二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: アヴァロンコード ( No.550 )
- 日時: 2013/03/23 17:40
- 名前: めた (ID: FY5Qqjua)
時同じくして、ここはワーグリス砦よりすこし北方。
ティアたちが目指しているバルガッツォ渓谷の上に立っているこの砦は今ではカレイラ兵によって厳重に見張られている。
今も、兵士たちと弓兵がいたるところから監視を続けている。
「ちっ これじゃあ大勢では行動できないな。どうしたものか・・・」
その光景を砦にできるだけ近づいたその人物は見つめ、困ったようにぼやいた。
だがその発言とは裏腹に、顔に傷の在る部分を撫でながら言った男の表情は余裕そうだ。
そして腰に帯びている愛用の剣をぽんぽんと景気づけに叩くと、その男、ヒースは野営地に戻った。
野営地にはヴァルド皇子と、ヒースの部下達がいる。
総勢20人ほどおり、見つかる恐れがあるので火も焚けない貧相な森の中の小さい陣地に密集している。
その中心はやはり皇子で、不安そうにヒースが帰ってくるのを座りながら待っていた。
「ヒース!無事だったか」と、ヒースの事を見つけ、ヴァルドは椅子から立ち上がって早く来るように促した。
部下達が道を開け、すばやくその間を通り抜けたヒースは少しお辞儀をしてから先ほど見てきたことを報告した。
「この大人数でカレイラ兵の見張りを切り抜けることは出来ないでしょう」
この言葉に辺りに居た部下達は不安そうに眉を寄せ合い顔を寄せ合って、首を振っている。
「では、少数ならば切り抜けられるんだろう、ヒース?」
だが皇子はぬけぬけと小首を傾げて言って見せた。
むしろそうでないと困る、と言った風に辺りを見回す。
「その通りです。少数ならそれに越した事はないでしょうね」
ヒースの言葉にヴァルドは頷いて、一つ提案した。
葉が生い茂る少しくらい森の中、目をこらして皇子を見ていた部下達が猛反対する提案だった。
「それなら、私とヒース将軍とで行くよ。二人のほうが行動しやすいだろうし」
「危険すぎます、絶対反対ですぞ!」「そもそもヒースは一端ヴァイゼン帝国を裏切った男ですよ?皇子の命を任せられません!また裏切る屋も知れませんぞ!」「そもそもこんな計画自体、危ないです!中止しましょう?」
ヒースはこの罵声に仕方がないと肩をすくめていた。
だが皇子は赤い目を一瞬細めると、すっぱり言葉の刃でそれらを切り捨てた。
「戯言はもう沢山だ。私はどうしてもこの計画を・・・カレイラとヴァイゼンの戦争を終わらせ、そして平和協定を結ぶことを諦めはしない。たとえどんなに危険であっても、この計画だけはつぶさない」
しかし・・・!と部下達が悲鳴を上げるが、皇子は目で制し、黙らせた。
薄暗い中普段は温厚な皇子に睨まれて、鳥のざわめきさえおさまるような気がする。
もちろん部下達はそろって口をつぐんだ。
- Re: アヴァロンコード ( No.551 )
- 日時: 2013/03/23 18:17
- 名前: めた (ID: FY5Qqjua)
「それに何度も訂正するが、ヒースはヴァイゼンを裏切ってなどいない。むしろヴァイゼンを救うために動いた結果なんだ。宰相のワーマンによって操られた私は数々の過ちを犯した。むしろ咎めるべきは私だ」
部下達が神妙な面持ちで皇子を見据える。
裏切り者ヒースがヴァルド皇子を連れて帰国してきた時、皇子の口から国民全体に告げられたことだが、そのまま鵜呑みにできるものはいなかった。
宰相は今やどこにいるか知らない上に、皇子が一度殺されていたことなどだれも知らない。
魔王の器とするために宰相ワーマンが皇子を殺すことも理解できないし、むしろ魔王の存在など戯言に過ぎない。
だが皇子の言葉を否定することが出来ず、皆困った顔でうつむいた。
ヴァルドはそんなみなの反応を見て、肩をすくめた。
記憶をさかのぼっても、自分でも信じられない。
ワーマンに差し向けられた暗殺者に襲われて、魂を取り出され、愛猫グリグリの中に逃げ込んだ。
そして自分の身体に魔王の魂が移し帰され、猫の目でそれらを見届けていたことなど、気でも違ったのではないかという気さえする。
(だけど、あれはすべて事実だったんだ・・・)
いっそ本当に気が違っていて、その間に見ている夢だとしたら良かったのに、とつい思ってしまう。
だがすべて事実だ。
何もかも終わって自分の国に帰ってきたとき、自分のせいで起こった戦争は勢いを増していた。
このままではいけないと、立ち上がって国民を制圧して、英和協定を結ぶことを表明した。
猛反対の中、振り切るようにカレイラへ向かう皇子についてきた部下達は、協力すると言うより諦めさせようとしている様だった。
彼らを振り切って理想の世界を創るという心に従ってついてくるヒースと共に行動する方が、ヴァルドとしては動きやすかった。
「とにかく、一緒に行きたいと言うのならば無事に、そしてカレイラの誤解を招かぬように相手を傷つけずに私と合流してみろ。私は切り抜けたと同時にすぐさまカレイラへと向かう。待つことはしない」
そういうと、ヴァルドは立ち上がり、ワーグリス砦に向かって歩き出した。
狙うは兵士の巡回の少ない部位。国境を分かつように長く延びた砦のレンガを這い登るか、穴を掘って潜り抜けるしかない。
- Re: アヴァロンコード ( No.552 )
- 日時: 2013/03/23 19:59
- 名前: めた (ID: FY5Qqjua)
長い長いレンガの砦道。兵士が幾人か行き交っている。
堕落した以前の兵士とは違い、戦争目前で緊張感をみなぎらせた兵士の目はぎらぎらしている。
「ホントに行くんですか?」手下の一人がヴァルドにささやく。
早く諦めてくれと、そういう響きの言葉にヴァルドは頷き、ヒースの合図を待った。
砦の人気のないところを、一人ずつレンガの塀を潜り抜けてすぐ森の中へ駆け抜けるのだ。
ヒースの合図により、ヴァルドはすばやく立ち上がって砦近くの草むらからレンガの影に飛び込んだ。
それから一呼吸置いて辺りをうかがう。
どうやらカレイラ兵には見つかっていないらしい。だがまだ安心できない。
先に渡って行ったヒースと同じ道を通り、レンガを越えてワーグリス砦を越えたヴァルドはヒースと合流して、すばやく最寄の林に駆け込んだ。
きっと後を追ってくる部下達はいない。
そのまま振り返らず、バルガッツォ渓谷を駆け下りた。
ヴァルド皇子とヒース将軍がバルガッツォ渓谷を駆け下りている頃、ファナとティアは逆に登っていた。
ハクギンツバキを探して、もうじき濃霧の出る山頂付近に到達する。
「ここにもねーのか?」辺りを包む白い霧の中を必死に探しながら進むが、霧のせいで良く見えない。
「きっとどこかにあるはずだよ」ティアがしゃがみこんで草むらに手を探る。
ファナは濃霧の中、少し不安そうにバスケットを握りなおした。
と、そのとき霧から何か飛び出してきて、しゃがんでいたティアに躓いて大きくひっくり返った。
「?!」ティア、ファナ、精霊、突っ込んできた物体は酷く驚き、目を見開いてお互いを見合った。
「あなたは・・・ヴァイゼン帝国の?」
ファナがバスケットを地面に取り落とし、ティアの手をつかんで立たせて後ずさった。
王冠が地面に転がり、少しうめきながら四つんばいになったヴァルド皇子は慌てたように立ち上がった。
「一般人に見つかるとは・・・!」
「安心してくださいカレイラの住民よ。我々は決して危害は・・・—おや?ティアじゃないか?」
ヴァルド皇子の悲鳴に、すばやく追いかけてきたヒースは二人に話しかけ、ティアを診て驚いたように声を上げた。
「ヒースさん、一体何してるんですかこんなところで?」
ティアは怯えるファナをなだめながら、素手武術を教えてくれた師匠を見上げた。
- Re: アヴァロンコード ( No.553 )
- 日時: 2013/03/26 11:37
- 名前: めた (ID: FY5Qqjua)
