になってラウカと話セ!それで一緒に狩りダ!」

そして左手を突き出す。

ティアはなんだろう、と言った表情で見ている。

「ラウカとティアの約束だ!」

どうやら人で言う、指きりげんまんをしたいらしい。

小指だけ突き出したラウカに習って、ティアも同じようにする。

そして指きりの約束をした。

ラウカがとてもうれしそうに笑うのでティアもうれしくなった。

「ア!今おまえ笑ったナ!」

ティアの笑顔を見てラウカが目を輝かせる。

「よくわからなくてもきっと元気になってル!大丈夫ダ!何かあってもラウカがおまえの力になル!」

その優しい誓いにティアは喜びの涙を流した。




Re: アヴァロンコード ( No.255 )
日時: 2012/10/28 19:31
名前: めた (ID: UcmONG3e)

それからしばらくたったある日のこと、ヒースにベットを占領されたティアは床に座っていた。

ラウカがこの日はなかなか帰ってこないので、ちょっと心配していると、外より物音が聞こえてくる。

二人して家の戸口を見ると、ラウカがいた。

だが、様子がおかしい。

なにかを・・・引きずってくる。

「外で人をひろったゾ!」

ラウカはその人物を引きずりつつ家に入ってくる。

「おまえを探していタ」

その人物を見て、ティアは驚愕する。

「そいつは!」ヒースがベットより転がり降りて叫ぶ。

事の元凶を引き起こした人間。

わたしを、だました、にんげん・・・。

ラウカに抱えられてつれてこられた人は、レクスだった。

ぼろぼろで傷だらけのレクスは意識朦朧(いしきもうろう)状態らしかった。

「ヒース、知っているのカ?」

レクスを引きずっていたラウカがヒースに問う。

「知ってるも何も・・・こいつが今回の事件の元凶だ」

それを聞いてラウカが目を見張る。

「では・・・ティアがひどい目にあったのも、こいつのせイ?」

ティアは黙ったまま。

それを肯定と受け取ったラウカはレクスを床に転がす。

なんとなく顔つきが厳しくなった。

「ラウカが口を出すべきじゃなイ・・・でも、今さらティアに何のようダ」

ティア、と聞いてもうろうとしていた意識を取り戻したらしい。

レクスが薄く目を開ける。ティアを探しているのだろう。

元はといえばレクスが預言書を奪ったことから始まった。

怒りがわいてもおかしくない。

でもティアは無事であったことにまずほっとした。

「おまえか・・・?」

床にぶっ倒れたままレクスがかすかに目を開けて言う。

それを覗き込むようにティアは頷いた。

「ゆ、ゆるしてくれ・・・」

レクスは泣きそうな声で言った。

「ずっと探していたんだ・・・」

ティアは何も言わずにレクスの言葉を聴いていた。

ラウカによってほぼ修復された心は、ティアにさまざまな感情をぶつける。

怒れ、喜べ、憎め、安堵しろ、悲しめ、軽蔑しろ・・・

だが、どの感情もティアは選ばなかった。

「おれは・・・間違っていた」

レクスはかすれた声で続けた。

何時もの皮肉る口調ではない。

本音というヤツだろう。

「ずっと世界を憎んでいた・・・何もかも回りのせいにして、あきらめていた・・・」

寝転がったままレクスはうわごとのように言う。

言わずにはいられないのだろう。

ティアは黙ってそれを聞いていた。

「だが、ちがったよ」救いを求めるような捨てられた犬のような表情でレクスが言う。

ティアは震える兄貴分の手をとってやった。

「あの後ずっと逃げていた・・・」

あの後・・・預言書の暴走のこと・・・。

つらい記憶を押しやってティアは真剣に聞いた。

「奴ら・・・俺が預言書を持っているとおもってる・・・」

奴らというのは、おそらくクレルヴォやワーマンたちのことだろう。

でも、とティアは不安になる。

レクスも持っていないというのなら、一体預言書はどこに・・・?

それに答えるようにレクスが言った。

「預言書は砂漠だ。砂漠の魔女が持っている・・・」

そういいながらティアに助け起こされてポケットを探る。

「?」三人は興味心身で何が出てくるんだろうと見ている。

差し出されたのは、ぼろぼろの紙。

預言書の紙だとティアには分かった。折曲がっていて、何についてのページかは分からない。

「おまえの親友だったこと・・・誇りに思う・・・」

すべての力を使いきったというように、レクスの身体から力が抜けていく。

「また、あのときのように・・・一緒に・・・・」

すべて言い終わる前に、がくっと力が抜けて意識をたった。

ティア一人では持ち上げられないのでヒースが抱えてティアの寝ていたベットに寝かせる。

生きてはいる。

ただ疲労により疲れきったらしい。

「しばらくは目を覚まさないな」ヒースが言う。

その傍らで、ラウカが木の葉で仰いでいる。

「安静にしていれば、目を覚ますだろう」

言われて安心する。

そして看病する二人に背を向けて、先ほど受け取った預言書のページを開いてみる。

二つに折れていた紙を広げると・・・ティアは息を呑んだ。

「・・・ファナ・・・」

そこに描かれてこちらを見つめていたのは、大好きな親友だった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照 2 9 0 0 越えました!
あと100で3000ですね!
ありがとうございます!!

Re: アヴァロンコード ( No.257 )
日時: 2012/10/29 19:48
名前: めた (ID: UcmONG3e)

レクスがティアを探し当てた次の日だった。

朝起きるとすぐに、ヒースとラウカが話し込んでいるのが聞こえ、寝ぼけたままそちらへ向かう。

ティアの姿を見た二人が頷き会ってティアを迎えた。

「・・・そろそろ始めようか、ティア」

「?」

ティアは首をかしげる。

一体何を始めるというんだろう?

「ティア、君もだいぶ回復してきた」

外にティアを連れ出しながらヒースは言う。

ティアは隣に立ちながらヒースの後を追うラウカを見て何が言いたいんだろうと、不安げに思う。

ラウかお手製の立派な階段をおり、ラウカ命名の森の道に立つ。

「一体何を始めるかだが—」

振り返ったヒースがティアに言う。

「つまりはこれだ」

ヒースは腰に刺してある剣をぽんぽんと叩いた。

剣?とティアは首をかしげる。

その剣をひらりと引き抜いて、さっと構える。

「これより君に何か武術の特訓をしようと思ってね・・・」

その剣を地面に突き刺したヒースはティアに問う。

「君は剣を使えるか?」

ティアは頷こうとして、うなだれた。

確かに剣で大会で優勝したり、魔物たちを倒してきた。

けれどそれは預言書の剣。

預言書から取り出した武器は何でも扱える。けれどそうやって使いこなせるのは預言書のサポートのおかげだ。

なのでティアはうなだれたまま、首を振った。

するとヒースは次の問いを投げかける。

「ではハンマーは?」ティアは首を振る。

「飛び道具?それとも爆弾?」

ティアは首を振り続けた。

すると別にヒースは困った顔をせずに頷いた。

「そうか・・・だが、それでも戦いたいか?」

ティアはじっと黙っていた。

けれど心の中では考えていた。

ティアは戦いは好きではない。

けれど、誰かを守るため、次の世界を創るため、ティアは剣をふるってきた。

けれど守ってきたカレイラの人たちは、ティアを信じなかった。

そして今、カレイラを亡命してこんな森の中にいる・・・。

けれど・・・ティアは拳に力を込めた。

目をつぶっていたけれど、その茶色の瞳を開く。

邪険にされた、けれど見捨てられない。

預言書はないけれど、でも、何か力になりたい。

失ったものを取り戻したい・・・。

「・・・はい」

ティアがいうと、ヒースもラウカもほっとしたような表情をした。

決意したティアを見ていたラウカは、ひょっとして、とヒースを見上げる。

「ヒース、もしかしてあの技を教えるのカ?」

「あぁ。・・・ティア、今の君は奇跡を起こす力はないかもしれない。だが、それでも何か可能性を感じる」

ヒースはティアを見ながら言った。

なぜだか、楽しそうだ。

「わが流派、学びたいか?」

「! はい!」

流派。

世界には四つ流派がある。

剣、ハンマー、飛び道具、爆弾。

ティアはその四つの流派の師匠たちに出会い、とりあえずその技を学んだ。

しかし、ヒースが言うにはもう一つの流派がある・・・?



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 参照が 3000 いきました!!
 ありがとうございます!!
 
 今は前編の精霊収集がおわり、中編に突入中です。
  

Re: アヴァロンコード ( No.258 )
日時: 2012/10/29 22:42
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ヒースは頷いたティアを満足げに見た後、ちょっと誇らしげに腕を構えた。

その握りこぶしを胸の前に突き出した格好のヒースは第五の流派について説明しだした。

「我が流派は、四大流派の原点ともいえる流派。無形にして無限!」

オオ、なんかすごそう!とティアは目を輝かせる。

無形・・・は、よくわからないけど、無限というのはすごい。

剣は刃こぼれしたり折れたら終わりだ。

ハンマーも折れたら終わり。

飛び道具は投げたら替えが無い。

爆弾は爆発したら終わりだ。

どの流派も無限とは呼ばれない。

なのに、ヒースの流派は無限。

「何ももたず、すべてを越える!」

武器もなしにどう戦うのだろう?まさか魔道・・・?

首をかしげているティアにヒースは言った。

「俺の流派は、素手による無形の流派だ!」

素手、ときいてきょとんとするティア。

そして自分の両手をじいっと見てみる。

この手が・・・武器になる?

その表情を見てヒースは言う。

「少しずつ、我が流派を伝承していこう・・・」



Re: アヴァロンコード ( No.259 )
日時: 2012/10/31 00:50
名前: めた (ID: UcmONG3e)

第五の流派に行く前に上にちょっと省略したラウカとティアの話を書こうかと。

この『イーストカウンセル』はカレイラ諸事情とおなじくやじるし分類されます。
本編入りの小省略話と思ってください。

時間軸はレクスが来る前、ラウカとティアが森に散歩しにいった後です。
何故こんなタイミングで書くかというと、完全に書き忘れてたからです・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

あいかわらずベットに座り込んでいたティアはラウカに呼ばれてふと顔を上げた。

先日の散歩の後から、ラウカはよくティアの気分転換をしようと試みている。

そのためか、今日もティアの気を紛らわせる何かを持ってきたらしい。

「ラウカ、いいものもってきタ!」

満面の笑みのラウカが、ティアの座るベットに頬杖をつきながら言う。

ティアは首をかしげた。

それもそのはず、ラウカの姿を見れば分かるが、何かを持っている様子ではない。

「・・・・・」

ティアが黙っているとラウカはそんな視線に気づいたようで物じゃないゾ、と言う。

「ラウカの持ってきたのは、森に伝わる面白い話ダ」

ティアはちょっとだけ期待しながらラウカを見つめた。

一体どんな話だろう・・・。

「聞きたいカ?」ラウカの声にティアは頷く。

ふふっと満足げに笑ったラウカは、ベットに座りなおした。

「じゃあ、よく聞いていロ。それは、ここから少し離れた森の話ダ」

ティアはそれがグラナトゥム森林ではないか、と想像する。

ラウカの住む、東の巨木の森でなく、緑豊かで美しい西の巨木のことだろう。


それは緑美しい森の話。

満月が輝くきれいな月夜に、ある男が森に足を踏み入れた。

迷いの森と呼ばれている森は、珍しい客を見て早速森に誘い込む。

男はそんなこともしらずに、森の奥へどんどん引き込まれていった。

そして月の光だけを頼りに歩いていた男はやっときずく。

出口さえ分からない森の中で、迷ったということに。

どこを見ても深い緑と暗い夜。

空を見上げれば、ひときわ美しい満月とかすかに光る星たち。

風は冷たく、迷った男をもう帰れないよとあざ笑っている。

男は震え上がり、とにかく出口を探した。

走り回ったけれどやがてここで自分は死ぬんだとさとった。

そして座り込んだ男は泣き出した。



どこが面白い話なんだろう、とティアはラウカにいいたくなった。

とんでもなく悲しいような話だけど。

だがラウカは先を言う。

その男にどんな結末があるんだろう・・・


泣き崩れていた男の前に、鈴の音のような声が響いた。

とこはビックリして顔を上げる。

すると目の前に、羽の生えたかわいらしい少女がいるのだ。

不思議そうに男を見て、なんだか目を輝かせている。

何故ここにいるのか、と少女が聞いてきたので男は迷ったのだと答える。

すると少女は名前、すんでいる場所、家族の名、この森の名前、何故この森に入ろうとしたのか、など沢山質問をしてくるのだ。

男は律儀に答えていたけれどだんだん恐ろしくなった。

そして妖精に背を向けて逃げ出した。

後から追ってくる要請はまだ質問をしてきて、男はもうだめだと思ったらしい。

そして意識を失うと、次に目覚めたとき森の出口だった。


「これがラウカの持ってきた話ダ」

話し終わったラウカはティアを見上げた。

ティアはなんとなく怖いようなその少女を見てみたいような、不思議な気分になった。

「面白かったカ?」

「うん・・・」

ティアが言うとラウカはにこっとした。

「そうカ!よかっタ。ラウカ、あまり東の森に行かないかラ、その妖精に会ったことはなイ。けど、一度見てみたイ・・・」

言いながらくるりとこちらを見る。

「ティアもそう思うカ?」

「・・・うん。あってみたいかな・・・」

するとラウカが二っと笑う。

「ラウカ、そいつ見つけたら捕まえてくル。ティアが元気になるなラ!」

そして物騒なことに槍を携えて出かけていった。

だがもちろん帰ってきたラウカはエモノのみを手にしており、妖精は今だ捉えられていない・・・。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照 3100行きました!ありがとうございます!!
火曜日はどうしても更新が24時過ぎになってしまう・・・

Re: アヴァロンコード ( No.260 )
日時: 2012/10/31 16:03
名前: めた (ID: UcmONG3e)

その翌日ラウカは再び張り切っていた。

ティアの元に訪れて、ティアに誘いかける。

「今日はラウカとティア、一緒に森に行くゾ」

ぼけっとしていたティアは、ラウカを無言のまま見上げる。

別に森へ行くのはいいが、何故こんな早朝から・・・という視線である。

森へ来てからというもの、ティアにはやるべき事はなかった。

食事調達はラウカとヒースくらいしか出来ないし(ここでの食事は狩り式)ティアに出来ることといえば、もろく崩れかけた心の修正と、記憶の整理くらいなものだ。

朝目覚めてから月が出て夜が訪れるまで、ティアにはその仕事だけだった。

しかし、それはとても時間がかかり、また無理に進めようとすると治りかけた心はまた崩れてしまう。

よって、その生活リズムにより、朝は早く目覚めてしまうのだ。

「昨日は妖精獲れなかっタ・・・だから今日はもっといいものをとりに行ク!」

ラウカはティアの手を引っ張ってベットから立たせるとティアの格好をじっと見る。

ティアはその視線に戸惑いながらもラウカを見返す。

「人間には早朝の寒さはこたえル。これを羽織っていケ」

ラウカに差し出されたのはラウカのまとう服のような毛皮のケープ。

明らかに猛獣だったものの毛皮をまとうと、とんでもなく暖かい。

「ふわふわ・・・あったかい」

それにくるまるとなんだか幸せだ。

「では、行くゾ。少し遠いけれど心配するナ」

そしてティアの手を引いて家から出ると、猟師の道へと—森の中へと進んでいった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

イーストカウンセル002

Re: アヴァロンコード ( No.261 )
日時: 2012/10/31 16:43
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ラウカは森に入ると耳をピンと立てたりくるくると首を回すように耳が音を拾っていろいろな方向に向く。

例えばティアが背後ですっ転んだときや、鳥が木々から飛び立ったとき、獣が地面を踏みつけたときなどさまざまだ。

とにかくラウカの聴力はとてもよいようだ。

「ラウカ、何を探しに行くの?」

ティアが朝もやの中聞くと、ラウカは秘密ダ、といって教えてくれない。

ティアはラウカの後につきながら、一体何を探しているのだろう、と考えをめぐらせていた。

妖精よりも凄いもの・・・とは?

想像もつかない財宝の山だろうか?

けれど思い直してラウカの後姿を見てみる。

ラウカがそんな成金をいいものとは言わないだろう。

では一体何を。

ラウカがいいものと思うもの。

一体なんだろうとティアは首をひねる。

その間にもラウカはティアの数歩先をすばやい身のこなしで進んでいく。

そして鋭いまなざしで何かを探している。

その視線が地面に近いことを目ざとく見つけたティアは、それが地面に生えているもの、もしくは地面付近においてあるものと判断した。

ラウカが好きそうなもので、地面付近にあるもの。

それは花だろうか、それとも石造・・・?

「まだないナ・・・」するとラウカがつぶやく。

1キロほど歩いたのだが、目的の物はないようだ。

「だいじょうブ。まだ時間はあル」その表情を見てラウカが言う。

「絶対に見つけるからナ、安心しロ」

そしてきびすを返すと再び鋭い視線であたりを探っていった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

イーストカウンセル003

Re: アヴァロンコード ( No.262 )
日時: 2012/10/31 17:10
名前: めた (ID: UcmONG3e)

時を少しさかのぼり、カレイラから逃げてきたレクスはというと—

ひとり心細くグラナ平原に身を潜めていた。

カレイラより近いこの平原は、あまり身を隠すところがない。

けれど遺跡跡地など、ひどく古い建物で夜を明かしたりして空腹と後悔と孤独感をひとりかみ締めていた。

今日もカレイラより出来るだけ離れようとレクスは夜になって遺跡から這い出した。

日が出ていると、誰かに見つかってしまう。

もしかしたら、とレクスは震える。

ティアが俺を責めに来るかも知れない・・・。

事の元凶として俺を・・・カレイラ国民全員で責めに来るかもしれない。

(あぁ、俺はどうしてティアを裏切ったんだろう・・・)

妹を生き返らせたかった、という理由だといわずとも分かっている。

けれどそう自分を責めずに入られなかった。

(時間が戻せたら・・・俺はあんなことしなかったのに!)

奥歯を思いっきりかみ締めてレクスは拳を握った。

その拳を何かに殴りつけたい気分だったが、今は殴るものもない。

親友と、妹の墓も、少ない財産もすべてカレイラにおいてきてしまった。

いや、そのすべてをもう失ってしまった。

取り戻すことは出来ないだろう・・・。

改めて思うとレクスは悲しくなり、同時に怒りがわく。

何故あんなことを!

そして唇を思いきり噛み、血が出ようがお構いなしに痛みを受け入れ続けた。

つぐないも、今になっては仕様がない・・・。

けれど、戻るほどの勇気も、レクスにはなかった。

「・・・!」

ばさばさっと草を掻き分ける音がしてレクスは慌ててそちらを振り返る。

(まさか・・・!)

カレイラの兵士たちが探しに来たのかと真っ青になる。

けれど月明かりに照らされてこちらを見ているのは、レクスの知り合いではなかった。

カレイラの兵士でも、フランネル城の騎士達でもなかった。

「あ・・・・」

けれど知っている存在。

レクスの目の間にいたのは、間紫の鎧に身を包むヴァイゼンの魔物兵だった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・

イーストカウンセル004

Re: アヴァロンコード ( No.263 )
日時: 2012/10/31 17:40
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「なんで・・・魔物兵がこんなところに・・・っ」

レクスは震えつつつぶやく。

ここで殺されるのか、俺は。

これが償いか・・・それとも天罰か・・・。

「あれを、どこへやった」

ヴァイゼンの魔物兵はレクスに詰め寄りながら問う。

その目はぎらぎらと黄色にひかり、星のように発光している。

だがきれいだとは思わない。

ぞっとするきらめきである。

「あれ・・・?」

相手からなるべく距離をとろうと後ずさりながらレクスは言う。

ヴァイゼンのヴァルド皇子に協力したが、だからといって一切の安全を得たわけではない。

むしろ協定決裂。ヴァルド皇子は妹を生き返らせるという交換条件を無視し、レクスを完全に利用した。

「とぼけるな・・・」

魔物兵は眼光を強めながらレクスに言う。

その視線に殺気さえ感じる。もしかしたら、殺そうとしているのかもしれない。

(こんな・・・こんな奴らに俺は協力したなんて!)

レクスには罪の意識はあったが、死ぬ気はさらさらなかった。

死んで償えるものではない。

生きて罪をあがなうか、一生その罪を背負うつもりでいたのだ。

だからここで死ぬわけには行かない。

「だから、そのあれってなんだよ・・・」

レクスは後ろ手を腰に回していう。

挑発しているのではない。

ただ、何時も持ち歩く、最後の彼の持ち物である小ぶりの短剣を手に取ろうとしているのだ。

ブラックフェザーという真っ黒の刀身は、闇夜の中、ありがたいことにあまり目立たない。

きっと魔物兵は“あれ”のありかを聞いた後、襲い掛かってくるのだろう。

レクスは迎え撃ち、隙を作って逃げる気でいた。

「・・・・」魔物兵は一端黙り、そしてある名前を口にする。

レクスが一番聞きたくなかったその名を・・・。

「預言書をどこへやった」


・・・・・・・・・・・・・・・

イーストカウンセル005

Re: アヴァロンコード ( No.264 )
日時: 2012/10/31 18:28
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「言え、預言書をどこへやった」

魔物兵の言葉にレクスは頭をめぐらせる。

(こいつらが預言書を手に入れたんじゃないのか・・・?)

レクスはいち早くその場を去ったため、預言書の行方を知らないでいた。

けれどコレを聞いてほっとする。

奴らの手に渡って、またカレイラが破壊されることはない・・・。

ということはティアが取り戻したんだろうか?

(ちょっとカマ駆けてみるか・・・)

レクスは平静をおよそおって魔物兵に言う。

「預言書?あれならティアが持ってるだろ?」

いえば、魔物兵はぎらついた目でレクスに言い放つ。

「なにをいう。あの人間は預言書どころかすべてを失っている・・・はったりを言うな。さぁ、言え!」

だがレクスは聞いていなかった。

ティアが、すべてを失っている?

(どういうことだよ・・・なんで、あいつが・・・英雄が・・・)

レクスの思考は一瞬止まりかけ、新たな情報を得ようと魔物兵に目を向ける。

(こいつはなんだかやけに詳しそうだ・・・聞き出せるまで利用させてもらう)

「ふーん?じゃあいいよ教えてやるよ」ただし、とレクスは挑発するように魔物兵に言った。

「カレイラの様子を教えてくれたら・・・ね」

魔物兵は一瞬目を細めたが、野太い声でいった。

なんとなくカレイラをバカにするように。

「ふん。カレイラは今や我が救世主様によって壊滅状態だ。そして英雄殿がその罪を着せられて投獄中だ・・・コレで動きやすくなったというものよ」

どうやら笑っているようだった。

レクスの表情を見て楽しむような笑い方。

「英雄の迫害、ふん、当然だ。ただの人間が預言書を持つこと自体が間違っているのだからな。あの預言書はクレルヴォ様が持つべきなのだ」

レクスは話を聞いているうちに不可思議な問いが産まれてくる。

(ただの人間・・・?クレルヴォ様・・・?なんでだ?こいつらの主人ってヴァルド皇子じゃないのか?それなのに人間を小ばかにしている・・・しかもクレルヴォって誰だよ?)

だが、それを聞くことはできない。

もういいだろ、と魔物兵はレクスを見て黙ってしまった。

「あぁ・・・そうか・・・」

当然のことながらレクスは預言書のありかを知らない。

さて、どうするか・・・。

うまく巻けたらいいけれど・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

イーストカウンセル006

Re: アヴァロンコード ( No.265 )
日時: 2012/10/31 18:49
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「その前にもうひとつ・・・ティアはどうして投獄された?」

さっさと教えろというオーラをまとう魔物兵はイラついたように早口で言った。

「預言書の暴走を起こした張本人、そしてヴァイゼンの兵士と共にいたからだ。もういいだろう、はやく言え」

「冤罪だ・・・なんてことだ・・・」

悲しげな顔でレクスが言うが、魔物兵はそんなこと気にしない。

「ああ、場所ね・・・あんたの後ろの岩陰だよ」

いうと、不審げに魔物兵が振り返る。

レクスはその隙を見計らってブラックフェザーを思い切り魔物の鎧ののつなぎ目に突き刺す。

腹部なので魔物でも痛手を負うかと思ったのだ。

けれど、魔物はぎろりと黄色の目を向けてきただけだった。

「おいおい、マジかよ・・・」

ブラックフェザーはありがたいことに二対の短剣だ。

なのでもう一つ短剣は残っているけれど・・・これはやばい。

後ずさりしつつ、何かないかとあたりに視線を走らせる。

けれど、グラナ平原にはたいしたものはない。

これまでか・・・?

腹部のつなぎ目に剣を突き刺されたまま、魔物兵は憎しみを含んだ声を出す。

「そうか、おまえも知らないのだな・・・」

使えない、とつぶやきつつ魔物兵は本来の姿を取り戻しつつあった。

声も出ないレクスの目の前で、魔物兵は紫の鎧を脱皮するかのようにはいでいく。

そして本来の姿—真っ青のバケモノ馬になったヴァイゼンの兵士は、甲高いいななきを一つした。

その声は不気味に平原にとどろく。

「おまえなど、一ひねり・・・いや足の一踏みで終わらせてやる」

バケモノ馬—ナイトメアは不気味にそう笑った。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

イーストカウンセル007

Re: アヴァロンコード ( No.266 )
日時: 2012/10/31 19:21
名前: めた (ID: UcmONG3e)

レクスは軽い身のこなしで何とか一撃目を避けた。

さっきまで身体があったところに今は分厚いひづめが振り下ろされている。

その光景に冷や汗をかきつつどうやってこの場を切り抜けようか考えていた。

相手は馬だ。しかもかなり巨大の。

そんなヤツ相手に走って逃げたところで、後ろから蹴り殺されるだけだ。

「ったく・・・・どうしろってんだ・・・」

こんな目に合うのも自分のせいだ。

因果応報だろう・・・自分のやったことが自分に降りかかってくる。

「しかたない・・・魔王が簡単にやられてたまるかよ」

ミーニャとデュランと幼少に遊んだ勇者サマごっこ。

ミーニャがお姫様、デュランが心外にも勇者サマ、そしてレクスが魔王役だった。

(このまま死んだら妹に・・・ミーニャに顔向けできない・・・罪を償うまで俺は死ねない・・・)

レクスは決心しつつブラックフェザーの片割れを構えた。

するとナイトメアはバカにしたように鼻を鳴らす。

今は真っ赤になった目がぎらついている。

「ふん、人間はドイツもコイツも馬鹿だ。そんな短剣で私を倒せるとでも!?」

そして語尾と共に急にギャロップするとレクスめがけて両足を振り下ろす。

<ギャロップというのは馬が後ろ足だけで立つこと。フェラーリという名の車のエンブレムにも用いられている格好>

「うお!」その強烈な一撃をすんでのところでかわし、レクスはじめんげぐられたと頃を見る。

無残にも平原に1トン近くのひづめ落としが炸裂し、ぽっかり穴が開いている。

「やべぇなこれ・・・」

ナイトメアから数歩はなれ、つぶやくレクス。

こんなのに勝てるのかよ・・・。



突進によって突き飛ばされたレクスはよろめきながら立ち上がった。

その直後、彼のしりもちをついたところに前足キックが落とされる。

背後に回ったレクスに後ろ足のキックをしようとリバースギャロップをするナイトメア。

<リバースギャロップは、前足だけで馬が立つこと。その状態からの蹴りは殺傷能力が極めて高い>

だが空を蹴るばかりで手ごたえがない。

すると首筋に痛みが走る。

太い首筋にレクスが懇親の力で刺したブラックフェザーが突き刺さっている。

痛みと怒りのイナナきをしたナイトメアは再びレクスに頭突きを食らわせる。

「ぐっ」

ありえないほどの重みが腹部を襲い、レクスは鈍い痛みでうめく。

痛みで顔をしかめたまま、かろうじて目を開けるとひづめが迫ってくる。

赤い目がぎらぎら光っている・・・。

レクスは何かないかとあたりをまさぐると・・・慣れた手触りのあるものが手に触れた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

イーストカウンセル008

Re: アヴァロンコード ( No.267 )
日時: 2012/10/31 19:54
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ナイトメアは勝利を確信していた。

赤い目をぎらつかせながら前足を振り下ろす。



レクスの手に触れたのは一つ目のブラックフェザー。

人型の状態のときに突き刺したもので、紫色の鎧たちと共に転がっていた。

「感謝するよ、ミーニャ」

そうつぶやいた後、レクスはナイトメアの目を中心に円形の的を想像する。

狙うはブル—もちろんインナーブルだ。

その瞳を中心に見立ててダーツのごとく投げた。

ブラックフェザーは中心に、ナイトメアの真っ赤な目に付き刺さった。

そして痛んだ身体を酷使して、さっと身を転がして避けると、悲鳴を上げながら倒れてくるナイトメアの巨体が今度は転がった。

目は身体の中で一番神経が通うところである。

痛みも半端じゃないだろう。

けれどレクスももうつかれきっていた。

とどめを刺す体力もなく、ナイトメアのそばにひざを付く。

正直ミーニャがブラックフェザーを手にとらせてくれたんだと思っていた。

まだお兄ちゃんはこなくていいよ、とミーニャの声が聞こえた気がした。

けれど、俺もそろそろ潮時か。

背後で悶絶していたナイトメアが立ち上がる気配がする。

そしてひづめで殴られるんだろうか。

諦めようかと思ったが、ぼとっと背後に何か落ちる音で振り返る。

目に付き刺さったブラックフェザーをとろうと頭を振り回すナイトメアの喉から、ブラックフェザーが落ちたのだろう。

レクスの目の前で血に濡れた黒い短剣がひかっている。

「まだ死ぬなってか・・・わかったよ」

その短剣をつかんだレクスは暴れ狂うナイトメアの胸部にけりを入れた。

ふらついた足取りのナイトメアはものすごい音と共に倒れる。

「分かったよ、ミーニャ。俺にはまだやることが残ってるんだよな」

そして倒れたナイトメアの頭に掴みかかるともう片方の目に深く突き刺した。

脳にまで達し、ナイトメアが硬直してやがて力が抜けていき、動かなくなった。

「たおした・・・のか」

そのまま後ろ向きにぶっ倒れたレクスはふっと力を抜いた。

もうだめだ、このままつかれきって眠りたい気分だ。

そして目を閉じようとしたとき、馬のいななき。

「!!」

慌てて顔を上げると黒々としたオーラをまとったナイトメアがこちらを見ていた。

見ているのか分からないけれど、顔はこっちを向いている。

「うそだろっ」

殺される・・・そう思った瞬間、じゃキンッと言う音と共にナイトメアがふらふらと倒れた。

「?!」

くず折れたナイトメアはきらきらした光と共に浄化された。

その背後に、見たこともない人がいた。

大きな剣を構え、眼光は月の光を受けて黄色く光っている。

異国のひと・・・?

紅色の髪、肉食獣のような黄色の目、身の程もある剣、さばく風情の格好。

「おまえがレクス・・・だな。俺はアンワール。預言書について話がある」

目の前に立つ少年は、そう無表情のままレクスに告げた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

イーストカウンセル009

Re: アヴァロンコード ( No.268 )
日時: 2012/10/31 20:27
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「アンワール・・・」

聞き覚えの無い発音に、レクスは表情を硬くする。

「預言書なら、俺は持ってないぞ」

さばく風情が預言書を狙いに来たのかと思いレクスは地面に座った状態からきつく言う。

するとアンワールハそうではないと続ける。

「俺が言いたいのは、ティアのこと、そして預言書の行方についてだ」

ティアと聞いてレクスはびくりとして即座に立ち上がった。

だが痛みにうめいて地面に伏せる。

「ムリをするな。まだオマエにはやってもらわないといけない事があるからな・・・」

意味深な言葉と共にアンワールがレクスのそばに腰を下ろす。

そしてレクスの赤い目をひたと見据えながらいった。

「ティアはカレイラで投獄された。そしてヴァイゼンの将軍と共に脱獄した」

「なにっ?っ・・・」

思わず叫んで痛みにうめくレクス。

その表情を無表情でみたあと、アンワールは頷く。

「そうだ。そしてどこか・・・森の中へ行った。東の森に行くと言っていた気がする」

顎に手をあてて言うアンワールにレクスは詰め寄る。

「どういうことだ。言っていた気がするって・・・〜っっ」

またも痛みにうめくレクスにアンワールは少々あきれながらつぶやく。

「後をつけた。・・・おちつけ」

ティアの命を狙うやからかと判断されて、レクスが殺気立った目で見てくるので、アンワールはレクスをなだめた。

「俺は預言の名の下にいる神官の命令でここへきた。アイツをどうこうしようってわけではない」

きっぱり言うと、レクスはしぶしぶながら頷く。

「で、ティアの居場所を教えて俺にどうしろと?いまさら・・・俺、アイツにひどいことしたんだぞ・・・」

「そうだな」

さらりと受け流してアンワールは続ける。

「預言書のありかを知っているといったら・・・・どうする?」

ミステリアスな視線にレクスは悪魔と取引しているような感じに陥る。

コイツは人間だろうな?

悪魔なんかじゃないよな?

一気に不安になる。

「・・・わかった、おしえてくれ」

「その代わりに、お前の役目はい決まるぞ。ティアを探し出し、ヴァイゼンの者につかまって殺される前に預言書のありかを伝えると、約束しろ」

レクスは頷いた。

「コレがアイツのためになるなら・・・約束する」

いうと、アンワールは少し不適に笑った気がした。

確認する間もなく再び無表情になったアンワールはレクスに告げた。

「預言書はいまサミアドという砂漠の地にある。砂漠の魔女オオリエメド・オーフが持っている。そして、シリル遺跡にそれはある」


「サミアド?どこだ・・・そこ」

遠い記憶に探りを入れてみるが分からない。

はるか昔にまだ両親が生きていた頃、外交官の息子として地理の勉強をしていたけれど・・・。

「ティアならば知っている・・・さて、俺はもう行こう」

するとアンワールは立ち上がった。

「おまえはどこに?」聞くとアンワールは振り返りもせずに言う。

「俺は預言書を見張らないと・・・そして魔女をな」

いうなりそよ風と共に去っていってしまった。

「・・・サミアドに預言書・・・ティア。待ってろよ!」

こうしてレクスの必死の捜索は始まった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

イーストカウンセル010





Re: アヴァロンコード ( No.269 )
日時: 2012/11/01 20:33
名前: めた (ID: UcmONG3e)

早朝から探しに出た結果、すきっ腹をもてあましたティアとラウカは一端昼休憩をとることにした。

すでに道は消えており、獣道ですらない。

ラウカは完全にどこに“あれ”があるのか知らない様で完全なる野生の勘を頼りにしていた。

「・・・待ってロ。何か探してくル」

つかれきったティアを倒れた巨木に座らせると、ラウカは森に消えていった。

その後姿を見送った後、ティアはぐーっと惨めそうになる腹をなだめようとその辺を歩き回った。

目印の巨木はそのままに、そのあたりをぐるりと散策してみる。

「っあー・・・・おなか減った・・・」

そして試しにその辺りに生えている植物に目を走らせる。

ラウカが獲物が無いときに、植物やら果物を持ってくるのだ。

それらは食べられ、意外にもおいしいのだ。

くるくるしたぜんまいや、独特の風味があるにらの葉など無いかと探してみるも、ティアには分からない。

視界には食べられる植物がいくつも入っているのだが、ティアは食べられる植物を判断できない。

物欲しげな目は、その植物の頭上を通り越していく。

「・・・・・」

ティアは空腹に耐えられずその場に座り込んだ。

そして、ふと視線を落としたとき、茶色の深い色の土に、奇妙な植物が生えてるのに気づく。

「・・・?」

大柄な植物に保護されているようなその植物が、ティアに向かってトウモロコシのような不可思議な形態の房を伸ばしている。

その色は黄色やオレンジ、茶色と秋を彩る植物である。

山に燃える紅葉のようできれいだ。

「きれいだな・・・これ。なんていう名前なんだろう・・・」

それをじっくり眺めていたティアはあぁそうだとつぶやく。

「あ、そだ。コードスキャンしなきゃ—」

そして身にしみた癖より、手をその花に向けてコードスキャンしようとし、むなしい空虚な気持ちになる。

何も持たないその手のひらを見て、一瞬眼を見開いた後、その目に悲しみと喪失の色が移る。

「そっか・・・無いのに・・・無いの、忘れてた・・・」

悲しげにつぶやくと広げていた両手をぐっと握り締めた。

忌まわしい記憶を握りつぶすかのように。

「ティア!」するとラウカの声がティアを呼ぶ。

ティアは座り込んでいたところから立ち上がり、ラウカを見た。

「ほら、食べるゾ」

ラウカは紫色の葡萄(ぶどう)のような果物をティアに差し出す。

その紫のふくよかな房を見て、ティアは空腹感がむせ返すのが分かった。

「ありがとう、ラウカ」

二人で一房を分けながら食べていると、ラウカがぼやいた。

「本当は、昼にはある植物を食べようと思っていタ。それを探していタ・・・」

ラウカは紫がかった口元をぬぐう。

「それはな、無臭なんダ。だからラウカの鼻でも分からなイ。でも食べるととてもおいしいんダ」

残念だというようにみみがひょこんッとたれる。

「ティアに食べさせたかっタ。元気出ると思ったかラ・・・」

ティアはつまむ手を休めてラウカに聞く。

「もう探すのやめるの?」

「うン。もう引き換ええさないと日があるうちに家につけなイ」

そして食べ終わったら帰るゾ、とちょっと悔しそうに言った。

うん、とティアもちょっと残念そうに頷くと、果物を食べだした。


食べ終わると、ラウカはすぐにティアをつれて、来た道を引き返していく。

その間にも草達の合間をラウカはその植物を探して視線を走らせていた。

そこでふと、ティアはラウカに声をかける。

「あのね、さっき果物を食べたところに変な植物があったんだよ」

ラウカは振り返らずに相槌を打つ。

まだ植物を探そうと躍起になっている様だった。

「その植物ね、そうだな、トウモロコシみたいで植物に守られているように生えてたんだ」

するとラウカがピタリと動きを止める。

「何色ダ」振り返らずに聞いてくるラウカの声はちょっと殺気立っている。

その声音に戸惑いながらもティアは見た感じを伝えた。

「黄色、オレンジ、茶色が入り混じってた・・・」

「それダ!ティア、それを探していたんダ!!」

急にくるりと振り返ったラウカは心底悔しそうな表情をしていた。

すでに帰路につき着た道を半分戻ったところで実は見つけていたことに腹だたしさを隠しきれないようだった。

ティアもビックリして唖然としている。

「あぁ、しょうがなイ。明日とってくル・・・でも見つかってよかっタ」

悔しいような安心したような表情でラウカはティアに言った。

「あれはな、テンジンツバキというもので森に住む人たちはその花を鳥が飛び立つ様子に似ていると言って、この名前にしたそうダ」

ティアは思い返してみて別にそうでもなかったけどなぁと思いつつ、ラウカの後についていった。


翌日ティアの元に約束どおりテンジンツバキの房が持ってこられ、ラウカ、ヒース、ティアの三人で食べた。

その味は実に木の実。

どんぐりのような食感さながら風味は落花生であり、栗でもあった。

ただ、甘みが強くとてもおいしい。

「うまいじゃないかコレ」ヒースは酒のつまみにしたいなどといっているが森に酒は無い。

それを残念がっていた。

「とってもおいしいよ、ラウカ」ティアが言うとラウカは照れたように笑った。

「そうカ。でも珍しい花だからすぐにはとって来てやれなイ・・・だけど、見つかったらすぐ持ってくル!」

「そのときには、酒があればいいんだけどな。無職の俺にはかなわぬ夢か・・・」

ヒースのぼやきに耳を貸さずラウカはティアとまた指きりげんまんをした。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

イーストカウンセル011 

参照が 3250 越えました!!
ありがとうございます!

そしてイーストカウンセルもコレで終わりです。





Re: アヴァロンコード ( No.270 )
日時: 2012/11/02 18:15
名前: めた (ID: UcmONG3e)

イーストカウンセルは終わり、本編に戻ります

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ヒースはその第五の流派のについて複雑な顔をしながらいった。

「素手で戦うといっても、素手のみで戦うわけじゃない。これはやってみればわかるが・・・・」

そういってはぐらかされた。

しかしティアがせがむとヒースはしょうがないなぁと、教えてくれた。

「やってみないとわからないと思うが、この第五の流派は気を使う」

ヒースが腕を組みながらティアに言うが、ティアはすでにその時点から理解不能だった。

「き?」

言って首をかしげる始末。

ヒースはやっぱりなと言う顔をして説明を取りやめた。

「そのうち分かる様になるさ。それに、速く失ったものの元へ行きたいだろ?」

ティアは目を見開いて、頷いた。

失ったもの。

預言書・・・精霊・・・。

頷いたままうつむいたティアは暗い顔のまま思考をめぐらせる。

(預言書のありかは分かった・・・サミアド。そこにある。だけど—)

脳裏に浮かぶのはファナと、精霊たち。

どこへ行ったのかもわからない。生存も不明である。

それに・・・ファナに関しては預言書に吸いこまれるという事態に陥っている。

元に戻るのかも分からない。

「・・・まぁ、サミアドと言うところに行けば手がかりがあるかもしれない。そのためにも今日から特訓はするぞ」

ティアの表情を見てヒースが言った。

「まずは・・・今日の修行はコレだ」

ヒースとティアがしゃべっている間にラウカが用意したのだろう。

ティアたちの目の前には立方体の木箱が無数に転がっていた。

それらを指差しながらヒースは言う。

「すべての箱をこわしてみろ」

ティアの体躯と同じくらいの立方体たちは木材で出来ている。

あまり強固なものではないが、それなりに叩けばいたい。

けれど、ティアは心を決めて思い切りグーにした手を箱に叩きつける。

するとヒースがティアに止め!と静止の命令を下す。

箱と手が触れる直前にティアは手を止めた。

「ティア、いいかい」そういいながらヒースはティアに見えるように手を掲げた。

その手を不思議そうに見ているティアに、指南する。

「握った拳は、何かを殴るときは絶対に、親指を外に出すこと」

なんで?と言う顔のティアにヒースは言う。

「親指を握ったまま殴りつけると、殴ったぶんの力がそのまま親指にも来る。そして親指も同じダメージを受けることになるから、指の骨が折れてしまうんだ。わかったか?じゃあ開始」

ティアは握っていた親指を外に出した拳で木材を思い切り叩き割った。

勢いをつければ突き抜けて力のリバウンドが来る事は無い。

けれど弱弱しくやれば、叩いた分だけ垂直抗力により押し返されひどく痛み出す。

「いいか、思い切りやるんだ。まずはそれだけでいいからな」

ティアの第五の流派習得の特訓はこうやって幕を開けた。



Re: アヴァロンコード ( No.271 )
日時: 2012/11/02 19:21
名前: めた (ID: UcmONG3e)

翌日もその次の日もティアは休むことなく必死に箱を壊していた。

正直、痛む両手は真っ赤に腫れ上がり痛々しい。

けれど木の立方体を壊せば壊すほど、ティアは着実に目標へ近づいている気がした。

 木材破壊の修行が四日目を迎えた朝のことだった。

今日もやるぞ!とやる気満々のティアの元にヒースがやってくる。

何時ものように森の入り口で修行をやるために連れ出されるのだが、今日はなにやら雰囲気が違う。

森の入り口にも、何時ものように木材が無い。

「?」

今日は一体何をするのかと、ヒースを見上げると前方より誰かが草むらをかき分けて進んでくる。

見れば、ラウカだった。

ラウカはなにやら大きな木箱を運んでおり、その箱の中からごとんごとんと音がする。

「?!」

何か入っているらしい。

新鮮な何かが・・・。

「今日の修行はコレだ」

ヒースが指をパチンッと鳴らしたのを合図にラウカが箱をさかさまにした。

ぼとぼとっと中身があふれ出し、どっと“それ”が走り出した。

「いっ?!」

ティアが思わず声を上げたのには理由がある。

①それがものすごいスピードで走り回るため。

②それが見たことも無い異形の魔物だったため。

目の前を超スピードで走り回るイかに似たその魔物を見ながらどもるティアにヒースが言う。

「こ、これ・・・いったい・・・?」

「驚いたか?コレはね、ランドスクイドという陸地に適応したイカの魔物だ。8本の触手は見たとおりに硬化して走り回れるんだよ」

のほほんとした雰囲気でさらりと言うヒースに、唖然としたティアは視線を向ける。

だから、これをどうしろと?

生物学的な説明ではなく、この状況の説明を求めているのだが・・・。

「まぁ、いい。とにかく、これらを倒すんだ。もちろん素手で」

またも簡単そうに言うヒース。

ティアはものすごいスピードで走る魔物、ランドスクイドに視線を戻した。

あんな高速移動物に素手の攻撃が当たるのだろうか?

ティアは一歩踏み出し、拳を構えてそれらに近寄る。

すると振動を感知したのか、ランドスクイドが一斉に振り返る。

8匹近くいるイカの魔物は、いっせいにティアめがけて走りよってきた。

ぎょろりと飛び出した目が気色悪い。

「ひいいっ!!」

叫びつつもティアはこぶしを振り回し殴りつけ、足蹴にした。

ぬめっとするイカの表面に悲鳴をあげつつ蹴る殴るの応酬。

比較的弱いこの魔物を倒すのでもう一苦労だ。

すべてを倒し終わったのは数分後。

剣であれば一瞬で終わらせられただろうに。

イカの魔物をすべて浄化させるころ、ティアはつかれきっていた。

「ふむ・・・。こういった魔物相手の訓練をまたしばらく続けるぞ。相手の動作、次の行動を予測したりすると、うまく倒せるだろう」

ヒースは師匠の一言見たいな物を言い残すと、今日の獲物をとりに出かけてしまった。

ティアならずレクスまで来た今、養うべき人が増えたため、ラウカもヒースも、はらぺこな雛を持つ親鳥並みにエモノを採取しに行くのだ。

レクスは意識を失った状態のほうが長く、まだ動けそうも無い。

ティアはレクスと違い武器を持たない身なので狩りには出られない。

そして第五の流派をえたら、すぐにでも行くべきところがある。

「素手の武術をえれたら・・・すぐにサミアドに行かなきゃ・・・」


Re: アヴァロンコード ( No.272 )
日時: 2012/11/02 20:06
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアが修行に励んでいるとき、ティアと対照的に、傷ついたレクスはラウカに介抱されていた。

ティアが許したから、本当は許せないけど許してやる。と、ラウカとヒースが世話をしているのだった。

だが最近はティアの特訓と、食糧確保のためヒースが出払っているため、ラウカが主にレクスの面倒を見ていた。

倒れたと思えば意識を失うレクス。

一日中ベットに寝かせて、薬草のシップやらを使って傷の手当てをするのだ。

「なんだ、起きたカ」

手首をアザをシップでくるんでいるとレクスがふと目を覚ました。

赤い目を開くと、まずラウカを見る。

そして天井を見上げ、耳を済ませる。

「わるいな・・・ありがと、う」

そんな呟きを放った後、レクスは視界がブラックアウトしそうになり、首を振る。

「ティアは・・・?」

「修行中ダ。第五の流派をナ」

外からは相変わらず魔物と対峙するティアの足音と魔物の悲鳴が聞こえている。

「そうか・・・アンタ耳いいな」

どうやら普通の人間には聞こえない音らしい。

もっと耳を済ませれば、ティアの息遣いまでも聞こえそうだ。

「ティアは失ったものを取り戻すと決めたからナ」

しかし、返事は無い。

顔を覗き込んでみると、レクスは意識を絶っており、またしばらく目を覚まさないだろう。

肩をすくめつつラウカはレクスの傷の手当をし続けた。

ティアがはじめてここに来たときに介抱したのを思い返しながら。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
もうすぐゾロメがでそうですね 3333って


Re: アヴァロンコード ( No.273 )
日時: 2012/11/02 22:21
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ある日のこと、自主練習をしていたとき、振り回したこぶしに、妙な違和感を覚えたティア。

「ん・・・?」

腕を痛めたのかと眺め回してみるが、どこにも傷は無い。

痛む様子もないけれど、ただ不思議な違和感がある。

手の内側に何か不思議なわだかまりがあって、もやもやするような寒さにジンジンするようなおかしな感覚が宿っているのだ。

「練習しすぎたかなぁ?」

しぶしぶと言った様子でティアは相手にしていた木材を片付けた。

魔物類はラウカが森に狩りに行くときに調達してきてくれるので、ヒースのつく練習以外では実践は出来ない。

なので木材で練習するしかないのだ。

「手がおかしい?」

ラウカの家に帰って早速ヒースに言うとヒースは神妙な面持ちで言う。

ヒースはラウカと意味ありげに視線を交えると、ティアに頷いて見せた。

「?」

その意味が分からず首をこてんと傾げるティア。

けれど理由も教えてくれないで明日の修行に備えて休んでおけとしか言われなかった。

とにかくもう夕刻なので何時ものようにレクスの様子を見にいくティア。

レクスは相変わらず目を閉じていて夕日のような目は開かれないまま。

けれどラウカの献身的な介護のおかげで、目に余る傷は徐々に薄れていっている。

打撲や青あざまで薄れている。

ラウカは本当に凄いな、と感心してしまう。

「ティア、さぁ食べるゾ」

「レクスは何か食べたのかな?」

聞けばラウカは頷く。

「薬草を水に溶いてスープにしたやつを飲ませタ。だからティアも食べロ!」

その声に頷いてラウカの元に歩いていく。

親友を・・・いや、兄貴分を助けてくれたラウカに感謝の念を覚えながら。


Re: アヴァロンコード ( No.274 )
日時: 2012/11/02 23:04
名前: めた (ID: UcmONG3e)

翌日、ヒースはティアをつれて少し入り組んだ森の道を進んでいた。

ティアは両手が温かい感じがして、不思議に思っていた。

何故このように手が不思議な感覚にあふれているのかティアには分からない。

けれどヒースは何か知っている様で、何時もより張り切って先を進んでいる。

ようやく目的地に着くと、ヒースはくるりと振り返った。

ティアに向き直るようにしてこちらを覗き込むとティアの手をじっと見る。

ティアも自分の手を見てみるが、よく分からなかった。

「修行の成果がそろそろ出てくる頃だよ。その手・・・」

ティアの手をみながらヒースは言う。

「内側から暖かいような、力にあふれるような不思議な感じがするだろう?」

ヒースに言われてティアは頷いた。

(これが・・・修行の成果・・・?でもコレがどういう役割をするんだろう?)

まだ理解できずにいると。

「君の拳から放たれる気で・・・敵を倒してみるんだ」

静かな口調で言うヒースにティアは困ったような表情をする。

倒してみろと言われても・・・どうやるの?

「気って・・・?倒すって・・・どうやって?」

「普通に、何時ものように敵に攻撃してみるんだ。心を落ち着けて・・・そして手のひらに宿ったその感覚を、解き放つように・・・」

言われたとおりに頷く。

そして敵を見た瞬間、心が大幅に乱れだ。

ティアの目の前に用意された敵は・・・

「くも・・・くもっ!」

思わず叫んだティアに、ヒースは何度かしばたく。

「あぁ、ちょっと今日はコレしか見つからなくてね・・・ダスクスパイダーというクモの魔物だよ」

そしてティアの肩に手をぽんと置いて、そのまま前にズイと押し出す。

強制的にクモの元に向けられた足をティアはいやいや踏み出す。

あぁ、八つの目玉がこっちを見ている・・・・。

おぞましい・・・。

涙ぐみながらクモの元に歩いていく。

「私は預言書に選ばれし者・・・ひいっ」

完全涙目で呪文のように口ずさむティア。

「選ばれし者がクモごときでビビるな・・・」

その叱咤たる言葉は、クモに怯えるティアにレンポがいった言葉だ。

それを覚えていたティアは無理にでも足を進める。

コレを殴る・・・つまり触れる・・・。

ゾッとする。全身に悪寒が走るけれどやらなくては・・・。

「っっったぁ!」

引きつった表情で思い切り殴りかかろうとしたとき、手が不意に不思議な感覚に包まれた。

指先から力が噴出すような妙な感じ。

「え?!」

その指先が真っ青に輝いて、その力がクモにぶつかっている。

その一撃でクモが後方に吹っ飛んだ。

「これが・・・第五の流派」

自分の手を見つめながらティアはつぶやいた。

「完成だな・・・」その背後に立つヒースがそうつぶやいた。




Re: アヴァロンコード ( No.275 )
日時: 2012/11/04 08:32
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「君の拳から放たれる気はプラーナという」

「プラーナ・・・」

後方に吹っ飛んだクモを見ながらティアが復唱する。

そうか、敵を殴るときに出るこの真っ青な光が、プラーナ・・・。

ティアは視線を拳に移し、しげしげと見つめる。

戦っていないときは通常の手だ。何も光ってはいない。

「プラーナを溜めて放出するのだ。少しの間、攻撃せずにいると強いプラーナを練る事が出来る。それを相手にぶつけるんだ」

ティアは試しに空中に向かって拳をぐっと突き出した。

するとボワッと力が解き放たれる感じがして、風を切る音と共に真っ青なプラーナが空に伸びていく。

全長はティアより大きく、3メートルほどのプラーナ。

ティアはおおっと思わず感動の声を漏らした。

「今日からはこのプラーナの力を使いこなす、かつ長時間使えるように特訓するぞ」

ヒースはたるからクモをひょいひょい掴んではぶん投げながらそういった。

「うわ・・・・」

プラーナと言う武器を手にしたけれど、やはりクモのモンスターはいやだ。

「他にも俺の知っている組み手なども取り入れると無駄なプラーナを使わずにすばやく相手を倒せるぞ」

クモをぶちまけ終わったヒースは押しに手を当ててそういった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照が 3400 越えました!
ありがとうございます!

そして3333見逃した・・・


Re: アヴァロンコード ( No.276 )
日時: 2012/11/04 09:20
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「なかなか筋がいいぞ」

ティアの成長ぶりに感嘆しながらヒースは言った。

場所は何時もの森の入り口から少し進んだところ。

もっと森に入り込み、魔物を片っ端から倒しているところだ。

クモのモンスター、ダスクスパイダーより強いモンスターを実践で倒す。

今ティアが相手にしているのは巨大な緑のうろこを持つワニのような二足歩行爬虫類モンスター、リザードマン。

ところどころに棘のある目つきの悪いこの魔物は、気を抜くと少しばかり危険である。

強靭の顎の攻撃をしてこないけれど、その代わり突進や長い爪での切り裂き攻撃に秀でているため、当たり所が悪ければ再びベットで寝てすごす日々を送らなくてはいけない。

水気の少ない茶けた森の草むらを駆け抜けて、ティアは食ってやる!と言う視線を送りつけてくる魔物めがけてプラーナを放った。

真っ青の閃光は魔物を吹き飛ばし、強い圧迫力で押しつぶしていく。

殆ど悲鳴もあけずに浄化されていく魔物はおそるに足らない。

「組み手もうまくなったし、魔物も簡単に倒せるようになった・・・さて、では一度俺自身で君の強さを確かめさせてもらおう」

「・・・・え?」

魔物を倒し終わり安堵のため息をついていたティアはすかさず振り返った。

さらりと言ってのけたヒースを凝視して、今のが聞き間違いだったのかと五感をめぐらせる。

「では、構えろティア。遠慮はするなよ」

急な展開にティアはあわあわしながらヒースに立ち向かうように構えた。

今までの特訓で学んだことを、テスト前に思い出すかのように頭の中で暗唱していく。

敵の動きを予測すること。

相手のスピードに気をつけること。

心を落ち着かせ、気を保つこと。

この三つを頭の中に入れておいたティアは、それをゆっくり復唱していた。

(落ち着け、ティア。それにグスタフ師匠の言ったことも忘れないで・・・弱点を見つけること。ハオチイの言った大切なのは心・・・)




Re: アヴァロンコード ( No.277 )
日時: 2012/11/04 10:02
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ヒースの攻撃を避けるため、ティアは岩陰のほうへ少しずつ移動する。

ヒースのほうはティアの出方を伺っている様で、両者輪を描くように移動をし始める。

ティアの軌道が岩陰を捉えたとき、すかさずティアは練り込んでいたプラーナを一気に放出させた。

ヒースは真っ青の光線をすかさず避けて華麗に飛びのく。

そして避けざまにプラーナを放ってきた。

強力なプラーナは飛距離が長く、岩に飛び込んだティアのそばをかすめ、森の木々にまで到達している。

「!!」

目を見開いて驚いているとあることに気づく。

ヒースのプラーナによって破壊されるべきものが壊されていない。

森にまで届いたはずなのに、森は一つも傷をおっていないのだ。

枝も折れていないし、破壊音がひとつもしない。

「気づいたかい。慣れてくれば気をコントロールして破壊対象物を絞れるんだよ」

(すごい・・・)しかし感嘆している場合ではない。

身を翻して岩陰より飛び出す。

飛んでくるプラーナを避けながらこちらも銃撃戦のように打ち返す。

真っ青なレーザーのような光が飛び交い、両者ともすばやい身のこなしで避けていく。

「動体視力も上がったようだね」

そんな危険な光線の中、ヒースはなんともなしに言う。

ティアにはしゃべる余裕すらないので、ヒースの戦いの経験がとてつもないことが分かる。

(戦力主義のヴァイゼン帝国が見込んだだけあってさすがに強い・・・)

けれどティアは戦いを放棄する気はなかった。

学んだことを発揮して、認めてもらえるように戦う。

ティアの脳裏に浮かぶのはグラナ平原で師匠グスタフと対峙した時の記憶。

あのときもこのような修羅場状態だった。

(とにかくプラーナを維持しながら、確実に当てられるまで隙を見よう・・・プラーナの弱点は長時間打ち続けると飛距離が縮むこと。ヒースのプラーナが弱くなったら突撃しよう・・・)

微弱なプラーナで反撃しつつ、ティアはリスのようにすばやくヒースのプラーナを消費させるべく動きまわった。



Re: アヴァロンコード ( No.278 )
日時: 2012/11/04 10:28
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「・・・!」

十五分ほどたつと、ヒースの攻撃がにわかに弱くなった。

それを見た瞬間ティアは逃げるのをやめ、即座にヒースに接近した。

懐に飛び込むように避けようが無いところまで来たとき、ティアは拳を突き出し思い切り打ち付ける。

その腹部に拳が当たり、相手はプラーナを浴びて吹っ飛ぶ—


はずだった。


「え・・・」

けれどティアの拳から真っ青な光は放たれなかった。

なんの輝きも無いいたって普通の拳がヒースに腹に直撃し、彼を少しうならせただけだった。

目を見開いているティアに、ヒースは言う。

「プラーナ切れだな。まだ長時間利用に慣れていないから気が途切れたんだろう」

ティアはせっかくのチャンスだったのに・・・とうなだれる。

丁度いいタイミングがめぐってきたのに、プラーナ切れ・・・。

もしかしたら勝てたかもしれないのに。

「まぁいいさ。プラーナの強弱に気づき、向かってきたときは感心したよ。でも・・・十五分でプラーナ切れは本番の戦いだときつい。精神力を強く持ち、心を落ち着けること」

帰りながらヒースはティアに言う。

「自主練習のときに、心を穏やかに保つ練習をしたらどうかな」

ティアは頷き、はやる気持ちを抑えた。



Re: アヴァロンコード ( No.279 )
日時: 2012/11/04 11:32
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ようやくティアのプラーナ維持が40分と保てるようになったときのことであった。

その日の訓練を終え、この日狩り担当のラウカの帰還を待っていると、騒々しくラウカが帰ってきた。

入り口に慌てて入ってきたラウカの表情は複雑そのもの。

それを見てヒースとティアは立ち上がった。

そして開口一番、ラウカが心底困った声で言う。

「大変ダ!森のエモノ、ぜんぜんいなイ!」

そして何から説明しようかと、戸惑うように二人に近づいてきた。

ラウカの動揺ぶりにヒースもティアも面食らっていた。

「エモノいないからラウカ困った。探していたら、でっかいお化けがいタ!!」

そこでやっとヒースが眉を寄せて言う。

「お化け?なんだそれは?」

いぶかしがって聞くとラウカはヒースを見上げて言う。

「腐った肉のお化ケ・・・森の生き物じゃなイ」

そしてティアのほうを意味ありげに見つめて言った。

「・・・何かを探していたヨ・・・」

ティアはレクスに視線を走らせる。

もしかしてレクスを・・・?

預言書を持っていると勘違いされて追われていたレクス。

そのバケモノもレクス捜索をまかされているのだろうか?

ではクレルヴォの手下・・・?

ということはクレルヴォは今だ預言書のありかを知らないことになる。

(早くサミアドに行かなければ・・・クレルヴォが気づく前に・・・)

「魔物か・・・放っては置けないな」そうつぶやいたヒースはくるりとティアのほうを向く。

「ティア、ここは君に任せる。我が流派の最後の試練だと思って挑んで来い!」

ティアは頷いた。

レクスを探しているのならば、ヒースがラウカと共にレクスを守っていたほうがいい。

ティアはラウカにその魔物のいる場所を聞き、早速出て行った。



一人で行動するのはとても久しぶりだった。

何時もはラウカやヒースが先導してくれるため、一人で歩くことは無い。

今はプラーナがあるため、魔物の出現にも臆さずに進んでいく。

目指すは森の中心。

魔物や動物がそこで死期を迎えるという、けだものの墓場へ。




Re: アヴァロンコード ( No.280 )
日時: 2012/11/04 23:51
名前: めた (ID: UcmONG3e)

レクスの居場所を気づかれる前にと、ティアは墓場まで急いでいた。

そして森の真ん中。

潤いの無い、円形の涸れ地に出た。

一歩踏み込むと、完全に水気の無い草を踏む感触。

ティアは眉を寄せ、あたりを見ながら考える。

(ここは・・・おかしい)

けだものの墓場。

ここでは死に場所を求めてやってくる生き物が眠りにつく場所。

消えかかった命を吸い取ったこの場所は、生き物の屍から栄養を貰っているはずなのだが・・・。

「ぜんぜん、命あふれてない・・・」

それらの栄養は一体どこへ消えたのだろう。

この広場は、まったくの栄養失調状態なのだ。

生き物の気配もまったくしない。この一体全域がおかしい。

警戒しながら進んでいくと妙な気配を前方より感じた。

薄暗い草むらから、何かがこちらへ歩いてくる。

(あれが、ラウカの言っていたバケモノ?)

目の前に出てきたのは一体ではなかった。

そして、いずれも見覚えのある魔物であった。

「まさか・・・でも・・・なんで?」

過去に倒したやからなのに何故復活を?

目を見開いているとそれが口を開いた。

「グヌゥゥゥ・・・感じる!感じるぞ!」

それは白骨化した顔をこちらに向けてうなった。

「この身体が覚えている・・・貴様、この身体・・・キマイラを殺したものだろう?」

そう、今ティアの目の前にたっている魔物はキマイラの面影を残し賜物であった。

キマイラ自身なのだろうが、白骨化して無残にもぼろぼろになった身体を何者かが操っている。

キマイラの獅子の身体、首があったところから異様に長い紫の身体を滑り込ませ、キマイラの頭を帽子のようにかぶっている。

そしてその脇に控えているのは黒いヤギの頭と、竜であった頭だ。

ヤギは比較的無事だが、竜はその顔面の皮が剥がれ落ち、三分の二が白骨化している。

おぞましい光景である。

「我は死霊使いトゥオニ」

キマイラの頭をかぶる悪趣味な死霊使いが言った。

「ティア、こんなところに隠れておったとはな!あのガキを探していたが・・・運がいい」

(やっぱりレクスを探していたんだ・・・!)

トゥオニはティアをじろりと見て笑ったようだった。

「武器の無い英雄。預言書のないおまえなどおそれるに足らぬ。貴様が動くと我が主の邪魔になる。ここで死ねぃ!」

トゥオニは不適に笑うと尾である腐りかけたサソリの尾をティアめがけて振り回す。

それを転がって避けたティアは目を疑った。

さっきまでいたトゥオニが消えたのだ。

後に残るのは、獰猛な顔つきのヤギと竜だけであった。




Re: アヴァロンコード ( No.281 )
日時: 2012/11/07 01:16
名前: めた (ID: UcmONG3e)

トゥオニが消えた。

その事実に呆然としていたティア。

けれどそのティアに、現実はすぐさま襲い掛かった。

鋭い雄たけびに嫌な気配。かろうじて避けた足元に、真っ赤な渦が発生する。

「!? 身動き封じの・・・?」

黒いヤギの雄たけびは、キマイラが生前に使った魔術だろうか。

けれどそれは違う魔術であった。

ティアの先ほどまで立っていたところに、出来た渦。

その渦が今度は真紫の光を放ち、おぞましい叫び声と、空へ向かう紫の閃光が伸びる。

その紫色の閃光の中に、苦悩の表情の白い仮面のような魂たちが浮かび上がる。

「!?」

それらを避けつつ、ティアは目を見張る。

まさか、この土地で死んでいたものたちの魂を、トゥオニは魔力として取り込んだのか?

死霊使いがどんなものか、漢字だけを頼りにすれば死するモノの霊や魂を使う者とわかる。

ナナイーダのように魔力を得るため、魂を吸い取ったのだろうか。

小走りにヤギの攻撃を避けていたティアは、そんなことを考えていたのだが、前方より白骨化した竜の首が大口を開けているのに気づき慌てて飛びのく。

竜の口からは同じく真紫の光の玉が仰々しく放たれ、当たったらまずいと一発で知らしめている。

「っ、たぁ!」

トゥオニの姿が見えぬ中、姿あるものを倒してしまおうと、ティアはすかさずプラーナを練り上げて竜とヤギにはなった。

彼らは避けることをせず、ただティアに向かってくるため簡単に当てることが出来た。

真っ青な光が彼らを包み込むと、嫌な蒸発音と共に彼らは消滅した。

「ふぅ・・・」あっけなさ過ぎるけれど、ティアは満足げにため息をつき、問題のトゥオニを捜そうと視線を走らせる。

しかしどこへ・・・。

放出した分、弱くなったプラーナを即座に練り上げながら、あたりを警戒しているティア。

その背後に、音も気配もなく、黒ずんだ煙のような小火が拡散していくのを、ティアは気づいていなかった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


参照が 3 6 0 0 越えました!!
少しばかり放置していたにもかかわらずありがとうございます!!


Re: アヴァロンコード ( No.282 )
日時: 2012/11/07 18:38
名前: めた (ID: UcmONG3e)

がばっと覆いかぶさるように、ティアの背後から伸縮自在な手が伸びる。

とっさの事で避けることが出来なかったティアは、背中に痛みを感じる事でようやく自分の背後に何かがいることに気づいた。

「っ?!」

焼けるような痛みに抗いながら身を反転させると、おぞましい形相のトゥオニがそこにいた。

どうやらトゥオニの長い爪が、ティアの背中を切り裂いたようだ。

だがあまりにも大きすぎる爪だったらしく、直接触れた爪は1・5本と言ったところ。

ティアの背を赤い傷が一直線に走った。

勝ちを取ったとばかりのトゥオニに、ティアは懇親のプラーナをぶつけようとした。

けれどトゥオニは薄ら笑いを浮かべてティアを見ると、その姿が急速に薄れていく。

「きえたっ!?」

真っ青な直線がトゥオニのいたところをむなしく通過していく。

またしてもトゥオニは姿を消した。

(こんな闇討ち状態続けていたら、こちらに不利だ・・・なんとかしないと)

そう考えていながらも、反撃する前に姿を消してしまうトゥオニ。

そしてどこからともなく現れてはティアを追い詰めていく。


「預言書が無いと、やはり何も出来ないか!」

闇討ちと同時にトゥオニはティアに言う。

何度目かの攻撃を避け、けれどティアは体中傷を負っていた。

あまり深いものじゃないのは、トゥオニが楽しむためだろうか。

浅い傷ばかり体中に刻まれたティアは、今目の前にいるトゥオニをさっと見上げた。

にたりと嫌な笑みを浮かべるトゥオニは、ティアにサソリの尾をぶつけながら言う。

じぐざぐとティアの身体に穴を開けようとしているのか、ティアの飛びのける場所ばかりに狙いを定めている。

「ふん。やはりおまえのような人間が預言書を持つことはふさわしくない!クレルヴォ様が持ってこそふさわしいのだ!」

語尾の強調と共にティアを長いサソリの尾でひっぱたいたトゥオニ。

急な攻撃によけられず、ティアはそのまま地面に叩きつけられた。

「ぐっ・・・」

しりもちをついたティアにトゥオニは巨大な前足の攻撃をしようと振りかぶる。

けれどティアもやられっぱなしでは無い。

しりもちをついた状態からプラーナを練り上げ、腹部めがけて思いっきり放出した。

噴水のような勢いを持ったプラーナはトゥオニの体を押し上げて、その思い体を後方へ吹き飛ばした。

「なにっ!?」

そのまま空中で身をひねって地面に着地したトゥオニはあせりながらティアを見る。

先ほどの甘く見た視線ではない。

命の危険を感じたような視線だった。


Re: アヴァロンコード ( No.283 )
日時: 2012/11/07 19:17
名前: めた (ID: UcmONG3e)

やっと素手攻撃が当たり、ティアは全身の痛みを忘れ即座に立ち上がった。

少し警戒するトゥオニの目の前に立ち、プラーナを練ろうとする。

すでに戦いから30分近く経過している。

ティアのプラーナ持続最長時間は40分ほど。

プラーナ持続が切れたら、ティアには戦うすべが無い。

あと十分ほど。

ティアはそれをさとられないように出来るだけすばやく仕留めようとした。

警戒したまま後ずさりするトゥオニは、咆哮を一つあげた。

ライオンのようなその雄たけびはティアの左右に何かを出現させた。

紫の魔方陣が発生し、その中心から獣達が召還される。

先ほど倒したはずの、竜とヤギの頭だ。

だがやはり竜は顔半面が白骨化している。

「ふん・・・やはりおまえは人柱にいい」

姿を急速に薄れさせながら、トゥオニは気味悪く言う。

「人柱・・・?」

ティアが眉をひそめながらいうと、トゥオニは完全に消えたまま言う。

「おまえの死体は俺が貰うことになっている。その身体に悪霊を入れ、愚かなカレイラの者どもを魔物兵と共に侵略するのだ!英雄によって殺されていく国民どもの恐怖の顔が目に見えるわ!」

うれしそうに高笑いするトゥオニとは裏腹に、ティアは怒りと恐怖がわきおこる。

「なんだ、その表情は。もっとうれしがればよいだろう?」

相変わらず姿は見えずとも、トゥオニの声はあちらこちらに反響するように聞こえる。

ティアは怒りにわななく口をきっと結び、トゥオニの声の元を探ろうとにらみを聞かせている。

「憎きカレイラどもを自らの手で殺せるのだぞ?人間は醜い。クレルヴォ様の言うとおりであると、そうは思わないのか?」

ティアは震えつつも首を振る。

ヤギも竜も、ティアとトゥオニの対話を聞き大人しくしている。

けれどティアの答えしだいでは再び攻撃を再開するだろう。

トゥオニはティアに同意を求めるように、言う。

「カレイラのモノどもは英雄とおまえをたたえ、そして自分勝手に失墜させた」

ティアは恐怖に見目を見開いてトゥオニの言葉をさえぎろうと耳をふさぐ。

心の奥底で、それに同意してしまう自分がいるのに気づいてしまったからだ。

—そのとおり。トゥオニの言うとおり。カレイラの民達は自分勝手。滅びてしまえばいい。

だめだだめだ!と心の中でいっせいに非難しても、消し去れない。

「挙句にはおまえを裏切り者とし、おまえの心をつぶした」

トゥオニの言葉に回復しかけていた心が音を立てて千切れ始める。

ほころびを無理やり引き裂くように、心が二つに裂かれていく。

涙がいっぱい茶色の目にたまった。

苦しい思い出がよみがえり涙と共に頬を伝う。

—トゥオニの言うとおり。カレイラのモノどもはひどいヤツばかり。この手で復讐できるのだ、トゥオニについていけば。

耳をふさいでも頭の髄に響くトゥオニの声。

きつく耳をふさいでいた手を、ティアはついに離した。

ずるりと力なく両手は身体の横にたれて、暗い光をたたえた目を虚空へ向ける。

その沈んだ目をみてか、安心したトゥオニが姿を現した。

攻撃はしてこない。

そのままティアの眼前まで来るととどめと言うように言った。

「そうだ。そのまま怒りに身を任せろ」




Re: アヴァロンコード ( No.284 )
日時: 2012/11/07 20:22
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアを殺すのではなく、ティア自身生きているままに手に入れられたら、戦力は上がるだろう。

悪霊を入れたとしても、その身体は朽ち果てていく。

けれど生かしたままならば、素手から真っ青な光の力を放出する妙な力を利用も利用できる。

にやりと心の内で笑うトゥオニ。

けれどそんな表情をおくびにも出さずトゥオニはティアの身体の中に悪霊を入れようと手をかざした。

裏切られてはたまらないとこの地に眠る莫大な魔力のもとである死霊を再び体内に吸収しティアにその一部を与えようとする。

そうすれば意志の一部を配下におけるので必要ならばマインドコントロールも出来る。

トゥオニの足元に紫の魔方陣が出現し、その魔方陣からトゥオニめがけて渦巻状の死霊たちが吸い込まれていく。

死霊たちの悲痛な悲鳴が体内にめぐり心地よさげに目を細めるトゥオニ。

そして腕を広げて醜い指先から死霊たちをティアめがけて注ごうとした瞬間。

ティアがゆっくりとこちらを向いた。

涙をこぼしながら見上げてくるティアの目は怒りに満ちておりトゥオニはとっさにまずいと感知した。

「誰がクレルヴォなんかに従うかっ」

怒りをはらんだ声を合図にいっせいにヤギと竜の頭が総攻撃を仕掛けるも、ティアのほうが一手先だった。

ヒースから習った組み手をフル活用してトゥオニの無防備な顔面を殴りつける。

真っ青なプラーナは怒りに燃える炎のようであり、トゥオニの身体が豪快に吹き飛ぶ。

ヤギの魔法攻撃と竜の光を避け、ティアはその後を追うようにすばやく走りよりよろよろと立ち上がるトゥオニに懇親の一撃を放つ。

身体全体をひねり、強烈な足蹴りをトゥオニの腐りかけた腹部に落とした。

ブキッと不吉な音がしてトゥオニの体が二つに分割される。

そして断絶されたトゥオニの頭をプラーナをまとわせた左手の拳で思い切り打ち抜いた。

「おのれっ!人間風情がっ」

最後にそう叫び、トゥオニは完全にチリと化して消えうせた。

空中漂うトゥオニの面影が完全に消えると、ヤギと竜の頭もチリと化した。

花びらが散るようなはかなげな風景にティアはごしごしと涙を拭く。

自らの力だけで、倒せたのだ。

ティアに心に春の風のように達成感が舞い込む。

「自分ひとりの力で・・・やっと・・・」

晴れ晴れとした表情のティアの目の前で一陣の風が巻き起こる。

その風は銀色で、真っ白の仮面のような死霊たちがうれしそうな顔をして地面に帰っていく。

やはり、トゥオニがこの森の、けだものの墓場に眠る死した霊を魔力として捕らえていたのだろう。

その魂の風が収まるまで、ティアはその光景を見つめていた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

VSトゥオニはあんまり長くなかった

Re: アヴァロンコード ( No.285 )
日時: 2012/11/07 20:49
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「ティア!やったネ!」

少々傷だらけのティアが森より帰還すると、ラウカが真っ先に駆け寄ってきた。

ラウカはティアの背中の傷に驚いていながらも、ティアの勝利に喜んでいた。

「これでまたエモノ獲れル!ティアのおかゲ!」

「やっぱすげぇな、おまえは」

喜ぶラウカの背後よりケガより回復したレクスが歩いてきた。

順調に回復していたレクスは、もう一人で立って歩けるようになっていた。

食欲も戻り軽い運動程度なら出来るようになったのだ。

「レクス!」

「また傷だらけになって・・・でも勝つんだから凄いよ」

腰に手を当てたままレクスがティアに笑いかける。

そんな風にいうレクスだが、彼がここに来たときは今のティアより数倍もぼろぼろの状態だった。

「はじめて・・・預言書がなくても戦って勝てたの」

ティアがうれしいような独立してしまったような複雑な表情で言うと、ヒースが言う。

「そうだ。今君は自分の力だけで魔物を倒した」

弟子を見るような目つきでヒースが続ける。

どこか満足げだ。

「コレで仕上げは終わりだ。君は完全に第五の流派を継承した」

ティアは両手に目を落とし、その拳をギュウッと握った。

五つ目の武器。

無限の素手攻撃。

「これで、もう君は戦っていける。 君にとって本当に大切なものを今度こそ取り戻して来い 」

ヒースの目を見てティアは今度は目をそらさなかった。

精霊たち、預言書、ファナ・・・。

大切なもの。今度ははっきりと分かる。

もう見失わない。

ティアは深く頷いた。

それを安心したようにレクス、ラウカ、ヒースは見る。

「砂漠の魔女は強いが、今の君なら勝てるさ」

これで、もういけるのか!

砂漠を目指して早く行かなくては!

意気込んだティアにラウカが言う。

「その前に、ティアぼろぼロ!傷の手当をする必要があル!」

ラウカが今にも出発しそうな雰囲気のティアを引きずって家へと駆け込んでいった。



Re: アヴァロンコード ( No.286 )
日時: 2012/11/07 22:35
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアの傷に包帯を巻いた後、ほつれた服もすっかり直したラウカは、狩りより帰ってきたヒースに聞く。

ティアは安静にしていろと言っていたので、ベットで療養中だ。

レクスはティアについている。

エモノを火であぶっている間、ラウカはヒースにこれからどうするか聞いているところだった。

「ティアはすぐにでも砂漠へ向かうだろう。俺も失ったものを取り返しに行かないといけない」

「そうカ・・・」

失ったものがなんなのか聞くことをせず、ラウカはちょっと残念そうに言った。

にぎやかになった家が再び静かになるのも、物寂しいものだ。

もともと孤独と背あわせで暮らしてきたラウカは人間が好きではない。

けれど心を許す人間は、いた。

ティアとヒースの二人だ。

その二人がいっぺんに出て行くのでラウカは少し心寂しかった。

「ティアの怪我もすぐ治ル。それまではヒース狩をしロ」

じりじりと肉をあぶっているヒースは片手を上げてはいよ、と返事をした。



その日から三日ばかり経ってからの日。

ティアを含めた四人はラウカの家の前に立っていた。

本日はティアが砂漠へ旅立つ日であり、大切なものを取り戻す最初の一歩になる日だった。

「ラウカ、ヒースさん!お世話になりました!」

ティアはお礼を述べて笑顔で言う。

「ケガの手当てやご飯を分けてくれてありがとう!」

ラウカがへへと照れたように頭をかく。

「ティアと一緒にいれて楽しかったゾ。また何かあったら帰ってくるといイ!そしたら一緒に狩りをする約束はたすんダ」

ラウカが言うとティアはもう一回指きりげんまんをした。

「さて、俺もそろそろ発つとしよう」

ティアに続いてヒースがそういう。

ティアは意外そうな目を向けたがレクスはなんとなく分かっていた様だった。

「変わられてしまったヴァルド皇子の一件を調査するために帝国へ向かうことにする」

ティアやレクスにとっては一変した後のヴァルド皇子しか知らないのでなんともいいがたい表情で聞いていた。

「あのお方は一度死んだ。俺は見たんだ。皇子の遺体に怪しげな術をかけるワーマンの姿を」

「死霊術・・・トゥオニ?」

戦った相手の報告をした事に気づいてティアが声を上げる。

ティアからその話を聞いていたヒースは頷く。

もしかしたら死霊術によってヴァルド皇子は何かの魂を入れられて動いているのではないか。

ヒースはそう考えているのだ。

「皇子は復活し、そして変わられてしまった。それ以降だ、帝国軍がおかしくなったのは」

ヒースは神妙な面持ちで目を閉じてつぶやく。

「そろそろ・・・けりをつけなくてはならない」

「ティア、実は・・・」するとレクスも声を上げた。

ティアは驚いてレクスを見る。

「実は俺もここを出ようと思うんだ・・・身体も完全に回復したしな」

ラウカに感謝の視線を送りながらレクスは続けた。

「・・・俺のせいで街の一角が預言書に吸い込まれただろ?」

ティアはかろうじて頷く。そこだけ気絶していたのであまり覚えていない。

「あの時、飛び散ったページ・・・」

「飛び、散った・・・?」いいにくそうに言うレクスにティアは戸惑いを隠せずに言う。

「実はそうなんだ・・・言いにくくて・・・でも、言うよ」

深く息を吸い込んだレクスは目を閉じたまま言う。

「あの日、ヴァルド皇子が預言書を暴走させた直後、ページがひとりでに取れて散っていったんだ」

「!!」

ティアがショックを受けた顔をするとレクスは目を開けてすまなさそうに言う。

「あの時散ったページ・・・失われたページを俺は取り戻さなきゃならない」

拳を強く握ったレクス。その表情は悲痛だ。

「何枚散ったのかは分からない。元に戻るのかも分からない。けど、俺はあのときの罪を償わなきゃならない」

ティアの顔を見てレクスは言った。

「ティア、信じていてくれ。俺は失われたページをすべて取り戻す。どんなことがあっても」

信じる。

ティアには心の痛い言葉だ。

レクスの表情に見覚えがあると思ったら、それは自分自身がカレイラの民達に向けた表情と同じだった。

こんな風に悲痛な顔をしていた。

結局信じてはもらえなかったけれど。

ティアは目を閉じて頷いた。「信じているよ」

レクスが安堵したように泣きそうな顔になりつつ言う。

「・・・この世界猛すぐ滅びちまうんだろ?」ティアが頷くのを見たあとレクスは空を見ながら言った。

「不思議だよなぁ。あんなに憎んでいた世界なのに、今は一分一秒でも長く世界が続くことを願ってる・・・」

美しい世界から目を離し、ティアに視線を戻して少し気恥ずかしそうに。

「ティア、もし俺がすべてをやり遂げられることが出来たら、もう一度・・・親友になってくれるか?」

ティアが驚いて口を開きかけた途端レクスは手でそれを制した。

「いや、今は答えなくていいや。終わってから聞くよ」

ティアは肩をすくめて見せた。

そんあこと、最初から答えは決まっているのに。

そんな旅立つ三人に、ラウカは巣立ちを見送る親鳥のように声をかける。

「行くのカ?みんな・・・気をつけるんだゾ。ラウカはここにいるから、いつでも寄るといイ!」

歳暮のように微笑むラウカに三人は感謝の視線を送る。

そして、三人はお互いに微笑みあって掛け声のように言う。

「行くか!失われたものを取り戻しに!」

「あぁ!」

「うん!」


それぞれがそれぞれの道へ、やっと一歩を踏み出した。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照が3,700行きました!
ありがとうございます

これからティアは砂漠へ、レクスはカレイラへ、ヒースはワーグリス砦を経由してヴァイゼンへとすすんで行きます

Re: アヴァロンコード ( No.287 )
日時: 2012/11/09 20:41
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアはレクスとヒース、ラウカに別れを告げて一人背を向けた。

ティアの目指す場所、サミアドはこの森を抜けたところにある。

なので、カレイラやヴァイゼンとは正反対に行く必要があった。

ラウカに持たされた不恰好な水筒を背負いなおし、その中に水が十分入っているのを確認する。

ラウカがとってきてくれたのだ、砂漠では命綱同様の水を。

感謝しつつティアは気を引き締めた。

これからは狩りも寝る場所の確保も一人でやらなくてはならない。

相変わらず乾いた森の中を進みながら、ティアはじっと両手を眺めた。

傷だらけの小さな手。

コレが今日から自分を助ける武器。

もちろん旅の間も修行はしなくてはならない。

ティアに不足がちな強靭な筋力と維持力。それを魔女と戦う前に手に入れなくては。

「まっててね、みんな」

ティアは自分を奮い立たせるためにわざと口に出した。

乾いた木々から垣間見れる空をみつめて。

「今から助けに行くよ!」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照が 3800 越えしてました!
最近は毎日更新できなかったのに・・・ありがとうございます!

Re: アヴァロンコード ( No.288 )
日時: 2012/11/09 21:02
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアの”ひとり旅”は夜を迎えようとしていた。

もちろん孤独感に悩まされることはあったが、これからすぐ会えるのだと考えて誤魔化していた。

そんなティアはがさついた落ち葉の上を慎重に歩き、わざと音を立てて歩いていた。

先ほどまで夕焼けにより、血をこぼしたように真っ赤だった空も、気後れして紫がかった黒へと姿を変えている。

そんなくらい森の中、魔物と遭遇しないように音を立てていたのだ。

たいていの魔物は、ラウカと共にすんでいたためそのにおいが染み付いたティアを襲おうとはしない。

この森の連鎖の頂点に立つラウカを皆恐れているのだ。

しかし、時としてばったり出くわすことがある。

双方無意識に出会った場合、ラウカに狙われたと思って魔物が動物的危険本能により逃走を図ろうと牙をむいてくるのだ。

まだ戦いなれないティアはそのような危機的殺傷能力から身を守れない。

なので音を立ててわざと気づかせ、逃げてもらうのだ。

「ふー・・・ラウカのくれた食料があるから今日は食べ物探ししなくていいから楽だけど・・・どこで寝ようかな」

くらい森の中、灯りを持たないティアは星明りと月ばかりが見方だった。

けれど新月になっては手の施しようが無い。

<新月とは28周期による月の満ち欠けの周期の最初の日であり、月がない日である。その夜は月明かりがなく、真っ暗になる>

完全な真っ暗闇では動きようが無いのだ。

精霊がいれば、光がともって見えたのに。

しぼんでいた孤独感が一気に膨張し始めてティアはあせる。

完全に孤立した—そんな気持ちがティアを支配する。

「だいじょうぶ、落ち着いて・・・わたしはきっとみんなを助けだせる」

苦しくなった胸を押さえ自分に言い聞かせると幾分か落ち着いた。

けれどまだ動悸が治まらない。

ティアはこれ以上歩く気になれず、めぼしい木を見つけてのぼった。

木の上で眠るのになれないティアは三椏の枝に寄りかかって不安げに目を閉じた。

落ちないといいけれど・・・。

明日は仕事が沢山ある。狩りに寝床確保。そして旅の続きを。




Re: アヴァロンコード ( No.289 )
日時: 2012/11/10 14:12
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアは翌日目を覚まし、眠たい目をこする前に痛みでうめいた。

「うぅっ、痛い・・・」

木の上で夜を明かすのはまことに安全だ。

しかし、寝返りも打てない、一転に重量固定されるためうっ血してしまう。

青あざに似たものが肌の表面にうっすらとにじんでいる。

かゆいようないたい、そんな感触のアザをティアはそっとなでた。

<寝返りを打たないと血液が流れにくくなり、このような現象が起こる。なので人は無意識に寝返りを打っている。病院で患者をベットの上で転がすのもそのため>

「でも、しょうがないか・・・安全な木で眠らないといけないし」

青あざを無視し、ティアはさっと木から飛び降りた。

結構な高度だったがティアはひざを曲げてエネルギーを吸収し、悼みなく地面に着地する。

そしてすきっ腹を落ち着かせるために、ティアは産まれてはじめての“狩り”を開始する。

とは言うものの、狩りにも種類は沢山ある。

体力を使わない、忍耐力を使う三菜・果実ツアーと体力をフル活用の持久戦動物狩りツアーである。

もしくは技術を要する魚釣りツアー。

だがティアはあまり器用でないため、手作りさおは作れない。

なので野菜散策しつつ、エモノがいればすぐさま狩ることにした。


早朝の冷える森の中は、朝露にもかかわらず渇き気味だった。

一体何故こんなにも森は乾いているのだろう。

不思議に思いながらもティアは足元や頭上に注意を払って歩いていく。

エモノの足跡や、果物のツルがないかと目を配っているのだ。

ラウカに教えられたとおりにすれば食べ物は確実に手に入る。

地面を掘ればイモ類が、辺りに生えている植物は少なからず食べられる。

しかし長旅、しかも体力がものをいう砂漠へ行くとなると肉系が必要だ。

砂漠ではあまり巨大生物がいない。

いるのは魔物類と小さなへびやすばやい小型狐。ウサギもいるそうだが捕まえられないと言う。

なので森で食料を乾燥させたものを作り、それで砂漠をしのぐしかないのだ。

「あ・・・」

早速ティアの目にすばやい動きをするエモノが飛び込んできた。

心を落ち着かせて、ティアは息を呑む。

しとめなくては。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 参照が 3900 越えました!
 ありがとうございます!!

 1234章が前編。
 56が中編ですね。後編はまだまだ長いです。

Re: アヴァロンコード ( No.290 )
日時: 2012/11/10 14:54
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアに狙いを定められたのは、ポグという魔物。

そのポグと呼ばれるすばしっこい魔物は、ブタの顔のような外見の魔物だ。

ピンク色の一見するとかわいらしい、人懐っこそうな魔物だが、その性格は臆病で誰かを見れば手当たり次第に逃げ惑う。

しかも、そのスピードはとんでもないものであり、この弱き種族が生きながらえてきた理由も、足の速さがためだ。

「なにあれ?!はやっ」

追いかけるティアもビックリのスピードでポグは木々の間を右往左往と走っていく。

ポグはあまり頭がいい魔物ではないため、どこへ逃げるかポグ自身も分からない。

なのであっちに、こっちにとふらふらした走り方になるのだ。

けれどティアも貴重な肉資源になるポグを逃がす気が無く、必死に後をつけていく。

(走りながらプラーナをうったらどうなるんだろう?)

持久走のごとく走っていたティアはふとそんなことを考えた。

そして片手を突き出し、ポグに向けて標準を定めると、思い切りプラーナを放出させた。

ティアの手から放たれたプラーナ(気)は真っ青な電光のようにポグへ迫っていく。

その反動からか、一気に押し返されるような反動がティアの元に返ってきた。

「ぶぎゅっ」

と悲鳴のような音が聞こえてティアはやった!と視線を向ける。

しかし、ティアの目に届いたものは落胆。

ポグは魔物であるがために、倒した瞬間その身を浄化させたのだ。

「あぁ・・・そうだった」

ティアはがっくりうなだれて地面に座り込む。

魔物は世の中の悪が具現化したもの。

それを倒すと、悪が消え、具現化していたものも浄化、すなわち消えるのだ。

到底食べられるはずが無い。

「早く気づけばよかった・・・」乾いた地面に両手をつき今までの自分のがんばりを脳内再生する。

あんなに走ったのに。あんなに期待したのに。

すべてが水の泡となり、ティアはしばし放心状態で座り込み続けた。


「今日は野菜生活か・・・まぁいいや、歩こう・・・」

放心から立ち直り、なんとか三菜で我慢したティアのお腹。

そして狩りを終え、ティアは森をさらに進んでいった。

肉や食糧補給の無いまま砂漠へ行ってもムダではないかもしれない。

砂漠でも生き抜く統べはある。

サボテンも、ラウカによれば最終手段だが食べられるそうだ。

軽い荷物、水筒を携えてティアはまた一歩ずつ森を進んでいった。








Re: アヴァロンコード ( No.291 )
日時: 2012/11/11 13:14
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「え」

ティアは目の前の光景に引きつった笑みを向けて、一言そう言った。

「行き止まり・・・?」

今までの苦労が・・・とまたも脳内再生するティアの目の前には、強大な溝とそこに流れる深き河川。

行き止まり。

それはすなわち、ティアの今までの苦労が再び報われないと言うことだ。

今は夜。今夜も少し膨らんだ三日月がティアを見下ろしている。

河川の溝の前に座り込み、ティアは今夜の寝床をここにしようと決める。

だがただその辺に転がれば良いという問題ではない。

ティアはまずいったん森に入り、草花の葉をもらってきた。

巨大な葉を数枚、小ぶりな葉を何十枚も抱えたティアは、川のそばに葉を並べていく。

絨毯のようにふわふわした葉のベットが完成すると、ティアはそこに寝転がって目をつぶる。

その際に、きちんとラウカから預かったラウカの耳飾を、木の枝に挟んで地面に突き刺しておいた。

コレで安心だ。

木の上より快適だ。

「明日は肉類を食べたいなぁ」

そうつぶやき終えると、ティアは完全に眠りに落ちた。

<地面に直接寝ると、地に体温を奪われ凍死する恐れがある。そのため野外で寝るときはテント、もしくはティアのように葉をしいて寝る必要があるんです。ちなみに月の光は人を眠らせる効果があるので、長く起きていたい人は月の光を見ないこと>



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照が 4000 越えた!!
次は4000だなと思っていたけれど 実際目にすると迫力が・・・
ありがとうございます!!



Re: アヴァロンコード ( No.292 )
日時: 2012/11/11 15:03
名前: めた (ID: UcmONG3e)

 同時刻 グラナトゥム森林

「ティアはちゃんと駆りできてるかな?」

「アイツならなんだかんだで大丈夫だろ」

そう言い合うのはヒースとレクス。

今は焚き火を囲んで少し遅い夕食中だった。

揺らめく火とそれに合わせて動き回る影をみながらレクスは、ヒースが狩って来た鶏肉をほおばっていた。

「でもなぁ、あいつ不器用なんだよな・・・魚釣りの竿も作れないし、ウサギ捕りの罠だって作れないし・・・」

すると反対側で豪快に肉を食していたヒースがにやりと笑っていう。

「過保護だねぇ」

「だ、だってしょうがないだろ。妹分だし・・・」

あさっての方向に視線を向けてつぶやくレクスにヒースは聞いてみる。

「ティアと兄妹・・・なわけじゃないだろう?」

うん、と頷くレクス。

何が聞きたいんだろうと焚き火の反対ごしにこちらを見てくる。

「君たちは幼少の頃、出会ったんだっけ?」

「・・・そうだよ。七歳くらいのときにね」

心なしかレクスの視線が暗くなった。

レクスの生い立ちを知らないヒースは気にも留めずに聞いた。

「君たちのご両親は、こんなことになって心配していないのかい?」


沈黙。


あたりが完全な無音になり、川の流れる音がどこか遠くより聞こえてくる。

夜目の利かない小鳥達の寝息まで聞こえてきそうだ。

だがその沈黙も唐突に破られた。



「オレ達に心配してくれる両親なんて、もういないよ」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

また矢印でも書こうかと。
またひたすらティアが砂漠へ抜けるまでの話よりも ティアの過去と幼少のティアとレクスが会ったきっかけを書いたほうがいいと思いまして。

ちなみにこの矢印は『リコレクション』で分類されます


 リコレクション001

Re: アヴァロンコード ( No.293 )
日時: 2012/11/11 16:22
名前: めた (ID: UcmONG3e)


リコレクション 002

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「いない・・・?」

ヒースはまずいことを聞いてしまったかなと、ちょっと引きつった笑みを浮かべていた。

「文字通りだよ、いないのさ」

レクスのぶっきらぼうな言葉にヒースは頭をかきながらつぶやく。

「いや、すまん・・・知らなかった」

そんなヒースを横目で見つつレクスは肩をすくめた。

「別にいいよ。もう悲しむには時間がたちすぎた。もう、コレが普通になったんだから」

芯が強いのか、強がってるのかヒースには分からなかったけれど言う。

「俺も両親はいない。戦争で、しんでしまったよ」

レクスは気にも留めず焼き鳥を食べている。

「最近は墓参りもろくに出来ないでいる。君も墓参りが出来ないだろう?」

するとこくんと今度は素直に頷いた。

「カレイラに今は眠ってる。母さんも父さんも・・・妹も・・・」

妹も。と聞いてヒースは笑みを消す。

ではもうこの子に家族はいないというのか。

「そうか・・・妹さんも。何歳くらいだ?」

「ミーニャは5歳の妹だったよ。でももういない」

またも言葉を失うヒース。

しかし、今度はレクスがしゃべった。

手を止めて、悲痛な顔で言う。

「でも、ティアにはそれが無いんだ・・・」

沈黙のまま、レクスを見つめるヒースにレクスは顔を向けた。

「ティアの両親も・・・この世にはいない。それに・・・お墓も無いんだ」

「な、なんと・・・言ったらいいか・・・どういうことなんだ?」

レクスはうつむいたまましゃべりだした。






Re: アヴァロンコード ( No.294 )
日時: 2012/11/11 17:00
名前: めた (ID: UcmONG3e)


 リコレクション 003

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ティアは孤児って言ったら早いかな」

レクスはそうつぶやいた。

レクスのまん前にいるヒースは息を潜めて聞き入っている。

心なしか焚き火のはぜる音も、風が木々を揺らす音も、川のせせらぎさえも静まり返っている。

ただ三日月照らす夜の森に、レクスの声だけが響いていた。

「でも捨てられたわけじゃないんだ。ティアの両親は“殺されたんだ”」


—それはティアがまだ六歳の頃。

ティアの両親は旅好きな旅行家だった。

少しばかり裕福な家庭なため、各国を点々と巡る旅をする事などしょっちゅうだった。

今回訪れたのは、カレイラのそば。

そこで野営しながら、次に訪れるカレイラのことを、ティアの父親は凄く楽しみにしていた。

「とても美しい国らしい。それになにより、千年間も続く家系の王族が取り仕切っているんだそうだ。気に入ったらそのまま住んでしまおうか」

「おとうさん、カレイラってきれいなところー?」

「きっとね。きっと貧しい人などいずに、聖王が救いの手を差し伸べているんだろうね。美しいセントラルや立ち並ぶ家はどれも絵に描いたように素晴らしいと聞いたよ」

父親と母親はとても笑顔でそういった。

「聖王、どんな人なんだろうね?きっとすべての国民を大切に思う人なのね。貴族も国民も分け隔てなく平等で、差別の無い素晴らしい王国なんだわ」

幼きティアを抱きしめて言う、母親。

その胸に抱かれて、ティアは飛び切りの笑顔で頷く。

「困った人はみんなカレイラに行けばいいのに。そしたら“せいおう”や“しんせつな人”が助けてくれるんでしょ?」

—その夜。

「カレイラへはこのまま西へ行けばいいんだよ。そうしたらティアに髪飾りを買ってあげようね」

母親が言うとティアはブンブン首を振る。

そして母親の髪にうずもれている髪留めを指差して言う。

「ううん。わたしはおかあさんのがいい」

すると母親はにっこり微笑んでティアの褐色の髪をなでる。

そして自らの銀の髪飾りをティアに付けてあげた。

「やったぁ!おとうさんにみせびらかしてくるっ」

そしてテントを飛び出していったティアは野外散策にいった父を探しに言った。

父はボタニー。つまり植物学者であり旅行をかねて植物研究もしていた。

父の姿を探しててくてく歩いていると、なかなかみつからない。

テントが見えなくなるまで探していたのだが、疲れてしまった。

「むぅ、おとうさんいない。おかあさんにお花摘んでてあげようっと」

たちまち上機嫌になったティアはその辺の花たちを丁寧に採取していく。

きっとお母さん達喜んでくれるよね。

—その頃テントでは。

目を覆いたくなるほどの虐殺が行われていた。

ティアと行き違いになって帰ってきた父も、ティアを笑顔で見送った母も、すでにこの世の人ではなかった。

輝かしい黄色のテント内は、すべて真っ赤になり、歩くたびに水溜りを歩くような音がする。

「けっ。このご時勢に旅行たぁ呑気な野郎どもだ」

なきがらに言い放つのはヒゲ面の男。

その手には錆び付いた大柄なトマホーク(狩猟用オノ)。

もはやそのトマホークも男自身も、生まれたときから全身が真っ赤だったのではないかと言うほど返り血を浴びまくっていた。

たが男の片手に握られた多大な現金は赤ではなかったけれど。

「だがよう、そのおかげで俺のふところが潤うってわけよ」

いやらしく笑いながら男はあらかじめ用意しておいた液体を撒き散らす。

黄色の液体はテント内とその外面、辺りの草花に撒き散らされてらてらと光っている。

そのテントに、男は笑みを浮かべながら火を放った。






Re: アヴァロンコード ( No.295 )
日時: 2012/11/11 17:24
名前: めた (ID: UcmONG3e)

 リコレクション004

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「おか・・・さん?」

その光景を、遠くより見つめていたティア。

とんでもない勢いで燃える炎。

あれは・・・その燃えているものは・・・テントの中には・・・!!

