二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 77章 綺麗な古い写真 ( No.150 )
- 日時: 2018/06/09 13:47
- 名前: 霧火 (ID: RjvLVXA1)
「今日は立て込んでいるので回復には少々お時間が掛かります。なので暫くの間、街の施設を
見に行かれてはいかがでしょうか?」
そう笑顔のジョーイさんに送り出され、今リオが居るのは着飾ったポケモン達が曲に合わせて舞台で踊る、
遊園地に次ぐライモン屈指の人気施設【ミュージカルホール】!
……なのだが、
「うーん…」
観客席に座りステージを見つめるリオの表情は冴えなかった。
(どのポケモンも綺麗に着飾ってダンスしてたけど…綺麗なのは衣装と小道具だけだったな)
もしこの場に心が読める人が居たら、直ぐに生意気だと罵倒されていただろう。
しかし、リオも最初はステージにポケモン達が現れた時、その華やかさに感嘆したのだ──その感嘆が落胆に
変わったのは、音楽が鳴り始めてからだった。
(まさか、ポケモン達があそこまで豹変するとは思わなかったわ…)
あの時は、リオは我が目を疑った。
観客が見ているのにも関わらず争う様にポケモン達は一斉にアピールをし始め、挙げ句の果てには
他のポケモンがスポットライトに照らされ踊っている時に小道具を振り回したり投げたりして、
妨害するではないか!
そして邪魔されたポケモンも、仕返しとばかりにそのポケモンの妨害をする…そんな事の繰り返しで、
曲が鳴り終わるとポケモン達は慌てて舞台裏へと消えて行った。
呆然とするリオを他所に他の観客は見慣れているのか、これもまたミュージカルホールの1つの形…とでも
考えているのか、小さいながらも拍手を贈っていたのには驚いた。
「お客さん。そろそろ…」
「あ、はい。今出ます」
そんなこんなで、リオは肩を落として観客席を立った。
(そろそろシビシラス達の回復終わったかしら…?)
混み合っていたポケモンセンターを思い出しながら赤い絨毯の上を歩く。
そのまま足は迷う事無く階段へと向かう筈だった──しかし途中の壁に飾られた、額縁に入った
古い写真にリオは足を止めた。
ミュージカルに参加したポケモンの写真が多く飾られている中、その写真だけ少女とポケモンが
一緒に写っていたからだ。
ポケモンはスポットライトに照らされて自慢の花が輝き、少女は少し大きめな桃色のワンピースを着て、
頬を紅潮させてポケモンと笑い合っている。
姿は幼いが、この人物は間違いなく──
「美しいでしょう?」
「きゃっ!?」
突然後ろから声を掛けられ、リオが驚いて振り返ると1人の老爺が立っていた。
(いつの間に後ろに…)
微妙に後退りするリオを余所に、老爺はリオが見ていた写真の額縁を撫でる。
「この写真はこのコンビが初めてミュージカルに参加した時の物なんですが…ポケモンの方は
大勢の観客を前にしても物怖じせず、自分が1番になる為に他のポケモンを蹴落とす真似もせずに
踊る事を心から楽しんでおりました。
トレーナーの女の子は舞台裏で火花を散らすトレーナー達とは違い、沢山のポケモンが踊るのを
目を輝かせて見ていました…ドレディアは千年に1匹の逸材でしたし、女の子も今時珍しい
純粋な心の持ち主でしたな」
その頃を思い出しているのか、老爺は目を細めて微笑んだ。
「あれから数年経ちますが、あの子達は元気にやってるのでしょうか…もう1度、お会いしたいのですがね」
そう言って、老爺は首だけを動かしてリオを見た。
突然こっちを見て来た老爺にリオはビクリ、と体を震わせる。
「…ところで君はあの少女にどこか面影が似ていますね。ここはどうでしょう、1度参加してみませんか?
経験なんて無くても大丈夫ですよ!誰でも参加可能ですから。それに君なら結構良い所まで行くと
思うんですよね。私、こう見えて見る目あるんですよ。だって私は、」
老爺が言い終わる前にリオは全力でその場から逃げ出した。
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「…とまぁ、そんな事があったのよ。初対面の人を悪く言いたくないけど…ちょっと恐かったわ、あの人」
「恐いもの知らずのリオにそこまで言わせるとは、その爺さんただ者じゃねぇな」
遠くを見るリオの肩を同情する様にアキラが叩いた。
ポケモンセンターで互いのポケモンを受け取った2人は、今【バトルサブウェイ】前のベンチに座っている。
「そう言えば、アキラは今までどうしてたの?モグリュー達を預けた途端、アヤネさんと一緒に
出てったけど…」
「ちょっと思う事があってな…母さんと向こうで話してたんだよ」
「ふーん」
含みのある言い方が少し気になったが、リオは特に問い質さず相槌を打つ。
そんな2人の元に手に飲み物を持ったアヤネが近付く。
「アキラに今度の旅に役立つアイテムを渡してたの。勿論リオちゃんの分もありますよ」
「そのアイテムってこの地方にある物なんですか?」
「ある事はあるけど、希少だから手に入れるのは難しいと思いますよ?」
「そうですか。…それなら貰うのは止めておきます。旅で手に入る物なら自分で見付けて、
手に入れた方が価値があるから」
「…それは躊躇無く母さんから貰った俺に対する嫌味か?」
アキラが顔を引き攣らせていると、大きな影が3人の前に落ちた。
全員が上を見ると、リマを乗せたエアームドが上空から降りて来た。
「ただいま〜」
「お帰りなさいリマ。ムトーさんは何て?」
「お父さんに「残党共が踏み荒らした草花を植え直す仕事が残っとるのに、いつまで遊んどる気じゃ!」って
怒られちゃった」
困った様に髪を弄るリマにリオが声を掛ける。
「お母さん…残党共って?」
「言わなかったけど、一昨日ちょっとしたトラブルがあってね〜」
「トラブル?」
決して穏やかじゃない単語にリオは表情を引き締める。
「変な格好をした人達が、リマとムトーさんのポケモンを盗もうとしたみたいなんです」
「…みたい?」
「あの時は私もお父さんも用があったから、ポケモン達に留守を任せてたのよ〜」
「リマ達が帰って来た頃には全員泣き喚いていたそうです」
「一体誰が泣かしちゃったのかしらね〜?」
首を傾げるリマにアヤネは複雑な顔をする。
(…十中八九、あの子でしょうね。あの子はトレーナー泣かせで有名だったし、現に私も
昔散々泣かされたから)
昔の事を思い出しながら、アヤネは名も知らぬ悪者達に内心同情したのだった。