参照 1 3 8 0 0 ありがとうございます!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「—ということなんだ」
濃霧の中では危険と、霧の薄いところまで下ったティアたち一行は、バルガッツォ渓谷のたもとの、一本橋まで戻っていた。
そこで、どういう経緯でヴァルドとヒースが敵国までやって来ることになったかと言うことを聞かされていた。
「じゃあ、コレが成功したらヴァイゼン帝国とカレイラ王国の戦争は終わると言うことなのね?」
ファナが驚いたように敵国の二人を見上げ、目をしばたきながら言った。
「私はヴァイゼン帝国はカレイラと戦争をしたがっているのかと思ってた。だけど、平和協定が結ばれることになれば両国とも安堵するわね」
もとより戦争がキライなファナにとってまことに朗報だった。
むしろ戦争によって利益を受けるのは、物価上昇により高値で物を売りさばく商人と、武器屋だけである。
多くの国民は戦争に引っ張り出され、武器を掴まされる。
指揮を取り戦争邁進派の上司達は、彼らを安全なところからチェスの駒のように扱うのだ。
たとえ戦争に勝ったとて、やはり利益があるのは苦労せず命令のみを出す者達だけで、一番の被害者である国民は多くのものを失い、悲しみにくれるだけである。
なので、今回出た平和協定は負の連鎖を断ち切る、素晴らしい提案だった。
「だが、一つ問題がある」輝かしい提案の後、ヒースは暗い表情でつぶやいた。
自然とそれを聞き入っていたものは眉を寄せてそれがどういうことであるかを催促した。
ヒースの代わりに口を開いたのは、皇子だった。
「私が起こした出来事だ。ワーマンに操られ、魔王となった私が起こした悲惨な出来事によって、カレイラはヴァイゼンの皇子を簡単に許すと思おうか?しかも今は先のワーマン率いる帝国軍のカレイラ進出のせいでいつ戦争になってもおかしくない。私が出向いたことでその幕が切って落とされるかもしれない」
行動しなければいずれ戦争。行動してみても戦争を触発するかも知れない。
おまけに自分が背負うのは自分の命だけではなく、多くの帝国民の命と戦いによって散るカレイラ王国の命が乗っかっているのだ。
下手なことをすればそれらの命が泡のように消えていくのである。
自分ひとりの行動がどの選択肢を取るかによって大勢の命につながっている。
ヴァルドは少し考えるそぶりを見せると、小首を傾げていった。
「・・・ここで会ったのも何かの縁、ティア、君に1つ頼みたい事が在る」
- Re: アヴァロンコード ( No.554 )
- 日時: 2013/03/27 14:10
- 名前: めた (ID: FY5Qqjua)
参照 13900 ありがとうございます!
あと100で、14000ですね!!
コレは一体いつになったら終わりが見えてくるんでしょうかね・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「頼みたいこと?」
ティアがオウムのように復唱すると、ヴァルドは大きく頷いた。
「先ほども言ったが、私が直接カレイラに出向くことが出来たとしても、カレイラの王族は私に会ってくれないだろう。そこで君に頼みたい」
何を言うんだろうと黙って聞いていると、ヴァルドは思い切ったようにはっきりと告げた。
澄んだ赤い目はコレが本気であると発している。
「カレイラのゼノンバート王と私との会談の場を設けてほしいのだ。カレイラの英雄たる君ならば王の心に訴えることが出来るかもしれないんだ・・・どうだろう、頼まれてくれるかな」
ティアは瞬きすると、すぐに頷いた。
あんまりあっさりした返事だったので、ファナが驚いて目を見開いた。
もしかしたら敵国に寝返った反逆者として罰を受けるかもしれないのだ。
(ティアがまた王様に罰されたらどうしよう・・・)
ファナの心配そうな視線にティアは大丈夫と言って見せるとヴァルドにもう一度了承の返事をした。
「ありがとう、協力してくれるんだね」
潔い返事に安堵したように微笑んだ皇子は、だが表情を引き締めた。
「だがコレは危険な賭けでも在る。いくら英雄といっても、君はコレが元で阻害されるかもしれない。それでもいいと?」
少しきびしめの言葉で言われるがティアは同じように了承した。
「・・・ありがとう、では頼んだ」
ヴァルドがほっとしたように言うと、傍らに居たヒースはティアに付け加えるように言った。
「俺達はカレイラのものに見つかると無駄な争いに発展する可能性がある。だから、ラウカのところに身を隠すことにしている。手数をかけるが会談の返事をラウカのところまで届けてくれるとありがたい」
それと、と今度はファナの方へ向いて言う。
「このことは内密に」
頷いたファナを見て、二人は満足げに頷いた。
「それじゃ、俺と皇子は人気のない森を戸尾ってラウカの元に行く。朗報を期待してるぞ」
言って、ヒースは慣れなさそうに雑多な林の中に王冠をつっかえながら歩いていく皇子を先導して去っていった。
それを見届けると、ティアはくるりとファナの方へ振り返った。
「ごめんね、ファナ。ハクギンツバキはまた今度ね」
「いいわ、そんなこと。とにかく早く帰って王様に知らせないといけないわね」
そんなことを言い合いながら、ティア一行は早足にカレイラに急いだ。
- Re: アヴァロンコード ( No.555 )
- 日時: 2013/03/28 17:02
- 名前: めた (ID: FY5Qqjua)
急ぎ足でカレイラまで下り、中心街でファナと別れ、ティアはそのままフランネル城まで走った。
その急ぎように門番の兵士たちが悪い知らせなのだろうかと不安がる。
この国の若き英雄の一人が血相を変えて王に会いに行くとなれば、もしや戦争の機長でもあったのかとコマ使いもおろおろと目配せしあう。
不安感をばら撒きながら当の本人は謁見の間に転がり込んだ。
長い階段に息を切らせながら王の前に来ると、ゼノンバートは驚いたように玉座から立ち上がった。
「何事だ、英雄よ。なぜそんなにも血相を変えてワシに会いに来た?」
ティアは一息置くと、深呼吸してから話し出した。
「王様、私はヴァイゼン帝国の皇子から親書を預かってきました」
<親書とは平和条約を結びたい、などの口答文のことも指す。日本では屏風型に折った紙などに良く書かれていた>
その続きを言おうと口を開きかけた途端、ゼノンバートが目を見開いて叫んだ。
「なに?帝国の王子から親書を預かってきただと?!」
「そうです・・・けど・・・帝国と王国とで平和条約を結びたいと言ってました」
その叫び声にティアは面食らっておずおずと顔を上げる。
国王の顔は信じられない物を見たときのように目がまん丸になり、口はぽかんと開いている。
だが良く観察すると、次第に開いた口の端に皮肉そうな笑みがついてきた。
王は鼻にしわを寄せてフンッと笑うと、玉座にどさりともたれかかって戯言を聞くような姿勢になった。
「ふっ、ははは!」
と、急に笑い声を上げてティアをビックリさせた。
玉座に肩肘を着き、もう片方の手でさもおかしそうに眉間に手を置く。
「王様・・・?」
ティアが不安そうに声を上げると、王は急に起立して叫んだ。
「もはやだまされぬぞ!!何が平和条約だ、何が親書だ!ばかばかしい」
王冠が揺れるほど激しい言葉にティアはあっけに取られて王を見つめる。
王冠のすぐ下の眉間にはくっきりと青すぎが浮き出ており、顔は怒りで真っ赤だ。
精霊たちは心底うるさそうにティアの背後に回り、その背中から王を伺う。
「あの男が何をしたかわかっているだろう?かつて皇子は偽りの平和条約を結び、このカレイラを油断させ、戦争を仕掛けてきた!星が直撃したカレイラめがけてやってきたことも在る、結果は我が住民達にやられて退散したがな。ともかくそんな生け好かぬ国と平和条約など結ぶものか」
鼻を鳴らすと王はとにかく、とため息混じりに言った。
「戻り、皇子に伝えよ。カレイラの心は帝国を受け入れないとな!」