「おかあさん・・・おかあさん」

お母さんがいたテントが燃えている。

そのテントの前で踊り狂う男こそ、テントに火をつけた張本人。

ティアは震えながら首を振った。

お母さんが燃えている・・・? 違う!!

テントが燃えている・・・ 違う!

お母さんは死んだ  ちがう・・・

「おかあさん!!」

しんでなんかいない。返事してくれると思った。

けれど

「なんだぁ?」

返事したのは踊り狂っていた放火魔だった。

燃え盛る炎のそばにいた男には、明暗の関係上、ティアの姿はみえない。

しかし、ティアはその男に見つかったと思い、全身に震えが走る。

「この親子のガキかぁ?ははっ」

しかし男は姿を探りつつ闇につぶやく。

「残念だったなぁ!おまえのお父さんもお母さんもみーんな焼けちまったぜ!」

いやらしく笑うヒゲ男。

しかし、ティアは奥歯をかんで叫び返す。

「死んでなんかない!!」

すると上機嫌だったヒゲ面の男が目つきを変えてティアを見た。

「あ?死んだに決まってんだろ。俺がやったんだから。けちつけるなら、おまえも殺すぞ」

そういいながら男は真っ赤なトマホーク(狩猟用オノ)を構えてこちらに歩いてくる。

—この人はおかしい。とにかくにげなさい

そんな声が聞こえた気がして、ティアは恐怖に支配されながら闇に逃げ込んだ。

「逃げたってムダだよ。必ず見つけ出して両親にあわせてあげよう」

猫なで声で言う男はティアの走っていく方向に、松明を向けて言う。

—このまま西に向かうとカレイラがあるの。そしたらティアに髪飾りを買ってあげようね

母の言葉が心の中で繰り返された。

必死に逃げるティアは涙を流しながら走る。

—きっと貧しい人などいずに、聖王が救いの手を差し伸べているんだろうね

それに次いで父の言葉、自分の言葉が脳裏に巡る。

—困った人はみんなカレイラに行けばいいのに。そしたら“せいおう”や“しんせつな人”が助けてくれるんでしょ?

「カレイラ・・・カレイラに行かなきゃ・・・しんせつな人・・・せいおうに助けてもらわなきゃ・・・」

放火魔に追いかけられながらも、ティアは救いを求めてカレイラへと走った。




Re: アヴァロンコード ( No.296 )
日時: 2012/11/11 17:40
名前: めた (ID: UcmONG3e)

 リコレクション005

・・・・・・・・・・・・・・・

ぼろぼろになたティアは地面に倒れた。

明け方まで必死に走っていたせいで、幼いからだがもう持たない。

すでに放火魔はティアの追跡をやめた様で、どうせまた火のそばで狂気に歓喜しているのだろう。

「おとうさん・・・おかあさん・・・は、」

倒れたティアは地面に倒れながら言う。

どこもかしこも傷だらけ。何度も転んだせいで服も汚れて避けた部分もある。

「カレイラに・・・逃げれたのかも・・・」

そうだ、そうに違いない。

でも、もう足が動かない。

朝日がティアの褐色の髪をてらし、銀の髪飾りが光る。

「おかあさ・・・・」

もう意識がなくなりそうになり、ティアは髪飾りに触れた。

変わった形の髪飾りは、母の手作り。

沢山の思い出が込められた、母の思い出の品。

「カレイラでまってて・・・いま、あいにいくか、ら」

けれどティアはそのまま意識を失った。



ティアは間違いなく死んだだろう。

傷だらけで、おまけに免疫力の乏しい幼子が、不衛生にも傷口を泥だらけにしていれば。

しかし、その状態も長くは続かなかった。

倒れたティアに、一つの影が重なる。

「これは・・・・」

その声の主はティアを抱えあげると、辺りを見回した。

けれどこの子の両親の姿や、何かしらの手がかりも得られなかった。

「捨て子・・・にしては・・・」

するとティアがかすかに言う。寝言だったのかもしれない。

「カ、レイラ・・・」

殆どかすれた声だったのに、その人は足早にカレイラへと向かっていった。




Re: アヴァロンコード ( No.297 )
日時: 2012/11/11 18:37
名前: めた (ID: UcmONG3e)

 リコレクション 006

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ティアが目を覚ましたとき、そこは見知らぬ人の腕の中だった。

6歳と言えど、ティアはその人の腕に収まるほどの小さな身体だったため、その人は疲れた様子ではなかった。

「おとう、さん?」

声をかけるとその人物は薄い水色の目をティアに向けた。

方耳に、涙形のピアスがついている。

「起きたのか」

その人物は優しげな顔を向けてたが、ティアの表情は曇った。

「おとうさん、じゃない」

するとその人物は歩きながらティアに問う。

「おまえの名前は?」

「ティア・・・」

ティアはかすれた声で答えた。

相変わらず傷口たちが痛む。どこか化膿しているのだろう。

「ティアか。聞かない名前だな・・・両親は?」

「カ、レイラ・・・に」

そういったものの、ティアには出身国の名前がどうにも思い出せない。

旅好きのために、本当の家がどこなのかよく分からないんだ。

「カレイラね・・・下町の子供ではないようだが」

ティアの少し上等な服装に、その人物は困ったように首をかしげる。

「どうしてそんな傷だらけなんだ」

しかしティアは完全に気絶しており、もうそれ以上目を開かなかった。

「困ったものだ・・・はやいこと手当てしないと・・・」

若き日のグスタフはティアを抱きかかえて自らの家へと走っていった。


元親衛隊の元に傷だらけの子供が運ばれたと言う噂は、すでにローアン中に広まっていた。

グスタフはとりあえず王の元へ面会しに行き、そこで手当てしてもらっていた。

ぐったりするティアの服装は、たしかに下町や中層部のものではないため、上層部に住むものと判断されたのだ。

「ふむ、ティアとな・・・聞かぬ名だ」

王はまったく興味なさそうに受け答えていた。

けれどグスタフはどうにかティアという子供を持つ両親を探してもらおうと必死だった。

「うむ、よかろう」

「計らいに感謝しますぞ」

深く頭を下げたグスタフに、王は意外そうに頷く。



数時間後、消毒薬のにおいがたっぷりの包帯に包まれたティアが目を覚ました。

茶色の瞳が誰かを探すような動きをし、ふとグスタフを捕らえる。

「おろうさん・・・?」

「目が醒めたか」

同じやり取りにグスタフは優しげな笑みを浮かべて頷いた。

けれど今度はティアも失意の色を浮かべなかった。

「助けてくれた人・・・?」

かすれた声で言うティアに、グスタフはあいまいに頷いた。

真っ白のベットに横たわる小さな幼女にこれから難しい質問をしなくてはならないのだ。

騎士達を下がらせ、一対一で聞く。

ティアは傷だらけの包帯のしたからただグスタフをじっと見ていた。

「ティア、君のご両親はカレイラにいるんだね?」

「・・・きっとそう」

するとティアの痛々しい手が髪に触れる。

指の合間から見えるのは、銀の髪飾り。

「おかあさんもおとうさんも、きっと逃げてきたはずなの」

その仕草を見ていたグスタフは眉を寄せた。

「逃げてきた?」

うん、と頷いたティアは妙に無機質な表情をしている。

「何から逃げてきたんだい」

ティアはためらうそぶりも見せず、その名を口にした。

「真っ赤になった男の人から」





Re: アヴァロンコード ( No.298 )
日時: 2012/11/11 18:52
名前: めた (ID: UcmONG3e)

 リコレクション 007

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ティアの口から語られた、その悲惨な光景にグスタフは戸惑いを隠せない。

事実、グスタフが早朝あそこにいたのも、広野より火柱が見えると通報があったからだ。

その炎の中にいたティアの両親は、きっともう・・・。

詳しいことは現在調査中の騎士にたずねれば分かるだろう。

「・・・本当の家も分からないんだね。それに、両親も・・・」

するとティアは無機質な声で答えた。

「おとうさんとおかあさんは、カレイラに来ているんでしょ?」

何もいえないグスタフに、ティアは言い続けた。

「だって、ここはカレイラだもん。“せいおう”がみんな助けてくれるんでしょ?」

聖王・・・ゼノンバートの事か。

「おかあさん、言っていた。すべての国民を大切に思う人なのね。貴族も国民も分け隔てなく平等で、差別の無い素晴らしい王国なんだわって・・・」

外国の印象はそうなのだろうな、とグスタフは思う。

この国に訪れると分かる、確固たる差別。

この国の形を見たらすぐに分かる。三つに分かれた街。

中層部や貴族にバカにされさげずまれる下町の貧民達。

この国は平和ではない。聖王など、偽りなのだ。

だがそれを言っても、ティアは首を傾げるだけだろう。

こうしてティアがここで治療を受けられるのも、ティアの服装が上等だったから。

ただその理由で治療してもらえただけなのに。

「・・・私は君の両親を探してくるよ・・・きっといるさ」

そんなうそを言うと、ティアは笑顔で頷いた。

「ありがとう」

自分の言ったことがあまりにも残酷すぎて、グスタフはお礼を言ったティアを振り返れなかった。


Re: アヴァロンコード ( No.299 )
日時: 2012/11/11 19:11
名前: めた (ID: UcmONG3e)

 リコレクション008

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

グスタフはカレイラにて元部下だった騎士にティアの両親の捜索をしてもらい、自分は現場に向かっていた。

「グスタフさんは今でも私の上司ですから!」

そういってくれる騎士たちに笑顔でお礼をいい、無理に足を進める。

目的地は、行きたくないあの場所。

ティアの両親の元へ。


「グスタフさん、見てくださいよ」

現場にて調査中の騎士が彼に言う。

その現場は一目で分かるところだ。

辺りは緑美しいのに、そこ一体は真っ黒なのだ。

昨夜の炎がすべてを焦がしてしまった。

「骨も・・・何もありません・・・みんな燃え尽きてしまったようです」

そういう騎士の指差す方向には、黒いけしずみ以外何も無い。

グスタフも、コレには無言になった。

もしかしたら本当に彼らは生きているのでは?

にわかに湧き上がる期待を胸に秘めていたのだが。

「ですが、コレを・・・」

差し出された鈍器を見て思わずうめく。

赤黒い血を吸ったトマホーク(狩猟用オノ)。

ありえないほどの黒ずみは、一人殺害しただけでは付き添うも無い色合いだ。

「おまけに・・・この岩を見てください」

血濡れのトマホークを持っていた騎士が真っ黒く燃え尽きた近くの岩を指差す。

「この文字・・・きっとティアという子に向けたメッセージですよ」

それは完全なる悪質犯の仕業だ。

岩には、血文字でこう書かれていた。

「 昨日のかくれんぼは負けたけど、おまえのおとうさんとおかあさんは、俺との鬼ごっこに負けた。
  おまえのお母さんはなんて叫んだと思う?
  あの子にだけは手を出さないでってさ            」


グスタフはその岩に手をついて、思いっきり拳で殴りつけた。

もちろん彼の手はいやな音を立てた。

だが折れてはいないらしく、すぐさま腰の剣に手を伸ばす。

そしてグスタフはその岩を斬った。

グスタフの怒りの一撃は岩を裂き、何度も何度も切り崩していく。

そして、砕け散った岩をティアの両親を殺害したトマホークで殴りつけていく。

後ろで控えていた騎士たちは黙ってみていた。

「なんてヤツだ・・・くそ、くそ」

悲鳴に似た声でグスタフはその岩を粉々にした。

ティアの目に触れてはいけない。

こんなもの見せてはいけない。

「そいつを探すぞ・・・野放しに出来はしない!」


Re: アヴァロンコード ( No.300 )
日時: 2012/11/11 19:25
名前: めた (ID: UcmONG3e)

 リコレクション 009

返信が300行きました。
ティアの過去、悲惨すぎる・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


一方、グスタフのいない頃。

フランネル城の手前に位置する小塔でティアはグスタフを待っていた。

おとうさんとおかあさんは、本当にカレイラにいるのだろうか・・・。

いないと分かっていた。

けれど、生きていてくれないと・・・・どうしたらいいのだろう。

ティアはこてんと首をドアのほうへ向けた。

先ほど扉の前で太い男の声が聞こえたのだ。

「グスタフもあのような小娘一人で騒ぎすぎだ。回復しだい放て」

まさかそれが王様の命令だと知らないティアは、妙なことを言う人もいるものだと考えていた。

だって、カレイラには“せいおう”としんせつな人しかいないのだから。

困った人を助けてくれる。ゆめのような国なのだから。

「そうだ・・・せいおうに、会いに行けばいいんだ」

ティアは痛々しい身体をベットから起こした。

そして幼い身体に鞭打って、冷たい床をはだしで歩く。

背の高いドアノブを苦労して掴むと、そっとドアを押した。

「せいおうを・・・探せば、助けてくれる・・・」

ティアの純粋な心はそれを信じていた。

そして廊下をよたよたと進んでいくと、光の指す方向へ歩いていく。

廊下はすべて赤い絨毯が引いてあったが、ティアはそれをすべて避けて歩いた。

痛む足の裏には冷えた感覚のほうが心地いい。

「おい、止まりなさい」

すると不意に声をかけられた。

見上げれば、騎士。

「せいおうに会いに行かなきゃ行けないの・・・」

必死に言うと、騎士はなにやら考えている様だった。

信じられないことだが、騎士は王に言われた言葉を思い出していた。

小娘が治ったら放てと。

厄介払いしたいといっていた王。

ではこのまま放っておいたら勝手にどこかへ行くだろう。

どうせ身寄りの無い、元上流階級だった小娘など、知らぬ。

国内にも身寄りが無いため、貧民同様である。

貧民など、用は無い。

「勝手にしろ」

騎士はそう冷たく言うと、ティアを置き去りにした。


Re: アヴァロンコード ( No.301 )
日時: 2012/11/12 19:00
名前: めた (ID: UcmONG3e)

 リコレクション 010

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ティアはひとりでに、外へ出ていた。

知らない国。

ティアは人々の姿を追いかけて、会いたい両親の姿を探していた。

おとうさん、おかあさんどこ・・・。

すると、ふとそのような姿がちらりと見えた。

「!!」

まさかと走って出て行くと、急に躓いて転んでしまった。

ティアのひざに長い擦り傷が出来る。

痛みに歯を食いしばって耐えていると、声が聞こえた。

「あぁ〜ら?なにこのこ」

汚い、と言うようにこちらを見てくるティアより3さいほど上の少女が言った。

水色の目の、赤毛の女の子。

「ボロ雑巾じゃないの。さっさと下町へ行ってくれない?」

ティアは戸惑った顔を彼女—フランチェスカにむけた。

「したまち・・・?ぼろぞうきん・・・?」

言われている意味は分かる。けれど信じられない。

カレイラの人々は、こんなこというはずが無いのだ。

目を見開いているとその脇から男の子も出てくる。

「だめだねぇ、ここには来ちゃいけないんだよ?ここはお金のある人がきていいところなんだから」

そして犬を追い払うようにティアに手を振る。

ティアは震えながらつぶやく。

「なんで・・・?カレイラの人は・・・そんなこと言わないでしょ?」

言った瞬間さげずんだめで見られた。

「何を言ってるのかしら。下町の人は下町に行きなさい。ここにはあなた達に親切にする人なんていないのよ」

その言葉でティアは立ち上がって走った。


どういうことだ。

ここはカレイラじゃないのか。

お父さんの言っていたことはうそなの?

ティアは夢中で走った。

父と母を捜し求め、こんなところ早く出て行かなければ。


けれど、ティアの両親はいるわけもなくティアはただ走り回るしかなかった。





Re: アヴァロンコード ( No.302 )
日時: 2012/11/12 19:01
名前: めた (ID: UcmONG3e)

 リコレクション 011

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ティアは再び気絶していた。

手当てされた純白の包帯も、いまは泥だらけである。

ここは貧民達の住む街、下町であった。

薄暗くなったこの街で、食糧確保へ向かう人々がティアを発見したところだった。

「おや・・・捨て子・・・?」

「服装は貴族らしいが?まさかビスコンティーの隠し子かね?」

「あぁ、名門貴族のプレイボーイの・・・かもしれないが」

そして傷だらけで倒れこむティアのもとによってくると、彼女を抱き上げた。

「とにかく、この子は助けが必要だ・・・みんなで看病しよう」

そして小さな空き家に行くと、みなの家から持ち寄ったベットや机、椅子を並べていく。

そして出来るだけきれいな布を敷いたベットにティアを横たえた。

女性達が水でティアの顔の汚れをぬぐっている。

「あらまぁ、こんな傷だらけで・・・」

そしてその髪をなでてあげた。

すると妙な手ごたえがあって女性はふと紙にまぎれる銀の髪飾りを見つける。

両親の形見だろうか?

大切にされていたに違いないが・・・。

「両親もいないで・・・ここは貧しいけれど、面倒を見てあげるからね」

するとティアの目がすっと開いた。

茶色の目が即座に誰かを探すような動きをする。

「おかあさん?」

「いいえ・・・」

期待の込められた声に女性は首を振った。

するとティアの目の輝きも失せ、ちょっと落ち込んだようにこちらを見上げてくる。

「どこ・・・?カレイラ?」

そして首をあちらこちらに向けて身体をひねろうとする。

傷口が開いているところがあるので、女性は慌ててティアの動きを止めた。

「そうよ、カレイラだよ。カレイラの下町。安心していいんだよ」

するとティアは首をかしげる。

「安心・・・?助けてくれるの?」

女性が頷くとティアはやっと笑顔になった。

「ここが・・・しんせつな人のいる、カレイラ!」

そして戸惑うように笑う女性にティアは言う。

「助けてくれた人・・・は?」

「あぁ・・・私たち全員だよ」

ティアはグスタフのことを言っていたのだが瞬きしてこちらを覗き込む人々を見つめる。

「助けてくれてありがとう」

カレイラについたのだ。

せいおうやしんせつな人のいる、救いの国へ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照 4100 超えました!!
思ったほどリコレクション長くなりそう。


Re: アヴァロンコード ( No.303 )
日時: 2012/11/12 19:18
名前: めた (ID: UcmONG3e)

 リコレクション 012

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

グスタフはやっとの思いである人物の足を捕まえていた。

それは狂気に踊る放火魔のもの。

じたばたと暴れ、グスタフを蹴りつけようともがく彼の頭を逆に蹴り、やっと黙らせた。

「下衆めが。おぬしは一生牢獄に入っていろ!」

厳しく叱咤すると放火魔はふてくされたように鼻血を流しながらにらみつけてくる。

そしてブツブツつぶやくとした打ちした。

「もっと放火できたはずなのに・・・・」

その言葉にもう一度腹部にけりを入れたグスタフは足かせと手錠を男に付け、もう一週間も空けているカレイラへの帰路を開始した。

「これで・・・少しはあの子の両親も気が晴れるだろうか・・・」

そしてもう帰らない両親のことをどう説明したらよいかとグスタフは悩みながら歩いていった。


しかしグスタフを迎えた事実は衝撃そのものだった。

フランネル城にて放火魔を牢の奥にぶち込んだ後、ティアの様子を見に着たグスタフは声も出なかった。

「いない・・・?」

確かにティアが寝ていたベットはあるのだが、ティア自身がいない。

まさか傷が悪化して死んでしまった?!

血相を変えて王の元へ急ぐと、王は穏やかな顔でこうつげる。

「小娘?一体何のことだ?」

王は完全に忘れていた。なおも食い下がるとやっと思い出したようだった。

「あの小娘なら出て行ったわ。行方も知らぬ」


Re: アヴァロンコード ( No.304 )
日時: 2012/11/13 19:25
名前: めた (ID: UcmONG3e)

 リコレクション 013

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「外国の流れ者のことなど気にせず、おぬしは親衛隊に復帰したらどうじゃ?まだその年齢でも十分国の役に立てるじゃろうが」

グスタフはあいまいに返事をして、フランネル城を後にした。

グスタフはそれから数日の間、王には内密にティアの行方を探していた。

公園も、墓地も、町の迷路のような街路もすべて探した。

けれど、三日発っても見つからない。

「息子よりも幼い子供だと言うのに・・・」

グスタフは一人息子のことを思い出したつぶやく。

妻にそっくりの、平和が大好きな優しい男の子。

剣を握るよりも誰かのために優しくしてあげるほうが好きな、まさに妻を具現化したような存在。

今は妻と共に平原で遊んでいるのだろう。

「まったく、王も娘を持っているはずだが・・・なぜ」

この無慈悲な王にもれっきとした子供がいる。

何円も前に亡くなった王妃との子供、ドロテアと言うティアと同じくらいの年齢の子がいるのだ。

「とにかく・・・見つけなくては」

そして街のいたるところへ足を向けた。


その頃ティアはというと、下町の人々に献身的な治療を受けてすっかり回復していた。

汚れた服も洗ってもらい、今はそれが乾くまで子供用の服を貸してもらっていた。

「よかったねぇ、すっかり元気になって」

無邪気に微笑むティアを見て、介抱していた人々はいう。

けれど、まれにティアの口にすることは気になったが。

ティアはよく、助けてくれた人。おとうさんとお母さんを知らないかと問う。

けれどどれも知らぬ問いなのでみんな答えられないでいた。

そして空き家が本格的にティアのものとなった頃、ある人物が到来する。

「ここに、小さな子供は・・・傷だらけの子供は来なかったか?」

銀髪の、方耳に涙方の耳飾をつけた男が、ティアをたずねてきたのだ。

貧民達は一瞬ティアのことだとすぐにわかったのだが、この男が父親だと思わなかった。

この男はカレイラの無慈悲な王の親衛隊だった男だ。

国の犬がこの子に何のようだといぶかしがっていた。

「知らないね。みてないよ」

もしや貴族の隠し子を始末しに来たのかと貧民達は総出でティアの存在をかばった。

「そうか・・・見つけたら、教えてくれると助かる・・・」

住民達の言葉を聴くと、その男はうなだれて下町をふらふらと歩いていく。

すると、住民の背後で声がした。

あどけない声と、純粋に不思議に思う声。

「どうしたの・・・?」

「さぁ、こっちに来ちゃだめよ」

ハッとした住民達はすばやい動作でティアを抱えてその場を去ろうとする。

だが、ティアの声に反応したのは住民だけではなかった。

「・・・あのこの、声・・・?」

振り返ったグスタフは鷹のような目で瞬時に人ごみの奥でこちらを見ようとする幼女の姿を捉える。

それに気づいた住民達はいっせいに走り去り、ティアを抱えて走っていく。

「っまってくれ!その子を探していた!」

グスタフが走ろうにも、どの住民がティアを連れているのかわから無い。

下町の民は20人ほどいっせいに走り去っていく。

グスタフは舌打ちしてどうにか誤解を解こうと目じかの男に狙いを定めた。


「まって、あの人・・・あの声きいたことあるの」

抱え込まれたティアはその声の主を見ようともがくけれど、母親のように面倒を見ていた女性はそれを許さない。

ますますあわせてはいけないと、警戒心を増してティアを抱きなおす。

「あの人・・・助けてくれた人なの・・・?」

どうして見せてくれないのかと、ティアは女性の顔を見上げる。

走っているので視界ががくがく揺れて気持ち悪い。

「だめよ!せっかく助かった命・・・無駄にしてはだめ!それにあの人は・・・王の狗。たすけてくれるわけが無いの」

そしてティアの家にころがりこむとかんぬきをして息を潜めて隠れた。

ティアもそれに習って女性にしがみつき、そっと息をしていた。

心の中で、あの助けてくれた人じゃないんだ、と残念がりながら。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ティアの過去はもうすぐ終わりそうです・・多分

そして参照 4200 超えました!!ありがとうございます!

Re: アヴァロンコード ( No.305 )
日時: 2012/11/13 20:20
名前: めた (ID: UcmONG3e)

 リコレクション 014

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


グスタフに取り押さえられて動きを封じられた男は悲鳴に似た声で叫ぶ。

「あの子はおまえの探してる子供じゃねぇよ!」

だが身間違えようのない事実にグスタフは腕をひねる力を強めた。

壁に押さえ込んだ男は悲鳴を上げつつ歯を食いしばって耐えている。

「それに・・・おまえのようなヤツに教えるものか」

豪快に睨まれてグスタフは奥歯をかみ締める。

そして不意に男を放すと数歩後ずさった。

男は地面に座り込み、痛む肩をさすりながら怯えつつ見上げてくる。

そんな男にグスタフは言った。

「すまない、あせっていたからつい・・・」

そして眉をひそめている男に真剣な顔でつげた。

「教えてくれ。あの子の・・・ティアの居場所を。あの子供はティア、間違いないだろう?」

すると男は吐き捨てるように言い返した。

「だったらどうする?始末でもする気か!」

そして立ち上がり、グスタフを堂々と見据えると言い切った。

「あぁそうだとも。ぼろぼろで傷だらけのあの子を手当てした。話を聞けば中層部で助けを求めたそうだ・・・」

男は話しながらグスタフの脇をすり抜ける。

その姿を目で追いながら、グスタフはティアを探し当てたとほっとしていた。

「だが誰も助けてはくれず、こんな下町にやってきたんだ。そしてやっと回復した・・・そこに今更のこのこと、どういうつもりだ!」

その男はひどく興奮して感情的になっていた。

きっとはやり病のさいに子と妻を両方失ったためだろう。

そのときも、王は助けを差し伸べなかった。

そしてすべてが終わった頃に、騎士一人を様子を見に派遣をしたのだった。

「あの子に帰るべき家を・・・孤児院にでも—」

「忘れるな。あの子の家はもうここにある」

グスタフの提案はきっぱりと断られた。

仕方が無いので、ティアとの約束—両親について—を果たすため、男に同意するほか無い。

「ではコレだけ知らせたい。あの子の両親についてだ。信じてくれるだろう?この前の大火事の事件を・・・真実をすべて話そう—」

男は眉を潜めた。



とんとんとん、とノックがされてティアとティアの世話をする女性は即座に顔を上げた。

女性がすぐにかんぬきをはずしてドアを開ける。

仲間の姿があらわえて、女性が安堵した表情をするが—

「あ、助けてくれた人!」

ティアの声が上がるのと同時に女性の顔が青ざめる。

仲間の背後にグスタフがいたからだ。

「ティア、探したんだぞ」

グスタフの姿を見るなりうれしそうなティアを、女性は戸惑った顔で見つめている。

「ね、ね、おとうさんとお母さんはいたの?」

しゃがんだグスタフに走りよったティアはすぐに聞いた。

グスタフは一瞬ひるんだようにしていたが、出来るだけ笑顔で言う。

「おとうさんと杜母さんから・・・伝言を授かったんだ」

「—?」

首を傾げるティアに言うグスタフ。

その脇で、グスタフにすべてを聞かされた男とティアの世話を焼いていた女性が話しこんでいた。

ティアの両親は外国のもので、旅暮らしの研究家。

そしてカレイラに来ることを楽しみにしていたが、途中野外中に放火魔によって殺害される。

その場にいなかったティアは逃れたが、両親は亡き人に。

傷だらけのところをグスタフにより助けられたティアは王室で看病を受けるも、グスタフの留守中に逃亡。

そして今に至る。

その痛ましい出来事に女性は口元を押さえて、何度もまさかとつぶやく。

骨も残らぬ悲惨の両親のことを、グスタフはティアになんて教えるのだ。


「おとうさんとお母さん・・・旅に出たの?」

ティアが悲しげに首をかしげながら問う。

「そうだ。長い旅にでた。だから、君はこれから一人で生きていかないといけない」

目を見開いたティアはその目に涙を溜めて頷いた。

「いつか会いましょうと、いっていたよ・・・」

「う、ん・・・わかった・・・じゃあ、行ってらっしゃいって伝えておいてね」


結局ティアは自分と街の人の要望により、下町の空き家で暮らすことにしたティア。

長い間ずっとそのまま暮らしていた。

そしてティアが八歳になるかならないかの頃、その出会いは突然に訪れた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
こっから兄貴分との出会いですね
ページ丸々一つ使うくらい長いとは予想してなかった・・・



Re: アヴァロンコード ( No.306 )
日時: 2012/11/13 20:55
名前: めた (ID: UcmONG3e)

 リコレクション 015


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

何時ものようにティアが下町付近の歩いていると、目の前にかたまりが見えた。

「?ねこ・・・いや、人?」

道の端に、丸くなった何かがいる。近づいてみると、それが小ぶりな人であることが分かった。

きれいな服はところどころ血にまみれ、目をつぶった顔とその両足両手には尋常じゃないほどの血液がこびりついていた。

「けが!?」

自分もこのように救われたことを思い出しながら、ティアはその少年に駆け寄った。

ゆすってもその人は起きない。

死んでるのかもとあわあわしていると、不意に寝言のように少年がつぶやく。

「み・・・にゃ・・・」

「—?」

とりあえず生きていることは確認できたのだが、み?にゃ?何を言っているのだろう?

もしや外国の人なのだろうか?

頭をひねりながらティアはその人物を引っ張り挙げた。

「とう、さ・・・か、さん・・・」

かすれた声は両親を呼んだのだろうか?

ティアは自分の両親のことを思い出し、葉をかみ締めて少年を立ち上がらせて酔っ払いを担ぐように引きずっていった。

そして家に着くとその人物をやっとの思いで床に寝転がす。

ベットに持ち上げる力量はあいにく持ち合わせていなかったのだ。

そして組んであった川の水をその顔につけ、血を洗い流した。

赤い血とは正反対の深い緑青の髪を持つ少年は先ほど口走った言葉をつぶやいているが意識は無い。

すると急に、ティアのそばに倒れていた少年がすっとその目を開いた。

夕日のように赤い眼はうつろな目を虚空に向けていたがティアを一瞬見てつぶやく。

「み・・にゃ・・・か?無事だった・・・?」

「み、にゃ・・・?」

ティアがそう困った顔で聞き返すと、少年はふと黙った。

そして絶望感たっぷりの目を悲しげに伏せた。

「そうか・・・違うか・・・」

そして急に起き上がると盛大によろめいた。

そのまま簡易な机に倒れかかると、辺りを見回した。

「どこだここ・・・?」

冷たい視線のまま少年はティアを見下ろす。

「私の・・・家?」

ティアが言うと、少年は興味なさげに頷いた。

そしてそのまま首をかしげてティアにまた問いをぶつける。

赤い目がはかなげに涙をたたえているように見えるのは気のせいだろうか。

「やっぱり・・・現実なのか、な・・・?」

ティアは何のことを言っているかさっぱりであいまいに頷いた。

「ねぇ、だいじょうぶ・・・?血がいっぱいついているよ・・・」

すると少年は思い出したように血にまみれた自分の手や体中を見つめた。

そして、震えながらまた誰かの名前をつぶやき、意識を失ったように床にくず折れた。


Re: アヴァロンコード ( No.307 )
日時: 2012/11/13 21:28
名前: めた (ID: UcmONG3e)


 リコレクション 016

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「得体の知れない俺を助けてくれるの・・・?」

少年は夕陽のような目でこちらを見、そして頷くティアをバカにした用につぶやく。

「助けたって何の特にもならないよ。御礼も出来ないしね」

ちょっとひねくれたこの少年を介抱したティアは、困ったように笑っていた。

素直にお礼を言うだけでいいのに。

「怪我をしてるところ無いの?」

包帯を手に持ちながら問うと、少年は不機嫌そうに首を振る。

だがティアは首を傾げて困った顔をした。

あれだけの尋常じゃないほどの血液がついた服なのに、ケガが無いとは一体・・・?

「言っておくけど、殺人なんて犯してないからね」

ティアの考えがそこに行き着く前に少年はむっとした態度で言う。

そして逆にこちらを見て皮肉るように言う。

「おまえのほうが包帯が必要なんじゃないの?不器用なくせに竿なんて作ろうとするからだ」

ティアの両手は確かに傷だらけであり、ティアは言われてしまい笑うしかない。

「だって・・・魚食べたほうが元気になると思ったから・・・」

流通の無い肉類を摂取するには、狩りをするしかない。

魚類は川にいけばすぐ手に入れられるのだが、それは釣りができればの話だ。

「狩りなんて出来ないし・・・罠も作り方わからないから、釣りくらいしか食糧確保できないの」

「今までどう暮らしてきたんだよ?両親は?」

あきれたように少年が聞くと、ティアは笑みを一瞬崩した。

「旅に出た・・・もう帰ってこないの」

「・・・この世にいないの?」

ティアの言葉に少年はきずかうようにこちらを見てきた。

ティアは迷っていたが頷いた。

「親族は?一人もいないわけ?」

少年の問いにティアは頷く。

「もともと外の国で暮らしてたの。ここへは旅行できて、放火魔に殺されたの・・・私だけ生き残ってここで暮らしてる」

そしてティアは釣り針を作りつつまた指に突き刺して眉をしかめる。

すると黙っていた少年がさっとそれを引ったくり、いとも簡単に作り上げた。

「すごーい!」

歓声を上げるティアを横目にちょっと得意げな顔をした少年は言う。

「こんなのも作れないんじゃ、これから生きていけないぞ。この国の暮らしは厳しい」

そして不安げな顔をするティアに、少年は笑顔を向けていった。

「じゃあ、今日からおまえの兄貴になってやるよ。俺はレクス。おまえと同じような境遇の親なき子だ」

天国の親があわせてくれたのだと思った。

妹のように無垢で、不器用な新しき家族を。

「兄貴分?」

首を傾げたティアはちょっとうれしそうに言う。

「もう一人じゃないって言うこと・・・?」

「そうだよ。俺もおまえも、もう一人ぼっちじゃないんだ」

もう一人ぼっちじゃない。仲間が出来た。

それだけでレクスは心がすくわれた気がした。

新しく出来た妹を、このまま一人にさせないべく、彼は生きたいと願った。


ティアの家のそばにある空き家をレクスは家とし、ティアの代わりに釣りなど器用なレクスが魚類を担当した。

そして今に至る。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

これでリコレクションはおわり

題名由来 リコレクション=過去




Re: アヴァロンコード ( No.308 )
日時: 2012/11/14 16:54
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「やっと・・・砂漠に・・・」

今ティアの目の前に広がるのは、砂漠への入り口。

徐々に消えていく乾燥した植物とは逆に増えていく砂色の地面。

数日ぶりの景色の変動に、ティアは目を輝かせていた。

そして少し重くなった荷物—水筒と干し肉を少し、乾燥植物類を携えて森での最後の大仕事をする。

素肌のまま砂漠を歩くなど自殺行為。

なので以前ミエリが施してくれたように、大きな葉などを身にからませなくてはいけない。

ミエリのようにうまくはいかないが、どうにかして二十分ほどで植物ケープの装備が完了した。

そしてこれからの砂漠でのつらい日々を覚悟しながら、砂地へ足を踏み出した。

「まずは預言書の救出って—わ?!」

踏み出した足が砂に触れた瞬間、ティアの身体はずるりとまっさかさまに砂に引きずり込まれていく・・・?

「なに?」

見る見るうちに砂に呑まれ、じょうご型のくぼみがティアをさらに引き込もうとしている。

砂漠の特色を生かしたトラップだろうか?

「ふ、かかったか」

声が聞こえて見上げると、ティアを覗き込むようにして立っている人がいた。

逆光のため姿は真っ黒だが、ただ声からして女性だ。

だがラウカではない。見知らぬ女性だ。

「だれ・・・?」

まぶしさに耐えながらティアはその人を見上げる。

「来る事はわかっていた、預言書の持ち主よ・・・」

砂漠で罠。そしてティアと預言書のことを知っているものといえば、預言書を持ち逃げしたオオリエメド・オーフしかいない。

ティアはこの身動きの取れぬ状況に歯噛みしながら、この人物が次にどう行動に出るか観察していた。

「これはあり地獄。預言書のないおまえに抜けられるかな?」

おそらく不敵な笑みを浮かべていったのだろう、女性はそのまま姿を消した。

おそるおそるティアは振り返って穴の最深部を見てみると・・・そこに何かいた。

もぞもぞと動く砂の合間から見えるのは、黒い足とつぶれた目。

血を吸う口は針のように鋭くティアの落下を心待ちにしているようだ。

「クモ・・・みたい」

全身に寒気が走りティアは片手をさっと足元に向け、プラーナを放った。

プラーナはティアを舞い上げ、ふわりと空中に浮かせティアを着地させた。

両足で着地すると、即座に辺りに数人がいることに気づく。

砂漠の民達が数名ティアをとり囲んでいた。

皆手にはゆるく反り返ったシャムシールと言う剣を持っている。

「やはり怪しげな何かを使ったな」

先ほどティアを覗き込んでいた女性が言う。

彼女は武器を持っていないので魔導師なのだろうか。

魔道を得意とする砂漠勢が怪しげなものと言うと皮肉に感じる。

「だが少しでも足止めしよう。主人の邪魔はさせない」

女性がそういうと、砂漠勢の剣士たちはいっせいに剣を構えた。



Re: アヴァロンコード ( No.309 )
日時: 2012/11/15 20:27
名前: めた (ID: UcmONG3e)

円形の敵陣の中心にたたずむティアは、自身のプラーナを練りながらさっと視線で敵の数を数えていた。

ボスのような風格の女性を含めて、剣士は8人。

ただそのうちボスらしき女性はやはり武器も何も手にしていない。

ただ胸元に氷のような輝きがちらほらと光っている。

もしかすると、魔導師の類である可能性が高い。

オオリの手下ならば、あらゆる術を使いこなすものだろう。

(少しでも足止めをしようと言っていた。オオリは時間がほしいのか・・・?)

一体何をやらかす気なのだろう?

預言書はオオリの元にあり、精霊の加護のない預言書は無防備そのものだ。

悪用されてもおかしくないし、むしろ精霊のいない今、預言書が機能するかも分からない。

ヴァルドあらためクレルヴォのように預言書が反発してまたも暴走を起こすかもしれないのだ。

それは避けたい。

ティアが動かないでいるので、ボスのような女性は首を傾げて言う。

すっとティアを指差しながら、剣士たちに合図をおくる。

「動かぬなら参るぞ・・・かかれ」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照が 4300 越えました!!
ありがとうございます!

Re: アヴァロンコード ( No.310 )
日時: 2012/11/18 14:23
名前: めた (ID: UcmONG3e)

手ぶらな少女に一斉に切りかかる剣士たちを、はたから見ればとんでもない光景だと思うだろう。

けれどその少女は、武器を持っていないわけではなかった。

ぱっと青の閃光が走ると、その少女の身体はあり地獄脱出の時と同じくらい高く空中に飛んだ。

そしてさっと剣士たちの輪より遠くに着地すると、そのまま脱兎のごとく走り去っていく。

(オオリは何かをしようとしている・・・今は時間がない!)

早くオオリの・・・預言書の元に行かなくては!

だが走るティアを引き止めるものがいた。

「其のまま行かせるとでも?」

やけに通る声がティアのすぐそばで聞こえた。

振り向かないと決めていた彼女の足が、途端に動きを止める。

がくんとつんのめったティアは足元を見て奥歯をきしませた。

足元に広がるは真っ赤な円。

「やっぱり、あの女の人魔導師だったか・・・」

魔術による足止めの技。キマイラの魔力の中枢をつかさどるヤギも、この技を得意としていた。

身体が動かないいじょう、ティアは振り返るしかない。

上半身だけで振り返ると、剣士たちが走ってくるのが見え、魔導師の女の人は遠くでこちらを見ていた。

切りかかられて怪我するわけには行かない。

これから長い旅が始まり、体力が必要なのだ。

そんなティアに、ふと大会での記憶がよみがえった。

ルドルドが砂漠の魔女、ナナイーダに足止めの技をかけられたとき、足元を破壊していた。

足場がなくなれば、それは無効になるだろうというとんでもない発想でそれをやったのだ。

ティアも足元を見ながら、それをやろうとした。

足元に向けて手をかざし、プラーナを発射させた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照が 4500 越えました!
ありがとうございます!!


Re: アヴァロンコード ( No.311 )
日時: 2012/11/18 15:29
名前: めた (ID: UcmONG3e)

砂の上に描かれていた真っ赤な円はかき消され、ティアの身体は再び自由に動くようになった。

プラーナの反動でこてんと後ろにしりもちを着いたティアは、走り寄る足音で慌てて飛び退った。

砂に剣の突き刺さる音。それに冷や汗をかきながらティアは立ち上がり、迷っていた。

もう一度逃げても、どうせ魔導師がいるから足止めをされるだろう。

だが、戦う?

ティアは砂の上に立ち、そして迫ってくる剣士を避けながら魔導師を目指した。

急に方向転換して向かってきたティアを意外そうに目を見開いて魔導師はむかえた。

「まぁ、コレはこれで都合のよいことだけど・・・」

魔導師はそうつぶやくと、さっと腕を構えた。

そして胸元で光る氷のような石をなでるように手を動かすと、さっとティアに向かって手を振りかざした。

するとティアの身体に巻きついていた植物が急に輝きだし、ティアの身体をツタで覆い始めた。

「っ?!」

急に視界も、関節も不自由になり慌ててまとわりつく植物を振りほどくティア。

「このままここに縛り付けておくのもいいだろう」

目を細めながら魔導師はそうつぶやく。

そしてもがくティアに手を向けたまま、植物達の根を砂の中にうずもれさせていく。

だが砂なので根が張るわけがなく、まばゆい太陽光のせいで植物が元気を失っていく。

植物達の生命力を無理やり最大限まで使ったせいで、植物は急速に枯れていった。

「ちっ」

魔導師の女性は舌打ちし、束縛から解放されたティアより後ずさる。

そして胸元で光る氷のような石を撫でて、ティアの足元に渦を作る。

巻き込まれないように剣士たちは距離をとっている。

だが、魔導師はそんなことお構いなしにティアごと渦に飲ませた。

剣士たちはもともと砂人形のため、砂に飲まれたところで痛くもかゆくも無い。

渦の中心にティアははまり、どんどん引き込まれていく。

5メートルほど渦に飲まれて最深部にいるティアはその壁をよじ登ろうにも砂が崩れてしまい出来ない。

まさに砂の牢屋のようなものに閉じ込められてしまった。

そんなティアを、魔導師は上から覗き込み妖艶な笑みを浮かべる。

「我が主人はおまえを生かして置くように言った。そこで大人しく—」

だがその笑みを長くは続かなかった。

急に青の閃光が光ったと思うと、ガラスが砕けるような音がした。

慌てて胸元を見ると、氷のような石が砕けるところだった。

「!!」



Re: アヴァロンコード ( No.312 )
日時: 2012/11/18 16:40
名前: めた (ID: UcmONG3e)

氷のような石に触れるたび、魔導師は術を発動させていた。

それに気づいたティアは、プラーナを溜めに溜めて、そしてやっと距離が届くくらいになると、プラーナを放った。

狙い通りに、氷のような氷晶石が砕けると魔導師の力はかき消された。

じょうご型にくぼんでいた砂が急に元に見自らの重圧に耐えかねて崩れていく。

その中心にいたティアは懇親のプラーナを放ったためにまだ脱走できずにいた。

砂をかぶりながらも、どうにかして砂に飲まれないようにとしているのだがその足はどんどん砂にうずもれていく。

(このまま砂に呑まれるの?!)

そう思ったときだった。

「手を貸しなさい!」

見上げると手が見えた。ティアに刺し伸ばされた手はあの魔導師のものだった。

あっけに撮られているとその女性は叫んだ。

「主人の命令・・・預言書を持つものをころさせてはならない」

その手を掴んで引き上げられたティアは、汗だくになりながらその女性にありがとうと言おうとした。

けれど、目の前にあるのは女性だった砂の塊と、美しく光る氷晶石の欠片。

あたりには剣士も誰もいない。ただ、灼熱の砂漠の入り口と、砂。

呆然とその“砂の塊”を見つめていたティアは欠片に手を伸ばした。

命令とはいえ最後に助けてくれた女性。

足止めをしようとしてきた剣士たちも、すべては砂の人形だったのだ。

シリル遺跡のときと同じ。彼らはオオリの施した術だったのだ。

その欠片はきっとオオリの魔力の塊なのだろう。

きっとこの先何か役に立つかもしれないと、ティアはお守り代わりとしてそれをポケットに入れた。

そしてすっかり枯れてしまった植物のケープを作り直すと、砂漠への道を一人で進んでいった。




Re: アヴァロンコード ( No.313 )
日時: 2012/11/18 19:05
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアの歩く道は、徐々に砂漠らしいものになった。

足元が砂だって言うことは変わらないものの、景色が変わったのだ。

少し植物の残っていた風景とは打って変わって、乾いた空気と岩壁。

それがティアの周囲を取り巻いている。

「ここは今どこら辺なのかな・・・預言書があれば分かるけど・・・」

ぼそっとつぶやく独り言。

以前はコレに答えてくれる精霊たちがいたのだけれど、今はもういない。

ティアはそっとポケットに忍ばせていた氷昌石に触れる。

それで寂しさがまぎれるわけではなかったが。

ティアは進み、手を岩壁に添えて歩き出した。

そしてふと顔を上げる。

今までは、顔を上げれば精霊たちがいたのに。

こんな風に顔を上げれば、どうした?というように笑いかけてきたのに。

だが今顔をあげて見えるのは、精霊ではなく不可思議な絵。

壁に塗り込まれた不思議な絵だった。

「これは・・・農作業の絵?」

ティアの見上げた壁に描かれていたのは、畑を耕す絵。

どうやら、ここに住んでいた人が書いたようだが・・・。

「砂漠で農作業なんておかしい・・・」

首を傾げるけれど、それ以外絵は書かれていないのでティアは首をすくめて歩き出した。


しばらく進むと少し広めの岩場砂漠に出た。

砂を踏みしめて進むと、岩を積んだようなものがあった。

その上に何があるのだろうかと疑問に思ったが背伸びしても見えない。

きっと砂が乗っているだけなのだろう。

ティアはあきらめて少し疲れたので岩に座った。

その岩場そばには草が生えていた。

その草に触れようとすると、岩の隙間に何かが挟まっていた。

手に取ると、変色した紙が挟まっていた。

「これは・・・」

その紙にはこうかかれていた。

“助けを待とう”

きっと手記の切れ端なのだろう。この人は生きているだろうかと心配になり辺りを見回すと人骨はなかった。

それにほっとしてその紙もポケットに入れる。

なにかしら、人とのつながりを持ってたかった。

そしてもう一度立ち上がってふらふらと進んでいった。


相変わらずの岩と砂ばかりの景色。

辺境すぎてあまり魔物も見ない。

魔物ですら絶望する辺境のロストゾーン。

ティアは一人その場所で歩き続けていた。

日はまだ沈まず、暑さも尋常じゃない。けれど植物のおかげでしのげている。

「一週間ほどかかるかな・・・」

岩場を壁伝いに歩いていたティアはまた一人ごちた。

すると岩に触れていた指が、奇妙な溝に触れて反応する。

反射的に見上げると文字が彫ってあった。

誰かに向けてのメッセージ。

“今日も変わらない。なにもない。だれもこない。帰ってこない”

ティアはその文字を読まなければよかったと思いながらも、それを記憶した。

そしてその溝から指を離すとこの人たちが同一人物だろうかなどと考えた。

手記の人、壁の人。

どちらも絶望していたに違いない。

手記の人は仲間がいただろうか—壁の人はきっと一人だったに違いない。

「助けを待つ者は絶望している・・・・早く行かなくちゃ」





Re: アヴァロンコード ( No.314 )
日時: 2012/11/18 19:52
名前: めた (ID: UcmONG3e)

一人ぼっちのティアは砂漠での夜を迎えた。

今ティアがいるのは、砂に穴を掘った小さな堀の中。

そこに植物のツタをかぶったティアがいる。

すべてはラウカに教えられたこと。

干し肉と植物を食べながらティアはそれを思い出した。

“いいか、ティア。砂漠では夜と朝、ぜんぜん違ウ!”
“夜の砂漠は気温が低くて生きられなイ。だから暖かい砂にもぐるんダ”
“動くときは朝と夕が最適ダ。分かったナ?”

「ありがとうラウカ・・・」

ぼそっとつぶやいたティアは植物の合間から空を見上げた。

澄んだ空気に、きらめく星達。そして特大の月。

かなり幻想的なこの風景に本当は感激するはずなのだが、激しい寒さのため感激できない。

しかもさきほど小さな骨を見つけてしまったせいで、いつ自分がそんな風になるか不安でしょうがない。

とりあえず目をつぶったティア。

そして眠りに落ちた。



翌朝、ティアはそこから少し高台にいた。

相変わらず岩壁と砂がメインの風景だが、そこで少し変わった者たちを見つけた。

「あ、またこの人・・・?」

岩に挟まった手記を見つけたのだ。

昨日とは打って変わって歓喜しているようだ。ペンが踊っている。

“この先にオアシスを見つけたぞ!”

その破れたページもポケットに突っ込みしばらく歩くと白い紐を見つけた。

「?」

不思議そうにそれを拾い上げると、砂に埋もれていた全貌が見えた。

それは白い鉢巻(はちまき)であった。

「鉢巻・・・・なんでこんなところに」

何かしら使えるかもと、腰に巻きつけた。

普通は頭に巻きつけるものなのだが・・・。

Re: アヴァロンコード ( No.315 )
日時: 2012/11/19 14:44
名前: めた (ID: UcmONG3e)

白い鉢巻を見つけた後、ティアは砂漠の中でもかなりの突飛な所に来ていた。

そこは一面あり地獄のようなものが広がっており、周囲は岩壁に覆われていた。

「何だ行き止まり・・・?」

ティアはちょっと不満げに声を出し、そしてもう一度辺りを見回した。

するとふとティアの興味を引くものがあった。

一番遠くの壁に、何か描かれている。

数日前に発見した、農作業の絵のような類である。

もしやその続きかと思ったティアは、あしばやに蟻地獄のような物を飛び越えて進んでいった。

「これは・・・」

ティアの見上げる先には美しい青と目が醒めるような黄色の世界だった。

豊かな土地に、激しい雨と稲光がとどろく絵。

きっとここに住んでいた人が書いたのだろうが、今の気候とまったく関与していない。

するとふと、視線を落とした先にかさついた紙を発見した。

すばやくしゃがんで手に取れば、またも手記の切れ端であった。

“気候の変動があったようだ”

そう書かれており、この絵と今ティアのいる砂漠が同一のものだと訴えている。

だが信じられない。

一体何が起こってこうも変わったのだろうか。

ティアには見当もつかず、その場を去ることしか出来なかった。

オオリならば何か知っているかもしれない。

得体の知れない魔導師で、かなりこの世を生きてきたと聞く。

オオリを思い出して、ティアはポケットに手を這わせた。

そして探ると、氷昌石の欠片を取り出す。

「これって、どこかで似たような物見たきがするんだよなぁ」

つぶやくと、脳内でイメージされる。

ネアキを解放したときに背後にそびえていた美しき氷の氷像。

英雄賛美パーティーでのシャンデリアについていたクリスタルガラス。

トルナック氷洞にあった、芸術的な氷達。

シリル遺跡の巨大な魔方陣の中心にあった美しい水色の水晶。

ティアはとっさにそれだと分かった。

この石の欠片はオオリの魔力の塊であり、魔方陣の中心にあったものと同じ。

欠片は小さいが、共鳴を起こしてくれればシリル遺跡へと導いてくれるかもしれない。

暑い砂漠の中じいっとそれを眺め回していたティアだったが諦めて再び歩くことにした。



だがその夜。

再び凍えるティアは、なんともなしにポケットから氷昌石をとりだし驚いた。

石が微力だが輝いているではないか。

夜の闇の中ぼうっと淡く真青色に光る石は満点の空よりも美しく、天に懸かる月よりも幻想的だ。

その輝きがあまりにも美しいため、ティアはそれを砂の上に置き、眺めることにした。

するとらくだ色の砂の上で光が妙に屈折し、とある方向へと光が突き抜けている。

突き抜けた蒼いプラーナのような光は夜の中、自ら光る糸が張ってあるかのようにどこかへ続いていた。

「これは、まさか共鳴?」

ではコレが紡ぐ先は・・・シリル遺跡。

ティアは寒いのもかまわずに植物を身体に巻きつけるとその光の糸を手繰るように闇を進んでいった。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照 もうじき4600行きそうです!!

Re: アヴァロンコード ( No.316 )
日時: 2012/11/19 15:11
名前: めた (ID: UcmONG3e)

光を追っても夜の砂漠越えは過酷だった。

星の光や月の光のみが発光元なため、おぼつかない足取りで歩けば蟻地獄にはまりかねない。

しかも凍てつく寒さに凍死してしまいそうだ。

「この先に預言書が」

だがティアは植物をかぶり光の糸を追っていくのをやめなかった。

失ったものを取り戻すための旅の第一ステージ。

そこにたどりつくため、ティアは寒さにもめげずやっとのことで怪しげな洞窟—シリル遺跡にたどりついた。

暗闇の中でも異質だと分かるほどの威圧感に、ティアはやっとここに来れたのだなと確信する。

光の糸は相変わらずシリル遺跡の中を刺しているが、もう必要ない。

それに、どうやら門番までいるようだ。

前方より暗さをものともせず、しっかりした足取りが聞こえてくる。

規則正しい足音はティアの目の前で止まった。

「やってきたか、預言書を持つものよ」

案の定、砂人形と思しき人物がティアの目の前に立つ。

その手には三日月剣が握られており、いつ切りかかってくるかも知れない。

「主人の邪魔はさせない」

ティアは警戒しつつ、プラーナを練りこんだ。

そして数歩距離をとると、軽く砂を蹴った。

負けじと砂人形も体勢を低くし、ティアの攻撃に備える。

ティアの手からプラーナが放たれ、それを三日月剣でかばう砂人形。

ずっしりくる重みに、砂人形は砂を撒き散らしながら後方へ押される。

その隙にまだ弱いがプラーナが放たれて、砂人形めがけて飛んでいく。

蒼い閃光が目前に迫り、ハッとした様子の砂人形だったが再び剣ではじくと、そのままの勢いで突っ込んでくる。

今度はハッとするのはティアの番だった。

反り返った剣が突き出され、致命傷を与えないようにと足や腕ばかりを狙ってくる。

腕が使えなくなっては戦うすべが無いので、ティアは腕をかばいつつ県の攻撃を避けた。

そして切りかかってくる砂人形に足蹴りをすると、そのまま空中で砂人形を踏みながら、跳躍してシリル遺跡の入り口へと転がり込んだ。

どさっと前転したままティアが石造りの入り口に転がり込むと、その後を追って三日月剣の砂人形も転がり込んでくる。

ティアは慌てて立ち上がり、ポケットから氷昌石の欠片を取り出して口にくわえた。

あいかわらず光は神殿の奥を指しており、そこへ行けと、ティアに催促している。

それを確認するとくるりと振り返ってプラーナを放つ。

それはモロに砂人形にあたり、それは後方へ叩きつけられる。

だが気絶することの無い砂人形は体勢を整えるとすぐティアに向かってくるだろう。

なのですぐさまティアは神殿奥へ駆けて行った。







Re: アヴァロンコード ( No.317 )
日時: 2012/11/19 16:58
名前: めた (ID: UcmONG3e)

不思議なことに、神殿の奥の仕掛けはすべて解除されて、魔力がなくとも通れるようになっていた。

以前シリル遺跡に入ったときと同じ仕掛けが、今は誰の犠牲もなく動いている。

それら一つ一つを通過して、ティアは不審がる。

オオリは時間を稼ぐように部下達に言ったはずだ。

なのに何故、こんなにたやすく侵入者の通過を認めるのだろう?

答えはやはり、着けば分かる・・・。


ティアの後を追ってくる砂人形はしつこく、まじない解除されている遺跡とは裏腹にティアを足止めしようと躍起になっている。

迎撃を放ち、ティアはオオリの意図がつかめずにいた。

時間がほしいオオリは手下に足止めを命じた。

だが、遺跡のまじないはすでに解除済みで、誰でも通れる。

一体これはどういうことだ?

眉を寄せるティアの目の前に、もうじき迫る魔方陣の部屋。

息せき切ってそこに滑り込むと、そこにオオリはいなかった。

「え・・・?」

驚いて口を開けた拍子に、くわえていた氷昌石が転がり落ちてかすかな音を立てる。

さらに細かくなった欠片はやがて光を失った。

「ここにいないなら・・・ウルの封印されていた“守護者の間”に?」

そういって足を向けた途端。

背後より砂人形が三日月剣で切りかかってくる。

それをすばやく避けると、全体重をかけて切りかかってきた砂人形は衝撃音少なく着地する。

そしてぎらついた目で剣を構えなおすといつにも増して俊敏な動きでティアの先回りをした。

真っ暗な通路の前に仁王立ちになり、強い口調。

「ここから先へは、まだいかせない」

と言うことはつまり、オオリはやはり守護者の間にいるらしい。

ティアは心臓が高鳴るのを感じた。

預言書がすぐそこにある。もうじき助けられる・・・!

どうしたって奥へすすまなくてはならない。




Re: アヴァロンコード ( No.318 )
日時: 2012/11/21 23:23
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアは仁王立ちする砂人形をねめつけ、そしてプラーナを練りこんだ。

どうしたって厳重に守るつもりの砂人形は、プラーナの攻撃にもすばやく対応して微塵もその場から動かない。

(もうすぐたどりつくっていうのに・・・!)

ティアは奥歯をかみ締め、拳を握る強さを強めた。

もうすぐ助けを待つものを救えるというのに。

拳にプラーナをまとわせて、ティアはだっと石床を蹴った。

そして何が何でも通り抜けようとしたとき—

—「ヒェヒェヒェ・・・騒々しいね」

双方の動きをピタリと止める、しわがれるがよく通る声が響いた。

見れば砂人形の奥から、すうっと姿が現れた。

独特の笑い方、間違いようが無い。

預言書をさらった張本人の魔女、オオリエメド・オーフがそこにいた。

オオリが姿を現すと、三日月剣をもつ砂人形はとろけるように砂に戻り、もうティアを阻むものはいなくなった。

そんなことお構いなしに、オオリはティアに笑みを向けたままいう。

「やはり来たか。目当てはコレだね」

そういってオオリは、預言書を色とりどりの衣の間からちらりとのぞかせた。

「!!」

久しぶりに再開した預言書は、失ったときと寸分たがわぬ姿でティアを迎えた。

それに伸ばしかけた手を、オオリが視線で制す。

もちろん、素直に渡すオオリではない。

そのまま預言書は胴着の中に再びしまいこまれた。

「預言の書。新たな世界を創る、希望の書物」

オオリはついてくるようにティアに視線で訴えると、くるりときびすを返した。

二人してやってきたのは守護者の間。

禁断の槍—天空槍が封印されている守護者の間に来ると、オオリは天空槍を見上げてつぶやいた。

「預言書があれば、天空槍を操れる・・・そう思っていたんだがねぇ」

どこか残念がるような口調である。

そのまま視線をティアに移動し、何か期待するようにこちらを見る。

「使い手を選ぶとはね・・・小賢しい書物めが、アタシには使われてやら無いとさ」

少し忌々しげに胸の辺りを小突くオオリ。きっと預言書を叩いたのだろう。

「でも・・・?」

ティアは口ごもる。預言書をティア以外で使った特例がいるではないか。

するとオオリも頷く。

「あぁ、ヴァルド皇子—魔王だろう?」

訳知り顔でオオリは続けた。

「アタシの考えじゃ、預言書に選ばれし者ならば、誰でも使えるということだろうね。だが、その魂と心、肉体がすべてそろわぬと使いこなせはしない」

その後をティアが引き取った。

「あぁ、だから・・・肉体が違う魔王は預言書に拒まれたんだ」

ちょっと納得したティアにオオリは再び微笑みかけた。

そしてもう一度高くそびえ根深い天空槍を見つめいう。

「魂、心、肉体。すべてがそろわないアタシには使えない——だが!!」

急に大きな声で叫ばれてティアは飛び上がった。

そしてオオリを見上げると、その双眸はらんらんと光っている。

果てしなき欲望にまみれ、かなわぬ夢は無いというように。

「このオオリエメド・オーフは世界を手にするのを諦めないよ!!」

さっとティアに視線を落としたオオリは、とんでもないことを口走る。

「アンタ、アタシと組まないかい?」

何もいえず、ティアが目を真ん丸くしてオオリを見ていると彼女はなおも続けた。

両腕を大きく広げて、世界を抱えようとするような仕草。

そしてピンと伸びた指で何かをつぶすようにギュウッと拳を握る。

「どっちにしてもこの世界は滅んじまうんだろ?その前に、このオオリの願いをかなえさせておくれよ」

そしてティアの反応を見るように、ふくろうのように小首をかしげた。

もちろんティアの答えはノーだったが。

「たとえ滅びる世界だとしても、最後まで存在するのは安息だけであってほしい・・・憎しみや争いはいらない!」

強い口調で言うと、オオリは分かっていたさと言う様に肩をすくめた。

「ヒェヒェヒェ・・・言ってみただけさ・・・ケチだね」

そしてティアにまっすぐに向き直ると、その茶色の目を覗き込んで微笑んだ。

「いい目だね。だが、負けてやらないよ。アタシはねぇ・・・手に入らなかった物は無いんだよ」

得意げにそういうと、さっと頭上に両手を掲げた。

そして目を輝かせて声高らかに告げる。

「権力!寿命!武術!まじない!すべてを極めた!—だけどね、まだ満たされないのさ・・・世界をこの手で掴むまではね!」

オオリの言葉が終わる前に、彼女の両脇に浮いていたクリスタルがいっせいに輝き、薄暗い守護者の間を一気に不気味に怪しく変えた。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照 4700 越えました!!!

ありがとうございます!!
あと300で5000ですね!
来年までに行くかな・・・?





Re: アヴァロンコード ( No.319 )
日時: 2012/11/23 00:53
名前: めた (ID: UcmONG3e)

薄暗い神殿内に、青白い灯がともったようにクリスタルが輝きだす。

不気味な光景だが、それはまだまだ序の口だった。

こうこうと輝きだした二つのクリスタルが急に軌跡を捕らえて円を書き始めたのだ。

それは意味不明で、オオリの周りをぐるぐると回っており、だが徐々にティアの元に迫っていた。

「?!」

ティアはそれが何の意図をはらんでいるか理解できず、不安げに距離をとった。

だが無駄だと言うように微笑むオオリ。最高峰のまじない師は伊達ではない。

そのまま不安がるティアを中心に、クリスタルたちはなおも激しく回転し続けている。

と、急にオオリが両手で何かを包み込む仕草をし、その手からなにやら美しいペパーミント色の光があふれ出した。

その閃光はまぶしいのだが心地よく、ティアのプラーナとよく似ていた。

(プラーナ・・・・?なの?)

その光を危うくも惚れ惚れと眺めそうになってティアは慌てて思考を働かせた。

だがあながち間違ってはいなかった。

ティアの気は魔力ではなく、意識の中枢にある気力と精神力を糧とした波動であり、魔力は必要としない。

だが逆にオオリのような元から身体の中に魔力がともる人々は、プラーナを練るように、精神力と集中力を糧として、魔力を引き出すのだ。

なのでプラーナと魔力は形質は似ている。

だが根本となる基礎は違うため、威力や用途はまったく違う。

その魔力がオオリからあふれ出したわけだが、プラーナのようにぶつけてくることはなかった。

そのままさっと両手を振り払うような動きをすると、クリスタルの光の尾にそのペパーミント色が混じりこんだ。

(? クリスタルに魔法をかけたの・・・?なんで?)

オオリはティアにではなく、クリスタルに魔法をかけたらしい。

不審げにクリスタルを見ていたティアだったが、首を振り自分も何かしようと決心した。

そして唯一手元に残る武器、魔術と対抗するプラーナ攻撃を仕掛けた。

クリスタルの輪の中で、オオリめがけて走りその手を真っ青に光らせたティアは、気を放出させようとした。

だがオオリは動かず、にやりと嫌な笑みを浮かべている。

と、ティアとオオリの身体が接近した瞬間のことだった。

急に足元からペパーミント色の光に包まれたかと思うと、クリスタルに描かれていた円形の面積全体が不意に輝いた。

「!!」

ティアは目を見開いて、その足を止めようとしたが遅かった。

じゅわああっと熱湯でもかけられたような感覚が突如ティアを襲う。

悲鳴を上げようにも声がうまく出ず、まるで酸をかけられているかのよう。

目が白黒して身体全体がはじけるようにいたい。

離散した理性を何とかかきあつめ、ティアはやっとのことであがく。

足元めがけてプラーナを放出し、その身体を高く舞い上げた。

そして放物線を描いて、やっとのことで円柱形のペパーミント地獄より抜け出した。

すたっと着地して、肩で息をするティアは自分の肌に視線を走らせた。

だがその肌はあわ立つ様子もなく、平然としているではないか。

幻覚かと思ったが、それが神経攻撃だとすぐに分かった。

肉をきずつけるのではなく、神経を痛めつければ命乞いをして協力するとでも思っているのだろうか。

何でもいいがやはり、痛い思いはしたくないとクリスタルにこわごわと視線を向けた。



Re: アヴァロンコード ( No.320 )
日時: 2012/11/23 01:20
名前: めた (ID: UcmONG3e)

だがクリスタルばかりを眺めているわけには行かなかった。

オオリ自身もまじないで攻撃してくるからだ。

オオリの魔力色はペパーミント色らしく、飛んでくる光線や光の玉はどれもまばゆく輝く色だった。

それらを転がったり飛び越えたりすて避けていたティアは、出来るだけ動き回るようにしていた。

でなければまじない師十八番の足止めの術を食らってしまう。

そなことになれば、ずっと攻撃を食らってしまうだろう。

と、前方ばかりに注意を向けていて背後からのクリスタルの攻撃にハッと慌ててよけたティア。

クリスタル自身も、先ほどのオオリのまじないのせいでオオリと似たような攻撃を不意にしてくるのだ。

色は少しどす黒く、ペパーミントの中心が黒くにごるまじないがクリスタルのものである。

圧倒的に不利な状態で、ティアは何とかクリスタルでも壊せないかとプラーナをぶつけるも、クリスタルはけろっとしている。

ダイヤモンドのような強度を誇るのかもしれない。

(コレじゃ不利過ぎる・・・攻撃者3に対して魔術の遠距離・不意打ちが多すぎ)

ティアはやはり攻撃者をオオリ一人に絞ることにした。


Re: アヴァロンコード ( No.321 )
日時: 2012/11/23 13:17
名前: 実咲 (ID: 2rVxal1v)

初めまして!
同じ小説カキコで、レッドレイヴンという少年漫画の小説を書いてます
実咲と申します。

めたさんの小説、読ませていただきました!
会話文と気持ちを表す文章のバランスがちょうどよくて、すごく読みやすかったです

おたがいに更新 頑張りましょう♪

Re: アヴァロンコード ( No.322 )
日時: 2012/11/23 16:01
名前: めた (ID: UcmONG3e)

美咲さんコメントありがとうございます!
更新楽しみにしてますよ!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

不定期で予測不可能な二層のクリスタルの攻撃に耐えながら、ティアはオオリに向かっていった。

遠距離からの気の攻撃は出来るけれど、溜め込む期間が長く、避けられたときとデメリットを考えるとやはり近距離戦闘のほうがいいのだ。

それに、いくら旅の途中修行をしていたからといって気の持続時間も限られている。

オオリの地面から間欠泉のようにまじないを噴出させる攻撃を避けながら、その手を突き出して真っ青の気を放った。

銃弾のように細やかな気は、連射させるもオオリは黄緑色の魔力をそれに正確に当てて相殺させてしまう。

コレは長期戦になりそうである。

「妙な技を使うと思ったが、その程度か。アタシに素直に従えば、痛い目を見ることは無いよ?」

オオリが余裕綽々と告げても、ティアは断固として断った。

その態度を見てオオリは肩をすくめる。

「仕方ないねぇ。預言の書を持つものを再起不能にはしたくないが・・・少しばかり手荒にさせてもらうよ」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照が 4800 越えました!!
あと200で5000!


Re: アヴァロンコード ( No.323 )
日時: 2012/11/23 16:57
名前: めた (ID: UcmONG3e)

クリスタルの攻撃をさけて飛び掛る寸前のティアに、オオリは瞳孔の無い目で冷たく微笑んだ。

そしてティアに向かって両手を突き出すと、突如ティアの身体がペパーミント色に包まれた。

空中でとらわれたティアは、魔術による強制的な神経痛を引き起こされ悲鳴を上げた。

そんな苦悶の表情を見上げるオオリは、やはり微笑んでおり笑顔のまま問う。

「これでも組まないのかい」

「くむ・・・もんか・・・」

歯を食いしばっていうティアに、オオリは諦める気は無いようだった。

ティアに向けていた手を徐々に握りつぶすように握っていき、首を傾げてまた問うた。

相変わらずの笑顔で。

「そろそろ了承してくれてもいいじゃないかい?」

拳が握られていくほど悲鳴を上げるティアは、やはり首をふって拒否した。

どの関節も痛みに悲鳴を上げ、脳に危険信号を送っている。

だが悪に加担する気はさらさら無い。

そんなティアを失望したように眺めたオオリは、ティアに向けていた葉他方の手をぱちんと鳴らした。

するとオオリの服の中から南飛流派である飛刀が姿を現した。

きらりと輝く白金の飛刀は空中で何かに操られたように浮遊している。

苦しいながらも視線をそちらには知らせるティア。

飛刀がティアのほうを向き、オオリが冷たく微笑んでいるとすれば、これから起こることは予想できる。

否—飛刀が飛んでくるに決まっている。

「敵を追い詰めるには大事なものを人質に捕ればいいと昔から言われている」

その飛刀をながめながらオオリがそっと言う。

「アンタの人質はこの預言の書」

ぽんと胸元を叩き、預言書がここにとらわれていることを示す。

「だがねぇ、この書物はアタシの野望をかなえる大切な鍵だ。壊すわけには行かないしねぇ。アタシにとっての希望だからねぇ」

もったいぶった言い方のオオリに、ティアは眉をより寄せた。

(オオリは何が言いたいんだろう・・・)

そしてポケットに一瞬意識を飛ばし、ティアの大事なものを心に思い描いた。

(まさか・・・コレは見つかってないよね?)

ティアは一気に不安になった。

もしコレが傷つけられたら、どうすればいい?

だが、オオリはある意味期待を裏切らなかった。

もう一度指をぱちりと鳴らすと、ティアのポケットから”命と共に大事なもの”が引き出された。

「アンタはこの子が大好きだってね、ナナイーダから聞いていたよ」

それを手に恭しく持ったオオリがいう。

ティアは痛みのことを一瞬忘れて蒼白になった。

「このかわいらしいお友達が預言書に吸い込まれた、なかなか面白いじゃないか?」

そしてファナの吸い込まれたページをティアに見せ付けて、飛刀で狙わせた。

「生きたまま吸い込まれた人物のページを引き裂いたら、一体あの子はどうなってしまうんだろうね?」



Re: アヴァロンコード ( No.324 )
日時: 2012/11/23 17:39
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「そのページは・・・普通のものと同じ—」

「ウソおっしゃい。見くびられちゃ困るね」

か細い声でうそを吐いたが、オオリにそれは通用しなかった。

そして優越感に浸るように胸をそらしたオオリ。

「アンタ、アタシが並みのまじない師だと思っているのかい?ご冗談。アタシはあらゆるまじないを習得したまじない師だよ。どれもコレもアタシのものさ」

そして意味ありげにちょっと怪しく微笑んだオオリ。

それを不安げに見つめるティアはいやな予感がした。

「物見のまじない師、ってのを知っているかい?アタシはそれを産まれながらにして持っているのさ」


物見のまじない師。

それは砂漠に連れ去られ、逃亡してきたときレンポに教えてもらった言葉。

物見のまじない師はモノに触れてそれに込められた記憶を見る類まれな人のことである。

ならば預言書に触れたときにページに込められた記憶を、容易に読み取ってしまったに違いない。

ティアは渋い顔をした。どうしたらいい。

一番の大親友を・・・ファナを人質に捕られてしまった。

「モノに込められた記憶の欠片を見ることが出来る。だからウソをついたところで意味が無いのさ」

そしてページをぺらぺらとふってティアの目の前につきだした。

「さぁ、どうする?答えを聞こうじゃないか」

そして浮遊していた飛刀を愛しそうに撫でながら不適に笑う。

ティアの絶望した顔を楽しむように。

「まぁ、こんなたかが一ページ、敗れ去ったとしてもアタシは痛くもかゆくも無いけどねぇ」



Re: アヴァロンコード ( No.325 )
日時: 2012/11/23 19:49
名前: めた (ID: UcmONG3e)

オオリはティアの言葉をはっきりと聴くために、神経痛の束縛を弱めた。

ティアの痛みにゆがんでいた表情が、だがやはり心を痛めてさらに悲痛な面持ちになる。

ペパーミント色に包まれたティアは何度も何度もファナのページを見つめ、そしてオオリの背後にある禁断の槍—天空槍を見やった。

ファナを助けるためには、世界を壊す威力のある天空槍を解き放つしかない。

逆にもうじき滅びる世界を思って、ファナを見捨てるか・・・。

もうじき滅びる世界。唯一無二の心優しき親友。

心の天秤は揺らぐことなく両者同等の重みだった。

だが、それではオオリは納得しない。

二者択一の選択。今後の運命を大きく変えてしまう選択であった。

「ほらどうしたんだい。どちらのはかりが重いんだい?」

目を泳がせて黙るティアに、オオリはせかすようにいった。

究極の選択だ、無理もないが・・・こちらにも都合というものがある。

魔王復活を選択し、世界を手に入れるワーマンが、いつここをかぎつけてくるやも知れぬ。

禁断の槍を選択し、世界を手に入れることを願うオオリにとって時間が惜しかった。

(とにかく、まだアタシに勝ち目はある。預言書も槍も選ばれし者だってここにいる。アタシの勝ちだよ、ワーマン!世界はアタシのものだ!!)

強く心の中で叫んだオオリは悲しげな表情のティアをせかす効果的な方法を開始した。

ティアの目の前でティアの親友の描かれたページに飛刀をつきたてようとする。

「!? なにを・・・やめて!」

ティアがすかさず叫んでオオリの行動を制止しようとする。

だがオオリは狙い通りとほくそ笑み、その飛刀をページの上層部に持っていく。

そして少しずつページを真っ二つに切り裂くように刃先を紙に接触させた。

「どうだい?決心したかい?」

少しずつ力を込めながらオオリが聞くとティアは涙を溜めた目で歯を食いしばっている。

(強情な娘だね。さっさと世界をアタシに譲ったらどうだい!)

ティアがうんと頷かないのでオオリはいらいらしながらまた少し力を込めた。

ピっと小さな音がしてページの上層部が少し裂けた。

よく尖れた飛刀のため、まことにきれいな切り口である。

「お願い・・・やめて!!」

ティアがまた¥も叫ぶけれどオオリは手を止めることをしなかった。

少しずつ少しずつ切り込みを広げていく。

ティアが泣き叫んでもお構いなしである。

「一センチは切れたかね。で、どうするんだい?」

一センチほどの切込みを入れ、怯えているティアに向き直る。

「アタシだってヒマじゃないのさ。聞くのはコレが最後だと思うんだね」

いらいらした調子でそういうとティアは完全に戸惑っている様だった。

世界を捨てるか友を捨てるか。

オオリは迷うティアに肩をすくめていってやった。

預言書から見えた断片的な記憶を。

「まったくバカな子だねぇ。もうじき両者とも滅びるんだよ。世界もこの娘も」

そして目を見開いて呆然とするティアに、ファナの祖母の優しい隠し事を暴露した。








Re: アヴァロンコード ( No.326 )
日時: 2012/11/23 20:16
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「どちらも・・・もうじき滅びる・・・?」

ティアは混乱の渦にいた。

そのさなかから、思考に救いを求める。

世界は滅びるのは知っている。それは預言書と炎の精霊との出会いからすでに知らされていた。

そして世界の崩壊が早すぎることも、精霊たちが何度も口をそろえていうことから知っている。

その黒幕がオオリエメド・オーフとワーマンであることも知っており、精霊たちの大事な人クレルヴォが魔王であるとも知っている。

だが、ファナがもうじき滅びると言うのは初耳であり理解できない。

ティアは目を泳がせて記憶をたどる。

英雄としてあがめられていたときに、世界一の医者をファナにあてがった。

そのときに、もうじきよくなるとファナの祖母、ヘレンから伝えられたのだ。

なのに、何故・・・。

(よしよし、混乱したようだね。そのまま理性を狂わせてやればうまくいくさ)

混乱するティアに、オオリは余裕の笑みを浮かべていった。

「知らなかったろう?それもそのはず、アタシも預言書から視た記憶だからね」

そして不安げに目を見開くティアに、見たままの記憶を告げた。

「医者が手遅れだと言っていたが、祖母のような人はアンタと孫をかばって治ると言ったんだよ。もう永くないから、最期くらいは安息に満ちた生涯を与えてやりたかったんだろう」

「う、そ・・・」

「ウソじゃないさ。知っているだろうアタシは物見のまじない師。預言書から手に取るように記憶が見えるんだよ。おかしいと思わなかったのかい?治るとはいえ、急に病弱な孫をアンタと共に祭りに行かせるなんて」

ティアの同様ぶりに得意げにオオリは拍車をかける。

ヘレンの孫を思ったうそ。それをいとも簡単に吐露して見せた。

「もうじき治るなら、治るまで余計に看病するはずだろう?なのになぜ、祭りや大会に行かせてあげるんだい?」

絶望の表情のティアに、オオリは笑顔のまま真実を。

「それはね、もうじきあの娘が病で死ぬからさ。もう治らないのならば、世界を見せてあげたいと思うだろう?」

糸が切れたようにティアが急に涙を流し始めた。

ぼろぼろ転がり落ちて地面に水溜りを作るほどの涙だ。

その泣き様を見下ろしてオオリは満足げに頷いていた。

(完全に動揺してるね。まぁ、ウソなんか言ってないけれどね・・・。もうじき死ぬ友人と滅びる世界、どちらをとるかはもう決まっているだろう?)

だが念のためとオオリは泣くティアにささやいた。

小さな声だったが暗く静まり返った中にはよく響いた。

「残念だけど治る病じゃないね。ろくに世界を見れなくてかわいそうな娘だよ」

そして一間置いてわざとらしく聞く。

「それであんたはどちらを選ぶんだい?どちらを選んでも永くは無いよ。それでも、アンタにとって価値のあるものはどちらだい?」





Re: アヴァロンコード ( No.327 )
日時: 2012/11/23 21:19
名前: めた (ID: UcmONG3e)

世界と親友。

どちらを選ぶか。どちらを見捨てるか。

両者とも大切なもの。そしてどちらも滅びる運命。

すべての命運が、今自分の小さな手に握られている。

“アンタはどちらを選ぶんだい?どちらを選んでも永くは無いよ。それでも、アンタにとって価値あるものはどちらだい?”

その二者択一の究極の選択を迫る魔女は、未来を見透かしたように聞いてくる。

だがこのまま黙っていることも出来ず、目の前にチラつかせるページがそれを教えてくれる。

上部が一センチほど裂かれ、このまま黙り続けるか世界を選べば引き裂かれてしまう親友。

手を伸ばせば届く距離だが、神経をおかしくされたティアの手は震えることしか出来ない。

ムリに動かすともう一生動かせなくなるだろう。

それでは魔女と戦えなくなってしまう。

「・・・黙ってないで返事をお言い。どちらにするか、早く決めておしまい」

オオリの声は落ち着いていて、真剣に聞いている様だった。

落胆したティアの表情を見て、あせらせるのはよくないと思ったのだろう。

力ない目をオオリに向けて、それでもティアは決めかねていた。

ここまで育ててくれた美しき世界。暗い部分もあるが、それでも世界をうらむことは出来ない。

乱雑な街の人と違い始めて出来た大親友。心優しくてどんなときでも裏切らず、励まして慰めてくれた親友。

どちらも失えない。

(だから・・・)

ティアの選択はただ一つだった。

「うん?なんていったんだい?」

ティアは心を決めて、オオリにいった。

「ファナ・・・・」

そっとかすれた声で言ったティアにオオリは笑みを浮かべた。

「親友をとったんだね。賢明な選択—」

「世界・・・・」

まだティアのつぶやきは続いていた。

オオリは眉をひそめてティアを凝視した。

「どちらも、失えない・・・」

どちらも救う。

それしかティアの中になかった。

「つまり、アタシを倒してどちらも救うってことかい?」

忌々しげにオオリは目を見開いていった。

そして分からせてやるとばかりに飛刀を構えた。

「アタシを優しいお人よしだと思っているなら考えを改めることだね!」

そしてティアの目の前でそのページめがけて飛刀を振り下ろした。





Re: アヴァロンコード ( No.328 )
日時: 2012/11/23 22:29
名前: めた (ID: UcmONG3e)

短い悲鳴と、それに続く裂ける音。

その後、しばらくの間薄暗い守護者の間には音は聞こえなかった。

だが、新たに加わった音は、定期的に滴る水音。


その数秒前のこと。

オオリが痺れを切らし、飛刀をファナのページめがけて振り下ろしたのだ。

そして引き裂いた。

—ティアの手を。

ファナのページを守るため、ティアは痛みをこらえてページをかばいよく尖れた飛刀に突き刺された。

ほぼ貫通状態の飛刀を手に刺したまま、お互いしばらくの間驚きと痛みに耐えていた。

ただ鳴り響くは手より滴る血液。

「アンタ・・・なんてこと・・・」

やっと口火を切ったのはオオリ。

微弱とはいえ神経痛を起こさせていたのだが、無理やり動かすとなるともう腕は使い物にならない。

ティアの右腕はもう動かないだろう。

人のために痛みを我慢するなどオオリには理解できず、唖然としていたときだった。

ティアの無事な片手が急に動いたかと思うと真っ青の閃光が放たれた。

「!!」

唖然としていたオオリは何の防御も出来ず後方へ吹き飛ばされ、無様に地面に転がった。

擦り傷が痛いが、起き上がろうとした瞬間の喉元に違和感を案じた。

いつの間にか駆け寄ったティアが、のどもとに飛刀を突きつけている。

矢張り右手はだらりとぶら下がっており、その手に突き刺さっていた飛刀を無理やり引っこ抜いたため血が滴っている。

「まいったねえ・・・」

オオリはやれやれと首を振った。

こんな風にぼろぼろになった小娘を見ると、どうしたって抑えられない感情が産まれてくる。

とても前の過去の話。

神官の家系として生まれたオオリとエエリはまじないを学んでいた。

そしてエエリがキャラバンの統率者になり、オオリはさらにまじないに磨きをかけるため、そして捨て子の回収をしていた。

その当時より、魔力を持つ子供は不吉と捨て子が目立っていた。

そして殆どは魔女になりえる素質の少女達。

それらのかわいそうな少女たちは傷だらけだったが強い目をしていた。

その一人ひとりを大切に看病し、そしてエエリの元で育てた。

そうした結果、エエリのキャラバンは魔女が多く、オオリもエエリも慕われていた。

こうして傷ついた少女は、救われていったがどうしても助けられなかった子もいた。

助けられないほどの怪我をした少女。妹を守るために怪我をした魔力を持たない少女はオオリに妹を託して死んでしまったのだ。

親友と世界を守るため、自らを犠牲にしたティアとだぶった。

ほんの少し、優しさを知らぬうちに取り戻したオオリは、優しく笑った。

(アタシも焼きが回ったか・・・)

「まいったねぇ・・・アタシの負けさ。行くがいいよ」

そして預言書を取り出して放り出した。

ティアは飛刀を床においてそっと後ろを向き、預言書を拾い上げようとした。

「油断したね!」

だが、オオリはとり戻しかけた心をねじ伏せその背中にティアのおいていった飛刀と、自ら持っていた二つの飛刀を投げつけた。

Re: アヴァロンコード ( No.329 )
日時: 2012/11/24 00:05
名前: めた (ID: UcmONG3e)

はっとしたティアは本能に従って身体をそらせた。

そらせた身体は面積比が低く、それを掠めるように飛刀は通過していった。

だがもしかしたら、オオリ自身も少し心が乱れて狙いが定まらなかったのかもしれない。

その飛刀はきれいな軌跡を描き、そしてその一つがシリル遺跡の壁にぶつかった。

「!!」

そのまま飛刀は跳ね返り、ティアを掠めながら勢いを落とさずオオリの胸に突き刺さった。

「ぐ・・・あ・・・」

唐突なことに、防御できなかったオオリは痛みにあぶら汗をかいて地面に倒れた。

「そんな!!」

ティアは叫び、預言書をそのまま置いてオオリに駆け寄った。

だが、近寄れば分かる。柄の部分まで深々と突き刺さった飛刀。

もう・・・手遅れ。

だがオオリは死に際にティアを見上げてささやいた。

死にたくないとか、世界はあたしのものだなど言わず、ただそっと。

「無念だねぇ・・・」

震えながら息を吸い込んで、遠い目をしながらちょっと残念そうに。

「——すべてを手に入れたはずなのに・・・」

そしてティアに焦点を合わせると、首をかしげて泣きそうになりながら聞いた。

きっとオオリは満たされない心で“それ”を探していたのだろう。

その純粋な問いにティアは余計に悲しくなった。

「 教えておくれ・・・本当に価値あるものってなんだい・・・? 」

ティアの探すもの。オオリが捜し求めたもの。

 真に価値あるもの。

だが答えを知らぬまま、オオリはそっと目を閉じて二度とまぶたを開けることはなかった。



オオリのなきがらと共に、そこで呆然と座っていたティアは預言書に目を向けた。

それは取り戻したかったもの。

けれど、それを手に取り戻せば真に価値あるものを探すことになる。

ティアには分からなかった。

分からなくなってしまった。

真に価値あるものが一体なんなのか。オオリが生涯かけて探した、幻のもの。

何もかも手に入れたオオリが得られなかったそれは、一体なんなのだろう。

だが、ティアはゆっくり立ち上がって預言書を抱き上げた。

そして、オオリの遺体をそこに、それに背を向けて歩き出した。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ちょっとシリアスなVSオオリ
戦闘シーンはあんまりなく、心理戦だったなぁ
そして六章が終わります!


Re: アヴァロンコード ( No.330 )
日時: 2012/11/24 01:11
名前: めた (ID: UcmONG3e)

 
 第七章 雷の精霊

—雷が天空にそびえる塔を打つ時
 御使いは再び見出される




守護者の間を出てくると、そこにはアンワールがいた。

身の程もある剣を構えていたが、ティアの姿を見るなり剣を下ろし、道を譲るように一歩引いた。

その奥には、エエリがおり、ティアの姿を見てうなづいた。

「ついに預言書を取り戻したようじゃな」

そして悲しそうにちょっと目を細めた。

「やはり、預言書は絶対だったのじゃ・・・滅びることも、すべて・・・」

そして悲しげに微笑みながらいった。

「姉にはそれが理解できなかった。悲しいことじゃ」

あ・・・とティアはオオリの死を告げなくてはと思った。

でもどこか悲しそうなエエリは、すでに姉の死を知っているのかもしれない。

するとその表情を見取ったのか、エエリがいう。

「ワシにかわって姉を止めてくれたこと、感謝するぞ。きっと姉は・・・最後に悟ったはずじゃ。世界を手に入れることが出来ても満たされないと・・・」

そして、ふっと悲しみを振り切った表情をするときりっと厳格な表情になった。

脇に控えているアンワールはエエリの目配せに頷いてそっと守護者の間に消えていった。

「よいか、ティア。今、おぬしの預言書は力を失っておる」

預言を守ってきた神官の言葉だ、とても詳しそうである。

ティアはなんとなく威厳の無い預言書を抱きしめて聞き耳を立てる。

一言も逃せない。

「失われた御使い・・・」

「精霊たち・・・?」

エエリがそういうと、ティアは反射的につぶやいていた。

それに頷いたエエリは先を続ける。

「精霊たちを取り戻し、預言書の力を取り戻すのじゃ」

ティアは心臓が飛び跳ねるような感覚を味わった。

(もう一度・・・精霊たちに会えるのかもしれない!!)

一気に心拍数が上がり、わくわくする。

「精霊たちは四つの竜の波動に囚われておる。その一つは今、おぬしの国の城、天空に続く塔におる」

「!!」

フランネル城にはその中枢から伸びる美しい白亜の塔があるのだ。

その塔は雲よりも高く、千年前からあるらしい。

とにかく、歴史ある優美な遺産であり、カレイラでも有名である。

そんなすぐそばに精霊の一人がいたとは!

驚くティアにエエリは問う。

「あの塔がなんなのかわかるか?」

ティアはわからず首を振った。

神へ祈る塔だと聞いた事はあるが、その他のいわれもあってどれが本当か分からない。

だがエエリはそれを知っている様だった。

「あの塔はこの遺跡と同じ、過去の悪しき遺産なのじゃ」

エエリは遺跡内を見つめながらいった。

「はるか昔、我々人間が魔王と呼んだ者に対して放った天空槍なのだ」

魔王に対して放った天空槍・・・。

クレルヴォに放たれた天空槍・・・?

「天空槍は塔の中心に覆い隠されはるか地下まで届いておる。その悪しき穂先は今もかの者の身体を貫き、そこに縛り付けているじゃろう」

クレルヴォが貫かれ、カレイラに千円間もいる・・・。

しかもヴァルド皇子の中にいるクレルヴォは自分の身体を求めている・・・。

となればワーマンたちはカレイラに向かっていくだろう・・・。

すべてが分かったティアは戦慄が走りカレイラの危機を知る。

「しかし、永き時の中でかの者の精神は肉体を抜け出し、さまよい出た。我々人間達に復讐するためにな」

ティアは預言書を抱いたままここに精霊たちがいなくてよかったとそっと思う。

エエリの口調だと、クレルヴォは倒すべき存在のように聞こえる。

きっと彼らは悲しがるだろうし、悔しく思うだろう・・・。

「そしてあのワーマンの小細工により新たな身体を得たのじゃ。それがヴァルド皇子じゃ」

エエリはティアに知っていることすべてを教えようとしゃべり続けた。

「世界を統一し、世界を堕落させ、世界の崩壊を早める・・・預言書を再び出現させ、次の世界を我が物にしようと企んでいるに違いあるまいて」

たったと背後より足音が聞こえてきてエエリが目をつぶる。

きっとアンワールが帰ってきたのだろう。

ティアの横に立つアンワールは血で少し染まりながらもオオリを抱えている。

そしてちらりとティアの腕を見た。

ティアの腕も力なくぶらぶらしており、手には小さな穴が開いている。

そこからはずっと出血していた。

「この世界の長い歴史は戦いの歴史でもあった」

エエリがアンワールの視線で頷きつつ指をぱちりと鳴らす。

するとその手から淡い緑の光があふれてきてティアの手を包んだ。

ビックリしているティアにかまわずエエリは話を続けていく。

「しかし間もなくその歴史も終わる。ティア、おまえさんがこの歴史に終止符を打つのじゃよ」

右手を包んでいた光が消えるとすっかり腕が完治していた。

だがそれは神経痛の被害だけであり、手には痛々しい傷が残っている。

それに驚き目をぱちくりしているとエエリは微笑みいう。

「まじないによって痛手を負ったところはまじないで治せる。だが、その手は無理さね。包帯で我慢しておくれ」

そしてアンワールにティアの治療を任せ、エエリはオオリのなきがらを見つめていた。

「価値あるものはどんなに力を持っていても見つからないものさ。けれど何も持っていなくても見つけられる・・・気づかなかったのかい、姉さん」

その亡骸を撫でてエエリは寂しそうにつぶやいた。

アンワールに包帯を巻いてもらい止血もしてもらったティアは二人に見送られていた。

「世界の破滅は近い。行くがいい・・・」

別れ際やっとしゃべったアンワールは今回はティアを引き止めることをせず見送ってくれた。

そして二人に背を向けてティアは精霊を取り戻す長い旅に出た。

目的地は、ティアの愛する故郷、カレイラ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

久しぶりの2000文字



Re: アヴァロンコード ( No.331 )
日時: 2012/11/25 22:54
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアの故郷へ続く砂漠は、歴史のあとが残る悲しげな砂漠。

乱立する石碑には太古の刻みがついている。

そしてこの砂漠は流砂の地形がいっそう複雑であり、多くのものが命を落としたことで知られている。

吹き荒れる砂嵐を目を腕でかばいながらティアは進んでいた。

ゆっくりゆっくり着実に。

ティアは丁度いい岩を見つけると、その岩陰に滑り込んだ。

そして突発的な砂嵐が止むまで、その岩に背中を預けた。

「ふー・・・早くカレイラに行かなくちゃなのに・・・」

ぼやきつつ柔らかな砂に座り込むと、妙な違和感が手に触れる。

ン?と思って砂を払ってみると、らくだ色の砂からうずもれた骨がのぞいていた。

しかも人骨だろうか。すっかりきれいに白骨化している。

「・・・成仏してください成仏してください・・・」

小声で蒼白になりながらもつぶやいたティア。

その骨に手を合わせてもう一度砂に埋めていく。

“いいかい。おぬしがこれから行く砂漠は太古の砂漠。いろんなものが眠っている。歴史、財宝、そして人”
“乱立する石碑は主に砂漠に伝わる伝記じゃが、きっと預言書と関連しているじゃろう。見ておくのもよかろう”

エエリのいったとおり、ここにあるのは人骨と歴史。

ティアはその背後の岩を振り返った。

この岩も、砂嵐により削れて滑らかであり、石碑の様にも見えた。

そんな丸っこい大きな岩が沢山砂漠に立っているのだ。

その岩に触れて、一体砂漠と預言書がどんな風に関係しているのだろうと首をかしげた。

預言書を持ち上げると、その隙間から大事なページが飛び出てきた。

「ファナ・・・預言書は手に戻ったけど・・・どうやったらファナを助けられるのか分からないよ・・・」

そこで精霊たちに願うように、預言書に向かって願ってみた。

目をつぶって思いっきり集中して口を開いた。

「ファナを出して」

沈黙は続き、思いは願い、願いは祈りになったが・・・預言書からの返答はなかった。

「だめ・・・か。でも、きっと精霊たちが戻れば・・・ファナも戻ってくるよね」







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照が 4900 越えました!!
あと100ですね!5000まで!
ありがとうございます!

