二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 86章 優しい女の子 ( No.166 )
- 日時: 2013/12/28 09:38
- 名前: 霧火 (ID: KY1ouKtv)
「目が覚めたか」
「お爺ちゃん」
窓から顔を出していた2人に気付いたムトーが家の中に入って来た。
椅子に座ったムトーに、リオは窓を閉めてムトーと向かい合う形で椅子に座る。
ヒトモシは未だ外を眺めている。
その小さな目には、しゃがみ込んで苗を植えるリマの姿が映っていた。
「今日は大分リマに絞られたようじゃな」
「お母さんから聞いたの?」
「リマは何も言わんかった。しかしあの状況を見れば何があったか分かる」
断言するムトーに敵わないと悟ったリオは苦笑する。
「今日のお母さんはどこか違和感があって、正直……少し、恐かったわ」
「例えば…やけに挑発的な発言をしたり、手荒な攻撃をしようとしたのかのう?」
リオはハッとしてムトーの顔を凝視する。
「…何で分かったの?」
「ワシも同じ事を昔リマにしたからな」
ムトーの言葉にリオは大きく目を見開いた。
「お爺ちゃんがお母さんに?」
「左様。まずは──そうじゃな、リマの2人のライバルについて話すとしよう」
リマには2人のライバルがおってな。1人は優れた記憶力を活かしポケモンの能力から覚える技まで
ありとあらゆる事を暗記してバトルを優位に進め、もう1人はどんな弱いポケモンにも愛情を注ぎ、
強く立派に育て上げる姿から童ながらベテランと呼ばれていた。
ライバルが居るのは良い事じゃ…しかし、ライバルが優れた人間であればある程、与える影響は大きい。
現にリマはライバルとして恥じぬ強さを持ちたいから修行をつけてくれと、頭を下げて来た。
「…お母さんの申し出、受けたの?」
「始めは断ろうとした。リマは修行等せずとも充分強かったし、修行を申し込んだ時のリマはどうも、行き急いで
いる様に見えたしのう」
そう言ってムトーは目を細めた。
昔の出来事なのに、ムトーには昨日の出来事の様にその時のリマの姿を思い出せた。
「しかしこれは良い機会だと思い直した。世界は広く、ポケモンもトレーナーも沢山居る。そして中には自らの
鬱憤を晴らす為に、わざと弱い者に戦いを仕掛ける輩も居る。そういった奴等は相手を煽って神経を逆撫でし、
冷静な判断を出来なくさせる。負けたくないと思うのは決して悪い事ではない。相手の質が悪ければ尚更のう。
だが、意地になって退くべき所で退かず、結果ポケモンに一生消えない傷を負わせてしまったトレーナーを
ワシは新人・老練者問わず何人も見て来た……トレーナーには実力差を冷静に見極め、時には負けを認める
勇気も必要なんじゃ」
「負けを認める、勇気…」
「それがリマに備わっとるかどうか、ワシは試してみる事にした。自ら悪役になってな。今まで負け知らずで
優れたライバルが2人居て、負ける事すら許されない──いつの間にかそんなプライドが生まれていたリマは
案の定……ポケモンに無茶をさせた」
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〔毒針!〕
両端が尖った針が無数に飛んで来る。
全ての針の尖端に、毒が滴っているのが肉眼で確認出来た。
〔ロコン、熱風〕
体内に消えない炎を宿すロコンは体温が上がると、身体が熱くなり過ぎぬ様に口から炎を出す。
リマが修行を申し込んだ日は今年一番の猛暑日で、ロコンの体温は上がる一方だった。
そんなロコンの《熱風》は普段よりも威力も風圧も凄まじく《毒針》を一瞬で吹き散らし──否、燃やし尽くす。
〔他のポケモンは一撃で倒れたから期待してたが…エースと言っても所詮この程度か。トレーナーが未熟なら
ポケモンも未熟、か〕
炭と化した針を見下ろし挑発する。
挑発に乗らず冷静な判断をしてくれと願いながら。
〔二度蹴りよ!〕
〔ロコン、ギリギリまで引き付けて躱せ〕
近付いて来る相手にロコンは前屈みになる。
脚を蹴飛ばして来るタイミングを見逃さない様に、細かい動きに注意を払う。
そして相手が後ろ脚に力を入れたのを確認したロコンは右に動こうとした。
〔今よ!〕
しかし突然飛び上がった相手に意表をつかれ、ロコンの動きは止まる。
〔毒針!〕
相手はロコンの頭上を取り、毒を滴らせた針を発射する。
〔《二度蹴り》の指示はフェイクだったのか。合図も無しに見事だ…が、まだ甘い。空中で攻撃を躱す事は
出来ない〕
〔!!〕
〔ロコン、火炎放射〕
ロコンは上に向かって激しい炎を発射する。
《毒針》は炎に焼かれ炭と化し《熱風》の時とは違い炎は勢いを殺さずに相手に向かう。
〔ポケモンを戻すなら今のうちだぞ、リマ!」
炎の大きさから実力差を感じ取ったリマのパートナーは、既に戦意喪失している。正しい判断をしたんだ、
ポケモンは。
しかしリマはそんなパートナーに
〔《二度蹴り》で炎を突っ切って!!〕
そう、命令を下した。
〔何を言っているんだ…!?〕
《二度蹴り》で《火炎放射》をどうにか出来る訳が無い。
進化すれば能力が上がるから可能かもしれないが、今のリマのポケモンでは不可能だ。
それはトレーナーであるリマが1番知ってなければならない事だ。
〔ロコン〕
名前を呼ぶとロコンは出していた炎を飲み込んだ。
ロコンが指示通り最初から攻撃を外すつもりでいたから良かったものの、あのまま続けていたら間違い無く──
〔ご苦労だった、ロコン。戻ってくれ〕
〔ちょっと待って!まだよ!まだ、私のポケモンは戦え〔いい加減にしろ!!〕…っ〕
喰ってかかって来たリマを一喝する。
〔よく見てみろ!お前のポケモンの、その状態のどこが戦えると言う!?〕
リマのポケモンは震えていた。
ロコンの炎に恐れたのか、リマの指示に恐れたのか。
只一点を呆然と見つめながら震えるパートナーに、リマは完全に言葉を失った。
〔お前のプライドは自分のポケモンを傷付けて、将来を奪ってまで必要な物なのか!?そんなプライドなら
捨ててしまえ!!〕
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「…それからお母さんとそのポケモンはどうなったの?」
「リマは泣きじゃくりながらパートナーの傷の手当てをした。回復装置ではなく自分の手で、時間を掛けて
手当てしたいと言ってな…あの一件でリマは変わった。負けず嫌いなのは変わらないが、ポケモンに
優しくなった」
ムトーは言葉を切り、微笑む。
「だから今日の厳しい言葉の数々も、きっとポケモンを想って言った事だとワシは思う」
「…うん。今なら私もそう思える」
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「…マオの時も今日も、活躍させてあげなくてごめんなさい。貴女を出すと年甲斐も無くはしゃいじゃって、
只のバトルになっちゃうから…それだと、意味が無いから」
リマの言葉に頷きながらポケモンは地面を見渡して、苗を植える。
地面タイプだからか、良質な土が分かるらしい。
「いつか本当に強くなったリオとマオと戦いたいな。その時が来たら、一緒に戦ってくれる?」
間髪入れずに差し出された大きな手を、リマは両手で包み込む。
「ありがとう、ニドクイン」
ずっと変わらず傍に居てくれる優しいパートナーに、リマは疲れも忘れて微笑んだ。