「・・・これ以上話しても無駄なようですね、一端報告に帰りましょう」
何とか弁解しようとするティアにウルは王の態度を見てこれ以上はムダだと告げた。
「仰せの通りに」
ティアが王に会釈してすごすご引き返すのを、王はため息と共に見送り、玉座に身をうずめた。
一人娘がその話の一部始終を盗み聞きしていたことに気づかずに。
- Re: アヴァロンコード ( No.556 )
- 日時: 2013/04/02 18:03
- 名前: めた (ID: FY5Qqjua)
参照 14100 超えましたありがとう!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
まだ明るい空の下、洞窟を駆け抜けて美しい太陽の棚を通り過ぎ、森林を駆け巡る。
そして日が暮れる前に森の中の邸宅—自然味あふれるラウカの家であるここに、たどりついた。
「とりあえず、残念な結果だけど知らせよう」
ミエリが腕を組みながらティアに言い、ティアは頷いてからラウカの野性的な家に足を踏み入れた。
巨大きのこを住居にして住まうのは、獣の耳をピンとはやし、ピンク味掛かる赤毛をたてがみの様に生やした誇り高き野生児ラウカ。
ティアが戸を叩くと共に蹴破るように扉が開き、驚いたティアに突進して押し倒すという野性的挨拶でラウカが迎えた。
「久しぶりだナ!また森に行くカ?川遊びでもいいゾ!ラウカは狩りがしたイ!」
「分かった、分かったよ、コレが終わったら森に行って狩りをしようね」
犬が遊び相手の子供に飛び掛るようにしてジャレ掛かってくるラウカを押しのけてやっと立ち上がると、開いた扉の向こうに唖然とするヴァルドと肉にかぶりついているヒースがいた。
「何かと思ったよ・・・驚いた・・・」
ヴァルドが少し笑みを取り戻しながら自分の手に握られている獣肉をヒースに押し付けた。
食わないんですか、皇子?という視線に頷きヴァルドはティアに歩み寄った。
赤い目が少し不安そうにティアを見た。
「それで、ゼノンバート王は・・・?」
ティアはあいまいな言い方は良くないと心得ていたので、すぐに切り出した。
「残念なことに、こう言われました——」
「—・・・そうか」
説明が終わり、カレイラの王族は心を開かぬと伝えられたヴァルドは、肩を落とした。
保守
- Re: アヴァロンコード ( No.557 )
- 日時: 2013/04/04 17:39
- 名前: めた (ID: FY5Qqjua)
14200 越えました!ありがとうございます!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「そうか・・・」ティアからの報告が終わると、ヴァルドはもう一度つぶやいた。
ヒースが肉にかじりつくのをやめて、深刻そうな面持ちで皇子を見上げた。
ラウカは何のことかわからないようで小首を傾げて二人を眺めている。
「あの平和条約は本物だったのだが・・・平和条約を結んだあの日、私は暗殺者に襲われてクレルヴォに体をのっとられてしまった。・・・確かにカレイラから見れば油断させるための作戦に見えるね」
困ったように言った皇子は顔を上げた。
「だけど・・・私は諦めない。なんとしても王国と平和を結んで見せるよ!」
「・・・ワーマンの暗殺計画が平和条約の障害となると、ワーマンを締め上げたくなるな—まぁ、今ヤツがどこにいるか分からないが」
ヒースが肉を手に持ちながら物騒なことを口走る。
ラウカがだれだか知らないけど、手伝わせロ!とやる気満々で目を輝かせている。
物騒なやり取りだが、なぜだか笑いを誘う。
「それじゃ、ラウカ狩りに出かけようか!」
ティアがラウカを誘うと、ラウカは獣耳をピンと立ててすぐさま走りよってくる。
二人して扉の方へ歩くと、後ろの囲炉裏から慌てたようにヴァルドが声をかける。
「今回のお礼をしないと・・・」
「ティア、早ク!」ラウカは待ちきれないようで、ティアの服の袖を引っ張り子供のように目を輝かせている。
対するヴァルド皇子も断っても、それではこちらが困るとお礼をしようとする。
頑固なのはラウカもヴァルドも同等なようだ。
「うーん・・・それじゃあ、ハクギンツバキのありかを知りたいですね」
今一番ほしいものといえばファナと一緒に探したが見つからないあの花の情報である。
献身的な花のありかを知れれば、ファナとそれを見にいける。
「ハクギンツバキ・・・?・・・わかった、探しておくよ。もう一度今回の礼を、ありがとう」
「ティア、終わったのカ?じゃあさっさと行くゾ!」
ラウカに引っ張られ、飛び出すように家を出て行くティアの耳に、ヴァルドの声が聞こえた。
心底困ったように、ぼそりと、カレイラの王族に誰か一人でも帝国に敵意を持っていない人はいないだろうか・・・、と。
- Re: アヴァロンコード ( No.558 )
- 日時: 2013/04/04 18:11
- 名前: めた (ID: FY5Qqjua)
ティアがラウカと風のように去ると、ヴァルドはくるりと振り返った。
囲炉裏には焼かれた肉が骨に突き刺さったままジュウジュウ音を立てている。
それを獲物を見る目でヒースが焼け具合を確かめている。
もうじき食い時だな、などといっているがそうはならないことをヴァルドは知っている。
自分のために肉を焼いてくれるのはいいが、もうじき自分はここにはいなくなる。
「ヒース、悪いけれど留守を任せたよ」
え?という顔でヒースが顔を上げて、ヴァルドを凝視する。
だがいつものように何食わぬ顔でケロッと言う。
「私はハクギンツバキなる花を見たことがない。だがカレイラの王にお目どおりが出来ない今、私は暇人だろうから、そこらじゅう歩き回って探すつもりだ。だからラウカが帰るまで留守を頼むよ」
そして背中を向けようとすると、慌てた様子で立ち上がった。
騒々しい音がするので振り向くとヒースが急に立ち上がろうとしてしびれた足で転んだ音だった。
しびれた足を痛そうにさすり、うめいている。
「それじゃあ、いってくるよ」
そのまま扉に手をかけようとすると、ちょっと待った!とヒースが騒ぐ。
「帝国の皇子がうろついていたとなると全力で首を取りに来るかもしれない!ここは俺が行きます!」
「—でも、足がしびれているんじゃないの?」
顔はいたって真面目でやる気に満ちているが、足が電気が流れたようにしびれている。
だがそうヴァルドが断ろうとすると、勢いよく立ち上がった。
悲鳴を上げるのを我慢して、すっくと立ち上がるとぎこちない足取りで顔をゆがめないように我慢しながら扉を押し開ける。
ヴァルドがあっけに取られてそれらの動作を見ていると、ヒースは外へ出て行った。
「待ってよ、私はまた待機か?私もハクギンツバキというものを見てみたいのだ」
そう叫ぶが、階段を下りてどんどん見えなくなっていくヒースは皇子はそこに隠れていてくださいと、目で訴えるだけだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
世界協定→ヒースのお使い
- Re: アヴァロンコード ( No.559 )
- 日時: 2013/04/07 19:32
- 名前: めた (ID: 8.g3rq.8)
参照 14400 超えましたありがとう!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
狩りから帰ってくるとヴァルド一人ぽつんと部屋の中心にうずくまっていた。
話を聞けばヒースは皇子のお使いに行ったそうだ。
構わないで良いということなので、獲物を焼いて食べた。
それらを食べ終わり、ティアが家へ帰る頃になってもヒースは一切姿を見せず、行方をくらませていた。
帰り道、ティアは精霊たちとしゃべりながら歩いていた。
薄暗くなる森をとぼとぼと歩き、少し足の裏がジンジンする。
「帝国と王国の平和条約は実現しないのかなぁ」
「国王その人が望まないわけには叶いそうにないですがね・・・王と同等の発言権や権力を持つものが賛成すれば話は別ですが」
