二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: アヴァロンコード ( No.508 )
- 日時: 2013/01/30 16:54
- 名前: めた (ID: g7gck1Ss)
その事件が起きて数日後、ティアはファナの元へ出かけていた。
前々からこの日においでとヘレンに呼ばれていたのだ。
家の戸を開けると、ヘレンの姿はなく、なにやら二階から声が聞こえる。
「ヘレンさーん?ファナー?」
一階から叫ぶと、上がっておいでとヘレンの優しい声がする。
お邪魔しますとつぶやいて、二階へあがると、ファナとヘレンがいた。
ファナはいつものようにベットに、ヘレンはそんな孫に布団をかけてやっている。
「おはよう、ティア」ヘレンがその姿を認めて声をかけると、ファナが口を尖らせて言った。
「ティア!おばあちゃんったらひどいのよ!私の病気はもうじき良くなるのに、お母さんのお墓参りに行っちゃ駄目っていうの。私も行きたいわ」
すがるように言うファナに、ティアがあぁ、と気づいたように頷く。
そういえば、ファナの病はもう治らないのだ。
名医にもさじを投げられ、オオリエメド・オーフにも助からないと言われた。ヘレンはかたくなにファナにそれを伝えず、治ると嘯(うそぶ)いた。
ティアはその事実を知っており、ファナが咳き込むたびに胸が苦しくなった。
「文句を言うのはおやめ。今日は体調がよくないだろう。レーナの墓参りはわしとティアとで行く。だからゆっくりとお休み」
今日はどうやらファナの母、レーナの命日らしい。
それから十分もせずにファナが大人しく引き下がり、ティアはヘレンにつれられて墓地にやってきた。
そこは数日ほど前、ヴァルド皇子がよみがえった場所であり、レクスにどうなってるんだとなんどもたずねられた。
だが現場にいず、精霊とほのぼのとした時間をすごしていたティアは答えることが出来ないでいた。
緑の豊かな芝生を踏み、ゆっくりと二人は歩みを止める。
目の前には先が丸く削られた石版状の墓石が立っている。そこには花束が沢山添えられており、レーナとかかれていた。
「ファナのお母さん・・・」
そっと持っていた花束を置いたティア。そして両手を合わせて弔う。
「・・・」しばらく黙祷していた二人は、互いに顔を見合わせた。
「・・・あんたには、事実を話しておこうかね」
ふいに、へレンが口を開いてそんなことを口走った。へ?と首を傾げたティアに、ヘレンは過去を語りだした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
参照 10300 越えました!ありがとうございます!!
- Re: アヴァロンコード ( No.509 )
- 日時: 2013/01/30 18:03
- 名前: 天兎 ◆ZwUtbaILG. (ID: 7KCfFUM.)
こんにちは(^^)
ティアマト…自分がやってるPCのゲームにこの名前のMPCが出てきます!Σ(‾□‾)
そこでもやっぱり神的存在です(笑)
- Re: アヴァロンコード ( No.510 )
- 日時: 2013/01/31 14:24
- 名前: めた (ID: g7gck1Ss)
神話系で引っ張り凧なのはオーディンとかゼウスですよね!
ティアマトーのNPCって珍しい・・・
どんな姿なんでしょうね?人魚的な?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ファナの父親のことは知っているね?」
へレンがレーナの墓の前でティアに聞く。顔はこちらに向けず、ずっと義娘の墓に目を落としている。
「バイロンさんですよね、知ってます」
ティアがそう返事すると、ヘレンはまた同じ口調で続けた。
「そう、わしの息子でありファナの父親のバイロン。今どこにいると思う?」
「え?」
ティアはヘレンが何を言おうとしているのかわからず、眉を寄せて困った顔をした。
(ファナのお父さんがどこにいるか・・・そんなこと知らない・・・)
「確か、どこかへ旅に出たんだって聞きましたけど、どこに行ったのかは知りません」
ファナの話ではそうであった。バイロンはレーナとファナを置いて、どこかへ旅行に出たんだと。
旅行と言うよりは、出て行ったといったほうが正しい。
妻子を残してどこか、彼らの知らない地で新たな人生を切り開いているのかもしれない。
と、ふいにへレンがこちらを振り向いた。何か異様な雰囲気に、ティアは後ずさりそうになった。
「わしは、知っているよ」
時間が止まるような感覚に、ティアは驚いた。
今耳に入り込み、鼓膜を震わせて伝わったこの言葉が、信じられない。
「バイロンがどこにいるか、わしは知っているよ」
驚愕の表情のティアに、へレンがもう一度つぶやいた。
「どこに?!何で帰ってこないんですか?ファナは会いたがってます・・・どうしてファナに居場所を教えないんですか?」
ティアは声が出せるようになると、一気にヘレンに詰め寄って言った。
「・・・バイロンは帰ってきているのさ、すでに」
「どこに?」
眉を寄せたティアに、ヘレンは首を振って続けた。
「だがファナに会わせるわけには行かないんだよ」
「どうしてですか?」
ヘレンは墓地を見渡してつぶやいた。
風が、奇妙なふき方をして、二人の髪を揺らした。
ようやく、ヘレンが行動に出た。
どこか遠い目で、ティアの方を向く。だが、ティアを見ているのではなく、ティアの近くにあるものを見つめている。
ティアはそれを目で追って、ハッと身体をこわばらせた。
「分かったかい、それが事実さね」
ティアを見て、エレンは寂しげな笑みを浮かべる。
「バイロンは、レーナのそばに寄り添って、ここにもう何年も前からいるんだよ」
参照 10400 行きました!!
ありがとうございます!!
