二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.2 )
- 日時: 2011/10/19 13:22
- 名前: アニホとミシン (ID: WPbx8B95)
第一話(1)『魔法の国からやって来た少女』
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.3 )
- 日時: 2011/10/19 13:26
- 名前: アニホとミシン (ID: WPbx8B95)
『魔法使い』
この言葉を聞いて、人々は一体何を思い浮かべるだろうか。
怪しいローブに身を包んだ老人か、鉤鼻の老女か。
あるいは、杖を片手に呪文を唱える少年少女を想像するかもしれない。
いずれにしろ、魔法使いという言葉で苦労をしているイメージを抱く人は中々いないだろう。
ある日突然、魔法が使えるようになって……というシチュエーションもある意味苦労の始まりではあるが、そんなものは苦労の始まりであって苦労ではない。
毎日厳しい修行を積んでいそうな勇者や格闘家達と違って、魔法使いという職業はRPGでも楽して強くなれそうというイメージを持たれている。
つまり、魔法使いは楽をしていると思われがちなのだ。
しかし、そんなことを思っている人たちにこれだけは言っておきたい。
魔法使いって、そんなに楽なもんじゃないよ?
* * *
幻想と魔法の国、シャングリラ。
この国に生まれた人間は魔法使いとなることを義務付けられており、学校では勉強や部活よりも魔法が優先される。
勝ち組イコール強い魔法使いとされるシャングリラでは、魔法使いの強さを分かりやすくする為に試験を受けることが一般的。
強い魔法使いほど級数も少なくなっていき、第一級魔法使いともなれば殆ど伝説扱いだ。
そんな世界でなんとかより高い級になろうと、全国各地にある魔法学校では生徒達が日々頑張っている。
実技授業で凄い技を見せたり、モンスターを討伐させられたり。
そしてここ『聖マジカル学院』でも、ある一人の少女が、ちょっと……いや、かなり特殊なモンスター討伐に借り出されようとしていた。
「第四級魔法使い、エスペランサ・アーノルド。お前、ちょっとこれから『銀魂』の世界に行って来い」
一面を白で覆われた広い部屋の真ん中に置いてある、大理石の机と椅子。
見た目だけは立派だが座り心地は最悪そうなそんな椅子に座って、机に足をかけた状態で、彼女——この聖マジカル学院の校長である伝説の魔女シーレ・サイフェルトは、目の前に突っ立っている少女に言った。
『銀魂』と書かれたコミックを片手に、吸っているタバコの煙をくゆらせるシーレ。
いきなり訳のわからない発言をかまされた少女は思わず「……は?」と返したが、シーレは地獄の覇者のような目を向けて続ける。
「この前、お前と同じⅠ年Ⅳ組の生徒がオーガの討伐に行っただろ? ソイツがややこしいことに魔法を暴発させやがって、オーガを結界の向こうにある『世界の架け橋』付近に飛ばしやがったんだ」
「そうですか……で、それがどうか?」
「そのまんま『世界の架け橋』を渡ったオーガは、行き先に指定されてた銀魂の……ちょうど二巻目後半くらいにトリップしやがってな。あれだ、ちょうど寺田綾乃さんと死にかけのじーさんの話が終わった辺りだ」
「いや、私『銀魂』読んでねーんで分かりません」
専門的な言葉が全く理解できないのか、少女、エスペランサ・アーノルドは「何言ってんだコイツ?」とでも言いたげな顔でシーレを見ている。
いや、シーレが何を言いたがっているのかは本人も理解している。
ただあまりにも展開が急すぎて、ちょっと付いていけないだけだ。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.4 )
- 日時: 2011/10/19 13:30
- 名前: アニホとミシン (ID: WPbx8B95)
『世界の架け橋』——それはシャングリラの中央に位置する、他の世界とシャングリラを繋ぐ装置のようなもの。
周囲には優秀な魔法使い達が張り巡らせたモンスター専用の結界があり、モンスターは絶対にその橋を渡れないことになっている。
つまり、シャングリラから自由に他の世界に行けるのは魔法使いだけ。
だから今まで、モンスターが他の世界に行くなどという事件は発生していなかったのだが——
「よりにもよって結界の向こうにワープさせるなんて、何やってんですかソイツ」
「だから言っただろ、エスペランサ・アーノルド? お前のクラスにいる奴だって」
「……」
「正確には、お前のクラスにいる異様にドジな娘だって」
……マーテルのことか。
シーレの言葉を聞いたエスペランサは、心の中で呟いて溜息を吐いた。
マーテル・ホイットニー。別名『ドジっ娘マーテル』。
保持する魔力の総量は並外れて多いのに、魔力の使い方が基本から出来ていない。
それ故によく魔法を暴発させては校舎の一部や教室を壊している女子生徒なのだが、今回はその中でも随一のドジを踏んでくれたらしい。
「……で、つまり私はマーテルの尻拭いでわざわざ異世界にまでモンスター討伐に行かなきゃならないんですか。それもオーガって、危険度Aランクの食人モンスターですよ。Ⅰ年の生徒に討伐させやがるのは、命の危険が少ないBランクモンスターまでじゃないんですか?」
「そりゃお前、Ⅰ年の生徒の平均級数が六〜八だからだろ? Aランクモンスターとはいえ、オーガはその中じゃ強い方じゃねぇ。第四級魔法使いのお前なら、倒せない相手じゃない筈だ」
「……本当の理由は?」
「お前を行かせた方が、他の生徒を行かせるより面白くなりそうだから」
ガキ大将のようにニヤッと笑って、堂々と人には誇れないような台詞をのたまう。
そんなシーレを見て、エスペランサは溜息を吐きたい気分になった。
そういえばこの人は、自分の楽しみを第一に行動するダメ人間、否、ダメ魔法使いだった。
一体どうすればこの伝説の魔女(と紹介する事すらもう嫌になってきた)を黙らせられるのかと悩んだが、そんな方法は全く思い浮かばない。
この唯我独尊さがあったからこそ、彼女は伝説の魔女と呼ばれるまでに成長したのだから。
そんなエスペランサの苦労を知ってか知らないでか、シーレは悪戯っぽくニヤニヤと笑い続けている。
それを見たエスペランサは、この人に何を言っても無駄だと悟ったのか、観念したように本日何回目かの溜息を吐いた。
「……わかりました。その『銀魂』の世界に行って、オーガを討伐すればいいワケですね?」
「おお、物分りがいいな。さすがはアタシの生徒だ」
「物分りがいい生徒なんて、うちのクラスには片手で数えられる程度しかいませんよ」
ゴーイング・マイ・ウェイを地で行くクラスメイトを脳裏に思い浮かべたら、また溜息を吐きそうになった。
大理石の椅子から勢いよく立ち上がったシーレは、そのまま机を飛び越えてエスペランサの前に立つと、「んじゃ、あそこの魔法陣の上に立ってくれ」とちょうど部屋の中央あたりに描かれている床の模様を指差した。
逆らっても無駄だとわかっているので、エスペランサは言われた通りに魔法陣の上に歩いて移動。
そしてちょうど魔法陣の真ん中に来たところで、魔法陣が鮮やかな金色に光始めた。
「校長、一つ聞いてもいいですか?」
「おう、何でも聞いてみろ我が生徒よ」
「……私の頭に入っている知識と私の目が間違っていなければ、これって転移魔法の魔法陣なんですけど」
「ああ、そうだが?」
「……」
「……」
エスペランサは悟ったような顔で、シーレは悪戯に成功したような笑顔でお互いに見つめ合う。
さらに輝きを増していく魔法陣の光の中で、エスペランサは腹に力を入れて叫んだ。
「これから行って来いって、今スグって意味だったんですか!?」
その言葉を皮切りに、魔法陣の光はエスペランサの身体を呑み込む。
……そして魔法陣の光が消え去った数秒後、もうエスペランサの姿はどこにも無かった。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.5 )
- 日時: 2011/10/19 13:35
- 名前: アニホとミシン (ID: WPbx8B95)
* * *
「銀さん。今回の依頼主って、一体どんな人なんですか?」
通された和室の片隅で、落ち着かない様子でキョロキョロと周りを見回しながら、新八は言った。
ここは平安時代から続く、とある名家の屋敷。
その一室に通された万事屋一行は、この家の主が今回の依頼主であるということ以外、何も知らずにここにやって来た。
「さーな。とりあえず、こんなデッケー屋敷に住んでんだ。報酬は期待できんじゃねーのか?」
「マジか。酢昆布いくら買えそうアルか?」
「あれだ、きっとダース単位で買えるぞ。いっそのこと駄菓子屋を買収しちまえ」
「駄菓子屋なんてショボイもん買収するくらいなら、いっそ工場から買い占めるネ。工場長様とお呼び!」
「テメェらここに何しに来たんだよ! っつーか酢昆布工場買収するくらいなら給料を払え給料を!」
いつも通りに気の抜けた会話をする銀時と神楽に、一人ツッコミとして奮闘している新八。
そんな日常的だが騒がしい光景に乱入するような形で、スッと部屋の扉が開かれた。
「初めまして、万事屋の皆様。今回そちらに依頼させて頂いた者です」
「あ、ご丁寧にどうも。僕は万事屋の志村新八です」
「神楽アル!」
「どーも、万事屋銀ちゃんの坂田銀時でーす」
それぞれの個性が出た挨拶を主人に向けた後、家のリビングにいるように崩していた姿勢を最低限正す二人と、初めから正座の新八。
一見マジメさなど微塵も感じさせない態度だが、主人の方はそんな事など全く気にしていないようだった。
* * *
「……いや、今までも二日三日家を空けることはあったんだがね。さすがに一週間ともなると……。
連絡は一切ないし、友達に聞いても誰も何も知らんときた。
親の私が言うのもなんだがキレイな娘だから、何かよからぬことに巻き込まれているのではないかと……」
心底娘を心配しているような表情でそう言って、手に握っていた写真を銀時と新八に見せる主人。
因みに神楽は、庭の小さな池で遊んでいた。
受け取った写真に写っている人物は、とてもじゃないがキレイとは表現できない、ガングロ肥満体型に加えギャルメイクの少女だった。
「そーっスねェ。なにか……こう巨大な……ハムをつくる機械とかに巻き込まれている可能性がありますね」
銀時は二日酔い気味なのか、いつも以上にだるそうな声で失礼な発言をかます。
主人の方もさすがに困惑しているようで、「いやそーゆんじゃなくて、なんか事件とかに巻き込まれてんじゃないかと……」と発言を付け足した。
「事件? あー、ハム事件とか?」
「ちょっと、大概にして下さいよ! せっかく来た仕事パーにするつもりですか?」
どこまでも失礼な態度をとる銀時を注意しながら、新八は「でも、本当にコレ僕らでいいんですかね? 警察に相談とかした方がいいんじゃ……」と言葉を続ける。
そして返ってきたのは、バレると大変だから内密の内に連れ帰って欲しいという、娘よりも世間体を重んずるある意味では金持ちらしい台詞。
かくして坂田銀時率いる万事屋一行は、行方不明のガングロギャルを捜索しに出かけるのだった。
* * *
第四級魔法使いエスペランサ・アーノルドは、地面の中から這い出てきた。
いや、正確に言えば、地面に浮かび上がった転移魔法陣から姿を現したのだが。
聖マジカル学院の女子制服についた微量の土を払いながら、彼女は周りの景色を見渡した。
「なるほど、ここが『銀魂』の世界なワケですね……。しっかしシーレ校長には本当に毎回毎回コキ使われすぎて、本気で転校を考えるようになっちまうじゃねーですか……」
どこかガサツで乱暴な雰囲気のする敬語でブツブツと呟きながら立ち上がると、その時点で彼女の足元にあった魔法陣は音もなく消失した。
空は灰色、雲も灰色。
様々な有害ガスに汚れきったような色彩を放つその光景は、自然を操ることもある魔法使いとしてかなり不快だった。
目の前に小突けば壊れそうな民家があるところを見ると、ここはどうやら誰かが所有する庭らしい。
よって人目につく前に逃げた方が利口だと判断し、エスペランサは自身の貧弱な胸に手を当て
「『魔唱杖』、迅速に神妙に滞ることなく今すぐマッハで出てきやがって下さい」
と柄悪く言った。
その言葉に呼応するように淡く発光しだす胸。
そして次の瞬間、彼女の手には奇妙な造形をして杖が握られていた。
長さは一メートルほど、色は青。
てっぺんにキラキラと輝く王冠は宝石を液体にして塗りたくったように輝いていて、そこから杖の最下部まで石細工の蛇が絡みついた意匠の杖だ。
彼女はその杖、『魔唱杖』の持ち手側に近い先端を地面につけると、そのままガリガリと土を削って何かを書き始めた。
「やっぱりこっちの世界じゃ、私の魔力と自然が馴染まねーですね……ああくそっ、ここの土スゲェ硬い」
そうして硬い地面と奮闘すること一分、やっと完成した図形は、『魔法円』の中に『五芒星』が刻まれた基本的な『魔法陣』。
魔法歴の浅いものならこの状態からさらに手を加えていかなければならないのだが、第四級魔法使いにして≪無限劇場——ヴァーミリオンエンドレス≫の異名をとるエスペランサにはこれで充分だった。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.6 )
- 日時: 2011/10/19 13:39
- 名前: アニホとミシン (ID: WPbx8B95)
「んじゃ、さっさと始めやがりますか」
完成したばかりの魔法陣の内側。
ちょうど五芒星の中央部分の真上に立って、エスペランサは魔唱杖を水平に構えた。
「——魔法名は≪無限劇場——ヴァーミリオンエンドレス≫、第四級魔法使いエスペランサ・アーノルドの名に置いて命ずる。
来たれ野蛮なる略奪者よ。
その上半身は女、下半身は鷲。
汝は腕に羽を持つ神々の使い、穢れし怪物——」
蛍のように発光しだす魔法陣と、そこから吹き出てくる風に煽られてなびく銀色の髪。
水平に構えていた魔唱杖を地面に描かれた魔法陣に勢いよく付き立てると、エスペランサは空気を裂くような凛然とした声で叫んだ。
「——ハルピュイア!」
そして凛々しき残響も鳴り止まない内に、その纏わり付くような声は魔法陣の中から聞こえてきた。
『ΩΨΖΠ? ΣΦ!ΜΛΘψ!!』
「……異世界に来た時はその世界の言語を使えって言いやがったのを忘れましたか、ハルピュイア」
はっきり言って何と喋っているのか分からないその声を理解しているのか、エスペランサは気分を害したような表情でそう魔法陣を踏みつける。
踏みつけられた事に歓喜するように、地面に描かれた魔法陣はうねうねと動き出す。
そしとボコボコと土が積み上げられて行き、徐々に髪や腕を持った人のような形に作られていった。
ただしそのシルエットは、腕から翼が生えていて下半身が鷲という奇妙なものなのだが。
初めは土そのものだった人形には段々と色がついてきて、最後には魔法陣が人形の口の中に呑み込まれる。
そしてもう土だった頃の片鱗さえも感じられない人形は、猛禽のような翼が生えたその腕をガバッと大きく広げ、エスペランサに勢いよく飛びついた。
『ΩΦΓΨ……じゃなくて、久しぶりだっちゃエスペランサ!』
思わず地面に倒れこんだエスペランサに馬乗りになり、その柔らかな頬をグリグリと擦り付ける異形——ハルピュイア。
ハルピュイアとは、ラテン語で『略奪者』を意味する。
最も広く知られている名称は『ハーピー』の方なのだが、シャングリラではこちらが正式名称とされている。
ハーピーとはギリシャ神話に出てくる怪物。
上半身は美しい女、下半身は鷲。
腕からは猛禽の翼が生えた、戦場に現れる怪鳥だ。
ギリシャ神話内では弱った者や傷ついた者を上空に連れ去ったり、食卓に汚物を撒き散らす迷惑極まりない習性を持った生物として書かれている。
シャングリラでも野生のハルピュイアはそんな習性を持っているのだが、使い魔として充分に躾けられたハルピュイアは別だ。
現に今エスペランサの革靴を舐め始めたハルピュイアに、不潔にして野蛮なる略奪者の面影はない。
はあ……っと甘い息を漏らして恍惚とした表情を浮かべるハルピュイアは、何処からどう見ても従順なマゾヒストだ。
ギリシャ神話だけでなく北欧神話やエジプト神話のモンスター達までいる混沌としたシャングリラだが、そもそも世に存在する様々な宗教や神話は、全てシャングリラから派生したものなのだから仕方がない。
ありとあらゆる幻想をぶち込んだ不思議な世界。
それがシャングリラなのだから。
ちょっと躾けすぎたかもしれない、とエスペランサは内心愚痴りつつ、鬱陶しそうな形相でハルピュイアの顎を蹴り上げる。
「ぁんっ!」と嬌声のような悲鳴を上げて嬉しそうに地面に倒れ込むハルピュイア。
制服のプリーツスカートについた土を払い落として立ち上がると、ハルピュイアの前髪を掴んで同じように立ち上がらせた。
『んっ、エスペランサぁ……』
「気色悪い声を出しやがらないで下さい、ハルピュイア。ぶっ叩かれたいですか」
言ってから、しまったと思い顔をしかめた。
この怪鳥マゾヒストを相手に、脅すような言葉はむしろ快感にしかならない。
そしてエスペランサの予想は的中。
ハルピュイアは餌を前にした犬のような荒い息で、熱の篭った眼差しをエスペランサに向けてきた。
地面に五メートルほど垂れたショッキングピンクの髪に、柴犬のようにまん丸な同色の瞳。
黙っていれば愛らしい顔立ちなのだが、先ほどからの変態行為のせいで魅力を帳消しにしている。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.7 )
- 日時: 2011/10/19 13:41
- 名前: アニホとミシン (ID: WPbx8B95)
「……その某アニメの電撃鬼娘みたいな喋り方は、相変わらずみたいですね。いつか貴方が真っ当な口調で話せるようになったら叩いてやりますから我慢しなさい」
呟き、地面に落ちた魔唱杖を拾い上げるエスペランサ。
ハルピュイアは、数年前にエスペランサと契約した使い魔だ。
さきほどエスペランサが描いていた魔法陣は、召喚魔法用の簡易魔法陣。
複雑な文様や記号を刻まなかった分魔力の消費も多くなってしまうが、時間を無駄には出来ない。
残念そうな顔でこちらをじっと見つめるハルピュイアをスルーして、エスペランサは魔唱杖を使い宙に五芒星を描いた。
発光しながら、魔法陣はハルピュイアの体に染みこんで行く。
隠蔽魔法。
聖マジカル学院では成績下位者でも使う事が出来る、魔法界における基礎中の基礎だ。
この魔法を使うと、自らの姿や声を周りから隠せる。
しかし他人に使う場合は体に直接魔法陣を書き込むか魔力を送り込んで体内に魔法陣を描かなければならないので、あまり多用されなかったり。
今回の場合、エスペランサは空中に描いた魔法陣を丸ごとハルピュイアの体に送り込んだ。
その理由は、目立つハルピュイアを人目に付かせずモンスター捜索を頼む為である。
「貴方に隠蔽魔法を施しました。地上からでも空中からでもどちらでも良いので、私がこの世界を把握している内に貴方は今回討伐する予定のオーガを探しやがって下さい。わかりやがりましたか?」
『わかったっちゃ! あ、今回は何かご褒美ないんだっちゃか?』
「三時間以内に見つけたら、私の右足の親指を一分間しゃぶりやがって下さっても構わない権利を差し上げましょう」
『全力で捜索して来るっちゃ!!』
バサリと両腕の翼を広げて、意気揚々と飛び立つハルピュイア。
灰色の空に消えていくそのショッキングピンクの怪鳥を見届けた後、エスペランサは何事も無かったかのように民家の庭から出て行った。
* * *
どうやら自分が降り立った地は、歌舞伎町という名前らしい。
周りから惜しげもなく注がれる好奇の視線を気にもせず、エスペランサはそう思った。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.8 )
- 日時: 2011/10/19 13:43
- 名前: アニホとミシン (ID: WPbx8B95)
クラスメイトに「なんか常に澱んでる」と評される目付きを左右に巡らせて、そこにいる和装の人々や、よく分からない容姿をした生物達を眺める。
そういえば昔、シーレ校長が言っていたような気がする。
銀魂には『天人』と呼ばれる地球外生命体が登場すると。
とは言っても、あの人はありとあらゆる漫画について語っていたから間違った情報を覚えている可能性もある。
モンスターと間違えて天人を討伐しそうになるのを抑えつつ、エスペランサは道を歩く。
魔唱杖を手にしたまま、排気ガスの混じった空気に銀色の髪を靡かせて。
「——そこの人、ちょっと止まって貰っても良いですかねィ?」
そんな声をかけられたのは、町を歩き始めて5分もたっていない頃だった。
江戸っ子口調とでも言うのだろうか。
独特な訛りを感じさせる話し方で、しかし声色は若々しい。
この世界に知り合いはいない筈だが、と思い振り返ると、そこにいたのは爽やかなルックスの美少年だった。
亜麻色の髪に赤い瞳。
整っているがどこか幼さを感じさせる顔立ちは、同年代よりも年上の女に好かれるタイプだろう。
一見どこぞの坊ちゃんともとれる容姿だが、腰にぶらさげた打刀がその印象を裏切っている。
「……何ですか。こちとら男に声をかけられて喜ぶような、つまらねぇミーハー魂はとっくの昔に枯れ果ててんですが」
相手が武器を持っているのを見て、いつ攻撃されても良いように内心身構えながら答える。
目の前の帯刀美少年に殺気がないのは感覚で理解しているが、それでも魔法使いとしての防衛本能がエスペランサにその行動をとらせた。
対し、黒い洋服を身に纏った美少年は、そんなエスペランサの様子を考慮する様子もなくズカズカと近くに寄ってくる。
そしてエスペランサの目をジッと見詰めると、特にどうでもなさそうな表情でこう言い放った。
「あんた、クスリとかやってねぇですかィ?」
「……はぁ?」
クスリってあれか、吸ったら「あへへ」とかなっちゃう危ない奴か?
何を言いやがるんだコイツはという意思を込めて、相手にジト目を返す。
すると美少年は、こちらが求めてもいないのに「いや、実は……」と説明をし始めた。
「最近、ここらの界隈で『転生郷』って薬が出回ってましてねィ。アンタの目がヤバイから、もしかしたら使ってんじゃねぇかと思って」
「……つまり貴方は、私をその危ねぇ薬でラリってる中毒女だって思ってやがったんですか?」
「まあ、正直に言えば」
殴りたくなった。
いくら自分の目がヤバイからと言って(自覚はしている、シャングリラでもよく言われているのだから)、それだけで薬物中毒者だと思われるのは流石に気分を害する。
ましてやここは魔女狩り文化のあったシャングリラではなく、地球外生命体が蔓延る未知の世界だ。
誰も自分を知らない場所でいきなり疑われるなんて、自分の目付きはよほど悪いのだろうか。
いや、目付きというよりは目の色が悪いのかもしれないが。
というか、何故この少年はそんな理由で自分に声をかけた?
警察でも何でもないのに、例えエスペランサが本物の薬物中毒者だったとしても声をかける義理はないだろう。
「それより、何で貴方はそんな理由で私に声をかけやがったんですか? 私が本物の薬物中毒者だったところで、一般市民に取り締まる権限なんてねーでしょうに」
考えていた疑問をそのまま口に出すと、美少年は驚いたように目を見張り、そして自分の着ている服を指差し言った。
「俺ァこれでも、武装警察『真選組』の一番隊隊長なんですけどねィ……沖田総悟って名前、聞いた事ありやせんかィ?」
「全くもって初耳でしかありませんね。自分の名前を先に言いやがった事は礼儀正しいと評価しますが、貴方が警察官だったとしても初対面の相手を薬中扱いするのはどうかと思いますし」
適当に返しながら、美少年——沖田総悟の言葉にエスペランサは驚いていた。
まだ二十歳にもなっていないであろうこの少年が、まさか警察官だとは。
しかも一番隊隊長ということは、それなりに上位の役職なのだろう。
十三歳で第四級魔法使いに認定されている自分もそれなりに凄いと自負しているが、それでも「○長」と名の付く役を任されたことは一度もない。
「こっちが名乗ったんだ、アンタの方も名乗ったらどうですかィ」
思考に割り込むようにしてかけられた声に、再び思考を開始してしまうエスペランサ。
沖田総悟という響きから察するに、きっとこの世界では漢字を用いた名前が一般的なのだろう。
エスペランサ・アーノルドという自分のフルネームを、果たしてここで名乗っても良いものか。
三秒ほど考えて、エスペランサは「……斑鳩桔梗です」と答えた。
本名とは何の関連性もない、正真正銘の偽名だ。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.9 )
- 日時: 2011/10/19 13:44
- 名前: アニホとミシン (ID: WPbx8B95)
「鳥類に草花なんて、偽名みたいな組み合わせでさァ。……まぁ、この歌舞伎町じゃ名前なんてあって無いようなもんですがねィ」
偽名だと勘付いたのか、それとも冗談で言ったのか。
どちらにしろ沖田総悟と名乗るこの美少年がこれ以上言及して来ない内にこの場を離れるべきだと、エスペランサ・アーノルドはそう判断した。
「じゃあ、私はこれで失礼します。貴方は仕事に励みやがるなりサボるなり、どうぞご自由に今日という日を堪能しやがって下さい」
漆黒のプリーツスカートを翻し、学校指定の革靴で土色の地面を蹴り上げる。
「ちょっ、待ちなせェ!」と腕を伸ばす沖田だったが、伸ばしたその腕は指先すらもエスペランサの体に触れる事なく、エスペランサの姿は突如として消失した。
「……消えた?」
驚異的な瞬発力とか、動体視力では捕らえきれない速さとか。
そんなレベルじゃなく、本当に単純な意味で、エスペランサ・アーノルドは一瞬の間にこの空間から姿を消失させた。
それはまるで、魔法でも使ったかのように。
「変わった女でしたねィ……今度もし再会したら、団子片手に話してみるのも悪かなさそうでさァ」
呟き、沖田総悟はくるりと踵を返す。
ずっと同じ場所に留まっていては、あのニコチン中毒なマヨラー野郎に見つかってしまう。
銀糸のような髪をした美貌の少女を脳裏に思い浮かべながら、沖田は小さく微笑み、静に町を歩くのだった。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.10 )
- 日時: 2011/10/19 13:47
- 名前: アニホとミシン (ID: WPbx8B95)
第一話(2)『とある使い魔の奔走』
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.11 )
- 日時: 2011/10/19 13:49
- 名前: アニホとミシン (ID: WPbx8B95)
ハルピュイアがエスペランサ・アーノルドの使い魔になったのは、彼女がまだ十歳だった頃の話だ。
彼女は親から捨てられた。
ハルピュイアは本来、高地に住まう生き物。
だがしかし、彼女は物心ついた時には平原で雑草を貪り、泥水で喉を潤す生活をしていた。
飛ぶ事が出来ればもっと良い食物も手に入るのだろうが、生憎、自分の腕に生えているべき翼はボロボロだ。
記憶にはないが、きっと鳥か何かと間違えた猛獣に食い千切られたのだろう。
あるいは、飢えに耐え切れなくなった自分が無意識の内に喰らっていたのかもしれない。
どちらでも良い、とハルピュイアは思った。
理由が何だった所で自分は飛べないのだし、原因が誰だった所で自分は捨てられたのだ。
拾ってくれる存在などいない。
ただ飢えない為に草を腹に入れ、渇かない為に獣と奪い合うようにして泥水を啜る。
飢えたくないとも渇きたくないとも、思わなかったけれど。
生きていれば何かがあるかもしれないと、そんな甘い考えを持っているワケでもない。
ただこうして無様に生きているのが。
ただ死なない為だけに生きているのが、自分にはお似合いだと感じていたから。
そんな風に日々を漫然と過ごしていた時、その少女は突然現れた。
夜の闇にも透ける銀の髪に、陶器のような白く滑らかな肌。
顔立ちは幼いのに表情には起伏がなく、そして何より——
「……貴方ですか、噂に聞いた瀕死のハルピュイアってのは」
——少女の目が、自分の心を捕らえて離さなかった。
それは例えるなら、地獄という地獄を体験して、それでも壊れる事を許されなかった瞳。
世界は救えてもこの少女は救えないだろうと、そう思ってしまう程に、彼女の瞳はまさに自分そのものだった。
自分と同じ、世界に捨てられた目。
いや。
目の前にいる少女の瞳は、自分の生気が失せたそれよりも酷い。
澱み沈み汚れ穢れ。
希望という文字が一つ足りとも見当たらないその陰鬱さは、しかしそれ故に美しくもある。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.12 )
- 日時: 2011/10/19 13:51
- 名前: アニホとミシン (ID: WPbx8B95)
「貴方にとって、世界ってのは何ですか?」
目に地獄を宿す美少女は、誰ともなく呟く。
「私にとっての世界ってのは、希望を尽く否定される場所です。
家族でいつまでも幸せに暮らしたいと思えば家族は殺され、痛いのはもう嫌だと強く願えば拷問にかけられ、綺麗なままでありたいと乞えば陵辱され、死にたいと思えば生かされる。
まるで希望を持つことが罪だとでも言うように、世界は私から希望を奪って行きやがります」
葬列めいた暗鬱な歩みで、少女は近づいてくる。
一歩一歩。まるで十三階段を上る死刑囚のように。
「昔はそうでも無かったんですよ。
夜道を歩けば不審者に殺されるかもしれないと恐がり、それを死の恐怖だと思い込みやがるような安っぽいガキでした。
バカみてーってか、バカそのものですね。
そんな考えだから、唐突にやって来た本当の『死』に耐えられないんです」
ハルピュイアは喋らない、喋れない。
少女の独白は尚も続く。
「三年前に死にやがった私の『何か』が、誇りだったのか幸せだったのか愛だったのか、あるいはもっと別の何かだったかは知りませんけどね。
確かに三年前、私の内にあるその『何か』は死にやがったんですよ。
唐突に突然に、何で自分だったのかと問いかける暇もないほど一瞬で死にました。
希望という希望は全て踏み潰され、願望という願望は履き捨てられ、羨望という羨望は打ち砕かれました」
——だから私は、貴方に質問します。貴方にとって、世界ってのは何ですか?
地獄がハルピュイアの薄汚れた顔を覗き込み、そう問い掛ける。
そしてハルピュイアは自分の勘違いに気付く。
目の前の少女は世界に捨てられたのではない。
世界に殺されたのだ。
世界に殺された少女は、『希望を尽く否定される場所』と世界を評した。
ならば世界に捨てられた自分が出す答えは一つ。
単純明快。この少女に尋ねられる前から、ずっと自分の答えは決まっている。
「私を除く存在の全てが世界です」
私は、世界に捨てられたのだから。
世界の一部ではないし、世界なんてどうでもいい。
世界が滅んでも救われても、私は滅ばない、私は救われない。
——だから、私以外の全てが世界だ。
ハルピュイアの返答を聞いて、少女は安心したように自分の前に膝をつき、再び話し始めた。
「貴方はこの世界の一部にはなれず……私の希望はこの世界では否定される。
だったらいっそ、私と一緒に異世界にでも行きやがりませんか?」
『異世界……?』
「ええ、異世界です。言いやがったんですよ、とある魔法使いが。
『この世界にお前が殺されたんなら、別の世界に救ってもらえ。ここでは一つ足りとも叶わねぇお前の希望も、そこじゃあ当たり前に叶うかもしんねーだろ。
だから今は生きろ。ここ以外のどんな世界に行っても二度と殺されないよう、強くなれ。
もしお前が強くなったら、その時はどんな世界にでも私が送り込んでやる』……なんて言葉を」
だから私と共に、夢を見てみませんか?
地獄のような少女はそう言って、純白の手の平をこちらに差し出した。
この少女は、地獄から天国に這い上がろうとしている。
そしてその共として、この世界の一部ではない自分を選んだのだ。
少女は、私を拾ってくれるのだ。
気付けば瞳からポロポロと零れ落ちる塩辛い雫。
それが涙と呼ばれる代物で、自分の頬を伝っていると理解するのに数秒の時間を有した。
両親に捨てられ、世界に捨てられ、何もかもに捨てられた私を。
両親を捨て、世界を捨て、何もかもを捨てた私を。
拾ってくれた。
この少女が。他の何でもない、この天国を求める地獄が!
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.13 )
- 日時: 2011/10/19 13:53
- 名前: アニホとミシン (ID: WPbx8B95)
無言で相手の手の平に口付けをするハルピュイアと、同じようにハルピュイアの手を取り、口付けする少女。
——それは世界に捨てられた怪物が世界に殺された魔法使いに全てを捧げると決めた瞬間、契約の誓いの光景。
こうしてハルピュイアはエスペランサ・アーノルドの使い魔となり、それから今まで、ずっと彼女は主人のためにあり続けている。
地獄のような少女を、天国に導くために。
* * *
『んー……どこにもいないっちゃ、オーガの奴。早く見つけないと、エスペランサの親指を舐める権利がなくなるのに』
エスペランサを特別に想うあまり重度のマゾヒストと化したハルピュイアは、愛しき主人との出会いを思い返しながら空を飛んでいた。
いま自分が空を飛べているのも、エスペランサが治癒魔法をかけてくれたから。
だから空を飛ぶという行為そのものが自分は大好きで、何だかそうしているだけで主人との繋がりを感じられるような気がするのだ。
『って、そんな事を言ってる場合じゃないっちゃね。冗談抜きにそろそろ見付けないとヤバ……』
いから、と続けようとした所で、彼女は空中でピタリとその動きを止めた。
見下ろした海に浮いている船で、絶体絶命になっている少女がいたからだ。
髪はピンク……なのだろうか?
自分のショッキングピンクと違いサーモンピンクに近い色合いの髪に、主人には負けるが白い肌。
気絶しているのか失神しているのか、瞳は閉じられていてそっちの色は分からない。
そしてその少女を海に突き出すような形で立っている、長髪の耳が尖った男。
『エルフ……じゃないっちゃよね? 周りにいる奴も変な見た目だし、きっとこっちの世界にもモンスターみたいなのがいるんだっちゃ』
男の名前は陀絡。
“転生郷”と呼ばれる麻薬を売りさばく商売人にして、天人と呼ばれる地球外生命体の一人だ。
しかしエスペランサ以上に銀魂世界の知識がないハルピュイアは、当然そのことを知らない。
ただ状況から察するに、男が少女に危害を加えようとしている事だけは理解できた。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.14 )
- 日時: 2011/10/19 13:55
- 名前: アニホとミシン (ID: WPbx8B95)
そして次の瞬間、ハルピュイアの予想は裏切られる事になる。
見知らぬ少女は縛られたまま男の顔面に向かって跳び蹴りし、その反動で自ら海に落ちていった。
この程度の距離、シャングリラでなら余裕で声が聞こえる範囲なのに、主人の魔力と適合しない異世界では自分の力も弱くなる。
よって海に落下していく少女が何と言っているのかは聞き取れないが、しかし口の動きで分かってしまった。
——足手まといなるのは御免ヨ、バイバイ。
そしてその言葉を理解した瞬間、ハルピュイアは少女に向かって急降下していた。
別に目の前の人間を全て助けたいとか、そういうのじゃない。
ただ死に向かうその瞬間ですら微笑む少女の姿が、弱音を吐かない少女の姿が。
『エスペランサと被るんっちゃよ……!』
船の外側ギリギリを旋回し接近、腕の代わりに足先で少女のチャイナドレスを掴む。
よく間に合ったと自分を褒めつつ上昇……しようとした所で、自分とは逆方向から走ってきた男に激突された。
「おわぁっ!?」
『うわっ!』
激突された拍子に右腕が船に擦られ、軽くすり傷が出来る。
しかし、ここででぶつかってきた男に文句を言うのは検討違いだろう。
何故ならハルピュイアの体には隠蔽魔法がかけられていて、見知らぬ男にも少女にも、その姿は見えないのだから。
いや、見えなかったのだから。
『お前、何するんだっちゃか! ウチが咄嗟に離さなかったから良いものの、下手したらコイツが落ちてるところだったんっちゃよ!?』
男と少女を抱えてなんとか船上に降り立ったハルピュイアは、聞こえる筈がないと思いつつも男を怒鳴りつける。
だが聞こえない筈の自分の声は相手に聞こえているようで……それだけでなく姿まで見えているようで、驚いたような顔を浮かべられた。
そしてその反応に気付いた自分も、同じように驚いた顔を浮かべる。
『なっ……おまっ、ウチが見えてるんだっちゃか!?』
「お前どっから湧いてきたんだよ!?」
お互いがお互いを指差して、訳が分からないとばかりに叫ぶ。
どうやらさっき自分が右腕を擦った拍子に、刻まれていた隠蔽魔法の魔法陣が消えてしまったらしい。
どうやって誤魔化そうかと思案するが、しかし自分の知能ではロクな誤魔化し方など思い浮かばない。
そうこうして悩んでいる内に、急にどこからともなく爆発音が聞こえてきた。
「陀絡さん! 倉庫で爆発が!」
煙が上がっている方向から陀絡の部下が飛び出し、そう必死に伝える。
そしてその爆発音をBGMに「俺はキャプテンカツーラだァァァ!!」と長髪の奇妙な男が飛び降りてきたのを切っ掛けに、ハルピュイアは自分を誤魔化す事を放棄し、この場における行動方針を決めた。
『なんだかよく分からないっちゃけど……あの耳の長い男がアイツを突き落としたんだから、それの仲間っぽい見た目の奴は片せば良いんっちゃね』
一度助けた相手は最後まで助け通せと、主人もよく言っていた。
ハルピュイアはキャプテンカツーラを名乗る男に向かっていく天人の一人との距離を素早く詰めると、鋭い爪のついた鷲の足でそれを蹴り上げる。
戦闘専門のモンスターでないとはいえ怪物の力で蹴り上げられた天人は、その後ろにいた何人かの天人を巻き込んで壁に頭を打つ。
突然バトルに混じってきたハルピュイアにキャプテンカツーラも不思議がるような眼差しを向けたが、仲間だとわかるとこちらに笑顔を向け、爆弾で周りの敵を吹き飛ばしながら言った。
「何者かは知らぬが、恩に着る!」
『たまには戦場じゃなくて、船上で舞い飛ぶのも悪くはないっちゃよ!』
後ろから自分を襲おうとしていた天人にひざ蹴りを浴びせ、そのままの勢いで顎にアッパーカットを喰らわせる。
何の武道も武術も下地に置いていない単調な戦い方だが、こういうザコ相手なら充分に効き目はあるようだ。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.15 )
- 日時: 2011/10/19 13:58
- 名前: アニホとミシン (ID: WPbx8B95)
「やれえぇぇぇ! 桂の首をとれえぇぇぇぇ!」
動物と人間を足して割ったような生物達が、いきり立ってキャプテンカツーラを攻撃している。
桂と呼ばれているから、もしかするとキャプテンカツーラは仇名か何かなのかもしれない。
桂は軽やかな身のこなしで敵の群れを掻い潜っては、えらく範囲の狭い爆弾で敵を倒して行く。
時々自分の方にも届いてくる爆風に少しイライラしたが、別に熱くはないからと無理やり怒りを沈静した。
そうこうしている内に、さっき自分にぶつかった男と耳の尖った男が勝負している光景が目に入った。
勝負しているというか、勝負していたと言った方が正しいのだが。
何せ耳の長い男の方は、既に地面とキスした状態で気絶している。
『へえ、アイツ強いんっちゃね……』
言いつつ、最後に残っていた敵にひざ蹴りを喰らわせるハルピュイア。
こうして本人すらも気付かぬ内に。
異世界からの来訪者ハルピュイアは、銀魂世界の主要人物である坂田銀時・神楽・志村新八・桂小太郎の四人に干渉しているのであった。
* * *
「それじゃ、貴方はそのシャングリラって世界からモンスターを討伐しにこっちに来た異世界人だって言うんですか?」
主と同じ銀髪の男(本人曰く、坂田銀時という名前らしい)の背中に乗った志村新八は、信じられないものを見るような顔でそう首を傾げる。
船から抜け出し、現在の居場所は近場の港。
ハルピュイアはすぐに此処から飛び去るつもりだったのだが、助けてくれた礼がしたいと長髪の男に呼び止められたのだ。
女と見紛う黒い長髪の青年は、自分の名を桂小太郎と紹介し、甘い物でも奢ると言ってきた。
さっき『キャプテンカツーラ』と名乗っていたのは、きっと何らかのギャグか、もしくは偽名だったのだろう。
現に今は、さきほどのよく分からない洋装から目立たない袴姿に着替えている。
『厳密に言えばウチは異世界“人”じゃないし、討伐しに来たのはエスペランサ。ウチはエスペランサの使い魔っちゃ』
「エスペランサ……なんか、随分と洋風な響きの名前ですね。外国の方なんですか?」
『外国っていうか、別世界だっちゃよ。『シャングリラ』っていう幻想と魔法の国で、第四級魔法使いをやってる十三歳の少女っちゃ』
「そ、そうですか……じゃあ、貴方のお名前は?」
『種族名はハルピュイア、個別の名前は秘密っちゃ』
なんだか噛み合わない会話を交わしつつ、どこを目指しているのかも知らぬまま、ハルピュイアは坂田銀時(背中に神楽&志村新八を装備中)と桂小太郎に着いて行く。
主人に似ているとハルピュイアが思わず助けた神楽は、疲れたのだろう、坂田銀時という男の背中でぐっすりと眠っていた。
「で、そのエスペランサって奴はどこにいやがんだよ。何かあぶねー生物を倒しに来たんだろ?もう戦闘中なのかよ」
白髪ともとれる淡い銀に、死んだ魚のような目。
和洋折衷したファッションと腰に差した木刀。
ずっと「あー、おもてーなチクショウ」とか「俺が筋肉痛になったらどーすんだよ」としか呟いていなかった坂田銀時は、船上での会話以来、初めてハルピュイアに話しかけてきた。
同じ銀髪でもエスペランサの方が綺麗だ、と失礼な事を考えつつ、ハルピュイアもその質問に答える。
『いや、もしオーガに遭遇してたらウチを呼び戻す筈っちゃよ。それにもし戦いが始まってたら、魔力の乱れで魔法を使ったかどうかが判断でき……』
「判断できるんっちゃ」と続けようとした所で、ピタリとハルピュイアが動きを止めた。
それに気付いた桂小太郎が、「どうしたのだ?ハルピュイア殿」とこちらを振り返る。
ハルピュイアは、そんな桂に目もくれない。
今、確かに魔力の乱れを感じた。
『あまり大きな乱れじゃないから……転移魔法っちゃかね? いや、自分に隠蔽魔法をかけたって可能性も……』
「……もしもーし、おじょうさーん?」
一人でブツブツと呟き始めるハルピュイアに、銀時は少し引き気味な表情でブンブンと手を振る。
電波系と称される桂は特に何とも思わないのか、ただただ不思議そうな顔で首を傾げるだけだった。
そして次の瞬間、銀色の影が5人の目前に降り立つ。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.16 )
- 日時: 2011/10/19 14:00
- 名前: アニホとミシン (ID: WPbx8B95)
* * *
「刻んだ魔法陣が消えた感覚がしたから、何事かと思って転移してみれば……何してやがんですか、ハルピュイア」
突如として目の前に降り立った少女に、志村新八は現実感を失って魅入った。
——それは、怖気が走るほどに美しい少女だった。
天使の輪が輝く銀色の髪と、小さな白い顔。
その器の中には、奇跡としか言い様のないバランスで各パーツが配置されている。
その一つ一つのパーツも、これまた今まで見た事がないほど精巧だ。
神様という職人が作った人形じゃないかと思うほどに。
涼しげを通り越して凍てついている眼は、彼女の美しさを増徴させることはあっても損なうことはない。
自分が芸術家だったなら、今すぐにでも彼女をモデルにして絵を描き出したいくらいだ。
見る者を思わず惹き付け、そして同時に強烈な違和感や拒否感をも催させる暗い華。
美しく刺々しく、それ故に普通の人間なら話しかけるのも躊躇うだろう少女。
しかしそんな少女を見て、臆するどころか、ハルピュイアは大輪の向日葵が咲くような笑顔を浮かべた。
『エスペランサ! わざわざ会いに来てくれたんっちゃね!』
「貴方は一々抱きついてやがんじゃねぇです! そして押し倒すな! 馬乗りになるな! 頬を引っ付けるな!」
……エスペランサって、さっき言ってた魔法使いさん!?
