二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: アヴァロンコード ( No.292 )
日時: 2012/11/11 15:03
名前: めた (ID: UcmONG3e)

 同時刻 グラナトゥム森林

「ティアはちゃんと駆りできてるかな?」

「アイツならなんだかんだで大丈夫だろ」

そう言い合うのはヒースとレクス。

今は焚き火を囲んで少し遅い夕食中だった。

揺らめく火とそれに合わせて動き回る影をみながらレクスは、ヒースが狩って来た鶏肉をほおばっていた。

「でもなぁ、あいつ不器用なんだよな・・・魚釣りの竿も作れないし、ウサギ捕りの罠だって作れないし・・・」

すると反対側で豪快に肉を食していたヒースがにやりと笑っていう。

「過保護だねぇ」

「だ、だってしょうがないだろ。妹分だし・・・」

あさっての方向に視線を向けてつぶやくレクスにヒースは聞いてみる。

「ティアと兄妹・・・なわけじゃないだろう?」

うん、と頷くレクス。

何が聞きたいんだろうと焚き火の反対ごしにこちらを見てくる。

「君たちは幼少の頃、出会ったんだっけ?」

「・・・そうだよ。七歳くらいのときにね」

心なしかレクスの視線が暗くなった。

レクスの生い立ちを知らないヒースは気にも留めずに聞いた。

「君たちのご両親は、こんなことになって心配していないのかい?」


沈黙。


あたりが完全な無音になり、川の流れる音がどこか遠くより聞こえてくる。

夜目の利かない小鳥達の寝息まで聞こえてきそうだ。

だがその沈黙も唐突に破られた。



「オレ達に心配してくれる両親なんて、もういないよ」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

また矢印でも書こうかと。
またひたすらティアが砂漠へ抜けるまでの話よりも ティアの過去と幼少のティアとレクスが会ったきっかけを書いたほうがいいと思いまして。

ちなみにこの矢印は『リコレクション』で分類されます


 リコレクション001

Re: アヴァロンコード ( No.293 )
日時: 2012/11/11 16:22
名前: めた (ID: UcmONG3e)


リコレクション 002

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「いない・・・?」

ヒースはまずいことを聞いてしまったかなと、ちょっと引きつった笑みを浮かべていた。

「文字通りだよ、いないのさ」

レクスのぶっきらぼうな言葉にヒースは頭をかきながらつぶやく。

「いや、すまん・・・知らなかった」

そんなヒースを横目で見つつレクスは肩をすくめた。

「別にいいよ。もう悲しむには時間がたちすぎた。もう、コレが普通になったんだから」

芯が強いのか、強がってるのかヒースには分からなかったけれど言う。

「俺も両親はいない。戦争で、しんでしまったよ」

レクスは気にも留めず焼き鳥を食べている。

「最近は墓参りもろくに出来ないでいる。君も墓参りが出来ないだろう?」

するとこくんと今度は素直に頷いた。

「カレイラに今は眠ってる。母さんも父さんも・・・妹も・・・」

妹も。と聞いてヒースは笑みを消す。

ではもうこの子に家族はいないというのか。

「そうか・・・妹さんも。何歳くらいだ?」

「ミーニャは5歳の妹だったよ。でももういない」

またも言葉を失うヒース。

しかし、今度はレクスがしゃべった。

手を止めて、悲痛な顔で言う。

「でも、ティアにはそれが無いんだ・・・」

沈黙のまま、レクスを見つめるヒースにレクスは顔を向けた。

「ティアの両親も・・・この世にはいない。それに・・・お墓も無いんだ」

「な、なんと・・・言ったらいいか・・・どういうことなんだ?」

レクスはうつむいたまましゃべりだした。






Re: アヴァロンコード ( No.294 )
日時: 2012/11/11 17:00
名前: めた (ID: UcmONG3e)


