二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 鳥籠であり人形で、【DIABOLIK LOVERSオリ募集中 ( No.3 )
日時: 2012/11/22 19:42
名前: 月城 琉那 ◆XuuscjqfhY (ID: iEMeE8vl)

——序章*ある日の朝方——

 ぞっとするほどの恐ろしい夢を見た気がする。それはまるで、少女にとっては母親に頬を撫でられたときのようだった。嫌悪感が湧き、吐きそうになるほど恐ろしい夢。
 そんな夢で目を覚ますのは初めてじゃない。もう何十回繰り返してきていることなのだろうか。

「……五月蠅い」

 ぎゅっと胸の辺りの服を掴み、屋敷の玄関辺りから聞こえる声に多少イラつきがでる。ただでさえ悪い夢を見た後だというのに、朝方から兄弟は周りの人間のことなんて考えず、騒いでいる様子だった。愛らしい顔からは想像できないほどイラつきの含んだ舌打ちをし、セミロングの赤髪を揺らして少女は自室から出る。
 まだ朝方であるというのに、と考え込みながら階段を下り、玄関へと視線を移す。そして一人の実兄、茶髪で赤目の逆巻ライトと視線が合う。

「——アリサちゃん、どうしたの? 珍しいね、こんな朝に降りてくるなんて」
「ライ兄……。ただちょっと騒がしかったから来てみただけ。ちょっと色々あって起きちゃったから……」

 ライトは小さく笑みを浮かべて、そっか、というと少女——アリサの頭を優しく撫でる。
 アリサはライトを見てから笑みを浮かべた後、ほかの兄弟の方へと視線を移し、静かに目を細める。そして、くいっとライトの服の袖を遠慮がちに引っ張ると、ライトはアリサに視線を合わすようにしてしゃがみ、どうしたの? と聞く。

「あの女の人……誰?」
「ん? ああ、今日からここに住む新しい花嫁さんだってさ」

 ライトは相変わらず優しげな笑みを浮かべる。ふぅん、とアリサが言うと、アリサは小さく歩きだし玄関の前に立っている少女に近づいていく。

「……初めまして。私、月城アリサ、もとい逆巻アリサです。 貴女は?」
「えっと……。わ、たし……小森ユイです。よろしくお願いします」

 小森ユイ、と名乗った少女は、小さくぎこちない笑みを浮かべる。アリサは小さく微笑し、それもそうか、と思いつつ手を差し伸べる。するとユイはかすかに震える手を差し伸べ、ぎゅっと握手をすると、どこか安心したように、ほっと息をはいた。えへへ、と何時ものように人形のような笑みを浮かべ手を離す。

「シュウ兄、“あのこと”言ったの?」
「あ? ああ、言った。じゃ、俺寝るから。あとは勝手にやっといて」

 あのこと——いわゆる逆巻兄弟が吸血鬼ヴァンパイアということだ。そうか、言ったならなおさら怯えるわけだ。そう思いながらアリサは小さく笑みをこぼす。

「んじゃ、オレらも行くか。行くぞ、アリサ」

 逆巻家長男であるシュウが屋敷を案内するものなのだろうが、シュウは何の案内もせず、とっとと部屋に戻ってしまった。しかしアヤトも特に興味も示さず、元から面倒事が嫌いな兄弟のため、レイジが小さくため息をつきユイを連れて階段を上っていくのを見送った後、アヤトはアリサの方を見て声をかける。アリサも小さく、ん、と返事をして、近くにいたライトの手をぎゅっと握ってアヤトの方へと歩いていき、自室へと戻っていった。




















【ある日の朝方】













(それは、出会いがあって、彼女を堕落させる朝)


Re: 鳥籠であり人形で、【DIABOLIK LOVERSオリ募集中 ( No.4 )
日時: 2012/11/22 19:42
名前: 月城 琉那 ◆XuuscjqfhY (ID: iEMeE8vl)