- Re: アヴァロンコード ( No.511 )
- 日時: 2013/01/31 14:58
- 名前: めた (ID: g7gck1Ss)
「ファナの病はね」へレンがレーナのすぐ隣の墓を見てつぶやく。
「不治の病さね。それは幼い頃からで、レーナもバイロンも困り果てていた。若いのに、治る見込みの無い病・・・」
バイロンの墓に花を置いて、へレンが心底つらそうな声を出して言う。
ティアは何もいえないまま、そこに突っ立っているしか出来ない。
だがヘレンの声はティアの頭にどんどん入って、幼いファナを悲しげに見つめる両親を想像させた。
「どの医者もさじを投げた。そこで、わしはとんでもないことを言ってしまった。家族をばらばらにさせたのは、このわしのせいなのだ」
それはファナがまだ幼い頃のこと。
両親共に生きていて、家族全員がまだいた頃。
どの医者も成人を迎えることも出来ないと、ファナにそう下した。
レーナもバイロンも悲しみ、もちろんヘレンもひどく悲しんだ。
治す薬も、緩和させる薬も無く、途方にくれていたときだった。
ヘレンはある事を聞く。
“東部に広がる深い森には、癒しを授ける薬花が咲いていると”
治せない病はない、森の宝と歌われるその花の話を、すぐさまレーナとバイロンに持ちかけた。
娘が助かるならば!と立ち上がるバイロン。だがレーナは反対していた。
それが存在する確証も無く、東に在る深い森は迷いの森とも呼ばれ、かえってこれなくなると反対したのだ。
だが、ヘレンは何が何でも行かせる気でいたし、バイロンも娘のためになんでもするつもりだった。
そしてついに、レーナの制止を振り切り、バイロンは森へ旅立った。
それから幾日か経ち、扉の前にバイロンが帰ってきた。
だが、生きてはいなかった。そして薬花も持っていなかった。
「誰かは分からない。親切な人が、届けてくれたのか・・・家目前で力尽きたかわからないが、とにかくバイロンは薬花のために命を落とした」
「そんな・・・」
ティアがかろうじて漏らしたこの言葉に頷いたヘレン。
そしてため息を漏らして続ける。
「この話にはまだ続きがあってね・・・—」
バイロンの変わり果てた姿を見たレーナは、一人でもがんばって養おうとした。
ファナに少しでもと薬を与え、父親の死を一切伝えなかった。
そんな暮らしを続けてある日、毎日毎日朝から深夜まで働きづめのレーナはとうとう疲労によって弱っていった。
そしてついに、ヘレンに娘を託して息を引き取った。
「わしが、薬草の話を持ちかけなかったらこんなことにはなっていなかったはず。バイロンもレーナも死なずにすんだ・・・」
ヘレンがため息と共にそういった瞬間悲痛な叫びが二人に届く。
「ウソよ・・・そんなこと・・・私のでせいで・・・!!」
紛れもないファナの声だった。
- Re: アヴァロンコード ( No.512 )
- 日時: 2013/01/31 16:24
- 名前: めた (ID: g7gck1Ss)
泣き崩れるファナの姿を見て、ヘレンは蒼白になる。
そしてティアがビックリするほどの大声で叫んだ。
「ファナ!家で寝てろって言っておいたのに!」
するととめどない涙を流しながら、ファナが言い訳のように言い返す。
その声は完全に震えており、すべて聞いてしまったようだ。
「だって・・・私も行きたくて・・・こっそり後をつけてきたの。あぁ、でもそんな!お父さんも死んでいたなんて!」
「あぁ、なんてこと・・・なぜこのタイミングで・・・」
ヘレンは天に向かってつぶやき、ファナに駆け寄った。
ファナは泣きじゃくりながら激しく肩を揺らして咳をしている。
「両親が死んだのは私のせいよ!」
その咳の合間にそう叫び、わんわん泣いた。
ヘレンと共にファナを家まで連れ帰ると、ヘレンはすぐにファナをベットに寝かせた。
だがまだ激しくしゃくりあげているファナは、興奮が冷め切らないらしい。当たり前だが・・・。
両親の死の理由が自分の病であり、自分のせいで家族が失われたのだ。
どんなに時間がたっても、泣き止むことはなかった。
一家に降り、へレンが申し訳なさそうに口を開く。
ティアを椅子に座らせ、ココアを差し出しながらため息をついた。
「すまないねティア。こんな事になって・・・ワシの一言で家族がばらばらになり、そして今日も孫が苦しんでいる。—すべてはわしのせいだ」
ティアはココアを机に戻して、目を伏せた。
「ファナは・・・やっぱり死んじゃうんですか?」
「あぁ・・・そうだよ・・・つける薬もない」
そしてもう一度深くため息をついた。
「せめてもの罪滅ぼしにと、ワシはあの子のそばにいる。死んでもずっと、あの悲しき家族に花を手向け、せめてあの世では幸せにと祈ろう」
数分後、家を出たティアは預言書を手に精霊と話していた。
親友の死を黙ってみているだけなど、出来ない。
「森の宝、薬花を探しに行こう・・・!」
- Re: アヴァロンコード ( No.513 )
- 日時: 2013/02/01 13:42
- 名前: めた (ID: g7gck1Ss)
「東に広がる深い森・・・それはグラナトゥム森林ですかね?」
ウルが腕を組んで言う。いつもなら表情がうかがい知れないが、今は赤と蒼の目で表情が分かる。
「なら、早く行こうぜ!」
『だけど、森のどこにあるの・・・?分からないまま行ってもムダ』
さっさと出発したがるレンポに、ネアキがため息をつきながら言う。
そうねーとミエリもネアキに賛成する。
「ヘレンさんはどこで森の宝について知ったのかな?それが分かればいいんだけど・・・」
すると、ウルが何かに気づいたようにつぶやく。
