二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: ボカロ ただ今[囚人の紙飛行機]編! 【短編集】 ( No.8 )
日時: 2012/01/21 18:59
名前: 麻香 (ID: hxCWRkln)

02 § 囚人の紙飛行機 §

   【アレン】

草原が広がる中に、寂れた刑務所がポツンとあった。
刑務所を取り囲むように、何重にも張られた鉄柵が、妙に痛々しい。
廃墟のように見えるが、中には何十人もの囚人が収容されていた。

この刑務所は、極悪な死刑囚だけを専門に収容する。その為、人気のない場所に建っているのだ。
つまり、死刑囚達が最後の生活を送る場所。
だが、死刑には思ったよりも金がかかるので、決まって毎月ランダムに10人ずつがあの世行きとなる。殺すなら早く殺してくれ、というのが死刑囚達の本音であった。

刑務所の広大な庭を、1人箒で掃除している少年、アレンもその1人。
いや、掃除をしているというより、ただただ無意識に箒を動かしているだけ、という方が合っているだろうか。
そう感じる程、アレンの目に生気はなかった。

その時、背後でパサリという音がして、アレンは振り向いた。

「紙飛行機‥‥‥?」

元々あったものだろうか。
だが紙は真新しく、今飛んできたようだ。一体どこから。

アレンは、ぐるりと辺りを見回す。
そして、見つけた。紙飛行機の主を。

鉄柵の向こうに、少女がいた。
真っ白な帽子を目深にかぶり、ワンピースからは病的なほど細くて青白い手足が突き出している。
目が合うと、彼女は可愛らしく笑った。

声をかけてみようと思った。
だが鉄柵のすぐ向こう、彼女とアレンの間には幅5メートルくらいの川がある。声を届けようと思ったら、大声を出さなければいけない。
そんなことをすれば、看守に見つかる。掃除をサボった罰を受けるかもしれない。

迷っていると、少女は笑いながら、アレンの持っている紙飛行機を指さす。
紙飛行機を開け、ということらしい。
アレンは慌てて紙飛行機を開く。そこには、文字が並んでいた。

『こんにちは わたし暇なの 友達になって』

Re: ボカロ ただ今[囚人の紙飛行機]編! 【短編集】 ( No.9 )
日時: 2012/01/22 12:24
名前: 鏡猫 (ID: cHwZ8QFd)
参照: http://www.youtube.com/watch?v=wyIOUJjWCbM

こんにちは!
初めまして。同じくボカロ小説書いてる鏡猫です。

「魔女」を読ませていただきました。
曲自体は、そんなに知らないんですが読んでいくうちにはまってしまいました!
「囚人」と「紙飛行機」のコラボの小説楽しみにしています!
こちらの曲は結構好きな曲なので。

後、いきなりですが、リクエストいいですか?
初音ミクが歌っている「VOiCE」をお願いします。
いつでもおkですので!一応、参照に乗せときます。

Re: ボカロ ただ今[囚人の紙飛行機]編! 【短編集】 ( No.10 )
日時: 2012/01/22 14:23
名前: 麻香 (ID: hxCWRkln)

初めまして!

「魔女」は人の心が複雑に表現された曲なので、ちゃんと書けたか不安でしたが‥‥‥伝わって良かったです!
リクエストありがとうございます。
「VOiCE」聞かせていただきました。恋愛か‥‥実は苦手分野です。小説化するか、まだはっきり分かりません。
ただ、ちょっと時間がかかります。「悪ノ娘」なんかも書いてみたいので‥‥‥

Re: ボカロ ただ今[囚人の紙飛行機]編! 【短編集】 ( No.11 )
日時: 2012/01/22 14:59
名前: 麻香 (ID: hxCWRkln)

アレンは驚いて少女を見つめた。
少女は相変わらずにこにこと笑いながら、返事を待っている。
アレンは、少女に向かって大きく頷く。刑務所の中では話す人もおらず、退屈だったのだ。

途端に少女は、花が咲いたように、ぱぁっと笑顔になった。

よっぽど暇だったのだろうか。
その可愛らしい笑顔に、アレンも思わず笑った。笑顔なんて、久しぶりだ。人のを見ることもなかったし、自分のを見せることもなかった。

少女はアレンに向かって、ひらひらと右手を振った。
バイバイ、という意味らしい。
アレンが反射的に手を振ると、少女は折れそうに細い足で、とことこと町の方向へ走っていった。