 リコレクション 003

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ティアは孤児って言ったら早いかな」

レクスはそうつぶやいた。

レクスのまん前にいるヒースは息を潜めて聞き入っている。

心なしか焚き火のはぜる音も、風が木々を揺らす音も、川のせせらぎさえも静まり返っている。

ただ三日月照らす夜の森に、レクスの声だけが響いていた。

「でも捨てられたわけじゃないんだ。ティアの両親は“殺されたんだ”」


—それはティアがまだ六歳の頃。

ティアの両親は旅好きな旅行家だった。

少しばかり裕福な家庭なため、各国を点々と巡る旅をする事などしょっちゅうだった。

今回訪れたのは、カレイラのそば。

そこで野営しながら、次に訪れるカレイラのことを、ティアの父親は凄く楽しみにしていた。

「とても美しい国らしい。それになにより、千年間も続く家系の王族が取り仕切っているんだそうだ。気に入ったらそのまま住んでしまおうか」

「おとうさん、カレイラってきれいなところー?」

「きっとね。きっと貧しい人などいずに、聖王が救いの手を差し伸べているんだろうね。美しいセントラルや立ち並ぶ家はどれも絵に描いたように素晴らしいと聞いたよ」

父親と母親はとても笑顔でそういった。

「聖王、どんな人なんだろうね?きっとすべての国民を大切に思う人なのね。貴族も国民も分け隔てなく平等で、差別の無い素晴らしい王国なんだわ」

幼きティアを抱きしめて言う、母親。

その胸に抱かれて、ティアは飛び切りの笑顔で頷く。

「困った人はみんなカレイラに行けばいいのに。そしたら“せいおう”や“しんせつな人”が助けてくれるんでしょ?」

—その夜。

「カレイラへはこのまま西へ行けばいいんだよ。そうしたらティアに髪飾りを買ってあげようね」

母親が言うとティアはブンブン首を振る。

そして母親の髪にうずもれている髪留めを指差して言う。

「ううん。わたしはおかあさんのがいい」

すると母親はにっこり微笑んでティアの褐色の髪をなでる。

そして自らの銀の髪飾りをティアに付けてあげた。

「やったぁ!おとうさんにみせびらかしてくるっ」

そしてテントを飛び出していったティアは野外散策にいった父を探しに言った。

父はボタニー。つまり植物学者であり旅行をかねて植物研究もしていた。

父の姿を探しててくてく歩いていると、なかなかみつからない。

テントが見えなくなるまで探していたのだが、疲れてしまった。

「むぅ、おとうさんいない。おかあさんにお花摘んでてあげようっと」

たちまち上機嫌になったティアはその辺の花たちを丁寧に採取していく。

きっとお母さん達喜んでくれるよね。

—その頃テントでは。

目を覆いたくなるほどの虐殺が行われていた。

ティアと行き違いになって帰ってきた父も、ティアを笑顔で見送った母も、すでにこの世の人ではなかった。

輝かしい黄色のテント内は、すべて真っ赤になり、歩くたびに水溜りを歩くような音がする。

「けっ。このご時勢に旅行たぁ呑気な野郎どもだ」

なきがらに言い放つのはヒゲ面の男。

その手には錆び付いた大柄なトマホーク(狩猟用オノ)。

もはやそのトマホークも男自身も、生まれたときから全身が真っ赤だったのではないかと言うほど返り血を浴びまくっていた。

たが男の片手に握られた多大な現金は赤ではなかったけれど。

「だがよう、そのおかげで俺のふところが潤うってわけよ」

いやらしく笑いながら男はあらかじめ用意しておいた液体を撒き散らす。

黄色の液体はテント内とその外面、辺りの草花に撒き散らされてらてらと光っている。

そのテントに、男は笑みを浮かべながら火を放った。






Re: アヴァロンコード ( No.295 )
日時: 2012/11/11 17:24
名前: めた (ID: UcmONG3e)

 リコレクション004

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「おか・・・さん?」

その光景を、遠くより見つめていたティア。

とんでもない勢いで燃える炎。

あれは・・・その燃えているものは・・・テントの中には・・・!!

「おかあさん・・・おかあさん」

お母さんがいたテントが燃えている。

そのテントの前で踊り狂う男こそ、テントに火をつけた張本人。

ティアは震えながら首を振った。

お母さんが燃えている・・・? 違う!!

テントが燃えている・・・ 違う!

お母さんは死んだ  ちがう・・・

「おかあさん!!」

しんでなんかいない。返事してくれると思った。

けれど

「なんだぁ?」

返事したのは踊り狂っていた放火魔だった。

燃え盛る炎のそばにいた男には、明暗の関係上、ティアの姿はみえない。

しかし、ティアはその男に見つかったと思い、全身に震えが走る。

「この親子のガキかぁ?ははっ」

しかし男は姿を探りつつ闇につぶやく。

「残念だったなぁ!おまえのお父さんもお母さんもみーんな焼けちまったぜ!」

いやらしく笑うヒゲ男。

しかし、ティアは奥歯をかんで叫び返す。

「死んでなんかない!!」

すると上機嫌だったヒゲ面の男が目つきを変えてティアを見た。

「あ?死んだに決まってんだろ。俺がやったんだから。けちつけるなら、おまえも殺すぞ」

そういいながら男は真っ赤なトマホーク(狩猟用オノ)を構えてこちらに歩いてくる。

—この人はおかしい。とにかくにげなさい

そんな声が聞こえた気がして、ティアは恐怖に支配されながら闇に逃げ込んだ。

「逃げたってムダだよ。必ず見つけ出して両親にあわせてあげよう」

猫なで声で言う男はティアの走っていく方向に、松明を向けて言う。

—このまま西に向かうとカレイラがあるの。そしたらティアに髪飾りを買ってあげようね

母の言葉が心の中で繰り返された。

必死に逃げるティアは涙を流しながら走る。

—きっと貧しい人などいずに、聖王が救いの手を差し伸べているんだろうね

それに次いで父の言葉、自分の言葉が脳裏に巡る。

—困った人はみんなカレイラに行けばいいのに。そしたら“せいおう”や“しんせつな人”が助けてくれるんでしょ?

