二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
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- 21エモン〜夢の旅路〜①
- 日時: 2011/02/26 14:03
- 名前: 上野宝彦 (ID: ieojggCq)
第1話 旅立ち前夜
もう、2064年になろうとしている。あっという間の四年だ。もう、24歳になるんだな・・・。エモンは、そう思いながら、夜の銀座の街を一人歩いている。エモンは、国家宇宙探検家になっていた。あの、スカンレーと同じ職業だった。エモンは、最近テレビに出演する回数が多くなってきた。だから、彼はつづれ屋に帰ることも少なくなった。その、つづれ屋では、3人がこんな話をしていた。「坊っちゃん。病気治りませんでしたね」オナベが、困った顔をして言う。「でも、まあ、仕方なかったんじゃないか。わしも、こんな感じがしてたんだ。昔から。あいつは、わしに似て頑固だからな」苦笑いをしながら、20エモンが言う。「あいつは、あいつの人生があるんだ。それを見守るのが、わしら、家族の仕事さ。だが、460年続いたこのつづれ屋を、わしの代で終わらせるのがこころおしいな。寂しくなるな」20エモンの目には、涙がたまっていた。もう、あいつは戻ることはないんだ。わしは、このまま死ぬんだ・・・。
もう、3人はあきらめていた。このまま、死に逝くことを。息子に会えない寂しさを持ちながら。
そんな時、ドアの所に人影があった。20エモンは、笑顔で挨拶をする。「つづれ屋・・・。懐かしいな」そう言いながら、彼は言う。
「スカンレーさん。お久しぶりです。前は、私達の21エモンがお世話になりまして」ママが、スカンレーの前に立ち言う。「いえいえ。あれは、エモンくんの為を思ってしただけですから」スカンレーが、照れながら笑う。だが、その顔も真剣な顔になり、「それはそうと、僕がここに来たのは用があるのです」3人は、真剣な顔になってスカンレーに向く。「エモンくんは、ここにいらっしゃいますか?もう、24歳になるんですね。ぼくは、12歳の時しか彼を見ていないんだ。あれから、大きくなった姿を見たいなと思いまして、お伺いしました」20エモンは、冷や汗をかいた。そして、迷った。どうすればいいんだ。スカンレーさんに本当のことを言うべきか、言わないべきか・・・。「今、エモンは、店を開けておりましてですね。それで・・・」3人は、冷や汗をかきながら苦笑いをしている。「どうかしたのですか?お悩みなら、私のようなもので結構ならお受けしますが」「いえ、結構です。悩みなんて、そんな事」「いえ、ありますね。私には、あなたの気持ちが分かる」「仕方ないですな」20エモンは、スカンレーの要求に答えた。「実は、エモンは、あなたと同じ道を歩んでいるのです」「宇宙探検家ですか?私は、息子さんに説得したはずなんですが・・・」「それが、その説得がまた、夢に走り出したそうなのです」「20エモンさん。あなたは、もう、このつづれ屋が滅ぶことを覚悟しておいでですね?」スカンレーは顔を近づけて言う。「もちろんです。覚悟しておりました。あいつは、私に似た江戸っ子風の頑固野郎ですので、20歳の時に怒った時以来、私は、思いました。あいつにはあいつの人生があるんだと。昔の私が馬鹿だったのです」「いえいえ。そうではないですよ」スカンレーが励ます。「エモンくんは、たぶん、つづれ屋の為に何かをしてくれると思うのです。いえ、絶対」「そうでしょうか。私にはそうとは思いませぬが・・・」「ご迷惑をかけ申し訳ありませんでした。では、ここで、失礼させていただきます」スカンレーは、自宅の六本木に帰る時泣いた。もう、会えないのだということを噛みしめながら。
