二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

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ひぐらしのなく頃に 感
日時: 2009/12/21 13:05
名前: 瑠美可 ◆rbfwpZl7v6 (ID: 2zWb1M7c)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel3/index.php?mode=view&no=14440

こんにちわ! クリックありがとうございます!
元瑠留です(前はルル、その前はヒカリ)。消されるので、もう一度名前を変えました!
瑠美可(るみか)です!好きに呼んでくださいw
改めて応援よろしくお願いいたします!

ひぐらしのなく頃には、謎解き・不思議さ・楽しさがあり、ワクワクした作品ですよね! そんな感動を皆様に伝えられたらなぁと思います。後、知らない方も是非覗いていください。
描写を増やして、知らない方にも伝えられるように頑張っていきたいと思います。

後オリキャラで、鋼キャラもどきが一人出てきます。
名前も日本風にしていますが、性格はそのままです。
誰がどう見たってわかると思います^^;
まぜが大好きなので。時々ひぐらしの世界観ぶち壊しになりますが、ご愛敬と言うことで^^;

ちなみに作者は惨劇が苦手なので、ど〜も日常描写が多いです。はい。出来るだけさっさと進めるようにしたいです^^;

『私』

「私はダレ?」
そう問いかけても 返ってくるのは自分の声ばかり
全て終わらせたいのに
全て終わらぬまま

私はただ
幸せを望む 哀れな少女だから
願うことしかできない
でもどうか願わせて


私の声
私の温度
私の瞳
私の唇

全て忘れて欲しくない
でも思い出さないで欲しい

私の願い
私の幸せ
私の夢
私のキオク

霧のかかったままで良い
でも君の心に隠しておいて


どうかこの願いを叶えてください
私達はただ幸せになりたいだけなのです

どうかこの思いを罪と言わないでください
冷たい温もりを思い出したくはないのです


聞こえる
『私』を呼ぶ声
どうしようもないのに
涙が出る

ただ私達は
この闇を終わらせたいだけなのに

イメージです。海美様に考えていただきました。
改めて御礼を重ねて申し上げます

Page:1 2



Re: ひぐらしのなく頃に 感 ( No.2 )
日時: 2009/12/21 13:34
名前: ルミカ ◆rbfwpZl7v6 (ID: 2zWb1M7c)

防殺し編

彼は強くなりすぎた
だから地獄と堕ちていった

彼女はとてもやりすぎた
だから闇へと引きずり込まれていった

二人は当たり前のことをやっていたけれど
それは多くの人から反感を買うことだったのだ

Frederica Bernkastel

Re: ひぐらしのなく頃に 感 ( No.3 )
日時: 2009/12/21 13:36
名前: ルミカ ◆rbfwpZl7v6 (ID: 2zWb1M7c)

防殺し編 一話 見慣れぬ少女(圭一視点)

「ふぁあ〜・・・・・・」

午後の眩しい日差しの中、俺は大きな欠伸をした。
食後と言うのは非常に眠くなるものだ。
その上、午後の授業が非常に退屈だ言う二重苦難。
欠伸をしないほうがおかしいだろう。

「圭一く〜ん。大丈夫かな? かな?」

机に突っ伏している俺に声がかかった。
見上げると、セミロングボブの茶髪の少女−−竜宮 レナがいた。

「だ、大丈夫だ」

「ほ、本当?」

レナは非常に優しい性格で、女の子らしい。
こういう気配りにはグッとくるものがあるぜ。

「ああ。本当だ」

「よ、よかった〜」

レナは満面の笑みで微笑んでくれた。
その笑顔は天使、仏・・・どの素晴らしい表現にも値しない。
ただただ月のような穏やかな光で、俺を優しく照らす。

だが、俺の癒しの時間はあっけなく壊された。

「圭ちゃ〜ん? にやついてんの〜?」

「うげっ」

肩を思い切り叩かれた。
が、その力はあまりにも強く俺の顔面を机へと導いた。
額に鈍い衝撃が走る。

「み、魅音てめっ」

額をさすりながら振り向くと、そこには腰まである長い髪をポニーテールにした女、園崎 魅音がいた。

「けーちゃんが悪いんでしょ? ボーっとしてさ」

魅音の言葉で、俺は条件反射的に立ち上がる。
勢いよく立ちすぎたせいか、椅子が後ろでひっくり返った。

「何だと〜!?」

レナと違い、こいつはがさつだ。
女ではなく、男として生まれてくるべきはずの人間だったに違いない。

「魅音、レナ。俺はもう帰る!」

「「え!?」」

レナと魅音が揃って驚きの声を上げる。
自分で言っておいて何だが、今日はいつもよりも非常に腹立たしくなってくる。

「圭ちゃん部活は?」

「4人でやってろ」

部活と言うと、普通はバスケやら美術等の自分が好きな物を思い浮かべるだろう。
しかし俺の「部活」は一味もふた味も違う。

基本的には魅音が趣味で集めている「とらんぷ」とか言う物、海外物のカードゲームで遊んでいる。
ここまでなら「カードゲーム部」で通るかもしれない。

が、ここにはそのゲームの敗北者に「罰ゲーム」なるものをやらせる謎の決まりが存在する。
それが・・・うう。何というか非常にひどい。
罰ゲームは勝者の気分によって変わるが、代表的な物を一つあげておく。

・・・・・・コスプレ。アニメのキャラの格好をすると言う趣味レベルではなく、敗者にメイド服を着させるのだ。
地味にバリエーションも多く、敗者常連様の俺にとっては苦痛以外の何者でもない。
つか、男がメイド服を着て何がそんなに楽しいか?