Re: アヴァロンコード ( No.332 )
日時: 2012/11/25 23:54
名前: めた (ID: UcmONG3e)

砂嵐が止んで、再び歩き始めたティアはひっそりとたたずむ石碑たちをを一つ一つ見ながら進んでいた。

どれもこれも、神官と選ばれしもののみが読める文字で書かれており、一般の人々がこれを見たところで理解できない刻み方だった。

そういえば、とティアは記憶をたどる。

この岩岩に刻まれている文字は、ナナイーダの家で見せてもらった預言の書かれた石版の文字と同じだった。

「ということは・・・サミアドの神官の家系の人がこれを代々刻んできたんだ」

ちょっと歴史の浪漫に触れて感動を覚えたティアは乱立する石碑を見回した。

ティアビジョンでは、その石碑に杭で文字を刻んでいるところが見えるような気がした。

すると、ふと視線がある一点にとまる。

まばらに立つ石碑とは違い、その部分だけきれいに円形になっているのだ。

そしてなぜだかそこが歴史の中心のように思えた。

自然と出向いた足でそこに行くと、なんだかとても懐かしい感覚が心にあふれてくる。

円形に並んだ石碑は、四つの石碑が二重に円形になっており、その円の中心はひときわ大きな石碑があった。

懐かしい原因を確かめるために、それらを見て回るとやっと分かった。

はっとして思わずつぶやく。

「精霊たち・・・・」

四方にある石碑に、一人ひとりその姿を形どった絵が書かれている。

どの精霊も、懐かしい姿そのままで、ティアを見ていた。

いや、正確に言うとティアではなかった。

彼らの視線の先をたどると、ティアの背後、ひときわ大きい石碑に注がれていた。

ふりかえれば、巨大な巨人が本を片手に天を見上げている。

きっとこれは・・・

「クレルヴォ・・・」

この世界の神話なのだろう。

きっと天地創造の瞬間。だからクレルヴォが中心でその周りを見守るように精霊たち。そして作られていった者達がそのあたりを取り囲んでいるのだ。

ティアはクレルヴォの石碑に触れてみた。

もしかしたら、同じ預言書を持つものとして何か感じることがあるかと思ったのだ。

けれど何も感じることはなく、そっと手を下ろした。

まぁ、ただの石だししょうがないのかもしれない。

ティアは振り返って今度は精霊たちの石に歩み寄った。

期待はしないが、一つ一つに触れてみる。

一番近くにいた、ネアキの石碑。恐る恐る触れると、砂漠にあるはずなのにとてもひんやりとしていて冷たかった。

「おお・・・これはもしかして・・・」

感動を覚えたティアはその隣のレンポの石碑にも触れてみた。

すると対照的にほんのりと暖かい。

じりじりする太陽の暑さとは違う暖かさであった。

「精霊たちとは、何かつながってるのかな・・・」

ミエリの石碑に触れると、すっと心が急にやわらぐような気持ちになった。

森の中にいるような穏やかな気分。こんな気分は久々であり、やっと肩の力が抜けた気がする。

そのまま最後の、ウルの石碑に触れるとピリピリとした静電気のような磁力に引かれた。

ティアの短い髪が少し逆立ち、触れた手のひらから微力な電気が空中に放電されている。

手を離せば消えてしまう出来事だったが、ティアは少し元気になった。

真に価値あるものがなんなのか見失ってしまったが、精霊たちがいればきっと見つかるだろうと、そして精霊たちを取り戻すことが出来るだろうと思えてきた。

そしてさぁ行くぞ!と意気込んで振り返った瞬間、別のものがティアの意識を奪った。

「あれは・・・あれが・・・四つの悪しき竜?」


Re: アヴァロンコード ( No.333 )
日時: 2012/11/26 23:48
名前: めた (ID: UcmONG3e)


 参照が 5000 越えました!!
 約3ヶ月で5000も参照してくれてありがとう!
 
 1234が前編 56が中編 7〜が後編です
 まだ終わりへの道は長いです


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ティアの意識を捕らえたのは、精霊たちの少し奥に位置した石碑。

それぞれ東西南北のさらに細かい十六方位に位置していて、クレルヴォの位置からだと精霊と精霊との間に竜たちが残らず見えた。

「赤い竜に・・・緑も・・・」

それらはとても変わっており、不思議なことによく見ようとすればするほど姿が薄くなっていく。

よく近づいてみると、どうやらはっきりとした姿は描かれていないらしく、もやもやした煙のような描かれ方である。

「よく見えないや・・・まぁいっか」

ティアは持ち前の能天気ぶりで開き直り、最後に石碑を一目見てから歩き出した。

「まっててね!すぐいくから!」

走り出したティア。その脳裏にはエエリの言葉が巡っている。

クレルヴォが肉体を取り戻しにカレイラにくるのも時間の問題だ、と。

そなこと分かっているとかすかにあせるティア。

けれどもどんなに急ごうにも、この随一の複雑砂漠はティアをそんなに簡単に解放する気は無いようだった。




Re: アヴァロンコード ( No.334 )
日時: 2012/11/27 00:46
名前: めた (ID: UcmONG3e)

あせるティアを足止めしたのは巨大な竜骨だった。

目のまえに人骨が散らばり、その中心に巣食うようにでかい骨があれば誰だって脚を止めるだろう。

案の定ティアも、目を真ん丸くしてその光景を見つめていた。

「なにこれ・・・」

沢山散らばる墓場のような惨劇と、その中心の大きな骨。

ティアは恐ろしさに震える前に、やはりその中心の骨に興味を引かれた。

一歩ずつすすんで、人骨を避けて歩く。

沢山の骨の間を歩くなど普通はゾッとするのだが、ティアは気にしなかった。

砂漠に眠る人骨を見て歩いてきたため、もう慣れてしまった。

そしてその骨の中心にたどりつくと、ティアは思わず感嘆の声を上げてしまった。

「うわぁ・・・でかい・・・」

その大きさ、おそらく頭蓋骨だろうか、ティアよりも大きくてずらりと並ぶ牙は今でも切れ味抜群そうだ。

目のくぼみも、ティアの頭がすっぽり入ってしまうほど大きい。

「これは・・・一体何の骨?魔物?」

やっと興奮が醒めてきて、逆に心配になった。

こんな骨の持ち主、ここで遭遇したらまずい。どうやら主食は人間らしいし・・・。

その鼻面部分に尖った突起がついているため、おそらく肉食の魔物。

それもかなりの大きなサイズである。

「でも・・・こんなに沢山の人を食べてどうして死んでしまったんだろう?それに、こんなに沢山の人・・・いったいどうして?」

あたり一面骸骨の山。

ほかに魔物の骨が無いところを見ると、この魔物、一匹でこれらの人を平らげた様である。

ものすごい食欲であると共に、その食欲でよくこれまで生きてこれたなと思ってしまう。

毎回毎回さらってきたのかもしれないが、砂漠に住む魔物は決まった巣を持たないはず。

ティアは首をかしげた。

そして、辺りを見回した。

あたりに広がるのは人骨と、そして中心にある頭蓋骨のみの魔物の骨。

もしかして・・・。

「サミアドの人たちが、人や魔物除けでおいた偽者の骨・・・?」

これだけ沢山の骨があるくせに、衣類らしきものや持ち物も無い。

盗賊によってなのかは不明だが、巨大魔物の頭蓋骨のみが置かれているのもおかしい。

だが、これがすべて本当のものだとしたらこの魔物が旅行部族を襲い、すべてくらい尽くした、と考えられる。

そして魔導師、または毒物によって息絶えたのだろうか。

もしかしたら、それよりさらに大きな魔物がやってきてこの魔物の腹部を食べてしまったのかもしれない。

ティアはゾッとしてきて先を急ぐことにした。

こんな馬鹿でかい魔物を食らうさらにでかい魔物となんか、きっと戦えそうも無い。



Re: アヴァロンコード ( No.335 )
日時: 2012/11/28 00:28
名前: めた (ID: UcmONG3e)

そろそろ砂漠に夕焼けの時刻が迫り、揺らめく蜃気楼ごしに真っ赤な太陽が最後の輝きを放っている。

そのもっとも美しい時刻に、ティアは西の砂漠の中間地点に来ていた。

そこは長い砂漠地獄から来たものには天国のように思える場所。

淡い水色の豊かな水源が広がる、オアシス。

よろよろと水源に近づいたティアは、そっとひざまずいて水を救い上げた。

そして顔を洗っていると、妙な足音が近づいてくる。

「?(こんなところで足音・・・?)」

水でぬれた顔をあげて振り返ったティアは目を見開いた。

顔を上げたティアめがけて、刃物のように研ぎ澄まされた鉤爪を振り下ろすワニのような魔物がいたからだ。

全身がきらめくように光る、見たことも無い美しいワニの二足歩行魔物。

ティアは慌ててのけぞり、そのまま水の中に落ちた。

預言書を抱えたまま、水に沈みこむと息を吸うために勢いよく水面に顔を出した。

ぷはーっと息を吸い込むと、その頭めがけて魔物が再び爪を振る。

それをもう一度もぐることで回避したティアは、そのまま水中より陸の状況をのぞく。

ぼやぼやした影が水面を覗き込むようにあたりをうろつくのが見え、どうしてもティアを食べるのを諦めないようだ。

(そっか、砂漠ではオアシスを餌にああいう魔物が罠を仕掛けてるんだ・・・)

ティアはゆっくりと水の中で体勢をかえ、そのままそうっと水中を息継ぎなしで泳いでいく。

ありがたいことに、あのワニのような魔物は泳げないらしく、ティアを追う事は無い。

そして気づかれないように反対岸につくと、足早に立ち去った。

本当はここで一夜を明かしたり、小休憩をしたかったのだがこれでは無理なようだ。

(まぁ、それだけ早く精霊の元にいけるからいいけど)

オレンジの光の中をティアは魔物に感づかれない様にはしって進んだ。

徐々に落ち着いた暗色が空に見えてくると、あたりの気温も変化していく。

ティアは参ったな、と困ってしまった。

先ほど水に落下したため、服がまだ湿っていた。いくら砂漠とはいえ完全に乾く前に太陽は沈んでいく。

ちょっと風が吹くと肌寒くてしょうがない。

自分自身を抱きしめながら歩いていると、対に太陽が沈んでしまった。

「どうしよう・・・困ったなぁ。砂漠の夜をこんな格好で迎えられない・・・」

ティアは本格的な寒さが舞い戻ってくる前に、砂漠を抜けようと必死に走った。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照が 5100 越えましたよ!
ありがとうございます!
ティアの砂漠抜けはもう終わります・・

Re: アヴァロンコード ( No.336 )
日時: 2012/11/29 00:08
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアは寒さに耐えながらやっと緑の大地を踏みしめた。

もう夜明け間じかであり、早起きな人はすでに起きているころだろう。

だがまだ空が夜明け色に染まっているだけで、肝心の太陽はまだ沈んでいる。

その代わりに銀色の月が真上で光っている。

そんな景色の中、ティアは肉離れしそうな足を引きずってグラナ平原をカレイラへと走る。

砂漠の砂と違う、柔らかな草原の感触を踏みしめティアはやっとカレイラのすぐそばに来た。

懐かしい感覚と、胸を痛める感覚が両方襲ってくる。

懐かしくて思い出の詰まったカレイラ。追い出されるように逃げたつらい記憶もある。

ティアは複雑な気持ちで歩美をのろくした。

きっと、カレイラの人々はティアが帰ってきたことを不満に思うだろう。

ティアはピタリと歩みを止めた。

ファナ・・・。ファナを失ったかムイやヘレンは元英雄のことをどう思っているのだろう。

お師匠様は本当に道場をたたんでしまったのだろうか・・・。

せっかく仲良くなったものも、ティアのことを不快に思うだろう。

帰りたい、が、帰りたくない。

「どうしよう・・・また白い目で見られたら・・・」

おどおどするティアはすっかり勇気をなくしてしまった。

だが進まなければ精霊を救えない。

ため息をついて進もうとしたとき、前方より非常に懐かしい声が呼びかける。

なんら変わらない声音で、まだ親しみを込めてその名を呼んでくる人がいたとは・・・。

「ティア!」

薄暗い中、駆け寄ってくるその人は、少しうれしそうな声で続けた。

「どうしてたんだい?心配してたんだよ!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照 5200 超えました!
ありがとうございます!

Re: アヴァロンコード ( No.337 )
日時: 2012/11/29 00:50
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアの名を呼んだ青年。

振り返らなくとも分かる声に、ティアは叫びだしたくなるうれしさと不安を抱えたままつぶやいた。

「デュラン・・・?」

おそるおそる声をかけると、デュランが駆けて来た。

その背後に視線を走らせても、兵士らの姿は無い。

ティアを再び連行するつもりではないらしい。

「まだ街の人たちはあの事件を君のせいだと思ってるよ・・・」

無言のティアの反応を見て、デュランは思い出したようにそういった。

それに散々聞いた陰口を思い出したのか、ちょっと表情が気まずそうだ。

「だから、街に行くのなら気をつけなよ」

ティアの目指す方向をさとったデュランはティアに忠告した。

ティアは曇った笑顔でありがとうとつぶやいた。

「・・・それにね、あれからいろいろ異変騒ぎが増えてるんだ」

「?」とティアが首をかしげると気を取り直したデュランが説明し始める。

人差し指を立てて説明するデュラン。

意気揚々と話し始めた。

「まずね、休火山がいきなり爆発しだして灰がこっちまで来るんだ、季節はずれの雹まで降るし魔物の群れが急に襲ってくる・・・・とどめにあの雷だ」

デュランがカレイラの方を指すと同時に真っ暗な空がピカッと光った。

そしてすぐさま雷鳴がとどろく。耳を劈く音だった。

その喉を鳴らすような音が収まると、デュランはすっかり困ったと言う表情で肩をすくめた。

その表情のまま、デュランはつぶやいた。

「街の上に雷雲が立ち込めて、しょっちゅう雷がふってくるんだ」

「!!」

その言葉で思わずティアは走り出していた。デュランの脇を通り抜け一目散にカレイラを目指す。

「あ!おーい!そっちに行っちゃ・・・」

デュランが慌ててティアを引きとめようとするも、もうティアは足を止めなかった。

「あぁ、行っちゃった・・・だいじょうぶかな」

頭をかいたデュランは走り去って小さくなる背中に向かってつぶやいた。


(ウルだ!カレイラにはウルがいる!)

走りながらティアは心の中で叫んでいた。

暗い空に、金色の稲妻が走り轟音がとどろく。

だがティアは怖がるどころかうれしくて、その雷目指して走り続けた。

そしてカレイラの入り口へ。

兵士がそこにいることを知らずに・・・。



Re: アヴァロンコード ( No.338 )
日時: 2012/11/29 17:16
名前: 実咲 (ID: 2rVxal1v)

こんばんは!実咲です。

5200 おめでとうございます!
私は・・・まだまだです・・・。

すごく続きが気になります!
更新、楽しみにしてます♪

Re: アヴァロンコード ( No.339 )
日時: 2012/12/01 00:39
名前: めた (ID: UcmONG3e)

美咲さんこんばんわ!コメントありがとう!
期末テストで更新がままならないけども、これからもよろしくお願いしますね



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ティアは意気揚々とまだ薄暗い朝の帳の中を走っていく。

そしてハッと足を止めた。

見えてくるのは懐かしきカレイラへ続く道。すぐそこに自分の家が見える。

だがティアは硬直したまま唇をかんだ。

(兵士・・・だ)

ティアはまさかデュランが?などと思っていたが首を振った。

(だったらもっと数がいるはず・・・異変騒ぎで兵士を立てたのかな?)

草むらに隠れてそんなことを思っているティア。

漫画よろしく居眠りでもしてくれればいいのに、その兵士はやる気満々で眠る気配は皆無。

何時間でも見張っている様である。

(私を捕まえるためじゃないのはいいことだけど・・・これじゃウルを助けられない・・・)

困ったなと眉を寄せるティア。

懐かしい自分の家にも帰りたいし、預言書の暴走で破壊された街の様子も見ておきたい。

人々が無事かちゃんと自分の目で確かめたいのに、神様はそれを許さないようだ。

あと十メートルも無い距離なのだが、ティアにははるか遠くに見感じた。

けれど、ティアは諦めなかった。

決心したように頷くと、きびすを返してきた道を戻り始めた。

目指すは、グラナ平原の古い遺跡跡地へ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照 5300 超えました!
期末テスト一週間前なので深夜更新もしくは無更新になりかねない・・・


Re: アヴァロンコード ( No.340 )
日時: 2012/12/01 21:58
名前: めた (ID: UcmONG3e)

遺跡跡地—そこはティアとタワシのみが知る知名度の低い抜け道のある場所。

駆け抜ける風とたわむ草花。

そこにぽつんとたたずむ古びた石造りの遺跡あと。

以前は立派な防壁か何かだったに違いない。

形はどこかチェスの駒である、ルークに似ていた。

その遺跡に駆け寄って辺りを見回してから飛び込む。

もろいレンガに服を引っ掛けて服が白くなるけれど、ティアはお構いなしに進んでいく。

薄暗い道もすいすい進んでいけば、巨大地下迷路のような水の無い下水道のような道が見えてくる。

ねずみが小走りに逃げて行き、水溜りもちらほらとある。

精霊と共に脱獄したとき、そしてヒースと逃亡したときにここを使った——。

(私はこんなにもカレイラから追われて・・・一体何のために・・・)

天井を映し出す水溜りを軽く避けて、ティアはほんのりと明るくなってきた地下道をのぞいた。

のぞけば、矢張りいる。ティアはちょっとうれしそうに微笑んだ。

「タワシさん!」

相変わらずまばゆい光を放つ金銀財宝の海で優雅に寝そべっていたタワシはすぐさま身を起こした。

そしてその頭上の冠が吹き飛ぶほどの速さでこちらを振り返る。

「おお〜!よくきたなぁ!」

にかっと笑ったタワシは金貨を振り払ってやってくる。

ティアもうれしくて駆け寄った。

毎度毎度、カレイラのものによって捉えられては助けてくれるタワシ。

タワシがいなければ、ティアとレンポは脱獄できていなかったかもしれない。

「おうおう、元気になったらしいな。ん?あの若者は?」

数年ぶりの再会を喜ぶ親戚のような口ぶり。ティアは顔をほころばせた。

「ヒースさんは情報収集で世界を回ってるんですよ。私もカレイラを救うためにがんばらないと・・・」

にこりとワラっていえば、タワシは少し表情を厳しくした。

「だが・・・街の人間はおまえのことをよく思っていない」

ティアはわかっている頷いた。

(誤解はまだ解けてない・・・分かってたことだけどつらいな・・・)

「あの事件はおまえたちの仕業だと信じきっとる」

街の人々のことを心底あきれたよと首をすくめたタワシ。

「真実はどうであれ、まぁ仕方なかろう。気をつけてゆくんじゃぞ」

相変わらずつれない態度でタワシは財宝の海へ帰っていく。

そして振り向かずにいった。

「すべてが終わったら、またクリームケーキでもくうか!」

そう意気込んでダイビングするように金貨の山に突っ込んでいった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照 5400! 



Re: アヴァロンコード ( No.341 )
日時: 2012/12/01 22:40
名前: めた (ID: UcmONG3e)

タワシと分かれてカレイラの墓地へと続くはしごを上ったティア。

人がいないかどうかとそうッとのぞいてみれば矢張り誰もいない。

こんな早朝から墓参りする信仰深い人はいないようだ。

ティアは安心して墓穴の抜け道より這い出すと、空を見上げた。

金色の稲光。凄まじい轟音。ふってくる稲妻。

相当暴れているようだが・・・ウルを捕らえた竜はどんなものだろう?

精霊を押さえ込んでしまうほどの強さだと、今のティアに勝ち目はあるのだろうか?

オオリやトゥオニを倒してきたが、精霊たちは強い生命力と世界を滅ぼさせ、何度も創造する力を持っている。

そんなとんでもない奴らを捕らえた竜は精霊たちより強いのだろうか・・・。

ティアは不安がって預言書を強く抱きしめた。

だがそんなことしている場合ではない。

原っぱのような美しい墓地からそうッと一歩づつ歩みだし、まずはカレイラの街を見にいかなくては。


「!」

ティアは墓地から出てすぐ息を呑んだ。

街が・・・中心街が・・・———ない。

無い。つまりそれまであったものが、今はきれいさっぱり無いのだ。

「うそ・・・」

今までそこにあったものはすべて消えている。代わりにあるのは、深くえぐれたむき出しの地面。

大型の爆弾を地中深くに埋めて爆発させてもこうはならないだろう。

ハオチイの言っていた通りだと、ティアは納得した。

深くえぐれた地面は転落すれば相当な怪我をするほどであり、美しかった町並みもその面影さえない。

悲痛な面持ちで歩いていると、人気のなさに心がさらに痛くなる。

みな怯えて絶望して、何を信じたらいいのかわからなくて引きこもっている。

見回る兵士さえもいない。見捨てられた街。そんな感じだ。

かけることの無いタイルさえも、ぼろぼろで雷によって破壊された後もある。

それに一番のショックは矢張り、カムイとファナの家、至る家々の一角が消失していることである。

瓦礫の山。立ち上るほこり。

ティアはふらつく足取りで大好きな公園へ向かっていく。

そこもひどい有様だ。

雷の雷光が照らす中、きれいな噴水も石造もすべて欠けてぼろぼろだ。

大好きなカレイラがこんなにも破壊された。

ティアは悲しみと怒りを感じ、レクスをあの時引き止めていればと出来もしないことを考えた。

けれど、レクスも後悔し、今は罪滅ぼしのため世界に散った預言書のページを集めにいっている。

ティアはため息をついて墓地に戻った。

フランネル城にはさすがに入れないだろう。

墓地からフランネル内に進入し、ウルを助けに行く。

ウルはカレイラの美しき白亜の塔—アステマの天空塔にいる。




Re: アヴァロンコード ( No.342 )
日時: 2012/12/02 17:46
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアは再びタワシのいる財宝部屋に戻ると、眠るタワシのそばを通り抜けて過去に炎の精霊と共に投獄された牢屋に戻った。

破壊された石畳をよじ登ると、陰気くさい牢屋が目の前に広がる。

牢屋をそのまま突っ切り、錆び付いた扉を開ける。

扉は難なく開き、ティアはほっとした。

(よかった。ドア直されてなくて)

大会後の優勝者賛美パーティーにてファナに会いに行くため、フランネル城を脱走したときに鍵をレンポに溶かしてもらったのだ。

本当に投獄したものにたいして無関心なのだ、ゼノンバート王は。

何年もほったらかされて、食事も与えられず、無罪の人もここで死んでいったに違いない。

いつか自分が無罪だと証明されて出られる日を、待ち望んでいたに違いない。

扉をそっと閉め、立ち並ぶ牢獄の前をすばやく通り抜けると深呼吸しながらフランネル城へとつながる扉をそっと押した。


案外簡単に開いた扉は何故だろうか見張り役もいない。

「? いったいこれはどういうこと?」

見張り役がいないなんて・・・王は何を考えているのだろう?

それとも街の復興に兵士を動かしている?

「でも街には一人もいなかったし・・・あれだけの数の兵を一体どこへやったんだろう?」

つぶやいてある景色が脳裏に浮かぶ。

王とドロテアのそばにつっきっきりの数百人の騎士と兵士たち。

異変騒ぎで王は自らの身を案じているのだろう。

住民などほったらかしに違いない。

街にもいない、フランネル城内の見張り役もいなければそれしか考えられない。

ティアはあきれつつ首を振ってスパイさながらに音を立てずに城の中を走っていく。

ウルの囚われているアステマの塔への入り口は、はっきりいってどこか分からない。

純白の美しい白亜の塔はフランネル城の中心から少し左寄りにそびえている。

なので東に突き進むしかない。

真っ赤な絨毯が幸いにも足音を殺してくれるので安心する。

だが、ティアの靴の裏についた泥や砂が点々とついてしまうので、見つかったら追いつかれてしまう。

(また捕まってたまるもんか!)



Re: アヴァロンコード ( No.343 )
日時: 2012/12/02 19:00
名前: めた (ID: UcmONG3e)

とんでもなく広い美しい廊下を抜けて、ようやくエントランスへ続く長廊下に出た。

だがエントランスには行かず、前から一番目の扉を押し開ける。

そこはティアは知らないが食堂と作戦会議室のある廊下である。

こんなところあったんだぁ、と言う風にティアはそこに並ぶどの扉にも触れずに直進していく。

実際、もしどちらかの扉を開けていたらティアは見つかっていた。

食堂では小間使いたちが王と騎士達の料理を並べており、作戦会議室では暴徒の限りを尽くしている四つの自然異変にどう対処するか話し合いっていたからだ。

ピカピカに磨かれて、まるで氷の表面のような床を突き進み、壁に刻まれた美しい紋様を見もせずに突き当たりの扉を開けた。

「はぁ、また廊下?」

今度こそ!と思ったのだが、またもや長い廊下に出た。

どれもこれも同じように美しく豪華で華やか。見てて飽きてしまう。

と、ふと異質な何かを感じて、ティアは振り返る。

赤い絨毯の終わり、そこに真っ白の蜀台の間に挟まれた至って普通の扉がある。

だが——ティアにしては何か違った。

そのまま何かに惹かれるようにそっとその扉に近づいた。

そして重い両開きの扉を、力いっぱい押した。


そこは完全な異質。そこは天空の門。

ティアは扉を開けたまま少しの間硬直していた。

なんという美しさ、気高さ、厳格さ。

豪華で成金趣味のフランネル城の数々の部屋とは完全に異なっている。

目の前に広がるその一室だけは、神聖さが感じ取れる。

パルテノン神殿のような小ぶりの柱が立ち並び、地面は落ち着いた色の大理石で覆われている。

人の進むべき道に美しい雲の混じる空のような大理石、長方形の部屋の隅は朱色と深緑、金色の絡み合う紋様の大理石が取り巻いている。

あっけに撮られてそのまま進んでいけば、太陽の光に照らされて優しく輝く不思議な像。

四角い秋の落ち葉のような色の台座に、八角形の台座が乗り、その上に同じく秋色の不思議な像がいた。

「これは・・・?」

チェスのビショップのような形の像。それは差し込む日差しのものだけではなく自らに刻まれる不思議な刻印からも発光していた。

四つの刻印がひかり、あでやかに光っている。

そのままずっと眺めていたいが、ふとその台座の後方に、この部屋のすべてと不釣合いなタイルがある。

「?」

四つの柱に囲まれたその明るい黄色と緑のタイルは、不可思議な色を放っている。

ティアはそれに近寄って考えもなしにその上に足を乗せた。

「っ、うわ?!」

次の瞬間ティアの姿はふっと消えた。

アステマの天空槍にいくための転移装置の置かれた部屋。

長い年月により忘れ去られ、誰が何のために作ったのかすら覚えているものはいない。

その部屋に舞い込んだティアのみが。これよりその事実を知ることとなる。


<パルテノン神殿とは地中海に面するギリシャにある、ゼウスを祭る神殿のこと。その美しいさまは黄金比と言う計算法を編み出した>


Re: アヴァロンコード ( No.344 )
日時: 2012/12/02 20:17
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアが転移したのは白を基調としたこれまた美しい部屋。

部屋と言うよりはむしろ儀式の間のような感じである。

夜に見る雪のような色の部屋は不思議な形をしていた。

八角形の溝が掘られ、その中心に同じく八角形の台座が立つ。

その台座は四方に階段がついており、その中心に青緑色の紋様が描かれている。そこにティアは立っていた。

一歩そこから降りると雷のような稲妻模様が水面にたつ波紋のように広がる。

「ここはもう・・・アステマの天空槍の中?」

ふと預言書に目を落とせば、ティアに教えるようにある言葉が書かれている。


———アステマの天空槍  地上への道


「地上への道?フランネル城は地上にあったから、ここはもう天空ってこと?」

預言書が答えてくれるのを期待して言ったのだがどうやらムダだったらしい。

精霊のように答えてくれず、ただティアに地図を指し示すだけ。

「しょうがないよね・・・」

ティアは寂しげに笑うと部屋をもう一度見回した。

部屋の隅を見つめると、重なる鎖の奥に懐かしき精霊の姿が彫られている。

目を封印されたウルの姿だった。

四隅にはそれぞれ雷の精霊、雷、預言書。

最後の一隅には雷の精霊と預言書が書かれていた。

「でも、もうすぐ—」

ティアは預言書を抱えなおし、雷の波紋が波打つ天国の門のようなきれいな扉の前に立った。

どれもこれも美しく、どこかの神を祭るようなその扉をそっと押すと先へ進んだ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照 5500!ありがとうございます!

Re: アヴァロンコード ( No.345 )
日時: 2012/12/05 00:10
名前: めた (ID: UcmONG3e)

扉を開けるとすぐ、ティアはもう一度目を疑った。

どっぷりと日が暮れたような広がる闇を、天から差し込む虹色の光と純白の螺旋階段が続いている。

真っ黒の闇にぽつんと浮かぶような階段は、まるで浮遊しているような感覚だ。

(きれい・・・)

一歩ずつ閃光の走った後のような紋章の刻まれた道を歩いていくと、天国に続くような螺旋階段から虹と見まがう穏やかな日差しがティアの頭上に降り注ぐ。

(ここは——)

くるりと身を反転させながらティアは天を見上げて心を躍らせた。

(とても美しい場所——)

その美しい螺旋階段の中心でで闇にまみれるものが、悪しき遺産だとまだ知らず。


空色のグラデーションの階段を一歩ずつ上がっていくと、シンデレラが城へ続く階段を上っていくような感じがする。

自ら発光する不思議な階段は大きく旋回しているため、ティアは早速手すりにしがみついていた。

(きつい・・・!きつすぎ!)

ぐるりと何かを取り巻くように大げさな円を書く螺旋階段は角度はあまり無いがとてつもなく脚を痛めつけた。

早くも乳酸が足の筋肉にたまり、ティアにもう無理だ!と告げている。

だがティアは無理にでも進んでいった。

「こんなんじゃ・・・いつ、つくの?」

先ほどまでは美しいなどと思っていた階段を恨めしげに見上げながら。

先は——まだ長い。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照 5600!! 二日放置してたのにありがとうございます!
テストは金曜日に終わるので心置きなく更新できます・・・

Re: アヴァロンコード ( No.346 )
日時: 2012/12/05 00:59
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「っはー・・・やっと第一段階クリア」

ぜいぜい肩で息を切らすティアはやっと長い階段1を上りきって正方形の踊り場でへたり込んだ。

相変わらず長い螺旋状の階段の景色は美しいけれど、つかれきったティアにはそれを気にする余裕すらない。

それどころか、ある重大なことが目の前に広がっているのに、それすら気づいていなかった。

「あぁ、疲れた・・・もすこし休憩」

踊り場にごろりと寝転んだティアはひんやりする大理石に感嘆をもらす。

熱された痛ましい筋肉痛に、しみるような冷たさは心地よい。

ティアはそっと目を閉じるとしばらくそうやっていた。

これからまだまだ続く螺旋階段。

疲れきったからといって、ティア上った距離と言うのはわずか。

全体の一割にも満たない。

巨大な塔だもの、今まで上ってきた階段は螺旋の半周くらいだ。

もう半周上ってもまだまだ一割には満たない。

魔物が出ないだけましだが、とある事実をティアはまだ知らない。



Re: アヴァロンコード ( No.347 )
日時: 2012/12/05 22:29
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「・・・?」

ティアはやっと起き上がり、そして目の前に広がる異物に目をしばたく。

「バリケード?」

正座しながらきょとんと、踊り場からもう半周する螺旋階段の階段開始始点に位置するバリケードを眺めた。

これでは——先へ進めないではないか。

立ち上がってその階段と同じの空色と純白の鉄格子のようなバリケードに触れてみると、それがとても頑丈なのが分かる。

壊すことも出来ないだろう。

そのバリケードは高さが尋常じゃなく、橋から端まで均一に高さが等しい。

3メートルほどの高さであるため、ティアの背丈では到底乗り越えられない。

かといって脇から通り抜けようとしても転落死が目に見えている。

「困ったなぁ。どうしよ・・・?」

どうしたものかとティアがおろおろしていると、ふとバリケードに紋章があるのがわかる。

雷が走った後のような紋章に、何かをはめ込むようなくぼみがあるではないか。

(もしかしてこれが鍵になる?でも、はめ込むものも何も持ってないし)

そのくぼみを指で弄繰り回すも、ティアはその鍵となるものを持っていない。

ただ指をくわえているしかなかった。

だが——

踊り場にはもう一方へ続く道がある。

真っ白の神殿の入り口のような扉が一つ、ティアの左手遠くに存在している。

そこに、何か手がかりがあるかも知れない。

行くしかない。ティアの足はもう迷わなかった。

そして意を決すると、その白い扉を押した。





Re: アヴァロンコード ( No.348 )
日時: 2012/12/07 16:34
名前: めた (ID: UcmONG3e)

白い扉の奥から顔をのぞかせたティア。

その部屋もどこもかしこも病室のような白で、神々しい気品ある装飾が施されている。

四角形の部屋の中心に、五重の濃い金色の円が刻み付けられており、その一番中心の円の中、ティアの腰ほどの高さの台座はちょこんと立っている。

その台座も金色だが、あくまで上品な台座だ。

「きっとあそこにはめ込むものが在る—」

ほっとしたのもつかの間。

左足で五重の円の最外円に触れた瞬間、その円が急に立体的になりティアの足を身体ごと跳ね返した。

「?!」

足をとられて背中からひっくり返ると、ドタっと床に激突。

顔をゆがめつつ何が起こったのだろう、と目を開くと——

金色の綺麗な五つの輪が台座を中心に球体を描くように回転している。

どれもこれも自由奔放に、台座を守るように回転しているためティアが台座に近寄ることも出来ない。

近寄れば五つの輪に挟まれ身体のどこかを失う羽目になる。

その円をあっけに取られてみていると、ティアは無言のまま預言書に手を伸ばす。

説明を求めるようにその部屋の地図のあるページに目を落とすと、端書のように何か書き込まれていた。


———宝珠の間  天空への古の鍵の置かれる部屋


「宝珠?天空へのいにしえの鍵の置かれる部屋・・・。つまり、あの台座の上に鍵があるのは確かか・・・」

そんなことをつぶやきながらティアはもう一度五つの金の輪を見る。

「だけどどうやってあれを?」

ぐるぐる回る金の輪は、ティアの目の前でまだ回っている。

それぞれの円がこすれて、たまに包丁を研ぐような音が聞こえ、切れ味抜群なのが分かる。

(これ通過するの無理。だけどとらないと先に進めない)

輪を壊す? どうやって?

もしかしたらこれは幻影なのかもしれないと試しに預言書から物を取り出し、投げてみる。

放物線を描く前に輪に到達したそれは、見事に八つ裂きにされた。

じゃきじゃきと切り刻まれる音に続いて破片が飛び散る音。

ティアの目の前で綺麗に解体された物体は無残にも床に散らばった。

「うわぁ・・・私がこうならなくてよかった」

思えば輪を踏んだ瞬間、ティアの重心が前のめりであったならティアは間違いなくその物体と同じ末路を遂げていた。

冷や汗を流しながらティアはどうしようと心底困る。

そして指で解体された物体の破片を弄繰り回すも、いい案が浮かばない。

(みんなが待っているのに・・・)





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照 5700越えました!皆さんありがとうございます!
もしかして新年までに6000いけるんじゃないか・・・・?

Re: アヴァロンコード ( No.349 )
日時: 2012/12/07 17:27
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアが殆ど絶望状態のとき、ティアのことが心配になったデュランはというと—

「よかった。見つかってないみたいだ」

ティアの後を追いかけてきたものの、見事に見失ってしまったデュラン。

兵士の見張りの付く、カレイラの入り口に着てみると、騒ぐことなく兵士が一人立っている。

何か変わったことは?と聞いてみるも、特に無いと返事が返ってくる。

(カレイラに着てないとなると・・・ティアはどこいったんだろう?)

誤解を解くために戻ってきたんだと思ったのだが・・・。

「レクスもファナもティアもいなくなって・・・僕は何時も置いてけぼりさ」

目撃者によればファナは暴走の渦に巻き込まれ、レクスもその後を絶った。

妹のお墓参りにもずっと来ていない。

デュランは心細げに眉を寄せた。

自宅へ、たたまれた道場のすぐ横の家へ歩きながら考えた。

「レクスもファナと同じで吸い込まれたのかな・・・じゃあ、死んじゃったのか・・・?」

明確にはファナがどこに行ったのか分からない。

だが竜巻に巻きこまれたものはこっぱ微塵に粉砕される。

街の一角も屋台も花壇もなにもかも、中華街には何もなくなった。

住民も多く怪我をし、死人も少し出た。

行方不明者もファナとレクスを含めて出ている。

瓦礫をどかして助かる人もいれば、亡くなっていた人もいた。

レクスとファナは、まだ、見つからない。

家より遠回りして、中心街へと来るとこの時間帯に何時もいる彼らがいた。

「カムイよ・・・もういい。ファナのことは・・・あきらめておくれ」

「イヤですよヘレンさん!僕は・・・諦めないです」

素手で瓦礫をかきわけてファナを探すかムイと、絶望のふちにいるヘレンのコンビ。

そのやり取りはほぼ毎日行われている。

「あたくしたちの屋台もまだ見つかってないわ!」

甲高い声がして振り返れば、嫌味兄妹フランチェスカがそこにいた。

兄と共に廃材の中をしかめっ面でなにやら探している。

「ちくしょう・・・まだ使えるものがあれば、高く売り飛ばせるのに」

町中破壊され、物価はますます高等気味。

この兄妹はそれを狙って大儲けしたかったらしいが、中心街にどっしり構えていた彼らの露店も破壊されて、売るものが乏しい。

「まったく、あの反逆者のせいだよ・・・今が商売の大チャンスだって言うのに!」

空に向かって憤慨したようにそのセリフが吐かれ、デュランは肩をすくめた。

少なからず、デュランの心にもそんな気持ちが入っている。

——ティアのせいで、お父さんは道場をたたんでしまった。
——そして肩身の狭い境遇にあっている。
——ティアのせいで・・・親友が行方不明・・・

ティアのせいなんかじゃないんだよね?

デュランは疑心暗鬼になりつつもティアを信じたかった。

戦争でカレイラを救い、大会で英雄として華やかに優勝した。

砂漠に連れ去られてもカレイラに帰ってきたし、カレイラのことが大好きだといっていた。

なのに、ティアがカレイラを破滅させるわけない。

「間違ってないんだよね・・・」



Re: アヴァロンコード ( No.350 )
日時: 2012/12/07 19:29
名前: めた (ID: UcmONG3e)

くるくる回り続ける円形は、ティアの目の前で今も回り続けている。

「宝珠・・・本当にあれが宝珠なのかな?」

その円の中心の台座に置かれているという宝珠。

預言書にもう一度目を落とすと、ティアは治まらない不安と動悸を落ち着かせるように意気込んだ。

(大丈夫。だって預言書にはこう書いてあるから・・・)


ティアは一端目を閉じて気持ちを落ち着かせた。

(失敗したら、精霊たちもこの世界も、どうなるか分からない。けど・・・やらなきゃ進まない)

そして深呼吸すると決心した。

よし!今からこの円の中に飛び込むぞ!

そしてもう立ち止まれないように走って輪の中に飛び込んだ。





Re: アヴァロンコード ( No.351 )
日時: 2012/12/07 20:01
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ギャリッと耳元で輪と輪の咬み合う音が聞こえ、ティアは目をつぶる。

髪が舞い、何かが頭めがけてくる威圧感。

前髪をはさみで切るような、少し嫌な威圧感が猛烈に迫ってくる。

「っ!!」

それが身体の中を通り抜けるような感じがして悲鳴にならない声を上げる。

(やっぱり失敗!?)

だが、もう一度輪の咬み合う音が聞こえたかと思うと、ストンっとティアの両足は地面についていた。

「えっ?」

驚いて、いや目論見(もくろみ)通りなのだが、うまく行き過ぎてティアは目を丸くする。

頭上を見上げれば、金の五つの輪がまだ回っており、ティアはその風疹に、台座と共にいた。

捨て身で挑んだものにだけ・・・本当に天空の塔に進みたいものだけが宝珠を手に入れられるため、ティアは捨て身で飛び込んだ。

体中チェックして、きられたところが無いのを確認すると早速台座に飛びついた。

金の台座はティアのアクロバットなど興味なさげにきらめいている。

その長方形の台座の上に、はめ込まれたように銀色の宝珠が在った。

「きれい」

ティアの会飾りのように古めかしいものだが、その輝きは健在で中心に埋め込まれた水晶のダイヤは何よりも美しい。

これで・・・

「先に進める・・・!」

その美しい宝珠を手に掬い取ったティアは突如あたりの空気がふわりとしたので顔を上げた。

見れば、先ほどまでブンブンめまぐるしく回っていた五つの輪が急激に減速していく。

そして空中で停止すると、ティアの目の前の台座が地面に吸い込まれていく。

「?」

足元の大理石に金色の台座が埋め込まれてしまうと、五つの輪が内輪からゆっくり地面に吸い込まれていく。

五つすべての金の輪が大理石にもう一度刻まれると、すべてが収まった。

「すごい。これ古代に作られたのに・・・。これが古の魔術か」

すでに失われてしまった技術。

それを解く鍵を手に、ティアは上へ上るべくその部屋を後にした。




Re: アヴァロンコード ( No.352 )
日時: 2012/12/07 21:02
名前: めた (ID: UcmONG3e)

宝珠を手に入れ、後は階段地獄を上りきるのみ。

ティアは手に入れたばかりの銀色の宝珠をそっと純白の柵にはめ込んだ。

完全にフィットし、純白の檻がそれを認証したように地面に落ちるように吸い込まれた。

がしゃんっと柵が大理石の中に引き込まれ、ティアは完全にビビル。

(ちょっとまって、宝珠は?!)

だが案ずることなかれ。

宝珠は大理石の表面に置かれ、柵と共に飲み込まれることはなかった。

安心したティアはそれを拾い上げてポケットに入れる。

そして安心もつかの間、また永い長い道のりにため息をついた。

まだまだ、てっぺんまでは長そうだ。



何時間歩いただろうか?

やっと同じ風景が変わってきたようだ。

長い階段が終わり、明るい日差しが降り注ぐ出口が見える。

「てっぺん!!」

今までの疲れを忘れてか勢いよく走るティア。

そして光の中に飛び込んでまだ理解できていない頭をぐるぐる回し、視界に情報をかき集める。

空!雲!風が強い!そしてもうひとつ。長く続く道。

「・・・?」

ティアが出てきたのは、テラスのような空中通路。

足元は大理石ではなく、茶色の石畳。

こげあとが残るタイル張りである。

そして吹きぬける風はとても冷たく、ティアは襟元をあげた。

「ここはてっぺん?」

試しにテラスの手すりに寄りかかり、眼下をのぞいて見る。

足がすくむほどの景色と、立ち込める黒い雲。

木々も、フランネル城も、すっかり小さくなっている。

「かなり高いところまで来たみたいだけど・・・」

ティアは見なければよかった、と思いながら辺りを見回した。

相変わらず白い壁。見上げれば雲に隠れてはいるがまだまだけっこう天空塔は続いている様子。

「まだてっぺんじゃないな・・・」

ティアは諦めてテラスを進んでいく。テラスの横幅はとても広く、5メートルは最低でもある。

そのまま直進していくと、どんどん足元のタイル汚れが気になった。

「これは、焼け焦げ?」

しゃがんで一番目立つ焦げ後を指でなぞると、くもの巣のようにばっと広がっていることが分かる。

くもの巣のような網状のあと。

これは・・・。

ティアは頭上を見上げてあせったように走り出した。

はやく、建物の中に入らないと!

その頭上で、黒い雲がうなるように音を立てた。






Re: アヴァロンコード ( No.353 )
日時: 2012/12/07 21:34
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアの足がもうじき出口へと続く階段に差し掛かった頃。

ついにそれは来た。

カッと一瞬空が光ったと思うと、ティアめがけて一筋の落雷が降る。

「!!」

だがぎゅっと目をつぶったティアに当たる事はなく、ティアよりも少し背の高い石造の頭が飛んだ。

シュパンっと凄まじい音と共に、石造が雷によって破壊され、白い大理石が砕け散る。

それに続き、ティアのそばにタンタンと雷がムチのように直撃し、足元のタイルに雷痕を刻んでゆく。

「当たったら死んじゃう!」

ほぼ涙目でティアは狂ったように階段を上がる。

左右にはありがたいことに石造があり、ティアの代わりに落雷を受けている。

ティアが歩むたび、これ以上こさせないとでも言うかのように、雷は落ちていく。

そしてあと一歩というところで、目の前に雷が落ちた。

耳が痛くなるほどの轟音。とっさに耳をふさいだがキーンと耳鳴りがする。

閃光によって目もくらみ、視覚と聴覚が大幅に麻痺した。

「〜〜!」

目を抑え、ふらふらと後ずさる。

それを狙ってか頭上ではとどめを刺してやるとでもいうようにごろごろ雷を誘発する音を出している。

このままでは・・・雷に当たってしまう。

ティアは見えない目で思い切り走った。

多分出口はすぐそこ!

頭上で天を引き裂くものすごい音がする。

これに当たったら間違いなくまずい。

そう直感したティアは、おそらく出口であろう方向にダイブするように思い切り飛び込んだ。


幸いなことにティアは出口に転がり込み、再び安全な天空塔の中に入った。

その背後で、ものすごい雷がティアのいたところに直撃する。

地響きと、空気の裂ける音。塔全体がゆれる振動に、ティアはまだ麻痺する目と耳で震えていた。

わなわなとふるえ、気づけば泣いていた。

あぁたすかったぁ、という安堵。

あと少しで死ぬところだった、という恐怖。

爆音が恐ろしかった。

そんなティアの背後で、ティアを取り逃がしたことに腹を立てるような雷は、八つ当たりでもするかのようにいたるところに雷を降らせている。

「怖い・・・アンなのと戦うなんて・・・」

涙をぬぐいながら少しずつ回復してきた視界を辺りに向ける。

だが、ティアを救ってくれる人はどこにもいない。

ただひとりで、挑まなくてはならないのだ。

確実に近づく敵。ティアは本能的な恐怖に身がすくむ思いだった。





Re: アヴァロンコード ( No.354 )
日時: 2012/12/08 12:23
名前: めた (ID: UcmONG3e)

そして来た、二度目のテラス。

何週も螺旋階段を回ってたどりついた、雲よりも高いところ。

二度目のテラスも、一度目のテラスと同じようなところで、ティアは不安げに頭上を見上げる。

だが空と呼べるか分からないもはや雲一つ無い天は、落雷の恐れは微塵も無い。

ティアはほっとして足を踏み出し、テラスの手すりにつかまって下をのぞく。

雲まみれで、まだかすかにローアンの街が見える。

だがどこがどの家なのかはまったく識別できず、ティアはちょっと寂しい気持ちになった。

こうして空から皆を見ているのに、ティアを見上げるものはいない。

天下では普通に暮らし、ティアだけがその生活を見ている。

早くしたに戻りたい。

ティアは眼下から視線をずらしティアの進むべき道を見た。

真っ白の階段は傷一つなく、早くおいでといっているようだ。

おそらくもう、すぐそこにいるのだろう、精霊と悪しき竜は。


 階段をのぼりきり、中に入ると明らかに何時もと異なる風景。

階段ではなく、細長い部屋がある。

どこもかしこも純白なのは変わらないが、細長い部屋の奥、美しい雷模様の扉がティアを緊張させた。

虹のかかるステンドガラスの光が降り注ぐ大理石を進み、幾重も絡まる雷模様の刻まれた柱を通り越し、その扉に両手をかける。

すでに電気を帯びた盾と、武器を装備してあるので戦う準備は整っている。

そして扉を開くと、ティアは拍子抜けする。

「何だ、まだ部屋あったんだ」

硬直気味だった頬でゆるく笑い、ティアはこの塔に入って転移された部屋を思い出す。

すべて真っ白で、儀式でもしそうな部屋。

鎖が絡まり、司法には絵が書かれている。

八角形の台座の上に、静かに光る転移装置。

ティアは今度こそ心を決めて、その上に飛び乗った。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照 5800越えましたよ!!
あと200で6000です!!

そしてVS雷の竜が次回より始まります



Re: アヴァロンコード ( No.355 )
日時: 2012/12/08 21:40
名前: 故雪 (ID: 2rVxal1v)

こんばんは!
名前を変えました♪元・実咲です。

6000、頑張ってください!
応援してます!

・・・コメント、短くてごめんなさい・・・。

Re: アヴァロンコード ( No.356 )
日時: 2012/12/10 16:11
名前: めた (ID: UcmONG3e)

故雪って名前なんかかっこいいですね
短くなんか無いですよ!コメントもらえるだけでうれしいです


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ティアの転送された場所は屋根の無い、とても開けた円形のタイルの上だった。

屋根が無いため、真っ青な空が見える。

雲ひとつなく、また、風もまったく吹かない場所。とても静かだ。

「これは水?」

そしてもっと不思議なのは、ティアのいる円形のタイルの周りに張り巡らされた水。

円形の泉の中にティアのいる円形のタイルがある感じだ。

八方位を指すコンパス模様のタイルの上を歩きながら、ティアは水に触れてみた。

普通の水であり、とても心地よい温度だ。

「竜もいないし・・・ウルもいない」

辺りを見回しながら不安になってくる。もしかして間違えてしまったのだろうか?

無音の空間に水音だけがする。ぶくぶくと、あわ音も・・・。

「え」

泡が立ち上ってきて、ティアは水中を凝視する。

空の色を写したきれいな水に、何かがあがってくる。

あれは魚?いや、あれが竜?

ティアはその魚のような竜の姿を捉えた瞬間、ばっと身を翻してそこから離れた。

剣と盾を構えた瞬間、水の中から金色の竜が飛び出してきた。

豪快な水しぶきを上げてティアをにらんだそれは、ナマズをもっと格好良くしたような竜。

金色にまばゆくひかり、刻みを入れたようなうろこと紫の冠のような物を背中につけている。

ひれの代わりに短い両手があり、鋭い爪がついている。

真っ黒く縁取られた目は真っ青に光って、ティアを見下すような光を放っている。

「これがウルを封印している竜・・・ペルケレ」

ペルケレという名の竜は一瞬目を細めると、牙のずらりと並んだ口元をゆがめて小ばかにするように笑った気がした。

そして おまえごときが私を倒せるとでも? というようにふんぞり返るとムチのような尾を振ってそのみを反転させ水中にもぐった。

水をかけられたティアは慌てて顔をぬぐうとペルケレの姿を探す。

だがシーンと静まり返った湖畔は波一つ無い。

(どこ・・・?)

と、突然バシャッと水音が響き電撃がはぜる音が聞こえた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

VSペルケレ 回が始まります









Re: アヴァロンコード ( No.357 )
日時: 2012/12/09 20:30
名前: めた (ID: UcmONG3e)

突然の奇襲攻撃にティアは避けられずかろうじて振り返ることが出来たくらいだった。

首を捻じ曲げて背後を見れば、黄色くまぶしい電気の球体がこちらに飛んでくるところ。

慌てて避けようとしたがその速さはすばやく、身を翻す間もなく右足に直撃した。

バリッとスタンガンの出力を最大にしても出ないような音が響きティアは悲鳴を上げてうずくまる。

「い・・・ったぁ」

筋肉が急激に収縮し、言うことを聞かない。

そのまま痙攣するように電磁波が駆け巡り、ティアは慌てながら必死に身を動かそうともがいた。

その様子を完全に見下した様子でペルケレはこちらを見ていた。

ただの人間風情めが、生意気にも私を倒そうなど考えるからだ という視線でティアをにらんでいる。

ティアはまだ麻痺する足をかかえたままペルケレを好戦的ににらむ。

(足が使えないからって勝てないというわけじゃない!) 

だがそんなティアも、ペルケレの様子を見て不安げに眉を寄せた。

ペルケレの頭上に浮かぶ紫の冠が電気を帯びている。

大量の電子をまとったそれは不快な電子音と不安になる電撃の音をはらんでおり、これから何が起こるかティアにも想像できた。

ペルケレはウルの力を奪っている。

ここまで来るときにも攻撃されたあの落雷もこのペルケレの仕業。

ならば、この不穏な空気と大量の電撃が溜められたら・・・。

雷がふってくる。

「っ!!」

ティアは自分でも信じられない速さで盾を引っつかみ身体を包み込むように防御した。

きっと身の危険を感じて火事場のばか力というものが出たのだろう。

間もなくペルケレの冠から放たれた強烈な雷がティアピンポイントで降ってくる。

その負の電気を帯びた盾は同じく負の電子を持つ強烈な雷をうまく反発してくれている。

だがとんでもない衝撃でぶつかってくる落雷は巨大なハンマーで殴られているように感じた。

ティアはその盾に守られながら、その轟音に震えていた。

涙こそ出ないものの、この猛烈な破壊音はティアの戦闘意欲を大いに削ぐ。

だが、戦うことをやめてはいけない。

もうすぐ、雷の精霊ウルを助けられるのだから。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照 5900!!あと100ですね!!

Re: アヴァロンコード ( No.358 )
日時: 2012/12/10 21:43
名前: めた (ID: UcmONG3e)

猛烈な炸裂音が徐々に終息して、ティアはいまだとばかりに盾から飛び出した。

ペルケレは雷を放電し終わり、その身体を直立させるように水面から浮き出ている。

(いまだ!!)

たあっと突き刺そうとした剣を、ペルケレは一瞥したのか次の瞬間水中に消えていた。

ものすごい速さであり、ティアの薙いだ(ないだ)剣がまだ軌道を書いているにもかかわらず、ペルケレの身体はすでに水中の安全な場所にあった。

「っ!? 速っ」

ティアが目を見開いてつぶやいた瞬間、ティアの目も前でペルケレが挑発するように跳ねた。

池で風流に、錦鯉(にしきごい)が跳ね上がるように放物線を描き、長い尾にきらめく水しぶきを引いて飛ぶ姿は時間が停止したように感じる。

ティアも視線だけでそれを追うのが精一杯で、スローモーションで再び水源に戻っていくペルケレを見ていることしか出来なかった。

だが風流で優雅な情景もそこまで。

ペルケレの巨体が派手に水しぶきを上げティアめがけて多量の水しぶきが降る。

それを盾でガードすると、負の電荷を帯びた盾は激しい感電音を流す。

だがティア自身には害はなく、スカートが若干ぬれただけだった。

だがそんな事もかまわず、ティアは葉をかみ締めてペルケレを目で追う。

ペルケレは今、ティアのいる円形大理石タイルの周囲をぐるぐると荒々しく回っている。

背びれが沈むほど深く泳いだり、ティアの様子を監視しながら泳いでいる。

(あんなふうに泳がれてたりしたら・・・攻撃のチャンスが来ない)

ティアは剣に目を落とす。

長い間ティアと共に戦ってきたこの剣。だが今回は役に立ちそうもないが・・・。

大体このような剣で周囲を泳ぐ魚竜に攻撃が当たるわけがない。

だが・・・。

(爆弾も、水があるから使えないし・・・ハンマーもムリ。残りといえば)

ティアは預言書から抜き取ったそれを困ったように見た。

今は亡き砂漠の魔女オオリエメド・オーフから貰った飛刀。

投げられるし接近戦でも使えるけれどあまり得意科目ではない。

(・・・まてよ。これは使えるかも)

それを指でいじくっているとある考えがひらめく。

負があるのなら正の電気もある。

ペルケレは、負の電子を持っている。

投げが苦手な私でも、これで当てられる・・・?!



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

もうじき6000いきそうです!

Re: アヴァロンコード ( No.359 )
日時: 2012/12/10 22:54
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ペルケレが狂ったように泳ぐうちに、ティアは雷のコードを一つ飛刀にはめ込んだ。

するとすぐに手の中ではじけるような静電気の感触。

白銀の飛刀に紫がかった電気がまとわりつき、ティアには怪我をさせないものの当たったらしびれる程度の威力がある。

それを構えなおし、いくつか手に取るとティアは少し自信が戻ってきた。

(よし、これで・・・)

そして泳ぎまくるペルケレに、変化が訪れた。

奇妙な泳ぎを止めザばっと身を起こしたのだ。

「っ・・・!」

急に水面より身体をもたげたペルケレに驚いたものの、ティアはチャンスとばかりに飛刀をかまえ集中した。

ペルケレは相変わらず見下す目つきでティアをにらみ、爪のある前足で振り払う仕草をする。

すると負の電子をまとう金色の雷の塊が生まれ、ティアに吸い寄せられるように迫ってくる。

だがティアは避けようとせず、左手に握った飛刀をペルケレに投げつけた。

ビジリッ  と音がして投げられた飛刀に金色の雷の玉が引っ付いて吸収された。

!!

これには驚いたようにペルケレも意外そうな顔をしている。

ティアは内心ほくそ笑み、うまくいったと喜んだ。

その間にもペルケレの力を陰極陽極同士の関係により吸収した飛刀はペルケレに向かって飛んでゆく。

<マイナス(陰極)とプラス(陽極)は磁力によって引き合います。ちょうどS極とN極がくっつくのと同じ現象ペルケレの雷は負極、つまりマイナス極。ティアの飛刀はプラス極、つまり陽極なので引き合ったのです>

ふん と鼻を鳴らしたようにペルケレは飛刀顔負けのすばやさで水に飛び込んだ。

だが、飛刀の勢いはとまらずまっすぐにペルケレに突き進んでゆく。

そしてそのうろこにべしっと張り付いた。

「!! そうだ、面積が広いから尖った部分が引っ付くわけじゃないもんね」

負の強大な電気をまとったペルケレは、正の電気を持った飛刀に追われて当然なのだ。

だが面積の大きい刀の平らな部分がそのうろこについてしまうのも当然である。

ティアはちょっと悔しく思っていた。

だが、ペルケレは傷つかなかったにもかかわらず憤慨したように目をぎらつかせた。

そして急に深くもぐると、次の瞬間突進するようにティアのいる円形大理石タイルの上に乗り上げてきた。


真っ青な目をぎらつかせながら。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照が! 6 0 0 0 です!!
越えました!とてもうれしいです!ありがとうございます!
なんか日本語がおかしくなったけど本当にありがとうございます!

Re: アヴァロンコード ( No.360 )
日時: 2012/12/11 15:11
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ずおおっと大理石のタイル全体が地響きに見舞われた。

だがティアはそんなこと気に出来ない状況下にいる。

猛り狂ったペルケレが、ティアめがけて突進してきたからだ。

「うわ!?」

ギザギザの牙が待ち構える口を避け、ティアは飛び込むようにタイルの上へ転がった。

そのままの勢いでペルケレは水中に戻っていくが、ただで戻るペルケレではない。

長いムチのようにしなる尾を、びゅッとふりティアにたたきつけた。

それはティアの右手をかすめ、ピチッと一瞬だけ痛む電気が流れてくる。

だが静電気のようにあまり害はなかった。

突進攻撃のあと、ペルケレは相変わらずぐるぐると泳いでいるが、ティアは目を見開いたまましばらく硬直していた。

(あんなのって—あり?)

視線は勝手にペルケレを追っている。きらびやかなうろこに飛刀が張り付いたまま離れていない。

(ペルケレの身体はネオジウム磁石並み・・・しかも突進してくるし、もし転落したら水中の中じゃ戦えない)

<ネオジウム磁石は強力な磁力を誇る磁石のこと。手の甲と手のひらに磁石をおいて、手を振り回してもネオジウム磁石は落っこちないで乗っかったまま。冷蔵庫に貼り付けると取るのが大変なくらいの磁力を持っています>

そのような思考も、水音でかき消された。

ハッとしてみればペルケレが水面から上半身だけ出してこちらを見欄でいる。

ティアはとっさに手の中にある残りの飛刀をすべて投げつけた。

パシパシ電子音を立てながら飛ぶ飛刀はぺたりとその身体に引っ付く。

「しまった…——?!」

それらすべてがペルケレに怪我を負わせないことに気づくティアだが、次の瞬間異変に目を見開いた。

ペルケレの身体が一瞬輝き、にっと完全に不敵な笑みをこぼしたのだ。

「何…?」

と、途端に右手と最初に攻撃を受けた足が痛み始め、まだかすかに息のある電磁波がティアの動きを静止させる。

さようなら そういうようにこちらを見るペルケレ。

ティアは麻痺する手より離れてしまった盾に手を伸ばす。

(これから何かが起こる。それは間違いない・・・でも一体何が?)

それもすぐ分かった。ペルケレの身体が再び光ると、目にも留まらぬ速さでうろこについていた飛刀がこちらに飛んでくる。

「?!」

避けられない!!



Re: アヴァロンコード ( No.361 )
日時: 2012/12/11 16:10
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアに迫る飛刀、そのスピードはすばやく、まるで押し出されるかのように見える。

ただ視界で捉えられるのもそこまで。

次の瞬間にはがんがんタイルに突き刺さる音。

ティアは麻痺した手足でかばうように丸くなった。

自分の武器で攻撃されるとは!

もう避けるのは諦めて被害を少なくしようと縮こまるティア。

構える隙も与えられないので無意味なたてをかかえている。

だが・・・。

身体に突き刺さる痛みはない?

目を開けると、ビックリした。

ティアの周りだけ避けるように飛刀が散らばっている。

「これは…一体?」

小首をかしげていると電撃の音がした。

いつの間にか紫の冠に充電していたペルケレからのきつい落雷だった。

素晴らしいまでの早業にティアは絶望した。

せまりくるとてつもない落雷に、五つの飛刀にかこまれて盾を抱き座り込むティアは、反撃の余地はないと完全に諦めた。

(もう・・・間に合わない・・・)

盾を構えても、もう無理なのだ・・・。

ティアは歯を食いしばった。

「ここまで来たのに・・・諦められない!」

その声に反応するかのように、ティアの周囲で雷の音がした。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ん?なんでこうなったんだ?という事象ばかりですが、説明は後ほどちゃんとします。



Re: アヴァロンコード ( No.362 )
日時: 2012/12/11 17:33
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアは抗うように盾をムダだとわかっていても構えようとしていた。

けれど、落雷は迫ってくる。

(間に合わない・・・?!)

ティアが悔しげに歯をかみ締めた瞬間——


 パリッ


と周囲でそんな音が聞こえた。

「え…?」

そんな声を漏らすのが精一杯だった。
次の瞬間には落雷は到達していたのだから。

猛烈な音があたりに響いた。電撃のぶつかる音。空気を裂く音。

だがそのような音とは裏腹に何の衝撃も来ない。どういうことだろうか。

ティアは盾より顔をのぞかせた。

(一体何が起こっているの・・・?)

すると驚くことに、ティアの周囲に刺さった飛刀すべてに紫色の淡い電気が走り、ペルケレの落雷を反発している。

「これはどういうこと・・・?」

ペルケレも面食らったような顔をしている。

お互いわけが分からぬまま、一瞬を過ごした。

だが。

(よく分からないけどこれはチャンス?!)

なんでこうなったかは分からないけど・・・今ペルケレの身体はこの飛刀たちと反発しあっている。

つまりはペルケレの身体と飛刀は同じ極なのだろう。

ではもっと大きな武器で・・・確実に当たる武器でペルケレとは別の極にすれば引き寄せられて当たる・・・!

ティアはペルケレの雷から守ってくれている飛刀たちに感謝しつつ、剣を預言書より取り出した。

使わない。そう思っていたけれどやはり最後にはおまえを使うことになるとは・・・。

その剣に雷のコードを組み入れると、ティアはペルケレをまっすぐ見た。

ペルケレは目を見開いている。

私の雷が何故? そういった疑問がペルケレの頭の中で渦巻いていたのだろう、反応が何時もより鈍い。

そのおかげでティアはペルケレに向かって槍投げでもするかのように剣を投げられた。

その剣は無防備な体勢のペルケレに一直線にむかっていき、その身体を刺し貫いた。

ペルケレは、まるで雷が落ちた時のような悲鳴を上げると、微弱な放電をしながらきらめく閃光となって浄化された。

「や・・・た・・・?」

最後のきらめきが消えると、ティアはぺたりと大理石の床に座り込んだ。

たおせた・・・。

私一人の力で・・・竜を・・・。

そんなティアの元に、優しい声が届いた。




「やはり来てくれましたか、ティア」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

VSペルケレ終わりです。
戦闘での事象は次に説明されます・・


Re: アヴァロンコード ( No.363 )
日時: 2012/12/11 20:35
名前: めた (ID: UcmONG3e)

すみませんここでちょっと残念なお知らせ・・・

いままでこうやって連続できたわけはシナリオ中の会話などを細かくメモしてたからなのですが・・・
そのメモが噴出しまして・・・もう一度ゲームをクリアしなければいけない状況に陥りました。
覚えてる箇所までは通常進行ですが忘れた部分から亀進行になってしまいます。
見ている方、そのところ、ご了承ください・・・。そしてごめんなさい・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

優しいその声がティアの鼓膜を震わせた途端、ティアの全身の力が抜けた。

座り込んでいたからよかったものの、ティアは安堵して思わず震えだした。

「どうしましたか?」

あんなものと今まで戦っていた・・・恐ろしかった。

今になってよみがえってくるこの恐怖に、ティアはますます震えだす。

そんなティアにゆっくり姿を現したウルがそばによってくる。

うずくまったまま見上げたその姿は、失ったその当時のまま。

そんな穏やかな表情で、少し心配そうにしているウルを見るとティアは急に安堵感でいっぱいになった。

まるで遠い日のお母さんと再会した感じ。

放火魔に殺されなければ、怯えきったティアを大丈夫だよと抱きしめてくれただろう・・・。

「・・・怖かったでしょうね、ひとりで」

小首をかしげていたウルは、しばらくティアを見てそういった。

「ですが、よくここまで来てくれましたね。礼をいいます」

その柔和な笑みでティアは震えが止まった。

(ウルは・・・お母さんに似てる気がする・・・)

ティアは無意識に母の形見、銀の不思議な髪留めに触れていた。

これに触れると・・・どこか安心する。

「うん・・・怖かったけど、でも助けたかったから来たんだ」

その髪留めのおかげでもう恐怖は去った。

そのまま笑顔で言い返せば、ウルは感心したように微笑む。

「強いですね、ティア。私たち精霊よりも強い心を持っていますね」

ん?というように首を傾げるティアにウルは言う。

相変わらず浮遊したままだが、ティアのそばにいる。

「あの時、すべてを失ってもう立ち上がれないのではと思っていましたが・・・無用の心配だったようです」

そしてふと、ティアに視線(心の目?)を落とした。そして再び首をかしげる。

「それはそうと・・・ティア。あなたの周りに刺さっているそれらはなんでしょうか?」

これ?とティアが辺りを見る。はたから見ればどういう意味なのだろうと思うだろう。

何時もと逆の立場になり、ティアは得意げに言う。

「これはね、ペルケレという竜から私を守ってくれた飛刀たちなの」

えへんというと、ウルはしばらく思考整理をしている様だった。

(・・・ペルケレは知っていますが・・・一体どういう意味なのでしょうか?飛刀は明らかにティアを狙った何者かによって刺されたらしいですが、それが守るとどうつながるのでしょう?)

「あー・・・これがね、ペルケレの雷から、なんでか分からないけど守ってくれたの。電気を押さえてくれたような感じだったけど・・・」

そこまで言うとウルが舞い降りてきて覗き込むようにその飛刀を観察している。

ウルがそれに近寄ると、パシリパシリとかすかな静電気音がする。

きっとウルの雷と飛刀の電気が反応したのだろう。

途端にわかりましたよ、とウルが解説する。

「これは電気の反発によった出来事ですね。おそらくペルケレには正の電極、この飛刀にも同じく正の電極があるようです。電気は同じ極同士だと反発します。なのでティアに迫る電気を退けたというわけでしょう」

「へー…」

ティアはわかるようなわからないような顔で頷いた。

けれど自分が戦術に取り込んだ手だとは理解している。

「それじゃあ、この盾を持っていたとき、飛刀が避けたのもそういった磁力の関係なんだ?」

「そうですねおそらく・・・。とにかく、ティアのことを守ったのには違いはありません」

そしてティアに向き直ると好奇心旺盛そうに言った。

「一体どうやってあの竜を倒したのですか?」


すべてを話し終わると、ティアにはまだ疑問が残っていた。

大切な、あの人のページ。

沢山知ってる物知りなウルならば、きっと——

「どうしました?」

まだ何か聞きたそうなティアに、ウルは首をかしげる。

「………?」

ティアは先ほどとは打って変わって少し雰囲気が暗い。

一体どうしたのかと、見ていれば黙って何かを差し出してくる。

見れば、それは預言書のページ。

「これは・・・何故預言書が破れているのです?」

次に顔を上げたとき、ティアが震える声で言った。





Re: アヴァロンコード ( No.364 )
日時: 2012/12/11 21:45
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「そうですか・・・我々のいない間にそんなことが・・・」

精霊たちが消え去ったあと、ティアの今までの経路を伝えつつ言えばウルは静かに頷いた。

つらかったでしょうね、という言葉はあえて飲み込んだ。

(今まで我々のほかに、しんせつな者達がティアにかけた言葉。本当に助けるべきときに助けられなかった私がそんな言葉を軽々しく言っても傷を広げるだけ・・・)

「・・・大切な人なのですね、彼女は」

ティアの期待する目がこう問うている。

”助けられるよね・・・?”

「・・・残念ですが、私にもどうすればよいのか分かりません」

その言葉でページを握る手に力がこもるのが手に取るようにわかる。

「そんな・・・じゃあ・・・ファナは—」

「ですが、諦めてはいけません」

絶望のティアにウルは励ますように言った。

「預言書と精霊に、初めて出会った場所を覚えていますか?」

「…陽だまりの…丘?」

ティアが力なくそういうとウルは大きく頷いた。

(まだまだ自分達にはわからないことばかり)

「そうです。あの場所は特別なのです」

(我々精霊を縛る、この枷。それを縛った者の正体)

「特別・・・?」

首を傾げるティア。その主人に言う。

「あそこは…陽だまりの丘はこの世界が創られた場所。創生の力がかすかだが残っているのです」

(そして一番不思議なのは——)

「その場所ならば、希望はあるでしょう。きっと奇跡は起きます」

ティアが目を輝かせて友人の書かれたページを大事そうに眺める。

とても大切な人なのだろう。

見ていてとてもほほえましい。

「ですが、預言書は今力を失っています。散った精霊をまた集めましょう」

「うん!」

元気に頷くティア。頼もしい主人である。


(本当に不思議なのは——)

「早く行こうよウル!」

早速タイル上に出現した転移装置に飛びのる気満々なティアは言う。

それに頷きながらウルは、またも解けない問題を復唱していた。

(我々全員に何故、そのときの記憶だけがないのか…)

ウルは悲しげに少し目を細めた。





Re: アヴァロンコード ( No.365 )
日時: 2012/12/11 22:43
名前: めた (ID: UcmONG3e)


 第八章 氷の精霊

—氷が大地を白く覆うとき
 御使いは再び見出される


ティアは雷の精霊を取り戻し、よしがんばるぞと意気込んでいた。

この調子ですべての精霊を・・・。

「ここは一体どこなのでしょう?」

知らぬうちに竜に囚われていたウルはティアに聞く。

出来事だけを話したので、詳しい場所を話してはいない。

ゆっくりと出口へ向かいながらティアはウルに説明する。

「ここはカレイラの天空塔の中だよ」

「…天空塔…フランネル城からそびえる塔ですね?」

さすが記憶力のいいこの精霊は前に案内したことを覚えていた。

「確か建国当時からある塔でしたね。とても高い塔で不思議に思っていたのですよ、何故あれほどの高さで崩れないのかと」

そういえばそうだなぁ、とティアは頷く。そもそもそんなこと微塵も思わなかったのだが・・・。

「てっぺんに水を張ることによりバランスを保っていたのですね。素晴らしい考えです」

きょとんとするティアにウルは細くしてくれた。

「つまり常に平らなところでは平等の水を張ることにより、重心を一定にしたのです。少しゆれても水の重みであまりゆれることはありません。太古の知恵ですね」

ふーん、水ってすごいなぁと相槌を打ちつつティアは、水があるのはペルケレが泳ぐためだと信じていた自分を追い出した。

そもそも、ペルケレは飼われていたのではないだろう。

だがはるか昔にクレルヴォにより生み出された竜である。

きっと人間に神の座を追われ、救いを求めようと四大精霊に模した彼らを作ったのだろう。

だがそれら四つの竜は精霊にもしただけで彼ら自身ではない。

きっとクレルヴォの思惑通り行かず、クレルヴォは倒されてしまった。

役目を失った竜達は勝手に散ったに違いない。

そしてその一匹、ペルケレは天空塔のてっぺんになぜか住み着いたのだろう。

「他の三人はどこだろう・・・?」

知っているかなと聞いてみるも、ウルは首を振った。

「存じませんね。ですが、なにやら世界に異変が起こっていると聞きます・・・それを引き起こしたのは私たちを捕らえる竜。その異変を追えばきっと見つかるはずですよ」

確かにそうだとティアは頷いた。

ひどい雷を追って天空に続く塔を上ればウルがいた。

ティアはデュランに聴いた言葉を思い出す。

それを一つずつ声に出して言っていく。

そのまま歩きながらテラスに向かっていった。

「四つの災害・・・激しい雷雨と季節はずれの雹。大量発生した魔物たち。休火山の突然の噴火」

「間違いありませんね・・・ですが最初に止めるべきなのはネアキのようです」

え?という風にウルを見上げると静かに指を指される。

その先を見れば、テラスの手すりの向こうにある光景が広がっている。

「雹・・・」

ローアンの街から北に寒々しい冷気が漂い、白く霧のかかるような雲から氷の塊が降り注いでいる。

ローアンの街にも降り注ぎ、その大きさは気のせいだろうかだんだん大きくなってきている。

「このままではあなたの頭ほどの雹が降ってしまいます・・・いえ、それ以上の雹がふるでしょう」

「そんな!このままじゃローアンの街がもっとぐちゃぐちゃに・・・」

ウルの言葉に悲鳴に似た声を出すティア。

「ネアキと最初に出会ったのはワーグリス砦でしたね。そこへ行ってみましょうか」



Re: アヴァロンコード ( No.366 )
日時: 2012/12/13 17:10
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「・・・どこに行くのですか?」

長い長い階段の末、ティアはやっとあと半周で地上に戻れるというところで立ち止まり方向転換した。

その手にはあるものが握られており、ティアはそれを返す気でいた。

「天空塔から帰る前にやることがあってね・・・」

後ろを振り返らずに言うティア。そのままずんずんと進み真っ白の扉をそっと押す。

そこには何もない空間が広がっている。

ただ、中央には五つの金の輪と床と同化した石版。

気配やら感覚であたりを探ったのだろう、この部屋にウルは首をかしげた。

「何か・・・気配がします・・・」

不安そうにつぶやいたウルに、ティアが首をかしげる番だった。

気配があるものは何もないが・・・もしかして守護円のことだろうか?

「それって守護円のこと?」

歩きながら言うも返事はない。

ティアが振り返れば、彼は地面のほうに顔を向けてなにやら考えている。

きっと守護円を見ているに違いない。

ティアはウルを放っておいて五つの円の中に入った。

そしてその中央の四角いタイルと化した金色の石版のくぼみに手に持っていた銀の宝珠をそっとはめ込んだ。

ことん とはめ込まれる音がして、それから何も起きない。

「ティア、そこから離れてください」

しゃがみこんでいたティアにウルが声をかけた。

静かな口調だが少し不安がっている。

素直に離れた彼女。すると次第に変化が起こって行く。

少し色を失っていた金の輪がティアの足が離れた途端ライトがつくように光を取り戻した。

外側から順に光を取り戻し、最後に金のうずまっていたタイルが光る。

「あれを守っていたのですね、この装置は・・・。鍵を戻したことにより息を吹き返したようです」

と、金の台座にはめ込まれた水晶がほっとするような色で輝き、立ち上がるように台座が地面から出てきた。

「これで元通り」

やるべきことを終えたティアは残りの階段を下りるべく外に出た。

「今、何時かなぁ?」

あまり人のいる時間でないといいけれど・・・。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照 6200 行きそう・・・いった?

Re: アヴァロンコード ( No.367 )
日時: 2012/12/13 21:11
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「ここを出たら・・・もうフランネル城なのですね?」

向こう側はもう廊下、というところまで戻ってきたティア。

ウルに頷いて、そっと耳をドアにくっつけて音を探る。

「誰もいないといいけど・・・」

だがさすが王宮のドアだ。防音仕様で何も音がしない。

「私が見にいきましょうか?」

するとウルが提案する。

「え・・・でも、見えるの?」

「長い間眼が見えないと、気配というもので分かるのですよ。安心してください」

心配そうに見るティアに、ウルは少しいたずらっぽそうに笑って(多分…)冗談であろうことをいう。

「それに・・・もし見つかったとしても、私が気絶させてしまえばいいですから」

「うん!…って、え?冗談だよね—」

かすかに開けた扉から外へ音もなく小さくなったウルが出て行く。

「冗談になればいいけど…ん?」

ウルのいたところに、金色のパリパリしたものがういている。

これは・・・雷?

空中に漂って、近寄ると静電気が感じ取れる。

なんの役に立つのだろうと見ていれば、その雷がピリッと動いた。

「! おいでってことかな」

すると頷くような雷にティアは微笑みかけると扉を押した。

廊下に出ると、ごろんと転がる騎士たちの姿。

ぎょっとするティアに申し訳ないような声が響く。

「すみません。あなたの足跡を発見した騎士を少し・・・」

確かに赤い絨毯の上には泥の靴後が点々と続いている。

追いかけてこなかったのが奇跡なぐらいである。

「すぐ起きるのかな・・・?」

そのそばにしゃがみこんで突っついてみるティア。

「それは、おそらくそうでしょう・・・ですがこの状況を誰かに目撃されると非常にまずいと思うのです」

「・・・そうだね。また、ポルターガイストの話題が出るかもね」


まずウルが最初に行き、必要あらばスタンガンの要領で人々を気絶させていき、すべて終わったあとにティアが追いかけていく方式で進んでいった。

「いいですよ、ティア。来てください」

声がかけられてティアは角を曲がっていく。

もうすぐ目当てのところ—牢獄への道にいける。

「ティア、考えておいてください」

「え?なにを?」

角を曲がりながらティアは首をひねった。

「我々はこれから囚われのネアキを助けに行きます。ですが、私には残念ながらレンポのように炎で暖めることも、ミエリのように植物で寒くないように覆うことは出来ません」

何も出来ない自分がはずかしい、そういった風につぶやいたウル。

「ネアキを捕えた竜はきっととても寒いところにいるはずです。凍てつくような場所・・・それなりに装備が必要ですよ。一度家に帰るという選択肢もあります」

うん・・・と頷いたティア。

だが人のいる中、自分の家には帰れない。

「わかった。ありがとう、アドバイスしてくれて」


Re: アヴァロンコード ( No.368 )
日時: 2012/12/13 22:19
名前: めた (ID: UcmONG3e)

牢獄へ行き、タワシのいる部屋に戻ってきたティア。

「おぉ、おぬしか・・・」

タワシはティアの姿を見ると金貨の山より声をかけてきた。

「こんにちは・・・というかこんばんわ?」

何時か分からないティアは挨拶に困っている。

「ふん、こんばんわだと?今何時だと思っておる」

タワシは鼻を鳴らし、金貨の山を書き分けた。

そして何かを救い出すと、それは金の時計であることが分かった。

それをティアに突き出し、時を教えてくれているようだ。

「けっこう・・・経ってる・・・」

かなり早朝からこの時間だとは・・・少し意外でティアはあせった。

「どうしよう、ウル。こんな時間だともう街には入れないよ。家には帰れない・・・」

「は?」

タワシには見えないウル。その彼に話しかけたためタワシはきょとんとしている。

もうなれっこの現象で、ティア自身も気にしないことにしていた。

「この部屋は・・・とても金属のにおいがします。金や銀などさまざまですね」

ウルは謎々のような口調でティアに言った。

彼自身もう答えは見つけているのだろう。穏やかな口調だ。

「うん・・・王様の宝をここに保管してるんだって。他にも王冠やらマントとか・・・」

ウルがにこりと微笑む。自分で言ってハッとした。

そうだ!ここには王様の暖かなケープやマントが転がっている!

「あの人物から借りられるとよいですが・・・」

タワシさんならきっと貸してくれる。

そう思って依頼したところ。

「宝をタダで・・・?ふん、ありえんわ」

ツンとそっぽを向いたタワシ。驚愕の表情のティア。

(ええ・・・どしよう・・・)

ウルを見上げると、こちらをん?という風に見下ろしぼそりとつぶやく。

「…時には餌で釣る。それも大切ですよティア」

「えさ・・・・?あ、クリームケーキ」

ティアがそういった途端。タワシの方がピクリと動いた。

「クリームケーキ・・・じゃと?」

すかさず振り向いたタワシに、ティアはにっと微笑む。

クリームケーキならば預言書からいくらでも出せる。

これを使ってあの王様のケープを手に入れられれば・・・!

「クリームケーキ百個と、あったかい王様のケープとマントを交換してください!」

すると、タワシはティアをじろじろ見た。

「どこに持ってるんじゃ、そんな数・・・ウソをつくとろくな事はないぞ?」

「チラつかせて見れはどうでしょうか?」

ウルに言われてさっと後ろを振り返ったティア。

そして金のおぼんを見つけるとそれに預言書をひっくり返すような感じでどさどさとクリームケーキを出現させていった。

「なにを・・・?!クリームケーキか!」

不審そうに見ていたタワシは100個近いクリームケーキに目を輝かせる。

そして金のおぼんに飛び掛る勢いで近寄ってきた。

だが—パチンと空中で電気が火花を散らした。

いてっとタワシが飛び跳ねる。

「金属は良いですね。電気伝導がとてもいい。さぁ、ティア。取引を」

金属に伝わった電気で顔をゆがめたタワシに、ティアは裂きh殿はなしを持ちかける。

「これと、その二つを交換です。いいですね?」

「あぁ、あぁいいとも!さっさとくれ!!」

待て を食らう犬の様にタワシは我慢の限界が来ているらしかった。

どうぞとおぼんを渡し、自分はケープとマントを手に入れた。

暖かく手触りのいいふかふかのもの。

「これで安心ですね。では、行きましょうか」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照 6 2 0 0 越えました!!
ありがとうございます!

ミニ情報といえば、最終章までもう長くありません。
精霊を取り戻す章は 7・8・9・10章。
これらはあんまり長くないです。
ここに来て公開ですが、ゲームでは全11章。
そしてこの小説ではゲームにはない12章で終わりの予定です。
プラス番外章で13章。
なんか、さみしいですね・・・・。

Re: アヴァロンコード ( No.369 )
日時: 2012/12/14 17:04
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアとウルはローアンの街には戻らず、そのまま抜け道を使ってグラナ平原へと出た。

吹きぬける風はいつもと違って肌寒い。

きっとネアキを封印する竜の仕業だ。雪でも降りそうな雲行きである。

「夜になれば寒さはもっと増すでしょう・・・急ぎましょうか」

「うん」

預言書に取り込んだケープとマント。別にコードスキャンするだけなら手に入れる必要などなかったのだが、力を失った預言書はバグを起こす危険性がある。

武器は素手攻撃があるからよいものの、防寒服がなくては死んでしまうだろう。

そういった理由で手に入れたこれらの装備をティアは興味津津で見ていた。

分厚く手触りの良い滑らかな材質で作られたマントとケープ。

どちらも襟元とすそに真っ白のふわふわしたものがついており暖かそうだ。

「・・・そんなに興味深いですか?」

わくわくした表情でそれらを見つめるティアにウルは言う。

ウルからしてみれば、手触りのいい少し格式のあるマント、くらいしか思わないのだが。

「うん!下町に住んでからはあんまりこういう服って着たことないんだー」

「そうなのですか・・・」

あんまり、と言ったことに少し違和感を持ちながら頷いたウル。

(下町に住む以前はよくこういう服を身に着けていた・・・ということだろうか?)

そう思いながらティアの腕の中でゆれるそれらの衣類を見ながら首をかしげる。

そういった服装を出来るほどの人物が、なぜゆえ下町に?

ティアは一体なぜカレイラに?両親も不在のようで、カレイラを案内されたときの家々を見ていると、ティアはあまり裕福ではない。

(両親は一体どこに・・・いるのだろうか・・・)

ティアは声や性格など感じたことを思い浮かべると、のほほんとしてあまり緊張感のない優しい少女。

正義感はあるけれど少し臆病で、感情が豊かだが泣き虫ではない。

(今回の主人も少し風変わりな方ですね・・・だがみな共通して優しい・・・)

ティアはしきりに雹によって害をなされた街と、封印されて力を奪われた精霊たち、預言書に取り込まれた友人を気にしている様だった。

「・・・・」先ほどまで雹について語り合っていたのだが少し無口になり、不安そうに銀の髪飾りに触れている。

「ねぇ、ウル」

そして不安げに口を開いた。

「どうしました?」

「・・・・早くみんなを助けなきゃね」

本当はこういいたかったのだろう。

——私に皆を助けることは出来るかな?

数秒黙って主人の顔を見た後、ウルは静かに頷く。

「大丈夫ですよ、あなたなら出来ます」


(もしかしたら…ティアならばあるいは…)

どの主人も誰も彼も、みな我々を大切にしてくれた——のは、自分の次の世界を作る使命のため—?

炎、森、氷、雷。

我々なくして世界は出来ない。
我々の力によって、世界は新しく創られ、そして壊れていく。

何のため・・・誰のため・・・。

いずれ来る正しき日まで、我々はこのままずっと、誰のために世界を創るのだ?

(我々を解放してくれるかもしれない)



Re: アヴァロンコード ( No.370 )
日時: 2012/12/14 17:44
名前: めた (ID: UcmONG3e)

世界の十字路まで戻ってきたティアとウル。

ここは、少しばかり緊張感のある通過となる。

「やっぱりいる・・・」

うわぁ、というように嫌な顔をしたティアの視線の先には数人の兵士。

みな仲良くカレイラへと続く国境線に立ち並んでいる。

しかもすぐそばには自分の家があり、やはり家に帰らなくてよかったと安堵した。

「どうします?また気絶させましょうか?」

わずかに電気をまとったウルがティアに聞くもののティアは賛成できない様だった。

草むらに身を隠し、わずかに見える視界で兵士らを監視したまま。

「それはそうしたいけど・・・ここは下町の人が多くいるの。目撃されたらその人も気絶させないといけないし。兵士はともかく、下町の人には雷の味を知ってほしくないんだぁ・・・」

遠い過去に世話になったであろう人々に情があるのか、ティアは踏み切れずにいるようだ。

「うまく見つからずに良く方法はありませんかね」

頭上に高く舞い上がったウルは、何かないかと探す。

気配を探るように枷で封印された両目を空へ向けた。

—風が冷たい。草花が急速に寒さでやられているようだ。

空にはおそらく薄暗い雲が立ち上っているのだろうか・・・。

「雲・・・。私に出来ること・・・雷・・・」

ぼそりとつぶやいてピンと頭上にひらめきのマークが浮かぶ。

すぐさま滑空し、不安げに兵士を見ているティアに告げた。

「え?それって安全だよね?」

「はい。少し驚かれるかもしれませんが、問題はありません」

わかった、とティアが頷いたのを確認しウルはティアに願ってもらう。

「雷を落として」

「了解しました」

ティアの言葉でウルは少し高く空に向かった。

地上では主人がそのタイミングを計っている。

主人が無事通過できるように、私がうまくやらないと。

いつもより格段に力が使え、迷いもせずにウルは空に静電気の広がる手を差し伸べる。

「雲がないのに雷とは、少しおかしな話ですが・・・」

そうひとりごちて力を使う。

パリッ と音がした。

自分では見えないけれど、幾重もの雷が枝分かれに空よりふっていく。

「な、なんだぁ?!」

悲鳴に似た声が聞こえるけれど、雷は彼らを攻撃しない。

ウルの思い描いたとおりに人々には落ちず、彼らの足元に何十もの金色の雷が滝のように落ちるだけ。

「うわ、うわあ?!」

驚いて飛び上がるもの。悲鳴を上げてわめくもの。おどおどと落ちる雷を凝視するもの。

リアクションはさまざまだ。

「ウル、もういいよ。ありがとう」

主人の声が聞こえ、ウルは手を下ろした。

すぐさま雷が溶けて、悲鳴も止まる。しばしの沈黙の後兵士たちが顔を見合わせて言い合う。

「なんだったんだよ!?今のは!」「雷雲なんてないぞ?!」「雷のポルターガイスト?!」

だがどうやらポルターガイストに仲間入りをしたらしい。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

この章微妙に矢印が入るかも。
精霊たちの不思議がっている 謎 がメインかも。
でも延々とワーグリス砦へ歩いているのを書くより、謎を精霊視点で書いたほうがいいかと思いまして。



Re: アヴァロンコード ( No.371 )
日時: 2012/12/14 18:43
名前: めた (ID: UcmONG3e)


 エウィグ 001


我々は長い間一緒であり、最初から四人だった。

けれど、それも定かじゃない。

気づいたら、ただそこにいた。二番目の世界に。


「なーなー、これってなんだよ?俺の火でも溶けないし・・・」

手を封印されたレンポがうっとうしいという表情いっぱいに問う。

彼の手はひじまですっぽり石のような何か・・・鉄だろうか?それに飲み込まれている。

「わかんない。私も足を縛られて・・・満足に動けない」

ミエリが足に絡みついた鎖を取ろうと引っ張っている。

だが足首をがっちり固定されて鎖は取れる気配がない。

「疲れた・・・もうだめ」

ミエリは諦めたように羽を休めた。

そして真っ暗に近い岩に座り込んだ。

「ネアキ・・・?どこにいるの?」

そして薄暗い中でネアキの返事を待つ。

だが聞こえてくるのは苦しそうに息をする音。

「ウル?ネアキ?」

「怪我でもしたのか・・・?」

暗い中、仲間の姿が見えないととても不安だ。

だがその姿が徐々に見えてくる。

あれは・・・ネアキ?

暗いのでよく見えないけれど誰かうずくまっている。

「何だネアキ、いるなら返事しろよ」

腕をかせで縛られて不機嫌そうにレンポが言った。

だが、こちらを見たネアキはやはり何も言わない。

「ネアキ・・・?それ、その首、一体・・・」

ミエリがそっと近寄って手で首もとの枷に触れた。

びくともしない。ネアキは黄土色の目でミエリを見つめ返している。

「しゃべれないの・・・?」

こくんと頷いたネアキ。精霊たちは不安げに顔を見あわせた。

「誰がこんなこと・・・ウル、は?」

憎憎しげに言うレンポが、ウルを探そうときょろきょろする。

すると、ネアキが黙ったまますっと青白い指で奥を指した。

『…あ…っち…』

かなり苦しい声音で言うネアキ。しゃべりずらそうにいらだっている。

「あっち・・・?って言ったんだよな?よし、早く合流しようぜ」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

エウィグ 精霊たちの疑問の話


Re: アヴァロンコード ( No.372 )
日時: 2012/12/14 19:31
名前: めた (ID: UcmONG3e)

 エウィグ 002

我々の記憶はあった。

けれどそれはお互いのことと、自分が誰かということ。

だが、肝心なこと—誰も覚えていない・・・



「ウル?」

暗闇の中、発光するような金髪が見える。

「レンポですか?ミエリやネアキは・・・?」

地面に座り込み、震える手であたりに触れている。

「ああ、ちゃんといるぞ!でもネアキが声が出せねぇ」

「声が出せない・・・?」

薄暗い中、こちらを見ないウルに精霊たちは近寄った。

ウルは相変わらず何か不可思議な行動を取っている。

手であたりを探る・・・まるで、目が見えないような・・・

「オレ達、手足とか鎖で縛られてるんだ・・・おい?どうし—」

近寄ってビックリした。ウルの顔。

目の付近に大きな何かが縛りついている。

これでは目が見えないではないか。

「!! 目、みえて、ないのか?」

「・・・はい。どうなっているのですか?何故こんなことに?」

ウルがその枷に手で触れる。外れる気配もない。

「私たちも分からないの。ネアキもしゃべれないし・・・誰がこんな酷い事を・・・」

ネアキをつれてそっと飛んできたミエリ。

その足からは常に鎖のこすれる音がする。

「オレの火でも溶かせないんだ。どうすれば取れるんだよ?」

完全にパニック状態のレンポが言う。

今まで溶かせないものは何一つなかったはず。

「わかりません・・・ただ、なにか、気配を・・・」

ウルは見えない目でのろのろと這い上がった。

そして躓きながらどこかに歩いていく。

「気配?」

「何か感じます。行かなくては・・・」

精霊たちは引っ張られるような感覚で何かに惹かれていった。



Re: アヴァロンコード ( No.373 )
日時: 2012/12/14 20:14
名前: めた (ID: UcmONG3e)

 エウィグ 003

二番目の世界を創った。

預言書を開いたのは我々。

ということは、一番目の世界—始まりの世界は滅んだらしい。



身体の一部を縛られた精霊たちは不自由な身体を引きずって自分達を呼ぶものの元に行った。

『…これ…は…』

ミエリに寄りかかりながら、ネアキが苦しげに声を出した。

その黄土色の視線の先には光を浴びて輝く書物がある。

赤い表紙に目玉のついた書物。

それはとても分厚く、目玉は不安げにきょろきょろしている。

「なにかしらあれ?」

ネアキの声に反応してミエリがそれを覗き込む。

ウルは悲しげに目元に手をやって、説明を求めた。

「すみません、誰か状況の報告を・・・」

「あぁ、真っ赤な本だな。それに目がついててけっこう分厚いぜ」

それをつつくように手枷で触れると、突如本が開いた。

ページがばらばらと開け、精霊たちは痛みに悲鳴を上げた。

『…な、に…した…の…!』

枷が一掃深く食い込むような痛みに精霊たちは痛みに息を詰まらせた。

ばさっと音がして、預言書から四つの真っ黒の鎖が飛び出してきてそれぞれに精霊を縛りつけた。

「一体・・・なにを—」

目の見えないウルは何が起こったかわからない。

仲間の悲鳴と苦しげな悲鳴に、みんなにも同じことが起っているらしいとわかる。

真っ黒の長い鎖が完全に絡みついて鍵のかけられた音がしたと思うと、ふっと黒い鎖が消えた。

身体を解放された彼らは赤い本を眉根を寄せてにらむ。

「なんだよ、今の!」

「黒い鎖が・・・でも消えて・・・」

すると、目の前で真っ赤な本がぴかりと光った。

「?!また何か起こるの?!」

すると突如ふわりと本が空中に浮き出し、何もかも頭の中ですることが入ってくる。

<<預言書に縛られし罪深き精霊よ その力を持って正しき世界を>>

まばゆい光の中、預言書から沢山の価値あるものがあふれ出す。

「なんだよ、これ・・・」

それらをあっけに取られてみていると、またも頭の中に。

<<すべてのそろった いずれ来る正しき世界を 創造するのだ>>




 






Re: アヴァロンコード ( No.374 )
日時: 2012/12/14 20:58
名前: めた (ID: UcmONG3e)

 エウィグ 004

我々は預言書に縛られ、預言書に命じられた。

いずれ来る正しき日まで世界を創ることを。

—なぜ、我々を預言書は 罪深き精霊と呼んだのだろうか・・・



そしてその直後、預言書に取り込まれていた価値あるもので満たされた世界は、我々の力あって世界として成り立った。

二番目の世界だと分かった。

その世界が出来上がると、急に中間達が消えていく。

「!?」

ミエリもネアキもウルも、みんな目の前からどこかに飛び去った。

「どこいくんだよ!?」

叫んで手を伸ばそうとしても、じゃりっと鎖の音がして動きが取れない。

「え?」驚いてみれば、赤い預言書がレンポの手枷の重石に食いついている。

ぎょっとして目を見開くも、預言書はぎろりとした目で見返すのみ。

徐々に噛み付くように飲み込まれる枷。

このままでは・・・食われる。

「オマエ・・・なんなんだよ・・・!」

<<役目を終えたなら 大人しく眠りにつけ>>

預言書からそんな声が聞こえた気がして歯を食いしばる。

抗えない。抵抗するほどの力も、預言書にセーブされて使えない。

<<世界の終わりに 役目は再び来る>>

「力を奪いやがって・・・解放しろ!」

容赦なしに預言書は炎の精霊を引きずり込んだ。

そしてしおりごと飲み込んで、その姿を薄れさせていく。

<<罪深きおまえ達を 受け入れる主人が来るとき 枷は外れるだろう>>



そのときから何度も繰り返した。

世界を創っては滅ばせ、また創るのだ。

「いつまで繰り返すの」

「いずれ来る正しき日まで・・・誰のために・・・?」

「オレ達の罪って何?」

『…どの世界に…満足するの…?』


沢山の疑問。わからない、分からないことだらけ。

あれ以来預言書は何も教えてくれない。

数え切れないほど世界は創られた。だがまだ満足しないらしい。

枷はもう外れないのでは?

いずれ来る正しき日も来ないのでは?

我々を縛りつけた張本人とその思惑も分からないのでは?

なくした記憶。

最初の世界で一体何が起こったのか。

罪深きとはどういうこと?


分からないことだらけ。
分からないことは嫌いなのに。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 エウィグ 終わり

 四大精霊ということで『エウィグ』は四つで終わりです。
 なにこれ、解決してないじゃん、と思われて当然です。
 まだ解決はしません。なぞについて整理しただけです。
 どうやって預言書に縛られたのか、いつ枷のことを知ったのか、の話です。
 
 エウィグ=永遠
 エターナルってフランス語だったんですね。はじめて知った

 そして参照が 6 3 0 0 越えました!!
 見てくださってありがとうございます!
 次回より本編再開。

Re: アヴァロンコード ( No.375 )
日時: 2012/12/16 12:04
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「もうすぐワーグリス砦だよ」

急になった崖坂を登りながらティアが言う。

今はもうすぐ空が赤くなる時刻。山頂なので風がとても冷たい。

しかし、それだけが理由ではない。

「また降って来たようですね、雹・・・」

ぱらぱらと音が聞こえて、ウルは見えない両目を空に向けた。

寒さは苦手でもないけれど、出来れば常温だとありがたい。

「寒くなってきたね・・・」

ティアは吐く息が真っ白になってきた頃、やっとケープを羽織った。

本当は地下にある最も寒いネアキのいる場所まで耐えられるように羽織りたくなかったのだが仕方がない。

 景色が真っ白くなり、あたりに積もるのは激しく降る雹ばかり。

柔らかでどこか優しげのある雪ならばよかったのに、今なおふるのは誰も寄せ付けない雹だけ。

時折頭にぶつかり、けっこう痛い。

ケープにはフードはなく、帽子が恋しい。

「あれが砦ですね。早く行きましょう」

足元のごつごつした雹を踏みしめて歩いていくとやっと見えてきたワーグリス砦。

降りしきる雹のせいでその姿は鮮明ではないが、間違いなくついたらしい。

そのかすかな姿に向かって走ると、扉は開いていた。

中に入ると屋根がありとてもありがたい。

だが、寒さは余計厳しくなった。ティアの吐く息は真っ白だ。

「寒さが強まりましたね」

寒がりでないウルも、これにはちょっとたじろぐ寒さだった。

「ネアキはきっとこの下にいる」

ティアは寒さで動きにくい関節を酷使してそろそろと地下に降りていった。

もう入り口から尋常じゃない冷気が漂ってくる。

「この先で間違いありませんね。大丈夫でしょうか・・・」

二人して冷気漂うその入り口を見て、少し不安になる。

いくら彼らの主人だとしても、生身の人間がこの中に入って大丈夫だろうか?