ティアのぼやきに、ウルが腕を組んでまじめに答えた。
?と小首をかしげるほかの精霊とティアに、ウルは人差し指を立てて答える。
「例えば王妃とかですかね。宰相もことを動かせる力を持っているかもしれないですが」
「カレイラにはどっちもいないぞ?宰相の立場の国務大臣だっていないし、王妃は墓に眠ってるし」
ウルの言葉にレンポが突っ込む。
と、ウルが振り返って全くその通りなのですよ、と頷いた。
ただ、と赤と蒼の目を伏せて何か考え込んでいる様子。
徐々に森が開けてきて、滝の音が聞こえてくるとティアは足を速めた。
もう遅いので滝から飛び降りるつもりだった。
そのほうが早く家に帰れるし、暗い洞窟の中をさまよわなくて済む。
「どうにかして王様を説得するしかないってことねー・・・」
ミエリがそんなこと出来るのかなぁと肩をすくめつつ言う。
優しげな弓なりの眉は心配そうに下がり気味だ。
『…このまま時を過ぎれば戦争が待ってる。それに、まだ世界の崩壊は止まったわけじゃない。崩壊までのときは確実に刻まれてるの』
はっとしたように振り返ったティアに、ネアキはそのきれいな黄土色の目を合わせてつぶやく。
ぼんやり光を放ち始めた月の光に照らされて、ネアキの青白い肌が一掃白く見える。
『…戦争が始まったら、崩壊までの時は加速してしまうわ』
ネアキの冷めた口調からは、何をしてでも王の心を変えろと伝わってくる。
「なにか、手があればいいのに・・・」
ティアが少しあせったように髪をかきあげる。
月のきらめきをそっくり反射している銀の髪飾りに無意識に触れる。
母の形見に触れれば何か落ち着くかと思ったが、心は強風のときの森のようにざわめき続けた。
- Re: アヴァロンコード ( No.560 )
- 日時: 2013/04/08 21:00
- 名前: めた (ID: 8.g3rq.8)
滝から飛び降り、びしょぬれのティアはカレイラの我が家に着いた。
少し寒くて、早足になり、前方十メートル先に見える我が家に走りよると、だれかいた。
「アイツは・・・わがまま姫か?」
え?と寒さにうつむいていたティアはひっそりたたずむその人物に目を凝らした。
家の扉の前の木板に腰掛けてうずくまるその人はすっぽりとワインレッド色の頭巾で体中を覆っている。
とても温かそうであるが、人目をはばかるようにわずかに顔がのぞいてる。
「ホントだ、ドロテア王女が何の用かな?」
「見た感じ、身を隠しているようですが・・・バレバレですね」
ミエリとウルがティアより先に飛来し、そのあたりをきょろきょろと見る。
ドロテア以外誰もいないようで、一体何のようであるのか全く分からない。
「ドロテア王女?」
ティアが駆け寄って言えば、そのワインレッドの固まりはびくっと身体を降るわせた。
そして恐る恐る空色のガラス球のような瞳をこちらに向けると、ほっとしたようにため息をつく。
「なんじゃ、ティアか。よくわらわだとわかったのう?」
そして赤ずきんのようなズキンから顔を出してにっこり笑う。
「変装のつもりかよ?頭巾かぶってるだけで他はそっくりそのままじゃないか」
ドロテアは確かに赤いズキンのほかには桜色のいつものドレス姿で、かなり目立つ。
夜でなければ姫だと確実にわかる。
あきれたようにレンポが言うけれど、精霊の声はティア以外の人に聞こえない。
そのまま苦笑いをしていたティアに、ドロテアが急に深刻そうな顔をしていった。
「のう・・・この前、父上に話していただろう?その・・・ヴァルド様がどうとか」
ティアがビックリして何も言わないでいると、ドロテアは我慢できないと叫んだ。
「平和協定の話、わらわもヴァルド様の役に立ちたいのだ!」
- Re: アヴァロンコード ( No.561 )
- 日時: 2013/04/10 14:33
- 名前: めた (ID: 8.g3rq.8)
ドロテアの言葉を聴いて、ティアの脳裏にヴァルドの呟きがよみがえる。
“カレイラの王族に誰か一人でも帝国に敵意を持っていない人はいないだろうか・・・”
その人物こそドロテアではないか!
眼前で、うろたえたようにしゃべっている少女こそ、カレイラとヴァイゼンを結ぶ架け橋となる人ではないか?
「もう無意味な戦いを終わらせるべきなのじゃ。父上もそれはわかっているはずなのに・・・ティアもそう思うじゃろ?」
空色の透き通る幼子のような目は、月の灯りで輝いている。
邪心の一切の欠片も浮かばない、無垢な目にかけてみることにした。
精霊たちも、もしやこの子なら、と期待した目で頷きあった。
「ドロテア王女、協力してくれますか・・・?」
その場でヴァルド皇子の平和協定が結局カレイラに受け入れてもらえなかったことを話すと、ドロテアは父上、と小さくつぶやいた。
そして顔を挙げ、一体何の協力をして欲しいのだと聴いてくる。
そこでティアはこう持ち出した。
「ゼノンバート王を説得してみてほしいんです。このまま平和条約が決裂したままだといずれ戦争が起きてしまいます。このチャンスを逃したら最後、もう平和条約を結ぶ機会はないと思うんです」
ドロテアは眉を寄せながら深々と頷いた。
「わかった。父上に掛け合ってみるのじゃ」
そして身を翻してフランネル城に走り去った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
参照 1 4 5 0 0 越えました、ありがとう!!
- Re: アヴァロンコード ( No.562 )
- 日時: 2013/04/10 17:34
- 名前: めた (ID: 8.g3rq.8)
走り去ったドロテアは赤い頭巾を忘れていたが、そんなこと全く気づかずにフランネル城目指して一気に駆け抜けていた。
桜色のハイヒールでタイルを強く蹴り、ドレスを翻して進むスピードは王宮に閉じこもる姫を全く想像させない。
もし誰か姫をさらおうとしようともこのスピードにはついてこれなかっただろう。
そのままの勢いを保ったままドロテアは城の入り口に駆け込んだ。
もちろんティアの元へ向かったときは別のところから抜け出したのだ。
一国の姫が、まして戦争が起こりそうなときに城から出られるわけがない。
こっそり抜け出すしか外に出られないのだ。
「ドロテア様!?いったい、何で外に?!いつ・・・出て行かれました?!」
なのでドロテアが門番の前を猛スピードで走り去ったとき、守衛の門番は驚愕したのである。
だがドロテアは立ち止まらず、エントランスを抜けて大勢の使用人やら騎士を驚愕させて、王のいる謁見の間にやってきた。
そもそも謁見の間に王とドロテアの部屋があり、それぞれ右と左に扉を隔てて位置している。
そこにいると思っていた娘が急に別のところから現れたので、玉座にいた王は目を見開いた。
そして赤い絨毯を進んでくるドロテアに眉を寄せて聞いた。
「いったい、どうしたんだドロテア?部屋にいるのではなかったか?」
「父上、聞いてほしい事があるのじゃ!」
ドロテアは父の言葉をさえぎって玉座の前に転がり出た。
王の言葉をさえぎれるのは、今ではその愛娘のドロテアしか出来ない技である。
ほかのものがこんなことをすれば、たちまち王の逆鱗に触れてしまう。
「なんだ?言ってみよ」
「ティアから聞いたのじゃ!父上、ぜひヴァイゼンとカレイラの平和条約を結ぶべきなのじゃ!もう無意味な戦争は終わらせて、昔のように—」
ドロテアが言いながら顔を上げると、思わず口をつぐんでしまった。
王の顔に張り付く表情。その形相は世にも恐ろしい。
ドロテアと同じ色の瞳が、怒りできらめいた。
「お前は黙っていなさい。誰から何を言われようと、もう遅いのだ。一度ならず二度までも戦争を仕掛けてきたあの国などと共生などできん」
そういうと、王はドロテアにそれ以上話すなと命じた。
- Re: アヴァロンコード ( No.563 )
- 日時: 2013/04/11 20:53
- 名前: めた (ID: 8.g3rq.8)
参照 14600 ありがとございます!!
