二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 73章 プランB ( No.144 )
日時: 2018/06/09 12:30
名前: 霧火 (ID: RjvLVXA1)

風を遮る建物が少ないこの場所は風が特に強く吹き、木々と草むらを大きく揺らす。
吹き荒れる風にポケモン達はお互い抱き合ったり、木にしがみついたりと、知恵を振り絞って風に耐える。



『……』


そんな彼等を尻目に、1匹のポケモンは木の陰から繰り広げられるバトルと──金髪の少女をじっと見つめていた。



「バチュルにチャージビームよ!」

リオは顔にかかる髪を抑えながら指示を出す。
シビシラスは身体に蓄積していた電気を帯状のビームにして一気に放つ。
ビームは風を突き抜け、行く手を遮る岩をも砕きバチュルに迫る。


「避け切れない…なら、突破です!」

岩の中から這い出したバチュルは躊躇う事無く光の中へ突っ込んだ。
バチッ、バリバリバリッ、と電気を破る様な音が暫く続き──


「そろそろですね。シザークロス!」

アヤネが言い終えた刹那。
《チャージビーム》の中から爪を交差させたバチュルが現れ、勢いを殺さずシビシラスを切り裂いた。
攻撃が通って得意気に小さく鳴くバチュルだが、コレは1対1のバトルではない。


「背中がガラ空きだぜ!モグリュー、切り裂く!」

密かに《穴を掘る》で地中を移動していたモグリューがバチュルの背後を取り、鋭い爪で薙ぎ払う。


「宙返りで回避!」

しかしバチュルは自分の身軽さを活かして横に振られた爪を宙返りで躱すと、モグリューの頭に着地した。
目を細め、嬉しそうに一鳴きしたバチュルにアキラの顔が引き攣る。


「しまっ…捕まえろ!!」

モグリューは頭の上のバチュルを抑えようと爪を伸ばすが、バチュルはひらり、ひらりと爪を掻い潜る。


「続けて毒突きです!」

そうこうしてる間にバチュルは毒素を含めた爪でモグリューの額を力強く突く。
バチュルが爪を離すと、そこには顔色を悪くしたモグリューが居た。
アキラは眉間に皺を寄せて小さく舌打ちをする。


(効果はいまひとつだが、こんな時に毒が回りやがった…!)


爪をだらん…と下ろし、荒い息を繰り返しながらその場に座り込むモグリュー。
バチュルは再び攻撃する為か、モグリューの頭に乗ったまま動かない。
その様子を見ていたリオはシビシラスが起き上がったのを確認してから、静かに口を開いた。




「シビシラス。モグリューに電磁波」
「「!?」」


リオの言葉にアヤネは驚愕する。
《電磁波》は電気タイプの技で地面タイプであるモグリューには効かない。
しかし効かないと言っても味方を攻撃する事実には変わりなくて、アヤネはリオの真意が理解出来なかった。


「おい!何考え「シビシラス。遠慮はいらないわ、やっちゃって」…リオ!」

仲間であるアキラの抗議を遮り、リオは困惑しているシビシラスに声を掛ける。
シビシラスは狼狽えていたが、目を瞑ると微弱な電気をモグリュー目掛けて飛ばした。
電気は真っ直ぐモグリューへと向かい、やがて命中した。



『…ッ!』


モグリューの頭の上に居たバチュルに。


「──え?」

音を立ててモグリューの目の前に落ちたバチュルに、アヤネは目を瞬かせる。


「よし!バチュルは麻痺状態になった。大成功ね」

口角を上げたリオにアヤネは視線を送る。


「簡単且つ単純な作戦だったんですけどね」

説明を求める視線に気付いたリオはそう前置きして話し始める。


「《電磁波》はモグリューには効きませんよね?でも効かないと言っても、電気自体を弾くワケじゃなくて、
 1度はモグリューの身体を通ると思うんです。そして最後に行き場を無くした電気は地面へ流れて行く……
 この時もし地面に流れる途中にモグリューに密着している子が居たら、どうなるのかと疑問に思って」

「そうして試した結果──電気はモグリューちゃんに密着していたバチュルちゃんの身体を通って、
 バチュルちゃんは麻痺状態になったという事ですか。モグリューちゃんへ攻撃を指示したのは、
 作戦を悟られない為ですね」

「バチュルを狙ってもモグリューを盾にされるか、あの身軽さと素早さで躱されると思いましたから」

肩を竦めてみせたリオに苦笑して、アヤネは視線をアキラへ向ける。


「……アキラのあの慌てようも演技だったのね。すっかり騙されましたよ」
「流石私の幼馴染み。名演技だったわよ、アキラ!」
「ふっ…当然だろ?」

親指を立てたリオにアキラは前髪を手で払い、眼鏡を押し上げる。


(ガチで焦ってたなんて、口が裂けても言えねぇ……)