「ってことで。じゃ」

俺は手早く下校の支度をすると、とっとと教室を出ていった。
背後で魅音がわぁわぁ何かを言っているが、そんなことは全く気にならない。
俺を怒らせた罰だ。

学校を飛び出た俺を、外の涼しい風が出迎えた。
この空気を吸うと、自分の住む場所が田舎だと実感させられる。

この町は「雛見沢」と言う。
辺り一面は緑の木が鮮やかに生える山に囲まれた、静かな村だ。
近代化する東京などと違い、古めかしい合掌造りの家が建ち並び、他にあるのは電柱と畑。
だが、その何もないところが雛見沢のいいところだ。

「さて・・・・・・これからどうすっかな」

断っておいて何だが、俺はやることが全くない。
普段は部活で時間を潰しているだけに、こういう時ほど暇なときはない。

「ん?」

さっきまで気づかなかったが、校門の前に、一人の女の子が立っていた。年は10歳くらいに見える。
赤みがかかった茶色の髪を、後ろですっきりとまとめ上げている、かわいらしい女の子だ。

「誰だ? あの子・・・・・・」

雛見沢は人口が少ない。
それゆえほとんどの人間は顔見知りだ。
さすがの俺も大抵の人間は覚えたつもりだが、あの女の子は見た覚えがなかった。

俺は好奇心から、その子に近づいてみる。
その子は誰かを待っているのか、じーっと木造校舎の学校をくいいるように見ている。

「よ」

「は、はい!」

俺が挨拶をすると、女の子は驚いて振り返った。
女の子の赤みがかかった茶色の瞳が、俺を見つめる。

「驚かせてごめんな。君、村の子か?」

「う〜ん。今はそうかしら」

曖昧な答えだ。旅行者なのか?

「俺、前原 圭一って言うんだ」

「あ、あなたが圭一お兄さん?」

どうやら女の子の方は、俺の名前を知っていたようだ。
やっぱり村の子みたいだな。

「俺の事知っているのか?」

「はい。あ、私は古手 那美。よろしくね」

古手と言う名字が、俺の耳に止まる。
部活仲間の「古手 梨花」が脳裏に浮かぶ。
ひょっとして梨花ちゃんの妹か? そう言えば、顔つきがどことなく似ている気が・・・・・・

「古手ってことは・・・・・・梨花ちゃんの妹か?」

すると那美ちゃんは、首を横に振った。

「いいえ。梨花は、私の従姉よ」

「今日は梨花ちゃんに、会いに来たのか?」

「ええ。京都から一人で来たの」

「き、京都!?」

京都と言えば、雛見沢からは結構遠いはず。
新幹線やら電車に乗り、さらにバスで30分はかかる。
俺よりも年下の那美ちゃんが、とても一人で来れるとはとても思えない。

「すごいな・・・・・・」

俺が素直に感嘆すると、那美ちゃんは不思議そうな顔をする。

「毎年のことよ?」

「ふーん・・・・・・じ」

そこまで言った俺は、言葉が出なくなった。
魅音とレナが、学校から出てきたのだ! あいつら部活やってるんじゃねえのかよ!?

「げ。魅音にレナっ!」

すぐさま回れ右をすると、俺は逃げるように学校を出る。
すると、その後を何故か那美ちゃんが追いかけてきた。

「な、那美ちゃん!」

「どこに行くの? 圭一お兄さん?」

子供らしい無邪気な笑顔。
何だか梨花ちゃんが目の前にいるようで怖い。

「どっかだ〜!」

今は二人から逃げることが最優先事項だ!
見つかったら何を言われるか、頭に多くの候補が浮かぶ。が、どれも恐ろしすぎる!

「圭一お兄さん、待ってよ!」

那美ちゃんは、華奢な見た目に似合わず足が速い。
俺が全速力で走る横を、涼しい顔をして走っている。

「まてるか〜!」

目の前に夕日が見え始めた。
山の木々を照らし出し、一面の影へ変えてしまう。
ああ、もうすぐ帰らないといけない時間か・・・・・・
「はぁ……はぁ……」

まだ心臓が激しく踊っている。
かなりのスピードで走った俺は、普段来ない雛見沢の外れへと来ていた。

辺りは一面の緑。ここは雛見沢をほんの少しだが見渡せる、小さな丘なのだ。
丘の向こうでは、夕日に染まる村の風景が見える。
オレンジに染まる田んぼ——そこでは穂の先に残る、先日の雨粒が光をうけてキラキラと輝いている。
そして合掌造りの家は、黒くなり、背後の鮮やかなオレンジとのコントラストがきれいだ。

もう見慣れた風景だが、いつ見ても美しい。
こんな風景、前は知らなかったからな。

「きれいね〜」

那美ちゃんが、感嘆の声を上げている。

「那美ちゃんも、この風景が好きなのか?」

「うん」

那美ちゃんは前を向き、丘の下に広がる風景に、いや雛見沢の彼方を見やるように景色を見つめ始める。
那美ちゃんの赤茶色の髪が、西よりの風に吹かれて右側になびく。

「あんまり見れないから、ね」

そう話す那美ちゃんの後姿は、どこか寂しそうに見えた。

「そっか……」

俺は言葉が思いつかなくて、無難な事を言ってしまう。ああ、ここで優しい言葉をかけられるナンパ好きな男だったらなぁ。

「ねぇ。圭一お兄さん?」

那美ちゃんが、前を向いたまま俺に声をかける。声のトーンがさっきより下がっていて、重大なことを話したい、と言う雰囲気だった。

「雛見沢はとてもいいところよ……それだけは覚えてて」

「んなの当たり前だろ」

那美ちゃんは何を言ってるんだ? 
それは当たり前すぎること、例えるなら1+1=2になるようなものだな。

俺の返事を聞いた那美ちゃんは、ようやくこっちを向いた。
そして花が咲くように笑った顔を見せてくれる。
だけど、どうしてか心の底から笑っているようには見えなくて。

「なら良かった。…そろそろ戻らないと、梨花に怒られちゃう」

「やべ! こんな時間かよ!」

時計は既に六時を回っている。
夏だからまだ日は長いが、そろそろ帰らないとお袋に怒られるッ!

「帰るぞ! 那美ちゃん!」

俺が急いで丘を下ると、那美ちゃんも後からついてきてくれる。

「急がないと怒られるのは、お兄さんも一緒ね」

「ナッ!」

子供だけど、さすが梨花ちゃんの従妹・・・古手の血をしっかりついでいるな、うん。

「う、うるさいぞ! 年上に向かって言うな!」

つい素で那美ちゃんを怒ってしまう。
だが、さすが古手の人間。那美ちゃんの返事は、クスクスとした笑い声だった。

「どっちが年上かしら〜?」

その言い方非常にムッとする! 

「んだとぉ〜〜〜〜〜〜!」

丘の雑草の中に、俺の怒りがこだまする。
陽光に染まる雑草は、怒りに燃える俺自身だ!