と驚愕する新八、そして固まるその他メンバー。
彼らを尻目に、ハルピュイアは大量のハートマークを飛ばしてエスペランサに抱き着いていた。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.17 )
- 日時: 2011/10/19 14:15
- 名前: アニホとミシン (ID: WPbx8B95)
* * *
場所は打って変わって、歌舞伎町のとあるファミリーレストラン。
あれからハルピュイアを連れてその場を退こうとしていたエスペランサだったが、「ハルピュイア殿に礼をしたい」と桂小太郎の制止を受け、仕方なく中断したのだった。
何故か着いて来ている坂田銀時・志村新八、そしていつの間にか目覚めてパフェを頬張っている神楽。
桂小太郎と電波的なトークで盛り上がっているハルピュイアの異常な造形は、天人がいるこの世界では多少珍しい程度で、特に周りに騒がれる事もなかった。
むしろ、それよりも目立っているのが……
(エスペランサさん、これだけ周りから黄色い悲鳴が上がってるのに全く反応なしだもんな……)
良家の令嬢を思わせる品のある食べ方でパフェを口にしているエスペランサを見て、志村新八は再び彼女に見惚れた。
彼女が食べていると、安物のパフェでも一流パティシェのお手製に見える。
いや、自分だけではない。
これ見よがしにイチャついていた男女のカップル、キャリアウーマン風の子連れ女性、マラソン帰りと思しきジャージ姿の老夫婦……周りの客全員、彼女が入店した瞬間に各々の動きを止め、その氷壁のように揺ぎ無く冷たい美貌を食い入るように見詰めた。
それは営業スマイルを浮かべていた店員までもで、注いでいる最中のコーヒーがカップから溢れるのも気にせず、時間にしておよそ五分は彼女をガン見していた。
そして今では、彼女が一挙一動するたびに周りから歓喜の悲鳴が上がり、中には携帯電話で写真を撮っている者さえいる。
奥の方から聞こえてくる
「おいっ、次あの子にお茶いれるの俺だからな!」
「何を言ってやがんだ、俺に決まってんだろ!」
「新米は下がってろ! ここは年功序列的に俺だろ!」
「いや、ここは店長の俺が……」
「テメェがいつ店長になった!」
という男店員達の醜い言い争いも、もう十分以上は続いているだろう。
既に食事を終えている客も帰る気配を見せずエスペランサを眺め続け、壁に設置された大きな窓の向こうでは、通りすがりの者達が野次馬になり頬を染めて彼女を見ている。
芸能人が来店してもこれ程にはなるまいと断言できる。
しかしそんな状況下に置かれても、彼女はなんら問題ないとばかりに、他の客達に比べて明らかにサービスされまくったチョコレートパフェを食べるだけだった。
こういう状態に慣れているのか、あるいは自分がとてつもなく美しいという事実に気付いていないのか。
どっちにしろ、通行人も含む男達から殺気じみた妬みの視線が飛んでくる事が、ナイーブな自分にはかなりキツイ。
その視線を気にせず座っていられる銀時と桂は、さすがと表現する他ないだろう。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.18 )
- 日時: 2011/10/19 14:17
- 名前: アニホとミシン (ID: WPbx8B95)
「……ハルピュイアの奴から聞いていやがるでしょうが、改めて自己紹介をさせて頂きます。
エスペランサ・アーノルド、年齢は十三、性別は女。
この世界で私の実名は浮きそうな気がするので、斑鳩桔梗とでも呼びやがって下さい」
パフェを食べ終わりゆっくりと手を合わせると、エスペランサはそう話を切り出した。
「わかりました、斑鳩さんですね。えっと……僕の名前は志村新八で、こっちの女の子が神楽ちゃんです」
「おう、よろしくアル」
「……で、こっちのさっきから甘い物しか食べてない人が坂田銀時。僕は銀さんって呼んでます」
「おう、よろしくな」
なんとか話を長引かせようという新八の努力も虚しく、銀時と神楽は目の前のパフェを貪るのに夢中で雑な返事しか口にしない。
視線に限っては、ずっとパフェを向いたままだ。
これだけ現実離れした稀代の美少女を前にしても、どうやらこの二人は食欲を優先するらしい。
そんな二人の分を補うように、今度は桂が自己紹介を開始する。
「桂小太郎、攘夷志士をやっている。どうだハルピュイア殿とエスペラ……桔梗殿、パフェは美味いか?」
「攘夷志士ってのは判りませんが、パフェは美味しいですよ。愛情を込めて作りやがってるってのが、よく感じられます」
知らない単語に疑問を抱きつつ、素直にパフェの感想を喋るエスペランサ。
今エスペランサ達が食べているパフェは、ハルピュイアに礼をしたかった桂の奢りだ。
銀時達が着いてきたのは、どうやらドサクサに紛れて自分達も奢って貰おうという魂胆らしい。
そして自分のパフェだけが異様に豪華だった事に、エスペランサは気付いていない。
それは『ウチも美味しかったっちゃ!』と笑顔を浮かべているハルピュイアや桂も同じようで、どうやら周りを気にしているのは自分だけらしいと思うと、志村新八は痛む胃を抑えて静かに溜息を吐くのだった。
「モグモグ……それで、桔梗はどうやってその何ちゃらっていう化物を倒すアルか? つーか、見つけられるのかがそもそもの疑問ネ」
頬の中にパフェを詰め込み、顔を沢山の生クリームで汚した神楽がここに来て初めて口を開いた。
その様子に若干「指摘した方がいいんですかね……」とでも言いたげな表情をしたエスペランサだったが、特に言及することもなく、その質問の素直に答えた。
「今は息を潜めてやがるみたいだから感じ取れねーですけど……何らかの行動をおこしやがれば、その些細な気配の乱れで場所を判定できますよ」
「何らかの行動って、例えば何ネ」
「モンスターが感情の昂ぶる気配を抑えやがれなくなるような行為、つまるところ殺傷行為ってとこですかね」
「なっ……!」
何でもないように言うエスペランサに、神楽が絶句する。
それは傍で聞いていた自分も同じだった。
まさかこんな美しい少女の口から、殺傷なんて言葉が出てくるなんて。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.19 )
- 日時: 2011/10/19 14:18
- 名前: アニホとミシン (ID: WPbx8B95)
「それ、誰かが化物に殺されるまで何もしないって意味アルか!?」
バンッ! とテーブルを力強く叩き、神楽は信じられないといった趣でエスペランサを睨みつける。
夜兎の馬鹿力をもろに受けたテーブルは、真ん中から大きくVの字型に割れていた。
「か、神楽ちゃん……」と狼狽するように呟き、新八は困り顔で銀時達に視線を向けた。
が、銀時は神楽とエスペランサを眺めたまま無言、桂は事態を見守るように腕を組み、ハルピュイアに至っては何で神楽が怒ったのか理解していない。
「……別に、殺されやがってからとは言ってねえでしょう。運が良ければ、骨折くらいの軽い負傷で済みやがります」
「ソイツの運が悪かったらどうするつもりネ! ソイツが死んでから化物を退治して、それでOKアルか!?」
「……だから、こっちも行動をおこしやがる前に見付けられたらと思って捜索してます」
神楽の馬鹿力を目の当たりにして冷や汗を浮かべつつも、エスペランサは淡々と述べる。
そんな様子が彼女の何かに触れたのか、神楽は急に立ち上がり、ガシッと銀時と新八の首根っこを掴み、そのまま荷物のようにズルズルと引きずって店の出口を目指す。
「え、ちょ、神楽ちゃん?」「おい神楽ぁ、俺たちゃ粗大ゴミじゃねーぞー」と文句を言う二人に、神楽は宣言する。
「アイツに任せるより、私達の方がきっと化物見つけんのは早いネ! 万事屋銀ちゃん、出陣ヨ!」
そしてそのまま二人を引きずり、神楽はフェミリーレストランから出て行った。
後に残されたのは、V字型に割れたテーブル・店員の固まった笑顔・面倒な事になったとでも言いたげな表情のエスペランサ・そして事態を理解していないハルピュイアと、溜息を吐く桂。
窓際に置いていたおかげで辛うじて無事だった水を飲んで、エスペランサは呟いた。
「……あの方々より先に見付けねーと、面倒な事になりそうですね」
そしてエスペランサ・アーノルドは、神楽に同じく店を後にした。
その後ろに影のように付き従うハルピュイア。
最後に残されたのは、桂小太郎と伝票と、そしてテーブルを弁償させんと指の骨を鳴らす店員達だった。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.20 )
- 日時: 2011/10/19 14:20
- 名前: アニホとミシン (ID: WPbx8B95)
* * *
「おい神楽ァ、化物マジで探す気か? ぜってぇ見付からねーって」
「僕も無理だと思うんだけど……」
「うっさいアル! 文句があるなら、警察はいらないネ!」
「それ使うとこ間違えてるって!」
坂田銀時・神楽・志村新八、総じて万事屋銀ちゃん一行は、さっきのファミリーレストランから少し離れた歌舞伎町内の通りを歩いていた。
通り、というか、薄暗くじめじめとした雰囲気の漂っているそこは、路地裏と表現する方が相応しい。
化物なら暗い所に出るはずという、神楽のありきたりな意見でここら辺をウロウロとしている。
無駄に張り切っている神楽をやる気のなさそうな顔で見て、あくびをしながら銀時は言った。
「大体、俺らその化物の特徴とか知らねーだろ。
それっぽい奴がいて攻撃したらただの天人だった場合どうする?
俺ら完璧悪者だよ。次の日には牢屋の中が愛しの我が家だよ」
それに対し、神楽は「何かそれっぽい奴がいたら、顔を見られないように気絶させれば大丈夫ネ! 間違えてても捕まらないアル!」と、かなり横暴な意見。
彼女が言うと実際にやりそうで、それを聞いていた新八は苦笑いを浮かべるしかなかった。
このあたりを探し初めてもう15分になるが、それらしき生き物は全く見当たらない。
果たして、彼女の方はどうなっているのか。
新八は美しき魔法使いを頭に思い浮かべ、無言でその少女の身を案じる。
第四級魔法使い。
その肩書きが一体どれほど凄いものなのか判らないが、どれほど凄かろうとエスペランサはまだ13歳。
まだまだ子供扱いされるべき年齢なのに、異世界で化物退治なんて。
「向こうの世界って、どういう構造で成り立ってるんだろう……」
新八がそう呟いた、わずか1秒後の事だった。
この路地裏を抜けた所にある通りの方から、女性特有の尾を引くような悲鳴が聞こえてきた。
「っ、今の悲鳴……!」
「ボサッとすんな! 行くアルよ、新八!」
いち速く走り出す神楽と、それに続く銀時を見て、慌てて新八も二人を追いかける。
(今の悲鳴って、もしかして……!?)
通りから聞こえてきたそれは、自分が愛するアイドルの声に似ている気がした。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.21 )
- 日時: 2011/10/19 14:24
- 名前: アニホとミシン (ID: WPbx8B95)
第一話(3)『オーガVS万事屋銀ちゃん』
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.22 )
- 日時: 2011/10/19 14:28
- 名前: アニホとミシン (ID: WPbx8B95)
その日、寺門通は路上ライブをしていた。
ライブといっても照明器具やスモークはなく、ただラジカセを横に置いてマイクで歌うだけ、故に路上ライブ。
「お前それでも人間かっ! お前の母ちゃん何人だっ!」
全力で歌うものの、彼女の前を歩く人々は見向きもしない。
しかし“歌う”という行為そのものを愛している彼女は、観客がまったくいない自分の路上ライブで、それでも楽しそうに歌っていた。
——そしてその出来事は、唐突におこった。
自分の背後と真正面にある路地裏の、背後の方。
そこから突然、とても人間のものとは思えない、重々しい、とても重々しい足音が聞こえてきた。
それは音楽をかけて全力で歌っていた彼女ですら、充分に聞こえる足音で。
「……?」
ゆっくりと、寺門通は後ろを向く。
音楽は未だに鳴り止まない。
音楽より大きな足音も、鳴り止まない。
そして、その“怪物”を、まさに“怪物”としか称しようのないその存在が視界に入った瞬間——
寺門通は、歌っている時ですら出した事のない大声で悲鳴を上げた。
* * *
オーガ。
日本では『人喰い鬼』と呼ばれるそれは、人間型の化物だ。
しかしサイズは人間以上。
シャングリラでは巨人の一種として認識されている。
六メートルはあろうかという身長、ぶくぶくに肥えた太鼓腹、醜悪な顔立ち、動物の毛皮を纏っただけの格好。
そして名前の通り、人の肉を好んで喰らう。
粗野で暴力的でありながら、その腕力は恐ろしく強い。
食べる事、そして戦う事。
この二つに関してはかなり優秀だとされる食人モンスター、それがオーガ。
そして今回この世界に飛ばされたオーガは、中でも少女の肉が好きだった。
* * *
「お通ちゃんから離れろおぉぉぉっ!」
ジリジリと近寄ってくる謎の化物、自分を置いて逃げ惑う人々。
「もう駄目だ」と寺門通が己の命を諦めかけた瞬間、後方の路地裏、さっきまでは真正面にあったそこから、眼鏡をかけた少年が飛び出してきた。
手にはそこら辺で拾ったような棒切れを持って、よほど急いで走ってきたのだろう、息もだいぶ荒い。
化物と自分の間に立ち塞がるようにして立っている彼の名前は、確か志村新八。
自分の親衛隊で隊長をしている地味な子だ。
「テメェ化物、初対面の女相手に発情してんじゃねーヨオルアァァァァッ!」
次いで飛び出してきたのは、真っ赤なチャイナドレスに黒いブーツの少女。
彼女は六メートルはあろうかという化物の腹に強烈な飛び蹴りをかまし、そのまま化物の体を吹っ飛ばした。
そしてシュタッ、と華麗に着地。
さらにその少女の後ろから、今度は木刀を持った銀髪の男が出てきた。
「うわっ、マジでオーガいたよおい。つーか大丈夫か?」
「変な事されなかったアルか?」
腰を抜かして座り込んだ自分に、声をかけてくれる二人。
この二人の名前も、知っている。
坂田銀時に神楽。
そして眼鏡の少年、志村新八。
万事屋銀ちゃんの皆が、何故ここにいるのだろう。
『ΦΨΩγδ……』
そんな質問を相手に浴びせる余裕もなく、壁にめり込んでいたオーガが、再びゆっくりと立ち上がってきた。
夜兎の飛び蹴りを喰らい吹っ飛んでもなお、オーガの体には傷一つついていない。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.23 )
- 日時: 2011/10/19 14:27
- 名前: アニホとミシン (ID: WPbx8B95)
「おいおい、マジかよ」
唇を引き攣らせながらも、銀時は腰を落として木刀を構える。
オーガがめり込んだ壁の方は大砲の直撃でも食らったように凹んでいて、普通の人間なら下半身と上半身が真っ二つになっていても可笑しくないほどの威力が、神楽の跳び蹴りにはあった。
それなのに無傷。
改めて、眼前にいるこの生物が化物だと思い知らされる。
「危ないから後ろにいて、お通ちゃん」
「お前も下がるネ新八。アイツ、新八じゃ絶対に太刀打ちできないアル」
愛するアイドルの前で格好をつけようとしたが、あえなく横槍を入れられる新八。
だが、それは彼女の言うとおりだった。
夜兎の跳び蹴りを喰らって倒れない存在に、新八の力が敵うはずもないだろう。
『ηλιμξ……、Ψερ!』
その大振りな腕を大きく広げ、神楽と銀時に直進するオーガ。
その巨体がこちらに届く前に、神楽が動いた。
「次こそは本気で行くネ!」
ダンッ! と、爆ぜるような轟音を奏でて、神楽がオーガに肉薄した。
肩甲骨ごと右腕を後ろに引いて、腰を捻り、上体を落とす。
そして力を溜めた後に放たれた右ストレートは、神楽の拳の四倍はあるオーガの拳と正面衝突し、お互いの力を拮抗させる。
「ぐっ……!」
『εθ……!』
お互いに苦しげな息を漏らし、しかし両者とも力を緩める気配はない。
力を緩めた方が負けるとばかりに、むしろ二人は込める力の量を上げ続け、ミシミシという骨の軋む音さえ聞こえてきた。
そしてそんな神楽の後方から、握った木刀を銀時がオーガに一閃させる。
『Φκαε!』
再び形容しがたい悲鳴を上げて、壁にめり込むオーガ。
……しかし、オーガはまたしても起き上がってきた。
信じられない、と。
通や万事屋メンバーの目が驚愕に染まり、神楽が悔しげに唇を噛む。
彼ら(彼女ら)は知らなかった。
オーガという化物は、倒されれば倒されるほど力を増し、復活してくる種族だという事を。
「この野郎!」
自分の跳び蹴りと銀時の一撃でも倒れなかったオーガにムカついたのか、再び驚異的なスピードでオーガに迫る神楽。
ドゴォッ! と強烈な音をたてて、神楽の爪先がオーガの腹にめり込む。
……しかし、オーガは倒れなかった。
「なっ……!」
「避けろ、神楽ぁっ!」
驚きに固まる神楽の体を銀時が突き飛ばし、銀時自身もその場所から速やかに飛び退く。
一秒遅れて、聞こえてくる破壊音。
神楽が後ろを振り返ると、そこには粉々に破壊された自動販売機があった。
あれが当たっていたら、今頃神楽の体はどうなっていた事か。
その光景を見て、ひっ、と、寺門通の喉が小さく鳴る。
新八も叫びだしたい気持ちだった。
足がガタガタで、棒切れを握る指先もプルプルと震えている。
(化物だ。本当に、化物だ……っ!)
「もしかしたら意外に弱いんじゃね?」とか思っていた数分前までの自分が恨めしい。
痛感した。
目の前にいるこの存在は、間違いなく化物だ。
人を喰らう鬼、オーガ。
本来なら自分達とは違う世界で生息している筈の、異世界の幻獣。
「新八ィッ!」
神楽の声にハッと驚いて顔を上げると、自分の真正面には片腕を振り上げたオーガ。
急いでこちらに駆け寄ってくる銀時の動きも、聞こえてくる神楽の大声も、段々と自分に迫ってくるオーガの腕も、何故だろう、全てスローモーションに感じる。
せめてお通ちゃんだけは護ろうと、その震える肩を急いで抱きしめた所で——
『ギリ間に合ったっぽいっちゃよ、エスペランサ!』
眩いショッキングピンクの影が、新八とオーガの間に割って入った。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.24 )
- 日時: 2011/10/19 14:32
- 名前: アニホとミシン (ID: WPbx8B95)
第一話(4)『魔法使いもヒーローも遅れてやって来る』
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.25 )
- 日時: 2011/10/19 14:35
- 名前: アニホとミシン (ID: WPbx8B95)
「だから、ここじゃ斑鳩桔梗と呼びやがれと言ったじゃねーですか……ハルピュイア」
比類なき美しさの銀髪、仄暗い魅力を湛えた青い瞳。
絹のように白い柔肌。起伏の少ない華奢な体を包む、黒い制服姿。
今日出会ったばかりの麗しき魔法使いは、使い魔に次いで空から舞い降りてきた。
杖を箒のように使い乗って、少女は空中に浮いている。
「エスペランサ……さん」
エスペランサ・アーノルド。
ハルピュイア。
第四級魔法使いと、その使い魔。
何故、彼女達がここに。
そんな自分達と疑問に応えるかのように、オーガの腕を食い止めながら、ハルピュイアが笑顔を浮かべる。
『「やっぱり心配だから」って、エスペランサが空からこっそり見てたんだっちゃよ。
もしそのまま勝てるようなら手を出すつもりは無かったけど、案の定ピンチになったから助けに……』
「んなことは一言足りとも言ってねえです。……死にやがられたら寝覚めが悪いから、仕方なく」
誤魔化すように視線を逸らし、少々気恥ずかしそうに呟くエスペランサ。
杖から飛び降りた彼女は、目の前にいるオーガを見、自身の杖を持った自身の右腕を頭上に翳す。
そして通や万事屋達の方を向くと、
「ちょっと恥ずかしいから……なるべく見やがらないで下さると、有難いですね」
と呟き、そして——
「変身魔法、マジカルデコレーション!」
エスペランサがそう叫んだ瞬間、彼女の足元に幾何学模様が刻まれた魔法陣が浮かび上がり——纏っていた服が、弾け飛んだ。
「はぁっ!?」
「え、ちょ、まじアルか!?」
思わず叫ぶ銀時と神楽。
続いてファンシーな蛍光色の無数のリボンが魔法陣から生えてきて、剥き出しになった胴体に絡みつく。
ちょうどプレゼントボックスでもラッピングするように巻かれたそれは、一瞬、光を発したかと思うと布に変わり、次いで二の腕や太股にも絡みついていった。
シャラランッと楽器を鳴らしたような音が響き、腕に巻かれたリボンはトーションレースの手袋に、太股に巻かれたリボンは黒いタイツへと変化。
腰に巻かれたリボンは革のコルセット、足に巻かれたリボンは革の編み上げブーツに。
ケミカルレースをあしらった黒いロングスカート、二枚重ねのパニエ、薔薇のチョーカー、フリルだらけのヘッドドレス……リボンは次々に違う装飾品を模っていき、最後に魔法陣の中でエスペランサがくるりと一回転すれば、やっとリボンと魔法陣が消えた。
「黒き夜に冷ややかな死を。纏うは惨劇、掲げるは猟奇。崇高なる無垢への恋慕は少女趣味の人形を耽溺させ、異端の魔女は異形の女神に成り上がる」
凍てついたモノクロの美少女が静かに言葉を紡ぐ、堕天使が描き出したような倒錯的で美しい光景。
「——形態、退廃美の乙女」
黒と白のコントラストが生み出す、怖気を奮う退廃美。
——そのゴシックロリータは、彼女、エスペランサ・アーノルドの魔法使いとしての正装だった。
変身。
確かにこれ以上、魔法使いの少女として——魔法少女として、相応しいシチュエーションはないだろう。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.26 )
- 日時: 2011/10/19 14:36
- 名前: ぬこ ◆xEZFdUOczc (ID: DVd8EX6H)
姫姉様ぁ!←
やはりお美しい……^p^
名前の長さに制限があったようでトリップ変えました!
いやぁ、もうその文才羨ましいですよ!
それで未成年ってどういう事ですかあああ!((落ちつけ
3分の1くらい分けてください(おまw
更新頑張ってください!
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.27 )
- 日時: 2011/10/19 14:41
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
>>26 ぬこ様
ありがとうございます!
美少女の描写は大好きですから(キリッ
トリップ了解です!
私の新しHN、長くて覚えにくかったらすいません(汗)
そしてこのHNをいじれば私の実名になるぜ!←
三分の一も分けたら私の文章力が三年くらい退化しちゃいます((
というかむしろこっちがぬこ様の文才欲しいですようわぁぁぁぁんっ!!←
はい、更新がんばりますね!
ぬこ様もここで何か書いたら教えて下さい!
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.28 )
- 日時: 2011/10/19 14:43
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
「ま、魔法使い……というか魔法少女? え、魔法少女って本当にいたの?」
「いや、僕も今日はじめて会ったんですけど……変身するのは知りませんでした」
『何ゴチャゴチャ話してるっちゃか! 早くどいてくれないと、流石のウチも限界が来るだっちゃ!』
ゴシックロリータのエスペランサを愕然と見つめる通。
尻餅をついたまま、エスペランサを見上げる新八。
二人を叱責するように声を荒らげるハルピュイア。
先ほどからオーガと組み合ったままのハルピュイアの細腕に、とうとう限界が来たらしかった。
慌てて通の手を引きハルピュイアとオーガから離れ、銀時達の方に寄る新八。
そんな新八に反比例するように、エスペランサはジャリッ、と砂っぽいコンクリートをブーツで踏みしめ、一歩前に出た。
闇に住まう蝙蝠のような漆黒のスカートが風に揺られ、エスペランサの双眸が静かに光り、周囲に淡く煌く金色の粒子が漂い始める。
それを感じ取った瞬間、ハルピュイアは『時間稼ぎ完了だっちゃ!』と叫び、翼を使ってオーガから離れる。
オーガもエスペランサに何か危険な雰囲気を感じ取ったのか、姿勢を低くして臨戦態勢。
水平に伸ばされた魔唱杖を包むように、徐々に一箇所に固まり始める光の粒子。
それを見ると同時に、エスペランサへ向かって鋭く踏み込むオーガ。
「天と地のあまねく精霊たちよ、その大いなる力は凍てつく冷気! 猛き氷の槍を以て薙ぎ払え——ノーザンランス!」
種類(ジャンル)は氷、形式(タイプ)は攻撃。
ノーザンランス、つまりは氷の槍。
杖先から放たれた氷柱はオーガの体に深々と刺さり、オーガの拳がエスペランサに到達する前に、オーガは地面に倒れ伏した。
「やった!」と思わず叫ぶ新八に、しかしエスペランサは「まだです」と返す。
「オーガってのは、一撃で倒さねーと強くなって蘇ってきやがる種族なんですよ。今のはただの牽制。すぐに起き上がってくるから、今の内に逃げやがって下さい」
「……急に来たと思ったら『逃げろ』なんて、私そういうポジションになるの嫌アル! 見てるネ、今の内に私が倒す!」
説明と共に逃避を勧めたエスペランサに、強気な神楽はそう発言し、ズカズカとオーガに踏み寄る。
「おい神楽! お前さっき負けてただろーが!」
さすがに危ないと止めようとする銀時を無視し、オーガの体の前でピタリと停止する神楽。
そして倒れているオーガの顔面をストレスをぶつけるように踏みつけようとした所で——閉じられていた瞼が、カッと大きく開いた。
大きく分厚い手の平が神楽の足首をガッシリと掴み、もう片方の手についた鋭い爪が、その喉首を貫かんと素早く迫り来る。
自分の身におこる痛みを覚悟して、神楽は硬く目を閉じる。
全力でこっちに走ってきている銀時も、この距離では到底間に合わないだろう。
「——危ねぇですっ!」
しかし、痛みは来なかった。
恐る恐る目を開けて見ると、視界一杯を埋め尽くす銀色。
坂田銀時のそれよりも色鮮やかな、細やかな銀髪。
その見事な銀髪が、宙を舞っていた。
——そして目の前には、太股あたりまであった髪が背中でバッサリと切断されたエスペランサ。
そのか細い腕に握った杖でオーガの一撃をなんとか防ぎ、自身の髪の毛を犠牲に神楽とオーガの間に入っていた。
「お、お前……」
「こっちの世界の人間に怪我されちゃ、校長に怒られるんですよ! 別に貴方を庇ったとかんなんじゃねぇですから、気にしやがらないで下さい」
辛そうな顔で奥歯を噛み締め、必死でオーガの腕力に対抗するエスペランサ。
しかし、徐々に力負けしてきている。
そんなエスペランサの様子を見て、我に返った神楽はその華奢な体を抱え上げ、オーガのいる場所から一気に五メートルほど後ろに飛び退いた。
夜兎の自分と張り合った腕力の持ち主に、この少女の腕で勝てるとは思えない。
事実、神楽の咄嗟の判断は正解だった。
あれ以上オーガの攻撃を防ぎ続けていたら、エスペランサの腕は骨折程度では済まなかっただろうから。
「……ちょっと自分勝手に動きすぎた、悪かったネ」
「……貴方に謝罪されると、なんだか調子が狂いやがります」
神楽にお姫様抱っこされていた状態から地面に着地し、再び杖を構えるエスペランサ。
さっきの魔法で傷つけたオーガの体は、既に怪我が塞がっていた。
「神楽、でしたっけ? 貴方の名前。神楽さんに頼みたい事があります」
「何ネ、急に」
「ちょっと魔力を溜めるのに時間がかかりやがる魔法を使うので——その間の時間稼ぎを、頼みたいんですが」
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.29 )
- 日時: 2011/10/19 14:45
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
「時間は?」
「二分ほど。魔力を溜めている間はハルピュイアの動きも制限しますから、貴方一人で戦いやがる事になってしまいますが」
「上等、大船に乗った気持ちでいれば良いネ」
パシンッ、と拳同士を合わせ、神楽はオーガに向かって一歩進み出る。
その顔に浮かび上がる表情は、満足気な笑顔。
彼女には、護られるよりも護る方が性に合っているらしい。
「——全ての幻影の消え去りし後、汝は聖なる形無き火を見るであろう。
その火は大宇宙の隠されし深みを射とおし煌く。
聞け、汝、火の声を!
偉大なる南の四辺形の御名と文字によりて、我は汝らを召喚す——」
呪文を唱え始めるエスペランサを中心に、魔力の渦が発生する。
さっきの呪文の比ではない、膨大な魔力の奔流が。
そしてそれをキッカケにして、オーガと神楽は再びお互いの拳を交えた。
「——汝ら南の監視塔の天使達よ。
なれば、最初に火の業を治めし僧侶は撒かねばならぬ。
高らかにざわめきし海の清めの水を!
偉大なる西の四辺形の御名と文字によりて、我は汝らを召喚す。
汝ら西の監視塔の天使達よ。
かくのごとき炎、迸る風の中にありて燃え広がらん。
また、声の似姿を放つ時、火は未だ無形なれども、煌く光、溢れ、渦巻く力として声高に叫ばん!
偉大なる東の四辺形の御名と文字によりて、我は汝らを召喚す——」
気が遠くなるような長々しい呪文をBGMに、神楽は膝蹴りを繰り出す。
しかしそれはいとも簡単に受け止められ、今度はオーガ側から繰り出される正拳突き。
「——汝ら東の監視塔の天使達よ。
暗き壮麗の世界に身を屈みこむるなかれ。
そこには背信の深淵が横たわり続け、闇纏うハデスが不可解なる似姿に歓喜す。
峻厳、曲屈、黒き逆巻く深淵は常に身に抱かん。
無形にして光放たぬ虚を!
偉大なる北の四辺形の御名と文字によりて、我は汝らを召喚す。
汝ら北の監視塔の天使達よ。
神秘なる統一のタブレットの御名と文字によりて、我は汝らを召喚す——」
コンクリートを軽くえぐる威力のその拳を真正面から受け止め、神楽はオーガの太い腕をガッシリと掴む。
そのまま驚異的な怪力でオーガの体を持ち上げ、近くの壁に投げ飛ばす。
しかし戦闘力が上がっているオーガは空中で大きく回転すると、壁を真横に蹴り飛ばして神楽に勢い良く飛んで行った。
「——汝ら、不可視のうちに住まう天上の天球の天使達よ。
汝らは宇宙の門の守護者なり。
汝らまた、我が神秘の天球の守護者とならん。
不均衡を彼方に遠ざけよ。
我を強く奮い立たせよ。
されば、我、この体を永遠の神々の密儀の住まいとして、清きまま保たん。
我が天球を純粋にして聖なるものとせよ。
されば、我、 我が存在の中心に入りて神聖なる光の秘密を共に預かるものとならん!
聖なるかな、汝、宇宙の支配者よ!
聖なるかな、汝、自然の造らざるものよ!
聖なるかな、汝、広大にして強大なるものよ!
支配せしものよ——」
迎え撃つ神楽はその白い足を大きく振り上げ、飛んできたオーガの頭に強烈な踵落としを喰らわせる。
白目をむいて倒れかけるオーガ。
神楽も想像以上に硬いオーガの頭に顔をしかめ、踵の痛みに耐えた。
「——光と闇を。
我、今、この儀式によりて拘束されし、全ての霊を解き放たん!」
そしてオーガが再び立ち上がろうとした所で——エスペランサの二分にも及ぶ詠唱呪文が、完成した。
エスペランサを取り囲んでいた魔力の激流が、巨大な魔法陣として地面に形を成す。
そこから這い出てくるのは、ドラゴンの形状をとった銀色の炎。
周囲に熱さを感じさせず触れたものだけを焼き尽くすその炎は、まず辺りの状況を確認するようりキョロキョロと周りを見回すと——オーガを視界にいれた瞬間、その燃え盛る顎を大きく開いた。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.30 )
- 日時: 2011/10/19 14:47
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
刹那、オーガの背筋を冷ややかな感覚が駆け抜け、凄まじい勢いで壁まで後退する。
理解したのだろう。
幻獣と呼ばれる自分より、怪力を持った少女より。
眼前で燃え狂う銀色の炎は、恐るべき存在だと。
「偉大なる四辺形よ。
≪無限劇場——ヴァーミリオンエンドレス≫の名の下に、貴殿の御手をお借り上げしたく存じます」
エスペランサは炎の前で優雅に腰を折り、意思を持つ相手に話しかけるように語りかけた。
使い魔であるハルピュイアがエスペランサの下だとすれば、契約していない召喚魔である炎はエスペランサの上。
命令ではなく、あくまで“魔力”という代償を差し出して助力を乞う必要がある立場だ。
『βγ? εε、ηλσ……Ωι!』
エスペランサの願いを聞き入れ、銀色の炎がまるで蛇のように鎌首をもたげた。
その矛先にはオーガの姿が。
何かが来ると感じた瞬間、神楽はすぐさまオーガの付近から飛び退き、念の為にと構えをとった状態で銀時達の傍に控える。
オーガは動けない。
同じ魔法の幻想の世界に住むもの同士、その猛々しい魔力に神楽達以上にあてられているからだ。
「我が魔力を糧に燃え上がれ、偉大なる神の炎よ」
——そしてオーガは、銀色の炎に火葬される。
酸素の中で燃える炎は指の一本も残さず貪欲に舐め尽し、数秒もたたない内に炎は食糧を全て失い、火勢を落とし、消えてなくなった。
うめき声を上げる暇すらも、なかった。
銀色の炎がそこから動いた時には、既にオーガの体は灰以下のものとしてこの世から消失していたのだから。
「……平穏のうちに汝らの場所、住処へと戻りたまえ。
祝福のあらん事を。
イェヘシュアーイェホヴァシャーの御名において。
我、今、この神殿が正しく閉じられし事を宣言す」
数秒前まではオーガがいたはずだった空間を一瞬だけ見詰めると、エスペランサは魔唱杖で地面の魔法陣を軽く叩いてそう唱える。
すると、圧倒的な質量をもってしてオーガを瞬く間に焼き尽くした銀炎のドラゴンも姿を消した。
それは、魔法終了の合図だった。
「変身魔法、解除」
パアァァァッ、という輝かしい光の後にエスペランサの服装が元に戻り、纏っていたゴシックロリータは上下双黒の制服に変わる。
ただし、切り落とされた美しい銀髪は元に戻っていなかったが。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.31 )
- 日時: 2011/10/19 14:48
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
「……終わったアルな。お前、今すぐ帰るアルか?」
心なし寂しそうな表情で、神楽が呟く。
化物を退治し終えたということは、エスペランサは異世界に帰ってしまうのだろう。
今日であったばかりの少女とはいえ、神楽は彼女のことが嫌いではなかった。
初めは少々ソリが合わなかったが、今ではそんな事もないし、もう少し時間をかけたら友達になれるかもしれなかったのに。
しかし、そんな神楽の憂鬱を裏切るように、エスペランサとハルピュイアは声を揃えてこう言った。
「帰れねーですよ」
『帰れないだっちゃ』
「「「……え?」」」と、銀時や新八も含めた三人の頭上に浮かぶ疑問符。
その疑問符に答えるように、エスペランサは語る。
「さっき神楽さんとオーガの間に入ったとき、髪が切られちまったでしょう? あれが原因なんですよ。髪ってのは魔法使いにとっちゃ魔力の源みたいなもんでしてね。切られやがると、その分だけ魔力がなくなるんです」
『しかもさっき使った大型の魔法で残ってたあらたかの魔力も消費したから、今のエスペランサは殆ど魔力零の状態なんだっちゃ。消費魔力量の多い異世界への転移魔法を使おうと思ったら、もっと大量の魔力が必要なんだっちゃよ』
「えっと……つまり?」と冷や汗を流す銀時に、エスペランサは平然と告げる。
「髪が元の長さに伸びきるまで、こっちの世界に留まるしかありやがりません」
長かった銀色の髪を指で梳くエスペランサと、何か言いたげにこちらに視線を寄越す新八神楽コンビを眺めて、銀時は思った。
これ、万事屋に住ませなきゃいけないパターンだ、と。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.32 )
- 日時: 2011/10/19 14:52
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
第二話(1)『武装警察真選組』
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.33 )
- 日時: 2011/10/19 14:53
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
「えー……みんなもう知ってると思うが、先日、宇宙海賊『春雨』の一派と思われる船が沈没した」
近藤勲が真顔で言うも、隊士たちは誰一人として聞いていなかった。
ここは武装警察真選組、屯所内。
その局長である近藤勲は、先日発生したとある事件についてと、これからの仕事内容について語るために隊士たちを一室に集めていた。
だが、やはり話を聞いてくれる隊士はいない。
彼らが話している事と言えば……
「なあなあ、昨日ファミレスにいた女の子めっちゃ綺麗だったよな!」
「俺も覚えてる! なんかこう、人間じゃないっていうか、魔女みたいなオーラの美少女だったよな」
「怪物と戦ったりとかしてそう。それで変身したりして!」
「バッカ、いくら何でもそりゃねーだろ。……でも、昨日銀髪の女の子が怪物と戦ってたって噂も聞いたしなあ」
「そりゃデマだろ。銀髪の女の子じゃなくて、実は万事屋の旦那とかが戦ってたんじゃないのか?」
「あの人を女の子と見間違えるかよ。女装してても、精々“女性”ってレベルだろ」
……どうやら彼らは、銀髪の美少女の噂で持ちきりらしい。
その噂なら近藤も聞いた事があった。
何でも昨日の昼ごろ、歌舞伎町内のとあるファミリーレストランにてとてつもない美少女が現れ、化物と戦っていたらしい。
嘘か本当か定かではないが、その手の話題は人の関心を寄せやすい。
結果、隊士たちの心は会議よりも噂話に行っていた。
「……トシ」
「はいよ」
その様子にさすがに我慢の限界がきた近藤は、傍らに座っていた土方十四郎の愛称を呼ぶ。
次の瞬間、土方の担ぐバズーカから放たれる一撃。
「えー……みんなもう知ってると思うが、先日、宇宙海賊『春雨』の一派と思われる船が沈没した。
しかも聞いて驚けコノヤロー。なんと奴らを壊滅させたのは、たった二人の侍らしい」
「「「えええぇぇぇぇっ!! マジすか!?」」」
さっきと全く同じ台詞を宣う近藤と、バズーカによる一撃が効いたのか、咄嗟に声を揃えてリアクションを返す隊士たち。
その頭からは、プスプスと灰色の煙が上がっていた。
「しらじらしい、もっとナチュラルにできねーのか」
「トシ、もういい。話が進まん」
さらにもう一発バズーカを放とうとする土方を制し、近藤はコホンッ、と一つ咳払いをする。
気を取り直し、近藤は話の続きを再会した。
「この二人の内、一人は攘夷党の桂だという情報が入っている。
まァ、こんな芸当ができるのは奴くらいしかいまい。
春雨の連中は大量の麻薬を江戸に持ち込み売りさばいていた。
攘夷党じゃなくても連中を許せんのは判る。
……だが、問題はここからだ」
一息すって、近藤は大人しく話を聞く隊士たちを見回す。
「……その麻薬の密売に、幕府の官僚が一枚かんでいたとの噂がある」
途端、隊士たちの表情が固くなる。
思ったよりも重大そうな事件に、やっと全員が真面目に話を聞き始めた。
「麻薬の売買を円滑に行えるよう協力する代わりに、利益の一部を海賊から受け取っていたというものだ。
真偽のほどは定かじゃないが、江戸に散らばる攘夷浪士は噂を聞きつけ、「奸賊討つべし」と暗殺を画策している」
バンッ!と大きな音をたてて立ち上がり、意気揚々と近藤は叫んだ。
「真選組(俺達)の出番だ!」
* * *
エスペランサ・アーノルドは、窓から差し込む朝日によって目を覚ました。
「ん……」
目をこすりながら布団からゆっくりと起き上がり、まだ覚醒しきっていない頭で辺りを見回す。
木製の床と壁、畳に敷かれた白い布団。
一瞬、ここは何処だという疑問が脳内を掠めたが、しかしすぐに思い出した。
「そういえば……坂田さん達の家に、泊めて貰ったんでした」
小さく欠伸を漏らしながら、エスペランサは回想する。
オーガを倒したは良いものの、魔力がほぼ零の状態になって、シャングリラに帰れなくなった自分。
髪が伸びきるまで何処に住もうかと思案していた所、坂田銀時や神楽たちがここに泊まれと言ってくれたのだ。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.34 )
- 日時: 2011/10/19 14:54
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
自分は「野宿するから問題ない」と言ったのだが、何故か彼らは「襲われるよ!?」「変なおっさんが多いから駄目ネ!」の一点張り。
そこまで弱いイメージを持たれているのだろうか。
そう返したら、はあ……と溜息を吐かれたのを覚えている。
「あ、エスペランサさん! 起きたんですね。おはようございます」
そこまで回想したところで、和室の襖がガラリと開いた。
視線をやると、そこにいるのは黒髪黒目の少年。
特徴を聞かれると「眼鏡」としか答えようのないこの少年の名前は、確か志村新八。
「……この世界にいる間は、斑鳩桔梗と呼びやがって下さい」
「あっ、すいません! なんか、エスペランサさんはエスペランサさんって感じしかしなくて……」
えへへ。と、新八は恥ずかしそうに頬を掻く。
この年代にしては珍しい、純朴な男子だと思った。
「僕は神楽ちゃんを起こしに行ってきますから、先にリビングで朝ごはん食べちゃって下さい。ハルピュイアさんと銀さんも待ってますから」
「なんと言いますか……申し訳ねーです、何から何まで」
「良いんですよ。僕、姉上に似てお節介焼きなんです」
そう言って、新八はトタトタと押入れの方に駆けて行った。
きっと彼の姉なら、世話好きの心優しい大和撫子で、料理も上手いのだろう。
とりあえず布団を畳んで和室の端に寄せ、短くなった髪を手で適当に整える。
制服のままで寝たから、スカートは皺だらけになっていた。
さすがにこれを短時間で直すのは無理だ。
「おはようございます」
スカートの皺を直すのは諦め、新八に言われた通り大人しくリビングに向かう。
ペコッと一礼すると、いまだ眠そうな顔をした銀時が「おー、新聞ならいらねーぞ」と返してくれた。
どうやら寝ぼけているらしい。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.35 )
- 日時: 2011/10/19 14:56
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
そしてその向かいには、相変わらずクソ長い髪を地面に垂れ流したままのハルピュイアが寝転がっていた。
朝から強烈なショッキングピンクを見て、目がチカチカする。
『おはようだっちゃ、エスペランサ! じゃなくて今は桔梗だったっちゃか? まあ、それはどっちでも良いとして、この変わった箱に昨日助けた女が映ってるっちゃよ』
ビシッ、とハルピュイアが指差した先にあるのはテレビ。
自分は異世界の品として教科書で見た事があったが、ハルピュイアには判らなかったらしい。
彼女の言うとおりにテレビ画面を見てみれば、そこに映っているのは確かに昨日助けた女。
名前は……寺門通と言っていただろうか?
