二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【東方】幻想郷放浪記【オリジナル】 ( No.74 )
日時: 2011/01/04 02:23
名前: 昨日の今日 ◆7LxmAcs00. (ID: lBubOowT)

走り続けた。
あれからどれぐらい経ったのかなど分からない。行き先など知るはずがない。
自分でも馬鹿だと思っている。こんなことをするなら慎重に探したほうがいい。
しかし走り続けた。


そして、さとりを見つけた。


名前を呼ぼうとする。しかし喉が枯れてうまく発音出来ない。
足は前へ前へ進む。それと同時に身体が倒れようとする。
どうしようもなく疲れているらしい。身体が悲鳴を上げているのが分かる。
——頼む、もう少しだけもってくれ——!

「ゴ———ル♪ おめでとー。ぱちぱち」

さとりの側に誰か立っていた。
銀色の髪の毛に黄色を基調とした服。頭には黒い丸帽子
そして身体にまとわりつくような、瞳を閉じた『第三の目』

「ご褒美になにあげようかな?お姉ちゃん?それともおじさんの仲間?どれがいい?」

昔の出来事で瞳を閉じ、無意識に干渉する力を手に入れた、古明地さとりの妹——古明地こいしだった。

「それともー」

間延びした声。緩やかな腕の動き。
まるで何かを受け入れるように真っ直ぐと両腕を横に伸ばす。

「——わ・た・し?」

瞬間、目の前からこいしが消えた。
それを認識したと同時に、俺は横に吹っ飛ばされた。

「が、あ……!?」

空気が肺から絞り出される。
咳き込む暇もなく、こいしはいつの間にか近づいて、今度は腹部に拳を入れた。

「だーめだなぁ。全然駄目。そんなボロボロの身体でなにするつもりだったの?」

答えることができない。というより答えられない。
こいしは俺の口を思いっきり掴んでいた。
もっとも、答えようとしても喉が枯れて出ないだろう。

「まったく。どいつもこいつも全然じゃない。まあちょっとだけやばかったのは勇儀かな?」

そういえば勇儀は。タイムは。お空は。お燐は。
辛うじて動かせる目で辺りを確認する。しかし人影は見えなかった。
こいしは歌を聞かせるように言う。

「こいしね、ホントはおじさんのことも嫌いじゃなかったよ? でもお姉ちゃんたら『おじさん』って恋した少女みたいに言うんだもん。それは駄目。お姉ちゃんが愛していいのは私だけ。だってそれは生まれる前から決まってたんだもの。お姉ちゃんが私を愛して、私がお姉ちゃんを愛する。これは必然なの。だからおじさんはここで排除しなくちゃいけないの」

こいしは無邪気な子どもの様な顔をする。それは美しくもあり、同時に寒気を覚えさせる顔だった。

「でもやっぱおじさんを消すとお姉ちゃん悲しむかなぁ。お姉ちゃんが悲しんで悲しんで心を閉じちゃ駄目だからね。だったらおじさんはペットかな? あは♪ いいねそれ! お姉ちゃんペット大好きだもんね!」

こいしの独り言はだんだんと誰かに話すように大きくなっていく。

「え? それでも駄目? んーじゃあどうしようかなぁ……それなら兄にしたらどうだって? 駄目だよそんなの。おじさんが盛ってしちゃったらどうするの? ダメダメやっぱペットだよ!」

動けない。動かせない。
相手は見た目10歳ぐらいの少女なのに、そこから出される力は大きかった。

「ねえおじさん何がいい? ペット? 愛玩動物? それともやっぱ死んじゃうか! ねえねえどれがいいの? ねえってば」

顔を近づけてくる。
答えられないのを知っていて聞いているのか、それとも本当に分からずにやっているのか分からない。

「ねえおじさん。——ねえってば!!」

そして俺は、口を掴まれたまま投げられた。

「がはっ……ごほ、ごほ!!」
「咳き込む余裕があるなら答えられるよね? なんで答えないの? もしかして口も聞けない家畜に成り下がった? ねえはやく答えてよ、お姉ちゃんが待ってるんだからさぁ」

こいしは何か言っているが、もはやなんと言っているのか聞き取れない。
立ち上がろうとするが、身体がボロボロで力が入らない。


——そこにさとりがいるのに。

——もう少しで助けることが出来るのに。

——ここで俺は終わるのか……?


ふざけんな。俺はこんなことでくじけるような男じゃないだろ。
しっかりしろよ俺!そんなところで転んだままでいいのか!
テメェが言った約束ぐらい——テメェで守りやがれ!!このボケが!

「——ねぇ」
「なに? 聞こえないからもうちょっと大きく言っ——」


「どれにもならねぇっつったんだよ!! いいか、俺はお前も含めて解決する! こんなくだらねぇ異変なんざ、一発で解決してみせる!」

だから、

「だから、ちったぁ頭冷やせこの石頭!」


「…………ぷ、あはは! こいしだから『石頭』! なるほどなるほど!それは面白いね!」

しばらく笑っていた。本当に可笑しそうに。
そして、

「——あーあ、おじさんにはガッカリだね。折角生きていけるチャンスを無駄にしたんだから、さ」

耳元で声がする。
慌てて身体を横に向けたらこいしがそこにいた。

「久しぶりに笑わせてもらったけど、それでも529点だね」
「何点満点中だ?」
「んー、それは秘密。まあ満点目指して、元気に足掻いてみせてよお・じ・さ・ん?」

——来る!
俺は身体を捻るようにして回避をし、そのままのスピードでこいしに拳を放った。
その攻撃をこいしは回避。次に足払いをしかけて来た。
それを無視して攻撃をする。こいしはこの動きに予想をしてなかったのか回避する為に身体を動かす。
そこを俺は狙った。
覆い被さるようにこいしにタックルをする。
地面に激突する。俺もただでは済まないが、こいしもただでは済まない。