「先ほどから引っかかっていたのですが、誰がバイロンさんをここまで届けたのでしょう?確か彼は、森にいたはずですが、協力者でもいたのでしょうか?」
ティアは眉を寄せて首をかしげる。
どれも心当たりがなく、困っているのだ。
(ヘレンさんに直接聞くしかないかな)
「さりげなく、ヘレンさんに聞いてみようか!」
ティアはもう一度ドアを開けてヘレンに会いに向かった。
「なんだって、森の宝について?」
「それは・・・」
再び椅子に座らせられたティアは、正直に打ち明けた。
目をつぶり、もう一度開いてヘレンの優しげな目を見つめる。
「私、森の宝を探しに行こうと思います!」
ガシャアン とけたたましい音と共に床に食器が散らばった。
ヘレンは持っていた食器を床に落としてしまったが、それを片付けようともしなかった。
ただ唖然とした顔でティアのことを見ている。
24分おくれている時計の音が妙にカチカチと耳を打った。
沈黙の後、ヘレンが割れた食器の欠片を踏みしめてゆっくりと近寄ってきた。
砕けた陶器がスリッパにつぶされてさらに細かく砕けていく。
「やめておくれ、ティア・・・」
「でも、ファナが—」ティアが言い返せば、ヘレンは震える声で言う。
「ティアまで失ったら、あの子は、あの子にはなんと言ったらいい?両親を失い、親友を失ったら、あの子は死んでしまうかもしれない・・・」
ティアはたじろぎはせず、思いを曲げずに言った。
「私は無事に戻ってきます。そして、きっと薬花を採って来てファナの病気を治して見せます!だから教えてください!」
椅子から立ち上がって言うが、ヘレンはきっぱりと断る。
「駄目だよ!教えない・・・あんたまで失うわけには行かない!」
その口論は結局ムダに終わり、ティアは何の収穫もなしに家を後にすることになった。
- Re: アヴァロンコード ( No.514 )
- 日時: 2013/02/01 17:18
- 名前: めた (ID: g7gck1Ss)
「困ったなぁ、手がかりはグラナトゥム森林だけだもんね。場所も、何も分からない」
ティアは自分の家に帰りながらつぶやく。
その周りに精霊たちが連れ添って、どうしたものかと考えている。
このまま引き下がっては、確実にファナと言う小娘はこの世からいなくなり、墓地に1つ墓が増える。
ティアは嘆き悲しむだろう。
だがまだ救えるのではないかと言う手だてが存在するならば、骨折り損でもやる価値は在る。
「悩んでもしょうがないね、とりあえず薬花について知っている人がいないか、聞き込みをしよう」
家の目前でそう決心したティアは、くるりと身を反転させて再び街へと駆けていく。
まだ日は沈まない時刻。
ティアは沢山の人に話しかけた。
小説家で病弱なカムイ、お師匠様のグスタフ、物知りのシルフィなどに話を聞くと、どうやらシルフィは何か知っている様だった。
「森の宝?あぁ、あの花のこと・・・」
シルフィの家、ホワイトハウスのようなこの広い庭にて、この会話はなされた。
「何か知ってるの?」急いで聞けば、シルフィは頷いた。
「森に在る奇跡の花の伝説なら、けっこう昔に文献を呼よんだわ。それでよければ教えるけど、タダってわけには行かないわね!これが終わったら協力してもらいたいことがあるの!」
ティアは困り顔で頷く。何を要求されるか分からないが、これもファナのため。
頷いたティアを満足げに見てから、シルフィは着いてくるように合図した。
シルフィとティアが移動した場所はゲオルグのホワイトハウスの中。
一階に在る広い間取りのリビングで、家の西側に置かれている本棚コーナーの一角だった。
そこに寄りかかりながら、シルフィは目当ての本を取り出してページをめくる。その様子を見ながら、ティアは精霊たちと顔を見合わせた。
「あった、これよ」
ようやく目当てのページを見つけたようにシルフィが本を開いた状態で差し出す。
それを受け取って、ティアは目をしばたいた。
少し茶けた古い本のページに書いてある言葉が読めないのだ。古い言語の様で、版画しかわからない。
一角を切り取ったように桜の花のような凛とした花の版画が書かれている。それはどこかで見たような気がした。
「あ、これ・・・ファナのアルバムに写ってた造花ににてる!」
一気に記憶がよみがえって、在る光景が脳裏に掠める。
以前まだ世界がクレルヴォの脅威にさらされていたとき、ファナがアルバムを見せてくれたことがあった。
そこに写る数々の写真の内、桜色のきれいな花の造花写真があったのだ。
この世に存在しない花なの、とファナは教えてくれた。
それが、目の前の本と同じ姿で姿を現している。
「そう・・・あなたの言うとおり、造花でしか存在しない花よ。つまり、存在しないの」
シルフィが腕を組みながら言う。ティアはえっと声を上げて顔を上げた。
「そんな、だってこの花がないとファナは・・・」
必死に言うが、シルフィは首を振るばかり。
「“伝説上存在した、美しい桜色の花。高い生命力の在るところにしか咲かず、どんな万病をも癒す。”そうかいてあるのだけど、伝説は伝説よ」
ティアはうなだれたように本をシルフィに返した。
シルフィは本を受け取ると、もとあった棚にストンと戻した。
「諦めることね、探したって存在なんてしないわ。それじゃ、私の問題を解決してもらおうかしら」
沈み込むティアに、シルフィはそういった。
- Re: アヴァロンコード ( No.515 )
- 日時: 2013/02/02 13:45
- 名前: めた (ID: g7gck1Ss)
参照 10500 行きました!!ありがとうございます!!