一方、エモンは、マネージャーと2人、赤坂にあるTPPの楽屋で、話しあっていた。「エモンさん。明日地球を離れる心構えがあるというのは、本気ですか?」「もちろんですよ。僕は宇宙探検家ですからね」エモンが、パイプを加えながら答える。「ですが、エモンさんは、つづれ屋の跡取りでしょう。本当は」「つづれ屋?それってどこですか?ぼくは、知らないですよ。そんなお店」「とぼけないで下さいよ」マネージャーが立ち上がり、エモンの面前を見つめ、言う。「親の方が悲しまれますよ。モンガ—さんもスカンレーさんも同じだと思いますよ。そして、明日のテレビの予定も入っていますしね」エモンがパイプを加え、それの灰を落として言う。「君は、いつもいつもテレビと言ってはうるさいね。それは、キャンセルしてしまえばいい話じゃないの」「それは、しますよ。出来ますよ。だけど、親の方や、お友達が」「うるさい。うるさい」エモンが、烈火のごとく怒る。「これは、自分で決めたことなんだ。君や、僕の親が言う筋合いはないんだ」「そして、今日、生放送のバラエティーで、言うのですか?そのことを」「もちろんだよ。言うにきまっているじゃないか。僕が思っている世界、僕が愛している世界に自由に行けるんだ。微笑ましいことではないかね」エモンは、笑っていた。「確かにそうですね」マネージャーは苦笑いをした。「じゃあ。トイレに行ってくるからな」マネージャーは、その後ろ姿を見て思った。
この人とももう会えないのか。悲しくなってくるよ・・・。そして、一人で泣いた。エモンも、トイレで泣きそうになりながら、用を足していた。「さらば。地球よ。僕は、国の為に貢献するだけなんだ。ちょっとの期間だけど、頼むよ。地球」「本番10分前です」ディレクターが言う。エモンは、生放送されるスタジオに向かう。ぼくは、言わなければならない。あのことを・・・。彼は、言うことを決意した。本番が始まり、エモンは司会者としゃべりに喋り、笑いに笑い、番組を盛り上げていった。そして、最期に言った。「ぼく、視聴者の皆さんに言いたいことがあるんです。よろしいですか?」司会者は、了解した。エモンは、テレビカメラに顔を向け話す。「僕は、明日か明後日に、宇宙に向かうつもりでいます。沢山の星に行き、学びたいと思っております。国には、もう申し出ました。視聴者の皆さんとは会えないのが寂しいですが、あなた達が頑張って仕事などをしている時、僕は、秘境で頑張っていると思ってください。では皆さん、お元気で。さようなら」これには、皆驚いたであろう。司会者は泣き出し、テレビ関係者も泣いていた。この放送を見ていたつづれ屋一家も泣いた。エモンも故郷の星地球を離れると思うと、涙がこぼれた。もう、この星には帰れないんだ・・・。彼は、またそう思い、号泣してしまった。バラエティー番組は、収録が終了した。まだ、誰かの涙声が聞こえているようだ。
そして、エモンは、マネージャーに感謝の意を伝え、エアカ—に乗った。街は、皆が、ワンセグを見ながら、泣いてしまっている。号泣してしまっている。まさに、北朝鮮の主導者 金日成が死んだ時の人民によく似ていたであろう。彼は、密かにつづれ屋に帰り、宇宙探検の用意をし始めた。星の輝きが、彼を誘う。彼は、目に涙を溜めながら寝た。
明日か明後日の出発の為に・・・。〔第2話へ続く〕
- Re: 21エモン〜夢の旅路〜①第13話 エモンの夜明け ( No.24 )
- 日時: 2011/03/07 02:03
- 名前: 上野宝彦 (ID: ieojggCq)
第13話・エモンの夜明け
彼は西新宿のトウキョウ国立総合医大病院の1246号室にいた。まだ、意識が戻らない。痩せこけた顔になり、前の面影は残っていない。担当医師の柏木正波は、1246号室を通り過ぎる時はいつもエモンの顔を見るようにしている。「まだ、意識がないんだな・・・」彼はいつも思いながら2階に戻るようにしていた。
ある夜、1246号室付近がうるさくなる時があった。なぜだろう?
その朝、看護師の横根戮が起こしに行った時のことであった。横根は驚いた。エモンが起きて、雑誌を読んでいるではないか。横根は目をこすった。本当の様だった。エモンは意識が戻っていた。横根は2階に行き、柏木を起こす。「どうしたんだ。横根君」「たたた、大変な事が起こりました」「慌てずに話せ。ほら、深呼吸だ」横根は深呼吸をした。横根の脳は落ち着いた様だった。「1246号室の患者さんが・・・」「エモンがどうかしたのか?」「意識が戻ったようなのです。起こしに行くと、雑誌を読んでいたんですよ。もちろん、寝ぼけ眼ですが・・・」柏木は驚いた。「本当なのか?あいつが目覚めたのか?」「はい。本当です。生霊はないでしょ・・・」「すぐに案内しろ。1246号室に」「はい」2人は出発し、12階の1246号室に向かう。外は春だった。桜の花が美しく見える。「こちらです」「げっ!ほんとかよ」またしても驚いてしまった。まるで、無重力空間に放り出されていたとはいないほどの回復ぶりだったのである。「僕は、どこにいるんだ。ここは何処だ」「ここは、地球だ」柏木が隠れて答える。壁に身をひそんで。「地球のどこなんだ?」