《そうなんですよ。本当に銀髪の美少女が目の前で変身して、化物を倒したんです! へ、天人じゃないのかって? あんな天人は見た事がないけど……あれって天人だったのかなぁ?》
「「…………」」
銀時はいちご牛乳を飲んだまま、エスペランサはソファーに座りかけたまま、テレビから聞こえてきた声に固まった。
あの子、黙ってろって言ったの忘れてやがる。
「ふわぁー、おはようアル……なに二人して固まってるネ」
「あっ、テレビにお通ちゃんが映って……あれ? テレビで言ってるの、もしかしてエスペランサさんの事じゃないですか?」
寝癖だらけの頭で起きてきた神楽と、その隣で首を傾げる新八。
彼はテレビ画面に写っている寺門通と、その右上に大きく出ている『緊急特集! 謎の美少女は何者なのか!?』というタイトルを見て、全てを理解したような苦笑いでエスペランサに顔を向けた。
「エスペランサさん……ファイトです」
「……斑鳩桔梗と呼びやがれと、さっきも言いました」
お決まりの言葉を苦々しい表情で返し、エスペランサは卓上にあったテレビのリモコンを手にとる。
使い方なら教科書に乗っていた。
カチカチと音を鳴らしてチャンネルを変えてみれば、またしても同じようなタイトルの番組。
一から十二チャンネルまで全て確認しても、結果は同様だった。
(……いくら私の格好が珍しいとはいえ、ここまで目立ちやがりますか)
自らの美貌に自覚がないエスペランサは、そう胸中で呟いて静かにソファーに座った。
「どーすんだ? エスペランサ。オメェ今日は歌舞伎町を把握しに行くとか言ってたのに、これじゃ外に出向いた瞬間アウトだぜ」
「斑鳩桔梗です。……こうなりゃ、誰かが見つけやがらねーように変装でもします。悪ぃですが、誰か和装の類いを貸しやがって下さいませんか?」
そう言って銀時と新八を見るが、「そうは言っても僕、男物しか持ってないですよ。姉上のじゃサイズが違うし……」「銀さん、コレしか持ってねーんだけど」と困ったような意見しか返ってこない。
どうしたものかと思案していたら、ふいに神楽が「私のチャイナ服なら貸せるネ」と口を挟んできた。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.36 )
- 日時: 2011/10/19 14:59
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
神楽のチャイナ服……つまりはチャイナドレスという事なのだろうが、あれを着用したところで果たして変装になるのか?
そんなエスペランサと同意見なのか、銀時と新八も微妙な表情を浮かべている。
ハルピュイアだけは、『チャイナ服って何だっちゃかー?』と目をキラキラ光らせているが。
「いや……私がそのチャイナドレスを着たら、神楽さんの服が無くなりやがるでしょうし。遠慮します」
「じゃ、お前の服と交換するアル」
「このシワだらけの制服と?」
「私、前に着てたフリフリのヒラヒラの方が良いヨ」
そのフリフリヒラヒラを表しているのか、手を左右に揺らめかせるという意味不明なジェスチャーをしながら、神楽は言う。
結論から言えば、つまりエスペランサが神楽のチャイナドレスを着て、神楽にエスペランサのゴシックロリータ服を貸せという事だろうか。
確かに他の魔法と違い、魔法使いなら生まれた時から使える変身魔法にはほんの少しの魔力しか必要ない。
魔力が僅かしか無くとも、呪文だけにせず魔法陣まで刻めば変身できる。
「私はあんなフリフリヒラヒラなんて着たくないけど、お前が頼むなら仕方ないネ。交換してやらん事もないアルヨ」
そう腕を組んでふんぞり反る神楽の頬は、心なしか朱色を帯びている。
どうやらエスペランサのゴシックロリータ服を着てみたかったが、それを言い出すのが恥ずかしかったらしい。
素直じゃない人だ、と、神楽以上に素直じゃないエスペランサは静かに呟く。
そして新八の方に視線を移すと、新八に向かってこう言った。
「魔法陣を描いてもはみ出さないくらい大きめの紙と、鉛筆か何か持って来やがって下さいませんか? 変身魔法用の魔法陣を描きます」
「あ、はい!」
エスペランサの意図を理解したのか、和やかな笑顔で別の部屋に駆けていく新八。
そして十秒もしない内に、両手に新聞紙と鉛筆を抱えて戻ってきた。
「……まずは基本になる五芒星を描いて、そこから周りをルーンなどのアンサズで固めていきます」
新八から新聞紙を受け取り、説明を交えつつそこに魔法陣を描いていくエスペランサ。
ルーンやアンサズの意味が判らない銀時達は頭上に疑問符を浮かべながらも、興味津々にその手元を見ていた。
「この時に気を付けなきゃいけないのは、ルーンに魔力を込めすぎてそれ自体で魔法陣の役割を果たしちまう事ですね。そうなると一から描き直しになりやがるので。……まあ、殆ど魔力がねえ今の私には関係ありませんが」
『もっと月並みなミスで、ルーンを描き間違えるっていうのもあるっちゃよー』
途中からハルピュイアも解説に混ざり、魔法陣を描き進めていくエスペランサ。
そうして完成した魔法陣は、魔法を理解していない者にとっては、薄気味悪いだけの円形の何かに見えた。
「こんな複雑な模様、よく何も見ずに描けますね……」
「この程度の魔法陣、シャングリラじゃ目を瞑ってても描けやがるのが当たり前ですよ。こっちの世界で言やぁ、一足す一は二みてぇなもんです」
「描けたなら、さっさと変身して着替えるネ」
ガシッと、エスペランサの華奢な腕を掴み、ズルズルと魔法陣の描かれた新聞紙ごと別室に引っ張っていく神楽。
自分より少し小さい少女とはいえ人間一人を余裕で引き摺るその怪力は、さすが宇宙最強戦闘民族“夜兎”の天人という他あるまい。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.37 )
- 日時: 2011/10/19 15:01
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
奥の方に消えていった女子二人を見て、銀時は呟いた。
「……ここは古典漫画の王道に則って、覗きに行くべきか?」
「それ、神楽ちゃんに潰されるか、エスペランサさんに燃やされるかっていう結末しか見えないんですけど。僕は死にたくないからパスです」
* * *
「おー、意外に似合うアルな。私」
「貴方の方ですか。……私にチャイナドレスって組み合わせは、なんか果てしない違和感がありやがります」
黒と白のゴシックロリータを身に纏う神楽に、真っ赤なチャイナドレスを着こなすエスペランサ。
神楽の髪型はいつものお団子ヘアではなく、就寝中のように降ろしたまま。
逆にエスペランサは、神楽が使っていたものを借りて銀髪をお団子ヘアにしていた。
どうやらお互いに服のサイズはOKだったらしく、キツイ印象もダボダボの印象もない。
「お前、よくこんなフリフリの動き難い服で戦ってたアルな。なんか足とか上げにくいネ」
「慣れりゃあどうって事ありませんよ。……私からすれば、こっちのチャイナドレスの方が落ち着かねーです。なんかスースーしやがります。スリット深すぎです」
太股あたりまで入った深いスリットと、その隙間から見える眩いばかりの白い足。
男性なら一目見ただけでクラッとくること必至の光景だったが、それがエスペランサの足だと思うと、扇情的ではなく神秘的に見える。
日に滅多に当たらない肌の白い神楽も、黒いタイツやスカートがよく似合っていた。
「じゃあ今日一日はこれで過ごすネ! エスペランサも、その格好で歌舞伎町に行くといいアル」
「こっちじゃ斑鳩桔梗です。……マジで言ってやがんですか、ただでさえ馴染めーってんのに余計に目立っちまいますよ。チャイナドレスの魔法使いなんて聞いた事ねえです」
「桔梗が魔法使いなんて、そんなの知ってる万事屋銀ちゃんしか知らないから安心するネ。充分に悪目立ちするヨロシ」
「安心できる要素が一つもありやがらねぇんですが」
ぼやくエスペランサをスルーして、神楽はバアンッ! と襖を開く。
そして直立不動な銀時と新八に「待たせたアルな野郎共おぉっ! 歌舞伎町の女王神楽様と桔梗のお通りネ!」と叫び、そのままズンズンと歩いていった。
はっきり言ってゴシックロリータには似合わない動作。
それでも神楽の快活な性格ゆえか、何故か可愛らしく見えた。
「おお、どっちも似合ってんじゃねーの? いや、でもお前らそーいう服のイメージねえからな……つーか改めて見ると物凄い服だな。なんだコレ。どこの国にこんなの着る奴いんだよ」
「目の前にいるじゃないですか。あっ、エスペランサさんも神楽ちゃんもとって似合ってますよ! 二人ともイメージ違いますけど」
『桔梗ー、それがチャイナドレスだっちゃか?』
「……言いやがらないで下さい、チャイナドレスのイメージがないのはわかってます」
適当に自分と神楽を褒めてくれる銀時と、ちゃんと褒めてくれる新八、それに質問しかしてこないハルピュイア。
とりあえずハルピュイアの質問には頷いておいて、改めて銀時たちに向き直った。
「とりあえず服に関する話題は置いておいて、これから町を適当に歩こうと思います。ここって門限とかありやがるんですかね?」
「いや、基本的に門限はないですけど……桔梗さん一人じゃ危ないですよ」
「そんな危ない場所には入りませんよ。向こうから来やがらない限り大丈夫でしょうし、そもそも極道が私を狙いやがる理由はないでしょう」
「いや、そっちの意味じゃなくて「あ、じゃあ俺ついてくわ」変質者とかがいるから……って、銀さん?」
今までエスペランサとあまり会話を交わしていなかった銀時からの申し出に、驚いたような声を発する新八。
それはエスペランサも同じ事で、何の思惑があるのだと少し勘繰ってしまった。
そんな二人の様子に銀時は言葉を付け加える。
「いや、暇だからパチンコでも行こうかと思ってよ。行き帰りくらいなら送ってやれるし」
「……こんな朝っぱらからパチンコですか」
「銀ちゃん、最近ますますマダオになってきたネ。その内マダオを超えるマダオになるヨ」
「マダオを超えるマダオって、それもはや人間じゃねーよ。ただのマダオデラックスだ馬鹿」
「で? お前としてはどーなんだよ」とエスペランサを振り返る銀時。
その瞳は相変わらずやる気がなさそうで、真意は読めない。
一瞬どうしたものかと躊躇いはしたが、断る理由もないと判断し、こくりと頷いた。
それを見て、「うっしゃ、んじゃ行くか」と玄関に向かう銀時。
ハルピュイアを単体でここに残していくことに一抹の不安を感じつつ、エスペランサもその後を追った。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.38 )
- 日時: 2011/10/19 15:04
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
『行ってらっしゃいだっちゃ!』
「あまり遅くならないで下さいねー!」
「私のブーツ履いて行くネ!」
こうしてエスペランサは、初めて坂田銀時と二人きりになる事になる。
* * *
「俺が言うのもなんだけどよ……お前、そんな目になるまでに一体どんな事があった?」
唐突に、坂田銀時がそんなことを呟いた。
万事屋から歩いて五分も経っていない、様々な店が立ち並ぶ賑わった通り。
そこをお互いに距離をとって無言で歩いていたエスペランサは、銀時の問いかけに眉を寄せる。
銀時の顔は、相変わらず何を考えているのかわからない。
「俺の知り合いにも、それと似たような目ェした奴がいてよ。高杉晋助ってんだが。お前の目は、見様によっちゃあアイツより酷ェ。……流石のアイツも、十三歳の頃はそんな目じゃなかった。だからどうしてもあのヤローを思い出しちまって、距離感が上手く掴めねェ」
「だから」と、銀時はエスペランサに視線を合わせた。
「教えてくれ。たった十三年の人生で、一体どうやったらそんな目になれるんだ?」
銀時の言葉に対し、エスペランサは——ハッと、嘲笑うように唇を吊り上げた。
十三歳の少女には似合わない、酷く皮肉げな笑み。
笑みを浮かべたまま銀時を睨みつけて、彼女はグッと拳を握った。
「——貴方は、家族の生首の前でその仇に犯され続けた子供の気持ちがわかりやがりますか?」
——「ほら、もっといい声で鳴けよ。パパとママが見てるぜー?」
——「ぎゃははっ。犯されながら爪を剥がれるのって、一体どんな気分なんだろうな?」
——「魔法使い相手なら、何したって罪に問われないんだもんな。魔女狩り様様だぜ」
——「試しに皮膚とか炙ってみるか?」
——「自殺しねーように、口に何か入れとこーぜ」
——「さっき切り落としたこの子の弟の腕とかどうだ?」
——「いいな、それ最高」
思い出す、昔の日々。
残虐な魔女狩りの時代。
父を殺され、母を殺され、弟を殺され、妹を殺され。
復讐すべき相手に汚され続けた一年。
相手が息を呑んだ気配がしたが、構わず続ける。
「死後硬直した父の足が下半身にぶち込まれる気持ちは? 腐り落ちた母の乳房を食わされた気持ちは? 剥がされた弟の爪で性器を抉られる気持ちは? ……綺麗だと褒めてくれた家族の前で、純潔を汚され続ける気持ちがわかりやがりますか」
忘れたいのに、忘れてしまいたいのに。
いつまで経ってもあの一年は、悪夢のように自分を苛み続ける。
……自分が決して救われないという事実を、自覚させる。
「わからないなら、二度と興味本位で私の奥に踏み込むな」
絶句する相手を再び鋭く睨みつけて、エスペランサは銀時の横を足早に通り抜けた。
それは走って追いかければ、決して間に合わないスピードではないのに——それでも坂田銀時は、その後姿を追うことが出来なかった。
ただ、彼女の儚げな背中に手を伸ばす。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.39 )
- 日時: 2011/10/19 15:06
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
* * *
「ったく、このヤローは……」
悪趣味なアイマスクをつけて眠っている沖田に、土方はストレスで痛む胃を抑えつつ刀を向けた。
「おい、おきろ統悟。警備中に寝るたぁどういう了見だコラ」
「なんだよ母ちゃん、今日は日曜日だぜィ。まったくおっちょこちょいなんだから……」
沖田はぼやきながらアイマスクを上げて目をこすり、そこに土方の「今日は火曜日だ!」というツッコミが飛んだ。
土方が、ストレスを抑えるように煙草に火をつける。
あれから禽夜という幕府の高官を護衛しなけばならなくなった真選組隊士たちは、屯所の周りで各配置に着いていた。
……のだが、やはり沖田にやる気はないらしく、いつも通りのいざこざになる。
そして恒例の真剣勝負未遂になったところで、「仕事中に何遊んでんだアァァァァ!」と、近藤の拳骨が飛んできた。
その光景を見ていた禽夜がさらに近藤に拳骨を落とし、「役立たずの猿めが!」と呟きながら去っていくのを眺め、沖田は気に入らなさそうな表情でぼやいた。
「なんだィありゃ。こっちは命がけで身辺警護してやってるってのに」
「お前は寝てただろ」
「幕府の高官だかなんだか知りやせんが、なんであんなガマ護らにゃイカンのですか?」
土方の華麗なるツッコミをスルーして悪態を吐く。
そんな沖田を諭すように、近藤が隣に座って語り始めた。
曰く、自分達は幕府に拾われた身だから恩に報いるべきで、忠義を尽くすは武士の本懐。
つまり、真選組は幕府を護るためにあるという。
しかしそんな意見を保持しているのは近藤ぐらいなもので、沖田を筆頭とした殆どの隊士たちは禽夜を護ることに消極的、監察方の山崎退に至っては全力でミントンをしていた。
それに気付いた土方が、「山崎イィィィィィ!」と叫んで彼を追いかける。
そんな光景をバックに、近藤は続ける。
「総悟よォ、あんまりゴチャゴチャ考えるのは止めとけ。
目の前で命狙われてる奴がいたら、いい奴だろーが悪い奴だろーが手ェ差し伸べる。それが人間のあるべき姿ってもんだよ」
と、そこまで語ったところで、勝手にどこかに出歩こうとしている禽夜の後姿を発見。
気付いた近藤が慌てて禽夜を追い掛けるのを見ながら、沖田はしょうがないとばかりに呟いた。
「はぁー……。底無しのお人好しだ、あの人ァ」
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.40 )
- 日時: 2011/10/19 15:08
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
* * *
逃げた部下を追い掛けていた土方十四郎が、その少女と会ったのは、屯所の前の事だった。
どこぞの万事屋の娘が着ていたのとソックリ……というか明らかに神楽が着ていたのと同じチャイナドレスを身に纏った、銀髪の少女。
その銀髪を視界に入れた瞬間に思い浮かんだのは、憎たらしい万事屋の顔と、今朝隊士たちが話していた噂だった。
化物と戦っていたという、銀髪の美少女。
イイ女など腐るほど見てきた土方だったが、それでもこの少女には思わず目を見張った。
その肌も瞳も髪も手も足も唇も腰も、目に映るもの全てが人間では有り得ないほどに美しい。
彼女が自分を女神だと名乗れば、きっとどんなに理知的な男でも一瞬でそれを信じてしまうだろう。
その荒んだ気配を感じさせる美は、女神というより魔女かもしれないが。
「……私に何か用でもありやがりますか、黒服さん」
可憐な鈴の音が聞こえてきた。
そう思ったらそれは目の前にいるこの少女が発した声で、声までこんなに美しいのかと改めて驚いた。
どれだけ才能のある歌手が練習を積み重ねたところで、この美しすぎる声は到底出せないだろう。
少し乱雑な口調も、それが一種のギャップとなって、不思議と彼女の魅力を引き立てていた。
「……あの、聞いてやがるんですか?」
怪訝そうに眉を顰める少女の一声に、慌てて意識を現実へと引き戻した。
いつまでも眺めていたくなるこの少女の美貌は、一種の麻薬に等しい。
与えられる感動と恍惚は、そんな下賤な物体の比ではないが。
「あ、ああ。特に用ってわけでもねぇんだがよ……そのチャイナドレスって、万事屋んとこのチャイナ娘が着てた奴だろ? 知り合いなのか?」
素直に『貴方の素晴らしい美しさに見惚れていました』とはさすがに言えず、土方は少女のチャイナドレスを指差して誤魔化す。
少女は「ああ……」と納得したような表情になり、自分の姿を確認するように下を見る。
「ええ、神楽さんとは昨日知り合ったばかりです。
私のゴシックロリータに興味があると言っていたので、神楽さんのこのチャイナドレスと交換させて頂きました」
「そうか……えっと、お前の名前は? 俺は土方十四郎というんだが」
言ってから、名前を聞くのが急すぎたかと後悔。
しかし口が勝手に開いたのだから仕方がない。
この眩いばかりの美少女の前で、常識の抑止力などないに等しい。
「土方さんですか。私は斑鳩桔梗、斑鳩でも桔梗でも、そうぞお好きに呼びやがって下さい」
呟き、少女、斑鳩桔梗はこちらをじっと見つめる。
正しくは、土方が着用している真選組の隊服をだ。
何か隊服に思い当たる節でもあるのだろうか。
もしかしたら、今朝この少女の噂話で盛り上がっていた隊士たちに知り合いがいるのかもしれない。
そう考え、逃げた部下を追いかけることも忘れて少女との親睦をさらに深めようと思い立ったところで、その音は唐突に聞こえてきた。
バァンッ! と、銃器——狙撃銃の類で何かを撃ったような、そんな破壊音。
次いで響いてくる、「局長ォォ!!」という叫び声。
それだけで全てを理解し、土方は屯所の中に向かって駆け出した。
「ちょっ、どこに行きやがるんですか!?」
何故か、少女の腕まで握った状態で。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.41 )
- 日時: 2011/10/19 15:11
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
* * *
斑鳩桔梗……もとい、エスペランサ・アーノルドは混乱していた。
坂田銀時を相手に珍しく感情的になってしまい、頭を冷やそうと歩いていたら知らない奴に話し掛けられて、銃声が聞こえたと思ったら知らない奴に腕を引かれて知らない建物に入らされる。
これはどんな三流映画のあらすじなのだろうか。
しかもその相手が精悍な顔立ちの美青年ともくれば尚更。
前に出会った沖田総悟と同じ服を着ていたことなど気にせずさっさと歩いて行ってしまえば良かった……と考えていたところで、急に土方が自分の腕を離し、奇妙なカエルのような生命体に切りかかろうとしていた少年を制止した。
その栗毛の少年には見覚えがある。
沖田総悟。初対面から、自分の目を麻薬中毒者なみにイッていると称した男。
そんな彼の目は、いま瞳孔が開ききって非常に危ない雰囲気を放っている。
(私の目をヤバイなんて言っておいて、向こうもあんな目ェしてんじゃねーですか……)
心中ぼやきつつ、近くに生えている大木に静かに寄りかかるエスペランサ。
自分の腕を引いてきた男が何を考えているのか知らないが、連れてこられたということは何か理由があるのだろう。
ならば迂闊にここから動けない。
(……あるいは、それは建前で万事屋に戻り難いってだけかもしれませんが)
思わず睨みつけてしまった銀時の反応を思い返しながら、はぁ……と溜息を吐く。
基本的に自分は、知らない奴に過去を抉るような質問をされてもあそこまで感情的にはならない。
それなのに銀時相手にあそこまでの反応を示したということは、彼に対して多少なりとも好意を持ったりしていたのだろうか。
(いや……好意っつーか、安心感とでも表すべきですかね。私らしくもねぇ)
初めて会ったばかりの相手の家で眠るというのに、安眠できた。
今朝おきた時は不思議に思わなかったものの、改めて考えてみればその事実も驚きに値するもので。
あの地獄から解放された後、一度もぐっすりと眠れた事なんてなかったのに。
何処で何をしていても常に気を張っている。
そうクラスメイトに評された普段の自分は、シャングリラに忘れでもしてきたのか。
「……考えてても、埒があきやがらねーですね」
呟き、ゆっくりと木から体を離す。
眼前の光景に意識を移動させれば、そこに倒れているのは毛深い男性。
一言で表すならゴリラ、二言で表すなら精悍なゴリラ。
そんな男性が右肩を打ち抜かれて、それを同じような服をきた男達が心配そうに囲んでいる。
その光景を見て、ますます自分が連れてこられた意味がわからなくなった。
わからない。が、それで出来ることはわかる。
「ちょっと失礼します、のきやがって下さい」
スタスタと黒服の群れに近付き、そう淡々と呟くと負傷した男性の前で膝を着く。
周りの男達は、突然乱入してきた見知らぬ少女に軽く固まっていた。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.42 )
- 日時: 2011/10/19 15:12
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
時折「すっげぇ美人……」「天使だ……いや、それ以上だ……」などの血迷った発言が聞こえてきたような気がしたが、きっと自分の幻聴だろう。
「……我が手に集え、安楽の光よ」
治癒魔法の中でも最も初歩的な呪文を唱え、倒れている男性の傷口に手を翳す。
ぽうっ、と淡い光が傷口を包み込み、そのままギリギリ肉眼で確認できるほど遅いスピードで塞がっていく傷。
その光景を見て、周りから「おおぉっ!」という歓声が上がる。
全開の自分ならもっと上級の魔法を使って一瞬で治せるのだが、今は全開とは程遠いコンディション。
普段の魔力量が一万だとすれば今は十といった所なのだ。
「お前、それどうやって……」
傷がやっと四割ほど治ったところで、自分をここまで連れてきた土方と名乗る男が話しかけてきた。
その表情に浮かぶのは驚愕。
そこで、自分は事の重大さにやっと気付いた。
(……そういえば、こっちの世界じゃ魔法文化なんて一ミリ足りともありやがらねーんでした)
なんという痛恨のミス。
だが気付いた時にはもう遅し。
土方の発言を皮切りに、周りで息を呑んでいた隊士たちも次々に質問を飛ばしてきた。
「それって魔法か何か!? 貴方って魔法使いなんですか!?」
「噂の銀髪の美少女さんですよね!? あの、お名前って何ですか?」
「なんで屯所にいるんですか? いや、めちゃくちゃ嬉しいですけど!」
その凄まじい勢いに、軽く身を引く。
な、何でこんなに喰い付いてやがるんですか……とエスペランサが目の前の男達を理解不能の生物に指定しようとした時、頭上から「なぁ」と聞き覚えのある声が降ってきた。
治癒を続けたまま仰いで見れば、視界に入ったのは亜麻色の髪と爽やかな顔立ち。
開いた瞳孔が普段どおりに戻った、沖田総悟だった。
「アンタ、昨日会った斑鳩桔梗さんですよねィ? なんで万事屋んとこのチャイナと同じ格好してんでさァ」
「……あれから色々とあって、今に至りやがります」
「適当すぎまさァ。で、その魔法だか超能力だかわからない能力は?」
あはは、万事屋と真選組って知り合いなんだー……というテンションで現実逃避を試みたが、無理だった。
魔法。ありきたりだが幻想的なこの概念を、果たしてどう説明したものか。
そもそも、エスペランサが魔法使いだと名乗ったところで信用されるのか。
「私の種族が得意とする特殊能力一片というか、最も安易な術と言いやがりますか……とにかくそんな感じですよ」
ここで魔法使いと名乗るのはさすがに荒唐無稽すぎると判断し、またしても適当な嘘で誤魔化した。
すぐに反論が返ってくるだろうと思いきや、返ってきたのは「なるほど」の一声。
どうやらエスペランサを珍しい天人かなにかだと思い込んだらしい。
傷は六割ほど治った。きっとこの調子なら、あと二分もあれば完治するだろう。
周りにとっては凄い業でも、魔法使いのエスペランサには慣れた事。
周囲のハイテンションに若干の困惑を見せつつも、エスペランサは二分間耐え切り、見事にゴリラのような男性の傷を治し終えた。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.43 )
- 日時: 2011/10/19 15:14
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
* * *
「「「ありがとうございます、桔梗姫!!」」」
「……姫はやめやがって下さい、姫は」
目の前で土下座する隊士達を前に、エスペランサは苦々しい顔でごちった。
ゴリラのような男性——どうやら近藤勲という名前でここの局長らしい——の傷を治し終わり、土方も自分に用はなさそうなので屯所を出ようと思った矢先。
何故か全力で隊士達にそれを阻まれ、土方と沖田にもゆっくりしていけと言われたので、やむなく屯所内の和室に上がった。
目覚めた近藤からお礼を言われたのは、ちょっと嬉しかったが。
「あ、やっぱり桔梗姫だと美しさが足りませんでした?」
「ほら、だから俺が言っただろ? 桔梗姫より桔梗様の方が良いって」
「いっそ桔梗姫様で良いんじゃないか?」
「いや、俺達ごときが名前を呼ぶのがきっと駄目なんだよ。ここは姫様だけでどうだ?」
「姫様だと可愛らしさが勝ってて美しさが不足してるぞ。ここは姫姉様でどうだお前ら?」
「「「乗った!!」」」
こんな感じで自分の仇名が『姫姉様』に決まるのを微妙な表情で眺めつつ、さっき出されたいかにも高級そうな和菓子を一口つまむ。
後ろの方では、土方と近藤がなにかを言い合っていた。
「トシ、なんで一般の子が中にいるんだ? いや怒ってるわけじゃない。むしろ怪我を治してくれたんだから感謝してるが、あの子は屯所に何か用があったのか?」
「あー……なんつーかその、特に用もないのに連れて来ちまったっていうか……」
「……トシ、いくらとびっきりの美人でもあんな幼い子に手を出したらロリコンになるぞ」
「何もしてねぇよ!」
漫才に近いやり取りをしている二人を尻目に、自分に近寄ってくる気配を感じる。
ゆっくりと横を向くと、沖田総悟がエスペランサの隣に座り込んできた。
「アンタも大変ですねィ。まあ、そんなに気にしなくてもいいと思いやすぜ。アイツらは綺麗な女を前にすると大体あんな感じなんでさァ」
「綺麗な女? ……周囲を見回しても、この空間に私以外の女性はいやがらないと思いますが」
「……なるほど、無自覚ってやつですかィ」
妙に呆れたような目でこちらを見てくる沖田に対し、エスペランサはただただ無表情で首を傾げた。
エスペランサは、自分の顔が“それなりに整ってはいるが綺麗という程ではない”というレベルだと思っている。
しかしそれは本人がそう思っているだけで、周囲にしてみれば“この世でもあの世でも右に並ぶ者がいない極上の美少女”だ。
世界三大美女ですら見惚れさせ、無神論者にすら女神を連想させる。
多少の荒みでそれに退廃的な印象が加わってはいるが、エスペランサ・アーノルドはそんな美少女なのだ。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.44 )
- 日時: 2011/10/19 15:16
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
その並外れた美しさのせいで過去に陵辱されたことを鑑みれば、彼女にとって美しさとは呪いでしかないのかもしれないが。
「ふん、猿どもがギャーギャーと騒がしい。騒いでいる暇があったらさっさとこちらを護れ」
バァンッ! と襖が開かれて、そこからカエルめいた容姿の生物——禽夜が不機嫌そうに室内に入ってきた。
その瞬間、口には出さないものの全員が嫌そうな顔で禽夜に視線を送る。
当然だ。近藤や自分達を“猿”呼ばわりした上に、宇宙海賊春雨と繋がっていたかもしれない相手なのだから。
そんな周りの反感的な視線には気付いていないのか禽夜はズカズカと部屋の中に踏み入ってくる。
さらに文句を言ってやろうと隊士達を見回したところで、そこで一際の輝きを放っている少女を見つけた。
言うまでもなく、エスペランサ・アーノルドである。
禽夜はエスペランサの千人が千人とも認めるであろう美貌を見て、へにゃりとだらしなく顔つきを崩す。
このとびっきりの美少女を前にして、大抵の男は恥も外聞もなく見惚れてしまうらしまうのだ。
「これはこれは、今まで見た事がないほど美しいお嬢さんですね。本当にお綺麗だ。もしや貴方はこの世に舞い降りた天使か女神ですか?」
歯が浮くを通り越して飛んでいきそうな臭い台詞を言いながら近寄られ、僅かに顔をしかめるエスペランサ。
しかめられたその顔さえ、冷ややかな魅力を放っていて非常に美しかった。
隊士たちに対してここまで偉そうという事は、つまりそれなりに立場が上の人間なのだろう。
ならば失礼な物言いをして彼らに迷惑をかける訳にはいかない。
禽夜からの好色な視線になんとか表情を取り繕いつつ、エスペランサは答えた。
「……いえ、ただの一般人です」
「なんと! それほどまでのお美しさなら、てっきり天界の姫君か何かだと思っていましたよ。ああ、本当に美しい……よければ名前を教えて頂けませんか?」
「斑鳩桔梗」
なんて臭い台詞を下心丸出しの顔で言える奴なんだ消え失せろ馬鹿、とエスペランサのオーラが語っていたが、それに禽夜が気付く様子はない。
「桔梗さんですね、私の名前は禽夜と言って……」と何故か自分の紹介をし始めたところで、見かねた近藤が仲裁に入った。
「まあまあ、落ち着いて下さいって禽夜様。桔梗ちゃんは男性恐怖症なんですよ。こっちから近付いたら嫌われますよ?」
言いながら、背中越しにちらりと視線を向けてきた近藤。
どうやら口裏を合わせろという事らしい。
今度は取り繕った表情を怯える子供のような表情に変えて、エスペランサは隣にいた沖田の背中に隠れてみた。
顔だけを向こうから見えるように覗かせる体勢。
それなら仕方がないと諦めたのか、禽夜は残念そうな面持ちで手を引いた。
そして、ぱんぱんっ、と手を叩いて、近藤はその場にいる全員からの注目を集める。
「今から俺は別室で禽夜様を護衛しておくから、お前らはその間に会議をして配置を決め直しておいてくれ! くれぐれも桔梗ちゃんばっかに見惚れるなよ!」
「「「はいっ!!」」」
禽夜から離れられる事がよほど嬉しいのか、隊士たちの返事の声も大きくなる。
「猿ごときに護衛が務まるかっ!」と喚き散らす禽夜を宥めながら、去っていく近藤。
それらを見送った後、今まで静かにしていた土方が「こほんっ」と咳払いを一つした。
「……それじゃテメェら、会議始めんぞ」
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.45 )
- 日時: 2011/10/19 15:19
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
* * *
『過去の詮索って、それエスペランサ相手に一番やっちゃいけない事だっちゃよ?』
そんなハルピュイアの言葉を聞いて、銀時はうっと息を詰まらせた。
エスペランサとの一件から数時間後。
あれからさすがにパチンコに行く気も失せ、どうエスペランサに謝るべきかと思案しながら歌舞伎町を徘徊していたものの、全く切り出し方がわからず、結局は万事屋に戻ってきた銀時。
その事についてアドバイスを貰おうとハルピュイアに話した所、上記のような返答が返ってきた。
ちなみに神楽と新八の二人は買い物に行かせてある。
『いわゆる“トラウマ”とか“心の傷”ってやつなんだっちゃ、エスペランサにとっての過去っていうのは。銀時は魔女狩りって知ってるだっちゃか?』
「……いや、知らねーけど」
銀時のその言葉に、『じゃあ、説明するだっちゃ』とハルピュイアは続けた。
『魔女狩りっていうのは、エスペランサやウチがいる世界……つまりシャングリラで数年前まで行われてたものなんだっちゃ。
男も被害にあってたから“魔法使い狩り”って称するべきかもしれないけど、まあ女の魔法使いに被害者が多かったから魔女狩りになったんだっちゃよ。
被害にあった魔法使いは考えうる限りの拷問にかけられた後に処刑だれるのがお決まりっちゃ』
銀時がテーブルに出したいちご牛乳を飲みながら、ハルピュイアは話す。
『加害者は魔術師、被害者は魔法使い。
何百年も前から続いてきた悪習で、原因は魔法使いに対する魔術師の嫉妬やら羨望やらだっちゃ。
エスペランサの属するアーノルド家もその被害にあって』
「はいストップ! 質問なんだけど、その“魔法使い”と“魔術師”の違いってなんだ?」
ハルピュイアの言葉に被せるようにして発せられた銀時の疑問。
その疑問に、ハルピュイアはポンッと手を打って返す。
『そういえば、そっちの説明もしなきゃならないんだっちゃね。んー……言葉で説明すると、魔術は学問で魔法は才能って所っちゃ。
生まれた時から魔法使いになることを義務付けられてるシャングリラ。そこで魔法使いという天才になれなかったから、魔術という学問で勝負するのが魔術師だっちゃ。
わかりやすく物で例えると……そうっちゃねぇ』
呟き、ハルピュイアはいちご牛乳を飲み干して空になったコップを右手で持ち上げた。
そこに銀時の視線が移るのを確認すると、『例えばこれが爆弾だとするっちゃ』と意味不明な発言をする。
思わずツッコミを入れそうになる銀時だったが、説明を聞かなければ判らないとなんとか堪えた。
『この爆弾を一から自分で作って爆破しても、誰かから買い取って爆破させても、その威力は同じだっちゃよね?
ただ前者には時間が、後者には代金が必要だっちゃ。
この爆弾を魔法に置き換えて考えると、魔力(代金)を必要とせず知識と時間だけで魔法(爆弾)を造り上げるのが“魔術師”、魔力(代金)を払って魔法(爆弾)を使うのが“魔法使い”だっちゃ。
魔術師の利点は魔力がなくても魔法が使えること、ただし魔法使いよりかなり時間がかかる。
魔法使いの利点は時間がかからないこと、ただし魔術師のように魔力なしで戦えない。
これでオーケーだっちゃか?』
首を傾げて確認してくるハルピュイアに、銀時はギリギリで頷く。
異世界の話なんて、今まで聞かされた事のない自分にはハードルが高すぎる。
でもなんとか理解できた。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.46 )
- 日時: 2011/10/19 15:21
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
『じゃ、次は魔女狩りについての説明を再開だっちゃ』
銀時の頭も休まらない内に、また長ったらしい話が再開される。
『エスペランサも含めたアーノルド家の面々は、エスペランサが六歳の頃に魔女狩りの被害にあったんだっちゃ。魔力を封じる魔法が施された地下室で、身の毛もよだつような拷問に散々かけられて、それで死んでいく……っていうのが普通の魔女狩りなんだっちゃけどね。でも、エスペランサだけは違ったんだっちゃ』
どこか遠くでも見るような目で空のコップを眺める、ハルピュイア。
『綺麗すぎたんっちゃよ、エスペランサは。
綺麗で、美々しくて、神々しくて、あまりにも姿形が整いすぎてたんだっちゃ。だからアーノルド家を襲って地下に閉じ込めた魔術師のグループも、エスペランサだけは殺せなかった。……でも、殺されなかっただけだっちゃ。いっそ殺された方がマシなくらい酷い目に遭わされた』
「……犯されたんだったよな。家族の生首の前で、その仇に」
『それだけじゃないっちゃ。ちゃんと拷問にもかけられた、普通の魔法使いなら百回は死ぬような拷問に。それでもエスペランサが死ななかった、死ねなかった理由がわかるっちゃか?』
ピキッ、と、ハルピュイアが握っているコップに罅が入るのを眺めて、銀時はごくりと唾を飲み込む。
そんな銀時にこちらも視線を合わせて、ハルピュイアは口を開いた。
『——手足を切り落とされても、眼球を刳り貫かれても、皮膚を剥ぎ取られても、腸を引きずり出されても、骨を叩き割られても、肉を切り裂かれても、ぜーんぶ向こうの魔術で治されるんだっちゃ。
どれだけ死にそうな苦痛に苛まれても解放されない。そんな地獄に陵辱まで加わって、目の前で腐っていく家族の生首を見ながら過ごす地下室での一年って、一体どんな感じなんだっちゃかね。
裂かれた自分の腹から内臓を引きずり出されて目の前で笑いながら食べられる光景って、一体どんな気分で見ればいいと思うだっちゃか?』
「っ…………!」
あまりの内容に、思わず吐き気が込み上げる。
それと同時に自分がやらかした事の重大さがわかった。
そんなに惨たらしい彼女の悪夢を、俺は安易な気持ちで穿り返してしまったのか。
口元を抑える銀時を見て、ハルピュイアは罅の入ったコップをテーブルに置き直した。
そしてソファーから立ち上がり、『んー』と腕を上にあげて背伸びのような姿勢になった後、再び後ろ向きに倒れるようにしてソファーに座った。
『で、坂田はそれを聞いてどうするつもりだっちゃか?