この小説自体、2月中には終わってしまうのかな?
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「え?ゲオルグさんにプレゼント?」
「しーっ!声が大きいわね!」
ティアが驚いたような声を上げると、慌ててシルフィが怒鳴りつける。
幸いにもゲオルグは庭できれいに咲き並ぶバラたちに水をやっているところだった。
窓のそとのゲオルグは相変わらず如雨露を手にしてこちらを見ようともしない。シルフィはホット胸をなでおろした。
「そうよ、何か文句ある?」へぇーシルフィが・・・などとつぶやいているティアに、シルフィは絶対零度の視線を浴びせる。
「いや、滅相もないけど・・・何をあげるの?」
その視線に引きつつも、ティアは首をかしげて問う。
その言葉を聴いてシルフィがポケットからしわくちゃの紙を取り出してティアに差し出す。
「エルフの涙!」
かさついた紙にはエルフの言葉で書かれている文字が躍っている。
ティアにはちんぷんかんぷんで、シルフィにその紙切れを返した。
「これはエルフの間に伝わる秘薬なの」
秘薬、と聞いてティアはハッと顔をこわばらせる。
そして勢い込んで叫ぶように聞いた。
「それってどんな病気も治す?!」
「疲労回復に・・・まぁそうね・・・そうだと思うけど」シルフィがティアを押しのけながら言う。
「ファナの病気にも効くかな?!」
だがシルフィはきっぱりと言った。
「無理ね。これを人間が飲んだら、ショック死しちゃうわ」
「そっか・・・」ティアがまたもや沈み込むと、シルフィは肩をすくめてもう一度ティアに紙を押し付けた。
それを受け取り見てみると、今度はティアでも読める字で書いてあった。
「材料をかいておいたから、作ってきてほしいの。用はそれだけだから、ほら、さっさと作る!」
そして追い出されるように家から出ると、困ったように眉を寄せるティア。
「どうしよう・・・」いろいろな意味が含まれたこのため息に、精霊たちも黙り込む。
「1つ・・・薬花について提案があります」
そんな彼らを励ますように、ウルが声を上げた。
皆そろってウルを見上げ、首をかしげている。
「森から離れたところで審議を問うでも意味がない。ですから、森にすむものに聞いてみたらどうでしょう?」
「あぁ、あのルドルドとか言うむさいおっさんか!」
そうです、とウルが頷き彼らはルドルドを尋ねるために—エルフの涙の材料採取もかねて—太陽の棚を目指した。
- Re: アヴァロンコード ( No.516 )
- 日時: 2013/02/03 16:58
- 名前: めた (ID: g7gck1Ss)
今日は節分ですね!撒くというよりは食べる方が好きです・・・
参照 10600 越えました!ありがとうございます!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「いつも思うけど、ティアってば元気よねー」
グラナ平原を抜けてグラナトゥム森林の入り口に立ったティアに、ミエリが感想をつぶやく。
「そうかな?」ティアはあまり自覚がないようだが、世界の歯車を遅くさせるという偉業を実際成し遂げて見せたのだ。
しかもほぼ二日そこらで世界に散らされていた精霊を救い出し、世界を駆け回った。
そして今日もあちらこちらへ疲れを知らないように歩いていくティア。
普通の人間ならそこまで精神が持たないはずだ。
「なんていうか、能天気だからじゃないか?」
感心を通り越してあきれ気味のレンポがいうと、よこから凍てつくような視線を感じて黙り込む。
『ティアはがんばってる・・・それだけ』
「まぁ、それもあるでしょうけど。ですがもうすぐ日が沈む頃ですよ。せっかく太陽の棚に行くならば、夕日に間に合うように急がないと」
ウルがせかすように言えば、頭上の精霊のやり取りを見上げていたティアは慌てた様子で駆け出す。
茶色の靴で草を踏みしめて急いで森の中を走っていく。
以前デュランに案内された道を正確に進みながら、ティアはすぐに洞窟の前にたどりついた。
空はさえぎるように沸き立つ木々に邪魔されてうっすらと赤く染まっている。
美しい夕焼けの時はもうすぐだ。
それを確認すると、ティアは転がり込むように洞窟に入り込んだ。
- Re: アヴァロンコード ( No.517 )
- 日時: 2013/02/05 15:32
- 名前: めた (ID: g7gck1Ss)
おぉ、書き込めました!
まず、参照10700越えましたよ!
いつもいつもありがたいです!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
洞窟から抜け出すのに掛かった時間はせいぜい10分程度。
一時間で15℃ずつ回っていく地球。三十分で7・5度。十五分で3.75。後省略。
なのでさほど空は赤みを指したままで変わったところはない。
ただ暖かい日がなくなって少し肌寒い風が巻き起こっている。
太陽の棚に立って、がけっぷちへ走る。
そこから見上げた夕日は世界を赤に染め上げて、やはり美しかった。
緑の森も、青い川も、ティアまでも赤いフィルター越しに見ているように色づいている。
「何度見てもきれいだなぁ」
「まるで燃えてるみたいね!」
『一瞬だけだからきれいに見えるの・・・』
「あの壁が赤く染まる現象はモルゲンロートと言うんですよ」
精霊たちが口々に感想を言っている中、ティアは赤い景色の中、ルドルドが歩いてくるのを見つけた。
手には愛用のハンマーを持ち、のそのそと景色を見ながらこちらに向かってきている。
「ルドルドさん!」
ティアの声に、美しい景色を見ていた精霊たちがそちらを振り返る。
「ぬ・・・良き人間か」
ティアが頷いて、さっそく質問する。
「薬花って知ってますか?森の宝で、どんな病気も治してしまうすごい花なんですけど」
ティアが問うと、ルドルドはビックリしたように後ずさった。
その引きつった顔は赤い景色の中だとホラー映画のカットのように見えて少し恐ろしい。
「なぜ、奇跡の花のことを?花のことは教えられない。ルドルドそう決めた・・・」
「知ってるんですね・・・教えてください!それが無いとファナが死んでしまうんです・・・」
必死に言うと、ファナというワードに反応して首を振っていたルドルドが動きを止めた。
そしてハッと思い出したようにつぶやいた。
「ファナ・・・昔、人間の男が訪ねてきた。その男もその名前を言っていた」
「!!」ルドルドのその言葉に反応して精霊たちもティアも目を見開く。
それはきっとファナの父親、バイロンその人だろう。
- Re: アヴァロンコード ( No.518 )
- 日時: 2013/02/06 18:20
- 名前: めた (ID: g7gck1Ss)
参照 10800行きましたよ!!ありがとうございます!
