二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

 紅花様リク ( No.528 )
日時: 2010/10/18 18:23
名前: 氷橙風 ◆aeqBHN6isk (ID: yjS9W/Zh)

+*雨雲エキサイト*+

 雨の音が妙に耳につく。窓は閉めているのに、それほど激しい雨なんだろうか。
 特にすることもないし、読書はあまり好きじゃない。そもそも最近は趣味といえるものがなくなってきている。……だって、大好きなサッカーだって俺は一番下のランクなんだから。
 あいつに会いにいこうかな。あいつは、俺と一番離れている位の持ち主だけど、そんなことは関係ない、というように、小さい頃のように接してくれる。陰険だなんて噂もあるけれど、俺はそんなふうには思わない。ヒロトは——そんな奴じゃない、と思う。

 いっぺん窓を覗いて雨の様子を確認する。だいぶ暗くなっているけど、とにかく豪雨だということはよくわかった。
 こういう時は大抵嫌なことが起こるよなあ。でも、そんなのたいして気にすることでもないか。

**

 軽くノックをしてドアを開ける。ノックといったって返事は待っていない。あくまで形式上のもので、ノックを気にするほどよそよそしい関係ではないから。
 ……だけど、なぜかドアノブを回すことにためらいを感じて。なぜかはわからないけれど、背筋が刺されたような寒気に襲われて、一瞬視界がくらりとなった。……一瞬のことだったけれど、それは雨の音を一層強く響かせたように感じた。

 相変わらず広い部屋。マスターランクはやっぱり凄い。いや、ヒロト……じゃない、グランのチームはジェネシスに一番近いチーム。俺とは比べ物にならないな。……やっぱヒロトでいいや。いちいち言いなおすのは面倒くさい。
 ぐるりと見回してもヒロトの姿は無い。部屋の外に出ているのか? それだったら無駄足だったな。まあヒロトじゃなくても、大夢とかと話せばいいし——それに玲名だっているし。

 玲名、だって。

 急にその自分の一言が何か特別な意味を持っているかのような感覚が生まれる。どうして、特別な意味なんてあるわけないだろ。……それはまあ、玲名のことを恋愛という意味で好きだったりもするけど——そんなの昔からわかってて、自分の中で決着をつけたもので。今こうなるようなものじゃない。
 自分を落ち着かせて、ドアノブに手をかけたまま後ろを振り返る。何もない。それはさっき確かめたこと。……そういえば、雨の音が少し治まっているような?

 ——雨。
 〝こういう時は大抵〟

「嫌なことが、」

 だから、何だっていうんだ?
 それはただの感覚。だいたいの人がもつもの。必然的に暗くなるし、そう思うのは普通のことで、そこまで気にすることでもない。そうだろ。
 それに嫌なことって、どういうことだよ。どういうこと。具体的に……ほら、俺は何も考えつけない。だから気にする必要なんて全然ない。
 さ、早くこの部屋を出よう。もうなんだか疲れたし、ちょっと寝てしまおう。それでいい。それでいいんだよ。

「——、うじ、」

 呻き声が、耳の奥までゆったりと染み込んだ。

 誰の? なんの? どうして? 幻聴? 幻聴だろ、そうじゃなきゃどうしてそんなものが聞こえるんだよ。疲れてるんだ。やっぱり俺、疲れてるんだ。寝よう。早く、早く自分の部屋に戻らなきゃ。
 戻らなきゃ。その思いだけが充満して、次第に泣きそうになる自分の顔をおさえて、もう一回ドアノブを握りしめる。これを回して出れば済むんだ! 全部、全部、こんな変な感覚、すぐに……、


「ねえリュウジ、どうしてここにいるの?」

 どうしてどうしてどうしてどうして、

「ひろ、と?」

 ヒロトの声が俺の後ろから、聞こえるんだ?