凍死しないだろうか。

「とにかく、いこう」

ティアはケープとマントを羽織、足を踏み出して霧の中に入るように冷気に身を通じた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照 6 4 0 0 越えました!!
ありがとうございます、皆さん!あと100で6500ですね。








Re: アヴァロンコード ( No.376 )
日時: 2012/12/16 13:35
名前: めた (ID: UcmONG3e)

トルナック氷洞に再び入る日が来るなどティアは思わなかっただろう。

一歩足を踏み出すと、身にまとわりつく刺すような冷たさ。

身体の節々が凍り付いてしまったかのように動きが鈍くなる。

そして何より、息を吸い込んだ途端に肺が凍りつくようなあの嫌な感覚に眉根を寄せた。

「ここでは息をじかに吸い込むと危険です。肺が凍ってしまう」

ウルが肌をさすような寒さの中、五感が鈍り不安げな表情で言う。

目が見えない上、肌は寒さで麻痺し、耳も痛い。嗅覚も寒くて無理だ。

どれが正しい情報なのか分からない。

ティアは頷き、マントを顔のした部分まで引き上げた。

目だけ出た格好だと、少し温かい。寒さでピリピリしていた肌の感触が徐々に戻る。

「クレパスに注意してください。ここには以前来たことがあるのですね?」

手探りで進むティアにウルは聞く。

一度きたことのある場所ならば、ティアを凍死させる前にネアキの元へいけるかもしれないと期待したからだ。

「うん、あの時は確かまっすぐ行けばついたはず」

ティアは不安げな表情のウルを励ますように確かな足取りで進んでいった。

(この狭い道を進んでいけばいいんだよね?)

冷気がはびこりろくに前も見えない。

手探りで進むと手と氷が張り付いてしまう。

皮膚の水分が氷の冷たさを吸収し、同化しようとしたためだ。

<つまり水はお互いの温度を均一にしようとしたため手の水分の温度と氷の温度を同じにしようとしたわけです。そして手の表面の水分が氷の温度を一気に吸収し、凍りついたのです。なので氷と手の水が凍り付いて同化した。詳しくは物理学の熱分野について調べれば出ます>

そのせいで、右手の指から少し血が出た。

「怪我したのですか?」

ティアはひどく痛む小さな傷を見て頷いた。

「凍傷の原因となります。早く手当てをしなければ」

ウルに言われ、預言書から使えそうなものを引っ張り出したティア。

だが何かいまひとつで、手当てできそうにない。

なので、砂漠でアンワールに手当てしてもらった包帯をコードスキャンして増やした。

その傷はエエリの薬で直りが早く、ほぼ完治していた。

その包帯たちを指に巻きつけて固定すると、冷たい空気と遮断されて痛みが少し和らいだ。

「この包帯で少しは持ちますが・・・長居は無用です。はやくネアキの元へ」


ティアは頷き、マントを深く羽織った。
そして手に包帯をぐるぐる巻きに巻きつけて壁伝いに進んでいった。

(このまま行けばきっと・・・ネアキがいる)




Re: アヴァロンコード ( No.377 )
日時: 2012/12/16 15:51
名前: めた (ID: UcmONG3e)

あたりが再び狭くなり、広かった氷洞に美しい氷の花たちが顔をのぞかせる。

ここは・・・!!

「前にも来たことがあるよ、ウル!」

状況把握が今までのように出来ないウルに、ティアは喜びを隠さずに叫んだ。

「そうですか?安心しました・・・」

その声を聞いて、神経質そうに眉を寄せていたウルにもいつものような穏やかな笑みが広がる。

「多分大丈夫だよ、このまますすんで行けばきっと・・・」

ティアは通路脇から飛び出す美しくはかない結晶たちを懐かしげに見つめた。

氷の結晶たちはそんなティアの視線も諸共せず、なんら変わりない美しさを保っている。

「もうすぐだよ、ウル」

そのまま歩いていけばまた見慣れた空間。

ティアは預言書から剣を取り出し、さっと構えた。

剣魔アモルフェスの封印されていた場所。

ネアキの眠っていた場所。

美しい水色の氷が陣取った、比較的広い場所だった。

記憶がまざまざとよみがえり、ティアは剣を構えなおした。

「もう、すぐそこなのですね」

そういった雰囲気を掴んだウルがそっと耳打ちする。

ティアは黙って頷いた。

「・・・・」緊張を高めるティアに反してウルは不審げに眉を寄せた。

(気のせい・・・だと良いけれど)






Re: アヴァロンコード ( No.378 )
日時: 2012/12/17 17:02
名前: めた (ID: UcmONG3e)

参照 6,500 越えました!!
あと500で7000ですね!うれしかったんでメインの前に書いてしまいましたが・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ティアは異変を感じ取ったウルとは裏腹に、緊張に身を投じていた。

なので、通常ならば気づく点をいくつも見落としていた。

「いくよっ」

剣を握る手に力を込めて、ティアは転がりだすように封印の間に飛び込んだ。

やけに乾いた音で靴底が氷を蹴り、ティアはその反響音にびくつきあたりを方位磁石のようにすばやく見回した。

ぐるぐるとその頭を回転させて四方を確認するも、美しい氷の彫像が変わらぬ姿でたたずんでいる以外情報はなかった。

「どういう、こと?」

怪訝な表情で剣をおろしたティア。

ここにネアキがいるというのに、竜の気配はまったくない。

それどころかネアキの姿さえ確認できない。

「ここで、あってるはずなのに・・・ちゃんと氷の彫像だってあるのに!」

ネアキがいない。その事実にパニックを起こしたティアは混乱のさなかにいた。

落ち着かせるように銀の髪飾りに手を振れ、めまぐるしく視線をあたりに向ける。

(そうだよ、ここであってるんだよ。だってこの前はここにネアキがいたんだから!)

なのに何故!ネアキはいないのだ?

そんなティアに、ウルは静かに声をかけた。

あたりに視線を向けるような仕儀鎖をした後、やはりそうかと納得したような表情で。

「ティア」

その落ち着いた声は水色の氷の壁に反響して、心の中に直接話しかけてくるかのように聞こえた。

ティアはそっとウルに視線を落とす。

ウルはティアがこちらを向くのを確認した後、励ますようにしゃべった。

「ここにネアキはいません」

「・・・でも—」

静かな口調にティアは悔しげに表情を変えた。

間違っていないはずなのに。何故ネアキはいないのだ?

弁解するように口を開いた。

「でも、前はここにいたの・・・この場所で、あの氷のところにネアキは・・・」

ウルの表情を見ながらいった言葉は、語尾が薄れていった。

そして穏やかな表情からにじむようにあふれてくる不安げな表情に気づき、はっと確信した。

「ここに、ネアキはいない・・・」

その言葉をつぶやいた途端、急に焦燥感に狩られた。

ここまで、歩いてきた。けれど、それは水の泡。とんだ徒労だったわけだ。

(ネアキはいない・・・ここにはいなかった・・・)

認めるとつらい。もうほかに心当たりがない今、ネアキをどうやって探せばいい?

「気づきませんか、ティア」

不意にウルが声を上げた。現実を直視したティアにならば、分かってもらえるといった口調だ。

「ここは—…」

言いかけたウルの声と重なるようにティアが後を引き取った。

「…—ネアキがいるには暖かすぎる」

辺りをもう一度見回して、気づかなかった自分に驚いた。

張り詰めた空気は停止状態で、トルナック氷洞の入り口よりも寒くない。

囚われたネアキの力を縦横武人に使いまくる竜にしては、何と生ぬるいことか。

「諦めないでください、ティア。ネアキを探すには—」

ウルがティアを励ますように理にかなった捜索方法を提案する。

すなわち—。

「とても寒いところへ向かえばいいのです」



Re: アヴァロンコード ( No.379 )
日時: 2012/12/17 18:02
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアはきびすを返し、ウルと共に寒いと感じる場所の捜索を行っていた。

寒い。肌が急激な体温低下により感じる触覚を駆使した感覚。

それは肌を刺すような冷たさであり、時にはその感覚さえ麻痺させるほど痛く熱い。

「どうして火傷したみたいに痛いの?」

ぐるぐると巻いた包帯の隙間から、わずかにのぞいていた指が凍り触れ激しい熱さに怪我を負ったティアはウルに問いかけた。

その損傷部分はまさに火傷と同じように赤く、はれぼったくなっている。

「凍傷、というのをご存知ですか?おそらくそれでしょう」

ぐるぐるとその部分にも包帯を巻きつけるティアにウルは首をかしげて聞く。

「聞いた事はあるよ・・・名前だけね」

「表皮の細胞が死に、痛むのです。その痛みの刺激を、脳が熱さによる痛みだと錯覚するからですね」

ウルはティアの怪訝な表情を諸共せず説明をした。

「細胞、が死んだ・・・・・・」

指の表面上の話ではあるが、知らぬうちに細胞がそんなことになったと知り、なんともいえない気分のティア。

「次いでですが、低温火傷と凍傷の違いを説明しましょうか」

じーっと指の先を見つめるティアにウルはつづけた。

「低温火傷は間違われやすい言葉です。凍傷のことを、低温火傷といってしまう人も多くいます」

せっかくの説明だ、聞いとこう、ティアは視線をウルに戻し頷いた。

凍てつく寒さで預言書が凍りつかないようにかかえなおし。熱心に聞く。

「低温火傷は、体温から少し低い温度で起こる火傷のことです。通常ならば起きない火傷。それによって起こる火傷を低温火傷というのです。例を挙げれば、温かな飲み物入りのコップを長時間持ち続ける、などでしょうか」

ふーん、そうなんだとティアは頷いた。

「じゃあ、冷たいものをさわって火傷みたいになるのは低温火傷じゃないんだね・・・」

豆知識を聞き流しながら、歩いていたティアはふと足を止める。

ウルも、黙り込んで見えぬ両目を壁に向けた。

「これ、は・・・」

そのウルの喉から、かすれた声が出てくる。

「行き止まり、みたいだね」

ティアが無表情に近い表情でそれに答えた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

凍傷 低温火傷 こいつらの話は本編と全然関係ないです。
ドライアイスで低温火傷したー、ではなく、正しくはドライアイスで凍傷になったー、ですね。

Re: アヴァロンコード ( No.380 )
日時: 2012/12/17 18:46
名前: めた (ID: UcmONG3e)

硬い氷で閉ざされた壁。行き止まり。

その壁の前に両手を突き出して、叩いてみた。

ごんごん、鈍い音が重い音を出し行き止まりだ、と告げているかの様。

「道を間違えたかな」

その壁に背を向けて、ウルに首をかしげて聞いてみるもウルは頷かない。

「道と言える代物がないのが、痛いところですね」

代わりに嘆くような返事が返ってきた。

彼らは寒い冷気と共にここまでやってきた。

つめたい息吹がこの氷洞の中に流れ、おびただしい霜と氷結を起こしているのだ。

彼女の足元も、そこに長時間立っていれば床と接着されてしまうほど凍てついていた。

微弱だがかすかに流れる冷気の風に乗ってきたわけだが・・・。

ティアは困り顔でもう一度壁を見た。

鏡のように反射する、美しい水色の巨大な壁。

その色はとても深く、また距離もけっこうあるのだろうか、透ける事はない。

そのもっと奥を見ようと思ったのだが、その氷の表面から漂う寒さに気が引けた。

「どうしたものですかね。間違ってはいないはずなのに」

ウルはしきりにその壁に興味を持っている様で、見透かすようにそれを見つめる。

「この壁、とても寒く感じます」

あたりを探っていたティアに振り返らずに言ったウルの言葉。

ティアは水色の世界から顔を上げ、ウルの発光するような姿に目を向けた。

「・・・本当だ。すこし、周りと違う」

包帯でぐるぐる巻きにした簡易手袋をしたティアがその壁に触れると、氷が拒否するようにその包帯もろとも凍らせようとした。

「!!」

ビックリしたティアは、だが接合されてしまった包帯の束に目をやった。

凍り付いて硬くなった包帯たちは、ほどけてしまった形で徐々に凍り付いていく。

慌てて振りほどこうと振ったティアの手までも凍りつきそうになったとき、銃声のように乾いた音がティアを救った。

水色の氷に金色の光がひらめき、硬くもろい氷の包帯を叩き壊した。

ウルの雷だった。

「大丈夫でしたか?」

少しあせりのある声で聞かれ、ティアは目を見開いたまま頷いた。

もう少しで凍りづけにされるところだった・・・。

「ありがとう・・・」



ページが26いった!

Re: アヴァロンコード ( No.381 )
日時: 2012/12/17 19:51
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「ねぇ、ウル。今のは・・・今の氷は・・・」

やっと落ち着いてしゃべれるようになったとき、ティアは真っ先にこの言葉を口にした。

ウルもおそらく分かったはずだ。
この力は・・・この氷は・・・

「きっとそうです。ネアキの力を、感じました」

二人ともその生ける壁に身体を向けたまま会話していた。

ネアキの力を奪った竜による、通行妨害。

「さっきやったみたいに出来る?」

ポツリとつぶやいた声に、ウルはなんら懸念も抱かずにはいと答えた。

主語のない言葉だったのだが、主人と精霊との間に、もはやそれは必要なかった。

「それでは、呪詛を・・・」

縛られる力を使うときに、その束縛をゆるくしてもらえるのは主人の願う時のみ。

さすがの大精霊も、縛られた今、主人の願いなしに精霊魔法を使うのはデメリットが多すぎる。

「雷で、この氷の壁をくずして」

ティアのその願いにより、縛り付ける見えない黒い鎖が緩められる。

だが確かに鎖は存在するので、本来の力ほどは出せないけれど・・・

突如水色の美しき青の世界に、金色の光が走り出す。

それはジグザグに、自由奔放にウルとティアの周りに幾何学模様を描きながら集まっていく。

「・・・!」

その量はおびただしく、金に黄緑に、自ら発光する蛍光色に色を変えながら水色の世界を侵食していく。

スパークの音。はじける音。パチパチ言う。

やがて世界が金色に染まり、めまぐるしく渦巻いていた電磁波の海も雷の槍も、煌々と光を放った。

どれもこれも一瞬の出来事だったのに、ティアには長く感じられた。

そして茶色の瞳に金の筋を映りこませながら感動に似た表情で見つめ続けた。

炸裂音がとどろき、光の速さで何かが動いたらしかった。

幾何学模様の渦は一瞬で電撃を放ち、一瞬で壁を破壊した。

破壊が終わると、こーんと崩れて砕ける氷の音しかしない。

破壊と同時に消えうせた美しい雷光たちも、瞬きした後には姿さえなかった。

「これで通れますよ」

すこし上ずった声でウルが言った。少し疲れたのだろうか。

それとも久しぶりに力が使えて、若干うれしいのかもしれない。

「きれいだった、金色の・・・くもの巣みたいな幾何学模様!」

「そうですか?恐縮ですね」

とにかく、ふたりはやっと氷の壁を抜け、ネアキを封じる竜の元へ歩き出した。



Re: アヴァロンコード ( No.382 )
日時: 2012/12/18 15:24
名前: めた (ID: UcmONG3e)

砕け散った氷の壁。その分厚い欠片を飛び越して先へ進んだ。

「う、さむっ」

急激な温度変化により、ティアは思わず震え上がった。

「間違いありません、この先にネアキが・・・」

マントを身体に巻きつけながら震えるティアに、ウルは心配そうにそういった。

びゅうびゅうとは行かないが、とても冷たい冷気が霧のように迎えた。

北風よりももっと冷たい。

だが耐えられないわけではない。ティアは吹き付ける冷たい風に立ち向かうように、風を切りながら歩いた。

 そのまま寒さに抗って進んでいくと、あたりの景色に違いが見えてきた。

水色の世界一色だったのが、クリアになり始めた。

それが一体どういうことかというと・・・

「つ、氷柱・・・?それもあんなに沢山!」

ティアがビックリして叫んだ。

もちろん、カレイラでも雪は降るし冬も来る。氷柱だって珍しくない。

雪が降れば、雪祭りをするし、氷の結晶を使って彫像を作ることもある。

カレイラの子供たちは皆、雪が大好きなのである。

だが、雪や冬を知るティアでもそれらには驚いた。

ウルとティア、二人の目の前に広がる景色。

震えが走るほど美しい青のグラデーションであった。

複雑な壁にはおびただしい霜が張り付き、海の青よりも見事な氷が、まるでレンガのように凍り付いていた。

その凹凸部分には太く透明な氷柱がぶら下がっており、物音を立てても落ちそうにないほど凍り付いている。

だが、なにも氷柱は下方向ばかり向いているわけでもなかった。

ティアの足元、氷の表面からも植物が芽を吹くように、牙をむいているのだ。

その尖りようといえば、ティアの持つ剣と同等くらいだ。

「すごい・・・きれいだけど」

吐く息は瞬時に凍りつき、きらきらと美しくダイヤモンドのように輝いている。

その分、吸い込んだ空気は肺を刺すようにつめたい。

「なんだかとても厳しい感じ・・・」

ティアが透明かつ美しき氷の氷洞の最深部を眺めていると、ウルが横から口を挟む。

「氷は、唯一サミアドのまじない師が手に付けられなかったものです」

「? オオリでも?」

ティアが少し驚いたように振り替える。

「おそらく・・・。氷はまじない師のものになることはありませんでした。長い年月をかけてその術を取り込もうとしても、暖かい気候にいたサミアドの術師たちにはできませんでした」

たしかに、彼らの力でも水は供給できないらしかった。

近くに水の沸くオアシスがあり、彼らのうち誰かがせっせと採取しに行くのだ。

「氷はどこにでもあるわけではありません。とても繊細なのです。ですが唯一、支配されなかった力なのです」

なんで?そういったように首をかしげるティアに。

「ネアキの力はとても特殊です。氷とは水よりも扱いにくいものです。水は柔軟で、どんな扱いを受けても姿を変えて落ち着いていますが、氷は乱暴に扱えば砕け散る。優しく扱えば氷付けにされる。そのような力だからこそ、誰にも扱えないのだと思います」

そう、推測を口にした。

それは同時にティアにネアキは扱いにくい、といっているようなものでもあり、少し複雑になる。

あっているといえばそうだが、長い年月生きてきた仲間をそういうのは少し違った気もする。

「でも、氷はきれいだね」

ティアは目の前の石畳のような氷に足ををかけ、必死に登っていった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照 6600!!

もしかしたら6666を目撃できるかもしれない!
オーメンみたいですよね。
オーメンの666は三人の悪魔を意味しているらしいです。
名前は忘れましたが。



Re: アヴァロンコード ( No.383 )
日時: 2012/12/18 15:56
名前: めた (ID: UcmONG3e)

完璧に凍りつく絶壁を登頂し終わると、次に見えてきたのは少し薄暗い場所。

だが不思議なことに足元はほのかに明るい。

ごつごつした巨大な岩がいくつも転がっており、氷はそれらを食おうとするかのように張り付いている。

しかも足元には、妙な亀裂が走っており少し不安げにその上を歩いた。

漂う冷気はまだそこまで強くないが、ネアキが封印されていた場所に比べると格段に気温は下がっていた。

「見て、あんなところにもあるよ」

「氷柱、ですか」

目の見えないウルに対してその言葉はいささかおかしかったが、ウルは普通に答える。

気配、そういった第六感により、ティアがきずかないほど会話は成り立っていた。

彼らの見上げた天井には、大蛇の牙のような氷柱があり、落ちてくればひとたまりもない。

それらが無数に天井を支配していた。

「また壁ですか」

また深く進んでいけば、
ぴっちりと固定された氷の壁が現れた。

それも、三つほどある。

「どれが一番冷たく感じる?」

三つ並んだ氷の壁はどれも凍り付いており、ほとんど変わらないくらいつめたい。

肌で分かる冷たさを感じるため、ティアは包帯手袋を取り、表面に触れないように気をつけながら手をかざした。

「・・・全部冷たく感じる」

ティアは困ったようにそういった。

「こまりましたね。それでは、いっそのこと・・・」

ぜんぜんへこたれていないウルはティアを見上げた。

「すべて破壊する。もしくは、炎のコードが必要ですね」

そうさらりと告げた。


Re: アヴァロンコード ( No.384 )
日時: 2012/12/18 18:40
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ウルの力を酷使してすべて破壊してもよかった。

けれどティアは炎のコードを探し出した。

時間はかかるかもしれないが、精霊を道具のように酷使するのはいやだった。

「あったよ。これで全部」

格子状のメンタルマップにありったけの炎のコードを組み込ませると、瞬時にティアの剣が燃え上がる。

ウルはその熱を感じて頷いた。

「ネアキの力といえど、竜が奪った力。すべて使いこなせたわけではありませんからね、もっとも寒い氷以外は切れるはずです」

ウルにそういわれて、ティアは頷き、のぞきこむように三つの氷の壁の前に立った。

ひんやりとした冷気が、燃える剣によってわずかにかき消されていく。

「斬ってください、ティア」

ウルのその言葉に、ティアは日本刀で叩ききるように氷に剣を突き出した。

フシュー

っと熱により溶け出す氷の蒸気へと変換する音が響く。

抵抗するように抗うこともなく、氷はすんなり解けてしまい後には水溜りが出来る。

だがそれも凍りつき、つるつると滑る鏡の表面のようになっている。

ティアは剣をさっとフリ、視線を次に向けた。

これではない。

ウルのそういった黙認の声が聞こえたような気がしてティアはさっと剣をふるった。

さくりと染込むように剣が刺さり、じわじわと熱で溶かす。

だが、後から後から溶け出す水が凍り付いて、ぱきぱきと音を立てた。

「! ここ?」

そのまま剣を斜めに動かして切り裂こうとするも、氷は剣に噛み付き、その燃える刀身を氷で覆っていく。

「なっ 燃えてるのに!」

危険を察知して手を離したティアは唖然とする。

確かに燃えている剣が、氷に飲み込まれて凍てついていくのだ。

赤く揺らめく火ごと空色に凍りついた今、確信した。

サファイアの中にルビーがあるような不思議な宝石を見るような目で。

「これが、ネアキのいる場所を封鎖している氷」

そして、ウルに視線を向けて本日二度目の願いを口にした。

詠唱と共に、再び美しい世界に金色の稲妻が走る。

ぼろっと、氷が崩れていった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

オーメン+6 無事目撃できました!!(つまり6666
間に合ってよかった・・・

Re: アヴァロンコード ( No.385 )
日時: 2012/12/18 20:44
名前: めた (ID: UcmONG3e)

二つ目の妨害を受けた後、寒さは厳しさを増した。

丘の上に経ち続けているような錯覚を起こすほどの風が絶え間なく吹いてくる。

「・・・っ」

それらに耐えようとマントを目深にかぶり、ムダだとわかっていながらもウルをかばいながら進んでいった。

預言書は水に弱いが、氷にはどうなのだろう?

そもそも精霊の本体というのは、預言書に挟まっているしおりなのだろうか?

クレルヴォに飛散させられたときにも、いったんしおりに戻ったのだから、本体はしおりなのだろうか?

それとも、縛られる縛られると、よく精霊たちが言っていたのを思い出して、しおりに閉じ込められて枷で縛られたのだろうか?

「どうしたのですか?」

若干かばわれ気味のウルが、ティアの手の影から顔をひょこッと出した。

そして首をかしげてティアを見る。

それにちょっと驚いてティアは目を丸くする。

ウルの第六間というものはずば抜けて鋭いらしい。

「何で分かったの?」

きょとんとしてウルが—枷がなければ目をぱちくりしたことだろう—答えた。

「今まで、ずっと仲間達(せいれい)と共に預言書の持ち主に仕えてきました。それで、何か聞きたいのだろうかと、なんとなく分かるのです」

そういわれて、根っからの教師肌なのだなぁとティアは笑ってしまった。

「うん、知りたいことがあってね。精霊の本当の身体はしおりなの?」

歩きながら危なっかしい足取りで進むティアに、ウルは目を見開いた様だった。

そしてなにやら絶句している様で、ティアは慌ててしまった。

聞いてはいけないことを訊いてしまったのだろうか。

「・・・我々は・・・身体は・・・本当は・・・」

彼には珍しいほどうろたえてしまっている。

けれど懸命に思い出そうとしていた、今一瞬ひらめいた最古の記憶を。

「ウ、ル・・・?」

必死のその様子に、ティアは恐怖を感じた。壊れる。そう感じた。

「・・・罪、は・・・」

そう苦しげにつぶやいたウルに、ティアは強制的に彼を預言書に戻すことを決行した。

「分からないけど、ウルはしばらく寝ていて」

預言書を開き、ティアは厳しく言った。

「何も考えないで、その問いは忘れて、ゆっくり眠って—」

それは言霊を伝って、精霊への願いに変換されて、ウルはかすかに顔を上げると吸い込まれるようにしおりに眠りついた。

「いったい、どうしたんだろう」

一瞬の出来事だった。主人が感じた、精霊に亀裂が入ったような恐怖。

そのままにしていては、危険だと直感したのは気のせいだろうか。

だが、預言書を持つ手がひどく震えている。

「しおりが身体だって、聞いちゃいけないんだ・・・。でもなんで・・・」

身のすくむ恐怖が徐々に解けていき、ティアは不可思議な出来事を頭にめぐらせた。

「本当は、罪は、って言っていた・・・どういう意味なんだろう」

特に罪、というのが気になる。

精霊は悪いことなんてしないはずなのに。


Re: アヴァロンコード ( No.386 )
日時: 2012/12/18 21:47
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ウルを眠らせた後、ひとり寂しく氷の洞窟を進んでいたティアは、やっと脈があると感じた。

真っ青の氷に包まれた、崖のような道に、吹雪のようなものが巻き上がっている。

真っ青の氷の道が崖と崖とをつなぐ一本つり橋のようであり、その狭い通路の脇には真っ黒な闇が口をあけて待っている。

「絶対この先にネアキがいる」

先ほどのような主人としての直感ではなく、勘である。

だが、寒さはこの一本道の奥から感じる。

ウルを起こしたほうが良いか、だが、先ほどのようなことがまた起こってしまったら・・・。

ティアは預言書をかかえた。

「こんな道ぐらい・・・一人で行ける」

ティアはマントでくるんだ預言書を片腕に抱き、そろそろと足を踏み込んだ。

青色の非常にクリアな道は、他の氷と違って足元がよく見える。

足元、真っ暗な闇がすうっと透けているのだ。

高所恐怖症のものにとってはつらいが、ティアは高いところには強かった。

レクスとの幼い頃からの遊びが、幸いした。

よく、木の上に登って木の実をとったり、退屈しのぎに上ったものだ。

懐かしい思い出たちに、くすりと笑みを漏らした。

と、その瞬間—

ぐおっと音を立てて突風が巻き起こった。

「んなっ?!」

ティアはあわてて身を伏せ、重心を低く、面積を小さくした。

風当たりを弱めたティアに、霜が襲い掛かる。

じわりと背中につめたいものが走り、ティアはマントを脱ぎ捨てた。

すっかり凍り付いて重くなったマントは重い音を立てて闇に落ちていく。

「ネアキを封印する竜—!!」

風がやみ、立ち上がったティアは空を見上げて驚愕する。

崖の反対岸の巨大な氷角にどっしりと陣取った氷と見間違えるほど真っ青な竜がいたのだ。

長いしっぽを氷に巻きつけ、悠然と黄土色の目でこちらを見つめる冷酷な竜。

その目はネアキに生き写しだが、強烈なほどの冷たさを放っている。

ティアは口をあけてその美しい姿に見とれそうになったが、はっとしてダッシュした。

ここで息絶えろ—そういった感情しかない瞳でその竜は尾をブオンとふった。

まったく表情を変えずに繰り出された攻撃は、ティアの歩む一本道を粉砕した。

砕け散った一本道。だが、ティアは寸前に飛び上がって岸に危うくたどりついていた。

だが、その岸は竜のいる崖。

つぶすまでよ—そんな表情でティアに視線を落とした竜、マルカハトゥはその美しい羽を開いた。

そして飛び上がると、その尾をくねらせ、今まで座っていた氷を砕いた。

がごん そんな音が響き、砕け散った巨大な氷が、座り込んでいたティアに降り注いだ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

VSマルカハトゥ 始まります。

ウルはけっこう記憶力や解決しようという気力などが高いため、なくした記憶をどうしても取り戻そうとしています。
なので、四大精霊の中で一番謎と絡めやすい

アヴァロンコードは書いていて非常に楽しいです。
最終章にどんどん迫ってきて、とても寂しい。
終わらせたくないなぁ。



Re: アヴァロンコード ( No.387 )
日時: 2012/12/19 18:11
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ティアは降って来た氷の瓦礫をあっけに取られてみていたが、すぐに剣や盾で防げるものではないとさとった。

即座に武器を放り出すと、その両手を瓦礫に向かって—頭上に掲げた。

人間とは奇妙な種族だ 死の間際に無駄なことを—マルカハトゥの冷たい視線。

それをひしひしと受けながら、ティアは懇親のプラーナを爆発させた。

キンッと甲高い金属の様な音が響き、ばらばらもいいところ、砕け散った氷たちがティアに降り注ぐ。

降り注ぐといっても、雹ぐらいにまで粉砕された氷たちは雨のように穏やかな音を立てていない。

バラバラバラと、まるでマシンガンを乱射するような音を立ててティアに降り注ぐのだ。

ティアは放り投げていたたてを引っつかみ、必死に縮こまって耐えている。

その盾が的であるかのようにふってくる雹。

やっと収まる頃には、ティアの周りにびっしりと氷のつぶてがこんもりと積もっていた。

「っはー!助かった・・・」

その盾より顔をのぞかせたティアが、悠然とこちらを見るマルカハトゥを見上げる。

水色の美しき竜はティアを醒めた目で見つめると、すっとそのコウモリのような羽を一度だけ羽ばたく。

するとその姿はすうっと宙に浮き、見下すような姿勢でカッとマルカハトゥが口をあけた。

牙の合間からさあああっととんでもなく冷たいブリザードが吐かれ、瞬時に空気までも凍り付いてしまいそうだ。

それは距離があるにもかかわらず、火炎放射ならぬ氷結放射はティアの元まで迫ってきた。

氷床に突き立てるような氷柱がブリザードの影響を受けてすごい速さで立っていく。

ティアはあわてて氷の海から飛び出すと、盾を抱えてブリザードを避けた。

だが、マルカハトゥはブリザードを吐いた状態で、空中で方向転換しそのまま狙ってくる。

「!! っ」

容赦のないその攻撃に、ティアは危うく氷付けにされるところだった。

足元をしきりに狙う攻撃は、動けなくさせて命を奪う作戦なのだろう。

と、ブリザードが止まった。

見上げればマルカハトゥが大きく息を吸い込んでいる。

呼吸をしているのだ。

マルカハトゥといえど、やはり有酸素魔物なので、長く息を吐き続けるこの攻撃の後は、隙が出来るらしい。

(攻撃に転じないと!)

そう思うティアだが、マルカハトゥを見て歯噛みする。

そう、美しき翼竜は、手の届かぬ空中にいるのだ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照が 6700 越えました!!
ありがとうございます!
四つの竜のうちだと、マルカハトゥが一番好みです。
一番竜っぽいんで。竜というかドラゴン?

Re: アヴァロンコード ( No.388 )
日時: 2012/12/19 23:21
名前: 天兎 (ID: Wp/04zaT)

めたさん、初めまして
あまと と申します

最初からずっと読ませていただいています!
私も、投稿はしていませんが、アヴァロンコードの小説を書いています
でもなかなかまとまらなくて苦戦中です(^^;)
そこで気分を変えようとオリジナルを書いてみたのですが、これがかなりうまくいきそうなので、
投稿しようかと思っています(^^)

ところで、私もマルカハトゥが一番好きです(@^^@)
ゲームではなかなか倒せずに挫折しかけましたが(笑)

これからも頑張って下さい!

Re: アヴァロンコード ( No.389 )
日時: 2012/12/20 11:22
名前: めた (ID: UcmONG3e)

おお!お客様ですね!
あまと、かっこいい名前ですね。
最初ッから読んでくださっているとは感激です。

あまとさんの小説ぜひ投稿されれば見にいきますよ!
楽しみです!
名前で検索すれば、探せるのかな?

ゲームではマルカハトゥとウンタモで片手で数えられないほど死んだ・・・特にウンタモはとんでもなかったですw

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ティアはまだ深呼吸を続けているマルカハトゥを尻目に預言書の項目を頭の中で描く。

飛び道具といえば、やはりオオリから貰った飛刀くらいか。

もしくは今は眠っているウルの電撃。

ウルを・・・起こすわけには行かない。

まだ心配だったティアは、本当に危なくなったときの切り札としてウルをとっておくことにした。

水色の氷床の上で、ティアは預言書を盗み見た。

古文書のように乾いた色のページをめくって、何か飛ばせるものがないかと考える。

飛刀は確かに飛ぶ。けれど、上空を自在に飛ぶマルカハトゥに当たるとは思えない。

しかも飛刀は小さい。それだけで当たる確率がぐんと下がる。

爆弾のように拡散し、ハンマーのように大きくて吹っ飛んでいけば理想なのだが。

そんな武器はやはり存在などしない。

(これはやっぱり・・・・そうするしかないよね)

と、ぶわっと急に風が巻き起こった。

何事かといつしかじっくり見入っていた預言書から顔を上げると、身体の隅々にまで酸素を供給し終わったマルカハトゥが臨戦態勢で羽ばたいている。

(またブリザード?)

ティアは炎の属性に代えた盾をかまえてマルカハトゥの攻撃に備える。

だが、マルカハトゥは一瞬目を細めると、一度強く羽ばたくと、急に急降下してきた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照が 6800 越えました!
ありがとうございます!これってもしかすると、新年までに7000見れる・・・ってことがありうる?



Re: アヴァロンコード ( No.390 )
日時: 2012/12/20 11:55
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「えっ」

身体よりも大きな翼を身体にぴったりと寄せた状態で急降下してきたマルカハトゥ。

それをティアは一瞬目を真ん丸くして見守り、あわてて床を蹴り、前転するように避けた。

転がったときの氷床の冷たさよりも、冷や汗のほうが冷たいと感じるほど、ティアはゾッとしていた。

ミサイルのような速さで通過して行ったマルカハトゥ。

その姿は真っ暗な闇の中に吸い込まれていき、認識できない。

「あんな攻撃・・・直撃したら・・・」

おそらく突き飛ばされてティアが今いる大きな長方形の氷の上から突き落とされるだろう。

ティアのいる場所、極寒無限大氷床という名前の永久凍土は切り立った崖になっている。

その四方をいまや出ることも出来ず、真っ暗な闇が多い尽くしているため、さらに寒い。

帰るときどうしよう、などというのはティアの中にはなく、むしろどうやってあれを創ろうかと悩んでいた。

あんなもの、ハオチイでさえ発明できないのでは・・・?

うウム、と悩むティアにはもう一つ悩みがある。

自ら発光する氷とは違い、完全に真っ暗な闇に飛び去ったマルカハトゥの行方が分からないことだ。

いつ何時、またミサイルのように突っ込んでくるか分からない。

けれど、翼の音は氷に反響してあの竜が逃げたわけではないと教えてくれる。

「こんな状況じゃ・・・作れないよ」

ぼそりと文句を言うと、何かが飛んでくる音が聞こえる。

一瞬無音になり、自分がその飛んでくるものに対して極度に集中してるの分かる。

と、ティアの持つ炎属性のたての光が反射した様で、その飛んでくる物体がきらりと夕日色に光る。

「!!」

ティアは信じられない、という思いで猛然と走った。

あんなもの投げてくるマルカハトゥが信じられない。

直後、ドオンと凄まじい音を立てて氷山のような巨大な氷が氷床に突き刺さった・・・というより激突した。

ティアの三、四倍はある氷は、ティアの命を手っ取り早く取ろうとマルカハトゥが投げたものだ。

避けきれたティアは、しりもちをついた状態でその巨大氷を見上げる。

芸術家がこの瞬間だけを見れば美しいオブジェというだろうが、十秒ほどを見ていたら、隕石がふってきたと、およそ芸術とはかけ離れた表現をするだろう。

と、ばさばさと羽音が聞こえてきてティアは唖然とした表情のままマルカハトゥを見上げた。

当のマルカハトゥはティアが無事な姿を見て 何だはずしたか という表情をしている。

(これは、ネアキの意思はまったく関係ないんだよね?ネアキが私を殺そうとしているわけではないんだよね?!)

ペルケレ以上に凄まじい仕打ちにティアは別の意味で冷や汗をたらした。


Re: アヴァロンコード ( No.391 )
日時: 2012/12/20 12:52
名前: めた (ID: UcmONG3e)

(早く作らないと、やられる!)

ティアは慌てて立ち上がり、重い氷を運んだマルカハトゥはまた深々と呼吸をしている。

その隙を突いて、ティアは預言書を開いた。

マルカハトゥも休戦する今ならば、準備するくらいなら・・・!

預言書をめくってルドルドのハンマーをつかみ出し、アンワールがくれた包帯を何十にも出した。

そしてハオチイの爆弾も引っ張り出す。

ほかにつかえそうなものをいくつも出した。

「よし、これで・・・」

ウルがいてくれれば知恵を貸してくれるのだが・・・。

贅沢言ってられないとティアは適当にハンマーに爆弾をくくりつけようとして苦戦する。

包帯は丸い爆弾をうまく縛りこめず、ハンマーについている棘によってびりびりと裂けてしまう。

しかも、出来たと思ってハンマーを持ち上げれば爆弾も包帯もこぞって地面に転がってしまう。

「ああ、うまくいかない。ハンマー爆弾・・・」

新しく発明しようとしたティア命名ハンマー爆弾。

空中で勢いよく飛び、かつ巨大なハンマーに遠隔操作の出来る爆弾を搭載した新しい武器。

これが出来ればきっとネアキ救出を迅速に行える。

というより、なかなか降りてこないマルカハトゥに攻撃するのはこういった武器以外不可能に近い。

ためしにとりあえず手にしていた飛刀をマルカハトゥに投げてみるも、ひらりとかわされた。

そこまで届くことに感動しながらも、やはり当たらないのでティアは躍起になる。

この武器が完成すれば・・・。

だが、マルカハトゥもじっと人間を見るほど人間に興味などなく、攻撃を開始した。

口を開け、ブリザードを吐きながらの急降下だった。

新手の攻撃に、ティアはハンマー爆弾の材料すべてをそのままに慌てて避けた。

爆弾もハンマーも包帯もすべて、床に張り付くように氷付けになり、もう取れない。

炎の武器で強引に取れるだろうが、また預言書から出せば良いこと。

だがその時間がもったいない。

マルカハトゥの突進攻撃はまた疾風のごとく過ぎ去り、マルカハトゥの通った後はオオカミの牙のようにギザギザになっている。

ティアは暗闇に消えた後姿を見ることもなく、まだ預言書をひっくり返すように材料を床に散らばらせた。

どうにかして創らなければ。

また氷が飛んでくるかもしれない。でも、どうしても創らなければ。

けれど、不器用なティアには同じように不器用な武器しか作れない。

レクスのように器用であれば・・・そうこぼしながら製作するティア。

その背後に音もなくマルカハトゥが飛来したのも知らずに。


Re: アヴァロンコード ( No.392 )
日時: 2012/12/20 13:22
名前: めた (ID: UcmONG3e)

ハッと気づいたときには真後ろにいた。

真っ青な竜が口を開け、冷たい笑みを浮かべながら凍てつくブリザードを吐いていた。

ティアの茶色の目に、水色が映りこむ。

「っ」

とっさに何も出来ず、手にしていた包帯を足元に落とすくらいしか出来なかった。

だが、彼女は主人。番犬のように守護する精霊は預言書から飛び出していた。

預言書に縛られたまま力を使うのはデメリットが多いと自負していたのだがそんなこと言ってられない。

できるだけ電気を放ってその熱で溶かそうとしたのだ。

炎の精霊ではないためうまくはいかないが、威力は抑えられ、そのブリザードを道にしてマルカハトゥに電気ショックを与える。

キッと歯噛みするマルカハトゥ。

電気により、少しひるんだようにウルをにらみつけている。

「今の内に—」

振り返ってそう言おうとした瞬間がしっと引っつかまれて語尾が飲み込まれる。

世界を創る大精霊を二度も掴んだティアはすばやく身を反転させて、その勢いで飛刀をびゅッと投げた。

マルカハトゥは電気で若干しびれていた首をこちらに向けてぐおっと口をあけてブリザードを吐いた。

いい軌道を描いていた飛刀は残らず氷付けにされて地面に落下した。

そのまま砕け散り、バラバラになっている。

「いつマルカハトゥを見つけたのですか?」

今まで眠っていたウルが声を上げる。眠っていたが、その分蓄えていた力が先ほどの呪詛なしでの精霊魔法でまた乏しくなって来ている。

ティアは手を広げて精霊を解放すると、さっきと言った。

そして四の五の言わせず、ティア発明ハンマー爆弾をどうにかして作ることを告げた。

「あそこにあるのをどうにかしてハンマー爆弾に仕上げるの」

氷床を指差したティアは散らばった物らの名称を詳しくウルに教える。

「包帯、ハンマー、爆弾・・・ですね」

奇抜な発想をするものだと、ウルはちょっと感心する。

疲れているけれど、考えるくらいならば出来る。

と、ティアが心配そうな目でこちらを見ているような気配がするので首をかしげる。

だがティアは首を負ってマルカハトゥに視線を移動させた様だった。

(しおりのこととか、全部忘れているならいいや)

わざわざまた思い出させることをしないように、ウルの事は放っておく。

ハンマー爆弾について、じっくり考えて休憩してもらおう。

精霊魔法を二度使い、願いなしで雷を使ったためもう魔法は使えないだろう。

早く完成させて眠らせてあげよう。

Re: アヴァロンコード ( No.393 )
日時: 2012/12/20 15:57
名前: 天兎 (ID: Wp/04zaT)

こんにちは
連日ですみませんm(__)m

下手くそながら投稿してみました!
題名は「竜虎」です
見に来ていただけたらとても喜びます!

私はマルカハトゥと、ウンタモと、オオリ2回目に苦戦しました;
ウンタモ戦での死因は主に自爆でした(ノ∀`)

Re: アヴァロンコード ( No.394 )
日時: 2012/12/20 21:41
名前: めた (ID: UcmONG3e)

竜虎おもしろかったです!
アレってなんでしょうね、アレって・・・
確かにウンタモ戦は自爆多かったw
角に追い詰められると終わる・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「わかりました。これならば効率がよいでしょう!」

マルカハトゥの攻撃を避けているティアにウルがひょうひょうと言った。

「っえい!」

だが当の主人はマルカハトゥに現在かろうじて渡り合えるであろう武器、飛刀を手にしてがんばっている。

そんな攻撃 当たるものか—そう醒めた目で見るマルカハトゥ。

すかさず両翼をはためかせ、飛んでくる飛刀を風を起こして送り返した。

ティアは逆にこっちに飛んでくる刃物たちを盾で防ぎ、間を与えず次の攻撃に備えた。

マルカハトゥは相変わらず遠い距離にいる。

上空から、こちらを狙ってくるのだ。

ブリザードや猛烈な突風、ミサイルのような突進。

まれに、野球のように氷のつぶてを投げてくることもある。

特にティアを困らせたものは、ブリザードと突風だ。

ミサイル攻撃は第六感が大いに優れるウルのおかげで避けられるので、現在はあまり痛手ではない。

だが、ブリザードや突風は予期しても避けるのが難しい。

しかも突風とブリザードのコンビネーションは抜群で、両方で攻撃されると非常にまずい。

「ティア、がんばってください・・・」

疲労が重なるウルは、そういうしかない。

極限まで根つめれば、後一度だけ精霊魔法を使えると思うのだが、ティアに止められている。

ただ単に、ウルのひらめいた効果的なハンマー爆弾の作り方がわからなくなるというだけでなく、何かほかのことを心配しているようであった。

すっかり先ほどのことを忘れたウルは、首をかしげるも、思い出せない。

むしろ、忘れたことも忘れていた。

「もーっ ほっといてよ!」

早くウルの発明品が見たいティアは空中に向かって爆弾を投げつける。

それも一度に5,6個を、だ。

マルカハトゥは無駄なことを、といった表情でそれらを凍らせようとするが、雷の属性をまとったものだ。

逆に氷を伝い、電気が流れやすくなる。

!!—驚いたように目をむくマルカハトゥの眼前でドオン無数の爆弾が爆発した。

黒々とした焦げ臭い煙で完全に視界の悪くなった空中。

マルカハトゥがもんどりうったように羽ばたくのが聞こえて、ティアはウルの元に走りこむ。

「つくんないと!」

飛びつくように地面の材料をウルの指示通りに組み立て始め、またも凍らされないうちに作り上げようと躍起になる。

マルカハトゥの視界を奪えている今こそ、チャンスなのだ!

ハンマーに包帯を幾重にも巻きつけて、爆弾を取り込むように巻きつける。

セットされているのは二種類の属性を持つ爆弾だ。
瞬時に燃え上がるように、そしてブリザードをされても大丈夫なように雷の属性も。

ウルのおかげで手はずは整い、しかも数分で新しき武器は完成した。

「これを預言書でコードスキャンして—」

やっとできたぁとうれしそうに話すティア。だが最後まで言うことは出来なかった。

完成品を手に取ったティアの背後で、黒煙が一瞬でかき消された。

「っ—!!」

即座に振り返ったティアの目に写ったのは、マルカハトゥがミサイルのように突っ込む瞬間だった。


Re: アヴァロンコード ( No.395 )
日時: 2012/12/20 22:07
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「ふせてっ」

とっさにそんな声が響き、ウルは私ですか?とティアに言おうとした瞬間。

言葉で書き記せないほどの爆音が響き、一瞬にして劇的に何かが変わった。

思わず絶句してしまう。まさか、自分は守れなかった?

見えない目で必死にその姿を見ようとするも、出来ない。

ただ気配を探る。

爆風と暖かい風、劈く悲鳴によって、ウルはやっとティアが新手の武器を使用したのだと理解できた。

悲鳴はティアのものではない。氷の美しき竜のものだ。

だが・・・。

悲鳴までもこんなにきれいだとは・・・。

思わず感心してしまう。ガラスが砕け散ったようなはかない悲鳴。

だがどんどん間延びして、絶叫に近い声になるとゾッとする。

ティアはといえば、ほぼ目の前でハンマー爆弾を振りかざし直視できるほど近い距離でマルカハトゥに叩きつけたにもかかわらず、まったくの無傷であった。

だが、叩いた直後の悲惨な情景は、爆弾によって見えなくなった。

ありがたい、と心の中でつぶやく。

ぼふんっとあったかい煙が体中を包み、やけに冷え冷えとする悲鳴がやがて尽きた。

黒い煙に混じってブリザードのような結晶のような美しい光が、チリのように空中に舞い、雪のようだ。

「倒したんだね・・・」

その雪よりもきれいなチリを見てティアがつぶやいた。

その手には、せっかくの発明品がもう使い物にならずぼろぼろになっている。

だが、まったく気づいていない様子で。宙を見上げている。

預言書の持ち主でなければ自分も吹き飛んでいたことを知っているのだろうか?

ウルも精霊のため、預言書から取り出されたこれらの連鎖に免疫があり、影響がないのだ。

すっかり煙が晴れ、マルカハトゥの姿も消えていた。

きらびやかな浄化も終わり、ウルとティアは静かに彼女を待つ。

やっとその声が聞こえたとき、ティアは思わず笑みが漏れた。


『…解放…された…?』


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

VSマルカハトゥ 終わり。
そしてお帰りネアキ

Re: アヴァロンコード ( No.396 )
日時: 2012/12/21 13:03
名前: めた (ID: UcmONG3e)

そんなか細い声で告げたのは、氷の精霊ネアキ。

ずっと竜の波動に囚われていたが、今やっと、主人によって解放された。

『…ティア…来て…くれたの…?』

黄土色の瞳が感謝をたたえるようにじっとティアを見つめている。

「お帰り、ネアキ!」

ティアが笑みを浮かべて言うと、ネアキはちょっと微笑んだように見えた。

だが、確認する前に真顔に戻る。

お礼を言わなくていいのですか、とそんな風にウルが言う前に、ネアキは自分から口を開いた。

わかっている、という風にウルを見て、ティアに視線を戻すと

『…あり…がとう…』

本当はつらつらといいたいのだろうけれど、枷がそれを許さない。

もっと言いたいことがあるのだが、この言葉で十分だった。

ティアが照れたように笑みを漏らすと、ネアキも釣られてもう一度微笑んだ気がした。

『…他の…二人は、まだ…竜の元に…?』

一通り今までのいきさつを教えれば、ネアキは感心したようにティアを見つめてそういった。

「うん・・・。でもきっと助けるから、大丈夫だよ」

仲間が増えるごとに増す安堵感と勇気、希望。

カレイラでの悲しい出来事から帰還したティアにとって、それらは本当に心強く、もう逃さないと必死に握り締めている感情。

精霊が戻ってくれば、ファナも戻る。

残りの精霊とファナが無事ならば、良い。

「その意気です。さて、次はどこでしょう?」

「異常が激しいものから先に食い止めないといけないからね・・・一度外に出よう」

取り戻した二人の精霊を満足げに見つめていたティアは、寒いのも忘れ、絶対に忘れてはいけないことも忘れ、歩き出した。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照! 6900 越えました!!

マヤ文明で滅びなければ7000見れますね!
ところで、12月21日が預言の日だったっけ?
明日、22日な気がするのに、みんな今日だと言っているのですが・・・

もし今日ならば、今夜八時に、預言の時刻ということになるらしいです
何が起こるやら・・・

Re: アヴァロンコード ( No.397 )
日時: 2012/12/21 13:58
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「なっ・・・これは・・・」

極寒無限大氷床の崖のふちまで来たティア。

そこは破壊された氷たちがばらばらと崩れているだけで、道などどこにもない。

そこは完全な孤島と化しているのだ。

ウルが驚いてティアを振り返る。

「こんなところに、どうやってたどりついたのです?」

たしかに道すらない孤島にいるティアは、何らかの方法でここにたどりついたのだ。

『…空でも…飛んだの…?』

ネアキがティアならば出来るかもと、そんなことを口走る。

「あぁ、そうだった。壊されたんだった」

ティアは崖のふちを覗き込みながら言う。

今まですっかり忘れていた。肝心なことを。

「壊された?」眉をひそめて聞くウルに、ティアははぐらかすように笑った。

マルカハトゥと遭遇したとき、ウルを眠らせていたのだ。

ウルが起きたのは、ティアがマルカハトゥに氷付けにされる寸前のこと。

そのときとっさに預言書から出てきたウルに、怒られそうになってウソをついたのだ。

「まぁ、まぁ・・・ウルが起きるほんの少し前に壊されて・・・」

そんな風にはぐらかしながら、ネアキに頼む。

声をかければすぐに、どうしたの、という風に覗き込んでくるネアキ。

「あっちの崖までに、氷の橋を作れる?」

『…それ、お願い…?』

繰りい鎖から少しでも解放されたいネアキはティアに聞き返す。

「じゃあ、氷の橋を作って」

ティアがそういうと、ネアキは頷き、さっと身を翻す。

ティアに向けていた顔を崖に向け、手に持っている氷の杖を軽く振る。

そして少し目を閉じて詠唱をする。

何を言っているのかわからない。かすれた声はますます聞き取れなかった。

だた聞き取れたとて、人間には理解不能で、サミアドの長達にもわからない言葉である。

ピタリと詠唱がやみ、ネアキが目を開ける。

金色を帯びた目が開き、さっと杖をしたから上に振り上げた途端。

あたりにくすぶっていた水色の水分がいっせいにネアキの言うことを聞いた。

とんでもない勢いで、ネアキの下に集まり、見る見るうちに凍っていく。巨大な結晶は、目に見えるほど美しい。

と、ネアキがもう一度杖を振り下ろせばため息が出るほどきれいな結晶たちは隕石のように落下して行き、だが崖の途中でつり橋の板のようにお互いをくっつけていく。

気づけば、反対側の崖からも氷の結晶たちが連なっていき、丁度真ん中の位置で双方の氷が身を寄せ合い、完璧な一本橋と化した。

水色に光るその橋はクリスタルガラスで出来ているように見える。

透き通るその青さは海のようだ。

「すっごい・・・」

ぽかんとそれを見ていると、ネアキが振り返ってどうぞとばかりに身を引く。

『…壊れないから…渡って…』

そう背中を押すように言うネアキに頷き、ティアは氷のはかなそうな端に足を乗せる。

ぐらりともせず、その立派に立った橋はティアを受け止めている。

おお!と思わず感激する。

これは絶対にとっておきたい。大氷床に突き刺さっている氷のオブジェよりも、芸術家はこの橋を賛美するだろう。

「ネアキ、この橋を取っておける?」

『…うん…どうせ、放っておく…つもり…』

だがこの橋を作り出したネアキは無関心だったが。



Re: アヴァロンコード ( No.398 )
日時: 2012/12/21 14:46
名前: めた (ID: UcmONG3e)

 
 第九章 森の精霊

—森が大いに萌え育まれる時
 御使いは再び見出される


ネアキの力を借りてワーグリス砦に戻ってきたティアたち一向。

肌寒い氷洞はマルカハトゥの消滅と共に、徐々に本来の温度に戻っていっている。

だが寒いのには変わりなく、ティアはぼろぼろのマントを着込んでいた。

やっとマントが脱げる、そう思って出てきたとき、ティアの耳にずんと重たい不吉な鐘の音が響いてきた。

「なに、この音?」

ティアは唖然として辺りを見回す。

まるで死人が出たときの、教会の慰霊の鐘の音のようでゾッとする。

しかも、世界がまるで暗くなるように、光を失っているのである。

「なんで、なんでこんな・・・!」

世界が滅びていく・・・?ティアは血の気が引いた。

脇の精霊たちを見れば、黙って空を見上げている。

その表情は…

ティアはそんな彼らが何を見ているのか、とそっと顔を空に向けた。

丁度真っ赤に光る太陽が見えた。

元気よく輝き、終焉を迎える世界に励ますように光を投げかけている太陽。

だが、その太陽に影が忍び寄っている。

丸い、黒い、何か。月、だろうか?

それがやがて太陽に噛み付き、徐々に飲み込んでいく。

「日食・・・」

ウルがつぶやいた。日が月に食われていく天体現象。

本当は太陽が隠れるように月の影に入る現象なのだが・・・。

今はなぜか、月が太陽を食らうようにしか見えない。

太陽が飲み込まれてゆけば行くほど、終末の鐘の音は大きくなっていく。

誰かが、鳴らしているのだろうか。

それとも、終わる世界が自らを弔いに、鳴らしているのかもしれない。

完全に太陽が飲み込まれ、真っ黒い月の背後から手を伸ばすように光を放つ太陽。

でもどうもがこうとも、月の裏から出られない。

その瞬間薄暗くなった世界。

ティアは声も出ず、ただそれを見守っていた。

何も出来ない。そのまま見ているしかない。

すると、ティア耳にネアキの声が響く。

『…滅びのときが…近づいている…』

静か口調で言うネアキ。ティアはネアキに目を向ける。

ネアキはティアにぴったりと視線を合わせて先を言った。

『…この世界は…もうじき死ぬ…』

精霊の言葉は真実である。彼らが死ぬといえば、世界は死ぬのだ。

反射的に預言書をかかえたティアに、今度はウルが言う。

「世界が滅ぶ前に、真に価値あるものを—預言書に書き記すのです」

光を失い、心が重くなる鐘の音をさえぎってネアキがもう一度言った。

今度はティアではなく、預言書に問うように。

『…本当に価値あるものなんて…この世界にあるの…?』

かつてオオリがいった言葉に戸惑ったように、ネアキもそうなのだろう。


——教えておくれ 本当に価値あるものって、なんだい?


いや、精霊たち全員がそうなのかもしれない。

心の中に、ティアと同じ疑問が浮かんでいるのだろう。

本当に価値あるものとは、何?


Re: アヴァロンコード ( No.399 )
日時: 2012/12/21 16:07
名前: めた (ID: UcmONG3e)

薄暗くなった世界。

ワーグリス砦のあたりに降っていた雹もなくなり、まばらに転がる雹は徐々に溶けている。

だが驚くべきなのは、一度街の様子を見ようとバルガッツォ渓谷に行ったときである。

すっかり霜でやられた植物達が、異常なまでも芽吹き、絡みついているのである。

『…ミエリの力…』

崖の表面を破壊するようにかき抱く植物達は見る見るうちに成長を進めている。

あきらかにネアキの霜で休止していた植物の力がぶり返した予兆である。

「ここも、危険です!早く下りましょう!」

縄をゆったように太くなるツタを踏みしめ、岩をも破壊し芽吹く植物の力に驚きつつやっと下りきったティアは、ウェルドの大河を見て驚く。

濁流に身を投げるように植物達が川に入り込んでいくのだ。

そして岩に絡みつき、成長に必要な水を吸収してますます大きくなる。

「もうじきここも渡れなくなります!急ぎましょう!」

緑で封鎖されそうになった川を飛び込むようにして渡ったティア。

見えない川の中で、太い根に何度も躓いた。

へびのように太ももを掠める根もあり、ティアは必死に川をあがった。

運が悪ければ養分とみなされて絡みつかれてしまうかもしれない。

そのことを言えば、精霊たちは首を振る。

『…ミエリの意思じゃなくても…まだ…力は広く及んでない…』

何が言いたいのかとウルを見れば、

「ここはネアキの力によって支配されてました。なので植物は成長を妨げられていた。我々の力はほぼ同等なので等しく植物がいてもおかしくない。だが、ここにいるのは霜にやられるほど弱い植物」

一端言葉を切ったウルは辺りを見回すように言う。

「ミエリは遠いところにいるのです。きっと、ひときわ緑豊かで、魔物が巣食うところに」

ティアは川べりに振り返って、大蛇のようにうねる根を見ながら不安げに言う。

「時間が掛かればかかるほど、危険だよね・・・?」

『…きっと街のほうにも…根や魔物が来る…放っておけば人々、養分にされる…』

ネアキがそういう。

「緑豊かな場所・・・グラナトゥム森林かな・・・?」

とにかく、緑が多いに萌える場所、そして魔物が大量発生している場所に行かなくては。

Re: アヴァロンコード ( No.400 )
日時: 2012/12/21 22:07
名前: 天兎 (ID: Wp/04zaT)

めたさんこんにちは!

わざわざ読みに来てくださり、ありがとうございます!
お礼が遅くなってしまい、申し訳ないです;

「アレ」などなど、気になる言葉についてのエピソードは本編中に出すつもりですが、いつになるかは分かりません(汗)
気長に待ってもらえればありがたいです

ところで質問なのですが、めたさんはキャラクターの設定とか世界観とか、どうやってまとめてるんですか?
ゲーム内に矛盾が生じてて(メタライズとか)なかなか上手くまとめられないんです(^^;)

Re: アヴァロンコード ( No.401 )
日時: 2012/12/22 01:29
名前: めた (ID: UcmONG3e)

あまとさんへ

気長く待ちます!気長に応援します!

まとめですか・・・
基本的に世界観はゲームに忠実に。
キャラクター設定も、ゲーム中の口調や態度とかに忠実にのっとってかいてます。
キャラ崩壊というのがあまり好きではないので・・・

確かにメタライズとかアイテム入手とか、微妙なイベントは書きづらいし取り入れると話がこんがらがってしまいますよねw
なのでメタライズは基本的に無視。
いらないイベントも無視で書いてます。

中でも精霊たちが一番厄介ですね。
戦闘中にどう関連させるか、精霊魔法を使わせるタイミングとか。
ボス戦で精霊魔法を連射すれば勝てるけど、MPとか制限のない小説内だと使い放題になってしまうので、その制約も考えないといけない・・・
精霊魔法と、願いなしの魔法の使い分けも難しいです。

ゲームに忠実といっても、そのまま書くとつまらないので膨らませながら書いてます。
ちなみに私はゲームを何周かして、会話や話の進行などをメモしていました。

237文字も書いてた。長い・・・すみません長くて
あれ?これって聞かれてることちゃんと答えられてるのか?余計なことかいてる気がする・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

グラナ平原に行くには、もう一度世界の十字路を突っ切らなければいけない。

ティアはちょっとカレイラの様子が気になっていたので少し丁度よかった。

兵士に見つからないようにそっと草むらからのぞくと、まだ魔物や植物は迫ってきていない様子。

ほっとして駆け足にカレイラから離れた。

『…』ネアキはそんな風に安堵したようなティアの表情に少し心がざわつく。

ウルによれば、ティアは追い出されるようにカレイラから逃げたという。なのにそんな奴らに対して心配するティアは・・・

『…あんな奴ら…ティアに心配される価値ない…』

むすっとしたまま言ったネアキ。その小さな声は二人には聞こえない。

黄土色の目でカレイラの方角を見て、ティアにひどいことしたやつらならば、滅びたっていいと、物騒なことを考えていた。

「グラナ平原を抜ければすぐ森だよ!」

そんなこと知らないティアは、二人に知らせるように声を上げた。








Re: アヴァロンコード ( No.402 )
日時: 2012/12/22 00:50
名前: めた (ID: UcmONG3e)

早朝、ウルを助けるために塔へ上り、昼にネアキを助けに地下の氷洞へもぐったティア。

そして今はもう、夜に近い時間。

ありえない疲労により、ティアは自分が眠いのだと自覚した。

満天の星空は見れない。今宵からは月もない。

太陽を押さえつけている月は光を失ったようにぼんやり浮かんでいる。

かさかさとやけに育っている植物を掻き分けてティアは徐々に気が遠くなるのを感じる。

目はとろんとして踏み出す足はふらりと軽い。

「・・・もう、休んではどうでしょう?」

そんなティアをみて、精霊たちは声をかける。

だがどうしても、精霊たちを取り戻したいティアは首を振る。

わざと口の裏側をかんで、目を覚まそうと目をしばたく。

『…ティア、夜の森…危険なの…朝に出直したほうがいい…』

ネアキもティアに言う。

確かに夜の森は危険だ。ミエリを捕える竜により凶暴化した魔物度もがうじゃうじゃ徘徊しており、ティアは何度も倒した。

だが一向に数は減らず、今こうして歩いているうちに飛び掛ってくるのも時間の問題だった。

ほかに問題があるといえば、巨大化して自我をもち始める植物がいるということだろうか。

餌を効率よく得るにはどうしたらいいかと、急速な生命エネルギーを供給される植物は驚異的な進化をしている。

ティアでも見たことない食虫植物や、肉食植物が誕生しているのだ。

魔物も、いくらか食われており、見境がないところが恐ろしい。

「だめだよ、だって早く行かないと・・・ミエリが・・・街が・・・」

かすれた声で言うと、街という言葉に反応してかネアキが眉を寄せた。

ティアはビックリしてネアキを見る。

ネアキがこんなに感情を表すのは珍しい。目をぱちくりしてみていると。

『…ティア、今すぐ…休憩…!』

かすれた声で必死に、大声を出して言い放ったネアキ。

その異様なほど青白い手を腰に当てて、母親のように言う。

『…ミエリは、ティアが襲われたら…喜ばない…!』

そしてむすっとしたようにちょっと横を向いて。

『…たぶん…街のヤツも…喜ばない…』

街など本当はどうだって良いが、ティアがそれで考え直すというならば・・・。

「ネアキの言うとおりですよ。ティアが傷ついては、助けられたものも喜びません。時間はまだ、あるのですから・・・」

ティアは、うんとかすかに頷いて精霊に案内されるままに、安全地帯を探すことにした。





Re: アヴァロンコード ( No.403 )
日時: 2012/12/22 12:57
名前: めた (ID: UcmONG3e)


参照 ついに 7,000 越えました!!
 年内にいけましたね!すごいです!ありがとうございます!
 七千回もこの小説が読まれたんですね・・・ありがたいです・・・
 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ここにしましょう」

暗い夜の森の中、ティアはウルの指し示したところに座り込んだ。

実を言うともうくたくたで、動くのもつらい。

まぶたは重く、ティアに眠りなさいと促している。

『…ティアおやすみ…ちゃんと見張っているから…』

気絶するように目を閉じたティアに、ネアキが優しく声をかける。

かろうじて頷いたティアは、木に寄りかかって完全に眠りに落ちた。

その眠る姿のあたりに、漂う精霊。

ネアキが優しげな風貌を豹変させて、あたりに視線をめぐらせる。

「・・・交代で見張りましょうか」

ネアキは視線を合わせず黙って頷く。

『…ティアは…必ず守る…』

早速ティアの元に迫ろうとした植物に霜を降らせ、撃退する。

森のけなげな生命力は大好きだけれど、無慈悲なほど貪る生命力は好きではない。

ネアキは生命力を吸い取るように霜を降らせ、植物を凍らせていく。

詠唱なしでの魔法は微弱だが、少しでも主人の守護のため、奮闘する。

くらい森の中を縫うように、金色の電撃と、水色の氷が交互に駆け巡った。



Re: アヴァロンコード ( No.404 )
日時: 2012/12/22 13:27
名前: めた (ID: UcmONG3e)

朝起きたティアは、激しく痛む筋肉を無理やり動かして、ミエリの元に急ぐ。

グラナトゥム森林に突入したティアは夜ではわからなかった異変に目を見張る。

森の入り口に突っ立って、唖然とする。

いつかここに来たときには、緑豊かで、木に剣で印をつけてもためらわないほど生き生きしていたのに・・・今は—

「なんで・・・」

今や見るに耐えないほど脆弱している。

風前の灯。そこまでではないものの、明らかに弱っている。

あんなに太陽に照らされて元気いっぱいに色濃く緑に輝いていた植物が、乾いて、色素も薄く、命までもが薄れている。

柔らかに茂っていた足元の植物も、今はしおれて枯れ草だった。

そこを吹きぬける風も、物寂しげだ。

まるで秋のように腐った葉が、その風と共に舞っている。

すっかり変わり果てたその光景。

「何故・・・?ミエリの力は、こうではないはずなのに・・・」

ウルが、戸惑ったように口走る。

「彼女の力は生命力にあふれていたのに・・・」

ネアキまでも、言葉を失ったように命尽きそうな森を見ている。

「一体どういうこと?なんで、森が?」

ティアは答えを探すように森中を走り回る。

どこもかしこも同じで、かすかに触れるだけで落ちる葉。倒木もいくつもあった。

変貌した森の中には魔物すらいない。

生き物も、何もいないのだ。

ただ、森の中にはびこるのは、太いツルのような根。

それに躓いてティアは始めてその存在を知る。

地面に盛大にぶつかり、痛む足をさすりながら振り返ったティア。

躓いたものはというと、でんと居座ったままするすると伸びていく。

この死に行く森の中で唯一生き生きとしている存在であった。




Re: アヴァロンコード ( No.405 )
日時: 2012/12/22 14:03
名前: めた (ID: UcmONG3e)

「これって・・・バルガッツォ渓谷にあったツルと同じ?」

精霊に聞いてみると、二人はじっくり観察もせずに頷く。

何で分かるんだろうと思っていると

『…ミエリの力を感じる…』

そうネアキがつぶやいた。ウルも頷いている。

ティアはその大蛇のようなツルを突っついてみる。

反応はなく、滑るように通過していくツル。

そのまま見守っていけば、そのツルがバッと木々に飛びつくように絡みついた。

「!」

ビックリしてみていると、そのツルから根が出てきて木々の幹に突き刺さり、根を張っている。

「これは・・・」

ウルが驚いて声を上げる。

徐々に根を張られた木々が潤いを失っていき、明らかに養分が盗まれたと見える。

そのまま張り付くツルのほうが巨大になっていき、ひねりつぶされるように締め上げられている。

最後まで食い尽くそうとしているのだ。

ついには木は倒れ、ツルは倒木に用はないとその身を離し、新たなるターゲットを探している。

「ミエリを封印する竜は・・・森から生命力を奪って集めてる?」

ティアが推測を口にすると、ウルがおそらくそうでしょうと頷く。

「とにかく、グラナトゥム森林にはいないはずですね・・・とすれば・・・」

ウルが首を傾げて考え込む。

ネアキはまだツルを見つめており、不安そうな顔をしている。

と、ウルが顔を上げてティアに聞く。

「グラナトゥム森林が枯れ始めたら人々は気づきますか?」

ティアはもちろんと大きく頷いた。

「森に花を取りに行く人もいるし、とにかく気づかないわけないよ」

言えば、ウルは少しまた考えた。

「我々は同時に竜の波動に囚われ、竜は同時に災厄をもたらした。なのに、グラナトゥム森林がまだ生きているのが不思議です・・・普通ならばもうとっくに枯れていてもおかしくはない」

ウルのその言葉に、ティアは何か引っかかった。
ウルはなおも続けた。

「すでにどこかの森をからしていたのだが、枯渇したため根を伸ばしている・・・?」

ハッと思い出した。猟師の道である。
あそこはティアがカレイラから逃げてきたすぐにいた場所。

乾いた森が印象的で、木漏れ日が美しかった森。
きっとあそこにミエリはいたのである。

「急ごう!ラウカのところに行かなきゃ!」

急にそんなことを口走ったティアはあっけに取られて首をかしげる精霊をつれて、グラナトゥム森林のさらに奥、東の巨木を目指した。


Re: アヴァロンコード ( No.406 )
日時: 2012/12/23 22:27
名前: 天兎 (ID: Wp/04zaT)

ありがとうございます!
参考にさせていただきます(^^)

これでうまくまとまったらアヴァロンコードも投稿するかも…

Re: アヴァロンコード ( No.407 )
日時: 2012/12/24 18:29
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

アヴァロンコードの小説がもっと増えてくれればうれしいです・・・
今のところ、2作品くらいしかないのですよ・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

『…ラウカ…?』

ネアキが首をかしげる。

「ティアを助けた、誇り高き種族の名前ですよ」

ティアに代わってウルが答えた。

今までのいきさつを話した—といっても、ティアは何度もそう、痛ましき記憶をしゃべるのを快く思わなかった。

言葉というのはとても強く、うわべだけで話そうと思っても、言葉が悲しみで詰まってしまう。

落ち着くまで、思い出したくなかった。

「獣のような耳の生えた人物らしいです」

走るティアは心の中で頷く。

『…ふうん…ティアを助けた…』

ネアキがちょっぴり感心したような声を出した。

そういえばラウカは人嫌いなため、ネアキと気が合うかもしれない。

けれどラウカもネアキも、人間をもっとよく知れば好きになってくれるかも知れない。

そんなことを思いながら、ティアははたと足を止めた。

荒い息で、目の前の洞窟に目をやる。

「・・・」

たくさんのことを考えながら、黙って足を闇に入れた。

(また、迷わなければ良いけど・・・)

以前一度だけ来た場所。そのときは迷って、一晩明かした。

そして出口を見つけ、ルドルドと戦った・・・。

いろいろ思い返しながら、ティアは進んでいった。

今回はありがたいことに、預言書が記した地図がある。

もう、迷うことは、ない。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照 7100飛んで7200!!
今日はクリスマスイヴですね!関東でもこの次期珍しく雪が降りましたよ。
ホワイトクリスマス(イヴ)は何十年ぶりらしいです。


Re: アヴァロンコード ( No.408 )
日時: 2012/12/24 19:24
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

外と同じくらい暗い洞窟の中を、炎属性の剣を灯りに進んでいくと、洞窟内にも太いツタが進入しているのが見える。

ネアキの冷気を感じたようで、じりじりと後退していく。

「こんなところにまで・・・」

「我々が囚われてから、時間が経ちましたからね・・・」

ティアは驚いて進む足を速めた。

ぐずぐずしてはいられない。ミエリを助けなければ。

竜に囚われているとき、苦しいのだろうか?

(苦しいはずだよね・・・)

竜に囚われ力を使われてしまうのだから。

「ところで、ティア。どこか心当たりがあるのですね?」

ウルが急ぎ足のティアに問いかける。

ネアキも心配そうにこちらに目を向けている。

そんな二人の視線を受け止めて、ティアは頷いた。

「カレイラから逃げてきたあと・・・東の巨木にいたの」

ウルとネアキはティアをせかさずにゆっくり頷いて聴いた。

ティアは浮かない口調でその先を続けた。

「その森は何故だかとても乾いていて、緑も潤いを失ってた・・・。精霊がみんな囚われた直後だったから、時間軸はあってると思う」

なるほど、という口調でウルが頷く。

「その森が・・・ミエリを捕らえる竜の巣ということですね」

するとネアキがかすれた声で首をかしげた。

『…どうして…西の巨木を目指すの…』

「西の巨木と東の巨木は結構近いんだよ。ラウカが、そういってた。それに、砂漠を越えるより時間がかからないんだよ」

ふうんとネアキが頷いたのと、出口付近で輝くヒカリゴケを発見するのはほぼ同時だった。



Re: アヴァロンコード ( No.409 )
日時: 2012/12/25 04:24
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

洞窟を一時間程度で抜けたティアは、すぐさま太陽の棚に飛び出した。

真っ暗な景色。世界で一番美しい景色はモノトーンで星の輝きでかろうじて見える。

その世界に目もくれず、ティアは必死の形相で走った。

土くれを蹴飛ばそうとも、暗闇でけ躓いて転んでも、泣き言一つ吐かずに走り抜けた。

「ティア、そんなに走っては・・・危ないですよ!」

背後より金色の光をまとうウルが声をかけるも、ティアは返事一つやめなかった。

「だいじょうぶ!」

すでに何回か転び、すりむいた箇所もあったが、今はどうだっていい。

精霊を取り戻す。それが最優先だ。

こんなケガのことなど、後になって考えればいい。

『…ティア…!』

ネアキが少し大きな声を出して急旋回してティアの前に回りこんだ。

そしてティアの行く手をふさぐようになにやらわめく。

『…あぶない…!』

っとと、とすんでのところで立ち止まったティアは、ネアキの背後を見る。

相変わらず真っ暗だが、目を凝らしてみればそこが崖と木々をつなぐ部分だと分かる。

崖が途切れ、かわりに張り巡らされた木々の枝が道となる、複雑な地形である。

一度ここに来たときは、見事に躓き、幹に助けられた。

そしてまた・・・。

「ごめ—」

慌てて謝ろうとすると、ネアキやウルは黙っている。

その物憂げな表情は、何もかも超越した、心より不安がる表情だった。

ティアは目を丸くし、そして数秒言葉を失った。

(そんなに、私はみんなに心配かけていたんだ・・・)

沈黙のまま、ティアは力のこもっていた肩をすとんと落とした。

「ティア・・・」

ティアの表情を見て、ウルが声をかける。

「あせりは禁物です。それでは、成せるものも成せなくなってしまう・・・」

ネアキが同調するように頷いた。

ティアは目を伏せ、こくんと頷く。

(あせるな・・・あせらないで周りを見て。しっかりしなくちゃ!)

「うん・・・!ごめんね」

『…きっとティアなら出来る…ティアのこと…信じてる…』

ティアは深く深呼吸すると、気を引き締めて、冷静に木々の枝に飛び移り始めた。


この真っ黒な景色の中、冷静にならねばすぐまっさかさまだ。

灯り代わりの剣で道を指し示し、ティアは確実に進む。

やれやれ、これで安心だ。という風に顔を見合わせた精霊たちは少し微笑み、ティアの後をついていった。

死ぬことのない精霊にとって、主人の死ほど、悲しいものはない。


Re: アヴァロンコード ( No.410 )
日時: 2012/12/25 04:40
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

「間違いありません。ティアの読みは正しかったですね」

今、ティアと精霊一向はひときわ高い木—西の巨木の前に立っている。

そこはかつてティアがキマイラを倒したところであり、森の精霊ミエリを解放したところであった。

その巨木の前に立ち、変わってしまった巨木を見上げていた。

「元に戻るかな・・・この巨木」

眉を寄せて言うティア。その視線の先には—

自由に、森を象徴したようにずっしりと力強く立っていた西の巨木は、今や握りつぶされるように太く長いツタで締め上げられているのだ。

どこもかしこもツタがはびこり、強固な幹でかろうじて保っているが時間の問題だ。

ふしぶしの弱いところは陥没したように湾曲して痛々しい。

だが、ツタは容赦なく、おそらくこの森で一番力を秘めているこの木の最後の力まで奪おうとしている。

徐々にだが、葉の色が落ちていき、はらりはらりと散り桜のように葉が舞い降りてくる。

「ミエリとの、思い出の場所・・・消えてほしくない」

この巨木が倒れてしまえば、もうそのうろには入れない。

その木のなかで、森の精霊とであった。

仲間が増えてうれしかった。その思い出が、消されるのはイヤだ。

『…ミエリは…あっちね…』

西の巨木から目をはなしたネアキは、そのまま東の方向へ目を向ける。

そちらの方向は、枯れた草花がやけに目立つところ。

「枯れた植物を追っていけば、その先にいるはずです・・・森が修復されるかは、分かりませんね。ですが、いつかきっと、元通りになりますよ」

ティアは頷いて、すっかり秋真っ只中のようなもの寂しい景色の中を、進んでいった。



Re: アヴァロンコード ( No.411 )
日時: 2012/12/25 05:06
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

西の巨木をずっと東に進んでいけば、両崖から真っ二つに破壊されたつり橋に出会う。

それは、二つの森に住む、その森を守るものたちの仲たがいの証だった。

「裂かれた端・・・ですか」

少し空が色づいてきて、いまはほんのりとあたりが見える時間帯。

ぐっすりと眠っていたティアはまだ眠くはない。

『…氷の橋を作る…?』

ネアキがティアを覗き込んだ。だが、ティアは首を振る。

代わりに預言書からハンマーを取り出して、構えて見せた。

「だいじょうぶ、これでいくから」

そして目をぱちくりする精霊たちの目の前で、ルドルドから教わったハンマーの遠心力を利用した空中飛行を実践してみせる。

両腕を伸ばし、ハンマーを自分を軸に振り回す。

そして地面を蹴り、半ば追従するように吹き飛ぶハンマーと共に崖を渡った。

ビックリしたように精霊たちが追いかけてくる。

それをくるくる回る視界でとらえながらティアはちょっと得意げにワラって見せた。

「! ティア、逃げてください!」

そう叫ばれるまでは。

ハッと気づいたとき、背後で何かがのたうつのが分かった。

ビックリして振り返るよりも早く前転して避けたティア。

「な、に?」

空がばら色といっても、まだ暗いのでわけが分からない。

ちょっとパニックを起こしかけた寸前、ネアキが威嚇するように氷をまとった。

さあっと冷気が周囲に満ち溢れた。

と、びくりとそれが反応して、素直に身を引いていく。どうやら、植物らしい。

「・・・アレだけの養分を吸収したにもかかわらず、まだ足りていないようですね。どれほど大きな竜なのでしょうか」

ウルがぼそりとつぶやいた。

ネアキは追い払ったツタをにらみながら、ティアの元による。

必要あらばすぐにティアに精霊魔法を使ってもらう気でいた。

とかく、ミエリを捕らえる竜はひどくはらぺこらしい。

なんでもかんでもツタで養分になるものは捕らえてしまうほど、栄養の必要な竜なのだ、とても巨大か、あるいは力を駆使する竜なのだろう。

「この様子では、ラウカという人物が心配です・・・」

ウルが気遣うようにそう口にする。

ミエリ救出よりも、暴徒と化した竜の餌食になってしまいそうなその人物の救出のほうが優先されるべきではないだろうか。

「ラウカ・・・」

ティアは迷ったように目を細めた。

何故だかラウカは無事な気がしていた。野生的勘が鋭く、ひときわ敏感な耳がある。

きっと、どこかで避難しているか・・・戦っているか・・・。

『…ミエリを助けに行く森に…その人がいるというならば…寄っていっても支障はない…』

見境なく養分とする竜だ、ラウカはどうしているだろうか・・・。


Re: アヴァロンコード ( No.412 )
日時: 2012/12/25 05:33
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

空が光を帯びるも、今だ喰われた太陽の必死な閃光がわずかに大地を照らすのみで、正確な時間も分からない。

太陽が欠ける。その出来事はティアに恐怖を与え続けていた。

なによりもまぶしく光り輝き、さんさんと降り注ぐ光は暖かい。

太陽が出てさえすれば、この世の悪など、取るに足らないものだと思えたのに今は・・・

ティアはぐっと奥歯をかみ、見えてきた東の巨木に向かって走る。

今度は精霊たちも声をかけず、その両脇に控えるようについている。

きのこのような家は、見た感じでは八つ裂きにはなっていない。

「階段が・・・」

だが近くで見ればやはり、絡み付くようにつたが階段を覆っている。

「ラウカ!」

ティアはちょっとあせり、階段をかけのぼりながら名前を呼ぶ。

精霊たちは不安げに顔を見合わせて、ティアに最悪の情景を見せまいと止めにかかろうとした。

だが、ティアのほうがすばやく、ドアを開けて進入していた。

「ラウカ!どこ?」

部屋に入れば、あまり変化はない。

床には確かに泥のついた、何かが這いずり回ったあとはあるものの、それ以外は椅子や机が倒れている以外変化なく、ラウカもいない。

「いない・・・・ってことは、にげれたんだぁ」

ほっとするティア。

だがどこに行ってしまったんだろう?

仮に使っていた槍はどこにもなく、ティアに貸してくれた獣のケープもない。

身支度簡易に出て行ったのだ。だが、ラウカのことだ、どこでも駆りできればうまく生きていける。

寂しいけれど、生きていさえすれば、またいつか会える。

「ティア・・・?」

床にへたり込んだティアに、伺うようにウルが言う。

少し不安そうにしているには、ラウカがどうなったか分からないからだろう。

「ラウカは、逃げたみたい。さすが敏感な—」

「・・・だといいのですが」

明らかに口調が少しおかしい。

なにかあったのかと、急に不安顔になったティアはウルの元による。

「ネアキが発見しました。足跡、だそうです」

はっと床に目を落とすと、たしかに足跡があった。

手作りのブーツの後と、それにおくれてついていくしっぽの後。

床にいくつも細かな穴が開いており、木のえぐれたかすや、赤い髪が少し散らばっていた。

獣の服の破り目が落ちている。

「足跡はあちらまで続いています」

えっと凝視しているティアにウルが言う。

彼の指差した方向には窓があり、まどは何かが突き抜けていったようにひどく損傷していた。

「絶対に逃げてるよね?!」

あの時心折れて何もかも信じられなかった自分を救ってくれた、そんなラウカが竜の餌食に?!

そんなこと・・・考えたくない。

木の床をかけて、窓に飛びついたティアはその足跡とツタの這うような跡が森へ続くのを目にした。

「ラウカは逃げてるよ・・・きっと、無事なんだよ・・・」

その足跡を追うようにティアは精霊をつれて森へ走り抜ける。

ラウカは勇敢だが、竜に挑むなどそなこと、しないはずだ。

いくら森を荒らしたからと言って竜に挑むほど・・・。




Re: アヴァロンコード ( No.413 )
日時: 2012/12/25 18:21
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

足跡を追っていけば、徐々に足元までもがぬかるんでいるのが分かる。

土地自体が生命力を失って、腐敗してしまったかのようだ。

「足跡はまだ続いています・・・」

ウルの言うとおり、足跡はぬかるみを越えて深くまで進んでいる。

これで確信する。ラウカは竜に向かって突き進んでいるようだ。

『…すべてが…乾いている…』

ネアキが辺りを見回してポツリとつぶやいた。

ぬかるみ自体も水分はなく、ただかすれた砂地になっている。

木々も、すっかり枯れたようになっていて葉はひとつもない。

潤っていた幹は黒ずみ、焼け野原のような平たんな土地がずっと続いている。

魔物も、一匹もいない。なにもかも、死んでしまったかのような光景だ。

欠けた太陽が空に上がっているその光景は、まるで世界が滅びてしまったかのような、そんな光景であり、怖い。

すべて一体を枯らしつくした竜は、どんな姿をしているのだろうか?

恐ろしくエネルギーを使う竜。巨大なのかも。

吸い尽くしたエネルギーを莫大に使うのだから、やはりすごいのかも。

すべてが灰色の世界に、それでも植物はめげずにわずかだが芽を出している。

自然はやはり強い。

と、急に地響きのような爆音が聞こえてくる。

地面が揺れて、ティアはよろけてひざを付く。

「な、なに?」

雷のような爆音だが、ウルはもう助けたしペルケレは倒した。

「一体なんでしょうか?」

『…竜…?』

精霊も不安げに顔を見合わせている。

十秒ほど地響きが続くと、ピタリとやんだ。

何事もなかったかのように、揺れも収まり、爆音も消えた。

空を不安そうに見上げても、もう何もない。

「ミエリを封印する竜、なのかな?」

ティアがそういった瞬間、足が何かを踏んづけた。

目を落とすと、棒か何かを踏んでいた。

足をどけてみると、悲鳴を上げそうになった。

代わりに精霊たちが声を上げる。

「それは・・・」

『…槍…』

見まがうことなきラウカの槍が、ぎたぎたになって落ちていた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
参照が 7 3 0 0 越えました!
皆様、ありがとうございます!
深遠までには7500いけるかな?

今日はクリスマスですねー

Re: アヴァロンコード ( No.414 )
日時: 2012/12/25 19:39
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

ティアは無言で砕けた槍をそっと両手で拾い上げた。

ところどころ、引っかくようなあとがついており、見事に砕けている。

「・・・ティア!見てください!」

黙ってティアと共にそれを見ていた精霊たちが何かに気づいて指を刺す。

ティアもその声で顔を上げた。

あたりはすっかり木々がしおれ、丸くくぼんだ湿地。

ここは以前レルネア森林という名前だったが、いまでは枯れ草とぬましかないため、レルネア湿地という名前のほうがふさわしい。

そのひときわ何もなくぐるぐると渦巻くぬまのような湿地の中心に、何かがせり上がってくる。

ぼこっと枯れ木のような二本の巨大な枝が出てくると同時に、ティアは突き飛ばされた。

「わっ」

柔らかな沼地だったため、ティアは怪我はしなかったものの泥まみれ。

すっかり泥まみれで顔を上げれば、犬のように抱きつくラウカがいた。

「ティア!なぜいル?」

その緑の目は輝き、心より再会を喜んでいるようだが、相変わらず獣の耳は警戒している。

突き飛ばされたと思ったが、これはちょっと野生的な抱擁であった。

「だって、竜が・・・ミエリを・・・」

なんと言っていいかわからず口ごもるティアに、ラウカが耳をピンと立てる。

竜という単語に反応した様だった。

そしてはたと気づいたように身を離した。

「そうダ!こんなことしてる場合じゃなイ!」

すっかり泥まみれの二人をあっけに取られてみていた精霊は、あぁそうだったと辺りを見回す。

ラウカというティアの恩人による野生的な愛情表現にビックリしていたのだが、ここら辺にはミエリを封印する竜がいる。

「すぐ帰レ!ここは危なイ!」

すっかり目の色を変えたラウカが、本能に目覚めたような瞳で辺りを見回しながら言う。

「大きな木のバケモノ・・・森を荒らしていル」

力強く言ったラウカは、ティアの握っていた槍の先端を取り、ナイフのように構えた。

「ラウカ、戦っていたが、かなわなイ・・・強い生命力を持っていル」

だがどう見ても諦めていない様子。

「でも諦めなイ!この森を守ル・・・それがラウカの仕事!」

たとえ死んでも戦う!といった誇り高き戦士のようにラウカはそういった。

ティアはそんなラウカを止めようと声をかけようとした瞬間、あたりの空気が一変した。

ラウカが耳を伏せ、体勢を低くした。

あきらかに、ティアでも分かる。

何か、来る。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

VSアンテロビブネン はじまり

第九章が一番短いと思う・・・ゲームでは精霊救出で唯一ダンジョンがない。
でもけっこう竜のデザインは好きなほうだった

Re: アヴァロンコード ( No.415 )
日時: 2012/12/26 00:00
名前: 天兎 (ID: Wp/04zaT)

めたさんこんにちは(^^)

アンテロビブネンのデザイン良いですよね〜
自分の中ではマルカハトゥに匹敵してます!(笑)

そして何気にラウカも好きだったりします(@^^@)
ヒーローでお気に入りなのはアンワールです(照)←

めたさんはどのキャラが好きですか??

Re: アヴァロンコード ( No.416 )
日時: 2012/12/27 02:45
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

灰色の渦巻く沼から、まるで海面に呼吸するために顔を出すようにそれが出てきた。

その竜の影が、遠くにいたラウカやティアを捕らえ、太陽のか細い光を遮断する。

その大きさに、ティアはビックリしてしまった。

今まで倒してきたペルケレだっていいとこ三メートル強。

氷の竜、マルカハトゥも翼を入れなければ三メートル。

明らかな差だった。上半身しか陸に出ていないのに、その背丈は恐ろしく高い。

おまけに、皮膚は強固な木の幹で出来ており、きづつけるのは難しい。

牡鹿の立派な角に負けないほどの頭角があり、地面から突き出す手のようなものも木をひっくり返したような枝がびっしりと着いている。

その存在すべてが、巨大な木のようだ。

おまけに四つある目は蛍のようにひかり、他から奪い取った生命力を体いっぱいに溜め込んだように見える。

だが飢えた口元はいつも開いていて、まだ満たされないとでも言うように歯噛みしている。

「来たゾ!アイツダ!」

あっけに取られていたティアをよそにラウカはうなり声を上げる。

森を枯らしたこの存在に、相当腹が立っている様である。

アンテロビブネンは四つの蛍のようにぼうっと光る目を、ラウカに向けたようだった。

そして怒るラウカをよそに、また来たのか 程度にしか思わなかった様子。

そんなに死にたいというならば 良かろう—そんな風に不適に笑ったアンテロビブネンは急に方向転換した。

「えっ」

その巨大な身体を沼の中に沈めてしまったのだ。

後には何も残らず、だが不穏な空気だけが渦巻いている。

「ティア、気をつけロ」

するとラウカが刃物を握りながら警告する。

「その人物の言うとおりですよ。奇襲攻撃を得意としているようです」

ウルがティアのそばに浮遊しながら言う。

ネアキは静かに浮遊したまま、辺りを見回している。

ミエリの力を奪う竜のいるところでは、ネアキの霜も効果的ではない。

と、急激にいやな予感がしてティアはとっさに飛びのいた。

泥を跳ね、服を汚しても気にせずに。

すると、今までたっていたところにものすごく巨大な木が突き出てきた。

その先端は鋭い枝で覆われて、あんなものに当たったらひとたまりもない。

と、それがさわさわとゆれてまるで手のように動いている。

『…あれは、手…?』

ネアキがそれを見上げてつぶやく。

それが急にティアめがけており曲がるように突き刺さってきた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

好きなキャラクターですか・・・
やっぱり一番そばにいた精霊たちですね
あの四人を寵愛してます!(でも最初ヒーロー・ヒロイン候補だと完全に知らなかったw

人だと・・・ヴァルド皇子かな?
外見は完全クール系なのに案外優しいところが。

アンワールって好きなもの甘いものなんですよねw
甘いものキライかと思ってかのでギャップが激しかった。

参照 7400 越えました!
ありがとうございます!!


Re: アヴァロンコード ( No.417 )
日時: 2012/12/26 15:32
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

うワッと声を上げてすかさず剣で防御したティア。

避ける暇も与えられなかった。この竜の攻撃はけっこうすばやいらしい。

「つっ・・・!」

「ティア!」

かろうじて剣で防御したのだが、その重いこと。

触手だというのに、圧迫する重量はとんでもなかった。

そのままつぶされるのではないかと思ったが、急にその重量が衰えた。

「!?」

びっくりして目を開けば、ラウカがその枝の腕に飛びついて刃物で切り裂いている。

指といえる枝が切り落とされると、ティアの剣に絡み付こうとするものはなくなり、ティアはすかさず枝をなぎ払った。

ぶっつりと手である巨大な枝が切れ、こっぱ微塵になった枝やらが沼にぼとぼとと落ちる。

「やった?」

「いや、まだです!左手がまだ!」

上気するティアに、ウルが首を降って言った。

ウルの指差すほうには、ラウカを追い回す左手と思しき枝の腕がいた。

『…でも、手を破壊しても…あの竜には…』

ネアキが言いかけた。

それをさえぎるように、油断していたティアのすぐそばに、木が突き出た。

「!?」

泥を跳ね飛ばしながら突き出たその木は、ティアが振り向く前に振り回すようにその鋭い枝を四方に散らした。

スローモーションのように、急な出来事だった。

振り返ったときにはずわっと伸びる沢山の枝がティアに迫ってきていた。

まるで槍が突き刺さるように、その切っ先は正確にティアの命を狙っていた。

「ティア—!」ラウカが叫ぶ。

ティア自身も避けるという思考が生まれなかった。

そんな唐突でしかも倒したという油断でいっぱいだったので。

ゆっくり自分に突き刺さろうとする枝を見ていることしか出来ない。


「させませんよ」

と、一瞬で視界が混線した。

目に見えたのは激しい閃光と舞い上がる冷気。

それが視界を覆いつくし、ティア自身何が起こったのかわからない。

「な・・・?」遠くにいるラウカもわけが分からない様で、あっけに取られている様子。

だが、左手はそんなこと気にせずにラウカを追い回すのをやめない。

ぼたん、と不意に足元の沼が波打った。

沼の中に沈んでいた靴に、何かが触れた。

視界が鮮明になると、目の前には真っ白になった枝と、やりのような枝をすべて折られた木があった。

ネアキとウルが助けてくれた・・・・やっと理解できた。

「あ・・・ありがとう」

あと少しでとんでもない光景になるところだった。

命を救ってもらえて、ティアはほっとする。

だが精霊たちを見ると、彼らは無理に力を使ったようで疲労の色が見える。

暴走する竜の力を止めるため、願いなしの魔法はかなり精霊たちの体力を削ったらしい。

『…あの竜は…とても生命力高い…』

ネアキが疲れたように息をしながらいう。

その後を引き取ってウルも頷く。

「先ほどのように・・・腕を倒しても復活するでしょう。本体を倒さなくてはなりません」

と、はるか遠くでラウカが武器とも呼べないような刃物で枝を切り刻むところが見えた。

「どうにかして、本体を引き釣りださねばなりませんね」


Re: アヴァロンコード ( No.418 )
日時: 2012/12/27 00:21
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

「ティア、良かっタ、無事だったカ!」

左腕を片付けてきたラウカが走りよってくる。

うん、と頷いたティアにラウカはその身の回りを探るように眺めた。

きっと精霊の気配というものを感じているのだろう。

「なんか分からないけど・・・無事ならいイ」

そして表情をきりっとしたラウカが、沼底をにらんで言う。

精霊たちも、同じところをしきりににらんでいる。

きっと、そこにアンテロビブネンが潜んでいるのだろう。

ティアも目を細めた。

「枝の攻撃はいくら退治しても無駄ダ。すぐ新しいの出てくル」

「何か良い餌はないでしょうか」

ラウカの後に続くようにウルが言う。

するとウルのすぐ横に浮遊していたネアキが、くるりと振り返って言った。

何か考えついたような顔だ。

『…あの竜は生命力を…求めている…』

熱心に聞きこむティアとウル。ラウカはそんなティアを眺めている。

『…命に富んだもの…それをおとりに使ったらどう…』

もっともな提案だが、その生命力に富んだものがすぐ手配できない。

「正論ですが・・・このあたりにそんなもの」

ウルが困ったようにあたりを見えないにもかかわらずきょろきょろする。

ティアも眺めるが、肩をすくめるばかり。

だがネアキはじっとティアの前方を見つめ、そして首をかしげた。

『…ちゃんと…いる…』

かすれた声でそんなことを言った。

え、とティアとウルがネアキ見ると、ネアキはじっとそれから目をそらさずにいる。

ティアの前方を。その黄土色の目でしっかりと捕らえている。

その視線を追えば、赤い髪の、少女がいた。

『…あの人からは…強い生命力を感じる…』

ネアキはラウカから目をそらさずにそう言い放った。




Re: アヴァロンコード ( No.419 )
日時: 2012/12/27 01:42
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

—それは

「ネアキ、本気ですか?」

—恩人を

『…それしか…あいつを引き釣りだせない…』

—餌とする作戦

「・・・ティア、どうしますか?」


ネアキの作戦は的を射ている。

そこにウルの頭脳が加わって、完璧となった作戦だが、それを行うかはまだ分からない。

ティアが決められることではないけど・・・。

「やるかは・・・ラウカが決めないと・・・」

恩人を餌にする。前代未聞である。

震える声でそう告げると、精霊たちは頷く。

そしてそろって視線をラウカに向けた。

ラウカは「?」という顔で、こちらを見つめていた。

獣の耳は後ろへ前へ、地下にうごめくアンテロビブネンの動きを察知しているようだ。

ぐずぐずしてられない—それは分かっているけれど・・・

「どうしタ?」

ラウカは小首を傾げて幼い口調で言う。

ティアの背丈ほどあるラウカも、古の戦士のように勇猛果敢であるがけっこう子供っぽいところがあるだ。

ティアはこれから切り出すことを一瞬ためらった。

だが、アンテロビブネンは攻撃をためらわない。

口ごもるティアをよそに、少しでも良いから命を貪ろうと攻撃を再開したように触手である木の腕を沼底から引き上げた。

ティアとラウカのど真ん中に腕が突き出し、二人を裂いた。

「ん?!」

ティアはそんな声を漏らしながら剣をすかさず構えた。

だが、やはり木の触手はラウカばかりを狙っていた。

ティアは呆然と、その光景を目で追う。

—ネアキは正しいのだ。

悔しいけれど、やはりあの作戦は・・・実行すべきだ。

ティアは悔しそうに歯をかみ締め、剣を手に両手を口元に添えた。

そして、大声でラウカに叫ぶ。

「ラウカ!ごめんね、おとりになって!」

沼の中を翻弄するように枝と戦っていたラウカはこちらに視線を走らせた。

「分かっタ!何をすればいイ?」

ティアは一瞬思考が止み、だが無理やり首を振って叫び返した。

まったくラウカは、普通ならばもっと説明を求めるだろう。

精霊たちが、心配そうにティアを見つめている。

考えれば、ティアにつらい思いをさせていた。

ラウカに、ティアは震える自分を奮い立たせていった。

「ごめんね・・・絶対助けるから・・・動かないでいて」

叫んだつもりだったのに、か細い声はラウカが超人的な耳を持っていなければ届かなかったろう。

けれど、ラウカは一瞬で返事を出した。

「分かっタ」

そしてティアを振り向かず、そのまますっと抗っていた刃物を降ろし、大人しく枝に絡みつかれるままになっていった。



Re: アヴァロンコード ( No.420 )
日時: 2012/12/27 02:27
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

自分をあの苦しくつらい状況から救い上げてくれたラウカが、今は全身を木に絡みつかれて身動きを封じられている。

その緑色のネコのような目は、ティアを信じきっているようだ。

何の恐怖も浮かべないその表情は、まさに誇り高き戦士のもの。

「・・・来ますよ」

第六感の優れるウルがティアに耳打ちをする。

ティアは頷き、構える剣を力強く握る。

タイミングを見間違えれば、恩人の命はない。

『…来た…!』

ネアキがひときわ大きな声で叫ぶと同時にティアはべとつく沼のそこを蹴り上げていた。

猛然と突進するようにラウカの元に走るティアは足元がうごめくのを感じて緊張する。

(間に合え!)

