二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: アヴァロンコード ( No.526 )
- 日時: 2013/02/19 16:17
- 名前: めた (ID: ErpjaSfQ)
参照11800越えました!ありがとうございます!
コレ二月中に終わるかなぁ・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌朝、本棚を整理していたシルフィはまだ早朝なのに自分をたずねてきた人物を見て驚いた。
にこやかな顔をしたティアであり、手に若草色のハーブを持っている。
それは紛れもなくシルフィの依頼物、エルフの涙の材料の1つであり、手渡した紙に書かれたものだった。
(ニヤニヤしちゃって・・・人間ってとことん変な生き物ね)
眉をひそめながらあがってくるように言うと、ティアは笑顔のままやってくる。
そしてシルフィにハーブを手渡すと、「それじゃあ!」と家を出て行こうとする。
「待ちなさいよ!」と声をかけると、不安そうな顔でこちらを見てくる。
「用はまだ済んでないわよ」腕を組んで言えば、心底戸惑った顔をする。
「これからエルフの涙を調合するのよ。ほらさっさとついてくる」
半ば強引に家を出ると、シルフィとティアは、ローアンの中心街から西に行ったところにある立派な空き家に向かった。
石畳の先にあるこの家は長い間ずっと空き家で、立派なつくりであるが誰も住み込もうとしない。
誰が住んでいたかも、ティアには分からなかった。
造りは入り口に二本の柱がっていて、そこから左右に伸びるように美しい柵が家を囲むようにずっと続いている。
その黒い柵に幾重にも絡まるツタがはびこり、レンガ造りの家の壁も覆っていた。
だが不思議と不気味さは感じられず、まだここに何か住んでいるような気がした。
玄関のまえには荒れ放題だがさまざまな種類の花が生えていて、白い長方形の花壇には手入れされたような見事な花が咲いている。
「この中に調合機材を置いてるの。あなたが持ってきたハーブを入れたらすぐにできるわ」
シルフィに促されて茶色の重そうな扉を開けると、けっこう荒れていた。
入り口の左右に立つ不思議な立体像。
大きなクローゼットに、倒れたテーブル。割れた花瓶。
撒き散らされた書架と倒れた本棚たち。
床は奇妙な色で変色し、しみの様なものが一面に広がっている。
「何コレ・・・どろぼうでも来たのかな」
ティアが外見とのかけ離れた内装を見て唖然として声を出すと、シルフィはさぁ?と肩をすくめる。
「わたしもここの事は良く知らなくって。でもお父様に見つからずに調合するのに格好の場所だと思って中にはいったら、すでにこの有様だったわ」
そして入り口付近のテーブル—おそらくシルフィが引っ張り出したもの—の上に蒸留器具がおいてあった。
けっこう大柄なテーブルの上にはシルフィの実験道具のほかに、写真立てもあったが変色しきっていて映っている人物の影がうっすらと四つ見えるだけだった。
「後はハーブを入れるだけ」
ティアがあたりを見回るのをまったく気にせずに、シルフィは火をたいた上に吊り下げられた透明な湾曲した瓶の中にハーブを落とした。
その瓶はエルフの技術を利用したものらしく、妙な管が下のほうに伸びており、その管から蒸発した液体が容器に落ちていく。
「ねぇシルフィ。それ飲めるの?」
ようやく家中を見るのをやめて、その気味の悪い液体を見たティアは引きつりながらたずねる。
ハーブを入れた材料の元は泥のような色になっており、とても食べられそうにない。
エルフの涙というのだからとてもきれいなものを予想していたティアにとって衝撃だった。
「そうよ。出来てから数分で考えは変わると思うけど」
蒸留水も灰色でよどみきった色の液体。まだ熱いらしく湯気が立っている。
(できあがりって後どれくらい掛かるんだろう。この後ファナと一緒にハクギンツバキをとりに行こうと思ったのに)
そう思っていたときだった。
「お姉ちゃん達、なにしてるの?」
突如家の奥から幼い声が聞こえてきた。
- Re: アヴァロンコード ( No.527 )
- 日時: 2013/02/19 17:04
- 名前: めた (ID: ErpjaSfQ)
「げ、アイツは・・・」
おぼつかない足取りで踊るように飛び跳ねながら出てきた人物を見てレンポが嫌そうに顔をゆがめる。
「?」他の精霊が顔を見合わせる前に、そのツインテールの幼い少女は空中に指を向けて笑顔でいう。
「あ、赤いお兄ちゃんもいる!」
やれやれと頭を振るレンポに、他の精霊がビックリしたように少女、ミーニャを見た。
「この者には我々精霊が見えるのですか?」「すごーい!」
ウルが観察するように、ミエリは目を輝かせてミーニャに少し近寄る。
ネアキは少し迷惑そうにティアのそばからミーニャを見ている。