——第一話*壊れるモノ——

 晩餐会なんて面倒臭いものなくなってしまえばいいのに。アリサは自身の懐中時計を見つめ、小さく目を細める。
 今日は満月で、兄弟はそろって食事をしなくてはならない。しかし、アヤト・レイジ・スバルの三人は用があるとかで今はいない。ライトとカナトは何やら仲良さげに喋っているのだが、シュウは半分寝ている様子だし、ユイも明らかに怯えている様子が目に見えため息をついた。確かにアヤトがいればユイは確実に狙われるだろうが、今はアヤトがいないからそんなに怯えなくてもいいのに。アリサは、まあ無理か、と小さく呟く。

 今日は食事が喉を通る気がしない。今日だけじゃない、彼女——ユイが来た日からだ。懐かしい、大好きなでも大嫌いな匂いが屋敷に充満している。他の兄弟達はまだ気づいていないようだが、これは——。

「アリサ? どうかしましたか?」


「……ん? ちょっとムカついただけ」
 
 カナトが珍しく声をかけてきた。そんなカナトにアリサは、にっこりと笑みを作りぎゅっと持っていたフォークを握って言葉と同時にフォークを懐中時計に突き刺した。
 ぱりん、と硝子の割れる音が響き、時を刻む音が聞こえなくなる。茫然とするユイにも小さく笑みを見せ、壊れた懐中時計を机の上に置きっぱなしにしてかたん、と音を立て席を立った。

「学校、先行ってるね。……ここにいると気分が悪い」

 アリサは部屋を出る前に、ぽつりとそう呟き、静かに部屋を出て行った。






 領帝学院高校は所謂、お金持ちや芸能人などの集まるセレブ校。ただし夜間学校というだけあって悪い噂も多くあったり無かったり。まあ噂の中で実在しているのは【吸血鬼ヴァンパイア】くらいなのだろう。

 アリサは自分の教室の自分の席に座る。隣はなぜかスバルだということは言うまでもない。歩きできたアリサより、リムジンできた彼らの方が速くついていたらしく、スバルの席には既に鞄が置いてあった。が、スバル本人は見当たらない。小さく首を傾げると、バンッ、と大きく机を叩く音が聞こえてきて、そちらの方向へと目をやる。

「ねぇ!! あんた聞いてんの!? 早くあんたのおにーさん達に会わせろって言ってんの!!」
「スバルくんにいつも会ってるじゃないですか。というか私、【月城】なんで。【逆巻】じゃないんですけど。まず自分で会いにいくのが常識じゃないですか? 八つ当たりはやめてください」
「っ……いつも同じリムジンから降りてくるうえに、仲良くしゃべってるくせによく言うわね!! ムカつくのよ、あんたって!!」

 声を荒げて 色々と罵倒してくる彼女は、女優かなんかやってるという人だ。最近やたら声を掛けてきては、『友達でしょ』とか言ってくる女。そうか、そういう裏があって友達とか言う奴を演じてたのか。

「ねぇ、聞いてるの!? いっつもそうやって澄まし顔でさ、いっつも一人で逆巻くんと一緒にいて。友達のいないかわいそーな子だと思ったから一緒にいてあげただけなのに、調子に乗って!!」
「……っさいなぁ。迷惑考えてください。私は貴女と一緒にいた記憶なんてありませんし、私は【友達】なんて脆い、壊れるものなんて必要ないから一人でいたんです。逆巻先輩方に会いたいのなら自分で行ってください。いい加減迷惑です」
「っ、あんたねぇ!!」

 ずっとつっかかてくる女にいい加減呆れてきた。そう言いたげな顔でアリサは立ち上がり、思いっきり机を蹴飛ばした後、女に近づいていき思いっきり殴る。蹴る。
 元からアリサに近づく者はいない。これで余計に突っかかってくる面倒な奴がいなくなるだけだ、そう思って思いっきり力を込めて蹴ろうとし——。

「おい、何してる」
「ん……スバル、くん?」

 蹴る前に、誰かの手によって目を塞がれ、蹴ろうとしていた足を下ろす。一応確認してみるアリサだったがスバルだという確信はあった。

「おい、そこの女。あいつらに会いたいのなら外にいるぜ? ただ“さっきの話”は全部聞かせてもらったけどな。こいつが可哀相だかなんかってやつ」

 びくり、と女の肩が震え、バッと起き上がる。しかしスバルはアリサを軽々と抱き上げ教室から出て行った。




















【壊れるモノ】












(だからこそ必要ない)

