二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 60章 クラクラvsフラフラ ( No.122 )
日時: 2018/02/13 21:29
名前: 霧火 (ID: OGCNIThW)


「  !!」

誰かが何かを叫んでる。
白い世界に、叫んでいた人が立っていて…


映像が砂の様に崩れ去って、また別の風景が映る。


恐い程に冷たくて、でも綺麗な場所に響き渡る小さな足音……
青い光が蛇の様に地を這う、誰の目も触れない様な場所に誰かが座り込んでいる………

そこに別の誰かが来て、口を開く。


最後に手を伸ばしたのは────



パチッ


『…』

瞼を持ち上げて最初に映ったのはこちらを覗き込み、涙をポロポロと流すヒトモシの小さな姿だった。


(…泣かないで)


そう言いたいのに、声がうまく出ない。
自分は大丈夫という事を伝えたくて、手を伸ばしてヒトモシの頬を撫でる。
僅かに身体を震わせ、ヒトモシは潤んだ目でこちらを見た。


『…モシ?』
「…ヒト、モシ」

重たい体を起こして少女が口を動かした。
掠れてはいたが、確かにヒトモシには聞こえた。
リオの、自分の名前を呼ぶ声が。


『…!モシ!!』

抱き着き、自分の頬に顔を寄せるヒトモシの背中を優しく叩く。
再び涙を流すヒトモシに、リオは視界がぼやけた。
ヒトモシの声を聞きつけてシビシラスやチラーミィ、バルチャイが次々と部屋の中へ入って来る。

腕に、腰に、背中に。
抱き着いたり額を当てるポケモン達の温もりを感じて、リオは目を閉じる。



「皆、やっと会えた……」


そう微笑んだリオの頬には一筋の線が出来ていた。



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リオは出窓まで歩き、窓を開けてオレンジ色に染まった空を眺める。
穏やかな風が髪を揺らす。


『ラーミィ?』

暫く流れる雲や飛んで行くマメパト達を眺めていた時、チラーミィが耳を動かしてドアの方を振り返った。
少しだけ早い足音が近付いて来た、と思ったと同時にドアが開き、見慣れた赤髪が現れた。


「…ん?何だ、思ったより早いお目覚めだったな」

ドアを閉め、アキラは先程までリオが眠っていたベッドに腰掛けた。


「アキラが私を運んでくれたの?」
「当然!…って言いたい所だが、途中で疲れちまってな。運んだのは母さんだよ」
「そうなんだ。でも、何でアキラのベッドに?あと、あの壁際に敷いてある布団は一体……」
「別に良いだろ?深く追求すんな。…あと、夜もベッドで寝て良いからな。俺は布団で寝っから」
「いや、私はもう大丈夫だか 「人の好意は素直に受けとけ」 …うぅ」


(やっぱ、リオが床で寝てんのに俺がベッドで寝るっつーのも罪悪感にかられてな)


アキラは踵を返すと、ドアノブに手を伸ばす。


「じゃあ、ちょっくらポケモンセンターに行ってイーブイ達迎えに行って来る」
「イーブイが居ないなーとは思ってたけど、修行でもしてたの?」
「修行もしてたっちゃあしてたけど…リオが寝てる間にジムにも挑戦しに行ってたからな」

あっけらかんと言ったアキラにリオは目を見開く。


「えっ!何それ聞いてない!」
「爆睡してる奴に言った所で意味ねぇだろうが。そーゆーワケで…先に取らせてもらったぜ。
 4個目のバッジ」

「……ずるい」

拗ねたのか、むっと頬を膨らませるリオにアキラは苦笑する。


(この調子ならもう大丈夫だな)


「やけに疲れた顔してるのは、ジム戦したからなのね。あー、羨ましい!」
「いや、まぁそれもあるけどな…」
「???」
「……ジムに行ってみれば嫌でも分かる。でも明日にするんだろ?」

気付けば空の色はオレンジから黒へと変わっていた。
夜になるのは、意外とあっという間だ。


「そうね。でも体も動かしたいし、私も修行して来る!」

ヒトモシ達をボールに戻して置いてあったリュックを背負ったリオに、アキラは慌てる。


「今からか!?もう外は真っ暗だぞ!?」
「だからこそよ!何か夜って強いポケモンに会えそうな気がして、すっごく興奮するの!」

目を輝かせて拳を握るリオ。完全にバトル(?)モードだ。


「…はぁ。もう良い、遠くまでは行くなよな」
「ありがと!ご飯までには戻るねー!」

スキップ混じりに夜のライモンシティに溶け込んで行ったリオに、アキラは静かに溜め息を吐いた。


結局リオが帰って来たのはそれから3時間後で、珍しくリオを叱るアヤネの後ろで
再度アキラが溜め息を吐いたのは言うまでもない。



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翌日。朝食を食べ終えたリオとアキラは遊園地へ向かっていた。
ライモンシティジムが、遊園地の敷地内にあるからだ。
暫く歩くと、ジムらしき建物が見えて来た。


「あの建物ね」
「言っとくけど、朝に食ったモン出すなよ」
「どういう意味?」
「……入ってみれば分かる」
「…昨日からソレばっかり。変なアキラ」

中に入ると中には無数のレールと、数カ所の足場、更にその上を小型の乗り物が走っていた。
目の前で停まった乗り物を指差しながら、アキラは口を開く。


「このジェットコースターに乗ってジムリーダーの所まで行くんだ」
「ジェットコースターって、こんなに小さい物なの?てっきり、もっと長くて大きい物だと思ってた」

アキラが指差しているソレは、どう見ても1人か2人しか乗れなさそうだ。


「まぁ、一般的な物はそうだが、コレはジム用に作られた特別なモンだしな」
「へぇ…私、ジェットコースターって乗った事ないのよね!楽しみ〜♪」
「…って!何で俺の腕を掴む必要があるんだよ!?」

顔を青くする幼馴染にリオは小さく首を傾げた後、晴れやかな笑顔を向けた。


「食べ物も楽しい事も、誰かと一緒に共有したいじゃない!」
「いや…リオの意見には同意するし、その誰かってのが俺なのは嬉しいが、今回は…」
「それじゃあ行ってみましょ!」
「だからお前はもう少し人の話を──」

アキラの言葉が止まる。

音を立ててジェットコースターの安全装置ベルトが勢いよく腰に締められたからだ。


[発車シマス]


ジェットコースター発車後、数秒後にチャレンジャーの楽しそうな悲鳴と、耳を劈く悲鳴が
同時に聞こえた(byおぼっちゃま・トモヒコ)



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ジェットコースターが最後に停まった場所に、ヘッドホンをかけた金髪の長身の女性が凛として立っていた。


「ようこそライモンシティジムへ。私がジムリーダーのカミツレよ、宜しくね」

カミツレは微笑を浮かべ、手を差し出す。
リオは透き通ったその手を握る。


「貴女が…よろしくお願いします!」
「うふふ、こちらこそ。さてと…早速勝負を始めましょう。……あまりのスピードにクラクラしてない?」
「大丈夫です!…私は」

カミツレとは対照的にぎこちない笑みを浮かべるリオ。
原因は後ろで口をポカン、と開けて天井を見つめている幼馴染だ。


「……そのようね。じゃあ貴女は、私の愛しのポケモン達でクラクラにしてあげる」
「それなら私だって!カミツレさん…貴女をフラフラにさせます!」


握っていた手を離し、2人はモンスターボールを手に取った。