「あ、まだいっぱいいる。こんにちは!」
ミーニャはそんな精霊たちに無邪気に挨拶をしたりするが、シルフィは完全無視をしている。
「すごいですね。霊感が高いのでしょうか」
こんにちはー!と挨拶し返すミエリをよそにウルは完全に感心していた。
「お姉ちゃん達、ミーニャのお家で何してるの?」
精霊に興味をなくしたように、ミーニャがティアの足元によってきた。
しゃがみこんでようやく目線が同じくらいのミーニャに、ティアはビックリしたように聞き返す。
「ここに住んでるの?」
ティアが言えば、傍らのシルフィは眉を寄せてティアをじろじろと見る。
首を傾げてシルフィを見ると、ミーニャが答えた。
「そうだよ!でもみんな今は出かけてずっといないけど」
ちょっとすねて言うミーニャ。かまってもらいたい時期なのだろう。
「・・・出来た」
と、シルフィが小瓶を掲げてうれしそうに言う。
見れば、小瓶の中でアクアマリンのように輝いている液体が見えた。
晴れた日の空よりも澄み切った水色で、自らが発光しているような液体。
「ほら、考えが変わったでしょ。さっそくお父様のところに行くわよ!」
すばやく透明な容器にエルフの涙を移し変えると、シルフィに腕を掴まれて引きずるように家を出て行く。
「じゃあね、お姉ちゃん達!また遊びに来てね!」
振り返り様ミーニャがさびしそうに手を振っている姿が見えた。
- Re: アヴァロンコード ( No.528 )
- 日時: 2013/02/19 17:39
- 名前: めた (ID: ErpjaSfQ)
「シルフィって小さい子供嫌い?」
空き家から出てから小さな声で聞いてみると、シルフィはそうねと頷く
。
「エルフの子供はそうでもないけど、人間の子供はうるさくて適わないからね」
「ふぅん・・・」
ミーニャに対するシルフィの態度をそれで納得したティアは、シルフィのポケットが少し膨らんでいるのを見て首をかしげる。
だがたずねる間もなく、自宅に戻ったシルフィ。
だが彼女の父親であるゲオルグは留守で、召使によれば街のほうに用事があるといわれた。
「お父様は不完全な人のために導き手を買って出てるわけわけだから、仕方がないわね。もう一度街に下りるわよ」
さらりと人間であるティアの目の前で人に対する文句を言うシルフィ。
だがティアは首を傾げるのみで、シルフィの後についていく。
街に下りると警察の聞き込みのようにシルフィは父親のことを聞いていき、そして墓地に向かったという情報を掴んだ。
「墓地?」ティアが聞き返すと、シルフィはしばらく考えた後、結論付けた。
「きっと王妃様、マイア様のお墓参りじゃないかしら?それくらいしかわざわざ行く意味が分からないし・・・」
そして墓地に行くと、ゲオルグはすぐに見つかった。
緑色のなだらかな芝生の上に立つ灰色の墓石。その中で目立つ赤い服に身を包むゲオルグはある一角にいた。
立ち並ぶ墓の1つの前で花束を手向けて、穏やかな表情でたたずんでいる。
「ここのお墓にエルフは眠ってないはずなのに、あの人は一体誰のお墓参りをしに来たのかしらね?」
空中より、ミエリが首を傾げて言うのが聞こえる。
『…エルフが人に干渉するのも珍しいけど、お墓参りだなんてもっと珍しいわ。本当にあそこに眠っている人は人間なの?』
ネアキも少し怪しみながらゲオルグを見ている。
だがティアには、友人が何かのお墓参りにしか見えず、ゲオルグに向かって歩き出そうとする。
だがシルフィに引き戻されて、墓地から出た。
「なんで?エルフの涙を渡すんじゃないの?」
あっけらかんと言えば、シルフィが猛然と首を振って腕を組む。
「その前に、あのお墓は一体誰なのか興味がわかないの?とにかく、ここに隠れてやり過ごすわよ」
そして墓地を取り囲む高い塀のような壁の割れ目に入り込み、ゲオルグが墓地から去るのを待つ。
数分後、靴音を響かせてゲオルグが墓地から出て行くと、シルフィとティアはすばやく墓地に駆け込んで、花のたむけられたお墓の前に立った。
- Re: アヴァロンコード ( No.529 )
- 日時: 2013/02/19 18:33
- 名前: めた (ID: ErpjaSfQ)
「歴史あるローアンの血を引く娘、セレネ。安らかに眠る・・・?」
その墓の人物は500年前カレイラ王国を建国する際の大戦争で大活躍した女戦士ローアンの子孫らしい。
そしてローアンは建国の際、初代王ゼノンクロスに嫁いだ初代王妃であり、その活躍と名誉によりこの街には彼女の名前が付けられ、闘技場には戦女神として彼女の像が建てられている。
「なんだ・・・やっぱり王族の末裔の人ね。といっても、ずいぶんと直系からはそれているけれど」
自分の考えが当っていたので、シルフィは得意げに鼻をそらせている。
「でも、何でこの人にお花を手向けたんだろうね?この人もう何十年も前に亡くなっているのに」
そうなの、とシルフィが目をしばたく。