アレンはぎゅっと紙飛行機を握りしめる。
どれくらいそうしていただろうか。1時間か、半日か。

時間を感じないくらいに、アレンの心には少女の笑顔が深く刻まれていた。

               ☆★☆★☆

次の日も、彼女はやってきた。
たまたま庭で荷物運びをしていたアレンは、彼女の飛ばした紙飛行機に気付き、慌てて受け止める。

『また会ったね あなた働き者なんだね すごいなぁ』

紙飛行機には、そう書かれていた。
働き者というよりも、働かされているだけだったのだが、アレンは褒められて嬉しくなった。

少女はまたひらひらと手を振り、町の方へ走り去っていった。

               ☆★☆★☆

彼女が紙飛行機を飛ばし、手を振って走り去る。
そんな日が毎日続いた。

彼女の笑顔は、ずっと凍っていたアレンの心をゆっくりと溶かしていった。

アレンは毎日、面倒な庭掃除を自ら引き受けた。
囚人仲間は、いきいきとしてきたアレンに疑問を持ったが、まさか外部の人間と文通しているなど、知るよしもない。

そのうち、アレンは看守室から紙とペンを盗み、少女に返事を送るようになった。

Re: ボカロ ただ今[囚人の紙飛行機]編! 【短編集】 ( No.12 )
日時: 2012/01/24 21:32
名前: 麻香 (ID: hxCWRkln)

ある日、彼女はぱったりと来なくなった。
アレンは庭で待ち続ける。これまでに来た彼女の紙飛行機を読みながら。

『初めて料理を作りました レーズンのビスケット ちょっと焦がしちゃった』

『おっきな犬に吠えられた 頭を撫でると甘えてきた あの子も寂しいんだね』

本当に何もない、普通の文章。
それでも彼女の手紙は心がこもっていて、読んでいて飽きなかった。
彼女はアレンの過去を詮索してこなかったし、アレンも彼女を詮索しなかった。

(そういえば、まだ名前も聞いてなかったな。今度聞いてみよう)

彼女に会えた時を想い、アレンは1人で微笑む。

その時、目の前にすとんと紙飛行機が落ちた。
振り返るとそこに彼女がいた。

彼女は前よりも細くなっていた。
ふらふらと立っているのもやっとに見える。触れたら蜃気楼のように消えてしまいそうな儚さだった。

アレンはいそいそと紙飛行機を開く。ツンと薬品の臭いが鼻を衝いた。

『遠くに行くことになったの だから バイバイ』

信じられない想いで彼女を見ると、彼女は右手をひらひらと振った。
その瞬間、アレンの頭は真っ白になった。

               ☆★☆★☆

あれから彼女に何と言って、どうやって帰って来たのか覚えていない。
気がつけば3日が過ぎていた。抜け殻のような空白の3日間だった。
彼女は、もう来なくなった。
アレンはあれが冗談だと信じて庭で待ち続けたが、彼女は嘘をつく人間でないことは知っていた。