まったり終わらせるのもいいですね
八月に入ったら、一周年ですな
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ドロテアはむっと口を結んで、王をにらんでいた。
わがまま好き放題やらせてくれた王が、自分に珍しく「〜するな!」などと命令するので、怒りがあふれてくる。
我慢などした事がないドロテアにそれは逆効果で。
「父上などもう知らぬわ!」
一声叫ぶと、ドロテアは頬を膨らませてさっと身を翻し、謁見の間から出て行った。
その後姿を全くの無表情で見つめた王は、嘆かわしげに玉座に背を預けた。
ドロテアはつかつかと一直線に城から外へつながる道をぶっちょうずらで歩んでいた。
だがその顔は王のような恐ろしさとは無縁で、ただ幼子が膨れているようにしか見えない。
そのままの勢いでお気に入りの中庭に着くと、美しい噴水のふちに腰掛けた。
当たりを満たすのは夜の冷たい空気と、噴水の奏でる水音だけ—ではなかった。
なにやら城門の方で言いあいが聞こえる。
言い合いといっても、口論ではなく、誰かと誰かが話している。
こんな晩にだれじゃろう?とドロテアはこっそりと城門の方へ移動し、そっとのぞいてみた。
渡し橋のかかる石造りの城門では門番とティアが話していた、
ティアの手には赤いズキンマント。
先ほど忘れていったドロテアのものであり、わざわざ届けてくれたらしい。
だがそれが不幸にも、門番の審査に引っかかったらしい。
女王がどういう理由で城を抜け出したのかと、しつこくティアに聞いているのだ。
「いや、私どうだか知らないんですよ」
「ではこのズキンは何処で拾われたんでしょうか?なぜドロテア様のものとわかったのですかな?」
このやり取りで数分が過ぎ、ドロテアは飽きてきた。
そしてさっと城門に飛び出すと、門番の手からズキンを奪い取った。
「ドロテア様!」
ビックリして声を上げた門番に、ドロテアはツンと鼻をそらしていった。
「父上がそなたをお呼びだそうだ。早急に向かうよう、言っておられたぞ。代わりの門番はすぐに来るから気にせずにはよう向かうと良い」
言われて、蒼白気味の門番はドロテアにお辞儀するとそそくさと王の下へ急いだ。
- Re: アヴァロンコード ( No.564 )
- 日時: 2013/04/11 21:02
- 名前: めた (ID: 8.g3rq.8)
「さて、邪魔者は消えたことじゃし、頼みごとを聞いてもらおうかの」
ズキンを羽織って赤ずきんのように金髪を隠したドロテアは真面目そうに言った。
「わらわをヴァルド様の元へ今すぐ連れて行くのじゃ!」
「今すぐですか?王様にはなんて・・・?」
ビックリしたティアは思わず聞き返し、ドロテアは顔を曇らせた。
そしてふんっと鼻を鳴らすと、奧行に腕を組んでからいった。
「歳を取ると考えが硬くなり困ったのもじゃ。わらわのように柔軟に物事をとらえるものが、活躍せねばならなくなったということじゃ。ほら、さっさと案内せんか!」
「それって誘拐になるんじゃ」と言いかけたティアに、ドロテアは首を振った。
やけに自信満々だが、裏づけは全くない。
「ならんならん!わらわが行きたいといって連れて行ってもらうのじゃから、誘拐ではない!」
そして渋るティアを言いくるめて、ついには城から二人で抜け出した。
行き先は、ラウカの住まう猟師の森。
- Re: アヴァロンコード ( No.565 )
- 日時: 2013/04/17 11:13
- 名前: めた (ID: 8.g3rq.8)
14800越えてたありがとう!!
今日は学校お休みなので一気にすすめます!!(暇人
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「—陛下、今参りました!」
「・・・—?」
ゼノンバートの前にひざまずいて、門番はびくびくした様子で王の声を待った。
赤い絨毯、自分の影で今はくすんだ色になった絨毯をじっと見つめて、待つ待つ—が、声が掛からない。
(俺が一体何をしたというんだ・・・)
とんでもない王の怒りに触れたと思っている門番は心底震え上がった。
免罪処分になったが、英雄が一時牢獄に放り込まれたとき、食事も一切与えられずずっと放置していたことがあった。
英雄はどうやったか知らないが脱獄していたので衰弱—ひいては餓死せずに済んだ訳だが、普通の人ならば死んでいただろう。
もし、自分が牢獄に放り込まれたら?
待っているのは確実な餓死への道だろう。
(なんてことだ!今すぐ逃げないとまずいのではないか?恋人にも会えなくなるうえに、空腹に悩ませられながら数日かけて命をとられるとは!聖王だとは良く言ったものだな、コレは無慈悲で残酷な王じゃないか)
「ダンドンよ、面を上げろ」
「は、はい」ダンドン—門番はこわごわと顔を上げた。
心の中で毒づいた声でも聞こえたのかと思うほど、神妙な顔つきで王は玉座に君臨している。
するどい空色の瞳はまっすぐダントンを貫いている。
「おまえ、なぜここに来たかわかるか?」
言われてダンドンは震え上がった。
まぁ、思い当たる節は—何個かあった。
牢獄前の長い廊下の掃除をサボったり、ある時は鎧姿のまま長廊下に設置されている高価な椅子に腰をかけて布地を引き裂いてしまったり、ドロテアの愛猫が逃げ出したときも、探すのをサボっていた。
とりわけ最後の二つは自分でもまずいとわかる。
王家の物品を傷つけたこと、そして王の溺愛する娘に対する態度。
この二つで間違いない。
観念して吐露しようとした瞬間、謁見の間に誰かが飛び込んできた。
「シャララ!」ダンドンは振り返って小さく声を上げた。
謁見の間に飛び込んできたのは小間使いのシャララという若い娘で、彼の恋人である。
その人物が血相を変えて王に言った。
「大変です、ドロテア様が城の外へ出て行かれました!」
- Re: アヴァロンコード ( No.566 )
- 日時: 2013/04/17 11:39
- 名前: めた (ID: 8.g3rq.8)
「なんだと?何処へ行ったのだ!!」
雷が地上に落ちた轟音のような声でゼノンバートが叫び、あたりの空気をふるわせた。
ダンドンは身を震わせ、シャララも肩をすくめて震え上がる。
「つい先ほど・・・英雄殿と共に城外へ出て—」
「何を考えておるのだ娘は!きっと帝国のヴァルドの元へ向かったのだな」
シャララの声をさえぎってゼノンバートは怒りに肩を震わせていた。
だが困ったことに肝心のヴァルドのいる場所がわからない。
すぐに向かいたいが、一体どこにいるのか見当もつかない。
「帝国まで行ったのでしょうか?それとも何処かで野営でもしているのでしょうか?」
シャララが不安そうにうろたえる声で語りかけるが、ゼノンバートが知るわけでもなくただ黙っている。
と、カッと目を見開き、うなるような声で命令を下した。
「えぇい、すぐに捜索隊を手配せよ!目的地はドロテアがいるところであるぞ、すぐ探せ!後れを取ったものは何人であろうが命はないぞ!」
ゼノンバートの命令は城総動員に伝わった。
誰も彼も、小間使いから上級騎士、財政管理の役人までそろって駆け出した。
城にとどまれば命はない。これほどわかりやすい事はない。
四方八方に散って人々に聞き込みをし、森へ崖へ谷へ砂漠へ・・・
「にゃ」
妙に緊張感のない声に、玉座でイラついたように往生していたゼノンバートは反応する。
カリカリカリと扉を引っかく音と、ニャーニャー言う声。
ゼノンバートは眉を寄せてドロテアの部屋の扉を開けた。
すると、扉の隙間から矢の様なスピードで飛び出してくる黒い塊。
「何者だ!」
言って腰の鞘から剣を引き抜いたゼノンバートの足元で、小ばかにしたように見上げる黒猫。
なに子猫相手に剣なんか抜いてるんだよ、という視線でも感じたのだろうか、王は辺りを見回して誰も今の光景を見ていないことを確認すると鞘に剣を収めた。
「なんだ、ドロテアの猫か」
「にゃー」
ドロテアという単語に反応してグリグリがちょこんと首をかしげる。
そしてくるりと身を翻すと、マリが飛ぶように城の外目指して走っていく。
「待て、お前までいなくなっては面倒なことに」言いかけてハッとする。
あの猫はドロテアの下に向かっているのであろうか?
