二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 67章 リオvsカミツレ⑦ ( No.134 )
- 日時: 2018/02/13 23:00
- 名前: 霧火 (ID: OGCNIThW)
目を開けた先に広がっていたのは、花火の様に拡散する火の粉だった。
「え……?」
それが、ヒトモシが出した《弾ける炎》の残骸だと理解するのに時間は掛からなかった。
頭では理解した、しかしリオは目の前の光景を疑った。
技を出したヒトモシも、キラキラと雨粒の様に降り注ぐ火の粉を呆然と見上げている。
「その調子よ、ゼブライカ」
カミツレの言葉に誇らし気に鼻を鳴らすゼブライカ。
やはりゼブライカが《弾ける炎》を打ち消したようだ。
(《スパーク》、《ニトロチャージ》、《二度蹴り》…この3つの技に《弾ける炎》を破る力は無い。
それに、)
リオは座り込んで荒い呼吸を繰り返しているゼブライカを観察する。
(今挙げたのはどれも物理技──対象に接触しなきゃならないタイプだけど
ゼブライカに動いた形跡は見られない…となると、ゼブライカが使ったのは
私達がまだ見ていない最後の技──特殊技って事になるけど…)
リオが思案している間に先刻まで荒かったゼブライカの呼吸は、少しずつ落ち着き始めていた。
「…ゼブライカを攻撃すれば最後の技だって分かるわよね。ヒトモシ!」
ヒトモシは頷くと身体を捻って高くジャンプして、グルグルと回転する。
今までの《弾ける炎》を出す時とは違う動きにカミツレは目を細める。
座り込んだままのゼブライカも警戒を怠らない。
「弾ける炎、発射!」
リオの掛け声にヒトモシの身体から火花を纏った炎が放たれる。
只いつもと違うのは炎がいつもより小さく、代わりに数が多くなり、広範囲に放たれた事だ。
降り注ぐ炎は火の雨と言っても過言では無い。
(下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる、ってね)
最後の技を出させる為の戦法だが、上手くいけばダメージも与えられるかもしれない。
そんな期待もあるが、あくまで油断はしない。
どう動くのか──リオは注意深くゼブライカを見つめる。
「…最後の技、ね。この技は相手に当てようとか、余計な事を考えなくて良いの」
ゆっくりと口を開いたカミツレから静謐な雰囲気が漂う。
「アキラ君と戦った時はこの技を出せずに終わってしまったけれど…今、見せてあげる。ゼブライカ!」
カミツレが片腕を挙げると、暫く動かなかったゼブライカが立ち上がった。
ゼブライカは降って来る火の雨を青い瞳で睨み付けると、後ろ脚を広げて前に重心を掛ける。
そこでリオは、ゼブライカの身体の模様がチカチカと点滅し始めた事に気付いた。
点滅はどんどん速くなり、全ての模様が光った──
「行くわよ!放電!!」
ゼブライカの目がカッ、と見開かれる。
大きな声で咆哮すると、身体の中で蓄積された電気が稲妻へと形を変えて、
ゼブライカから一斉に解き放たれた。
「何だよ、この量は…!」
試合を見守っていたアキラが呟く。
リオも試合中でなければアキラの呟きに全力で頷いていた所だろう。
それ程解き放たれた稲妻の数は多く、あっという間に火の雨を打ち消してしまった。
しかし圧倒的な数と力を目の当たりにしても、リオの頭は冷静だった。
「左に躱して、すぐ右へ移動!」
言われた通りに動くと、稲妻はヒトモシの炎を擦り通り過ぎた。
ヒトモシが躱した後も稲妻は照明を、ジムの装飾を、全てを壊して行く。
その光景にリオの口がヒクリ、と引き攣る。
「…余計な事を考えなくて良いって、こういう事ですか」
「ええ。一気に放出された電気がどこに行くのか、私にもゼブライカにも分からないの。
味方に当たる事なんて日常茶飯事」
カミツレが肩を竦めたと同時に小さな悲鳴が上がった。
何事かとリオ達が視線を向けると、アキラが腰を抜かしていた。
アキラの頭上には小さな穴が4つ…どうやら《放電》の一部がアキラの頭上を通ったようだ。
「何で俺にばっか集中砲火!?イジメか!?」
中腰でゼブライカに問い掛ける幼馴染から目を逸らし、表情を引き締める。
(さっきは偶然躱せたけど、この手の規則性の無い攻撃は攻略が難しい…次も躱せるとは限らない)
大きく鳴り響いた蹄の音にリオが顔を挙げると、ゼブライカがレールの上に移動していた。
「《スモッグ》とさっきの爆発で煤を大量に吸っちゃったから、毒状態にならないか不安だったけど
何事も無く終わったみたいね」