そう心の中で叫び、詣でてくるだろうそいつを叩きのめすために剣を振りかぶった。


ティアがこちらに走ってくる。

ラウカは体中に絡みつく木の枝をウざったク思いながらも受け入れていた。

ティアのひらめいた作戦のため。じっとしている。

ラウカは緑色の目でティアをじっと見つめた。

必死の形相で走ってくるティア。

それ以前に、地中の中をうごめくあの竜の気配が急激に迫るのが分かる。

ううッと思わずうなり声が口より漏れる。

野性的本能により、牙をむきそうになるがティアの作戦に支障が出る。

ラウカはじっと、そのときを伺った。


Re: アヴァロンコード ( No.421 )
日時: 2012/12/27 16:51
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

海で鯨が漁をするときのように、海面に顔を突き出すのと同じくらいの迫力で、森竜アンテロビブネンがその姿を現した。

べとつく沼を盛大にしぶきあげて今まさに念願の高い生命力にかじりつこうとしている。

心なしか、蛍のような目が歓喜にあふれているように見える。

その目をラウカはキッと睨み返していた。

アンテロビブネンはそんなラウカを両手でしっかりと絡み取り、大きく口を開けた。

「ウ・・・」

その口の中は真っ暗であり、空洞のように見える。
がっぽりと口をあけた、出口のない洞窟のようだ。

「・・・?」

その暗闇をじっと見つめていたラウカは眉を寄せた。

見間違いではないはずだ。なんだが、光るものがある・・・?

夏の夜、河原に蛍が舞うように何かがぼうっと奥のほうで輝いているのだ。

森竜の顎がへびのように最大まで開き、飲み込まれる寸前木々の幹がへし折れる音が耳に届く。

そのまま視界がぐらつき、重力にしたがって沼底に沈み込んだラウカ。

巻きついた木の枝が力を失ったようにゆるくなり、ラウカはすかさずそれらを蜂切るように沼から身体をすばやく起こした。

そして何が起こったのかと見上げれば、ティアがその口の中に飛び込むのが見えた。



ラウカが飲み込まれてしまう寸前、懇親の剣さばきで両の腕である幹をへし折ったティア。

そのままへしおれた腕ごとラウカが沼に沈むのを横目で確認した後、ティアは何にもためらわず、怒りにわめくアンテロビブネンの口の中に飛び込んだ。

ラウカが何か叫んだのが聞こえるが、あたりは包まれるような閉鎖空間。

音といえばかすかに沼が立てる音ぐらいである。

「消化される前に片付けなくては」

ティアのそばに、共に飲まれた精霊たちが声を上げた。

『…まって、きっとあれ…』

指先も見えぬ暗い森竜の腹(食堂?胃?)の中で、言われなくともわかる光がともっている。

ほっとするような森の色に輝く淡い灯り。

「あれね!」

ティアは早速でこぼこする森竜の腹の中を駈けずり、ひかりに近づいた。

正八面体の緑色の全長一メートルほどの宝石のような結晶はゆるく回転しており、蛍のように点滅している。

その輝きはエメラルドにぺリドットにと、この世に存在しうる緑の色をすべて色づけたような、そんな色だ。

「きれい・・・」

ティアは思わず声を上げ、これから破壊しなくてはならない物に感動した。

「森の命ですからね・・・」

ウルがそれを見られないのはとても残念というように惜しんだ声で言った。

さぁ、こわそうとその美しき森の命に剣を振り上げた。


Re: アヴァロンコード ( No.422 )
日時: 2012/12/27 19:42
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

剣があと少しで森の結晶に触れるというところで異変は起こった。

光の速さでそれを守るように木々の根がそれをツタのようにがんじがらめにしていく。

『…防衛反応…』

その根はふとく、みるみるうちに緑の光さえも通さぬ頑丈な檻を形成していく。

ティアはハッとして剣で切っていこうとするにもそれらは太く、また重なり合っているのできづつけるのも大変だ。

それでも根を掴み、のこぎりのように切断しようとしているとアンテロビブネンが怒りの咆哮を上げた。

そしてティアを吐き出そうと、自らの口のなかに手を突っ込んだようだ。

喉を引き裂く勢いで手が腹の中に進入してくる。

「ティア!」精霊たちが必死で根を切断していく主人に声をかけた。

『…精霊魔法を…!』

ティアは疲労が現れる精霊に魔法を使ってはほしくなかったが、やむをえないと判断し、願った。

「破壊できるまで・・・壊してみて」

薄暗い中、金色のひかりと水色のひかりが合わさり、黄緑色に見える。

その閃光はただきれいなだけではない。

アンテロビブネンが悲鳴を上げた。ティアの見守る中、電気が走りへびのように動き、凍り付いて枯れていく弱った部分に噛み付くように流れていく。

まず氷が根に走り、それに続いて電気が走るため、根が水色、金色に光る。

焼け焦げたように根の焼ける匂いが充満し、焦げ付いた根の隙間から穏やかな緑の光があふれてくる。

森の命だ。

「ミエリ・・・今・・・助けるよ!」

そのオーロラのような神秘的なひかりにそう告げると、思い切り根を断絶していき、新しい根が絡みつく前に、その美しい緑を破壊した。

何かが壊れる音の変わりに、緑が急激にあふれ出した。

竜巻のようにうずまき、ティアの髪をさかなでて暗闇を太陽に代わって照らし出した。

「・・・・っ」

何かお礼の言葉をつぶやかれた気がしてティアは目を見開く。

そしてその緑の激流が四方に飛び散り、頑丈なアンテロビブネンの身体を突き抜けて外へ飛び出していった。

まぶしいのか分からない。だがきれいだと、そう思った。

ティアの頭を優しく撫でた最後の緑が消えてしまうと、アンテロビブネンの断末魔の叫びがこだました。

緑の光を必死に捕らえようとしていた根がびくっと痙攣し、不意に足元がぐらついた。

「ちょっ・・・なにが・・・」

後ろ向きにしりもちをついたティア。まるで地震が起こっているみたいに激しく左右に揺れる。

「アンテロビブネンが、のたうっているようです」

空中に浮遊しているため被害のないウルが冷静に分析している。

「え、それって・・・」

『…倒したってこと…』

茶色の目を見開くティアに、ネアキが目を合わせて頷いた。

「やった・・・んた!」

ごろごろと動き回るティアを目?で追いながらウルが頷く。

「溜め込んだ生命力がなくなってしまえば、倒れる・・・やはり推測はあっていましたね」

涼しい口調で言う彼だがティアは眉をひそめたまま辺りを見回す。

「やけに長くないかな・・・」

そうぼやいた直後、あたりが急に浄化されていき、アンテロビブネンが天に召されていく。

魔物の死はとても美しい。空に上っていくひかりが星のようにきらめいて。

ぼたっと急にささえを失ったため、寝転がった状態でティアは泥沼に落下した。

派手なしぶきを立ててもう全身泥だらけのティア。

うめきながら立ち上がろうとすると、ラウカが飛びついてきてもう一度泥の中に倒れた。

「やったナ!倒したゾ!」

そして迷惑そうにラウカを押しのけるティアを助け起し、辺りをうれしそうに眺める。

「それに、森が息を吹き返していル!」

「えっ」

ティアは泥まみれの目元を慌ててぬぐって辺りを見回した。

たしかに、枯れていた植物が色を取り戻し、そして潤っていく。

森が生き返った。

ティアは自然と笑みがこぼれた。アンテロビブネンが捕らえていた森の命も自然に帰ったのだ。

あの時礼を言ったのは、森自身だったのかもしれない。

そして、ティアの背後で歓喜に満ちた、穏やかな声がうれしげにさえずった。



「来てくれるって信じていたよ!」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

VSアンテロビブネン 終わり

やっとミエリが帰ってきたー

そして参照 7 5 0 0 越えましたよ!
年末なのに・・・皆様ありがとうございます!!

Re: アヴァロンコード ( No.423 )
日時: 2012/12/27 20:01
名前: ゆめ (ID: pbINZGZ2)

めたさんお久しぶりです!!ゆめです!!

いよいよレンポが…!

めたさん、応援してます!!
頑張ってください!!

Re: アヴァロンコード ( No.424 )
日時: 2012/12/28 00:29
名前: 天兎 (ID: Wp/04zaT)

めたさんこんにちは
天兎です!

アンテロビブネンに飲まれるとは…
凄い作戦ですね(^^)

いつも思うのですが、めたさんは想像力(創造力?)がとても豊かですね(^^)
ティアの過去とか、ポルターガイストとか…ゲーム内に描かれていない事を考えられる才能、素晴らしいと思います!

これからも期待してます!

Re: アヴァロンコード ( No.425 )
日時: 2012/12/28 01:03
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

おお、ゆめさん!久しぶりですね!!
応援ありがとうございますっ!

はい、やっと最後の精霊救出ですねー
精霊戻ってきてほしいですけど、レンポ取り戻せたらもう、すぐ終わっちゃうんですよね・・・
なんか寂しいです

あぁ、でも火山のダンジョン複雑すぎて・・・しかもマップワープ機能は小説内では搭載してないためティアに歩かせないといけないし・・・
案外長くなりそうだなぁ

あまとさんこんばんわー!

アンテロビブネン戦ホントに苦労しましたw
ゲームで何回か倒せばたいてい戦術は思いつくんですけど、この森竜はあまり目立った攻撃してこないし、剣が弱点であっさり倒せちゃう・・・
ラウカをおとりにしたのもその場の気まぐれでしたね
夢の中にまで出てくるほど悩んだw

ティアの過去・・・レクスが同じような境遇って言ってたのでご両親にはああいうことになってもらいました。
墓地にはティアの両親の墓がなかったので、何らかの理由で作れなかったという形に持ってった。

本当は捨て子でも良かったのですが、ティアは少ない間でも最後までかわいがられて育ってほしかった・・・。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

終わり行く世界で、彼女の声がひときわ明るく聞こえた。

振り返れば、にっこり微笑むミエリがいる。

生き返ったような森の息吹を受けて、長い三つ編みが風に揺れている。

「ありがとうね、ティア!」

ミエリが笑顔のままティアに言う。

ティアは言葉にならない感動でただ頷くばかりだった。

沼に立ってすっかり泥まみれなことも忘れて、ミエリの森の結晶のような眼をただ笑顔で見ていた。

「って、何でそんな泥まみれなのー?」

気づいたようにミエリがよってきて、隅から隅まで泥尽くしのティアに問う。

そしてラウカの姿を見て目をしばたいて、だれ?と言った風にきょとんと見ている。

もう一度ティアに視線を落とすと

「沢山聞きたいことがあるけど・・・今は無理そうね」

すっかり泥まみれのティアは、脱力して沼に座り込んだ。

そんなティアを見て、ミエリが諦めたように微笑んで言う。

『…おかえり…』

精霊の輪に入ったミエリにネアキが小さな声でつぶやく。

「うん!」元気よく頷いたミエリに、ウルが言う。

「残るはレンポだけですね。四つの異変の最後は—」

と、ウルがそういった直後だった。

竜を見つける直前に起こった爆音と地響きが再び起こった。

「な、に?」ティアが怯えたように沼から顔を上げる。

すると、ラウカがティアに近寄りながら言う。

「エルオス火山ダ。また噴火していル」

精霊たちは目を合わせると、沼に沈むティアを見た。

視線の意味を理解して、ティアはすかさずラウカに声をかけた。

「それって、最近起こった四つの異変の?」

「そうダ。季節はずれの雹、異常なまでの落雷、異常植物と魔物の暴走、そして休火山の噴火ダ。まぁ、ここからは遠いからせいぜい火山灰くらいしか被害はなイ」

命を取り戻した森を眺めながらラウカは満足げに続けた。

「だからまた森が枯れることはなイ」

エルオス火山の噴火。四つの異常の最後。最後の精霊が囚われている場所。

「それって、やっぱりレンポだよね?」

ミエリが言うと、ネアキが首を傾げて言う。

『…それ以外いないと思う…』

ウルも頷いて「では、早く行きましょうか!」そういった。



Re: アヴァロンコード ( No.426 )
日時: 2012/12/28 20:37
名前: ゆめ (ID: pbINZGZ2)

めたさんこんばんは!

そうですよね…レン(ごめんなさい…レンポのことレンって読んでいるんです…。)を助けたらラスボスの章ですよね…。

では…最後の章が終わったあとに、おまけで少し平和になった世界で…的なかんじで書いてみてはいかがですか?

別に無視して結構ですから!!

Re: アヴァロンコード ( No.427 )
日時: 2012/12/28 21:21
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

 第十章 炎の精霊

—炎が山に宿り
 大地が鼓動するとき
 御使いは再び見出される


「ところで・・・」

ティアはばさばさと濡れた髪をタオルで乾かしながら言う。

背後ではラウカが焚き火を炊いて、衣類を乾かしている。

そして、ん?という風にこちらを振り返る。

「エルオス火山ってどこにあるの?」

ラウカと同じような獣の服に身を包んだティアが、ラウカにそういった。

アンテロビブネン戦ですっかり全身泥まみれになったティアは、ラウカとともに、川に飛び込み半ば遊ぶように泥を落としたのだった。

そして服を借り、すっかりきれいになった水だらけの服を乾かしているところだった。

「火山の事を聞いて、どうするつもりダ?」

服の水分がよく蒸発するように服のすそを引っ張り、火に当たる面積を増やしながら言う。

そしてくるりと振り返って、ティアの周りに視線を送る。

控えめにラウカに視線を送る精霊を見ようとしているのだろう。

「・・・それがティアの使命だから・・・カ?」

「—うん」

ティアが頷くと、ラウカは何かさとったかのように微笑んだ。

そして腕を組み、目をつぶって思い返すように。

「エルオス火山・・・一度だけ行ったことがあル」

「ほんと!?」

ミエリが良かった、という風に反応する。

轟音と火柱を頼りに歩くというのは、かなり厳しいからだ。

残りの精霊たちも、期待したようにラウカを見つめる。

ラウカは鋭い緑色の目を細め、首をかしげた。

なにやら必死に思い返しているようだ。

「・・・・」その間ティア達は、焚き火のそばでラウカのことを黙ってみている。

ここは屋外なため、たまにせかすように噴火の音が響いてくる。

分かっているよ、と悲痛な面持ちでティアは轟音に震える。

「たしか数年前、溶岩石を森に置こうと拾いにいったんダ」

え、なんで?という風に首をかしげたやからに、ウルがすかさず説明する。

「溶岩石はミネラルを豊富に含んでいますからね、養分の塊なのです」

へー、というように精霊とティアが頷くと、きょとんとしていたラウカが気を取り直して続ける。

「それで場所は、砦のそばだった気がするゾ」

「砦って・・・ワーグリス砦?」

そんなところに火山なんてあったのか、とティアはビックリして聞き返す。

ネアキを助けに行っていたとき、そばにあったとは。

「そばといっても・・・かなり距離はあるがナ」

腕を組んだままラウカが言う。

「ま、安心しロ。案内すル!」

ラウカが笑顔で立ち上がろうとした瞬間、ティアはその足が痛ましいほど腫れているのを発見した。

「ラウカ!足!」

ティアが慌てて叫ぶと、ラウカは涼しい顔で大丈夫だと言い張る。

だがウルが医者のように腫れ具合を見て眉をひそめると、ティアはますます反対した。

「骨折までは行かないようですが・・・これはヒビ、入ってますね」

「えぇー、それじゃ頼めないね!」

『…地図を描いてもらえば…?』

精霊たちが口々に言い合い、結局ラウカはやせ我慢を見破られおいていかれることになった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
こんばんわ!時間差ですみません!!

あぁ、私もゲーム中のメモのときよく精霊たちの名前略して書いちゃってますw

そうですね!平和な世界を・・・とりあえず13章と称しているもので書きたいと思ってます!
でも、私としては悲しいから書きたくないけど・・・でもやっぱり必要な最終章、14章まで書こうと思います。

Re: アヴァロンコード ( No.428 )
日時: 2012/12/28 22:06
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

服が完全に乾ききったのは、正午を回ったとき。

それほどまでじっとりと水分をはらんでいた服は、今やティアに袖を通されて新品同様だった。

ちゃんと乾いてる、と満足げにつぶやいたティアに、ティアの不器用なギプスをはいたラウカが紙を差し出す。

ちょっと動きづらそうに、ベットの上から

「地図ダ」

そう言って早く取ってよというようにブンブン振り回す。

それを受け取り、ワッと歓声をあげた。

「なにこれ、すごい!」

ティアの感嘆の声に、精霊たちがいっせいに覗き込む。

「ホント、きれー!」『…この人画家…?』

歯がゆいばかりのウルに、熱心に説明してあげる精霊たちをよそに、ラウカは照れたように笑う。

「時間は沢山あったからナ。分かりやすく書いてみタ」

「すごく分かりやすいよ!」

ティアがそのきれいに書かれた地図をにこやかにみて言う。

細かい距離の書かれた、おまけに美しく彩色された地図。

思わず価値あるものとしてコードスキャンしそうになるほどのできばえだ。

「全部が無事に終わったら、額縁に入れて飾るね!」

うれしそうに言うティアに、ラウカは意味ありげに微笑む。

開け放した窓からは、終末の鐘と、相変わらず食われた太陽が見える。

野生的感だろうか、この世界が滅びようとしているのが、分かる。

ちょっと悲しそうにネコのような目を伏せた。

「・・・大丈夫だよラウカ!それじゃあ、いってくるね!」

その悲しげな表情を見たティアは、一瞬困ったような顔をして笑顔をつくろっていった。

「うん、無事でナ」

駆け出していったティアの後姿を、ラウカは夢を見るような表情で見送った。


世界の崩壊がもうじき訪れる。

窓の外の光景が教えてくれる。

沢山の異変。不吉な災厄たち。

世界には必ず滅びが来る、これは最初から決まっていたことなのか?

そんなことをたった一人の小娘が止められるのだろうか、とラウカは窓の外を見つめながら思った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照 7600 越えてましたよ!
昨日の黄金伝説風に言うと ななろくまるまる ですねw

すみませんうれしかったんで分かる人にしかわからないネタ出してしまった
皆様、ありがとうございます!!

Re: アヴァロンコード ( No.429 )
日時: 2012/12/29 00:04
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

「まずは、やはりワーグリス砦を目指しましょうか」

東の巨木をハンマーで渡り、西の巨木の前でウルが言った。

西の巨木は痛々しい傷がウソのように治っている過程だった。

しおれ気味だった葉も、徐々に空を向き始め、新芽がちらほらと出ている。

本当に自然は強い。驚異的な生命力だ。

「えーと、ここからだと・・・滝から落っこちて森を抜けて平原を突き抜けて、カレイラの前を通り過ぎればいいのね!」

うん、簡単!というような勢いでミエリがさらりと言う。

そこが大変何だよう、とティアはげんなりする。

「何で火山そんな遠いの」

などとぼやきつつもテクテク歩き出したティアの後を精霊たちが追いかける。

『…まって、ミエリ…』

命吹き返す森の中をあるいていくティアのあとに次いで、あれ?とネアキが首をかしげた。

なに?というようにミエリが振り返る。

『…滝からおっこちる…って?…』

ネアキがそういい終わったのと同時に、ティアの歩みがぴたりと止まる。

「・・・ティア?」

不安げなウルの声が聞こえるので、ネアキとミエリがそちらへ目をやる。

すると、暗い空の色を写した川に、ティアが急激接近している。

ネアキとウルはビックリして、えっと言葉に詰まってしまう。

ティアは我々が水に弱いことを知っている・・・んだよな?

ぼしゃっと音を立てて川に、乾いたばかりの服に身を包むティアが足をつけた。

「な、なにをしているのですか?」

するとけろっとした顔でティアが振り返り、何食わぬ顔で言う。

「ここから落ちるとものすごい近道なんだよ」


これも最後の精霊のため、と承諾した精霊たち。

救出は早いほうがいい。

しおりに眠りにつき、ティアはためらいもせずに地面をけりつけ滝に飛び込んだ。



Re: アヴァロンコード ( No.430 )
日時: 2012/12/29 16:33
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

水浸しの預言書を早く乾くように振り回しながら歩くティア。

彼女も同じく水浸しの格好であり、彼女の通った後は湿った足跡がついてくる。

「夜にはつくかな?」

かすかな光となった精霊たちにティアが歩きながら言う。

小脇に浮遊する三色のひかりたちは、そうだろうと返事する。

乾ききらなければ、本来の姿を具現化することもママならない。

世界を創り崩壊させる大精霊—なんて仰々しいが、水にぬれさえすれば力を失ってしまう。

なんにでも弱点というのはあるのだろう。

「とりあえず、ワーグロス砦の前・・・ウェルドの大河まで歩くだけですからね」

金色の蛍のようなウルが言う。

なぜだろうか、人の姿をしていないと貫禄がない。

小さくて丸い、ひかるマリモのような感じだ。

『…それに…早く助けないと、植物のときみたいに…人とかに害が出る…』

ネアキのマリもが言う。

「でもさすがに溶岩の被害は、川のおかげで来ないと思うけどね」

ミエリのマリもがだいじょうぶかな、とそういう。

Re: アヴァロンコード ( No.431 )
日時: 2012/12/29 22:08
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

カレイラについたのはそれからしばらくしてのことだった。

ティアの服はまだ生乾きだったが、預言書はとりあえず乾いていた。

「んー」

ティアはそんな預言書を右手でかかえあげて眺め回し、意味もなくぺらぺらとページをめくる。

開いたページは風を受けてなめらかにめくれて行く。

「どうしたのー?」

ミエリがそんなティアに声をかける。

今ではすっかり姿を具現化し、ティアのそばにふわふわと漂っている。

やはりこの姿のほうが貫禄がある。

そんな姿を見上げながら、ティアはうんと続ける。

「預言書って何回も水にぬれてきたでしょ?なのにちゃんと乾いてすごいなと思って」

この世界に現れて少なくとも5回はぬれたはずだ。

なのに通常の本のように、ぬれても知人でかさついたりせず、非常に滑らかなのだ。

「ふーん?」ミエリが腰に手を当てて残りの精霊を振り返る。

「何度もそれと一緒に世界を創ってきましたからねぇ・・・むしろ物を写し取る本ですから、普通の本ではありませんね」

言われてみればそうかと、ティアが頷いたとき、カレイラの世界の十字路についた。

国の国境線では相変わらず兵士が待機していて、ひそひそなにやら話しこんでいる。

立ち聞きは良くないけれど、イヤでも聞こえてくる。

「・・・日食にあの異変・・・嫌なことがこうも続くとはな」

どうやら、たむろす兵士たちは四つの異変に続き、輝く太陽が月に食われたことを話し込んでいるらしい。

「これはあれじゃないか?世界が滅びを迎えてるとか?」

「おいおい、ふざけてる場合じゃねぇぞ。本当だったらどうする」

ふざけて笑いながら言う兵士に、ちょっと不安そうに男の型をどつく兵士。

そんな二人の兵士の脇から、地面に疲れて座り込んだ兵士ため息をついて言う。

「嫌なことって連鎖するって言うじゃないか。この全部が最初の出来事・・・英雄が裏切った事件が引き金なら、僕はあの人を恨みますよ」

年少のその兵士が言ったことに、ティアが悲しそうに顔を曇らせた。

「っ!」精霊たちは怒りたいのを必死にこらえた。

眉をひそめ、落ち着こうとする。

ティアのせいではないのに。

ティアはそれを止めようとしているのに。

ネアキが目を細め、苛立ちのオーラをまとわせると、それを察知したように精霊同士がが目を合わせてうなづいた。

これ以上ここにいたって、いい事はない。

こちらもネアキに負けず劣らず、不満が募っている。

「・・・行きましょうか」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照 7700 超えましたね!
ラッキーセブン見れるんじゃないでしょうか?!

オーメン+6を目撃したのでぜひラッキーセブンズもみたいですね

Re: アヴァロンコード ( No.432 )
日時: 2012/12/30 02:34
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

相変わらずの日食中の太陽が徐々に傾いた頃、ティアはようやくウェルドの大河の前に立っていた。

水色のグラデーションに、ごてごてと転がる太いツルの乾燥したもの。

ミエリを捕える竜がいなくなったため、森の力もだいぶ落ち着き、不要なものは皆自然の意思により排除されたのだろう。

生命力を異様なほど貪るこのツルは、自然に見放されたらしい。

「やっと着いたね!でもこれからが本場よ?」

ティアの頭上に浮遊し、そして覗き込むようにティアの手の中にある美しい地図を見る。

「川沿いへ進め、ですか」

ウルがふむ、と考えるようにいう。

そして腕を組むと、小首をかしげて続けた。

「やはり安全のため、河の中に入って進むことをお勧めしますね」

え、なんでという視線を感じたのだろう、ウルは火山があろう方向を見上げて言う。


釣られて精霊たちもティアも、エルオス火山の方向を見上げた。

赤っぽい空に負けないくらい火柱を上げている岩ばかりの山。

今はごうごうと怖いぐらいに煙を吐き出している。

「流れ出た溶岩が川により阻まれますからね。早い溶岩がきても、河の中にいれば一応は安全です」

という言葉により、ティアはせっかく乾いた服をまたひんやりする大河の中につける事になった。

『…もしヨウガンきても…わたしが凍らせてしまうわ…』

寒そうに大河を進むティアに、ネアキが空をふらりと舞いながら言う。

「火山の中にはいったら、絶対ネアキの力が要るもんね!あんな暑いところ長時間いたら倒れちゃうから」

またも首を傾げたティアに、ミエリが諭すようにそう言った。

「さぁ、とりあえずこのまま二キロほど歩けば、もう火山はすぐそこですよ」




Re: アヴァロンコード ( No.433 )
日時: 2012/12/30 16:52
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

川沿いを進んでいくと、空はだいぶ暗くなった。

星が見えないのは、そばにそびえるエルオス火山のせいだろう。

空を火柱で赤く染めているので、星の光も良く見えないでいた。

そのふもとに立ち、四人一緒にそんなエルオス火山を見上げた。

その山に宿る溶岩のせいで、火山自体が発熱している様で。

「さぁ、ついたね!」

先ほどまで川に浸り寒かったのだが、今はむしろ暑い。

夏の日差しを浴びる暑さではなく、熱された鉄のそばにいるような、肌が熱を帯びて熱いのだ。

「すっかり活火山ですね。そばによるだけでもこれですから」

ウルは見えないものの、熱を感じてその山を正確に見あげている。

目を枷で閉ざされているのは、この場では幸いだった。

身体の中で一番熱に弱いのは、目と爪なのだ。

「あつい・・・」

ティアが河の中で後ずさりながらつぶやく。

両手で顔を、というより目をかばいながら顔をしかめている。

「うん。砂漠とは違う熱さだよね」

ミエリが同調するように頷いて、ネアキのほうを振り返る。

ネアキは分かっているというように頷き、ティアに頷く。

『…わたしに任せて…』

ティアの身の回りに冷気をまとわせるのは詠唱はいらない。

ネアキが軽く杖を振ると、ひんやりするミストが肌を覆い、目と爪を襲っていた暑さもウソのように引いていった。

『…これでもう平気…』

ネアキにありがとうとお礼をいい、ティアは熱線を放射する火山を見上げ、深呼吸する。

「今から助けに行くよ!」

気合を入れるようにそういい、火山のふもとに口をあけた入り口に走り出した。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照が、なんと7800に行ってました!ありがとうご座います!!
でもラッキーセブンズを見逃してしまった・・・
見れた方はきっと来年はいい年になると思う(たぶん

明日は大晦日ですね!でも年賀状まだ書いてない
きっとこの話も来年の一月中に終わるでしょう!(たぶん・・・
寂しいですね!ホントに!



Re: アヴァロンコード ( No.434 )
日時: 2012/12/31 14:46
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

火山の内部は主に三色がメインだった。

もともと日のひかりが届かない洞窟内を照らす、白に近いほど熱されたおびただしいヨウガンと、そこから立ち上る燈色の炎。

そしてそれらすべてを覆う、黒茶色の岩盤である。

「なんか怖い」

一歩踏み入れた瞬間から、この世のものとは思えない景色にティアは気おされていた。

確かに足元の岩は、ごろついており、それはよくバルガッツォ渓谷で見られるのだが、沸き立つヨウガンがほんのそばにまであると、不安になる。

入り口のあるふもとのため、目立った溶岩はないものの、最深部である火口付近はどうなっているかわからない。

こげ茶の岩の割れ目に、時折宝石のように輝くヨウガンがちらちら光っているものの、それを素直にきれいだと考えられない。

とにかく、触れたら溶けてしまうのだ。危険この上ない。

もちろんティアにはふれる気さえさらさらなく、遠くの水だまりの様なヨウガンがはぜるだけでびくついていた。

「ふもとでこれだけのヨウガンがあるとなれば・・・火口は大変なことになっているでしょうね」

涼しい顔でウルが言うが、実際は夏の真っ只中よりも暑い。

ティアもネアキに加護されなければ、こんなところ歩けたものではない。

「とにかく、気をつけて進もう」

自分に言い聞かせるようにティアは慎重につぶやいた。

上り坂の道なき道は、まだまだずっと続いている。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照が な、7,900 いきましたよ!!

大晦日ですのに、ありがとうございます!!
新年では八千めざしたいですねぇ。

今日で2012年が終わるのか・・・
夏休みから始めたこの小説も、一月に入ると半年続くことになりますね。
応援がなければここまで続かなかったと思います。
皆さんありがとう!!(でもこれ最終章の終わりに言うセリフだよなw


Re: アヴァロンコード ( No.435 )
日時: 2012/12/31 15:20
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

上り坂のほうがまだましだったろうところを今、ティアたちは登っていた。

やはり整備されていないこの火山の内部は、崖や岩場に満ち溢れており先に進みたくば無理に突破するほかない。

「きっつい・・・あとどれぐらい?」

弾む息で岩場をやっと登りきったティアが岩にしがみついて目を閉じながら聞く。

「目測ですが、あと五メートルは続きますよ」

第6感をフル活用してのウルが首をかしげながら言う。

目測はぴったりであり、本当は目が見えてるのではないかと思ってしまう。

『…まだ二メートルも登ってない…』

まだそんなに、とつらそうにぼやいたティアを見ながらネアキがつぶやく。

火を吹く溶岩の色を浴びて赤褐色の岩場は、図形で言えば角が60度の直角三角形であり、その斜面はかなりの傾斜である。

おまけにごつごつした切り立った岩がうろこのように生えており、足を滑らせて滑り降りると体中が悲惨な怪我を負うことになる。

「まだ入り口からアレしかすすんでないよ」

ティアがため息混じりに疲労でにじんだ汗を拭きつつ言う。

すでに過酷極まりない素手登山のせいで、手はすりむけ、引っかき傷だらけだ。

だが、それでも進まなくてはならない。

もう一度両腕に力を込めて棘のような岩場を掴み、ロッククライミングの要領で身体を上げていく。

そういったたゆまない努力のおかげで、その弾劾は登りきったものの、ティアの目に移り込む景色はけしてやさしいものではなかった。

「・・・」

思わず絶句する風景しか広がっていない。

入り口付近を登りあげた景色は、赤が異様に多くなった。

小川のように下ってくるヨウガンはその数を増し、ぼこぼこと激しくあわ立った音を発している。

黒茶色の岩肌が、溶岩の光を受けて妙に明るく見えた。

そこに立ち尽くしていると

「溶岩が増えていますね。まずいです・・・」

ウルが深刻な面持ちで言うので、一斉に不安になる。

「なにがまずいの?」ミエリが不安顔のまま問う。

イヤは雰囲気は感じるも、明確なことが分からないため聞いたのだ。

「火山活動が活発すぎます。このままではそのうちに噴火するでしょう」

ウルが険しい顔で言うが、ぽかんとする三人。

そんな三人の顔を見ながら、ウルは教えてくれた。

「もし噴火すれば、この内部にまで影響するでしょう。つまり、すべての溶岩が噴火の反動により、内部のいたるところを埋め尽くすのです。もちろん、ここも例外ではありません」



Re: アヴァロンコード ( No.436 )
日時: 2012/12/31 16:14
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

「じゃあどうすればいいの?なにか・・・噴火を止める方法は?」

ミエリがあせったように声を上げた。

このまま噴火が起きれば、ティアは確実に溶けきってしまう。
ティアが死ぬのはイヤだし、預言書の使命を次につなぐことが出来なくなる。

「なにかあるんじゃない?例えば・・・」

ミエリが頭をひねって必死に考えている。
だがいい案が出ない様子。そのまま首を振ってネアキをちらりと見た。

『…凍らせたらどう…?』

ミエリの視線に応じ、ネアキが杖を掲げて見せた。
その合間にも、ふつふつと煮えたぎるヨウガンの音が大きくなる。

「凍らせられれば、噴火しないよね?」

ネアキの意見を聞いてティアがウルに聞く。
勉学どころではない身分なため、そのところ、地学などもやっぱり習ったことはない。

ただ父の仕事上、植物にだけは少し知識があり、それだけは唯一の自慢できる点であった。

「溶岩を凍らせる・・・それは危険です」

「どうしてー?」

即答したウルにミエリが詰め寄る。

「では、火山の噴火の原理をお話しましょうか」

そういって、ウルは頭の中に入っている沢山の知識から、火山に関する知識を引っ張り出した。

「噴火というのは、溶岩の集結体であるマグマ溜りから溶岩などが吹き出る現象のことです」

それは知っている、と頷いたティア。
二人の精霊たちもふーん?と頷いた。

「この噴火というのは、次のようなことが起こって起きるのです。地下のマグマが冷えると、火山ガスが地表付近まで集まります。その圧力が高まり、岩盤を吹き飛ばして噴火するのですよ」

簡単でしょう?というように言い切ったウルを、三人は眉をひそめてみる。

「・・・とにかく、冷やしてしまうと逆に噴火させてしまうのです」

気を取り直してそう締めくくった。

いつの間にか足元の岩石に座り込んでいたティアが

「じゃあ、他の方法を考えないとね・・・」

といえば、ウルは首を振る。

「もはや自然現象を人工的にとめることは出来ないのです」

「じゃあ、ティアはこのまま溶けちゃうの?」

ミエリがティアの傍らについて、そんなの反対とばかりに言うと、だまっていたネアキが首を振った。

『…人工的には止められなくても…自然をつかさどるわたしたちになら…できる。そうでしょ、ウル…?』

「その通りですよ。今考えられる、たった一つの方法が存在します」

ネアキの視線を受けて、ウルが頷いてそういった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

小学校で習った火山知識フル活用なのであってるかわかんないけど・・・
火山は冷えたら噴火 であってたと思う
細かいメカニズムはしらんが


Re: アヴァロンコード ( No.437 )
日時: 2012/12/31 16:52
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

「それは、完全に凍らせることです」

ウルの思案なのでなにかしら考えられているのだろうが、さっきとは食い違っているところがある。
明らかな矛盾だ。

「だって、さっき冷やせば噴火するって言ってたのに?」

ティアが首をかしげて言う。

「思い出してください。マグマが冷えればガスが出る。そのガスが膨張し噴火すると・・・」

うん、と頷いた彼らを見、ウルはもう一度言う。

「なので、完全に凍らせるのです。ガスまでも瞬時に・・・それが出来るのは、我々精霊だけですけどね」

「だけど、沢山力使うんじゃない?大丈夫なのかな?」

ミエリが心配そうにネアキを覗き込む。

だがネアキは腰に手を当てて頷く。

『…ぐずぐずできない…それに願ってもらえれば…力は十分出る…』

すでに危ないくらいマグマが音を立てている。

ティアは身の危険を感じ、不安顔のままネアキに頼んだ。

「完全に、凍らせて!」

『…わかった…』

そう返事をすると、ネアキは目を閉じ、いつもより永めの詠唱をし始めた。

ティアの目の前で、二人の精霊に見守られながらネアキは約二分ほどの詠唱を終わらせると、杖を地面に突き刺すように振りかぶった。

そして何か叫ぶと、急にあたりが氷結した音が聞こえた。

一気に溶岩が氷付けにされ、あんなに輝いていた溶岩の光も衰え、瞬時に暗くなる。

ガスの漏れる音さえ聞こえず、さらに不気味な光景が広がっている。

「どうやら成功のようですね」

あたりに首をめぐらせていたウルがほっとしたように言う。

「だいじょうぶ?」

ネアキに声をかけると、ネアキはだまったまま頷いた。

『…消耗をふせぐために…姿を変えたままになるけれど…』

言った途端、ネアキの氷の妖精のようなかわいらしい姿がはじけて、後に残ったのはぼんやり光る蛍のような瞬き。

「できるだけ早く済ませるように、急ごう」

そんなネアキを眺め、ティアは先に進んだ。

先ほどのようにつらい道のりも多いけれど、ネアキの凍らせた溶岩の上を通っても安全なため、要領は良くなった。


Re: アヴァロンコード ( No.438 )
日時: 2012/12/31 17:41
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

つるつる滑る凍りついた溶岩。

それらはネアキの力により完璧に凍らされており、防弾ガラスのように分厚い。

だがネアキもまた、長く持たせるために省エネモードに入っている。

「溶岩が沢山・・・」

凍り付いた川のような溶岩を飛び越え、スケートリンクのような溶岩の泉を覗き込む。

どれも見事なまでに凍っているので恐怖心は薄れるが、足を乗せる気にはなれない。

「だんだん道が変形してきましたね」

それからしばらく登ったり下ったりを続けていくと、高温のためにもろくなった足場が出てきた。

少し足を乗せるとクッキーのようにボロッと崩れてしまう。

そのまま石くずは落下していき、凍った溶岩の表面にコーンとぶつかる。

「気をつけてね、ティア」

小鹿のような足取りで、ティアが進んでいくと足場がゆれたような気がする。

けっこうな高台へ続く道なので、まっさかさまに転げ落ちれば確実に足の骨は折るだろう。

ティアは唇をなめて、慎重に進んでいく。

眼下にもろい足場と、凍ってもなお光るような溶岩が広がっている。

ガジッっと言う音が足元で聞こえ、ティアはとっさにジャンプして目じかの岩に飛びついた。

ごろごろごろっと背後で崩れ落ちる音。

そのまま凍りにぶつかる音がするが、たいした音ではなかった。

ふうーっと安堵すると、慎重に岩から身を離し、地に足をつけたティア。

「そろそろ中腹にきたのかな?」

ティアに風を送りながらミエリが言う。

「だんだん道が厳しくなるみたい。気をつけてね!」




Re: アヴァロンコード ( No.439 )
日時: 2013/01/01 00:52
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

ティアがエルオス火山の中腹にたどりついた頃、足を痛めたラウカはベットで大人しくしていなかった。

狩猟に使う槍を杖のように構え、ゆっくりゆっくり、今森の出口に来たのだ。

でも、その目に映るのは断絶された橋。

「あァ・・・」

ラウカはその橋を見てひどく醒めた目で眺めた。

槍にすがる指にきつく力が入り、爪が食い込む。

「・・・仕方ないカ」

その真っ二つの一本橋はラウカとルドルドの仲の悪さの象徴である。

以前までは二つの森林と二つの巨木を結んでいたのだが、ある事件の訪れにより、真っ二つになったのだ。

「でもこの足じゃ砂漠は越えられなイ」

ティアの加勢に加わりたかったのだが、どうやら絶たれたらしい。

ラウカは悔しげに獣の耳を横にたれ、ふうッとうなった。

「あの事件が起きなければナ」


ラウカは諦めてくるりときびすを返した。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

火山の内部特徴ないので 真っ二つの端の話でも書こうかと。
言わずもがなこれは矢印分類です。


 クエリーレ 001

Re: アヴァロンコード ( No.440 )
日時: 2013/01/01 01:28
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

 クエリーレ 002

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ラウカは大人しく家に帰り、そしてさらに大人しくベットに横になった。

日差しの良く入ってくる小窓が頭上にあるその清潔なベットで、ラウカはぼんやりと過去の喧嘩を思い出していた。

手には気づいていないが、杖にしていた槍を握っている。

小窓に小鳥が止まって、美しい声でさえずるが、すでにラウカは過去にトリップしていた。


「ふーん、子供、いるのカ」

「そう。ギムというの」

ギム、と口に含んだラウカは、変な名前、と顔をしかめる。

その横で、太い丸太に腰掛けていた女性が声を立てて笑った。

ラウカのようにピンク味の架かった赤い髪で、目は灰色のかかる、人とよく似たかなり小ぶりのドワーフだった。

人間の女性だと見間違えるほど、ドワーフにしては小柄だった。

「ギムはね、わたしの育った街のことに興味津々。森にずっと住んでいるからかな?」

その女性、ルドルドの妻はちょっとうれしそうにそういった。

この女性とラウカは数日前に出会い、共に狩をしたりと徐々に仲良くなったのだ。

今はグラナトゥム森林にて、話をしている。

「でもね、ルドルドは人間が嫌いだから、ギムにはけして街の話をしないようにしているの。ギムは森ではなく街に興味があるらしいけど」

「それでいいのカ?」

ラウカが首をかしげて聞けば、女性は頷いた。

ラウカは納得行かないような顔をしているが、ドワーフは人間とかかわらないほうが良いのだ。

前に一度、森のそばにある王国から生意気で高慢なエルフがやってきて、ドワーフに伝わる儀式用の冠を譲ってほしいとうるさくねだられたものだ。

街に持ち帰り、その素晴らしさを民達に伝えたいといっていたのだが、いざ渡すと汚いものでも見るようにしぶしぶ受け取って帰ったのだ。

それ以来、ルドルドは人々やエルフの好奇な目よりギムや伝統を守るということで、人的歴史と一切の関係を絶つことにした。

なので妻の街暮らしの昔話一切禁止なのだ。

「それじゃあ、猟師の森にギムをつれてくるといい!」

え?と女性が振り返ると、ラウカはぴょんっと丸太から飛び降りて元気よく手にしていた武器、イシキバツンツンを振り上げて言う。

「そしてラウカと一緒に狩すル!森が好きになるはズ!」

「・・・そうね、あなたの森はあの一本の崖道の奥・・・すぐそばだからね。そうしましょう」

そして彼女はラウカに向かって左手の小指を差し出した。

きょとんとラウカが見つめる。

「なんだ、こレ?」

眉をひそめていうラウカに、女性はニコリして言う。

「人間通しの、約束を守る誓いよ」

「ふうン」

ラウカはその女性を真似て小指を突き出し、指きりげんまんを覚えた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ラウカはルドルドの嫁から指きりげんまんを教わったわけです。
(わかんない人はお手数ですが第六章を見てください


 矢印の話であれなんですが

 あけましておめでとうございます!!
 今年も、多分遅くても二月中にこの話は終わると思うのですが
 それまで—最後までお付き合いください!!
 よい初夢を!!
 わたしは最近夢の中に精霊たちとカルドセプトというカードが良く出てきますw
 

 

Re: アヴァロンコード ( No.441 )
日時: 2013/01/01 14:55
名前: 故雪 (ID: 2rVxal1v)

お久しぶりです♪
明けましておめでとうございます!

読ませていただきました。
ラウカは指切りげんまんを教えてもらったんですね〜・・・。

更新、楽しみにしてます!

あっ!
小説大会の、投票させていただきました!

Re: アヴァロンコード ( No.442 )
日時: 2013/01/02 02:53
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

あけましておめでとうございます、故雪さん!
久しぶりです!
しかも投票なんてそんな!ありがたいです・・・

私もあなたの更新を楽しみにしていますよ!
かなり続きが気になってますw


お知らせ的な物

噴出していたセリフ進行メモが発掘されました!
しかも、もういちどメモしようとしていたゲームクリア直後に・・・

なのでおそらく順調に更新できるようです。
ですが三が日などは忙しすぎて更新できないと思います・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 クエリーレ003


ルドルドの妻は、かなり小振りなドワーフとして生まれたため、人間に興味を持ち、近づいても奇妙柄れる事はいっさいなかった。

むしろドワーフではなく、完全な人間の女性と見なされており、友人まで出来ていた。

妻は大きな図体のドワーフよりも小柄な人間に親近感がわいていたので森よりも町で暮らす方が好きだったのだが、そうもいかなかった。

小柄な体に流れる確かな森の番人ドワーフの血が、森へいこうと熱心に語りかけてくるのだ。

そして、ついには本能に負け、街を後にして深く美しい森に足を踏み入れたのだ。

だが街慣れで平和ぼけしていたドワーフには、幾らその血が流れているとて森は厳しかった。

あっという間に獣に囲まれ、追われ追われて逃げ場のないがけの縁へと追い込まれた。

死ぬのだと思ったとき、そこでルドルドに助けられた。

女性とは違って完璧にドワーフを表した体躯とシルエット。

似てもにつかないが、これが二人のドワーフの出会いとなった。

そしてギムが生まれ、その何年か後にラウカと出会ったのだ。

時は流れ、ギムがラウカのすむ猟師の森へ出かけ、森に興味を持ちだした頃。

グラナトゥム森林と猟師の森とをつないでいた一本の崖道が、突然崩落してしまった。

その原因というのが、ルドルドが狩りに用いたハンマーの衝撃音だった。

地面にぶち当たったハンマーの苛烈な振動数により崩落した崖道。

女性もギムも、ラウカにあえなくなり、また猟師の森に行くことが出来ず残念がった。

その悲しみ様を見て、ルドルドは一本の吊り橋を造ることを決め、そして無事成功させた。

それが現在の吊り橋誕生だった。



ちょっとまって 参照早速 8000飛んで8100いきました!

ありがとうございます!!初詣とか忙しいのに見てくださってありがとう!
クエリーレはあと3,4で終わると思います。
そしたらVS炎の竜開始ですよ!



Re: アヴァロンコード ( No.443 )
日時: 2013/01/02 22:47
名前: 天兎 (ID: Wp/04zaT)

めたさんあけましておめでとうございます!

そしてセリフメモ発掘おめでとうございます!(笑)

さらに参照8000越えおめでとうございます!
8000ってすごいですね@@
自分も8000回読んでもらえるような小説書けるように精進します!!

Re: アヴァロンコード ( No.444 )
日時: 2013/01/03 18:04
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

あまとさん、あけましておめでとうございます!
無事発見できまして、まさに初詣のおみくじどおり、『失せ物 遅いが出る』ということで、いまさらですが出てきましたw

8000ですね、ちまちま書いている甲斐がありました!
参照回数が増えてるとうれしいです。


 クエリーレ 004

・・・・・・・・・・・・・・・・・

その新しいつり橋のおかげで、ギムはラウカと共に森に出かけ、狩をしたりと森で存分に楽しんでいた。

だが、それも長くは続かなかった。

ギムを、ラウカやルドルドの住まう森から覚まさせたのは、ギムの母親の—ルドルドの妻である小柄なドワーフの—死だった。

人間のように小柄で、穏やかな彼女は急に魔物に襲われ、その後すぐに死んでしまったのだ。

しかもその場所こそ、ラウカの住む猟師の森での出来事だった。

ギムと二人してつり橋を渡り、ラウカの元へ向かう森の中で飢えた魔物に襲われた。

ラウカが駆けつけ、ラウカの家で手当てしたものの、駆けつけたルドルドを待たずなくなったのだった。

死の床中、街のことをしきりに口にしながらなくなった彼女の傍ら、離れずにずっと励ましていたギムは母を死に追いやった森を嫌うようになり、最期までしきりに口にしていた街に再び熱を上げていった。

女性の埋葬後、だがギムはラウカの元へまだ遊びに行っていた。

つり橋を渡り、母の最期に寝ていたベットに座ってラウカに森の話ではなく、しきりに街の話をねだって聞いていた。

ヒースと戦場を駆け回っていたラウカは街には詳しく、街のいろいろなことをギムに語って見せた。

「ねぇ、街ってそんなに楽しいところなら、行ってみたいんだけどずっと遠いところにあるんでしょ?」

ベットに座りながら足をぶらぶらさせたギムがそういったのが始まりだった。

ウソなどつかないラウカははっきりとした口調で言う。

「そんなことないゾ。このそばに、カレイラっていう街があル」

その言葉を聴いてギムは街に行こうとしたのだった。



Re: アヴァロンコード ( No.445 )
日時: 2013/01/03 18:41
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

「ねぇ父さん、僕街にいってくるよ」

ギムが帰って早々口にしたのがこの言葉であり、もちろんルドルドは猛反対した。

太陽の棚にある洞窟の家の中で激しく討論し、その夜ギムは家を飛び出した。

(母さんの好きだった街をなんで父さんは嫌うんだ?森ばっかり好きになれって言うのはなんで?)

そのまま真っ暗の森を劇走し、そしてカレイラを目指すつもりだったのだが迷子になった。

迷いの森グラナトゥム森林に囚われ、そのままもてあそばれるように走り回り、家へ帰ることも森を抜けることも出来なくなってしまった。

(どうしよう・・・森の番人が森で迷うなんて・・・)


その頃、ギムのいないことに気づいたルドルドは幼い子供を捜してラウカの家までやってきた。

最近ラウカの家へ入りびたりのギムは街のことを良く話すようになり、いったこともないくせに街の情景を話し出すのだ。

街に興味が出てきたのも、ラウカがいらないことを教えるせいだとルドルドは腹を立てていた。

そしてついにはギムは街に行きたいと言い出し、森になんかいたくないとはっきり言ったのだ。

(獣の小娘め、いらんことを言って・・・)

つり橋を歩きながらこんな橋作るんじゃなかったと思ったルドルド。

そしてラウカの家に着いたものの、ギムはどこにもいなかった。

そのまま帰ればいいものの、そこで喧嘩が始まったのだ。


「そもそもおまえが街のことなんぞ教えるからだ!」

「教えて何が悪イ!」

片手にハンマーと、イシキバツンツンという鈍器を構えたルドルドとラウカがにらみ合いながら言い合う。

彼らは場所を変えており、戦う気満々でにらみ合っている。

月に照らされた人外の彼らの瞳孔は夜闇に対応すべく真ん丸く黒くなっていた。

森の魔物たちでさえ逃げ出すオーラの中で、口げんかは発展していく。

「おまえのせいでギムが街へ行くと出て行った!」

「おまえの妻だってすんでいたところだろウ!なぜ引き止めル!」

そのまま暴力沙汰にまで発展しギムが一人森で迷うのもかまわず二人は本能的に戦っていた。

そしてようやく自力で森から逃れたギムが家に帰り、騒音を聞きつけて二人を止めたのだった。

ギムは喧嘩を止めるべく、街には行かないからと約束し、だが腹の虫が納まらないルドルドとラウカは両側からつり橋を破壊したのだった。

もう二度とお互いに顔を合わせないように、と。

森の番人として町になど現を抜かすなと主張したルドルド。

自由に自分の思うまま、行けば良いと主張したラウカ。

その喧嘩の対立をはっきり表したように、現在の真っ二つの橋は壊れているのである。


もちろん現在もルドルドとラウカはお互いいがみ合っており、ギムは未だに街にいけずにいる。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

クエリーレ おわり

案外早く終わった。なんだかまとまってないような気がする・・・
クエリーレ=喧嘩 です。
クエリーレって優美そうな発音ですが喧嘩って言う野蛮系の意味なんですよね

次回より VS炎の竜です たぶん

そして追記ですが 参照が 8300 超えました!!
ありがとうございます!!
きっと一月中に12章までは終わる!と思う・・・

Re: アヴァロンコード ( No.446 )
日時: 2013/01/03 19:19
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

「もう、すぐそこのようですね・・・山頂は」

マグマを固めているネアキは、黙ったまま蛍仕様のままである。

「そうみたいね。だってなんだかあたりが赤い」

こわごわとあたりを見回すミエリに続いて、ティアも頷く。

ぼうっと赤く光る氷付けのマグマが辺りを覆いつくし、岩盤が黒ずんで焦げている。

広い三角錐のような部屋であり、ごつごつした屋根部分が高く火に照らされている。

ごろごろした岩には溶岩の冷え固まったものもあり、以前噴火したのだろうと推測できる。

しかも、ネアキに加護されているのだがけっこう暑い。

ネアキの加護がなければ、異常なまでの暑さで蒸されていただろう。

「・・・?」

その奥に見えるのは、ぼうとした赤い光に照らされた大きな岩の塊のようなもの。

「あれは・・?」

その丸っこい塊が、声に反応したように動いた。

ずしん、ずしんっと重い足音を響かせて、何かがこちらにやってくる。

「なにあれ!ちょっとかわいいかも!」

ミエリがその姿が見えてくると、ちょっとおかしそうに言う。

真ん丸いふぐのような感じの体躯に、恐竜のような足が不釣合いに生えていて、おまけに小さなドラゴンの羽が生えている。

しっぽは身体に対してものすごく短く、口の端から長い牙が生えていた。

そしてなにより、その背中にちょこんと乗るのは火山であり、身体を覆ううろこは火山の岩盤のように赤黒い。

だが対照的に、目だけは氷のような色であり、瞳孔のない目でこちらをにらんでいる。

外見的に、四つの竜のうち一番危機感のない竜である。

ぼけっと見ていると

「あれはウンタモ。かなりの戦闘力を持つ竜です」

だがウルはそんなウンタモを前にして気をつけるように言った。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

VSウンタモ 開始

ウンタモは外見に対してアレなんですよ・・・
ゲームで何度死んだことか・・・(また前にした話を蒸し返しているっていう

Re: アヴァロンコード ( No.447 )
日時: 2013/01/04 02:59
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

ウンタモは氷のような目でティアを見下ろすと、急に咆哮を上げた。

なんだか怒りに満ちた、憤怒の叫びであり、ティアはあわあわと後ずさった。

かわいいようなそんな外見からは、想像もつかない竜のような声なので一気に不安になる。

「なんか・・・くる」

ミエリが急に不安そうにつぶやくと、急にウンタモが口をあけて何かを吐き出した。

それは円形に広がり、外側からオレンジ、黄色、白。

丸い身体を傾けて、岩盤に焦げ付くような高熱の溶岩を吐き出したのだ。

「まずいです!避けてください!」

ウルがすかさず叫び、ティアは反射的に身を翻して必死に走った。

(溶岩になんて当たったら死んじゃう!)

ありがたいことに、溶岩流はウンタモを中心に直径5メートルほどしか広がらずティアは広いこの場所—灼熱のるつぼ—をありがたいと感じた。

「追い詰められると大変ですね・・・溶岩はネアキの力で凍りつきますが、直撃すれば溶けてしまいます」

ウンタモはティアが安全地帯で蒼白になりながら自分を見ているなどお構いなしで、煮えたぎる溶岩の中心に何食わぬ顔で滞在している。

ウンタモは溶ける事がないらしい。

それほど硬く丈夫なうろこをしているのだろう。

「溶岩は厄介だけど、あんまりすばしっこくないみたい?」

ミエリが熱そうにウンタモを見ながらいうと、ウルはなんともいえないような顔をする。

「そばによるのは危険ですね・・・飛び道具で攻撃してみてはどうでしょう?」

「わかった」

ティアは近寄る気はまったくなかったので即座に預言書から飛刀を取り出した。

そしてウンタモの顔面にえいっとそれをぶん投げた。

赤い溶岩の色を反射した飛刀は勢いよくウンタモの眉間にぶち当たり、だがはじかれて地面の固まった溶岩の上にぽとりと落ちた。

飛刀をなげたティアも、ウンタモも一瞬静まり返る。沈黙の後。

「全然効いてないみたい」ミエリが眉を寄せて言う。

『…!…』

と、黙っていたネアキが何かハッとした様だった。

それもそのはず、またもや怒りの咆哮を上げたウンタモが、姿勢を低くしながら猛突進してきたからだ。

ドンドンドンドンと恐竜のような足で岩盤を強打しながらほとんど捨て身状態で突っ込んでくるウンタモを、ティアはあわてて避けた。

すんでのところでかわせば、急ブレーキをかけたようにウンタモがとまろうとする。

だがもちろんのこと、丸くアンバランスな身体のウンタモは止まれずにそばにあった岩などに激突してようやくとまった。

その光景を遠くより眺めていた四人は冷や汗をたらす。

「突進に溶岩攻撃・・・しかもうろこは硬いし」

どうやって倒す?と視線でミエリが問うてくる。

「剣・ハンマー・飛刀・爆弾の中で、一番威力が高いのは爆弾だよ。だから、ここはもう爆弾で長期戦をするしかないみたい」

ティアが泥仕合覚悟で言い切ると、ウルも賛成の様子。

「ごめんねネアキ。長くなりそうだけど、大丈夫かな?」

ティアがネアキにすまなさ層に言うとネアキは頷いた様だった。

「なにか有効な手立てはないものでしょうか」

噴火をとめているネアキ。ネアキの力が少しでも弱まればエルオス火山は確実に噴火する。

もしそうなれば、ティアは溶岩や爆発により死んでしまうだろう。

それを避けるべく、確実で即効性の戦術はないものか・・・。



Re: アヴァロンコード ( No.448 )
日時: 2013/01/05 00:55
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

エルオス火山の山頂付近、妙な景色の広がる場所。

黒茶色の岩盤で覆われた異常なほど高温の場所、岩々の割れ目から血がにじむように溶岩の色が見える。

煮えたぎる火山がいつ噴出すか分からないはずだが、今は溶岩が氷のオブジェのように固まっており、不気味である。

そんな辺鄙で危険な場所に、先ほどから不吉なほどに破壊音が響いている。

うなり声と、爆発による煙が充満して一層不気味度を上げている。

もう一度響いた爆発音。それに続いてぼふんと広がる煙。

もくもくとした紫煙から咳き込んで飛び出してくるのは、十代の少女であり、その正面に爆発を食らってもケロッとしている真っ赤な竜。

その竜を見上げて、その少女ティアは唇をかんだ。

「爆弾でもたいして傷つけられてない・・・」

その両手に握り締めた球形の灰色の爆弾を、もう一度振りかぶり投げる。

そして地面にさっとひれふすと、爆音がティアをかすめて破片やら火花を散らせる。

いくら預言書の爆弾といえど、威力の凄まじさはその持ち主にまで来るので、投げたらすぐ地面に伏せないといけない。

そのまま地面に伏せて顔をかばいながら何か良い作戦を脳みそフル回転で考える。

はじけ飛んできた破片やらが褐色の髪に紛れ込むも気にせずに、爆風が止んだと同時につま先で岩盤を蹴り上げてダッシュする。

そのすぐ後を、煙を一瞬で切りながら大きく口をあけたウンタモが、ティアを食い殺そうとするかのように走ってくる。

ものすごいスピードであり、足の速いティアでさえも追いつかれそうになりキバがあと少しでティアを捕らえそうになると、すかさずムチのようなツルでウンタモの足首を捕らえるミエリ。

生命力豊富な火山地帯では植物は有利であり、岩盤から芽吹いた植物はすぐに恐竜のような足をがんじがらめにする。

「ありがとっ」息切れをしつつお礼を言ったティアは即座に爆弾のピンを口にくわえて引っこ抜き、十分安全地帯よりウンタモめがけて爆弾を投げる。

それも一度に腕にかかえていたものすべてを投げ、ティアは口いっぱいのピンを足元に吹いた。

どちゃっとウンタモの足元に転がった爆弾たちは恐竜のような足に触れた瞬間爆発し、花火大会の終焉のような爆音を発する。

連発する凄まじい音にティアは両耳をふさぎ、あとずさる。

普通ならばあんな爆撃を受ければ生きてはいないのだが、尋常じゃない暑さの中で暮らすウンタモには硬い甲羅がある。

その溶岩でさえ溶かせない強靭なうろこのおかげでこの程度の爆発、物ともしないらしい。

ティアには頭の痛いことである。

なかなか倒せそうもない敵に対して遠い目をしながら爆発を見ていたティアは、ん?と瞬きをする。

いつもなら憤慨したウンタモが煙を突破して この野郎!と突進してくるのだが、いつまでたっても出てこない。

「様子がおかしいですね?」

ウルの声に頷き、ティアは恐る恐る煙の渦に近づく。

ミエリがティアの視界をよくしようと手をさっと振れば煙が風に流されてそこにたたずむウンタモの姿をはっきりと見せてくれた。



Re: アヴァロンコード ( No.449 )
日時: 2013/01/05 01:37
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

「これは・・・」

煙が失せた後、そこにウンタモがいる。

地面が爆発によりかなり痛めつけられておりギザギザとしている。

だがそんなことではなく、ウンタモはといえば—

しりもちを着いたように恐竜の足を前に突き出してビックリしたように口をあけて、目を真ん丸くしている。

無防備なその格好に本来ならばチャンスとばかりに攻撃するべきなのだが、ティアも精霊たちも唖然としていた。

怒りくるって突進攻撃など繰り出していた竜が、今や体勢を立て直そうとしてばたばたしているのだ。

真ん丸い手のないウンタモは、手の代わりにしきりに小さなドラゴンの羽をパタパタと動かしており、見ているこちらとすれば幼児が自力で立とうともがいているようにしか見えない。

しかもどうやら本当に立てないらしく、なんでだよ!とみるみるうちにウンタモの怒りのボルテージが上がっているようだ。

目の色が水色から真っ青へと変化していき、なんだか危険な予感がしてティアは後ずさった。

「今って攻撃していいのかしらー?」

ミエリがばたばた足を動かす竜とティアを交互に見ながら戸惑ったように言う。

ティアは首を傾げつつ、口でピンを引っこ抜きためらいがちに一つ爆弾をウンタモに投げた。

「あ・・・」

その爆弾は怒りに歯噛みしていたウンタモの口の中に入り込み、ウンタモがビックリしたようにもう一度真っ青な目を真ん丸くする。

何が起こるんだろうと、ティアたちも息を呑んでみていると

ふいにウンタモがボンッと膨らんだ。
その身体が一瞬中に浮くほどの爆発が体内で起こったらしく、ウンタモがうなり声を上げる。

「ど、どうやら、効果的のようです」

内臓破裂的なものを見てなんだかかわいそうな気がしながらもウルはティアにいった。

「なんかかわいそうだね」ミエリが言うも、その言葉はすぐ撤回される。

体内で爆弾が爆発したくせに怒りの咆哮を上げたウンタモが、その背中にちょこんと乗る火山を爆発させたのだ。

小さいといえど火山は火山。
怒りに身を任せた竜は炎に包まれた火山弾が幾重も降り注ぎ、ティアはあわててそれらを必死に避けた。

<火山弾とは、火山の噴火により火山灰と共に空を飛ぶ巨大な岩のこと。たいてい、火口をふさいでいた岩盤が噴火の衝撃で吹き飛んだものである。その大きさはまちまちだがかなり巨大>

「ティア!あぶない!」

ミエリたちが悲鳴をあげる中、危なっかしく避けるティア。

ウンタモは真っ青な目を三角形にしてまだまだ噴火は止まりそうになかった。

『…っ…』

そんな中、人知れず違う危機感を感じるものがいた。



Re: アヴァロンコード ( No.450 )
日時: 2013/01/05 02:00
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

主人が危険な火山弾の雨を飛びのきながら避けるのを、ネアキは歯を食いしばってみていた。

力の消耗が激しい。ウンタモが攻撃すればするほど、火山内の温度は上がるため、ネアキの力も火山に勝る低音温にしなければならない。

『…(二分の詠唱じゃ短かったかな。けっこう、たいへん)…』

蛍のようなひかりになって省エネモードなのだが、そろそろ限界点が見えてきた。

預言書に縛られ、長時間の精霊魔法はかなりの重労働である。

ネアキはそれを伝えるべくティアの元によりたいのだが、熱い火山弾がそれをさえぎる。

『…(こんなときに…この枷さえなければ叫べるのに)…』

いらだちながらも確実に削られていく力を感じ、ネアキはあせる。

しくじれば、大好きな主人は火山の餌食となり死んでしまう。

火山弾を噴出すウンタモを凍らせてしまいたい気持ちいっぱいだが、そんな力が残っていないことは言わずとも知っている。

一端火山を急いで出るか、少なくとも二十分以内にウンタモを倒さねばいけない。

二十分しかおそらくもう凍らせておくことは出来ない。

『…この枷さえなければ…!』

Re: アヴァロンコード ( No.451 )
日時: 2013/01/05 18:06
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

ようやく降り注ぐ火山弾が止まり、ティアはウンタモより遠く離れて一息つく。

すると、目の前に水色の蛍のようなネアキが舞い降りてきて、つらそうな口調でこういった。

『…あと二十分くらいしかマグマを…凍らせておけない…』

岩盤を背景にぼんやりかすむネアキは、先ほどのように燦然と輝いていない。

「二十分ですか。脱出するかあるいは時間内に倒すか」

ウルが腕を組んで言うも、答えはもう決まっているとティアは思う。

二十分ではとてもウンタモを倒せそうもない。

かれこれ何時間もへとへとになるまで爆弾やらなにやら投げたりとしてきたのだが、やっと口の中に爆弾を入れる方法を考え付いたときには脱出しなくてはならない。

「これ以上は危険だよね。ネアキの力もだいぶ弱まっているからティアを噴火から守る余裕はないと思う」

ミエリが出口の方向をみようと首をめぐらせたとき、つらそうなネアキにウルがさらりと言う。

肩の力を抜いたように「ではいっそのこと、噴火させてしまいましょうか」と。

「そんなことしたらティアが死んじゃうでしょ!」

ウルの言葉が鼓膜に届いた途端、おおらかなミエリでさえ何を言ってるのと、怒ったようにいう。

だがウルは暑さでおかしくなったわけではなく、ちゃんとした考えを持っていた。

「ネアキの火山を抑える力をティアの保護の為に使えばいいのです。いっせいに火山を凍らせる力をティアにかければ火山の噴火の中守るのは楽なはずです」

ウルの言葉にネアキが少し考えて頷く。

『…それくらいなら…』

それに、とウンタモのほうを向いたようだった。

『…ウンタモがこっちに気づいてしまう…』

ウンタモは転がる岩の中をティアを探して歩いてる様だった。

自身で振りまいた火山弾の岩が邪魔で、動きにくそうである。

「そうだね。怖いけど・・・やろう」

そんなウンタモから視線をネアキに戻し、ティアはその作戦に乗った。

「それに、うまくいけばウンタモを倒すことも—」

そういって腕を組んだウルは、ティアに振り返り言う。

火山の噴火でウンタモが倒せるとはどういうこと?といぶかしがるティアに言う。

「念のため、わたしに雷を使えと願ってください」

時間がないため、ティアは頷き願った。「雷を、つかって」

言い終わると、ネアキが小さく声を上げる。

『…ティア、だいじょうぶ…ちゃんと守るから…』

その声を合図に凍り付いていた溶岩がとろけだした。

ネアキの輝きが増し、水色の力がティアを覆い包むとどうじに、恐ろしいほどの地響きがやってきた。

精霊たちがティアによせ集まり、噴火のときを待つ。

ウンタモも視界の端でゆれに驚いたように辺りを見回している。

視界がぶれるほどの揺れにより、転がっている岩も音を立て、ついに足元が割れて、すさまじい勢いで火山が噴火した。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照 8400 超えました!ありがとうございます!
最近は妙な時間に更新してるので寝不足です・・・
大会は明日で終わりですねー


Re: アヴァロンコード ( No.452 )
日時: 2013/01/05 19:18
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

火山の噴火は恐ろしいものであり、足元が砕けて目の前を巨大な岩や真っ赤な溶岩が通過していく。

「っ!」

そんな景色を目を見開いてティアは見つめ、預言書を抱きしめる。

だがティアは溶ける事はなく、ネアキの守護は完璧だった。

水色の光に覆われて、ティアは溶岩に触れてもなんともなかった。

彼女の茶色の目に、赤い溶岩が写りこみ目の前ではぜる。

今やエルオス火山は大噴火だ。外来から見ると、夜明けの空に真っ赤な火柱と共に血が噴出すようにマグマが飛び散っている。

カレイラに住む人も太陽の棚に住むドワーフたちも、寝ぼけ眼で家から飛び出し、その赤い空を見上げた。

「こんどこそ、終わりか・・・世界の終わりが・・・来たのか」

人々は口々にそういい、震えながら天に祈った。


そんな時、エルオス火山の山頂付近。

火山の噴火が最も激しい場所で、赤だけの世界に変化が訪れた。

マグマの勢いにあらがってわずかに残った岩盤に踏ん張っていたウンタモがティアを見つけ、向かってきたのだ。

「まずいよ!こっちにくる!」いちはやくミエリがそれを発見し、どうしようとみなの顔を見る。

焼け付くような溶岩の中ミエリの力である森の力は使えない。

だがそれに一番対応できるネアキの力、氷の力は長時間労働とティアを守るので精一杯。

対応できるといえばウルの雷の力だが・・・。

と、ゴロっとふいに火山の爆発音とは異なる音が耳に聞こえてきた。

なんだろうと、頭上に目をやるが、煙とマグマで見えない。

爆音は普通足元から聞こえるはずなのに、何故か上から聞こえる?

「読みが当たりました。ティアはすごい急運の持ち主ですね」

するとウルが安心したようにティアの脇で空を見上げてつぶやいた。

「先ほどの願い。了解しました」

煙と火炎しか見えない中で、ウルは両手を天に差し向けて何かつぶやいた。

詠唱のような呟きが聞こえると、そくざに金に紫を帯びたものすごい落雷が踊るように落下して来た。

「わっ?!」急なひらめきの輝きにティアは完全に度肝を抜かれ飛び上がる。いつもの雷とは何か異なっている。

その雷をムチのように操り、ウルはウンタモめがけてその雷を叩き落した。

耳が麻痺するほど激しい破壊音。あたりに岩やら何かが砕け散ってウンタモの悲鳴が聞こえる。

そのティラノザウルスのような悲鳴もふつりとやみ、どうやら命か尽きたようだった。

いつの間にか火山は休止し流れ出す溶岩も水が引くように枯れていく。

その中で、ウンタモの弱りきった体が見えた。

雷に直撃されて黒ずんだ皮膚であり、かなりの重症である。
瀕死でありかなり苦しそうだ。放っておいても三十秒も持たずに死ぬだろう。

ティアはだまって爆弾を手に取った。

うろこが焼け焦げて使い物にならない今、爆弾一つで終わらせることが出来る。

苦しみが長く続かぬように、ティアはジュージューいう岩盤の上を歩き、半開きのまま開いた口の中に投げ込んだ。

ティアに噛み付こうとした拍子にくわえた爆弾は、そのまま体内に滑り込み静かに爆発し、ウンタモの浄化が始まった。

真っ青な浄化の光が火山の噴火の変わりに天に昇っていき、やがて見えなくなった。

そして最後の精霊が—

「やっと解放されたぜぇ!」

ふうっと息をついたティアたちは、最後の精霊を笑顔で迎えた。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

やっとここまできたー
レンポお帰り そしてウンタモにふった特殊な雷は次にて説明します

Re: アヴァロンコード ( No.453 )
日時: 2013/01/05 19:43
名前: ゆめ (ID: xJkvVriN)

めたさん!
あけましておめでとうございます!今年もよろしくお願いします!(遅)

レンポ帰ってきましたね!
もう終わりますね…。

Re: アヴァロンコード ( No.454 )
日時: 2013/01/05 19:46
名前: めた (ID: g7gck1Ss)
参照: http://vipsister23.com/archives/5510662.html

「ティア!信じてたぜ、ありがとよ!」

やっと解放されたレンポがお礼を言い終わると、ミエリがティアにうれしそうに言う。

「これでまた4人そろったね!また一緒にがんばろう!」

無事に仲間がすべてそろい、ほっとしているようだ。

「うん!・・・そういえば、さっきの雷なんだったの?」

そして思い出したようにウルを見る。

先ほどまで火山が爆発していたのだが、もう無事休火山にもどったエルオス火山に、呑気な声が飛び交う。

「なんだ、さっきの雷って?」「普通のとは違った変なヤツだったよねー?」

ネアキは元の姿に戻り、眠たそうにティアのそばに浮遊している。

完全に緊張感のなくなった空間におかしそうに微笑みながら、ウルは説明した。

「あれは通常の雷とは比べ物にならないほどの威力を持つ雷です。名を、火山雷というのですよ」

「かざんらい?」

想像通りのリアクションにウルは先を続ける。

先生を見つめる生徒のような光景に、すこしうれしそうに。

「そうです。通常雷は空気中の散りなどが摩擦を起こし、発生するものですが、火山雷というのは火山の影響を受けねば起こりません」

饒舌にしゃべりだすウル。

「火山噴火によりもたらされる雷。火山が吹き上げる水蒸気・火山灰・火山岩などの摩擦電気によって生まれるのです」

はやくも視聴者を置いてけぼりの説明だが、ウルはまだ続ける。

「しかも固体による摩擦電気がもたらす雷なので通常の雷よりもエネルギーが高いのです。起こる確率は低く、さっきの場面で起こってくれたのは奇跡ですね。精霊魔法と融合してかなりの威力を発揮できました」

簡単でしょう?とまたも言うウルに、ふーんと同じように頷いたティアたち。

わかったようなわからないような気分だが、それでもすごい事はわかった。

「さあ、説明も終わりましたし・・・一端外に出ましょうか」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

火山雷は特殊な雷です。
ウルの説明どおりの現象ですが、やっぱりどんなものか確かめたいですよね?
とりあえず、URLを貼り付けておきましたので、見たい方はどうぞ。
かなりの迫力です。

ゆめさん こんばんはー!

はい、レンポ帰ってきちゃいましたねw
もう終わり・・・でずが けっこう長いかもしれませんね。
最後までお付き合いください!


Re: アヴァロンコード ( No.455 )
日時: 2013/01/05 23:13
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

 
 第十一章 魔王

—滅びの炎はますます広がり
 暁の空より
 燃え輝く星が墜ち
 天を引き裂き地を沸かせる
 
 
エルオス火山のふもと付近に帰ってきたティアたち一行。

オレはこんなとこにいたのかーと振り返っているレンポをよそに、ティアたちはカレイラへ急ごうとする。

と、急に再び不穏な音が頭上から響き渡り、ティアはあまりの轟音に岩場にひざを着いた。

「な・・・に・・・?」

あたりを驚いたような顔で見回すと、視界に何かが掠めていく。

エルオス火山が邪魔だが、その背後から金色に燃える岩の塊・・・星が耳を劈く音を立てて落下してくるのだ。

「!!」

息を呑んでみれば、その星たちは轟音を立てながらティアの良く知る場所たちに激突していく。

そしてひときわ大きな爆音が空より落ちてくると、ティアはかがんだ状態から声を上げることしかできなかった。

線を引いたように突進していく巨大な星が、カレイラ王国を目指していくのだ。

「星が!天空塔に!」

ミエリが叫び声を上げる。

轟音を上げる星は、カレイラの下町の頭上を通り過ぎ裕福な街をも、興味ないというように通り過ぎる。

狙いは、ただひとつ。

フランネル城にそびえる、立派な白亜の塔のど真ん中に、爆音を響かせてクリーンヒットしたのだ。

沢山の瓦礫がカレイラの町に降り注ぎ、騒ぎを聞きつけた兵士たちの上へ無常に降り注ぐ。

人の上にだけでなく、きれいに立ち並んでいた家々の屋根の上にも激突し、すべてをなぎ倒し破壊していく。

まだ早朝だというのに、叫び声がいっせいに上がり、人々は叫びながら逃げ惑った。

そして、白亜の塔に封じ込められていた悪しき遺産があらわになった。

カレイラに古くから突き刺さっていた天空槍から、真っ赤な暴風が巻き起こる。

その悪しき暴風は、はるか遠くの火山にまでとどき、凄まじい威力で思わず顔を覆うほど。

「いままでの異変はこの前触れに過ぎなかったのか!」

ウルが息が詰まりそうなほどせまりくる暴風に抗いながら強い口調で言う。

空中にいる他の精霊は飛ばされないように必死に抵抗している。

『…クレルヴォが復活する…』

顔をかばいながら、ネアキがカレイラの天空槍を見据えてつぶやく。

5人は黙って風のおさまった高台より、カレイラを見つめた。

かつてクレルヴォを封じた場所、カレイラ。

その地で、今クレルヴォが復活する・・・。過去に共に世界を創ったクレルヴォが。

「これが宿命ってか・・・おもしれぇ!」

暗い表情を振り切って、レンポが強い口調で言う。強がっているのかもしれない。

他の精霊は、なんともいえない表情で思いつめたようにカレイラを見つめている。

だが、ティアに近づく足音がしてティアは身体をそちらに向けた。

見れば、ウルが口を一文字に結んで意を決したようにそこにいた。

「時が迫っています。これから我々は新しい世界を創るために、最後にやらなければならないことがあります」

(もしかして・・・)

そんな苦痛のような決心した表情に、ティアは最後にやらなくてはいけないことを思い浮かべる。

ウルが察したように、頷く。

「新しい世界を創るための障害・・・そう、クレルヴォを倒すことです」

言い切った精霊に、ティアは複雑は心境でその顔を見ていた。

かつて仲間であり、一緒にこの世界を作り上げた、大事な人を倒さねばならないことを口に出す上、それを実行するのは精霊にとってつらいはず。

本当に倒すことでしか、解決できないのだろうか?

(本当にそれでいいのかな?この世界を救うために、仲間を倒すことが、正解なの?)

ティアが何も言えずにいると、ミエリが悲しげな表情で言う。

「クレルヴォは預言書を使って新しい世界を創ることを望んでいるの」

どこか遠くを見つめる彼女の緑の目は、悲しみでいっぱいだ。

すると後を引き取るように、ネアキがつぶやく。

相変わらず無表情で、舞い上がりながらカレイラを見つめている。

『…クレルヴォは人間を憎んでいる…彼が勝利すると…』

ネアキはカレイラから目を離し、ティアを覗き込む。

その黄土色の目には、すっかり暗い表情をして戸惑うティア自身がしっかり写りこんでいた。

『…新世界は人間のいない世界となる…どういうことか、わかっている…?』

「預言書に記されているあなたの愛すべき人々もすべて抹消されてしまいます」

ネアキの問いはそのままウルの言葉になった。

ティアは悲痛そうに眉を寄せた。

(精霊の大切な人を倒さなくては、自分の大切な人を守れない。だけど、精霊が悲しむのは・・・一体どうすればいいの?)

「ティア」

ティアが大いに悩んでいると、ウルが名前を呼ぶ。

他の精霊たちも、ティアをじっと見つめている。

「あなたは、クレルヴォと戦えますか?」

静かなその問いと、四人の精霊の視線を受けてティアは黙り込んだ。

クレルヴォを倒せますか、という問いには沢山の思いが詰まっている。

裏切りの怒りや、苦しみに嘆き、悲痛な後悔も。だが、もう一つ。

なによりも大きく、底知れないクレルヴォへの思いがあふれていた。

クレルヴォと沢山の時をすごし、沢山の価値あるものを一緒に選び、そして使命を共に果たしてきた。

大好きだったに違いない。そんな仲間が、彼らと共に作り上げた世界を自らの手で壊すのを・・・優しかった心を失うのを—止めてくれ、と。


“あなたは、クレルヴォを止めてくれますか”


きっと、そういう意味なのだろう。

ティアは、ゆっくりと頷いた。

いっせいに精霊たちが、微笑む。そして何かを託したように言う。

「クレルヴォは今の肉体では預言書を扱えないことを知ってしまった。ゆえに、次に彼が目指す場所は・・・」

ウルがカレイラを指差す。

「本来の肉体がある場所です。現在カレイラ王国の地下、大牢獄ヒドゥンメイアの更に下・・・天空の槍が刺さる場所にクレルヴォの肉体があります」

一度ヒドゥンメイアにいたティアは、その更に下に仇敵がいたことを知って息を呑む。

カレイラの今はあらわになった槍を眺め。

「その肉体は槍に貫かれ封印されていたようです。しかし・・・」

いいにくそうに言葉を切ったウルの後をミエリが引き取る。

「さっきの星で槍が折れちゃったみたい」

ミエリの言ったとおり、槍はいびつに変形して少し曲がっているようだ。それを見上げてネアキがつぶやく。

『…クレルヴォの肉体が復活する…』

それまで黙り込んでいたレンポが、吹っ切れたように大きな声で言う。

「じゃあ、城の地下に行って、すべてを終わらせようぜ!この神話の最終決戦というこうじゃねぇか!」

精霊たちは頷き、ティアは預言書を硬く握り締めた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

今回長いw
そしてゲームでの最終章である 第十一章が始まります!
さぁホントに後半になってきましたよ!


Re: アヴァロンコード ( No.456 )
日時: 2013/01/06 15:02
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

ティアたちは急いでカレイラへと目指し歩みを進めていた。

早朝より寝不足だが、でも星が落下したとなれば、人手が要るだろう。

だがそれよりも早くやらなくてはならないことがある。

やっとの思いでグラナ平原につくと、もうすぐ陽だまりの丘だ。

すると、四人の精霊がティアの高鳴る鼓動に反応したかのようにしゃべりだす。

「四人の精霊がそろったので・・・あなたのご友人を—」

ウルが柔らかな芝生の上に歩くティアに言う。

ティアはやわらかく頷き、預言書のページをぺらりとめくって問題のページを開いた。

それを覗き込んで、ミエリが目をしばたく。

「・・・そのページは」

『…預言書に生きたまま取り込まれている…』

「こんなこと・・・はじめてみたぜ」

ファナが見つめ返すそのページを覗き込んで、精霊たちが不思議そうに言い合う。

「そうです。しかし奇跡が起きれば、復活させることが出来るかもしれません」

ティアが懐かしそうな目でファナの視線を受け止めている様を見て、ウルが優しげに言う。

「前に言ったとおり、陽だまりの丘に行けばもしかしたら奇跡が起きるカも知れません。あの場所は—」

そういって暗くよどむ空の下、やけに輝いて見えるあの丘を振り返ってウルが続ける。

終末の鐘の音を受けて、5人を待ち受けるように、黒い石碑モノリスがひっそりとたたずんでいる。

その黒い石碑こそ、その場所を特別な場所にする力があった。

「—陽だまりの丘は、この世界を創ったとき預言書が開かれた場所。まだ創生の力が残されているかもしれません。かなりの時が経っていますから、可能性はわずかですが」

冷たい風に吹かれてそのモノリスに歩み寄るティアは、自身の預言書を持つものとしての始まりの場所であり、精霊たちの大切な人、クレルヴォが最後に預言の所を開いた特別な場所でもあることを実感してなにやら優しい気持ちになる。

—ここで何もかも始まった。思い出の場所

「懐かしいな、オレとおまえが初めて会った場所だな!」

「そうだね。アレからとても時間が経った気がする・・・」

預言書を手にしたときから、おまえの運命は大きく変わるだろう。以前出会いのときに言われた言葉、本当に思いもよらない運命に転がされている。

なんだか走馬灯のように、沢山の思い出がよみがえる。

そして目の前のモノリスに触れ、祈るように視線をファナに落とした。

ここで会ったんだと、精霊たちが穏やかな草原に目を走らせていたが、ティアの表情を見て少し黙り込む。

『…だいじょうぶ…奇跡はおこる、必ず…』

黙り込んでいたネアキが、ティアを励ますように言うとレンポが驚いたように口を挟む。

「珍しいな!オマエがそんな明るいこというなんて!」

言われてちょっとむっとしたネアキがぼそぼそと言い返す。

『…だって、本当のことだし…』

「さぁ、やってみよっか!」そんな精霊二人を差し置いて、ミエリが腰に手を当ててティアに笑いかけた。

うん、と不安げに微笑んだティアは預言書の失われし者のページを見つめ、精霊に願うように預言書に願った。

(お願い、ファナを預言書から出して・・・)

静かに目を瞑って祈ると、精霊たちも黙り込む。

ティアを中心に四方をとりかこんだ精霊たちもティアに習って目をつぶったようだった。

(どうか・・・ファナを・・・返して・・・)

と、両手で広げていた預言書から、命の鼓動を感じた気がしてティアはとっさに目を開いた。

周りの精霊たちは、まだ目を閉じている。

いつの間にか金色の光を帯びた預言書が、その内側から巻き起こる光をふいに解き放った。

パァンッと盛大に光が飛び散る音がして、預言書から閃光がはじけだす。

「っ!」ティアはその閃光を噴出す預言書を必死で支えながら奇跡が起こったのだと理解しかねていた。

何が起こっているのかも、何もかも吹っ飛び、ただ支えていろと聞こえた気がして必死にそれをやり遂げているしかない。

緑の草原に沸き起こるような閃光がひときわ大きくはじけ、ティアはついに目をつぶった。

Re: アヴァロンコード ( No.457 )
日時: 2013/01/06 16:17
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

閃光が撒き散らされた後、ひとりの少女がふわりと草原に舞い降りた。

肩にかけていた黄色の肩掛けが風と光を受けて天子の羽のように見える。

少女は目を開けると、きょとんとしたように辺りを見回した。

(ここは・・・陽だまりの丘?よくティアが昼寝しに行く・・・でも私は確か竜巻に・・・)

と、まばゆい光が引いていき、光が何かに吸い込まれていく。
赤い革表紙の古めかしいティアの良く持っていた本に。

光がすべて収まると、目の前にぎゅっと目を瞑ったティアがいることに初めて気づく。まぶしすぎて見えなかったのだ。

うれしくなって思わず声を上げた。

「ティア!」

反射的にティアの茶色の目がさっと開き、ファナの姿を見るなり口元が緩んだ。

「ファナ!良かった・・・成功した!」

そして叫ぶなり赤い拍子の本を抱え込んで涙目でうれしがっている。

ファナはそんな親友の姿を見て目を細めて笑顔になり、口を開く。

「成功したっていうことは・・・ティアが私を助けてくれたのね。私、竜巻に巻き込まれてしまったんだよね?」

ファナが確認するように、うれしそうに問う。

ティアはうれしそうに何度も頷いた。そして、ごめんねとこぼす。

ファナが驚いたように目を見開く。

「あの時私が手をつかめていたら—」

「そんな事言わないで。私ちゃんと知ってるんだから」

ティアの言葉をさえぎってファナがにっこり太陽のように笑って言う。

その微笑みは、今までのティアのがんばりを一切に受け止めてくれるものだった。

すべてが報われたような、悲しみも何も消し去ってくれるような笑みであり、聖母のようである。

その微笑のまま

「私はその不思議な本に吸い込まれた後、なんだかずっと意識があったの。砂漠からティアとずっと一緒にいたのよ。なんども出してあげてって、この本に願ってたでしょう?」

何もかも見えていたファナはにっこり笑って言う。

「沢山の竜を倒したり、つらいこともあったでしょう?だから・・・」

うれし涙を目に溜めたティアをファナはガラス製品に触るように優しく扱った。

「ティア、助けてくれてありがとう。私たち・・・いつまでも親友よ」

この世界が創られた場所で、精霊に見守られて、ティアは失ったものをすべて取り戻すことが出来た。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

精霊に続いて親友も戻ってきました。

追記
参照 8500 ジャスト!
皆様、ありがとうございますっ!
さて、ゲームでの最終章に入りましたよ。
本編終了までもう秒読み開始ですね。

実を言うと、この小説を書き始めた直後から最終章を書きたくてしょうがなかったのです。
良くここまで続いたなァと感じますね・・・

Re: アヴァロンコード ( No.458 )
日時: 2013/01/06 18:45
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

ファナと仲良く一緒にカレイラへと急いだティアは、心を決してカレイラ進入をもくろむ。

いくらこの国に反逆者とレッテルを貼られても、かまわない。

笑顔の多いティアにしては珍しく横一文字に引いた口のまま、ファナと共にカレイラの国境線へ足を踏み込んだ。

下町にそうっと足を運べば、ひどい有様だった。

まず叫び声が耳を打つ。悲鳴に泣き叫ぶ声が、灰色によどむ空によくこだましている。

「わたし怖い」

きっと下町でさえこれなのだ、星の落ちた城の直下は凄まじいことになっていよう。

ファナが震えた声でいうが、ティアは頷いただけだった。

精霊たちも黙り込み、静かにあたりを探っている。

と、街に差し掛かるころ、どたどたとやかましい足音がこちらに向かってくる。

精霊もティアもファナも視線をそちらに向けた。

「ひえぇーっ」情けない悲鳴の後、太陽が隠れた上分厚い雲に覆われた朝だ、相手の顔は良く見えない。

「待って下さい!お兄様ー!」だがこの言葉で、ティアとファナはある人物に特定付ける。

「あ?ティア?!」猛然とかけて来たその人物は思い通りロマイオーにであり、ティアの顔を見てすっとんきょうな声を上げる。

まぁそんな反応されてもおかしくはない。

ティアはこのカレイラを破壊した張本人だと思われているのだから。

そしてとっくに脱獄したのはばれており、民達に忌々しいと疎まれている・・・。

「何故君がこんなところに!?」ロマイオーには逃げることも忘れ、ティアをまじまじと見る。

第一声に罵倒されるか、兵に報告しに良くかと思ったが、そうではないらしい。

そんなロマイオーニの背後にやっと追いついたフランチェスカが必死に叫んでいる。

錯乱した彼女はティアをティアだと認識していないらしく、早口でまくし立てた。

「星が降ってきて、お城の塔に当たったの!塔が崩れて恐ろしい魔物まで街に現れたわ!とっとと逃げないと!」

「おばあちゃん・・・大丈夫かしら?!」

フランチェスカの言葉にファナが怯えたようにつぶやいた。

ティアはそんなファナに視線をチラッと送り、魔物という言葉に眉を寄せる。

「そうだっ!確か君は奇跡をおこせるはずだろ!」

凍てついた視線を送る精霊をよそに、ロマイオーにはわなわなと震えながらティアに言った。

「たのむ、その力で僕達を助けてくれ!」

「ああ!そうよ!あなたなら私たちを助けてくれる!お願いよ、ティア!いや・・・ティアさま!」

クレルヴォが引き起こした預言書の大暴走のときとは打って変わったこの態度にティアはビックリして目を見開いた。

(あんなこと、言っておいて・・・。良くそんなこと・・・)

ティアはカレイラを脱出したときの、ひどい仕打ちを思い出し胸が痛んだ。

信じてもらえると信じていたティアに、カレイラの人々の言葉はあまりに辛辣で、心をえぐっていった。

その心を修正するにはかなりの時間を費やし、ラウカの暖かな手当てのおかげだった。

その心の傷がうずきだし、憎しみの心や悲しみが舞い戻ってくる。

黙り込むティアに、ロマイオーには必死に大げさな身振りで言う。

「僕は、僕はね、初めから君の事を信じていたんだよ!みんなは君の事反逆者って言っているけど僕達だけは、君を信じていたんだよ!本当さ!」

良いまで追従していたフランチェスカが一瞬黙り込み、兄の後を追って口走る。

「・・・そうよ、そうよ!なんと言っても、ティアさまはカレイラの英雄ですもの!」

「・・・・」

ティアは黙り込み、心の内に暴れだす怒りやら悲しみの感情を必死で押さえつけた。

代わりに怒りののろしを上げたのはそれまで黙っていた精霊たちだった。

「こいつら、勝手なことばかり言いやがって!」

『…なんてくだらない連中…』

レンポとネアキがロマイオーニに飛び掛らんばかりの勢いで悪態をつく。

ミエリは悲しそうに彼らを眺め、ウルは目元を押さえてあきれたように首を振っている。

それでもロマイオーニはティアに言うのをやめなかった。

Re: アヴァロンコード ( No.459 )
日時: 2013/01/06 19:05
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

「とにかく、魔物がいるんだ!お願いだ、僕達を助けてくれ!」

ロマイオーニが叫ぶのと、ティアが二人を振り切るのは同時だった。

返事をしなかったのは、少しばかり腹を立てたからだろうか。

ファナまで置いて行ってしまったのに気づいたのは、魔物を探して歯を食いしばって街を駆けていたときだった。

「ティア!戻ってきたのかい」

瓦礫の山に目をやると、そこにすんでいたすっかり老け込んだヘレンがいた。
疲れきった表情で、ティアのことを眺めている。

ティアはそのまま行ってしまおうとしたが、ヘレンはよく通るその声で彼女を引き止めた。

「許しておくれ、ティア。ひどいことを言って・・・。ファナの事は・・・ファナはアレでよかったんじゃ」

え、とティアが振り返ると、無残に崩落した瓦礫に腰掛けてヘレンがしみじみとたたずんでいる。

増えた瓦礫は星のせいでもあり、余計に街はひどく崩壊していた。

「あの子はもうじき病で死んでしまっていた・・・だからアレでよかったのじゃ」

諦めたようにいうヘレンは、ティアの視線をまともに受けられず視線をそらす。

「ファナは・・・」そんなヘレンにティアはつぶやいた。

こちらに駆けてくるシルエットを視界に入れながら。

「ファナは戻ってきますよ」

えっ?とヘレンがティアを見る前に、ティアは固い瓦礫の上を走った。

その背後で、ファナがヘレンに飛びついている。

ヘレンはビックリしたように目を見開き、しきりにどういうことだとファナを問い詰めている。

そいしてティアの視線の先に、また何人かの人物が現れた。

Re: アヴァロンコード ( No.460 )
日時: 2013/01/07 13:11
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

魔物が出現し、慌てふためいていたその人物はティアの姿を見るなり、すっかり安堵したように叫んだ。

「ティアちゃんよーい!」

黒い法衣をびっしりと着込んだ名門貴族が、ティアの元に駆け寄る。

言わずともがな、凄まじい瓦礫の中助けを求めたのはビスコンティーである。

「塔が崩れて大変なんじゃよ!それに魔物も・・・助けてくれんかの!」

当然のように、ティアがまだカレイラの英雄であるというかのように吐かれた言葉に、ティアは黙り込む。

それを察してビスが早口でまくし立てた。

「おぬし、ひょっとしてあの事件のことを気にしておるな?」

ティアのうっとひるんだ表情を見てビスが激しくかぶりを負って否定した。

その頭にちょこんと乗る黒いシルクハットが落ちそうな勢いである。

「いやいや、あれは誤解じゃ。すまんかった!この通りじゃ!」

そして頭を上げたビスはティアを見上げて必死に頼み込む。

「だから、もう一度ワシらを助けてほしいんじゃ!」

「・・・・」(もう何も言わないで、黙っていてくれたらいいのに・・・そうしても、どっちにしても私はカレイラを助けるのに)

こうやって悲鳴に似た言葉で言われると、何故だかつらい。

危機を感じて無理やり信じてくれているだけなのではないかと、すべてが終わっても今までのようには接してくれないのではないかと怯えていた。

ティアは口を開こうとして、かすれた声しか出ないのに気づきまた振り切るように走り出した。

背後でビスが何か言ったが、もう本当に黙っていてほしかった。

これ以上何か言われたら、何を信じればいいか分からなくなってしまう。

城へ近づくほど星の影響で悲惨なことになっていた。
公園の噴水は中心から灰をまかれたように黒ずんでおり、流れ出す水は流れにくそうに瓦礫を押しのけて進んでいる。

足元はきれいに連なっているタイルがぼこぼこと外れていたり割れていた。
転んだらひざから何まで傷だらけになること間違いなしだ。

「ティア君・・・」

そんな公園で呆然とフランネル城を見上げていたその人は、気配を感じてか振り返ってそういった。

「ゲオルグさん・・・」

すっかりやつれたエルフはこの街を愛していた。
そんな大切な街がこうなったら、やつれるのも当然だろう。

「何故・・・なぜ帰ってきた?」

眉を寄せて言ったゲオルグに、ティアは目を伏せた。

だが出て行けと、お前のせいでこうなったとは言わずに、ゲオルグはため息をつきながらいった。

「わかっていたさ、君は何もしていないことを」

目をしばたいたのはティアたちのほうだった。

ここに、この国に唯一のティア無実を知る者がいたという事実に目を見開いた。

“ティア君、残念だけど君が一番疑わしい”

そう過去に言ったゲオルグの言葉とは、まっこうから食い違っていた。

「だが、ああしなければ、民は納得しなかっただろう。このローアンを守るためならば私はなんでもする。・・・英雄を犠牲にしようとも」

どこか遠くを見るようなゲオルグはティアに悪びれる様子もなくつぶやいた。

「それが何百年もこの街を守ってきた私の仕事だ。だが・・・まさか」

空を見上げながらゲオルグが力なく笑った。

よどむ空は暗くにごり、太陽も青空もさえずる小鳥さえ見えない。

「まさかね、星が降ってくるとはね。街は大混乱。多くの民が失われた」

じっとりと後悔がにじむ声で、ゲオルグは心底つらそうに最後つぶやいた。

「私は・・・結局ローアンを救えなかった。君につらい思いをさせるだけだったんだ。すべてが間違っていた」

Re: アヴァロンコード ( No.461 )
日時: 2013/01/07 14:08
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

けれどもゲオルグは最後にすべての力を集めて力強く言った。

今までの威厳をすっかり捨て去ったように、人間の小娘にエルフが救いを求めた。

「ティア君。・・・それでも私は、君にお願いしたい!この先で魔物が暴れている!街を救ってくれるか?」

上司命令みたいだが、ティアは目を伏せてそんなこと聞かなくても答えは分かっているくせにと頷いた。

かすれた声でお礼を言ったゲオルグの脇をすり抜けて城へ向かうティアに、もう我慢できないとばかりに叫ぶものがいた。

「勝手なもんだな!この街の連中は!」

街を振り返るように猫目をさらに鋭くしたレンポが叫んだのだった。

他の精霊たちも同感だとばかりに頷いている。

そしてティアに向き直ると

「ティア、聞いたところ、おまえこの街の連中にひどい扱いを受けたんだろ!?」

憤慨したようにそう言い放つ。

これで頷いたら、カレイラの人々を焼いてしまいそうな勢いである。

それに、もう自分の中の怒りや悲しみに終止符を打つために、彼らが謝ったようにこちらも、もう許そう。

首を振ると、レンポは困ったように首をかしげた。

「本当に・・・おまえ、いいヤツだな」深いため息と共にそういったのだが、それでもカレイラの人々に向ける目は厳しそうだ。

「だけど、街の連中の話を聞いているとそうじゃないことが分かる!オレの怒りがおさまらねぇ!」

「・・・とても悲しいことがあったんだよね?」

レンポをなだめながらミエリが慈悲深く言う。

だがネアキは冷たい視線をもっと冷たくして腹を立てたように言う。

『…都合が悪くなれば結局、奇跡の力にすがる…くだらない連中…世界と共に滅んでしまえばいい…!』

言いすぎですよとウルがネアキをなだめる。

だがウルも少し同感している様だった。

「ネアキ、力無き者とは、概してそのような行動に出るものです」

それに反発するようにネアキが珍しく怒ったように口を開く。

『…だって…あのエルフが本当のことを言っていたら…ティアはこんな扱い受けなかったのにっ…!』

精霊たちの言葉でティアは少しずつ不安になっていく。

見方をしてくれるのはうれしいが、どんどん彼らが人を憎むように見えるのだ。

このままでは・・・クレルヴォのように・・・。

慌ててそれらをとめようとしたとき、背後から懐かしい声が届いた。

Re: アヴァロンコード ( No.462 )
日時: 2013/01/07 14:59
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

「ティア!久しぶりだな」

振り返ってすぐ飛び込んでくるのは青緑色の髪と燃えるような目。

ティアの幼少のときより兄貴分になったレクスがポケットいっぱいに紙の束を入れて駆けてきた。

精霊たちが、レクスにポケットを見て期待したように目を輝かせる。
今まで怒りに身を任せて討論していたのを忘れたかのように。

「レクス!」今の現状で一番変わりなく接してくれるのは兄貴分だけである。

それにうれしそうに言うと、レクスはファナをさっき見たんだ、とつぶやいた。

そしてその手の中にある赤い書物をみると息を漏らしたように笑った。

「無くしちまったもん、取り戻すことができたようだな。預言書も、ファナも。きっと出来ると信じてたよ」

そしてポケットから紙の束を破かないように慎重に取り出す。

「俺も今やっと終わったところだ。受け取ってくれ」

そして差し出された預言書のページをティアは笑顔で受け取る。

それらは預言書を開けば不思議なことに今までそうであったかのように何事もなく吸い付いていく。

ページがすべてそろったようでミエリがうれしそうに叫ぶ。

「やったぁ!これで全部そろったね!」

預言書から目を離し、あたりを見回したレクスはため息と共に告げる。

「それにしても、久しぶりに帰ってきたらひどい有様だな」

うん、と頷いたティアは星によって砕け散った城を下から眺めてその悲惨さに眉を寄せた。

千年の歴史のあるこの国に唯一といって良いほど残っていた城も天空塔も破壊されてしまい、歴史の面影はない。

「昔の俺なら、せせら笑っていたんだろうな・・・街の連中のことを憎んでいた。世界も、国も、街も憎んでいた」

レクスの言葉に大人しく精霊たちがじっとレクスを見つめる。

「だが・・・それじゃあ、何も変わらない。そうだろ、ティア」

あぁ良かったとティアは頷く。

レクスの言葉を通じて、精霊たちの目つきが少しやわらかくなった。

「へぇ、アイツしばらく見ねぇうちにずいぶん変わったじゃねーか!」

「人間は変わるものです」

レンポが少し驚いたように言うとウルが微笑みながら答えた。

その言葉に頷きつつ、精霊たちは声を上げた。

「よし!行くならいこうぜ!オレはティアの決めた世界なら、どんなところでもついていく!」

「私もー!」

『…わ、私だって…!』

レンポの言葉にミエリもネアキも負けじと言う。
その情景をほほえましいなとばかりに眺めるウルも、そうですねと頷く。


Re: アヴァロンコード ( No.463 )
日時: 2013/01/09 14:52
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

レクスと共にティアは魔物の暴れる城門まで走る。

公園からはあまり距離がなく、崩れた瓦礫を飛び越えていけばすぐだった。

人々が言ったとおり、そこには無数の魔物がはびこり獲物を探し、ぎらついた目を泳がせている。

だがそんな危険な中をゆっくりと崩落した城より歩いてくるものがいた。

「あの人はっ」

その人物はこのカレイラの現国王であり、崩れた城から脱出してきたただ一人の生存者であった。

ほうけた様な顔で、辺りを見回している。どれも信じられないという表情で見つめている。

「いったい・・・何があったのだ?我が城は?我が民は?ドロテアは・・・どうなった?」

誰に言うでもなく、むしろ王の存在に気づいたのはレクスとティアだけである。

そして駆けつけたその二人にぼんやり視線を走らせていた王は、ティアの顔を見るなり眼光を強めた。

「おまえは!脱獄したくせになぜこんなところに!?」

そして忌々しげに、ティアが口を開く前に信じられないという顔で叫ぶ。

「まさか、この騒ぎはまたおまえの仕業かっ」

王が烈火のごとく言い終わると、魔物が王に気づいて踊りかかる。

剣を装備したその骨のような魔物は、甲高い笑い声を携えて王めがけて剣を振り下ろす。

「魔物・・・だと!おのれ!」

今まで崩落した城にいた王は魔物を今始めて認知し、剣を裁いて魔物を受け流す。

魔物は剣にはじかれて遠くへ吹き飛ばされたがうまく空中で身体をひねって両足で着地する。

ばねのあるそんな魔物は王にもう一度剣を持って駆け寄った。

その姿をにらみつけ、王は歯軋りをする。

「く・・・認めぬ・・・カレイラ千年の歴史が・・・栄光が・・・」

「王様?」魔物が迫っているのに剣を構えずなにやらつぶやく王に、不安そうにティアが声をかける。

だが王は反応する代わりに盛大な声でわめき散らした。

「このゼノンバートの代でついえるなど・・・絶対に認めぬっ」

魔物の剣がティアがかばう前に王の頭上に差し掛かる。王は完全に防御せずに、突っ立っているだけだ。

だが、突如真っ青な光が王を腹を貫き、そのまま貫通すると魔物だけを吹き飛ばした。

「なっ!?」レクスが仰天して浄化される魔物を見る。

王も自身の腹をまさぐり、無事なことを確認すると振り返った。

ティアだけはその真っ青の光を伝授したものとして、いち早く振り返る。

そこにいたのは、やはりティアを鍛えたヒース将軍であり、カレイラの敵であるヴァイゼンの将軍だった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照が8600 飛んで なんと八千七百いきましたよ!
本当にありがとうございます!!