「お前の故郷だ」「トウキョウシティー?そんなわけないよな。僕は、小惑星帯にいたんだからな。僕の勘違いよな。アハハハハ」「それが、勘違いじゃないんだぜ。ばか。アハハハ」「ここは、シリウス。そう考えよう」「そんな訳ねえじゃねえか。ここは地球だぜ。本当に」柏木はエモンの部屋に入って行った。長い脚が、エモンのベッドに近づく。そして、カーテンを開け「おはよう。俺だぜ。覚えてるかな。エモンくん?」「え?なんで柏木がいるんだ?」「気づいたか?久しぶりだな。エモン。お前は生還したんだぜ。空夫君と一緒に。気づいていない間にな」「柏木。久しぶり」エモンは泣いた。久しぶりの同級生であった。柏木は、エモンの手を自分の肩に包んだ。「おめでとう。よく頑張った。お前は。お前がここまで回復するとは思いもよらなんだよ」「どういうことなんだ」エモンが不思議そうな顔をしている。無理もない。彼は意識していなかったんだから。「お前を助けた人物が、言ってたんだが、お前は全然動いていなかったのだそうだ。死人だと思ったそうだぞ。この病院に行ってもお前は気づかなかった。人工呼吸器をつけてもなにも動かなかった。眼さえ開けることがなかった。あの時、俺はお前がすぐ死ぬかと思った。だが、それはなかったな。お前は丈夫な奴だな」「空夫くんは?」柏木は、冷や汗をかいた。彼は、まだ意識が回復していなかったのである。「彼は、トウキョウ赤十字病院にいるらしいぜ。彼は元気に回復しているのだそうだ」「良かったよ。元気なんだな」エモンが笑顔になってきた。「ああ。病院の庭園でいつも遊んでいるのだそうだ」「子供は無邪気だからな」彼は笑顔にまたなった。まるで、桃源郷を彷徨うがごとくの笑顔であった。「じゃあ、朝飯の件だが、点滴じゃないほうが良さそうだな。8時からだから、よく食べろよ」「ああ、分かっているさ」彼の笑顔には未来が見えた。
「え、あいつの意識が回復したって」「おお。まるで、無重力空間にいたのかというぐらい、元気になっているさ。もう、明日には退院出来そうだぜ」オリオンに電話がかかっていた。リゲルの顔は笑顔になった。ルナにも広まった。テレビ電話でのルナは嬉しそうに笑っていた。つづれ屋も活気があふれるようになった。一人の命が、これだけの勇気を作ることを、エモンは確信したのであった。
だが、空夫はそうでもなかった。空夫は力を振り絞り、目を開けたが、力も入らず、手が揺れていた。「エモンさん。ごめん。これはエモンさんが渡してください。僕は、あなたと一緒に生きれてよかった。ありがとう。さようなら。冥土でまたお会いしましょう。一緒に宇宙の話をしながら」空夫は、涙を流しながら目を瞑った。ゆっくりと目を瞑った。この10分後、空夫はエモンに知られることなく静かにこの世を去っていった。〔第14話へ続く〕
- Re: 21エモン〜夢の旅路〜①第13話の人物紹介 ( No.25 )
- 日時: 2011/03/07 02:32
- 名前: 上野宝彦 (ID: ieojggCq)
第13話には、新しい登場人物が出てくるのでそれを紹介します。
■■■■■登場人物紹介■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
横根戮・トウキョウ国立総合医大病院の看護師。男。優しいが、少し抜けている面も持つ人物。
以上です。第14話もお楽しみに。
- Re: 21エモン〜夢の旅路〜①第14話 空夫の死 ( No.26 )
- 日時: 2011/03/13 20:33
- 名前: 上野宝彦 (ID: ieojggCq)
第14話・空夫の死
21エモンは、空夫がこの病院にいる事を気付いた。エモンは、散歩がてら病院の廊下を歩いていた。すると、隣の部屋に見たことがある人影が見えた。彼は眠っていた。
空夫君。君はここにいたのか
エモンはそれを思い、1247号室に入る。「空夫君。久しぶり。君の故郷、地球に戻ってきたよ。一緒に故郷の風景を見ようよ」トウキョウシティーはとても変わった。近未来の建物が多くなった。遠くかすみには、船橋シティーや、市川シティーが見えていた。外苑公園や青山霊園には、桜が咲き、花びらが風に乗って富士山の方向に行っていた。「なあ、きれいだろう。僕等の地域、日本は」エモンは気づいた。いつもは応答してくれる空夫がなにも喋らない。あの、おしゃべりで明るい空夫が。「どうしたんだ。おい。いつもの元気はどこに行ったんだ」