ある日、アレンは看守室に呼び出された。

「お前は掃除をサボり、紙とペンをここから盗んで、子供と紙飛行機遊びをしていたようだな」

看守室の中央の机。
看守長の手には、彼女からきたアレンの紙飛行機が、全て握られていた。

「それ‥‥僕の‥‥どうして‥‥‥」

「これはお前の部屋のべッドの下に隠されていた」

それは、一番見つかりにくい場所だと感じて、彼女の紙飛行機を隠し続けた場所。
ついに、見つかってしまったのだ。

「遊びは、ここまでだ」

看守長は、紙飛行機を破り捨てた。

「‥‥‥‥っ!!」

アレンは看守長に殴りかかろうとしたが、周りの看守に押さえつけられた。
びり、びり、と紙飛行機を破っていく音だけが聞こえていた。

「僕の‥‥あの子の‥‥紙飛行機‥‥‥っ!」

彼女との思い出。彼女のメッセージ。彼女の、笑顔。
それらが全て、目の前で引き裂かれて消えていく。

看守長が薄く笑いながら手に取った、最後の紙飛行機。

『バイバイ』

そこには、確かにそう書いていた。
彼女からの、最後の手紙。

あっと思う間もなく、それは真っ二つに割れた。

その時、アレンの体は動いていた。

看守達を押しのけ、看守長に飛びかかる。
押し倒した看守長の顔を、思いっきり殴った。

2発目を放とうとしたところで、再び看守達に取り押さえられた。

頬をさすりながら、看守長は言う。

「そいつを、処刑室に」

忘れていた。今日は、月に1度の“死刑の日”だ。
毎月10人があの世へ送られる日。
その1人に、アレンはなってしまった。

               ☆★☆★☆

小さくて暗い部屋に放り込まれた。
この部屋のことは聞いたことがある。

死刑部屋。
ここに10人の死刑囚を閉じこめ、猛毒のガスを流す。
だがそれは量が限られている為、毎月10人なのだ。

背後の扉がガシャンと閉まる。
アレンの他に9人の先客たち。皆、光さえ宿っていない目で、下を向いていた。
もし死刑を逃れられたとしても、自分たちを待つものは何もないからだ。

だがアレンは違った。扉に飛びつき、拳でドンドンと叩く。

「ねぇ、出してよ!」

シュウゥ‥‥と音がして、異臭が漂い始めた。毒ガスだ。

「お願いだから。1度でいいから‥‥!」

アレンは死にたくなかった。
彼は見てしまったのだ。死刑囚が見るには、あまりにも眩しすぎる光を。

「最後に、あの子に会わせてよ‥‥‥」

苦しくなり、激しく咽た。
それでもアレンは懇願し続ける。神に。

「あの子に、会い‥‥たいよ‥‥‥」

それは、母親に菓子をねだる子供のようであった。

アレンは願い続ける。

「‥‥せめて‥‥‥」

彼女の紙飛行機に触れたい。
彼女の声が聞きたい。
彼女の、笑顔が見たい。

「‥‥名前‥‥だけでも‥‥‥知りた‥‥かった‥‥‥‥」

祈り続けたアレンの手は、空中で力なく揺れ、地に落ちる。

再び、静けさが戻ってきた————

Re: ボカロ ただ今[囚人の紙飛行機]編! 【短編集】 ( No.13 )
日時: 2012/01/24 21:47
名前: 鏡猫 (ID: cHwZ8QFd)

恋愛系、苦手なんですね。
「囚人」と「紙飛行機」も恋愛系なのでてっきり・・・

小説化、いつでもいいですよ!
リクエスト、なので無理にやらなくて大丈夫です!
前に片っ端からリクエストされたものやってたら意味わからない小説になってしまったのでw


ついにラストですかね?
さて、2人の運命はどうなるのか。気になります。

更新頑張って下さい!

Re: ボカロ ただ今[囚人の紙飛行機]編! 【短編集】 ( No.14 )
日時: 2012/01/25 21:07
名前: 麻香 (ID: 7dt7JvJO)

簡単な恋愛なら書けるんですけど‥‥‥
あまりにも純粋な物は、書いてるこっちが赤面してしまって///
「囚人の紙飛行機」編でも、ちょっと恥ずかしいです//

Re: ボカロ ただ今[囚人の紙飛行機]編! 【短編集】 ( No.15 )
日時: 2012/02/04 17:17
名前: 麻香 (ID: YAjKlDB6)

【カリン】

草原の中、獣道をかき分けて進む少女。
ねこじゃらしを片手に、小さく歌を口ずさんでいる。

「〜♪」

少女・カリンが向かっているのは、彼女のパパの仕事場。
パパを驚かせようと、こっそり抜け出してきたのだ。

パパの仕事場についた。
そこは、寂れた刑務所。あまりにも暗い雰囲気に、たいていの人は近づかない。
だが慣れているカリンは、刑務所を囲むように流れる川に沿って、ずんずん進んでいく。

と、何か擦れるような音がした。
見ると、鉄柵の内側に少年がいた。箒を手に掃除をしている。
囚人だ。

パパには、囚人に近づいてはいけない、と強く言われている。ろくでもない連中ばかりだから、と。
だが少年は、いわゆる“ろくでもない連中”には見えなかった。
それもそのはず、少年の顔には幼さが残っていた。

