二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
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- 【dance;wits:the:DEVIL 】
- 日時: 2010/07/02 15:50
- 名前: EN (ID: tHinR.B0)
- 参照: http://id46.fm-p.jp/209/satorusora/
ドラゴンボールとDevilMayCryのコラボ小説書いてみました。
戦闘重視でがんばります。
※注意※
此方の作品には女性向け・暴力表現が含まれています。
作品に登場するキャラクターの性格はドSが基本装備となっています。
- Re: 【dance;wits:the:DEVIL 】 ( No.15 )
- 日時: 2010/08/04 22:07
- 名前: EN (ID: P3xeYQNF)
ズゥゥン、と揺れる地響きに悟空は脚を止めそうになった。
呼吸も落ち着き力も取り戻して、長く続く暗い細道に途端に不安が過った。
走りを緩めて後ろを振り返れば、闇を纏う冷たい風が来た道から流れてきて息を飲む。
『悟空』
先頭を走っていたケルベロスが悟空を呼んだ。
先も後ろも光が見えない細道に、ケルベロスの瞳が灯っている。
「ケル…」
『先を走ろう。必ず合流できる』
悟飯とダンテの気が探れない不安もあるが、立ち尽くす訳にもいかず悟空は走り出す。
それから数分ほど曲がり角もない真っ直ぐの細道を走っていれば、ふいに細やかな薄明かりが見えてきた。
詰まった冷たい空気が開放されていくように、細道から広間へとケルベロスと悟空が飛び出す。
ジャケットの着崩れをなおしながら、悟空は辿り着いた広場を見渡した。
「なんだ、此処…」
息を吐けば、声が響くのではなかろうかと思うほどの広さだった。
綺麗に敷き詰められた長い石床を挟み込む、左右に立てられた高い石柱は威圧感があった。
ケルベロスに視線を送り、駆け足で緩い階段を上れば円形に造られた土台に辿り着いた。
ビル郡の裏路地から出てきたにも関わらず、薄暗い灰色の景色に赤い月光だけが降り注がれ、広い円形の土台を取り囲んだ誰も居ない寂しげな観覧席からは、今にも闇から這うような呻き声が響いてきそうだ。
其処はまるで、神話に出てくるコロッセオだった。
小さく足音を鳴らせて階段を昇り、武舞台へと悟空は足を踏み込めば、後ろから警戒しつつ着いてきたケルベロスが毛を逆立たせ冷気を発生させた。
何かが潜む不穏な空気は、悟空もとっくに気付いている。
だが悟空は歩みを止めなかった。
『悟空、それ以上行くと危険だ。2人が来るのを…』
ケルベロスが注意を促しても、悟空は聞いてはくれなかった。
歩みは止まらず不穏な風は強くなり始め、悟空の髪を強く乱してくる。
悟空は不思議と高揚感が沸くのを感じていた。
不気味な寒気を感じはしたけれど、恐怖心は欠片も無かった。
ドクドクと心臓が強く脈打ち、熱くなった血流が興奮をもたらす。
身体中に力が入り、神経が研ぎ澄まされる感覚はまるで、
「なぁケル、わくわくしねぇか?」
未知なる存在に己の力を誇示せよと、心が騒いでいる。
戦えと、暴れろ、と訴えてくる。
無邪気な横顔を見上げ、もはや忠告に聞く耳を持たないとケルベロスは諦めたように頭を振ると、悟空の隣に並ぶ。
「お、一緒に戦ってくれるのか?」
『ダンテに頼まれたからな』
ふい、と眼を逸らすケルベロスに悟空は微笑んで頼もしい番犬の頭を撫でると、途端に視線を鋭く変えて前方を見据える。
埃を巻き上げていた不気味な風は止んだ。
その変わりに現れたのは、小さな小さな生き物だった。
黄土色の毛のない肌に、酷く膨張した染みのように黒い手足。