高校受験到来ですね。中学受験はもう終わったのかな?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「それ、詳しく聞かせてもらえますか!」
ティアが頼み込むと、ルドルドはゆっくり頷いて記憶を探るような表情で語りだした。
「何年か前、ある男が尋ねてきた。娘を助けたいから奇跡の花をわけてくれと。だが奇跡の花は森の大切な宝。人に簡単に渡せない。だからルドルド断った」
だがその男は諦めず、必死にルドルドに頼み続けたという。
リュックを背負い、探検慣れていないのだろう、あちこちに怪我をした姿に加え、娘のためならなんでもする覚悟だと絞るような声で告げる。
「その男の目はとても澄んでいた。本気の目だった。だからルドルド、その場所を教えた」
男は何度もお礼をいい、すぐさまそこへ向かったという。
だが心配になったルドルドは後を追っていくことにした。
しかしどうしたことか、いつの間にか見失い、直接奇跡の花のところへ行くと—
「その男は何者かに襲われてすでに死んでいた」
花の前で倒れており、体中は引き裂かれて明らかに獣の仕業だった。
それも、かなり巨大で獰猛な獣。
ルドルドはその男を哀れに思い、街に送り返した。
丁度、リュクサックに住所の書かれた手紙があったからだ。
「ルドルド、調べた。一体男がどんなやつにやられたのかを。それはキマイラだった。あそこは危険。だからルドルド、誰にも場所を教えないことにした」
誰がバイロンを家に送り届けたのかを理解したティア。
だが悲しむ前に、その花が実在するということにやはり期待していた。
その目の輝きように、ルドルドはいう。
「以前、お前がキマイラを倒したところ・・・あそこが花のありか。お前の事は信じている、あの男の悲願、叶えてやれ」
奇跡の花のあるところ。
すなわちそこは、西の巨木である。
ルドルドにお礼を言って、ティアはそこを目指して走った。
- Re: アヴァロンコード ( No.519 )
- 日時: 2013/02/08 14:16
- 名前: めた (ID: WO7ofcO1)
参照いつの間にか 11000いっててビックリした!ありがとうございます!!
11111目撃したいですね!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
巨大な木々の枝を走りぬけ、崖に飛び移り、やっとたどりついた西の巨木。
深い緑に覆われて、そびえる姿は始めてここを訪れたときと変わりない。
「キマイラがいるらしいから、手早く花を採取しましょ!」
ミエリの言葉に頷いて巨木の周りを探し出す。
枷がはずれて物に触れられるようになった精霊たちもばらばらに散らばって草を掻き分けたりして探す。
だが一向に見つからず、二時間ほど経過してしまった。
「ないなぁ?ホントにここであってんのか?」
細かい作業が大嫌いなレンポが肩こったというように地面に座り込んでぼやく。
諦めずに首をめぐらせていたウルがこまったっようにつぶやく。
「無いなんてそんなはずは・・・森の番人が提示した場所ですから間違うはずは・・・」
「もうちょっと明確な場所を教えてもらえばよかったわねー」
ミエリも困ったようにつぶやく。
だがここにあるのだと信じていたティアは散策を続けていく。
それからしばらくして、屈んでばかりいた為身体を伸ばすように立ち上がったティアの目に、うろが見える。
西の巨木の根元に大きく口を開けた洞窟のようなウロは、夜が迫る中かなり不気味に見える。
「—駄目でもともと・・・この中にあるかもしれないし」
そう自分に言い聞かせると、一人でウロの闇の中にはいった。
一応キマイラがいるとの事で剣を構えて踏み込んだティア。
闇とまだかすかに日の残る外との境界線を踏んだ瞬間だった、ハッとして思わず目を見張る。
沈む太陽の残光を精一杯とりこんでウロの中を一条の光が照らしている。
コケ色の舞台の上にスポットライトが照るような光景に息を呑んでいると、照らされているものに気づく。
小さなさくら色の群れが、光に照らされてそっと咲き乱れている。
その花達の姿かたちはシルフィに見せられた書物の版画と酷似しており、色形はファナのアルバムそのものだった。
「みつけた・・・奇跡の花を見つけた!!」
喜びに思わず叫ぶと、それに駆け寄った。
見間違えのない光景に有頂天になりながらティアはその花に手を伸ばして撫でる。
桜色のそれは、摘んでしまうのは勿体無いくらい美しい花だった。
けれども決心してその内のひときわ大きな花の茎に手をかけると、力を込めた。
ぷきっと水分の多い茎が折れる音よりも先に、ふっとスポットライトのような光が一瞬途絶えた。
なにかが、降って来るように一条の光をさえぎったのだ。
尋常じゃない飢えた殺気にティアは茎から手を放し、剣の柄を握り締めて飛びのいた。
次の瞬間、どしゃっという音と共に丁度花の群れの真上に着地したキマイラが光に照らされて獰猛な唸りを発する。
ライオンの体躯はとても大きく、小さな花畑を壊滅状態にさせるには十分だった。
しおれた花たちがその足元から無残な姿をのぞかせる。
その光景を目にして、くっと慟哭したティアは両手に剣を構えて相手をにらむ。
飛び掛られる前にと、相手に切りかかった。
- Re: アヴァロンコード ( No.520 )
- 日時: 2013/02/11 01:09
- 名前: めた (ID: WO7ofcO1)
あああー11111見逃した!!