(彼と、お話してみたいなぁ‥‥‥)

なぜ、そう思ったのか分からない。だが、1度思うとなかなか忘れられない。
しかし彼とカリンの間には川があり、大声でないと届かない。だがパパに見つかってしまったら、ひどく怒られる。

カリンの足に、どこからか風で飛んできたのか、紙がまとわりついた。
邪険に振り払おうとしたが、良い考えが思いついた。
ポケットから、ママの形見である万年筆を取り出す。

「こんにちは、わたし暇なの、友達になって‥‥‥と」

メッセージを書いた紙を、折って紙飛行機にする。
そしてそれを高く高く飛ばした。
紙飛行機は大きく弧を描いて、少年の足元に落ちた。
少年は不思議そうに紙飛行機を拾い、辺りを見回す。目が合った。

(紙飛行機を、開いてください‥‥‥)

必死に少年の紙飛行機を指さす。
少年は意図を理解したようで、紙飛行機を開いた。

しばらく沈黙が続く。
緊張に耐えられなくなったカリンが、いっそのこと声をかけてみようかと思った時。少年が顔を上げた。
そして、大きく頷く。

嬉しさのあまり小躍りしそうになるのを抑え、カリンは少年に手を振って、駆け出した。
パパのことなど、頭の中にはすでにない。

               ☆★☆★☆

あれから幾日が過ぎた。
カリンは病院のベッドの上で、少年に貰った紙飛行機の数々を見ていく。時折、小さく微笑みながら。

『今日は僕の好きな食事だった けど君のレーズンのビスケットも食べてみたいな』

『大きな犬がいたの? 僕は犬が怖いんだ 君ってすごいなぁ』

単純明快な文章。それでも心があったかくなる。
不思議と、読んでいて飽きなかった。
それに、彼はカリンのことを詮索してこなかったし、カリンも彼を詮索しなかった。

(そういえば、まだ名前も聞いてなかったな。今度聞いてみよう)

彼に会えた時を想い、カリンは1人微笑む。

カリンは小さいころから重い病気を持っていて、病院暮らしだった。
ずっと親しい友達もいない。だから、彼に会えたことが嬉しかった。

と、突然、紙飛行機が取り上げられた。

「ちょ、ちょっと————」

文句を言おうとして、目の前に怖い顔のパパがいることに気づいた。

「これは、誰からだ」

「と、友達から‥‥‥」

「本当は?」

パパに嘘は通じない。そう感じた。

「実はね、パパの仕事場の囚人さんと、紙飛行機で文通してるの」

そう言うと、パパがすごく驚いたので、カリンは慌てた。

「違うの、とっても良い人よ!働き者だし、ちょっとかっこいいし、優しい————」

「もうそいつに会うな。パパの仕事場にも、2度と来てはいけないよ」

パパはそう言い放ち、病室を出て行ってしまった。
いつもは見ないパパの一面に、カリンは唖然とする。

(どうして彼と会っちゃだめなの?良い人なのに。わたしにはわかんないよ‥‥‥)

Re: ボカロ ただ今[囚人の紙飛行機]編! 【短編集】 ( No.16 )
日時: 2012/01/26 21:58
名前: 麻香 (ID: w.lvB214)

それからまた、幾日かが過ぎた。カリンは、あれから彼に会っていない。
ここ数日でカリンの体力は急激に落ちた。
身体を貫く管は増えていき、頻繁に息苦しくなる。

ある日、パパが医者に呼ばれて隣の部屋へ入っていった。
自分のことを話しているのだと思い、好奇心から、扉に耳を付けて盗み聞き。
良い報せかと期待したが、耳に飛び込んできたのは重い言葉だった。

「娘さんの余命は‥‥あと数日でしょう」

医者の坦々とした声。カリンは硬直した。

(わたしの命は、あとちょっと‥‥‥?)

時計の秒針がカチコチと進む音が、頭に響く。
あの針が進むごとに、自分に残された時間は減っているのだ。

気が付いたら、カリンは帽子をひっつかみ、走り出していた。

(もしもわたしが居なくなったら、心配する人‥‥‥彼に会いに行かなくちゃ‥‥!)