心の中では何とも情けない事を呟いていたけれども。



「バチュルまで麻痺状態になっちゃったわね〜…ママンボウ、動ける〜?」

一方、完全に蚊帳の外状態のリマはママンボウに声を掛ける。
リマの問い掛けにママンボウは身体を動かすが、直ぐに電流が走って地面に倒れてしまう。


「あらあら。じゃあ動くのは次にしましょ〜」


そうリマが微笑むと、ママンボウの身体が鈍い光で包まれた。




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「シビシラス、スパーク!」

電気を纏ったシビシラスの攻撃がバチュルに命中する。
踏ん張っているのか、バチュルはしっかりとシビシラスの顔にしがみついていたが、限界だったのか
パッと離れた。


「…?」

バチュルを見たリオが目を細めた。
その後に目を擦り、何度も瞬きをするリオにアキラが首を傾げる。


(今、バチュルの口から何かが漏れた様な……目の錯覚?)

訝し気にバチュルを見つめるリオ。
バトルが激化する中、1つの人影が動いた。


「…うーん。そろそろ良いかしらね〜」

体を伸ばし、リマはモグリューを指差す。
そして口許に笑みを浮かべて、ゆっくりと言い放つ。



「水浸し〜」


ママンボウの口から大量の水が発射された。
麻痺になってからバトルに干渉しなかったママンボウの突然の攻撃に避ける間もなく、モグリューは
全身に大量の水を浴びる。


「モグリュー大丈夫か!?」
『モグ〜〜〜』

びしょ濡れになり元気を無くした様だが、ダメージは受けてなさそうだ。
ほっとするアキラだったが、モグリューの身体を包む様にして現れた水のベールに眉間の皺を寄せた。


「何だアレは…?モグリュー、破っちまえ!」

モグリューは自慢の鋭い爪で自分を覆うベールを切り裂いたり引っ張ったりしてみたが、
一向に破れる気配は無い。


「リマ…遅いです」
「ごめんね〜でも、バチュルの調子は整ったでしょ?」
「お蔭さまで」
「…整った?」
「どういう意味ですか?」

リマの言葉にリオ達は食いつく。
2人を見てリマは微笑み、そして──目を細めた。


「攻撃の要はバチュルで、ママンボウの攻撃手段は《アクアジェット》だけ。バチュルを集中攻撃して倒せば
 勝利は決まったも同然、こっちには相性が良いシビシラスが居るから大丈夫」

「「!?」」

驚くリオ達にリマはいつもの笑顔を向ける。


「うふふ。補助系は恐るるに足らず、なんて大間違いよ〜?」
「そういう事です。…バチュルちゃん、放電!」
「ママンボウ、守る〜」

ママンボウが緑色の球体に包まれる。
それから直ぐにバチュルの身体から電撃が膨れ上がった。


「…っ」

電撃の眩しさに、リオとアキラは一瞬目を瞑った。
光が止み、2人が目を開けると…シビシラスとモグリューが目を回して倒れていた。
2匹共、戦闘不能だ。


「どうしてモグリューが…?」
「それにバチュルは麻痺状態で直ぐには動けねぇハズ…!」

バチュルとの攻防で体力を削られていたシビシラスが今の攻撃で戦闘不能になるのは分かるが、
地面タイプであるモグリューに何故《放電》が効いたのか不可解だった。

バチュルがあんなに速く動けたのも疑問だ。


そんな2人の疑問にリマとアヤネがそれぞれ答える。


「《水浸し》は相手のタイプを水タイプ単体に変える技なの〜他のタイプを併せ持ってるポケモンも
 水タイプ単体に出来るのよ〜♪」

「そしてバチュルちゃんが直ぐ動けたのは、ママンボウちゃんの特性【癒しの心】のお蔭なの。
 この特性は1/3の確率で味方の状態異常を治してくれるんです。運が良い事に、
 バチュルちゃんの麻痺が治ったのは麻痺状態になった直ぐ後でした」

「…そんな技があるなんてね」
「成る程な。ママンボウの身体が鈍く光ってんのは見えたが、それは特性が発動してる光だったのか」

謎が解消されたリオとアキラはボールを手に取る。


「ありがとうシビシラス。戻って休んでて」
「サンキューな、モグリュー。ゆっくり休んでくれ」

リオはシビシラスを、アキラはモグリューをボールに戻す。



『……』


バトルを陰から見ていたポケモンはリオ達がボールを仕舞うのを確認すると、満足げに頷いて
雲の中へと消えて行った。