肢体は猿人類ともいえる哺乳類に近いのに、背骨は爬虫類に近く骨が浮かび上がっている。
悟空が思わず呻いたのは、吐き気を催すほどの腐敗臭だった。
痣だと思っていた肌はよくよく見れば腐れ爛れており、傷口らしき箇所からは膿が滴り、垂れた膿は床に弾いた途端、酸化の音を上げ床を溶解させた。
その酸化して浮遊した煙でさえも猛毒なのか、冷えた空気が陽炎のように揺れた。
そしてトドメと言わんばかりに、その腐敗した悪魔としか言いようがないソレは、不気味な仮面と同じくらい不愉快な哄笑を上げれば、体を膨張させた。
1mにも満たなかった体は、濡れた音を立てて膨張し、悟空の身長を越え、全長5mに変化した悪魔は、仮面から除く瞳で悟空とケルベロスを見て笑った。
開いた口が塞がらないとは正にこの事だ。
あまりの腐敗臭に悟空は後退しかけて踏み止まる。
ケルベロスに視線をやれば、『だから言ったのだ…』という視線とかちあった。
「はは、まいったな…」
別にこうなったことを後悔している訳ではないが、無意識に出てしまった乾いた笑いは直ぐに、音もなく頭上に振り下ろしてきた冷徹な打撃に消されてしまった。
飛び掛かってきたマリオネットの勢いなど無視して、悟飯の靴底が胸板を叩きそのまま地面へと落とす。粉砕されることも何ら恐れないマリオネットが踏みつけてくる悟飯の足を掴めば、悟飯は表情も変えずそのマリオネットの頭を掴むと軋む音を響かせてむしり取った。
木材で造られている操り人形がモチーフであるのに、妙にリアルで艶かしい脊髄が頭を引きずり出した為に一緒に出てきた。血という体液が出ないことが所詮木偶の寄せ集めにしかなっていない様だが、悟飯にとってはどうでも良いことだ。
動かなくなった頭といまだ脈打つ脊椎を引きちぎれば、悟飯はその頭を前方に向かって蹴り上げる。
そうすれば、今にも目前から襲い掛かろうとしたマリオネットの胸板に直撃し、その威力は削がれず更に後ろに居たマリオネットも巻き添えに吹き飛ばされていった。
「悟飯!!!」
息を付く暇もなくダンテに名を呼ばれ振り返れば、ダンテはシャドウによって地面へと縫い付けられていた。
ダンテの喉元を噛み千切ろうとのし掛かるシャドウに、ダンテは必死で抵抗していた。
眼を凝らせば、ダンテの腹と右脛、更にわざと心臓を避けて左胸を大針が深々と突き刺していた。
激痛を無視してシャドウの鼻を押し返すダンテは、悟飯に向かって何かを投げつけてきた。
それはダンテが愛用している二対の銃の片割れだった。
一直線に向かってくる銃を悟飯は素早く受けとれば、シャドウに銃口を向ける。
銃を射つ、ましてや触ったことさえない悟飯だが躊躇はなかった。
脳に直接的に打撃を与える耳孔、こめかみ、左目、鼻、牙、と確実に連続で射ち放つ様はダンテの早射ちに勝る正確さだった。
- Re: 【dance;wits:the:DEVIL 】 ( No.16 )
- 日時: 2010/08/04 22:13
- 名前: EN (ID: P3xeYQNF)
怒り任せに、反撃すら与えない冷徹な銃撃に、シャドウは原型すら留められず影を拡散させた。
弱々しい音を立たせて地に吸い込まれる間際に、チラリと見つけた赤く輝く球体をダンテは見逃さなかった。
ガキンッ、と甲高い音を響かせ球体に大剣が突きたてられる。
途端に絶叫を上げるシャドウに、その球体はシャドウの【核】だと言うことは直ぐに分かった。
だがシャドウは核を破壊されたのに、拡散するどころか消滅すらせず、痛みに苦しみに周りの壁を破壊するだけだ。
悟飯がシャドウの奇妙な苦しみもがく様に違和感を覚え後方へ飛翔したのと、ダンテがまだ完治しない傷の痛みを無視して駆け出したのは同時だった。
