二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

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テニスの王子様〜年下彼氏の事情〜
日時: 2012/02/25 19:32
名前: It (ID: QYM4d7FG)



「ねえ起きてくださいよ」
「ねえったら」
夢の中の幻聴—、それは毬の如くどこへかぶつかって
頭の中にこだましている。
「起きないとちゅーしますよ」
「はっ」
私はその一言に飛び起きた。
上を見れば煩わしげな日吉が乗っている。
「ぬわわわわわわわわわわわわわひよ何やっとるそんな心の準備が」
「何言ってんですか。あなたから乗ってきたんでしょう」
そうだった。
私はすべてを思い出して、そっとテレビ画面の方を見る。
ぎゃっちょうど何か出てきてる。私は顔を戻し、何も見てない何も見てないと記憶の忘却を図る。
ああ、あの日誘われた時になぜわからなかったのだろう。
「明日は俺んちで映画でも見ましょうよ。もこさんに見せたいものがあるんです」
「面白いやつ?」
「面白いやつです」
あの時、日吉の顔の嬉しげな微笑の意味に気付けばよかった。
まさかその映画が話題のホラーで、2人で地獄の(日吉だけは天国だったが)
2時間半を過ごすことになるとは思いもしなかった。
そうだちょうど映画を見て1時間が過ぎた時、あまりにも怖すぎて
音と映像から逃げ惑ううちに、私は日吉の胸に飛び込んだのだ。
最初日吉は「何やってんですか」とか「これくらい序の口ですよ」なんて
意地悪を言っていたのに、しばらくすると何も言わないで頭を撫でてくれたから、
すっかり安心して眠ってしまったのだ。
そうだそうだそうだったのだ。
ん?そうすると、おかしなことが一つある。
「ひよ、私あんたの上に乗ってはいないよね?」
これに日吉は苦い顔をした。そうして黙っている。
「え?もしやそれってあなた私の眠った隙にもしや」
「…ふん、これからだったんですよ」
日吉は飽き飽きしたように息を吐いて
「まあチューはさせてもらいましたけど」
「なっ」
と恐ろしいことを言った。
「なんという中2だ…中3の私があほに思えるくらい狡猾なやつだ人の寝ている隙に
大事なものを奪うなんて」
「人聞きの悪いことを言わないでください!これからだったって言ってるでしょう。それとも」
日吉はふいににやっとした。
「今から始めます?」
これに私は顔から音が出そうだった。
まったくなんて中2だ。なんという後輩だ。
これが
私の年下彼氏なのだ。




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Re: テニスの王子様〜年下彼氏の事情〜 ( No.6 )
日時: 2012/02/25 19:45
名前: ItsO (ID: QYM4d7FG)


 
そのまま跡部についていった先は、
なんと2−1の教室であった。
今は体育も終わり女子が詰まっている。
がららららら
「きゃあああああああああああああああああああああああ」
そこを何のためらいもなく開けるこの男!
「ひいいなんつーやつだ…」
「ふん、黒装束着てうちのレギュラー追っかけまわすお前には負けるがな」
ぐぬっと、私は次の語を失った。
跡部は淡々と顔を赤らめる女子の間を縫い、日吉に近づいた。
「おい日吉、お前彼女にジャージを貸したのか」
日吉は冷然としている。
「そんなことをした覚えはありませんけど」
「でもそこの女が泣いてたぜ?」
跡部が親指で示す先に、だれもいなかった。
私はロッカーの陰で隠れていたのだ。
ところがあの意地悪日吉には分かってしまう。
「…あの人には困ったものですね」
と厚い本を閉じ、ちらりと私を見やった。
(ああああああああ早くこの場から消えたいロッカーくさいいいいいい)
私の心中は爆発寸前だった。
と、そこで美しい顔が、突如この密室を覗き込んだ。
「ふん。まあ貸したのは事実なんだろう。彼女がいるくせに
ジャージを貸しちまうのはいけねえよな」
跡部はにっと笑って、
「こいつは借りていくぜ」
いきなり私を抱きかかえた。
それも御姫様だっこだ。
周りからは一斉に悲鳴が聞こえる。
「跡部様いやああああああああああああああああああああああああああ」
この悲鳴に私の耳はしばらくつんざかれていた。

Re: テニスの王子様〜年下彼氏の事情〜 ( No.7 )
日時: 2012/02/25 19:46
名前: ItsO (ID: QYM4d7FG)


