二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 泡沫の影 * 空梨逢様 風丸夢リク ( No.146 )
- 日時: 2010/08/24 20:54
- 名前: 烈人 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)
★
【泡沫の影】
「本当に、いいのか」
何度目かすら数えるのも億劫な風丸さんの問いかけに、わたしは躊躇うことなく頷いた。もう、覚悟は決まっているんだ。今更揺らぐはずなんてない。
「……そうか」
わたしの無言の返事に、風丸さんはどこか哀しそうに寂しそうに浅く笑った。どうしてこんな表情をするのだろう。ぼんやりとそんなことを考えてみたけれど、結論など出るはずがなかった。
そろそろだな。風丸さんは続けてそういって、先程とは打って変わった楽しそうな笑顔を浮かべた。
やっぱり風丸さんには、そんな笑顔のほうが似合う。ぼんやりと、改めてそう思った。
* * *
追い詰めたのはおまえ達だろうに。ダークエンペラーズとして現れたわたし達に向かって色々な言葉を投げかける、メンバーががらりと変わった雷門イレブンにそう吐き捨ててやりたい気分だった。
『どうして』なんて、何故聞くのだろう。そんなこと、おまえ達だってわかっているだろう。それともやっぱり、光としてて輝き続けている者達には影となって苦しんでいる者達の苦しみはわからないのだろうか。
みんな、苦しんでいた。風丸さんも、半田さんも影野さんも松野さんもみんなみんなみんな。
自分にもっと力があれば。そればかり考えて、どうして自分はこんなに弱いのだろう、どうして他の人達みたいに強くなれないのだろう、そう永遠と繋がっていく負のループ。
自己嫌悪ばかりが募り、苛立ちと焦りが生まれる。強くなりたい。心の底からそう思って、それでも簡単に強くなれるはずなくて。壁に突き当たって、けどひたすら足掻いて。
先に待っているものは、絶望だけ。ねえ、円堂さん。光として居続ける円堂さんに、この気持ちはわかるのですか?
「……風丸さん」
「……どうした?」
苛立ちだったり怒りだったり哀しみだったり呆れだったりが襲ってきて、わたしは円堂さん達と対立して何かを喋っていた風丸さんに声を掛けた。特に煩わがる様子もなく、風丸さんはわたしのほうを向いてくれた。
「絶対、勝ちましょうね」
新たに決意を含ませて、そう言う。<エイリア石>に手を出し、わたし達は必死に練習をして強くなった。たくさん努力したということもあるけれど、道具に頼ってしまったのだから尚勝たなければいけないのだ。
これで負けてしまったら、折角のみんなの決意が無駄になってしまう。だから絶対に、勝つんだ。
「……ああ」
風丸さんはわたしの言葉に不敵な笑みを浮かべて、そう返してくれた。返事は短かったけれど、風丸さんの目が物語っていた。深い哀しみを湛えたような風丸さんの瞳がゆらゆらと揺れ、やがてそれは円堂さん達へと向けられる。
絶対に、勝つ。何も言わなくても、それだけではっきりとわかった。
——わたし達は、負けるわけにはいかないんだ。
* * *
- 泡沫の影 * 空梨逢様 風丸夢リク ( No.147 )
- 日時: 2010/08/25 16:00
- 名前: 烈人 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)
風丸さんはわたしにベンチだといった。確かにわたしはマネージャ−だけれど、その前に選手でもある。わたしも今まで頑張ってきたのに、どうしてベンチなのか。風丸さんにそう尋ねると、風丸さんは何も言わずにただ哀しげな微笑みを返してくれただけだった。