エモンは気づいた。彼の体は冷たくなっていた事を。エモンは、空夫を手から落としてしまった。「空夫くん。君は地球の今後も見ずに死んでしまったのかい。日本の風景も見ずに、お父さん・お母さんにも逢えずに死んでしまったのかい」エモンは体を落とし、泣き崩れた。「僕より先に逝ってしまってはいけないよ。空夫くん」後の陰から、柏木はエモンを見ていた。「ごめん。エモン。お前に心配させたくなかったんだ。それだけは分かってくれ」柏木は静かにその影から離れた。部屋に聞こえるのはエモンの泣き声だけであった。彼は1日中泣き通した。そして、柏木を恨みに思った。あいつさえ嘘をつかなければ、こんなことにはならなんだ。お前を一生恨んでやる・・・。彼はそう思った。西新宿の空に雲が沸き始めていた。
彼の部屋には柏木は来なくなった。申し訳ないと思っているのであろう。主任医師を土肥原真賢に変え、自分は違う病棟に移ったのであった。気持ちは治らなかったが、地球の空気に慣れ、退院する日がやってきた。エモンを見送るために職員一同が集まっていた。土肥原と横根が花束を手渡した。彼はそれを受けた。「みなさん、有り難うございました。私はこれだけ回復しました。この様になったのは、あなたがたのおかげです」彼はリゲルが運転するエアカ—に乗り、病院を後にした。「空夫君、死んでしまったな」エモンは黙っていた。「すまんな。聞かなかった方が良かったかな」そして「まあ、元気出せよ。魂が悲しがるぞ」リゲルはエモンを元気づけようとしたが、エモンは泣くばかりであった。しまいにはリゲルも腹が立ち「エモンの意気地無しが。お前は男だろうが。男はきっぱりと忘れるものだ。元気を出さんかい。空夫くんはお前が夜通し泣いている事を希望していないはずだ」「何処で分かる。そんな事が」「俺にはリゲル神という神の声が聞こえるのさ」「嘘をつきやがって。嘘をつく事は一番大嫌いだ。嘘をつくのなら、僕の前から離れてくれ」「どうしたんだ。最近おかしいぞ。昔から怒りぽかったが、今日は覚せい剤でもしてるかのようだぞ。そのわけを聞かせてくれ」エモンは仕方なくリゲルにその事を話した。「それはあいつが悪いな。だが、あいつの気持ちもわかる。お前を苦しめたくなかったんだろう。俺はそう思うが」エアカ—は、青山を越え、赤坂見附を越え、溜池山王に到着しようとしていた。つづれ屋前に到着した。リゲルは「元気を出せよ。通夜までに」と言い、エアカ—を発進させた。空には、美しい宇宙の風景が出ていた。
「お帰り。生還おめでとう」つづれ屋一家が明るく出迎えたが、エモンは元気がなかった。「久しぶりの里帰りだな。夕飯、食べるか?」「いや、いい。あ、そうだ」エモンは何かを思いついたようであった。「皆さんに悲しい通知があります。天野空夫くんがトウキョウ国立総合医科大学病院にて、亡くなりました。通夜は、明日5時から。葬儀は明後日10時から、三ツ沢下町のやすらか会館にてとりおこなわれます。皆さんには喪服の用意をして頂きます」「おいおい、なぜお前が指揮っているんだ」「僕が喪主になる可能性が高くなったからさ」「喪主?」「ああ。空夫には親がいないのらしい。だから・・・」「そうか。今日は寝なさい。そして、明日頑張りなさい。私たちも行かせてもらうよ。三ツ沢下町だな」「いかにも」「分かった」
通夜の日が来た。彼等は京橋で待ち合わせをし、三ツ沢下町行きの籠に乗る。これに乗れば、三ツ沢下町まで0.4分で到着が可能である。到着したのは、旧三ツ沢下町駅前であった。昔、ここには地下鉄の駅があった。その面影はいまはない。喪服姿の彼等はすぐに、やすらか会館に向かった。そこには、ロビーみたいな場所があった。彼等は驚いた。そこには2人、女と男がいるではないか。「本日は御愁傷様です」彼等は頭を下げた。2人も礼を返した。
天野家は法相宗であった。最近は、この宗派の人々も少なくなってきた。葬儀場には、空夫の笑っている遺影が飾られ、花が所狭しと飾られていた。享年11。この幼い命はすぐに花のように散り去った。棺の中の彼は、きれいな顔をして眠っていた。エモン・ルナ・リゲルはそれに手を合わせた。今にも喋ってきそうな顔であった。エモンは、彼が生きている瞬間を思い出す。ー彼との出会いは、カリスト付近で入ったガニメデからの通信からだった。カリスト付近に浮かんでいると聞いたが、カリストにはおらず、タイタン付近に浮かんでいた。自分はそれを船に入れた。それが始まりだった。ほんの少しの期間だったが、沢山の事を彼から聞いた。ありがとう。空夫君。また、冥土で宇宙の事を話しあおう・・・。彼の心中にはそういう声があった。通夜は定時に行われた。沢山の人々が線香を彼に与える。彼の笑い顔を見ながら。通夜は終わった。その次は明日、葬儀である。彼等は、高島町近くのホテルに泊まり、すぐに寝た。皆、涙を流しながら・・・。