「うん、わたしがカレイラに拾われてくるよりも前に亡くなっていたらしいけど。だって、ほら年表が刻まれてるでしょ」
ティアが指差したところには彼女の死んだ年が刻まれている。
かなり昔に死んでしまったらしい。
「知り合いだったんじゃない?エルフは長生きだから」
もう興味はないというように、シルフィは立ち上がる。
ティアもそうかなぁと立ち上がって、ふとそばにある墓石を見る。
それは丸みを帯びたプレート状の墓標。そこに刻まれていたのは
晴れの日は外で勇者様ごっこ。小さなお姫様、ミーニャここに眠る。
- Re: アヴァロンコード ( No.530 )
- 日時: 2013/03/19 12:39
- 名前: めた (ID: FY5Qqjua)
ティアが急に飛び上がったのでシルフィは目を見開いて首をかしげる。
そしてその視線を追うも、ただの子供の墓であり、何をそんな驚いているのか分からない。
「何をしてるの。さっさとお父様のところに行くわよ」
ティアが何も言わずにこちらを見た。
何かとんでもなく驚いて、恐怖というよりは困惑と言った表情をしている。
「ミーニャって・・・あのさっきの女の子って、幽霊?」
「何言ってるの、アンタ。さっきの女の子って誰のこと?」
ようやく口を開いたかと思えばすっとんきょうなことを言うのでシルフィは肩をすくめて言う。
だがその返答が気に食わないらしく眉をひそめる。
「空き家にいた女の子だよ。エルフの涙を作っていたら家の奥から走ってきてこえ掛けてきた女の子のこと」
必死に笑みを浮かべながら言おうとしているらしいが、目が笑っていない。
「冗談言うのはやめなさいよ・・・何もこんなところで言わなくてもいいでしょ」
二人しかいなかった空き家に、小さな少女が存在しておりティアだけがその存在を確認できていた。
しかもその少女のお墓が目の前にあり、あたりは死人の眠る墓場となれば、さすがのシルフィも背筋に冷たいものが走る。
「ほら、そんなこといいからさっさと行くわよ」
ティアの反応も待たずに足早に墓地を出て行く。
ティアも慌てた様子で後を追い、二人はシルフィの家へと無言で向かった。
- Re: アヴァロンコード ( No.531 )
- 日時: 2013/03/03 20:55
- 名前: めた (ID: FY5Qqjua)
幽霊だったんだぁとつぶやくティアを背に、シルフィはホワイトハウスの扉を開けた。
ホワイトハウス—我が家にはすでに帰宅しているはずの父、ゲオルグの姿はなくシルフィは首をかしげる。
「いったいお父様はどこに?」
腕を組みながらつぶやけば、背後でティアがなにやら帰りたそうな雰囲気をかもし出している。
だが、それに構わずシルフィはくるりと振り返るとお城に向かうわよ!と言い放った。
しぶしぶついてくるティアと、お城へやってきたシルフィは顔パスでフランネル城内部に入り込むと、ゲオルグを探した。
長い廊下に、作戦会議室、食堂に謁見のままで探しに行ったのだがなかなか見つからない。
「ホントにここに居るのかよ、あのエルフ?」
レンポがこの地味な捜索劇に早くも飽きた様子でイライラとつぶやく。
「どこかしらね?早く終わらせて、ファナちゃんとハクギンツバキを探しに行きたいわ」
同じく大らかだが、この後に控えているイベントを楽しみにしているミエリが同意する。
「しらみつぶしに探すほかありませんか・・・」
ウルが腕を組み、方々を見渡す。
ネアキはまったく興味ないとでも言うように、ミエリの隣でうとうとと寝首を漕いでいる。
散々探し回って一時間が経とうとしたころ、ふとシルフィが立ち止まった。
「—疲れたわね・・・」言いながらポケットに手を伸ばし、小瓶を取り出すと栓を開けた。
栓らしい開瓶の音ののち、その中の液体を口に含むシルフィ。
アクアマリンの輝きの液体はおそらくエルフの涙。
「ゲオルグさんのじゃないの?」
とビックリして聞けば、シルフィはふうッと息を吐きながら言う。
「それとは別に少量をわたしのために取っておいたの。興味があったし、それに—・・・」
と不意に、流れるようにしゃべっていたシルフィの動きがピタッと止まった。
「?」精霊たちとティアはきょとんとして固まったシルフィを眺める。
数秒ほど経つと、白色人種のように白かったシルフィの肌が、見る見るうちに熱いお湯を浴びた後のように赤く染まり始めた。
「シルフィ?」
ちょっとビックリしてティアが声をかけると、シルフィがめまいを起こしたようにふらついてくる。
「何よコレ・・・まさか失敗?体中が熱い・・・」
頭を押さえてうめくように言うシルフィは、おろおろするティアとぽかんと見つめる精霊たちの前で卒倒した。
更新が不定期になりすみません;
キーボードがぶっ壊れまして、今日新しいのが届きました!
でも少し小さい型なのでなれるのに時間掛かると思うし、誤字が増えそうです・・・
参照12400ありがとうございます!