暴れていたシャドウの動きが不自然に停止したのかと思った直後、闇を纏う体が灼熱に赤く沸騰した瞬間、大きく膨張し、爆発した。
その自爆とも言える爆発は近くにいたマリオネットをも巻き込み、熱風が吹き荒れる。
冷えた空気で暴発した炎はマリオネットを舐め尽くしても収まらず、身構えていた悟飯とダンテを吹き飛ばした。
苦もなく体勢を整えたのは悟飯だけで、ダンテは数回転がり、大きく咳き込んだ。
「くそ!なんなんだよ一体!!」
ダンテはシャドウの自爆の威力が以前戦ったよりも、上回っていた事に悔しさに呻いた。
半分不死であろうが瞬時に傷は塞がれてしまおうとも、痛いものは痛いし気持ち的に滅入る状況ばかりが続くと苛々も増すだけだ。
「僕だって苛ついてるんです。さっさと立って下さい」
言葉は冷たいが、ダンテに銃を返して手を差し出すのはまだ怒りが中間までだと勝手に解釈しながら、ダンテは悟飯の手を借りる。
「それにしても、どうしてこんな所に出ちゃうんでしょうね…」
頬を突き刺す冷たい空気は変わらず、逃走も兼ねて走り抜けた長かった細道の先には、雑草が剥き出しの寂れた石畳の先に広がる暗い森林だった。
コンクリートジャングルと本物が隣り合わせだなんて、何とも奇妙な光景にふたりは重い溜め息を吐く。
「幻覚、にしては空気が重い。だとしたら途中から次元が歪んだんでしょうか」
「いんや。次元自体は、悟空と悟飯があの場所を訪れた時だけだ」
体を捻って軋む体を解すダンテに、悟飯は視線を向けた。
「簡単だ。悪魔の住み着く場所に、マトモな場所なんざねえって事だよ」
嗚呼やはり、あの場所へ来るのではなかったと悟飯は癖になっている苦笑すら億劫になった。
服の汚れを確認しながら森林を一瞥し、悟飯はダンテに笑い掛ける。
「成程、…ではダンテさんをこの場所に縛り付ければ、元の場所に戻れる可能性はあるかも知れない、と」
全ての原因はダンテにあると、悟飯は含みのある冷たい眼差しをダンテに向けた。
悟飯の薄ら寒く底知れない力を見ただけあって、ダンテは怒りで言いかけた言葉を飲み込んだ。
悟飯の言葉には一理あり、そもそも悟飯に反論する立場はダンテにはない。
巻き込んだのはダンテだ、悟飯が迷惑を被り怒る気持ちは分からない訳ではない。
返答に困り掛けていたダンテをじっくり眺めた後、悟飯はふいに優しい笑みに変えた。
「冗談ですよ。そんなにショックな顔は、なさらないで下さい」
「じょ、っ…あんま俺のテンション落とすなよなぁ…」
「確かに巻き込まれた怒りもありますが、それなりには正義感は持ってますよ。父には負けますけど」
文句を言い返せないダンテの肩を軽く叩くと、悟飯は探るような眼で背の高い年下の青年のアイスブルーの瞳を覗き込む。
「別に無理にとは言いませんけど、探してる人が居るのなら早めに言って下さいね」
悟飯の言葉にダンテは吃驚する。
そんなに態度に出ていたのだろうかと焦るダンテに、悟飯は屈伸運動を始め出す。
「父さんの気配が探れないのは確かに心配ですけど、父さんはそんなに柔じゃないですよ」
「あ、あぁ…」
眼を泳がせるダンテは、はぐれた悟空とケルベロスを探す事に神経を研ぎ澄ませていたが、微量な雰囲気さえ察知できる悟飯にはバレバレだったようだ。
同行者を心配しているのだろうと思う悟飯に、ダンテは悩む処か苦笑を漏らした。
「いや、どっちかってーと、半分忘れてたと言うか…」
言いたくないというよりは、言って良いのかという表情だ。
別にそこまで興味が無いとは嘘になるが、悟飯は黙ってダンテの返答を待つ。
「奴は奴で、勝手にやってるとは思うが…、兄貴が一緒なんだよ。実はさ」
そこで漸く、ジェスター達の気配が消えていた事に気付いた。
前髪が風で乱れた直後、薙ぎ払われた威力が思ったより強いのか悟空の体は宙に浮いた。