               ☆★☆★☆

彼は居るか心配だったが、ちゃんと居た。
カリンの紙飛行機を見つけて、顔を輝かせている。

そして彼は紙飛行機を開き‥‥‥‥固まった。

『遠くに行くことになったの だから バイバイ』

彼がゆっくりとカリンを見る。
カリンはその視線から逃げるように、踵を返して歩き出した。

そう、これでいいのだ。
彼は、もしカリンが死んでしまっても、引っ越したのだと解釈するだろう。
これで、いい‥‥‥

「待つよ」

凛とした静かな、だけど強い声がカリンを引き止めた。

「ずっと、待ってるから」

初めて聞く、彼の、声。

「ここでずっと待ってるよ。君の紙飛行機も大事にする。だから、またここに帰ってきて‥‥‥僕のために紙飛行機を飛ばしてください‥‥」

カリンは振り返らない。
また歩き出す。だがそれもだんだん早足になり、駆け出した。

彼の視線を、背中で受けながら。

               ☆★☆★☆

草原の中の獣道。病院へと続く道。
彼の姿が見えなくなった。それがカリンの限界だった。

「うわああああぁああああああぁぁぁぁんんん!!!」

頭を抱えて、泣いた。

目から零れ落ちる涙。泣き声をあげる口。どうすることもできなかった。

罪悪感が心を激しく突く。

自分は、彼に嘘をついた。
それでも、彼への1番の伝え方は、これしかなかった。

彼は待ち続けるのだろうか。帰ってくるはずのない自分を————

Re: ボカロ ただ今[囚人の紙飛行機]編! 【短編集】 ( No.17 )
日時: 2012/01/27 21:55
名前: 麻香 (ID: w.lvB214)

【イアル】

イアルはカリンの父であり、看守長であった。

「娘さんの余命は‥‥あと数日でしょう」

そう医者に言われ、愕然とした。
信じられなかった。数日前までカリンはあんなに元気であったのに。

「何故ですか!?このまま安静にしていれば、カリンは治るはずでは‥‥」

「ここ数日、娘さんは無理に運動をしていたようですね」

「運動‥‥‥?」

そんなことをさせた覚えはない。
少なくとも、ちゃんと大人しく、べッドの上で手紙を読んでいた‥‥‥

(‥‥‥手紙‥‥!)

カリンの言葉がよみがえる。

————実はね、パパの仕事場の囚人さんと、紙飛行機で文通してるの。

少し震えながら、許しを乞うような瞳で白状したカリン。
手紙を紙飛行機にして、囚人と文通していると言っていた。
病院から刑務所までは、そう遠くない。だが、長い間べッドの上で過ごしてきたカリンの身体には、充分な負担になるだろう。

(そいつが、カリンを‥‥‥)

カリンと文通している囚人。
カリンを、死に追いやった囚人。

(必ずこの手で、刑罰を‥‥‥!)

              ☆★☆★☆

「お前は掃除をサボり、紙とペンをここから盗んで、子供と紙飛行機遊びをしていたようだな」

そう言って紙飛行機を取り出すと、囚人・アレンはジッと凝視してきた。
庭で紙飛行機を飛ばしている囚人は知っているか、と看守に聞いたところ、すぐにアレンだと発覚した。
この紙飛行機は、アレンが留守の間に、アレンの部屋を探して見つけたものだった。
この刑務所では、その月に最も態度が悪かった囚人を10人、死刑にする。だがこれは内部機密であり、囚人たちは「ランダムに選ばれる」と思っているようだ。

「それ‥‥僕の‥‥どうして‥‥‥」

アレンは模範囚であった。きつい労働も嫌がらずにこなすため、今までその10人に選ばれず、この刑務所の古株だった。
だから今月も、「今月最も態度が悪かった囚人10人」には入らないはずだった。
だから、今からアレンを「今月最も態度が悪かった囚人10人」にするのだ。

「遊びは、ここまでだ」

紙飛行機をびりりと破る。
これはカリンの形見になるかもしれない。だが紙飛行機を破った瞬間、快感を覚え、気がつけば夢中で破っていた。
そして、最後の1枚を、破り捨てた。