ゼノンバートは駆け出して、猫の後を追った。
- Re: アヴァロンコード ( No.567 )
- 日時: 2013/04/17 12:43
- 名前: めた (ID: 8.g3rq.8)
「ほう、ここにヴァルド様が住んでいられるのか」
月に照らされてきのこの家がぼんやり存在感を示している。
それをしげしげと見つめ、ドロテアは感想を1つ。
「それにしても、変わった家じゃのう。ヴァルド様は変わり者がお好きなのか」
「ここはラウカって言う人の家だよ。皇子と将軍は泊めてもらってるの」
言って扉をノックして開けると、食事前らしかった。
火のそばでこわごわとラウカを見ている皇子と、大きな鹿をずるずると引きずるラウカ。
まだ鹿はきれいな毛皮姿で、これから食べるためにそういうことをされるようだ。
「待ってロ、すぐ食べられるようにするかラ。まずは皮ヲ・・・」
「説明はいいよ、大体の事はわかってるから」
耳をふさごうとした皇子が、特大の「ヴァルド様!!」という声にかなり驚いた様子で飛び上がる。
そして振り向くと、ドロテアとティアの存在をはじめて知った様だった。
「君は・・・カレイラのドロテア姫・・・」
そう言って貰えるのがうれしかったようで、ドロテアはへへっと照れて笑って見せた。
それからティアに小突かれて、慌てたように言う。
「あ、あの・・・ティアから聞いたのじゃ。帝国と王国の平和を結ぼうと尽力されておられると・・・」
ラウカが背後で食材を調理している加減が生々しく見える位置が嫌らしく、精霊たちが預言書に逃げ込む。
ティアにも丸見えだが、何とか目をそらし、ヴァイゼンの皇子とカレイラの姫の会談を見守った。
「そうだね、だけどなかなかうまくいかなくてね」
ヴァルドが苦笑すると、ドロテアが目を輝かせて言った。
桜色のドレスで仁王立ちになり、任せなさい!とでもいう不に気をかもし出している。
「わらわも協力させて頂きませぬか。父上を必ず説得させて見せるのじゃ!・・・王国と争ったのも何かわけがあるはずじゃ!」
「・・・その訳というのを、協力してくれるからには知らないといけないね。言い訳にもウソにも聞こえるだろうが、聞いてほしい—」
ヴァルドはドロテアに感謝のまなざしを向けてから、魔王とワーマンと世界を滅ぼそうとした時の話を始めた。
- Re: アヴァロンコード ( No.568 )
- 日時: 2013/04/19 17:35
- 名前: めた (ID: 8.g3rq.8)
花。
そう、今一番ほしいのは花。
どんな花でも良いってわけじゃない。
捜し求めるのは、剣のように磨き上げられた美しい色。
そして小さくはかなげな、大きな植物に寄り添う献身的な花だ。
「帝国の将軍が皇子を守らずにこんな仕事をしているとはっ」
ヒースはぐぅと食べ物を請う腹の虫に、まだ帰らないと心の中でつぶやく。
森に入って探してみるのは簡単なことかと思っていた。
森を駆ける獲物のように逃げはしないし、大きな植物の辺りを探し回ればすぐ手に入ると思っていたのに・・・現実はこうだ。
丸一日収穫なしで、一日中何も食べていない。
狩りをしようと思えばできるが、あいにく火がないため無駄な狩りになる。いくらヒースでも生肉は食べられない。
ラウカならば生肉だろうとぺろりと平らげてしまうだろう。
そもそも人ではないのだし、肉食種族の血が色濃く流れる野生児なので出遭ったときから火の使い方を教えるまで生肉を食していた。
ふと、記憶の断片が色づき始める。
最初に出会ったのは、森。
軍などに入らず、何処の国にもとどまらず、傭兵としてふらふらと各地の戦場を縦横していたヒースは二十代初めくらいだった。
戦うことが好きだったし、金は欲しいし、旨いものを食いたい。
面倒くさい貴族王族との主従関係のない傭兵ライフこそ、ヒースの理想郷だったわけで、その生活はずっと続く。
とある戦場に赴いたときである。
深い森が広がり、今回の命令は確か森に住む原住民を圧制・鎮圧しろというものだった。
ここに何かを建造しようとしているのだろうが、森を奪われたくない原住民は必死に抗っている。
かわいそうに、太古よりずっと先祖が守り暮らしてきた土地を、急に新手の集団によって破壊されようとしているのだ。
それも、貴族達の別荘を建設するというたいそうくだらない理由で。
けれど傭兵一行は剣を手に、抵抗するものあらば片付ける気で、貴族の騎士たちと共に森を縫い歩いていく。
「おっと、そんなことよりハクギンツバキを・・・」
ひとたび思い出すと欠片が急に寄り集まって、大きな記憶のパズルを完成させていく。
思い出に浸るのも良いけど、今はヒマじゃないだろ。
そう言い聞かせて、頭の中のパズルをかぶりを振ってばらばらに崩した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
参照がもうちょっとですごいことに!!
- Re: アヴァロンコード ( No.569 )
- 日時: 2013/04/20 21:55
- 名前: めた (ID: xsmL59lL)
参照 15000 越えましたありがとう!!!
個人章を片付けて行こうとするとどんどん話しが膨らんでいく・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ないなぁ」
どっぷり日が暮れてあたりが見えない。
森で周囲が見渡せないのは命を取られたに等しい。
「今日も収穫なしか」
オールバックにした深い茶色の髪を撫で付けながら、ヒースは困ったように肩をすくめ、ラウカの家に帰るかどうか迷っていた。
そろそろ腹がすきすぎてつらくなってきた。
何か食べられるものはないだろうか?果物でも良い、何か・・・。
と、急に足元に何か擦り寄ってきた。
「?!」油断していたためか、それとも空腹のために集中が途切れたからなのか、妙な物体の気配すら気づかないことに驚いた。
噛み付かれた?そう思って瞬時に足元に目を落とすと、なにやら真っ黒い塊が擦り寄っている。
小さくてもこもこして・・・小さな獣?
「何だお前は?」
剣を鞘から引き抜いた手を止めて、その獣を見つめると、黄色の目玉が二つ、じろりとこちらを見上げてくる。
満月のような目玉が、あきれたような視線を送ってくるので、ヒースは剣を鞘に戻した。
なにやら「おまえもか」とあきれられている様だった。
「にゃ」とその獣が鳴いたところで、やっとヒースにそいつの正体がわかった。
「なんだ猫か?」
にゃッと猫が肯定するように声を上げる。
安堵すると共に、疑問がわきあがる。
「何で猫がこんなところに?」
足元に擦り寄る愛想の良い黒猫を抱き上げてその問いを口にした瞬間、別の物体があわただしくこちらに飛び出してきた。
- Re: アヴァロンコード ( No.570 )
- 日時: 2013/04/22 19:14
- 名前: めた (ID: PoNJOIO3)
参照 15200 ありがとう御座います!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「今度は何だ?!何に捕まったんだ貴様は!!」
ものすごい怒号にヒースは猫を小脇に抱えて思わず剣を抜いた。
闇の中、月明かりで刃物がギラリと照かりあう。
どうやら怒号を放った人物も剣を抜いているらしい。
剣が濡れた様にきらめくと、双方の間に緊張状態が漂う。
顔も見えない相手だが、仲間か敵かもわからない。
と、猫が鳴いた。
とんでもなくうんざりしている様で、身体をもがくようにじたばたと身をよじり、ヒースの手に噛み付いた。
「いてっ、なんてヤツだお前は」
ヒースが悪態をつくと、猫はひらりとその手から抜け出し、地上に着地すると後ろも振り返らずに駆け出した。
ぱさぱさと枯れた草花の上を飛び跳ねる足音がするや否や怒号の人物は急に駆け出した。
「誰だか存ぜぬが失礼する!」
怒号の人物は月の光をつやめかせたビロードのマントを翻し、猫を追いかけていく。
「あっ・・・まて、そっちには—!」皇子が隠れるラウカの風変わりな家がある。
引きとめようと喉まででかかった言葉を、月の光がさえぎった。
高い木々によってギザギザの明暗の斑点のようになって地上に降っていた光が、その人物を急に照らし上げた。
金の鎧に青いビロードのマント、振り回す銅色の聖剣。そして白いひげ。何より目立つのはきらりと光り輝く金色の王冠。
アイツはゼノンバート国王ではないか?!
なんで一国の国王がこんな時間に、こんな森の中に猫なんかを追いかけて走っているんだ?