後方へ飛翔し軽く膝を曲げて着地した隙に、腐敗臭と猛毒の息を撒き散らせる不気味な悪魔の突進は悟空が体勢を整えるより速かった。
それでも第2波を予測していた悟空は、背中を反らし素早く側転。側転で回転速度を増した中蹴りは、突進してきた相手の横面に命中。
聞くに耐えない悲鳴を上げて吹き飛んだが、すぐに体勢を整えられる。どうやら悟空が抱く嫌悪感に威力が最大限に出せなかったのだ。
その気味の悪い悪魔の名は、ノーバディとケルベロスが教えてくれた。
過酷で壮絶な魔界を生きた過程で身に付けた巨大化する肉体と、相手の血肉を腐蝕させる猛毒は近付くだけで吐き気を催すほどだ。
中蹴りを放った際に 髪の先がほんの少し、ノーバディの飛沫が掠めただけで、焦げる臭いが鼻骨を強烈に叩いた。
一匹だったノーバディは、いつの間にか3匹に増えていた。
小さいままの2匹のノーバディは悟空の回りを跳ね回り、巨大化したノーバディは、背中からもう一本の手を生やして襲う機会を狙っている。
恐らくあの腕に捕まれば、只では済まないだろう。
ひと息溢す暇も与えられず2匹のノーバディが左右を挟んで飛び掛かかれば、悟空は触れられる事を恐れて空中へ飛ぶ。
それを狙って巨大化したノーバディが、更に飛翔して腕を振り上げる。
だが悟空には予想がついている。
- Re: 【dance;wits:the:DEVIL 】 ( No.17 )
- 日時: 2010/08/04 22:14
- 名前: EN (ID: P3xeYQNF)
宙で前転、そのまま右足でノーバディの脳天に踵落としを放つ。
鈍い音は別段響かない。降り下ろした勢いを腹に力を入れて今度は左足を繰り出し、ノーバディの顎に命中、したかに見えた。
「っ?!!」
みっつめの腕が、悟空の左足を捕らえる。そのまま力を入れられ左足が軋んで、悟空は思わず悲鳴を上げた。
このまま地面に落下すれば、確実に地面に背中と後頭部を叩きつけられる。それだけは嫌だと残りの2本の腕で捕らえようとするのを、悟空は痛みを無視して体を反転、しようとしたがケルベロスの攻撃が早かった。
力強い咆哮と共に、ケルベロスの口腔から氷柱が表れノーバディを襲う。
悟空を捕らえる腕に命中すれば、その氷柱は瞬間に氷を増幅させ、ノーバディの腕を氷漬けにする。
それを3度ほど繰り返せば、ノーバディは体を氷漬けにされてしまった。
他の2匹も同じことになっている。
「さんきゅ、ケル」
『だが短時間しか持たぬ』
息を整える悟空の隣で、ケルベロスは苦渋に呻いた。
体を激しく震わせて氷結の呪縛から逃れようとするノーバディの力は余りに強かった。
その上、猛毒を恐れて無闇に間合いに踏み込めないことが何よりの難関だった。
滲んだ額の汗を拭いながら、悟空は小さく呟いたのをしかしケルベロスは聞き逃さなかった。
「武器とかあったら、楽なんだけどな…」
『…なに?』
ケルベロスが思わず見上げれば、悟空はお返しに首をかしげた。
『お主、武器を扱えるのか?』
「なんだ、変か?」
『いや、てっきり…』
3頭の3色の瞳が戸惑いに揺れる。
あれだけの潜在能力を秘めているのだ、生半可な武器など直ぐに使い物にならなくなる筈だ。
悟空が住む世界に、魔具があるとはそんな都合良くは思えまい。
「SSになる前は、よく使ってたな」
『…そうか』
ケルベロスは一瞬考える素振りを見せると、静かに冷気を発生させた。
雪のように細やかな氷の粒は風もなく悟空を優しく包み込み、悟空は感嘆の息を漏らす。
『想像しろ』
「…、え?」
『お主が望む武器を』
「出来るのか?」
具現化できない粒子が悟空の掌に包み込まれ、崩れてまた再生する。
『我も魔具のひとつ。だが我の力は契約者のみにしか扱えぬ』
ならば、悟空が望むモノを具現化しようではないか。