「カレイラ・・・カレイラに行かなきゃ・・・しんせつな人・・・せいおうに助けてもらわなきゃ・・・」

放火魔に追いかけられながらも、ティアは救いを求めてカレイラへと走った。




Re: アヴァロンコード ( No.296 )
日時: 2012/11/11 17:40
名前: めた (ID: UcmONG3e)

 リコレクション005

・・・・・・・・・・・・・・・

ぼろぼろになたティアは地面に倒れた。

明け方まで必死に走っていたせいで、幼いからだがもう持たない。

すでに放火魔はティアの追跡をやめた様で、どうせまた火のそばで狂気に歓喜しているのだろう。

「おとうさん・・・おかあさん・・・は、」

倒れたティアは地面に倒れながら言う。

どこもかしこも傷だらけ。何度も転んだせいで服も汚れて避けた部分もある。

「カレイラに・・・逃げれたのかも・・・」

そうだ、そうに違いない。

でも、もう足が動かない。

朝日がティアの褐色の髪をてらし、銀の髪飾りが光る。

「おかあさ・・・・」

もう意識がなくなりそうになり、ティアは髪飾りに触れた。

変わった形の髪飾りは、母の手作り。

沢山の思い出が込められた、母の思い出の品。

「カレイラでまってて・・・いま、あいにいくか、ら」

けれどティアはそのまま意識を失った。



ティアは間違いなく死んだだろう。

傷だらけで、おまけに免疫力の乏しい幼子が、不衛生にも傷口を泥だらけにしていれば。

しかし、その状態も長くは続かなかった。

倒れたティアに、一つの影が重なる。

「これは・・・・」

その声の主はティアを抱えあげると、辺りを見回した。

けれどこの子の両親の姿や、何かしらの手がかりも得られなかった。

「捨て子・・・にしては・・・」

するとティアがかすかに言う。寝言だったのかもしれない。

「カ、レイラ・・・」

殆どかすれた声だったのに、その人は足早にカレイラへと向かっていった。




Re: アヴァロンコード ( No.297 )
日時: 2012/11/11 18:37
名前: めた (ID: UcmONG3e)

 リコレクション 006

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ティアが目を覚ましたとき、そこは見知らぬ人の腕の中だった。

6歳と言えど、ティアはその人の腕に収まるほどの小さな身体だったため、その人は疲れた様子ではなかった。

「おとう、さん?」

声をかけるとその人物は薄い水色の目をティアに向けた。

方耳に、涙形のピアスがついている。

「起きたのか」

その人物は優しげな顔を向けてたが、ティアの表情は曇った。

「おとうさん、じゃない」

するとその人物は歩きながらティアに問う。

「おまえの名前は?」

「ティア・・・」

ティアはかすれた声で答えた。

相変わらず傷口たちが痛む。どこか化膿しているのだろう。

「ティアか。聞かない名前だな・・・両親は?」

「カ、レイラ・・・に」

そういったものの、ティアには出身国の名前がどうにも思い出せない。

旅好きのために、本当の家がどこなのかよく分からないんだ。

「カレイラね・・・下町の子供ではないようだが」

ティアの少し上等な服装に、その人物は困ったように首をかしげる。

「どうしてそんな傷だらけなんだ」

しかしティアは完全に気絶しており、もうそれ以上目を開かなかった。

「困ったものだ・・・はやいこと手当てしないと・・・」

若き日のグスタフはティアを抱きかかえて自らの家へと走っていった。


元親衛隊の元に傷だらけの子供が運ばれたと言う噂は、すでにローアン中に広まっていた。

グスタフはとりあえず王の元へ面会しに行き、そこで手当てしてもらっていた。

ぐったりするティアの服装は、たしかに下町や中層部のものではないため、上層部に住むものと判断されたのだ。

「ふむ、ティアとな・・・聞かぬ名だ」

王はまったく興味なさそうに受け答えていた。

けれどグスタフはどうにかティアという子供を持つ両親を探してもらおうと必死だった。

「うむ、よかろう」

「計らいに感謝しますぞ」

深く頭を下げたグスタフに、王は意外そうに頷く。



数時間後、消毒薬のにおいがたっぷりの包帯に包まれたティアが目を覚ました。

茶色の瞳が誰かを探すような動きをし、ふとグスタフを捕らえる。

「おろうさん・・・?」

「目が醒めたか」

同じやり取りにグスタフは優しげな笑みを浮かべて頷いた。

けれど今度はティアも失意の色を浮かべなかった。

「助けてくれた人・・・?」

かすれた声で言うティアに、グスタフはあいまいに頷いた。

真っ白のベットに横たわる小さな幼女にこれから難しい質問をしなくてはならないのだ。

騎士達を下がらせ、一対一で聞く。

ティアは傷だらけの包帯のしたからただグスタフをじっと見ていた。

「ティア、君のご両親はカレイラにいるんだね?」

「・・・きっとそう」

するとティアの痛々しい手が髪に触れる。

指の合間から見えるのは、銀の髪飾り。

「おかあさんもおとうさんも、きっと逃げてきたはずなの」

その仕草を見ていたグスタフは眉を寄せた。

「逃げてきた?」

うん、と頷いたティアは妙に無機質な表情をしている。

「何から逃げてきたんだい」

ティアはためらうそぶりも見せず、その名を口にした。

「真っ赤になった男の人から」





Re: アヴァロンコード ( No.298 )
日時: 2012/11/11 18:52
名前: めた (ID: UcmONG3e)

 リコレクション 007

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ティアの口から語られた、その悲惨な光景にグスタフは戸惑いを隠せない。