- Re: アヴァロンコード ( No.532 )
- 日時: 2013/03/03 21:51
- 名前: めた (ID: FY5Qqjua)
「やっぱり失敗だったのか?」
廊下で卒倒したシルフィを覗き込み、ウルのほうを振り返ったレンポが言う。
気絶しているシルフィの周りには精霊が興味津々と言うように取り囲み見守っている。
「おかしいですね、わたしが見たところ、あの材料で間違いはなかったのですが」
ウルの言葉にティアが心配そうにシルフィの肩を揺らす。
シルフィがぶっ倒れてから早くも十五分きっかり。
数分ごとに肩を揺らしてみるのだが、シルフィは完璧に意識を失っているらしい。
「大丈夫かしら、このこ」
ミエリが慈悲深く言うが、隣でネアキが目を細める。
『エルフがエルフの薬を飲んで倒れるなんて…本当にエルフなの』
そういわれて、ティアはシルフィを良く観察してみる。
尖った耳に、クリスタルの瞳。異様なほど白い肌も、すべてエルフ譲りだろう。
傲慢で人を小ばかにする性格も何もかも、エルフだといえる。
「うん・・・エルフには間違いないと思うよ?やっぱり、薬に何かまずいところがあったのかもね」
言いながら、シルフィのポケットにあったエルフの涙を手のひらで転がす。
きれいな装飾の小瓶にはいるアクアマリン色の非常にきれいなその液体は、部屋の装飾品にも使えそうである。
コレを氷付けにしたらさぞかし美しい宝石になるだろう。
「お?」
美しいエルフの涙に気をとられていると、何かに気づいたように精霊たちが声を上げる。
見れば、シルフィが意識を取り戻したようだった。
上半身を起し、辺りを見回すシルフィ。
精霊たちが後退し、ティアの頭上にふわりと浮かぶ。
物に触れられるようになった精霊たちは混乱を招く前に自分が望まない限りは他者に触れられるのを拒んでいるためだった。
ティアが身を乗り出し、シルフィを助け起こす。
シルフィは戸惑っている様でティアに支えられて立つと、説明を求めた。
「わたし一体どうしたの・・・?エルフの涙を飲んでそれで・・・」
「エルフの涙を飲んだら倒れたんだよ。それで十五分くらい気絶したまま。失敗だったのかな、コレ」
言いながらエルフの涙をシルフィに返すと、シルフィはちょっと残念そうに頷く。
ポケットにしまいこむと、帰りましょうかとつぶやいた。
「せっかく作ったのに、失敗するなんて・・・」
「また作ればいいよ。また手伝うから」
二人組みと精霊たちが帰路につき、フランネル城を出ようと廊下を歩いていると、あれほど見つからなかったゲオルグがふっと遠くの方で見えた。
「あら、お父様・・・やっぱり城にいたのね」
気づいたシルフィが声をかけようとした瞬間、ゲオルグの傍に一人の小間使いがやってくる。
彼女がお辞儀をすると、厳しい面持ちのゲオルグが口を開いた。
辺りを見回し、それから少し切羽詰った声で
「あのことは娘には話してないだろうな?」と。
- Re: アヴァロンコード ( No.533 )
- 日時: 2013/03/03 22:33
- 名前: めた (ID: FY5Qqjua)
?! 12500越えただと?一日で?
更新サボってたのにありがとうございます!!
エルフと人章をさっそく終わらせようかと!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
城から帰るはずだった二人と精霊たちは、ゲオルグの言葉によりピタリとその場で凍り付いていた。
と、ゲオルグに言われたまだうら若い小間使いは笑みを浮かべて言う。
妙に白々しい声だった。
「えぇ、もちろん言っていませんよ。ゲオルグ様が私との約束を守ってさえくれれば、あのことは誰にも言いません」
呆然と話に聞き入っていたティアは、すばやくシルフィに隠れるように言われて、傍にあった廊下用の長いすのそばに隠れた。
その間にも会話は続き、ゲオルグが奥歯をかみ締めているようだった。
忌々しげに小間使いに言い放つが、やけに声が小さいのは誰にも聞かれたくないからだろう。
それでも耳をそばだてれば、聞こえる声だった。
「くっ、カレイラのお膝元で働いていながら欲深なやつだ」
忌々しげに言うゲオルグとは反対に、涼しい声の小間使いが軽々という。
「何とでもおっしゃってください。人間は誰しも同じです。爆弾を手に入れたら利用したくなるでしょう?それと同じです」
さらりと言った小間使いは、ふと疑問に思ったようにゲオルグに問う。
「しかし、なぜ娘さんに隠すのです?私に多額の賄賂を支払い、代々伝わる装飾品を要求通り与えるほどに隠すほどのことですか?」
ティアははぁ?何ですって?と小声で悪態つくシルフィの声を聞き、不安げに精霊の顔を見た。
精霊たちは皆、戸惑ったように話に耳を傾けている。
「言えるわけがない・・・」
ふいに弱腰になったゲオルグの声が聞こえてくる。
先ほどまでとの変わりように、不安を覚えたのはシルフィだけではないだろう。