聞くだけ聞いて何もしないつもりなら、ウチ、怒るっちゃよ』
いつもとは違い真摯な光を宿した目で見据えられ、銀時は立ち上がる。
「……探してくる」
そう呟くが早いか否か、真剣な表情で玄関に走る銀時。
『うん、上出来っちゃ』と満足そうなハルピュイア。
しかし銀時は部屋を出る直前でピタリと止まると、少しだけ振り向いて「ありがとな」と薄い笑みを浮かべた。
再び走り出した銀時を、ハルピュイアは唖然とした表情で見る。
数秒後、完璧に扉が閉まって銀時が出ていった事がわかると、ハルピュイアはソファーに倒れ込んで呟いた。
『……あいつ、天然パーマの癖に根はまっすぐだっちゃね』
さっきより、もっと満足そうな笑みで。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.47 )
- 日時: 2011/10/19 15:23
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
* * *
「ホシは“廻天党”と呼ばれる攘夷派浪士集団。桂達とは別の組織ですが、負けず劣らず過激な連中です」
硬い雰囲気の室内に響く、山崎退という名前らしい男の声。
そんな声を聞きながら、エスペランサは部屋の隅で椅子に座っていた。
自分はいらないと遠慮したのに、何故か周りの隊士たちに『姫姉様のお美しい足が痺れたら大変ですから!』『そうです! もしそんな事になったら、俺達はこの部屋にある畳を姫姉様の仇として燃やしますからね!?』と訳のわからない必死さで詰め寄られ、結果としてこうなってしまった。
和室に椅子というのはなんとも違和感がある。
しかも用意された椅子というのが王女が座るような豪華な造りのものなので、尚更だ。
さきほど近藤が禽夜を連れ出してから十分後。
すぐに言われた通りに会議が始まり、何故か関係のないはずのエスペランサもここにいた。
帰ろうとすれば止められるのだから仕方が無い。
いっそ今日はここに泊めて貰おうかなんてことを考えながら、エスペランサは聞こえてくる隊士たちの声に耳を傾けた。
「そうか……今回のことは俺の責任だ。指揮系統から配置まで全ての面が甘かった。もっかい仕切りなおすぞ」
煙草を吸いながらそう指示を出す土方に、「副長」と隊士の一人から声が上がる。
その顔に張り付いた感情は、禽夜への拒否感。
「あのガマ、局長が自分を庇って打たれた時になんて言ったと思う? 『猿でも盾代わりにはなったようだな』だぜ!? そんなこと言われてもまだ奴を護るってのか!?」
「あの野郎は俺達のことをゴミみてーにしか思っちゃいねー。自分を庇った近藤さんに何も感じちゃいねーんだ」
次いで、他の隊士たちからも異論の声。
それらをBGMに、山崎がおずおずと口を開いた。
「副長、勝手ですが奴の屋敷を調べてみました。倉庫からどっさりとコイツが……もう間違いなく奴ァ黒です」
そう山崎が上着の中から取り出したのは、麻薬。
それも先日の事件で話に上がっていた“転生郷”だった。
その白い粉を見て、エスペランサは沖田総悟との失礼な出会いを思い出す。
目が常人じゃないとかで呼び止められたのだ。
しかし実はそれが建前で、彼女の美貌に思わず会話したくなっただけだという事実に、エスペランサは未だに気付いていない。
恐らくこれからも一生気付かないだろう。
(……つーか、本当に私がここにいる意味って何なんでしょうね。交わされやがる話の内容は私に一切の関係もありませんし)
考え、エスペランサは静かに瞼を下ろす。
別に眠るわけではないが、なんとなくこうすると安心した。
同じ部屋の前の方では、今も隊士たちの会話が交わされている。
「こんな奴を護れなんざ、俺達のいる幕府ってのは一体どうなって……」
「フン、何を今さら」
当惑する山崎の声を遮って、土方のそんな声が被せられる。
そのまま部屋の出口に向かって歩きながら、土方は語った。
「今の幕府は人間の為になんて機能してねぇ。んなこたァとっくにわかってた事じゃねーか。
てめーらの剣は何の為にある? 幕府を護る為か? 将軍を護る為か? 俺は違う。覚えてるか?」
近藤と禽夜がいるであろう部屋の方を見て、土方は続ける。
「あの頃、学もねェ、居場所もねェ、剣しか脳のないゴロツキの俺達を、きったねー芋道場に迎え入れてくれたのは誰か。
廃刀令で剣を失い、道場さえも失いながら、それでも俺達を見捨てなかったのは誰か。
失くした剣をもう一度取り戻してくれたのは誰か」
吸っていた煙草をふかし、隊士達の視線を背に土方は言う。
「……幕府でも将軍でもねェ。俺の大将はあの頃から近藤さんだけだよ。
大将が護るって言ったんなら仕方ねェ。俺ァそいつがどんな奴だろーと護るだけだよ。気にくわねーってんなら帰れ。俺ァ止めねーよ」
言い切り、煙草を吹かして部屋から出て行く土方を見ながら、隊士達は何も返せなかった。
そうして玉座で眠る姫は、ゆるりと瞼を開く。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.48 )
- 日時: 2011/10/19 15:24
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
* * *
外に出た土方が見た光景。
それは、地面にしゃがみ込んで薪をくべている沖田と、その薪で燻る火に炙られかけている禽夜の姿だった。
ああ、そういえばコイツさっきの会議で姿を見かけなかったな、と思う前に、土方は必死形相で叫ぶ。
「何してんのォォォォォ!! お前!!」
「大丈夫大丈夫、死んでませんぜ。要は護ればいいんでしょう? これで敵おびき出してパパッと一掃、攻めの護りでさァ」
あっけらかんとした顔でそう返し、喚く禽夜の口に薪を差し込む沖田。
むが! もぺ! と悲鳴になっていない悲鳴を上げる禽夜を尻目に、沖田は土方に視線を合わせた。
「土方さん、俺もアンタと同じでさァ。早い話、真選組にいるのは近藤さんが好きだからでしてねェ」
でも、と、肩を竦める動作をする沖田。
「何分あの人はァ人が良すぎらァ。他人のいいところ見つけるのは得意だが、悪いところを見ようとしねェ。
俺や土方さんみてーな性悪がいて、それで丁度いいんですよ真選組は」
ついでに桔梗みたいな華も欲しいんですがねィ、と続けて、沖田は再び薪をくべる動作に復帰する。
その言葉を聞いて、土方は「フン」と口角を吊り上げた。
「あー、なんだか今夜は冷え込むな……薪をもっと焚け総悟」
「はいよっ!!」という返事と共に増やされる薪と、「むごォォォォ!!」という禽夜の下品な悲鳴。
口に何本も押し込まれたその薪の中の一本に、銃弾が貫通したのは次の瞬間の事だった。
来た、と二人がほくそえむと同時に、入り口となっている門から浪人めいた出で立ちの男達が数人入って来る。
“廻天党”。禽夜の命を狙っていた攘夷浪士グループのお出ましだった。
頭に『天誅』と書かれたハチマキを巻いた男が、代表として声を張り上げる。
「天誅ぅぅぅ!! 奸賊めェェ!! 成敗に参った!!」
そうして沖田と土方のいる方を見据えると、刀を翳しながら進んでくる。
「どけェ幕府の犬ども。貴様らごときにわか侍が、真の侍に勝てると思うてか」
自らを真の侍などとほざくその集団を気にすることもなく、沖田と土方はすらりと刀を抜いた。
「おいでなすった」
「派手にいくとしよーや」
両名の間に火花が散り、どちらが先に斬り掛かるかという緊迫状態。
「……なるほど、こういうタイプの人間を攘夷浪士と言いやがるんですか」
——緊迫状態を打ち破るように、その澄んだ声は頭上から響いてきた。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.49 )
- 日時: 2011/10/19 15:25
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
* * *
広場から見上げる夜空、夜空の月明かりを背にしたその空間の中に、漆黒の衣装を纏った少女は空を食う染みとなって、月蝕のように立っていた。
透けるように白い肌。
怖気を奮うほどに整った顔立ち。
上から見下ろす蒼い瞳。
光り輝く銀糸の髪。
そしてその体を覆う、無数の絹糸が縫い取られた、漆黒の着物。
夜風に煽られてその裾が翻り、黒い袖が背景の薄明かりを透かしている。
見る者の魂を奪う、世界の時間が止まったような、この光景。
その美しさは、例えるなら死を告げにこの世に舞い降りてきた天使。
そんな堕天使のような姿で杖に乗って、空に浮いていた少女は、突然の出来事とそのあまりの美しさに見惚れる男達を見下ろして、鈴を転がすような麗しい声で言った。
「……なんで杖に乗って浮いているんだとか、その着物は何処で手に入れたんだとか、その手に質問はありやがらないわけですね」
呟き、少女は杖から飛び降りて地面に着地する。
その軽やかな様は、まるで天使が光臨したよう。
「き……桔梗?」
ずっと美しすぎる少女の登場に固まっていた男達の中で、初めて土方がそう声を発した。
斑鳩桔梗。
夜の闇の中においてなお、数多の宝石がくすんで見えるほど圧倒的な輝きを放つ彼女。
さっきまで玉座で暇を持て余していたはずのお姫様が、何故ここに。
その疑問に応えるように、漆黒の和服を纏った彼女は、深海の色をした瞳をこちらに向けて言った。
「あんなに丁寧なもてなしをされては、私も何もせず帰るわけにはいけませんから。お礼として戦闘に参加しようかと。……ちなみにこの着物は、チャイナドレス以外の服が欲しいと言ったら隊士の皆様がくれやがりました」
言って、漆黒に染め上げられた布地に金の絹糸で刺繍が施された着物を指差す桔梗。
見るからに数百万から数千万はしそうな造りの良さだった。
こんな物が屯所にあった記憶はない。
という事は、彼女のお願いに舞い上がった隊士共が急ぎで購入してきたのだろう。
見てもいないのに、「姫姉様に安物なんか着せられるか! 今すぐ高級な品をご用意しろ!」「「「おおー!!」」」と、無駄に気合を入れる彼らの姿が脳内にありありと思い浮かべられる。
斑鳩桔梗の美貌は、どうやら会って間もない隊士達に数千万の金を貢がせるくらいは余裕でできる代物らしい。
……彼女に欲しいとねだられたら、自分もそのくらいの金額のものは買ってしまうかもしれないが。
というか、それは置いておいて。
「お前っ……戦いに参加するってどういうつもりだ!?」
「どういうつもりと言いやがりましても……そのまま、あちらの方々を拘束するお手伝いをと」
桔梗の白く華奢な指先が、門の入り口で固まったままの攘夷浪士たちを示す。
話題が自分たちの事に移っていると気付いて、桔梗に見惚れていた攘夷浪士たちはやっと我に返った。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.50 )
- 日時: 2011/10/19 15:27
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
「きっ、貴様は何者だ! 服装から見るに真選組の者ではなかろう!」
「何者……そうですね、とりあえずは『みんなの姫姉様』とでも名乗っておきましょうか」
「何を訳のわからぬ事をっ……!」
刃を向けてくる攘夷浪士を意に介する様子もなく、桔梗はスタスタと杖を持ったまま歩み寄る。
慌てて背後にいた土方がその肩を掴むが、触った瞬間に静電気のような違和感を感じて離してしまった。
バチバチという効果音こそないものの、指先に走る感覚は間違いなくそれに近いもの。
「桔梗……?」
「……信じやがって貰えるかに確信が持てず適当なことを言っていましたが、はぐらかし続けるのもいずれバレそうなのでここで明かしておきましょう。私は魔法使いです」
土方と沖田の瞳が揺れる。
同時に口から零れ落ちる、「「ま、魔法使い……?」」という間抜けな呟き。
それらを背景に、桔梗は手にした杖をカツンッと地面に突き立てた。
土方が静電気と称した気配、魔力が溢れ、迸る。
「でも魔法使いとはいっても、今は訳あって魔力が極端に少ない状態でしてね。使える魔法はかなり限られてやがるんですよ。……ですが、それもこの時間帯なら話は別です」
サァッ、と、少女の杖を何か黒い物体が登ってくる。
固体でも流体でも液体でもない、ただ黒いだけの闇。
それがどんどんと幅を広げていって、編み掛けのビロードのように解れ枝先を空に向けた時——その正体が何であるかを周囲は理解した。
足元から伸びる闇。
即ち、影。
「今は夜——魔女の時間です。
闇が世を包むこの禍々しい時にだけ、とても簡単に使える魔法というものがありやがるんですよ」
斧・槍・刀・剣・鎌・鞭・針・鉈・弓——様々な形状に姿を変えた無数の影が彼女の足元から伸び、小さく悲鳴をあげる攘夷浪士たちに向かっていく。
それはあくまでただの影でしかない。
ただの影でしかないはずなのに、その影が何か恐ろしいものであるかのように感じられ、攘夷浪士たちは必死に刀で対抗した。
が、いかんせん数が多すぎる。
一人、また一人と弱い者から順を追って影に拘束されていく。
驚くべき事に、捕まった攘夷浪士たちは一辺の傷も負ってはいなかった。
「夜を統べるは影、影を統べるは闇、闇を統べしは汝なり。汝、夜の王よ。汝の眷属たる我らに助力せよ。今は汝が時、虚ろなる宵闇の世界———」
そして最後に、代表とし土方たちに啖呵を切っていた攘夷浪士が拘束される。
彼にもまた、斑鳩桔梗は僅かな傷さえも負わせていなかった。
勝負が終わると同時に魔力の奔流は彼女の体内に収まり、歪に駆動していた影たちもスルスルと元の形に戻っていく。
攘夷浪士たちは気絶していた。
「……とまあ、こんな感じで私は魔法使いでして。ちなみに実名も斑鳩桔梗ではなく、エスペランサ・アーノルドです。こちらの世界じゃ浮きやがるので前者のままでお願いしたいのですが」
「え、えっと……え? ええ? えっ?」
「ま、魔法使いって……あの呪文唱えたりするやつですよねィ?」
「ええ、呪文を唱えない場合もありやがりますが」
あっけらかんと秘密を告白する桔梗、否、エスペランサとは裏腹に、未だにパニックな土方と沖田。
このどうしようもない心中を落ち着かせる為、とりあえず二人は叫んだ。
「「なんじゃそりゃああああぁぁぁぁぁぁっ!!」」
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.51 )
- 日時: 2011/10/19 15:30
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
* * *
「おてがら真選組、攘夷浪士大量検挙。その偉業の影にまたしても謎の美少女あり。闇の中で優雅に敵を圧倒するその姿はまさに黒き舞姫——。
ねえねえ銀ちゃん、この写真って桔梗じゃないアルか?」
新聞紙を広げて記事に目を通していた神楽の言葉に、銀時はガバリと起き上がった。
慌てて神楽から新聞紙をひったくり記事を見てみれば、確かにエスペランサと思しき少女の写真が掲載してある。
着ている服はチャイナドレスでもゴシックロリータでもなかったが、この底冷えするような美貌は間違いなく彼女。
「あれからどれだけ探してもいないと思ったら、よりにもよって真選組にいたのかよ……」
『坂田、あれから夜も眠らず必死で探したっちゃのにねー。全力疾走で町を駆けてぶっ倒れたところをウチがここまで連れてきたっちゃのにねー』
「うるせー、銀さん休んでただけだから。本当はもう少し頑張れたから!」
からかうようなハルピュイアの声に、若干ふてくされたように返す銀時。
あれから万事屋を飛び出し五時間は全力疾走で探し続けたが、ついにエスペランサは見付からず、道端で倒れこんだ銀時。
そんな銀時をこっそり見守っていたハルピュイアが銀時を連れて帰り、そして今に至る。
「なんか、桔梗の両サイドでマヨラーとサドが嬉しそうにしてるのが気に喰わないアル。つーか後ろの奴もデレデレしてて気持ち悪いネ」
「記事抜きでこの写真だけ見たら大量の男に絡まれてる美少女って感じですもんね……あ、記事に隊士Aの証言とか載ってる」
銀時の後ろから覗き込むようにして新聞紙を読んでいて新八は、記事のとある一部分を指で指した。
「隊士Aの証言『あの攘夷浪士どもが姫姉様の柔肌にちょっとでも傷を付けたら一族郎党皆殺しにしてやろうって全員で話してたんですけど、そんな心配なんて全然ありませんでした! 戦う姫姉様の強いこと強いこと! 穏便に済ませるから手を出すな、っていう姫姉様のお言葉を聞いておいて正解でした!』
隊士Bの証言『姫姉様マジお美しかったです! 戦ってる姿まで綺麗な人なんて見ました!』
隊士Cの証言『あの着物ブランドものでかなり値段が張ったんですけど、それでも姫姉様のお美しさの前ではやっぱりくすんで見えました。今度は全員でもっと豪華なものをプレゼントしよう!』
隊士Dの証言……」
「ちょっと一旦ストップ新八くん。頭痛してきたから」
読み上げられる内容に、思わず額を押さえてストップをかける銀時。
なんだそのアイドルのファンがライブに言った後のアンケートみたいな証言! ミーハー全開? などと考えつつ上半身をハルピュイアの方に向けると、自身の髪を暇そうに弄っていたハルピュイアが銀時の視線に気付いた。
『何だっちゃか?』と首を傾げるハルピュイアに、銀時は一言。
「エスペラ……桔梗の奴、もしかして何処に行ってもこういう扱いなわけ?」
『んー……まあ、基本的に男に貢がれてはいるっちゃね。シャングリラじゃ億単位のドレスとか日常的にプレゼントされてただっちゃ』
「自分から欲しいって言ってんのか?」
『いや、そもそもエスペラ……桔梗は自分が綺麗っていう自覚もないっちゃよ。勝手に惚れた男が勝手に貢いでるだけだっちゃ』
「末恐ろしいなオイ……」
若干十三歳にしてすでに貢がれまくっている、さらに本人は意識すらしてないときた。
その事実に軽い戦慄を覚える銀時に、『それよりも』とハルピュイア。
『桔梗の場所がわかったんだっちゃから、さっさと謝りに行くだっちゃよ。ああみえて優しいから謝らなくても普通に接してくれるだろうけど、坂田がそれをやったらウチが不快っちゃ』
「……いま思ったんだけどさ、お前なんか銀さんに対してだけみょーに厳しくね? 神楽とか新八にはそうでもねーのに」
『ウチ、桔梗を傷付ける奴は自分以下の存在として見るって決めてるんだっちゃ』
「何気に見下し宣言!?」
ショッキングピンクの眼差しを受けてそうツッコミを入れながら、銀時はとりあえずソファーから起き上がる。
そしてテーブルの上に置いてあったいちご牛乳を一気飲みすると、口元を袖で拭った後に玄関に体を向けた。
「何処に行くんですか?」「馬鹿かお前、桔梗を迎えに行くに決まってるネ」とコソコソ話し合う新八と神楽を尻目に、そのまま玄関へと歩みを進める銀時。
そんな銀時をヒラヒラと手を振って見送るハルピュイア。
そして銀時が万事屋から出て行ったことを確認すると、その猛禽の翼をバサリと広げて、ハルピュイアは二人に顔を向けた。
『さてお二人さん。ウチは今から散歩に行って、たまたま桔梗の居場所まで行っちゃったりするかもしれない予定なんだっちゃけど……二人はどうするだっちゃか?』
笑みを含んだその問いかけに、二人はニヤリと笑って返す。
「「もちろん付き添いで!!」」
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.52 )
- 日時: 2011/10/19 15:31
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
* * *
結局、あれから真選組に泊まってしまった。
そんな事をぼんやりと考えて溜息を吐きつつ、エスペランサはベッドから緩やかに起き上がった。
周囲を見回すと、そこは万事屋ではなく、勿論シャングリラで使っていた自分の寝室でもなく、昨日あてがわれた屯所内のとある一室。
本来は純和風であったがずの室内は、昨日自分がうっかり零してしまった「洋風の方が慣れている」という言葉のせいですっかり洋風の内装に造りかえられている。
床が畳で扉が障子であることに変わりはないのだが。
その畳の上に置かれているのはキングサイズのベッド、しかも豪華な天蓋つき。
フリルとレースにまみれたそれは童話のお姫様が使うような少女趣味全開のデザインで、しかも驚くべきことにシーツや掛け布団はシルク百パーセントだった。
いくらしたのかなんて知らないが、最低でも七桁は行っているはず。
「……お礼目的で戦闘に参加したはずが、余計に恩が積み重なっていきやがります」
困ったように呟いて、触り心地のいいシルクの掛け布団を綺麗に畳む。
シワがついていないことを確認して満足げに頷くと、何故か地面に用意されていたふわふわのスリッパに足を入れて、静かに障子を開ける。
障子の向こうでは、これまた何故か隊士たちが部屋を覗き込むようにして大量に群がっていた。
「おはようございます姫姉様! 今日も変わらずお美しいですね!」
「おはようございます姫姉様! 今日は昨日よりもお美しいですね!」
「ちょっ、お前らなに抜け駆けして口説いてんだよ! みんなの姫姉様だからな! あっ、おはようございます姫姉様! 姫姉様はいつだって最高にお美しいです!」
「「テメェがいちばん抜け駆けしてんじゃねぇか!!」」
目の前で繰り広げられるコントめいた会話劇に、とりあえず「……おはようございます」と小さく頭を下げてみる。
すると隊士たちは「ああ、姫姉様に挨拶して頂けた……」と陶酔したような表情で地面に倒れ込む。
駄目だ、何がしたいのかわからない。
謎の行動をとる彼らに困惑していると、彼らの後ろから足音。
ふとそちらを見ると、そこにいたのは既に隊服に着替えている沖田の姿だった。
沖田はエスペランサが自分を見ているのに気付くと、ヒラヒラと手を振りながら近寄ってくる。
「おはようございまさァ。つーか何でこいつら倒れてんですかィ?」
「さあ……ただ挨拶されたので返したら、急に倒れやがりまして」
「納得。そういうことですかィ」
何で納得したのかわからないが、とりあえず今の説明で彼には事態が飲み込めたらしい。
そのまま地面に倒れている隊士たちを廊下の隅っこに足で寄せると、エスペランサの手を握って「んじゃ、行きまさァ」と何処かに歩き出した。
あのままにしていても良いのだろうか、と幸せそうな顔で失神している隊士たちをチラチラと見ながら、エスペランサは沖田にとりあえず歩調を合わせる。
「腕細っ。普段なに食ってんでさァ」
「味の濃いものは嫌いではありませんが苦手なので、薄味のものを中心に食べています。……というかあの、何処に行きやがるんですか?」
「朝食。桔梗、昨日の晩は何も喰わずに寝てやしたからねェ」
相手のその言葉を聞いて、そういえば自分が二日前の夜から飲まず喰わずだったことを思い出す。
桂小太郎と名乗る黒髪の男に奢ってもらったパフェと、テーブルに初めから置いてあった水。
こちらの世界に来てから、自分はこの二つ以外を口にした記憶がない。
それでも喉が渇いたとは思わないし、腹が減ったとも感じない自分。
「……そういえば、昔は本を暗記するのに必死になりすぎて一週間なにも食べなかった事もありやがりましたね」
「? 何か言いましたかィ?」
「いえ、何も」
そのあと結局ぶっ倒れて、クラスメイトに発見された記憶がある。
場所が学校内の図書館で良かった。
原因は栄養失調に水分不足に睡眠不足だったらしいが、ぶっ倒れる寸前まで自分は何も感じなかった。
きっと集中力が凄まじいのだろう、とそのクラスメイトに半ば感心されたり。
なんて懐かしい出来事を思い出していると、「つきやした」と沖田の声。
慌てて顔を上げると、どうやらそこは食堂のようだった。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.53 )
- 日時: 2011/10/19 15:33
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
畳を敷いた部屋にいくつものテーブルが並び、カウンターの向こう側ではアルバイトかなにかと思しきおばあちゃん達がせっせと料理を作っている。
入り口に近いテーブルで焼き鮭定食を食っていた一人の隊士が、沖田とエスペランサの存在に気付き慌てて立ち上がった。
「おはようございます、姫姉様に沖田隊長! 良ければこの席どうぞ!」
「いえ、私は立ち食いで充分ですが……」
「姫姉様に立ち食いなんてさせたら仲間にぶっ殺されます! さあさあ、どうぞどうぞ!」
何故だか必死の勢いで着席を勧められ、仕方なくそこに座るエスペランサ。
真正面を見ると沖田は勧められるまでもなく既に座っていて、いつの間に頼んだのだろうか、ベーコンと目玉焼きを箸でつついていた。
果たしてここはどういうシステムになっているのだろう、と周りを見渡せば、気付けば朝食をとっていた隊士たち全員の視線がこちらに向いている。
ふと、一人の隊士と目が合った。
どうすればいいんですか? と眼差しで尋ねるようにそのまま相手の瞳を見詰め続けていると、真っ赤な顔で地面に倒れられた。
その反応に困惑しつつもまた別の隊士と視線を合わせると、三秒ほどで相手が前の隊士と同じ状態になる。
そんな見詰めては相手が倒れ見詰めては相手が倒れを繰り返している内に、沖田から「桔梗」と声をかけられた。
バタバタと倒れていく隊士たちから視線を外し、「何ですか?」と首を傾げる。
「あいつらと目ェ合わせんじゃねェでさァ。気絶する」
「……失礼しました。確かに私の目がヤバイというのは沖田さんと初めて会った時にも言われたことですが、まさか目を合わせただけで気絶しやがるほどだとは……」
「いや、そういう意味ひゃなくて……無自覚って厄介でさァ」
はぁ、と悩ましげに吐かれる溜息。
ここに来てからというもの、なんだか会話相手に溜息を吐かれる回数が増えた気がする。
「で、何にしやす? 桔梗は細いからもっと喰った方がいいでさァ」
溜息など無かったかのようにメニューを差し出してくる沖田。
切り替わりの速さに若干辟易しつつも、受け取ったそれをパラパラと捲ってみた。
(日替わり定食A、日替わり定食B、焼き鮭定食、おにぎり……)
右から左に文字を流し読み、とりあえず量的に食べられそうなものをチョイスする。
「これにします」とエスペランサが指差したのは、拳サイズのおにぎり一つだった。
「……で、他には?」
「……これだけですが」
「……桔梗、今の体重何キロでさァ」
「……三十八キロはあったような無かったような気がしやがります」
「体重少なすぎでさァ!!」
バァンッ! とテーブルを叩き、絶叫する沖田。
身長が百五十六センチで体重が三十八キロ以下というのは、そんなに少なすぎるものなのだろうか。
そういえば、クラスメイトにももっと栄養をとれと心配されたような記憶がある。
再び懐かしい思い出を掘り起こそうとしているエスペランサを尻目に、沖田と、いつの間にか復活していた隊士たちが輪になって何かを話し合っていた。
「ヤバイでさァ。細いとは思ってたけど、まさか四十もないって……」
「いつか栄養失調で倒れますよ! うちの食堂で一番カロリーの高いメニューって何でしたっけ?」
「しょうが焼き定食とかじゃないか? いや、でも姫姉様しょうが焼き食ってるイメージねぇし……」
「それに薄味のものが好きなんだよな? 薄味で高カロリーのものって一体……」
そこまで話し合ったところで、全員がハッ、と気が付いたように顔を上げた。
「「「副長の土方スペシャル!!」」」
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.54 )
- 日時: 2011/10/19 15:35
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
* * *
「……なんですか、この食べ物かどうかも怪しい物体は」
急に目の前にドンッ! と置かれた奇妙などんぶりに、エスペランサは困惑全開の顔で呟いた。
シンプルなどんぶりの上に米。
そこに惜しげもなく浴びせられた、大量の白と黄色の中間色っぽい流動体。
こんな食べ物は教科書ですら見た事がない。
そんなエスペランサの様子を尻目に、隊士たちと、沖田と、いつの間にかいた土方までもが周りを取り囲んで言った。
「いいから食べなせェ」
「美味いから喰ってみろって」
「すいません姫姉様、こんなクソマズイものをお出ししてしまって……でももう少しカロリーとらないと姫姉様がヤバイから!」
「見た目はこんなんですけど毒とか入ってませんし、とりあえず一口からでもどうぞ!」
「口直しにドリンク大量準備してますんで!」
必死な様子で口々にそう言われてしまえば、断る術もない。
自分の胃が拒絶反応を示さないか心配しつつ、エスペランサはその謎のどんぶりに恐る恐るスプーンを近づけた。
ごくり、と、周りで見守っていた隊士たちがつばを飲み込む。
そしてエスペランサの唇にスプーンが運ばれると、その瞬間、エスペランサの動きがピタリと停止した。
「ひ、姫姉様……?」
心配するようにエスペランサの顔を覗き込む隊士。
そんな隊士を尻目に、エスペランサは黙々とスプーンを口に運び続けた。
そして十五分もすれば、どんぶりの中身が平らげられる。
からんっ、とどんぶりの中にスプーンを置いて、エスペランサは手の平をゆっくりと合わせた。
「……ごちそうさまでした」
その声は、どことなく生気がないように感じられる。
傍らに用意されていたミネラルウォーターを、砂漠でオアシスを見つけた遭難者のような勢いで飲み干すと、そのままテーブルに突っ伏した。
「なんとか食べ尽くしましたが……胃が機能不全をおこしそうです。あと二週間は何も食べなくても活動できやがりそうな気がします」
いつもにも増して青白い顔のエスペランサ。
その呟きを聞いて、隊士たち全員の殺気が篭った視線が土方に送られた。
「何で俺!? 土方スペシャル持って来いって言ったのお前らだろーが!」と吠える土方を背景に、沖田が新しいミネラルウォーターのボトルを持って近付いてくる。
そしてテーブルに倒れ伏すエスペランサの隣に跪くようにしてしゃがみ込むと、ボトルキャップを開けながら顔を近づける。
「水、飲めますかィ?」
「ええ、なんとか……」
テーブルに向いていた視線がこちらを向き、その顔のあまりの端整さに、思わずドキリとした。
隊士たちと違って目を合わせただけで気絶するような真似はしないが、もし微笑みかけられたりすれば自分でも危ないかもしれない。
そんな不埒なことを考えつつ、ペットボトルをエスペランサに差し出す沖田。
それを受け取ったエスペランサは、またしてもオアシスを見つけたようにミネラルウォーターを飲み始めた。
その病的なまでに白い喉が蠕動する様に、土方に殺気を送っていた隊士たちまでもが見惚れた。
その場にいる隊士全員の心は一緒。
(((ああ、なんてお美しいんだ姫姉様……)))
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.55 )
- 日時: 2011/10/19 15:36
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
周囲の思考など露知らず、ミネラルウォーターを飲み干したエスペランサはやっと落ち着いたようにテーブルから顔を上げる。
顔色は相変わらず悪かったが、どうやら胃の不快感は治まったようだ。
「もしもーし、多串くんに総一郎くーん! ここに斑鳩桔梗さんはいませんかー!!」
そんな棒読みの大きな声が聞こえてきたのは、突然のことだった。
やる気のなさそうな、なんとなく眠たそうな、とにかく覇気がまったく感じられない声。
聞き覚えのある声に、さっきまで和気藹々(?)な食事タイムを楽しんでいたエスペランサはがばりと立ち上がった。
「この声……もしかしてももしかしなくても、坂田さんじゃねーですか」
窓から姿は見えないから、どうやら屯所の入り口前から大声で叫んだらしい。
「あれ? なんで旦那の声なんかするんだ?」とざわつく隊士たちを背景に、エスペランサは悩む。
はっきり言って、顔を合わせるのが気まずい。
しかしここで行かなければ、あの男はいつまでたっても門の前から動かないだろう。
会って一週間も経過していないが、坂田銀時という男がそのくらい平気でやれる男だということはなんとなく分かる。
「……しゃあねぇ、行きますか」
立ち上がり、エスペランサは苦々しい表情で一歩を進めた。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.56 )
- 日時: 2011/10/19 15:37
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
* * *
屯所の門の前で叫びながら、銀時はエスペランサになんと謝るかを考えていた。
(「お前を傷つけてしまったことを……本当にすまないと思っている」いや駄目だ、これただのジャック・バウアーだし。「この哀れな下僕めをお許し下さい」……いや、俺どこの奴隷?)
勇んでこの場まで来たはいいものの、肝心の言葉をまだ考えていなかった自分。
しかしそんな自分の都合など関係なしに、時間の経過は次の場面を呼び寄せた。
「……おはようございます、坂田さん」
綺麗な声に、心臓が高鳴った。
自分の本能に苦笑したくなる。
どうして何処にいてもどんなに距離があっても、彼女の声だけはすぐに聞き分けられるのだろう。
「……よう、桔梗」
彼女は屯所内の壁から顔だけを覗かせ、どこか気まずそうな表情でペコリと頭を下げた。
どうやらハルピュイアの言う通り、怒ってはいないらしい。
いっそここで怒鳴り散らしてくれたら、自分も土下座なりなんなり出来るのだが。
だがまあ、己の気位など今は構っていられない。
なんと謝るかさっきまで悩んでいた。
けれども彼女の顔を見れば、言うべきことなど決まってしまった。
銀時はゆっくりと彼女の前まで歩くと、その一歩手前で動きを止める。
そして真摯な目でエスペランサを見詰めると、まっすぐに右手を差し出す。
そして、たった一言。
「お前を幸せにさせてくれ」
目の前の彼女の瞳が、揺れたのがわかった。
しかし今更言い直す気もない。
“すまなかった”よりも、“もうしない”よりも。
彼女を傷つけてしまった自分がこれからどうしたいかを、坂田銀時はエスペランサ・アーノルドに伝えた。
形だけの謝罪なたばいくらでも口にできる。
ならば自分は、行動でそれを示そう。
これから先、彼女が元の世界に返れるまで、彼女にどんな災難が降りかかろうとも、絶対に幸せにしてみせる。
それが、自分の出した答えだ。
そんな銀時の真摯な姿に、エスペランサは俯きがちに口を開く。
「……坂田さん。実は私、天国を探してるんですよ」
「……ああ」
「あの世って意味じゃありやがりませんよ? ただ、自分が希望を抱いても否定されない、そんな場所が欲しいんです。地獄に堕ちた日からそれを探して探して探し続けて————ついに今まで見付かりませんでした」
すっと、銀時と同じように手を差し出して、桔梗は顔を上げる。
「貴方は、私の天国になってくれますか?」
涙を堪える子供のような表情。
嗚呼、彼女はまだ十三歳なのだと、このとき初めて感じた。
その表情に応えるように、銀時は差し出された手に自分の手を重ねる。
「ああ……!」
約束しよう。
これから先、彼女に何があっても、絶対に彼女を護りきってみせると。
幸せにしてみせると。
太陽に照らされた彼女の顔は、いつの間にか笑顔に変わっていた。
それを見て、ふと思う。
嗚呼、彼女はこんなにも美しく笑うのか。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.57 )
- 日時: 2011/10/19 15:38
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
* * *
同時刻、屯所から上空に五十メートルほど離れたとある空中空間にて。
銀髪の二人を見下ろす影が、そこにはあった。
ショッキングピンクの髪と瞳に、腕から生えた猛禽の翼。
そんな彼女の背中に乗っているのは、メガネくらいしか特徴のない少年と、ゴシックロリータ姿の少女。
上から順にハルピュイア、志村新八、神楽の三人である。
未だエスペランサと服を交換したままの神楽は昨日からずっとゴシックロリータを着ていた。
「こっからじゃよく見えないけど、なんか仲直りしたみたいアル」
「良かったですね、ハルピュイアさん」
『……だっちゃ』
ほのぼのとした雰囲気の二人。
しかしハルピュイアだけはどこか気になるところがあるような表情をして、銀時とエスペランサを見下ろしていた。
その表情に気付いた新八が、ハルピュイアの顔を覗き込む。
「どうしたんですか? ハルピュイアさん。なんか納得いかないような顔してますけど……」
『いや、そういうわけじゃないんだっちゃ。ただ……気になる事ができただけで』
ポツリ、と、それが最大級の心配事であるかのように、ハルピュイアは呟いた。
『桔梗に対して、“あの禁句”とか言ってなければいいんだっちゃけど……』
* * *
そしてさらに同時刻。
場所は京都のとある旅館にて、その男は窓際に腰掛けていた。
右手でパイプの煙を燻らせ、その視線の先には真選組に関する記事が書かれた新聞紙。
女物の毒々しい着流し姿の彼は、その記事に掲載されている少女の写真を見て唇を吊り上げる。
そしてゆっくりと、煙を吐き出した。
「……近々、江戸に戻るのも悪かねェな」
巻かれた包帯のその奥で、瞳は得物を狙う獣のように光った。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.58 )
- 日時: 2011/10/19 15:56
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
第三話(1)『その男の名は』
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.59 )
- 日時: 2011/10/19 15:58
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
エスペランサ・アーノルドと坂田銀時の軽い喧嘩めいたものも片付き、ここにいて下さい姫姉様と泣いて縋る隊士たちをなんとか引き離し、何故か不機嫌だった沖田&土方にお礼を言い、何故か上機嫌だった銀時と万事屋に帰り、神楽や新八にかわかわれ、ハルピュイアに抱きつかれた、そんな次の日。
何故か彼女は、桜吹雪の中にいた。
正確に言えば、桜の木が大量に植えられた広い公園のとある場所に、一人で佇んでいた。
「……確か、集合場所はここら辺だと聞いたんですがね」
手に持っているメモを見て、困り気味に呟くエスペランサ。
彼女がここに来た理由。
それは世話になった真選組の面々に、“花見”という行事に誘われたからだ。
何故か銀時には内緒で一人で来てくれと、しかも判りやすいようになるべく目立つ格好で来てくれと頼まれた為、エスペランサは現在ゴシックロリータに変身済みだ。
が、別にゴシックロリータにならなかったところで彼女が目立たないなど有り得なかっただろう。
彼女の、そのまま宝石店に売り出せるような純銀の髪や深海のように美しい蒼の瞳は、出で立ちなど関係なく周囲の視線をこれでもかというほどに惹きつけるのだから。
エスペランサは歩く、焦らずゆっくりと。
周囲を見渡して誰もいないという事は、ここは花見のメインポイントからだいぶ外れていて、なおかつ今の時間が早すぎたのだろう。
時計など持っていないからわからないが、どうやら自分は指定された時間より早くに来てしまっていたらしい。
ならば散歩でもして時間を潰そうという算段だった。
桜吹雪の中を歩く彼女の、さらさらと風になびく髪は、あまりの美しさに光の粒子が飛び散っているようにすら感じられる。
その光景に見惚れているのか、桜の花たちは彼女の美を彩らんとばかりに舞い散った。
風の音だけが満たす麗しいほどの静寂。
それを殺すように突き破ったのは、聞きなれない男の声だった。
「ククッ……テメェが斑鳩桔梗か?」
目を見張るエスペランサ。
足音はおろか気配もしなかったのに、突然背後から聞こえてきた声。
立ち止まって、まるでホラー映画の登場人物にでもなった気持ちで後ろを振り返ってみれば、そこにいたのは着流し姿の男だった。
短い黒髪に、左目を覆い隠すようにして巻かれた包帯。
見るからに女物としか思えない着流しはアゲハ蝶の羽に薔薇を散らせたような毒々しい色彩で、妖しい光を灯す右目と相俟って、その男がまともな人間ではないことをよく表している。
妖艶な狂人、とでも称するべきだろうか。
頭から笠を被っていて顔は見えづらいが、少なくとも並大抵の男では足元にも及ばないほどの美形であることがわかる。
遊郭や料亭が似合いそうな男だった。
「……ええ、そうですか。私に何かご用でもありやがるんですか?」
大抵の女は落とせそうな色香を放つその人物を目の前にして、しかしエスペランサはただただ訝しげな表情を浮かべていた。
いくら大抵の女は落とせそうな男が相手でも、エスペランサは“大抵の女”には入らない最上級の美少女だ。
見知らぬ男に惚れるつもりもない。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.60 )
- 日時: 2011/10/19 15:59
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
「まァ、そう警戒すんなよ。俺ァこの写真に写ってるお姫様に会いに来ただけさ」
対し、男の方もエスペランサに怯む態度はなかった。
彼女もまた並大抵の男が数秒目を合わせると気絶するような美貌の持ち主なのだが、男も“並大抵の男”には入っていないらしい。
男がそう言って投げ渡してきたのは、昨日の朝に発行された新聞紙。
丸められたそれを片手で受け取って広げてみると、一面トップをカラーで飾っていたのは自分の写真だった。
隊士がくれた、漆黒に金糸で刺繍を施した着物を身に纏い、両脇を沖田と土方に挟まれている自分。
その写真の上で派手なフレームと共に輝いているタイトルは、『謎の美少女の正体は真選組の姫君だった!!』。
「……なんですか、この内容」
タイトルのセンスのなさに思わず顔をしかめるエスペランサ。
しかも大きな写真の下にびっしりと書かれている記事を速読してみると、あることないこと大量に書かれている。
曰く、戦闘終了後に攘夷浪士たちを跪かせて足を舐めさせただとか、隊士たち全員に貢がせているだとか。
そんなことをした覚えは無い。
というか、自分はどんな嗜虐趣味をもった女王様だと思われているのだろうか。
自分が万が一にもこういう性格になったところで、きっと喜ぶのはハルピュイアくらいだ。
そう心中で呟いて、エスペランサは読んでいた新聞紙を男に投げ返した。
「で……この記事を読んで私に会いに来やがったということは、私の足でも舐めたいんですか? 生憎ですが、私にそちらの趣味はありやがりませんよ。そもそも貴方は誰なんですか」
睥睨するエスペランサに、男は愉しそうに喉を鳴らす。
己の名前を知らないことが可笑しいとでも言うように。
ゆらり、と、男が草履を履いた足を一歩前に出した。
それはどことなく、獲物をじわじわと追い詰める獣を連想させる。
「俺か? 俺ァ高杉晋助だ……鬼兵隊の頭、って肩書きまで名乗ればわかるか?」
不気味な薄笑いと共に名乗った男————高杉晋助。
鬼兵隊の高杉晋助といえば、『攘夷浪士の中で最も過激で最も危険な男』とまで恐れられ、桂小太郎と並ぶ攘夷派の代表的存在だ。
一般人なら即座に回れ右で逃げ帰るか、地面に頭をこすり付けて命乞いをするしかない狂気的テロリスト。
だが、その反応はあくまで“高杉晋助を知っている”という前提の下で発生するものだ。
エスペランサ・アーノルドは、高杉晋助という攘夷浪士の存在を知らない。
だからこそ、エスペランサは高杉という見知らぬ男に言い表しようのない危機感を覚えた。
未知への恐怖めいた感情。
今すぐ逃げないと何かされると、本能が警鐘を鳴らしている。
それでも逃げられない。
高杉の浮かべる絡みつくような薄ら笑いが、体に張り付いて動きを制止させる。
じゃり、と。
地面に敷き詰められた砂を踏んで、気付けば高杉はエスペランサの一歩手前まで来ていた。
そのまま真横にあった桜の木に体を押し付けられる。
背中の痛みに顔をしかめながら相手の腰に差された打刀を見て、エスペランサはちっと舌打ちした。
危ない雰囲気の男だとは思っていたが、まさか自分で試し斬りでもするつもりなのか。
そんな見当外れな悪態を吐きつつ、エスペランサは呪文を詠唱しようと口を開く。
そこに突然、高杉の唇が重なってきた。
「っ————!?」
あまりの衝撃に口を閉じることが遅れ、その隙を見逃さずさらに舌が押し込まれた。
生ぬるい舌が口内をくまなく犯し、歯列の裏をなぞられるその感覚に、ぞわりとした何かが背筋を駆け抜ける。
状況が理解できない。
自分は一体、何をされている?
「んぁ……」
思わず目を瞑る。
漏れる声は少女のものとは思えないほど艶やか。
飲みきれない唾液が彼女の顎を伝う。
男から逃げようとなんとか身をよじるが、いつの間にか相手の両腕で体を拘束されている。
同年代の少女よりも華奢なエスペランサに、それを振りほどく術はなかった。
ただ、中を淫靡に這う舌の感覚に、ビクビクと体を跳ねさせる。
「っは……」
左手を残して、体を拘束していた男の右手が下がっていく。
スカートの中に入ってくる男の長い指。
「っ!!」
ねっとりとした動きでそれが胸の下まで這い上がってきた時、エスペランサは高杉の舌を思い切り噛んだ。
思わず動きを止める高杉の体を足で蹴り飛ばし、距離をとるエスペランサ。
よほど息苦しかったのか、赤みを帯びた顔はハァハァと荒い息を吐いている。
その深蒼の双眸に宿る感情は、恐怖と敵意。
かつての悪夢のような陵辱の記憶が蘇る。
あれ以上やられると、あれ以上傷を抉られると、自分の脆い自我など簡単に崩壊するだろう。
幼い頃のトラウマは今も自分を蝕んでいる。
体を無遠慮に這う何百もの指、無理やり押し込まれる物体、舐めるような粘着質の視線、暗い地下室に響く男たちの下卑た笑い声。
それを見守る家族の生首。
同時に受けた拷問の強烈な痛みよりも、あの凄まじい陵辱は自分の心に多大なる傷を残した。
エスペランサの体を這う高杉の指がそれをフラッシュバックさせ、解放されたとわかっている今でも、無意識の内に体が震える。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.61 )
- 日時: 2011/10/19 16:01
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
「くっ…………」
震えるな、弱々しい。
怯えるな、女々しい。
怖がるな、痛々しい。
そう自分に言い聞かせて、エスペランサはゴシックロリータに包まれた自身の体を抱きしめた。
大丈夫、もう終わったのだから。
自分は過去の幻影を恐れているだけだ。
あの頃と違って自分は戦える。
脅威となる敵はそれ以上の脅威をもって押し潰せばいい。
「≪魔唱杖——スペルステッキ≫」と震える声で小さく呟き、先に王冠を頂いた杖、魔唱杖を出現させるエスペランサ。
目の前の男に魔法使いとバレることも構わず、エスペランサはそれを剣でも扱うように水平に持った。
「噂だとばかり思ってたんだがなァ……桔梗が魔法使いってのは本当の話か。噂話もたまにゃァ信じてみるもんだ」
「馴れ馴れしく呼ぶな、下種が」
相変わらず愉快げに笑う高杉。
もはや敬語すらも使わないエスペランサ。
一触即発。
まさにそう表現するに相応しい状況に陥りかけた時、二人の遥か後方から呑気な集団の声が響いてきた。
「あっ、あれ姫姉様じゃないですか?」
「お、本当だ。おーい! 姫姉様ー!!」
「マジで来て下さったんですね! ありがとうございますー!!」
「こっちですよ姫姉様ー! 山崎に場所取り行かせてますからー!!」
ちらりと視線を向けてみれば、五十メートル以上向こうに見えるのは和服姿の男たち。
服装は違うが声でわかる、真選組の隊士たちだ。
レジャーシートや酒瓶を抱えた彼らは嬉しそうにぶんぶんと手を振っていて、どれだけエスペランサと会えた事を喜んでいるかがありありと浮かんでいる。
よく自分の姿がわかったな、と場に似合わず思わず感心したエスペランサだったが、それは彼女がゴシックロリータを着ているからだ。
アンティークドールのようなひらひらの服を纏った美少女など花見会場には彼女一人しかいない。
それはつまり、隊士たちの方から見た高杉は誰だかわからないという事で。
「フン……邪魔が入ったか」
名残惜しげにエスペランサに視線を寄越して、それからくるりと踵を返す高杉。
待て、とエスペランサが声を発しようとした瞬間に、とてつもない突風が花見会場に吹き荒れた。
「うおぉぉっ!? スゲェ風きた! つーかレジャーシート飛んでったぞオイ!」
「テメェ一人で抜け駆けして酒飲んでんじゃねぇよ! レジャーシート拾いに行くぞ!」
「るっせぇな! ちょっと待てよいま桜吹雪で前見えねーから!!」
騒ぐ隊士たちの声をBGMに、エスペランサは服の袖で目を覆う。
やっと風が収まった頃に急いで真正面を見れみれば、そこには色鮮やかな桜吹雪が舞っているだけで、高杉晋助の姿はどこにもなかった。
逃げられた。
「……次に会った時は、あの薄気味悪い笑顔をぶん殴ってやります」
相手のものとも自分のものともとれない唾液をハンカチで拭い、忌々しげにこちらも踵を返す。
用がなくなった魔唱杖を消して、エスペランサは手を振る隊士たちの方に歩いていった。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.62 )
- 日時: 2011/10/19 16:03
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
* * *
「ククッ、会いに来て正解だったなァ……ありゃイイ女だ」
花見会場となっている公園から抜け、人気の少ない道を歩きに歩き、ついには歌舞伎町からも外れたそんな場所。
指名手配犯であることを気にすることもなくそこをゆっくりと歩きながら、高杉は面白そうに嘯いた。
考えるのは、さきほどの少女のこと。
忘れられない、あの白い肌が。
忘れられない、あの銀の髪が。
忘れられない、あの蒼い瞳が。
忘れられない、あの澄んだ声が。
忘れられない、あの細い四肢が。
忘れられない、あの香しい匂いが。
忘れられない。
忘れられない。
全て自分だけのものにしたくて堪らない。
イイ女など腐るほどに見て飽きるほどに抱いてきたが、一目見てあそこまで綺麗な少女は初めてだった。
幼女趣味のない自分でさえ目を奪われる可憐さは、いっそ末恐ろしい。
「今回は邪魔が入っちまったが……まあいい。いずれ再会するだろうさ」
————その時は手に入れてやるさ。なァ、桔梗?
