二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 100章 意地悪なのか優しいのか ( No.183 )
日時: 2018/06/09 12:12
名前: 霧火 (ID: RjvLVXA1)

「思いっきり戦ってスッキリしよう、お互いに」

大きな切り株を背に立ったレイドは、懐から出したモンスターボールを掌で転がしながらリオを見る。
「お互いに」という言葉に疑問を抱きつつ、リオはボールを投げようとしたレイドに「待った」をかけた。
指先を伝って零れ落ちそうになったボールをキャッチしたレイドは短く息を吐き、ジト目でリオを見た。


「何。僕が相手じゃ不満?」
「ち、違うわよ。バトルの前に、まず許可を貰わないと」

そう言ってリオはレイドを──正確にはレイドの後方にあるキャンピングカーを指差した。
振り返り数秒キャンピングカーを見つめ、レイドは首を傾げた。


「許可って…あの中で生活をしてる女の人に?わざわざ?」
「ええ。さっきの男の人曰く、煩いのが嫌いでこの森で暮らしてるみたいだから、無許可でバトルをするのは
 非常識でしょ?」

道中、咲いている花を踏まない様に注意していたが、バトルになったらどんなに注意しても
多少は荒らしてしまうだろう。

それを分かっていながら無許可でバトルをして、暮らしている人が居る事も知りながら、
荒らした環境について何も伝えないのは、流石に人として駄目だと思った。


(…なんて、お母さんのカビゴンと戦った後の惨状を見て怒ったお爺ちゃんを見て、思った事だけど)


あの時は全てを母に任せて家に入ってしまったが、母は自分の修行に付き合ってくれたのだから、
自分も謝るべきだったと後で気付き、反省した。


「同性の方が話しやすいと思うから、私が話をしに行くわ」

胸を叩いたリオに数回瞬いだ後、レイドは目を細めた。


「ムキになってた割に気が利いてるじゃない」
「でしょ?」

珍しく褒められ、ついリオは得意気な顔になる。
しかし「許可貰いにいくんじゃないの?」と言わんばかりにじっと見つめてくるレイドにそっと目を逸らすと、リオは早足でキャンピングカーへと向かった。


「失礼しまーす…」

リオが中を覗くと左側には3人ずつ座れそうな水色のソファーが2つと小さなテーブルがあり、
右側はキッチンスペースなのか冷蔵庫とコンロ、流しがあった。


そして、リオが声を掛けても流しを見つめたまま動かない髪を1つに縛った女性が居た。


「あの、このキャンピングカー前の広い場所でバトルをしたいんですけど、大丈夫ですか?
 煩くなるので、無理なら他の場所に移動するんですけど…」

そこまで言って、ようやく女性はリオを一瞥した。
そして空だったのかテーブルの上の2本の缶を捨てると、冷蔵庫から同じ物を取り出してリオに差し出した。


ステイオンタブが付いていて、微かに水音が聞こえたので十中八九飲み物だろうが、
今まで見た事が無い赤色の缶──しかも原料はおろか賞味期限さえ記載されていないそれを、
リオは受け取って良いのか悩む。


しかし女性は缶を差し出したまま微動だにしないので、迷った末リオは缶を受け取った。


「あ、ありがとうございます。バトルしても大丈夫…ですか?」

「 … … … … 」

やはり女性は無言だ。
しかし小さく頷いたのを確認したリオは女性に頭を下げ、切り株に寄り掛かっているレイドに声を掛ける。


「許可は貰えたけど長々とバトルするのはあの人に悪いし、この場所を荒らし過ぎない様にしたいから、
 1対1のバトルで良い?」
「ふぅん。前と違って状況が変わったから、暫く僕とはバトル出来ないと思うけど…良いの?」
「状況って?」
「家族が、自分の役割を果たさないで何フラフラしてるんだ!…って煩くてね。少しの間は
 真面目にやろうと思って」


レイドが嫌そうな顔でポケットを弄ると、ライブキャスターに似た機械がちらりと見えた。


(前にレイドが言った急用って、家関係の事だったのかしら…)


「大変そうね。じゃあ旅は中断して戻る感じ?」
「そうだね。半日とかじゃなければ息抜きで遠出しても良いらしいけど」

ふぅ、と憂鬱そうに息を吐いたレイドにリオは両手を合わせる。


「…じゃあ息抜きで会えた時は、私が疲れも何もかも吹き飛ぶ、オススメの絶景スポットに
 連れてってあげる!」

「は?貴重な息抜きの時間を君に割くワケないでしょ。絶景だって旅の許しが出たら時間を掛けて
 自分で探し当てるつもりだし。第一、君が思う絶景と僕が思い描く絶景が同じとは限らないでしょ?」


THE・正論である。

我ながら押し付けがましかったとリオが自身の発言を訂正しようとした所で、


「……まぁ、気が向いたら付き合ってあげても良いけど」

レイドがぽつりと呟いた。

ボールの開閉音にさえ掻き消されてしまう様な小さな声だった。
しかし、この静かな森ではそんな声もリオの耳にしっかり届いた。

リオは自分の顔がどんどん緩んでいくのを感じた。
きっと私、だらしない顔しているんだろうな…と思いながら、リオは笑う。


「じゃあ、その気が向いた時に満足して貰える様に、素敵な場所を沢山見付けておくわね」
「絶景探しよりジム巡りを優先しなよ」

レイドは呆れ顔でぶにっとリオの鼻を摘まんだ。
急に息苦しくなって顔を真っ赤にして息を吐きだしたリオに「ぶさいく」と言って、レイドは大きく笑った。






かなり久しぶりの更新なのに短い上に前回に続いてポケモン要素が薄くてすみません!
次回はポケモン要素入りますので…!