「僕の‥‥あの子の‥‥紙飛行機‥‥‥っ!」

アレンは絶叫しながら飛び起きた。
その時、アレンを押さえていた看守たちは、アレンを離す。わざと。
アレンはイアルに飛びかかり、殴った。口に血の味が広がる。
アレンが2発目を放とうとした時、看守たちはアレンを再び押さえつけた。

イアルは立ち上がる。

「そいつを、処刑室に」

アレンを怒らせ、わざと看守長を殴らせる。これは、看守たちと打ち合わせした作戦だった。
そうしてアレンを「今月最も態度が悪かった囚人10人」にしたのだ。

これで娘の命を奪った囚人は、あの世へ逝く。

Re: ボカロ ただ今[囚人の紙飛行機]編! 【短編集】 ( No.18 )
日時: 2012/04/21 17:50
名前: 麻香 (ID: mo8lSifC)

【カリン】

もう、身体は動かない。
声も出せない。息をするのさえ苦しい。

病魔は、確実にカリンの体を蝕んでいった。

彼にお別れしてから、3日が過ぎた。
突然カリンの容体が急変した。

周りを看護婦が慌ただしく動き回る。
パパは、ずっとカリンの手を握っていた。暖かくて、安心する。
でも、やっぱり、怖い。

「パパ‥‥‥わたし‥‥ママの所へ‥‥行くのかな‥‥‥‥」

切れ切れにそう伝えると、パパは悲しそうな顔をした。
返事は、ない。

「‥‥パパ‥‥‥1人ぼっちにさせちゃうね‥‥ごめんね‥‥‥」

1人の寂しさは、誰よりも分かっている。
病院に来たころは、同室だった子と、励ましながら笑っていた。
だけど、その子は突然、死んだ。

なにもない、その子のべッド。その子が遊んでいた、くまのぬいぐるみ。その子の、清潔なシャンプーの匂い。
全てが目の前で置き去りになっていて、まるでそこだけ時間が止まってしまったようだった。
今にもその子が、カリンちゃん、あそぼ、と現れて、笑ってくれる気がした。

「先生、カリンちゃんの心拍数が減っています‥‥!」

「何か手立てはないのか!」

パパも、そんな想いをするのだろうか。
自分の遺留品を抱きしめて、毎日泣くのだろうか。
ママが天国へ行っちゃった時みたいに。

看護婦の慌てる声。医者の焦る声。パパが、カリン、カリン、と繰り返し呼ぶ声。
その全てが、突然聞こえなくなった。

聞こえるのは、心電図の静かな音。

ピッ‥ピッ‥‥ピッ‥‥ピッ‥‥ピッ‥‥

この音が途絶えた時、自分は死ぬ。

ピッ‥‥ピッ‥‥ピッ‥‥‥ピッ‥‥‥ピッ‥‥‥‥

(1度は、彼と話してみたかったな‥‥)

ピッ‥‥‥ピッ‥‥‥‥ピッ‥‥‥‥ピッ‥‥‥‥‥ピーーーッ‥‥‥‥‥‥‥

               ☆★☆★☆

カリンは、広い草原に立っていた。
自分は何故ここに立っているのだろう。ここはどこだろう。

なにもない、広い広い世界。
遠くに見える地平線。
そこに自分だけが取り残されていた。

ひゅお、と風を切る音がした。

見上げると、そこには、白い影。

(紙飛行機‥‥‥‥!)

紙飛行機は飛んでいる。
白く残像を残しながら、落ちることなく。

カリンは追いかけた。

1度は自分と彼を引き裂いた、暗い暗い闇。
でも、あの紙飛行機が、自分と彼を繋いでいる。
あの紙飛行機の、向かう先に、きっと。

上を見ながら走っていたので、何度もつまずいた。
そして、盛大に転んだ。

「痛い‥‥‥」

転ぶなんて、何年ぶりだろう。
膝小僧を刺す痛み。口の中に広がる土の味。
新鮮で、嬉しかった。

目の前に、手が差し伸べられた。

そこに、彼はいた。

暖かくて優しい笑顔だった。

幻なんかではない。ちゃんと、そこにいた。

カリンと彼の間には、なにもない。
鉄柵も。地位も。心の距離さえも。

カリンは笑いながら、その手を握った。


                                                  —END—