事実、グスタフが早朝あそこにいたのも、広野より火柱が見えると通報があったからだ。

その炎の中にいたティアの両親は、きっともう・・・。

詳しいことは現在調査中の騎士にたずねれば分かるだろう。

「・・・本当の家も分からないんだね。それに、両親も・・・」

するとティアは無機質な声で答えた。

「おとうさんとおかあさんは、カレイラに来ているんでしょ?」

何もいえないグスタフに、ティアは言い続けた。

「だって、ここはカレイラだもん。“せいおう”がみんな助けてくれるんでしょ?」

聖王・・・ゼノンバートの事か。

「おかあさん、言っていた。すべての国民を大切に思う人なのね。貴族も国民も分け隔てなく平等で、差別の無い素晴らしい王国なんだわって・・・」

外国の印象はそうなのだろうな、とグスタフは思う。

この国に訪れると分かる、確固たる差別。

この国の形を見たらすぐに分かる。三つに分かれた街。

中層部や貴族にバカにされさげずまれる下町の貧民達。

この国は平和ではない。聖王など、偽りなのだ。

だがそれを言っても、ティアは首を傾げるだけだろう。

こうしてティアがここで治療を受けられるのも、ティアの服装が上等だったから。

ただその理由で治療してもらえただけなのに。

「・・・私は君の両親を探してくるよ・・・きっといるさ」

そんなうそを言うと、ティアは笑顔で頷いた。

「ありがとう」

自分の言ったことがあまりにも残酷すぎて、グスタフはお礼を言ったティアを振り返れなかった。


Re: アヴァロンコード ( No.299 )
日時: 2012/11/11 19:11
名前: めた (ID: UcmONG3e)

 リコレクション008

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

グスタフはカレイラにて元部下だった騎士にティアの両親の捜索をしてもらい、自分は現場に向かっていた。

「グスタフさんは今でも私の上司ですから!」

そういってくれる騎士たちに笑顔でお礼をいい、無理に足を進める。

目的地は、行きたくないあの場所。

ティアの両親の元へ。


「グスタフさん、見てくださいよ」

現場にて調査中の騎士が彼に言う。

その現場は一目で分かるところだ。

辺りは緑美しいのに、そこ一体は真っ黒なのだ。

昨夜の炎がすべてを焦がしてしまった。

「骨も・・・何もありません・・・みんな燃え尽きてしまったようです」

そういう騎士の指差す方向には、黒いけしずみ以外何も無い。

グスタフも、コレには無言になった。

もしかしたら本当に彼らは生きているのでは?

にわかに湧き上がる期待を胸に秘めていたのだが。

「ですが、コレを・・・」

差し出された鈍器を見て思わずうめく。

赤黒い血を吸ったトマホーク(狩猟用オノ)。

ありえないほどの黒ずみは、一人殺害しただけでは付き添うも無い色合いだ。

「おまけに・・・この岩を見てください」

血濡れのトマホークを持っていた騎士が真っ黒く燃え尽きた近くの岩を指差す。

「この文字・・・きっとティアという子に向けたメッセージですよ」

それは完全なる悪質犯の仕業だ。

岩には、血文字でこう書かれていた。

「 昨日のかくれんぼは負けたけど、おまえのおとうさんとおかあさんは、俺との鬼ごっこに負けた。
  おまえのお母さんはなんて叫んだと思う?
  あの子にだけは手を出さないでってさ            」


グスタフはその岩に手をついて、思いっきり拳で殴りつけた。

もちろん彼の手はいやな音を立てた。

だが折れてはいないらしく、すぐさま腰の剣に手を伸ばす。

そしてグスタフはその岩を斬った。

グスタフの怒りの一撃は岩を裂き、何度も何度も切り崩していく。

そして、砕け散った岩をティアの両親を殺害したトマホークで殴りつけていく。

後ろで控えていた騎士たちは黙ってみていた。

「なんてヤツだ・・・くそ、くそ」

悲鳴に似た声でグスタフはその岩を粉々にした。

ティアの目に触れてはいけない。

こんなもの見せてはいけない。

「そいつを探すぞ・・・野放しに出来はしない!」


Re: アヴァロンコード ( No.300 )
日時: 2012/11/11 19:25
名前: めた (ID: UcmONG3e)

 リコレクション 009

返信が300行きました。
ティアの過去、悲惨すぎる・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


一方、グスタフのいない頃。

フランネル城の手前に位置する小塔でティアはグスタフを待っていた。

おとうさんとおかあさんは、本当にカレイラにいるのだろうか・・・。

いないと分かっていた。

けれど、生きていてくれないと・・・・どうしたらいいのだろう。

ティアはこてんと首をドアのほうへ向けた。

先ほど扉の前で太い男の声が聞こえたのだ。

「グスタフもあのような小娘一人で騒ぎすぎだ。回復しだい放て」

まさかそれが王様の命令だと知らないティアは、妙なことを言う人もいるものだと考えていた。

だって、カレイラには“せいおう”としんせつな人しかいないのだから。

困った人を助けてくれる。ゆめのような国なのだから。

「そうだ・・・せいおうに、会いに行けばいいんだ」

ティアは痛々しい身体をベットから起こした。

そして幼い身体に鞭打って、冷たい床をはだしで歩く。

背の高いドアノブを苦労して掴むと、そっとドアを押した。

「せいおうを・・・探せば、助けてくれる・・・」

ティアの純粋な心はそれを信じていた。

そして廊下をよたよたと進んでいくと、光の指す方向へ歩いていく。

廊下はすべて赤い絨毯が引いてあったが、ティアはそれをすべて避けて歩いた。

痛む足の裏には冷えた感覚のほうが心地いい。

「おい、止まりなさい」

すると不意に声をかけられた。

見上げれば、騎士。

「せいおうに会いに行かなきゃ行けないの・・・」

必死に言うと、騎士はなにやら考えている様だった。

信じられないことだが、騎士は王に言われた言葉を思い出していた。

小娘が治ったら放てと。

厄介払いしたいといっていた王。

ではこのまま放っておいたら勝手にどこかへ行くだろう。

どうせ身寄りの無い、元上流階級だった小娘など、知らぬ。

国内にも身寄りが無いため、貧民同様である。

貧民など、用は無い。

「勝手にしろ」

騎士はそう冷たく言うと、ティアを置き去りにした。


Re: アヴァロンコード ( No.301 )
日時: 2012/11/12 19:00
名前: めた (ID: UcmONG3e)