ぞくりとするほど艶麗な声で呟き、高杉晋助は歩いた。
斑鳩桔梗という少女を脳裏に思い浮かべて。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.63 )
- 日時: 2011/10/19 16:28
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
第三話(2)『花よりも団子よりも』
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.64 )
- 日時: 2011/10/19 16:29
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
「俺たち五手くらいに別れて姫姉様を探してたんですけど、局長たちはどこに行ったんですかね……あ、いたいた」
「あれ? なんで万事屋の旦那もいるんだ?」
「つーかどうなってんのあの状況?」
数名の隊士たちに案内されること数分後。
隊士たちの指差した方向に視線を向けてみてば、そこにいたのは坂田銀時・神楽・志村新八・近藤勲・土方十四郎・沖田総悟・山崎退・隊士たち・ヤケに巨大な犬・見知らぬ女性。
最後の一匹と一人に関しては、自分の知り合いですらなかった。
真選組だけでの花見と聞いていたが、なぜそうじゃないメンバーまで混じっているのだろうか。
「あら、貴方が新ちゃんの言ってた桔梗ちゃん?」
そんな風に思っていたら、こちらの視線に気がついたのだろう、見知らぬ女性がにっこりと微笑みかけてきた。
どうして名前を知っているのだろうか。
その疑問が表情に出ていたのか、見知らぬ女性は説明するように付け加えた。
「はじめまして、私は志村妙。ここにいる志村新八のお姉ちゃんよ」
そう妙に指差される新八。
その後ろにいる沖田と神楽の二人がハンマーで殴りあっているのが多少気になったが、突っ込んだら負けな気がしたのでスルーした。
というか、それよりも……
「……志村さん、そういえば姉君がいやがると仰っていましたね」
自分と同じお人よしなお節介焼きだと言っていた。
なるほど想像していた通りに優しそうな顔立ちの女性で、料理洗濯掃除までなんでもできそうなオーラを放っている。
彼女のものと思しき弁当箱に何やら炭のようなものが入っているが、これも突っ込んだら負けな気がするのでスルーした。
「やあねぇ、志村さんなんて。それじゃあ新ちゃんと私の見分けがつかないじゃない。新ちゃんのことは普通にメガネって呼んでいいのよ?」
「姉上、それもはや僕じゃありませんから。ただのメガネですから」
「では、メガネさんと呼ばせて貰います」
「微妙に丁寧なのがなんか嫌だ!」
一通り漫才のような会話をしたところで、こほんっ、と咳払い。
そしていま気付いたとばかりに、「そういえば、なんで桔梗さんがこんな所にいるんですか?」と聞いてきた。
「真選組の皆様に誘われたので」と返すと、何故か“なるほど、たった一日の間で真選組の人にも惚れられちゃったんですね……”とでも言いたげな視線を向けられる。
その視線に対し、私に惚れる男なんていやがりませんよ、優しい方が多いのでプレゼントは頂けますが……なんて思っているエスペランサ。
相変わらず、彼女の無自覚は健在のようだった。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.65 )
- 日時: 2011/10/19 16:31
- 名前: ぬこ ◆xEZFdUOczc (ID: DVd8EX6H)
高杉様ktkr^p^
姫姉様の過去って重いですよね……。
美しい人が過去まで美しかったら何かつまらないですしね←
その過去があってこその姫姉様ですよね((何言ってるのか不明
私のスレですか!?
宣伝になる恐れがあるんですけども、一応複雑・ファジーで作文並みのを書かせていただいています^p^
私の文章力なんて含んでしまったら幼児並みの文章力になってしまいますよ!
それだけ私のマイナスパワーは恐ろしいのです(キリッ
じ、実名っすか……!
どう頑張っても人間の名前にならないですorz
なんて頭が足りない自分……。
凝灰岩とか知るかああああ((落ちつけ
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.66 )
- 日時: 2011/10/19 16:31
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
「そういえば、ハルピュイアはどうしやがったんですか? 見たところ来てねぇみたいですが」
ハルピュイアがいないことに今更のように気付き、周囲に視線を巡らすエスペランサ。
いくらいたる所を桜が埋め尽くすこの場所とはいえ、あの目立つショッキングピンクが見えないことはないだろう。
その質問に新八は、やや躊躇うようにして答えた。
「ハルピュイアさんは、その……なんというか……」
「なんというか?」
「……姉上の卵焼きを僕らの分まで食べてくれたので、体調を悪くして今は湖の近くで休んでます」
「……マジですか」
「マジです」
冷や汗を流すエスペランサに、こちらも冷や汗を流して頷く新八。
曲がりなりにも幻獣であるハルピュイアを体調不良にまで陥らせるとは、果たして妙の作る料理とはどのようなものなのか。
というか、それって料理なのだろうか。
「ちなみに僕の視力が落ちたのも姉上の料理が原因です」
「…………」
結論、それもう料理じゃねーだろ。
そう本音を零すわけにもいかないのでなんとか押さえ込み、気を紛らわすように視線の先を別方向に向けた。
そこでは相変わらず沖田と神楽がハンマー……ではなく腕と腕で殴り合いをしていて、いい加減ツッコミが必要な気がしてくる。
銀時と土方は何故か酔っ払っているようで謎の奇行しかしていないし、今まで眠っているのだろうくらいに思っていた近藤はよく見れば気絶しているし。
なんだこの花見はとか困惑していたら、黒髪黒目の地味な顔立ちの青年が話しかけてきた。
「お互い大変ですね……一緒に飲みませんか? グチを肴にして」
苦労人めいたオーラを放つ彼の名前は、確か山崎退。
その声は自分だけでなく新八と妙にも向けられているようでだった。
山崎の全身からは、なんというか安心感を促す雰囲気が溢れている。
心のオアシスが欲しかったエスペランサと新八は、喜んで山崎について行った。
* * *
「……なるほど。つまり、その叩いて被ってジャンケンポン大会からあんな事態になりやがったんですね?」
あんな事態になるまでの経緯を聞いて、エスペランサは呆れたような顔で缶に口をつけた。
場所は真選組側のレジャーシートの上。
いまだ神楽と喧嘩している沖田や酔っ払ってどこかに行った土方、それに気絶している近藤を除いて、真選組の隊士たちは楽しそうに酒を飲んでいる。
「はい。初めは真剣勝負になりそうだったんで、まぁそれよりは良かったんですが……結果こうなっちゃいました」
こちらもストレスを押し流すように焼酎をぐいっと一飲みし、疲弊した形相で座る山崎。
万事屋における新八のようなポジションなのだろうか、彼も相当苦労しているらしい。
もしかしたらうちの学級委員長もこんな気分だったのかもしれないな、などと考えつつ、近くにあった缶をごくごくと飲むエスペランサ。
彼女が体の異変に気付いたのは、それからすぐの事だった。
(なんでしょう……頭がクラクラしやがります)
微妙に視界も歪んできた。
もしかして毒でも入っていたのだろうかと危惧したが、しかし飲んでいる最中に劇薬の味はしなかった。
そこまで考えて、はっ、ともう一つの可能性に思い当たる。
(まさか…………)
慌てて飲んでいた缶飲料の名前を確認すれば、そこには『ピーチジュース! のようなお酒』と書かれている。
明らかに未成年が飲んではいけない類の飲料だ。
やばい、やばい、やばい、やばい、やばい。
そんな思考が脳内で展開されるが早いか否か、唐突にエスペランサの意識は遠のき——
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.67 )
- 日時: 2011/10/19 16:43
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
>>65 ぬこ様
過去が重くなかったら、姫姉様はもっと温かみのある優しげな美少女になってたでしょうね……昔の姫姉様がそんな感じだった設定です←
劇的ビフォーアフターならぬ悲劇的ビフォーアフター!((黙れ
大丈夫ですよ、幼児の頃の私はそもそも文章とか書いてた記憶がありませんから!←
タイトルって聞いてもいい感じですかね?←
凝灰岩ww
私は光合成のあたりが一番得意だったなぁ……←
ヒントは、雛西友の時代はひらがなの位置をそのまま入れ替えれば実名に、アニホとミシンならローマ字に直して何かをすれば実名になります!
さて、わかるかな?((
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.68 )
- 日時: 2011/10/19 16:45
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
* * *
「……姫姉様?」
その異変に気付いたのは、山崎退が一番目だった。
いつもは一切の赤みを帯びていないエスペランサの頬がうっすらと桃色に染まり、心なしか瞳も潤んでいる。
それは普段の鋭い美しさのエスペランサとは違い、どこか柔らかい印象を持たせる表情。
あまりにも可憐なその表情に一分間は見惚れていたが、やはり様子が可笑しいと判断し、やっとのことで声をかけた。
「…………」
対し、無言でゆっくりと近付いてくるエスペランサ。
そのふらふらと覚束ない足取りはまるで酔っ払っているようで、心配になって支えようと彼女に近寄ったその刹那。
ちゅっ、と。
軽いリップ音と共に頬にキスされた。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
お互いに喧嘩しあっていた沖田と神楽も、さっきまで真選組の弁当をタッパーに詰め込んでいた新八も、酔って錯乱していた土方と銀時も、どんちゃん騒ぎを繰り広げていた隊士たちも。
全員が驚きに固まり、時が止まったようにすら感じられた。
「え……」
初めは何がなんだかわからなかった山崎も状況を理解し、その顔が徐々に真っ赤に染まってくる。
それと同時に周囲から注がれる、殺気。
やばい、今のままだと殺される。
そう身の危険を察知する山崎だったが、しかし頬に当たるエスペランサの唇の感覚が極上すぎて離れたくない。
むしろこの後で殺されても本望とすら思える。
だが、二十秒ほど山崎の頬にキスをしていたエスペランサは山崎から離れ、今度は新八にキスをしだした。
「え……」
そして新八から離れると、今度は妙、沖田、神楽、土方、銀時、隊士たち……男女見境なく意識のある人間はみんな彼女から頬へのキスをくらい、その唇の柔らかさに続々と顔を真っ赤にしていた。
全員にキスをし終えると、「続きは有料です……」なんて言葉を呟き、そのままレジャーシートに倒れるエスペランサ。
よく見ると寝ているようだった。
彼女のそばに転がっている缶は酒で、なるほど酔っていたのかとそこでやっと固まりから解放される。
それにしても、と。
未だに頬を赤らめたままの全員が顔を合わせ、同時に溜息を吐いた。
酔うとキス魔って、こんな美少女だと心臓に悪いね。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.69 )
- 日時: 2011/10/19 16:48
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
『あー、気持ち悪いだっちゃ……』
メンバー全員赤面状態のそこに、バサバサと羽ばたいて青白い顔のハルピュイアが帰ってくる。
どうやら死の淵から帰還したらしい。
「あ、お疲れ様ですハルさん」
「おつかれっすハルさん」
『おう、無事帰還したっちゃよー』
ハルピュイアの姿を見て、労うように声をかける隊士たち。
今そこですやすやと眠っているエスペランサは知らない事だが、彼女が一部と隊士たちと迷っている間、万事屋メンバーと花見に来ていたハルピュイアは何故か隊士たちと意気投合し、『ハルさん』と呼ばれるまでに至っていた。
その意気投合した話題の内容は全てエスペランサのことだったりするが、それを本人が知る由もない。
そのハルさんが帰還してみると、自分以外の全員が何故か赤面している。
そして近くで眠っているエスペランサと酒の缶を見ては、ははぁ、と納得したような顔で頷いた。
『坂田、土方、沖田、志村、神楽、志村姉、山崎、あと他の隊士。お前らもしかして、桔梗にキスされたりとかしただっちゃか?』
ぶんぶん。
と、全員がいまだに赤い頬で頭を上下に振る。
『やっぱりだっちゃか。桔梗、昔っから酔うと誰彼構わずキスしにいく癖あるんっちゃよね……本人も飲まないように気をつけてるらしいっちゃけど』
地面に降り立ち、すやすやと眠っている桔梗を横目で確認。
その姿にタイトルをつけるとすれば『桜下の眠り姫』といった所だろうか。
『とりあえず、このまま寝かせておくのもあれだしウチが連れて帰るっちゃ。坂田、万事屋ってカギ閉まってるだっちゃか?』
「いや、開いてるけど……なんなら俺が送ってくぜ? お前さっきお妙の料理食べてふらふらだろ」
『……いやもう、あれはマジで酷かったっちゃよ。ウチはあれを料理とは呼ばず毒物と呼ぶっちゃ』
遠い目をしてお腹をさするハルピュイア。
雑草と泥水で育った幼少期でさえ、あんな体調不良に見舞われたことはなかった。
じゃあお願いしてもいいか、と桔梗を銀時に任せようとすれば、そこで
「じゃあ俺も送りに行きまさァ」
「……俺も送ってやる」
と、乱入してくる沖田と土方。
それを皮切りにして「俺も!」「俺も行きたい!」「俺も行っていいですか!?」と、続々挙手していく隊士たち。
そうしてなんやかんやで、ほぼ全員が桔梗を送りに行くことになった。
やっぱりみんな、花よりも団子よりも美少女が好きらしい。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.70 )
- 日時: 2011/10/19 16:49
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
* * *
一人の少女が、布団で寝ていた。
周囲の人間は、その少女を鑑賞(観賞=見て楽しむ、鑑賞=芸術作品を味わう)するようにして布団を取り囲んでいる。
雪に漆を散らせたような極彩のゴシックロリータを身に纏い横たわる少女。
周囲の人間は、精巧なアンティークドールと見紛う、その美しい、この世のものとは思えない少女を凝視していた。
肌は白磁のように白くすべすべで、頬は夢のような薔薇色。
素晴らしいドレスに包まれた体はとても華奢で、頭も手も、全てが完璧にできた神様のための人形のようだった。
呼吸に合わせて上下する少女の胸は成人女性のものとは違い、当然ながら平坦でわずかな膨らみしかない。
存在感としては数段劣ることは否めないだろう。
しかしその楚々とした控えめな雰囲気が、逆に周囲の人々をを魅了した。
豊満な肉体が大輪の花だとすれば、少女の体はようやく綻びかけたばかりの蕾だった。
未成熟ゆえの危うい美しさは、その気がない男でも簡単に虜にしてしまう。
「んっ……」
少女の、まるで清楚な蕾のようにつぐまれた唇が、薄く開かれる。
漏らす吐息は、薔薇よりも香しい。
その可憐な様子に男心を大いに擽られ、男達は熱い溜息を吐いた。
「あぁ……おきてる姫姉様も素敵だけど、眠ってる姫姉様も素敵だ……」
「これぞまさしく眠り姫……」
「俺ビデオカメラ買って良かった……」
「俺も一眼レフ買って良かった……」
「姫姉様マジ天使っす……つーかそれ以上……」
少女の————というかエスペランサの女神も裸足で逃げ出す美貌に魅せられ、バカ丸出しのデレデレ顔な周囲の人間、もとい隊士たち。
この世のものとは思えないほど美しい彼女に見惚れる気持ちは大いにわかるがその顔はどうにかならないのかと、銀時はそんな気持ちで溜息を吐いた。
結局ほぼ全員でエスペランサを送りに来たら、人口密度が物凄いことになってしまった。
例えるなら通勤ラッシュの満員電車だ。
気絶した近藤と、近藤を地面に埋めると言っていた妙だけは花見会場に残してきたが、果たして近藤の命は明日まで持っているのか。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.71 )
- 日時: 2011/10/19 16:50
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
『んー……やっぱり、ちょっと近藤を見てくるっちゃ』
エスペランサが来るまでの短時間で真選組の面々と仲良くなっていたハルピュイアは、やはり置いてきた近藤のことが気になるらしく、そう呟いて万事屋のソファーから立ち上がった。
彼女はエスペランサに害を加えないと見做した人間には良心的だ。
その代わり、エスペランサを傷付ける奴は全力で踏み潰しにかかるらしい。
「気にしなくていーって、あのゴリラ生命力ゴキブリレベルだから。桜の木の下に埋められたって翌日にはストーキングハッスルしてるよ」
『ゴキブリレベルって、何だっちゃその弱さ! 丸めた新聞紙で叩いたら死ぬってことだっちゃか!?』
『ますます心配になるっちゃ!』と叫ぶハルピュイアに、世界の壁を感じる銀時。
確かに冷静に返したらそうなるのだが、どうやらこちらの世界でのギャグや常套句は向こうでは流通していないようだ。
親父ギャグ文化とか、向こうの世界にあるのだろうか。
『あいつは桔梗のこと変な目で見てないし、中々いない良い奴だから結構気に入ってるんだっちゃよね。つーわけで見てくるっちゃ』
もはやハルピュイア専用の出入り口となりつつある窓に足をかけ、バサリ、と猛禽の翼を広げる。
そのままバサバサと羽ばたいていくショッキングピンクの影を見送りながら、銀時の後ろにいた神楽と新八はぼそりと呟いた。
「あいつ、なんやかんやで面倒見いいアルよな」
「ですよね。本人は否定しそうですけど」
* * *
『ったく、どこで花見やってたか忘れたっちゃ……おーい、近藤ー!!』
上空十五メートルあたりを低空飛行しながら、下に見える無数の桜の木々に叫ぶハルピュイア。
自身の髪よりも薄いピンク色の花弁が華麗に吹雪き、場違いにも風流だと口笛を吹いてしまった。
綺麗なものを見るとついついエスペランサまで思い浮かべてしまう自分は、もう末期なくらいにエスペランサが大好きなのだろう。
そんなことを考えて飛んでいたらもう一時間は経過していた。
青い空は色を変え橙に移り変わり、それが今の時間帯を夕方だと人々にアピールしている。
夕焼けに照らされて舞い散る桜吹雪は、真昼とはまた違った風情があった。
頬を撫でる風が心地よい。
この風をビンに詰めて持って帰れたらいいのに。
そんなロマンチックなことを考えながらさらに高度を低くすると、風の感じが突然変わった。
『……魔力?』
眉根を寄せて呟くと、目を瞑って感覚を研ぎ澄ます。
今、一瞬だが魔力の奔流を感じた。
しかもあの感じ慣れた魔力は、エスペランサをここに転移魔法で送ったシーレ・サイフェルトのものだ。
『でも、あの女本人がここに来たとは考えにくいし……それならもっと凄い魔力を感じるはずっちゃよね』
ということは、エスペランサと同じく彼女の転移魔法によって誰かがこの世界にやって来たのだろう。
しかも転移魔法に使われた魔力の残滓以外に何も感じないということは、魔力を保有していない者。
幻獣にだって僅かばかりの魔力がある。
つまりここに来た者は、魔力を必要とせず、かつ魔法使いでも幻獣でもない存在。
すなわち————
『魔術師だっちゃか』
微々たる魔力の残滓を追って、ハルピュイアは急降下した。
大体の場所は特定できている。
あとは相手がよほど迅速に隠れでもしていなければ見つけられるはずだ。
当初の目的だった近藤の捜索を頭の隅に退けて、素早く的確に翔ける。
翔けて、翔けて、翔けて、翔けて。
地面ギリギリを旋回し、さらに直線に翔け、そして広大な湖の傍に立つ一際大きな桜の木に目をやったところで————その人影を見つけた。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.72 )
- 日時: 2011/10/19 16:52
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
「あー、いつまで経っても校長の転移魔法慣れねーや……ぎゃははっ、それもこれも僕が『世界の架け橋』使えないのが悪いんだけど。でも仕方ない! だって僕魔法使いじゃねーし! ぎゃははっ!」
男にしては高く、女にしては低い、そんな美声。
いつかのエスペランサと同じく地面から這い出るように魔法陣の中から現れたその人影は、継ぎ接ぎだらけのローブを纏った少年だった。
いや、パッと見は少女にも見える。
ミディアムヘアの髪はココア色で軽いウェーブがかかっており、メガネをカチューシャのように使って前髪を上げている。
睫毛の長い猫目は髪と同じココア色。
肌は白いが、エスペランサのような病的な純白ではなく、健康的な乳白色といった感じだ。
いわゆる程よい白さというやつだろうか。
全体的に細身な体型で、履いているスキニージーンズが覆う脚も、年頃の少女と並んで見劣りしないほどに細い。
そして、その中性的な容貌と華奢な体型に不釣合いな、男を骨抜きにする遊女のような笑み。
高杉晋助の妖艶さが相手を威圧するタイプのものだとすれば、この少年の妖艶さは相手を興奮させるタイプのものだった。
娼婦や遊女を連想させる淫らな色気。
隠すつもりもないあからさまな艶かしさ。
並大抵の遊女では出せぬその色香を、この少年は恐るべきことに余すところなく全身に纏っていた。
知っている。
ハルピュイアは、この少年の名を。
『リーフレット・キルケゴール————』
紡がれた声は、花弁のように軽々と宙を舞った。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.73 )
- 日時: 2011/10/19 17:03
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
第四話(1)『リーフレット・キルケゴール』
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.74 )
- 日時: 2011/10/19 17:04
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
「やっふぃー! 初めましておにーさん、みんなの可愛いリーフレット・キルケゴールちゃんでぃっす! 4649よろしくぅっ! ぎゃははっ!」
扉を開けたら、そこにはウザイくらいにハイテンションの少女がいた。
いや、少年? どちらにも見える中世的な美形の子供である。
服装は継ぎ接ぎだらけのローブをワンピースのように着こなしその下にスキニージーンズという奇妙なものだったが、そんなものも気にならないくらいに不思議と漂ってくる無邪気な淫靡さが特徴的な……じゃなくて。
「……誰だよ、お前」
今まで吹っ飛んでいた思考が戻ってきて、やっとのことで銀時はその言葉だけを発した。
待て待て、落ち着くんだ俺。
冷静になれ、お前はクールな男だ。
ハルピュイアが出て行って二時間くらいたったからさすがに気になって、エスペランサも目覚めた事だしちょっと様子でも見に行くかと立ち上がり、扉を開けたら何故か目の前に見知らぬ美少年がいて、なんか挨拶された。
……うん、わけわからねぇ。
あっれー俺ついにボケたのかなーあははー、なんて銀時が遠い目をしていると、いつの間にか少年の後ろにいたハルピュイアがちょんちょんと肩をつついてきた。
意識を現実に引き戻され、ハルピュイアに目を向ける銀時。
その目は語っていた「誰だ、これ」。
『あー……うん、とりあえずリビングの方に行ってから話すっちゃよ。向こうでも同じこと聞かれると思うっちゃし』
こちらも視線を左右にウロウロさせるハルピュイア。
彼女が連れてきたということは怪しい人物ではないようだが、それにしても滅多に見かけないタイプの少年だった。
それにリーフレット・キルケゴールという名前。
もしかして……
「お前……魔法使いか?」
銀時の質問に、ハルピュイアに続いて玄関に入っていた少年は答えた。
「魔法使い? ぎゃははっ。そりゃあ違うぜ、おにーさんよぉ……」
振り向く少年、リーフレット・キルケゴール。
その邪気のない微笑みは、しかしどこまでも淫蕩だった。
「僕は魔術師。魔法使いのなり損ないさ」
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.75 )
- 日時: 2011/10/19 17:06
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
* * *
「何で貴方がここにいやがるんですか!?」
リーフレットがリビングに足を踏み入れた瞬間、エスペランサのそんな絶叫じみた声が響いた。
他の者は皆、見知らぬ少年が入ってきたという事実と、その淫蕩な雰囲気に飲み込まれて固まっている。
そんな空気の中で、彼はなんら気にする様子もなくしゅぱっと右手を上げた。
「ぎゃははっ、久しぶりエスペランサ! つーかここじゃ斑鳩桔梗って名乗ってんだっけ? んじゃあ僕もそれに則って桔梗って呼ぶけど、アーユーオーケー?」
「なんですかその棒読みの英語は……つーか質問に答えやがって下さい。何でこの世界にいやがるんですか」
「ぎゃははっ……そりゃ勿論、僕が異世界を巡る目的っつたら一つだろ?」
「……なるほど、貴方の兄が今回の逃げ場にチョイスしやがった世界はここというわけですか」
交わされる会話は理解できない。
どうやら二人は知り合いらしいが、もしかすると同じ学校に通っていたりするのだろうか。
見た目も同じくらいだしクラスメイトかもしれない。
そんな予測を立ててみるものの、しかしそれが正解か確かめに行こうとする猛者など一人もいない。
婀娜(女性の色っぽく艶かしい様)めく美少年に至高の美少女。
こんな二人の組み合わせに突っ込んでいける勇気など持ち合わせていない。
しかしそんな全員の総意を覆す猛者が、ここに一人いた。
「おいお前、人ん家に入って来たなら自己紹介くらいするネ」
腕組みをして見下ろす少女、神楽だ。
今まで誰も破れなかった鉄の防壁(主に少年から放たれる淫蕩オーラだとか姫姉様から放たれる耽美オーラだとか)を突破し、軽々と少年に歩み寄った彼女。
そんな彼女の言葉にいま気付いたとばかりにポンッと手を打ち、少年は相変わらずどこか無邪気な艶かしさを感じさせる笑顔で周囲を見回した。
笑顔というより、小悪魔的に唇を吊り上げているとでもいうべきだろうか。
高杉の男性的な色気とは違い、こちらの少年からは女性的な色気が滲み出ている。
例え方に少々品が足りないが、喰われる側の色気といった感じだ。
「ぎゃははっ、ごめんごめん。そういやぁ自己紹介まだしてなかったや。
初めまして、おにーさんおねーさん。僕はリーフレット・キルケゴール。魔法使いじゃなくて魔術師なんで、そこんとこよろしくぅっ!!」
そんな子供っぽい上に訳のわからない自己紹介も、少年の、リーフレットの純粋な色香のせいかやけに艶めいて感じる。
吉原桃源郷にもこの色香を放てる遊女は中々いないだろう。
男であるとわかっていても思わずクラッとくる。
が、そこは全員でエスペランサの方を向いてなんとか耐え抜いた。
耐え抜いたついでに、一人の隊士がおそるおそる手を上げて質問する。
「あのー……姫姉様が魔法使いっていうのは知ってるんですけど、魔法使いと魔術師の違いって何ですか?」
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.76 )
- 日時: 2011/10/19 17:08
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
「魔法使いと魔術師の違い? なんて説明すりゃあいーんだろ……とりあえず簡潔に言えば、魔法は能力で魔術は学問って感じぃ?
魔法使いっつー能力者としての才能がない奴が、必死に全力で努力してやっとなれるのが魔術師……ってなわけ。割合としては魔術師の方が少数。魔法は魔力かかるけど、魔術は魔力いらねーの。ぎゃははっ、その代わり時間かかるけどねんっ。例えば……」
そう言うと、リーフレットは地面に転がっていた今朝の朝刊を手にとり、エスペランサに向かって「刃物の類とか持ってねえ?」と手を差し出す。
エスペランサは軽く頷くと、指を弾いて鳴らし、空中に小さな魔法陣を出現させた。
彼女がそれに手を突っ込むと、中から出てきたのは意匠を凝らしたペーパーナイフ。
それを受け取り、リーフレットは逆側の手で新聞紙を広げた。
何枚か重なっている新聞紙の内一枚をエスペランサに投げ渡すと、彼女もリーフレットの意図がわかったかのようにそれをキャッチする。
「はいはい、ここに何の変哲もない一枚の新聞紙があったりしちゃいまーす! これを燃やす時、魔法使いと魔術師じゃどんな違いがあるのかを実演するからよーく見といてねんっ」
エスペランサから受け取ったペーパーナイフで新聞紙に何かを刻みながら、リーフレットは説明する。
周囲の人間は、興味を抱いたようでまじまじと二人の姿を見つめていた。
「まず、魔法使いがこの新聞紙を燃やす場合」
「……燃えろ」
長々しい呪文など唱えるまでもなく、エスペランサがそう低く呟いただけで新聞紙は真っ白な灰となった。
一瞬すぎて炎の色が確認できなかったくらいだ。
おおー!! と、周囲からの歓声があがる。
「続いて魔術師が燃やす場合! っと、ちょっくら待ってねー」
さきほど刻み込んだよくわからない模様とはまた別の模様を刻み込み、その周囲を円で囲ったりと、忙しなく手を動かすリーフレット。
一分くらいたって彼がその新聞紙にふっと息を吹きかけると、エスペランサの新聞紙と同じように一瞬で燃え尽きた。
これまたあがる歓声。
ペーパーナイフをエスペランサに返して、リーフレットは再び隊士や神楽たちに視線をやった。
「まっ、要するに魔法は魔力が必要で魔術は時間が必要ってわけ。ちなみに魔力を使う術を魔法って言って魔力を使わない術を魔術って言ったりするんだけど、そこら辺はこっちでも曖昧だから適当でオーケー! ぎゃははっ」
「じゃあ、もう一つ質問していいですか?」
ビシッと上げられた隊士の手に「オーケー何でも聞いちゃって! いえっす!」とやけにハイテンションに返すリーフレット。
飛んできた質問は、「リーフレットさんは何でこの世界に来たんですか? あと、姫姉様との関係は?」というものだった。
何気に二つも質問が含まれているのだが、そんなことは気にしないとばかりにリーフレットは答えていく。
「ぎゃははっ、桔梗との関係はクラスメイトって奴だよんっ。魔法使いの学校にいる魔術師っで僕一人だけだし、桔梗も周りとあまり馴染めてなかったから、必然的に喋る回数とか多くなったわけ。僕がここに来た理由って質問は……あー、ちょっとヘビーな内容になっちゃうけどオーケー?」
リーフレットにしては珍しく、妙に躊躇うような様子で頬を掻く。
エスペランサとハルピュイアも、どうやら事情を察しているようでなんとなく微妙な表情だ。
彼にも、果てない悪夢に苛まれたエスペランサや、生後まもなく両親に捨てられたハルピュイアのような、話すと場の雰囲気を暗くしてしまうエピソードがあるのだろうか。
そう考えると、彼のこの性格にも納得がいく。
一見ハイテンションで悩みなどなさそうに見えるリーフレットだが、その天真爛漫さはどこか嘘臭く、芝居がかって見えるのだ。
それはまるで、『リーフレット・キルケゴール』というキャラクターを舞台上で演じているような違和感。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.77 )
- 日時: 2011/10/19 17:09
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
『言っておくけど、聞いて気持ちの良いもんでもないっちゃよ。どっちかというと後味の悪さが残るだっちゃ』
暗に聞かないことを勧めているようなハルピュイアの発言に、挙手していた隊士は申し訳なさそうな顔でその腕を下げる。
どうやら聞かないという選択肢を選んだらしい。
五秒たってももう誰も手を上げないのを見て、リーフレットは口を開いた。
「まあ、聞きたきゃ僕のいない時にでも頼むよ。僕が自分で話すのも変な感じになっちゃいそうだしさ」
『ウチが話しても変な感じになるっちゃよ。……というかリーフレット、お前この世界で泊まる場所とかあるんだっちゃか?』
「んにゃ? 全然アテもねーけど。でもまあ、僕って野宿とか得意だし」
ぎゃははっ、と軽やかに笑うリーフレット。
そんなリーフレットを背景に、ハルピュイアはこれが本題だとばかりに真選組メンバーに顔を合わせた。
その瞬間、彼らの背中に嫌な予感が走る。
『さすがに万事屋にもう一人泊めて貰うわけにはいかないし、こいつをそっちに泊めてやって欲しいっちゃ』
こいつ、と指差された先にいるのは勿論リーフレット。
どうやら本当に野宿するつもりだったらしく、当の本人がきょとんとしていた。
その姿が非常に愛らしい。
愛らしいのだが、むしろその愛らしさが問題だ。
土方と沖田は目で隊士たちに合図すると、部屋の隅で円形になって作戦会議を開いた。
「どうしやす? 一人くらい泊めるスペースなんざ充分ありやすけど」
「問題はそこじゃねェだろ。見たかさっきの色気。あれは男所帯に泊めるには危険だ」
「姫姉様の場合はお美しすぎて逆に手出しする気もおこらなかったけど、あれは駄目ですよね。性別の壁がどうでもよくなりそうです」
「男であの色気はねーよ。何あれ、どうして普通なら色気の欠片も出ない動作で色気でてんの?」
「しかも男の色気じゃなくて女の色気だもんなアレ。少年から出るもんじゃねーよわけわかんねーよ」
「しかも姫姉様と違って、あの態度は確実に自分が可愛いことを理解しているタイプだ。気を休めれば負けるぞ」
こそこそと小声で話しているが、静かな部屋なので会話内容は全てダダ漏れになっている。
可哀想な生き物を見るような目で真選組メンバーを見つめる万事屋メンバー、呆れるハルピュイア、よく分かっていないエスペランサ、そして面白そうに眺めているリーフレット。
彼らの話している通り、リーフレットは自分が可愛いという自覚が多いにあったし、自分の色気が雄を興奮させるタイプのものだと理解していた。
そのまま数分ほど話し合った後、代表として一人の隊士が立ち上がると、リーフレットにビシィッと指を突きつけて言った。
「お手柔らかにお願いします!」
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.78 )
- 日時: 2011/10/19 17:10
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
* * *
「で、あのリーフレットってやつがこっちの世界に来た理由って何アルか?」
リーフレットを真選組メンバーに引き取って貰って数分後。
すっかり人口密度の下がった部屋の中で、神楽がハルピュイアにそう尋ねた。
『……だから、マジで聞かないことを勧めるっちゃよ。理由だけ聞いても神楽は怒りそうだし、そこに至るまでの経緯も聞いてて気持ちいいもんじゃないだっちゃから』
「私が聞きたいって言ってるんだから、そんなことはどうでもいいネ」
引き下がらない神楽に、ハルピュイアは辟易したような声を漏らした。
『神楽、こういう所はえらくしつこいんっちゃね……桔梗、どうするだっちゃか?』
「……リーフレットが自分のいない所でなら話してもいいと言いやがっていましたし、神楽さんが聞きたいのであればそれも良いでしょう」
最後の頼みの綱だったエスペランサがそう答え、新八に入れてもらったお茶を啜るのを見て、ハルピュイアはがっくりと項垂れた。
そして、仕方なしとばかりに口を開く。
『……あいつがなんで異世界を巡ってるかっていうと、逃亡してる兄貴を探してるんだっちゃけどね』
「……何ネ、別に後味の悪い理由じゃないヨ」
『……その兄貴を見つけたら、リーフレットは殺さなくちゃいけないんだっちゃよ』
「なっ……!?」
神楽が驚愕の表情を浮かべる。
今まで黙っていた新八が飲んでいたお茶を噴出し、銀時もいちご牛乳が器官に入ったようで咳き込んだ。
エスペランサとハルピュイアだけが、この空間の中で落ち着いている。
それからハルピュイアが語った話を纏めるとこうだった。
リーフレットの生まれたキルケゴールというのは代々魔術師の家系で、シャングリラにおける魔女狩りのほとんどを担っていた悪名高い一族。
そのとき六歳だったリーフレットと八歳だった兄は魔女狩りにまだ参加していなかった。
キルケゴール一族では十歳から魔女狩りに参加する決まりで、しかしその十歳が訪れる前に、ある一人の魔法使いによって魔女狩りは終焉を迎える。
魔女狩りに参加していた大半の魔術師たちは処刑された。
当然、もっとも残忍な方法でもっとも数多くの魔法使いを葬ったキルケゴール一族も処刑の対象になったが、しかしそこで魔法政府が困ったのはリーフレットとその兄の処分。
キルケゴールとはいえ魔女狩りに参加しておらず、かといって無事で済ませるにはキルケゴールに殺された魔法使いの遺族たちの怒りが凄い。
「キルケゴールの血は残しておくべきではない、檻に放り込んで猛獣の餌にしろ」「手足を切断して川に流せ」「生きたまま内臓を刳り貫け」。
そんな怨嗟の声の数々に、ついに何もしていない二人の処刑を決定しようとした魔法政府。
しかしそこで一人の魔法使いが動いた。
この魔女狩りを終焉に導いた張本人である、伝説の魔女シーレ・サイフェルト。
彼女はリーフレットとその兄を自分の学園に引き取って面倒を見ると言い、さすがに英雄の発言は断れないので、二人を聖マジカル学院に入学させる。
そこから兄弟二人で頑張って暮らしていく……という展開になるかと思いきや、リーフレットの兄は禁術に手を染めて捕まらない内に異世界へと逃亡。
リーフレットの兄は“第十三級魔法使い”という指名手配犯として扱われた。
そしてシャングリラには一つの掟がある。
それは『家族から第十三級魔法使いが出た場合、家族が殺害する』というもの。
そしてキルケゴールにはもうリーフレットとその兄の二人しかいない。
兄が第十三級魔法使いになったなら当然リーフレットが殺すしかなく、彼はたった一人の家族を亡き者とするために異世界を巡っているという。
『シャングリラじゃ、あいつに対する風当たりは酷いもんなんだっちゃ。口を開けば「喋る暇があったら死ね」、視界に入れば「目が穢れる、近寄るな」、ただそこに存在しているだけで「よくのうのうと生きてられるな」。キルケゴールという一族の犯した罪に対する怨嗟は、全部あいつに向かってるんだっちゃよ。
道を歩けば殴られるし蹴られるし刺されるし、それを助ける奴がいないどころか、むしろ暴力をふるわれて当然だと周囲の人間はその光景を見て笑い声を上げる。“殺したら穢れが移る”なんて噂があるおかげで殺されはしないけど、あいつ、あのローブの下は常に傷だらけだっちゃ』
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.79 )
- 日時: 2011/10/19 17:12
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
「リーフレットさん……そんな人生なのに、なんであれだけ笑ってられるんでしょう」
すっかり陰鬱になった空気の中、ポツリと新八が呟いた。
その疑問にエスペランサが反応する。
「……リーフレットは、周囲の人々があいつを嫌う以上に、自分自身のことが嫌いなんですよ。大嫌いな自分が酷い目にあってるのを見ると清々すると、前に言ってやがりました」
「…………」
「あいつはね、自分が不幸だなんて微塵も思っちゃいねーんです。自分は罪を背負ってるんだから罰を受けるのは当然という思考です。だから殴られても蹴られても刺されても反抗しないし、あいつはむしろ周囲が自分を暴行しながら嘲笑っている間、傷にまみれた自分を誰よりも楽しそうに嘲笑ってやがります」
「……罪を背負ってるって、あいつ、話を聞いた限りじゃなにも悪いことしてないネ」
「ええ。でも、“キルケゴール”という一族が犯しました。……遡って何百代にも及ぶキルケゴール一族たちが犯してきた罪を、あいつは今、一人で背負い込んでやがってるんです。
そしてその償いとして、リーフレットはキルケゴールの犠牲者遺族たちの願いはなんでも聞き入れることにしています」
すっかり冷え切った緑茶をテーブルの上に置いて、エスペランサはソファーにもたれかかり天上を見上げた。
「いま被害者遺族たちが望んでいる第一の事柄は、『リーフレットが兄を殺すこと』。これはまぁ、キルケゴールの血統自体が憎い彼らにとって、その血筋を根絶やしにするにはリーフレットが兄を殺しやがるしかないからですね。
そして第二に望まれているのは、『リーフレット自身の死』です」
見上げた先の電灯の眩しさに目を細め、エスペランサは腕で瞳を覆う。
「つまりリーフレットは、兄貴を殺して自分も死ぬつもりなんですよ」
「……クラスメイトなんでしょう? 止めるつもりはないんですか?」
「リーフレットを止めるのも慰めるのも、あいつの強さに対する侮辱でしかありません。弱味を見せずに強味で魅せる。あいつと私の関係は、それでいいんです」
罪を投げ出さないというのは、一種の強さだ。
それが例え自分の罪じゃなかったところで————背負う必要のない濡れ衣だったところで、罪という十字架を背負い続ける彼は間違いなく強い。
いくら傷付いて、ボロボロになって、もう手遅れなところまで彼が行ってしまっても。
それを止められることをリーフレット・キルケゴールは望んではいない。
強くあらなければ彼は生きられないのだ。
自分が弱いと認めてしまったら、傷の痛みに耐え切れず心が折れる。
そして心が折れても、彼を支えてくれる人間は一人もいない。
むしろいい気味だと嘲笑うだろう。
だからこそ彼は自分を嫌いになったのだ。
誰にも好かれていない自分を嫌いになれば、罪を背負う自分を客観的に嘲笑すれば、傷付いてボロボロになった心を無視できる。
ズタズタになった心をさらに自分で引き裂き、弱味を切除したそれを継ぎ接ぎで無理やりに繋げる。
痛い苦しいと悲鳴をあげるパーツを、彼は意図的に無視しているのだ。
その為の、嘲笑。
心の悲鳴を隠すための、笑い声。
「なんつーかよォ……思ったより大変なんだな、魔法の国って」
「ええ。魔法の国ではあっても、夢と希望の国ではありやがりませんから」
陰鬱なまま停滞する室内の空気に関係なく、窓の外の世界では、次第に夜が更けていった。
そうして夜が、訪れる。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.80 )
- 日時: 2011/10/19 17:14
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
* * *
夜が訪れた。
窓の外を静かに眺めているリーフレットが思ったのはそんな事で、親近感の湧くそれに知らず知らず笑みが零れた。
星の一つも見えない、それどころか月の光すらも翳った夜空。
味方のいないその夜空は、自分によく似ていた。
「さっきまでは晴れてたんだけどねぇ……ぎゃははっ、雨まで降ってきた」
どこか面白そうに窓から手を突き出せば、ざあざあと降りしきる雨は瞬く間に手のひらを濡らした。
空が泣いている、なんて感傷的なことは思わないけれど。
そんな風にして外の景色を楽しんでいると、コンコン、と襖がノックされた。
こっちにもノックという文化はあるのかと感心していると、すっと襖が開かれる。
顔を見せたのは、着流し姿の土方十四郎だった。
その手には、酒の一升瓶が握られている。
「……よォ、部屋は気に入ったか?」
返事の変わりに片手を上げて応じる。
真選組の面々が使っていいと案内してくれたこの部屋は、一言でいうと少女趣味だった。
前にエスペランサが一日だけ泊まった時に使った部屋らしい。
ディズニー映画のワンシーンに出てくるような、典型的な天蓋つきベッド。
壁には大量のカボチャ型ランタンがかかっていて、中で燃える炎がゆらゆらと妖しく火花を放っている。
畳や襖を除き全て白と黒の家具で統一されており、どことなく禍々しくも神秘的な印象を与えられる。
魔女にはピッタリの部屋だろう。
リーフレットは魔女ではないのだが、彼の持つ蠱惑的な淫靡さはこの部屋を甘ったる香りがするほどに満たし、エスペランサが使っていた時とはまた違う部屋の雰囲気を作り出していた。
襖を閉めて部屋に入ってきた土方は窓際で雨に濡れているリーフレットを一瞥すると、天蓋つきベッドの白いシーツの上に腰を降ろす。
その顔を揺らめく蝋燭の炎が照らし、窓の外では雷が鳴った。
薄暗い部屋の闇を一瞬だけ駆逐する雷光。
遅れて響く轟音に混じり、土方の呆れたような声が聞こえた。
「雷鳴ってんだから、窓くらい閉めろよ。風邪ひくぞ」
「ぎゃははっ、ごめんごめん。……で、おにーさんは酒瓶片手に僕に何の用? 飲もうってんなら少しは付き合えるけど」
「ご名答だ。ちょっと聞きたいこともあるからな。ついでに飲もうと思った」
こっち来いとばかりにポンポンとベッドの隣を叩かれ、窓を閉めて大人しくそこに座る。
髪を濡らしていた雨粒が肌を伝い落ち、白いシーツに滲んだ。
仄暗い部屋の中、雨に濡れた彼の姿はどことなく不思議な色気を放っている。
「なんつーか……魔法使いとか魔術師ってやつァ美形が多いのか? 桔梗といいお前といい」
「魔法使いは基本的に美形だよん。魔術師は別にそうでもないから、これは僕がたまたま可愛い顔して生まれただけ! みたいなっ?」
「……桔梗よりは綺麗じゃねーだろ」
「桔梗より綺麗じゃねーが、桔梗より色気はあるぜぃ?」
そう言ってどこか官能的な笑みを浮かべるリーフレットに、土方は誤魔化すようにして酒瓶の蓋をあけた。
彼の色気に呑まれては負けだ。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.81 )
- 日時: 2011/10/19 17:15
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
軽々と開いたふたに口をつけて酒を軽く流し込むと、たったいま自分がわずかに飲んだばかりの酒瓶を相手に渡す。
お猪口でも持ってくるべきだったと今更ながらに後悔した。
が、相手は人が飲んだ後の酒を気にする様子もなく平然と飲み、またこちらに酒瓶を渡してきた。
飲んでは渡し飲んでは私を数回繰り返した後、タイミングを逃さないうちに口を開く。
「聞きたいことはいくつかあるから、順を追って尋ねるぜ」
「ん、りょーかい。で、記念すべき第一回目の質問は? 僕って口軽いからペラペラ簡単に喋ると思うけど」
そう言って酒を飲む彼は、しかし本当に大切なことは言わないようなタイプに見えた。
「まず、お前がここに来た理由は?」
「おにーさんたちが泊まって良いって言ってくれたんじゃん」
「ちげぇよ、この世界にって意味だ」
「ああ、そっちか」
演技がかった仕草でポンッと手を打つ。
リーフレットのそんなところが、土方のストレス度数をわずかに上昇させた。
人のペースを乱しに乱し、自分のペースは少しも乱さない。
小悪魔的、という表現が当てはまる少年がいるならば、それはこいつのことなのだろうと土方は思った。
「桔梗たちのところで追及してこなかったから、てっきり気にしてないんだと思ってたよんっ。
まあ、なんというか、人探しみたいなもんかな? 人っていうか魔術師なんだけど」
「異世界まで探しに来たくなるくらい親しい奴なのか?」
「まあ、親しいっちゃあ親しいんだろうけど……僕の兄貴だし」
ぎゃははっ……と、そこで不自然に笑い声を部屋に響かせるリーフレット。
彼は行き詰ったときに笑う癖でもあるのだろうか。
負の感情から生み出される所作は艶を帯びて見えることが多い。
異常なまでの妖艶さを纏う彼の内部は、もしかすると暗く重々しい何かで満たされているのかもしれなかった。
だからこその色めかしさ。
それはエスペランサ・アーノルドの瞳にも似た——痛ましい陰鬱と耽美を同時に内包したような——どこか倒錯した魅力だった。
魔性の少年は、その艶やかな唇から音楽のような美声を紡ぐ。
無邪気に愛らしい笑顔を浮かべて。
「まあ、色々と込み入った事情があったりなかったりなんだよねんっ。ぎゃははっ! 気になったなら桔梗かハルピュイアにでも聞いてよ。僕、人と会話するの苦手なんだからよぅ」
ぷはっ、と酒瓶に残っていた酒を一気飲みして、口の端を濡らしていた数滴を親指で拭う。
元から色鮮やかだった唇が、水気に覆われて瑞々しく光った。
空になった酒瓶をベッドに投げ捨て、リーフレットはリラックスするように上半身を後ろに倒す。
気持ち良さそうな彼を見ていると自分も真似したくなってベッドに寝転んでみた。
なんとなく左を向くと、そこには首だけ右に向けているリーフレットの顔があった。
かちあう視線。
甘ったるい瞳の奥に、彼の心は映らない。
「……話すの苦手って、お前さっきからめちゃくちゃ喋ってんじゃねーか」
「そりゃ緊張してんのさ。なんなら僕の心臓に手ェ当ててみな、すっげーバクバクしてるから」
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.82 )
- 日時: 2011/10/19 17:16
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
「この体勢でそんなことしてみろ、俺がお前を襲ってるみたいになるだろ」
「ぎゃははっ、なんなら魔術で体の性別転換させようか? 物凄く可愛い女の子になれる自信あるけど」
「いい女なんざ見飽きてる」
「ひゅー、おにーさんかっくいー!」
楽しそうに叫び、足で勢いをつけてベッドから飛び起きるリーフレット。
翻った髪から、ふわりと甘い香りが土方の鼻腔を掠めた。
香水ともまた違う、例えるなら砂糖やチョコレートのように濃密な甘々とした匂い。
エスペランサの髪からも白百合のような香りがしたが、顔が綺麗なら纏う香りまで綺麗なのだろうか。
……なんてことを土方が考えていると、もぞもぞと襖の向こうで蠢く気配を感じた。
まさかと思って耳を澄ませてみれば、襖一枚隔てた場所からわずかに聞こえてくる声。
「副長とリーフレットくん、どうなってるのかな……」
「怪しい奴じゃないか確かめてくるって言ってましたけど……とりあえず大きな物音とかは響いてこないし」
「つーかよく考えたら、この向こうにある部屋って姫姉様が使ってたんだよな? その中に入れるなんて羨ましい! しかもリーフレットくんに至っては姫姉様の使ってたベッドで眠れるんだぞ!?」
「それを言うな嫉妬で死にそうになるから! ……でもさらによくよく考えてみれば、リーフレットくん男って感じのオーラ出てないから嫉妬のしようがないよなぁ」
「わかるわかる。じゃあ副長にだけ嫉妬しとくか」
「だな」
「呪いの言葉でも呟くか。いますぐコレステロール過剰で血管ぶち切れろ副長ー」
「今すぐ沖田隊長に撃たれて木っ端微塵に吹き飛べ副長ー」
「聞こえてんだよテメェらあぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁ!!」
土方がシャウトすると同時にベッドの上にあった大きな枕が投げられ、恐るべき速度で襖にヒットした。
当然のように襖は音をたてて激しく倒れ、その後ろでヒソヒソと話していた二人を押しつぶした。
指の骨をポキポキと鳴らしながら、襖の下敷きになった隊士たちに近付いていく土方。
「誰の血管がぶち切れろって? あぁ?」
額に浮かぶ青筋。
リーフレットと会話していた時よりも、だいぶストレス度数が上がっているようだった。
「ご、誤解ですよニコチン中毒!」
「そうですよクソマヨラー! 俺達、瞳孔全開野郎を呪おうなんてこれっぽっちも思ってません!」
「テメェらのその発言がすでにアウトだボケ!! つーか泣いていい?」
「あ、すいません泣いてる副長とか想像できないんで勘弁してください」
「よおしそこになおれテメェらアァァァァァァッ!!」
うわアァァァァァ!! と叫んで逃げていく隊士二人と、それを酒瓶片手に追いかける土方。
襖の壊された部屋の中からその光景を見て、リーフレットはふわりと微笑んだ。
「ぎゃははっ……楽しそうなおにーさんたち」
かくして訪れた夜は、騒々しく荒々しく、さらに更けていった。
雨も雷も、いつの間にか止んでいるようだ。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.83 )
- 日時: 2011/10/19 17:28
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
第四話(2)『下着泥棒って懲役何年くらいなのかな』
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.84 )
- 日時: 2011/10/19 17:31
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
「怪盗ふんどし仮面? なに、そのクソだっせぇ名前」
早朝。
屯所にて真選組の面々と朝食をとっていたリーフレットが聞いたのは、『怪盗ふんどし仮面』という下着泥棒についての話題だった。
なんでも綺麗な娘の下着だけを狙い、それをモテない男にばらまくという変態的な下着泥棒らしい。
下着泥棒に変態的もクソもあったものではないのだが。
目の前で焼き鮭定食に大量のマヨネーズをかけて食べていた土方が、その言葉に反応して話を続ける。
「ああ、今や江戸中の娘が被害にあってる。……それでそのうち桔梗も狙われるんじゃねーかって、隊士どもが殺気立っててな」
「ぎゃははっ、なるほどねぇ……このピリピリした空気はそのせいか」
林檎を口内で噛み砕きながらニヤニヤと笑い、周囲に視線を巡らせるリーフレット。
目に入るのは黒い隊服、隊服、隊服——それを纏った隊士たちは皆『護れ姫姉様の下着!』と書かれたハチマキを額に巻いていて、下手をすればふんどし仮面以上に変態的な集団に見えた。
巻いていないのは土方と沖田とリーフレットだけだ。
そういえば、昨日紹介された局長の近藤勲はどこに行ったのだろうか。
今朝から一向に姿を見かけないのだが。
「……近藤さんなら今頃、万事屋んトコの眼鏡の姉をストーキングでもしてるさ」
「朝食抜きでストーカーなんて無駄にパワフルだね! 僕尊敬しちゃう! ぎゃははっ、それは冗談に決まってんだけどさ。つーか仮にも警察がストーカーってそれオーケーなわけ?」
「……もう何も言わないでくれ」
疲れたように溜息を吐く土方を見て、リーフレットも浮かべる表情を苦笑いへと変貌させるのであった。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.85 )
- 日時: 2011/10/19 17:33
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
* * *
頭から真っ赤なフンドシを被ったブリーフ一丁の男——怪盗ふんどし仮面がその少女を見かけたのは、いつも通りに下着を盗んだ帰りのことだった。
警察の追っかけを見事に振りまき、盗んだ娘の下着をモテない男にバラ撒いて。
今日も良い仕事をしたと民家の屋根から歌舞伎町を見下ろしていた。
そこで見つけたのだ、道を歩いていた一人の少女を。
少女は生きたアンティークドールのような姿をしていた。
まるで道徳の限界ぎりぎりにまで迫った精巧な人形、生きた気配を微塵も感じさせない。
それは少女の美しすぎる容姿にも起因しているのだろう。
その整った顔。
抜き身の刃のようであり、氷でできた人形のようでもあり、あるいはやはり気高き雪の女王のようでもあった。
冷ややかな印象を与える美貌に豪奢なゴシックロリータは酷く似合っていて、あまりにも浮世離れしたその光景にぞっとする。
ただ道を歩いているだけなのに、少女が足を動かすたびに天使の羽音が聞こえくるようだ。
(——なんだ、これは。俺は知らないうちに屋根から落ちて天国に行ったのか?)