葬儀の日が来た。みなとみらい21の辺りのビルから照りつける光が、高島屋のビルに照りつけている。空は雲ひとつない快晴である。エモンは、空夫が自分たちの為に空を明るくしているのだと感じた。彼等は、いつもの服装で空夫の故郷、伊勢佐木長者町に向かった。街が開け、エアカ—が勢いよく走っていく。伊勢佐木長者町5丁目交差点に到着すると、「天野家 葬儀○月○日○時○分 通夜 ○月○日○時○分。三ツ沢下町やすらか会館」と書かれてある立て札を見つけた。彼の家は、このマンションの中に住んでいたのだ。彼等はそれを確信した。
鶴見のみつ夫の家では、日曜日にあるに関わらずみつ夫が制服を着ていた。「お兄ちゃん。どうしたの。今日は日曜日でしょ」「え・・・」みつ夫は少し迷った。そして「今日は校外学習があるんだよ。東京湾アクアラインでね」と冷や汗をかきながら喋った。「ふーん」ガン子はそれを言い、下に降りて行った。みつ夫は貴重品を入れている棚の中から数珠を取り出し、家を出発した。国立横浜中学校の面々は、反町で待ち合わせをしていた。葬儀が行われる会館の近くだからである。彼はそこに向かった。
英一は上大岡の自宅から出発した。みち子も仲町台の自宅から出発した。トンガリは田園調布の豪邸から出発した。皆、反町に向かっていた。空夫の葬儀に行くために。
彼等は反町に到着した。「よう、みつ夫。葬儀会場は何処なんだ?」トンガリがにやけながら質問する。「三ツ沢墓地の近くだよ。ここをまっすぐ行けば分かるとエモンさんが言ってたよ」「ふん」トンガリはみつ夫が「ごめん。知らない」と言うのを楽しみにしていた。だが、当てが外れ口をふくらましていた。「エモンさん。回復したの?」みち子がみつ夫に聞いてきた。やはり気になるようだ。「うん。元気なんだって」「よかった」みち子は胸をなでおろした。葬儀会場に着いた彼等は、香典をスタッフに渡し、葬儀会場の隣にある控室にいた。「来てくれたのかい。久しぶりだね」エモンが笑いながら彼等に近づいた。喪服を着用しているエモンを見ると変な感じがした。それは、喪服を着用しているリゲル・ルナも彼等にも一緒の視線だった。親と見ゆる人に彼等は「本日は御愁傷様です」などと言い、亡くなった彼の遺影を見た。笑顔の瞳には何かを感じさせてくれているようだ。棺の中に入っている空夫は笑顔で寝ているようだった。
葬式が始まった。沢山の人々が席に座る。厳かな空気が一瞬にして始まった。リゲルとルナとエモンと横浜中学の面々は、同じ列の席に座った。一般席の一番前であった。制服を着ているのは、彼らしかいなかった。「只今より、故 天野空夫様 ご葬儀を取り行わさせていただきます」葬儀屋の男性が静寂の間の中で一人喋る。坊主が来たが、この坊主がすごい人だった。なんと、奈良の薬師寺の貫主〔かんす〕だったのである。この貫主というのは、比叡山の座主〔ざす〕にも匹敵するような高僧なのである。いわば、宗派のトップである。その坊主がお経を唱えている間に、親族関係がお焼香をしに行く。喪服を着ている人々が参列者に礼をし、また帰っていく。これの繰り返しであった。親族全員の焼香が終わり、エモン達一般の番が近づいた。「一般代表・宇宙探検家 つづれ屋21エモン様」彼は席を立ち、人々に礼をし焼香をした。これが、ルナ・リゲル・20エモン・希美・みつ夫・みち子・英一・トンガリの順番に続いていく。彼等は見た。空夫の亡き殻を。時は流れ、棺を火葬場に運び出す時がやってきた。男たちが棺を手に持ち運び出す。その前に、故人が入っている棺の中に花を入れる。皆、ここで泣き始めた。特にエモンが泣き崩れた。「空夫君。逝くんじゃないよ。宇宙の旅がまだまだ続くんだよ。冒険とスリルあふれる旅がまた、訪れるんだよ。だから、僕をおいてけぼりにしないで。君がいないと生きれないよ。生きる気力もないよ。死にたいよ。だから、目を開けてくれ。心臓よ。動け。脳よ。反応を出せ。脊髄よ。反射しろ。お願いだ。生き返ってくれ。頼む」「馬鹿なことを言うんじゃない」20エモンが、涙を流しながらエモンの頬を叩いた。「え?」エモンが手を頬に当てた。「お前は死というものが分かっていない。悟りを開け」「悟りを開けといわれても・・・」「いいか。