Re: アヴァロンコード ( No.464 )
日時: 2013/01/09 15:38
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

ヒースは今しがたプラーナを放った片腕をゆっくり下ろすと、静かに近づいてきた。

あぁ、よかったとレクスとティアはヒースの姿を認めるものの、ついさっき命を救われた王はさらにきつい視線でうなる。

「貴様はヒース!ヴァイゼン帝国の将軍がなぜここに・・・なぜ私を助ける?!」

王の吼えを真っ向から受け止めたヒースはやれやれといった様子で敵意はないと肩をすくめてから言った。

「俺はすでにヴァイゼン帝国の者じゃない。それに、もはや帝国も王国も関係ない」

無職の放浪剣士と名乗ったようなヒースにゼノンバートは眉を寄せて叫ぶ。

「何?!」

だがもう王にはめもくれず、ヒースはティアに視線を流した。

「ティア・・・許せないことがあるかもしれない」

ティアと共に国外へ逃亡したため、カレイラの民の仕打ちを目に見てきたヒースはティアに言った。

しかも、ヴァイゼンからティアと同じように逃げるように帰ってきたため、余計その気持ちは分かっていた。

だがそれは皇子のせいではなく国民のせいではなく、指示しているわけの分からない存在とワーマンのせいだと割り切ったヒースにはたいしたことではなかった。

「その気持ちは分かる、つらかったろう。だが、人は許されて生きていくものだ」

ティアは少し目を伏せて、もう一度目を合わせた。

いつのまにか、ティアたちを囲む輪が大きくなっていた。

魔物がいる危険な場所だというのに、町の住人達が許しを請うようにティアの周りに漂う。

ティアが少し驚いたように彼らに目を向けていると、ヒースが父親のように優しく頷きながら言った。

「許しがなくては、次の一歩が踏めない」

「・・・そうだね。許せないこともあるけど、でも、だからって見捨てることは出来ない。わたしはカレイラを救うよ」

ティアの言葉にレクスがわずかに顔をゆがめてつぶやく。

この場のどんな誰よりも罪の意識を認知しているレクスが。

「俺も、手伝うよ!・・・それが今出来るせめてもの償いだから!」

レクスは腰の鞘から二本の黒い刀身の短剣を取り出しティアに頷いてそういった。

「レクスには沢山働いてもらわないとね!」

冗談だよといたずらっぽく笑って、ティアが微笑んだ。

心に巣食う怒りや憎しみや悲しみがうろこのように落ちていき、やがてなくなった気がした。

「やれやれ、まぁこうなるのはわかってたけどよ・・・」

『…ティア、優しすぎる。厳しさも覚えないと…』

「まぁでも、なんかすっきりした顔してるし・・・これでよかったんだよねー?」

「そうですね。ずっと不安そうにしてましたから、これが最良の解決だったのですよ」

そんなティアたちの頭上でまったくティアは甘いんだからとあきれつつうれしがっていた精霊たち。

主人が魔物退治のために走り出すのを確認すると、遅れないようにその背を追って滑空していった。






Re: アヴァロンコード ( No.465 )
日時: 2013/01/09 17:40
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

魔物は城門から崩れて危険な状態の城、城の左右を囲う軽い森林の中にうじゃうじゃといた。

とりあえずレク、ヒースと別れ城の裏側に回って林を魔物を追って追走する。

「案外森は無事なのね?」

走るティアの背後から追っていく精霊が声を上げる。

「星も、止んだみたいですね。それは何よりですが・・・」

異常なほどの魔物がはびこってきている。千年間、建国してからというもの邪気なる魔物がひとたびも足を踏み入れることはなかったのだが、それを破って今、尋常じゃないほど魔物がいる。

どの魔物も鋭い武器を有しており、人々をえさとしか思っていない。

「いったいどこから沸いてきてんだよ?」

空中にいるだけでちょっと退屈気味なレンポがきょろきょろしながら言う。

『…それだけ、世界の終末が近づいている…ってことよ…』

腕組みしたネアキが、つんと目を細めてつぶやく。

「でも、クレルヴォを止められれば、少しは・・・」ミエリが言いかけた言葉を甲高い悲鳴がさえぎる。

なに?と声のするほうを振り返れば、ティアがその悲鳴の元へ駆けつける場面だった。

少し暗い、背の高い針葉樹の根元で、前方7メートルほどに明らかにこんな森に存在しないだろうと思うほどの上品な桜色が固まっていた。

その前方に魔物がおり、桜色の前に森の中でもはっきり目立つちいさな黒い塊がいた。

どこかで見たシチュエーション。

それは、以前ナナイーダと出会う本お少し前のこと。

ドロテアに(強引に)せがまれてヴァイゼン帝国の兵士を探す羽目になった時のこと、ヴァイゼンの兵士は実は魔物でありドロテアをかばった黒猫が瀕死の重傷を負った出来事である。

点くらいしか見えない光景は、魔物と、それからかばうように桜色の前に立つ黒き小さな点。

しかもそれが、今回も前回と同様であり、魔物から姫を守る黒猫の図だった。

「ドロテア王女!生きてたんだ!」

ティアが慌てて駆けつけるも、魔物は今にも猫に飛びかかろうとしている。

だが小さな黒猫は姫を守るつもりの様だが、非力な引っかき傷をつけるので精一杯のようだ。

このままでは以前のように黒猫が瀕死の重傷を追うだろう。

だがティアがその場に干渉できる距離に至る前に、異変が起こった。

「グリグリだめじゃ!」

そういって突然攻撃されそうになった黒猫に覆いかぶさるようにドロテア自身が猫のたてになったのだ。

魔物も猫も驚いた様であり、だが魔物はかまわずに攻撃を再開する様で。

慌ててティアが剣でガードしなければドロテアはこの世の人ではなくなっていたはずだ。

Re: アヴァロンコード ( No.466 )
日時: 2013/01/09 19:03
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

ティアは双剣使い。

なので魔物をガードした側の剣ではないほうの腕で剣をなぎ、魔物の身体を断絶した。

魔物は地面に転がる前に淡く浄化し、消えうせた。

すべてすむと、まだ小刻みに震えて猫をかばうドロテアを眺める。

本当に上品な桜色のドレスの端から黒く長い、先っぽだけがふぁさっと四方に伸びる白いしっぽがパタパタと動いている。

どうやらドロテアも黒猫グリグリも無傷で元気らしい。

みぎゃーと苦しそうに猫が鳴いてドロテアの腕から逃れようとしているようだが、ドロテアはそれを許さず余計に守ろうと捕らえる。

「駄目じゃグリグリ!またおまえが死にそうになったら、わらわはどうすればいいかわからぬ!」

「あのぅ」

そんなドロテアに、ティアは心底話しかけづらそうに肩をポンポン叩いた。

ハッと気づいてドロテアが顔を上げる。

その抱え込む両腕の中には、大事そうに握られた黒猫が迷惑そうな顔でこちらを見ていた。

ドロテアはティアの顔を見た途端目をしばたき、その手の中の剣を見てはぁっと安堵のため息をついた。

「なんじゃ、そなたか・・・脱獄したというのは本当じゃったか」

そしてじろじろとティアを見ながら、ゆっくりと立ち上がる。

「どうしてこんなところにいるのじゃ?父上に会う事があれば即座に牢に入れられるというのに」

小首を傾げたドロテアに、手早く説明すると、眉をひそめられる前にドロテアがなぜ無事に破壊された城から出てこられたのかを聞いた。

するとドロテアは黒猫をかかえ上げ、ガラス球のような水色の目を輝かせて誇らしげに言う。

「グリグリのおかげじゃ!崩れた城の中をわらわを導いてくれた。
そしてまどを突き破って出てきたのじゃよ。さすがヴァルド様の猫じゃ!でも、わらわのほかに人は見なかった。だから、他の皆が心配での・・・」

グリグリを撫でながらドロテアは心細げに言う。

ティアの説明により王である父は無事だと分かったのだが、その他執事やらメイドやらは分からない。

とにかくここは危険なので、辺りに魔物はいなくなったことだし、一端王の元へ帰ることにした。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

なんと雑談板にアヴァロンコードのおしゃべり版ができました!
気になるお方、どうぞ雑談板で検索してみてください!




Re: アヴァロンコード ( No.467 )
日時: 2013/01/10 18:06
名前: 緑茶 (ID: P0kgWRHd)

めたさん、はじめまして。
緑茶といいます。
去年の冬休みに「安い」という理由でアヴァロンコードを買ったら、かなり はまってしまいました(笑)

めたさんの小説はとても分かりやすく、読んでて楽しいです!!
残り少ないですが、頑張って下さい!

Re: アヴァロンコード ( No.468 )
日時: 2013/01/10 18:55
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

緑茶さん こんばんは!

私も去年の夏休み終盤に買ってはまったんですよw
勉強そっちのけでやってた思い出が・・・
残り少ないけどがんばります!!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

城門前にドロテア王女とともに帰ってくると、歓声が上がった。

すっかり辺りにいた魔物はいなくなり、レクスもヒースもティアのことをまっていたようだ。

いっせいにティアの元に駆け寄ってきた住民にティアどころかドロテアも驚いてしまい、その腕の中の黒猫がふーっとうなる。

「さすがは英雄!王女様を助けたらしい!」
「素晴らしい・・・奇跡だ!」
「魔物はいない・・・我らは救われた!」

そんなうるさいほど歓喜する住民を押しのけるように誰かがドロテアの前にズイと出てきた。

白ヒゲの、金の王冠をかぶったこの国の王様。

「父上!」ドロテアがその姿を見るなりぱっと顔を輝かせて言うと、王はドロテアの無事を確認すると良かったとばかりに安どの表情になった。

ドロテアは父に飛びつき、猫がその狭間に挟まれて迷惑そうにうめく。

「英雄のおかげね・・・カレイラは救われたのね!」

「あぁ。平和が戻ったのだ」

だれかが安堵するため息と共にその言葉を履いた瞬間、ヒースの鋭い声が飛んできた。

「カレイラの者達よ!浮かれている場合ではないぞ!」

それはほんわかした空気を一気に切り裂き、一瞬の沈黙が流れた。

「え・・・?」最初に口火を切ったのはロマイオーニ。

なんで?というようにかすれた声をヒースに向けている。

その次がドロテアの肩を抱くゼノンバートだった。

「ヒースよ!どういうことだ!?」

王の言葉に乗せられた不安が、じわじわとあたりの国民に広がりヒースの言葉を待っている。

「帝国軍が来る。・・・この街を目指して進軍中だ」

ヒースのいいずらそうな言葉に、国民達がエッと息を呑んだ。

「率いているのはヴァルド皇子本人。しかも軍の中には魔物が混ざっている」

敵の軍隊と・・・魔物兵まで?

救われたと確信していたカレイラの国民にとって、地獄に叩き落されるような言葉だった。

「なんだと・・・良かろう!」だが王は首を振るときりっとした目で兵を見渡す。瓦礫につぶされなかった残り少なき兵士だ。

「兵士よ!カレイラの誇りを見せるときだ!さぁ、武器を取り戦争の準備だ!」

王の言葉に期待したように国民が見つめる兵士はというと、号令をかけない。

それどころか、不安げに顔を見合わせた。

「帝国に加えて・・・魔物兵だって・・・」「この数じゃ・・・負け戦だ・・・」「死にたくない・・・戦うのは・・・もうだめだ!!」

ざわめきがいっせいに大きくなって、兵士たちは雲の子を散らすように叫びながらどこかへ逃げていく。

国民達は唖然とし、王はあきれたように歯軋りする。

「ええぃ!なんと情けない!」憤慨したように叫ぶと、国民達がざわめきだす。

「せ、戦争になるぞ!にげろー!」「待って下さい、お兄様ー!」

嫌味兄妹が叫んでそこを走り去ると、後を追うように国民達の逃避の波も広がっていく。

「そんな・・・また戦争が・・・」「うわあぁぁ!」

そんな悲鳴の中、ゲオルグがゆっくりと近づいてくる。

逃げ去る人と反対向きに、やがてティアの前にたどりついた。

どうやらシルフィも一緒らしく、腕を組んで歩いてくる。

「ティア君・・・私は戦うよ。娘と共に、この街とこの民を守る。もう何があっても、私は君を裏切らないよ。約束しよう」

そういうと、王に向き直った。

「あの城は危険です。我が家にどうぞ滞在してください」

「・・・うむ。ここはどうにも一度引くしかないようだしな」

ドロテアと共に王はエルフ親子の後を追って去っていった。

後に残ったのは、ティアとレクスと、ヒースの三人だけであった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照 8,800 超えました!!
ありがとうございます!!
















Re: アヴァロンコード ( No.469 )
日時: 2013/01/11 19:05
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

八千九百?! いつの間にそんないってたんだ?!
ビックリしました!ありがとうございます!!


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

みんないなくなり、すっかり閑散とした城門前。

「み〜んな、いなくなっちまった」

組んだ指を頭の後ろに引っ掛けていたレクスが、ため息と共に言う。

ティアもそうだね、としか返せない。残ったものといえば元英雄と、英雄の兄貴分。そして元敵国の将軍のみだ。

そのヒースが声を上げて近寄ってきた。

「失ったものを取り戻せたようだな、二人とも」

レクスとティアが頷くと、ヒースは少し微笑んだ。

「あなたは?」レクスが珍しく丁寧な言葉でヒースに問う。

「俺はまだだ」ヒースは苦笑したように顔をゆがめて首を振る。

(ヒースさんの失ったものって・・・平和を目指していたヴァルド皇子と帝国だっけ?)

ティアがそんなことを考えていると、ヒースはだがと続ける。

「だが世界を回って情報を得てきた。そして、ワーマンの素性を調べているうちにわかった事がある」

ハッと黙ったレクスとティアに、ヒースは視線をゆっくり合わせた。

「ヤツはやはり死霊術師であり、ヴァルド皇子の身体に別の魂を入れたらしい。その魂こそ、やつが復活させようとしているものの魂だ」

レクスはわけがわからず眉をひそめている。ティアだけは、今まで沢山の人から聞いた話を土台にし、理解していく。

「やつが復活させようとしているのは古くから神話伝承に伝わる、<魔王>だ」

「・・・えぇ?」

深刻そうな話かと思えば、冗談?とレクスがあっけに取られてヒースに言うと、ヒースはかぶりをふった。

「もちろん、そんなおとぎ話、本気で信じているやつなんて少ない。だが、いいかい?魔王は本当にいたんだ。正確に言うと、巨人だったが」

ヒースは咬んで含めるようにゆっくりと言った。

レクスは戸惑い気味に、ティアに視線を送る。だがティアは平然としているので、さらに困惑したようだ。

「わかる。俺も最初そういう反応しか出来なかった。けれど、それが事実なんだ」

戸惑うレクスを視ながらヒースが言う。うん?と理解した様でできないレクスをおいて、ヒースはティアのため続ける。

「かつてこの世界は、ひとりの巨人が支配していた」

巨人、かつて、世界—この単語に精霊たちはそっと目を細めた。

見下すような目つきではなく、遠い思い出を聞いたような表情。

ティアは一瞬だけそれらを見、ヒースに目を合わせた。

「巨人は人間達を支配していたが、やがて人間達に敗れ、この世界は人間のものとなった。人間が巨人を倒すとき、天空槍を使い巨人を貫いたという。・・・・その場所がここ、カレイラだ」

ヒースはそっとこの世界の神話を語り終えると、空を見上げた。

正確に言えば、カレイラの王城にそびえる、突き刺さる槍のようなものを一瞥して。

「そして、アレが・・・天空槍だ」


Re: アヴァロンコード ( No.470 )
日時: 2013/01/11 19:48
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

「だが、巨人はまだ生きていた。巨大な槍に貫かれても尚、何千年も—自分を裏切った人間を憎みながら」

「う、裏切る?」

レクスがオカルトじみたこの話を理解しようと必死に言う。

「一体人間が何したというんだ?」

ティアも知りたさそうな目を、ヒースに向ける。

「あいにく、神話には載ってないよ。だが、反旗を翻された魔王が人間を恨むのも分かるが・・・」

ヒースが顎をもみながら言うと、レクスが首をかしげる。

「まぁ、そうだけど。人間にしたら厳しく支配してくる魔王を倒しただけさ。うらまれるなんて、筋違いじゃないか」

「・・・魔王は—巨人は・・・きっと支配しているなんて思ってなかったんじゃないかな」

レクスの言葉に黙っていたティアが声を上げる。

精霊も、レクスもヒースもビックリしたように目をしばたいた。

「きっと、その世界を創って、一人なのはいやで・・・」

核心も何の証拠もないまま憶測を語ったティアは、皆の視線にくちごもる。

「まぁ、そういう考え方もあると思うが・・・」ヒースは思いもよらなかった反応に頭をかきつつ言う。

「魔王の精神は身体を抜け出すことが出来るようになり、死んだ人間の身体に入り、支配することが出来るようになった。さまざまな時代の人間の支配者に成り代わり、悲劇を巻き起こしてきた」

その犠牲者の一人が、ヴァルド皇子だ、とこぼしたヒース。

「人間に対する復讐なのか・・・ほかに理由があるかは分からない。だが、こういった歴史により、巨人は魔王と呼ばれるようになった」

ヒースが一息で言い切ると、レクスが信じられないというように肩をすくめた。

「じゃあ、ワーマンがヴァルド皇子を暗殺し、ふわふわ浮いてた魔王の魂を入れた・・・それで今その身体に入っているのは魔王そのものってこと?」

「そう」

ヒースに変わってティアが言うと、レクスは眉をしかめる。

この二人の言っている事がわからない。だがどうやら事実らしくて。

「それで、戦争を急に仕掛けてきた理由はどうつながるんだよ?」

ため息混じりに聞けば、ティアがさらりと言う。

「星が天空塔にぶつかって、槍が魔王の身体から抜けそうみたいなの。人間の姿では預言書を扱えないことを知ったから、槍の封印が緩んでいる今、魔王の魂をその身体に戻そうとしてるのかも」

「はぁ・・・なんでそんな自信満々なんだよ・・・」

レクスがもう付いていけないとばかりにいうと、精霊たちが口を開く。

いままでのこの世界の神話を聞いて、昔を思い出したのか、ひどく懐かしげに。

「クレルヴォ・・・」寂しげに名前を呼んだのはいつも勝気なレンポ。

ミエリも目を伏せ、その隣にふわふわと浮いているだけ。

ウルは、目が隠れているため表情は分からないが、声がいつもより低い。

「彼とは・・・かつて共に旅をしました」

ティアはちょっと驚く。その事は容易に推測できるが、精霊たち自らからその思い出を教えてくれるのは、初めてだ。

「彼は今のあなたと同じように、預言書に導かれ、新しい世界を創るために価値あるものを選びました」

『…そして創られたのがこの世界…人間も…風景も、なにもかも、クレルヴォの選んだ価値あるもの…』

ネアキがウルの後を引き継ぐ。

「そうです。そしてやがて旅が終わり、我々は預言書と共にクレルヴォの元を—」

「そろそろ・・・昔話はやめようぜ」

その先は言わせないとばかりにレンポが口を挟む。

ミエリがこくんと頷いて、悲しげな声で言う。

「そうだね・・・わたしもティアを信じて着いて行くよ!」



Re: アヴァロンコード ( No.471 )
日時: 2013/01/11 20:01
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

ティアがしばらく何もない空間に頷いているのを見た二人。

すでに預言書について知っている二人には、あぁ、精霊としゃべってるんだ?くらいにしか思わない。

そういs手ようやくティアが精霊tの話を止め、こちらを向いたのを確認するとヒースは言う。

もっと早くいうべきだったのかもしれない言葉を。

「さぁ、時間がない。帝国軍が来る前に、城の地下に眠る魔王の身体を破壊しないと!」

「城には、墓地からいけるよ!案内する!」

ティアを先頭に、レクスとヒースはその跡に付き従い、瓦礫の山を越えて比較的無事な墓地に行く。

その間にも逃げる人々、家に隠れる人々で大賑わいだ。

「あの一番端のお墓の石の下に—」

さくさくしたふみ心地の芝生をけってタワシのいるであろう地下通路のあるところを目指したとき、進軍してきたヴァイゼンの兵がカレイラに足を踏み込んだ。

魔物兵を先頭に、ガシャガシャいう耳にうるさい甲冑の音を響かせてきた軍。

それを止めるカレイラ兵士もいず、難なく進入した紫兵に、挑むような声が各地で一斉にかかる。

そこは街の公園であり、道場前であり、ハオチイの研究所前であり、占い横丁の前であった。


Re: アヴァロンコード ( No.472 )
日時: 2013/01/13 12:19
名前: めた (ID: g7gck1Ss)


 参照 9,000 越えました!!!
 ほんっとにありがとうございます!!
 残り少ないけど、よろしければどうぞこのまま、見守ってください!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「帝国の者よ!」

道場前に響き渡る勇ましい声は、ティアの師匠グスタフの声。

一斉に振り返った帝国の軍は、たった一人剣を構えて立つグスタフをあっと驚いたように見る。

以前カレイラの将軍であったグスタフの名は、帝国のものでも有名であるのだ。

そんな気おされた軍に、グスタフはワシのような目を光らせてうなる。

「この先に行きたくば、このワシを越えてゆくがよい!双剣のグスタフ・・・参るぞ!」


「なんだ?進めんぞ?」

占い横丁の前には、紫の紫煙がゆたり、帝国の者を飲み込んでそれ以上の進行をバリアのように防いでいる。

他の軍との進行が遅れるとあわてる軍に、正確な飛刀が突き刺さる。

ばたばたと倒れていく兵士を前に、ナナイーダがふっと笑みをこぼして怯える下町の子を下がらせる。

「この街には、私の自由がある・・・あなたたちの好きにはさせない」


ドガーンと響き渡る爆発音は、ハオチイの研究所前。

吹っ飛んでくる破片を浴びて、ハオチイが鼻歌を歌う。

「ふっふっふっんー♪」

そして完全に気絶して伸びる兵士たちを鎖で縛りつけながら、新たにかけてくる兵に爆弾を投げる。

「ワタシの爆弾を食らうと良いネ!」

爆弾が宙に踊ると、兵士を運んでいた住民は悲鳴を上げて逃げた。


同じく同時刻、カレイラの四方から攻め入ろうとしている兵をグラナへ威厳でなぎ倒すもの。

ハンマーを振り回し、兵士を悶絶させるのはルドルド。

一人だけ街に行くなんてずるいーっと息子、ギムに言われるも一人で出てきたルドルド。

「ふん、街のことなどどうなってもかまわないが・・・ティアのために一肌脱いでやるか」

ギムの遊び相手でもあり、森を荒らさぬよき人、自分の流派の後継人でもあるティアのためと、四人の師匠が兵士を片付け始めていた。


Re: アヴァロンコード ( No.473 )
日時: 2013/01/13 13:00
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

「この墓か・・・どれ」

ヒースが墓石を持ち上げると、真平らな石の下から四角い闇が見える。

銀のはしごが暗闇に続いており、その下に行けばもう地下だ。

「さぁ、ティア。時間がない。急いで地下を目指そう」

墓石を脇にどけて、ヒースがティアに言うと、レクスが何か叫んだ。

危ないとかそんなことを叫んだのかもしれない。

振り返った二人の目に映るのは、爆発。

もう少しで三人に届くか届かないところに落とされた爆弾にあっけに取られていると、聴きたくない人物の声。

「これはこれは、将軍殿。生きていたとはうれしい限りです」

こちらに爆弾を投げた上、その命が無事であってうれしいなど意味不明なことを口走るワーマンが杖を携えて歩いてくる。

その背後にはもちろん、クレルヴォの魂に操られるヴァルド皇子がいる。

「久しぶりだな、ワーマン。それに、魔王!」

「・・・・」ヒースの言葉に、ヴァルド皇子は無言で赤い目を光らせる。

振り返ったヒースは小声で不安げに顔を見合わせていたレクスとティアにささやく。

「君たちは地下牢の最深部に行き、魔王の身体を破壊してくれ。俺はここで奴らを食い止める」

「俺も!ここに残って戦う!」

するとレクスがティアを押しのけて言う。
ティアが二人に不安げな表情を向けると、二人は武器を構えて言う。

「心配するな。すべてが終わったら、また会おう!」

「そっちは任せたぞ、ティア!」

二人に頷いて、ティアは精霊と共に地下に飛び込む。

ヒースが仁王立ちする後ろで、レクスが墓石のふたを締め切り、挑むような赤い目で、ヒースの隣に並んだ。

淡い鶯色の髪のワーマンは、二人に目を向けて、ふざけたような明るい口調で言う。

「そこをどいてもらえます?急いでいるんでねぇ」

そんなワーマンに、憎憎しげに言うヒース。

「ワーマン・・・貴様は・・・ヴァイゼン帝国を影から支配し皇子を暗殺し魔王の器とした」

そこが静かな深い眠りの地、墓地だと忘れたかのようにヒースは叫ぶ。

「貴様だけは許すわけにはいかん!!」

だがそんな怒涛の声を聴いても、ワーマンは軽口を叩くのをやめない。

「ヒハハハ!かまいませんよ?どうせあなたはここで消えるのです!」

その言葉で、墓場での乱闘が開幕した。

Re: アヴァロンコード ( No.474 )
日時: 2013/01/13 17:53
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

レクスとヒースを残してティアは精霊と共にタワシのいる財宝室を抜ける。

タワシはそこにあったすべての財宝と共にすでに姿をけしていた。

「よかった、もういないみたい」

それを横目で確認しつつティアはフランネル城の地下牢に上がり、そのまま立ち並ぶ牢獄の部屋を飛び出すように抜ける。

その部屋を出れば、フランネル城に行く道と、逆に地下深くへ続く道に分かれている。

もちろん地下に行く道に走り出し、滑らかに下る螺旋坂道を下る。

その螺旋の中心部には言わなくともわかる、クレルヴォの身体を貫く長き天空槍が在る。

「地下にもぐるだけだ。早く行こうぜ!」

レンポがせかすように言う。

だが地下にもぐるだけの道はとてつもない道のりであった。

Re: アヴァロンコード ( No.475 )
日時: 2013/01/14 15:16
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

硬い石の階段がならび、左右には牢獄が並ぶ。

すっかり乾いた木の扉が立ち並び、その奥には暗くてカビ臭い牢獄が広がっているのだろう。

ティアは身震いしながらそこを通り過ぎる。

もしかしたらまだ、入れられたまま忘れ去られているものがいるかもしれない。カレイラでは良くあることなのだ。

深くもぐればもぐるほど、幽閉されている罪人の罪は重い。タワシに以前聞いたところ、この辺には政治犯や凶悪犯がいるとのこと。

まれに幽霊など不可思議なものがうろついているという。

「本物のポルターガイストってやつがいるのね」

ティアの話を聞いて、ミエリが辺りを見回して言う。

ひょんなことから、ティアを守護する四大精霊たちはポルターガイストという異名をカレイラの住民に付けられている。

ティアや精霊からすれば、アレは精霊魔法でありポルターガイストなんかではないのだが、魔法と無縁のカレイラ住民は魔法というよりそういった不可思議な出来事の名の方がしっくり来たようだ。

「ポルターガイストって、なにしてくるの?」ミエリが興味津々と言うようにウルに聞く。

残りの精霊も、ティアもウルを見て答えを待つ。

「本物であれば、物質を宙に浮かせたり、引きずり回す。騒音を起し、物などを破壊したりします」

「ひきずりまわす・・・」ウルの説明に、ティアが辺りを不安気に見回す。

物に触れられない精霊ならばともかく、物質であるティアは引きずられたり破壊対象になりうる。

「あくまで、存在するということを想定すればの話ですが」

ティアの動揺ッぷりを見てウルが肩をすくめて付け加える。

「牢獄に近づかなければ、会うことはないでしょうし・・・」

その言葉通り、ティアの進むべき道は直下へ続く螺旋坂道。
その脇に伸びている各牢獄への道には縁はない。

そのままずっと下って行けさえすれば、クレルヴォの肉体がそこにあるのだ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照が 9 1 0 0 越えました!!
九千が昨日の今日なのに、ありがとうございます!!

Re: アヴァロンコード ( No.476 )
日時: 2013/01/17 15:12
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

参照 9300 越えありがとうございます!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

渦をかくような螺旋坂は延々と続き、このままでは地球を突き抜けてしまうのではないかと思うほど。

だがそれは紛れもない錯覚であり、実際のところ地下1キロほどしかないのだ。

そんな地下のまだ表面に近いところを駆けずり回るティアは、あるものを見つける。

「あれって・・・」

「ん?」

ティアが見上げたものに対して、精霊たちがさほど興味なさそうに振り返る。

それは鉛色の巨大な鳥かごであり、特徴的なゆがみのつくおりが並んでいる。

自分が収容された檻だ、と瞬時に分かった。

特徴的なゆがみは、地震の影響で降って来たレンガによるもの。

忘れるわけがない、非常ににが苦しい思い出である。

「あれがどうしたのー?」

「・・・あぇ、っとなんでもないかな」

ミエリが首を傾げて問うので、ティアははぐらかした。

そしてすぐにきびすを返して鳥かごの前を通り過ぎる。

(こういった思い出は、人にはあんまり話したくないな・・・)

精霊たちはおこるだろうし、また人々に反抗の意を出すだろう。

それに、つらい記憶はふたをしてそっと放っておいた方がよい。

ティアがさっさと歩くので、精霊たちはもう一度首をかしげその背を追った。


Re: アヴァロンコード ( No.477 )
日時: 2013/01/17 15:30
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

「・・・・」

今まで気さくにしゃべっていた精霊たちがふっと言葉を切った。

だがティアもあえてどうしたの?と問わない。

自分でも分かる。感じられるほどの、禍々しい気配。

相変わらず場所は螺旋坂であり、あたりは怖いほど静まり返っている。

さっきまでは感じられなかった、尋常じゃないほどの静寂である。

「ついに、そばに来たんだね」ティアが言うと、精霊たちは頷いた。

やけにティアの声が響き、まるでこだまの様にあたりに反響している。

『…もう、遠くない…クレルヴォはすぐ、そこ…』

ネアキの小さなささやき声も今は大きく聞こえる。

ティアは頷き、足を進める。もう足を止める理由がない。

「この階段さえ下りてしまえば、そこがクレルヴォの眠ることろです」

ウルが指し示すのは急に冷たいブロンズ色に変わった下り階段。

硬く、無骨な感じで、何か紋章や絵や文字が刻まれているが止まってみている暇はない。

今優先すべき事は、クレルヴォをとめること。

階段を下りきると、階段と同じく冷たい感じの在るブロンズ色の部屋があった。

どこも暗く、大理石に触れているように足元から冷たさが伝わってくる。

その部屋は六本の大きな柱に支えられており、その太さはたいしたことないくせに、この地下空間を支えている。

「古代の知恵の張り巡らされた部屋です。クレルヴォを封印したときにこの部屋でまじないか何かを施したのでしょう」

ウルがあたりに漂う気配を読んでつぶやく。

どうやらその憶測は正しいようで、一面の壁に古代の文字で呪詛が刻み込まれていた。

そしてひときわ文字の羅列が激しいところに闇を切り取ったような四角い、奥へ続く通路が広がっている。

扉はない。そこから不吉なものを感じるが、いかなくてはならない。

「・・・いくよ、みんな」

ティアは不安げにしている精霊たちを呼び寄せて、その四角の闇に足を突っ込んだ。




Re: アヴァロンコード ( No.478 )
日時: 2013/01/17 18:00
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

踏み込んだ闇の先は、ひどく美しいところ。その名を永遠の奈落という礼拝堂のようなところである。

天井は高く、もはや上限が見えないほど高く伸びている。

だが光は差しており、十二の小窓からいっせいに光が足元をてらしているので、視界には困らない。

そのきれいな間のなかで、ごろりと横たわっているものが在る。

金色の身体を仰向けにしており、その腹部にはぐさりと天空槍の矛先が突き刺さっている。

ティアはその光景に声を発することが出来ず、呆然としていると精霊たちが懐かしき主人にかすれた声をかける。

「クレルヴォ・・・」

レンポが声をかけ、ティアはやっと理性が追いついた。

(あれが、クレルヴォなんだ・・・・)

目をしばたいて、よく見る。

金色の巨大な身体はこの天井高い間でやっと立てるくらいのもの。

関節はロボットの様であり、顔の部分、特に目はまぶたがない。

大きな二つのランプの様であり、光が灯っていないのでまだ復活していないようだ。

(これが、クレルヴォ・・・)

あまりにも人間と異なる体躯をしているので、ティアは少し恐怖も覚える。

だが精霊たちは彼のことを、やさしいと言った。
きっとそうだったのだろう。

ごくりと息を呑み、一番目立つ腹部を見る。

そこには天空槍が地面にまでつきぬけ、封印しているのだという。

それが今ではいびつに傾いており、明らかに星の影響だ。

「天空槍が外れかかっています。でも、まだ封印は有効です」

『…壊すなら、今のうち…!』

「ティア・・・やってくれ!」

「最後の仕事よ、がんばって!」

精霊たちが破壊に走るクレルヴォを止めてくれると誓ったティアに振り返って言う。

それらに頷いて、ティアは剣を振りかぶった。

しかし—

コツりと足音がして、ふざけたような声が響く。

「そうは行きませんよ!ヒハハハハ!」

慌てて振り返るとそこにはヒースとレクスが足止めしていたはずの、ワーマンとヴァルド皇子の姿があった。

ぎょっとしてみていると、ワーマンが懐を探る。

「そうそう、いい物を拾ったんでねぇ。あなたにも見せてあげましょう」

そういって、何かをこちらに放り投げた。

それは飛刀でもなんでもなく、むしろティアにとっては飛刀や爆弾の方がよかった。

ティアとワーマン、ヴァルド皇子の間に転がったそれは、円形のたてと、黒い刀身のナイフ。

どちらも、ティアのために戦ったヒースとレクスの所持品だった。

「これは・・・あいつらの物!」

「そんな!じゃああの人たちは!?」

レンポとミエリがハッとしたように叫ぶ。

ティアはその二つのものを蒼白になりつつ見やる。間違いなく本物だ。

(そんな・・・そんなことってあるの?)

その顔を楽しむかのようにワーマンが高く笑った。
そしてこちらをじろりと見て薄ら笑いを浮かべると

「彼らの死に際を見せて上げられなかったのは残念です」

え、と顔を上げたティアに

「ま、後は直接聞いてください。あの世でね!」

ワーマンは杖を構えて走りこんできた。



追記 参照 9400 超えました!もう終わりまで秒読み開始状態になってますがありがとうございます!!

Re: アヴァロンコード ( No.479 )
日時: 2013/01/19 15:24
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

ワーマンはさすがオオリやエエリと共にまじないを学んできただけあって、オオリほどではないもののまじないを駆使してきた。

黒い円形が足元に浮き上がるとティアは地面を蹴り上げてさっとかわす。

その黒い円は真っ赤に染まるが、ティアの足止めは出来なかった。

現代最強と歌われたオオリと戦った今、はしくれのワーマンなどおそるに足らぬ。

余裕そうな表情を保ったまま、ティアはワーマンに一気に大地を蹴って近づき、切りかかる。

「ぐぅ」
そんな声を漏らして、ワーマンが木の硬い杖でティアの剣を受け止める。

ぎりぎりと剣が杖を切り打って不吉な音を立てる。どうみても、木が鋼に勝てるわけがない。

「ただの人間ごときに・・・!」

ワーマンが力で押されて忌々しげにつぶやく。ワーマンの半身はまじないに深く身を投じたせいで人のものではなくなっている。

その不自由な半身に力が入らず、ついにぐらっとバランスを失った。

声を上げる暇も与えず、ティアが柄でワーマンの頭を殴りつけた。

情けない声を上げてワーマンがぶっ倒れる。完全に意識を失ったようで、ばたりと倒れて伸びている。

『…いい気味…心が壊れている狂った人間…』

ネアキがティアに倒されたワーマンを見つめてつぶやく。

「半身が人のものではないようですね。まじないに身を染めて、はるか昔に心と共に失ってしまったのでしょう」

ウルが腕を組んで言う。

すそから出ている足も、片足だけ紫色のとげのようなものであり、杖がないと走れないようである。

と、そんなワーマンの奥から黙って二人が戦うのを見ていたヴァルド皇子が歩み寄ってくる。

仲間が倒されたというのに、やけに涼しい顔をしている皇子に精霊たちが叫ぶ。

「クレルヴォ!」怒ったように叫んだレンポに続いてウルが声を荒げて聞く。

「なぜこのようなことをしたのです!」

悲しげな表情のミエリは悲痛な叫びを上げる。

「旅の最後に、この世界を創ったとき・・・あなたは理想と希望に満ち溢れてた!なぜ・・・・なぜこんなことに!」

それまで黙っていたヴァルド皇子が、少し頭をかしげて口を開いた。

なぜ、このようなことになったのかわからないのか?と。

「あぁ、そうだな。世界を創ったとき、私は満ち溢れていた。おまえ達と共に価値あるものを選んで、きっとこれ以上はないという平和な世界を創ろうとしていた」

ヴァルド皇子の身体に宿るクレルヴォが懐かしむようにつぶやく。

精霊たちも、すがるような目で見つめている。

だが、優しげな光を一瞬と漏らせた赤い目は、瞬く間に憎悪できらめいた。

「だが、な。人間は私を・・・世界を裏切ったのだ。世界創造の際、あのような生き物を選んだことが間違いであった。争いを好み、他種を迫害し滅ぼしていく、野蛮な人限どもめ。・・・あやまちはたださねばならぬ」

クレルヴォの血のように赤い眼がティアを捕らえてにらみつける。

その形相に、ティアは一歩引きそうになったがこらえた。

『…過ちを正す?…どうやって…?』ネアキがヴァルドに問う。

ヴァルド皇子は精霊に視線を長し、最後にティアの腕の中の預言書に目を落とす。

「預言書を用いて、もう一度世界を創り直すのだ。今度は人間などという邪悪なものが存在しない、平和で、平等で、悲しみのない世界を」

ヴァルド皇子に宿るクレルヴォは真面目な顔でそう言い放った。

一瞬黙った後、ウルがかすれた声で言う。

優しかったクレルヴォを変えたのは、そんなちんけな思いだけだったなど信じたくなかった。

「まさか・・・そのためだけに?世を乱していたのはそのためだったと!」

「しかり」だがクレルヴォはそうだと頷いた。

四大精霊たちが絶句したように目を見開く。

「世が乱れ、世界が終末に近づくとき、預言書が現れる・・・かつてそうであったように」

そんな視線を諸共せずにヴァルド皇子は赤い目をぎらつかせて言う。

「いくつもの時代をまたぎ、人間どもの支配者の肉体を奪い、世を乱し腐敗させてきた!これもおまえ達の望む、“いずれ来る正しき日”のためでもあるんだ。そうすれば、おまえたちの枷だってきっと外れ—」

「クレルヴォ・・・もう、そんな話は聞きたくないぜ!」

ヴァルド皇子の言葉をさえぎって、レンポが叫ぶ。

今まで何か世界を壊す正当な理由があるのだと思ってきた。

だが、本人に直接聞けば、それはただの戯言であり、精霊のためでも在るという。

過去に出会った優しき巨人はこんなこと言わない・・・。
もう、あの優しき巨人はいない。

「腐ったのは世界じゃねぇ!おまえのほうだ!」

言われて驚いたようにヴァルド皇子が口を開けた。

「・・・お前たちならばわかってくれると思っていたのに、あくまで邪魔する気なのか・・・。悲しいものだな」

『…共に創った世界を…壊すあなたに言われたくない…!…心配しないで、新しき世界は…必ずティアが創るから!』

ネアキが強い口調で言うと、ヴァルド皇子は目つきを変えてティアをにらんだ。

「そうか、預言書を持つものに未来を託したわけか。では、その者を倒し、預言書の本当の持ち主が誰かを教えてやろう!」

言って鞘から剣を抜いたヴァルド皇子に、ティアが剣を構える。

「ティア、クレルヴォの精神はまだ皇子の身体の中です。今のうちに撃退しましょう!」

『…クレルヴォ、あなたともここでお別れ…』

「私たちは新しい世界を創るの!ティアと一緒に!」

精霊たちの叫びの声を聞き、ヴァルドが床を蹴る。

真っ赤な目はティアを憎憎しげににらみ、舞う銀髪は光を受けて星の色に輝いている。

「人間よ!裏切りの報いを受けよ!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照 9 5 0 0 越えました!!
ありがとうございます!いやーもう最終ですね!

Re: アヴァロンコード ( No.480 )
日時: 2013/01/19 16:00
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

ヴァルド皇子はたてと剣を装備しているため、ティアが切りつけるのを軽々と防いでしまう。

だが、やはり戦いなれたティアの方が判断が勝っている。

盾で防がれたまま足払いをし、よろめいた隙に剣の柄でたてをぐっと押す。

そうすると、地面に倒れたヴァルドの腹にたてがのしかかり、その盾に足か何かを踏みつければ喉元などががら空きになるのだ。

すっかり盾に全体重を乗せてヴァルドの動きを奪ったティアは気絶させるために剣の柄を構える。

「おのれ人間風情めが」

その言葉が吐かれ、突如にやっとヴァルドが不適に笑みをこぼした。

「!?」と、一瞬にして大気に悪しき気配が漂いなんとヴァルド皇子の口から真っ黒の魂のようなものがブワッと飛び出してきた。

その意味不明な物質は三つに分かれており、四方に吹っ飛んでいく。

「っ!」ティアはそれを飛びのいて回避し、転がった状態からそれを見上げた。

一つはレンポとウルの間を、もう一つはミエリとネアキの間を飛んで行き、空中で黒い塊が終結して増幅した。

それらは迷いもせずに横たわるクレルヴォの肉体に吸い込まれ、やっと何が起こったか理解した。

さっとヴァルド皇子に目を走らせると、もうすっかり意識がなく、むしろ生きているのかは分からない。

(皇子の中にいた魂がクレルヴォの中に戻ったって事は・・・クレルヴォが復活するって言うことだよね)

それを肯定するかのように、クレルヴォの目に光が灯った。

そして、ぴくりっと心臓が鼓動を打ち、その腹に刺さる天空槍が見嫉妬音を立てた。

うめきながら立ち上がったワーマンは、ティアが一心に魔王を見ているので、釣られてみると歓声を上げた。

「お、おぉ・・・魔王様が・・・!」

その声に反応したのか、クレルヴォの指がピクリと動き、そのまますごい速さで天空槍を引っつかんだ。

そしてごろごろと左右に転がるように引っこ抜いていく。

ものすごい轟音が響き、腹に槍を刺したままのクレルヴォがのそりとそのみを起こした。

「おお!魔王様の肉体が完全に復活なさった!」

うれしそうに叫んでティアを突き飛ばし、クレルヴォの前に躍り出たワーマン。

その目の前で立ち上がったクレルヴォはいとも簡単に槍を引っこ抜いた。

そして眼下でなにやら騒ぐうるさい人間をなぎ払うようにその槍を放った。

「やったぞ!私の勝利だ、オオリエメド・オーフ!これで世界は我が手—ゴフッ?!」

天空槍に直撃し、吹き飛ばされて意識を失ったワーマン。
その槍はティアにまで飛んできた。

叫び声を上げて避け、クレルヴォを見上げる。

クレルヴォは首を鳴らしたり、関節を動かしながら満足げにつぶやく。

「数千年ぶりの我が肉体・・・やはりよくなじむ」

そしてまるでありでも見るようにティアの目の前に仁王立ちした。


Re: アヴァロンコード ( No.481 )
日時: 2013/01/21 15:41
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

「倒される寸前・・・本来の肉体に戻りましたか?」

そんなクレルヴォを見上げる形でウルがつぶやく。

ティアの傍らに引っ付いているミエリは不安そうである。

「いかにも。すべては計画通り。これより預言書を用い、世界創造を行う」

そしてその大きな手をティアの持つ預言書にずいと伸ばす。

ティアは後ずさり、預言書を守るように強い意志のある目でクレルヴォを見返す。

その手の前に立ちふさがるように、精霊たちが壁を作る。

「させるかよ!預言書は渡せねぇ!」

みなそろって、クレルヴォを許さないという目で見つめ、過去は割り切るつもりでいる。

そんな目で見られて、クレルヴォはため息のような声を漏らすとその両手をそっと引いた。

そしてティアの名前を呼ぶ。

「ティア・・・おまえは私と同じ、預言書に選ばれしものだ」

急な対談に、ティアは預言書をきつく抱きながらクレルヴォを見上げる。

同じ選ばれし者だが、身長さはとんでもない。

ティアの何十倍もあるクレルヴォを見上げて、首が痛いなぁなどと思う。

そんなティアにクレルヴォは熱をこめたように言う。

「おまえも見たのだろう?人間の汚さを。感じただろう?人間への怒りを」

はっとティアが息を呑む。

クレルヴォは知っているぞとばかりに言った。

「英雄だったお前をさんざんひどい目にあわせたのだろう?聞いている」

同情のこもるような目で見られて、ティアは視線をそらせた。

「私もかつて人に神とあがめられていた。だが、どうだろう今は・・・そう、魔王扱いだ。ひどい目に合わされた。槍で刺し貫かれ、この身を何千年も封印されてきた」

妙に説得力のある重い言葉でクレルヴォが忌々しげに語る。

「やつらはいつかお前をもう一度、想像もできぬほどのひどい裏切りをに合わせるぞ、この私にしたように」

「・・・」ティアはだが首を振った。

きっと誰でも過ちは犯す。自分もいつかしてしまうかもしれないことだ。覚悟はできている。

強い目で見つめ返せば、クレルヴォはかなり気を悪くしたようだった。

分と鼻を鳴らし、あきれたようにティアから身を離す。

「バカな・・・しょせんは人間か。過ちも痛みもすぐに忘れ、無知のように繰り返す・・・それが人間だったな。では、新しき世界のため、お前をつぶさねばならない」

クレルヴォがそういうと、瞬時にティアの預言書が剣に変わった。

そのそばで精霊たちがティアを励ます。

「ティア、最後の戦いです!」
「がんばってね!信じているから!」
『…大丈夫…きっと勝てる…』
「さぁ!神話に幕を下ろそうぜ!盛大にな!」






Re: アヴァロンコード ( No.482 )
日時: 2013/01/22 19:22
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

クレルヴォはその大きな身体を駆使してティアをつぶそうとする。

どしいんと揺るがすような音と、もうもうと立ち込める煙。

その煙の中をティアは電光のように横切って、何とか高台に駆け上る。

クレルヴォの眠っていたこの場所は巨大な円形ホールであり、渦を巻くように分厚く硬い階段がせり出している。

それに飛び乗って駆け出せば、クレルヴォが階段を叩き壊そうと壁を殴りつけて盛大にゆれる。

だがブロンズ色の硬い階段はびくともせず、何かまじないのような類がかけられているようだ。

「っ!」やっとクレルヴォの肩らへんまで登ったティアは飛刀を投げつける。

落ちそうなほど勢いをつけたそれは、まっすぐに飛んでクレルヴォの身体に刺さるが、何しろ巨大なため、蚊に刺されたくらいしかおもわない。

ふんっとクレルヴォがその飛刀を引っこ抜きもせずティアに反撃する。

階段は壊せなくとも、ティアのような物質は破壊対象に入る。

振り下ろされた拳を、ティアは階段を駆け上がることで避ける。

「こんな武器じゃ・・・駄目かな」

ティアはクレルヴォを息を荒げながら見つめ、預言書の中の武器を頭の中で探る。

剣、飛刀、爆弾、ハンマー・・・・。

爆弾は一番威力だが、高台から投げると足元にしかダメージが行かない。

剣はほかのものより手馴れているが、届かない。

ハンマーは振り回した遠心力で階段から落ちかねない。


Re: アヴァロンコード ( No.483 )
日時: 2013/01/24 22:24
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

ティアは結局飛刀を手にブロンズ色の階段を、靴音を響かせて駆け上がっていた。

クレルヴォの破壊の猛威をかわしながら階段から次々に飛刀を投げつける。

だがどれもクレルヴォに刺さりはするが、たいした効き目はないようだ。

「ふん。小ざかしい人間めが。そんなもので私を倒せると?」

ふんぞり返って口元をゆがませたクレルヴォは拳を固めてティアのいる場所に叩きつける。

ずうんと地の底から響くような轟音にティアがよろめいて階段から落下しそうになる。

「わわっ」身体をひねって飛刀を階段に突き刺そうとして跳ね返る。

硬いこの階段は傷1つつかない不思議な一品。クレルヴォの攻撃さえ物ともしないこの階段が、ティアの飛刀で傷つくわけもなく。

かつっともろい音を立てて壁に反発された反動でティアの手より滑り落ちた飛刀は落下していく。

「ティア!」あたりの精霊が両手で階段にしがみつくティアにあせった声で叫ぶ。

クレルヴォがこれで終わりか、などとつぶやいて拳を振り上げる。

ぶら下がったままのティアは必死によじ登ろうともがき、逆にドジを踏んでいる。

「終わりだ人間よ!」

びゅっと風切り音がと共にクレルヴォの硬い拳がティアめがけて振り下ろされた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照!! なんと、放置にもかかわらず 9 7 0 0 越えましたよ!!ありがたい限りです!
クレルヴォ戦、戦略がぜんぜん思いつかなくって・・・

Re: アヴァロンコード ( No.484 )
日時: 2013/01/24 22:44
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

どごんと音がして、もわもわと煙が上がる。

「ティア・・・!」クレルヴォのたたきつけた拳に向かって叫ぶ精霊たち。

そこに、彼らの主人が、いるはずなのだ。

だが長年溜りにたまった煙ほこりの中をさっと落下していく物体が見えた。

クレルヴォの拳のすぐ下を高速でおちていくあの人は、ティア。

武器も何もかも投げ出して、預言書を小脇にかかえたままクレルヴォの背丈と同じくらいの階段から落下していく。

「!? 自決か?!」ティアの明らかに自分からの飛び降りにクレルヴォも驚いてただ目で見送るだけ。

精霊たちも息を呑んで見守っていたが、触れられないにもかかわらずティアの元へ急いで駆けつけようとする。

だが、ティアは何の考えもなしに落下したわけではない。

地面ぎりぎりになるとさっと両手を足元に突き出してプラーナを放ってスピードを相殺したのだ。

プラーナの強烈な気の破壊威力もこのまじないのかけられた一室ではどれも無効化されて傷1つ着かない。

そのためか破片で怪我することもなく、すたっと着地したティア。

ふうっと精霊が安堵のため息をつき、クレルヴォが驚いたようにティアを見るのは同時だった。

だが「無駄なことよ」クレルヴォはそう言い放つとそのおもたげな足をざっと上げた。

ティアのことを預言書ごと踏み潰す気なのだ。

その振りかぶった足の裏を見上げ、ティアはクレルヴォを睨み返す。

そしてずんと落とされた足の裏を、練りこんだ強烈なプラーナで一気に圧した。

ぶわぁっとまばゆい蒼の閃光が放たれ、クレルヴォの体が一瞬宙に浮く。そしてずると氷を踏んづけたようにひっくり返った。

「ぐぬ?」バランスを失ったクレルヴォは一気に地面に激突し、世界が終わるほどの地響きがやってくる。

ティアは預言書から武器を沢山取り出して、今がチャンスとばかりに激しく攻撃に転換した。



Re: アヴァロンコード ( No.485 )
日時: 2013/01/24 22:59
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

一気に形勢逆転されたクレルヴォは体中に痛みが走り、うめく。

いくらティアが一人だといっても、預言書とその武器がある。

しかも破壊のない部屋でこれほど盛大に転べば、痛みのエネルギーが分散されずに直で来る。

なので余計に痛み、人であったらもうこの世の人ではなくなっている。

巨人であったから、軽い脳震盪ほどですむのだ。

「ティア、どの生き物も共通して弱いところがあります」

必死に攻撃をしているティアに、ウルが叫ぶように言う。

「それは心臓。脳震盪を起こしている今のうちに・・・!」

ティアが頷いて無防備なクレルヴォの身体によじ登る。

そしてその心臓が鼓動する真上まで来ると剣を振りかぶっている。

その旨に剣を突き立てられれば、巨人といえどもひとたまりもない。

(こんな人間に・・・世界を・・・精霊を・・・預言書をわたすものか!)

かっと瞳の色を濃くしたクレルヴォは体中に力を入れる。

ぐらぐらぐらっと体と世界が揺れて、ティアがバランスを崩して剣を振り回しながら尻落ちをつく。

「なに・・・わ!?」

そんなティアの目の前の、心臓の部分にあった赤いリングが輝きだして、不吉な光線を放った。

クレルヴォがレーザー光線のようなものを放ったのだ。
どこかトルソルに似ているその光景。

それはティアが今までいたところに突き抜けて、はるか高い天井まで閃光を放っている。

触れたらまずい。本能的な恐怖にティアは足がすくんだままぽかんとその光景を見ていた。



Re: アヴァロンコード ( No.486 )
日時: 2013/01/25 18:33
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

クレルヴォの心臓の真上から放たれる光線は熱線であり、ティアは暑さに引き下がる。

だが盾を装備すると、爆弾をその熱線の中に放り込んだ。

熱により爆発した爆弾は、クレルヴォの身体を床に打ち付け、光線の発射をとめる。

焦げ臭い爆弾の煙を掻き分けてティアは剣を装備すると、クレルヴォの心臓めがけて突き刺した。

金色の身体につきたてられた剣は深く差し込もうとしても、浅く皮膚をへこませるだけで貫通しない。

「ぐ・・・つ・・・」ティアは両手を剣柄にかけて全体重で突き刺そうとする。だがやはり刺さらないほど、クレルヴォの皮膚は硬い。

「無駄なことを!人間の小娘に私が倒せるわけがないだろう!」

脳震盪から回復したクレルヴォが上半身を起こしてティアを転げ落とす。

心臓の部分の丸く赤いレーザー口は金属のようなものに縁取られているため、そこに指を引っ掛けてティアはぶら下がっていた。

片手に剣を握ったまま、必死に這い上がろうとしている。

「ここでおまえの神話は終わる。新たに紡がれる神話は・・・」

クレルヴォが残酷な笑みを浮かべてティアをひねりつぶそうとゆっくり手を伸ばす。

ティアは必死の形相でクレルヴォを見つめながら足をばたつかせる。

「人間などという邪悪で救いようのないものが滅び、平和で美しく何者も平等な種族によって支配される世界だ」

ぎゅうっと掴まれて少し悲鳴を上げるティア。だが一気に絞め殺すわけではなくアナコンダがエモノをゆっくりと締め付けるように、徐々にきつくなっていく。

「っ・・・!」顔をゆがめたのはクレルヴォ。ティアの持つ剣もろとも強く握ったせいで手のひらに突き刺さったのだ。

反射的に手のひらを開いたクレルヴォの手から滑り落ちたティア。

だがクレルヴォはもう1つの手でティアをキャッチすると、剣に気をつけながらもう一度ひねった。

うっと息がつまり、ティアはクレルヴォをにらむ。

「おまえには私を倒せない」

クレルヴォは手に力を込めて冷たくそういった。


Re: アヴァロンコード ( No.487 )
日時: 2013/01/25 19:11
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

「じゃあ・・・」

握りつぶされそうになりながらティアがつぶやく。

苦しげに圧迫される肺から息を漏らしながら、視線をクレルヴォのランプのような赤い目に合わせて。

「精霊たち!」

締め上げられて最後の息を使って叫んだその言葉により、精霊たちはティアの意思を感じ取る。

精霊たちがそれぞれつかさどる力を取り出すようにティアにささげる。

もうしゃべる息が残らないまま、残り少ない酸素を腕に供給させてティアは剣を振りかぶった。

その剣に四つの力が吸い込まれるように宿り、閃光を放っている。その輝きを、ティアは以前どこかで見たような気がして懐かしい気分になる。

だが、思い出せない。そして気管までも圧縮された今、呼吸することが出来ないので頭がくらくらする。

だがほんのわずかな酸素を一太刀の可能性に込めて、ティアはクレルヴォの胸めがけて槍のように投げつけた。

クレルヴォの胸の赤い円に吸い込まれるように向かっていく剣。

朦朧とする意識の中、それが突き刺さって深く食い込むのを見たあと、手の拘束が緩むのを感じる。

ティアはあえぐようにして肺に酸素を供給すると、クレルヴォの体が見る見るうちに力を失っていくのを実感する。

「ばかな!」

クレルヴォが苦しそうに心臓を押さえて言う。その手がだらんと地面近くまで伸ばされた隙に、ティアは床に着地してクレルヴォを見上げた。

荒い呼吸のまま、倒れそうなくらいふらふらしているクレルヴォから距離をとる。

「あぁ・・・力が抜けていく・・・!」

クレルヴォの体から煙のようなものが噴出す。そして徐々に巨人の体が縮む。

縮むといってもそれはティアの数倍であり、やはり大きいことには変わりない。

「体が・・・・動かなく・・・」

『…それが…死よ…』

あわれなほどに叫ぶクレルヴォは徐々にその声の覇気も薄れていく。
猛烈な痛みに襲われた患者のように、おぼつかない足取りで助けを求めるようにどこかを見ている。

だが精霊たちは救いの手を伸ばすことはなく、そっとその最期を見守る。

そしてついにクレルヴォが力が抜けたようにうつぶせに倒れる。

振動が響き、ほこりが舞い上がる。

ティアは両手で顔をかばいながら、クレルヴォの言葉に耳を傾ける。

礼拝堂のような中で、かすれた声でつぶやくクレルヴォ。どこか絶望的であり、孤独と恐怖でいっぱいの声が空気を震わせる。

「理想の・・・世界を・・・創りたかった」

クレルヴォがどこかへ手を指し伸ばす。それは、以前精霊たちが四方へ飛ばされるときにクレルヴォに手を伸ばした光景に似ていた。

精霊たちはあのときのクレルヴォのように手を差し出すことは無く、ただ黙っている。

だがティアだけはその大きな手に自分の手を伸ばす。

「理想の世界で・・・精霊たちに自由を・・・争いのない平和を創りたかった・・・—ただ、それだけだったのに」

それを最期の言葉に、クレルヴォは事切れた。

結局また、伸ばされた手がつながれることは無かったけれど、世界に滅びをつれてくる魔王のために、一人少女が手向けの涙をこぼした。



Re: アヴァロンコード ( No.488 )
日時: 2013/01/25 19:31
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

ゆっくりと、滅びを望む魔王の体が消化されていくと、人知れず涙をこぼしていたティアに精霊たちが声をかける。

空に舞い登る青くて美しい魂たちが、最期にそっと名残惜しそうに精霊たちのあたりを漂うと、消えた。

「やったな!」

「救ってくれるって信じていたよ!」

だがぼろぼろと大粒の涙をこぼしているティアは首を振った。

「みんなありがとう・・・ごめんね、クレルヴォ救えなくて」

クレルヴォの最期の言葉がせつな過ぎて、ティアは余計涙をこぼす。

そんな主人に寄り添って、ネアキが微笑んで言う。

『…クレルヴォは…あなたのおかげで世界を滅ぼさずにすんだの…』

「ネアキの言うとおりです。ありがとうございます、ティア」

うん、うんと涙を拭きながらティアが頷く。でもどうしても涙が止まらない。

「でも、でもね・・・クレルヴォのお墓も思い出も、もう創れない・・・」

しゃくりあげて泣き出すティア。愛しき人のお墓もない、そんな経験はつらい。それが良くわかっていたから、ティアは一掃激しく泣き出した。

「思い出のものも、その人のお墓も、その人との思い出ももう作れなくなったのは・・・倒すことしか考えられなかった私のせいだよ・・・」

—数十年前、自らも両親をなくした。
—遺体は跡形も無く、お墓すらない。
—思い出の品は、たった一つの髪留め。
写真も、何もない。思い出せる形見は唯一それだけだった。

(なのに!精霊には何にももう残っていない!私がもっと他の手を考えて入れさえすれば!)

「あるよ、思い出の品は」

そんなティアに、精霊たちがそっと声をかける。

「クレルヴォと創ったこの世界が、オレ達の思い出のものだ」

「世界が・・・思い出・・・?」

はっとしたようにティアが顔をあげて精霊たちを見る。

そう!とミエリが笑顔で微笑んでいる。「だってこの世界は、クレルヴォと一緒に創ったものだから・・・私たちの思い出の塊!」

『…優しいクレルヴォとの…思い出の塊…』

そんなティアをウルが慰めるように声をかけた。

「泣き止んでください。世界を、街を、見にいきましょう」

涙をいっぱい溜めたティアは頷き、鼻声のまま微笑んで返事をした。



Re: アヴァロンコード ( No.489 )
日時: 2013/01/25 20:14
名前: めた (ID: g7gck1Ss)


 第十二章 開錠

—真の主が現れるとき
 四つの御使いは重き罪より解放される
 過去の戒めが
 未来の戸を叩くだろう


ヒドゥンメイアから出てきたティアは、墓場の墓石をずらし、太陽の照る元に出てきた。

ワーマンとヴァルド皇子を交互に引きずってきたせいか、肩が痛い。

だがそんな疲れも、空を見上げてすっかり晴れてしまう。

「見て!太陽が月から出られたみたい!」

青空に輝く太陽のさんさんに降り注ぐ日を浴びて、ティアが気持ちよさそうに伸びをする。

すっかり世界を崩壊は止まった様である。

一人ではどうしても持ち上げられそうにない二人の気絶体を置き去りに、しばらく歩いて人手を探していると。

墓地の木陰に、二人の人物が寄りかかっている。

「レクス?!ヒースさん?!い、いきてる!?」

すっとんきょうな声を上げて驚くティアに、その死んだと思われていた人物達は呑気に手を振って見せた。

「よかったぁ!ワーマンが殺したとかあの世とか、言ってたから!」

「あんな奴相手に死ぬわけないだろ。まったく」レクスが転がるヴァイゼンの兵士たちを指差して嘆かわしげに言う。

「多勢に無勢でな、あいつらはうまく抜け出して行ったんだ」

ヒースが胡坐(あぐら)をかいたまま言う。その腕にはちゃんと盾がついており、どうやらワーマンがよこしたのはまじないか何かで作られたものだったらしい。

「でも、無事帰ってきたって事は、やったんだな。空も晴れてるし、鐘の音も止まった」

レクスが尊敬するように見上げる。

「・・・よくやったな、英雄殿!」ヒースも疲れたというように木に寄りかかって言う。

すっかり平和ボケしている表情である。
それはティアもそうであり、人のことは言えない。

野原に寝転がって戦いとは無縁のところでぐっすり昼寝をしたい。
そう、預言書が現れる以前のような暮らしを・・・。

「怠けてるのはいいけど、ヴァルド皇子とワーマンを回収しておいてね!」

柔らかな芝生を踏んで、二人の目苗を通過していくティア。

街の無事をこの目で確認するまでは、ゆっくり草原で眠ることは出来ない。

ティアは元気よく走り出した。


Re: アヴァロンコード ( No.490 )
日時: 2013/01/25 21:24
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

街の中を走り回り、人々の喜びと希望に満ち溢れる笑顔を見て、ティアは心が躍る。

ファナがヘレンと共に手を振って、にっこり笑顔でいたり、珍しくシルフィの笑顔が見られたり、デュランとグスタフが二人そろって笑顔で語り合ったりと、なんとも安息な時が流れている。

であった人の誰もが、これ以上ないほど安心して幸せそうだ。

きっと世界中の誰もが、こんな幸せそうな顔をしているのだろう。

精霊たちを見上げると、彼らも同じ表情で微笑んでいた。

でもティアは、彼らと一緒に微笑んでその場にとどまることをしなかった。

ファナに手を振って、そっとその楽しげな雰囲気に背を向ける。

(みんな無事だった。良かった)

みなの笑顔を見て、心があったかくなった。

自然な笑みが、ずっとこぼれてしまう。

ふんわりした植物達を踏んで歩いて、ティアはある場所にやってくる。

自分が思っている以上の、始まりの場所。

すべてが始まったあの丘へ。

「やはり、ここに向かっていたのですね」

ウルが世界が創られた場所に降り立って言う。

他の精霊も、懐かしいなあというように辺りを見回している。

「ここでクレルヴォとの旅が終わって、ティアとの旅が始まったんだよな!」

「不思議ねー!ここの丘だけは、ずっと変わってないの。クレルヴォのいたあの頃のまんま!」

精霊たちがうれしそうに笑顔でしゃべりだす。

ティアは黒い石版、モノリスのそばに座って、それを楽しげに眺めている。

預言書をひざの上において、まどろんでいると、なにやら預言書がまばゆく光る。

「・・・?」特に驚きもせず眺めていると、クレルヴォを打ち倒した剣が出現した。

閃光のまばゆい、ティアの愛用していた剣。その形が徐々に、懐かしいものへと変化していく。

「あぁ、これだったんだ・・・やっと思い出せた」

その姿はどこか鍵に似ている、金色の剣。

それを眺めてティアはそっと微笑む。クレルヴォと戦っていたときに見た、あの懐かしい光はこれだったのだ。

「ジェネシス—見つかりましたか、世界を創るのに必要な鍵が」

ジェネシス—天地創世の通り名をもつ世界の鍵は、以前力を失ってしまった。それが今、手元に戻ってきた。

まるで、クレルヴォが理想の世界を創って、と願っているような気がした。

「そんな必要ないよ」

どこかからクレルヴォがこの幸せな世界を見ている気がしてつぶやく。

暖かな春の風が、ティアの褐色の前髪を撫でる様に通り過ぎた。

さぁさぁと芝生が揺れて、この丘にまで人々の幸せそうな声が届いてくる。

「クレルヴォの創った世界は、あなたの望んだとおり、素晴らしくて平和で、きれいな世界だから・・・」

穏やかな気持ちのまま、眠たげな目をしたティアがつぶやくと、精霊たちは黙って頷いた。

主人に言葉に出来ないほどの感謝の念をこめて、口を開いたら涙がこぼれそうだったから、黙って頷いた。

と、そのときだった。

精霊たちに異変が訪れた。


Re: アヴァロンコード ( No.491 )
日時: 2013/01/26 15:03
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

9900越えました!あと100で・・・5桁、ですね・・・
十二章に進出し、謎をほぐしていきたいと思いますよ!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

カチャン・・・と妙に響き渡る美しい金属音がした後、精霊を縛り付けていた枷がいっせいに、外れた。

「・・・・!!」

ティアはジェネシスをかかえながらぽかんと口を開けて彼らを見ている。

何が起こったかわからなくて、柔らかな芝生に剣を落としそうになっている。

それは精霊たちも同じで、自分達の自由になった部分に触れている。

四人とも、信じられないという表情であり、そしてだんだんと歓喜に襲われていた。

「や・・・・た、外れた・・・!声、ちゃんと出る!」

真っ先に口を開いたのは、長い間声を奪われていたネアキ。

その黄土色の目が、喜びに輝いて、枷のなくなってすっきりした白い首に両手を持っていっている。

「わーい!ティア見て!やっと外れたわー!」

それに次いで、ミエリもこれ以上ないほどうれしそうに笑う。

痛々しいほど縛り付けられていた重いかせは消え、軽やかに舞い上がるミエリ。

「外れた!ついに外れた!これで最大パワーが使えるぜ!」

くるくる踊るようなミエリの横で、腕を振り回して喜ぶレンポ。

もとから元気が良かったのだが、これでますます磨きが掛かることだろう。

ティアはそんな騒ぐようにはしゃぐ彼らとは別に、そっと静かに背を向けているウルに目をやった。

「ウル?」

声をかけると、ウルはぼそりとつぶやいた。

「世界が見えます、きれいで・・・とてもとても、懐かしい」

そして振り返ったウルの目は、透き通る蒼と赤の色だった。

俗にオッドアイと呼ばれる、左右の瞳の色がちがう不思議な目に驚いていると、ウルがもう一度辺りを眺める。

長い間見ることを妨げていた枷がはずれ、美しい世界を記憶に焼き付ける。

「懐かしいですね。あぁ、やっぱりあなた方は何も変わってない、いいことです」

やんちゃ気味にはしゃぐ三人の精霊を見て、保護者のように口元を緩ませたウル。

「・・・あなたのおかげですよ」

何で外れたんだか知らないけど、良かった!というティアにウルが優しく言う。

残りの精霊も集ってきて頷いている。

「ティアのおかげで、私たちは自由になった」

すっかり声が出るようになったネアキが、いつもより明るい表情で言う。

ティアがきょとんとしていると、ミエリが言う。

「この枷は、預言書に選ばれし者が罪を許してくれるほど信頼したときに初めて、外れるようになっていたの」

「罪?」ティアが首をかしげる。

「オレ達は、はるか昔、大きな罪を犯した。枷が外れた瞬間、何もかもよみがえって分かった。誰が枷で精霊を縛ったのか、最初の世界で何が起こったのか・・・」


・・・・・・・・・・・・・・

ウェルト 001


Re: アヴァロンコード ( No.492 )
日時: 2013/01/27 15:20
名前: 天兎 ◆ZwUtbaILG. (ID: CqswN94u)

お久しぶりです、天兎です(^^)

ついに参照10000越えましたね!Σ(‾□‾;)
おめでとうございます(⌒ー⌒)!

後少しで終わってしまいますが、これ書き終えたら何か他のものを書くとか、予定はありますか?

Re: アヴァロンコード ( No.493 )
日時: 2013/01/27 17:00
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

うわあああ!あまとさん久しぶりです!!←
ついに越えましたね、一万・・・・ありがたいことです!

次なる作品は一応ありますよ!
四つほど候補がありまして(多いw

レッドレイヴン ファイナルファンタジー外伝
セブンスドラゴン ストームブリングワールド
これから2つ?抜粋して書く予定です

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ウェルト002

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

始まりの世界は、すべてがそろう楽園のようなところ。

そこには巨人も、人間も、どんな種族もみんないて、何もかも欠ける事は無かった。

空は青く、海も蒼い。草原が風になぎ、すべてが順調に廻っている。

そんな始まりの世界には、四つの神がいた。

世界の四つの元素をつかさどり、世界に君臨していた彼らは、だがこの世界と裏腹にひどく何かに欠けていた。

満たされた世界を見ても何も感じず、ついに、彼らの心に不穏な闇が広がった。

彼らの心に広がったものは“怒り 無慈悲 高慢 冷酷”。

それに身を任せた彼らは、ついにこの美しい世界を滅亡へ導いてしまった。

世界は凍え、焼き払われ、生命力を失い、地も天も引き裂かれた。


そして、世界は滅びを迎えた・・・—




Re: アヴァロンコード ( No.494 )
日時: 2013/01/27 17:13
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

世界が滅ぶとき、四つの神は集って一様にその光景を見た。

空は暗く、赤黒い色に染まって何もかも砕け散っていく。

響き渡る悲鳴や破壊の音にひどく心をかき乱された四つの神は我に帰る。

自分達が一体何をしてしまったか、どれほど取り返しがつかないことをしたのかを、さとるとその四つの悪しき思いを封じ込めた。

「まだ、間に合うかもしれない」

その思いを背負い、世界が滅ぶ前に四人は力を合わせて一冊の分厚い書物を生み出した。

赤い皮の表紙に、命を削って力を吹き込み、それとあわせて金色の大きな鍵を生み出した。

その本は世界を記録する、新しき世界への錠前。
そして金の剣は、世界を開くための鍵。

その間にも次々と世界にあふれていたものが滅び、消滅していく。

種族がまた1つ、生き物がまた1つ、美しい自然がまた1つと消え、世界が暗闇に包まれていく。


四人は不安げな目でそれらを見回し、書物に不安気に目を落とした。

「まだ、間に合うの・・・?」



ウェルト 003

Re: アヴァロンコード ( No.495 )
日時: 2013/01/27 17:36
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

ウェルト 004


壊れていく世界を飛び回り、残っているほんの少しのものを死に物狂いで取り込んでいった彼ら。

取り込む前に目の前で消滅していったものも数多くあった。

そういう時は歯軋りをして、出来るだけ多くのものを救おうとまた飛び回るのだ。

世界に存在するのが彼らと本と鍵だけになってしまうと、世界の滅びは彼らをも侵食し始めた。

「どうにか・・・この本だけでも守らなきゃ!」

彼らは神としての力すべてを書物を守るために与え、そしてその力すべてが本と鍵に宿るのを感じた。

蝕む滅びがとまり、預言書がひとりでに開く。

四つの神としての力を与えられた書物—預言書は四人の前で威厳を持ったように輝いている。

「どうにか間にあった・・・ようです」

その書物に触れて、四人は辺りを見回す。

だが、世界は滅びたままで、その本に書き込まれた世界の情報は引き出されないまま。

何か足りないのか、間違っていたのか、間に合わなかったのかと恐怖に震えていると、やがて一人が口を開く。

「これを動かすのに必要な力がまだ足りていないのでは」と。

だが彼らにはもう力など残っておらず、あるとすればその身体に流れる果てしない命だけ。

その命を分け与える方法は、預言書と命をつなぐ道を作らなくてはいけない。

よって身体の一部を預言書に縛らせて、そこから命を削らせて力を分け与えることにした。


Re: アヴァロンコード ( No.496 )
日時: 2013/01/27 18:07
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

ウェルト 005


預言書と結んだ部分は彼らが罪を忘れないようにとあえて選んだ身体の自由を奪う部分。

二度と世界を滅ぼさぬように、そして自分達で滅ぼしたすべてのそろう正しき世界をもう一度作り上げるために、願いを込めた。

いつの日かこの罪が許される時に枷がはずれ、預言書が消えるときに世界は正しき日を迎えると。

そして不自由な身体で十分すぎるほど力を得た預言書で世界を作り直そうとした精霊たち。

だが与えた力が大きすぎて、預言書に四人が触れた瞬間彼らは衝撃を受けて四方へ飛ぶ。

その衝撃により、彼らの最初の世界の記憶や今までのいきさつが預言書に流れ込み、預言書に彼らの記憶たちが根付く。

逆に、精霊たちの中からその記憶たちが抜けてしまい、何がおづなってしまったか思い出せなくなっていた。

預言書に根付いた彼らの意思に導かれて、記憶を失った四大精霊は二番目の世界を創造した。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ウェルト=世界

Re: アヴァロンコード ( No.497 )
日時: 2013/01/27 18:51
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

「やっと思い出せた・・・罪も記憶も、自分の手で世界を壊した感触も・・・全部」

ネアキが目をしばたいているティアにつぶやく。

始まりの世界で精霊が起こした罪の話を聞いたティアは、何を言えばいい川からないという表情のまま固まっている。

「前から気になっていた事全部わかる。最初の世界で何が起こったか、誰が私たちを縛ったのか・・・全部私たちが自分で引き起こしたことだったの」

そんなティアに申し訳なさそうにミエリがうつむいて言う。

そもそも、精霊が世界を滅ぼさなければ今まで起こった悲しき出来事も起こらなかった。

「人の事いえないよな。街のヤツや、世界を壊そうとしたクレルヴォにえらそうなこと言ってたけど、結局オレ達は世界を滅ぼしていた・・・」

「我々は、許されるべきではないのです・・・」

精霊たちが暗い表情でそう告げると、ティアは呆然とした表情のまま首を振った。

「そんな・・・事ないよ・・・」

その半開きになっていた口でそういうと、精霊たちは泣きそうな顔になって首を振る。

いっそ怒鳴られた方がましだというような表情で叫ぶ。

「なんで?!だって私たちは始まりの世界であなた達人間も滅ぼしたんだよ!巨人だってエルフだって・・・!」

ミエリが泣き叫んで言うと、ティアも泣きそうな顔になって首ふる。

「だって・・・誰かが許さなきゃ・・・前には進めない・・・」

ティアは預言書を抱え込んでつぶやく。

「それに・・・自分のすべてを世界のためにって預言書に与えたんでしょ?壊したのは悪いこと・・・でも治そうと努力しているなら・・・許されるべきだよ」

陽だまりの丘に、一瞬沈黙が訪れる。

あたりに聞こえるのはのどかな鳥の声音と、風が揺らす葉の音だけ。

しばらくして、肩の力を抜いた精霊が口を開く。

「あなたは・・・本当に私たちを許してくださるのですか・・・?」

そのか細い声に、ティアは今度は力強く頷いた。

「私が、許すよ」

「・・・ありがとう。ティアに、出会えてよかったです」

「ティアのいる世界を創ったクレルヴォにも・・・」

ようやく笑った精霊に、ティアも笑う。

「この世界はいつか必ず終わりが来る・・・とはいえ、崩壊のときを早めるものはいなくなり、今しばらくこの世界は持続します」

許された安堵感により、ウルが一息ついて言う。

あぁそうか、とティアは空を眺める。

このきれいな世界も、やがては滅びてしまうのか。

「世界が滅びるのは変わりないけど、でも残りの時間はきっと平和ね!」

ミエリが泣き止んで、うれしそうに笑って言う。その隣のネアキも、うれしそうだ。

「ところでティア!」

ん?と顔を上げたティアに、レンポが言う。

「預言書を使ってこれから創る世界を少しだけ見ることが出来るんだぜ!」

「私が創る世界を・・・?」

ティアがビックリしたように言うと、精霊たちが頷く。

今までとは打って変わって楽しげな風貌である。

「ちょっと気になるよね!さっそく見ようよ!」

ティアが預言書をまじまじと見ていると、ネアキが微笑みながら言う。

「まぁ、その前に世界の問いに答えてもらうけど・・・」


Re: アヴァロンコード ( No.498 )
日時: 2013/01/27 19:36
名前: ゆめ (ID: DWz/vbtf)

どーもです。

精霊たちの罪すごいです(*´∀`)

一万おめでとうございます!

Re: アヴァロンコード ( No.499 )
日時: 2013/01/27 20:16
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

「世界の問い?なにそれ」

ティアが首をかしげると、ネアキが説明する。

すっかり声を出せるのがうれしいようで、その可憐な声を響かせる。

「本当は創世の問いといの。十ある、新しい世界の基礎となる問いかけのことよ」

ふーん?と頷いたティアは、さっそくその問いを聞いてみる。

草原で腰掛けながら聞いているティアに

「まず一つ目。ちゃんと聞いてろよ?」

ティアが頷くのを確認すると、レンポが咳払いしてから告げる。

「汝が望む世界を問う」

「おぉ、本格的・・・」ティアが笑いながら言うが問いは続けられる。

「汝の望む世界にて、いかなる姿を現す?仰ぎ見る天、広がりし空」

ぽかんと沈黙したティアに、他の精霊が促す。

「これ何で答えるの?コード?」「・・・もう言葉でいいですから」

などというやり取りの後、ティアはうーむと考えて空を見る。

雪が降ってるのも楽しいし、暑い日は曇りがいい。雨は降ったほうがいいけどやはり・・・

「晴天!」

「・・・地に住む者を育む街、あたたかく守る住処」

「・・・私の、家?」

家の事なんかわかんないよと眉を寄せるティア。

だがまだまだ問いは続いていく。

「地を満たす者たち、新たなる世の生命」

「・・・戦う人じゃない人がいいかな」

ふーんと頷いたレンポの代わりに、次なる質問を出題するのはミエリのようだった。

「それじゃあ、次の質問行くよー!空間を満たす音色、絶え間ない調べ」

「へ?音楽ってこと・・・?音楽だったら・・・優しそうなのがいいかな」

などとほとんど自分の好みで言っていくティア。

それに茶々を入れず見守る精霊からすると、他の選ばれし者もそんな感じで答えているらしい。

「世界をとらえる目、すべてを映し出す視点」

「鳥!」

今度は考えもせず即答したティア。一度は空を飛んでみたいと願う人は誰でもそう答えるだろう。

「生命に作られし、生命無き物たち」

これには一瞬戸惑ったような表情をするティア。

だがウルに何か言われて、顔を明るくして頷く。

「じゃぁ、雪だるま・・・?」

はぁ?などと後ろでレンポが騒ぐがネアキに相殺されて黙る。

それじゃあ、次は私で、とウルがこほんと咳をする。

「では参りますよ。包み込み、取り巻き、渦巻き、流れるもの」

え?という顔を瞬時にしたティアに、ウルの代わりにミエリが何か言う。

眉を寄せていたティアが、首をかしげながらつぶやく。

「・・・光?」

「時に響き耳を打つ音、生命の音」

うーんと下を向いて悩んでいるティアは、やはりまた

「小鳥とか虫の声かな」

自然と今耳に入るものを選択した。

「すべてのものが生まれ、育み、生きる大地。大いなる大地」

ティアは左手で草原を撫でる。さわさわと音がしてティアは自然と笑みがこぼれる。

「草原」これはもう決まっていたとばかりに言うティア。

「最後の質問は私から・・・」ネアキがティアの前に座って言う。

「不思議、不思議、摩訶不思議。この世の神秘」

目を見開いたティアは、迷ったように空中に目を泳がせて

「魔法?」

そうつぶやいた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ティアの創った世界のコードです。
実際に見てみたい!って人は創世の問いにこのコードをいれれば見れます


創世の問い1 『晴れ』→『森・炎・光』
     2 『ティアの家』→『森・犬』
     4 『優しそうな音楽』→『光・銀・虫』
     5 『鳥』→『鳥・運命・光』
     6 『雪だるま』→『氷・猫』
     7 『光』→『虫・光・自由』
     8 『自然の音』→『虫』
     9 『草原』→『森』 宇宙ってのがあるらしいです『望み』
     
これでティアの世界が見られるはずです。


ゆめさん こんばんわ!!
褒めていただいて・・・ありがとうございます!

Re: アヴァロンコード ( No.500 )
日時: 2013/01/27 21:28
名前: ゆめ (ID: FAqUo8YJ)

ティアの世界見ましたよ(^ω^)
超いい世界じゃないですか!
ティア・・・ずるい・・・。
あと、私の恋人のレンポがいました(*´∀`)♪

Re: アヴァロンコード ( No.501 )
日時: 2013/01/27 23:27
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

おお、さっそく見ていただいたとは!
うれしいですねぇ!
このティアの世界に誰がいるのかは、ご想像にお任せします・・・(私も知らんw


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

創世の問いが終わると、精霊たちが顔を見合わせた。

ティアがきょとんとしていると、ネアキが言う。

「預言書に記憶させたものが、次の世界のすべてとなる。これから見る世界・・・それは、あなたが今までやってきたことの結果」

ティアが二回ほど目をしばたくと、ミエリが横から言ってくる。

「創世の問い+ティアのやってきたこと+預言書の中身、で決まるの!どんな世界かしらねー!」

「さぁ、預言書を掲げてください。次の世界を見てみましょう!」

四人の精霊が期待を込めた目でティアを見る。

ティアはゆっくり立ち上がりながら、預言書を持ち上げる。

不意に預言書がまばゆい光を放ち、カチリッと開錠の音がする。

「わぁ・・・!」

まばゆい光の中でそうッと目を開いたティアは思わず声を上げる。

光に触れた陽だまりの丘が見る見るうちに変化して、彼女の目の前でゆっくりと、未来をかたちどっていった。



  アヴァロンコード ゲーム本編 END


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

いやぁー終わってしまいました!
皆さんのおかげで本編終了&参照10000越えが達成できました!!
心よりありがとうございます!!
でもまだ、十三章と十四章がおまけとして残ってます。

これはどうなったの?あの人は結局どうなったの?
というのは十三章でさらりと解決します。
十三章は人間関係が主なメインで、十四章がこの小説の本当の終わりです。

ここまで見てくださった方、ありがとうございます!

特にお礼を言いたいのが、ここにコメントを下さった
赤さん ゆめさん 故雪さん あまとさん 緑茶さんです!
かなり励まされました!
雨さんも、私の小説を面白いといってくれてありがとうございます!

もっとほかに書くようなこと思いついていた気がしたけど、忘れた・・・




Re: アヴァロンコード ( No.502 )
日時: 2013/01/28 19:41
名前: 緑茶 (ID: JEeSibFs)

こんばんは!! 緑茶です。
ご無沙汰してます。

本編終了&参照1万越えおめでとうございます!!
こんなに楽しい小説がもうすぐ終わるのかぁ…と思うと、すごく寂しいです
( ;∀;)

お礼だなんて とんでもないです!!
めたさんの小説に影響されて 私もここで小説を書き始めたんです!!
(アヴァロンコードではないですが…)
なので、お礼を言いたいのは私の方なんです!!

今まで本当にお疲れ様&ありがとうございました!!
残りも頑張って下さい!

長文失礼しました。

Re: アヴァロンコード ( No.503 )
日時: 2013/01/29 00:06
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

 
 第十三章 安息

‐限られた時は緩やかに流れ
 地にある命は
 最期の輝きを放つ
 いずれ来る世界を照らすように


ティアが精霊たちとのほほんとした時をすごしていたとき、ヒースとレクスによって地上に引き上げられたヴァルド皇子とワーマンはと言うと・・・

「なぁ、生きてるのか・・・?」

伸びているだけのワーマンはともかく、ぐったり完全に力の入っていないヴァルド皇子の身体をつついてレクスがいう。

「わからん・・・普通に考えれば死んでいるな」

硬く目を閉じているヴァルド皇子の顔を覗き込み、ヒースが自身の顎を掴んで首をかしげる。

すっかり平和になったとはいえ、ヴァイゼンとカレイラは今だ戦争中なのは変わりない。

ヴァルド皇子の身体に魔王の魂が入っていた、などという情報はごく一部のものしか知らず、死体の皇子を連れ帰ってもヴァイゼン帝国が荒れるだけである。

しかもすでにヒースは帝国に戻れる身の上ではない。

そこにヴァルド皇子の死が伝われば、カレイラとヴァイゼンの対立はますます磨きが掛かるだろう。

もしかするとティアが遅くさせた崩壊への歯車を加速させるほどの戦争を仕掛けるかもしれない。

「とにかく、皇子は死んでいる。ワーマンによって魂を取り出されて、新しいのが設置されたはずだからな」

「と、とりあえず墓でも掘っておく?丁度ここは墓地だし」

レクスが引きつった笑みを浮かべてそういうと、何かがこちらに走ってくる足音を聞きつけて振り返る。

見れば、墓地の入り口にドロテア王女がいるではないか。

走ってきたようで肩を上下させながら、何かを追っている。

その女王の前に、真っ黒の塊が踊るようにこちらに飛び跳ねてくる。

一瞬魔物かと思って身構えたが、それは単なる黒い猫だった。

「待つのじゃ、グリグリ!急に走り出して・・・墓地に何のようじゃ?」

どうやらドロテアは猫を追っているらしく、猫は丁度ヴァルド皇子の死体の前で止まった。

「・・・・!! ヴァルド皇子?!」

後を追ってきたドロテアがその光景を見て悲痛な声を上げる。

そして駆け寄ると、その死体にそっと触れた。

死体はまだやわらかいが、そのうちに硬くなってしまう。

「のう、ヴァルド皇子は・・・」

恐る恐る聞いたドロテアに、ヒースは首を振ってつぶやく。

「残念だが・・・皇子はもう何年も前に命を落としている。今までの皇子は操られていたに過ぎない」

そんな!と口元を押さえたドロテア、本来の主人であるヴァルドの死体に体を押し付けるグリグリ。

猫的な甘え方なのだろうか?

主人を悼んでいるように見えるその光景は、どこか切ないものがあった。



緑茶さん こんばんわー!

小説かいてるんですね?!ぜひ見にいきたいんで、題名を教えてくれるとありがたいです!
残りもがんばりますよ!

最後になりましたが 参照10100越えました!
ありがとうございます!



Re: アヴァロンコード ( No.504 )
日時: 2013/01/29 17:50
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

ヴァルド皇子が死んでいる、目の前で。

ドロテアはヒースに言われたことの半分も理解できぬまま、呆然とその人に視線を落としている。

黒い鎧に身を包むその人の横顔をひっきりなしに小突いているグリグリ。

真っ黒のきれいな毛並みのその猫が、ついに目覚めない皇子の頬に三つの小さな引っかき傷をつけた。

「こら、駄目じゃグリグリ!!」ドロテアが叫び声を上げて猫を掴もうとするが、猫はその手をするりとかわして急に光を放った。

しっぽと体中の毛を逆立ててその体から白いもやがあふれ出る。

蛍のような弱弱しい光ではなく、雷鳴が光ったときのようなフラッシュの後、うっと誰かがうめいた。

それはドロテアではなく、ヒースでもレクスでも、はたまたグリグリでもない。

「皇子・・・・?」お互いに顔を見合わせあった後、ヒースがゆっくりと横たわる死体に声をかける。

「・・・・・」やはり死体は声を出さず、聞き間違いだったようだ。

なんだ、と期待はずれのような表情をしてその場にいた彼らは肩の力を抜く。

猫は先ほどより死体に興味を持たず、ドロテアの手から逃れようともがいている。

そんな猫を眺めながらレクスが不思議そうにつぶやく。

「それにしても、あの猫は一体・・・?何で光ったんだ?」

「傷口を通って魂を身体に戻すために、だよ」

その場にいた全員がうわあ!と叫んで飛び退る。

呑気そうな猫、グリグリでさえも毛を逆立ててドロテアの足元に逃げ込んでいる。

その顔はみんな蒼白であり、ヴァルド皇子を注意深くみている。

先ほどまで三人に囲まれていた死体、ヴァルド皇子がむくりと起き上がってそう口走ったからだ。

「グリグリまで・・・ひどいな」

その避け様に、ヴァルド皇子が眉を寄せてつぶやく。

「生きてる・・・?」

そんな皇子をはるか遠くより見て、ヒースたちがお互いに確認のように声を掛け合う。

ドロテアは本当はうれしいのだが、引きつった笑みを浮かべてヒースに頷いている。レクスなど硬直気味だ。

「確か、ワーマンの術は成功したのでは?」

「いや、ワーマンは取り出した私の魂を放り出したままにしたんだ。だから、そばにいたグリグリの中に逃げ込み、どうにか一命を取り留めていた。いずればれてしまうと分かっていたから、カレイラの街へ逃げたんだ」

おお!と納得したようにドロテアが叫ぶ。

「じゃから、いつもヴァルド様のそばを離れないグリグリが一人、カレイラにさまよっていたのじゃな!」

身体を奪われて猫に入り込んだヴァルドを拾ったのは、ドロテアだった。

ドロテアに引き取られて、魂だけは守り抜いたヴァルド。ここにきて、クレルヴォの魂が自身の身体を捨てたことを知り、気配をたどってここまで来たと言うわけだ。

そして本来あるべき姿に戻ったヴァルド。

猫の身体に入り込んだ記憶もそのまま、魔王にのっとられた体が一体何をしたのかを知っていた。

「あれは私のせいではなかったにしろ・・・その事実を知るものは少ない。ここにいては、まずい」

ヴァルドはすばやく立ち上がると、その赤い目でヒースを見上げた。

「私はもう帝国に戻れぬ身であります・・・だが、旅のお供ならば」

理想の世界を創ると約束した皇子に戻ったので、ヒースが従わないわけがなかった。

うん、ありがとう、と頷いたヴァルドはドロテアを見る。

ドロテアが何か言う前に、ヴァルドは自分の足元に擦り寄っていたグリグリを抱き上げるとドロテアに渡した。

「君には世話になったね。きっと、グリグリもそちらの暮らしの方がいいと思うんだ。ここには猫じゃらしもあるし・・・」

うん、と頷いたドロテアにちょっと微笑みかけるとヒースとヴァルド皇子はすばやくカレイラを後にした。

「行っちまった・・・コイツをおいて」

猫を抱くドロテアの足元で伸びるワーマンを指差しながら、レクスがつぶやいた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照 10200 越えました!!
ヴァルド皇子生き返りましたね

















Re: アヴァロンコード ( No.505 )
日時: 2013/01/29 18:33
名前: 緑茶 (ID: XYPQad4D)

めたさん こんばんは〜!