そしてわたしは今、目の前で行われている雷門対ダークエンペラーズの戦いを眺めていた。ぼんやりと、それでいてしっかりと。時折感情に呑まれそうになるのをぐっと堪えて。ダークエンペラーズが、押していた。当たり前だ。わたし達はたくさん努力したのだ。練習したのだ。強くなるために、頑張ったのだ。負けるはずがない。
一瞬、自分も試合に混ざりたいという感情に負けそうになり、しかしそれを必死に押し殺す。風丸さんが言ってくれたんだ。何も考えなしで風丸さんがそんなことを言うわけない。何か理由があるはずなんだ。
その想いへ気がそれた数秒、わたしは上の空だった。審判が吹く甲高い笛の音で、はっと我に返る。ファール? とすぐにグランドに視線を走らせた。
「……彩華、交代だ!」
脚を押さえてうずくまっている影野さんが目に入ると同時に、わたしの名前が呼ばれた。どうやらおかしな激突でもしたようで、向こうのチームの小柄な少年も脚に手を当ててうずくまっていた。
風丸さんに名前を呼ばれて、返事をして小走りですぐにグランドのほうへと走っていく。脚を負傷し風丸さんに肩をかりながらベンチへと向かっていく影野さんとすれ違っていく時、短い会話を交わした。
「……頑張ってね」
「はい。絶対に勝ちます、影野さんの分まで頑張りますから」
それだけの会話だったけれど、わたしの決意を強めるには十分すぎるものだった。頑張らなければ。意気込みながらわたしはポジションの場所へと歩いていく。
ベンチへと影野さんを送った風丸さんが小走りで自らのポジションの場所へ戻っていく。試合、再開だ。
* * *
「本当は、お前を試合には出したくなかった」
試合中、風丸さんとすれ違った時。耳元でそう呟かれて、思わず試合に集中することも忘れて周囲を見渡した。けれどその時は風丸さんはもう大分上がっていて、聞き返すことはできなかった。
『試合には出したくなかった』。何故、何故風丸さんはそんなことを言うのだろう。何故、どうして? 何度も『本当にいいのか』と聞かれて、その度にわたしはしっかりと答えてきた。
もう決意はできている、と。なのにどうして風丸さんは、わたしを試合に出さないようにしたのだろう。結果としてわたしは試合に出たわけなのだけれど、風丸さんはもし影野さんが怪我をしなかったらわたしをずっと試合に出さないつもりだったのだろうか。
どうして。……いや、そんなことよりも今は試合に集中しよう。試合に集中するんだ。絶対に勝たなければいけないのだから。
「……ッ!」
一之瀬さんが、わたしの前方に見えた。思わず上の空になってしまっていて、先程まで気付かなかった。
だめだ、こんな様子じゃ。気を引き締めて、思い切り走りこんでいく。風丸さんの速さには追いつけないだろうけれど、わたしも必死に努力したんだ。それなりに速いという自信はある。
一之瀬さんがわたしに気付いてパスを出そうとする。止まったその瞬間にさらに加速して、スライディング。
どうやら加速をしてくるとは予想してなかったらしく、いとも簡単にボールを奪うことができた。スライディングにより弾かれたボールは大きく跳躍し、半田さんが受ける。そして風丸さんへパスをする。
風丸さんは相手の陣地へ走りこんでいく前に、わたしのほうを見た。一瞬戸惑ってしまう。どうして風丸さんがわたしのほうを見る必要があるのだろうか。
そう疑問に思ったのは数秒のことで、どこか哀しげでそれでいて優しい風丸さんのわたしに向けられた笑顔を思い出して、ばらばらに砕けていた疑問が収縮され、やがて一つの結論にたどり着く。
ああ、風丸さんは——わたしを完全にダークエンペラーズに引き込ませたくなかったんだ。わたしが完全にエイリア石に取り込まれることに、抵抗を覚えていたのかもしれない。
なんだか、わかる気がする。風丸さんにとってわたしがどんな存在なのかはわからないけれど、少なくともわたしが風丸さんと一緒に過ごしていて感じたのは、この人には光が似合うということだった。