 リコレクション 010

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ティアはひとりでに、外へ出ていた。

知らない国。

ティアは人々の姿を追いかけて、会いたい両親の姿を探していた。

おとうさん、おかあさんどこ・・・。

すると、ふとそのような姿がちらりと見えた。

「!!」

まさかと走って出て行くと、急に躓いて転んでしまった。

ティアのひざに長い擦り傷が出来る。

痛みに歯を食いしばって耐えていると、声が聞こえた。

「あぁ〜ら?なにこのこ」

汚い、と言うようにこちらを見てくるティアより3さいほど上の少女が言った。

水色の目の、赤毛の女の子。

「ボロ雑巾じゃないの。さっさと下町へ行ってくれない?」

ティアは戸惑った顔を彼女—フランチェスカにむけた。

「したまち・・・?ぼろぞうきん・・・?」

言われている意味は分かる。けれど信じられない。

カレイラの人々は、こんなこというはずが無いのだ。

目を見開いているとその脇から男の子も出てくる。

「だめだねぇ、ここには来ちゃいけないんだよ?ここはお金のある人がきていいところなんだから」

そして犬を追い払うようにティアに手を振る。

ティアは震えながらつぶやく。

「なんで・・・?カレイラの人は・・・そんなこと言わないでしょ?」

言った瞬間さげずんだめで見られた。

「何を言ってるのかしら。下町の人は下町に行きなさい。ここにはあなた達に親切にする人なんていないのよ」

その言葉でティアは立ち上がって走った。


どういうことだ。

ここはカレイラじゃないのか。

お父さんの言っていたことはうそなの?

ティアは夢中で走った。

父と母を捜し求め、こんなところ早く出て行かなければ。


けれど、ティアの両親はいるわけもなくティアはただ走り回るしかなかった。





Re: アヴァロンコード ( No.302 )
日時: 2012/11/12 19:01
名前: めた (ID: UcmONG3e)

 リコレクション 011

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ティアは再び気絶していた。

手当てされた純白の包帯も、いまは泥だらけである。

ここは貧民達の住む街、下町であった。

薄暗くなったこの街で、食糧確保へ向かう人々がティアを発見したところだった。

「おや・・・捨て子・・・?」

「服装は貴族らしいが?まさかビスコンティーの隠し子かね?」

「あぁ、名門貴族のプレイボーイの・・・かもしれないが」

そして傷だらけで倒れこむティアのもとによってくると、彼女を抱き上げた。

「とにかく、この子は助けが必要だ・・・みんなで看病しよう」

そして小さな空き家に行くと、みなの家から持ち寄ったベットや机、椅子を並べていく。

そして出来るだけきれいな布を敷いたベットにティアを横たえた。

女性達が水でティアの顔の汚れをぬぐっている。

「あらまぁ、こんな傷だらけで・・・」

そしてその髪をなでてあげた。

すると妙な手ごたえがあって女性はふと紙にまぎれる銀の髪飾りを見つける。

両親の形見だろうか?

大切にされていたに違いないが・・・。

「両親もいないで・・・ここは貧しいけれど、面倒を見てあげるからね」

するとティアの目がすっと開いた。

茶色の目が即座に誰かを探すような動きをする。

「おかあさん?」

「いいえ・・・」

期待の込められた声に女性は首を振った。

するとティアの目の輝きも失せ、ちょっと落ち込んだようにこちらを見上げてくる。

「どこ・・・?カレイラ?」

そして首をあちらこちらに向けて身体をひねろうとする。

傷口が開いているところがあるので、女性は慌ててティアの動きを止めた。

「そうよ、カレイラだよ。カレイラの下町。安心していいんだよ」

するとティアは首をかしげる。

「安心・・・?助けてくれるの?」

女性が頷くとティアはやっと笑顔になった。

「ここが・・・しんせつな人のいる、カレイラ!」

そして戸惑うように笑う女性にティアは言う。

「助けてくれた人・・・は?」

「あぁ・・・私たち全員だよ」

ティアはグスタフのことを言っていたのだが瞬きしてこちらを覗き込む人々を見つめる。

「助けてくれてありがとう」

カレイラについたのだ。

せいおうやしんせつな人のいる、救いの国へ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

参照 4100 超えました!!
思ったほどリコレクション長くなりそう。


Re: アヴァロンコード ( No.303 )
日時: 2012/11/12 19:18
名前: めた (ID: UcmONG3e)