参照10200 おめでとうございます!!

私の小説を読んで下さるのですか!?
私は 二次造作(映像)板で「牧場物語 ふたごの村」 と言う小説を書いています。
駄文の塊ですし、亀更新ですし…読んでも何も良い所がありませんよ?

本当に めたさんの文才が羨ましいです…( ;∀;)

Re: アヴァロンコード ( No.506 )
日時: 2013/01/29 21:19
名前: ゆめ (ID: pbINZGZ2)

こんばんは!

お礼だなんてとんでもないです・・・O(><;)

最後まで頑張ってください!

この小説が終わっても、見に来ますから!

Re: アヴァロンコード ( No.507 )
日時: 2013/01/30 00:33
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

おー!双子の村、姉がはまってますよそれ!知ってます!!
嫁はリコリス、旦那はカミルだった気がしますねw

ほんとに励まされたので、せめてお礼だけでもと・・・!
最後までがんばります!!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

しばらくヴァルド皇子とヒースが消えていった方向を見ていると、すばやい動作で騎士が駆けつけてきた。

カレイラの白銀の鎧に身を包んだ、ドロテアを守護する姫騎士団のものだった。

「ドロテア様!ここにいらっしゃいましたか!」

守るべき姫君が颯爽とどこかへ駆けて行ったので、騎士は慌てて追いかけてきたらしい。

しかも姫騎士団とは名ばかりで、十五人いた騎士も戦争だと逃げ去り、唯一残ったのは懸命な若者騎士その人だけであった。

明らかにひ弱そうなその騎士はもともと城の看守係をしており、相次いで起こったポルターガイストの被害を受けて配置換えの結果、姫騎士団の見習いに配置されたのだ。

今も戦争がぶり返すのではないかと怯えた調子でハルバート(斧槍)を握る元看守は、不器用な動作でドロテアに歩みよった。

ドロテアはと言うと、グリグリを抱いたままほうけた様に突っ立っている。

そのそばにレクスがいるので、元看守はいぶかしがるようにそちらに目を向けた。

そして、その足元に転がる人物を見てヒッと声を上げる。

「なんだこれは!殺人か!」

鶯(うぐいす)色の髪の奇妙な男がぶっ倒れているのである。意識は無いようで、誰が見てもびっくりするだろう。

「あぁ、コイツ・・・今回の戦争を起こした張本人」

え?とかすれた声で聞き返す元看守。良く見ればレクスと同年代風の青年である。

「ワーマンっていうんだ。聞いたことあるだろ?」

「さぁ・・・」

レクスが使えないな、などと意地悪くつぶやくと肩をすくめる。

ドロテアも厳しい目で元看守を見る。

もともと監視されるのが好きではないドロテアにとって、姫騎士団なるものが解散したのはうれしいことだった。

だが、唯一職務を放り投げないで残った元看守のおかげで、ずっとボディーガードのように付きまとわれるのだ。

少しうんざり気味であったのだ。

「とにかく、ヴァルド皇子が悪いのではないのじゃ!その男が今回すべての原因を引き起こした元凶。牢獄深くへ放り込んでおけ!」

ドロテアは少し怒った口調でそう言い放った。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

本編終了で書こうと思っていたこと思い出しました!
アヴァロンコードの主人公の名前の由来です!

男ユミル 女ティア っていうのは世界の創世記に記される巨人と女神の名前なんですよ。

知っている人が多いのはユミル。
巨人ユミルが月と太陽を設置し、最後に自身を犠牲にして世界を創った。
その巨人から、ユミルと名づけたと思います。

一方知られてないのがティア。
母なる女神ティアマトーという海に住んでそうな女神が、自身の身体をバラバラにして作ったのが今の世界。
ティアマトーは長いんでティアにしたんだと思いますね。

他にもデュランはドイツ語で暴君だったり。本人は暴君じゃないけど・・・
古代バビロニアにはウルという都市があったとか。

いろんなところから名前を取ってきてるみたいですね。

Re: アヴァロンコード ( No.508 )
日時: 2013/01/30 16:54
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

その事件が起きて数日後、ティアはファナの元へ出かけていた。

前々からこの日においでとヘレンに呼ばれていたのだ。

家の戸を開けると、ヘレンの姿はなく、なにやら二階から声が聞こえる。

「ヘレンさーん?ファナー?」

一階から叫ぶと、上がっておいでとヘレンの優しい声がする。

お邪魔しますとつぶやいて、二階へあがると、ファナとヘレンがいた。

ファナはいつものようにベットに、ヘレンはそんな孫に布団をかけてやっている。

「おはよう、ティア」ヘレンがその姿を認めて声をかけると、ファナが口を尖らせて言った。

「ティア!おばあちゃんったらひどいのよ!私の病気はもうじき良くなるのに、お母さんのお墓参りに行っちゃ駄目っていうの。私も行きたいわ」

すがるように言うファナに、ティアがあぁ、と気づいたように頷く。

そういえば、ファナの病はもう治らないのだ。

名医にもさじを投げられ、オオリエメド・オーフにも助からないと言われた。ヘレンはかたくなにファナにそれを伝えず、治ると嘯(うそぶ)いた。

ティアはその事実を知っており、ファナが咳き込むたびに胸が苦しくなった。

「文句を言うのはおやめ。今日は体調がよくないだろう。レーナの墓参りはわしとティアとで行く。だからゆっくりとお休み」

今日はどうやらファナの母、レーナの命日らしい。

それから十分もせずにファナが大人しく引き下がり、ティアはヘレンにつれられて墓地にやってきた。

そこは数日ほど前、ヴァルド皇子がよみがえった場所であり、レクスにどうなってるんだとなんどもたずねられた。

だが現場にいず、精霊とほのぼのとした時間をすごしていたティアは答えることが出来ないでいた。

緑の豊かな芝生を踏み、ゆっくりと二人は歩みを止める。

目の前には先が丸く削られた石版状の墓石が立っている。そこには花束が沢山添えられており、レーナとかかれていた。

「ファナのお母さん・・・」

そっと持っていた花束を置いたティア。そして両手を合わせて弔う。

「・・・」しばらく黙祷していた二人は、互いに顔を見合わせた。

「・・・あんたには、事実を話しておこうかね」

ふいに、へレンが口を開いてそんなことを口走った。へ?と首を傾げたティアに、ヘレンは過去を語りだした。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照 10300 越えました!ありがとうございます!!



Re: アヴァロンコード ( No.509 )
日時: 2013/01/30 18:03
名前: 天兎 ◆ZwUtbaILG. (ID: 7KCfFUM.)

こんにちは(^^)

ティアマト…自分がやってるPCのゲームにこの名前のMPCが出てきます!Σ(‾□‾)
そこでもやっぱり神的存在です(笑)

Re: アヴァロンコード ( No.510 )
日時: 2013/01/31 14:24
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

神話系で引っ張り凧なのはオーディンとかゼウスですよね!
ティアマトーのNPCって珍しい・・・
どんな姿なんでしょうね?人魚的な?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ファナの父親のことは知っているね?」

へレンがレーナの墓の前でティアに聞く。顔はこちらに向けず、ずっと義娘の墓に目を落としている。

「バイロンさんですよね、知ってます」

ティアがそう返事すると、ヘレンはまた同じ口調で続けた。

「そう、わしの息子でありファナの父親のバイロン。今どこにいると思う?」

「え?」

ティアはヘレンが何を言おうとしているのかわからず、眉を寄せて困った顔をした。

(ファナのお父さんがどこにいるか・・・そんなこと知らない・・・)

「確か、どこかへ旅に出たんだって聞きましたけど、どこに行ったのかは知りません」

ファナの話ではそうであった。バイロンはレーナとファナを置いて、どこかへ旅行に出たんだと。

旅行と言うよりは、出て行ったといったほうが正しい。

妻子を残してどこか、彼らの知らない地で新たな人生を切り開いているのかもしれない。

と、ふいにへレンがこちらを振り向いた。何か異様な雰囲気に、ティアは後ずさりそうになった。

「わしは、知っているよ」

時間が止まるような感覚に、ティアは驚いた。

今耳に入り込み、鼓膜を震わせて伝わったこの言葉が、信じられない。

「バイロンがどこにいるか、わしは知っているよ」

驚愕の表情のティアに、へレンがもう一度つぶやいた。

「どこに?!何で帰ってこないんですか?ファナは会いたがってます・・・どうしてファナに居場所を教えないんですか?」

ティアは声が出せるようになると、一気にヘレンに詰め寄って言った。

「・・・バイロンは帰ってきているのさ、すでに」

「どこに?」

眉を寄せたティアに、ヘレンは首を振って続けた。

「だがファナに会わせるわけには行かないんだよ」

「どうしてですか?」

ヘレンは墓地を見渡してつぶやいた。

風が、奇妙なふき方をして、二人の髪を揺らした。

ようやく、ヘレンが行動に出た。

どこか遠い目で、ティアの方を向く。だが、ティアを見ているのではなく、ティアの近くにあるものを見つめている。

ティアはそれを目で追って、ハッと身体をこわばらせた。

「分かったかい、それが事実さね」

ティアを見て、エレンは寂しげな笑みを浮かべる。

「バイロンは、レーナのそばに寄り添って、ここにもう何年も前からいるんだよ」



参照 10400 行きました!!
ありがとうございます!!

Re: アヴァロンコード ( No.511 )
日時: 2013/01/31 14:58
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

「ファナの病はね」へレンがレーナのすぐ隣の墓を見てつぶやく。

「不治の病さね。それは幼い頃からで、レーナもバイロンも困り果てていた。若いのに、治る見込みの無い病・・・」

バイロンの墓に花を置いて、へレンが心底つらそうな声を出して言う。

ティアは何もいえないまま、そこに突っ立っているしか出来ない。

だがヘレンの声はティアの頭にどんどん入って、幼いファナを悲しげに見つめる両親を想像させた。

「どの医者もさじを投げた。そこで、わしはとんでもないことを言ってしまった。家族をばらばらにさせたのは、このわしのせいなのだ」


それはファナがまだ幼い頃のこと。

両親共に生きていて、家族全員がまだいた頃。

どの医者も成人を迎えることも出来ないと、ファナにそう下した。

レーナもバイロンも悲しみ、もちろんヘレンもひどく悲しんだ。

治す薬も、緩和させる薬も無く、途方にくれていたときだった。

ヘレンはある事を聞く。

“東部に広がる深い森には、癒しを授ける薬花が咲いていると”

治せない病はない、森の宝と歌われるその花の話を、すぐさまレーナとバイロンに持ちかけた。

娘が助かるならば!と立ち上がるバイロン。だがレーナは反対していた。

それが存在する確証も無く、東に在る深い森は迷いの森とも呼ばれ、かえってこれなくなると反対したのだ。

だが、ヘレンは何が何でも行かせる気でいたし、バイロンも娘のためになんでもするつもりだった。

そしてついに、レーナの制止を振り切り、バイロンは森へ旅立った。

それから幾日か経ち、扉の前にバイロンが帰ってきた。

だが、生きてはいなかった。そして薬花も持っていなかった。


「誰かは分からない。親切な人が、届けてくれたのか・・・家目前で力尽きたかわからないが、とにかくバイロンは薬花のために命を落とした」

「そんな・・・」

ティアがかろうじて漏らしたこの言葉に頷いたヘレン。

そしてため息を漏らして続ける。

「この話にはまだ続きがあってね・・・—」


バイロンの変わり果てた姿を見たレーナは、一人でもがんばって養おうとした。

ファナに少しでもと薬を与え、父親の死を一切伝えなかった。

そんな暮らしを続けてある日、毎日毎日朝から深夜まで働きづめのレーナはとうとう疲労によって弱っていった。

そしてついに、ヘレンに娘を託して息を引き取った。


「わしが、薬草の話を持ちかけなかったらこんなことにはなっていなかったはず。バイロンもレーナも死なずにすんだ・・・」

ヘレンがため息と共にそういった瞬間悲痛な叫びが二人に届く。

「ウソよ・・・そんなこと・・・私のでせいで・・・!!」

紛れもないファナの声だった。


Re: アヴァロンコード ( No.512 )
日時: 2013/01/31 16:24
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

泣き崩れるファナの姿を見て、ヘレンは蒼白になる。

そしてティアがビックリするほどの大声で叫んだ。

「ファナ!家で寝てろって言っておいたのに!」

するととめどない涙を流しながら、ファナが言い訳のように言い返す。

その声は完全に震えており、すべて聞いてしまったようだ。

「だって・・・私も行きたくて・・・こっそり後をつけてきたの。あぁ、でもそんな!お父さんも死んでいたなんて!」

「あぁ、なんてこと・・・なぜこのタイミングで・・・」

ヘレンは天に向かってつぶやき、ファナに駆け寄った。

ファナは泣きじゃくりながら激しく肩を揺らして咳をしている。

「両親が死んだのは私のせいよ!」

その咳の合間にそう叫び、わんわん泣いた。


ヘレンと共にファナを家まで連れ帰ると、ヘレンはすぐにファナをベットに寝かせた。

だがまだ激しくしゃくりあげているファナは、興奮が冷め切らないらしい。当たり前だが・・・。

両親の死の理由が自分の病であり、自分のせいで家族が失われたのだ。

どんなに時間がたっても、泣き止むことはなかった。


一家に降り、へレンが申し訳なさそうに口を開く。

ティアを椅子に座らせ、ココアを差し出しながらため息をついた。

「すまないねティア。こんな事になって・・・ワシの一言で家族がばらばらになり、そして今日も孫が苦しんでいる。—すべてはわしのせいだ」

ティアはココアを机に戻して、目を伏せた。

「ファナは・・・やっぱり死んじゃうんですか?」

「あぁ・・・そうだよ・・・つける薬もない」

そしてもう一度深くため息をついた。

「せめてもの罪滅ぼしにと、ワシはあの子のそばにいる。死んでもずっと、あの悲しき家族に花を手向け、せめてあの世では幸せにと祈ろう」

数分後、家を出たティアは預言書を手に精霊と話していた。

親友の死を黙ってみているだけなど、出来ない。

「森の宝、薬花を探しに行こう・・・!」


Re: アヴァロンコード ( No.513 )
日時: 2013/02/01 13:42
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

「東に広がる深い森・・・それはグラナトゥム森林ですかね?」

ウルが腕を組んで言う。いつもなら表情がうかがい知れないが、今は赤と蒼の目で表情が分かる。

「なら、早く行こうぜ!」

『だけど、森のどこにあるの・・・?分からないまま行ってもムダ』

さっさと出発したがるレンポに、ネアキがため息をつきながら言う。

そうねーとミエリもネアキに賛成する。

「ヘレンさんはどこで森の宝について知ったのかな?それが分かればいいんだけど・・・」

すると、ウルが何かに気づいたようにつぶやく。

「先ほどから引っかかっていたのですが、誰がバイロンさんをここまで届けたのでしょう?確か彼は、森にいたはずですが、協力者でもいたのでしょうか?」

ティアは眉を寄せて首をかしげる。

どれも心当たりがなく、困っているのだ。

(ヘレンさんに直接聞くしかないかな)

「さりげなく、ヘレンさんに聞いてみようか!」

ティアはもう一度ドアを開けてヘレンに会いに向かった。


「なんだって、森の宝について?」

「それは・・・」

再び椅子に座らせられたティアは、正直に打ち明けた。

目をつぶり、もう一度開いてヘレンの優しげな目を見つめる。

「私、森の宝を探しに行こうと思います!」

ガシャアン とけたたましい音と共に床に食器が散らばった。

ヘレンは持っていた食器を床に落としてしまったが、それを片付けようともしなかった。

ただ唖然とした顔でティアのことを見ている。

24分おくれている時計の音が妙にカチカチと耳を打った。

沈黙の後、ヘレンが割れた食器の欠片を踏みしめてゆっくりと近寄ってきた。

砕けた陶器がスリッパにつぶされてさらに細かく砕けていく。

「やめておくれ、ティア・・・」

「でも、ファナが—」ティアが言い返せば、ヘレンは震える声で言う。

「ティアまで失ったら、あの子は、あの子にはなんと言ったらいい?両親を失い、親友を失ったら、あの子は死んでしまうかもしれない・・・」

ティアはたじろぎはせず、思いを曲げずに言った。

「私は無事に戻ってきます。そして、きっと薬花を採って来てファナの病気を治して見せます!だから教えてください!」

椅子から立ち上がって言うが、ヘレンはきっぱりと断る。

「駄目だよ!教えない・・・あんたまで失うわけには行かない!」

その口論は結局ムダに終わり、ティアは何の収穫もなしに家を後にすることになった。


Re: アヴァロンコード ( No.514 )
日時: 2013/02/01 17:18
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

「困ったなぁ、手がかりはグラナトゥム森林だけだもんね。場所も、何も分からない」

ティアは自分の家に帰りながらつぶやく。

その周りに精霊たちが連れ添って、どうしたものかと考えている。

このまま引き下がっては、確実にファナと言う小娘はこの世からいなくなり、墓地に1つ墓が増える。

ティアは嘆き悲しむだろう。

だがまだ救えるのではないかと言う手だてが存在するならば、骨折り損でもやる価値は在る。

「悩んでもしょうがないね、とりあえず薬花について知っている人がいないか、聞き込みをしよう」

家の目前でそう決心したティアは、くるりと身を反転させて再び街へと駆けていく。

まだ日は沈まない時刻。

ティアは沢山の人に話しかけた。

小説家で病弱なカムイ、お師匠様のグスタフ、物知りのシルフィなどに話を聞くと、どうやらシルフィは何か知っている様だった。

「森の宝?あぁ、あの花のこと・・・」

シルフィの家、ホワイトハウスのようなこの広い庭にて、この会話はなされた。

「何か知ってるの?」急いで聞けば、シルフィは頷いた。

「森に在る奇跡の花の伝説なら、けっこう昔に文献を呼よんだわ。それでよければ教えるけど、タダってわけには行かないわね!これが終わったら協力してもらいたいことがあるの!」

ティアは困り顔で頷く。何を要求されるか分からないが、これもファナのため。

頷いたティアを満足げに見てから、シルフィは着いてくるように合図した。

シルフィとティアが移動した場所はゲオルグのホワイトハウスの中。

一階に在る広い間取りのリビングで、家の西側に置かれている本棚コーナーの一角だった。

そこに寄りかかりながら、シルフィは目当ての本を取り出してページをめくる。その様子を見ながら、ティアは精霊たちと顔を見合わせた。

「あった、これよ」

ようやく目当てのページを見つけたようにシルフィが本を開いた状態で差し出す。

それを受け取って、ティアは目をしばたいた。

少し茶けた古い本のページに書いてある言葉が読めないのだ。古い言語の様で、版画しかわからない。

一角を切り取ったように桜の花のような凛とした花の版画が書かれている。それはどこかで見たような気がした。

「あ、これ・・・ファナのアルバムに写ってた造花ににてる!」

一気に記憶がよみがえって、在る光景が脳裏に掠める。

以前まだ世界がクレルヴォの脅威にさらされていたとき、ファナがアルバムを見せてくれたことがあった。

そこに写る数々の写真の内、桜色のきれいな花の造花写真があったのだ。

この世に存在しない花なの、とファナは教えてくれた。

それが、目の前の本と同じ姿で姿を現している。

「そう・・・あなたの言うとおり、造花でしか存在しない花よ。つまり、存在しないの」

シルフィが腕を組みながら言う。ティアはえっと声を上げて顔を上げた。

「そんな、だってこの花がないとファナは・・・」

必死に言うが、シルフィは首を振るばかり。

「“伝説上存在した、美しい桜色の花。高い生命力の在るところにしか咲かず、どんな万病をも癒す。”そうかいてあるのだけど、伝説は伝説よ」

ティアはうなだれたように本をシルフィに返した。

シルフィは本を受け取ると、もとあった棚にストンと戻した。

「諦めることね、探したって存在なんてしないわ。それじゃ、私の問題を解決してもらおうかしら」

沈み込むティアに、シルフィはそういった。





Re: アヴァロンコード ( No.515 )
日時: 2013/02/02 13:45
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

参照 10500 行きました!!ありがとうございます!!
この小説自体、2月中には終わってしまうのかな?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「え?ゲオルグさんにプレゼント?」

「しーっ!声が大きいわね!」

ティアが驚いたような声を上げると、慌ててシルフィが怒鳴りつける。

幸いにもゲオルグは庭できれいに咲き並ぶバラたちに水をやっているところだった。

窓のそとのゲオルグは相変わらず如雨露を手にしてこちらを見ようともしない。シルフィはホット胸をなでおろした。

「そうよ、何か文句ある?」へぇーシルフィが・・・などとつぶやいているティアに、シルフィは絶対零度の視線を浴びせる。

「いや、滅相もないけど・・・何をあげるの?」

その視線に引きつつも、ティアは首をかしげて問う。

その言葉を聴いてシルフィがポケットからしわくちゃの紙を取り出してティアに差し出す。

「エルフの涙!」

かさついた紙にはエルフの言葉で書かれている文字が躍っている。

ティアにはちんぷんかんぷんで、シルフィにその紙切れを返した。

「これはエルフの間に伝わる秘薬なの」

秘薬、と聞いてティアはハッと顔をこわばらせる。

そして勢い込んで叫ぶように聞いた。

「それってどんな病気も治す?!」

「疲労回復に・・・まぁそうね・・・そうだと思うけど」シルフィがティアを押しのけながら言う。

「ファナの病気にも効くかな?!」

だがシルフィはきっぱりと言った。

「無理ね。これを人間が飲んだら、ショック死しちゃうわ」

「そっか・・・」ティアがまたもや沈み込むと、シルフィは肩をすくめてもう一度ティアに紙を押し付けた。

それを受け取り見てみると、今度はティアでも読める字で書いてあった。

「材料をかいておいたから、作ってきてほしいの。用はそれだけだから、ほら、さっさと作る!」

そして追い出されるように家から出ると、困ったように眉を寄せるティア。

「どうしよう・・・」いろいろな意味が含まれたこのため息に、精霊たちも黙り込む。

「1つ・・・薬花について提案があります」

そんな彼らを励ますように、ウルが声を上げた。

皆そろってウルを見上げ、首をかしげている。

「森から離れたところで審議を問うでも意味がない。ですから、森にすむものに聞いてみたらどうでしょう?」

「あぁ、あのルドルドとか言うむさいおっさんか!」

そうです、とウルが頷き彼らはルドルドを尋ねるために—エルフの涙の材料採取もかねて—太陽の棚を目指した。




Re: アヴァロンコード ( No.516 )
日時: 2013/02/03 16:58
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

今日は節分ですね!撒くというよりは食べる方が好きです・・・

参照 10600 越えました!ありがとうございます!!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「いつも思うけど、ティアってば元気よねー」

グラナ平原を抜けてグラナトゥム森林の入り口に立ったティアに、ミエリが感想をつぶやく。

「そうかな?」ティアはあまり自覚がないようだが、世界の歯車を遅くさせるという偉業を実際成し遂げて見せたのだ。

しかもほぼ二日そこらで世界に散らされていた精霊を救い出し、世界を駆け回った。

そして今日もあちらこちらへ疲れを知らないように歩いていくティア。

普通の人間ならそこまで精神が持たないはずだ。

「なんていうか、能天気だからじゃないか?」

感心を通り越してあきれ気味のレンポがいうと、よこから凍てつくような視線を感じて黙り込む。

『ティアはがんばってる・・・それだけ』

「まぁ、それもあるでしょうけど。ですがもうすぐ日が沈む頃ですよ。せっかく太陽の棚に行くならば、夕日に間に合うように急がないと」

ウルがせかすように言えば、頭上の精霊のやり取りを見上げていたティアは慌てた様子で駆け出す。

茶色の靴で草を踏みしめて急いで森の中を走っていく。

以前デュランに案内された道を正確に進みながら、ティアはすぐに洞窟の前にたどりついた。

空はさえぎるように沸き立つ木々に邪魔されてうっすらと赤く染まっている。
美しい夕焼けの時はもうすぐだ。

それを確認すると、ティアは転がり込むように洞窟に入り込んだ。




Re: アヴァロンコード ( No.517 )
日時: 2013/02/05 15:32
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

おぉ、書き込めました!

まず、参照10700越えましたよ!
いつもいつもありがたいです!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

洞窟から抜け出すのに掛かった時間はせいぜい10分程度。

一時間で15℃ずつ回っていく地球。三十分で7・5度。十五分で3.75。後省略。

なのでさほど空は赤みを指したままで変わったところはない。

ただ暖かい日がなくなって少し肌寒い風が巻き起こっている。

太陽の棚に立って、がけっぷちへ走る。

そこから見上げた夕日は世界を赤に染め上げて、やはり美しかった。

緑の森も、青い川も、ティアまでも赤いフィルター越しに見ているように色づいている。

「何度見てもきれいだなぁ」
「まるで燃えてるみたいね!」
『一瞬だけだからきれいに見えるの・・・』
「あの壁が赤く染まる現象はモルゲンロートと言うんですよ」

精霊たちが口々に感想を言っている中、ティアは赤い景色の中、ルドルドが歩いてくるのを見つけた。

手には愛用のハンマーを持ち、のそのそと景色を見ながらこちらに向かってきている。

「ルドルドさん!」

ティアの声に、美しい景色を見ていた精霊たちがそちらを振り返る。

「ぬ・・・良き人間か」

ティアが頷いて、さっそく質問する。

「薬花って知ってますか?森の宝で、どんな病気も治してしまうすごい花なんですけど」

ティアが問うと、ルドルドはビックリしたように後ずさった。

その引きつった顔は赤い景色の中だとホラー映画のカットのように見えて少し恐ろしい。

「なぜ、奇跡の花のことを?花のことは教えられない。ルドルドそう決めた・・・」

「知ってるんですね・・・教えてください!それが無いとファナが死んでしまうんです・・・」

必死に言うと、ファナというワードに反応して首を振っていたルドルドが動きを止めた。

そしてハッと思い出したようにつぶやいた。

「ファナ・・・昔、人間の男が訪ねてきた。その男もその名前を言っていた」

「!!」ルドルドのその言葉に反応して精霊たちもティアも目を見開く。

それはきっとファナの父親、バイロンその人だろう。


Re: アヴァロンコード ( No.518 )
日時: 2013/02/06 18:20
名前: めた (ID: g7gck1Ss)

参照 10800行きましたよ!!ありがとうございます!
高校受験到来ですね。中学受験はもう終わったのかな?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「それ、詳しく聞かせてもらえますか!」

ティアが頼み込むと、ルドルドはゆっくり頷いて記憶を探るような表情で語りだした。

「何年か前、ある男が尋ねてきた。娘を助けたいから奇跡の花をわけてくれと。だが奇跡の花は森の大切な宝。人に簡単に渡せない。だからルドルド断った」

だがその男は諦めず、必死にルドルドに頼み続けたという。

リュックを背負い、探検慣れていないのだろう、あちこちに怪我をした姿に加え、娘のためならなんでもする覚悟だと絞るような声で告げる。

「その男の目はとても澄んでいた。本気の目だった。だからルドルド、その場所を教えた」

男は何度もお礼をいい、すぐさまそこへ向かったという。

だが心配になったルドルドは後を追っていくことにした。

しかしどうしたことか、いつの間にか見失い、直接奇跡の花のところへ行くと—

「その男は何者かに襲われてすでに死んでいた」

花の前で倒れており、体中は引き裂かれて明らかに獣の仕業だった。

それも、かなり巨大で獰猛な獣。

ルドルドはその男を哀れに思い、街に送り返した。

丁度、リュクサックに住所の書かれた手紙があったからだ。

「ルドルド、調べた。一体男がどんなやつにやられたのかを。それはキマイラだった。あそこは危険。だからルドルド、誰にも場所を教えないことにした」

誰がバイロンを家に送り届けたのかを理解したティア。

だが悲しむ前に、その花が実在するということにやはり期待していた。

その目の輝きように、ルドルドはいう。

「以前、お前がキマイラを倒したところ・・・あそこが花のありか。お前の事は信じている、あの男の悲願、叶えてやれ」

奇跡の花のあるところ。

すなわちそこは、西の巨木である。

ルドルドにお礼を言って、ティアはそこを目指して走った。


Re: アヴァロンコード ( No.519 )
日時: 2013/02/08 14:16
名前: めた (ID: WO7ofcO1)

参照いつの間にか 11000いっててビックリした!ありがとうございます!!
11111目撃したいですね!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

巨大な木々の枝を走りぬけ、崖に飛び移り、やっとたどりついた西の巨木。

深い緑に覆われて、そびえる姿は始めてここを訪れたときと変わりない。

「キマイラがいるらしいから、手早く花を採取しましょ!」

ミエリの言葉に頷いて巨木の周りを探し出す。

枷がはずれて物に触れられるようになった精霊たちもばらばらに散らばって草を掻き分けたりして探す。

だが一向に見つからず、二時間ほど経過してしまった。

「ないなぁ?ホントにここであってんのか?」

細かい作業が大嫌いなレンポが肩こったというように地面に座り込んでぼやく。

諦めずに首をめぐらせていたウルがこまったっようにつぶやく。

「無いなんてそんなはずは・・・森の番人が提示した場所ですから間違うはずは・・・」

「もうちょっと明確な場所を教えてもらえばよかったわねー」

ミエリも困ったようにつぶやく。

だがここにあるのだと信じていたティアは散策を続けていく。

それからしばらくして、屈んでばかりいた為身体を伸ばすように立ち上がったティアの目に、うろが見える。

西の巨木の根元に大きく口を開けた洞窟のようなウロは、夜が迫る中かなり不気味に見える。

「—駄目でもともと・・・この中にあるかもしれないし」

そう自分に言い聞かせると、一人でウロの闇の中にはいった。

一応キマイラがいるとの事で剣を構えて踏み込んだティア。

闇とまだかすかに日の残る外との境界線を踏んだ瞬間だった、ハッとして思わず目を見張る。

沈む太陽の残光を精一杯とりこんでウロの中を一条の光が照らしている。

コケ色の舞台の上にスポットライトが照るような光景に息を呑んでいると、照らされているものに気づく。

小さなさくら色の群れが、光に照らされてそっと咲き乱れている。

その花達の姿かたちはシルフィに見せられた書物の版画と酷似しており、色形はファナのアルバムそのものだった。

「みつけた・・・奇跡の花を見つけた!!」

喜びに思わず叫ぶと、それに駆け寄った。

見間違えのない光景に有頂天になりながらティアはその花に手を伸ばして撫でる。

桜色のそれは、摘んでしまうのは勿体無いくらい美しい花だった。

けれども決心してその内のひときわ大きな花の茎に手をかけると、力を込めた。

ぷきっと水分の多い茎が折れる音よりも先に、ふっとスポットライトのような光が一瞬途絶えた。

なにかが、降って来るように一条の光をさえぎったのだ。

尋常じゃない飢えた殺気にティアは茎から手を放し、剣の柄を握り締めて飛びのいた。

次の瞬間、どしゃっという音と共に丁度花の群れの真上に着地したキマイラが光に照らされて獰猛な唸りを発する。

ライオンの体躯はとても大きく、小さな花畑を壊滅状態にさせるには十分だった。

しおれた花たちがその足元から無残な姿をのぞかせる。

その光景を目にして、くっと慟哭したティアは両手に剣を構えて相手をにらむ。

飛び掛られる前にと、相手に切りかかった。

Re: アヴァロンコード ( No.520 )
日時: 2013/02/11 01:09
名前: めた (ID: WO7ofcO1)

あああー11111見逃した!!
やってしまった

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「・・・なぁ、なんか」

「えぇ、まさか・・・」

比較的巨木のあたりを探していたレンポとウルが頷きあってうろをじっと見ている。

ミエリやネアキは声の届かない範囲にいっており、姿は確認できないが存在は感じられている。

だが今彼らにとってそなことはどうでも良く・・・気になることはなにやら不審な音源を反響させているうろにあった。

少し間延びした低い音は、どことなく獣のうなり声に似ていた。

もう一度顔を見合わせてうろを覗き込むと、外と同じくらい暗い中で、光の線が二本ひらめいている。

普通ならそれがなんなのか分からないが、精霊である彼らにはその二つの光が光のコードを組み込ませた双剣であることが瞬時に分かった。

剣で何かと戦っている。きっとキマイラだ、と分かると二人は主人を助けるために自分達の力を解放した。


双剣の灯りを頼りにキマイラと戦っていたティアは、急に迫ってくる炎と雷にビックリしたように目を見開いて慌てて飛びのいた。

だがそれはあまりに巨大で一瞬でうろの中を埋め尽くしたため、どこに避けたとしても被害をうけた。

だが不思議なことに目の前どころか自分自身がそれらに焼き尽くされることも、感電死することもなく、まるで空気のようにティアに干渉せずにあたりを攻撃していく。

キマイラのけたたましい声も聞こえないくらいの雷と炎は消えて、やがて目の前が落ち着いた夜の色を取り戻す。

唖然としていたティアに、精霊の声が聞こえてくる。

「え、詠唱なしでこれか・・・」「ずっと力を抑えられていたので加減が少し・・・」

うろの入り口で自分の力にビックリしている精霊に、同じくビックリしたティアは思い出したように花のほうを見た。

まさか焼けつくされているのではと思っていたが、無事だった。

「あ・・・よかった」

少しすすがついて、キマイラの踏みつけ攻撃でよれよれになっているが花はめげずにいた。

それを1つ手にとって摘むと、ポケットに入れた。

コードスキャンしたものを渡すよりも、摘んだものを渡したかった。

「とりあえず、手に入れたよ!!早く帰ろう!」



Re: アヴァロンコード ( No.521 )
日時: 2013/02/13 20:44
名前: めた (ID: WO7ofcO1)

そっと両手でかかえるように持った花は月の明かりを受けてひどく美しく見えた。

ウロ外に出ればすぐにミエリとネアキも合流し、花が手に入って一安心とほっとしたものだ。

「でもこれをどうすればいいのかな?食べるとか?」

「煎じるのでしょう。すり潰して、湯にさらす。そして抽出した煎御茶として呑めばいいのだと思いますけど」

そなことを話しながら、暗い洞窟に入り、そして迷いの森をぬける。

グラナ平原まで戻ってくるとティアは小走りになり、ついには全力疾走でカレイラの国境線をまたいだ。

そしてファナの家の戸をもう真夜中だというのに叩くと、精霊たちと共にヘレンが迎え出るのを待った。

しばらくしてスリッパで階段を下りる音が聞こえ、ドアが半分開く。

そこから顔をのぞかせたのはヘレンであり、その顔は疲労と恐怖でこわばっていた。

「・・・!ティアかい!」

「そうですよ?」

きょとんと首をかしげると服をつかまれるように家の中に引きずり込まれる。

ビックリして花を握り締めそうになる。

「どこいってたんだ?ずっと探していたのに・・・」

そんなに急用だったのかと、ティアは目をしばたく。

だがそんな呑気な考えをしている場合ではなかった。

へレンが口にした言葉は衝撃的で、思わず花をぽさりと床におとしてしまった。

「ファナは・・・明日まで生きられないかもしれない」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照 11400 越えました!!ありがとうございます!!

Re: アヴァロンコード ( No.522 )
日時: 2013/02/13 21:42
名前: めた (ID: WO7ofcO1)

ティアが奇跡の花を探しに森へ出発してすぐに、ファナの様態が急変した。

ムダだとわかっていながらも医者を手配し、看病をさせたがお手上げ状態の上に、明日まで生きれないと宣言をされた。

そんな昏睡状態のファナのためにと、最後に出来るのは親友に看取らせることだと判断したヘレンは即座にティアを探した。

だがすでに森へ旅立ったティアを見つけることは出来ず、不安な面持ちのままファナの看病をして今に至る。

「え、だって・・・朝はちゃんと・・・」

まだショック状態のティアを引きずるようにして二階へ連れて行ったヘレン。

精霊たちが慌てて花を拾い上げてその後を追う。

二階には静かにか細く呼吸をするファナがベットに横たわっており、ティアが訪れても目を開くことはない。

サイドランプに照らされた顔は青ざめ、すっかり血の気が引いて微動だにしない姿は死人のよう。

ヘレンは悲しげにそんなファナを見ると、ティアをベットの脇にいざなった。

ティアは呆然とファナを見つめ、しばらくぼうっと彼女を見つめていた。

「・・・ティア・・・来て・・・くれた・・・のね」

と、ファナが目を開かずに精一杯の肺に残る空気を吐き出しながらいった。

その声は弱々しくふるえ、聞こえないほどの音量だったがティアは座っていた椅子を蹴り飛ばす勢いで起立し、ファナの名前を呼んだ。

「しっかりして!」

「駄目みたい・・・もう・・・」

ふっと笑みをこぼしていうファナにティアは盛大に首を振った。

だがファナは目を開かないのでそんな否定見えないでいる。

「ファナのお父さんが探していた花を採って来たの!ここにあるから、きっと治るよ!」

そういって精霊から花を受け取ると、ヘレンに突き出すように渡した。

ヘレンはビックリした顔でその花を受け取ると、その顔をゆがんだ。

「これで、えと・・・せんじ茶にすれば治ると思います!」

だがヘレンは花を見つめて悲しげについてくるように合図した。

一階に着くと、ヘレンは首を降って言った。

いつもの癖の、エプロンで手を揉み解しながら。

「これは奇跡の花じゃないよ・・・擬似群花というものだよ」

「え、でも・・・森の番人は・・・!」

ティアが目を真ん丸くして叫ぶように言うと、ヘレンが言う。

「奇跡の花はとても小さな花でね。それを食べようとするものが多くいるために、たった一つの花の周りに姿を似せた花で埋め尽くすんだ。正確に言えば、おしべを持つ花で埋め尽くす。傷も病も癒す特効はめしべを持つ中心の一番小さな花にあるんだ。これはとても大きいし・・・おしべだ」

がっくりとうなだれたヘレンは机にぽとりと花を置いた。

ティアは信じられないという思いでその花を見つめる。

記憶を思い返せば、一条の光に照らされて群れた美しい花たち。

円形に囲まれていたひときわ小さな花こそが、ティアの捜し求めていた花だったとは。

「そんな・・・じゃあ、あの子は・・・」ミエリが声を絞り出す。

精霊たちはそろって黙り込み、ティアを見つめた。

ティアは不意に正気に戻ると、きびすを返してドアに突進した。

そしてドアノブを引っつかんであけると、振り返って早口に言う。

「もう一度・・・あの花を摘みにいってきます!」

そして外に飛び出すと、その背中に呼びかけるものがいた。

「待ってティア・・・」

振り返ると、二階の窓辺からファナが顔を出していた。

目を開いたファナが、恐ろしいほど蒼白な顔で言う。

「最期は一緒にいてほしいの。前から決めてたわ、この日が来たらそうしようって」



Re: アヴァロンコード ( No.523 )
日時: 2013/02/13 22:11
名前: めた (ID: WO7ofcO1)

「そんな事もあったね・・・おかしかったなぁ」

今現在ティアはファナの最期の頼みを聞き入れて、彼女の眠る部屋にいる。

そして二人で思い出話をしていた。

ファナはビックリするほど饒舌にしゃべり、蒼白さをのぞけばこれから死ぬように見えない。

だが如何なる者も、限界に達するとふいに調子が良くなって、そしてまた急に壊れるのだ。

消える前の電球が急に明るく輝くのもそのためだ。

今のファナは最期を目前にした電球であり、明るく輝いている真っ只中だった。

「良く覚えてるなぁ、今思い出したよそれ!」

遠い昔、ティアとファナが始めて出会ってからのたわいない出来事をファナがうれしそうに言うのを感心して言えば

「走馬灯というやつね。生きていた間の物事が急に思い出されるの。今まで覚えられなかった歴史の年表とかも、ひょいって頭の隅に出てきたりするの」

茶化す様にファナが言うけれど、ティアは表情が急激に曇った。

親友を亡くすのに、悠長におしゃべりをしていていいのだろうか。

今から間に合うのでは?いや、殺気向かっていれば確実に今頃花を摘んでいたのでは?という考えで脳内が埋め尽くされる。

だが事実、ファナと話したのは十分程度で、もしあのまま向かっていたとしてもグラナトゥム森林についてもいないだろう。

「あ、アルバムを取ってくれないかしら?」

ファナが棚を指差して言うので、ティアは頷いてそちらに向かった。

だが涙腺が緩みかかっていたティアは視界がぼやけて、ベットの端につまずいて盛大に転んだ。

棚がその衝撃で傾き、荷物がティアの上に降り注ぐ。

モワモわとほこりが舞い上がりティアが咳き込みながら立ち上がった。

ファナはビックリしたようなおかしそうな表情でティアをねぎらう。

だがティアは目の前で傾く棚の裏に、リュックサックを見つけて思わず引っ張り出した。

それは土色のリュックで、刃物で裂いたような後のある背負い方のリュックであった。

「これ、ファナの・・・?」

聞いてみるも、ファナは肩をすくめて首をかしげる。

「知らないわ・・・それにすごいぼろぼろ。何でそんなに切り裂かれてるの?」

ティアはベットに歩み寄りながらリュックの中を探った。

と、内ポケットの中に隠れるようにしてしわくちゃの封筒が出てきた。

長い間隠れていたため、その形は変形しているが、どうやら未開封のもの。

それを取り出すと、宛名が目に入りびっくりした。


愛するファナ、レーナ、母さんへ


その手紙は、今はなきファナの父親バイロンのものだった。

Re: アヴァロンコード ( No.524 )
日時: 2013/02/13 22:52
名前: めた (ID: WO7ofcO1)

「これ、バイロンさんのだよ!」

「え?まさか・・・」

ティアの声に驚いたようにファナが首を振って否定する。

だが手渡された封筒は間違いなく自分達宛てであり、慌てて開けた。

ティアはファナの腹部の上にキマイラによって切り裂かれたリュックを載せると、椅子に座ってファナが声に出す言葉を聴いた。

「わたしはカレイラ王国に住むバイロンというものだ・・・」

ファナが震える声で読み上げていく。

その手がかすかに震え、緊張しているようだ。

「ひどく読みにくいわ。急いでかいたみたい・・・」

確かに手紙をのぞいてみると、ミミズがのたうつような文字で書かれていた。

しかも手紙を入れている封筒が汚れているので、地面の上で書いたらしい。血も付着している様だった。

きっとこの手紙はキマイラに襲われた後、バイロンが虫の息の中で書いたらしい。

「誰でもかまわない。この手紙を、カレイラ王国の娘と妻と母に届けてくれ。ファナ、父さんはここできっと死んでしまうけど、元気に育ってほしい。おまえはわたし達二人の、みんなの希望なんだよ。今やっと・・・—」

不意にファナの声が途切れた。

みれば、大量の血液により、その先はすべて読めなくなっていた。

「お父さん・・・」

手紙を伏せて、ファナが瞳に涙を溜める。

そして涙をこらえるように深呼吸すると、ティアに笑いかけた。

その笑顔はティアの心にぐさりと刺さった。

消える寸前の命が最期に燦然と光った笑顔は、どんどん血の気を失っていく。

ベットにゆっくり身を沈ませたファナはどんどん小さくなる声で言う。

思わず封筒を握り締めたティアは違和感を感じて封筒を逆さにした。

「あなたには本当に感謝しているわ」

ファナはすっと目を閉じて、ささやくように言った。

ティアの手のひらに、ころっと丸い黒い粒が三つ躍り出た。

「わたしに外の世界を教えてくれた・・・狭かったわたしの世界を広げてくれた・・・—わたし、とっても幸せよ」

ファナがまどろんだような声を出した直後、ティアはミエリを呼んだ。

一階にいたミエリは瞬時に現れて、ティアの願いに答えた。

床に巻かれた三つの種は、ミエリの解放されて荒ぶる森の力によって瞬時に成長した。

部屋中が桜色のきれいな花で満たされて、上品な香りが漂う。

「あららー・・・加減分からなくってすごいことになっちゃったわ」

部屋の中の床がぎっしり桜色の花で覆われて花畑になっている。

するとティアはその中でひときわ小さな花をむしると、ファナの口に放り込んで食べさせた。

意識が薄れていたファナはビックリして目を見開き、ティアに促されるまま花を食べさせられた。

目をぱちくりしていると、なぜだかふっと眠気がなくなった。

それどころか、関節を支配していた痛みも気だるさもなくなってしまい、ただビックリするばかりだ。

「ティア・・・?これ、死ぬ前に見る夢なの?部屋の中が花畑で、体中が飛べるくらい軽いの」

ファナがティアに言うと、ティアはじわんと視界が反転するのを感じた。

暖かな涙がぼろぼろこぼれて、笑顔のまま泣いた。


Re: アヴァロンコード ( No.525 )
日時: 2013/02/16 00:47
名前: めた (ID: ErpjaSfQ)

かくして、ファナの不治と歌われた病は奇跡の花の効力で消えうせ、死の面影はふっと消えた。

すっかり体が軽くなったファナはベットに腰掛けると、辺りを見回した。

うれしさと安堵のあまりべそをかいているティアと、その足元を覆う一面の桜色の花畑。

はたから見れば、事実本当に天国に来たような光景である。

だが目の前の少女が、自分を救ってくれたようなのでこれは地上の出来事なのだ。

「あのね、ティア・・・一体何が起こったのかな?」

笑顔でなきまくるティアを見上げるようにファナが疑問を口にする。

実際、なぜ自分の体がこんなにも軽くすっきりしているのかまだ理解できない。

死ぬ直前に食べさせられたあの花が病を消し去った様なのはなんとなく分かるが、それでも床一面が花畑なのは理解できない。

「ミエリが・・・バイロンさんが託した種・・・めしべを・・・それよりヘレンさんを呼んで・・・」

ティアはそんなことを口走り、一気に一階へ駆け出して消えた。

「あっ行っちゃった・・・これも、ティアの奇跡の力なのかな。きっとティアが助けてくれたのね」

そう合点した直後、スリッパで階段を駆け上がる音と声が階段を登ってきて、ファナの前に現れた。

今度は笑顔のティアと、目を見開いているヘレン。

「ね!治ったんですよ!バイロンさんが手紙に託した三つの種を開花させてめしべをファナに食べさせたんです!」

「おぉ神よ!良かった・・・!!」

ヘレンは突進するようにファナに駆け寄ると、すっかり血色の良くなった孫娘を抱きしめた。

「神様なんかじゃないですよ、ファナを助けたのはバイロンさんです」

孫娘を抱きしめて喜びに涙しているヘレンに、ティアは咲き誇る花を撫でながら言う。

とても生命力の強い花らしく、ヘレンが踏み分けたところはたちどころに花が茂っていく。

もしかすると、ミエリの力だ作用しすぎて枯れることはないのかもしれない。

「バイロンさんが死の間際に集めた種がなければ、ファナを治すことはできませんでした。バイロンさんの死は、ムダじゃないです。最期まで家族を思った、素晴らしい人です」

「ありがとう・・・きっとレーナもバイロンもこれで安心して眠れるよ」

ティアの言葉にヘレンが震える声でお礼を言う。

ファナも、父親からの手紙を抱きしめて、元気に跳ねる自分の心音に耳を澄ませながら

「お父さんのこと誤解してたの。お母さんに全部押し付けて逃げたって。でもティアのおかげで真実を知ることが出来た・・・ありがとう」

そういうと、疲れたように目を閉じて眠りについた。

Re: アヴァロンコード ( No.526 )
日時: 2013/02/19 16:17
名前: めた (ID: ErpjaSfQ)

参照11800越えました!ありがとうございます!
コレ二月中に終わるかなぁ・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌朝、本棚を整理していたシルフィはまだ早朝なのに自分をたずねてきた人物を見て驚いた。

にこやかな顔をしたティアであり、手に若草色のハーブを持っている。

それは紛れもなくシルフィの依頼物、エルフの涙の材料の1つであり、手渡した紙に書かれたものだった。

(ニヤニヤしちゃって・・・人間ってとことん変な生き物ね)

眉をひそめながらあがってくるように言うと、ティアは笑顔のままやってくる。

そしてシルフィにハーブを手渡すと、「それじゃあ!」と家を出て行こうとする。

「待ちなさいよ!」と声をかけると、不安そうな顔でこちらを見てくる。

「用はまだ済んでないわよ」腕を組んで言えば、心底戸惑った顔をする。

「これからエルフの涙を調合するのよ。ほらさっさとついてくる」


半ば強引に家を出ると、シルフィとティアは、ローアンの中心街から西に行ったところにある立派な空き家に向かった。

石畳の先にあるこの家は長い間ずっと空き家で、立派なつくりであるが誰も住み込もうとしない。

誰が住んでいたかも、ティアには分からなかった。

造りは入り口に二本の柱がっていて、そこから左右に伸びるように美しい柵が家を囲むようにずっと続いている。

その黒い柵に幾重にも絡まるツタがはびこり、レンガ造りの家の壁も覆っていた。

だが不思議と不気味さは感じられず、まだここに何か住んでいるような気がした。

玄関のまえには荒れ放題だがさまざまな種類の花が生えていて、白い長方形の花壇には手入れされたような見事な花が咲いている。

「この中に調合機材を置いてるの。あなたが持ってきたハーブを入れたらすぐにできるわ」

シルフィに促されて茶色の重そうな扉を開けると、けっこう荒れていた。

入り口の左右に立つ不思議な立体像。

大きなクローゼットに、倒れたテーブル。割れた花瓶。

撒き散らされた書架と倒れた本棚たち。

床は奇妙な色で変色し、しみの様なものが一面に広がっている。

「何コレ・・・どろぼうでも来たのかな」

ティアが外見とのかけ離れた内装を見て唖然として声を出すと、シルフィはさぁ?と肩をすくめる。

「わたしもここの事は良く知らなくって。でもお父様に見つからずに調合するのに格好の場所だと思って中にはいったら、すでにこの有様だったわ」

そして入り口付近のテーブル—おそらくシルフィが引っ張り出したもの—の上に蒸留器具がおいてあった。

けっこう大柄なテーブルの上にはシルフィの実験道具のほかに、写真立てもあったが変色しきっていて映っている人物の影がうっすらと四つ見えるだけだった。

「後はハーブを入れるだけ」

ティアがあたりを見回るのをまったく気にせずに、シルフィは火をたいた上に吊り下げられた透明な湾曲した瓶の中にハーブを落とした。

その瓶はエルフの技術を利用したものらしく、妙な管が下のほうに伸びており、その管から蒸発した液体が容器に落ちていく。

「ねぇシルフィ。それ飲めるの?」

ようやく家中を見るのをやめて、その気味の悪い液体を見たティアは引きつりながらたずねる。

ハーブを入れた材料の元は泥のような色になっており、とても食べられそうにない。

エルフの涙というのだからとてもきれいなものを予想していたティアにとって衝撃だった。

「そうよ。出来てから数分で考えは変わると思うけど」

蒸留水も灰色でよどみきった色の液体。まだ熱いらしく湯気が立っている。

(できあがりって後どれくらい掛かるんだろう。この後ファナと一緒にハクギンツバキをとりに行こうと思ったのに)

そう思っていたときだった。

「お姉ちゃん達、なにしてるの?」

突如家の奥から幼い声が聞こえてきた。



Re: アヴァロンコード ( No.527 )
日時: 2013/02/19 17:04
名前: めた (ID: ErpjaSfQ)

「げ、アイツは・・・」

おぼつかない足取りで踊るように飛び跳ねながら出てきた人物を見てレンポが嫌そうに顔をゆがめる。

「?」他の精霊が顔を見合わせる前に、そのツインテールの幼い少女は空中に指を向けて笑顔でいう。

「あ、赤いお兄ちゃんもいる!」

やれやれと頭を振るレンポに、他の精霊がビックリしたように少女、ミーニャを見た。

「この者には我々精霊が見えるのですか?」「すごーい!」

ウルが観察するように、ミエリは目を輝かせてミーニャに少し近寄る。

ネアキは少し迷惑そうにティアのそばからミーニャを見ている。

「あ、まだいっぱいいる。こんにちは!」

ミーニャはそんな精霊たちに無邪気に挨拶をしたりするが、シルフィは完全無視をしている。

「すごいですね。霊感が高いのでしょうか」

こんにちはー!と挨拶し返すミエリをよそにウルは完全に感心していた。

「お姉ちゃん達、ミーニャのお家で何してるの?」

精霊に興味をなくしたように、ミーニャがティアの足元によってきた。

しゃがみこんでようやく目線が同じくらいのミーニャに、ティアはビックリしたように聞き返す。

「ここに住んでるの?」

ティアが言えば、傍らのシルフィは眉を寄せてティアをじろじろと見る。

首を傾げてシルフィを見ると、ミーニャが答えた。

「そうだよ!でもみんな今は出かけてずっといないけど」

ちょっとすねて言うミーニャ。かまってもらいたい時期なのだろう。

「・・・出来た」

と、シルフィが小瓶を掲げてうれしそうに言う。

見れば、小瓶の中でアクアマリンのように輝いている液体が見えた。

晴れた日の空よりも澄み切った水色で、自らが発光しているような液体。

「ほら、考えが変わったでしょ。さっそくお父様のところに行くわよ!」

すばやく透明な容器にエルフの涙を移し変えると、シルフィに腕を掴まれて引きずるように家を出て行く。

「じゃあね、お姉ちゃん達!また遊びに来てね!」

振り返り様ミーニャがさびしそうに手を振っている姿が見えた。


Re: アヴァロンコード ( No.528 )
日時: 2013/02/19 17:39
名前: めた (ID: ErpjaSfQ)

「シルフィって小さい子供嫌い?」

空き家から出てから小さな声で聞いてみると、シルフィはそうねと頷く


「エルフの子供はそうでもないけど、人間の子供はうるさくて適わないからね」

「ふぅん・・・」

ミーニャに対するシルフィの態度をそれで納得したティアは、シルフィのポケットが少し膨らんでいるのを見て首をかしげる。

だがたずねる間もなく、自宅に戻ったシルフィ。

だが彼女の父親であるゲオルグは留守で、召使によれば街のほうに用事があるといわれた。

「お父様は不完全な人のために導き手を買って出てるわけわけだから、仕方がないわね。もう一度街に下りるわよ」

さらりと人間であるティアの目の前で人に対する文句を言うシルフィ。

だがティアは首を傾げるのみで、シルフィの後についていく。

街に下りると警察の聞き込みのようにシルフィは父親のことを聞いていき、そして墓地に向かったという情報を掴んだ。

「墓地?」ティアが聞き返すと、シルフィはしばらく考えた後、結論付けた。

「きっと王妃様、マイア様のお墓参りじゃないかしら?それくらいしかわざわざ行く意味が分からないし・・・」

そして墓地に行くと、ゲオルグはすぐに見つかった。

緑色のなだらかな芝生の上に立つ灰色の墓石。その中で目立つ赤い服に身を包むゲオルグはある一角にいた。

立ち並ぶ墓の1つの前で花束を手向けて、穏やかな表情でたたずんでいる。

「ここのお墓にエルフは眠ってないはずなのに、あの人は一体誰のお墓参りをしに来たのかしらね?」

空中より、ミエリが首を傾げて言うのが聞こえる。

『…エルフが人に干渉するのも珍しいけど、お墓参りだなんてもっと珍しいわ。本当にあそこに眠っている人は人間なの?』

ネアキも少し怪しみながらゲオルグを見ている。

だがティアには、友人が何かのお墓参りにしか見えず、ゲオルグに向かって歩き出そうとする。

だがシルフィに引き戻されて、墓地から出た。

「なんで?エルフの涙を渡すんじゃないの?」

あっけらかんと言えば、シルフィが猛然と首を振って腕を組む。

「その前に、あのお墓は一体誰なのか興味がわかないの?とにかく、ここに隠れてやり過ごすわよ」

そして墓地を取り囲む高い塀のような壁の割れ目に入り込み、ゲオルグが墓地から去るのを待つ。

数分後、靴音を響かせてゲオルグが墓地から出て行くと、シルフィとティアはすばやく墓地に駆け込んで、花のたむけられたお墓の前に立った。


Re: アヴァロンコード ( No.529 )
日時: 2013/02/19 18:33
名前: めた (ID: ErpjaSfQ)

「歴史あるローアンの血を引く娘、セレネ。安らかに眠る・・・?」

その墓の人物は500年前カレイラ王国を建国する際の大戦争で大活躍した女戦士ローアンの子孫らしい。

そしてローアンは建国の際、初代王ゼノンクロスに嫁いだ初代王妃であり、その活躍と名誉によりこの街には彼女の名前が付けられ、闘技場には戦女神として彼女の像が建てられている。

「なんだ・・・やっぱり王族の末裔の人ね。といっても、ずいぶんと直系からはそれているけれど」

自分の考えが当っていたので、シルフィは得意げに鼻をそらせている。

「でも、何でこの人にお花を手向けたんだろうね?この人もう何十年も前に亡くなっているのに」

そうなの、とシルフィが目をしばたく。

「うん、わたしがカレイラに拾われてくるよりも前に亡くなっていたらしいけど。だって、ほら年表が刻まれてるでしょ」

ティアが指差したところには彼女の死んだ年が刻まれている。

かなり昔に死んでしまったらしい。

「知り合いだったんじゃない?エルフは長生きだから」

もう興味はないというように、シルフィは立ち上がる。

ティアもそうかなぁと立ち上がって、ふとそばにある墓石を見る。

それは丸みを帯びたプレート状の墓標。そこに刻まれていたのは

晴れの日は外で勇者様ごっこ。小さなお姫様、ミーニャここに眠る。


Re: アヴァロンコード ( No.530 )
日時: 2013/03/19 12:39
名前: めた (ID: FY5Qqjua)

ティアが急に飛び上がったのでシルフィは目を見開いて首をかしげる。

そしてその視線を追うも、ただの子供の墓であり、何をそんな驚いているのか分からない。

「何をしてるの。さっさとお父様のところに行くわよ」

ティアが何も言わずにこちらを見た。

何かとんでもなく驚いて、恐怖というよりは困惑と言った表情をしている。

「ミーニャって・・・あのさっきの女の子って、幽霊?」

「何言ってるの、アンタ。さっきの女の子って誰のこと?」

ようやく口を開いたかと思えばすっとんきょうなことを言うのでシルフィは肩をすくめて言う。

だがその返答が気に食わないらしく眉をひそめる。

「空き家にいた女の子だよ。エルフの涙を作っていたら家の奥から走ってきてこえ掛けてきた女の子のこと」

必死に笑みを浮かべながら言おうとしているらしいが、目が笑っていない。

「冗談言うのはやめなさいよ・・・何もこんなところで言わなくてもいいでしょ」

二人しかいなかった空き家に、小さな少女が存在しておりティアだけがその存在を確認できていた。

しかもその少女のお墓が目の前にあり、あたりは死人の眠る墓場となれば、さすがのシルフィも背筋に冷たいものが走る。

「ほら、そんなこといいからさっさと行くわよ」

ティアの反応も待たずに足早に墓地を出て行く。

ティアも慌てた様子で後を追い、二人はシルフィの家へと無言で向かった。



Re: アヴァロンコード ( No.531 )
日時: 2013/03/03 20:55
名前: めた (ID: FY5Qqjua)

幽霊だったんだぁとつぶやくティアを背に、シルフィはホワイトハウスの扉を開けた。

ホワイトハウス—我が家にはすでに帰宅しているはずの父、ゲオルグの姿はなくシルフィは首をかしげる。

「いったいお父様はどこに?」

腕を組みながらつぶやけば、背後でティアがなにやら帰りたそうな雰囲気をかもし出している。

だが、それに構わずシルフィはくるりと振り返るとお城に向かうわよ!と言い放った。

しぶしぶついてくるティアと、お城へやってきたシルフィは顔パスでフランネル城内部に入り込むと、ゲオルグを探した。

長い廊下に、作戦会議室、食堂に謁見のままで探しに行ったのだがなかなか見つからない。

「ホントにここに居るのかよ、あのエルフ?」

レンポがこの地味な捜索劇に早くも飽きた様子でイライラとつぶやく。

「どこかしらね?早く終わらせて、ファナちゃんとハクギンツバキを探しに行きたいわ」

同じく大らかだが、この後に控えているイベントを楽しみにしているミエリが同意する。

「しらみつぶしに探すほかありませんか・・・」

ウルが腕を組み、方々を見渡す。

ネアキはまったく興味ないとでも言うように、ミエリの隣でうとうとと寝首を漕いでいる。

散々探し回って一時間が経とうとしたころ、ふとシルフィが立ち止まった。

「—疲れたわね・・・」言いながらポケットに手を伸ばし、小瓶を取り出すと栓を開けた。

栓らしい開瓶の音ののち、その中の液体を口に含むシルフィ。

アクアマリンの輝きの液体はおそらくエルフの涙。

「ゲオルグさんのじゃないの?」

とビックリして聞けば、シルフィはふうッと息を吐きながら言う。

「それとは別に少量をわたしのために取っておいたの。興味があったし、それに—・・・」

と不意に、流れるようにしゃべっていたシルフィの動きがピタッと止まった。

「?」精霊たちとティアはきょとんとして固まったシルフィを眺める。

数秒ほど経つと、白色人種のように白かったシルフィの肌が、見る見るうちに熱いお湯を浴びた後のように赤く染まり始めた。

「シルフィ?」

ちょっとビックリしてティアが声をかけると、シルフィがめまいを起こしたようにふらついてくる。

「何よコレ・・・まさか失敗?体中が熱い・・・」

頭を押さえてうめくように言うシルフィは、おろおろするティアとぽかんと見つめる精霊たちの前で卒倒した。



更新が不定期になりすみません;
キーボードがぶっ壊れまして、今日新しいのが届きました!
でも少し小さい型なのでなれるのに時間掛かると思うし、誤字が増えそうです・・・
参照12400ありがとうございます!

Re: アヴァロンコード ( No.532 )
日時: 2013/03/03 21:51
名前: めた (ID: FY5Qqjua)

「やっぱり失敗だったのか?」

廊下で卒倒したシルフィを覗き込み、ウルのほうを振り返ったレンポが言う。

気絶しているシルフィの周りには精霊が興味津々と言うように取り囲み見守っている。

「おかしいですね、わたしが見たところ、あの材料で間違いはなかったのですが」

ウルの言葉にティアが心配そうにシルフィの肩を揺らす。

シルフィがぶっ倒れてから早くも十五分きっかり。

数分ごとに肩を揺らしてみるのだが、シルフィは完璧に意識を失っているらしい。

「大丈夫かしら、このこ」

ミエリが慈悲深く言うが、隣でネアキが目を細める。

『エルフがエルフの薬を飲んで倒れるなんて…本当にエルフなの』

そういわれて、ティアはシルフィを良く観察してみる。

尖った耳に、クリスタルの瞳。異様なほど白い肌も、すべてエルフ譲りだろう。

傲慢で人を小ばかにする性格も何もかも、エルフだといえる。

「うん・・・エルフには間違いないと思うよ?やっぱり、薬に何かまずいところがあったのかもね」

言いながら、シルフィのポケットにあったエルフの涙を手のひらで転がす。

きれいな装飾の小瓶にはいるアクアマリン色の非常にきれいなその液体は、部屋の装飾品にも使えそうである。

コレを氷付けにしたらさぞかし美しい宝石になるだろう。

「お?」

美しいエルフの涙に気をとられていると、何かに気づいたように精霊たちが声を上げる。

見れば、シルフィが意識を取り戻したようだった。

上半身を起し、辺りを見回すシルフィ。

精霊たちが後退し、ティアの頭上にふわりと浮かぶ。

物に触れられるようになった精霊たちは混乱を招く前に自分が望まない限りは他者に触れられるのを拒んでいるためだった。

ティアが身を乗り出し、シルフィを助け起こす。

シルフィは戸惑っている様でティアに支えられて立つと、説明を求めた。

「わたし一体どうしたの・・・?エルフの涙を飲んでそれで・・・」

「エルフの涙を飲んだら倒れたんだよ。それで十五分くらい気絶したまま。失敗だったのかな、コレ」

言いながらエルフの涙をシルフィに返すと、シルフィはちょっと残念そうに頷く。

ポケットにしまいこむと、帰りましょうかとつぶやいた。

「せっかく作ったのに、失敗するなんて・・・」

「また作ればいいよ。また手伝うから」

二人組みと精霊たちが帰路につき、フランネル城を出ようと廊下を歩いていると、あれほど見つからなかったゲオルグがふっと遠くの方で見えた。

「あら、お父様・・・やっぱり城にいたのね」

気づいたシルフィが声をかけようとした瞬間、ゲオルグの傍に一人の小間使いがやってくる。

彼女がお辞儀をすると、厳しい面持ちのゲオルグが口を開いた。

辺りを見回し、それから少し切羽詰った声で

「あのことは娘には話してないだろうな?」と。 


Re: アヴァロンコード ( No.533 )
日時: 2013/03/03 22:33
名前: めた (ID: FY5Qqjua)

?! 12500越えただと?一日で?
更新サボってたのにありがとうございます!!
エルフと人章をさっそく終わらせようかと!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

城から帰るはずだった二人と精霊たちは、ゲオルグの言葉によりピタリとその場で凍り付いていた。

と、ゲオルグに言われたまだうら若い小間使いは笑みを浮かべて言う。

妙に白々しい声だった。

「えぇ、もちろん言っていませんよ。ゲオルグ様が私との約束を守ってさえくれれば、あのことは誰にも言いません」

呆然と話に聞き入っていたティアは、すばやくシルフィに隠れるように言われて、傍にあった廊下用の長いすのそばに隠れた。

その間にも会話は続き、ゲオルグが奥歯をかみ締めているようだった。

忌々しげに小間使いに言い放つが、やけに声が小さいのは誰にも聞かれたくないからだろう。

それでも耳をそばだてれば、聞こえる声だった。

「くっ、カレイラのお膝元で働いていながら欲深なやつだ」

忌々しげに言うゲオルグとは反対に、涼しい声の小間使いが軽々という。

「何とでもおっしゃってください。人間は誰しも同じです。爆弾を手に入れたら利用したくなるでしょう?それと同じです」

さらりと言った小間使いは、ふと疑問に思ったようにゲオルグに問う。

「しかし、なぜ娘さんに隠すのです?私に多額の賄賂を支払い、代々伝わる装飾品を要求通り与えるほどに隠すほどのことですか?」

ティアははぁ?何ですって?と小声で悪態つくシルフィの声を聞き、不安げに精霊の顔を見た。

精霊たちは皆、戸惑ったように話に耳を傾けている。

「言えるわけがない・・・」

ふいに弱腰になったゲオルグの声が聞こえてくる。

先ほどまでとの変わりように、不安を覚えたのはシルフィだけではないだろう。

「あの子は、シルフィは・・・エルフであることに誇りをもって生きている。そして人をひどく嫌っているのもまた事実だからな・・・」

そういったゲオルグに、小間使いは首を傾げつつ驚くことを言った。

「その大嫌いな人の血が彼女の身体に入っているからですか?」

「?!」シルフィとティア、精霊と頭上にこのマークが瞬時に浮かんだ。

頭が真っ白になり、思考を働かせようと脳に促す直前にゲオルグが大きな声で叫んだ。

人気がなかったからいいものの、小間使いが飛び上がるほどだった。

「違う!まだ伝えるには早すぎるのだ。あの子がもう少し人というものを理解できるようになったら・・・」

震える声で言うゲオルグに、小間使いが少しあきれたように言う。

「ですが、エルフであるあなたと人である奥さんとの子である事実は変えられない」

その突き刺さるような言葉に、ゲオルグはまたも威勢をそがれた。

なぜだかいつもの威厳が弱まり、心細そうな男性に見える。

「分かっている・・・だが、知ってほしいのだよ・・・種族など関係ない、ということを」

心からの言葉だったが、小間使いはフンッと鼻を鳴らすと、薄ら笑いを浮かべて言い放つ。

「ご立派な演説ですこと!まぁ、なんにせよ約束のものの用意をお願いしますよ。私がばらしても、私に不足はありませんからね」

その冷たい言葉にゲオルグはうなだれたように承諾した。

Re: アヴァロンコード ( No.534 )
日時: 2013/03/03 23:21
名前: めた (ID: FY5Qqjua)

衝撃的な押し問答の後、ゲオルグと小間使いは速やかに去り、双方別々の方向へ何事もなかったかのように歩き去っていく。

そして廊下の隅に隠れていたティアたちも、すばやく立ち上がって城から逃げるように出て行った。

フランネル城の王女ドロテアがこよなく愛する箱庭にまで出てきたティアたちは、シルフィがふと立ち止まったのでそれに見習った。

シルフィはふらふらと歩いていき、円形の噴水のふちに腰掛けた。

ティアは黙って直立し、精霊たちも黙り込んでいた。

今まで嫌っていた人間が片親だったと知り、ショックを受けているシルフィに何を言えばいいか分からない。

そのまま沈み込んだシルフィが何か言うまで、そこに立っていると

「・・・ティア・・・」

シルフィがか細い声で言った。いつもの強気な発言ではなく、心底弱りきった途方にくれた少女の声だった。

「・・・私どうしたらいいのか」

「シルフィ・・・」

声をかけるが、何を言ったらいいか本当に分からず口ごもるとシルフィはギュウッと拳を握った。

目を細め、歯を食いしばって何かに耐えるような顔をする。

そしていきなり立ち上がるときびすを返して歩き出した。

「ごめんなさい、もう帰るわ」

その後を追わずに、ティアと精霊たちはその震える背中を見送った。

もう、遅い時間だったため、ティアは花探しを諦めて家へと向かった。

こんな気分で花を探すなど、到底出来なかった。


Re: アヴァロンコード ( No.535 )
日時: 2013/03/11 21:00
名前: めた (ID: FY5Qqjua)

参照 12900 越えてましたごめんなさい!
長らく放置してたのに・・・ありがとうございます・・・

エルフ編終わらせんと・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「エルフと人の合いの子・・・珍しいですね」

「うん、エルフってば人間のこと劣等生と思ってるからね。そもそもかかわりを持たないのよ」

ティアの家への帰り道、エルフについての知識のあるミエリとウルが語り合う。

現在ファナの家の傍の中心街であり、夜市を開く中心街には大人たちが行きかっている。

珍しげな露店が出ていたが、はしゃぐ気分になれずティアたち一行はその前を素通りして自宅のある暗がりに脚を進めていく。

「でもあのエルフは種族は関係ないってエルフらしくないこと言ってたよな」

ティアのあたりを漂いながら精霊たちが首をかしげて頷く。

だがいくら言い合いをして結論を出そうとしても、結局は本当の答えなど出ないわけで。

シルフィが一番戸惑っているのだろうと言う分かりきった答えしか出ない。

『結局、慰めにも解決にもならないの・・・』

ネアキがぼそりとつぶやき、精霊たちは口をつぐんだ。

やがて自分の家にたどりついて、戸に手を当てるが、ティアは家の中に入るのを拒んだ。

そのまま家の前の戸口に座り込み、シルフィの役に立てないかと長いこと考える。

暖かい季節だったため、夜風をまともに受けても病気にはならないので一晩中そこに居続けても構わなかったのだが、ふと足音が聞こえてくる。

途切れた雲の合間からのぞいた月明かりに照らされて、ティアの家の傍を通り過ぎようとしていた人物がはっきりと見えた。

月光に照らされたその人は腰までのプラチナブロンドと、その合間から覗く尖った耳。

クリスタルのような透明感のある瞳と、いつも身に着けている銀の鎧とくれば、ある人物が脳裏にぽんと浮かんでくる。

エルフの・・・エルフと人との合いの子のシルフィだ。



Re: アヴァロンコード ( No.536 )
日時: 2013/03/11 21:17
名前: めた (ID: FY5Qqjua)

シルフィはまったくティアには気づかずに世界の十字路に向かってのろのろと歩いていく。

じっと目を凝らさなければいけないほどはっきりしない視界ではないのに、いつもの鋭敏な五感が機能停止状態なのか、シルフィはティアが声をかけるまでうつろな眼をしていた。

「シルフィ・・・?」

だが名前を呼ばれた途端、びくっと肩を揺らし幽霊でも見るように飛び上がった。

そして動悸の激しそうな胸を押さえながら、シルフィは妙なものを見るような目をやめて、少しふっと悲しげな顔をした。

「あの・・・どこに行こうとしてたの?」

あのことを聞こうとは思えず、ティアはシルフィがどこに行こうとしていたのかたずねた。

シルフィはしばらく黙ると、下を向いて黙ったまま首を振った。

そして肩をすくめながらつぶやいた。

「分からない。お父様の顔もまともに見られなかったし・・・あのあといろいろと一人で考えてみたんだけど、一人になりたくて・・・・」

保守

Re: アヴァロンコード ( No.537 )
日時: 2013/03/12 20:19
名前: めた (ID: FY5Qqjua)

シルフィはゲオルグの顔を見るといてもたってもいられなくなり、夜一人になって考えようとして家を飛び出したらしい。

だが結局行く当てもなく、ふらふらと歩いていたらティアの家の前に来ていた。

「・・・どうしたらいいのかな、私」

ティアの隣に座って、シルフィが弱音を吐いた。

普段人間を嫌っているシルフィがこんなことするのも珍しいのだが、その嫌いな人間を母親に持っていたと知った今、そなこと言ってられない。

ティアは黙ってシルフィの話を聞いた。

精霊たちは気を利かせて預言書に舞い戻り、姿をけした。

「私考えたのよ、ちゃんと話し合わないと駄目だって。けど、どうしても言い出せなくて・・・私もう何がなんだか」

はぁとため息をついてシルフィが頭を抱えて黙り込んだ。

そしてティアが何か言うまで体育座りをして黙っている。

生暖かい風がふわりと漂い、どこかへ行こうと誘っているようだ。

虫の声も、風に揺れる草木のすりあう音も心地よく、眠ってしまうのがもったいない夜だった。

「シルフィは、ショックだったの?」

ティアがやっと声をかけると、シルフィは当たり前でしょと少しふてくされながらつぶやいた。

頬杖をついて、小声でつぶやく。

「エルフはね、人が人であることを誇りに思うよりもずっと強い誇りを持って生きているの。そして沢山の知恵を持ち、どうしようもない者達なんか相手にしないで暮らすの・・・・」

膝頭に顎を乗せてつぶやくシルフィに、ティアは首をかしげた。

月が二人を真上から照らし続けている。

「じゃあ何で、ゲオルグさんは人のことを好きになったのかな」

思ったことをさらりと言うと、シルフィが横目でにらんでくる。

「そんなこと知る分けないでしょ。それに、さっきの小間使いみたいに、お父様のことを脅迫して結婚を迫ったのかもしれないし」

言ってしまってから、母親に対する罪悪感が少し募るが、人間嫌いのシルフィはその心にそっぽを向く。

人なんて信用できないと、シルフィは奥歯をかみ締めた。

「さっきの小間使いと言い、人間なんて酷い生き物だわ。助けの手を差し伸べるお父様を脅して利用するなんて。もしかしたらこの国の国王もお父様を脅迫して街長という座に縛り付けたのかもしれないわ」

ティアの目の前でシルフィはあらん限りの怒りをふつふつと煮えたぎらせていた。

悔しそうに、編みこまれたサンダルで地面を踏み潰すように引きずりながら、さんざんわめいた。

ティアはどうしたらいいかわからなくて黙って聞いていたが、ふっとシルフィが口をつぐんだので顔を上げた。

「散々だわ・・・アンタはあんたでコレほど人の事ボロクソ言っているのに黙って聞いてるし、少しは怒りなさいよ・・・もういいわ、興ざめて仕方ないし帰る」

それだけ言うとシルフィはさっと立って、ティアに背を向けた。

「あ、シルフィ・・・」

その背中にティアは慌てて声をかけた。

シルフィは振り返らずに少し立ち止まった。

「私は、エルフのこと嫌いじゃないよ。ゲオルグさんみたいに人の事助けてくれるエルフ好きだよ」

最後まで言い終わった瞬間、シルフィは拳を握り締めて脱兎の如く走り去った。

その背中を見送ってから、ティアは預言書を抱きかかえて家の戸をあけた。


Re: アヴァロンコード ( No.538 )
日時: 2013/03/13 18:18
名前: めた (ID: FY5Qqjua)

 1 3 0 0 0 ありがとうございます!!
二月中に終わる予定が、ずるずるといつ終わるかわからないほど延期に・・・
三月以内には第十四章終わらせたいですねぇ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日、ティアは早くに目を覚ますと、精霊たちをつれて家を出た。

なんとなくシルフィとゲオルグのことが気になって、ふらふらとシルフィの家へ歩いていく。

朝早くな為、空気は冷えて澄み切っている。

人はあまりいず、いるとすればランニングしている人くらいで、朝露に濡れた路面に靴音を響かせて過ぎ去っていく。

街の中心街にたどりつくと、ふとティアは立ち止まって視界の左側に注目した。

中心街を東に進むと、そこには共同墓地がある。

「あのエルフの母親のこと、気になるのか?」

レンポにいわれて頷くティア。

「じゃあ、行ってみましょ!」ということで、精霊たちをつれてティアは進む道をシルフィの家から墓地に切り替えた。

 墓地には朝日が差し込み、おどろおどろしい雰囲気はまったくない。

墓石を囲う芝生には朝露が宝石を放ったように輝いて見える。

「確か・・・ここでしたね」

ウルが昨日の記憶を頼りに、シルフィの母親の墓石に向った。

正直どこだったか覚えていなかったティアにとってありがたい行動であり、すぐさま後に続いてその墓石の前に座った。

「セレネさんの種族は関係ないって言葉は心のそこからの言葉だったはず・・・だよね」

彼女自身に話しかけるようにティアがつぶやくと、あっと精霊が緊張気味に声を上げた。

何事かと顔を上げれば、墓地の入り口に蒼白な顔をしたゲオルグがたっていた。

Re: アヴァロンコード ( No.539 )
日時: 2013/03/14 18:51
名前: めた (ID: FY5Qqjua)

もしかしたら聞こえていなかったかもしれないと期待したが、朝の静寂の中、対して離れていなかった距離の声ははっきりと伝わっていたようだ。

ゲオルグがゆっくり歩いてティアの横に立った。

「今の言葉は・・・」

そういわれて、ティアは観念したように謝った。

「ごめんなさいゲオルグさん・・・実は——」


昨夜の小間使いとゲオルグのやり取りをすべて見て聞いたことをゲオルグに伝えた。

もちろんシルフィが一緒だという事も包み隠さず白状した。

怒られたり絶望されるかと思っていたが、ゲオルグは何か吹っ切れたように簡単な受け答えをした。

「そうか、聞かれてしまっていたか」

「ごめんなさい」

すがすがしい声にティアはもう一度謝るが、ゲオルグは軽く笑ってティアをたしなめた。

「いや、謝る事はない。いつかは伝えねばと思っていたんだよ」

ゲオルグは服がつゆでぬれるのも構わず膝を付くと、セレネの墓を覗き込むようにした。

精霊たちはティアの頭上に移動し、上から二人をじっと見つめる。

しばらくして、ゲオルグはゆっくり頷きながらティアに話し出した。

「私はね、死んでしまった妻のことを本当に愛していたんだ。人間とか、エルフとか、そういったものを越えてね」

「・・・」ティアは黙ってゲオルグの言葉を聴いていた。

何を言えばいいかわからず、ただ記憶の奥底に眠る優しい両親の面影を追っていた。

自然と指が褐色の髪に紛れ込む銀の髪飾りに触れて、傍に両親がいるきがした。

「ティア君。実は、昔は私もシルフィと全く同じ考えだったんだよ人はエルフより下等で下劣。エルフの方がすべての面で勝っている・・・と」

こんな人に温厚なエルフにもそういった過去があったとは、と驚いてティアが顔を上げると、ゲオルグは罪悪感のこもった笑みをした。

「だが妻と出会ったことで、考え方が全く変わったんだ」そういったゲオルグは、少し黙ると首をふって言いなおした。

「いや、性格には彼女が私の物事の考え方を変えてくれたのかな。彼女は口癖のようにこういったんだよ」

ゲオルグはどこを見るでもなく、遠い過去を見るように空を見上げてつぶやいた。

ティアも空を見上げる。精霊たちは四人そろって墓地の入り口に目を落とした。

なんとなく、ゲオルグとセレネの過去が見えるような気がした。

若い日の二人が、空中に現れて、腰に手を当てたセレネが口を開いてゲオルグを諭す。

「種族が違うから争うの?種族が違うから奪い合うの?種族が違うと考え方も違うの?バカなこと言わないで。種族は違えど心の在り方に違いはないわ」

そしてその言葉が終わると、いたずらっぽく笑ったセレネと若き日のゲオルグはぱっと消えた。

空に見えるのが雲だけになると、ゲオルグの声で我に帰った。

「あれほど心に響いた言葉はなかったよ。その言葉をあの子・・・シルフィにも教えてあげたいのだよ。あの子の母親がいった言葉を。そして私が一番好きだった言葉を」

Re: アヴァロンコード ( No.540 )
日時: 2013/03/15 13:58
名前: めた (ID: FY5Qqjua)

「私がなぜローアンの町長をやっているかわかるかね?」

そういわれてティアは首を振った。

人のためになることを決意するきっかけはセレネだろうが、なぜ町長になったかと言うことに結びつかない。

「約束したのだよ、最愛の妻と。人もエルフも分け隔てなく暮らせる街を作ると。それに・・・500年前の友人の名がついたこの街を守るためにね」

「5、500年前の友人?」

ティアはビックリしたがなぜか500年前と友人と言うフレーズに聞き覚えがあった。

「500年前の友人って言ったら・・・戦争に行く直前に見せてもらった盾の持ち主のことじゃねぇか?」

レンポの言葉にあぁ、とティアの脳裏に記憶がよみがえる。

ミエリの封印を解いたころ、カレイラとヴァイゼン帝国とが戦争を始める事件があり、その戦争にネアキの封印解除がかかわっているらしく、戦争に参加することになったのだ。

そのときに盾が必要になり、ゲオルグにたてを見せてもらったのだ。

「あの盾、けっこう大事にされてたよねー。でもローアンって女性の名前じゃないかしら?」

ミエリが小首をかしげてつぶやくと、ゲオルグが続きを話し出した。

「以前、君に盾を見せただろう?あの持ち主は実はここカレイラを勝利に導いた女戦士のものなんだよ」

ゲオルグのフレーズにも聞き覚えがあり、今度は自力で思い出せた。

あの日はとてもうれしくて、その直後に起きた出来事は心を切り刻んだ。

「それって・・・大会のときヒビの入った女神像のことですか?初代王に嫁いだ女戦士ローアンの名前を取ってこの街の名前が付けられたってヤツですよね」

言うとゲオルグは大きく頷いた。

「500年前戦に勝ってゼノンクロス王に嫁いでしまった彼女は私にこの盾をくれた。私の戦いっぷりに免じてね」

「ゲオルグさんもカレイラ建国戦争に加わってたんですか?」

ビックリして叫ぶと、ゲオルグはコレでも昔は強かったのだよと肩をすくめた。

今のメガネをかけてインテリ気の漂う戦いとは無縁のエルフが過去の対戦に参加していたとは思えなかった。

「あの当時はまだ人のことを誤解していたけれど、ローアンの心意気が気に入ってね。共に戦ったんだ。でも何度手合わせしても彼女には勝てなかったな」

朗らかに笑うゲオルグ。

「ほんのちょっとでいいんだ。お互いを理解しあう気持ちがあれば、種族など簡単に越えられるんだよ」

ティアはうれしそうに顔をほころばせた。

そして何気なく精霊を見上げると、彼らは四人とも何処か解遠くを見つめていた。

ソレを目で追うと、ティアは一瞬呼吸が止まった。



参照 13100 ありがとうございます!!
順調に終わりそうですね!