しかも剣を振り回しながら。
なにやら帝国の某皇子を思い出すほどの異様な行動力に、ヒースはまじまじとその背中を見る。
だが再び木々にさえぎられてそのきらめく背中がふっと闇に紛れ込むと、慌てて追いかけた。
コレは危機的状況である。
あの猫がこのまままっすぐ突き進めば、皇子のいるところへ王を向かわせてしまう。
戦争がいつ起こるかわからないのに、皇子と国王が対面するなど、もってのほか。
むしろカレイラの敷地といって良いところに敵国の皇子が居座っているなどと知れたら・・・
「あぁなんてこった!」
- Re: アヴァロンコード ( No.571 )
- 日時: 2013/04/22 21:37
- 名前: めた (ID: PoNJOIO3)
ゼノンバートは夢中で走っていた。
目の前の猫が何よりの頼みの綱なのだ。見失っては困る。
しかしこの猫は凄まじいほどの肉食獣をひきつける魅力的なヤツらしい。
城から飛び出したところまでは良かった。
ひとたび森に駆け込まれると、猫を追うゼノンバートに混じって腹をすかせた夜行性の肉食獣がこぞって追いかけてくるのだ。
おまけにゼノンバートのことまで標的に入っているらしく、剣を振り回して走らないと危険極まりない。
一度は猫が獣に捕まり、食われかけたところを剣を振りまわして救出したこともあった。
だがこの猫は恩義を知らないらしく、気ままに枯れ草の上を飛び跳ねて新たな獣をひきつけるのだ。
「・・・獣だけでなく人までひきつけるとは、この猫、魔物か何かの類か?」
走りながら目の前の黒猫につぶやく。
猫はお構いなしに、どんどん森を突っ切っていく。
背後では先ほど猫を抱えていた人物が後を追いかけてきている。
剣を携えていたことから武装した流浪の民だろうか?道に迷って助けを求めて追いかけてきているのかもしれないし、追いはぎか何かの類かもしれない。
どちらにしようとも、今は構っていられないのだ。
一瞬でも目を離せば黒猫は森の闇に飲み込まれてしまう。
目が充血するほど猫を睨み付けていた王は、途端に森が開けたので、猫から目を離してしまった。
視界の端で猫が長い木の階段を飛び跳ねながら登っていくのが見える。
その階段がすえつけられているのは、巨大なきのこの中身をくりぬいて作った家のような建造物だった。
- Re: アヴァロンコード ( No.572 )
- 日時: 2013/04/24 13:26
- 名前: めた (ID: vXApQJMC)
「なんだここは」
ゼノンバートは月明かりに照らされて怪しげにたたずむその建造物を眉をひそめて見つめていた。
建造物の傍には小川が流れ、そこに木を倒して橋が架けてある。
そして長く高い階段。
猫はすでにてっぺんまで登りきり、おそらく扉だろう物をカリカリと引っかいて開けろと鳴いている。
「ドロテアがあそこにいるのか・・・?」
ハッと我に帰った王は、マントを翻して猫のいる階段を颯爽と駆け上がった。
一方、一足遅れてラウカの家へとたどりついたヒースは、階段を駆け上るゼノンバートを見つけ、目を見開いた。
階段の先に待ち受ける扉を開けば、すぐそこに皇子がいる。
「待て!!」
大声で叫ぶが、王は一目こちらに視線を送ると、すぐさま扉に手をかけた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
参照 15300 ありがとうございます!
- Re: アヴァロンコード ( No.573 )
- 日時: 2013/04/27 12:44
- 名前: めた (ID: x1KEgngG)
ゼノンバートが押し入ろうとする家の中では、丁度ヴァルド皇子の話が終わっていた。
世界を崩壊させようとした魔王に身体をのっとられ、ヴァイゼンの宰相が真の悪役であった。
そしてティアが魔王クレルヴォを倒し、今現在世界の時の歯車を遅くさせた、と。
「そんなことが・・・」
ドロテアは信じられないという顔をして、腕を組んだ。
「信じられないかもしれないが、コレが真実なんだ。私は別にカレイラ王国と戦うつもりは無かった」
ヴァルドがそういうと、ドロテアは組んでいた腕をぱっと振りほどく。
そして仁王立ちになりながら、考え深げに言葉を発した。
「ならばなおさらのこと、父上にきちんと説明せねばならん。ヴァイゼンとカレイラは悪用されたのじゃと。真の悪役はカレイラの地下牢獄に放り込まれたあの男なのだと!」
ドロテアの言葉を聴いて少し首を傾いで微笑んだヴァルドは少し首を振る。
王冠の下で銀色の髪が揺れる。
「だが私はそれを言い訳にするつもりはないよ。私が犯してしまった罪は事実として歴史に残ってしまっているからね。コレは変えることも消すことも出来ないものだ」
一瞬ヴァルドが平和条約締結を諦めたのだとドロテアは思ったが、ヴァルドは赤い目に光をと灯らせて言った。
「だから自分の手で切り開きたいんだ。平和という未来を」
「ヴァルド様・・・」
ドロテアが賛同するように頷いた直後だった。
ドアが急に蹴破られるように開き、囲炉裏の光を反射してある男が仁王立ちでこちらを見下ろしてうなるように言った。
「帝国の王子!我が娘を返してもらおう!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
参照 15500 超えました!ありがとう!
- Re: アヴァロンコード ( No.574 )
- 日時: 2013/04/27 13:12
- 名前: めた (ID: x1KEgngG)
「ち、父上?!」
その部屋にいた、ラウカ以外の三人の頭上に特大の「!?」が浮かぶ。
それもそのはず。居場所を知られていないはずが、王じきじきに出向いたからだ。
ものすごく恐ろしげな顔をしたゼノンバートの足元から、黒猫がマリのように飛んできてヴァルドに飛びついた。
「グリグリ・・・」
放心状態だったヴァルドがハッと正気を取り戻す。猫を抱き上げると、王を見つめた。
王は恐ろしい顔のまま、ティアとヴァルドをじろりとにらむと、何か言おうと口を開きかけた。
だが慌てたドロテアが口を挟んで王をさえぎる。
(ティアはまた国を追放されるかもしれない!ヴァルド様は・・・地下牢獄の最深部に放り込まれてしまうかもしれない!)
ドロテアは王の前に転がり込むと、必死に訴えた。
「待ってほしいのじゃ父上!!わらわは無事じゃ!話を、話を聞いてほしいのじゃ!カレイラとヴァイゼンの戦争は、本当は—」
だが王は怖い顔をして娘の肩をつかんだ。
「娘と英雄を返してもらうぞ!」
そして視線でティアにもついてくるように促す。
ティアはためらいがちにここは王にしたがったほうが良いのではないかと、一歩足を踏み出す。
「待って・・・!話を・・・!」
ドロテアが引きずられるようにして扉から消えかかりながら叫ぶ。
「さぁ、帰るぞ」
「お待ちくださいゼノンバート王!」
その光景を見て、ヴァルドは猫を抱いたまま王に歩み寄った。
王が厳しい空色の目でじろりと皇子を一睨みする。
だがひるまずに、皇子は深く頭を下げた。
「まずは此度の無礼をお許しください。姫を都合でさらいました」
ドロテアは首を振り、悲鳴に似た声で叫ぶ。
首を差し出すように深くお辞儀をする皇子に、父親が切りかかると思ったのだろう。
「ちがっ・・・コレはわらわが勝手にきたのじゃ!ティアに無理やり頼んで・・・ティアもヴァルド様も悪くはないのじゃ!」
と、ドロテアは不意に黙り込んだ。
王を追ってきたヒースがいつの間にか王の後ろにいて、大丈夫だ、と小さくささやいたからだった。
ドロテアは目をしばたいた。
と、背後でヴァルド皇子の凛とした声が響く。首をめぐらせてもその姿は王にさえぎられて見えない。
「私は真剣に王国との和平を望んでいます。この気持ちに偽りはありません。それだけは信じていただきたい」
「そうじゃ父上!」つられるようにドロテアは王に叫んだ。
「ヴァルド様は魔王に操られて—」「黙っておれドロテア!」
だがピシりと鞭打たれるように、ドロテアは黙らせられてしまう。
何処が大丈夫なんだと、思わずドロテアはヒースをにらみつけた。
ヒースは肩をすくめて、また大丈夫だといった。
「皇子の気持ちは良くわかった。だが信頼できぬ」
ゼノンバートは娘の肩をつかみながら、冷たい声で言い放った。
頭を上げたヴァルドは悲しそうに猫を抱いたまま王を見上げた。
あぁ、和平条約が・・・わらわが勝手に来た為にぶち壊しになってしまった—ドロテアは方を落として暴れるのをやめた。
桜色のドレスに両手を落とし、水色の目に涙を溜めたままうなだれる。
「皇子、貴公が本当に信頼できるかどうか確かめたいと思う—その間は休戦としよう」
その言葉が耳に入ると、ドロテアは瞬時に首をネジって王の顔を見上げた。
王は相変わらず厳しい顔だが、ドロテアにはわかった。
なんとなく微笑んでいるようだ、あの父上が!