 紅花様リク2 ( No.529 )
日時: 2010/10/18 18:24
名前: 氷橙風 ◆aeqBHN6isk (ID: yjS9W/Zh)

 それは、ヒロトがこの部屋にいたっていう証拠なわけで。だって後ろからってことは。この部屋はこのドアだけしか通じてない。じゃあやっぱりそうだろ、部屋の中にいたんだよ。俺が気がつかなかっただけ。それだけ。別に不思議なことはなくて、雨の音がうるさかったからヒロトに気付くこともできなかったとかそのへんだろう。それだけ。それだけ、なんだよ! 
 自分の中で怒鳴っても、いつのまにか震えていた手足はその震えを止めるどころか、ますます激しく、小刻みに震え始める。だんだんとぼやけてくる視界。俺、泣いてるんだ。なんで? 悲しくなんかないのに。

「あはは、相変わらずリュウジは怖がりだね。怖いとすぐ泣いちゃうんだよね」

 怖い? 怖い、だから泣いてる? 恐怖。そんなの。
 ……でもそうなんだ、そう、ヒロトは俺をおどかしただけだ。本当にヒロトはいたずら好きで、そういえばいつも俺泣かされてたっけ。泣き虫で怖がり、そんなふうに言われたこともあって。ヒロトだって変わってないな、あはは、

「……は?」
「ね、笑っちゃうよね、リュウジ?」

 ぼやけた視界が一瞬でくっきりとする。鮮明に。嫌なほどに、鮮明にそれを映していて。
 ヒロトが白い手で強く握っているのは、青い、髪の毛。……この綺麗な青は、そうだ、玲名の。でもなんで、どうして? どうして? どうして、玲名が床に倒れているんだ?

「こんな簡単に人を殺せるんだから。面白い、本当に面白いよ」

 乾いた笑い声が遠くで聞こえる。意識が自分の体を離れていくように感じる。目の前にある光景を見れば見るほど、朦朧としてくる。
 青ざめた玲名の顔と、細い首についた手のような痕が気持ち悪いとしか表現できなくて。どうしてそうなっているのかなんて、考えることはできなくて、だってそんなことしたら本当に意識が飛んでしまう。考えちゃ駄目だ。駄目だ、だからこの部屋からでなきゃ。でて、早く、大夢の所に行こう。ああもうこの際誰でもいい、今起こった出来事を忘れさせてくれるなら誰だっていい!

「心配しなくて平気だよリュウジ。君を殺したりはしない。殺すのは、玲名と、」
「やだ、やめて、ヒロト、」
「俺だから」

 がくがくと割れる視界に、銀色の光が走って、赤い飛沫が舞い散る。その飛沫は、ヒロトから出ていて。どういう、こと、だよ?

「……はは、これで俺と玲名はあの世逝き。残るのはリュウジだけ。本当は君のこと殺したいぐらい憎んでるよ?でも、こうした方がよりよい孤独感を味わえるでしょ」

 白い肌に赤い液体が映える。どくどく、そんな音をたてて際限なく溢れ出てくる血は、確実にヒロトの力を奪っていっているはずなのになぜかヒロトの言葉はすべりよく進む。

「どうして玲名は君を選んだんだろうね? あーあ、君の所為なんだよ、全部」

 歪められた顔には、痛みだけがあるようには思えなかった。それ以外の何かを膨大に含んでいる。だけどそれを考えることももうできなかった。

「……独りで、無様に生き、なよ」

 真っ白に眩しくなった視界。いつのまにか小さくなっていた雨の微かな音と、そんな言葉だけが全ての音をシャットアウトした耳に届いていた。



やっぱりヤンデレはノって書けますねー! いやあ、楽しかったです。
とりあえずヒロトが毎回悪者で悲しいです。今度は良い役にしてみせます。
……あ、こんなものでよかったでしょうか紅花様! もう自分の趣味に突っ走ってしまったのですが……
リク有難う御座いました!


あえて盛り上がりのところで雨をやませてみました。そこはなんというか、リュウジの意識にリンク☆というか……