やってしまった
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・なぁ、なんか」
「えぇ、まさか・・・」
比較的巨木のあたりを探していたレンポとウルが頷きあってうろをじっと見ている。
ミエリやネアキは声の届かない範囲にいっており、姿は確認できないが存在は感じられている。
だが今彼らにとってそなことはどうでも良く・・・気になることはなにやら不審な音源を反響させているうろにあった。
少し間延びした低い音は、どことなく獣のうなり声に似ていた。
もう一度顔を見合わせてうろを覗き込むと、外と同じくらい暗い中で、光の線が二本ひらめいている。
普通ならそれがなんなのか分からないが、精霊である彼らにはその二つの光が光のコードを組み込ませた双剣であることが瞬時に分かった。
剣で何かと戦っている。きっとキマイラだ、と分かると二人は主人を助けるために自分達の力を解放した。
双剣の灯りを頼りにキマイラと戦っていたティアは、急に迫ってくる炎と雷にビックリしたように目を見開いて慌てて飛びのいた。
だがそれはあまりに巨大で一瞬でうろの中を埋め尽くしたため、どこに避けたとしても被害をうけた。
だが不思議なことに目の前どころか自分自身がそれらに焼き尽くされることも、感電死することもなく、まるで空気のようにティアに干渉せずにあたりを攻撃していく。
キマイラのけたたましい声も聞こえないくらいの雷と炎は消えて、やがて目の前が落ち着いた夜の色を取り戻す。
唖然としていたティアに、精霊の声が聞こえてくる。
「え、詠唱なしでこれか・・・」「ずっと力を抑えられていたので加減が少し・・・」
うろの入り口で自分の力にビックリしている精霊に、同じくビックリしたティアは思い出したように花のほうを見た。
まさか焼けつくされているのではと思っていたが、無事だった。
「あ・・・よかった」
少しすすがついて、キマイラの踏みつけ攻撃でよれよれになっているが花はめげずにいた。
それを1つ手にとって摘むと、ポケットに入れた。
コードスキャンしたものを渡すよりも、摘んだものを渡したかった。
「とりあえず、手に入れたよ!!早く帰ろう!」
- Re: アヴァロンコード ( No.521 )
- 日時: 2013/02/13 20:44
- 名前: めた (ID: WO7ofcO1)
そっと両手でかかえるように持った花は月の明かりを受けてひどく美しく見えた。
ウロ外に出ればすぐにミエリとネアキも合流し、花が手に入って一安心とほっとしたものだ。
「でもこれをどうすればいいのかな?食べるとか?」
「煎じるのでしょう。すり潰して、湯にさらす。そして抽出した煎御茶として呑めばいいのだと思いますけど」
そなことを話しながら、暗い洞窟に入り、そして迷いの森をぬける。
グラナ平原まで戻ってくるとティアは小走りになり、ついには全力疾走でカレイラの国境線をまたいだ。
そしてファナの家の戸をもう真夜中だというのに叩くと、精霊たちと共にヘレンが迎え出るのを待った。
しばらくしてスリッパで階段を下りる音が聞こえ、ドアが半分開く。
そこから顔をのぞかせたのはヘレンであり、その顔は疲労と恐怖でこわばっていた。
「・・・!ティアかい!」
「そうですよ?」
きょとんと首をかしげると服をつかまれるように家の中に引きずり込まれる。
ビックリして花を握り締めそうになる。
「どこいってたんだ?ずっと探していたのに・・・」
そんなに急用だったのかと、ティアは目をしばたく。
だがそんな呑気な考えをしている場合ではなかった。
へレンが口にした言葉は衝撃的で、思わず花をぽさりと床におとしてしまった。
「ファナは・・・明日まで生きられないかもしれない」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
参照 11400 越えました!!ありがとうございます!!