微笑んだカミツレだが、その表情と声はどこか硬い。
毒状態にはならなかったが、爆発で受けたダメージが思いの外大きかった所為だろう。
「…ヒトモシ、もう1度!弾ける炎!」
「ニトロチャージで突破するのよ!」
紫色の炎の中を、炎に身を包んだゼブライカが物凄い速さで突き抜ける。
「それならこれです!目覚めるパワー!」
ヒトモシが続け様に放った水色の球体は、円を描きながら紫色の炎にぶつかった。
冷気と炎が混じり合い、やがて雪を含んだ水──霙となって駆けて来たゼブライカの目に入った。
突然襲った冷たさに驚き、反射的に目を閉じるゼブライカ。
集中力が途切れたのか炎は消え、脚の運びも遅くなる。
そんな隙だらけのゼブライカに残りの球体が全弾命中した。
「またコンビネーション技…!ゼブライカ、スパーク!」
ゼブライカは頭を横に振って霙を落とすと、電気を身体に纏う。
そして一気にヒトモシとの距離を詰めるとそのまま体当たりする。
「ヒトモシ!!」
『…!ヒト、モッ』
ヒトモシは手を伸ばしてゼブライカの耳を掴むと、そのまま身体を捻って背に飛び乗った。
「弾ける炎!」
「…させないわ!放電っ!」
炎と稲妻が交差する。
超が付く程の至近距離で相手の攻撃を受けて、その場に倒れ込む両者。
しかし相手が近くに居る事に気付き、直ぐさま距離を取る。
「…やるわねリオちゃん」
「カミツレさんも。流石です」
口許に笑みを浮かべる2人。
そんな中、アキラは顎に手を当ててリオを見つめていた。
(何やってんだ、リオのヤツ…カミツレさんは手加減して勝てる人じゃねぇのに。何で、)
アキラは心の中で生まれた疑問を声にして出した。
「……何で、最後の技を出さねぇんだ?」
「?」
「…」
アキラの呟きにカミツレは何の事か分からず、不思議そうに首を傾げる。
リオはアキラを半眼で見た後、大きな溜め息を吐いた。
「もー…アキラ五月蝿い。こっちにも色々あるんだってば」
「色々って……」
リオとアキラの会話にカミツレは今までヒトモシが出した技を思い出す。
(《スモッグ》に《目覚めるパワー》、そして《弾ける炎》…あとは、)
そこでカミツレは「あ、」と声を漏らす。
「不意を付いた攻撃やコンビネーション技で忘れてたけど、そのヒトモシ…」
「はい。アキラの言う通り、ヒトモシは技を3つしか出していません。
でも、別に出し惜しみしてたワケじゃないです」
(出し惜しみなんて、カッコイイ物じゃない。…出せないのよ)
リオは昨日の夜の事を思い出す。
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アキラに「ご飯までには戻る」と返し外に出たリオが選んだ修行場所は大きな跳開橋がある5番道路だ。
広い上に近くに海があるので、ヒトモシ達が己を鍛えるのに最適な場所だ。
実際にリオが思った通りにポケモン達の修行は捗っていた。
ただ1匹──ヒトモシを除いて。
「…頑張ってヒトモシ。もう1度っ」
そう言ったリオの声は掠れていて、夜風に掻き消されてしまいそうだ。
ヒトモシは数m先に置かれた的に向かって技を放つが、技の力に負けて身体が後ろに倒れてしまう。
出された技は的の横を通って上へ、夜空へ溶けていった。
「あー…惜しい!…私が支えてるからもう1度やってみよっか」
リオの優しい声音と手の温かさに励まされ、再度技を放つヒトモシ。
それから数秒後…道路に大の字になって呆然と星を見るリオとヒトモシが居た──
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(3時間粘ったけど、技は完成しなかった…ヒトモシを責めるワケじゃないけど、
中途半端な技で挑んで勝てる程、カミツレさんは甘くない。それに的に当てる事も出来なかったのに、
あんなに速く動き回るゼブライカに当てるなんて、とても…)
そこで、リオの頭の中でカミツレの言葉が再生された。
─この技は相手に当てようとか、余計な事を考えなくて良いの─
「……あ」
カミツレの言葉がストン…とリオの胸に落ちた。
「そっか。相手に当てる必要は無いんだ」
「リオ!!」
「!」
アキラの声で現実に引き戻されたリオ。
視線の先には《スパーク》を指示されたのか電気を纏おうとしているゼブライカが居た。
「ヒトモシ」
『……モシ?』
「後悔するのは…後でも出来るわよね!」
『!』
ヒトモシは大きく目を見開くが、直ぐに嬉しそうに笑った。
(大丈夫よ。貴女なら絶対、大丈夫)
心の中で呟いて、リオは口を開いた──