 リコレクション 012

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

グスタフはやっとの思いである人物の足を捕まえていた。

それは狂気に踊る放火魔のもの。

じたばたと暴れ、グスタフを蹴りつけようともがく彼の頭を逆に蹴り、やっと黙らせた。

「下衆めが。おぬしは一生牢獄に入っていろ!」

厳しく叱咤すると放火魔はふてくされたように鼻血を流しながらにらみつけてくる。

そしてブツブツつぶやくとした打ちした。

「もっと放火できたはずなのに・・・・」

その言葉にもう一度腹部にけりを入れたグスタフは足かせと手錠を男に付け、もう一週間も空けているカレイラへの帰路を開始した。

「これで・・・少しはあの子の両親も気が晴れるだろうか・・・」

そしてもう帰らない両親のことをどう説明したらよいかとグスタフは悩みながら歩いていった。


しかしグスタフを迎えた事実は衝撃そのものだった。

フランネル城にて放火魔を牢の奥にぶち込んだ後、ティアの様子を見に着たグスタフは声も出なかった。

「いない・・・?」

確かにティアが寝ていたベットはあるのだが、ティア自身がいない。

まさか傷が悪化して死んでしまった?!

血相を変えて王の元へ急ぐと、王は穏やかな顔でこうつげる。

「小娘?一体何のことだ?」

王は完全に忘れていた。なおも食い下がるとやっと思い出したようだった。

「あの小娘なら出て行ったわ。行方も知らぬ」


Re: アヴァロンコード ( No.304 )
日時: 2012/11/13 19:25
名前: めた (ID: UcmONG3e)

 リコレクション 013

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「外国の流れ者のことなど気にせず、おぬしは親衛隊に復帰したらどうじゃ?まだその年齢でも十分国の役に立てるじゃろうが」

グスタフはあいまいに返事をして、フランネル城を後にした。

グスタフはそれから数日の間、王には内密にティアの行方を探していた。

公園も、墓地も、町の迷路のような街路もすべて探した。

けれど、三日発っても見つからない。

「息子よりも幼い子供だと言うのに・・・」

グスタフは一人息子のことを思い出したつぶやく。

妻にそっくりの、平和が大好きな優しい男の子。

剣を握るよりも誰かのために優しくしてあげるほうが好きな、まさに妻を具現化したような存在。

今は妻と共に平原で遊んでいるのだろう。

「まったく、王も娘を持っているはずだが・・・なぜ」

この無慈悲な王にもれっきとした子供がいる。

何円も前に亡くなった王妃との子供、ドロテアと言うティアと同じくらいの年齢の子がいるのだ。

「とにかく・・・見つけなくては」

そして街のいたるところへ足を向けた。


その頃ティアはというと、下町の人々に献身的な治療を受けてすっかり回復していた。

汚れた服も洗ってもらい、今はそれが乾くまで子供用の服を貸してもらっていた。

「よかったねぇ、すっかり元気になって」

無邪気に微笑むティアを見て、介抱していた人々はいう。

けれど、まれにティアの口にすることは気になったが。

ティアはよく、助けてくれた人。おとうさんとお母さんを知らないかと問う。

けれどどれも知らぬ問いなのでみんな答えられないでいた。

そして空き家が本格的にティアのものとなった頃、ある人物が到来する。

「ここに、小さな子供は・・・傷だらけの子供は来なかったか?」

銀髪の、方耳に涙方の耳飾をつけた男が、ティアをたずねてきたのだ。

貧民達は一瞬ティアのことだとすぐにわかったのだが、この男が父親だと思わなかった。

この男はカレイラの無慈悲な王の親衛隊だった男だ。

国の犬がこの子に何のようだといぶかしがっていた。

「知らないね。みてないよ」

もしや貴族の隠し子を始末しに来たのかと貧民達は総出でティアの存在をかばった。

「そうか・・・見つけたら、教えてくれると助かる・・・」

住民達の言葉を聴くと、その男はうなだれて下町をふらふらと歩いていく。

すると、住民の背後で声がした。

あどけない声と、純粋に不思議に思う声。

「どうしたの・・・?」

「さぁ、こっちに来ちゃだめよ」

ハッとした住民達はすばやい動作でティアを抱えてその場を去ろうとする。

だが、ティアの声に反応したのは住民だけではなかった。

「・・・あのこの、声・・・?」

振り返ったグスタフは鷹のような目で瞬時に人ごみの奥でこちらを見ようとする幼女の姿を捉える。

それに気づいた住民達はいっせいに走り去り、ティアを抱えて走っていく。

「っまってくれ!その子を探していた!」

グスタフが走ろうにも、どの住民がティアを連れているのかわから無い。

下町の民は20人ほどいっせいに走り去っていく。

グスタフは舌打ちしてどうにか誤解を解こうと目じかの男に狙いを定めた。


「まって、あの人・・・あの声きいたことあるの」

抱え込まれたティアはその声の主を見ようともがくけれど、母親のように面倒を見ていた女性はそれを許さない。

ますますあわせてはいけないと、警戒心を増してティアを抱きなおす。

「あの人・・・助けてくれた人なの・・・?」

どうして見せてくれないのかと、ティアは女性の顔を見上げる。

走っているので視界ががくがく揺れて気持ち悪い。

「だめよ!せっかく助かった命・・・無駄にしてはだめ!それにあの人は・・・王の狗。たすけてくれるわけが無いの」

そしてティアの家にころがりこむとかんぬきをして息を潜めて隠れた。

ティアもそれに習って女性にしがみつき、そっと息をしていた。

心の中で、あの助けてくれた人じゃないんだ、と残念がりながら。



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ティアの過去はもうすぐ終わりそうです・・多分

そして参照 4200 超えました!!ありがとうございます!