「あの子は、シルフィは・・・エルフであることに誇りをもって生きている。そして人をひどく嫌っているのもまた事実だからな・・・」
そういったゲオルグに、小間使いは首を傾げつつ驚くことを言った。
「その大嫌いな人の血が彼女の身体に入っているからですか?」
「?!」シルフィとティア、精霊と頭上にこのマークが瞬時に浮かんだ。
頭が真っ白になり、思考を働かせようと脳に促す直前にゲオルグが大きな声で叫んだ。
人気がなかったからいいものの、小間使いが飛び上がるほどだった。
「違う!まだ伝えるには早すぎるのだ。あの子がもう少し人というものを理解できるようになったら・・・」
震える声で言うゲオルグに、小間使いが少しあきれたように言う。
「ですが、エルフであるあなたと人である奥さんとの子である事実は変えられない」
その突き刺さるような言葉に、ゲオルグはまたも威勢をそがれた。
なぜだかいつもの威厳が弱まり、心細そうな男性に見える。
「分かっている・・・だが、知ってほしいのだよ・・・種族など関係ない、ということを」
心からの言葉だったが、小間使いはフンッと鼻を鳴らすと、薄ら笑いを浮かべて言い放つ。
「ご立派な演説ですこと!まぁ、なんにせよ約束のものの用意をお願いしますよ。私がばらしても、私に不足はありませんからね」
その冷たい言葉にゲオルグはうなだれたように承諾した。
- Re: アヴァロンコード ( No.534 )
- 日時: 2013/03/03 23:21
- 名前: めた (ID: FY5Qqjua)
衝撃的な押し問答の後、ゲオルグと小間使いは速やかに去り、双方別々の方向へ何事もなかったかのように歩き去っていく。
そして廊下の隅に隠れていたティアたちも、すばやく立ち上がって城から逃げるように出て行った。
フランネル城の王女ドロテアがこよなく愛する箱庭にまで出てきたティアたちは、シルフィがふと立ち止まったのでそれに見習った。
シルフィはふらふらと歩いていき、円形の噴水のふちに腰掛けた。
ティアは黙って直立し、精霊たちも黙り込んでいた。
今まで嫌っていた人間が片親だったと知り、ショックを受けているシルフィに何を言えばいいか分からない。
そのまま沈み込んだシルフィが何か言うまで、そこに立っていると
「・・・ティア・・・」
シルフィがか細い声で言った。いつもの強気な発言ではなく、心底弱りきった途方にくれた少女の声だった。
「・・・私どうしたらいいのか」
「シルフィ・・・」
声をかけるが、何を言ったらいいか本当に分からず口ごもるとシルフィはギュウッと拳を握った。
目を細め、歯を食いしばって何かに耐えるような顔をする。
そしていきなり立ち上がるときびすを返して歩き出した。
「ごめんなさい、もう帰るわ」
その後を追わずに、ティアと精霊たちはその震える背中を見送った。
もう、遅い時間だったため、ティアは花探しを諦めて家へと向かった。
こんな気分で花を探すなど、到底出来なかった。
- Re: アヴァロンコード ( No.535 )
- 日時: 2013/03/11 21:00
- 名前: めた (ID: FY5Qqjua)
参照 12900 越えてましたごめんなさい!
長らく放置してたのに・・・ありがとうございます・・・
エルフ編終わらせんと・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「エルフと人の合いの子・・・珍しいですね」
「うん、エルフってば人間のこと劣等生と思ってるからね。そもそもかかわりを持たないのよ」
ティアの家への帰り道、エルフについての知識のあるミエリとウルが語り合う。
現在ファナの家の傍の中心街であり、夜市を開く中心街には大人たちが行きかっている。
珍しげな露店が出ていたが、はしゃぐ気分になれずティアたち一行はその前を素通りして自宅のある暗がりに脚を進めていく。
「でもあのエルフは種族は関係ないってエルフらしくないこと言ってたよな」
ティアのあたりを漂いながら精霊たちが首をかしげて頷く。
だがいくら言い合いをして結論を出そうとしても、結局は本当の答えなど出ないわけで。
シルフィが一番戸惑っているのだろうと言う分かりきった答えしか出ない。
『結局、慰めにも解決にもならないの・・・』
ネアキがぼそりとつぶやき、精霊たちは口をつぐんだ。
やがて自分の家にたどりついて、戸に手を当てるが、ティアは家の中に入るのを拒んだ。
そのまま家の前の戸口に座り込み、シルフィの役に立てないかと長いこと考える。
暖かい季節だったため、夜風をまともに受けても病気にはならないので一晩中そこに居続けても構わなかったのだが、ふと足音が聞こえてくる。
途切れた雲の合間からのぞいた月明かりに照らされて、ティアの家の傍を通り過ぎようとしていた人物がはっきりと見えた。
月光に照らされたその人は腰までのプラチナブロンドと、その合間から覗く尖った耳。