そんなネジの抜けた考えが脳裏を過ぎった。
が、自分の胸に手を当ててみれば心臓は間違いなく動いている。
ならばこの少女は、天使よりも人形よりも美しい何かということか。
自分は今まで数々の綺麗な娘の下着を奪ってきたが、これほどまでに美しい少女を見たのは初めてだ。
彼女の下着を盗ってモテない男に配れば、一体どれだけの男たちが世界に希望を持てることだろうか。
「決めたぞ、次のターゲット……!」
あの規格外の美貌を持った少女の下着をゲットする。
ふんどし仮面はそう決意して、深まる夜の闇を駆けた。
頭に巻いたフンドシをなびかせて。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.86 )
- 日時: 2011/10/19 17:34
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
* * *
『あっれー、可笑しいだっちゃねー……』
早朝、洗濯物を取り込みにベランダに出たハルピュイアは、洗濯物の量が少ないことに気付いた眉根を寄せた。
男物のトランクスや着物などは減っていないのに、女物の下着だけが無くなっているのだ。
具体的にいえば、神楽とエスペランサの分の下着が無くなっている。
下半身が鷲であるハルピュイアは下着など使用しないから論外だ。
上半身もサラシを巻いた上からタンクトップを着ている。
「どうしたんですか? ハルピュイアさん。さっきからずっと渋い顔してますけど」
予想外の事態に唸っていると、リビングの方からひょっこりと新八が顔を出してきた。
朝食の準備中だったらしく、いつもの袴姿にエプロンとおたまをを装備している。
『いや、桔梗と神楽の分の下着が無くなってるんだっちゃよ。桔梗の分はせっかく真選組にプレゼントして貰ったやつだって言うっちゃのに』
「その発言で真選組に対する不安が大きく上昇しましたよ……というか、下着がない!? 桔梗さんと神楽ちゃんの分だけですか?」
『だっちゃ。干してた分は一枚も残ってないんだっちゃよ』
そうハルピュイアが物干し竿を指差せば、確かにそこにあるのは男物の下着と着物のみ。
その光景を見て、新聞紙で読んだ事件が思い浮かんだ。
「それ、きっと怪盗ふんどし仮面の仕業ですよ」
『怪盗ふんどし仮面? 二重面相みたいなもんだっちゃか?』
「いや、そんな格好良い感じの怪盗じゃなくて……綺麗な女の子のパンツだけ狙う泥棒なんです」
リーフレットが真選組の面々に引き取られて行った後、エスペランサは夜風に当たってくるとかで外出していた。
そのとき怪盗ふんどし仮面が彼女の姿を見たとすれば——それでなくとも、ファミレスや花見会場で彼女の姿を目撃していたとすれば。
パンツの数よりも娘の質を優先するふんどし仮面ならば、絶対にエスペランサの下着を盗もうとするはずだ。
神楽の下着はその過程でとばっちりを喰らったのだろう。
『桔梗の下着を盗むなんて……良い度胸してるっちゃね、そのどんぶり仮面とやら』
「被ってるものが間違ってます、ふんどし仮面です。どうします? 二人に事情を説明して、新しい下着でも買いに行きますか?」
とはいっても、万事屋に金銭的余裕はないに等しい。
あるいは真選組の姫姉様信望者たちに頼めば軽く福沢諭吉が何人も招集できるだろうが……。
ハルピュイアから返ってきたのはこんな言葉だった。
『こういう時こそ、桔梗に惚れてるあいつらを使うっちゃよ』
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.87 )
- 日時: 2011/10/19 17:36
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
* * *
「いいかテメェら! ふんどし仮面が現れたら即取り囲み、なんとしてでも姫姉様の下着を取り返せ!!」
「「「イエッサー!!」」」
「命が惜しい奴は立ち去れ! 姫姉様のために命を捨てる覚悟がある奴は剣を上げろ!!」
「「「イエッサー!!」」」
「それなら行くぞテメェら! 合言葉は——」
「「「取り戻せ姫姉様の下着!!」」」
満点の青空の下。
額に巻いているハチマキを『護れ姫姉様の下着』から『取り戻せ姫姉様の下着』に変えた隊士たちが、うおォォォォォ!! と野太い雄たけびを上げていた。
それに混じって腕を突き上げているハルピュイア。
場所は志村邸。
ハルピュイアの『桔梗の下着が盗まれただっちゃ』という一本の電話により、あれから三十分もたたない内に真選組の隊士たちがここに集まり、殺気立っていた。
どうやら志村妙も同じくふんどし仮面の被害にあっていたらしく、本人と近藤勲も打倒ふんどし仮面に向けてやる気をみなぎらせている。
それを木陰から眺めていたエスペランサは、隣で同じく木にもたれかかっていたリーフレットに向けて呟く。
「……別に下着くらい、魔法で新しいのを作れば済みやがる話なんですが。なんでここまで大事になっちまったんでしょう」
「ぎゃははっ、それだけ隊士たちに想われてるって事じゃんかよぅ。いーじゃんお姫様扱い。プリンセスは女の子の永遠の憧れって聞いたけど、そこんとこどーよ?」
「……ドレスあの一年を除いて毎日着られましたし、家もそれなりに大きかったですから。姫に憧れた記憶はありやがりませんね」
「なるほど、憧れるまでもなくお姫様状態だったわけか」
ふんどし仮面には全く関係のない雑談。
繰り広げられる雑談のほのぼのさに反比例するように、隊士プラス近藤やハルピュイアたちは殺気だった様子で作戦会議を開いていた。
「どうやら怪盗ふんどし仮面は、早朝や日中よりも深夜などに活動することが多いようです。視界の暗い場所で捕らえるためには罠を仕掛けたほうがいいかと」
「心配ない、それならさっき地雷をいくつか庭に埋めてきた。それより、早い時間帯にふんどし仮面をおびき寄せる為にはどうすればいいと思う?」
「囮作戦などいかがでしょう。姫姉様とはまた違ったタイプの美人を、ふんどし仮面の目撃情報が多い地帯に歩かせるんです。それで三十分くらい歩いたらここに戻ってきて、ついてきたふんどし仮面を茂みから飛び出した俺達が一気に捕らえると」
「でも姫姉様と違うタイプの美人って、いわゆるセクシー系とか妖艶とかそんなんだろ? 周りにいたっけ、そんな女」
「……妖艶って言葉に当て嵌まる奴なら、あそこに丁度いいのがいるだろ」
タバコをふかしながら土方が指差した先にいるのは、リーフレット。
「マジ?」と素っ頓狂な声をあげるリーフレットに、土方は続けた。
「お前、昨日魔術で体の性別変えられるって言ってただろ。着物はこっちで用意するから女モードで囮になってくれ。一人じゃ絡まれるかもしれないから道を歩くときには俺も付き添う」
「なになに多串くーん、随分とリーフレットに優しいじゃん。もしかしてコッチ系?」
「テメェその天然パーマをアフロに変えてやろうか!!」
茶々を入れる銀時に怒鳴る土方。
その後ろを見れば、隊士たちもこっちに「お願いします」とでも言いたげな視線を向けていた。
断る余地は残されていないようだ。
「……オーケィ、とびっきりキュートでセクシーな女に化けてやんよ」
ニヤリとリーフレットが小悪魔的な笑みを浮かべると同時に、隊士たちから再び歓声が上がった。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.88 )
- 日時: 2011/10/19 17:37
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
* * *
歌舞伎町の大通りを、一人の少女と一人の男が歩く。
黒い着流し姿の男の名は土方十四郎。
そして名前のわからないもう一人は、なんとも露出的な格好をしていた。
水色のトップスは辛うじて着物の形をしているのだが、しかし丈は短くウエストがまる見えで、胸元と背中、それに脇腹の部分が大胆な編み上げになっている。
ほっそりとした腰から太股半ばまでを覆うのは、ボリューミに膨らんだミニスカート。
ミュールを履いた小さな爪先を彩るのは着物と同色のペディキュアで、色気と同時に活発な可愛らしさも醸し出されている。
鼻歌を歌いながら少女が進むたびに柔らかそうなココア色の髪が揺れて、ポニーテールのような形に結い上げられたそれは、右に左に動くたびにちらちらと白いうなじを垣間見せた。
そんな少女を見て、周囲の男からは下心むき出しの視線が寄せられ、女からは嫉妬まる出しの眼差しが浴びせられる。
美しすぎてもはや嫉妬すらもできないエスペランサと違い、この少女の愛らしさは女を嫉妬に狂わせる程度には親近感のわくものだった。
勿論それでもそこらの女とは比べ物にならないほどの美貌で、少女の一挙一動に合わせて周囲に色香と無邪気さが振り撒かれていた。
「ぎゃははっ——うん、さっすが僕だよね。顔は変わらないのに服と体だけ変わったら一気にこんな感じだよ」
隣を歩く土方に気軽に喋りかける少女。
そんな少女に、土方は「リーフレット」と、少女の——今だけ少女になっている元少年の名前を、嗜めるように呼んだ。
わざわざ解説するまでもなく、この少女はリーフレットが魔術で体を性別転換させた姿だ。
必要なものが出て不必要なものが引っ込んだだけ。
顔の造りや声質は微塵も変わっていないのに、それでもリーフレットの姿を見た瞬間、土方は吸っていたタバコをポロリと落としてしまった。
想像はついてたけど、スッゲェ可愛い。
顔にそう書いていたことを銀時に指摘されてまた口論に発展したりもしたが、それはまた別の話だ。
「で、おにーさん。そのだっせー名前の怪盗さんってどんな見た目してんの? 名前の通りふんどし?」
「いつでもふんどし頭に巻いてるわけねェだろ。きっと普段はマトモな格好だ」
「でもホラ、背後にそれっぽいファッションの人いるけど」
つぃ、とリーフレットが華奢な顎で示した先にいるのは、頭にふんどしを巻いたブリーフ一丁の男。
……なんというか、新聞紙の一面を飾っていたふんどし仮面そのままの姿だった。
都合の良すぎる展開に、思わず土方が本日二度目のタバコを落とす。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.89 )
- 日時: 2011/10/19 17:39
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
え、なに? アイツ常にあのスタイル貫いてるの? オシャレなつもりなの?
「どうするどうするおにーさん? なんか僕への視線をビンビン感じるんだけど、もしかしって僕って狙われちゃってたりぃ? ぎゃははっ、可愛いって罪だね!!」
「自分で言うか。……いや、可愛いことは認めるが」
今はそういう問題じゃない。
仮にリーフレットの下着が新たに狙われていたところで作戦通りだし、そもそもコイツはふんどし仮面の目の前で下着を脱いで渡すくらいやってのけそうだ。
後者は自分の勝手な想像でしかないのだが。
問題はこのままふんどし仮面を志村邸まで連れて行けるかということだ。
途中でこちらが怪しい動きを見せたら逃げられて、狙われているメンバーの中に新たにリーフレットが加わるだけだ。
あ、でもアイツはやっぱり下着の一つや二つホイホイくれてやりそうなオーラが……ってこれさっきも考えた?
なんて支離滅裂な思考を土方が繰り返していたら、ぎゅむっ、という効果音とともにリーフレットが抱きついてきた。
何事かと思い視線を向けると、リーフレットがしーっと唇に指を当てている。
「ほら、こうして付き合い初めみたいな雰囲気で密着してりゃあ会話も聞こえにくいだろうしぃ? このままラブホテルにでも直行しそうなオーラで志村邸に向かっちゃったりしようぜ」
リーフレットからの珍しくマトモな提案に、土方もなるほどと頷きこちらから密着した。
厳密に言えば、二人で腕を組んで歩いた。
羞恥心のある人間が街中でやれば拷問にも等しい行為である。
そんな体勢に耐えつつ周囲に頑張ってハートマークを飛ばしながら歩き、数分経過すれば志村邸前に到着。
ちらりと一瞬だけ背後を確認すれば、怪盗ふんどし仮面はちゃんと着いて来てくれていた。
内心ガッツポーズをとりつつ、門を通って敷地内に入る。
そこでは姿が見えないが、大量の隊士たちが茂みや家の中に隠れていた。
「——行くぞ、お前らアァァァァァァ!!」
足音しか聞こえない静寂を打ち破るように、響く近藤の声。
それに続いて、敷地内の至るところに隠れていた隊士たちがうオォォォォ!! と勇ましく飛び出してきた。
全員が真剣装備である。
土方とリーフレットにつられて中に入ってきていたふんどし仮面は、ここでやっと罠だと気付いたらしく、急いで屋根へと飛び上がろうとした。
が、それを最も間近で阻止する影が一つ。
「ぎゃははっ——逃がさねーぜぃ、おにーさん」
ミュールを履いた艶めかしい生脚が、ふんどし仮面の側頭部を強烈に殴打。
堅い膝からの一撃にふんどし仮面の体は吹っ飛ぶ。
そして志村邸の壁にぶつかった彼は、そのまま壁を打ち砕いてさらに室内へと飛んでいった。
崩れた壁から、パラパラ……と破片が落ちていく。
いくら古い家とはいえ、天人でもない一般人ができる芸当ではないだろう。
勇ましく向かっていた隊士たちも、口をあんぐりと開けて固まってる。
隣にいた土方が、やっとのことで質問してみた。
「……魔術師って、夜兎レベルの脚力とかあんのか?」
「いや、これは肉体強化の魔術使ってるだけだよんっ? 魔法使いでも魔術師でも使えるやつだし。ここにルーンとか魔法陣刻んでんのさ」
そう言ってリーフレットがスカートをひらりとめくり上げれば、足の付け根から太股の半ばまで——ちょうどスカートで隠れている部分に、びっしりと謎の記号や文字が描かれていた。
何の知識もない自分にはわからないが、きっとこれが肉体強化の魔術として働いているのだろう。
それにしても、小悪魔オーラを放った美少女がスカートを自分でめくり上げている光景というのはなんとも扇情的だ。
こう……下着が見えるか見えないかのチラリズム最高ー、みたいな?
なんてふざけたことを考えていたら、さきほどふんどし仮面が飛んでいった場所から何かが起き上がるような音が聞こえてきた。
慌ててそっちに視線をやれば、あちこちに打撲を負ってボロボロのふんどし仮面が、それでも必死に立ち上がっている。
その眼差しの先にあるのは、第二の囮として物干し竿に干してあった妙とエスペランサのパンツ。
片やサイドを紐で結ぶタイプの可愛らしいパンツ、片や純白フリルのみで作られたような高級感あふれるパンツだった。
どっちが妙のでどっちがエスペランサのかなんて、言うまでもない。
趣味がもろに反映されている。
「しまった、やつはまだ諦めてないぞ! 桔梗ちゃんとお妙さんのパンツを護れー!!」
「「「うオォォォォォォォォオォォォ!!」」」
再び動き出した隊士と近藤、それに神楽や銀時たち。
しかし戦闘をきっていた近藤が地雷を踏んだことにより、その動きもまた止まった。
バーン!! という鼓膜の破けるような効果音と共に聞こえてくる、近藤の「踏んじゃったアァァァ!」という悲鳴。
彼らは忘れていた。
この敷地内には、自分たちで埋めた地雷が大量にあるということを。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.90 )
- 日時: 2011/10/19 17:40
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
「……銀さん、地雷しかけてたのって近藤さんでしたよね?」
「……ああ」
「その近藤さんが爆発したってことは、つまり誰も地雷の場所を覚えてないってことですよね?」
「……ああ」
「…………」
「…………」
銀時と新の間に走る、沈黙。
普段は鬼神のごとき躍動を見せる神楽と妙も、さすがに地雷と聞いては進みあぐねているようだった。
隊士たちも大将の近藤が被爆したとあって動けず、土方とリーフレットもさきほどの位置から微動だにしていない。
そんな中、一直線にパンツに向かって駆けるふんどし仮面。
「ふははははっ! 俺の勝ちだ、パンツは頂いていくぞオォォォ!!」
そのごつごつとした手が清らかな色彩を放つパンツに触れようとした、その瞬間。
「桔梗の下着に触るなんざ、いい度胸でさァ」
「申し訳ありませんが、この下着を買うのもタダじゃねーんですよ」
剣を構えた沖田と杖を構えたエスペランサが、それぞれの得物をクロスしたような形で、並んでふんどし仮面の顔面を殴打した。
二人を背中に乗せて空から降りてきたのはハルピュイア。
途中から姿を見かけないと思ったら、どうやら三人は上空に飛んでいたらしい。
地雷回避の方法として、確かに“地面に触れない”というのは最も効果的な手段だろう。
「ぶはっ!!」
悲鳴を上げて、再び吹っ飛んでいくふんどし仮面。
その先にあるのは、まるで何かを埋めるために一度掘り返されたような、そんな痕跡のある地面。
「あ——」
——ドオォォォォン!!
豪快な爆発音が、日中の住宅街に轟いた。
合掌。南無阿弥陀仏。
* * *
「いや、あの、マジすいません。街中で見かけたその子が綺麗すぎてどうしてもパンツが欲しく……」
「土方さーん、その火のついたタバコ貸して下せェ。こいつの眼球に押し付けやす」
「ヒイィッ! 勘弁して下さい!!」
縄で縛って木に吊るされているふんどし仮面。
その横でいつも以上のサディストぶりを発揮している沖田。
そして残った地雷を処理するために妙に敷地内を引きずり回され、もはや返事のないただの屍となった近藤。
木を取り囲むようにして立っている隊士や銀時たち。
それが現在、この志村邸庭にて繰り広げられている光景だった。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.91 )
- 日時: 2011/10/19 17:42
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
「……私のパンツなんて、別に売りやがってもそれほどの価値はねーんですよ? 金が欲しいってんなら私を恐喝でもしやがれば良かったのに」
エスペランサの唇から、恐ろしく澄んだ音律が紡ぎ出された。
なめらかに流れるようなその語調は、ふんどし仮面を包み込む、冷たく麗しい響きだった。
音楽のような……美声。
高貴なアンティークドールを思わせる貴族的な美貌は今は不機嫌そうに歪んでいて。
いくら自分の神にも創れぬ美しさに自覚のない彼女とはいえ、さすがに下着を二回続けて盗まれるというのはそれなりに不快な出来事だったらしい。
彼女の美貌は刺すように冷たい。
ただでさえ恐ろしいほどに美しい彼女。
そんな彼女にゴミを見るような目で睨まれてしまっては、天下のふんどし仮面といえど萎縮するしかなかった。
「む、無理ですよ……あなたを恐喝なんて」
「子供に暴力は振いやがらない主義だってことですか?」
「いや、そうじゃなくて……」
あなたがとてつもなく綺麗だからです。という意思を込めて、ふんどし仮面はエスペランサの全身を眺めるように視線を巡らせた。
整いすぎた美貌、自分のものとは似ても似つかない綺麗な髪。
彼女と一方的に出会ったあの日の夜、そこだけ昼間のように明るく感じられた。
そんな男なら誰もが跪きたくなるような絶世の美少女を相手に恐喝など、例え悪魔でもできるわけがない。
周りの隊士たちもふんどし仮面の考えがわかるのか、同意するようにうんうんと頷いていた。
「……まあ、いつまでも木にぶら下げてるわけにもいかねーしな。多串くん。これ引き取っとけよ」
「テメェに言われるまでもねェよ。さっき場所を吐かせたこいつの家から盗まれた下着が見付かったらしいから、これで証拠も充分だ」
「桔梗の下着は無事だったアルか?」
「……高い額縁に入れて飾られてたらしい」
土方の言葉に、神楽の軽蔑するような視線がふんどし仮面へと突き刺さった。
そこでまた同意するように隊士たちが頷いていたのは秘密である。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.92 )
- 日時: 2011/10/19 17:44
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
* * *
結局ふんどし仮面は隊士たちにパトカーで連行され、世間を賑わせていた天下の下着泥棒はお縄についた。
盗まれていた下着も返って来てめでたしめでたし。
……と思いきや、一人だけめでたしで終わらなかった少年がいた。
いや、今は少女というべきであろう。
場所はスナックすまいる。
細い体を淡い水色の着物で包み込み、ポップなデザインの玉かんざしを鳴らして働くキャバ嬢がいた。
ココア色の柔らかな髪から振りまかれる無邪気な色気と甘ったるい匂い。
そして健康的な乳白色の肌。
その少女はまぎれもなく、女モードのままのリーフレット・キルケゴールだった。
「瑠璃ちゃーん、他のお客さんからご指名入ったわよー!」
「ちょっと待っておねーさん! いま行くから!!」
瑠璃という源氏名で呼ばれ、リーフレットは慌ててソファーから立ち上がる。
それまで相手していた客たちは名残惜しそうにリーフレットの名前を呼んできたが、頬にキスの一つでもくれてやれば満足そうに倒れた。
慣れない下駄に苦戦しつつ、カランカランと音を響かせて指名された客の元へ向かう。
そこにいたのは、見慣れた黒い着流し姿の男だった。
短い髪に切れ長の双眸。タバコをふかすその姿に、彼の前を通るキャバ嬢たちがチラチラと視線を寄越している。
「……よう、瑠璃」
どのタイミングで声をかけたものかと迷っていたら、向こうから声をかけてきてくれた。
その心地よい低音は間違いなく土方十四郎。
客が知り合いだったことに若干の安堵を抱きつつ、リーフレットは土方の隣に腰を降ろした。
「来てくれたんだ、おにーさん。仕事は?」
「半日だけ非番をとってきた。……お前がこうなったのは、まあ、俺にも原因があるわけだしな」
「ぎゃははっ……うん、僕もまさか自分がこういう場所で働く羽目になるとは思ってなかったよ」
お互いに顔を合わせ、彼らはハァと溜息を吐いた。
リーフレットが何故キャバクラで働いているのかというと、その原因は怪盗ふんどし仮面騒動にまで遡る。
ふんどし仮面を捕まえる最中において、リーフレットは強化した強烈な蹴りにより志村邸の壁をぶち抜いていた。
その修理費を妙から請求されたのである。
地雷で荒れた庭の請求までされた時はさすがに反論を考えたが、それでも妙に素敵な笑顔で「テメェ吉原に売りつけるぞこの野郎」と脅されてしまえば頷かざるを得ない。
結果としてリーフレットは、志村邸の庭と家の修理代を稼ぐために妙と同じスナックすまいるで働き始めたのだった。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.93 )
- 日時: 2011/10/19 17:45
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
その可愛らしさと色香を活かし、キャバ嬢として。
十三歳を雇う店側もどうかと思うが、しかしそこは彼自身も自負する愛らしい顔立ちでどうにかなったらしい。
あるいは志村妙のオススメという肩書きが利いたのか。
なんにしろ、囮作戦のときにリーフレットを推してしまったのは土方だ。
ならば彼がこうなった原因の一端も自分にあると考え、土方はこうしてスナックすまいるに足しげく通っているのだ。
「初めて見た時は優しそうなおねーさんだと思ったけど、やっぱり人を見た目で判断しちゃいけねーや。あのおねーさん総悟なんかよりよっぽど鬼畜だぜ」
「近藤さんも毎日のように自業自得でボコられてるからな。……つーか待て、お前いま総悟って言ったよな? いつの間に名前を呼び捨てするような仲になった」
「ぎゃははっ。こないだおにーさんと一緒に酒飲んだ後、大浴場でバッタリ出くわしちゃってさー。誰かを呪う方法を聞かれたから教えたらそう呼んでもいいって言われたよんっ?」
「確実に呪う相手俺じゃねーか!! つーか死ぬの? マジモンの魔術師から教わった呪いとか使われたら俺死ぬしかないの!?」
喚く土方に、リーフレットはぎゃははっ、といつも通りの笑みを浮かべた。
「だいじょーぶだって。総悟に教えた呪い、夏場の水虫が治りにくくなるとかそんなんだし」
「……いや、それも地味に嫌だろ」
ハァ、と再び溜息を吐く土方。
そしてなにか躊躇うようにちらっとリーフレットを見た後、酒の入ったグラスに視線を向けてポツリと呟く。
「あのさ……その『おにーさん』って、なんか他人行儀じゃねェか? 一緒に酒飲んだ仲だってーのに」
土方の呟きに、リーフレットは笑い声を収めてそちらを向いた。
グラスを向いている彼の視線と、リーフレットの視線はかち合わない。
「だから、まー、その……あのな。総悟が総悟なら、俺も十四郎でいいぜ」
顔をあげる土方。
よほど恥ずかしいのか、その目はリーフレットの方を向いていないが、心なし顔が赤らんでいた。
酒のせいなのか、それとも……。
数秒の間きょとんとしていたリーフレットは、彼の発言に愛らしい笑みを浮かべ、グラスに酒を注いだ。
「おう。よろしく、十四郎」
——こうして真選組副長と異世界からの魔術師は、その間にある距離を徐々に詰めていくのだった。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.94 )
- 日時: 2011/10/19 19:30
- 名前: ぬこ ◆xEZFdUOczc (ID: DVd8EX6H)
うはぁぁぁぁぁ///←
リーフレット君きたあああ!
夏場の水虫w困りますねそれwとか言っておいて水虫未経験者です^p^
どこをどうやったら日本人の名前になるかわからなくて5分くらい画面とにらめっこしてました←
結局お母さんに聞いて解決しましたよ(オイ
アニホとミシンのローマ字表記後何かを……と言う方がさっぱりでした^p^;
頭悪いなぁ、私orz
光合成w
気孔とか孔辺細胞とかもうばっちりですよ!←
まだ10も更新していなく本編にも突入してませんけど聞いちゃいます?w
オオカミと嘘吐き姫。というタイトルだったと思います、多分(
うあー、土方さん可愛い←
ニコ中のマヨラーも捨てたもんじゃないですね(失礼
続き楽しみにしてます!
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.95 )
- 日時: 2011/10/20 18:26
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
>>94 ぬこ様
やっと第四話までいけましたよ!
さっ、次は第五話を投稿しないと←勉強しろ
水虫は、記憶にないんですが幼稚園に入る前に一度だけあったそうですww
ナイスですお母様!((
でもせっかく分かって頂けた実名も、そのうち苗字が変わる可能性が大なんですけどねー……ちなみに前の苗字は芦川でその前の苗字は日浦でそのさらに前の苗字が支倉でしたお(`・ω・)←どうでもいい情報
大丈夫ですよ、私も中学三年生の受験生なくせに偏差値そんなに高くないですからww
そういえば、ぬこ様っておいくつですか?
もし高校生だったらこの哀れな受験生めにアドバイスを!←
あそこら辺はめちゃくちゃ分かりやすかったですよねww
逆に苦手な分野は地理です(´・ω・)
ふっふっふ……さっそくコメントしてきましたよ!←
普段デレない人がデレるとキュンキュンきますよね(笑)
はい、更新がんばりますね!
でも実力テストと期末テストが待ち構えている……orz
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.96 )
- 日時: 2011/10/20 18:29
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
第五話(1)『和の祭に洋の姫』
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.97 )
- 日時: 2011/10/20 18:31
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
「祭……ですか?」
銀細工のごとく鮮やかな光を反射する銀色の髪に、宝石を思わす蒼玉の瞳。
陶器のごとく汚れのない純白の肌に、精巧なガラス細工を思わす整った顔立ち。
出会ったころは人形と見間違うほど変化のなかった表情には、僅かながらも何かに期待するような色が浮かんでいる。
本日の服装は隊士にプレゼントされた薄紫のティアードワンピース。
エスペランサ・アーノルドのその声に、坂田銀時は嬉々として答えた。
「ああ。三日後にターミナルで、鎖国解禁二十周年の祭典があるらしいんだ。よかったら行かねェか?」
「良いですが……私、浴衣なんざ持ってねぇですよ?」
エスペランサが、困ったようにちらりと和室を垣間見る。
現在エスペランサが使っている和室のクローゼット。
その中には隊士からプレゼントされた大量のドレスやワンピース——どれも数十万から数百万はするブランド物ばかり——が収められているのだが、しかし和装の類は一つもない。
前に貰った黒地に金糸の刺繍が入った着物ならハンガーで壁にかけられている。
しかしあれは数千万円もする高級品だ。
祭などという、下手をすればソースの付着や転倒によるダメージも考えられる場所に、あんな値の張るものを着用して行くのは危険すぎる。
……あくまでそれは銀時の考えで、常日頃から億単位での贈り物をされてきたエスペランサは金銭感覚が麻痺しているのだが。
彼女は男から貢がれるのが当たり前なのだ。
それでもこういう反応をとったのは、貰い物を汚したら申し訳ないと思っているからだろう。
「浴衣なァ……そういや、お前のクローゼットに洋服以外が入ってんの見たことねェわ」
ガシガシと後ろ髪を掻く銀時。
しかしよくよく考えてみれば、自分も浴衣なんて一着も持っていない。
神楽だってチャイナドレスを何枚か持っているだけで、新八に至ってはあの青と白の袴姿以外を見た記憶がなかった。
(……あれ、俺らも浴衣とか無くね?)