「まちやがれっ!」

「まちませ〜ん!」

那美ちゃんは身を翻すと、一気に丘を下っていく。
悔しいがさっき、俺が全力で走っていたのにあっさり追いついた。と言うことは、那美ちゃんのほうが足が速いと言うことを意味する。

むかつくが那美ちゃんは既に丘を下りきり、木々の間から彼女の白い手がちらほら見えている。
…俺の負け、らしい。

俺は追いかける気力もなくなり、丘の途中で寝転んだ。
俺を癒すかのように吹く涼しい風は、いつもよりも心地よく感じた。そして下に広がる草は、優しく体を包み込んでくれる。

「雛見沢はいいところ、か」

ふと那美ちゃんの言葉が気になった。
彼女は俺に何を言いたかったのか? 

上を見上げると夕日は山へ姿を隠すように沈み始め、俺の頭上には一番星が輝いていた。

「俺は雛見沢を嫌いになんか、ならなねえよ。つか、一番星の色が…」

一番星は赤に、黒を混ぜたような変な色で輝いていた。何だか不吉だな、と思い俺は空から目を背けてしまった。



晩のことだった。

「ねえ」
「はい?」

「今回は上手く行くの?」
「わからないのです」

「そ・・・」

この物のたちをまだ誰も知らない——

Re: ひぐらしのなく頃に 感 ( No.4 )
日時: 2009/12/21 13:39
名前: ルミカ ◆rbfwpZl7v6 (ID: 2zWb1M7c)

防殺し・2話 盛り上がり

「ただいま……」

俺は恐る恐る、家の扉を開く。
那美ちゃんと話し込んでいたせいですっかり、七時になってしまった。
家の門限なんてとっくに過ぎているから、お袋が怒るに違いない。

「母さん? …ラッキー! 留守か」

おかえり、と言う声が聞こえない。
つまりそれは、お袋が留守だと言うことを意味する。きっと親父の用で出かけていったんだな。

親父の職業は画家だ。売れてるかどうかは知らないが、これくらいの家を建てられるのだ。
そこそこの稼ぎはあるんだろう。
画家と言う職業ゆえ、急用で両親が出かけなるなんて、しょちゅうあること。

「よっと」

俺は靴をそろえると、部屋に足を踏み入れた。
お袋はさっきまでいたらしく、机の上に置かれたコーヒーはまだ湯気を立てていた。
コーヒーを飲みかけにして出かけるほど、忙しかったのか。

「ん? 何だこれ」

お袋のカップの横に、何やら新聞が置いてある。
俺の興味をそそったのは、その一部分に赤い丸で囲んである記事だった。

「ん? 日本芸術大賞」

囲んである記事の内容は、美術賞の受賞者の発表の記事だ。
白黒だが、きれいに描かれた絵。ああ、俺の絵心じゃとても無理だなと嘆きつつ、読み進める。

その横には、絵を書いた人物の名が書かれていた。
名前も知らないような人々ばかりだが、将来は親父のようにプロになるのかもな。

「えっと。大賞は……ってえええええええ!?」

記事の名を目にした俺は、思わず大声を上げてしまう。そこには、あの親父の名があったのだ!

「あの親父が大賞だと!? んなわけあるか! 審査員の目、おかしすぎるだろ!」

新聞紙を、叫ぶ代わりに地面に叩きつける。
何だか競馬に負けて馬券を破る親父のようだ。
しかし、そんなことをしても何かが変わるわけでもなく。

俺は何だかわからないまま、適当に夕食を済ませる。
料理苦手なため、カップヌードル。お袋が、スーパーで買いだめしてきたものだ。

「う、うまい」

口の中に広がる、ソースの甘酸っぱさ。
麺はかむたびにその風味は増し、口中を満たしていく。

「寂しいな」

カップヌードルを一人で食うと言うのは非常にむなしい。
ああ、わあわあ言っていた昼ごはんが懐かしい……

「ごちそうさま」

寂しいので俺自慢の早食いで、夕食は終了した。
だが、それは同時に暇が増えると言う事態も引き起こす。

「暇すぎるッ!」

俺は椅子に座ったまま、独り言をあげる。
返事もなくて退屈なので、俺はカレンダーへと目を向ける。

「そういえば明日は、村の祭りか」

一昨日魅音とレナに、誘われたのを思い出した。
今日喧嘩しちまったのに、大丈夫なのか?
そんな不安が俺の頭をよぎった。
目が眩しい。暗闇の世界に、強烈な光が浴びせられているよう。その眩しさに耐えられず、俺は目をゆっくりと開けた。

「・・・・・・もう朝なのか」

強烈な光は、カーテンから漏れてくる日光だった。いつのまにか眠ってしまったらしい。今日の祭りの事をずっと考えていたせいで眠れなかったのだ。

「う〜。魅音とレナに合わせる顔がねぇ・・・・・・」

布団の中から、手と足を出して大の字になる。全身を伸ばしていた方が、少しは気が紛れる気がしたからだ。
そんなことをしても意味がないので、とりあえず布団を出た。

カーテンを開くと、嫌みったらしい程快晴の空と、のんびりと流れていく雲。そしていつもなら俺が通っている道。

「要するに。祭りにいけってことか」

そんな神様のお告げが聞こえたような気がした、時。
ぴんぽ〜んと気が抜けるような機械音がした。

「圭一君、いらっしゃいますか〜!」

レナの声だ! 昨日喧嘩したってのに来てくれたのだ。その行為で俺の心は、何ともいえない暖かい感情に包まれていく。俺が悪かった! すまないレナ・・・・・・と、下に降りようとして・・・気づいた。

「寝過ごした〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」

洋服は寝間着のまま、髪はくしゃくしゃ。そして追い打ちをかけるのが、まだ朝ご飯を食べていないと言う事実。

お、落ち着け圭一! とりあえずはレナに謝るんだ!本当に転がり落ちそうになりながらも、俺は階段を下り切り、玄関へと立つ。

「レ、レナ!」

思いっきり扉を開けると、レナが申し訳なさそうな顔をして立っていた。

「け、圭一君。昨日はごめんね・・・レナがあんなこと言ったから帰っちゃったんだよね? だよね?」

お前のせいじゃなくて、魅音のせいだっ! と内心で思いつつも、俺も素直にわびを入れる。

「俺も悪かった。勝手に一人で帰って悪かったな」

すると、レナの顔がぱぁっと華やぐ。

「ほ、本当? 圭一君許してくれてよかったかな? かな」

って和んでいる場合じゃねえ!

