二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- さよならデスパレート! ( No.322 )
- 日時: 2011/01/05 23:55
- 名前: 宮園 紫奔 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)
「ばいばい」
落ちていった。乾いたコンクリートの車のまばらに通る道路を背中に、病院の屋上から。
晴れ渡った雲ひとつのない青空の中に身を放り出し、無重力に全てを委ねる。
急転直下していく慣れしたんだ愛しい風景を眺めながら、風を受けて。
耳元に凄まじい風の音を感じて、自嘲気味に笑って。
どうして、こんなにも佐久間の状態が確認できるんだろう。一瞬疑問に感じて、すぐに悟った。俺は無意識のうちに佐久間を追って飛び降りていたんだ。冷えた鉄格子を飛び越えて、まるで海に飛び込むように。
佐久間の目が俺を認めると、その表情がみるみるうちに驚愕へと変化を遂げていく。そりゃそう、だよなあ。俺、後追い自殺——それも即行の——してるんだもんな。
「 」
軽く唸ってみたつもりだったけれど、風の音に邪魔されてその声は聞こえなかった。
俺は佐久間と死にたくて、それか佐久間にいなくなってほしくなくて、それで勢いで飛び降りたのか、若干図りかねている。果たしてこのままで、いいのだろうか。
例えばこんなに後味の悪い出来事——真・帝国学園——を経験して、しばらくサッカー出来ませんって言われて、罪悪感とかに体中蝕まれて、なんかもういつも落ち込んで死にたくなって。最期が、こんなぐだぐだでいいのだろうか。
何がしたくて、俺は佐久間の後を追ったのだろう。どうしてあんなに衝動に突き動かされたのだろう。
「 !」
佐久間が何かを叫ぶ。聞こえない。
無意識のうちに飛び降りるって、俺は相当病んでいるようだ。飛び降りて落下し始めるまで意識が吹っ飛んでいたなんて、普通の人間じゃないような気がする。まあそれだけ、恐らくいきなり佐久間が目の前で飛び降りたのは衝撃だったということだろう。そういうことにしておこう。
「 !」
佐久間が再度何かを叫ぶ。聞こえない。
思えば佐久間とは中学一年の時にサッカー部で出会って、それからずっと一緒にいたような気がする。親友、みたいなやつでいいのだろうか。こんなこと佐久間に言ったら、『何女々しいこと考えてんだよ』と呆れながら突っ込まれるに違いない。
「 !!」
佐久間がまた何かを叫ぶ。聞こえないってば。
サッカー部、楽しかったなあ。色々悔しいこともあったし、確かに中学のサッカー部の時間は四分の一ぐらいは影山に支配されていたけど、もうその呪縛も解けて。想い想いなサッカーが出来て、本当に楽しかった。あ、最後にもう一回だけでいいからサッカーやりたい。ってちょっと待て、これって走馬灯?
「 !!!」
佐久間が叫んだ。聞こえませんでした。
そういえば。人って、落ちる途中で意識失うらしい。ということは、俺もそろそろ意識を失うのだろうか。地面に当たる瞬間、と聞いたことがある。地面には後どれぐらいでつくだろう。その時が、死ぬ時か。あ、もうすぐ死ぬのか。いや俺、明らかに今から死ぬような心内状況じゃないよな。和みすぎだろ。
「 !!!!」
何度目か忘れたけど、またさくまgggggggggggggggggggggggggggggggg
「馬鹿野朗」
ばしん、と頭に強い衝撃が走る。ぐらぐらぐらっと世界が揺れる。物凄く痛い。暗転した世界に、光が差し込んだ。ここはどこだっけ、ぼんやりとそんな疑問が頭を支配する。また、頭にばしんと強い衝撃。
「馬鹿野朗」
あ、佐久間がいる。あれ、さっき佐久間、落ちてなかったっけ。そういえば俺も、落ちてたんじゃなかったっけ。
「馬鹿野朗」
物凄く眠い。佐久間の罵り声以外に、なにやらぶつぶつと耳に流れ込んでくる。なにこれ念仏?
「授業中だ起きろ馬鹿野朗」
あ、さっきの全部夢なのか。ん、ちょっと待って。
俺と佐久間は、フツーに学校で授業受けているのですが。
あれ。あれ。あれ。あれ?
病院にいたんじゃなかったっけ。あれ、体治ってる。
なにか、おかしい?
あれ?
あれ?
あ、
これが夢なのか。
(さよならデスパレート!)