別に、祭は必ず浴衣で行かなければならないというわけでもないだろう。
だがしかし。
ここで自分や神楽たちが浴衣を着ずに祭に行くと言えば、エスペランサも普段着の洋装で祭に出向くだろう。
そうなれば、自分はエスペランサの浴衣姿が見られる貴重な日を逃すことになるのだ。
綺麗な銀髪、深海の双眸、純白の柔肌、華奢な四肢。
この人形のような容姿の彼女に色々な格好をさせてみたくなるのはもはや生き物として仕方がない本能と言えよう。
なにより彼女は美しすぎる。
最上級の美少女の浴衣姿など、滅多にお目にかかれるものではないのだ。
是が非でも見たい。超見たい。死んでも見たい。
そのためには、エスペランサの分のみならず自分たちも浴衣を手に入れねばならない。
そしてさらにそのためには、浴衣を手に入れるための金が必要だ。
そこまで考えたところで、銀時はふと一つの依頼があったことを思い出した。
色々と恩があるお登勢からの依頼。
内容はたしか、騒音被害を解決してくれというものだったか。
それさえ遂行すれば全員分の浴衣を買う金が手に入るかもしれない。
「浴衣なら俺に任せとけ。近所の呉服屋で買ってきてやるからよ」
取らぬ狸の皮算用。
まだ手に入ったわけでもない金で浴衣を買う算段を立てつつ、銀時はそう胸を張るのだった。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.98 )
- 日時: 2011/10/20 18:33
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
* * *
「祭? へぇ、そんなのあるって知らなかった」
柔らかなココア色の髪に、そこから放たれる蕩けそうに甘い香り。
健康的な肌は乳液を含ませたコットンのような乳白色。
ここ数日ですかりキャバ嬢が板についたリーフレットは、隣に座っている男に酒を注ぎながらそう答えた。
「はい。三日後にあるんだけど……良かったら瑠璃ちゃん、俺と一緒に行かない?」
いかにもブランド品ですといったスーツに身を包んだ青年の客は、リーフレットに熱の篭った眼差しを向けて両手を掴んできた。
その勢いに、リーフレットは引き攣ったような苦笑いを浮かべた。
この客は自分が働き始めた初日から自分ばかり指名している。
そのたびに高そうな香水やら時計やらを贈られるので、仕事仲間であるキャバ嬢たちからは「いいカモができたじゃない」と羨ましがられていた。
別に自分はブランド物が欲しくてキャバ嬢をやっているわけではない。
ただ志村邸の修理費を稼ぐために働いているのだ。
だから店のナンバーワン争いだとかそういったことに興味はないのだが、たまに何人かのキャバ嬢から嫌がらせを受けたりもする。
それを心配され「気にしていない」と話すと、それがまた客に好感を得てさらに客が増え、そしてまた嫌がらせを受け——という無限ループに最近は陥っている。
(この世界じゃ僕はあまり嫌われてないって思ってたけど……万事屋のおにーさんとか真選組の皆が優しかっただけか)
女の嫉妬は恐ろしい。
よく聞くその言葉を改めて身に刻みつつ、リーフレットは客に向かって悲しそうな表情を作った。
「ごめんね、おにーさん。僕その日も働かなくちゃいけないから行けないや……おにーさんだけでも楽しんできて?」
いかにも“可憐な乙女”といったその様子に、男がだらしなく鼻の下を伸ばすのがわかる。
ついでに子猫が甘えるように身を摺り寄せればもう完璧だ。
上目遣いがちに潤んだ瞳で見つめられ慌てて男はだらしない表情のままに慰めの言葉を吐き出す。
「いやっ、ダメなら全然いいんだよ! そうだよね、瑠璃ちゃん忙しいもんね……そういえば今日もプレゼントがあるんだよ」
なんの脈絡もなく切り出してくる客に、リーフレットは「またか」と内心溜息をこぼした。
女はプレゼントを渡しておけば落ちるとばかりに、この客は毎日高価なプレゼントを渡していく。
しかもそれがよりにもよって身につけるものばかり。
貰った手前つけなければいけないとリーフレットが貰ったばかりのかんざしを挿したり帯を巻いたりすれば、喜んでいると勘違いした男はまた次の日もプレゼントを持ってくるのだ。
「はい、これ。瑠璃ちゃんに似合うと思って」
大袈裟にラッピングされた箱が渡される。
「ありがと、おにーさん」と営業スマイルを浮かべて箱を開けば、中に入っていたのは着物だった。
白地に金糸で刺繍なんて入っているせいか、どこか成金趣味のティーカップを思わせる。
しかし造りは一流の職人が手掛けているらしく、手触りから絹の光沢、さらには裁縫の精密さまで完璧だ。
リーフレットは、この着物を雑誌で見たことがあった。
ブランド名は『舞夢舞夢』。
派手で豪奢な振袖から前衛的なウエディングドレスまで、それが服ならばどのようなジャンルであろうと取り扱っているファッションブランドのトップ。
その舞夢舞夢が今年の目玉商品として打ち出した商品の一つがこれだ。
黒地に金糸の刺繍が施されたものが『黒蝶』、白地に金糸の刺繍が施されたものが『白蝶』。
安易なネーミングセンスながらそのお値段は驚きの三千万円。
『セレブと名乗るならこれを着ろ!』というキャッチフレーズと共に売り出されたそれは値段に反し富裕層に対して予想外の売り上げを見せ、今の時期に手に入れるのは発売当初より困難なはずだ。
それを手に入れて、しかもプレゼントに持ってくるとは、どうやら“金持ってそう”程度に思っていたこの客はかなりの大富豪らしい。
「どうかな……気に入ってくれた?」
ニコニコと嬉しそうにこちらを見る客に、リーフレットは思わず固まった後、なんとか営業スマイルを返した。
まさかここまでのものを贈ってくるとは。
さて、ここからどうやってこの人に帰って頂こうか……などと策を巡らせていたら、客は時計を見てハッとしたように立ち上がる。
その焦りようを見るに、どうやら何か大事なものの時間が近付いているらしい。
心の底から申し訳なさそうな表情を浮かべて、客はリーフレットに頭を下げてきた。
「ごめんね瑠璃ちゃん、今日は大切な会議があるからもう行かないと。また明日も来るからね!」
これまた高そうなトランクを片手に、バタバタと立ち去っていく客。
揺れる黒いスーツの端を見て、何故か思い出したのは切れ長の双眸をした一人の男だった。
「祭かぁ……十四郎でも、誘ってみようかな」
クスリと楽しそうに笑って、リーフレットは新しい客の元へと向かった。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.99 )
- 日時: 2011/10/20 18:34
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
* * *
リーフレットが土方を祭に誘おうかと悩んでいたその頃。
真選組屯所内では、むさ苦しい雰囲気で会議が行われていた。
「いいか。祭の当日は真選組総出で将軍の護衛につくことになる。将軍にかすり傷一つでもつこうものなら俺達全員の首が飛ぶぜ。そのへん心してかかれ」
珍しく正座で真面目に話を聞いている隊士たちに向かって、真剣な表情の土方。
「間違いなく攘夷派の浪士どもも動く。とにかくキナくせー野郎を見つけたら迷わずブった斬れ。俺が責任をとる」
この日ばかりはいつも土方に突っかかっている沖田も真面目に話を……
「マジですかィ土方さん……俺ァどうにも鼻が利かねーんで、侍見つけたらかたっぱしから叩き斬りまさァ。頼みますぜ」
「オーイみんな、さっき言ったことはナシの方向で」
……聞いているわけもなく、いつも通りの調子で土方に楯突いていた。
コホンッと咳払いをし、気を取り直す。
「……それからコイツはまだ未確認の情報なんだが、江戸にとんでもねェ野郎が来てるって情報があるんだ」
「とんでもねー奴? 一体誰でェ。桂の野郎は最近おとなしくしてるし」
その“とんでもねェ奴”に対する興味が湧いたのか、改めて姿勢を戻す沖田。
そんな沖田を尻目にタバコの煙を吐き出しつつ土方は答えた。
「以前、料亭で会談をしていた幕吏十数人が皆殺しにされた事件があったろう。あらぁ奴の仕業よ。
攘夷浪士の中で最も過激で最も危険な男……高杉晋助のな」
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.100 )
- 日時: 2011/10/20 18:36
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
* * *
——そしてさらに同時刻。
とある橋の上で、二人の男が出会っていた。
片や艶やかな黒髪を腰まで伸ばした線の細い美青年。
片や派手で毒々しい着物を着た妖しげな雰囲気の男。
そのどちらもが笠を被っていることから、顔がバレると危い人間であることがわかる。
道行く人々に聞こえない程度の声量で、彼らは話していた。
「なんで貴様がここにいる? 幕府の追跡を逃れて、京に身をひそめていると聞いたが」
長髪の男——桂小太郎は、隣でキセルを加えた男にそう疑問を投げかける。
対し、女物と思しき着流し姿の男——高杉晋助は、面白そうに答えた。
「祭があるって聞いてよォ。いてもたってもいられなくなって来ちまったよ。……それに、また会いたい女がいてな」
脳裏に思い浮かべるのは、自分が初めて心から見惚れた一人の少女の姿。
綺麗な銀色をした髪に、整いすぎたこれまた綺麗な顔立ち。
体つきも酷く華奢で、声は水晶を打ち鳴らしたように美しい。
宝石も色褪せてみえる蒼玉の瞳には暗い影が揺れており、その鬱々しさがなおのこと彼女の魅力を引き立てる。
その身に纏うは、袖や裾を真っ白なフリルで飾った漆黒のドレス。
もしも神が『この世で一番美しいモノを持って来い』と天使に命じたら、天使は一秒も迷うことなく彼女を選ぶだろう。
それほどまでに美しい少女だった。
彼女が手に入るならばその瞬間に死んでもいいと、彼女を見たことのある全ての男が思っているはずだ。
「ほう、貴様が女子に熱を入れるとは珍しいな……吉原の太夫か?」
「ククッ、金さえ積んで手に入る女なら苦労はしねェんだがな……いま話題の『真選組の姫君』さ。テメェも新聞記事に出てた写真くらいなら見たことあるだろ?」
言われて、桂は高杉の想い人がエスペランサであることに気付いた。
新聞記事の写真もなにも、彼は数日前に彼女と直接対面している。
たしかにあれほど神秘的な少女なら高杉が手に入れたくなるのも無理はないだろう。
「……意外だな、お前はもっと成熟した女子が好みだと思っていたが」
会ったことがあるとはあえて言わずに、呆れたような素振りを返す。
言ってはならない理由もないのだが、何故か言うのが憚られた。
桂の発した言葉に、高杉はその艶のある笑みをさらに深める。
「好みなんざ関係ねェ。アイツはこの世の何より美しい。そして俺が欲しいと思った。だから手に入れる……それだけだ」
「相手の意思は関係ないと?」
聞いておいて、そんなものをこいつは微塵も尊重しないだろうと、桂自身が一番よく思っていた。
壊したいと思ったものは壊す、欲しいと思ったものは手に入れる。
それが高杉晋助という男だ。
「……よもや貴様。祭に何か仕掛けた挙句、桔梗殿にまで手を出すつもりか?」
桂小太郎からの質問に高杉晋助は答えない。
ただ、肯定するように口の端を歪めた。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.101 )
- 日時: 2011/10/20 18:40
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
第五話(2)『かくして祭がやって来る』
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.102 )
- 日時: 2011/10/20 18:41
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
万事屋の一角にある清潔な和室の中、豪華な衣装を纏った等身大のアンティークドールが仰向けに寝転がっている。
鮮やかな碧のドレスは極上の絹だろう。
繊細な刺繍が施され、ふんわりと広がる裾はトーションレースで縁取られている。
極細の銀糸のような長い髪は、まるでほどけた天女の羽衣。
白く透き通った頬はすべらかで、見開かれたブルーサファイアの瞳だけが、人の心をかき乱すような陰鬱な影を孕んでいた。
周囲には、高価なドレスが何着も畳まぬまま置き忘れられ、色とりどりのリボン、ヘッドドレス、ボンネットが無造作に散らばっている。
まるで、たた今まで、ここで誰かが着替えをしていたように——。
ふいに、アンティークドールの淡く色づいた唇が開く。
そして、
「駄目です……坂田さんの好みなんざ分かりやがりません」
同じ人間のものとは思えない天使のような美声が漏れた。
それから、何を思ったか、アンティークドールと見紛う少女エスペランサは、ずるずると近くにあったドレスを引き寄せていき、やがてそれで顔を覆うと、
「そもそも、男性の嗜好って何だっつーんですか……」
シルクのドレスに隠れて僅かに愚痴った。
事の始まりは三日前。
あれから『仕事に行ってくる』と書かれたメモだけを残してどこかに向かった万事屋一行とハルピュイアは、それからエスペランサだけを万事屋に残し今日まで帰って来ていなかった。
食事はあらかじめ連絡をしていたらしくわざわざ真選組の隊士たちが作りに来てくれたが(趣味を料理にしていて本当に良かったと、何故か物凄く嬉しそうに泣いていた)、それ以外では誰とも会話をしていない。
しかしこれだけではドレスの散乱した部屋で困っている理由にはならないだろう。
こうなった原因は、料理を作ってくれた隊士が帰り際に残した何気ない一言だ。
——「そういえば、万事屋の旦那ってどんな服装が好きなんでしょうね?」——
聞かれてみれば、自分にも分からなかった。
神楽に手を出していない辺りからチャイナドレス趣味ではないだろうし、普通の和装の女ならそこら辺にたくさんいる。
ならば彼は、一体どのような服装の女が好きなのだろう?
「お前を幸せにさせてくれ」と真剣な眼差しを向けてきた銀時。
そんな銀時に対し、エスペランサも無自覚ながら好意を持っていた。
だから彼が家を空けている間に彼の好きそうな服装を考えてみたのだが、結局わからずに室内にドレスが散らばるという結果に陥ったのだ。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.103 )
- 日時: 2011/10/20 18:47
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
「まず、坂田さんがドレス好きかどうかも分かんねーんですけどね……」
吐かれた溜息に重なるようにして、ピンポーン、と機械的なチャイムの音が響いてきた。
どうやら誰かが来たらしい。
慌ててドレスの海から起き上がり玄関に向かうと、開けた扉の向こうにいたのは見知った少年だった。
「やっふぃー。なあなあ桔梗、今日って時間あったりしちゃう感じぃ?」
小悪魔的な笑顔と無邪気な色気を身に纏う、ココア色の髪と瞳が愛らしい少年——否、あまり変化が無いから分かり辛いが今は少女か。
仕事帰りらしくポップなデザインのかんざしを挿した彼女は、彼女にしては珍しい白地の着物姿だ。
意匠を凝らした金糸の刺繍が雅やかな一品。
彼女の趣味に反しているからきっと貰い物なのだろう。
カラーリングを黒に変えれば、前にエスペランサが隊士たちからプレゼントされたものと同じだった。
暇かと聞かれて脳裏を過るのは、銀時から貰った祭への誘い。
しかし三日も帰ってこない彼だ。
もしかしたら忘れているのかもしれない。
ならば予定を組んでしまっても良いだろうと、エスペランサは予定はないと返した。
するとリーフレットは、その言葉を待っていましたとばかりに語り始める。
「んじゃさ、僕と一緒に祭とか行っちゃわねー? ……本当は十四郎誘って行くつもりだったけど仕事らしいし」
ボソッと呟かれたリーフレットの言葉に、エスペランサは二重の意味で驚いた。
リーフレットが祭に誘おうとしたほど土方と親密だったとは。
というか、いつから“十四郎”などと呼ぶようになったのか。
「リーフレット……その、十四郎というのは……」
何故か口ごもるエスペランサ。
そんな反応に、逆にリーフレットがビックリしたような表情を浮かべた。
「え……桔梗、白髪のおにーさんのこと銀時って呼んでねーの?」
「……坂田さんと呼んでいますが」
「……マジで?」
信じられないとでも言いたげな眼差しを向けてくるリーフレット。
しかし仕方がないことなのだ。
星の数ほどの男にお姫様扱いどころか女神様扱いされているエスペランサだが、告白された経験というものはないし、それゆえ誰かと付き合った経験もない。
女神の美しさを崇拝する男がいても、女神に結婚して下さいと言える勇気がある男は滅多にいないのと同じだ。
綺麗すぎると告白なんてされない。
だから恋愛経験ゼロのエスペランサは非常に奥手である。
幼稚園児よりも奥手である。
「うっわー、おにーさん可哀想すぎるじゃんそれ……あきらかに桔梗にベタ惚れなのにさ」
今はここにいない銀時に同情するように溜息を吐くリーフレット。
愛らしい少女の見た目でその動作は、妙に艶めいて見えた。
「ベタ惚れって……娘に対する愛情みてぇなもんでしょう」
「いや、そっちの方がねーって。桔梗と話してる僕に向けられたおにーさんの視線、穴が開きそうなくらい嫉妬深かったもん」
「女だか男だか曖昧なリーフレットに嫉妬しやがるほど、坂田さんも暇じゃねーはずですよ」
「……あっ、おにーさんが僕に嫉妬してる原因はっけーん」
急に何か思い浮かんだように笑うリーフレットに、怪訝そうな眼差しを向ける。
何を言いたいのだろうか。
「桔梗、僕のことは名前で呼んでるのにおにーさんは苗字呼びじゃん? 多分それが理由」
「名前……ですか」
ビシッと突きつけられた指に、困惑気味に返すエスペランサ。
それを意に介す様子もなくリーフレットからこんな提案が飛び出た。
「向こうも桔梗って言ってんだし、そっちも銀時って呼んであげちゃったらどーよ?」
リーフレットからの言葉に、エスペランサは顔を真っ赤にして沈黙した。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.104 )
- 日時: 2011/10/20 18:50
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
* * *
——その頃、三日も万事屋をあけていた銀時たちはと言えば、平賀源外という発明家の下でのからくり修理を終えていた。
ここに至るまでに色々な苦労や騒動があったりしたのだが、それは時間の都合により割愛する。
「あー……もう夕方じゃねーか。祭始まっちまってんじゃねーの?」
「桔梗さん、もしかしたら一人で行っちゃってるかもしれませんね」
夕日の落ち始めた空を仰ぎ呟く銀時に、残念そうに反応する新八。
その後ろでは、神楽とハルピュイアが源外に文句を言っていた。
『せっかく桔梗と一緒に祭に行く予定だったのに、どうしてくれるだっちゃか!』
「そうアル! 全員分の浴衣買うって予定も台無しネ!」
「ケッ……もともとてめーらが来なきゃこんな手間はかからなかったんだよ。余計なことばかりしやがってこのスットコドッコイが」
詰め寄る二人に、源外はガチャガチャとからくりを弄りながら言い返す。
それにさらに反応して言い返してくる神楽とハルピュイア。
そこに銀時も混ざり始めたところでさすがに鬱陶しくなったのだろう。
小銭の大量に入った巾着袋を万事屋メンバーに投げつけて、源外は再び作業に戻った。
「……最後のメンテナンスがあんだよ。邪魔だから祭でもどこでも行ってこい」
年老いた彼らしい、素直ではない労いの言葉。
一気に表情を明るくした万事屋メンバーは、源外に手を振って駆け出した。
「ありがとう平賀さん!」
「銀ちゃん早く早く!」
『置いていくっちゃよ坂田!』
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.105 )
- 日時: 2011/10/20 18:52
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
* * *
「……すいません、この近くで木刀を持った白髪頭の男性を見かけやがりませんでしたか?」
祭の会場で歩いていた男は、可憐な少女の声に思わず振り向いた。
そしてそこで、今まで見てきた何よりも素晴らしい少女を見ることになる。
その少女の容姿は神を欺くほどに美しかった。
絹糸のような銀髪は背を覆うほど長く煌き、肌は陶磁器の白さだ。
暖かみを感じさせない冷涼な佇まい、桃色の唇が幻想的に光る。
蒼い瞳の双眸が見る者を刺してくる。
一度見たら最後、吸い寄せられ魂を奪われる危惧さえ感じられる。
王宮で着るような絢爛なドレス。
それは並の女ならば服に着られているような印象を与えてしまうのだろうが、生まれつきの王女くらいしか着こなせそうにないそれを、その少女は自然に纏っていた。
「……あの、聞いてやがりますか?」
その問いかけに、少女の容姿、声、オーラ、全てに魅了されていた男はやっと我に返った。
慌ててポケットに突っ込んでいた手を外に出し、姿勢を正す。
「ぼ、木刀を持った白髪頭ですか?」
意識するまでもなく言葉遣いが丁寧になる。
気を抜けば跪いてしまいそうだ。
これ以上ないというほどの美貌を前にして、まるで女神を前にしたように緊張が止まらない。
でも何も答えなくてこの美少女の気分を悪くするわけにもいかず、必死に該当者を思い浮かべた。
木刀、白髪頭。
自分の知り合いに完璧な該当者が一人いる。
「もしかして……万事屋の坂田銀時のことですか? あいつならさっき、ここら辺の近くで見かけました」
死んだ魚のような目をした天然パーマを思い浮かべてそう言う。
どうやら正解だったらしく、美少女からわずかに嬉しそうな反応が返ってきた。
次いでお礼と共に名前を聞かれたので、こんなに美しい人に自分なんかが名乗ってもいいのかとやや悩みつつ、彼は素直に言った。
「長谷川泰三って言います」
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.106 )
- 日時: 2011/10/20 18:55
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
* * *
「あ、あれ桔梗じゃないアルか?」
神楽が指差した先では。
陶磁器のように白い肌と極上のシルクの手触りがしそうな純銀の髪を持ち、海よりも深い瞳に退廃的な影を揺らした、信じられないほど整った美貌を持った少女が、屋台で射的をやっていた。
服装は、中世のお姫様もびっくりの豪華さを誇るロングドレス。
射的の屋台が似合わなさすぎるその姿は間違いなくエスペランサだ。
何やら射的に苦戦しているらしかった彼女もこちらに気付いたのか、目が合うとやっと見つけたとばかりに安堵の息を漏らした。
こちらも急いで走り寄る。
見れば、射的の屋台をやっている男は知り合いだった。
「あ、おじちゃんだ」
びしりと神楽が男の顔を指差す。
そこそこ良いメーカーっぽいサングラスに、特に整っても崩れてもいない顔。
そして体中から迸るまるでダメな男のオーラ。
幕府にリストラされてから一気に怠惰の道を走っている、長谷川泰三その人である。
通称『マダオ』と呼ばれる長谷川さんは神楽を見た瞬間に顔をしかめると、げっ、なんて小さなうめき声を漏らした。
それはまるで、貧乏人が借金取りに会った時のような形相で。
「激辛チャイナ娘……あれ、二人ともこの綺麗な子の知り合いなの?」
いまだに一つも景品を落とせていないエスペランサを指差す長谷川。
その問いかけに、神楽は何故か誇らしげに答えた。
「うちの居候で斑鳩桔梗アル!」
「姫姉様なんてアダ名もあるんですけどね。というか長谷川さん、なんで桔梗さんと一緒にいるんですか?」
もっともな疑問を投げかける新八。
長谷川は嗚呼、と思い返すように答えた。
「さっき白髪頭で木刀持った男を知らないかって話しかけられてな。で、なんか一緒に来た女の子とも途中ではぐれたみたいだから、知り合いが通りかかるまでうちで暇でも潰さないかって誘ったんだ」
「一緒に来た女の子……?」
「リーフレットですよ。何故か道中で見知らぬ男性方に話しかけられやがってたので、すぐ来やがるだろうと思って進んだらいつの間にか一人になっていました。……坂田さんを探そうと言い出したのは、あっちなんですがね」
エスペランサの話を聞いて「それはナンパっていうんですよ」などと苦笑しつつ、新八はなるほどと頷いた。
エスペランサの美貌は近寄りがたいが、彼の美貌はむしろお近づきになりたくなるタイプだ。
祭なんて浮かれた場で歩いていたらそりゃナンパの対象くらいにはなるだろう
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.107 )
- 日時: 2011/10/20 19:00
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
「……あれ、桔梗じゃねェですかィ」
声と共に射的の屋台を訪れたのは、沖田総悟だった。
ミルクティーのような髪色に爽やかな顔立ち。
しかしその内に秘めるのはサディスティック星王子と称されるほどの嗜虐性という彼は、祭の会場にいるにも関わらず相変わらずの隊服姿だった。
仕事中なのだろうか。
それにしては、左手に焼きイカを持っていたりと祭をエンジョイしている雰囲気も出しているのだが。
「沖田さん……今日も仕事してやがるんですね、毎日ご苦労様です」
こちらも相変わらずの乱雑な敬語で頭を下げる桔梗。
沖田も江戸っ子口調なので、変なのはお互い様だ。
「まあ、基本的に幕臣にゃ休みは少ないんでさァ。つーか、あのショッキングピンクは一緒じゃないんですかィ?」
ショッキングピンク、イコール、ハルピュイア。
沖田からの質問にそう脳内で方程式を導き出す。
「ハルピュイアさんは銀さん達と一緒に飲んでますよ。酔っ払いを二人きりにできないなんて言って残る限り、あの人も大概お人よしですよね」
「複数形って事は、ぎ、銀と……坂田さんはハルピュイア以外の誰かとも一緒にいやがるんですか?」
「ええ、仕事の依頼人だった平賀源外さんって方です」
なんで銀さんの名前で詰まったのだろうと不思議に思いつつも、素直に答える新八。
桔梗の表情がうっすらと恥ずかしそうに見えるのは気のせいだろうか。
そんな桔梗の様子を見てこれまた何故か不機嫌になっている沖田が、腹いせとばかりに長谷川の腕時計を弾丸で打ち抜いた。
もちろん実弾ではなく射的用のゴム弾である。
屋台に置いてあった射的用の銃を使ったのだ。
「サドが射的やるなら、私にだってやらせるネ!」
そこに何故か神楽も便乗し、長谷川のシンボルマークとも言えるサングラスを撃ち抜く。
うろたえる長谷川。
そんな長谷川の様子を顧みることなく、銀時への嫉妬によるストレスを発散する沖田とそれに張り合う神楽は、謎の雄叫びと共に長谷川のパーツを撃ち続けるのだった。
ちなみにエスペランサは、やはり一つも景品をとれていなかった。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.108 )
- 日時: 2011/10/20 19:02
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: WPbx8B95)
* * *
『……行かせて良かったんだっちゃか? 坂田。あのジジイ、なんか思い詰めてそうな顔してたっちゃよ』
安い日本酒の入ったとっくりをグイッと一飲みして、ハルピュイアは隣で同じ安酒を飲んでいる坂田銀時に窺うような視線を向けた。
場所は祭会場の片隅にある庶民臭い居酒屋のような屋台。
近くに焼き鳥や焼きトウモロコシの屋台も並ぶそこは、子供よりも老人や中年の割合が極めて高い場所だった。
そんな場所では——そんな場所でなくとも非常に浮いてしまうショッキングピンクな彼女からの言葉に、銀時はタレのよく染み込んだ焼き鳥を頬張る。
「あの手の奴ァ、口で言っても聞きやしねーのさ。いざ何かしやがったら実力行使で止めてやる」
『……確かにお前は、口先でべらべら説教するよりも馬鹿ヅラ下げて暴れまわってる方がお似合いだっちゃよ』
「あれ、俺褒められてるの? 馬鹿にされてるの?」
『もちろん両方だっちゃ』
「なんかやっぱり、お前って俺に対する扱いだけ冷たいよなァ……」
銀さん泣いちゃいそう、とおどけ、安酒を飲み干す銀時。
酒に慣れていないハルピュイアが赤らんだ顔をしているのに対し、彼は素面のままだった。
祭の喧騒が響く会場内。
そこを何か大切なもののように見渡して、銀時は言った。
「道を踏み外した奴がいたら元の道に引き上げりゃあいい。清濁併せ呑むこの町は、きっとどんな奴でも歓迎するだろうさ」
それを聞いて、ハルピュイアは呆れ半分に笑う。
魔法使いや魔術師までも受け入れたこの町だ。
一度道を踏み外したものくらい、しつこいくらいの騒がしさで、この町は再び歓迎してくれるのだろう。
そんなこの町に生きるこんな男だからこそ、こうして自分は信頼を寄せているのだから。
『坂田のそういう所が……』
エスペランサの相手として認める程度には好きで。
エスペランサといる彼に嫉妬してしまうくらいには嫌いだ。
例えるなら、娘を知らない男に取られた母のような気分だろうか。
心中で認めつつも心外で認めきれない。
だからついつい冷たく当たってしまう。
……けれどもそれは、彼への信頼の裏返しだ。
ハルピュイアは、坂田銀時という男の人間性を信頼していた。
だから彼が酒の席から立ち上がった時は何も聞かず。
ゆるみきった雰囲気を放ち、しかし死んだ魚のような目に光を灯した、ゆっくり去っていく彼の背中に、ひらひらと軽く手を振った。
『——そういう所が、応援したくなったりするんだっちゃよ』
自然と人を引き込む彼の空気。
その残り香が後を引く酒場で、彼女は笑みを浮かべた。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.109 )
- 日時: 2011/10/20 21:36
- 名前: ぬこ ◆xEZFdUOczc (ID: DVd8EX6H)
こんばんわー!
支倉ですか!
初めて聞きます!
何かどれもかっこいい名字ばっかりで羨ましいです^p^
私の苗字は田がつくので何か嫌です(どうでもいい
すいません、2つ年下の中1生なのですw
テスト勉強も2日、3日前で上位無理矢理強奪する人なのです(勉強しろ
授業中もノート取らないで絵ばっかり書いてる人なのです(勉強しろ!
期末にノート提出なので友達から借りて写さないとまずい状況ですorz
テスト勉強すらまともに出来ない人ですから受験となるとノイローゼで死んじゃいそうです←
うわあ、コメ有難うございます!
偉大な方にコメ頂けるとは……!
嬉しすぎて死ねますよ!←
ギャップ萌えですね^p^
私も地理大っきらいですよ!
1年生4月の緯線経線から覚える気ゼロでした←
私は丁度二週間後に学力テストと、更に2週間後に期末がありますよorz
小説、勉強共々頑張りましょう!
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.110 )
- 日時: 2011/10/22 13:25
- 名前: 山茶花 (ID: 44GDRR0m)
お久しぶりですアニホとミシン様あぁぁぁぁーっ!!!
前の掲示板でもファンだった者です、名前変えましたが!((
姫姉様が美しすぎて生きているのが辛い←
ゴシックロリータとドレスを纏った姫姉様に綺麗さと可憐さで敵う存在はいないと思っているくらいに姫姉様が大好きです愛してますむしろ崇拝してます(((
もちろんリーフレットくんもハルさんも大好きなんですけどね(笑)
というかむしろアニホとミシン様が大好きです!
どこまでもいつまでも追いかけて行って永遠のファンでいますので、更新がんばって下さいね!
マジで愛してますアニホとミシン様!
あ、あと、私は姫姉様の綺麗すぎる描写が好きなので姫姉様の描写だけ切り抜いて初めのところに集めて欲しかったりするのですが、OKですか!?
アニホとミシン様の容姿描写マジ神です!
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.111 )
- 日時: 2011/10/23 10:08
- 名前: Sky ◆M7x9jXIufw (ID: a1.gBlqJ)
ハルピュイヤは相変わらずドMだけど、一番マシキャラの様な気がする今日この頃ですwwww
相変わらず姫姉様は美しぜ!!流石私の姫姉様アァァ!!
私の娘とは違ってな!←
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.112 )
- 日時: 2011/10/23 19:19
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: Qh0QXHw.)
>>109 ぬこ様
支倉は「しくら?」とか読み間違えられて訂正が面倒だった記憶しかありませんww
いいじゃないですか、田のつく苗字!
クラスに田之上って子がいて「おお、三文字の苗字ってなんか良いね」とか思ってましたもん(笑)
まさかの無理やりですと!?
上位とかそんなの凄すぎるorz
私もいちおう平均点を下回ったことはないのですが、しかしクラスで一番とかそういうわけでもないですしねー……つーかクラスに偏差値75の怪物がいるんですが((
5教科で496点の化物がいるんですが!((落ち着け
授業態度は「ノートを取るとき以外はまるでマネキンのように動かない」とまで称されたほど良いです(キリッ←褒められてるのか?
そこまで上のランクを狙わなければ大丈夫ですよ!
ちなみに大阪にある学校の最低ランク偏差値32くらいで最高が74とかそこらなんですが、私が目指してるのは60くらいのカトリック系女子高と家から近い公立の高校です!
私に偉大な要素なんて微塵もありませんよ! あれ、自分で言ってなんか悲しくなってきた←
むしろぬこ様から頂いたコメントが嬉しすぎて私のほうがハァハァしてまs((
そのせいで方向音痴さチクショウ!←
でも歴史と公民は得意なのでそこで頑張りまする(´・ω・)
ちなみに体育とか得意だったりします?←
はい、共に頑張りましょう!
>>110 山茶花様
誰か分からないけどお久しぶりですー!!←オイ
というか何人か思い浮かんだんですけど、マジで誰ですか!?
山茶花様なら大丈夫ですよ頑張って生きて下さい!((
むしろドレスか高価なワンピースしか着たことないぜ姫姉様!←
リーフレットとハルピュイアのみならず私にまでラブコールですと!?
嬉しすぎて頭パーンッてなりそうなんですがどうしましょう(´・ω・)←
容姿描写ですか?
この時期は時間がないので、もう少し後でも良ければお引き受けいたします!
>>111 Sky様
なんやかんやでアイツが一番の常識人ですよww
エスペランサはあの一年を除いてお姫様レベルの生活してましたし、リーフレットは家があんな感じでしたから。
それならSky様は私のものという事でよろしいですk((殴
Sky様の娘さんも綺麗です全く問題ありません!
時雨ちゃんと鎖の組み合わせにはむしろ芸術性さえ感じています←
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.113 )
- 日時: 2011/10/23 19:25
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: Qh0QXHw.)
* * *
「なあトシ、本当に良かったのか?」
「……なにが」
「なにがって、リーフレットくんに祭誘われてただろ」
祭会場の中心。
暑苦しい上に堅苦しい制服に身を包んだ近藤と土方は、警備にあたりながらも雑談を繰り広げていた。
近くの舞台上ではおしろいを塗った女たちが舞踊を披露している。
べんべんと奇妙な音を放っている楽器は、琴かなにかだろうか。
近藤からの言葉に、土方はタバコを吸いながら答えた。
「仕事が被ってんだ、しゃーねーだろ。あいつも代わりに桔梗を誘うって言ってたし。それに……」
「それに?」
言葉尻を濁す土方に、近藤はさらに問うた。
「……俺と一緒にいたら、いざという時あいつまで危険な目にあわせちまうだろ」
攘夷浪士に斬られて殉職した隊士もいれば、テロの爆発に巻き込まれて死体すら残らなかった隊士だっている。
彼らは入隊した時から死ぬ覚悟ができていた。
しかし、リーフレットは真選組に居候している身とはいえ、入隊はしていない。
仕事に無関係の彼を傷付けるわけにはいかないのだ。
大切だと思う者が自分の近くにいたら、むしろ大切であれば大切であるほど遠ざけるべきだ。
自分の周りは、いとも簡単に人が傷付く世界なのだから。
それと同じ理由で、かつて一人の女を突き放した。
「つーか、総悟の奴はどこ行きやがったんだ? 山崎の野郎もたこ焼き買いに行ったきり戻って来ねェしよ……」
無理やり話題転換する土方。
その声に被さるようにして、遠くの方から「副長ォォ!」という山崎の声が聞こえてきた。
その手に持っているのはたこ焼きの容器。
「おせーぞ、ちゃんとマヨネーズも付けてもらったんだろうな?」
でもこのタイミングで来てくれて助かった……と内心思いつつ、容器を開ける。
サイズ的には十二個ほど入りそうな容器。
その中には、たこ焼きが三つしか入っていなかった。
しかもそのすき方ですら不自然である。
まるで、誰かが意図的にたこ焼きをいくらか食べたような——。
「——山崎」
「はい!」
「正直に言え、これ喰っただろ」
「いえ、それは途中で転んだんです! 山崎退、一生の不覚……っ!」
青海苔とソースにまみれた口でそうほざく山崎に、土方の右ストレートが炸裂した。
「その口元の青海苔が一生の不覚だボケェェェ!!」
ギャアァァァァ、と会場にこだます山崎の断末魔。
一方的に土方に痛めつけられる山崎の後ろでは、近藤が何故か山崎の買ってきたたこ焼きを食べていた。
緊張感の欠片も見られない。
局長がこんなに呑気だから、副長である自分がこうなってしまったのだ。
「そうカリカリするなよトシ、今日はこれきっとなにも起こらんぞ! ハメはずそーぜ」
子供のような笑顔でそう言う近藤に、土方は胃薬を飲みたい気分になった。
そろそろ薬局に新しいのでも買いにいくかと思案しつつ、言葉を返す。
「なに寝ぼけたこと言ってんだ近藤さん。この会場のどこかに高杉が潜んでるかもしれねーってのに」
高杉晋助。
奴の手にかかって、一体どれだけの幕吏がやられたことか。
最近おこった過激なテロのほぼ全てに奴が関わったと聞くくらいだ。
攘夷浪士を名乗ってはいるが、その思想は攘夷なんてものとは無縁。
まるで騒ぎを起こすことを楽しんでいるかのよう。
そんな祭好きが、将軍も参加しているこの格好の場を見逃すとは思えない。
「お、始まったぞ!」
近藤の楽しそうな声と共に、どーんという豪快な音が響いた。
夜空を見上げてみれば、そこに咲くのは光の大輪。
いわゆる打ち上げ花火というやつだ。
江戸一番のカラクリ技師、平賀源外の見せ物が始まったらしい。
「……リーフレットも、どっかで見てるんだろうな」
呟く土方の横顔を、夜空に打ち上げられた花火が照らした。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.114 )
- 日時: 2011/10/23 19:27
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: Qh0QXHw.)
* * *
「おっ、花火か……綺麗なもんだな」
坂田銀時は、夜空に打ちあがった花火を見てすっと立ち止まった。
ドォン、パァン、と派手な音を鳴らし、空に浮かんでは消えていく色とりどりの花火たち。
その儚き刹那の美を見て、思い出すのは魔法使いの少女。
三日も万事屋の留守を任せてしまった。
もしかすると、彼女もこの会場で花火を見ていたりするのだろうか。
「——やっぱり祭は派手じゃねーと面白くねェな」
背後に突然現れた、感じ慣れた気配。
ドン、と。
今ままでの中で一番大きな花火が、空に打ち上がった。
「動くなよ」
銀時が木刀に手をかけるのよりも、背後の人物が真剣を抜くほうが速かった。
背中に当てられる刃物の感覚。
ちらりと視線を向ければ、毒々しい蝶の舞う女物の着流し姿が見えた。
「ククッ、白夜叉ともあろうものが後ろをとられるとはなァ。銀時ィ、てめェ弱くなったか?」
「……なんでテメーがこんな所にいんだ」
声を聞いてさらに核心が深まった。
高杉晋助。
かつて自分と一緒に学び、戦い、そして道を別れた者。
今は過激派攘夷浪士として名を馳せている彼が、何の用でここにいるのか。
「ククッ、楽しみたい祭にモノにしたいお姫様が来てたもんでなァ……その二つを成し遂げてェのさ」
つまり、祭で騒動を起こしたついでに女に会いに来たということだろうか。
どこまでも自分勝手な奴だ。
意見しようと思わず口を開いたが、そこで背中に添った刃物の感覚がさらに強くなった。
「いいから黙ってみとけよ。すこぶる楽しい見せものが始まるぜ……」
どこか狂的な光を宿した瞳が、壮大な花火を写した。
その方向にいるのは、銀時が止めようとしていた相手。
「——息子を幕府に殺された親父が、カラクリと一緒に敵討ちだ」
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.115 )
- 日時: 2011/10/23 19:28
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: Qh0QXHw.)
* * *
「へぇ……花火ってあーいうやつなんだ。僕、何気に見たの初めてかも」
乳白色の細い手のひらに握られた赤いりんご飴の上を、それよりも赤い舌がぺろりと滑った。
反対側の手にはヨーヨーすくいで取った橙色のヨーヨー。
そのどちらもさっきナンパしてきた男が代金を払ったものだ。
その金を払わせた男も、さっき走って撒いたばかりなのだが。
彼にも彼女にもなれる、今は少女だから彼女と表現すべきその人物——リーフレット・キルケゴール。
途中までエスペランサと一緒だった彼女は、現在一人で祭会場をぶらぶらとしていた。
愛くるしい顔立ちの彼女が歩くたびに周囲から熱を含んだ視線が飛んでくるが、それはスルーしている。
もう特に欲しいものは無い。
金を払わせる必要が無いなら、わざわざナンパに引っかかる必要もないのだから。
「桔梗は万事屋のおにーさんに会えたかねぇ……あーあ、つーか下駄って歩きにくっ。足だけスニーカーで来りゃあ良かったかもだねっ」
漆塗りの下駄に文句を言いつつ、カランカランと優美な音を立てて歩くリーフレット。
その姿は様になっていて、とてもじゃないが歩きにくく感じているようには見えなかった。
色々と入り組んだ事情から故郷では大きな恨みを買っている彼女。
向こうの世界の祭など当然参加できるはずもなく、こうして打ち上がった花火を見るのも初めてだった。
「なんつーか……平和だよな、物凄く」
こうして安穏な空気に浸っていると、自分の本来の目的を忘れそうになる。
逃亡した兄貴がこの世界にいると聞いてやって来たのに。
いつの間にか、この世界を楽しいと感じている自分がいた。
敵意や害意を孕まない視線を、心地よいと感じてしまう、自分がいた。
暖かい人々に触れて——ひょっとしたら自分は許されても良いんじゃないかなんて錯覚を、抱いてしまった。
それでは駄目だ。
父が、母が、祖父が、祖母が、曾祖父が、曾祖母が、さらにその前の代や先祖までもが——犯した罪を、自分は背負っているのだから。
許されてはならない。自分で許す気もない。
許されて良いかもしれないなんて希望ですら、持ってはいけないのに。
今まで貫き通してきたその決意を、来て間もないこの町が崩してゆく。
許されてはいけないのに。
「なぁ、歌舞伎町。お願いだからさ——」
ぎゅっと自分の体を抱きしめて、彼女は眩しそうに見上げた目を細める。
「——これ以上、僕を暖めるなよ」
このぬくもりを受け入れてしまえば、元の冷たさに触れるのが怖くなる。
そうなる前に。
お願いだから、冷たく突き放してくれ。
なんならゴミのように存在そのものを否定して。
そうしてくれれば、きっと自分は元の冷たい世界に耐えられる。
「……十四郎あたりなら、頼めば地獄に突き落としてくれるかな」
自分で言っておいて、彼には無理だろうと思ってしまった。
だって彼は。
こんな自分に好意を寄せてしまうほど、本当は優しい男なのだから。
あの仏頂面に隠した温かみを、自分は知っている。
知っているからこそ、彼は自分なんかに惚れるべきではないと思うのだ。
(願わくば——僕の大好きな十四郎が、僕を大嫌いになってくれますように)
自分の近くにいては綺麗な彼が汚れてしまう。
同じ空の下、お互いがお互いのことを想いあいながら、彼らは別の場所を歩く。
交差しない二人の想いを、ただ花火だけが刹那的に照らした。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.116 )
- 日時: 2011/10/23 20:31
- 名前: リーナ (ID: lTRb9CJl)
初めまして。
突然ですが、質問してもよろしいでしょうか?
冒頭の部分で、>>1プロローグ・・・とありましたよね?
そこをクリックするとその話に画面が切り替わる奴です。
あれ、どうやったらああいう風にできるんですか?
教えてください。
ご回答お待ちしております。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.117 )
- 日時: 2011/10/23 20:52
- 名前: ぬこ ◆xEZFdUOczc (ID: DVd8EX6H)
5教科で496点とかその人多分人間じゃないです←
人間の皮被った神ですよ(
450点にも届かないよおおお((
何か数学が足引っ張るんです(´;ω;`)
女子高ですか!
女子高って怖いイメージしかない←
女子ってこう……陰で悪口言ったりとか幾つかのグループにまとまって群れたりとかするじゃないですか(
そこらへん好きじゃないんですよね^p^;(お前も女子だろ
男子みたいに皆仲良く、が無くて残念です(´・ω・)
どうか息を整えてくださいw
アニホとミシン様は偉大すぎて眩しい位置に君臨している方ですから^p^
私も方向音痴ですよw
デパートとか行って良い服見つけた時、遠くにいる親を呼びにいって見てもらおうと思ったら
その服の場所にたどりつけないっていうw
歴史は先生も楽しいんでw
しょっちゅう脱線するんで(そっちか
体育ダメダメですよw
水泳しか出来ませんw水泳は中体連来年から出てみたら?とか言われましたけど趣味で習ってるだけですからねw
そんなスポーツで青春する気はさらさら無いぜ!(
マット運動とか壊滅的ですw後転できまs((ry
最近3キロ走るマラソン的授業あったんですけど見事に下から5番目(キリッ
何で給水所が無いの((
アニホとミシン様は体育得意ですか?
リーフレット君立ち位置が……。
センチメンタルううう((
土方罪な男^p^←
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.118 )
- 日時: 2011/10/24 15:49
- 名前: 月羽 ◆/tAwKh9e/w (ID: EcIJT88K)
お久しぶりですすすす((←
私の事覚えてくれていればいいなーと思いつつ、顔出してみました!
やっぱり素敵な文章力!
アニホとミシン様、凄すぎます(
姫姉様の美しさに改めて驚きながら更新楽しみにしてます^^
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.119 )
- 日時: 2011/10/25 17:14
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: Qh0QXHw.)
>>116 リーナ様
あっ、質問ですね。お答えさせて頂きます!
リーナさまが>>1みたいなのを使えないのは、恐らく>>1と大きいほうで入力してしまっているからだと思います。
まずキーボードを使って全角から半角に切り替えた後、Shiftキーを押したまま>と入力していたときと同じキーを押して、次はShifeキーを押さずに1のキーをクリックして下さい。
言葉にするとなんか難しいですが、実際にやると簡単です!
分かりにくい説明ですいません(汗)
また分からなかったらじゃんじゃん聞いて下さいね(*^ω^*)
>>117 ぬこ様
しかもお姉さんまで偏差値73の高校に通ってるらしいから、もう溢れ出る劣等感が抑えられないorz
家族ぐるみで成績優秀って何なんだよチクショウ……うちの弟なんて体育以外オール1なのに((
私はどこまでも地理です!
実力テストの失点原因はもう九割が地理ですね←
やっぱり女子高ってそういうイメージあるんですかねー(-o-;)
いかにも『お嬢様』って感じの制服が気に入って志望校にチョイスしたんですが←オイ
重厚感のある黒と濃い赤のセーラー服は夏でも長袖だったり、襟元に十字架をモチーフにした校章が縫われてたり、学校指定の冬用ボックスコートは細工の施された金ボタンがついてたり。
着る人を選ぶようようなデザインなのでスポーツマン体型な私には似合わないでしょうがww
でも併願する公立高校のほうが本命だったり((
むしろ泥沼の底で白米モグモグしてるだけですけど何か(・ω・)←
皆さんは「今のままで充分ですよ!」と言って下さるのですが、やはりまだまだ書きたい話が表現できなかったりするのでレベルアップしていきたいですねー(-ω-)
高校、部活の掛け持ちとかできたら文芸部にも入れるんですがorz
服は弟と兼用で男物を着てますww
デパートとかもう小説くらいしか買った記憶ないですねー……。
ちなみに私の方向音痴レベルは登下校の道を覚えるのに半年かかった程度です(キリッ←
歴史は偉人を脳内でキャラクター化して遊ばせるのが好きですお((
逆に水泳がまったくできません私ww
脂肪が少なくて筋肉が多いので水に浮かない上に、息継ぎの仕方をよく忘れるんですよね((オイ
一時期は体脂肪率1ケタでしたww
マラソンは長距離なら得意です!
百メートル走とかならクソ遅いんですが、マラソン大会の十五キロとかなら先頭集団の陸上部に混じれます(`・ω・)
そんな土方さんが私は大好きですハァハァ^p^←
リーフレットは一人にすると思考が鬱方面にしか行かないよ!((
コメントありがとうございました、更新がんばりますねー!
>>118 月羽様
もちろん覚えてますともっ!!
月羽様会いたかったですよ月羽様hshs((
褒められて伸びるタイプですから(キリッ
すいません調子乗りました嬉しかったんです←
はい、更新がんばりますね!
月羽様も新しい小説とか書いたら教えて下さい!
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.120 )
- 日時: 2011/10/25 17:31
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: Qh0QXHw.)