よく聞け。エモンよ」20エモンは熱が入りながらしゃべりだした。「人というのは一つ一つの道と同じ生き物だ。人と言うのは一種の一つの道だ。人生という道だ。その道には沢山の交差点があるんだ。小さい道との交差点は、学校などで友に分かれる時などに使われる道。友はその小さい道を歩いていく。卒業式などでは、大きい交差点になる。一生会えない可能性があるからな。例を言うと、銀座の様な交差点だ。それをとてつもなく続いていくのが人間であることの使命だ。それが、他人の死という境遇に遭ってみろ。とてつもなく大きい交差点になる。御堂筋と都島通が交りあう梅田の交差点の様なものになる。このような交差点につき当たった我らは、泣いてしまう。普通なことだ。人間というのは、いや、動物・植物も合わせて死ぬ運命にある。お前もいずれは死ぬ。死ぬということは一つ一つの道の最果て。海に突き当たっているようなものだ。それを分かれ。生き返ることはもう絶対にないのだ。エモン」エモンは、20エモンの足元にしがみつき泣き続けた。「だが、死についてはこのような考え方もある」「え?」「神道では死ぬことが誇りとされる。神になる事が出来る。それは、古代エジプト・インカ帝国・古代マヤ・アステカでも同じことが言える。昔は箱根の山中で、生贄の儀式があったのだからな。そして、輪廻という考え方もある。輪廻と言うのは、生と死を繰り返し、動物などに生まれ変わることを指すのだ。きっと彼なら仏の因果応報により、違う人間に転生したり、違う動物となって生きることだろう。そして、お前についていく。そう考えたら他人の死、自分の死も怖くないのだよ。エモン」エモンは泣きやめ立ち「そうだね。パパ。僕は誤解していたよ。人は生と死を繰り返す。それを考えていれば、空夫の死も悲しくないものだね。彼は僕についていくんだね」エモンは笑顔になった。「そうだ。その通りだ」横浜中学のメンバーとリゲル・ルナも笑顔になった。自分達に、20エモンが訴えた心地がしていた。亡き殻が、下の階に到着した。彼を待つ霊柩車が待っていた。遺影を持った男が霊柩車に乗り込んだ。棺が中に入れられた。パーンという発車の合図が鳴る。彼等は一般参拝であるため、火葬場には行けない。エアバスに乗り込まず、会館の外で手を合わせた。エモンの目には怖いという心が無くなった。澄み切った太陽と、きれいな小鳥の鳴き声が会館内を響かせていた。〔①巻 完〕
- Re: 21エモン〜夢の旅路〜①第14話の人物・語句・地名 ( No.27 )
- 日時: 2011/03/13 13:59
- 名前: 上野宝彦 (ID: ieojggCq)
第14話には、新しい登場人物・難しい語句・地名などがあります。宗教的表現がありますので、神祇官・僧侶の皆さまには申し訳ない心でいっぱいです。では、ご紹介します。
〜登場人物紹介〜
土肥原真賢・トウキョウ国立総合医大病院の医師。無口な医師で、眼鏡をかけている。福山雅治が演じていたガリレオの湯川学によく似ている。
〜地名紹介〜
外苑公園・明治神宮外苑の事。東京都新宿区・港区〔一部〕の地域に位置する。「明治天皇の業績を後世までに残そう」という趣旨で1926年〔大正15年・昭和元年〕に建設された。中には、ヤクルトスワローズの本拠地・明治神宮野球場〔神宮球場〕や、聖徳記念絵画館・明治記念館・国立霞ヶ丘競技場・秩父宮ラグビー場などがある。
銀座線に「外苑前」という駅がある。
青山霊園・東京都港区南青山にある都立の墓地。1872年〔明治5年〕に美濃国郡上藩の藩主であった青山家の下屋敷跡に開設された。1874年〔明治7年〕に、市民の為の公共墓地となり、1926年に日本で初めての公営墓地となった。園内には明治期以降の著名人の墓があり、特に有名な人は、後藤象二郎〔土佐藩の重鎮・明治期には逓信大臣・農商務大臣・大阪府知事を歴任した。〕秋山好古〔明治期の陸軍大将〕池田勇人〔昭和中期の総理大臣〕犬養毅〔昭和前期の総理大臣〕植木枝盛〔明治期の思想家〕大久保利通〔明治期の政治家〕片山潜〔社会主義思想家〕加藤高明〔大正期の総理大臣〕加藤友三郎〔大正期の総理大臣〕北里柴三郎〔明治期の医学博士〕黒田清隆〔明治期の総理大臣〕小磯国昭〔昭和前期の総理大臣・朝鮮総督〕斉藤茂吉〔大正・昭和前期の歌人〕志賀直哉〔白樺派の作家〕東郷茂徳〔昭和期の外交官・外務大臣〕中江兆民〔明治期の思想家〕長岡半太郎〔明治期の物理学者〕乃木希典〔明治期の陸軍大将〕濱口雄幸〔昭和前期の総理大臣〕広瀬武夫〔明治期の海軍軍人〕松岡洋右〔昭和期の外交官・政治家〕山本権兵衛〔大正期の総理大臣・海軍大将〕吉田茂〔戦後の総理大臣・外交官〕忠犬ハチ公などが眠っている。そして、桜の名所としても有名である。
