二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 7章 出発 ( No.15 )
- 日時: 2020/06/23 20:33
- 名前: 霧火 (ID: HEG2uMET)
「うふふ、旅に出るのは良いけど……今から歩いて行くの?」
リマにとっては何気なく言った疑問だったのだが、アキラはその言葉を聞いて固まった。
そう、2人は歩いて最初のジムがある街へ行こうとしていた。
しかしバトルとリオの用事で思った以上に時間が掛かってしまい、今はもう昼過ぎだ。
今から出発するとなると目的地に着くのは早くても夜、遅くて明日の朝あたりになってしまうだろう。
正直、真夜中に野生のポケモンが出る道を歩きたくないのがアキラの本心で
(因みにリオは慣れているので特に抵抗はない)、リマの言葉に「別に明日出発しても……」と、
早くも決心が揺らぎつつあった。
頭を抱えて唸るアキラに、リマは救いの手を差し伸べる。
「あらあら。今日中に最初のジムがある街に着きたいのなら、送ってあげるわよ〜?」
「え゛」
途端に眉間に皺を寄せて表情を硬くするリオの事など露知らず。
アキラは感激のあまり、リマの手を勢い良く握った(まぁ普段からよく握ってはいるが)。
「本当ですかリマさん!是非、お願いします!」
「ちょ、ちょっと!」
我に返ったリオは母親の手を握っているアキラの手を振り解くと、そのまま引っ張る。
「何だよリオ?邪魔するなよ……あ、もしかして妬いてんのか〜?」
「妬くって誰によ。……って、そんな事はどうでも良いの!本っ当に、お母さんに頼むの?」
「当たり前だろ!折角リマさんが俺達の為に人肌脱ぐって言ってくれたんだ、
その好意を無下にするなんて、俺には出来ねぇ……!」
ぐぐぐ、と拳を固めて熱く語るアキラに、だんだんリオは自分だけ焦ってるのがバカみたいだと思い始めた。
「あっ、そ。分かったわよ、もう止めない。ヒトモシ、戻って」
リオが髪の毛を弄って遊んでいたヒトモシをボールに戻したと同時に、リマが2人の前に立つ。
「話は纏まったかしら?」
「はい!すみませんリオが頑固で」
リマ達の会話を聞き流し、リオは一足先に外に出た。
「それじゃあ、貴方の出番よ。出てらっしゃ〜い」
リマはエプロンのポケットからモンスターボールを取り出し、そのままポケモンを出す。
姿を現したのは鎧のような体をしたポケモン——鎧鳥ポケモンのエアームドだ。
「うふふ。エアームド、最初のジムがある街までリオ達を連れてってあげてね」
『分かった』と言うようにエアームドは一鳴きして折り畳んでいた翼を広げた。
アキラがリマのエアームドを観察すると通常の個体よりも体が一回り大きい事が分かり、
「これなら俺達が背中に乗っても大丈夫そうだ。流石リマさんのポケモン、頼もしいですね」と、
アキラはリマにデレデレした顔を向けた。
リオはというと、そんなアキラとは対照的に複雑な表情でエアームドを見ている。
「本当なら私も一緒について行きたいのだけど、今日は昔からのお友達が遊びに来るから
行けないの……ごめんなさいね?」
「いいえ!そのお気持ちだけで十分です!」
(なんだかなぁ……)
リオは明らかにテンションが高くなっているアキラを一瞥して、こちらが乗り易い様に
屈んで待っているエアームドの頬を撫でる。
「……お手柔らかにね?」
「何やってんだリオ、早く乗らねぇと置いてっちまうぞ!」
「いつ乗ったの!?」
アキラの切り替えの速さに半分感心、半分呆れながらエアームドの背中に乗る。
そこにはアキラと、アキラの胸に寄り掛かる形で座るイーブイの姿…
「ちょっと待って。え、何?イーブイ戻さないの?」
「そうだけど。こいつが俺と同じ自由を好む性格で、ボールに入るのを極端に嫌うのは
リオも知ってるだろ?」
「何を今更、」と言いたげな目を向けるアキラにリオは困り顔でイーブイを撫でる。
「それは知ってるけど……悪い事は言わないわ。戻しなさい」
「命令形かよ。だが断る。相棒の、イーブイの嫌がる事はしたくねぇんでな」
拗ねた子供の様に外方を向くアキラにリオは溜息を吐く。
これではどっちが年上か分からない……と言ってもたった1歳しか違わないのだけれど。
(優しいというか、頑固というか……)
「分かった。戻さなくて良いけど私のリュックにイーブイが入って、顔以外無闇に体を出さない事が条件!」
「どうしてそんな必死なのかは知らねぇけど、その条件なら呑んで良いぜ。
イーブイ、リオのリュックに……って、はやっ!」
イーブイは既にリオの背中にあるリュックの中に入り、リラックスしていた。
アキラとイーブイは、思った以上に似た者同士らしい。
アキラはそんな相棒に肩を落とすが、すぐに気を取り直して腕を組む。
「恐かったら俺にしがみつけよ?女らしさが皆無っつっても、一応お前も……って、オイ」
リオはアキラの言葉を無視すると、1番前に座ってエアームドの頭の角にロープを縛り付け、
余った分をしっかりと握る。
「前に居たら俺にしがみつけねぇだろ?それに何だよロープなんか持って。
サバイバルをやるわけでもねぇのに大袈裟だな!」
けらけら笑うアキラにリオは真顔で振り返る。
「恐くなくても私の腰にしっかり掴まってなよ。キツかったらエアームドに頼んで休憩出来る場所に
降ろして貰うから、痩せ我慢しないですぐに言う事。分かった?」
「ははっ、それは俺の台詞——」
そこでアキラの言葉は途切れた。
何故なら、エアームドが羽を広げて空へと飛び立ったからだ。
……時速300キロで。
「行ってらっしゃ〜い。気を付けるのよ〜」
あっという間に見えなくなったリオ達に、リマはニコニコと手を振る。
「ぅわあああぁぁぁーーー!!」
「アキラ。煩い」
(……だから、気が乗らなかったのよ)
アキラの情けない悲鳴は、イッシュ地方全土に響き渡ったそうな。
いよいよ最初のジムがある、あの街に向けて出発しました!
今回リマの意外なポケモン、エアームドが登場しましたが、
実はまだまだリマはポケモンを持っています。どんなポケモンが居るかは……
もう少し話が進んだ頃に明らかにしたいと思います。
次回、三つ子と眼鏡っ娘が居るあの街に着きます。
それでは次回もお楽しみに!