Re: 鳥籠であり人形で、【DIABOLIK LOVERSオリ募集中 ( No.5 )
日時: 2012/11/22 19:43
名前: 月城 琉那 ◆XuuscjqfhY (ID: iEMeE8vl)

——第二話*餌食——

 びり、とカレンダーを破る。新しくなったカレンダーの日付には七月一日と示されている。ユイが屋敷にきて、まだ二週間程度しかたたない。二週間という短い期間では、まだ誰の“餌食”にはなっていないようで、ユイは今のところ元気だった。
 アリサはほかの兄弟よりは多少鼻がきく。それはほかの兄弟との違い——たった少しの【血】の違いがアリサを狂わせている。

「っ……、いた、いっ!! アヤト、くん……!!」
「うっせーぞ、チチナシ。他のヤツが来るかもしんねぇだろうが」

 そう、それはたまたま通った場所でも関係なく嗅覚を貫く。
 アヤトの部屋をふっと通った瞬間、甘い、どこか痺れるような血の匂い。眩暈がするほどきつく匂う血は、新しい花嫁として屋敷に送り込まれてきたユイという少女のもの。

「な……んで?」

 気づかれない程度にぽつりと呟く。全身が、震え、それを抑えるようにぎゅっと腕を体に回し自身を抱きしめる。
 嘘だ、と否定したかった。そんなわけない。今まで確証の得られなかった事実が真実に変わった瞬間、アリサは顔を真っ青にし、一刻も早くその場から逃げるためにおぼつかない足取りで階段を下り、リビングにあるソファへとすぐさま腰かける。

「母様と……コーデリアと一緒……? アヤ兄は、気付いてないの……?」

 数分たった今でも止まらない震えに、よけい鳥肌が立つ。荒い、整わない呼吸を繰り返しているアリサに気付かず、無遠慮にリビングのドアが躊躇いなく開かれる。それにさえ気付かないアリサは、両手で耳を塞ぎ、ぎゅっと目を瞑りながらかすかに震えている。

「アリサ……? おい!! どうした!? ……っ、おい、ライト、レイジを呼んで来い」



 リビングに来たのは、シュウとライトであり、シュウは微かに震えるアリサを見てライトに静かに指示を出す。ライトは小さく頷くとすぐにリビングを出て階段を上る。

「や……、や、だ……っ。マ、マ……ママ」
「アリサ!? しっかりしろ!!」

 シュウの声はアリサには届いてはいない。狂ったように、ママ、母様、と言い続けるアリサ。必死に訴えるアリサを、シュウは優しく頭を撫でるが、あまり効果はない。

「アリサが、どうしました!?」

 ばん、とリビングのドアを開けたレイジで、その後ろにライトが立っている。レイジはアリサを素早く抱き上げ、とりあえずアリサの部屋に行きます、と声を掛ける。その間でさえもアリサは震えていた。



「高熱ですね……吸血鬼としては珍しい。ストレス性のものでしょうか」

 レイジは、アリサの額に手をあてて小さく呟く。多少うなされるアリサの頭をライトが撫で、シュウは心配そうにアリサの顔を見つめる。ライトは、小さく苦笑しつつ溜息をつく。

「ボクらの実妹なのに……、シュウもレイジも溺愛してるねぇ」

 小さく笑うライトに、シュウは別に、と、レイジはそんなことありませんよ、と反論する。

「ふふ。じゃ、シュウとレイジにお願いできるかな? アリサのこと」
「ええ。本当は私一人で十分ですが……仕方ありませんね」

 ライトは小さく笑みを浮かべ、部屋から出ていくと、レイジは小さくため息をつく。

「ではシュウ、貴方はアリサさんを看ていてください。何か作ってきます」

 シュウが静かに、ああ、と返すと、レイジは部屋を出て行った。
 そっと、シュウは、アリサの胸のところまであるセミロングの髪を指で梳くように撫でる。それは壊れ物を扱うかのように慎重で、大切だった。

「アイツも……お前も、みんな【餌食】だな。……あいつ、カールハインツの」

 シュウは悲しげに一人呟いて、そっとアリサの手を握った。




















【餌食】












(私とあの子のこと。永遠に終わりを告げられることのない人生を送る私達のこと)