光として、輝いてほうがきっともっと綺麗だ。そんなことを思うことが、何度かあった。それと、同じ感情なのかな。それともこんなことを思うわたしは、自意識過剰なのかな。
風丸さんが時々浮かべる哀しそうな寂しそうな微笑は、わたしをダークエンペラーズへ引き込もうとしていることへの罪悪感からだったのかな。もしかすると、わたしは思い違いをしているだけかもしれない。
風丸さんはよく言っていた。『本当にお前をダークエンペラーズに入れてよかったのかな』と。その度にわたしは『当たり前ですよ。わたしから望んだことなんですから』と答える。
理由はどうあれ、風丸さんはわたしがエイリア石に手を出すことを望んでいなかったのだろうと、ぼんやりとだが予測することができた。
ダークエンペラーズが二点目を入れたと同時に、前半終了の合図が鳴った。
* * *
「勝てる」
嬉しそうな、勝ち誇ったような笑みを浮かべて「やっと俺達は強くなれたんだ」とそう話しているメンバー達を見て、改めて円堂さんやその他のチームの皆さんに呆れてしまう。
力があれば、きっとみんながこんなに傷つくことは無かったのに。力が無かったら、みんなこうなった。力を求めて足掻き続けて、傷ついた。そうやってみんなが苦しんでいる間、他のチームメイト達は何をやっていたというのだろう。
必ずエイリア学園を倒してくるから。そんな約束なんて、正直どんな意味も無い。倒してくるから、どうなるのいうのだ。それでただ眺めていることしかできない自分達が強くなれるとでもいうのか?
望んでいるのはエイリア学園を倒すことじゃない。自分に力があれば自分達も一緒に戦えたのに、そんな自己嫌悪の元凶となった<力>なのだ。
「彩華」
雷門イレブンをほうを見据えながら晴れない思考のままそう考えていると、風丸さんに声を掛けられた。
風丸さんはわたしに手招きをしていた。そして振り返り、グランドから離れて歩き出す。まだ時間はある。わたしもすぐに小走りで風丸さんの後を追っていった。
「ごめんな」
少々グランドから離れた場所で自然と向き合う形になり、そうしていると風丸さんにそういわれた。一瞬思わず戸惑ってしまうが、その言葉は試合中のわたしの考えに当てはまるものなのだと理解する。
「……どうして謝るんですか?」
「お前は、……彩華は、エイリア石に本当に手を出してもよかったのかな、って思ってさ」
「……わたしは言いましたよ? わたしがそれを望んでるんですから、風丸さんは気にしないでください」
まだ、気に掛けてくれていたんだ。嬉しさのようななにかよくわからない感情が込み上げる。
微笑んで、風丸さんにそう言葉を返す。風丸さんは、「ごめん」ともう一度繰り返した。
「もう謝らないでください。……それに、もう後戻りはできないんですから」
「……そうだな。でも、お前たくさんの友達がいるだろ。本当に、良かったのか」
それを、ずっと気にしていたのか。その問いかけは、わたしが始めて聞く内容だった。ダークエンペラーズとなって、友達からのけ者にされるんじゃないかとか、そんなことまで考えてくれていたのだろうか。
思わず、「有難うございます」と口に出していた。それでもやっぱりダークエンペラーズに入ったのはわたしの意志で、それにわたしの友達はそれぐらいでわたしを差別なんかしないだろう。ぼんやりと思い浮かんだ友達が懐かしくなったけれど、あいつらならきっとこんなわたしでも迎えてくれるんだろうと思う。
「……風丸さん、もう試合は始まりますよ。戻りましょう」
ベンチのほうから半田達が手を振っているのが見えたから、どうやらもう休憩時間は終わりなのだろう。有難うございますを返事としておいて、わたしは風丸さんにそういって歩き出した。
一度振り返って、風丸さんに向かって再度微笑む。
「風丸さん。絶対に、勝ちましょうね」
「……ああ!」
——わたし達は、絶対に勝つんだ。微笑を交し合って、わたし達はグランドへと走っていった。
end