ケルベロスの計らいに悟空は眼を輝かせて笑った。
「やっぱすげぇよ、ケルは」
『お主にそう言われるのは光栄だ。だが時間はないぞ』
氷漬けにしたノーバディの力が再び暴れだす時間も僅かだ。
悟空が髪を揺らせて眼を閉じれば、拡散していた氷の粒が掌に集まってくる。
不思議な感覚だった。
自分の記憶の一部が、冷たくて心地の良い力に包まれてゆくのが。
急速に、そして確実にその力は悟空の記憶により暖かみを増し、同時に懐かしい切なさが胸を掠めた。
バリンッと音を立ててノーバディが解放される。
しかしまだ悟空の掌にある光は具現化を果たしていない。
好機とばかりに哄笑を上げて、3体のノーバディが悟空に襲い掛かる。
不穏の空気を、一陣の風が凪ぎ払う。
鈍い音が響いて3体のノーバディが間抜けな悲鳴を上げて吹き飛んだ。
受け身も取れず痛みにのたうち回るノーバディの横面には、くっきりと殴られた跡が残る。
何か、とても硬い棒のようなもので殴られた跡が。
「へへ、やぁっぱオラには此がしっくりクルや」
カンッ、と良い音を響かせて石畳を叩いたのは、美しいくすみの無い朱塗りの細長棒だ。
片手だけで美しい朱塗りの棒を弄ぶ様は、何処か幼さを感じさせる。自在にソレを操る悟空に、ケルベロスは不思議そうに見上げる。
『何という名だ、聞かせてくれ』
ケルベロスの問いに、悟空は眼を細めて応えた。
「如意棒っていうんだ。神様が作ってくれた、じぃちゃんの形見」
神様に返上したから、よもやこんな場所で再び使えるなんて思わなかったから、悟空は嬉しくて堪らなかった。
だが感動に浸っている場合ではない。
体勢を整えたノーバディが、呻き声を上げて距離を詰めてくる。
だがノーバディは悟空が持つ如意棒の威力を知らない。
ただ破壊だけを楽しむ悪魔は再び襲い掛かってくるのを、悟空は軽く如意棒を構えただけだった。
回転させて風を巻きつかせた如意棒は、勢いに乗せて左から来たノーバディの胴に打ち込む。
悲鳴すら上げず吹き飛んだノーバディはそのまま柱に叩きつけられる。
真正面から来たノーバディの爪撃を如意棒で防ぎ、横に弾いて降り下ろすように脳天に叩き込めば頭で地面を割った。
巨大化したノーバディは、頭上から降ってきた。
慌てもせず後退すれば、倒れたままのノーバディを踏み潰しながら落下してくる。
その隙をついて如意棒の突きを放つが、ノーバディはそれを難なく体を捻って回避。
しかし悟空にはそれは予想範囲内だ。
突き出した如意棒の軌道を、悟空は指に力を入れて強引に変更。避けた筈のノーバディの胸板に如意棒を叩き付ければ肋骨が粉砕した。
そして勢いは削がれず、観覧席へと吹き飛ばされる。
その凄まじい攻撃を、ケルベロスは唖然と見ているだけだった。
まさか伸縮自在とは知る由もない固まったままのケルベロスに、悟空は首をかしげてケルベロスの頭を撫でる。
「なぁ、ケル。あっちに入り口があるんだけど、出口かな」
その台詞を2回ほど言えば、ケルベロスは溜め息と共に無意識に落胆する。
『お主は、何処まで強いのだ?』
「うーん、何処までだろ」
考えるのは、だいぶ前に止めたと笑った悟空はあまりに無邪気すぎて、ケルベロスは黙って悟空の後をついていくしかなかった。
質素な扉を開いて悟空とケルベロスの姿が消えていくのを、観覧席の上で、群青色の長外套を赤い月光降り注ぐ不穏な風に靡かせて見下ろす人物が居たことは、また別の話だった。
- Re: 【dance;wits:the:DEVIL 】 ( No.18 )
- 日時: 2010/08/04 22:18
- 名前: EN (ID: P3xeYQNF)
少しだけ時間は遡る。
日付が変わった星の無い夜の肌を突き刺す、真冬の冷たさを纏い僅かな灯りを点すCC社に訪問者が静かにベルを鳴らした。