Re: アヴァロンコード ( No.305 )
日時: 2012/11/13 20:20
名前: めた (ID: UcmONG3e)

 リコレクション 014

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グスタフに取り押さえられて動きを封じられた男は悲鳴に似た声で叫ぶ。

「あの子はおまえの探してる子供じゃねぇよ!」

だが身間違えようのない事実にグスタフは腕をひねる力を強めた。

壁に押さえ込んだ男は悲鳴を上げつつ歯を食いしばって耐えている。

「それに・・・おまえのようなヤツに教えるものか」

豪快に睨まれてグスタフは奥歯をかみ締める。

そして不意に男を放すと数歩後ずさった。

男は地面に座り込み、痛む肩をさすりながら怯えつつ見上げてくる。

そんな男にグスタフは言った。

「すまない、あせっていたからつい・・・」

そして眉をひそめている男に真剣な顔でつげた。

「教えてくれ。あの子の・・・ティアの居場所を。あの子供はティア、間違いないだろう?」

すると男は吐き捨てるように言い返した。

「だったらどうする?始末でもする気か!」

そして立ち上がり、グスタフを堂々と見据えると言い切った。

「あぁそうだとも。ぼろぼろで傷だらけのあの子を手当てした。話を聞けば中層部で助けを求めたそうだ・・・」

男は話しながらグスタフの脇をすり抜ける。

その姿を目で追いながら、グスタフはティアを探し当てたとほっとしていた。

「だが誰も助けてはくれず、こんな下町にやってきたんだ。そしてやっと回復した・・・そこに今更のこのこと、どういうつもりだ!」

その男はひどく興奮して感情的になっていた。

きっとはやり病のさいに子と妻を両方失ったためだろう。

そのときも、王は助けを差し伸べなかった。

そしてすべてが終わった頃に、騎士一人を様子を見に派遣をしたのだった。

「あの子に帰るべき家を・・・孤児院にでも—」

「忘れるな。あの子の家はもうここにある」

グスタフの提案はきっぱりと断られた。

仕方が無いので、ティアとの約束—両親について—を果たすため、男に同意するほか無い。

「ではコレだけ知らせたい。あの子の両親についてだ。信じてくれるだろう?この前の大火事の事件を・・・真実をすべて話そう—」

男は眉を潜めた。



とんとんとん、とノックがされてティアとティアの世話をする女性は即座に顔を上げた。

女性がすぐにかんぬきをはずしてドアを開ける。

仲間の姿があらわえて、女性が安堵した表情をするが—

「あ、助けてくれた人!」

ティアの声が上がるのと同時に女性の顔が青ざめる。

仲間の背後にグスタフがいたからだ。

「ティア、探したんだぞ」

グスタフの姿を見るなりうれしそうなティアを、女性は戸惑った顔で見つめている。

「ね、ね、おとうさんとお母さんはいたの?」

しゃがんだグスタフに走りよったティアはすぐに聞いた。

グスタフは一瞬ひるんだようにしていたが、出来るだけ笑顔で言う。

「おとうさんと杜母さんから・・・伝言を授かったんだ」

「—?」

首を傾げるティアに言うグスタフ。

その脇で、グスタフにすべてを聞かされた男とティアの世話を焼いていた女性が話しこんでいた。

ティアの両親は外国のもので、旅暮らしの研究家。

そしてカレイラに来ることを楽しみにしていたが、途中野外中に放火魔によって殺害される。

その場にいなかったティアは逃れたが、両親は亡き人に。

傷だらけのところをグスタフにより助けられたティアは王室で看病を受けるも、グスタフの留守中に逃亡。

そして今に至る。

その痛ましい出来事に女性は口元を押さえて、何度もまさかとつぶやく。

骨も残らぬ悲惨の両親のことを、グスタフはティアになんて教えるのだ。


「おとうさんとお母さん・・・旅に出たの?」

ティアが悲しげに首をかしげながら問う。

「そうだ。長い旅にでた。だから、君はこれから一人で生きていかないといけない」

目を見開いたティアはその目に涙を溜めて頷いた。

「いつか会いましょうと、いっていたよ・・・」

「う、ん・・・わかった・・・じゃあ、行ってらっしゃいって伝えておいてね」


結局ティアは自分と街の人の要望により、下町の空き家で暮らすことにしたティア。

長い間ずっとそのまま暮らしていた。

そしてティアが八歳になるかならないかの頃、その出会いは突然に訪れた。


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こっから兄貴分との出会いですね
ページ丸々一つ使うくらい長いとは予想してなかった・・・



Re: アヴァロンコード ( No.306 )
日時: 2012/11/13 20:55
名前: めた (ID: UcmONG3e)

 リコレクション 015


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何時ものようにティアが下町付近の歩いていると、目の前にかたまりが見えた。

「?ねこ・・・いや、人?」

道の端に、丸くなった何かがいる。近づいてみると、それが小ぶりな人であることが分かった。

きれいな服はところどころ血にまみれ、目をつぶった顔とその両足両手には尋常じゃないほどの血液がこびりついていた。

「けが!?」

自分もこのように救われたことを思い出しながら、ティアはその少年に駆け寄った。

ゆすってもその人は起きない。

死んでるのかもとあわあわしていると、不意に寝言のように少年がつぶやく。

「み・・・にゃ・・・」

「—?」

とりあえず生きていることは確認できたのだが、み?にゃ?何を言っているのだろう?