クリスタルのような透明感のある瞳と、いつも身に着けている銀の鎧とくれば、ある人物が脳裏にぽんと浮かんでくる。
エルフの・・・エルフと人との合いの子のシルフィだ。
- Re: アヴァロンコード ( No.536 )
- 日時: 2013/03/11 21:17
- 名前: めた (ID: FY5Qqjua)
シルフィはまったくティアには気づかずに世界の十字路に向かってのろのろと歩いていく。
じっと目を凝らさなければいけないほどはっきりしない視界ではないのに、いつもの鋭敏な五感が機能停止状態なのか、シルフィはティアが声をかけるまでうつろな眼をしていた。
「シルフィ・・・?」
だが名前を呼ばれた途端、びくっと肩を揺らし幽霊でも見るように飛び上がった。
そして動悸の激しそうな胸を押さえながら、シルフィは妙なものを見るような目をやめて、少しふっと悲しげな顔をした。
「あの・・・どこに行こうとしてたの?」
あのことを聞こうとは思えず、ティアはシルフィがどこに行こうとしていたのかたずねた。
シルフィはしばらく黙ると、下を向いて黙ったまま首を振った。
そして肩をすくめながらつぶやいた。
「分からない。お父様の顔もまともに見られなかったし・・・あのあといろいろと一人で考えてみたんだけど、一人になりたくて・・・・」
保守
- Re: アヴァロンコード ( No.537 )
- 日時: 2013/03/12 20:19
- 名前: めた (ID: FY5Qqjua)
シルフィはゲオルグの顔を見るといてもたってもいられなくなり、夜一人になって考えようとして家を飛び出したらしい。
だが結局行く当てもなく、ふらふらと歩いていたらティアの家の前に来ていた。
「・・・どうしたらいいのかな、私」
ティアの隣に座って、シルフィが弱音を吐いた。
普段人間を嫌っているシルフィがこんなことするのも珍しいのだが、その嫌いな人間を母親に持っていたと知った今、そなこと言ってられない。
ティアは黙ってシルフィの話を聞いた。
精霊たちは気を利かせて預言書に舞い戻り、姿をけした。
「私考えたのよ、ちゃんと話し合わないと駄目だって。けど、どうしても言い出せなくて・・・私もう何がなんだか」
はぁとため息をついてシルフィが頭を抱えて黙り込んだ。
そしてティアが何か言うまで体育座りをして黙っている。
生暖かい風がふわりと漂い、どこかへ行こうと誘っているようだ。
虫の声も、風に揺れる草木のすりあう音も心地よく、眠ってしまうのがもったいない夜だった。
「シルフィは、ショックだったの?」
ティアがやっと声をかけると、シルフィは当たり前でしょと少しふてくされながらつぶやいた。
頬杖をついて、小声でつぶやく。
「エルフはね、人が人であることを誇りに思うよりもずっと強い誇りを持って生きているの。そして沢山の知恵を持ち、どうしようもない者達なんか相手にしないで暮らすの・・・・」
膝頭に顎を乗せてつぶやくシルフィに、ティアは首をかしげた。
月が二人を真上から照らし続けている。
「じゃあ何で、ゲオルグさんは人のことを好きになったのかな」
思ったことをさらりと言うと、シルフィが横目でにらんでくる。
「そんなこと知る分けないでしょ。それに、さっきの小間使いみたいに、お父様のことを脅迫して結婚を迫ったのかもしれないし」
言ってしまってから、母親に対する罪悪感が少し募るが、人間嫌いのシルフィはその心にそっぽを向く。
人なんて信用できないと、シルフィは奥歯をかみ締めた。
「さっきの小間使いと言い、人間なんて酷い生き物だわ。助けの手を差し伸べるお父様を脅して利用するなんて。もしかしたらこの国の国王もお父様を脅迫して街長という座に縛り付けたのかもしれないわ」
ティアの目の前でシルフィはあらん限りの怒りをふつふつと煮えたぎらせていた。
悔しそうに、編みこまれたサンダルで地面を踏み潰すように引きずりながら、さんざんわめいた。
ティアはどうしたらいいかわからなくて黙って聞いていたが、ふっとシルフィが口をつぐんだので顔を上げた。
「散々だわ・・・アンタはあんたでコレほど人の事ボロクソ言っているのに黙って聞いてるし、少しは怒りなさいよ・・・もういいわ、興ざめて仕方ないし帰る」
それだけ言うとシルフィはさっと立って、ティアに背を向けた。
「あ、シルフィ・・・」
その背中にティアは慌てて声をかけた。
シルフィは振り返らずに少し立ち止まった。
「私は、エルフのこと嫌いじゃないよ。ゲオルグさんみたいに人の事助けてくれるエルフ好きだよ」
最後まで言い終わった瞬間、シルフィは拳を握り締めて脱兎の如く走り去った。
その背中を見送ってから、ティアは預言書を抱きかかえて家の戸をあけた。
- Re: アヴァロンコード ( No.538 )
- 日時: 2013/03/13 18:18
- 名前: めた (ID: FY5Qqjua)
1 3 0 0 0 ありがとうございます!!
