二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 57章 事件解決? ( No.106 )
- 日時: 2018/02/13 21:10
- 名前: 霧火 (ID: OGCNIThW)
「喰らえ!!」
声高々に男が地面に叩き付けた球状の物はボフン、という音の後に大量の煙を放出した。
瞬く間にアヤネと男の姿は煙で見えなくなる。
「ゴホッ…!な、何ですかこの煙!?」
「どうだ、最終兵器・煙玉の威力は!何にも見えないだろ!はっはっ…ゲホッ」
「…大丈夫ですかー?」
「煩い!誰が煙で咽せて涙なんか流すか!!ゴホッ」
(言わなきゃ分からない事を自ら暴露してるし)
(自分で自分の首を絞めてるわね…)
(煙玉を使った本人が咽せてたら意味無いよなー)
(……かっこ悪)
以上が、野次馬の心の声である。
煙に巻き込まれてないせいか、こんな状況であっても彼等は冷静だった。
「…ああもう!やってられっか、俺様は帰る!!」
「なっ…逃げるんですか!?」
「違う!戦略を練り直したり手持ちを強化する為に撤退するだけだ!!」
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。
大声で否定した男に、周りは静まり返った。
男の言葉は結局──
「それってやっぱり、逃「へっ!盗んだボールの行方なんて知るかよ!地べた這い蹲って地道に探すんだな。
あばよ!!」
アヤネが言うより先に早口で捲し立て、男は走り去った。
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「…っはぁ、着いた」
息を吐き、男は切り株の上に腰掛けた。
草木の揺れる音と滝の音が静かに耳に入る。
【迷いの森】──人々からそう呼ばれる森に、男は逃げ込んだ。
名前から、決して見付かる事が無いと思ったのだが、いざ入ってみると──この森は一本道だった。
「これだと見付かるのも時間の問題だな…とりあえず、フェイクの奴に連絡しとくか」
右耳のピアスを2回叩く。
一見只のピアスに見えるが、これは叩いた回数で決められた相手の無線に連絡出来る、立派な小型無線機だ。
ピッ、という機械音が鳴った後、ピー… ピー… と音が続く。
(……出ないな)
無意識に人差し指が動いてピアスを叩く。
それから3分経った頃に、ガガッ、という音が聞こえ、次に明るい声が聞こえた。
〔はいはーい、もしも 「おい!そっちの状況はどうだ!?」 ……って、煩ーい!
もう少し小さな声で喋ってよ〕
無線に出た人物──フェイクに怒られ、男は慌てて声を抑える。
「わ、悪い。ところでお前、何してる?列車ん中に居るのは分かるけど」
〔ボク?ボクは絶賛縛られ中だよー〕
(何だ絶賛縛られ中って。何が絶賛なのか分からねーし…てか、絶対嘘だろ)
「…ふざけてるのか?」
声に溜め息が混じる。
ここまで緊張しながら全力疾走して来て、今だって周囲を気にしながら話しているのに、
話し相手は能天気な声で馬鹿な事を言っているので仕方ないだろう。
〔いやいや、ふざけてないって。捕まっちゃったの〕
「!捕まったって、お前が誘き寄せた奴等に!?マジで!?」
〔うん、マジです。そっちの状況はどう?〕
捕まった割に緊張感が感じられないと思ったが、口には出さず、代わりにフェイクの問いに答えた。
「モンスターボールの捕獲・運搬は失敗した」
〔……え?……失敗した?〕
今までの明るさが嘘の様に、無線越しに聞こえたフェイクの声は静かで、男は息を呑んだ。
「…っ、ああ」
〔ちょっと待ってー。キミの仕事、そんな難しくないハズだよね?〕
「俺様だって楽勝な仕事だと思ってた!だけど……あー!話すと長くなるし追っ手も来るかもしれないから
続きは後で話す!!」
自分でも一方的に話してるのは自覚しているが、冷静な頭とは裏腹に言葉は荒々しくなり、
早口になってしまう。
〔後でってキミ、今どこ 「【迷いの森】!お前もふざけてないで、さっさと脱出しろよ!」 ちょ、〕
フェイクの声はそこで途切れた。
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「何なんだよ、もー…切り方煩いしさー」
フェイクは首から下げたペンダントを見下ろし唇を尖らせる。
「随分変わった無線なのね」
「オシャレでしょー?これ、ボクの仲間が作ったんだよー♪」
「相手の声は聞こえなかったけど、今の受け答えからして……共犯者から?」
「そーだよ☆何でも、ボールを盗むの失敗したんだってさー」
フェイクはやれやれと言った感じに頭を横に振る。
しかしリオ達にとっては吉報だった。
「それじゃあ…!」
「ああ!ポケモン達は無事だ!」