「レナ、15分くらい待っててくれ!」

「え? 大丈夫だけど・・・」

「まだ朝ご飯食ってねぇんだ! すぐ食べるから!」

レナはわかったぁ〜とのんびりした口調で言った。

「先に魅ぃちゃんと行ってるね」

「すまない! 頼んだぞ!」

俺は扉を閉めると、まずは居間に駆け込んだ。早く食べられそうな物は・・・夕飯と同じカップ麺。・・・俺のむなしさの象徴だ。

早技でやかんに湯を入れ、沸騰させる。そして3分。かなりの早食いで食べ終わらせると、自分の部屋に戻った。

そして外出用の服を着用し、俺は大急ぎで玄関を出た。
自電車に乗って……よし! 待ち合わせ時間ギリギリセーフだ。

古手神社は、雛見沢唯一の神社だ。結構歴史もあるらしい。
フルっぽい長い石段を登れば、白いキツネの像——お稲荷さんと、足が三本ある鳥の像——ヤタガラス像が左と、右にそれぞれ配置されているのが見える。
そして頭上には、ところどころ朱色がはげている大鳥居。普通の神社によくある奴だ。

「っひゃ〜! 村人が多いなぁ」

狭い境内には、多くの屋台が並び、いつも以上に人がいる。ちょうどお祭りのような感じ…これも祭りだな。雛見沢は、狭いようでこんなにも人がいたのか。

「お〜い! 圭一く〜ん!」

そんな時、遠くからレナの声がした。振り向くと、魅音にレナ、そして那美ちゃんが手を振っていた。

「レナ、魅音、那美ちゃん!」

俺は手を振り返すと、3人の元に走った。

「魅音、あの昨日は……」

俺が少々遠慮がちに言うと、魅音はニィと笑い、俺の肩をたたいた。

「いてっ!」

いつもどおりに痛い。

「あはははは! おじさん、細かい事は気にしないから。今日は祭りを楽しもうよ?」

「そうよね。お祭りは楽しむものよ?」

子供の那美ちゃんに諭されるなんて、情けない。

「あれ? 那美ちゃん……」

レナと魅音はいつもの私服だが、那美ちゃんは違った。

桜色の下地に、大きな華がたくさん刺繍された振袖を身にまとっているのだ。
頭は魅音のようなポニーテールだが、頭には桜が多く咲いているかんざしがある。
そして、腰には金色の扇があるし、化粧だってしている。目の上辺りが、少し赤くなっている。

「その格好は?」

「あ、圭一お兄さんは「綿流し」を知らないの?」

ワタナガシ? わからない俺は素直に頷く。
するとレナと魅音が答えてくれた。

「お布団の綿を、川に流して穢れを祓うお祭りなの」

「その時にさ、布団を鍬で咲くんだけど……それを奉納演舞って言うわけ。奉納演舞は、古手の巫女さんがやるんだ」

古手…じゃあ那美ちゃんと梨花ちゃん?

「那美ちゃんと梨花ちゃんか?」

すると那美ちゃんは横に首を振った。

「鍬の大仕事は、梨花の役目なの。私の仕事は、お祭り中に神様に捧げる舞を踊って奉納すること」

よく神社で、舞を踊ってから儀式が始まる祭りってあるな。綿流しもその部類に入るらしい。
ってか梨花ちゃんだけで十分な気がするが。

「でも那美ちゃん、遊んでいて大丈夫なのか?」

「お仕事はもっと後だから大丈夫よ」

那美ちゃんは、笑顔で答える。本当にかわいいなぁ。
と、レナの顔つきが変わった。獲物を狙う猫のような目、これは……!

「はぅ〜。着物那美ちゃんかぁいいよぉ」

これはレナの「かぁいいモード」だ! レナはかわいいものを見つけると、何でも持ち帰ろうとする。かわいいものは、レナの価値観によるのでいつこうなるかわからない。

「那美ちゃん、お持ちかぇり〜〜〜〜〜〜!」

来た! 猪のごとく那美ちゃんに突進した。
が、那美ちゃんはそれをあっさり横にかわした。どんだけ強いんだよ!

「お持ち帰りは、お断りよ〜」

ニパー☆って声が聞こえてきそうだ。レナ相手にここまで冷静になれるとは!

 それから、嫌みったらしい高笑いがどこからか聞こえてきた。……あいつだ。

「お〜ほっほほ! 圭一様、那美にみとれておりますの!」

 俺のはらわたが煮えくり返る。本当に沸騰寸前の鍋のようだ。
 俺に喧嘩を売ってきたこいつの名は、北条 沙都子(ほうじょう さとこ)。俺の部活の仲間の一人だ。
首元で刈りそろえられた金の短髪が、こいつの性格をよく現している。活発な元気な女の子だ。これだけではない。しいて言うなら、その生意気そうな漕げたパンの色の瞳もそうだ。
年上に敬語も使わずタメ口を聞く、非常にけしからんやつだ。しかも生意気で……! 思春期だからなのかもしれない。が、それは俺も同じ。
俺は少なくともこいつと違って、年上に反抗する気はない。

「沙都子、てめ〜〜〜〜!」

 俺は怒りをこめて、沙都子の額にデコピンを食らわせてやった。非常に効き目が合ったらしい。
沙都子の表情がくしゃくしゃになり、ついには赤ん坊のように泣き始めやがった。

「ふえええ! 圭一さんがいじめますわぁ!」

 泣かれると、さすがの俺も罪悪感を覚える。が、元々悪いのは、あくまでこいつだ。俺の落ち度は沙都子を9として、おれは1程度であろう。
 でもあいつはまだ泣き続ける。わがままを言って、親に怒られた子供のようだ。ようやく落ち着いたらしく沙都子は、Tシャツの袖で目をごしごしした。すると、沙都子の頭にそっと小さな手が置かれた。

「沙都子、いたいのいたいのとんでいけ〜なのですよ」

 女の子は、沙都子の頭を優しくなでる。つか、沙都子が痛がっているのはそこじゃないんだけど。
撫でられた沙都子は、色々と俺の不満を漏らしていた。本当に腹が立つやつだ。
 沙都子を撫でている女の子は、古手 梨花(ふるで りか)。今そこにいる那美ちゃんの従姉だ。結構小柄で、外見はお人形さんのようだ。腰まで伸ばされた青い髪は、整えられて美しい。そしてビー玉のような青い瞳は人形そのもの。沙都子と違い、清楚でお淑やかな模範的女の子だ、と俺は思っている。