二月中に終わる予定が、ずるずるといつ終わるかわからないほど延期に・・・
三月以内には第十四章終わらせたいですねぇ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日、ティアは早くに目を覚ますと、精霊たちをつれて家を出た。
なんとなくシルフィとゲオルグのことが気になって、ふらふらとシルフィの家へ歩いていく。
朝早くな為、空気は冷えて澄み切っている。
人はあまりいず、いるとすればランニングしている人くらいで、朝露に濡れた路面に靴音を響かせて過ぎ去っていく。
街の中心街にたどりつくと、ふとティアは立ち止まって視界の左側に注目した。
中心街を東に進むと、そこには共同墓地がある。
「あのエルフの母親のこと、気になるのか?」
レンポにいわれて頷くティア。
「じゃあ、行ってみましょ!」ということで、精霊たちをつれてティアは進む道をシルフィの家から墓地に切り替えた。
墓地には朝日が差し込み、おどろおどろしい雰囲気はまったくない。
墓石を囲う芝生には朝露が宝石を放ったように輝いて見える。
「確か・・・ここでしたね」
ウルが昨日の記憶を頼りに、シルフィの母親の墓石に向った。
正直どこだったか覚えていなかったティアにとってありがたい行動であり、すぐさま後に続いてその墓石の前に座った。
「セレネさんの種族は関係ないって言葉は心のそこからの言葉だったはず・・・だよね」
彼女自身に話しかけるようにティアがつぶやくと、あっと精霊が緊張気味に声を上げた。
何事かと顔を上げれば、墓地の入り口に蒼白な顔をしたゲオルグがたっていた。
- Re: アヴァロンコード ( No.539 )
- 日時: 2013/03/14 18:51
- 名前: めた (ID: FY5Qqjua)
もしかしたら聞こえていなかったかもしれないと期待したが、朝の静寂の中、対して離れていなかった距離の声ははっきりと伝わっていたようだ。
ゲオルグがゆっくり歩いてティアの横に立った。
「今の言葉は・・・」
そういわれて、ティアは観念したように謝った。
「ごめんなさいゲオルグさん・・・実は——」
昨夜の小間使いとゲオルグのやり取りをすべて見て聞いたことをゲオルグに伝えた。
もちろんシルフィが一緒だという事も包み隠さず白状した。
怒られたり絶望されるかと思っていたが、ゲオルグは何か吹っ切れたように簡単な受け答えをした。
「そうか、聞かれてしまっていたか」
「ごめんなさい」
すがすがしい声にティアはもう一度謝るが、ゲオルグは軽く笑ってティアをたしなめた。
「いや、謝る事はない。いつかは伝えねばと思っていたんだよ」
ゲオルグは服がつゆでぬれるのも構わず膝を付くと、セレネの墓を覗き込むようにした。
精霊たちはティアの頭上に移動し、上から二人をじっと見つめる。
しばらくして、ゲオルグはゆっくり頷きながらティアに話し出した。
「私はね、死んでしまった妻のことを本当に愛していたんだ。人間とか、エルフとか、そういったものを越えてね」
「・・・」ティアは黙ってゲオルグの言葉を聴いていた。
何を言えばいいかわからず、ただ記憶の奥底に眠る優しい両親の面影を追っていた。
自然と指が褐色の髪に紛れ込む銀の髪飾りに触れて、傍に両親がいるきがした。
「ティア君。実は、昔は私もシルフィと全く同じ考えだったんだよ人はエルフより下等で下劣。エルフの方がすべての面で勝っている・・・と」
こんな人に温厚なエルフにもそういった過去があったとは、と驚いてティアが顔を上げると、ゲオルグは罪悪感のこもった笑みをした。
「だが妻と出会ったことで、考え方が全く変わったんだ」そういったゲオルグは、少し黙ると首をふって言いなおした。
「いや、性格には彼女が私の物事の考え方を変えてくれたのかな。彼女は口癖のようにこういったんだよ」
ゲオルグはどこを見るでもなく、遠い過去を見るように空を見上げてつぶやいた。
ティアも空を見上げる。精霊たちは四人そろって墓地の入り口に目を落とした。
なんとなく、ゲオルグとセレネの過去が見えるような気がした。
若い日の二人が、空中に現れて、腰に手を当てたセレネが口を開いてゲオルグを諭す。
「種族が違うから争うの?種族が違うから奪い合うの?種族が違うと考え方も違うの?バカなこと言わないで。種族は違えど心の在り方に違いはないわ」
そしてその言葉が終わると、いたずらっぽく笑ったセレネと若き日のゲオルグはぱっと消えた。
空に見えるのが雲だけになると、ゲオルグの声で我に帰った。
「あれほど心に響いた言葉はなかったよ。その言葉をあの子・・・シルフィにも教えてあげたいのだよ。あの子の母親がいった言葉を。そして私が一番好きだった言葉を」
- Re: アヴァロンコード ( No.540 )
- 日時: 2013/03/15 13:58
- 名前: めた (ID: FY5Qqjua)
「私がなぜローアンの町長をやっているかわかるかね?」
そういわれてティアは首を振った。
人のためになることを決意するきっかけはセレネだろうが、なぜ町長になったかと言うことに結びつかない。
「約束したのだよ、最愛の妻と。人もエルフも分け隔てなく暮らせる街を作ると。それに・・・500年前の友人の名がついたこの街を守るためにね」
「5、500年前の友人?」
ティアはビックリしたがなぜか500年前と友人と言うフレーズに聞き覚えがあった。
「500年前の友人って言ったら・・・戦争に行く直前に見せてもらった盾の持ち主のことじゃねぇか?」
レンポの言葉にあぁ、とティアの脳裏に記憶がよみがえる。
