二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 夢見たイノセント ( No.596 )
- 日時: 2010/12/01 18:23
- 名前: 氷橙風 ◆inazumaCHw (ID: yjS9W/Zh)
- 参照: なんで設定バリ無視東方を書いてしまったんだ私は
お姉さまはいつもこう言っていた。
『フランは悪くないのよ』
って。
でも、お姉さまは私をお外に出してくれないの。なんでなのかなあ。わからないけど、まあどうだっていいや。
だってお姉さまが正しいんだもの。お姉さまの言うことが一番正しくて、私がお外に出ちゃいけないんってお姉さまが言うんなら出ちゃいけないんだ。それが正しくて当たり前なんだ。だから別に理由なんてどうでもいいんだ。出る気も、ないし。
ある時、お姉さまはこう言った。
「ごめんね、フランは悪くないのに」
食べものをくれに来てくれた時、お姉さまは何度も何度も悲しそうに呟いていた。いつもは堂々としていてとっても素敵なのに、その時は弱々しいただの女の子に見えた。
綺麗な綺麗な紅い目が潤んでいて、肩は震えていた。ごめんね、ごめんねフラン、ってずーっと繰り返しながら、時々白いお喉をひくひくって震わせた。
なんでだろう。なんでお姉さまが謝るんだろう。なんでごめんねって言うんだろう。
全然わかんなくて、でもお姉さまが私の名前を言っていたから、私が関係してるんだってことはわかった。だから、ああきっと、私がいけないことしたからお姉さまは泣いてるんだなあって思って。お姉さまは優しいから、嘘をついて私を庇ってくれてるんだなあって。
——私、悪い子だ。お姉さまは私が信じていい、私が頼りにしていい、誰よりも世界中の誰よりも正しい人なのに! そんなお姉さまを困らせた私は誰よりも世界中の誰よりも悪い子だ。
そんな悪い子は消えちゃった方がいいんだ。消えちゃえ消えちゃえ、消え、ちゃえ?
「フランッ……!?」
ぎゅうっと喉がきつくなって、目元が熱くなったような気がして、ぽろり、って腕に何かが落ちて。
それが流したこともない涙だってわかったのは、ふわっと全てが白く光る瞬間で——、
お姉さまが、何かにすごく怯えているような顔だったのが、一瞬だけ見えた。
気付くと、お家がめちゃくちゃになっていた。
今まで見たことのない景色が目の前に広がっていた。お家じゃないのかな、なんでだろうって少し考えたらすぐわかった。
だって、壁がないんだもの。何もない。何も、何もなくて、あるのはがらがらに崩れた壁みたいなものと、なんだろう——ぐちゃぐちゃにちぎれてところどころが気持ち悪いほど赤い、普段見るケーキみたいな感じの何かしかなかった。
あれ……お姉さまはどこにいったんだろう? どこにいるの? ねえお姉さま、私どうすればいいの? 私なんにもわからないよ。お姉さま、さっきはどうして泣いてたの? お姉さまお姉さまおねえさまオネエサマ——
ハッとすると、ざーざーっていう変な音がしている。私が座っているところを中心とした少し大きい円の向こう側から聞こえてきて、そこは何かが降っている。雨……? だっけ? 絶対にふれちゃダメってお姉さまが言ってたなあ。じゃあふれちゃいけないんだろうな。ここでじっとしてよう。
……ここがお外なのかなあ。よくわからない。私が思ってたお外っていうのと、全然違うや。なんだか——もっと、楽しそうなところだと思ってたんだけどなあ。誰もしゃべってくれないや。誰もいない。
さびしい、な。
そう思った瞬間、びきびきって何かが割れる音がして、急に頭がものすごく痛くなって——やだ、お姉さま!
痛い痛いいたいイタイ痛い痛いいタいイたイやだやだやだやだやだ! やだ、やだ、やだ! 誰、ねえ、あそこにいるのは誰なの? 会いたいのに、あいたいのに、いやだ、見たくない……思い出したく、ない!
今度は目の前が真っ暗になっていく。どこかにゆっくりと、なのにすごい速さで落ちていくような感じがする。気持ち悪い。くらくら、目が回って。
「妹様、妹様! げ、ふっ……」
何度も強く咳き込むような音と、誰かを呼ぶ声が聞こえて。その時ざーざーしていたのが、少し途切れたような——
まあ、どうでもいいや。どうでも、どうでも、いいんだ。きっと。
- 夢見たイノセント ( No.597 )
- 日時: 2010/12/03 17:19
- 名前: 氷橙風 ◆inazumaCHw (ID: yjS9W/Zh)
- 参照: さすがに原作無視しすぎw
『どうでもいいのよ貴方みたいな子は! お母さん達の言うこと聞けない悪い子は消えちゃいなさい!』
がんがん、頭に響いてくるそんな声。
あの時意識を失って初めて聞こえてきた時から——とはいっても、あの時もどこかで聞いた覚えがあったんだけど——全然なかったのに、最近なぜかいつも聞こえるようになってきた。
うるさい。うるさくてきんきんしてて、聞きたくない。だから耳を一生懸命ふさぐのに、全然声はやまない。うるさいままで、大嫌いな声。大嫌いで大嫌いで、二度と聞きたくない。
だってこの声を聞いていると、
「……おね、さまっ……」
また喉がぎゅうってなって、ぼろぼろ熱をもった何かが零れ落ちてくるんだもん。じわあって目の前が滲んできて、そして、すごく悲しいの。
それでも頑張って耐えていたら、最後にその声は変わる。
『ひぃッ! 悪魔! あんたなんて——』
そこで、終わる。何度も何度も同じ言葉が繰り返された後は、そんな悲鳴みたいなものがつんざくように聞こえてきて、終わる。