「那美〜。見つからないから、探しちゃったのですよ。にぱ〜☆」

 梨花ちゃんは、微笑みながら言った。

「あ、ごめんなさい梨花」

 那美ちゃんは慌てて頭を下げた。
 二人とも従姉妹だけあり、どことなく似ている気がする。梨花ちゃんがにぱ〜と笑う表情と、那美ちゃんの慌てた表情——どっちもぐっとくるものがある。
将来世の中に出たときが非常に心配になってくる。

「ところで圭一」
 
 ふいに梨花ちゃんに呼ばれた。俺はバラ色の妄想をしていた。名残惜しいが、後回しにすることとした。

「何だ?」

「今日の衣装……似合っていますですか?」

「似合っているぜ」

 梨花ちゃんの衣装は巫女さんだ。赤いはかまに、白い小袖。典型的な巫女さんの衣装だな。那美ちゃんみたいにかんざしでもしたら、もっと萌要素が……

「それさ、うちのばっちゃんの手製なんだよ」

 魅音のば〜さんの手製だと!? 手製にしては出来過ぎているくらいだ。縫い目もきれいだし、袖のほつれもない。市販されていていい位の出来だろう。

「魅音のば〜さんすげぇなあ」

「ついでに言うと、那美ちゃんのもさ」

 魅音が那美ちゃんを指差しながら言った。俺は改めて那美ちゃんの着物をじっと見つめる。
すると、那美ちゃんは頬を紅潮させた。俺に見られるのが、どうやらとても恥ずかしいらしい。見ているのは、着物のほうなのだが。くるり、と俺に対して背を向けてしまう。扇につけられている鈴が、ちり〜んと静かに音を立てた。

「け、圭一お兄さん。じろじろ見つめないでください! 頭の中でバラ色の妄想をしているのはわかっているけど、それはぶっちゃけるとかなり不潔に見えるわ〜」

 何かが刺さった。痛みは感じない。
ガラ、と崩れる音がする。何かといえば、わからない。そんな音がBGMみたいに聞こえた気がした。
足に感覚がなくなる……と言うより、地面に足をつけたかった。この場に立ちたくなかったのだ。
不潔、不潔、不潔。その単語がこだまのように、脳内で再生されている。俺って生きてていいのかな……すごい脱力感だ。それからしばらくして、那美ちゃんと梨花ちゃんが、神社の方に戻っていった。
 これからすぐ奉納演舞だと二人は言っていた。村の人たちも時間を知っているらしい。
屋台で楽しんでいた人たちも、ぞくぞくと神社の社の方へ移動を始めている。
「梨花ちゃまと那美ちゃまの演技楽しみだな」、「早く見たいの」、「着物の二人おもちかえり〜!」と言う話しが聞こえてきた。言って置くが最後のはレナだ。那美ちゃんをお持ち帰りすることを、まだ諦めていないらしい。
こーいう根性はすごいやつだ。
ま、いいところは他にもいっぱいあるけどな。

「ほら、ここからならよく見えましてよ?」

 俺たちが来ているのは、演舞が行われる場所の真ん前。社の正面で、いつもなら数段登った階段の上に賽銭箱が置かれている場所だ。
今日賽銭箱は撤去され、かわりに広い空間が生まれていた。ここで演舞を行うらしい。祭壇の中央には火がたかれ、真昼のように明るい。その近くにしめ縄で縛られた、布団の山がきれいに積み重なっている。
そして空間の両端には大きな太鼓。
祭りでよく見る、横から人が叩くタイプだ。結構年代物らしくて、白い叩く部分が薄汚れている。

「っひゃ〜。それにしてもすげー人だな」

 俺たちの周りは人だらけだ。ぎゅうぎゅう詰めの電車みたいで、非常に暑苦しい。

「そりゃあ村の半分以上は来ているからね〜」

 魅音が涼しい顔で言った。雛見沢は、人が少ないと思っていたが結構な人がいるな、と改めて感じさせられた。
 ちょっと背伸びをすると、人々の頭が神社の鳥居あたりまで続いている。早く来て、正解だったようだ。

 ドンドン! ふいに太鼓のでかい音が聞こえた。同時に会場がシ〜ンとなる。
 びっくりして正面を見やると、着物姿の那美ちゃんが祭壇の上に現れていた。

那美ちゃんはぺこり、とかわいらしくお辞儀をしてみせた。
 表情は緊張しているのかどこか堅い。それでもまっすぐ伸ばされた背筋からは、何とも言えないモノを感じさせた。言葉にしづらいが、周りを圧倒させるような気迫みたいなものだ。プロの気迫って言うやつか。
 そしてすぐに腰に下げていた扇を開いた。下に付けられた鈴が心地よい音を奏でた。
 扇は神々しい金色だ。中央に翼を広げた白い鳥が描かれ、その周りに松やら亀がいる。何だか正月の絵柄みたいだな。

「那美ちゃまの舞ですじゃ」

 周りの住民たちがざわざわと騒ぎ始めた。どうやらそろそろらしい。
 那美ちゃんは扇を持ったまま、祭壇上で動き始めた。

 言葉に表現できない舞だった。ダンスで言うステップは、どれも美しい。彼女が動くたびに盛大な拍手が起こる。もちろんプロに比べたらまだまだだ。でもそれは人を惹きつける不思議な力を持ったものらしい。

 やがて那美ちゃんの動きが止まった。扇をたたみ、腰に差し直すと祭壇の袖から降りて行く。彼女を目で追うと、その先には巫女役の梨花ちゃんがいた。
 梨花ちゃんと合流すると、梨花ちゃんが先頭にたった。那美ちゃんは頭を下げながら、その後ろをついていく。

「あの梨花ちゃんが持っているやつは何だ?」
「祭事用の鍬ですわ。巫女さんしか触れない神聖な道具らしいですわ」

 梨花ちゃんが持つ鍬は、かなりデカイ。鍬の後ろ部分はしめ縄が蝶結びに結ばれ、大きな鈴がついている。那美ちゃんの扇と言いこの町は鈴を好むようだ。

 那美ちゃんが祝詞を上げる。法事とかと一緒で、意味不明な言葉の羅列。わかる人にとっては、有り難いんだろうけどな。
 梨花ちゃんは鍬を持ち、振り回す。鈴が静寂な空気をかき乱した。続いて布団をつっつき始めた。