 
そのままお姫様だっこで連れられた先は生徒会室で、
彼は私をソファにおくなり紅茶の支度をしてくれた。
今は授業中だというのにこの余裕。
跡部様に恐れるものはないのかと疑いたくなる。
「あの跡部様私がやりま」
「ふん、てめーに茶葉の置き時間がわかるのか」
私の口は静まった。
「分かりません…」
「だろう。いつもは書紀だの会計だのにやらせるんだが、今は授業中だからな。
キング自らがやってやる。光栄に思え」
「はい跡部様」
私は真紅のソファに靴を脱ぎ足を伸ばして、ただ跡部様の優雅な
手さばきを見守った。キングは茶葉を選びつつも問いかける。
「で、お前は何であんなに荒れてたんだ。このキングに話してみな」
私はうぐうと詰まって後、ぺらぺらと語りだした。
この跡部という男は派手好きでイケメンのリア充とばかり思っていたが、
その実人情味もありそりゃ日吉が悪いなとまで言ってくれた。
「ふうん、話は分かった。もこ、この俺様が協力してやるよ」
全部を聞き終えると、跡部はわずかに笑んで告げた。
「協力って、何をどうするの?」
「要するに女にジャージを貸そうと悪びれない日吉を、反省させりゃあいいんだろう。
俺が協力してやるよ」
跡部様はそう言うなり、ソファに横たわる私に
のしかかってきた。
この汚い顔には跡部の顔が
これでもかと近づけられている。
「ひいいいいいいいいいいいいいいい」
思わず悲鳴を上げるが誰もこない。まずい。綺麗な紅色の唇がつやめかしい。
「何すんのよ跡部様のあほ!」
「黙ってな」
「ふ…」
反抗を試みたが跡部様の唇が首筋に触れて力が抜けた。
ガラリ 
そこで、生徒会室のドアは一瞬で開いた。
「…何やってんですか部長」
そこには日吉が、唖然とした表情で立っていた。
日吉はしばらく私を見、顔を背ける。
「へえ、そういうことですか」
そしてそのうつむいた顔で、これだけ発して消えてしまった。
「日吉!違うのこれは無理やりっ!」
私が泣いて叫んでも日吉は戻ってこない。
上に乗る跡部はにんまりとしている。
「作戦成功だな、もこ」
「作戦成功!?ってそんな訳ないでしょバカ!」
「あーん?少なくとも今日吉は俺に嫉妬してたぜ?
お前のことも殺そうと思ってたし」
「ひっころそ…!」
あまりに恐ろしくて震えが止まらないでいると、跡部は
美しすぎる微笑で宣誓した。
「これで俺とあいつの火ぶたは切られたな」
そう、跡部はもこを利用し恋のラブゲームを始めようとしていたのだった。

Re: テニスの王子様〜年下彼氏の事情〜 ( No.8 )
日時: 2012/02/25 19:47
名前: ItsO (ID: QYM4d7FG)



跡部によるラブゲームは執拗だった。
毎回休み時間になると私を呼びに来、
わざと腕を組んで2−1を通ったりした。
あるいはいやらしく2−1前の廊下でずっと
おしゃべりの聞き役にされたこともある。
私は何度もそれを回避しようとしたが、
「あーん?日吉を反省させるんじゃなかったのか?」
そう言われれば抵抗もむなしくなった。
何より私が逆らうことで、
部活で日吉が追い詰められたら思うと何も出来なかった。

そんな傲慢で強権的な男なのに、
時々は優しかった。
生徒会室で手ずから紅茶を入れてくれたし、
学校の愚痴も、残らず聞いてくれた。
「ふん、キングは下々の話に耳を傾けねーといけねえからな」
そんなことを言いながら宿題も見てくれた。

しかし一番大切な日吉の機嫌はますます悪くなっていった。
メールを何度しても返ってこない、電話もダメ、
下駄箱にいれた手紙もダメ。

「はああ…跡部様に手伝ってもらったはいいけど、やりすぎだよお。
どうしたらいいんだよう」
帰りのミーティングも終わり、私が廊下で頭を悩ませていると、
「おいもこ!ついてこい」
とまた跡部様に声をかけられた。
わざわざうちのクラスが終わるまで待っていたらしい。
跡部様は私の腕を引っ張ると2−1へ連れ出した。
2−1もちょうど鞄を持った男女がドアから帰っているところだった。