悪魔って、私のことなのかな。でもそんなこと言われた覚えないよ? ないよ? ないんだよ? ないはずなの。ない、はず……
……ほんとはわかってる! わかってるよ、お母さまの声なんでしょ。私のお母さま。お母さまと、お父さま。ぼんやりとしか覚えてないけど——というより、覚えていたくなかった?——私には親がいたんだ。でも今はいない。
ずーっと前からそのことは気になってた。私がいていいお部屋にあるたくさんのご本には、“お母さん”と“お父さん”と“子ども”がいるのがいーっぱいあったもの。なのに私は、お母さまとお父さまに会ったことがなくて。
それで、お姉さまに聞いたこともある。何回も聞いた。そのたびにお姉さまは目を伏せて、『ごめんなさい、今は教えられないの』って悲しそうに言った。ごめんなさいごめんなさい、って、ずっと。お姉さまが悲しんでいるのを見たくなんてなかったから、それ以上聞くことはしなかった。
わからないの。私、おバカさんで何も知らなくて、何もできないちっぽけなもので、だから何にもわからない。でもね、なんとなくわかることはあるんだ。
お母さまとお父さまは、私のせいでいなくなった。
それは、なんとなくわかっていた。わかるというより、頭のすみの方に、ずっとずっと残っていた。だけど私はそれを見たくなくて、関係ないものでごちゃごちゃに隠しちゃったんだ。その隠していたものがあの時、ばーって消えちゃって……。きっと私はそれを知りたくなかったんだろうな。見なきゃいけないのに、もうすでに見ちゃったのに、見てないことにして。そんなことをしたから、頭が割れるように痛くなったんだろう。
……バカな私でもここまでわかるようになったのは、長い時間があったから。長く、長く、永く。何も面白いものなんてなくて、ご本もおもちゃももう飽きちゃった。それでも前は、お姉さまがいてくれたのに。お姉さまと話している時は、楽しかったのに。
最近お姉さまは来てくれない。食べものも、誰かお姉さまとは違う人が新しく扉につくった穴から入れてくるだけ。誰か来たのを感じたら、「お姉さまはどこなの?」って聞くようにしても誰も答えてくれなかった。聞こえないのかなって思って、大きな声で言ってみても返事なんてかえってこなかった。
お姉さまは今どこで何をしているんだろう。私のこと嫌いになっちゃったのかなあ。きっとそうだ。私が悪い子だから、嫌いになっちゃったんだ。しかた、……ないよね。
……あーあ、私が見える世界ってちっぽけ。でも、どうせお外に出てもあんなものしか見えないのなら、どっちだって変わらないや——……。
「そんな暗いとこで何してんだよ」
はきはきとした声が聞こえて、ばぁっ、と急にお部屋の中が明るくなった。扉が開いているの? 誰が開けたの?
その答えはすぐにわかった。白黒のお洋服で、金色の髪の毛をした女の子だった。名前はわからないけど、でも今目の前にいるその人が、何か“違う”ような気がして。知らない人なのに、全然怖くなくて、自然に口が動いていた。
「……暗くなんかないよ、慣れてるもん」
「慣れてるとか関係ないさ。暗いもんは暗いの。ほら、お前の顔も暗いじゃないか」
やれやれ、みたいな顔をしたその人は、私の頭をくしゃくしゃっとなでる。誰にもふれられていなかったからかな、一瞬体がびくっとしたけど、すぐにそれが気持ち良くてあたたかいってことがわかった。
「な、私は霧雨魔理沙っていうんだ。お前にちょっと頼みたいことがあってさ」
「頼みたいこと……? でも、私何もできないよ」
「いーや、できる。それは誰にだってできることだからな」
女の子——魔理沙は、にかっと笑って。ほんとに私はなんにもできないんだってば、って言い返そうとしたら、次に魔理沙の口から出た言葉で言い返すことができなくなった。
「レミリアだっけな? あんの我儘お嬢様、ずっと一人で悩んでてさ。『あの子の力からあの子を守れなかった私がいけないのに』とか、ずっとずっと泣きやがって」
れみりあ……? って、私のお姉さまのこと? なんで、魔理沙が知ってるの? ……それに、魔理沙の言ってることって……どういうこと?
あの子の、力。あの子……私のことなのかな。私の力。呪われた、最低で最悪な力。誰からも嫌われる必要なんてない力。そんな力を持った私を、守れなかった? ……私のために、ずっと悩んでたっていうの?
「まあそのへんは自分達で話しな。私が言う問題じゃないし。私はレミリアにちょっと相談を受けただけだぜ」
魔理沙はどこかを見ながらそう言った。何かをどーしてもしたいのを我慢してる、みたいな顔をしてて、魔理沙って嘘がつけないのかなあ、なんて一瞬思った。
そして、怖くなった。魔理沙は何を知ってるのか、どこまで知ってるのか。私の大好きな人皆に嫌われてしまったこの力を知ってるのなら、私のことなんて大嫌いなはずだから。——もう、周りの笑顔をなくしちゃうのは、嫌だよ。
「ねえ、魔理沙は、なんなの? 何しに来たの?」
「……そんな怖い顔すんなよ。大丈夫、私はお前を嫌な奴だなんて思わないから」
——だけど、魔理沙は笑ってくれていた。
「そうだなあ、私から見た感じだと、ちょっと暇な普通の魔法つかいと遊んでくれる弾幕ごっこ好きな少女に見えるな」
「……弾幕ごっこ、」
「な、私今暇なんだ。お前は、遊ぶことは得意なはずだろ?」
見たことなんてない、絵本の中だけの太陽。ああ太陽ってこんな明るいものだったんだ、
手をこっちにだした魔女の笑顔を見て、そんなことを思った。
「——私と、遊んでくれないか? フラン」
——* 夢見たイノセント