——はずだった。

「あっぶな。能力使わなかったら絶対気絶してるよ」

俺がタックルしたのはそこら辺にあったガレキのようで、こいしは俺のすぐ横にいた。

「面白いね。だったら今度はこっちの番だよ」

こいしが手をかざす。
次の瞬間には地面と顔が激突していた。

「——!!?」
「私は無意識を操る。おじさんの無意識を操ればこんなことも出来るんだよ?」

次に、こいしは横に手をかざす。
俺は倒れたままの状態で転がった。
周りは石があったから身体にかなり衝撃が走った。
どういう理屈か知らない。
一体どうすれば、皆が笑って終われるというのだろうか。







どうもです。
VSこいし前編です。かなり長くなってしまいました。
この後続きを書きますので、その時にコメントなど返させていただきます。
ではではー。

Re: 【東方】幻想郷放浪記【オリジナル】 ( No.75 )
日時: 2011/01/04 03:00
名前: 昨日の今日 ◆7LxmAcs00. (ID: lBubOowT)

「わからないでしょ? 人間っていうのは正体が分からないものに恐怖を感じるもんだけど……おじさんはどうかな? 怖い? はやく降参しなよ。そしたら楽に死ねるからさぁ!」

身体がぎしぎしと軋む。脳も上手く働かない。
しかし俺は立ち上がった。
もう目がぼやけてよく見えないが、それでも相手を見据える。

「わおわお、まだ立ち上がるんだ! すごいねぇ人間にしてはよく頑張るよ!」
「あ、たり、まえ、だ……俺は、俺が、出来ることを、するまでだ」
「その気合は買ってあげるよ。でも、身体も追いついてないと駄目じゃない」
「へっ……よく、言うもんだ。お前も、色々、限界なんじゃ、ないか?」
「…………まっさかー。そんなわけないじゃんか!人間とは身体の出来が違うんだから!」


——じゃあなんでお前はそんなにフラフラしてんだよ。

——なんでそんなに服がボロボロなんだよ。

——なんでそんなに——泣きそうなんだよ。


「そうかい……今度は、こっちから、行かせて、もらう!」

俺は真っ直ぐこいしに向かって走る。
我ながらよく走れたもんだと思う。
こいしもそう思ったんだろう。こちらに向かって手をかざしてきた。

しかし遅い。

俺の拳はこいしの胸に突き刺さった。




——あれから数秒が経った。
俺とこいしはそのまま硬直し、動いていなかった。
1秒、2秒、3秒……。
動いたのは俺の身体。


しかしそれは決して立ち上がる為ではなく。

地面に崩れ落ちていくように動いたものだった。


「あ、は……」

こいしは乾いた笑い声を出す。

「は、はは……あはははははははははははははは!!!」

本当に可笑しそうに。まるで無邪気な子どもが笑うように。
腹を抱えて笑うこいしがそこにいた。

「はははははははは!!! あははははははは!! あはははははははははははははは!!」

俺の身体はピクリとも動かない。
ただこいしの笑い声だけが耳に響いた。




「はーっはーっ。ははっ、はぁー……」

笑った。久しぶりに心の底から笑えた。
なんて人間っていうのは儚いんだろう。なんて人間っていうのは脆いんだろう。
その答えを知っているのは恐らく神様だけだろう。
でもそんな事はどうでもいい。


何故なら、私はもうすぐいなくなるのだから。


数日前、私はおかしな人間に出会った。
『お姉ちゃんと一緒にいたいか』……確か、こんなことを言われた気がする。
私は勿論肯定した。お姉ちゃんは私にとっての母親みたいなものだったから。
その人間は、『じゃあおまじないを掛けてあげよう』と言って私の頭に触れた。
そこから様々な知識が入ってきた。
どうすればお姉ちゃんといられるか。どうやればお姉ちゃんの気を惹けるか。
勿論、邪魔者を排除するための知識も入ってきた。
人間はこういった。『どうしても邪魔者を消したいときだけ、それを使うといいよ』
そういって、人間は消えて行った。

私がおかしくなったのは、多分その頃だ。
お姉ちゃんの気を惹くためあらゆる手段を使った。
例えお姉ちゃんを傷つける行為だとしても。

けど、お姉ちゃんは突然現れた人間に恋をした。
許せなかった。私がお姉ちゃんを振り向かせられないのに、あの人間は簡単にやってのけた。
だから私は『あの知識』を使った。
それが自分の身体を蝕む行為だと知ったのはいつだったか。

それがこの結果だ。
おじさんを殺す気なんて最初から無かった。だって殺す前に自分が消えるんだから。
……あーあ、なんて馬鹿な事をしたんだろう、私。
こんなことになるなら、皆と一緒に楽しめば良かった。
もう少しお姉ちゃんと触れたかった。


そして——おじさんともっと話をしてみたかった。


身体がだんだん軽くなっていく。もうすぐ消えるみたい。
なんて呆気無い最期なんだろう。
でも仕方ない。私が引き起こした異変なんだから。

でも——


——やっぱり、怖いな。


「おねえ、ちゃん……」



——ポツリと漏らした最期の言葉は。
——ただ虚空へと消えるだけだった——








VSこいし後編です。
エピローグはまた後日と思ったのですが、そうするとまたいつになるか分からないのでこのまま書きます。
もう少しだけコメント返しをお待ちください。
それではー。