「今度は何だ? 布団たたきか?」
「あれはね。人間に代わって冬の病魔を吸い取ったお布団を清めているの」

 梨花ちゃんの顔は汗だくだ。相当あの鍬は思いらしい。振り回すたびに、重さに負けているのか身体がふらついている。だが那美ちゃんは何もしない。見ているだけだ。これはあくまで梨花ちゃんの役目らしい。

 つっついた布団に鍬が刺さる。梨花ちゃんは、鍬を力一杯引き寄せる。中から白い綿が、引きづられてきた。同時に太鼓がドン!と終演の合図をする。

 那美ちゃんと梨花ちゃんは黙礼をし、二人で手を握り合った。ゆっくりと祭壇を降りていく。

Re: ひぐらしのなく頃に 感 ( No.5 )
日時: 2009/12/21 13:41
名前: ルミカ ◆rbfwpZl7v6 (ID: 2zWb1M7c)

その後、祭壇の上に村の人が登った。 布団の中から綿を取り出しそれを器用に丸める。

「圭一さん! 早くお並びくださいませ!」

 沙都子が後ろからつついてきた。前を見ると祭壇の前に列ができ始めている。村の人の様子を見ていると、丸めた綿をもらっているようだ。
 俺も慌てて列に並ぶ。もらった綿はマシュマロ位の大きさでとても小さい。こんなのをどうするんだろうな? 俺は近くにいたレナに尋ねた。

「あ。圭一君は初めてだったね。じゃあ〜レナが教えてあげる」

 こっちに来て! とレナはどこかへ歩き始めた。村の人もレナと同じ方向に進んでいる。どうやらみんなでやる大イベントのようだ。俺は期待を膨らませながら、レナの後をゆっくりと追いかけた。



 村の人がやってきたのは、町外れの沢だった。辺りは暗く、空の上では満点の星たちがゆっくりと光っていた。明かりは星明りと、村の人が持っているちょうちんの灯りだ。古臭いが淡い光で、心を和ませる。

「いい? 圭一君」

 レナから祭りのやり方を教わった。まず綿を持ち、身体中を触る。左腕、右腕、左足、右足……と。レナ曰く身体の穢れを綿に吸わせるらしい。

「次に心の中で「オヤシロ様ありがとう」って三回唱えるの。唱えたら川に流してね」
「オヤシロ様って何だ?」
「雛見沢の守り神なの」

 雛見沢固有の神様か。キリスト教で言うキリスト、イスラム教で言うアッラーみたいなものだな。
神様は信じないが俺もここにいるからには、その神様に世話になるんだな。

 オヤシロ様ありがとう、オヤシロ様ありがとう、オヤシロ様ありがとう。……よし。終わりだ。
 俺は川に歩み寄った。川の流れは速くない。水の色は驚くほど澄んでいて透明だ。底の石たちが見える。今は夜だから黒いが、昼に来たらさぞきれいだろう。

 そして静かな川の中に綿を放した。綿はゆっくりと俺から離れて行き、闇の中へと吸い込まれるように小さくなっていく。川には綿がたくさん浮いている。川の中に白い花が咲いたみたいだ。綿花は徐々に暗闇へ流れていき、ついにその姿は見えなくなってしまった。

 こうして綿流しは終わった。何だか俺もようやく村の人間として認められたような気がしてならない。

 沢から戻るとき、那美ちゃんに出会った。化粧はもう落としているが、格好はピンク色の着物のままだ。

「あ、圭一お兄さん!」

 那美ちゃんは俺を見つけると、両手を思いっきり振ってきた。本当に子供っぽいな、と思いつつ、俺は静かに手を振り返す。那美ちゃんが俺の方に駆け寄った。

「那美ちゃん、舞上手だったぞ」

 俺は率直な感想を述べた。だけど那美ちゃんは、残念そうに肩をすくめてしまう。

「いいえ。何回か失敗した部分があるのよ……でも」

 そこで初めて那美ちゃんは笑ってくれた。

「村の人たちが喜んでくれたみたいだから……とても嬉しいわ」

「そっか。那美ちゃんは頑張っていたぞ」

 俺は那美ちゃんの頭を撫でる。那美ちゃんがえへへ〜と照れ交じりに頬を染めた。そこへレナたちがやってきて、えんやえんやの大騒ぎになり始めた。

 こうして夜は更けていく。雛見沢に来てよかったな、と思える一日だった。来年はどんな綿流しになるのだろうか? 


 




 だけど安全だと思っていた城が実は砂で。
少しづつだが、崩れ始めていたことに俺はまだ気づいていなかった——

この3日間は特に何もなかった。いや逆に言えば、今日だ。日常が狂い始めたのは。

 朝のことだった。いきなりインター・ホンが鳴り響いた。レナが来るにしては早すぎる時間。誰だろう? と俺は疑問を思いつつ、扉を開けた。

「こんにわ〜。前原さんですかぁ?」

 玄関に立っていたのは小太りの中年の親父。白髪混じりの髪から察するに50代くらいか。首元で綺麗に刈りそろえられている。
 顔は笑っているが、信用してはダメだ……と何となく感じる。

「そうですけど」

 俺は仏頂面で答えた。すると小太り男はさらに顔をニヤつかせた。

「そう無愛想な顔しないで下さいよ。私興宮(おきのみや)署の刑事。大石 蔵人(おおいし くらうど)と申します」

 男は黒い手帳を見せながら言った。花が金で刻印され『警察庁』と金の字で刻まれている。どうやら警察手帳のようだな。けーさつが何のようなのやら。

「で? 俺に何のようですか?」
「実はですね〜。3日前の夜、この近くで殺人事件が起こったんですよ」

 な…! こんな辺鄙な村で!?