- Re: アヴァロンコード ( No.522 )
- 日時: 2013/02/13 21:42
- 名前: めた (ID: WO7ofcO1)
ティアが奇跡の花を探しに森へ出発してすぐに、ファナの様態が急変した。
ムダだとわかっていながらも医者を手配し、看病をさせたがお手上げ状態の上に、明日まで生きれないと宣言をされた。
そんな昏睡状態のファナのためにと、最後に出来るのは親友に看取らせることだと判断したヘレンは即座にティアを探した。
だがすでに森へ旅立ったティアを見つけることは出来ず、不安な面持ちのままファナの看病をして今に至る。
「え、だって・・・朝はちゃんと・・・」
まだショック状態のティアを引きずるようにして二階へ連れて行ったヘレン。
精霊たちが慌てて花を拾い上げてその後を追う。
二階には静かにか細く呼吸をするファナがベットに横たわっており、ティアが訪れても目を開くことはない。
サイドランプに照らされた顔は青ざめ、すっかり血の気が引いて微動だにしない姿は死人のよう。
ヘレンは悲しげにそんなファナを見ると、ティアをベットの脇にいざなった。
ティアは呆然とファナを見つめ、しばらくぼうっと彼女を見つめていた。
「・・・ティア・・・来て・・・くれた・・・のね」
と、ファナが目を開かずに精一杯の肺に残る空気を吐き出しながらいった。
その声は弱々しくふるえ、聞こえないほどの音量だったがティアは座っていた椅子を蹴り飛ばす勢いで起立し、ファナの名前を呼んだ。
「しっかりして!」
「駄目みたい・・・もう・・・」
ふっと笑みをこぼしていうファナにティアは盛大に首を振った。
だがファナは目を開かないのでそんな否定見えないでいる。
「ファナのお父さんが探していた花を採って来たの!ここにあるから、きっと治るよ!」
そういって精霊から花を受け取ると、ヘレンに突き出すように渡した。
ヘレンはビックリした顔でその花を受け取ると、その顔をゆがんだ。
「これで、えと・・・せんじ茶にすれば治ると思います!」
だがヘレンは花を見つめて悲しげについてくるように合図した。
一階に着くと、ヘレンは首を降って言った。
いつもの癖の、エプロンで手を揉み解しながら。
「これは奇跡の花じゃないよ・・・擬似群花というものだよ」
「え、でも・・・森の番人は・・・!」
ティアが目を真ん丸くして叫ぶように言うと、ヘレンが言う。
「奇跡の花はとても小さな花でね。それを食べようとするものが多くいるために、たった一つの花の周りに姿を似せた花で埋め尽くすんだ。正確に言えば、おしべを持つ花で埋め尽くす。傷も病も癒す特効はめしべを持つ中心の一番小さな花にあるんだ。これはとても大きいし・・・おしべだ」
がっくりとうなだれたヘレンは机にぽとりと花を置いた。
ティアは信じられないという思いでその花を見つめる。
記憶を思い返せば、一条の光に照らされて群れた美しい花たち。
円形に囲まれていたひときわ小さな花こそが、ティアの捜し求めていた花だったとは。
「そんな・・・じゃあ、あの子は・・・」ミエリが声を絞り出す。
精霊たちはそろって黙り込み、ティアを見つめた。
ティアは不意に正気に戻ると、きびすを返してドアに突進した。
そしてドアノブを引っつかんであけると、振り返って早口に言う。
「もう一度・・・あの花を摘みにいってきます!」
そして外に飛び出すと、その背中に呼びかけるものがいた。
「待ってティア・・・」
振り返ると、二階の窓辺からファナが顔を出していた。
目を開いたファナが、恐ろしいほど蒼白な顔で言う。
「最期は一緒にいてほしいの。前から決めてたわ、この日が来たらそうしようって」
- Re: アヴァロンコード ( No.523 )
- 日時: 2013/02/13 22:11
- 名前: めた (ID: WO7ofcO1)
「そんな事もあったね・・・おかしかったなぁ」
今現在ティアはファナの最期の頼みを聞き入れて、彼女の眠る部屋にいる。
そして二人で思い出話をしていた。
ファナはビックリするほど饒舌にしゃべり、蒼白さをのぞけばこれから死ぬように見えない。
だが如何なる者も、限界に達するとふいに調子が良くなって、そしてまた急に壊れるのだ。
消える前の電球が急に明るく輝くのもそのためだ。
今のファナは最期を目前にした電球であり、明るく輝いている真っ只中だった。
「良く覚えてるなぁ、今思い出したよそれ!」
遠い昔、ティアとファナが始めて出会ってからのたわいない出来事をファナがうれしそうに言うのを感心して言えば
「走馬灯というやつね。生きていた間の物事が急に思い出されるの。今まで覚えられなかった歴史の年表とかも、ひょいって頭の隅に出てきたりするの」
茶化す様にファナが言うけれど、ティアは表情が急激に曇った。
親友を亡くすのに、悠長におしゃべりをしていていいのだろうか。
今から間に合うのでは?いや、殺気向かっていれば確実に今頃花を摘んでいたのでは?という考えで脳内が埋め尽くされる。
だが事実、ファナと話したのは十分程度で、もしあのまま向かっていたとしてもグラナトゥム森林についてもいないだろう。
「あ、アルバムを取ってくれないかしら?」
ファナが棚を指差して言うので、ティアは頷いてそちらに向かった。
だが涙腺が緩みかかっていたティアは視界がぼやけて、ベットの端につまずいて盛大に転んだ。
棚がその衝撃で傾き、荷物がティアの上に降り注ぐ。
モワモわとほこりが舞い上がりティアが咳き込みながら立ち上がった。
ファナはビックリしたようなおかしそうな表情でティアをねぎらう。
だがティアは目の前で傾く棚の裏に、リュックサックを見つけて思わず引っ張り出した。
それは土色のリュックで、刃物で裂いたような後のある背負い方のリュックであった。
「これ、ファナの・・・?」
聞いてみるも、ファナは肩をすくめて首をかしげる。
「知らないわ・・・それにすごいぼろぼろ。何でそんなに切り裂かれてるの?」
ティアはベットに歩み寄りながらリュックの中を探った。
と、内ポケットの中に隠れるようにしてしわくちゃの封筒が出てきた。