その時、私は日吉を見た。
日吉も私を見た。その後ろには、美しいエミリが、ほほ笑んでいた。

Re: テニスの王子様〜年下彼氏の事情〜 ( No.9 )
日時: 2012/02/25 19:49
名前: ItsO (ID: QYM4d7FG)



外は蒸し暑い小雨模様だった。
シダに雨粒が降って転げていく。
そこを颯爽と通っていくのは、
日吉とエミリのカップルだ。
道行く人はその美男美女ぶりに目を驚かすし、
2人はわりあいいい雰囲気で会話している。
時々笑いあったりもしてる。
あの天上天下唯我独尊日吉が笑うのだ。
きっと心を惹かれかけているに違いない。

黒装束を着、下校途中をこっそりつけてきた私には
雨がきつかった。
5月といえ温度は急激に下がって、
この薄い衣がぺったりとボディに張り付いてくる。
腹と足がじんわりと冷える。

それでも私は偵察を続けた。
と、そこで日吉がおもむろに鞄を開け、
傘を取り出した。
雨がひどくなってきたからであろう。
渋めの深茶の傘を開け、
その中にエミリを入れる。
エミリは幸福過ぎて今にも死にますくらいの
表情でよろこんでいる。
日吉も笑う。
「そんなに大したことじゃないだろ」
「だって…嬉しくて」

私は、もう息がつまりそうだった。
街路樹のひとつになってこの様を見届けていたが、
もう全部終わりにしようかとさえ、考え始めた。

降りしきる雨の中で、初めて日吉とであった日が懐かしく思われる。
あの日、テニスコートの前をたまたま通っていた私に、日吉のボールが
命中したのだ。そう、まるで運命みたいに。
それで私をお姫様だっこしてくれて、
保健室に連れていってくれて、それから。
一緒にご飯を食べたり日吉の家に行ったり、
初めてのキスは上手だったのがむかついた。
2人でホラーを見ている時、私は怖くて目を伏せていた。
その折にキスをされた。
目を開けたら照れてそっぽを向く日吉の顔があった。
冗談でもう1回とねだったら「これ以上すると止められなくなるから」と、
またそっぽを向いたのだった。

その日吉はもういないのだ。
相合傘なんてして、街路樹の果てに消えていく。
その傘に私は入れない。
ただ濡れそぼるだけだ。
日吉は結局、最後まで後ろを見なかった。




Re: テニスの王子様〜年下彼氏の事情〜 ( No.10 )
日時: 2012/02/25 19:50
名前: ItsO (ID: QYM4d7FG)



日吉はエミリを送ると、自分の家の方へ歩み始めた。
別れたのが幸いだった。そうでなかったら
きっと私は発狂していたろう。

彼が家の前まで来た時、私はもうびしょぬれだった。
それでも木の陰へ必死に隠れている私へ、日吉は溜息をついた。

「寄ってきますか?」

顔を向けず、強い調子で言いきられた言葉に、私は思わず頷くしかなかった。

日吉の家にご家族はいなかった。
和風の大きな家の造りに緊張する。
日吉は私をお風呂場へと案内し、自分の大き目のシャツをタオルと用意してくれた。
お風呂もヒノキ張りで気持ちがよかった。
でも人の家だと思うとのんびりはできなかった。
ドアの前には日吉もいるのだ。

すぐに上がって、日吉の与えてくれたシャツを羽織る。

そうすると日吉が強い力で私の腕を引いて、
自分の部屋に連れていく。

「あんたは鬼だ」

そうしてベッドに押し倒しておきながら、こんなひどいことを言う。
目を背ける顔が紅潮している。
なぜだか私は涙があふれてきた。

「ひよ…どうしてそんなこと」
「あんたが部長と一緒にいた時、俺がどんなに苦しかったか。
気も狂いそうになっていたか…!分かりもしないんだろう、あんたは」
「そんな!ひよ…んっ」
突如強い力でキスをされる。
普段おとなしい、柔らかな唇は強く激しく私を求めてくる。
「ひよ!いやよ!」
「ダメです、…もう離さない」
日吉は私をぎゅっと抱いたまま、静かに言い放った。

耳元にかかる生暖かい吐息で、思わず我も忘れかける。
日吉は私を見つめ、またゆっくりと顔を近づけた。

その時だった。
「はっははははははははははははは」
日吉邸の中庭へ、ヘリの近づく音がしたのは。


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