「被害者は富竹さんと鷹野さん。ご存知ありませんか?」

 まったく知らない名前だ。俺は首を横に振る。大石さんは残念そうな顔をした。

「そうですかぁ〜。まあこれはついでのような物でして。本題はここからです」

 途端大石さんの声の調子が下がり始めた。辺りを伺う様にキョロキョロし始めた。

「何しているんですか?」

 俺が呆れながら尋ねると、大石さんは真剣な表情をした。そしてささやく様な声で

「前原さん。あなたのご両親が亡くなられました」

 とあまりにもひどすぎる現実を知らせた。

「え?」

 俺は一瞬思考がとぎれた。え? 両親が亡くなった? おいおい。悪い冗談はよしてくれよ・・・・・・と思いつつ俺は笑い飛ばそうとした。

「大石さん。悪い冗談は止めて下さいよ。いくら富竹さんと鷹野さんが死んだからって、俺の両親を殺さないで下さいよ」

「残念ですが・・・・・・」

 大石さんは首を振る。

「これは現実です。あなたのご両親は2日前に亡くなられたのですよ」

 認めたくなかった。いや認められるだろうか? 綿流しの前の晩に会ったときは元気だった。死ぬ理由が見つからない。
 俺は唇をかむ。心の泉から溢れてくる思いを、今だけ噛み殺したいからだ。今やるべきことをやるために。

「大石さん。親父とお袋はどうして・・・・・・」
「事故ですよ」

 やっぱり。死ぬ理由ったらそれくらいしか思い当たらなかったからな。

「雛見沢近くでガード・レールを突き破って、崖から転落してしまったようです」

 その時大石さんは後ろを見て一瞬固まった。そして

「お邪魔しますよ」

 と言い、俺を家の中に押し込みながら無理矢理入ってきた。急に何するんですか! と俺が抗議する。が、途中でその声は遮られてしまう。大石さんの手が俺の口を覆ったからだ。

「ひゃにするんてすか」

 口がモゴモゴ動く。が、日本語になっていない。

「前原さん、静かにしてください」

 大石さんが声を潜めて言った。何事かと思い、外の音に全神経を集中させた。鳥のさえずりが美しく聞こえてくる。そして・・・・・・

「けーいちく〜ん!」

 レナの明るい声。俺を呼ぶ声。もう学校に行かなければならない時間のようだ。
 その声が聞こえた後、俺の口はようやく解放された。かなり息苦しかった・・・俺は一回深呼吸をした。

「前原さん。学校には行かれますか?」

 変な質問だなと思いつつ俺は答える。

「大石さんの話を聞きたいですから。今日は休みます」

 本当は、学校に行けないのは『死』と言う大きなショックが理由だ。さすがの俺でも平静を装うことはできない。多分レナたちに迷惑をかけてしまうだろう。

「そうですか。では竜宮さんにはご両親が亡くなったことを話さないで下さいね」

 この大石さんは、どこまでもおかしい人間のようだ。それとも友達を悲しませないようにする心遣いか? 疑問を持ちながらも、俺は玄関の扉を開いた。

「レナ」

「圭一君! あれ、今日すっごく顔色悪いよ?」

 レナは心配そうに俺の顔を覗き込んだ。

「今朝から頭痛がひどいんだ。あたたた・・・・・・」

 両親が死んだことは言えない。だから風邪だと嘘をついた。それっぽく見えるように頭を押さえても見せた。

「だ、大丈夫!?」

 レナがあたふたする。早くお医者さんにと言ったり、薬ないかな!? と自分の鞄を探り始めたりした。でも俺は片手を前に出してそれを制する。

「一日寝れば大丈夫だ」
「じゃあ、学校はお休みかな? かな?」
「すまん・・・・・・」

 俯き俺は申し訳なそうに言う。するとレナは両手を振り

「大丈夫だよ。圭一君も早く元気になってね」

 と花が咲いたような笑みで声をかけてくれた。

「ああ。ごめんな」

 俺は家に戻ろうとレナに背を向ける。その時だった。背筋に寒気がした。虫がよじ登ってくるような嫌な感覚。 
 振り向くとレナがまだこっちを見ていた。でも様子が何だか変だ。氷のように冷たい眼光を眼に宿し、ニタァと笑う。いつものレナじゃない、と俺は本能で察知する。

「れ、レナ」
 
 俺は必死に声を振り絞った。怖くて、足が震えている。でも逃げられない。圧倒的な威圧感が俺を掴んで離さないからだ。逃げたら殺される・・・・・・そんな予感がしてならない。

「ねえ圭一君」

 『レナ』が食い入るように俺を見つめる。

「朝、誰か来なかったかな? かな?」

 俺はぎょっとする。それは紛れもない事実だからだ。

「き、来てねぇよ」

 レナから、いや『レナ』から目をそらす。しかし『レナ』は俺の前に回り込んでくる。顔を近づけてきた。吐息が顔にかかる。来るな! 来るな! と思いながら俺はますます凍り付く。近づく唇。ようやく鼻の前で止まった。

「隠し事はよくないよ?」
「!」

 こいつはやっぱり全部知っている。大石さんのこと、両親の死のことを・・・・・・。
 そう短く言い放つと、『レナ』は顔を遠ざけた。そして

「じゃあ、お大事にね」

 と優しく言った。レナだ。今喋ったのはレナだった。
 俺に背を向けると、何事もなかったかのように学校へ続く道を歩いていく。その後ろ姿を見つめながら、俺は呆然とするしかなかった。

俺はレナの遠くなる背中を見送りながら、今のことについて考えていた。
 あれはいったい誰だったんだ? 今思い出すだけでもぞっとする。鷹のように鋭い瞳、そして俺を踏み潰そうとした大きな気配、それらは俺のすべてを知っている。だけどそいつはさっき消えてしまった。元々イナカッタかのように、だ。まさに豹変というやつ。
あいつは、あいつは…・・・

「もう一人の『レナ』っ……」

 レナは間違いなく二重人格だ。あのかわいいレナの他にもう一人、あの『レナ』がいる。あいつは俺のすべてをお見通し、というわけだ。でもなぜだ? 予知能力者でもないレナがなぜ大石さんのことを知っているんだ。
 …・・・だめだ。考えるほどに頭の中では糸がこんがらがる。冷たい糸、恐ろしい糸、それらが複雑に絡み合いとくのが難しくなった毛糸だまのようになってしまっている。
 そうだ前原圭一、クールになれ。今はレナなんかより、両親の死のなぞを解くのが優先じゃないか。俺は、大慌てで家の中に戻った。



 家に入ると、どこからかいい香りが鼻に流れ込んできた。コーヒーの香りだ。どうやらリビングから流れ込んできているらしい。
 リビングでは大石さんが食卓に座りながらコーヒーを飲んでいた。まだ入れたばかりらしい。コーヒーからは真っ白な湯気が立っていて、心地よい香りもする。かなりうまいんだろうな。