青山・東京都港区にある地名。徳川家康の重臣であった青山家の屋敷にちなんで名付けられた。ファッションの町として有名である。ちなみに、青山霊園は南青山と言う場所に位置する。地下鉄半蔵門線・銀座線・都営大江戸線に青山1丁目という駅名がある。
京橋・東京都中央区にある地名。由来は、かつて流れていた京橋川に架けられていた京橋という橋に由来する。東京駅の南側に位置しており、ビジネス街である。地下鉄銀座線に駅がある。
三ツ沢下町・神奈川県横浜市神奈川区にある地名。高級住宅地である。横浜市営地下鉄ブルーラインに駅がある。ちなみに、やすらか会館は三ツ沢墓地の近くにある。
高島町・神奈川県横浜市西区の地名。横浜駅の目と鼻の先にある。横浜市営地下鉄ブルーラインに駅がある。昔は、東急東横線に駅があったが、横浜高速鉄道が作られたため、横浜〜桜木町間は廃止され、高島町駅も廃止された。
みなとみらい21・横浜市西区。中区に跨る海に接している地域の事を指す。ここには、日本一高いビルであり、日本一早いエレベーターを所有するランドマークタワーがある。また、ここで2008年〔平成20年〕にアフリカ開発会議が開かれ、2010年〔平成22年〕に、APEC〔アジア太平洋経済協力会議〕が行われた。
上大岡・神奈川県横浜市港南区にある地名。住宅街。京浜百貨店などがある。京浜急行と横浜市営地下鉄ブルーラインに駅がある。
仲町台・神奈川県横浜市都筑区にある地名。地名の由来は元来の地名であった大熊町の小字「仲町」に「台」をつけたのが始まりである。住宅街。港北ニュータウン。横浜市営地下鉄ブルーラインに駅がある。
田園調布・東京都大田区・世田谷区に跨る地名。高級住宅地として有名。長嶋茂雄巨人終身名誉監督や、石原慎太郎都知事や、鳩山由紀夫前総理などがここで暮らしている。東急急行鉄道東横線・目黒線に駅がある。
反町・神奈川県横浜市神奈川区にある地名。住宅街。東急東横線に駅がある。なお、この駅は地下駅である。
御堂筋・大阪市の中心部を南北に縦断する道路。北区から中央区までの道路。その下には大阪市営地下鉄御堂筋線が走っている。だが、ここで著しているのは、親御堂筋ではない。
都島通・大阪市北西部を東西に縦断する道路。北区から旭区までの道路。その下には大阪市営地下鉄谷町線が走っている。だが、関目高殿駅から東梅田駅の間だけである。
梅田・大阪市北区にある地名。JR大阪駅・阪急・阪神・地下鉄に駅があり、乗り換えの要所。キタと呼ばれる地帯。西日本最大の繁華街として知られる。
〜語句説明〜
通夜・葬儀の前の日の夜に行われる儀式。仏教・神道・キリスト教では行われる。昔は線香を夜通しあげ続けていたが、最近はそれがなくなってきている。
喪主・葬儀の主催者の事を言う。葬儀後の主催者とされる人が務める。長男や、その妻がこれになる事が多い。
法相宗・仏教の宗派。中国創始の仏教の宗派のひとつ。唐の時代、玄奘三蔵〔602〜664〕がガンダーラ寺院から帰国し、広めた。日本には653年に、玄奘三蔵の弟子となった日本の僧 道昭〔629〜700〕によって広まった。1882年〔明治15年〕、興福寺・薬師寺・法隆寺の3寺が総本山となったが、第2次大戦後、法隆寺は聖徳宗と改名して離脱し、京都の清水寺も同様に北法相宗として独立し、現在は興福寺と、薬師寺が総本山となって残っている。
高島屋のビル・横浜駅のそばにある横浜高島屋の事。
香典・仏式の葬儀で、死者の霊前等に供える金品の意。香料という言い方もされる。
法相宗・仏教の宗派。中国創始の仏教の宗派のひとつ。唐の時代、玄奘三蔵〔602〜664〕がガンダーラ寺院から帰国し、広めた。日本には653年に、玄奘三蔵の弟子となった日本の僧 道昭〔629〜700〕によって広まった。1882年〔明治15年〕、興福寺・薬師寺・法隆寺の3寺が総本山となったが、第2次大戦後、法隆寺は聖徳宗と改名して離脱し、京都の清水寺も同様に北法相宗として独立し、現在は興福寺と、薬師寺が総本山となって残っている。
高島屋のビル・横浜駅のそばにある横浜高島屋の事。
香典・仏式の葬儀で、死者の霊前等に供える金品の意。香料という言い方もされる。