もしや外国の人なのだろうか?

頭をひねりながらティアはその人物を引っ張り挙げた。

「とう、さ・・・か、さん・・・」

かすれた声は両親を呼んだのだろうか?

ティアは自分の両親のことを思い出し、葉をかみ締めて少年を立ち上がらせて酔っ払いを担ぐように引きずっていった。

そして家に着くとその人物をやっとの思いで床に寝転がす。

ベットに持ち上げる力量はあいにく持ち合わせていなかったのだ。

そして組んであった川の水をその顔につけ、血を洗い流した。

赤い血とは正反対の深い緑青の髪を持つ少年は先ほど口走った言葉をつぶやいているが意識は無い。

すると急に、ティアのそばに倒れていた少年がすっとその目を開いた。

夕日のように赤い眼はうつろな目を虚空に向けていたがティアを一瞬見てつぶやく。

「み・・にゃ・・・か?無事だった・・・?」

「み、にゃ・・・?」

ティアがそう困った顔で聞き返すと、少年はふと黙った。

そして絶望感たっぷりの目を悲しげに伏せた。

「そうか・・・違うか・・・」

そして急に起き上がると盛大によろめいた。

そのまま簡易な机に倒れかかると、辺りを見回した。

「どこだここ・・・?」

冷たい視線のまま少年はティアを見下ろす。

「私の・・・家?」

ティアが言うと、少年は興味なさげに頷いた。

そしてそのまま首をかしげてティアにまた問いをぶつける。

赤い目がはかなげに涙をたたえているように見えるのは気のせいだろうか。

「やっぱり・・・現実なのか、な・・・?」

ティアは何のことを言っているかさっぱりであいまいに頷いた。

「ねぇ、だいじょうぶ・・・?血がいっぱいついているよ・・・」

すると少年は思い出したように血にまみれた自分の手や体中を見つめた。

そして、震えながらまた誰かの名前をつぶやき、意識を失ったように床にくず折れた。


Re: アヴァロンコード ( No.307 )
日時: 2012/11/13 21:28
名前: めた (ID: UcmONG3e)


 リコレクション 016

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「得体の知れない俺を助けてくれるの・・・?」

少年は夕陽のような目でこちらを見、そして頷くティアをバカにした用につぶやく。

「助けたって何の特にもならないよ。御礼も出来ないしね」

ちょっとひねくれたこの少年を介抱したティアは、困ったように笑っていた。

素直にお礼を言うだけでいいのに。

「怪我をしてるところ無いの?」

包帯を手に持ちながら問うと、少年は不機嫌そうに首を振る。

だがティアは首を傾げて困った顔をした。

あれだけの尋常じゃないほどの血液がついた服なのに、ケガが無いとは一体・・・?

「言っておくけど、殺人なんて犯してないからね」

ティアの考えがそこに行き着く前に少年はむっとした態度で言う。

そして逆にこちらを見て皮肉るように言う。

「おまえのほうが包帯が必要なんじゃないの?不器用なくせに竿なんて作ろうとするからだ」

ティアの両手は確かに傷だらけであり、ティアは言われてしまい笑うしかない。

「だって・・・魚食べたほうが元気になると思ったから・・・」

流通の無い肉類を摂取するには、狩りをするしかない。

魚類は川にいけばすぐ手に入れられるのだが、それは釣りができればの話だ。

「狩りなんて出来ないし・・・罠も作り方わからないから、釣りくらいしか食糧確保できないの」

「今までどう暮らしてきたんだよ?両親は?」

あきれたように少年が聞くと、ティアは笑みを一瞬崩した。

「旅に出た・・・もう帰ってこないの」

「・・・この世にいないの?」

ティアの言葉に少年はきずかうようにこちらを見てきた。

ティアは迷っていたが頷いた。

「親族は?一人もいないわけ?」

少年の問いにティアは頷く。

「もともと外の国で暮らしてたの。ここへは旅行できて、放火魔に殺されたの・・・私だけ生き残ってここで暮らしてる」

そしてティアは釣り針を作りつつまた指に突き刺して眉をしかめる。

すると黙っていた少年がさっとそれを引ったくり、いとも簡単に作り上げた。

「すごーい!」

歓声を上げるティアを横目にちょっと得意げな顔をした少年は言う。

「こんなのも作れないんじゃ、これから生きていけないぞ。この国の暮らしは厳しい」

そして不安げな顔をするティアに、少年は笑顔を向けていった。

「じゃあ、今日からおまえの兄貴になってやるよ。俺はレクス。おまえと同じような境遇の親なき子だ」

天国の親があわせてくれたのだと思った。

妹のように無垢で、不器用な新しき家族を。

「兄貴分?」

首を傾げたティアはちょっとうれしそうに言う。

「もう一人じゃないって言うこと・・・?」

「そうだよ。俺もおまえも、もう一人ぼっちじゃないんだ」

もう一人ぼっちじゃない。仲間が出来た。

それだけでレクスは心がすくわれた気がした。

新しく出来た妹を、このまま一人にさせないべく、彼は生きたいと願った。


ティアの家のそばにある空き家をレクスは家とし、ティアの代わりに釣りなど器用なレクスが魚類を担当した。

そして今に至る。


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これでリコレクションはおわり

題名由来 リコレクション=過去