「いやあ、すいませんね。前原さん」

 大石さんは笑いながらコーヒーのカップを机に置いた。俺は仕方がないと呆れた表情を見せつつ、大石さんの目の前の席に座り、話を切り出す。

「それで事故の原因は?」
「ところで前原さん」

 大石さんは急に椅子から立ち上がり、窓の近くに歩み寄った。そして閉まっていたカーテンを開ける。日の柔らかな光が差し込み、緑の田んぼが見えてくる。その風景に目をやりながら、独り言のように言った。

「祟りって信じますか?」
「信じていません」

 俺は即答する。今は昭和……飢饉や天災を恐れて祈るような大昔の時代じゃない。

「本当に? ならよかったです。さすが都会育ちですね〜」
「だったらなんですか」
「ならいいんです。祟りを信じないかたのご協力が必要だったんですよ。いいですか……」

 後になって俺はこの話を聞いたことを後悔した。雛見沢に存在する過去、そして綿流しで出会ったオヤシロ様。この二つが結び合わさったとき、砂の城の崩落は加速を増していくことになるのだから

Re: ひぐらしのなく頃に 感 ( No.6 )
日時: 2009/12/21 13:42
名前: ルミカ ◆rbfwpZl7v6 (ID: 2zWb1M7c)

「実はですね。この雛見沢には『オヤシロ様の祟り』があるんですよ」
「祟り?」
「そうです」

 大石さんは外の風景を見るのを止めた。席に戻り、残っていたコーヒーを半分ほど飲み干す。そしていたずらなのかコーヒーが入ったカップを少し揺すりはじめてしまう。

「まず今から4年ほどまえの綿流しの晩。ダムの工事現場の監督が殺され、バラバラにされた事件があったんです」

 雛見沢は4年前ある事件があった。”雛見沢ダム建造計画”——ようはこの町をダムの底に沈めようとしたって話だ。けど村の人たちは必死に戦い、最終的には計画そのものを取り消させた。雛見沢の完全勝利。ただそれだけだと思っていたが…・・・まさか殺人事件があったなんて。

「そしてここからが面白いんですよ。その翌年の綿流しの日ダム誘致派の村人夫婦が旅行先で崖下の濁流に転落して死亡。奥さんの遺体は行方不明」

 まさか二年連続なんて!? 俺は言葉を失った。だが大石さんは一気に畳み込んでくる。

「その翌年の綿流しの晩ダム反対運動に消極的だった古手神社の神主が、原因不明の奇病で急死し、奥さんはその晩のうちに入水自殺。さらにその翌年やはり綿流しの晩、近所の主婦が撲殺体で発見され、その家に同居していた少年が行方不明になりました」

「綿流しの晩に人が連続して・・・・・・」

 まさか俺の両親がこの祟りにあったって言うんじゃ?

「今年はどうなんですか?」
「今までに共通しているのは、一人が殺され一人が行方不明になる。今年は四人が殺され、四人行方不明になるんでしょうな」

 どうやら殺される人間と、行方不明になる人間の数は同じらしい。でも、と大石さんは続ける。

「今年はまだ誰も行方不明になっていませんから。大丈夫ですよ。何かあったらここに連絡してください。いいですね?」



 夕日が森の木々を染めていた。いつもなら緑の木は夕日でうっすらとオレンジ色に染まり、他の木々に黒い影を落としている。
 俺は大石さんに聞いた、両親の事故現場に来ている。左手はうっすらとしげる森、右手はガードレールが道に沿って引かれ、その下では小川が流れている。昨日雨が降ったせいか川は茶色に濁り、落ち葉や枝を運んでいる。流れもいつもより速い。

「ここで・・・・・・」

 事故現場はすぐにわかった。まず道路にチョークで数字や円が書かれていた。そして何より白いガードレールの一つが、前方に大きく歪み途中で切れてなくなっていた。
 きっとここから突っ込み、川下に落ちたのだろう。

「親父、お袋」

 俺は二人を呼びながら、切れたガードレールの近くに自転車を止める。そして前かごから花束を取り出した。花束と言っても家に生えていた花を、ただまとめただけ。だから色も、茎の長さもバラバラで、お世辞にも立派なものではない。
 あいにく雛見沢の花屋は学校に近い。そこに行ったら、部活メンバーに会う可能性が高い。従ってこうして手作りで作るしかなかったのだ。

「ほら」

 俺は川に向かって花束を放した。やがてバシャーンと水に落ちる音がし、水滴がキラキラと光を反射して輝く。数枚の花弁が散るのが見えた。茶色い土の中に何だか花が咲いたようだ。
 花束は小川の流れに乗る。葉や枝に混じり、ゆっくりゆっくり・・・・・・俺の目の前から遠ざかっていく。願いを乗せ、祈りを乗せ。
 俺は届け、と両手を組んで心から祈った。

「!?」

 パキン、パキン!
 急に枝を踏む音が聞こえた。左手の森の方からだ。最初は小さかったが、その音はどんどん大きくなって行く。
 びっくりして振り返ると、そこには那美ちゃんがいた。何でこんな辺鄙な場所にいるんだ・・・・・・?

「こんにちわ! 圭一お兄さん」

 今日の那美ちゃんは白いTシャツに、茶色の上着。そして上着と同じ色の短パンをはいている。何をしていたのか、ひざ小僧は擦り傷だらけで赤くなっている。

「那美ちゃんこそ何やってんだよ!?」
「これこれ!」
 
 那美ちゃんは手に持っていたものを差し出してきた。そこには植物の茎のようなものが数本握られている。料理にでも使うのだろうか?

「これね『ヒナミサワダケ』って言う、この村独特の野菜なのよ。今日私がお料理当番だから、これを取りに行っていたの。かなり山奥にあるから、朝に出かけたけど、もう夕方になっちゃった」
「那美ちゃん、学校には行かなくていいのか?」

 すると那美ちゃんは苦笑いをした。その顔が少々寂しそうに見えるのは気のせいだろうか。

「家が家でね。学校には行かなくていいように、勉強は教え込まれているの。もう英語だって読めるのよ!」

 かわいくVサインをしてみせる。けど学校に行かないのはどれだけ寂しいことだろうか。きっと本当はもっと同い年の友達と遊びたいはずだ。

「ねえ圭一お兄さん」
 
 赤茶色の瞳が俺をじっと見つめる。そして……

〜つづく〜
惨劇は次回から! ナガカッタデスヨ


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