薬師寺・法相宗の総本山の一つ。世界遺産。奈良県奈良市西ノ京町にある寺。天武天皇9年〔685年〕に天武天皇の発言により、建てられた。1998年〔平成10年〕に、ユネスコの文化遺産に登録された。なお、新薬師寺という寺があるが、その寺は関係がない。
菅主・法相宗のトップ。薬師寺のトップとも言える役職。僧侶の中では高僧と呼ばれる人の事を指す。
座主・天台宗のトップ。比叡山延暦寺のトップ。平安時代などの座主は、皇族や、貴族から輩出された者がなる事があった。
脊髄・背中にある神経管の事。
反射・動物の生理作用のうち、特定の刺激に対する反応として意識されることなく起こる現象の事。脊髄で出される。
神道・日本古代からあった宗教。日本固有の多神教宗教である。皇室はこれに属し、天皇がこれのトップである。神社はこの神道に属している。
古代エジプト・エジプト文明の事。紀元前3000年からローマ帝国の支配下に置かれるまでの事を言う。
インカ帝国・南アメリカにあった国の事。1438年から1533年まで存在した。ペルーや、ボリビア、チリの一部、エクアドルの一部に領地をもっており、クスコの街が首都だった。マチュ・ピチュもそうであったとも考えられている。1526年、スペインの征服者 ピサロ〔1470?〜1541〕により、最後のインカ アタワルパ〔1502?〜1533〕が殺され、滅亡した。文字をもたない国家であったため、今なお、研究されている。
古代マヤ・マヤ文明の事。メキシコ・グアテマラの辺りに存在した国家。暦を完成させた国家の一つでもある。ここも、考古学者により研究されている。
アステカ・アステカ文明の意。アステカ帝国の意。1325年から1521年まで存在した。メキシコを中心に栄えた。1517年頃からスペイン人が上陸するようになり、1521年、スペイン人によって滅亡した。この跡が、メキシコの首都 メキシコシティーにて残されている。
箱根・神奈川県にある地名。箱根温泉で有名。関所などが置かれた事でも有名。東海道の宿場町であったが、箱根の山を越える事はとても危険であったのだという。歌川広重〔1797〜1858〕が、東海道五十三次の中で、箱根を描いている。
生贄・神への供え物として、動物を捧げること。
輪廻・仏教やバラモン〔ヒンドゥー教〕の経典にある考えで、人が何度も転生し、また動物なども含めた生類に生まれ変わること、また、そう考える思想のことを指す。
因果応報・仏教の経典に書かれている考えで、善い行いが幸福をもたらし、悪い行いが不幸をもたらすとするという考え方である。神によって決められ、ここで輪廻の生き物が決められるとされる。
遺影・亡くなった人の写真の事。
霊柩車・故人の棺を乗せる車の事。故人を乗せる車。
これで終わりです。21エモン ①はこれで終了です。②③もまた、作りたいと思います。これまでご覧いただき有り難うございました。次は「キテレツ大百科・昭和の間違い」を作りたいと思います。お楽しみに。
②③もお楽しみに。
- Re: 21エモン〜夢の旅路〜①あとがき ( No.28 )
- 日時: 2011/03/20 04:41
- 名前: 上野宝彦 (ID: ieojggCq)
21エモンと言う話は私の一番大好きな藤子漫画である。だから、書きたいと思うのである。
私が21エモンという話に出会ったのは、小学5年生の頃の21エモンのエンディングからであった。あの、21世紀の恋人という曲を聞いた途端、21エモンと言う知らない漫画を見てみたいと感じるようになり、ユーチューブなどで調べた。幸い、そこの中に21エモンが1話から最終話まであったため、全部の話を見た。すごく面白く、感動する話であった。今までで一番面白かったと言えた。だが、この作品はマイナー漫画の一つとして数えられる。藤子作品の中でもそんなに人気がない作品のひとつなのだという。だが、私はこの話が一番好きだということをここで表明したいのである。
21エモンが暮らす世の中が、今、近づこうとしている。科学の進歩・技術の進歩があってこそ、この様な事が起きるのであろう。
この話では、テレビ版の21エモンを重視して作った作品である。沢山の人が出てきたがどうであったか。
そして、単なる願いであるが、21エモンのDVDを私は希望している。もう1度、21エモンが見れる自由な世界へなればいいといつも思っている。
平成23年 3月 上野宝彦
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