「ヴァルド皇子には・・・そこの将軍もだが・・・王国に自由に出入りしてもらっても構わない。今度はその気持ちを態度で示してもらおう」
ヒースがほらな?という顔でドロテアを見る。
ヴァルド皇子は目を輝かせて、ゼノンバートに歩み寄った。
「感謝します!ゼノンバート王!!」
- Re: アヴァロンコード ( No.575 )
- 日時: 2013/04/27 13:27
- 名前: めた (ID: x1KEgngG)
数分前だった。
終盤に差し掛かったヴァルドの話を、ラウカの家の扉に手をかけながら王は聞いていた。
ヒースが数歩階段の上がってくると、王は一度そちらを一睨みすると、静かにする様指示した。
そして熱心にその言葉に耳を傾けた。
時折ドロテアの高い声が扉から聞こえてくる。
—ならばなおさらのこと、父上にきちんと説明せねばならん。ヴァイゼンとカレイラは悪用されたのじゃと。真の悪役はカレイラの地下牢獄に放り込まれたあの男なのだと!
—だが私はそれを言い訳にするつもりはないよ。私が犯してしまった罪は事実として歴史に残ってしまっているからね。コレは変えることも消すことも出来ないものだ
—だから自分の手で切り開きたいんだ。平和という未来を
くぐもった声が扉越しに聞こえてくると、欧は少し同意するように頷いた。
「どうだ?帝国の王子も悪くないだろ?一端断ち切られた和平の橋をもう一度架けようと必死に尽力されて、ここまでやってきた」
そんな王に、ヒースが剣なんかしまえよと完全にため口で言う。
「黙っておれ馬の骨の将軍風情が。ワシにため口などと・・・お前の居場所をグスタフにばらしても良いんだぞ」
王はうんざり顔で、だが剣をしまいながら言う。
するとヒースは顔をしかめて首を激しく左右に振る。
「グスタフ・・・アイツはしつこかった」
「しつこいのも当然だろうが。アレが唯一敗北をきしたのがお前だからな。アレはまだ剣術を捨ててなどいない。お前の顔を見たらすぐさま挨拶がてら切りかかってくるだろうよ」
昔の思い出。それが王とヒースの間に糸のように細いが、確かに張り巡らされていた。
「ま、皇子が信用ならないというなら、いろんな試練を与えてみるんだな。きっと大喜びして信用してもらえるまでどんなことでもするぞ、うちの皇子は」
ヒースが階段に座り込んで、独り言のように言う。
ゼノンバートは余裕気なヒースを振り返って少しにらむと、黙って扉に手をかけ、一気に押し入った。
- Re: アヴァロンコード ( No.576 )
- 日時: 2013/04/27 13:48
- 名前: めた (ID: x1KEgngG)
「ありがとう、君たちのおかげだ。とても大きな一歩を踏み出せた」
ヴァルドがうれしそうにティアとドロテアに言った。
ヒースはラウカの焼くしか肉の前で胡坐をかいて肉を見つめており、ゼノンバートは扉の前で猫にちょっかいを出されながら突っ立っている。
「そんなことないのじゃ!ヴァルド様の真剣な気持ちが父上に伝わったからなのじゃ!」
ドロテアがいうと、ヴァルドは微笑みながら言う。
「ありがとうドロテア姫。今度は私ががんばる番だ。王国の皆に認めてもらえるようにね」
話が終わると、ゼノンバートにつれられてドロテアは帰っていった。
グリグリは久しぶりに会うヴァルドと置いていかれ、翌日フランネル城で王が国民に演説をしてから、国に入ることになっている。
いくら王が認めたとしても、国民に説明なしでは急に襲われて切りかかられてしまう。
国民への演説は早朝からであり、皇子の国入りは午後をたっぷり回った昼ごろだ。
それまではラウカの家でのんびりしていられる。
「そうだ!ヒース、花は見つかった?」
猫と戯れていたヴァルドがふと顔を上げて、ヒースに聞いた。
「ティアが言っていただろう?ハクギンツバキを探してきてほしいと。私に留守番させて一人で行って来たかいはあったの?」
鹿肉にかぶりつきながらヒースは嘆くように言った。
「ありませんね。ヴァイゼンにならけっこうあるんですけど、カレイラは暖かい国だからハクギンツバキが生息しにくいみたいで」
まさかハクギンツバキ一本を探すために、再び兵士たちのいる砦へ帰る気になれなかったヒースが言い訳じみたことを言うと、ラウカが獣の耳をピンと立てる。
「ハクギンツバキ・・・それなら家の傍に生えているぞ。銀色で小さな花。この大きなきのこで出来た家の傍に沢山はえてる」
ラウカの言葉に、ヒースが落胆し何事かつぶやく。
きっと丸一日絶食状態で森を探し回った苦労はなんだったのかと嘆いているのだろう。
ティアとラウカは階段を下りて、家の裏に回りこむと、月の光に照らされてハクギンツバキがぼんやりと光っていた。
とても小さく、美しい。光の粒が凝縮されたように一つ一つ花びらの上で輝いてとても愛らしい花だった。
後日未明、ティアとファナはちゃんとここに来て、一日ラウカの元で泊まり、そして花は摘まずに思い出を持って帰った。
- Re: アヴァロンコード ( No.577 )
- 日時: 2013/04/27 14:05
- 名前: めた (ID: x1KEgngG)
朝日が昇るとすぐに、ティアのいないカレイラ王国の王城フランネル城にて、大きな演説がはじまった。
国民全員参加の、とても大規模な行事である。
ゼノンバートが王城のテラス立つ。そばにドロテアも控えている。
ここはティアとハオチイが戦争の英雄と紹介されたテラスだ。
そこ立つと、人々の不安そうな顔を見て取れる。
きっと戦争をすると公言する演説だと思い込んでいるのだろう。
「皆の者、良く聞け!我が聖国カレイラは此度、和平協定の架け橋としてヴァイゼン帝国の皇子と将軍をカレイラに迎える。そしてすべての国民が皇子を認め、和平を結ぶ手立てを打つとき、我国と帝国は永遠の世界協定を結ぶと約束しよう—!!」
国民が一瞬どよめき、そして不安げながら歓声が上がった。
まただまされている?だが戦争じゃなくて良かった—!
国民を満足げに見つめた王は、ドロテアを振り返って頷いた。
正午。英雄を先頭に皇子と将軍が街へ足を踏み入れる。
他の人には見えないが、四人の精霊が辺りを漂い、不穏な考えを持つものがいないか探っていた。
ここまで来た和平協定締結運動が、また無駄になるのは避けたい。
だが皆遠目からこわごわとこちらを見ているだけで、暗殺者は一人もいなかった。
城に入ると、さっそく謁見の間につれてこられる。
すべて黄金で出来た目に毒なきらびやかな広間だ。天井には豪奢なシャンデリアがあるけれど、その精巧な彫刻も見えないほど高く吊り下げられている。
その間には、今は騎士団長や王族、財政管理人やら国を守る回す勤めの役職が全員呼ばれ、緊張した様子で皇子と将軍を見ている。
「良く来た、皇子そして将軍」
玉座に腰掛けたゼノンバートは二人を見つめ、そして英雄をねぎらった。
「ご苦労、英雄。和平への道となり、有益な事柄をこの国へ導いた。深く感謝しよう」
どうしたら良いかわからず、ティアは少し笑って頷いた。
王はティアからヴァイゼンから来たものに向き直り、厳かに言った。
「さて、この国に来たのは観光ではないはずだ。この国にとどまり、民との信頼を築き、和平への道へ尽力されよ。期待している」
「はい。必ず成し遂げてみせます」
謁見の間で、世界協定への契りが交わされた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
個人章 世界協定編終わり