ミエリの封印を解いたころ、カレイラとヴァイゼン帝国とが戦争を始める事件があり、その戦争にネアキの封印解除がかかわっているらしく、戦争に参加することになったのだ。
そのときに盾が必要になり、ゲオルグにたてを見せてもらったのだ。
「あの盾、けっこう大事にされてたよねー。でもローアンって女性の名前じゃないかしら?」
ミエリが小首をかしげてつぶやくと、ゲオルグが続きを話し出した。
「以前、君に盾を見せただろう?あの持ち主は実はここカレイラを勝利に導いた女戦士のものなんだよ」
ゲオルグのフレーズにも聞き覚えがあり、今度は自力で思い出せた。
あの日はとてもうれしくて、その直後に起きた出来事は心を切り刻んだ。
「それって・・・大会のときヒビの入った女神像のことですか?初代王に嫁いだ女戦士ローアンの名前を取ってこの街の名前が付けられたってヤツですよね」
言うとゲオルグは大きく頷いた。
「500年前戦に勝ってゼノンクロス王に嫁いでしまった彼女は私にこの盾をくれた。私の戦いっぷりに免じてね」
「ゲオルグさんもカレイラ建国戦争に加わってたんですか?」
ビックリして叫ぶと、ゲオルグはコレでも昔は強かったのだよと肩をすくめた。
今のメガネをかけてインテリ気の漂う戦いとは無縁のエルフが過去の対戦に参加していたとは思えなかった。
「あの当時はまだ人のことを誤解していたけれど、ローアンの心意気が気に入ってね。共に戦ったんだ。でも何度手合わせしても彼女には勝てなかったな」
朗らかに笑うゲオルグ。
「ほんのちょっとでいいんだ。お互いを理解しあう気持ちがあれば、種族など簡単に越えられるんだよ」
ティアはうれしそうに顔をほころばせた。
そして何気なく精霊を見上げると、彼らは四人とも何処か解遠くを見つめていた。
ソレを目で追うと、ティアは一瞬呼吸が止まった。
参照 13100 ありがとうございます!!
順調に終わりそうですね!
- Re: アヴァロンコード ( No.541 )
- 日時: 2013/03/16 23:56
- 名前: めた (ID: FY5Qqjua)
13200ありがとうございます!
もう日にちが変わりそうですが、エルフと人編に終止符を・・・!←
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朝のさわやかな風が吹く墓地の入り口にいたのは、紛れもなくシルフィだった。
じっとこちらを見て、拳をきつく握り締めている。
「・・・・!」
今までの会話を聞いていた、と言うことに驚いたのだが、さらに驚いたのはシルフィが泣いていたという事である。
「シル・・・フィ」
ティアが腰を浮かせて言うと、ビックリしたようにゲオルグも立ち上がってシルフィを見た。
シルフィはスカートを左手できつく握り締め、片手で涙をぬぐってから強気に歩き出した。
『…昔話が始まる少し前から、隠れていたらしいわ』
ネアキが徐々に近づいてくるシルフィを見つめながらつぶやいた。
どうやら精霊たちはいち早く彼女の存在に気づいていたらしい。
「シルフィ・・・聞いていたのかい」
ゲオルグがセレネの墓石から数歩はなれたところで立ち止まったシルフィに問いかけた。
シルフィは鼻をすすりながら、黙ってセレネの墓を見つめている。
そのクリスタルの目は涙で充血しており、少し腫れて鼻も赤くなっていた。
保守
- Re: アヴァロンコード ( No.542 )
- 日時: 2013/03/19 10:49
- 名前: めた (ID: FY5Qqjua)
13300 ありがとうございます!
春休み入りました!
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「えぇ、お父様のあとをつけてきたの」
まったく悪びれる様子もなくさらりと言ったシルフィはゲオルグを見て悲痛そうに叫んだ。
スカートを握る拳が強くきしんだ。
「でも、私はまだお父様の考えは理解できないわ!」
ティアとゲオルグ、精霊一向は黙ってシルフィを見つめている。
一見して父親の考えを否定するかのように聞こえるが、シルフィの言葉にはまだ続きがあった。
悲痛そうにせり上がっていた眉がふっと傾斜を低くする。
こわばっていた肩から力が抜けると、シルフィはつぶやいた。
「・・・でも、少しだけ・・・少しだけ人の良さが分かった気がする」
そういうと、今度は鼻をそらせてふんぞり返った。
さっきまで涙を流していた少女とは違う、えらく吹っ切れた様子の強気少女に戻ったシルフィは気遣うような喜ぶような顔のティアを一睨みすると、高慢な態度で微笑んだ。
「ふん、私がいつまでもないていると思ったら大間違いだからね!」
そう腕を組んでから、つぶやいた。
「・・・ありがと、ティア、じゃあね!」
180度ターンできびすを返して戻っていくシルフィを見ながら、ゲオルグはうれしそうに首を振った。
「やれやれ、あの様子じゃ、まだ理解が足りてないようだね。しかし、あの子なりに少しずつ進んでいくに違いない。礼を言うよ、ティア君」
ゲオルグも妻の墓に微笑みかけると、ティアに挨拶してからシルフィと同じように墓地を後にした。
取り残されたティアはその背中を見送ると、今一度セレネの墓の前にしゃがみこんでうれしそうに言葉を二言三言かけると、精霊と共に墓地を出て行った。
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これで個人章 エルフと人は終わりです。
ファナの奇跡の花にはまだ続きがあり、そしてゲームを久々にやってみるともう幾つか個人章があることに気づき慌てて目次に書き添えました。