長い間隠れていたため、その形は変形しているが、どうやら未開封のもの。
それを取り出すと、宛名が目に入りびっくりした。
愛するファナ、レーナ、母さんへ
その手紙は、今はなきファナの父親バイロンのものだった。
- Re: アヴァロンコード ( No.524 )
- 日時: 2013/02/13 22:52
- 名前: めた (ID: WO7ofcO1)
「これ、バイロンさんのだよ!」
「え?まさか・・・」
ティアの声に驚いたようにファナが首を振って否定する。
だが手渡された封筒は間違いなく自分達宛てであり、慌てて開けた。
ティアはファナの腹部の上にキマイラによって切り裂かれたリュックを載せると、椅子に座ってファナが声に出す言葉を聴いた。
「わたしはカレイラ王国に住むバイロンというものだ・・・」
ファナが震える声で読み上げていく。
その手がかすかに震え、緊張しているようだ。
「ひどく読みにくいわ。急いでかいたみたい・・・」
確かに手紙をのぞいてみると、ミミズがのたうつような文字で書かれていた。
しかも手紙を入れている封筒が汚れているので、地面の上で書いたらしい。血も付着している様だった。
きっとこの手紙はキマイラに襲われた後、バイロンが虫の息の中で書いたらしい。
「誰でもかまわない。この手紙を、カレイラ王国の娘と妻と母に届けてくれ。ファナ、父さんはここできっと死んでしまうけど、元気に育ってほしい。おまえはわたし達二人の、みんなの希望なんだよ。今やっと・・・—」
不意にファナの声が途切れた。
みれば、大量の血液により、その先はすべて読めなくなっていた。
「お父さん・・・」
手紙を伏せて、ファナが瞳に涙を溜める。
そして涙をこらえるように深呼吸すると、ティアに笑いかけた。
その笑顔はティアの心にぐさりと刺さった。
消える寸前の命が最期に燦然と光った笑顔は、どんどん血の気を失っていく。
ベットにゆっくり身を沈ませたファナはどんどん小さくなる声で言う。
思わず封筒を握り締めたティアは違和感を感じて封筒を逆さにした。
「あなたには本当に感謝しているわ」
ファナはすっと目を閉じて、ささやくように言った。
ティアの手のひらに、ころっと丸い黒い粒が三つ躍り出た。
「わたしに外の世界を教えてくれた・・・狭かったわたしの世界を広げてくれた・・・—わたし、とっても幸せよ」
ファナがまどろんだような声を出した直後、ティアはミエリを呼んだ。
一階にいたミエリは瞬時に現れて、ティアの願いに答えた。
床に巻かれた三つの種は、ミエリの解放されて荒ぶる森の力によって瞬時に成長した。
部屋中が桜色のきれいな花で満たされて、上品な香りが漂う。
「あららー・・・加減分からなくってすごいことになっちゃったわ」
部屋の中の床がぎっしり桜色の花で覆われて花畑になっている。
するとティアはその中でひときわ小さな花をむしると、ファナの口に放り込んで食べさせた。
意識が薄れていたファナはビックリして目を見開き、ティアに促されるまま花を食べさせられた。
目をぱちくりしていると、なぜだかふっと眠気がなくなった。
それどころか、関節を支配していた痛みも気だるさもなくなってしまい、ただビックリするばかりだ。
「ティア・・・?これ、死ぬ前に見る夢なの?部屋の中が花畑で、体中が飛べるくらい軽いの」
ファナがティアに言うと、ティアはじわんと視界が反転するのを感じた。
暖かな涙がぼろぼろこぼれて、笑顔のまま泣いた。
- Re: アヴァロンコード ( No.525 )
- 日時: 2013/02/16 00:47
- 名前: めた (ID: ErpjaSfQ)
かくして、ファナの不治と歌われた病は奇跡の花の効力で消えうせ、死の面影はふっと消えた。
すっかり体が軽くなったファナはベットに腰掛けると、辺りを見回した。
うれしさと安堵のあまりべそをかいているティアと、その足元を覆う一面の桜色の花畑。
はたから見れば、事実本当に天国に来たような光景である。
だが目の前の少女が、自分を救ってくれたようなのでこれは地上の出来事なのだ。
「あのね、ティア・・・一体何が起こったのかな?」
笑顔でなきまくるティアを見上げるようにファナが疑問を口にする。
実際、なぜ自分の体がこんなにも軽くすっきりしているのかまだ理解できない。
死ぬ直前に食べさせられたあの花が病を消し去った様なのはなんとなく分かるが、それでも床一面が花畑なのは理解できない。
「ミエリが・・・バイロンさんが託した種・・・めしべを・・・それよりヘレンさんを呼んで・・・」
ティアはそんなことを口走り、一気に一階へ駆け出して消えた。
「あっ行っちゃった・・・これも、ティアの奇跡の力なのかな。きっとティアが助けてくれたのね」
そう合点した直後、スリッパで階段を駆け上がる音と声が階段を登ってきて、ファナの前に現れた。
今度は笑顔のティアと、目を見開いているヘレン。
「ね!治ったんですよ!バイロンさんが手紙に託した三つの種を開花させてめしべをファナに食べさせたんです!」
「おぉ神よ!良かった・・・!!」
ヘレンは突進するようにファナに駆け寄ると、すっかり血色の良くなった孫娘を抱きしめた。
「神様なんかじゃないですよ、ファナを助けたのはバイロンさんです」
孫娘を抱きしめて喜びに涙しているヘレンに、ティアは咲き誇る花を撫でながら言う。
とても生命力の強い花らしく、ヘレンが踏み分けたところはたちどころに花が茂っていく。
もしかすると、ミエリの力だ作用しすぎて枯れることはないのかもしれない。
「バイロンさんが死の間際に集めた種がなければ、ファナを治すことはできませんでした。バイロンさんの死は、ムダじゃないです。最期まで家族を思った、素晴らしい人です」
「ありがとう・・・きっとレーナもバイロンもこれで安心して眠れるよ」
ティアの言葉にヘレンが震える声でお礼を言う。
ファナも、父親からの手紙を抱きしめて、元気に跳ねる自分の心音に耳を澄ませながら
「お父さんのこと誤解してたの。お母さんに全部押し付けて逃げたって。でもティアのおかげで真実を知ることが出来た・・・ありがとう」
そういうと、疲れたように目を閉じて眠りについた。