二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 星のカービィ 幻想の魔筆  VSドロシア開幕間近! ( No.279 )
日時: 2011/07/14 14:52
名前: 満月の瞳 (ID: A2bmpvWQ)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel3/index.cgi?mode

物には、意思があるという。
それは、長い間大切に、使い続けていれば、生まれる。
筆は泣いている。
泣いている。

ないている。


「どうしてだよ…!」

カービィは拳を強く握る。
片方の腕で、床に落ちた筆を拾い上げる。

「どうして…っ!」

「理由なんて、今の貴方には必要ではないでしょう?必然的に」

「ボクにはわかんないよっ!!」

カービィは、ドロシアに向かって激高した。

「なんで…!なんでだよ!!どうしてそんなこと言うんだよ!!」

「もう—————嫌だから」

「!」

ドロシアは淡々と、冷え切った声で、呟くような小さな声を発した。

「もう嫌だから。何もかもが嫌だから。もう生きていることが苦痛で、苦痛で苦痛で—————たまらない」

ドロシアは微笑む。
聖母のような笑顔。
だけどそれすら
もう穢れている。

「私は、昔に呪いを受けた。その呪いで私は生まれたといっても過言じゃないわ。こう見えて私、かなり長生きなのよ—————不死身に近いほど」

「ふじ…み…!?」

「私は、呪いによって動けるようになった。自らで行動を起こせるようになった。とりあえずは凡人以下のことなら何とか行えるようになった。結局は絵しか描けないのだけれどね。凡人以下の以下の以下の以下の以下の—————以下省略。うふふ…つまらない戯言を言ってごめんなさい。つまり、私は絵を描くことしかろくにできない。才能とは恐ろしく厄介なものね。極めなくちゃならないなんて—————」

静かな部屋の中、距離をおいて向かい合うカービィとドロシア、そして身を震わせて泣いているグリル。
これが、決着場所なのだろうか。
ドロシアとグリルの出会いの場所。
そんなの、あまりにも
悲しすぎる。

「私の呪いはそれだけじゃない。私は怨念から生まれた存在。化け物。怪物。魔物。そのたぐい。—————今までたくさんのハンターに殺されかけたけど…誰も私を殺せない。私が強すぎるから—————だから、私は殺してばかりだった。私を攻撃するものは、みんな殺した。殺してしまった。可哀想に—————私を狙ったばかりに…」



誰も、殺したくないのに—————


「…!」


カービィは、ドロシアの最後の言葉に、理解した。

把握してしまった。

「(ドロシアは—————誰も殺したくなくて、傷つけたくないのに、もう一人の人格を抑えられないんだ…だから…!)」

グリルを、殺しかけた。

ドロシアには制御できないのだ。
戦いにおいて加減ができない。
殺したくなくても、殺してしまう。
傷つけたくても、傷つけてしまう。
もう一人の人格の、殺戮衝動を止められないのだ。

「私は死ねないの。自殺できるのなら、とうにしてるわ。だけれど、私は自分で死ねないの。だから…貴方を待ってた」

「なぜボクを…」

「星の戦士。宇宙の最強者に入る戦士。星に愛された子。貴方ほどの力があれば、私はきっと死ねる。死ぬことができる。殺されることができる。もう—————私のせいで、誰も死ななくて済む。私のせいで…傷つく人が増えなくて済む…」

「違う!!違うよドロシア!!」

グリルはドロシアに訴えるように叫ぶ。

「そんなの違うよ!それじゃあドロシアが生きていることが間違ってるみたいだよ!死を選ぶことが正しいなんて…間違ってるよ!!」

「ワタシハシナナケレバナラナイ」

「!!」

ドロシアの声の音程が、急に変化した。
高い声音は、しわがれて枯れた。

「うふふ…封印がもう解けかかっているの」

不自然な声音は、一瞬で元に戻った。
いつものドロシアに戻った。
否、いつものドロシアではないドロシアに。

「封印が解けたら最後。私は貴方たちを殺す。殺戮するでしょう。猟奇的に—————私はそんな事をしたくない。貴方を呼ばなくても、いずれはこうなることはわかっていた。もう時間がないの。『箱庭』も崩壊してきている。正常な魔力は、綻びてきているの」