* * *
ドォン、と。
轟いた花火よりも一際大きな轟音に、長谷川を的に射的を楽しんでいた神楽と沖田はバッと振り返った。
「ば、爆発!?」
「向こうの広場だぞ!」
「テロだ! 攘夷派のテロだアァァ!!」
聞こえてくる悲鳴。
離れた屋台側にまで流れ込んでくる煙幕。
それを吸ってしまいごほごほと咳き込みながら、新八はずり落ちたメガネを押し上げた。
出口へ出口へと殺到していく人の群れ。
その中で、神楽と沖田だけは群れの中を逆走していた。
顔に書かれている感情はただ一つ。
『祭の邪魔をするな』。
「帰りに買おうと思ってたチョコバナナ屋の親父逃げちまったじゃねーか! どうしてくれるアル!!」
「俺の祭プランに横槍を入れるたァいい度胸でさァ!」
鬼の形相で駆けて行く沖田と神楽、額には怒りマーク。
そんな二人を慌てて追いかけながら、気絶している長谷川と唖然としているエスペランサに向かって新八は言い残した。
「桔梗さんは長谷川さんと一緒に非難しておいて下さい! 神楽ちゃんは銀さんたちと一緒にちゃんと連れて帰りますから!」
瞬く間に煙の中に消える新八の後姿。
返事も忘れて固まったままのエスペランサ。
色々とあってボロボロな絶賛気絶中の長谷川。
(……とりあえず、避難しちまったほうが良いんでしょうか)
怒涛の展開に戸惑いつつも、ついでに連れて行くかと長谷川に視線を移すエスペランサ。
高級なレースでぐるりと一周した豪華なスカートが軽やかに揺れる。
自分よりも大きな長谷川をどう運ぼうかと思案していた、その時だった。
「——あ」
ビリッ、と。
身体に電流が迸ったような、そんな衝撃。
ぐらりと傾く体。
痺れて動かない手足。
強制的に閉ざされていく意識の中、一瞬だけ背後に見えた人物が握っていたのは——スタンガンと呼ばれる物体に、似ている気がした。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.121 )
- 日時: 2011/10/25 17:38
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: Qh0QXHw.)
第五話(3)『眠れる姫君は夢を見る』
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.122 )
- 日時: 2011/10/25 18:09
- 名前: Sky ◆M7x9jXIufw (ID: a1.gBlqJ)
>>112アニホとミシン様
ですよねーwwww
エスペランサもリーフレットも現実からかなりかけ離れているので、ハルピュイヤが一番マシですよねwww
え…?いいですけど、GLですy←
時雨は問題なくとも、戦少女の夜空とか生徒会戦争の奏とか…あいつらはかなり娘と言っていいべきか迷うんですよね……(特に夜空)
あの娘達は「百歩譲って女」とPFに書かなきゃ行けないんですよね。
ホント百歩譲らなきゃ女と言うべきキャラじゃないwwww
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.123 )
- 日時: 2011/10/25 19:09
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: Qh0QXHw.)
「お母様ー!」
色とりどりの花々が咲き乱れる景色。
丁寧に手入れされラベンダーやジャスミンは、朝日に煌き、自然そのものの壮麗さを見せていた。
そんな花園の芝生の上を、小さな子供が軽やかに駆け抜ける。
歳にすれば四歳が五歳だろうか。
この花園を所有する一族特有の、奇跡のような銀色の髪に澄んだ青空を思わせる蒼玉の瞳。
パーツの全てが絶妙なバランスで小さな顔に配置され、見る者を夢中にさせる容姿であることは確かだった。
だが、少女の持つ魅力は姿形だけに留まらず、その元気な躍動感あふれる動きと邪気のない笑顔、内側から滲み出るはつらつとした健康美にも感じ取れる。
はぁはぁと大きく息を弾ませて大好きなお母様に作った花の冠を見せて。
ああ。
あれは、私だ。
数年以上前の、まだ家族も生きていて、簡単な魔法を使い始めた。
狭い世界で最も幸せに生きていた頃の。
あれは、私だ。
「お母様!」
「あら、エスペランサ」
振り向いた優しいお母様。
もう三十を過ぎているが、慈愛の女神のように暖かく、写真で見た二十歳の頃から変わらぬ綺麗な容姿をしている。
春の木漏れ日のようなお母様の笑顔が好きだった。
この頃の私には、優しいお母様と明るいお父様、そして可愛い弟と元気な妹が世界の全てだった。
これ以上なにもいらなかった。
広い外の世界なんて知りもしなかったし、知りたくもなかった。
「お母様。エスペランサの作った冠、上手くできてますか?」
「ええ、とっても上手にできてるわ。ちょっと待ってて頂戴ね。これを終わらせたらフルーツタルトを用意しますから」
お母様は困ったような顔をして針とにらめっこしている。
病弱なお母様はよく暇つぶしのために編み物や刺繍に手を出すのだが、いかんせん形勢は劣勢である。
貴族であるが故に皿も洗ったことがないお母様は酷く不器用だ。
(お母様、糸を針に通せないのでは編み物は無理です……)
口に出してはお母様が傷付いてしまうだろうで、心の中で呟く。
「朝からフルーツタルトなんていらないです、お母様。エスペランサは紅茶とスコーンがあれば充分だよ」
ちくっと指先に針を刺して涙目になるお母様。
「それがね。エスペランサがいらなくても、ユリウスとマリアンヌが食べたいらしいのよ」
弟と妹の名前を出して微笑む。
成長期まっさかりの弟妹は、お母様の手作りフルーツタルトが大好きだ。
甘酸っぱいジャム。新鮮な果物。不器用なお母様が精一杯お作りになられるタルト生地。
着ているドレスに砂糖をこぼしてオロオロするお母様を、よく二人と一緒に影から笑って見ていた。
こんなに不器用じゃ、お父様に手作りのハンカチをあげるのはまだまだ先になるなあなんて。
このときの私は、何の前触れもなくやって来る悪夢なんて考えてもいなかった。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.124 )
- 日時: 2011/10/25 19:18
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: Qh0QXHw.)
>>122 Sky様
あ、ハルピュイヤじゃなくてハルピュイアです(笑)
バトルロイヤルとバトルロワイアル、みたいな間違いもよくありますよねww
しまった、その壁があったか!←
ならば仕方がない……うちの弟を嫁に貰ってやってください(・ω・)つ反抗期の弟
男前な女の子は大好物なので問題ありません(キリッ
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.125 )
- 日時: 2011/10/28 17:59
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: Qh0QXHw.)
* * *
ぐらり、と、絢爛な衣装に包まれた体が傾く。
真っ黒な生地に真っ白なレースがよく映えた豪華なドレス。
パニエを内蔵したスカートのボリュームもかなりあって、どんな体勢でもふわりと花を逆さまにしたように膨らんでいた。
眩暈がするほどのフリルに彩られた姫袖から伸びるのは触れれば折れてしまいそうに細い腕。
纏うドレスのレースやフリルよりも白いその繊手からは、どくどくと、色鮮やかな血が流れ出ていた。
白と赤の鮮烈すぎるコントラスト。
その美しさに脳を揺さぶられたような衝撃を受けながら、河上万済は変装に使っていたマントを脱ぎ捨てた。
成功した。
いま使ったのは、人が気絶する限界ギリギリまで電圧を減らしたスタンガンだ。
よほどか弱い子供にしか効かないはずなのだが、どうやらこの少女にはそれで充分だったらしい。
多少の出血を伴うというデメリットもあるのだが。
エスペランサの羽毛のように軽い体が地面に倒れる前に、壊れ物を扱うような丁寧さで受け止める。
「これが、斑鳩桔梗殿でござるか……」
美しい。
その一言を何度呟いても足りないほど、美しい少女だ。
必要以上に綺麗でもはや人間にすら見えない。
晋助が惚れたという彼女は本当にこの世の生き物なのだろうか。
世界を滅ぼそうとする魔王がここにいたって、この少女だけは生かしておくはずだ。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.126 )
- 日時: 2011/10/28 18:34
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: Qh0QXHw.)
写真で耐性をつけておいて良かった。
心中でそう呟き、河上万済は少女の体を抱いたままスタスタと歩き始めた。
移動しながらも出血した少女の腕に包帯を巻く。
彼女のことはガラス細工の天使として扱えと、晋助に念を押されているのだ。
周囲の人々はすでに逃げたのか影すらも見当たらない。
ゆえに人目を憚ることもなく一分ほど進めば、あらかじめ用意していた車が見えた。
運転席に座っているのは目立たないように変装した男。
変態ロリコンこと武市変平太は、万済に抱きかかえられた少女を見て思わずといった感じで息を呑んだ。
「それが『真選組の姫君』こと斑鳩桔梗ですか……ああ、この美しさたるや! わざわざ面倒な歌舞伎町まで来た甲斐があったというものです!!」
たっぷり三十秒ほど固まったかと思うと、一気に赤味を帯びた顔で叫び始める変平太。
自称“子供好きのフェミニスト”な彼にとって、可憐と神秘を極めた少女の姿は刺激的すぎたらしい。
あるいは幻想的すぎたのか。
とにもかくにも騒がれると色々面倒なので、さっさと車に乗り込み運転しろと目で合図をする。
サングラス越しにでも自分の意図がわかったらしい。
未だに感激を隠しきれぬ形相ながらも彼はキーを回し、どこにでもあるような乗用車を発進させた。
「しかし、うちのリーダーが心酔するほどの美少女と聞いたから覚悟はしていたものの、まさかここまでとは……。想像を絶する美しさというのは本当にあるものなんですねぇ」
「桔梗殿の写真をあらかじめ見たのは、また子殿と拙者だけでござるからな。……『こいつを連れて来い』と写真を見せられたときはビックリしたでござるよ」
色白の華奢な体つき、純銀の髪、何より印象的なのが、見た事のない絶世の美貌。
あんな素晴らしい美貌が、この世に存在するなんて。
写真を見せられたときの自分は、ただの写真だというのに、吸い込まれそうな不思議な心地を味わっていた。
そして実物はそれ以上。
彼女が自分の隣で眠っているというだけで、まるで天国にでも来たような錯覚を覚える。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.127 )
- 日時: 2011/10/28 23:06
- 名前: くろね子 (ID: NPMu05CX)
文才ありすぎっ……ファンです、がんばってください!
姫姉様やリーフレット君ってイメージソングとかあるんですか?
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.128 )
- 日時: 2011/10/29 11:03
- 名前: くろね子 (ID: ySP8nr/s)
あと、オリキャラの募集とかってしてないんですか?
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.129 )
- 日時: 2011/10/30 15:00
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: Qh0QXHw.)
- 参照: http://www.youtube.com/watch?v=AJvPHQ3QzdQ
>>127->>128 くろね子様
すいません、オリキャラは募集してないです(-o-;)
下手に他のキャラを入れると作ったプロット通りに進行しないんですよねー……。
ちなみに姫姉様のイメージソングはALI PROJECTの『聖少女領域』です(↑のURL)
コメントありがとうございました!
これからも応援よろしくお願いしますね!
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.130 )
- 日時: 2011/10/30 15:11
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: Qh0QXHw.)
そしてリーフレットのイメージソングは鬼束ちひろさんの『罪の向こう 銀の幕』なのですが、歌詞つきの動画は無かったので申し訳ありませんが自力で探して下さい(´・ω・)
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.131 )
- 日時: 2011/10/30 16:15
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: Qh0QXHw.)
- 参照: http://www.youtube.com/watch?v
「……桔梗殿の音楽は、高貴で厳かな賛美歌といったところでござるな」
呟き、少女に用意していた毛布をかける。
窓の外の景色はだんだんと祭の会場から外れて行っていた。
* * *
「おねーさま、きょーのぶとーかいできるドレスこれでいーとおもう?」
今年で三歳になったばかりの妹であるマリアンヌが、衣裳部屋の大きな鏡の前でくるりと一回転した。
繊細な刺繍の施されたオフホワイトシャツ。
きゅっと桃色のリボンでしまったウエストから、ふんわりと広がる同色の八段ティアードスカート。
招待された舞踏会に行くのが楽しみなのか、きゃっきゃとはしゃいでいる。
「そうですね……せっかくの舞踏会ですし、もう少し正装に近づけたほうが良いかもしれません」
当時はまだガサツな口調でなかった私がそう言うと、「えー」と不服そうな様子で再び一回転するマリアンヌ。
しかし舞踏会という華やかな場でシャツとスカートのツーピースはいただけない。
私はたくさんあるクローゼットの中から適当にドレスを見繕い、くるくると回り続けるマリアンヌに「ほら」と渡した。
薄い水色のプリンセスラインドレス、淡いカラーリングのオーガンジーを使ったドレス、高級なサテンをふんだんに用いたドレス。
いくつものドレスの中からマリアンヌが選んだのは、フリルにリボン、ふわっと広がるスカート……可愛いモチーフがたっぷりと詰まった砂糖のように甘いドレス。
それにお母様が誕生日プレゼントに下さったサファイアのブローチをつけて。
「うん、これでだいまんぞく!」
マリアンヌはとびきりの笑顔を浮かべた。
けれど、急に思い立ったように私の瞳をじっと見つめると、慌ててサファイアのブローチをルビーにつけ変え始める。
首を傾げる私に、マリアンヌはふーっと息を吐いた。
「あぶないあぶない。あおいほーせきなんてつけたら、おねーさまのひとみとくらべられちゃう」
「比べられると、なにか困るのですか?」
「こまるよ! だってどんなにきれいなほーせきでも、おねーさまのひとみのまえではいしとかわらないもん。
みずみたいにすきとおっててそらみたいにやわらかくて……ほんとーに、すてきなあおいろ。おねーさまのひとみはせかいでいちばんうつくしいあおいろだわ」
なにか誇らしいものでも見るようにして見上げてくるマリアンヌに、幼い頃の私はただ、「ありがとう」とだけ返した。
水みたいに透き通ってて空みたいに柔らかいと。
そう称された私の瞳は、今では酷く暗鬱としているのに。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.132 )
- 日時: 2011/10/30 17:41
- 名前: くろね子 (ID: x8FeCceo)
姫姉様のイメージソング聞いてきました!
姫姉様に相応しい素晴らしい曲でもうウハウハです・・・。
あと、PVに出てたドレス姿の女性って誰ですか?
リーフレット君のはこれから探してきますねっ!
ちなみに私が姫姉様のイメージソングっぽいって考えてたのはボカロの《姫ゆくアリスが駆け出す瞬間》ですねー。
リーフレットくんは《モザイクロール》とかどうでしょうか!?
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.133 )
- 日時: 2011/10/31 17:35
- 名前: くろね子 (ID: e.d4MXfK)
『罪の向こう 銀の幕』聞いてきました!
なんという痛々しい曲(;o;)
でもリーフレット君にピッタリでした!
姫姉様もリーフレット君も大好きだから是非とも幸せになって欲しいです。
あ、でもリーフレット君は自分が幸せになっちゃダメだと思ってるのか・・・それでも大ファンの俺はリーフレット君に幸せになってほしいんだっ!
というわけで頑張って下さい、アニホとミシン様!
いつまでも応援してます!
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.134 )
- 日時: 2011/11/01 16:04
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: Qh0QXHw.)
- 参照: http://www.youtube.com/watch?v=Sn1U1W3C6Cs
>>132->>133 くろね子様
『姫ゆくアリスが駆け出す瞬間』ってGUMIちゃんの曲だったんですね、名前だけじゃ分かりませんでした(笑)
モザイクロールは私も大好きですよ!
GUMIちゃんのPVは基本クオリティ高いので大好きです(キリッ
PVの女性は宝野アリカ様といって、ALI PROJECTのボーカルの方です。
その独特の局長からヴィジュアル系とも一線を画した異彩な偉才の持ち主なのです((
鬼束ちひろさんも好きなんですよねー。
好きになるアーティストさんたちがマイナーなのが悲しいのですが(-o-;)
でもレディー・ガガとかそういう最近の人もなんとなく分かるようになってきたよ!←
果たしてリーフレットは幸せになれるのか、そして姫姉様の御身やいかに!?
こうご期待!((
コメントありがとうございました!
更新がんばりますねー(*^ω^*)
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.135 )
- 日時: 2011/11/01 16:58
- 名前: 月羽 ◆/tAwKh9e/w (ID: EcIJT88K)
>>119アニホとミシン様>
私も会いたかったですよ!←
Σ今でも十分素晴らしいのに、褒めたらまだ伸びるんですか((
よっしゃ、じゃんじゃん褒めるぜ!←←
現在ピコ森の恋愛小説板で「je t´aime −君と私の違い−」という駄作を執筆中です(・ω・´)
「その男は白夜叉と呼ばれた【銀魂】」も下書き中で、それが終わったら改めて此処で書こうかなーとか思っているのでもし良かったら暇潰しがてら、覗いてやって下さい。
宣伝すいません((
ちなみに同じクラスのモデルさんは誰でしょねクイズ(←)の答えは、一番左の子です^^
美玲の名字はその子から取っていたり←
姫姉様の幼い頃、可愛いでs(ry
こんな美しくて可愛いお姉さんが居るなんてユリウス君とマリアンヌちゃん羨ましすぎる((黙
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.136 )
- 日時: 2011/11/01 17:07
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: Qh0QXHw.)
- 参照: http://www.youtube.com/watch?v
* * *
「また子殿、桔梗殿が目覚めるまでの世話は頼んだでござるよ」
そんな台詞を帰ってきたばかりの万済に言われて、エキゾチックな顔立ちの金髪女性——来島また子は、「は?」と手入れしていた拳銃を落とした。
鬼兵隊の一時的な隠れ家として選ばれた三ツ星ホテル。
その大理石の床に直撃した銃身を拾うことも忘れて、また子は万済に詰め寄る。
「なんでまた子がんな事しなくちゃならないんッスか!」
「なんでと言われても、また子殿は鬼兵隊の紅一点でござるからな。女の面倒を男に見せる訳にもいかんござろう」
「だからって……!」
言い募るまた子に、万済は嘆息する。
斑鳩桔梗の写真を見てからというもの、彼女は自分と桔梗を比べては「晋助様は細くて小さい女が好きなんッスかー!!」と絶叫していたのだ。
いかにも『お人形さん』といった容貌に退廃と神秘が加わった斑鳩桔梗、露出的な着物や派手な金髪を好みどこか荒々しいオーラのある来島また子。
違うタイプの女同士なのだから別に良し悪しなど気にすることもないのに。
あるいは、違うタイプだからこそ気にしているのだろうか。
好きな男に長髪が好きだと言われれば、自分の短髪にショックを受けるのが恋する乙女の性である。
そんな状態の彼女に面倒見を頼むというのは酷な話かもしれない。
が、斑鳩桔梗の面倒を男などに見させては後で晋助にどんな制裁を加えられるか分かったものではない。
そこら辺の事情を考慮して、万済は再びまた子に頼み込んだ。
「お願いするでござるよ、また子殿」
「うー……あーもう、わかった! その代わり後で文句とか言っても知らないッスからね!」
「それは助かった。じゃあ、もうこのホテルの最上階にあるスイートルームに寝かせてるから、あとは頼んだでござるよ」
後ろから聞こえてくる「初めからまた子に任せる気だったんじゃないッスか!」という叫びを無視し、それを嗜める武市も置いてスタスタと立ち去る万済。
彼にはもう一つ、高杉晋助から言い渡された仕事があるのだ。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.137 )
- 日時: 2011/11/02 16:52
- 名前: くろね子 (ID: 7VttjCRw)
なるほど宝野アリカさんというのですか!
俺には絶対に似合わない格好をした人だったので気になりました(笑)
というかちっさい姫姉様が可愛すぎるっ!
今の『お美しい姫姉様』は、あの一年を体験してから生まれるのですね。
《冷めた奇跡はもっと近寄りがたくなる》って姫ゆくアリスが駆け出す瞬間の歌詞がそれっぽくて、姫姉様のイメージソングとして予測したんですよね。
元から近寄るのが恐れ多くなるほど綺麗な姫姉様に、あの一年からの凍てつくような魅力も加わってさらに近付けなくなる・・・みたいな?
とりあえず姫姉様の純潔を奪った野郎共は今すぐ丸焼きになってゴミ捨て場に廃棄されるべきだと思います←
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.138 )
- 日時: 2011/11/03 14:01
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: Qh0QXHw.)
>>135 月羽様
むしろ今のまま成長停止したら困りますΣ(—□—;)
将来的には今の自分が書いている文章を読み直して「なにこれ下手すぎww」と笑えるくらいになりたいですねー←
やった、また美玲ちゃんに会えるんだね!((
ピコ森はそういえばずいぶんと覗いてない気がします……また勉強が落ち着いたら尋ねてみます!
宣伝は常時受け付け中ですのでジャンジャン書いていって下さい(笑)
くっ、違ったか!
私の野生の勘もまだまd(ry
そしてここ(可愛い)からどんどんああ(美しい)なっていく姫姉様((
その反転のキッカケはやっぱり魔女狩りだったりするんですよねー。
>>137 くろね子様
くろね子様どころか私にも似合わないww
友人にならああいうファッションスタイルを小学生の頃から貫いてる子がいるんですけどね……その子は甘ロリなので、姫姉様のゴスロリの参考にはならなかったり(笑)
この頃のひめねーさまはまだ純真無垢だったのさ!←
そうそう、エスペランサが暖かな美少女ではなく冷ややかな美少女に育ったのはそれが原因です。
逆に言えば、エスペランサは最悪の不幸と引き換えに最高の美しさを手に入れたんです((
姫姉様が愛されてて嬉しいですぐふふ^p^←
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.139 )
- 日時: 2011/11/03 14:55
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: Qh0QXHw.)
* * *
「まあ、あれがベアトリーチェ故皇女の血を最も色濃く継いだお嬢様?」
「さすがは魔法界一の美女の孫娘だ。あれだけ幼いのに、もう恐ろしいまでの美貌の片鱗を見せてらっしゃるじゃないか」
「纏う金色のドレスがまるで満月のように輝いて見えるわ……」
数々の賞賛を浴びながら広間を歩く。
前を先導しているお母様もお父様も後ろを歩くユリウスとマリアンヌも、私への賞賛が嬉しいのかどこか幸せそうな笑みを浮かべていた。
当時の記憶はあやふやだから、どんな場所だったかは正確に記せない。
とにかく豪華な城だったことは覚えている。
皇帝が主催の、一部の上流貴族しか招待されぬ舞踏会の会場。
そこへ馬車で赴いた。
アーノルド家は、本来ならば皇族と名乗るべき血筋にある。
それは私の祖母が先代の皇帝の正妻だったからだ。
ベアトリーチェ・アーノルド——かつて魔法界一の美女と謳われた、今は亡きシャングリラ第五百三代目皇女。
それが私の祖母だ。
名門とはいえ貴族でしかなかったアーノルド家の娘がなぜ皇帝の正妻にまでなれたかというと、それはベアトリーチェ故皇女がとびきりの美貌の持ち主だったから。
もう物凄かったらしい。
なんでも顔を見てしまうとあまりの美しさに相手が気絶するから、初めの一回を除いて皇帝にすらも顔を見せなかったとか。
家の中や舞踏会のときも仮面で隠していたが、それでも髪や肌だけで皇帝に目をつけられて、仮面を外せばもう奇跡級の美女がそこに。
それからベアトリーチェ故皇女以外の何を見ても綺麗だと感じられなくなり、酷いときには彼女以外の全てが腐って見えてしまうようになった皇帝は、三日ともたないうちに彼女に求婚。
百人以上いた愛人たちとの関係を一気に断ち切って、皇帝は無事ベアトリーチェ故皇女を嫁に迎えたらしい。
それならば何故アーノルド家は貴族のままなのかと言うと、次代の皇女となる気の無かったお母様が自ら貴族に戻りたいと申し出たらしい。
嫁に似て見目麗しく育った愛娘の言葉を皇帝も承諾。
晴れて貴族に戻ったお母様は同じ上流貴族であるお父様とご結婚なさり、生まれた一番目の娘が私なのだ。
キリスト教の言葉で『希望』を意味するエスペランサと名付けられた私。
その私はどうやらお母様以上にベアトリーチェ故皇女に似ているらしく、少しでも外に出ればその話しか耳に入ってこない。
もっとも、本当に私と祖母が似ているかなんて、祖母が死んだ今では分からないのだが。
「エスペランサ姫、お飲み物をどうぞ」
給仕に差し出されたアップルジュースを会釈と共に受け取る。
いちおう皇族ではない幼い私が『エスペランサ姫』などと呼ばれていたのは、やはり祖母が原因なのだろうか。
本物の皇族が住まう城で姫と呼ばれるのはなんとも不思議な気分である。
そうこうして時間を潰している内に、広間ではオーケストラによる音楽が流れ始めた。
ワルツの時間が始まったらしい。
私はシルクとレースの手袋に包まれた手を差し出し、近くにいた同年代の少年にやんわりと微笑みかけた。
「一曲、踊って下さいますか?」
少年は顔を真っ赤にして手をハンカチでゴシゴシと拭いた後、恐る恐るといった様子で私の指先に触れる。
ちらりと隣を見れば、お母様とお父様も見事なワルツを披露していた。
蝶のように可憐に、ときに白鳥よりも優雅に、女神よりも荘厳に。
お母様のドレスの裾がふわりと翻るたびに、周囲の着飾った上流貴族はうっとりとした眼差しを向けた。
この分ならばユリウスとマリアンヌも楽しくやっているだろう。
さて、私もお母様に負けないようにしなくては。
三拍子のリズムに合わせステップを踏み、高貴に姿勢を正し、優雅に一回転。
少年のリードは中々上手で踊り甲斐があった。
緊張したような面持ちなのが少し気になったが、きっと舞踏会が初めてなのだろう。
お母様のワルツに向いていた視線をいくらか私たちの方を向き始め、さあここからが見せ場だと華麗さを増そうとしたところで。
バァン、と、銃声のようなものが響く。
それに次いで聞こえてくる破壊音。
水を打ったように静かになる広間。
真っ先に我を取り戻した皇帝が、玉座から立ち上がって叫んだ。
「魔術師です! 皆様お逃げ下さい!」
その言葉につき動かされるように、広間は元以上のざわつきを見せ始めた。
出口に殺到する上流貴族たち。
遠くの方から響いてくる、窓が聞こえるような音と、絶叫。
私と踊っていた少年も彼の父親に抱き上げられ、一気に出口を目指す集団の中へと消えていった。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.140 )
- 日時: 2011/11/03 19:03
- 名前: 月羽 ◆/tAwKh9e/w (ID: EcIJT88K)
>>138アニホとミシン様>
そんな風になりたいですよね。
私の方は「この時も下手だったけど、今はもっと下手になってるし!」という事にもなりそうです。←
会えますよ!((←
そして葵や陵にも会えるのでs((ry
今は「俺の出番まだかな……。復活した時は天パの出番より俺の出番が多いといいなぁ」とか言いながら塩大量にかけたプリン食べてそうです((黙
いつでもスタンバイしてるので、勉強頑張って下さい!
野生の勘ですかw
そのモデルさん、色白だし顔小さいしおまけに声も可愛いんですよねー(
姫姉様を傷つけた人には手が出そうで自分が怖いです←
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.141 )
- 日時: 2011/11/03 19:49
- 名前: くろね子 (ID: lwQfLpDF)
姫姉様のおばあさまは皇女様ですとっ!?
道理で周りから貢がれてもご自分のお美しさに気付かれないんですね。
その情報を聞いてますます姫姉様の魅力が増しました!
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.142 )
- 日時: 2011/11/05 18:45
- 名前: くろね子 (ID: N/zMPjaj)
連投スマソ。
ふと思ったんですが、姫姉様は皇女の孫娘ってことはかなり高貴なお生まれですよね?
もしかして次の王位継承権とかあるんじゃないですか!?
ということは俺は姫姉様をエスペランサ皇女と呼ばなければならないのか・・・呼びてぇっ!←
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.143 )
- 日時: 2011/11/06 18:05
- 名前: なぎこ (ID: uHvuoXS8)
アニホとミシン様!あの「氷のような美貌を持つ美少女だけがゴスロリを纏う資格がある」とかほざいてたアニホとミシン様じゃないですか!!
此方でも楽しみにしてますね色々!(^p^三^q^)
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.144 )
- 日時: 2011/11/06 22:21
- 名前: くろね子 (ID: cASJvb5A)
「ほざいてた」なんて言葉使いは良くないですよ!
荒らしと間違われちゃいますから。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.145 )
- 日時: 2011/11/06 22:30
- 名前: なぎこ (ID: uHvuoXS8)
くろね子様>
あわわ、これは失礼しました><;
ご忠告有り難う御座います;これからは気を付けます
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.146 )
- 日時: 2011/11/07 11:33
- 名前: くろね子 (ID: 5SQt.OF5)
なぎこ様>
いえ、こちらも上から目線ですみません。
アニホとミシン様が好きなのでついつい口出しちゃいました><
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.147 )
- 日時: 2011/11/07 12:09
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: Qh0QXHw.)
>>140 月羽様
そんな悲しい状態にはなりませんよ月羽様なら大丈夫です!←
でも昔書いてたイラストとか小説って、改めて読み直すと楽しかったりしますよね(笑)
なんですかその甘いのか辛いのか分からない食物ww
黒髪美人は大好物ですハァハァ(( いつまでも待ってるよ三人ともー!←
はい!
次の第四回実力テストでもう私立の併願校は決めないといけないので、偏差値もう少し上げていこうと思います。
月羽様も頑張って下さいね!
仕方ないよ、だってモデルさんだもn((ry
私も部活を引退してからはちょっと白くなってきましたけど、それでも筋肉質な体型は相変わらずです←筋トレ止めてないせいだろ
私も美玲ちゃんに何かやらかした奴がいたら鉄パイプと共に駆けつけますのでご心配なく!←
>>141->>142 くろね子様
連投問題ありませぬ(キリッ
王位継承権は主張すればあるんでしょうが、ぶっちゃけエスペランサは皇女って柄でもないですしね(笑)
なりたいと思ってない子がなっても国の存続が危くなるだけですからww
よって残念だが姫姉様をエスペランサ皇女とは呼べないのだよ!←誰だお前
>>143 なぎこ様
はっ、もしやレッドでダークなあのお方ですか!?
間違っていたらすいません、正解だったらお久しぶりです!(*^ω^*)
諸々の発言で貴方様のご気分を害してしまったことは大変申し訳なく思っておりますが、前の掲示板の話題をこっちにまで持ってこられるとさすがの私も困惑してしまいますので、ご遠慮して下さると嬉しかったりします(´・ω・)
でもでも女性限定マゾヒストな私には棘のある言葉が嬉しかったりぐへへ^p^←
こほんっ、失礼しました。
貴方様の作品も貴方様も相変わらず尊敬していますので、もしここで書き始めたりしたら教えて下さい!
マッハ5のスピードで駆けつけますので((
コメントありがとうございました!!
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.148 )
- 日時: 2011/11/07 13:32
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: Qh0QXHw.)
「エスペランサ、ユリウスとマリアンヌを見ませんでしたか!?」
ドレスの両端をつまみ上げて駆け寄ってくるお母様。
その顔の蒼白具合から見るに、どうやらユリウスとマリアンヌの姿が見えないらしい。
少し離れた場所ではお父様が人の波に逆らって二人の名前を呼んでいる。
知りません、と首を振ればお母様はなおさら焦ったような表情になった。
「お母様、エスペランサも探してきます!」
お母様からの制止がかかる前に走り出す。
フレアが足にまとわりつく走りにくいドレスも、当時から着慣れていた私にとっては極めて活動的な衣装だった。
窓が割れたような音は断続的に響き続ける。
それが実際に窓が割れている音ではないと気付いたのは、人通りの少ない廊下に出た瞬間だった。
「我が手に燦然と輝きたる孤高の太陽よ! その神々しき光の矢を以ってして我に仇名す者に制裁を!」
皇族に仕える老齢の魔法使いが、長い白髪と杖を振り乱して呪文を唱える。
その眼前にいる真っ黒なローブの集団——恐らくあれが魔術師なのだろう——は、放たれる光を俊敏な動きで避ける。
「——割れろ」
爪先で大理石の床を叩き、低い声で魔術師が呟く。
すると何の変哲もないはずの床には巨大な魔法陣が浮かび上がり、呪文を唱えていた魔法使いの身体が突如としてガラスのように割れた。
パリンッ。と効果音をたてて、破片となった魔法使いの身体は床にパラパラと散らばり落ちていく。
「ひっ——……!」
その光景に思わず小さな悲鳴を上げた。
魔術師の視線がこちらを向く。
それと同時に、私に視線を向けてきたものがもう二つあった。
「おねーさま……!」
「あねうえっ……?」
今にも泣き出しそうな声のマリアンヌとユリウスだ。
彼女らは部屋の隅で縛られていて、ピンクのドレスとブラックのタキシードには鎖が喰い込んでいた。
その鎖に斑点のようにびっしりと魔法陣が書き込まれているのを見て、あれは魔力を封じる効果のある鎖だと分かった。
魔術師が、一歩、こちらに近寄ってくる。
「わ——私の弟と妹に、何をなさるつもりですか」
ドレスがしわになるほど握り締める。
震える唇でそう話しかければ、魔術師の口元が三日月の形に歪んだ。
「このガキ二人でも大層な収穫だと思ったが、どうやら運は俺に向いているらしい。まさかあのベアトリーチェ故皇女の孫娘まで寄越してくれるとはな」
魔術師は私の質問には答えず、愉快そうに笑う。
「な、にを言って……」
「まあ、まだ俺に捕まって良かったと思えよ。キルケゴールとかに捕まってたらもっと酷かっただろうぜ。俺はあそこら辺の有名所とはなんの関わりもないただの魔術師だ」
さっきまで魔法使いだったガラスの破片を踏みしめて。
魔術師は、怯える私の額に指先を押し付けた。
「ようこそ地獄へ。エスペランサ・アーノルド」
ニィ、と男の口端が歪むのを見ながら——私の意識は遠のいていった。
目覚めたときには地獄だと知らぬままに。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.149 )
- 日時: 2011/11/07 14:00
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: Qh0QXHw.)
* * *
「斑鳩桔梗。出身地不明、血液型不明、生年月日不明、目測年齢十三歳。魔女だとの噂あり、ねぇ——」
ぶつぶつと呟きながら来島また子は資料のページをめくりつつ歩く。
スイートルームばかりの最上階。
ここの一番奥にある部屋で、気を失った斑鳩桔梗は眠っているらしい。
やはりスイートルームなだけにベッドもキングサイズだったりするのだろうか。
「ああくそ、羨ましいッス!」
がちゃりと目的の部屋の扉を開き、ふかふかの絨毯を土足のまま踏み荒らして進む。
天上には豪華なシャンデリアまで用意してあった。
「なんでガキ一人ごときにここまで金かけてるんッスか……」
愚痴をこぼしつつ、中央にある大きな天蓋つきのベッドに近寄る。
しかし、そっと天蓋を除けてそこに眠る少女を見た瞬間、また子はその美しさに息を呑んだ。
写真で顔は知っていたが、実際に目の当たりにすると、その美貌は神がかって見えた。
カーテンが閉められた薄暗い部屋に、わずかに外の明かりが差し込み、その光で柔肌が青白く、まるで夜の月のようにぼうっと輝いて見える。
髪は月光を紡いだような純銀で、それが白い肌とシーツにレースのようにかかっており、強いグラデーションを生み出している。
写真で見た海よりも深い濃青は、今は閉じられていて見えないが、すっと伸びた鼻筋も、白に引かれた桃色も、なにもかもが綺麗だった。
「綺麗ッス……」
いつもであればすぐ拳銃の手入れに移るだろうに、今回ばかりはまた子はほぅと見惚れた。
この美しい少女が、斑鳩桔梗。
きっとおとぎ話の魔女の呪いで眠るお姫様はこういう顔なのだろう。
否、ベッドに身じろぎ一つせずに眠る姿は人というよりも、どちらかといえばいつか海外の宮殿で見掛けたアンティークドールが等身大になったようで、また子はそっと手を伸ばす。
髪に触れれば、まるで最上質のシルクのようにつるりと滑って指の間からさらさらと落ちていき、肌に触れればしっとりと指に吸い付くようになめらかできめ細かい。
しかし低体温なのか、触れた肌はひんやりと冷たく、触れてもなおピクリと瞼さえ震えない様子は生気が感じられず、本当に人形かと錯覚させた。
表情もなく眠っているその姿は磁器というよりも薄いガラスでできた脆い人形のようで、自分が触れれば割れてしまうのではないかと怖くなり、また子は慌てて手を引いた。
瞳を開いたらどうなるのだろう。
写真の彼女は生き生きしていた……とは言わないが、困ったように顔をしかめる様子は、なんとか生き物に見えた。
あの恐ろしく深い濃青が開かれれば、生き物になるのだろうか。
また子は触れた手を握りしめながらじっと寝顔を見つめる。
けれどいくら見つめても、眠りが深いのか、まったく瞼が開く兆候は見られない。
触れた時でさえピクリとも反応しなかった様子から、まだとうぶん目覚めないだろうとまた子は溜息を吐いた。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.150 )
- 日時: 2011/11/07 16:47
- 名前: なぎこ (ID: 8wbSPhF3)
アニホとミシン様>
こちらではなぎこですぎこぎこ!(「・ω・)「ギーコギーコ
>大変申し訳なく〜
だとすればちゃんと彼方で謝罪をするというのが筋ではありませんでしょうか…
それとこちらは本気で貴方の分を弁えない発言が嫌でこうしてコンタクトを取っている故にマゾヒストだの何だのとふざけられても困ります。
氷のような美少女?それって自分のキャラってことですか?とか思いますし。だってエスペランサさん見てると「氷のような美少女」ですもんね…と
こちらこそ失礼しました(´・ω・`)
沢山の読者やファンを抱える人間として、自分の発言がどんな影響力を持つのかを理解していただけると幸いです。
あっちなみにおらリーフレット君好きですだ!←
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.151 )
- 日時: 2011/11/07 17:26
- 名前: くろね子 (ID: kDmOxrMt)
な、なんだか物騒な雰囲気ですけど・・・お二人ともお知り合いなんですか?
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.152 )
- 日時: 2011/11/08 16:29
- 名前: 月羽 ◆/tAwKh9e/w (ID: EcIJT88K)
>>147アニホとミシン様>
いやいや、不安しかありませn((
分かります、楽しいですよね!
初めて小説書いたのが恐らく小3、4ぐらいだったのですがその時に書いていたのがありきたりな恋愛小説でしたw
美玲ぐらいにしか分からない美味しさです←
黒髪美人いいですよね(・ω・´)
九ちゃんとか大好きです!
本当にわずかな希望しかないのですが、頑張ります←
頭も悪いくせして運動神経も悪い私はどうすればいいんですかね((
そうですよね、モデルさんだからですよね!←←
筋肉質な体に密かに憧れていたりしますw
以前腹筋が割れる為には何をすればいいか、みたいな事をやっている番組があったのですが絶対私には無理でした(・ω・`)
アニホとミシン様は頼りがいがありまs((ry
でも美玲は自分でどんどん相手を殴りにいきそうですw
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.153 )
- 日時: 2011/11/10 13:18
- 名前: くろね子 (ID: nF4l3yrg)
上げておきますねー。
リーフレット君ってギャルファッションが似合うと思います←
小説も勉強も頑張って下さい!
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.154 )
- 日時: 2011/11/12 18:58
- 名前: くろね子 (ID: cTgMt2qy)
あげます(;_;)
姫姉様たちに会えないのが寂しいよ・・・でもいつまでも待ち続けます!
テストシーズンなので大変だと思いますが、色々がんばって下さい!
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.155 )
- 日時: 2011/11/14 13:09
- 名前: くろね子 (ID: 60TA9nBF)
あげますっ!
受験が終わってからでも良いので、更新がんばって下さいね!
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.156 )
- 日時: 2011/11/16 13:14
- 名前: くろね子 (ID: 8w1jss8J)
あげますねー。
姫姉様のことは、夢小説史上もっとも美しくもっとも高貴なヒロインだと思ってます!
あげだけだとつまらないので姫姉様へのメッセージを添えてみました(笑)
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.157 )
- 日時: 2011/11/18 17:16
- 名前: アニホとミシン ◆rWjtunSpWU (ID: UXNmz4pg)
〜緊急連絡〜
ども、アニホとミシンでございます。
来年で高校一年生、つまるところ今年は中学三年生の私は、ただいま受験生という立場に置かれています。
数ヶ月前までは「まあ、評定も偏差値も足りるしこの高校で良いか」と私立の女子高と公立校を志望していたのです。
しかし先日、校風も制服も私好みの素晴らしい高校を発見してしまい、そこを目指すことにしました。
その高校の偏差値は60後半で、60中盤の私は努力しなければ入れません(60中盤の私が500点満点中430〜450点程度と書けば、大変さをご理解いただけるかと)。
よってもっと勉強に時間を割くために、この小説の更新は一時停止とさせて頂きます。
いつもご愛読して下さっ皆様方、本当に申し訳ありません。
必ず高校に合格して帰ってきますので。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.158 )
- 日時: 2011/11/20 09:47
- 名前: くろね子 (ID: K4YD00a4)
ま、マジですか!?
俺ショックです・・・でも絶対に来年まで待ちますから!
いや、姫姉様たちの為なら十年だって待ちます←
というか偏差値60中盤なんて頭良すぎですよ。
俺の兄貴とか成績悪すぎて定時制高校しか行けませんでしたから(笑)
俺も偏差値、最高33しかありませんしww
定員割れしてるアホ高校しか入れないですww
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.159 )
- 日時: 2011/11/22 16:05
- 名前: くろね子 (ID: Heq3a88y)
あげますっ!
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.160 )
- 日時: 2011/11/24 16:15
- 名前: くろね子 (ID: 66F22OvM)
あげますね!
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.161 )
- 日時: 2011/11/27 09:51
- 名前: くろね子 (ID: 4QeXy8HA)
上げます!
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.162 )
- 日時: 2011/11/30 22:48
- 名前: くろね子 (ID: U.Z/uEo.)
あげますっ!
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.163 )
- 日時: 2011/12/02 18:27
- 名前: くろね子 (ID: mt9AeZa7)
上げますね!
姫姉様のお姿を一度で良いから拝見したくて拝見したくて、夢の中にいらして下さらないかと願いましたがやっぱりお姿を現しては下さいませんでした←
毎日この小説を始めから読み直してます!
受験も更新も頑張って下さい!
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.164 )
- 日時: 2011/12/04 16:46
- 名前: くろね子 (ID: 4QeXy8HA)
上げますねー。
アニホとミシン様の夢小説じゃないと満足できない体になってしまいました((
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.165 )
- 日時: 2011/12/05 21:47
- 名前: くろね子 (ID: Lnsp.uM2)
あげます!
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.166 )
- 日時: 2011/12/06 00:12
- 名前: なぎこ (ID: IxNK9TAE)
くろね子様>
前から思っていたのですが、そんなに頻繁に上げずとも大丈夫ではありませんか?
あなたがこの方の作品が大好きだというのも解りますが、この人が運営するサイトでないかぎりこの小説カキコというサイトは他の方々も利用するサイトです。
あんまりにも上げを繰り返してしまうとすぐに他の方の作品が下がってしまうと思うのですが…
それにそう簡単に落ちきったりはしないでしょうし、このままのペースではこの人が帰ってくる前に全部のレスがあなたの上げ行為で埋まってしまうかも知れませんよ?
少しでもいいのでお考え頂けると幸いです。
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.167 )
- 日時: 2012/01/01 17:53
- 名前: 美柑 (ID: hMtE.UVn)
初めまして^^陰から激しく応援している美柑です!
いや〜相変わらず素晴らしい文才ですねェ〜。
思わず拝んでしまいましたww
それにしてもエスぺランサ様お美しい……。美人過ぎて羨ましがる事も出来ないっていうw
踏まれT((おっと、失礼w
とにかくこれからも応援していますのいで続きを楽しみにしています!
- Re: 【銀魂】魔法の国からやって来た【夢小説】 ( No.168 )
- 日時: 2012/07/02 20:19
- 名前: Libra ◆lNRfl6Ys8o (ID: TLzqUYoL)
…大分お久しぶりです。
…といっても覚えてらっしゃらない可能性のが多いと思います;;
某所で雛ちゃんと呼んで貴方を慕っていたものです。
多分ですが、明日はアニホとミシン様のお誕生日だと思い、明日はPCが開けない可能性があるので、今日書き込みをさせて頂きました。
誕生日、間違ってたら、ほんとにすみません。間違ってる可能性のが高いきが……;;
でも合ってたら嬉しいなと思ってます。心からお祝いします。
Happy Birthday!!雛ちゃん・ω・*