喜び合うリオとナツキを見て、山男はフェイクを見下ろす。
「つまり…貴様は捕われ損という訳だな、小娘」
鼻を鳴らした山男に、
「そうでもないよ」
フェイクはにっこりと楽しそうに笑った。
「な、何?」
「仕事は失敗しちゃったけど、キミ達の性格や行動・判断力にバトルを知る事が出来たし、
同じく仕事を失敗したあの馬鹿も一応逃げれたみたいだしー…後はボクがここから逃げれば
全て良しって事さー♪」
「逃げるだと?縛られて身動きが取れないくせに大口を 「誰が?」 叩い、て……」
フェイクが体に巻き付いた縄を人差し指と親指で摘んで引っ張ると、ぱらり…と縄が床に落ちた。
驚くリオ達にフェイクは立ち上がって、自分の鼻を押す。
「ボクねー、昔サーカスで働いてたんだー♪その時に縄抜けっていう技を覚えたんだけど…
いやー、経験って役に立つモンだよねー」
ケラケラと笑いながら、フェイクはシンボラーを出して脚に捕まる。
「…っ、待ちなさい!!」
「ごめんねー、仲間の馬鹿に説教しなきゃいけないからボク帰るよ」
宙に浮いたフェイクを、リオは睨みつける事しか出来ない。
「また遊ぼーね。正義感の強いお嬢さん」
笑い声を残して、フェイクは空へと消えた。
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場所は再び【迷いの森】…
「ちっくしょー…聞いてないぞ、あんな強い奴が居るなんて!」
「もー、だから止めたじゃないですか」
「あ?」
切り株に座ってイライラと爪を噛んでいると、後ろから可愛らしい声が聞こえた。
振り返ると、木の影からふわふわした蜂蜜色の髪とチョコレート色の瞳をした少女が
ひょっこりと顔を覗かせた。
歳はリオより下ぐらいだろうか?
「ビッシュに回りくどいやり方は、にが重いって」
「……」
男──ビッシュは歩いて来た少女の首根っこを掴み、自分の膝の上に座らせた。
「ひゃわっ!?な、何するんですかっ!レディーにたいして!」
「なぁにがレディーだよ。もっと大きくなってから言うんだな、チービ」
そう言ってビッシュは、ジタバタと暴れる少女の首筋に唇を落とす。
ピシッと音を立てて固まった少女に、ビッシュは目を細めて笑う。
「…ありがとな。お前がくれた煙玉でこうして逃げる事が出来た」
「い、いいい、今っ……!」
「あ?何だ、首は嫌だったのか?」
「!?ちがっ…!」
「仕方ないな。生意気なマセガキに、優しい俺様からご褒美だ」
そう言って顔を近付けて来るビッシュに、少女は真っ赤な顔を反らして叫ぶ。
「いやーーっ!だれか!だれか、HELP!!」
「ばっか!大声出すな、見付かっちまうだろ!?」
ガサッ
「「!!」」
「………何やってんのさロリコン」
「なっ、何だフェイクか…脅かすなよ。それにしても遅かった…って!誰がロリコンだよ!?」
「反応遅っ。…幼女の首に痕を付けるだけでは飽き足らず、嫌がる幼女に顔近付けてニヤニヤしてたら
立派なロリコンだよ。寧ろ犯罪者?…つー事で警察逝って来いや」
笑顔で親指を首の前で横に動かした後、下に向けたフェイクにビッシュは顔を引き攣らせる。
「テメェ…俺様には随分し、し…塩辛いじゃないか」
「ビッシュ。それを言うなら辛辣ですよ。…と言うかフェイクさん!わたし、ようじょじゃありません!
名前はシャルロットです!」
「ツッコミ所そこ?…まぁ良いやー、それより遅かった理由だけど。キミのせいなんだからね」
「……は?」
何の事か分からず、口を開けるビッシュにフェイクは息を大きく吸い込み…
「煙玉を使ったのは良い判断だったと思うよ。でもさー…何でそこから走って逃げてんの?
飛行タイプのポケモンで逃げれば良いじゃん。それに何でわざわざポケモンセンターの角を曲がったの?
フツーに遊園地から出て右に行けば良いじゃん。何で遠回りしてんの、何で無駄にカメラに映ってんの。
お蔭で街に設置してあるカメラを全部壊す羽目になるしさー……何でキミそこまで馬鹿なの?」
「Σ長ぇよ!し、仕方ないだろ。あの時は頭の中パニックだったんだから」
「ふーん…?まぁ良いや。何があったかは詳しく、じーっくりと訊かせてもらうから。
今夜は寝かせないよ〜?」
「…マジか」
楽し気に頬を強く突つくフェイクに疲れた顔をするビッシュ。
そんな2人の間にシャルロットが割り込み、腕を広げる。
「……とりあえず帰りましょう。みなさん、わたしたちの帰りをまってます」
「そーだな」
「クスッ。そういえばさー、結局盗んだボールってどこに隠したのー?」
「ああ、それは──」
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「…灯台下暗しですね」
アヤネは頬が切り裂かれたピカチュウバルーンと散らばっているモンスターボールを見て呟いた。