ブランケットを肩に掛けた、夜着姿のブルマがドアを開けば、訪問者に笑いかける。
子供の教育には熱心な彼女が、深夜の外出を許す訳がない。
そうだと信じるのは、その訪問者は父親に似て嘘を付けないからだ。
まだあどけなさが強い、少し背が伸びた少年を出迎えた。
「ごめんなさい、ブルマさん」
「いいのよ、いらっしゃい。悟天君」
明るい青色のジャケットとまだ子供らしい可愛い柄のシャツに黒のスラックス姿は、顔は父の悟空に瓜二つでもやはりどこか違っていた。
余程急いで来たのか、外の寒さに頬の赤みがすっかり失せて、暖かい部屋に招き入れるとブルマは悟天に振り返る。
「それで、何かあったの?」
深夜の訪問の理由など限られている。
幼いながらも険しい表情を隠せない悟天は、ブルマの問いに強く頷いた。
「…え。悟空さんと、悟飯さんが?」
中学生に上がったトランクスは作業着姿のまま、悟天の訪問に気付いて出てきた。
少し伸びた前髪を揺らせ、薄汚れた手袋で弄んでいるのはバイクのホイールだ。
最近は最新式ロボットの改造に飽きたのか、博物館で見かけた石油で走っていた頃のバイクの装甲に惚れたのか、学校の授業を放り出してバイク造りに没頭していた。
曲がりなりにも小学生である悟天の深夜の訪問に、トランクスは首をかしげた。
「確か悟空さん達、今日はサタンさんの屋敷に行ってなかったか?」
お昼頃に、手土産買いに来た序でに、二人でCC社に顔を出しに来ていた筈だ。
それこそ町は正反対の場所だ。
「まだあちらで飲んでるんじゃないの?」
ホットココアを悟天に手渡すと、ブルマは向い合わせのソファに座る。
悟天は苦笑するだけだ。
「それだけだったら、僕はお母さんに叩き起こされないよ」
ビーデルから、悟飯から連絡が来ないと言ってきたのは1時間前だった。
周りに気を使うことが常である悟飯が、23時には帰ると電話の向こうでした約束を破る性格でもなかった。
ビーデルの実家であるサタン家に連絡をとったが、既に帰った後だと言われた。
何度電話しても留守電にすら入らずもしや何かあったのではと困った若い妻は、真隣に住む義母であるチチに助けを求めたのだ。
しかし最新機器には弱いチチが携帯電話を使える筈もなく、叩き起こされたのが悟天である。
「んで、GPSで探してみたんだ」
「何でそんなもんで探すんだ?気を探れば一発だろ」
「あの二人さ、時々地球の裏側行ったりして苦労するんだ…」
どうやら悟天が自由奔放の父親を探すのが役目らしく、乾いた溜め息を付いた。
心配性な母と優しい義姉は二人の居場所さえ分かればそれで良かったらしく、悟天も安心してGPSを起動させたのだが、
「ウチに来たって事は、何かあったのね?」
叩き起こされた迷惑顔から一変、悟天は険しい顔になる。
「GPSが、全く働かないんだ」
「働かない?見付けられないんじゃなく?別の惑星に居たりとか」
「ううん、それはない。この前、お父さんがソレで朝帰りしたからお母さんが鬼になった」
悟空が泣きながらチチに土下座する様を、ブルマは瞬時に想像したのかつい笑みが出てしまう。
「見つけられない可能性は?」
ブルマの問いに、悟天はそれさえも否定した。
悟天が言うには、GPSは確かに最初は起動していた。
始めにGPSが点滅した場所は、サタン家の付近の繁華街。
繁華街から少し離れてビルの雑踏らしき、衛星地図からは解りにくい場所へ行ったと思えば、フッ、と携帯画面の赤い点滅が消えたのだ。
「壊れた、なんて言ってる場合じゃないわね」
それに事前に連絡もなく、悟天が急いでCC社に来たと言うことは、二人の『気』も感じられないのだろう。
ブルマも片手に携帯電話を持ち、何度も悟飯の携帯電話に掛けているが留守電に入らず、そのまま切れる。