Re: アヴァロンコード ( No.541 )
日時: 2013/03/16 23:56
名前: めた (ID: FY5Qqjua)

13200ありがとうございます!
もう日にちが変わりそうですが、エルフと人編に終止符を・・・!←

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

朝のさわやかな風が吹く墓地の入り口にいたのは、紛れもなくシルフィだった。

じっとこちらを見て、拳をきつく握り締めている。

「・・・・!」

今までの会話を聞いていた、と言うことに驚いたのだが、さらに驚いたのはシルフィが泣いていたという事である。

「シル・・・フィ」

ティアが腰を浮かせて言うと、ビックリしたようにゲオルグも立ち上がってシルフィを見た。

シルフィはスカートを左手できつく握り締め、片手で涙をぬぐってから強気に歩き出した。

『…昔話が始まる少し前から、隠れていたらしいわ』

ネアキが徐々に近づいてくるシルフィを見つめながらつぶやいた。

どうやら精霊たちはいち早く彼女の存在に気づいていたらしい。

「シルフィ・・・聞いていたのかい」

ゲオルグがセレネの墓石から数歩はなれたところで立ち止まったシルフィに問いかけた。

シルフィは鼻をすすりながら、黙ってセレネの墓を見つめている。

そのクリスタルの目は涙で充血しており、少し腫れて鼻も赤くなっていた。


保守

Re: アヴァロンコード ( No.542 )
日時: 2013/03/19 10:49
名前: めた (ID: FY5Qqjua)

13300 ありがとうございます!
春休み入りました!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「えぇ、お父様のあとをつけてきたの」

まったく悪びれる様子もなくさらりと言ったシルフィはゲオルグを見て悲痛そうに叫んだ。

スカートを握る拳が強くきしんだ。

「でも、私はまだお父様の考えは理解できないわ!」

ティアとゲオルグ、精霊一向は黙ってシルフィを見つめている。

一見して父親の考えを否定するかのように聞こえるが、シルフィの言葉にはまだ続きがあった。

悲痛そうにせり上がっていた眉がふっと傾斜を低くする。

こわばっていた肩から力が抜けると、シルフィはつぶやいた。

「・・・でも、少しだけ・・・少しだけ人の良さが分かった気がする」

そういうと、今度は鼻をそらせてふんぞり返った。

さっきまで涙を流していた少女とは違う、えらく吹っ切れた様子の強気少女に戻ったシルフィは気遣うような喜ぶような顔のティアを一睨みすると、高慢な態度で微笑んだ。

「ふん、私がいつまでもないていると思ったら大間違いだからね!」

そう腕を組んでから、つぶやいた。

「・・・ありがと、ティア、じゃあね!」

180度ターンできびすを返して戻っていくシルフィを見ながら、ゲオルグはうれしそうに首を振った。

「やれやれ、あの様子じゃ、まだ理解が足りてないようだね。しかし、あの子なりに少しずつ進んでいくに違いない。礼を言うよ、ティア君」

ゲオルグも妻の墓に微笑みかけると、ティアに挨拶してからシルフィと同じように墓地を後にした。

取り残されたティアはその背中を見送ると、今一度セレネの墓の前にしゃがみこんでうれしそうに言葉を二言三言かけると、精霊と共に墓地を出て行った。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

これで個人章 エルフと人は終わりです。
ファナの奇跡の花にはまだ続きがあり、そしてゲームを久々にやってみるともう幾つか個人章があることに気づき慌てて目次に書き添えました。

Re: アヴァロンコード ( No.543 )
日時: 2013/03/19 12:55
名前: めた (ID: FY5Qqjua)

時刻は昼。

太陽の温かな光に照らされた街は良く活気付いているが、その街にティアとファナはいなかった。

二人はと言うと、一つのバスケットを二人で仲良く持ち、軽やかな足取りで世界の十字路を南に下り、大鮫の顎と呼ばれる崖岬に進んでいた。

かねてからの約束—ファナの病が治るずっと前、ファナが預言書の暴走に飲み込まれる前にした約束—を実現しようとピクニックを兼ねてここまでやってきた。

その約束は、二人でハクギンツバキを見つけると言うこと。

それはとても美しくて小さな献身的な花なのだ。

以前精霊四人を引き連れて真夜中に探しに来たティアは、それを見つけることが出来ず、ファナにプレゼントすることが出来なかった。

その後大会が開かれたり国外逃亡をしたり散った精霊を探しなおしたりといろいろ忙しく、ファナの病が治るまで此花のことを忘れていたのだが、強行して実現できた。

「今回は見つかるといいですけどね」ウルが空中に漂いながら言うのを、ティアは笑顔で頷く。

今日はやけに機嫌が良く、何を言われようが浮かれ気味の笑顔は崩れない。

それはファナと一緒だからでも在り、コレまで病気のせいでこうして外に共に出れなかったからでもあり、ファナお手製のお弁当があるからである。

二人で持っているバスケットの中にはファナが作ったサンドイッチなどが詰まっており、それが楽しみなのである。



保守

Re: アヴァロンコード ( No.544 )
日時: 2013/03/19 19:44
名前: めた (ID: FY5Qqjua)

崖道に似つかわしくない笑顔で歩いていたティアとファナは、太陽がてっぺんに来る頃ようやく足を止めた。

崖は直立で、そこから顔を出せばすぐ白波の砕け散るのを見ることが出来る。

潮風は微動だにしない崖と、そこに打ち付ける大きな波との間に挟まれて上昇気流を起こしている。

きっと帽子をしたまま覗き込めば、その帽子は飛ばされただろう。

とにかくそんな波が無くとも海の周辺は風が巻き起こっている。

その理由はウルによると、海面の温度は低く、逆に動きの無く、常に一定の場所を暖められる砂浜など陸地の温度は高い。

その温度の差が原因なのだと言う。

「ご存知のように、暖かい空気は上に。冷たい空気は下にたまる性質があります。気球などが浮き上がるのも、バルーンの中に暖かい空気が集まって、上に行こうとしているからなのです」

ふーん?と首をかしげているほかの精霊。ティアはバルーンなどが解らずほうけている。

そんなティアにミエリが風船みたいなものだよ、と耳打ちする。

「冷たい海の空気が暖かい陸地の地熱により、上へ巻き上げられるために風が起こるのです」

またもふーん・・・とつぶやくしか出来ない。

きょとんとしているティアをおいて、その話は幕を閉じた。

「植物はあまりないわね」

精霊の声が聞こえないファナからすれば、ティアは空中を見てきょとんとしているだけである。

「そうだね・・・ハクギンツバキは大きな植物に寄り添うように生えてるんだけど、そんな大きな植物もないね」

崖のふちをなぞるように視線で追うが、人が良く歩くところ以外を少し硬い高原植物が覆っているだけだ。

今彼女らが座っている固めの黄緑色の芝生以外は、草と言えるものもない。

「海でも見ながらお昼にしましょうか」

そう優しげに微笑んだファナは、バスケットのふたに手を差し込み、中からサンドイッチを取り出し始めた。

紅茶とサンドイッチをそれぞれ両手に持ち、二人は海も眺めずおいしいピクニックを開始した。



Re: アヴァロンコード ( No.545 )
日時: 2013/03/19 20:12
名前: めた (ID: FY5Qqjua)

「そういえばさ」二人がおいしそう人サンドイッチを食べているのを見つめながら、ミエリが他の精霊に言う。

ん?と言った感じで精霊たちが振り返ると、ミエリは目を輝かせながら言った。

「私たちを縛る枷をティアが解いてくれたよね?もう自由に触れたり—」

言いながらミエリは下降して地上の高原植物を撫でた。

その植物はミエリに撫でられて、かすかに揺れている。

「—自分だけのために最大限の力を解き放つことも出来るようになった」

「それがどうしたんだよ?」

レンポが首をかしげて聞くと、ミエリは人差し指を立てた。

「もうひとつ出来るようになったことがあるの。枷から解放されて実体化することが出来たので、食べることが出来るようになったんだよ!」

心底うれしそうに叫んだミエリに、ウルがすばやく口を挟んだ。

「我々の生命力はこの世界が何度滅ぼうが消えないわけで、食べ物を食べること自体不要です。食べたところでそのエネルギーは排出されること無く寿命へと続く力になるだけですし、これ以上長生きする必要ないですよ」

現実的なことを口走ったウルに、ネアキが小声でつぶやく。

ティアの手の中に在るサンドイッチに黄土色のきれいな目を釘付けにしながら。

『…でも、アレ、おいしそう』

ネアキの言葉に、三人の精霊はそろってサンドイッチを見つめた。

自分の命を引き伸ばす物質としか見ていなかったのに、ネアキの一言でそれがおいしそうな物質に変わった。

そもそも、食べるという行為をしたのは最初の自分達の手で壊した世界以来であり、久しぶりに何かを食べるのもいいだろうという気がしてくる。

「まぁ、永遠に生きる身として、寿命が延びたところで害はないだろ。久しぶりに何かかじるのも悪くないんじゃないか?」

レンポがミエリに賛成して、ウルもミエリに説き伏せられ、結局全員何か食べてみることにした。


Re: アヴァロンコード ( No.546 )
日時: 2013/03/21 19:25
名前: めた (ID: FY5Qqjua)

1 3 5 0 0ありがとうございます!!
三月中に終わらない予感でいっぱいですw

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

バスケットを覗き込むと、そこにはサンドイッチの列が在る。

小さな身体のままで覗き込んでいるので、自分の身体より少し小さいくらいのサンドイッチに少し威圧感が在る。

四人は顔を見合わせると、頷きあった。

舞い降りて、まずミエリがサンドイッチの1つを持ち上げた。

白いサンドイッチはふわふわしており、強く掴むと手形にくぼむ。

苦労して抱え込むと、そのまま四つの羽根を駆使して飛び上がろうとするが、予想以上に重い。

ビックリして思わず悲鳴を上げた。

「コレ重い!」

そのままもたついていると、挟まれていたレタスとハム、スライストマトなどがはみ出てくる。

「曲がりなりにも大精霊がこんな物もてなくてどうすんだよ」

レンポが参戦し、空中からサンドイッチに手を伸ばす。

そして思いっきりサンドイッチを力任せに引っ張ると、掴んでいた部分がちぎれて後方へ吹っ飛ぶ。

「何だコレ、脆いなぁ」吹っ飛んだサンドイッチを目で追いながらつぶやくレンポにネアキが嘲笑しながらミエリの傍に降り立った。

そしてしげしげと具がはみ出し、千切れて少しずたずたのサンドイッチを眺め、さらりと毒ずく。

『…レンポに任せるとサンドイッチがぼろぼろになる』

「なんだと?」

喧嘩モード突入の二人をなだめつつミエリが困ったように腕を組んだ。

目の前の半ばずさんな姿のサンドイッチをどう崩さずにうまく運ぶか、考えているのだ。

と、ネアキがサンドイッチの表面を撫でてつぶやく。

『やわらかい・・・』

腕組みしたままネアキとレンポに挟まれて頷くミエリはだから困るのよね、とつぶやく。

ウルはというと、そんな三人のやり取りを楽しげに地面に寝転がるようにしてみている。

なんだかんだで一番楽しんでいる。

と、サンドイッチを撫でる手を止めたネアキがつぶやく。

『凍らせたらどう…?』

天然要素が入っているミエリでさえあっけに取られ、ネアキを見つめるも、黄土色の瞳は名案と訴えてくる。

「何言ってんだ、だったら焦がして硬くしたほうがいいじゃないか」

今度は逆方向からレンポが言う。

一見名案そうだが、力の調節を間違えば黒焦げもいいところだ。

しかもしゃきしゃきする野菜の水気が奪われ、折角おいしそうなものを残飯にするのはもったいない。

「まぁ、とにかく三人で持ち上げてみようよ!」

考えている間も脇の二人が言い合いをしているのでミエリは二人にサンドイッチの端を持つように促した。

Re: アヴァロンコード ( No.547 )
日時: 2013/03/21 22:05
名前: めた (ID: FY5Qqjua)

レンポ、ミエリ、ネアキがサンドイッチを掴むと、サンドイッチは三方位工から引っ張られて少し突っ張った形になる。

「せーのっ」

掛け声と共に一気に空中に舞い上がると、妙なバランス感だがサンドイッチは見事に空中に浮いた。

「えっ?」

すると、ファナの驚いた声がする。

もちろん精霊の姿を見ることが出来ないファナには、サンドイッチはひとりでに空中に浮いたことになる。

「どういうこと・・・なの?」

不思議そうにファナがつぶやき、サンドイッチに手を伸ばそうとする。

どうして浮いているのか不思議な人が取る、ごく普通の反応である。

その指が近づいてくると、精霊たちは慌てて避ける。

今触れられれば折角持ち上げたサンドイッチは地面の上に落ちてしまう。

「あぁ、精霊たちがもっているんだよ」

ファナの声に気づいてティアが振り向きながら言う。

今までおいしい紅茶を飲みながら景色を眺めていたので、精霊の行動に気づくことは無かった。

それはファナも同じだが、彼女は精霊?と小首をかしげた。

なぜだか触れてはいけないような気がして、手を引っ込める。

「この本は預言書って言って、価値のあるものを取り込む本なの。それを守る役目の精霊たちが、ファナの作ってくれたサンドイッチを持ってるんだよ」

ふぅん?と首をかしげたファナは、興味深々でサンドイッチがその後どうなるかを見守った。

「これを、どこに、もっていくんだよ?」

空中に浮遊しながら大いに持ちにくいサンドイッチを手に、精霊たちは苦労していた。

少しバランスを失えば、柔らかなパンの隙間から具材が零れ落ちていってしまう。

『とりあえず、ウルのところ』

ネアキがつぶやくと、ミエリは首をめぐらせてウルを探した。

その行動がいけなかったようで、バランスを失って傾いたサンドイッチは精霊たちの手から滑り落ちた。 

空中をスローモーションで落ちていくサンドイッチ。

呆然と見ている三人の精霊の目の前でサンドイッチは突如キャッチされた。

「!」

サンドイッチをキャッチした黒い皮手袋をした大きな手の持ち主は、元の大きさに戻ったウル。

等身大に戻ればサンドイッチは軽々と持ち上げられる。

ウルは手のひらに乗ったサンドイッチを小さくちぎると、一人ひとり、小さな姿のままの精霊に手渡した。

そして皿の上に小さくしたサンドイッチをおくと、自らも小さな姿に戻り、サンドイッチを食べることにした。



Re: アヴァロンコード ( No.548 )
日時: 2013/03/21 23:02
名前: めた (ID: FY5Qqjua)

数えることすら不可能な世界の数を越えて、今久しぶりに食べ物を食べる。

精霊たちはためらうそぶりも見せず、少しずつ自分の頭より大きなサンドイッチの欠片にかぶりついた。

本当に久しぶりに食べたのに、味覚はまだ衰えてはいなかった。

『おいしい』ネアキが感激したように目を輝かせた。

「こんなうまい物、何世界分食べ損ねたんだろうな?」

「もう・・・覚えていませんね。最初の内は数えていましたが、もう数えるのはやめました」

ウルの言葉に、ミエリは首を傾げつつ言う。

「空の星よりも多いってのは確かね。いいなー、ティアは毎日いろんなものが食べれて」


精霊たちがファナの手作りサンドイッチを堪能している間、精霊について説明を受けていたファナは、ふわふわ浮かぶサンドイッチを見て少し笑みをこぼした。

「ファナのサンドイッチおいしいって、四人とも言ってるよ」

「そう?・・・ありがとう」

精霊の声は聞こえないが、こちらの声は聞こえていると聞いたので、ファナはサンドイッチの塊に声をかけた。

もちろん返事は聞こえないが、ティアによれば喜んでいるらしい。

サンドイッチの欠片がすべて食べられ、もう精霊がどこにいるか分からなくなったファナは、そろそろ行きましょうかと立ち上がる。

「片付けて、ハクギンツバキを探しましょう」

言うと、ふいにバスケットのふたが開き、皿やらティーポットたちがひとりでに浮き上がり、収納されていく。

一分ほどですべてきちんと片付け終わると、バスケットがふわりと舞い上がり、ファナの前でピタリと停止した。

「まぁ、片付けてくれたのね?ありがとう、精霊さんたち!」

ティアに言われなくとも精霊の行動だとわかったファナは笑顔でお礼を言った。


Re: アヴァロンコード ( No.549 )
日時: 2013/03/22 18:58
名前: めた (ID: FY5Qqjua)

1 3 6 0 0 ありがとうございます!
あと400で14000ですね!!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「乾いた風が吹いてくる・・・」

ファナとティアのあたりに漂っていたミエリが風を感じてつぶやいた。

昼食を終えて満足げに歩いているここは、大鮫の顎の下り坂。

岩肌がインディアンの住む地区のように赤い色を帯びてきたので、そろそろ引き返さないといけない。

「この先には、砂漠地帯のサミアドがありますからね。うっかり迷い込むと、今日中に帰れなくなります」

そういわれても、まだハクギンツバキは見つかっていない。

それどころか、植物は乾燥が進んでいくにつれて高原植物も消えていった。

「高原植物ですから・・・バルガッツォ渓谷に行ってみてはどうでしょう?」

『あっちの方が…確かに植物はあったわ』

精霊たちの言葉に頷き、ティアはファナにバルガッツォ渓谷に行くことを提案した。

赤い石に寄りかかっていたファナは空を見上げると、まだ明るいので頷いた。

「それじゃあ、さっそく行こうか」

Re: アヴァロンコード ( No.550 )
日時: 2013/03/23 17:40
名前: めた (ID: FY5Qqjua)

時同じくして、ここはワーグリス砦よりすこし北方。

ティアたちが目指しているバルガッツォ渓谷の上に立っているこの砦は今ではカレイラ兵によって厳重に見張られている。

今も、兵士たちと弓兵がいたるところから監視を続けている。

「ちっ これじゃあ大勢では行動できないな。どうしたものか・・・」

その光景を砦にできるだけ近づいたその人物は見つめ、困ったようにぼやいた。

だがその発言とは裏腹に、顔に傷の在る部分を撫でながら言った男の表情は余裕そうだ。

そして腰に帯びている愛用の剣をぽんぽんと景気づけに叩くと、その男、ヒースは野営地に戻った。

野営地にはヴァルド皇子と、ヒースの部下達がいる。

総勢20人ほどおり、見つかる恐れがあるので火も焚けない貧相な森の中の小さい陣地に密集している。

その中心はやはり皇子で、不安そうにヒースが帰ってくるのを座りながら待っていた。

「ヒース!無事だったか」と、ヒースの事を見つけ、ヴァルドは椅子から立ち上がって早く来るように促した。

部下達が道を開け、すばやくその間を通り抜けたヒースは少しお辞儀をしてから先ほど見てきたことを報告した。

「この大人数でカレイラ兵の見張りを切り抜けることは出来ないでしょう」

この言葉に辺りに居た部下達は不安そうに眉を寄せ合い顔を寄せ合って、首を振っている。

「では、少数ならば切り抜けられるんだろう、ヒース?」

だが皇子はぬけぬけと小首を傾げて言って見せた。

むしろそうでないと困る、と言った風に辺りを見回す。

「その通りです。少数ならそれに越した事はないでしょうね」

ヒースの言葉にヴァルドは頷いて、一つ提案した。

葉が生い茂る少しくらい森の中、目をこらして皇子を見ていた部下達が猛反対する提案だった。

「それなら、私とヒース将軍とで行くよ。二人のほうが行動しやすいだろうし」

「危険すぎます、絶対反対ですぞ!」「そもそもヒースは一端ヴァイゼン帝国を裏切った男ですよ?皇子の命を任せられません!また裏切る屋も知れませんぞ!」「そもそもこんな計画自体、危ないです!中止しましょう?」

ヒースはこの罵声に仕方がないと肩をすくめていた。

だが皇子は赤い目を一瞬細めると、すっぱり言葉の刃でそれらを切り捨てた。

「戯言はもう沢山だ。私はどうしてもこの計画を・・・カレイラとヴァイゼンの戦争を終わらせ、そして平和協定を結ぶことを諦めはしない。たとえどんなに危険であっても、この計画だけはつぶさない」

しかし・・・!と部下達が悲鳴を上げるが、皇子は目で制し、黙らせた。

薄暗い中普段は温厚な皇子に睨まれて、鳥のざわめきさえおさまるような気がする。

もちろん部下達はそろって口をつぐんだ。

Re: アヴァロンコード ( No.551 )
日時: 2013/03/23 18:17
名前: めた (ID: FY5Qqjua)

「それに何度も訂正するが、ヒースはヴァイゼンを裏切ってなどいない。むしろヴァイゼンを救うために動いた結果なんだ。宰相のワーマンによって操られた私は数々の過ちを犯した。むしろ咎めるべきは私だ」

部下達が神妙な面持ちで皇子を見据える。

裏切り者ヒースがヴァルド皇子を連れて帰国してきた時、皇子の口から国民全体に告げられたことだが、そのまま鵜呑みにできるものはいなかった。

宰相は今やどこにいるか知らない上に、皇子が一度殺されていたことなどだれも知らない。

魔王の器とするために宰相ワーマンが皇子を殺すことも理解できないし、むしろ魔王の存在など戯言に過ぎない。

だが皇子の言葉を否定することが出来ず、皆困った顔でうつむいた。

ヴァルドはそんなみなの反応を見て、肩をすくめた。

記憶をさかのぼっても、自分でも信じられない。

ワーマンに差し向けられた暗殺者に襲われて、魂を取り出され、愛猫グリグリの中に逃げ込んだ。

そして自分の身体に魔王の魂が移し帰され、猫の目でそれらを見届けていたことなど、気でも違ったのではないかという気さえする。

(だけど、あれはすべて事実だったんだ・・・)

いっそ本当に気が違っていて、その間に見ている夢だとしたら良かったのに、とつい思ってしまう。

だがすべて事実だ。

何もかも終わって自分の国に帰ってきたとき、自分のせいで起こった戦争は勢いを増していた。

このままではいけないと、立ち上がって国民を制圧して、英和協定を結ぶことを表明した。

猛反対の中、振り切るようにカレイラへ向かう皇子についてきた部下達は、協力すると言うより諦めさせようとしている様だった。

彼らを振り切って理想の世界を創るという心に従ってついてくるヒースと共に行動する方が、ヴァルドとしては動きやすかった。

「とにかく、一緒に行きたいと言うのならば無事に、そしてカレイラの誤解を招かぬように相手を傷つけずに私と合流してみろ。私は切り抜けたと同時にすぐさまカレイラへと向かう。待つことはしない」

そういうと、ヴァルドは立ち上がり、ワーグリス砦に向かって歩き出した。

狙うは兵士の巡回の少ない部位。国境を分かつように長く延びた砦のレンガを這い登るか、穴を掘って潜り抜けるしかない。


Re: アヴァロンコード ( No.552 )
日時: 2013/03/23 19:59
名前: めた (ID: FY5Qqjua)

長い長いレンガの砦道。兵士が幾人か行き交っている。

堕落した以前の兵士とは違い、戦争目前で緊張感をみなぎらせた兵士の目はぎらぎらしている。

「ホントに行くんですか?」手下の一人がヴァルドにささやく。

早く諦めてくれと、そういう響きの言葉にヴァルドは頷き、ヒースの合図を待った。

砦の人気のないところを、一人ずつレンガの塀を潜り抜けてすぐ森の中へ駆け抜けるのだ。

ヒースの合図により、ヴァルドはすばやく立ち上がって砦近くの草むらからレンガの影に飛び込んだ。

それから一呼吸置いて辺りをうかがう。

どうやらカレイラ兵には見つかっていないらしい。だがまだ安心できない。

先に渡って行ったヒースと同じ道を通り、レンガを越えてワーグリス砦を越えたヴァルドはヒースと合流して、すばやく最寄の林に駆け込んだ。

きっと後を追ってくる部下達はいない。

そのまま振り返らず、バルガッツォ渓谷を駆け下りた。



ヴァルド皇子とヒース将軍がバルガッツォ渓谷を駆け下りている頃、ファナとティアは逆に登っていた。

ハクギンツバキを探して、もうじき濃霧の出る山頂付近に到達する。

「ここにもねーのか?」辺りを包む白い霧の中を必死に探しながら進むが、霧のせいで良く見えない。

「きっとどこかにあるはずだよ」ティアがしゃがみこんで草むらに手を探る。

ファナは濃霧の中、少し不安そうにバスケットを握りなおした。

と、そのとき霧から何か飛び出してきて、しゃがんでいたティアに躓いて大きくひっくり返った。

「?!」ティア、ファナ、精霊、突っ込んできた物体は酷く驚き、目を見開いてお互いを見合った。

「あなたは・・・ヴァイゼン帝国の?」

ファナがバスケットを地面に取り落とし、ティアの手をつかんで立たせて後ずさった。

王冠が地面に転がり、少しうめきながら四つんばいになったヴァルド皇子は慌てたように立ち上がった。

「一般人に見つかるとは・・・!」

「安心してくださいカレイラの住民よ。我々は決して危害は・・・—おや?ティアじゃないか?」

ヴァルド皇子の悲鳴に、すばやく追いかけてきたヒースは二人に話しかけ、ティアを診て驚いたように声を上げた。

「ヒースさん、一体何してるんですかこんなところで?」

ティアは怯えるファナをなだめながら、素手武術を教えてくれた師匠を見上げた。




Re: アヴァロンコード ( No.553 )
日時: 2013/03/26 11:37
名前: めた (ID: FY5Qqjua)

参照 1 3 8 0 0 ありがとうございます!!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「—ということなんだ」

濃霧の中では危険と、霧の薄いところまで下ったティアたち一行は、バルガッツォ渓谷のたもとの、一本橋まで戻っていた。

そこで、どういう経緯でヴァルドとヒースが敵国までやって来ることになったかと言うことを聞かされていた。

「じゃあ、コレが成功したらヴァイゼン帝国とカレイラ王国の戦争は終わると言うことなのね?」

ファナが驚いたように敵国の二人を見上げ、目をしばたきながら言った。

「私はヴァイゼン帝国はカレイラと戦争をしたがっているのかと思ってた。だけど、平和協定が結ばれることになれば両国とも安堵するわね」

もとより戦争がキライなファナにとってまことに朗報だった。

むしろ戦争によって利益を受けるのは、物価上昇により高値で物を売りさばく商人と、武器屋だけである。

多くの国民は戦争に引っ張り出され、武器を掴まされる。

指揮を取り戦争邁進派の上司達は、彼らを安全なところからチェスの駒のように扱うのだ。

たとえ戦争に勝ったとて、やはり利益があるのは苦労せず命令のみを出す者達だけで、一番の被害者である国民は多くのものを失い、悲しみにくれるだけである。

なので、今回出た平和協定は負の連鎖を断ち切る、素晴らしい提案だった。

「だが、一つ問題がある」輝かしい提案の後、ヒースは暗い表情でつぶやいた。

自然とそれを聞き入っていたものは眉を寄せてそれがどういうことであるかを催促した。

ヒースの代わりに口を開いたのは、皇子だった。

「私が起こした出来事だ。ワーマンに操られ、魔王となった私が起こした悲惨な出来事によって、カレイラはヴァイゼンの皇子を簡単に許すと思おうか?しかも今は先のワーマン率いる帝国軍のカレイラ進出のせいでいつ戦争になってもおかしくない。私が出向いたことでその幕が切って落とされるかもしれない」

行動しなければいずれ戦争。行動してみても戦争を触発するかも知れない。

おまけに自分が背負うのは自分の命だけではなく、多くの帝国民の命と戦いによって散るカレイラ王国の命が乗っかっているのだ。

下手なことをすればそれらの命が泡のように消えていくのである。

自分ひとりの行動がどの選択肢を取るかによって大勢の命につながっている。

ヴァルドは少し考えるそぶりを見せると、小首を傾げていった。

「・・・ここで会ったのも何かの縁、ティア、君に1つ頼みたい事が在る」

Re: アヴァロンコード ( No.554 )
日時: 2013/03/27 14:10
名前: めた (ID: FY5Qqjua)

参照 13900 ありがとうございます!
あと100で、14000ですね!!
コレは一体いつになったら終わりが見えてくるんでしょうかね・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「頼みたいこと?」

ティアがオウムのように復唱すると、ヴァルドは大きく頷いた。

「先ほども言ったが、私が直接カレイラに出向くことが出来たとしても、カレイラの王族は私に会ってくれないだろう。そこで君に頼みたい」

何を言うんだろうと黙って聞いていると、ヴァルドは思い切ったようにはっきりと告げた。

澄んだ赤い目はコレが本気であると発している。

「カレイラのゼノンバート王と私との会談の場を設けてほしいのだ。カレイラの英雄たる君ならば王の心に訴えることが出来るかもしれないんだ・・・どうだろう、頼まれてくれるかな」

ティアは瞬きすると、すぐに頷いた。

あんまりあっさりした返事だったので、ファナが驚いて目を見開いた。

もしかしたら敵国に寝返った反逆者として罰を受けるかもしれないのだ。

(ティアがまた王様に罰されたらどうしよう・・・)

ファナの心配そうな視線にティアは大丈夫と言って見せるとヴァルドにもう一度了承の返事をした。

「ありがとう、協力してくれるんだね」

潔い返事に安堵したように微笑んだ皇子は、だが表情を引き締めた。

「だがコレは危険な賭けでも在る。いくら英雄といっても、君はコレが元で阻害されるかもしれない。それでもいいと?」

少しきびしめの言葉で言われるがティアは同じように了承した。

「・・・ありがとう、では頼んだ」

ヴァルドがほっとしたように言うと、傍らに居たヒースはティアに付け加えるように言った。

「俺達はカレイラのものに見つかると無駄な争いに発展する可能性がある。だから、ラウカのところに身を隠すことにしている。手数をかけるが会談の返事をラウカのところまで届けてくれるとありがたい」

それと、と今度はファナの方へ向いて言う。

「このことは内密に」

頷いたファナを見て、二人は満足げに頷いた。

「それじゃ、俺と皇子は人気のない森を戸尾ってラウカの元に行く。朗報を期待してるぞ」

言って、ヒースは慣れなさそうに雑多な林の中に王冠をつっかえながら歩いていく皇子を先導して去っていった。

それを見届けると、ティアはくるりとファナの方へ振り返った。

「ごめんね、ファナ。ハクギンツバキはまた今度ね」

「いいわ、そんなこと。とにかく早く帰って王様に知らせないといけないわね」

そんなことを言い合いながら、ティア一行は早足にカレイラに急いだ。



Re: アヴァロンコード ( No.555 )
日時: 2013/03/28 17:02
名前: めた (ID: FY5Qqjua)

急ぎ足でカレイラまで下り、中心街でファナと別れ、ティアはそのままフランネル城まで走った。

その急ぎように門番の兵士たちが悪い知らせなのだろうかと不安がる。

この国の若き英雄の一人が血相を変えて王に会いに行くとなれば、もしや戦争の機長でもあったのかとコマ使いもおろおろと目配せしあう。

不安感をばら撒きながら当の本人は謁見の間に転がり込んだ。

長い階段に息を切らせながら王の前に来ると、ゼノンバートは驚いたように玉座から立ち上がった。

「何事だ、英雄よ。なぜそんなにも血相を変えてワシに会いに来た?」

ティアは一息置くと、深呼吸してから話し出した。

「王様、私はヴァイゼン帝国の皇子から親書を預かってきました」

<親書とは平和条約を結びたい、などの口答文のことも指す。日本では屏風型に折った紙などに良く書かれていた>

その続きを言おうと口を開きかけた途端、ゼノンバートが目を見開いて叫んだ。

「なに?帝国の王子から親書を預かってきただと?!」

「そうです・・・けど・・・帝国と王国とで平和条約を結びたいと言ってました」

その叫び声にティアは面食らっておずおずと顔を上げる。

国王の顔は信じられない物を見たときのように目がまん丸になり、口はぽかんと開いている。

だが良く観察すると、次第に開いた口の端に皮肉そうな笑みがついてきた。

王は鼻にしわを寄せてフンッと笑うと、玉座にどさりともたれかかって戯言を聞くような姿勢になった。

「ふっ、ははは!」

と、急に笑い声を上げてティアをビックリさせた。

玉座に肩肘を着き、もう片方の手でさもおかしそうに眉間に手を置く。

「王様・・・?」

ティアが不安そうに声を上げると、王は急に起立して叫んだ。

「もはやだまされぬぞ!!何が平和条約だ、何が親書だ!ばかばかしい」

王冠が揺れるほど激しい言葉にティアはあっけに取られて王を見つめる。

王冠のすぐ下の眉間にはくっきりと青すぎが浮き出ており、顔は怒りで真っ赤だ。

精霊たちは心底うるさそうにティアの背後に回り、その背中から王を伺う。

「あの男が何をしたかわかっているだろう?かつて皇子は偽りの平和条約を結び、このカレイラを油断させ、戦争を仕掛けてきた!星が直撃したカレイラめがけてやってきたことも在る、結果は我が住民達にやられて退散したがな。ともかくそんな生け好かぬ国と平和条約など結ぶものか」

鼻を鳴らすと王はとにかく、とため息混じりに言った。

「戻り、皇子に伝えよ。カレイラの心は帝国を受け入れないとな!」

「・・・これ以上話しても無駄なようですね、一端報告に帰りましょう」

何とか弁解しようとするティアにウルは王の態度を見てこれ以上はムダだと告げた。

「仰せの通りに」

ティアが王に会釈してすごすご引き返すのを、王はため息と共に見送り、玉座に身をうずめた。

一人娘がその話の一部始終を盗み聞きしていたことに気づかずに。



Re: アヴァロンコード ( No.556 )
日時: 2013/04/02 18:03
名前: めた (ID: FY5Qqjua)

参照 14100 超えましたありがとう!!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

まだ明るい空の下、洞窟を駆け抜けて美しい太陽の棚を通り過ぎ、森林を駆け巡る。

そして日が暮れる前に森の中の邸宅—自然味あふれるラウカの家であるここに、たどりついた。

「とりあえず、残念な結果だけど知らせよう」

ミエリが腕を組みながらティアに言い、ティアは頷いてからラウカの野性的な家に足を踏み入れた。


巨大きのこを住居にして住まうのは、獣の耳をピンとはやし、ピンク味掛かる赤毛をたてがみの様に生やした誇り高き野生児ラウカ。

ティアが戸を叩くと共に蹴破るように扉が開き、驚いたティアに突進して押し倒すという野性的挨拶でラウカが迎えた。

「久しぶりだナ!また森に行くカ?川遊びでもいいゾ!ラウカは狩りがしたイ!」

「分かった、分かったよ、コレが終わったら森に行って狩りをしようね」

犬が遊び相手の子供に飛び掛るようにしてジャレ掛かってくるラウカを押しのけてやっと立ち上がると、開いた扉の向こうに唖然とするヴァルドと肉にかぶりついているヒースがいた。

「何かと思ったよ・・・驚いた・・・」

ヴァルドが少し笑みを取り戻しながら自分の手に握られている獣肉をヒースに押し付けた。

食わないんですか、皇子?という視線に頷きヴァルドはティアに歩み寄った。

赤い目が少し不安そうにティアを見た。

「それで、ゼノンバート王は・・・?」

ティアはあいまいな言い方は良くないと心得ていたので、すぐに切り出した。

「残念なことに、こう言われました——」

「—・・・そうか」

説明が終わり、カレイラの王族は心を開かぬと伝えられたヴァルドは、肩を落とした。


保守

Re: アヴァロンコード ( No.557 )
日時: 2013/04/04 17:39
名前: めた (ID: FY5Qqjua)

14200 越えました!ありがとうございます!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「そうか・・・」ティアからの報告が終わると、ヴァルドはもう一度つぶやいた。

ヒースが肉にかじりつくのをやめて、深刻そうな面持ちで皇子を見上げた。

ラウカは何のことかわからないようで小首を傾げて二人を眺めている。

「あの平和条約は本物だったのだが・・・平和条約を結んだあの日、私は暗殺者に襲われてクレルヴォに体をのっとられてしまった。・・・確かにカレイラから見れば油断させるための作戦に見えるね」

困ったように言った皇子は顔を上げた。

「だけど・・・私は諦めない。なんとしても王国と平和を結んで見せるよ!」

「・・・ワーマンの暗殺計画が平和条約の障害となると、ワーマンを締め上げたくなるな—まぁ、今ヤツがどこにいるか分からないが」

ヒースが肉を手に持ちながら物騒なことを口走る。

ラウカがだれだか知らないけど、手伝わせロ!とやる気満々で目を輝かせている。

物騒なやり取りだが、なぜだか笑いを誘う。

「それじゃ、ラウカ狩りに出かけようか!」

ティアがラウカを誘うと、ラウカは獣耳をピンと立ててすぐさま走りよってくる。

二人して扉の方へ歩くと、後ろの囲炉裏から慌てたようにヴァルドが声をかける。

「今回のお礼をしないと・・・」

「ティア、早ク!」ラウカは待ちきれないようで、ティアの服の袖を引っ張り子供のように目を輝かせている。

対するヴァルド皇子も断っても、それではこちらが困るとお礼をしようとする。

頑固なのはラウカもヴァルドも同等なようだ。

「うーん・・・それじゃあ、ハクギンツバキのありかを知りたいですね」

今一番ほしいものといえばファナと一緒に探したが見つからないあの花の情報である。

献身的な花のありかを知れれば、ファナとそれを見にいける。

「ハクギンツバキ・・・?・・・わかった、探しておくよ。もう一度今回の礼を、ありがとう」

「ティア、終わったのカ?じゃあさっさと行くゾ!」

ラウカに引っ張られ、飛び出すように家を出て行くティアの耳に、ヴァルドの声が聞こえた。

心底困ったように、ぼそりと、カレイラの王族に誰か一人でも帝国に敵意を持っていない人はいないだろうか・・・、と。




Re: アヴァロンコード ( No.558 )
日時: 2013/04/04 18:11
名前: めた (ID: FY5Qqjua)

ティアがラウカと風のように去ると、ヴァルドはくるりと振り返った。

囲炉裏には焼かれた肉が骨に突き刺さったままジュウジュウ音を立てている。

それを獲物を見る目でヒースが焼け具合を確かめている。

もうじき食い時だな、などといっているがそうはならないことをヴァルドは知っている。

自分のために肉を焼いてくれるのはいいが、もうじき自分はここにはいなくなる。

「ヒース、悪いけれど留守を任せたよ」

え?という顔でヒースが顔を上げて、ヴァルドを凝視する。

だがいつものように何食わぬ顔でケロッと言う。

「私はハクギンツバキなる花を見たことがない。だがカレイラの王にお目どおりが出来ない今、私は暇人だろうから、そこらじゅう歩き回って探すつもりだ。だからラウカが帰るまで留守を頼むよ」

そして背中を向けようとすると、慌てた様子で立ち上がった。

騒々しい音がするので振り向くとヒースが急に立ち上がろうとしてしびれた足で転んだ音だった。

しびれた足を痛そうにさすり、うめいている。

「それじゃあ、いってくるよ」

そのまま扉に手をかけようとすると、ちょっと待った!とヒースが騒ぐ。

「帝国の皇子がうろついていたとなると全力で首を取りに来るかもしれない!ここは俺が行きます!」

「—でも、足がしびれているんじゃないの?」

顔はいたって真面目でやる気に満ちているが、足が電気が流れたようにしびれている。

だがそうヴァルドが断ろうとすると、勢いよく立ち上がった。

悲鳴を上げるのを我慢して、すっくと立ち上がるとぎこちない足取りで顔をゆがめないように我慢しながら扉を押し開ける。

ヴァルドがあっけに取られてそれらの動作を見ていると、ヒースは外へ出て行った。

「待ってよ、私はまた待機か?私もハクギンツバキというものを見てみたいのだ」

そう叫ぶが、階段を下りてどんどん見えなくなっていくヒースは皇子はそこに隠れていてくださいと、目で訴えるだけだった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

世界協定→ヒースのお使い

Re: アヴァロンコード ( No.559 )
日時: 2013/04/07 19:32
名前: めた (ID: 8.g3rq.8)

参照 14400 超えましたありがとう!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

狩りから帰ってくるとヴァルド一人ぽつんと部屋の中心にうずくまっていた。

話を聞けばヒースは皇子のお使いに行ったそうだ。

構わないで良いということなので、獲物を焼いて食べた。

それらを食べ終わり、ティアが家へ帰る頃になってもヒースは一切姿を見せず、行方をくらませていた。

帰り道、ティアは精霊たちとしゃべりながら歩いていた。

薄暗くなる森をとぼとぼと歩き、少し足の裏がジンジンする。

「帝国と王国の平和条約は実現しないのかなぁ」

「国王その人が望まないわけには叶いそうにないですがね・・・王と同等の発言権や権力を持つものが賛成すれば話は別ですが」

ティアのぼやきに、ウルが腕を組んでまじめに答えた。

?と小首をかしげるほかの精霊とティアに、ウルは人差し指を立てて答える。

「例えば王妃とかですかね。宰相もことを動かせる力を持っているかもしれないですが」

「カレイラにはどっちもいないぞ?宰相の立場の国務大臣だっていないし、王妃は墓に眠ってるし」

ウルの言葉にレンポが突っ込む。

と、ウルが振り返って全くその通りなのですよ、と頷いた。

ただ、と赤と蒼の目を伏せて何か考え込んでいる様子。

徐々に森が開けてきて、滝の音が聞こえてくるとティアは足を速めた。

もう遅いので滝から飛び降りるつもりだった。

そのほうが早く家に帰れるし、暗い洞窟の中をさまよわなくて済む。

「どうにかして王様を説得するしかないってことねー・・・」

ミエリがそんなこと出来るのかなぁと肩をすくめつつ言う。

優しげな弓なりの眉は心配そうに下がり気味だ。

『…このまま時を過ぎれば戦争が待ってる。それに、まだ世界の崩壊は止まったわけじゃない。崩壊までのときは確実に刻まれてるの』

はっとしたように振り返ったティアに、ネアキはそのきれいな黄土色の目を合わせてつぶやく。

ぼんやり光を放ち始めた月の光に照らされて、ネアキの青白い肌が一掃白く見える。

『…戦争が始まったら、崩壊までの時は加速してしまうわ』

ネアキの冷めた口調からは、何をしてでも王の心を変えろと伝わってくる。

「なにか、手があればいいのに・・・」

ティアが少しあせったように髪をかきあげる。

月のきらめきをそっくり反射している銀の髪飾りに無意識に触れる。

母の形見に触れれば何か落ち着くかと思ったが、心は強風のときの森のようにざわめき続けた。


Re: アヴァロンコード ( No.560 )
日時: 2013/04/08 21:00
名前: めた (ID: 8.g3rq.8)

滝から飛び降り、びしょぬれのティアはカレイラの我が家に着いた。

少し寒くて、早足になり、前方十メートル先に見える我が家に走りよると、だれかいた。

「アイツは・・・わがまま姫か?」

え?と寒さにうつむいていたティアはひっそりたたずむその人物に目を凝らした。

家の扉の前の木板に腰掛けてうずくまるその人はすっぽりとワインレッド色の頭巾で体中を覆っている。

とても温かそうであるが、人目をはばかるようにわずかに顔がのぞいてる。

「ホントだ、ドロテア王女が何の用かな?」

「見た感じ、身を隠しているようですが・・・バレバレですね」

ミエリとウルがティアより先に飛来し、そのあたりをきょろきょろと見る。

ドロテア以外誰もいないようで、一体何のようであるのか全く分からない。

「ドロテア王女?」

ティアが駆け寄って言えば、そのワインレッドの固まりはびくっと身体を降るわせた。

そして恐る恐る空色のガラス球のような瞳をこちらに向けると、ほっとしたようにため息をつく。

「なんじゃ、ティアか。よくわらわだとわかったのう?」

そして赤ずきんのようなズキンから顔を出してにっこり笑う。

「変装のつもりかよ?頭巾かぶってるだけで他はそっくりそのままじゃないか」

ドロテアは確かに赤いズキンのほかには桜色のいつものドレス姿で、かなり目立つ。

夜でなければ姫だと確実にわかる。

あきれたようにレンポが言うけれど、精霊の声はティア以外の人に聞こえない。

そのまま苦笑いをしていたティアに、ドロテアが急に深刻そうな顔をしていった。

「のう・・・この前、父上に話していただろう?その・・・ヴァルド様がどうとか」

ティアがビックリして何も言わないでいると、ドロテアは我慢できないと叫んだ。

「平和協定の話、わらわもヴァルド様の役に立ちたいのだ!」

Re: アヴァロンコード ( No.561 )
日時: 2013/04/10 14:33
名前: めた (ID: 8.g3rq.8)

ドロテアの言葉を聴いて、ティアの脳裏にヴァルドの呟きがよみがえる。

“カレイラの王族に誰か一人でも帝国に敵意を持っていない人はいないだろうか・・・”

その人物こそドロテアではないか!

眼前で、うろたえたようにしゃべっている少女こそ、カレイラとヴァイゼンを結ぶ架け橋となる人ではないか?

「もう無意味な戦いを終わらせるべきなのじゃ。父上もそれはわかっているはずなのに・・・ティアもそう思うじゃろ?」

空色の透き通る幼子のような目は、月の灯りで輝いている。

邪心の一切の欠片も浮かばない、無垢な目にかけてみることにした。

精霊たちも、もしやこの子なら、と期待した目で頷きあった。

「ドロテア王女、協力してくれますか・・・?」


その場でヴァルド皇子の平和協定が結局カレイラに受け入れてもらえなかったことを話すと、ドロテアは父上、と小さくつぶやいた。

そして顔を挙げ、一体何の協力をして欲しいのだと聴いてくる。

そこでティアはこう持ち出した。

「ゼノンバート王を説得してみてほしいんです。このまま平和条約が決裂したままだといずれ戦争が起きてしまいます。このチャンスを逃したら最後、もう平和条約を結ぶ機会はないと思うんです」

ドロテアは眉を寄せながら深々と頷いた。

「わかった。父上に掛け合ってみるのじゃ」

そして身を翻してフランネル城に走り去った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照 1 4 5 0 0 越えました、ありがとう!!

Re: アヴァロンコード ( No.562 )
日時: 2013/04/10 17:34
名前: めた (ID: 8.g3rq.8)

走り去ったドロテアは赤い頭巾を忘れていたが、そんなこと全く気づかずにフランネル城目指して一気に駆け抜けていた。

桜色のハイヒールでタイルを強く蹴り、ドレスを翻して進むスピードは王宮に閉じこもる姫を全く想像させない。

もし誰か姫をさらおうとしようともこのスピードにはついてこれなかっただろう。

そのままの勢いを保ったままドロテアは城の入り口に駆け込んだ。

もちろんティアの元へ向かったときは別のところから抜け出したのだ。

一国の姫が、まして戦争が起こりそうなときに城から出られるわけがない。

こっそり抜け出すしか外に出られないのだ。

「ドロテア様!?いったい、何で外に?!いつ・・・出て行かれました?!」

なのでドロテアが門番の前を猛スピードで走り去ったとき、守衛の門番は驚愕したのである。

だがドロテアは立ち止まらず、エントランスを抜けて大勢の使用人やら騎士を驚愕させて、王のいる謁見の間にやってきた。

そもそも謁見の間に王とドロテアの部屋があり、それぞれ右と左に扉を隔てて位置している。

そこにいると思っていた娘が急に別のところから現れたので、玉座にいた王は目を見開いた。

そして赤い絨毯を進んでくるドロテアに眉を寄せて聞いた。

「いったい、どうしたんだドロテア?部屋にいるのではなかったか?」

「父上、聞いてほしい事があるのじゃ!」

ドロテアは父の言葉をさえぎって玉座の前に転がり出た。

王の言葉をさえぎれるのは、今ではその愛娘のドロテアしか出来ない技である。

ほかのものがこんなことをすれば、たちまち王の逆鱗に触れてしまう。

「なんだ?言ってみよ」

「ティアから聞いたのじゃ!父上、ぜひヴァイゼンとカレイラの平和条約を結ぶべきなのじゃ!もう無意味な戦争は終わらせて、昔のように—」

ドロテアが言いながら顔を上げると、思わず口をつぐんでしまった。

王の顔に張り付く表情。その形相は世にも恐ろしい。

ドロテアと同じ色の瞳が、怒りできらめいた。

「お前は黙っていなさい。誰から何を言われようと、もう遅いのだ。一度ならず二度までも戦争を仕掛けてきたあの国などと共生などできん」

そういうと、王はドロテアにそれ以上話すなと命じた。

Re: アヴァロンコード ( No.563 )
日時: 2013/04/11 20:53
名前: めた (ID: 8.g3rq.8)

参照 14600 ありがとございます!!
まったり終わらせるのもいいですね
八月に入ったら、一周年ですな
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ドロテアはむっと口を結んで、王をにらんでいた。

わがまま好き放題やらせてくれた王が、自分に珍しく「〜するな!」などと命令するので、怒りがあふれてくる。

我慢などした事がないドロテアにそれは逆効果で。

「父上などもう知らぬわ!」

一声叫ぶと、ドロテアは頬を膨らませてさっと身を翻し、謁見の間から出て行った。

その後姿を全くの無表情で見つめた王は、嘆かわしげに玉座に背を預けた。


ドロテアはつかつかと一直線に城から外へつながる道をぶっちょうずらで歩んでいた。

だがその顔は王のような恐ろしさとは無縁で、ただ幼子が膨れているようにしか見えない。

そのままの勢いでお気に入りの中庭に着くと、美しい噴水のふちに腰掛けた。

当たりを満たすのは夜の冷たい空気と、噴水の奏でる水音だけ—ではなかった。

なにやら城門の方で言いあいが聞こえる。

言い合いといっても、口論ではなく、誰かと誰かが話している。

こんな晩にだれじゃろう?とドロテアはこっそりと城門の方へ移動し、そっとのぞいてみた。

渡し橋のかかる石造りの城門では門番とティアが話していた、

ティアの手には赤いズキンマント。

先ほど忘れていったドロテアのものであり、わざわざ届けてくれたらしい。

だがそれが不幸にも、門番の審査に引っかかったらしい。

女王がどういう理由で城を抜け出したのかと、しつこくティアに聞いているのだ。

「いや、私どうだか知らないんですよ」

「ではこのズキンは何処で拾われたんでしょうか?なぜドロテア様のものとわかったのですかな?」

このやり取りで数分が過ぎ、ドロテアは飽きてきた。

そしてさっと城門に飛び出すと、門番の手からズキンを奪い取った。

「ドロテア様!」

ビックリして声を上げた門番に、ドロテアはツンと鼻をそらしていった。

「父上がそなたをお呼びだそうだ。早急に向かうよう、言っておられたぞ。代わりの門番はすぐに来るから気にせずにはよう向かうと良い」

言われて、蒼白気味の門番はドロテアにお辞儀するとそそくさと王の下へ急いだ。

Re: アヴァロンコード ( No.564 )
日時: 2013/04/11 21:02
名前: めた (ID: 8.g3rq.8)

「さて、邪魔者は消えたことじゃし、頼みごとを聞いてもらおうかの」

ズキンを羽織って赤ずきんのように金髪を隠したドロテアは真面目そうに言った。

「わらわをヴァルド様の元へ今すぐ連れて行くのじゃ!」

「今すぐですか?王様にはなんて・・・?」

ビックリしたティアは思わず聞き返し、ドロテアは顔を曇らせた。

そしてふんっと鼻を鳴らすと、奧行に腕を組んでからいった。

「歳を取ると考えが硬くなり困ったのもじゃ。わらわのように柔軟に物事をとらえるものが、活躍せねばならなくなったということじゃ。ほら、さっさと案内せんか!」

「それって誘拐になるんじゃ」と言いかけたティアに、ドロテアは首を振った。

やけに自信満々だが、裏づけは全くない。

「ならんならん!わらわが行きたいといって連れて行ってもらうのじゃから、誘拐ではない!」

そして渋るティアを言いくるめて、ついには城から二人で抜け出した。

行き先は、ラウカの住まう猟師の森。

Re: アヴァロンコード ( No.565 )
日時: 2013/04/17 11:13
名前: めた (ID: 8.g3rq.8)

14800越えてたありがとう!!
今日は学校お休みなので一気にすすめます!!(暇人

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「—陛下、今参りました!」

「・・・—?」

ゼノンバートの前にひざまずいて、門番はびくびくした様子で王の声を待った。

赤い絨毯、自分の影で今はくすんだ色になった絨毯をじっと見つめて、待つ待つ—が、声が掛からない。

(俺が一体何をしたというんだ・・・)

とんでもない王の怒りに触れたと思っている門番は心底震え上がった。

免罪処分になったが、英雄が一時牢獄に放り込まれたとき、食事も一切与えられずずっと放置していたことがあった。

英雄はどうやったか知らないが脱獄していたので衰弱—ひいては餓死せずに済んだ訳だが、普通の人ならば死んでいただろう。

もし、自分が牢獄に放り込まれたら?

待っているのは確実な餓死への道だろう。

(なんてことだ!今すぐ逃げないとまずいのではないか?恋人にも会えなくなるうえに、空腹に悩ませられながら数日かけて命をとられるとは!聖王だとは良く言ったものだな、コレは無慈悲で残酷な王じゃないか)

「ダンドンよ、面を上げろ」

「は、はい」ダンドン—門番はこわごわと顔を上げた。

心の中で毒づいた声でも聞こえたのかと思うほど、神妙な顔つきで王は玉座に君臨している。

するどい空色の瞳はまっすぐダントンを貫いている。

「おまえ、なぜここに来たかわかるか?」

言われてダンドンは震え上がった。

まぁ、思い当たる節は—何個かあった。

牢獄前の長い廊下の掃除をサボったり、ある時は鎧姿のまま長廊下に設置されている高価な椅子に腰をかけて布地を引き裂いてしまったり、ドロテアの愛猫が逃げ出したときも、探すのをサボっていた。

とりわけ最後の二つは自分でもまずいとわかる。

王家の物品を傷つけたこと、そして王の溺愛する娘に対する態度。

この二つで間違いない。

観念して吐露しようとした瞬間、謁見の間に誰かが飛び込んできた。

「シャララ!」ダンドンは振り返って小さく声を上げた。

謁見の間に飛び込んできたのは小間使いのシャララという若い娘で、彼の恋人である。

その人物が血相を変えて王に言った。

「大変です、ドロテア様が城の外へ出て行かれました!」


Re: アヴァロンコード ( No.566 )
日時: 2013/04/17 11:39
名前: めた (ID: 8.g3rq.8)

「なんだと?何処へ行ったのだ!!」

雷が地上に落ちた轟音のような声でゼノンバートが叫び、あたりの空気をふるわせた。

ダンドンは身を震わせ、シャララも肩をすくめて震え上がる。

「つい先ほど・・・英雄殿と共に城外へ出て—」

「何を考えておるのだ娘は!きっと帝国のヴァルドの元へ向かったのだな」

シャララの声をさえぎってゼノンバートは怒りに肩を震わせていた。

だが困ったことに肝心のヴァルドのいる場所がわからない。

すぐに向かいたいが、一体どこにいるのか見当もつかない。

「帝国まで行ったのでしょうか?それとも何処かで野営でもしているのでしょうか?」

シャララが不安そうにうろたえる声で語りかけるが、ゼノンバートが知るわけでもなくただ黙っている。

と、カッと目を見開き、うなるような声で命令を下した。

「えぇい、すぐに捜索隊を手配せよ!目的地はドロテアがいるところであるぞ、すぐ探せ!後れを取ったものは何人であろうが命はないぞ!」


ゼノンバートの命令は城総動員に伝わった。

誰も彼も、小間使いから上級騎士、財政管理の役人までそろって駆け出した。

城にとどまれば命はない。これほどわかりやすい事はない。

四方八方に散って人々に聞き込みをし、森へ崖へ谷へ砂漠へ・・・

「にゃ」

妙に緊張感のない声に、玉座でイラついたように往生していたゼノンバートは反応する。

カリカリカリと扉を引っかく音と、ニャーニャー言う声。

ゼノンバートは眉を寄せてドロテアの部屋の扉を開けた。

すると、扉の隙間から矢の様なスピードで飛び出してくる黒い塊。

「何者だ!」

言って腰の鞘から剣を引き抜いたゼノンバートの足元で、小ばかにしたように見上げる黒猫。

なに子猫相手に剣なんか抜いてるんだよ、という視線でも感じたのだろうか、王は辺りを見回して誰も今の光景を見ていないことを確認すると鞘に剣を収めた。

「なんだ、ドロテアの猫か」

「にゃー」

ドロテアという単語に反応してグリグリがちょこんと首をかしげる。

そしてくるりと身を翻すと、マリが飛ぶように城の外目指して走っていく。

「待て、お前までいなくなっては面倒なことに」言いかけてハッとする。

あの猫はドロテアの下に向かっているのであろうか?

ゼノンバートは駆け出して、猫の後を追った。


Re: アヴァロンコード ( No.567 )
日時: 2013/04/17 12:43
名前: めた (ID: 8.g3rq.8)

「ほう、ここにヴァルド様が住んでいられるのか」

月に照らされてきのこの家がぼんやり存在感を示している。

それをしげしげと見つめ、ドロテアは感想を1つ。

「それにしても、変わった家じゃのう。ヴァルド様は変わり者がお好きなのか」

「ここはラウカって言う人の家だよ。皇子と将軍は泊めてもらってるの」

言って扉をノックして開けると、食事前らしかった。

火のそばでこわごわとラウカを見ている皇子と、大きな鹿をずるずると引きずるラウカ。

まだ鹿はきれいな毛皮姿で、これから食べるためにそういうことをされるようだ。

「待ってロ、すぐ食べられるようにするかラ。まずは皮ヲ・・・」

「説明はいいよ、大体の事はわかってるから」

耳をふさごうとした皇子が、特大の「ヴァルド様!!」という声にかなり驚いた様子で飛び上がる。

そして振り向くと、ドロテアとティアの存在をはじめて知った様だった。

「君は・・・カレイラのドロテア姫・・・」

そう言って貰えるのがうれしかったようで、ドロテアはへへっと照れて笑って見せた。

それからティアに小突かれて、慌てたように言う。

「あ、あの・・・ティアから聞いたのじゃ。帝国と王国の平和を結ぼうと尽力されておられると・・・」

ラウカが背後で食材を調理している加減が生々しく見える位置が嫌らしく、精霊たちが預言書に逃げ込む。

ティアにも丸見えだが、何とか目をそらし、ヴァイゼンの皇子とカレイラの姫の会談を見守った。

「そうだね、だけどなかなかうまくいかなくてね」

ヴァルドが苦笑すると、ドロテアが目を輝かせて言った。

桜色のドレスで仁王立ちになり、任せなさい!とでもいう不に気をかもし出している。

「わらわも協力させて頂きませぬか。父上を必ず説得させて見せるのじゃ!・・・王国と争ったのも何かわけがあるはずじゃ!」

「・・・その訳というのを、協力してくれるからには知らないといけないね。言い訳にもウソにも聞こえるだろうが、聞いてほしい—」

ヴァルドはドロテアに感謝のまなざしを向けてから、魔王とワーマンと世界を滅ぼそうとした時の話を始めた。

Re: アヴァロンコード ( No.568 )
日時: 2013/04/19 17:35
名前: めた (ID: 8.g3rq.8)

花。

そう、今一番ほしいのは花。

どんな花でも良いってわけじゃない。

捜し求めるのは、剣のように磨き上げられた美しい色。

そして小さくはかなげな、大きな植物に寄り添う献身的な花だ。

「帝国の将軍が皇子を守らずにこんな仕事をしているとはっ」

ヒースはぐぅと食べ物を請う腹の虫に、まだ帰らないと心の中でつぶやく。

森に入って探してみるのは簡単なことかと思っていた。

森を駆ける獲物のように逃げはしないし、大きな植物の辺りを探し回ればすぐ手に入ると思っていたのに・・・現実はこうだ。

丸一日収穫なしで、一日中何も食べていない。

狩りをしようと思えばできるが、あいにく火がないため無駄な狩りになる。いくらヒースでも生肉は食べられない。

ラウカならば生肉だろうとぺろりと平らげてしまうだろう。

そもそも人ではないのだし、肉食種族の血が色濃く流れる野生児なので出遭ったときから火の使い方を教えるまで生肉を食していた。

 ふと、記憶の断片が色づき始める。

最初に出会ったのは、森。

軍などに入らず、何処の国にもとどまらず、傭兵としてふらふらと各地の戦場を縦横していたヒースは二十代初めくらいだった。

戦うことが好きだったし、金は欲しいし、旨いものを食いたい。

面倒くさい貴族王族との主従関係のない傭兵ライフこそ、ヒースの理想郷だったわけで、その生活はずっと続く。

とある戦場に赴いたときである。

深い森が広がり、今回の命令は確か森に住む原住民を圧制・鎮圧しろというものだった。

ここに何かを建造しようとしているのだろうが、森を奪われたくない原住民は必死に抗っている。

かわいそうに、太古よりずっと先祖が守り暮らしてきた土地を、急に新手の集団によって破壊されようとしているのだ。

それも、貴族達の別荘を建設するというたいそうくだらない理由で。

けれど傭兵一行は剣を手に、抵抗するものあらば片付ける気で、貴族の騎士たちと共に森を縫い歩いていく。


「おっと、そんなことよりハクギンツバキを・・・」

ひとたび思い出すと欠片が急に寄り集まって、大きな記憶のパズルを完成させていく。

思い出に浸るのも良いけど、今はヒマじゃないだろ。

そう言い聞かせて、頭の中のパズルをかぶりを振ってばらばらに崩した。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照がもうちょっとですごいことに!!


Re: アヴァロンコード ( No.569 )
日時: 2013/04/20 21:55
名前: めた (ID: xsmL59lL)

参照 15000 越えましたありがとう!!!
個人章を片付けて行こうとするとどんどん話しが膨らんでいく・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ないなぁ」

どっぷり日が暮れてあたりが見えない。

森で周囲が見渡せないのは命を取られたに等しい。

「今日も収穫なしか」

オールバックにした深い茶色の髪を撫で付けながら、ヒースは困ったように肩をすくめ、ラウカの家に帰るかどうか迷っていた。

そろそろ腹がすきすぎてつらくなってきた。

何か食べられるものはないだろうか?果物でも良い、何か・・・。

と、急に足元に何か擦り寄ってきた。

「?!」油断していたためか、それとも空腹のために集中が途切れたからなのか、妙な物体の気配すら気づかないことに驚いた。

噛み付かれた?そう思って瞬時に足元に目を落とすと、なにやら真っ黒い塊が擦り寄っている。

小さくてもこもこして・・・小さな獣?

「何だお前は?」

剣を鞘から引き抜いた手を止めて、その獣を見つめると、黄色の目玉が二つ、じろりとこちらを見上げてくる。

満月のような目玉が、あきれたような視線を送ってくるので、ヒースは剣を鞘に戻した。

なにやら「おまえもか」とあきれられている様だった。

「にゃ」とその獣が鳴いたところで、やっとヒースにそいつの正体がわかった。

「なんだ猫か?」

にゃッと猫が肯定するように声を上げる。

安堵すると共に、疑問がわきあがる。

「何で猫がこんなところに?」

足元に擦り寄る愛想の良い黒猫を抱き上げてその問いを口にした瞬間、別の物体があわただしくこちらに飛び出してきた。


Re: アヴァロンコード ( No.570 )
日時: 2013/04/22 19:14
名前: めた (ID: PoNJOIO3)

参照 15200 ありがとう御座います!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「今度は何だ?!何に捕まったんだ貴様は!!」

ものすごい怒号にヒースは猫を小脇に抱えて思わず剣を抜いた。

闇の中、月明かりで刃物がギラリと照かりあう。

どうやら怒号を放った人物も剣を抜いているらしい。

剣が濡れた様にきらめくと、双方の間に緊張状態が漂う。

顔も見えない相手だが、仲間か敵かもわからない。

と、猫が鳴いた。

とんでもなくうんざりしている様で、身体をもがくようにじたばたと身をよじり、ヒースの手に噛み付いた。

「いてっ、なんてヤツだお前は」

ヒースが悪態をつくと、猫はひらりとその手から抜け出し、地上に着地すると後ろも振り返らずに駆け出した。

ぱさぱさと枯れた草花の上を飛び跳ねる足音がするや否や怒号の人物は急に駆け出した。

「誰だか存ぜぬが失礼する!」

怒号の人物は月の光をつやめかせたビロードのマントを翻し、猫を追いかけていく。

「あっ・・・まて、そっちには—!」皇子が隠れるラウカの風変わりな家がある。

引きとめようと喉まででかかった言葉を、月の光がさえぎった。

高い木々によってギザギザの明暗の斑点のようになって地上に降っていた光が、その人物を急に照らし上げた。

金の鎧に青いビロードのマント、振り回す銅色の聖剣。そして白いひげ。何より目立つのはきらりと光り輝く金色の王冠。

アイツはゼノンバート国王ではないか?!

なんで一国の国王がこんな時間に、こんな森の中に猫なんかを追いかけて走っているんだ?

しかも剣を振り回しながら。

なにやら帝国の某皇子を思い出すほどの異様な行動力に、ヒースはまじまじとその背中を見る。

だが再び木々にさえぎられてそのきらめく背中がふっと闇に紛れ込むと、慌てて追いかけた。

コレは危機的状況である。

あの猫がこのまままっすぐ突き進めば、皇子のいるところへ王を向かわせてしまう。

戦争がいつ起こるかわからないのに、皇子と国王が対面するなど、もってのほか。

むしろカレイラの敷地といって良いところに敵国の皇子が居座っているなどと知れたら・・・

「あぁなんてこった!」

Re: アヴァロンコード ( No.571 )
日時: 2013/04/22 21:37
名前: めた (ID: PoNJOIO3)

ゼノンバートは夢中で走っていた。

目の前の猫が何よりの頼みの綱なのだ。見失っては困る。

しかしこの猫は凄まじいほどの肉食獣をひきつける魅力的なヤツらしい。

城から飛び出したところまでは良かった。

ひとたび森に駆け込まれると、猫を追うゼノンバートに混じって腹をすかせた夜行性の肉食獣がこぞって追いかけてくるのだ。

おまけにゼノンバートのことまで標的に入っているらしく、剣を振り回して走らないと危険極まりない。

一度は猫が獣に捕まり、食われかけたところを剣を振りまわして救出したこともあった。

だがこの猫は恩義を知らないらしく、気ままに枯れ草の上を飛び跳ねて新たな獣をひきつけるのだ。

「・・・獣だけでなく人までひきつけるとは、この猫、魔物か何かの類か?」

走りながら目の前の黒猫につぶやく。

猫はお構いなしに、どんどん森を突っ切っていく。

背後では先ほど猫を抱えていた人物が後を追いかけてきている。

剣を携えていたことから武装した流浪の民だろうか?道に迷って助けを求めて追いかけてきているのかもしれないし、追いはぎか何かの類かもしれない。

どちらにしようとも、今は構っていられないのだ。

一瞬でも目を離せば黒猫は森の闇に飲み込まれてしまう。

目が充血するほど猫を睨み付けていた王は、途端に森が開けたので、猫から目を離してしまった。

視界の端で猫が長い木の階段を飛び跳ねながら登っていくのが見える。

その階段がすえつけられているのは、巨大なきのこの中身をくりぬいて作った家のような建造物だった。



Re: アヴァロンコード ( No.572 )
日時: 2013/04/24 13:26
名前: めた (ID: vXApQJMC)

「なんだここは」

ゼノンバートは月明かりに照らされて怪しげにたたずむその建造物を眉をひそめて見つめていた。

建造物の傍には小川が流れ、そこに木を倒して橋が架けてある。

そして長く高い階段。

猫はすでにてっぺんまで登りきり、おそらく扉だろう物をカリカリと引っかいて開けろと鳴いている。

「ドロテアがあそこにいるのか・・・?」

ハッと我に帰った王は、マントを翻して猫のいる階段を颯爽と駆け上がった。

一方、一足遅れてラウカの家へとたどりついたヒースは、階段を駆け上るゼノンバートを見つけ、目を見開いた。

階段の先に待ち受ける扉を開けば、すぐそこに皇子がいる。

「待て!!」

大声で叫ぶが、王は一目こちらに視線を送ると、すぐさま扉に手をかけた。


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参照 15300 ありがとうございます!

Re: アヴァロンコード ( No.573 )
日時: 2013/04/27 12:44
名前: めた (ID: x1KEgngG)

ゼノンバートが押し入ろうとする家の中では、丁度ヴァルド皇子の話が終わっていた。

世界を崩壊させようとした魔王に身体をのっとられ、ヴァイゼンの宰相が真の悪役であった。

そしてティアが魔王クレルヴォを倒し、今現在世界の時の歯車を遅くさせた、と。

「そんなことが・・・」

ドロテアは信じられないという顔をして、腕を組んだ。

「信じられないかもしれないが、コレが真実なんだ。私は別にカレイラ王国と戦うつもりは無かった」

ヴァルドがそういうと、ドロテアは組んでいた腕をぱっと振りほどく。

そして仁王立ちになりながら、考え深げに言葉を発した。

「ならばなおさらのこと、父上にきちんと説明せねばならん。ヴァイゼンとカレイラは悪用されたのじゃと。真の悪役はカレイラの地下牢獄に放り込まれたあの男なのだと!」

ドロテアの言葉を聴いて少し首を傾いで微笑んだヴァルドは少し首を振る。

王冠の下で銀色の髪が揺れる。

「だが私はそれを言い訳にするつもりはないよ。私が犯してしまった罪は事実として歴史に残ってしまっているからね。コレは変えることも消すことも出来ないものだ」

一瞬ヴァルドが平和条約締結を諦めたのだとドロテアは思ったが、ヴァルドは赤い目に光をと灯らせて言った。

「だから自分の手で切り開きたいんだ。平和という未来を」

「ヴァルド様・・・」

ドロテアが賛同するように頷いた直後だった。

ドアが急に蹴破られるように開き、囲炉裏の光を反射してある男が仁王立ちでこちらを見下ろしてうなるように言った。

「帝国の王子!我が娘を返してもらおう!」


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参照 15500 超えました!ありがとう!

Re: アヴァロンコード ( No.574 )
日時: 2013/04/27 13:12
名前: めた (ID: x1KEgngG)

「ち、父上?!」

その部屋にいた、ラウカ以外の三人の頭上に特大の「!?」が浮かぶ。

それもそのはず。居場所を知られていないはずが、王じきじきに出向いたからだ。

ものすごく恐ろしげな顔をしたゼノンバートの足元から、黒猫がマリのように飛んできてヴァルドに飛びついた。

「グリグリ・・・」

放心状態だったヴァルドがハッと正気を取り戻す。猫を抱き上げると、王を見つめた。

王は恐ろしい顔のまま、ティアとヴァルドをじろりとにらむと、何か言おうと口を開きかけた。

だが慌てたドロテアが口を挟んで王をさえぎる。

(ティアはまた国を追放されるかもしれない!ヴァルド様は・・・地下牢獄の最深部に放り込まれてしまうかもしれない!)

ドロテアは王の前に転がり込むと、必死に訴えた。

「待ってほしいのじゃ父上!!わらわは無事じゃ!話を、話を聞いてほしいのじゃ!カレイラとヴァイゼンの戦争は、本当は—」

だが王は怖い顔をして娘の肩をつかんだ。

「娘と英雄を返してもらうぞ!」

そして視線でティアにもついてくるように促す。

ティアはためらいがちにここは王にしたがったほうが良いのではないかと、一歩足を踏み出す。

「待って・・・!話を・・・!」

ドロテアが引きずられるようにして扉から消えかかりながら叫ぶ。

「さぁ、帰るぞ」

「お待ちくださいゼノンバート王!」

その光景を見て、ヴァルドは猫を抱いたまま王に歩み寄った。

王が厳しい空色の目でじろりと皇子を一睨みする。

だがひるまずに、皇子は深く頭を下げた。

「まずは此度の無礼をお許しください。姫を都合でさらいました」

ドロテアは首を振り、悲鳴に似た声で叫ぶ。

首を差し出すように深くお辞儀をする皇子に、父親が切りかかると思ったのだろう。

「ちがっ・・・コレはわらわが勝手にきたのじゃ!ティアに無理やり頼んで・・・ティアもヴァルド様も悪くはないのじゃ!」

と、ドロテアは不意に黙り込んだ。

王を追ってきたヒースがいつの間にか王の後ろにいて、大丈夫だ、と小さくささやいたからだった。

ドロテアは目をしばたいた。

と、背後でヴァルド皇子の凛とした声が響く。首をめぐらせてもその姿は王にさえぎられて見えない。

「私は真剣に王国との和平を望んでいます。この気持ちに偽りはありません。それだけは信じていただきたい」

「そうじゃ父上!」つられるようにドロテアは王に叫んだ。

「ヴァルド様は魔王に操られて—」「黙っておれドロテア!」

だがピシりと鞭打たれるように、ドロテアは黙らせられてしまう。

何処が大丈夫なんだと、思わずドロテアはヒースをにらみつけた。

ヒースは肩をすくめて、また大丈夫だといった。

「皇子の気持ちは良くわかった。だが信頼できぬ」

ゼノンバートは娘の肩をつかみながら、冷たい声で言い放った。

頭を上げたヴァルドは悲しそうに猫を抱いたまま王を見上げた。

あぁ、和平条約が・・・わらわが勝手に来た為にぶち壊しになってしまった—ドロテアは方を落として暴れるのをやめた。

桜色のドレスに両手を落とし、水色の目に涙を溜めたままうなだれる。

「皇子、貴公が本当に信頼できるかどうか確かめたいと思う—その間は休戦としよう」

その言葉が耳に入ると、ドロテアは瞬時に首をネジって王の顔を見上げた。

王は相変わらず厳しい顔だが、ドロテアにはわかった。

なんとなく微笑んでいるようだ、あの父上が!

「ヴァルド皇子には・・・そこの将軍もだが・・・王国に自由に出入りしてもらっても構わない。今度はその気持ちを態度で示してもらおう」

ヒースがほらな?という顔でドロテアを見る。

ヴァルド皇子は目を輝かせて、ゼノンバートに歩み寄った。

「感謝します!ゼノンバート王!!」


Re: アヴァロンコード ( No.575 )
日時: 2013/04/27 13:27
名前: めた (ID: x1KEgngG)

数分前だった。

終盤に差し掛かったヴァルドの話を、ラウカの家の扉に手をかけながら王は聞いていた。

ヒースが数歩階段の上がってくると、王は一度そちらを一睨みすると、静かにする様指示した。

そして熱心にその言葉に耳を傾けた。

時折ドロテアの高い声が扉から聞こえてくる。

—ならばなおさらのこと、父上にきちんと説明せねばならん。ヴァイゼンとカレイラは悪用されたのじゃと。真の悪役はカレイラの地下牢獄に放り込まれたあの男なのだと!

—だが私はそれを言い訳にするつもりはないよ。私が犯してしまった罪は事実として歴史に残ってしまっているからね。コレは変えることも消すことも出来ないものだ

—だから自分の手で切り開きたいんだ。平和という未来を

くぐもった声が扉越しに聞こえてくると、欧は少し同意するように頷いた。

「どうだ?帝国の王子も悪くないだろ?一端断ち切られた和平の橋をもう一度架けようと必死に尽力されて、ここまでやってきた」

そんな王に、ヒースが剣なんかしまえよと完全にため口で言う。

「黙っておれ馬の骨の将軍風情が。ワシにため口などと・・・お前の居場所をグスタフにばらしても良いんだぞ」

王はうんざり顔で、だが剣をしまいながら言う。

するとヒースは顔をしかめて首を激しく左右に振る。

「グスタフ・・・アイツはしつこかった」

「しつこいのも当然だろうが。アレが唯一敗北をきしたのがお前だからな。アレはまだ剣術を捨ててなどいない。お前の顔を見たらすぐさま挨拶がてら切りかかってくるだろうよ」

昔の思い出。それが王とヒースの間に糸のように細いが、確かに張り巡らされていた。

「ま、皇子が信用ならないというなら、いろんな試練を与えてみるんだな。きっと大喜びして信用してもらえるまでどんなことでもするぞ、うちの皇子は」

ヒースが階段に座り込んで、独り言のように言う。

ゼノンバートは余裕気なヒースを振り返って少しにらむと、黙って扉に手をかけ、一気に押し入った。


Re: アヴァロンコード ( No.576 )
日時: 2013/04/27 13:48
名前: めた (ID: x1KEgngG)

「ありがとう、君たちのおかげだ。とても大きな一歩を踏み出せた」

ヴァルドがうれしそうにティアとドロテアに言った。

ヒースはラウカの焼くしか肉の前で胡坐をかいて肉を見つめており、ゼノンバートは扉の前で猫にちょっかいを出されながら突っ立っている。

「そんなことないのじゃ!ヴァルド様の真剣な気持ちが父上に伝わったからなのじゃ!」

ドロテアがいうと、ヴァルドは微笑みながら言う。

「ありがとうドロテア姫。今度は私ががんばる番だ。王国の皆に認めてもらえるようにね」

話が終わると、ゼノンバートにつれられてドロテアは帰っていった。

グリグリは久しぶりに会うヴァルドと置いていかれ、翌日フランネル城で王が国民に演説をしてから、国に入ることになっている。

いくら王が認めたとしても、国民に説明なしでは急に襲われて切りかかられてしまう。

国民への演説は早朝からであり、皇子の国入りは午後をたっぷり回った昼ごろだ。

それまではラウカの家でのんびりしていられる。

「そうだ!ヒース、花は見つかった?」

猫と戯れていたヴァルドがふと顔を上げて、ヒースに聞いた。

「ティアが言っていただろう?ハクギンツバキを探してきてほしいと。私に留守番させて一人で行って来たかいはあったの?」

鹿肉にかぶりつきながらヒースは嘆くように言った。

「ありませんね。ヴァイゼンにならけっこうあるんですけど、カレイラは暖かい国だからハクギンツバキが生息しにくいみたいで」

まさかハクギンツバキ一本を探すために、再び兵士たちのいる砦へ帰る気になれなかったヒースが言い訳じみたことを言うと、ラウカが獣の耳をピンと立てる。

「ハクギンツバキ・・・それなら家の傍に生えているぞ。銀色で小さな花。この大きなきのこで出来た家の傍に沢山はえてる」

ラウカの言葉に、ヒースが落胆し何事かつぶやく。

きっと丸一日絶食状態で森を探し回った苦労はなんだったのかと嘆いているのだろう。

ティアとラウカは階段を下りて、家の裏に回りこむと、月の光に照らされてハクギンツバキがぼんやりと光っていた。

とても小さく、美しい。光の粒が凝縮されたように一つ一つ花びらの上で輝いてとても愛らしい花だった。

後日未明、ティアとファナはちゃんとここに来て、一日ラウカの元で泊まり、そして花は摘まずに思い出を持って帰った。

Re: アヴァロンコード ( No.577 )
日時: 2013/04/27 14:05
名前: めた (ID: x1KEgngG)

朝日が昇るとすぐに、ティアのいないカレイラ王国の王城フランネル城にて、大きな演説がはじまった。

国民全員参加の、とても大規模な行事である。

ゼノンバートが王城のテラス立つ。そばにドロテアも控えている。

ここはティアとハオチイが戦争の英雄と紹介されたテラスだ。

そこ立つと、人々の不安そうな顔を見て取れる。

きっと戦争をすると公言する演説だと思い込んでいるのだろう。

「皆の者、良く聞け!我が聖国カレイラは此度、和平協定の架け橋としてヴァイゼン帝国の皇子と将軍をカレイラに迎える。そしてすべての国民が皇子を認め、和平を結ぶ手立てを打つとき、我国と帝国は永遠の世界協定を結ぶと約束しよう—!!」

国民が一瞬どよめき、そして不安げながら歓声が上がった。

まただまされている?だが戦争じゃなくて良かった—!

国民を満足げに見つめた王は、ドロテアを振り返って頷いた。


正午。英雄を先頭に皇子と将軍が街へ足を踏み入れる。

他の人には見えないが、四人の精霊が辺りを漂い、不穏な考えを持つものがいないか探っていた。

ここまで来た和平協定締結運動が、また無駄になるのは避けたい。

だが皆遠目からこわごわとこちらを見ているだけで、暗殺者は一人もいなかった。

城に入ると、さっそく謁見の間につれてこられる。

すべて黄金で出来た目に毒なきらびやかな広間だ。天井には豪奢なシャンデリアがあるけれど、その精巧な彫刻も見えないほど高く吊り下げられている。

その間には、今は騎士団長や王族、財政管理人やら国を守る回す勤めの役職が全員呼ばれ、緊張した様子で皇子と将軍を見ている。

「良く来た、皇子そして将軍」

玉座に腰掛けたゼノンバートは二人を見つめ、そして英雄をねぎらった。

「ご苦労、英雄。和平への道となり、有益な事柄をこの国へ導いた。深く感謝しよう」

どうしたら良いかわからず、ティアは少し笑って頷いた。

王はティアからヴァイゼンから来たものに向き直り、厳かに言った。

「さて、この国に来たのは観光ではないはずだ。この国にとどまり、民との信頼を築き、和平への道へ尽力されよ。期待している」

「はい。必ず成し遂げてみせます」

謁見の間で、世界協定への契りが交わされた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
個人章 世界協定編終わり

Re: アヴァロンコード ( No.578 )
日時: 2013/04/27 14:31
名前: めた (ID: x1KEgngG)

和平条約もうまく運び、城に皇子と将軍が住み着いてからすぐのこと。

ティアは一人でお墓に来ていた。

一人といってもいつも一緒の精霊たちはちゃんといる。

預言書を抱えて歩いて目当ての墓に着くと、ティアはそこに座り込んだ。

「ミーニャ、幽霊だったんだ」

そのお墓は見慣れたユウシャノハナで飾られている。

「あそこって確か、すごい金持ちが住んでたんじゃなかったっけ?」

精霊の言葉にうーん、とティアはあいまいに頷く。

確か外交官一家が住んでいたと聞く。だが良くわからない。

「今は荒れ放題だけど・・・家族全員死んでしまうほど前の幽霊なのかしら?」

ミエリが首を傾げて言うが、ウルが今度は首を振った。

「いいえ、違うでしょう。ここに彼女が没した年表が刻まれていますが、8〜9年ほど前のようですね。五歳でなくなられたようです」

8〜9年前といえば、ティアが下町で暮らし始めた時だ。

そのとき、レクスにあった。

そういえば・・・あの時レクスは高価そうな服に身を包み、そして全身血まみれで倒れていた。

そして、何か名前をつぶやいていなかったか・・・?

「み?にゃ?なにそれ」と幼き過去の自分はうわごとのようにみとかにゃとか言うレクスに問いかけた。

それってミーニャだったのではないか?

「外交官の娘。あの館には写真立てがあって四人写ってた。ミーニャが死んでしまった年に、レクスが高価そうな服装を血まみれにして私のところへやってきた。そのときうわごとみたいにミーニャって言ってた。コレって何か関係性あると思う?」

すぐさま精霊たちがなにやらしゃべりだす。

精霊の議論大会であり、何か困ったことなどがあるといつでも開かれる。

「仮にレクスとミーニャが兄妹としたら、レクスが血まみれで下町にやってきたことが気になりますね。両親は何処に?なぜ血まみれだったか?外交官の館で何か起きたのかもしれません」

ウルが結論を述べると、ティアは思い切って村長のところへ行った。

ゲオルグならば、きっと何があったか知っているだろう。


Re: アヴァロンコード ( No.579 )
日時: 2013/05/01 00:47
名前: めた (ID: TwnK.bTA)

参照15600越えました!
あと少しで15700行きますね!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ゲオルグのホワイトハウスにつくと、ゲオルグは庭にいて、きれいに生えそろうバラの花を見つめていた。

もちろん片手には如雨露が装備されている。

ティアはさっそくその姿を見つけると、声をかけて質問した。

「ゲオルグさん!外交官の館って知ってますか?」

「おぉ、ティア君か・・・知っているとも。あの空き家のことだろう?」

振り向きながら、急に声をかけられて驚きつつもゲオルグが答える。

表情はいつもの物知り顔で変わらない。

如雨露を足元において、腕を組んでティアを見下ろす。

「それがどうしたのかね?」

言われて、ティアはたずねた。

「あの空き家の・・・外交官の館は四人家族で、そのうち一人はミーニャという五歳の女の子だったんですよね?私が七歳くらいのときに死んでしまったらしいですけど・・・」

言い終える前から、ゲオルグは顔色を変えていった。

血色の良いピンク味の掛かった顔色が、暗く沈んでいく。

質問しながらティアは小首を傾げた。あの館で一体何が起こったというのだろうか。

「良く知っているね・・・君は何処まで知っているんだい?」

「えと・・・なんにも知らないけど、でももしかすると、レクスがミーニャのお兄ちゃんだったんじゃないかって思ってるんです。ミーニャの死んでしまった年にレクスが高価な服を血まみれにして私のところにやってきました。そのときうわ言の様に彼女の名前を呼んでいたから—」

最後のほうは尻すぼみになっていく。

ゲオルグが肯定するように重々しく頷いたからだ。

そして口を開いた。

「その通り、レクスはミーニャと言う少女の兄で、このカレイラの外交官の息子だったんだ。あの事件が起こるまではね」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

カレイラ諸事情でレクスの件はふれられてますが、今回はミーニャが主役のお話です。
またく同じ話ではないので安心してください。

Re: アヴァロンコード ( No.580 )
日時: 2013/05/03 19:24
名前: めた (ID: MhL4TUn6)

参照 15900 いきました!!
あと100で16000!!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

あの事件?首を傾げたティアに、ゲオルグは少しためらいがちに口を開いた。

「レクス君は君にも言わなかったのだろう・・・そんなことをこれから君に話すわけだが、どうか我々に失望しないでほしい。我々はあの時—いや、よそう。では始めるよ」

ゲオルグが話し始めると、ティアはすっかり時を忘れてしまった。

ここがホワイトハウスの中だということも、自分が今何歳だったのかも忘れてしまい、すっかり世界に引き込まれた。

その世界に、その時に、その現場に自分がいるような感覚を感じる。

目を上げれば、目の前にあの館がある。

一人の少年が立派な正装に身を包み、あの外交官の館から走り出てきた。

背中に茶色の革のカバンをくくりつけ、ステップをふむように来るッりと家の戸口を振り返って元気良く手を振る。

「じゃぁ、行ってくる!ミーニャはデュランと遊んでろよ!」

「うん、わかった」

戸口にて手を振り返すツインテールの少女、ミーニャだ。

ミーニャのちょっと元気がなさそうな声に、レクスがちょっと困った顔をしたが再びステップをふむように家に背を向けて走り出した。

何処に行くのか、ティアにはゲオルグの言葉でわかった。

「あの当時のレクスは、外交官の跡継ぎとして遠くまで勉強をしにいっていたんだ」

まだ幼いレクスが青緑色の髪を揺らしながら、走って町並みに消えていった。

「あ〜あ、お兄ちゃん行っちゃったぁ」

戸口に目を戻すと、ミーニャがはぁとため息をついて、ふんわりしたスカートの裾をつかんで兄の行方を眼で追うかのようにしばらくそこに立ち尽くす。

するとそこへ、白くきれいな花を帽子に飾ったデュランがやってきた。

帽子以外は見慣れない格好だが、外交官のレクスとミーニャよりは庶民派の服装に身を包んでいる。

だが優しげで気弱そうな笑顔は良く覚えている。

その笑顔のまま、デュランが今よりも幼い声でミーニャに話しかけた。

「今日は勇者サマごっこできないから・・・何して遊ぼうか?」

「そうね、隠れん坊しましょ!」

Re: アヴァロンコード ( No.581 )
日時: 2013/05/06 22:52
名前: めた (ID: NZUH8ARt)

「隠れん坊の最中だったらしい。外交官の館に、刺客がやってきた」

デュランがクローゼットの中に隠れて数十分後、探し回るミーニャとその様子をニコニコ眺めていた外交官夫妻。

ティアの目の前で戸口に刺客が現れる。

羨ましいほどの幸せな家庭はその一人の人物によってばらばらに壊されてしまった。

そしてデュランが気絶してしまうと、目の前の光景は打って変わる。

「異変に気づいた当時親衛隊体長だったデュランの父親、グスタフが第二目撃者で、すでに外交官夫妻とその娘は息が無かったという。それを王に報告すると—」

グスタフが王に報告している場面に変わった。

玉座のある謁見の間には、まだ若いグスタフとひげの短い国王が居る。

その当時の王にもグスタフにも見覚えがある。

ティアが両親を放火魔に殺害されて行き場を失っていた頃、この二人に会ったのだ。

グスタフは助けようと必死で、王は貧しい子供には用はないというそぶりだった。

「外交官の暗殺か。すぐ新しい外交官を手配、そして暗殺者の捜索をしろ」

国王はそういうと、グスタフを下がらせようとした。

だがグスタフは困ったように言う。

「陛下、暗殺された外交官夫妻には二人の子供がおりました。娘の方は残念ながら亡くなりましたが、息子が存命です。その者は現在遠くまで勉学を学びに出向いております。両親妹が死んだことを知りませんし、どうか後継人を探してあげてくださいませんか」

頭を下げて頼むグスタフに、王は鼻を鳴らす。

「またくお前というヤツはくだらないことをいつも頼みおって。数年前も孤児の少女のためにそうやって頭を下げたな。だがその少女は行方をくらまして何処かへ消えた。今回の少年も刺客の手にかかっているだろうが、見つけ次第面倒を見てやろう」

グスタフが何度も頭を下げてお礼を述べている頃、外交官の館では血まみれの少年が一人放心状態で家族を抱いていた。

レクスが帰ってきていたのだ。

扉を開けると、家中あらされてペンキをぶちまけたかのように真っ赤。

その中心に最愛の人たちが転がっていて、抱き上げても揺り動かしても二度と起きない。

信じられない光景にレクスはその場から逃げ出した。

血まみれで傷だらけで、誰も助けてくれない。

そのまま走りつかれて深い眠りに落ちた茂みで、ティアに出会った。

「我々は消えたレクス君のことを探さなかった。きっと暗殺者の手にかかったと思っていたんだ。そして数年して、その存在が君と共に生きていると知ったんだ」

ゲオルグの言葉が恥じるように終わると、ティアはハッと我に帰った。

ここはホワイトハウス。見える景色は数分前の現実に戻った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照が 16000こえてました!!
ありがとう御座います!!!

Re: アヴァロンコード ( No.582 )
日時: 2013/05/11 10:54
名前: めた (ID: 9KPhlV9z)

参照16200ありがとう御座います!!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「おねぇちゃん、また来てくれたんだ!」

外交官の館の前に来ると、館からミーニャが跳ねるように駆けて来る。

茶色の目がきらきらひかり、すぐにティアの前で止まった。

ティアはその姿にいたいたしい面影を探したが、本人は無垢で悲惨な事件など覚えていないようだ。

精霊たちはじっと黙ってミーニャのあたりに漂う。

ティアはしゃがみこむと、先ほど精霊たちと話したことを思い返す。

—ミーニャは死んだことも覚えてない
—ずっと地上にとどまるのはむなしいだけだから成仏させた方がいい
—地上に居るわけは、死んだことを自覚しないからであり何か遣り残した事があるから

—ティア、あなたが彼女を成仏させてあげてください

「ミーニャ・・・ずっとやりたかったことある?」

ティアがミーニャに聞くと、ミーニャはちょっと考えてから、ぱっと花が咲いたように笑った。

「一緒に遊ぼう!遊んでくれる?」

「もちろんいいよ」

ミーニャは目を輝かせてとてもうれしそうに飛び跳ねる。

「ずっとね、こうやって遊んでくれる人を探していたの!だけどミーニャはまだ子供だから誰も一緒に遊んでくれなかったの。だけど・・・」

飛び跳ねるのをやめて、ミーニャは期待したようにどこかを見た。

ティアはしゃがみこんだまま、ミーニャの見つめる先を見た。

だが何も見えない。外交官の館から石ブロックが敷き詰められた通りが見えるだけ。

廃墟と化した木造の小屋がいくつか見え、その屋根には風に踊る鶏型の風車が回っている。

ミーニャは一体何を見ているのだろうか、と考えていると彼女は急に走り出した。

「あ、何処行くの!」

立ち上がり慌てて追いかけると、ミーニャは思ったよりすばやい。

走る歩合と進む距離が比例しておらず、空中を滑るように歩きながらものすごい距離を進んでいく。

ティアが外交官の庭から足を出す頃には、ミーニャは木造の家々の角を曲がり、奥に広がるハオチイの実験室の前を通り過ぎている。

ただ声だけは響くように聞こえる。

「ずっと声をかけてたんだけど、その人はわかんないみたいだったの。だけどおねえちゃんが解るなら、きっとその人もわかるはず—!」


Re: アヴァロンコード ( No.583 )
日時: 2013/05/17 21:15
名前: めた (ID: 9KPhlV9z)

参照が16500に行ってました!!ありがとうございます皆様!

自分でいろいろ見直してて気づいたんですが、ヒースの御使いで語るはずだったヒースとラウカの出会い話を完 全に書き損じてしまった・・・
なのでそれは“酒屋話譚”で書きますのでお楽しみに

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「ミーニャ、何処行くのミーニャってば!」

ティアが叫ぼうがわめこうが構わずにミーニャはハオチイの家まで来ると、不意に体の向きを変えた。

そしてまん丸の茶色の目をこわれたフェンスの方へ向ける。

ハオチイの家の前のフェンスは突き破られたように壊れている。

これは昔からであり、一説によるとレクスが近道をするために破壊したという。

その節が最有力なのは、その破壊されたフェンスの崖下に彼の家があるからである。

と、ミーニャがすっと足をフェンスの向こうに出す。

崖と空中の境目にかけられた小さな靴が、徐々に空中へと傾いていく。

二つに結んだツインテールがふんわりと空中を漂った。

まるで身投げする等身大人形のように。

「ミーニャ!」

ティアが全力疾走で彼女を引きとめようと手を伸ばすが、妖精のように空中に零れ落ちた彼女は振り返ってにっこり笑った。

ティアの手がミーニャをすり抜けて空中に突き出される。

ハッとしても時は遅く、そのままティアも崖の下へと重力に惹かれて落下した。

Re: アヴァロンコード ( No.584 )
日時: 2013/05/27 21:46
名前: めた (ID: 9KPhlV9z)

16700ありがとう御座います!!
まずいなーこのペースだと終わらずに一周年いっちゃうぞ・・・
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空中で腕をばたつかせるのをやめて、ティアは腕と足を思いっきり縮めて亀のように丸くなった。

重い頭が下を向く反動を使い、ティアは腹筋を駆使して空中で一回転すると、踵落としするように着地した。

荒く息をしながら、自分が今しがた行った曲芸師のようなアクロバットを信じられないというように硬直する。

精霊たちはあっけに取られ、ティアの身のこなしに目をしばたいて黙っている。

「わー、お姉ちゃんってばすごいねー!ピエロさんみたい!」

と、場違いなまでの歓声と拍手を送るのは幼い声。

見上げれば、ふんわり雪が降り下りる様にミーニャが浮遊している。

そして羽根が地面に落ちるように着地すると、にっこり笑った。

「ミーニャ・・・もう危ないことやめてね」

ティアは深くため息をついて、自分がおそるべき反射能力を備えていることに感謝しつつ、ゆっくりしゃがみこんでミーニャに言った。

ミーニャと目線を合わせて言うけれどミーニャはティアを通り越してその背後を見つめ黙りこくっている。

その目が大きく見開いて目が輝く。両脇にたれていた小さな手のひらがぎゅうっとスカートの裾を握り締め、口元が震えながら何か言おうとする。

「ミーニャ?」

ティアが小首を傾げて聞くと、ミーニャは両手をゆっくり挙げてすがりつくようにいっぱいに手のひらを広げて言う。

「おにいちゃん・・・」

振り返ると、こちらを見つめたレクスがいた。

Re: アヴァロンコード ( No.585 )
日時: 2013/05/27 22:16
名前: めた (ID: 9KPhlV9z)

「レクス・・・」

しゃがんだままレクスの事を見ていると、レクスが引きつったような顔でつぶやく。

桟橋で釣りをしていたのだろう、釣り道具を両手に抱え込んでいる。

「おにいちゃん・・・」

ミーニャがティアの脇をすり抜けて、おずおずとゆっくりレクスに歩み寄る。

レクスはじいっとこちらを見つめ、やがて激しい音と共につり道具を取り落とした。

バケツから水がほとばしり、魚が数匹ばたつきながら地面の上で踊っている。

「ミーニャ・・・って、お前なんで—」

言いながらレクスがずかずかと歩み寄り、両手を差し出しながら青ざめた顔でこちらを見る。

ミーニャが涙を溜めた瞳で跳ねるようにレクスの腕めがけて走る。

「おにいちゃん!よかった、やっとミーニャのこと見えるようになったんだね!」

後一歩、その距離まで二人が近づくと、ミーニャは思い切りジャンプしてレクスに抱きつこうとした。

だがその身体はすうっとレクスの身体を通過して、前かがみのまま勢い良く地面に転ぶ。

驚きに目を見開いたミーニャは、首だけをねじり、兄を見上げたが・・・

兄であるレクスは転んだ妹に眼もくれず、ティアの両肩をつかむと、眉を寄せていった。

「なんでお前がミーニャの事を知ってるんだよ?!」

「え・・・」

ティアは転んだまま涙いっぱいの目でこちらを見ているミーニャと目を合わせながら口ごもる。

ひどい剣幕で言うレクスに何をいえば言いか解らず黙っていると、ミーニャが泣きながら首を振って言った。

「お兄ちゃん、なんでミーニャのことみえないの?」



Re: アヴァロンコード ( No.586 )
日時: 2013/06/01 14:07
名前: めた (ID: 9KPhlV9z)

16800ありがとう御座います!
六月に入っちゃいましたね あと二ヶ月で一周年・・・終わるのか・・・?

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ミーニャはさめざめと泣き出し、跳ねるように飛び起きて駆け出した。

そして作りかけの桟橋の方に駆け出す。

そこはいつもレクスが釣りをしているポイントであり、川にせり出すように桟橋がかけてある。

川は意外と深いので、大きな魚がつれるのだ。

そこへ、ミーニャがためらいもせず飛ぶ。

「ミーニャ!」

ティアが悲鳴を上げてレクスを突き飛ばして川へ近寄ると、ミーニャは水面の上でしゃがみこんでいた。

幽霊だから物に干渉できない。枷で縛られていた精霊と同じである。

水面の上で魚が下を通過していくのを涙を溜めて見つめている。

涙は頬を転げ落ちて水面に達すると、煙のようにふわりと消えている。

「ミーニャ・・・」

改めて彼女は幽霊なのだと実感すると、ミーニャが顔を上げた。

ティアを見ているのではなく、分けが解らないという顔をしてこちらへ来るレクスを見ている。

「おまえ何見てるんだ?ミーニャってどういうことだよ」

桟橋から呆然と水面にたたずむミーニャを見るティアの視線を追って、レクスが必死に視ようとする。

だが、何も見えない。

と、ティアが口を開いた。

「私は・・・小さな女の子が見える。レクスの妹のミーニャが見えるの」

Re: アヴァロンコード ( No.587 )
日時: 2013/06/02 15:21
名前: めた (ID: 9KPhlV9z)

いきなりのカミングアウトに唖然としたレクスは意味が解らないと首を振って頭を撫でた。

本当に意味がわからん。

第一ティアにさえ過去の話をした事はない。知っているのは継続する過去から友人だったデュランや、過去から知り合いだった人々しか知らないはず。

「誰から聞いたんだ?」

イラついたように、まず順序を立ててティアの言葉を理解することにしたレクスは妹分に聞いた。

ティアはまごついたように足元を見たが、ミーニャが居るという方向を見つめ、観念したように言った。

「ゲオルグさんから・・・でも、外交官の事件やもしかしたらミーニャがレクスの妹かもしれないとは、ミーニャの墓石から推測してみた。それに、ミーニャがレクスのことをお兄ちゃんって呼んでたから」

「・・・・・・」

レクスは別に怒るでもなく無言で腕を組み、ティアから川のほうへ顔を向けた。

そして目でどこかを探るように見渡す。

「お前、ミーニャが見えるって言ったな。父さんや母さんは見えるのか?」

「え?ううん、ミーニャだけ・・・」

ティアがおずおずと返事をすると、レクスは腕を組んだまま悔しそうに奥歯をかみ締めた。

「ミーニャはずっと一人だったのか・・・どうして成仏できなかったんだ?」

レクスは桟橋にしゃがみこみ、つぶやいた。

ミーニャが怒られているのだと思って肩をすくめてごめんなさいとつぶやく。

「ミーニャはどこにいるんだ?」

レクスは顔をあげずにティアにたずねた。

ティアはミーニャにおいで、とつぶやき、呼び寄せた。

ミーニャはためらいがちにもじもじしていたが、ついには跳ねるようにティアの足元にすがり付いて、レクスのほうを見つめた。

ティアに励まされて、まだ川のほうを見つめているレクスにミーニャは歩み寄り、肩を叩く仕草をした。

だがむなしく身体をすり抜けたミーニャの手。レクスは振り向かない。



Re: アヴァロンコード ( No.588 )
日時: 2013/06/05 16:40
名前: めた (ID: 9KPhlV9z)

「ミーニャ・・・が目の前に居るのか?」

ミーニャをレクスの目の前に設置したティアは頷いた。

レクスはどこを見ていいのかがわからず、とりあえず自分のしゃがんだ目線をじっと見ている。

ミーニャは兄を見ているが、兄が自分を見ていないことがすぐにわかったようで、不満そうに足を動かした。

「ミーニャ、いる・・・のか?」

レクスがブツブツとつぶやくと、ミーニャはツインテールを揺らしながらこくんと頷いた。

「お前は・・・なんで成仏してないんだ?」

ミーニャは怒られているのだと思い、首をすくめて縮こまって兄を見た。

「死ぬ間際になんかあったのかよ、不満なことが?」

そこまで言うと、急にレクスが立ち上がって腕を組んだ。

うんざりというように手を解いて腰に手を当てると、首を振りながら言う。

「・・・何言ってるんだ俺は。幽霊なんて居るわけないのに。お前もへんな冗談はやめろよ。幽霊なんて居るわけがないんだから」

ティアが何か言おうと口を開く前に、レクスはさっさと何処かへ行ってしまった。

取り残されたミーニャは泣きべそをかいて、ティアの足元にすがりつく。

「ミーニャ悪いことした?お兄ちゃんなんで怒って帰ったの?もうやだ、お兄ちゃんなんて。会うと怒ってたり、無視するの」

ティアに慰められても、精霊たちに慰められてもミーニャは暗いままだったが、ぱっとその顔が明るくなった。

「そうだ!勇者サマなら・・・デュランならミーニャのこと幽霊だからってキライにならないはず!」

言うなり、ものすごいスピードで走り出したミーニャを、ティアが慌ててつかもうとしたが、すり抜ける。

「まって、ミーニャ!」

立ち上がって叫ぶ頃には、ミーニャの姿は路地に消えた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

16900ありがとうございます!

Re: アヴァロンコード ( No.589 )
日時: 2013/06/09 16:00
名前: めた (ID: x1KEgngG)

「あ、ティアどうしたんだい血相を変えて?」

ティアがミーニャを追ってデュランの家の前までやってくると、デュランは呑気そうに家の前でシーツを干していた。

綺麗好きのデュランは毎週シーツの日干しを欠かさずに行っているのだ。

そのお日様にあたって暖かいシーツにじゃれるようにしながら、ミーニャはくるくると動き回っていた。

「デュラン、勇者サマごっこしようよ!お仕事が終わった後で良いからさ!」

血相を変えたティアの顔を見ながら、シーツをばさばさと振るデュランはやはりミーニャが見えていない様子。

だがミーニャは穏やかな表情のデュランが自分の話を聞いていると思い込み、勇者サマにあげるお花摘んで待ってるからね、と道脇に咲く野花を採取しようとしていた。

「やり残したことは何かたずねたとき、彼女は遊びたいと言いましたよね」

花に手を伸ばすミーニャを見て、ティアの右脇に浮かんでいたウルが腕を組みながら言う。

「だったら、遊んであげたら成仏できるんじゃないかしら?」

ミエリが賛成と声を上げると、それまで黙り込んでいたネアキが杖でちょんちょんとティアの肩をつつく。

『…勇者サマごっこってなに?』

「勇者サマごっこって言うのは、魔王に囚われたお姫様を、勇者様が救う遊びのことだよ!勇者サマは魔王を倒した後、お姫様からお礼にお花をもらえるの」

いつの間にか話を聞いていたミーニャがティアの足元まで戻ってきて、ネアキに熱心にゲームの説明をする。

「お姫様はあたし。勇者サマはあそこのデュラン!お姉ちゃんは勇者サマの仲間で魔法使いね」

姫と勇者について語った後、ミーニャは魔王について語る。

「後は魔王役・・・魔王は何でもいいの、ミーニャがいつもやるときはお兄ちゃんが魔王だったけど・・・あそこの草でももちろん良いんだよ。だけどフインキないから・・・」

ネアキに魔王の例を示すために、ミーニャは首をひねりながら辺りを見回す。

岩、草、シーツ、鳥、の順に見回し、ティアの周りに浮遊する精霊に目をつけたミーニャは、あっと声を上げてレンポを指差した。

「角生えてるし、なんか魔王っぽい!赤いおにいちゃんは魔王ね!」

指を指されて魔王指名されたレンポが冗談じゃないとネアキを指差してわめく。

「!? 角生えてるって、それはネアキもそうだろ!」

「だってこの子は魔王というより妖精のフインキだし、赤いお兄ちゃんのほうが魔王っぽい」

「は〜、終わった!」

言い合っている間に、デュランが手をパンパンと叩きながら洗濯終了と満足げに言った。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照 17000 ありがとうございます!!!

Re: アヴァロンコード ( No.590 )
日時: 2013/06/19 17:06
名前: めた (ID: TZiA0BVR)

17200ありがとう御座います!!
十日も放置してたとは

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「えっ、ミーニャがここに居るの?それで勇者ごっこしたいの?」

ミーニャが成仏しておらず、デュランと勇者サマごっこをしたいという事事実を伝えると、彼は急にしゃがみこんだ。

「ミーニャはどこにいるの?」

現実派のレクスと違い、すんなりティアの言うことを信じた気の良いデュランは、ティアに指し示された方向に向いた。

そして帽子を脱ぐと恭しく頭をたれ、やけに芝居がかった口調で言った。

きっと勇者サマごっこのセリフの1つなのだろう。

「ではお姫様、少しの間魔王の手の中に落ちてください。必ずや助けに行きましょう!」

「わーい、デュランはぜんぜん変わってないや!」

それを聞いてミーニャは飛び跳ねて喜んだかと思うと、ティアのところへかけて行き、打ち合わせのようにささやく。

「魔王役が居ないから・・・おねえちゃん代わりに魔王ね!」

言うなり、両手を組み合わせて悲鳴を上げる。コレが魔王に囚われた姫役のスタイルらしい。

「あーれー、私は魔王に囚われたお姫様。勇敢なお人よ、どうか助けて!」

「ところで、魔王って誰なの?レクス?」

だが全く幽霊であるミーニャの声が聞こえないデュランは、洗濯物叩きを片手にティアにたずねる。

おそらく勇者サマごっこが開始されたことも知らないのだろう。

ティアはそこらへんに落ちたいた棒切れをかがんで拾い上げると杖のように構えて、不敵そうに笑みを浮かべて演技してみた。

「魔王は私だ。さぁ、姫を助けたきゃ倒してみろ!」

「・・・悪役はそこで不適そうに笑うものですよティア」と横から水を指され、慌てて魔王のセリフを言いなおすティア。

杖(棒切れ)を頭上に高く掲げ、ここが真昼間の、剣術道場に通う生徒が通る道場前なのにもかかわらず、大声で演技する。

実際この国の英雄が妙なことを口走るシーンを、数人の街人たちが目撃し、眉を寄せて通り過ぎていった。

「コレまで何人もの勇者を倒してきた私に勝てるものか!・・・フ—フハハハ?」

「ティアが魔王とか全く勝てる気がしないんだけど・・・」

ティアが魔王であると聞いて完全に戦意喪失のデュランだが、聖剣(洗濯物叩き)を構え、勇者の決めセリフを言う。

「やっと見つけたぞ魔王め、覚悟しろ!姫君は返してもらうぞ!」

「お前ら何やってんだよ」

と、これから魔王と勇者の未曾有の決戦が始まるというときに、釣竿を担いだレクスがあきれたように二人に声をかけた。

Re: アヴァロンコード ( No.591 )
日時: 2014/12/05 17:06
名前: めた (ID: A1qYrOra)

?!
三万超えてる?!
一年ほど放置していたのにありがとうございます!たまたま覗きに来て参照見てびっくりしたので‥・更新予定はめどが立っていませんが…

Re: アヴァロンコード ( No.592 )
日時: 2014/12/23 22:13
名前: クリス ◆Qjs4g5tod6 (ID: kphB4geJ)

続き希望です…

Re: アヴァロンコード ( No.593 )
日時: 2015/02/05 20:35
名前: ショパン (ID: kphB4geJ)

続き・・・・・!希望!

Re: アヴァロンコード ( No.594 )
日時: 2015/05/06 10:20
名前: ソレイユ ◆g9f2Ab4.4E (ID: kphB4geJ)

やっとここまで追いついた。
続き書く予定無いんですか〜?
春休みにアヴァロンコードにはまって一週間でクリアして、この話を見つけたので…

Re: アヴァロンコード ( No.595 )
日時: 2016/03/29 01:16
名前: 野良猫 (ID: I7JGXvEN)

お久しぶりです!野良猫ことゆめです!
覚えていらっしゃるでしょうか?

最近アヴァロンコード愛が再発し始めてやってまいりました!

エヴィグとウェルトは何回見ても飽きませんねー
その文章力がほしいです(切実な願い)

更新をwktkしながらお待ちしてます(^ω^)

Re: アヴァロンコード ( No.596 )
日時: 2016/05/23 09:16
名前: ほうじょうたくま ◆vXX0cdKx3A (ID: CmU3lREQ)

ピッコロ「くらえ!!まかんこうさっぽう!!」

ベジ−タ「フンっ…、つまらん技だ…」キィィン!!

ピッコロ「なん…だと…!?」

ピッコロ「バカな!?おれの最強の必殺技が?効かないだと!?」

ベジ−タ「この程度が必殺わざとはな。ナメック星人は余程冗談がすきなんだな。まあいいこれで終わらせてやる」グウィィン

ピッコロ「な?な!?なんだこの気は!?!」足がググンと下がりヒザをつくピッコロ

ベジ−タ「フッ…これは俺のいちばんよわい技だ!くらえェェ!!」ズキュ−−−ン

ピッコロ「ぐはあぁぁぁ」ドカ−−−ン