ドロシアは憂いの色に染まった瞳を、カービィに見せる。

「貴方のお仲間や故郷は、私の残った魔力で元に戻すわ。迷惑…非道なことをしてごめんなさい—————グリル」

「…!」

「私は、貴方とはもう一緒にいられない」


Re: 星のカービィ 幻想の魔筆  VSドロシア開幕間近! ( No.280 )
日時: 2011/07/15 15:13
名前: 満月の瞳 (ID: A2bmpvWQ)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel3/index.cgi?mode

「やだよっ!!僕ちんは…!!」

「貴方を、捕わせてしまった…ごめんなさい…」

「え…?」

「貴方を、ずっと閉じ込めてしまった—————ごめんなさい…」

「何を言ってるの…!?」

グリルは、困惑しながら、ふらりと立ち上がる。

「貴方を—————こんな空間の檻に、閉じ込めて…ごめんなさい…」

「何を言ってるの!ドロシア!閉じ込めた?いったい何を…!」

「もう…いいの…貴方のおかげで、永遠ではないけれど、『理想』を見ることができた…私は、貴方と一緒に入れて、とても楽しかった」

「それは…!僕ちんだって…同じだよぅ…!!」

「でも、それも終わる」

「!」

「グリル。ほんとうにごめんなさい」


すっ、とドロシアは悪気をまとった右腕を、水平にあげた。

「私はもう、けじめをつけなければならない。貴方に甘えるわけにもいかない。私は、一人で生きなければならない。…違うわ、一人で死ななければならない。一人で殺されなければならない」

涙を流して、ドロシアを見つめるグリルに、ドロシアは

ヒュッ、と空を斬り、腕を振り下ろした。

数旬だけ、空間がぶれた。


「おしまいに、しましょう」


お終いに

お死まいに

しましょう。


「っ!?—————————ドロシアぁぁ!!」



グリルの小さな矮躯が、ドロシアの魔法によって吹き飛ばされる。


「グリル!?」

カービィはとっさにグリルをつかもうとするが、あっという間にグリルは部屋から出される。
グリルは先ほど通った廊下に、転がりながらしりもちをつく。
そして、大きな扉が、誰の手を借りるまでもなく、閉まった。

バタン

心の中に響くような、音がした。
グリルは、追放されたのだ。
空間の支配者である、ドロシア本人によって。

「…!!」

「大丈夫。外に出しただけ。今私が用があるのは、貴方だけだから」

ドロシアは、悲しげに言う。
この広い部屋の中は、ドロシアとカービィの二人きりだ。
扉の向こう側から、グリルの激しいノック音が聞こえる。

「開けてよ!ちょっと!ねえ!ドロシア!ドロシア!!」

グリルの必死の呼びかけに、ドロシアは反応しない。
ただ、つらそうな表情だけを、見せている。

「じゃあ、終わりにしましょう。星の戦士様。どうぞ、私を殺してください」

ドロシアはカービィのほうに、ゆっくりと足を歩ませる。
死刑の人間の足取りに、ひどく似ていた。

「ボクは…ボクだって…誰も殺したくないよ…!」

「どうして?私は貴方の仲間や故郷に最低なことをしたのよ?」

「だって…あなたは…悪い人に見えない」

「…」

「そりゃ、皆やプププランドにひどいことをしたのは許せないけど、でも、あなたはボクを呼び出すためだけにしたんでしょ?それに、元に戻してくれるって…!」

「私を…裁かないの?」

「ドロシアは…さっきからとてもつらくて悲しそうだ」

「!」

「ボクは…あなたを助けたい」

「なぜ…」

「ボク自身がそうしたいのもある。それと、グリル…ボクの友達との約束なんだ」