「そうね、ちょっと一大事だわ」
伺い見る悟天にブルマは優しく笑いかけると、まだホイールを弄っているトランクスの手からソレを奪い取る。
「あ!ちょっ、大事に扱ってよっ」
「ほら、着替えてらっしゃい」
「言われなくても、分かっているよ」
悟天がわざわざサタン家から逆方向のCC社に来たのは、一人では危ないと心配性な母を安心させるためだろう。
「ごめんね、トランクス君」
「いいよ、親承認で深夜外出なんて滅多に無いし」
「何言ってるの、随時連絡は厳守よ」
心優しい母子はそうと決まれば別々に行動を始める。
地下一階に自分のラボを持ち始めたトランクスは、バイク製作に時間を掛けているのか殆どの服はそちらへ移動している。
- Re: 【dance;wits:the:DEVIL 】 ( No.19 )
- 日時: 2010/08/04 22:20
- 名前: EN (ID: P3xeYQNF)
トランクスが着替えている間、趣味で改造しているロボットを見回しながら、ふと悟天の頭上で虹色に淡く光る球体が視界に入る。
「あ、QPだ」
人の体温を感知して適度に距離を保って浮遊する球体は、数字で彩られた色素配列を悪戯に混ぜ合わせている。
「いいなぁ、早く僕も欲しい」
「中学上がったら、悟飯さんから貰う約束なんだろ?もうすぐじゃないか。それにしても"キューピー"って名付けるのも、悟飯さんのネーミングセンスは相変わらずだよなぁ」
そう言いながら、トランクスは自分の頭上を浮遊するQPを指で弾く。
QPは科学者である悟飯が開発した、球体浮遊型演算機だ。
あえて不規則に散らばった色素配列を主軸とし、水素と二酸化炭素をエネルギーに変換する半永久自己育成型で、数年間掛けて構築された数式を媒体とした所謂AI(人工知能)の根本となる純結晶だ。
目的は研究補助の為に創られたQPだが、ブルマの提案により一般企業使用への多目的補助が出来るように再プログラム中だという。
「この前、ゲームのデータを全部QPにコピーしたら、小1時間で全レベルが最高位にプログラミングされてた」
試作品とは言え、初期段階から此れだけ完成された演算機を創れるのは、恐らく悟飯だけだろう。
「この子も連れてくの?」
「勿論。携帯電話にアクセスすれば機能が全く同じままになるよ」
悟天の拍手のリズムに合わせて色彩を点滅させるQPを鷲掴み、トランクスは着替えを終えた。
使い込まれくすんではいるが丈夫な蓬色のジーンズに、紺のスニーカー。
ジャケットはCC社のマークのロゴが入っていてシンプルだが、どうにも厚手には見えない。
「寒くないの?それ」
「特殊な強化繊維を施しているんだ。このジャケットは、人の一定体温の低下を見極めて摩擦を利用して暖まるんだ」
「…内蔵カイロ?」
「センス悪いぞ悟天。それよりシャツをちゃんと中に入れろよ、お前こそ風邪引くぞ」
「トランクス君がきっちりし過ぎなんだよぅ」
小学生にしては背の高い悟天は、真っ直ぐ立てばそれなりにセンスはあるのに、着崩れを直さないままなので中身は年相応だ。スラックスはちゃんとサイズにぴったり合ったものを着ているのが唯一の救いだ。
「はい。じゃあ、宜しくお願いします」
リビングに戻れば、ブルマは何処かへ電話を掛けていた。ふたりを視界に入れて、ゆっくりと受話器を戻す。
「あら、久し振りに見たわ。貴方のちゃんとした服装」
ここのところ部屋に引きこもって作業着だけの姿だったので、ブルマはわざとらしく安堵を付いた。
「何処に電話してたの?」
「Mr.サタンの御屋敷よ。孫君達が居なかった場合、そちらに泊まりなさい」
そう言ってブルマは手に持っていたホイポイカプセルをトランクスに放り投げた。
悟天もそれを覗くが、カプセルには何も示されていない。
「何が入っているの?」
「もしもの時よ。持っていきなさい」
ウィンクして、ブルマは幼い息子達に微笑む。
まだ無邪気な表情だが、警察より何百倍も頼りになる強さだ。
「やっぱり、父さんには連絡付かない?」
苦笑したトランクスに、ブルマも釣られて頷く。
「あの人、携帯電話なんか持たないから…、帰ってきたら直ぐに伝えたいけど」
「なら頼むね」
「ええ、分かったわ」
出入口に立って、二人はブルマに振り返る。
「じゃ、行ってきます」
「必ず連絡してちょうだいね」
扉を開けば、冷たい夜風が二人の頬を叩く。それに追い付こうと浮遊するQPをトランクスは右手に抱え、悟天に続いて鳥が飛び立つように飛翔する。
まだビルの灯りが消えない夜空には、満ちた赤い月が浮かぶ。
「飛んでる飛行機を脅かさないでね」
何処かズレたブルマの忠告は、二人の耳に入る前に姿が消えていった。
「ねぇトランクス君!!」
極力パワーを抑えての飛翔は、二人は数年で制御出来るようになった。
高いビルの真上、淡い光を点す街灯を浴びて、疎らに人がゆるやかに歩いているのが見える。
二人の真上に飛んでいるのは航空機。
悟天がトランクスの名を呼び下を指差した。
まだQPを弄っていたトランクスが視線を下へ向ければ、ちょうどMr.サタンの屋敷付近が見え互いに頷くと、ゆっくり滑降する。
悟空と悟飯の居場所が途絶えたとされる繁華街は、静かだった。
古めかしくもないのに街灯は弱々しく点滅し、一瞬だけ感じた不穏な空気に二人は眉を潜めた。
「なんか、おかしくない?」
「…どの辺が?」
二人は目配せして溜め息をつく。
頬を突き刺す冷たい夜風に混じる、微かにうなじを刺激する微電力を感じた。あまりよくない感じだ。
悟天が携帯電話を作動。
GPSの点滅が消えた場所へと歩み出した。二人の足音だけが繁華街に響き、しかしすぐに止まる。
ばっ、と勢いよく振り向いた先には、ブラックホールの様に先が闇に包まれた裏路地。不穏な空気は奥から感じられた。
不審げに睨み、もう一度二人は顔を見合わせる。
「ブルマさんに連絡する?」
「連絡したら、帰って来いって言われるぜ?」
「だよね」
トランクスの眼は悪戯に輝いていた。悟天も同じだ。
【あの時】の幼い頃以来忘れていた、ウズウズするような悪戯心が早く早くと急かしてくる。
二人は同時に踏み出す。
人ひとりが通れる、暗く細い道をQPが仄かに照らし出す。、悟天が鼻を効かせれば眉間に皺が寄った。
「冷たい空気と混ざって、何かが居るよ」
トランクスは顎を引いて肯定する。
だが足音は止まらず静かに響き、直ぐに細道は終わった。
途端に鼻骨をきつく刺激する空気に、二人は体を硬直させた。
止めていた息をゆっくり飲み込めば、トランクスの後頭部にQPがぶつかって色を点滅させている。
小さな公園でもつくれそうな、恐らく昼でも薄暗いビル雑踏に囲まれ押し潰された寂れた裏路地だ。
まず最初に視界に入ったのは、古びて中途半端に塗装されたアスファルトだ。
そのアスファルトが、古いとはいえどれ程の圧力と熱を加えたのか溶解していた。
冷たい空気に触れて固まったにしてはアスファルトはまだ微かに湯気を立てており、強烈な瞬間沸騰ではないかとトランクスは静かに推測した。
溶解したアスファルトの隣では、何か鋭い道具でも使ったのか壁に向かって地面を抉った痕が三本ある。まるで大きな獣の爪のようなソレは広場中にあった。
裏路地に捨て置かれた車なんていくらでもある。
けれど単に部品を盗まれて骨だらけの廃車が真っ二つに引き千切られていたり、まだ真新しい筈の廃車が奇妙に捻れていたり、バイクがビルの壁を突き破る光景なんて二人は見たことがない。
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