二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 17章 リマvsマオ ( No.35 )
日時: 2020/07/08 20:25
名前: 霧火 (ID: HEG2uMET)

シッポウシティの先にある道路を歩くと【ヤグルマの森】という深い森がある。
その森に入る手前の細い道を下に歩いた先にある、大きな岩がそびえ立つ場所に4人は居た。

ここは【試しの岩】。
日々、格闘家達が己の力を試す為にこの岩に拳を突き付ける事から、この名が付いた。

「うふふ。ここなら邪魔にならないし、バトルするには最適でしょう?」
「そうね。使用ポケモンは3体で、先に3体戦闘不能になった方の負け。それで良い?」
「良いわよ〜」

体を伸ばして、のほほんと返事をするリマ。
その姿からは、とても強いとは思えないのだが……


「……リマさんって強いのか?」

アキラは隣で体育座りになり、膝の上に乗せたタマゴを拭いているリオに尋ねる。
こういう事はやはり身内に(マオは苦手なので却下)聞くのが1番だ。

しかしそんなアキラにリオはおしぼりを持った手を止め、難しい顔をする。

「分からないわ。お母さん、出身はカントーって事しか教えてくれないから……ただ、」
「ただ?」
「ヒトモシと出会って1年くらい経った頃かな……お母さんにバトルの相手を頼もうとした事が
 あったの。そしたらお爺ちゃんに、生半可な気持ちでリマに挑むと一生トラウマになる……って
 物凄い形相で注意されたわ」
「おい、それって……」

言いかけてアキラは喋るのを止め、リオもタマゴをケースに戻してリュックに入れた。
リマとマオが互いにボールを手に取ったからだ。

「行きなさいムーランド!」
「貴方の出番よ、エアームド〜」

マオの1番手はマントのように広がった髭が特徴の、ヨーテリーの最終進化系──寛大ポケモンの
ムーランドだ。
それに対してリマはボールからエアームドを繰り出す。

「マオが先制で良いわよ〜」
「それじゃあ遠慮なく行くわよ。ムーランド!《ワイルドボルト》!!」

ムーランドは白い電気を纏ってエアームドに突っ込む。

「エアームド、躱して〜」

しかしエアームドは攻撃が当たるギリギリの所で上昇して攻撃を躱すと、後ろへ回り込んだ。

「《フリーフォール》♪」

そして発達した足でムーランドの背中を掴み、そのまま持ち上げて上空へと連れ去る。
誰が見ても不利な状況だが、マオは口角を上げてエアームドを指差した。

「密着している今がチャンスよ!《炎の牙》!」

しかしムーランドは背中を掴まれている為か、攻撃に移れない。

「しっかりしなさいよムーランド!攻撃しなさいったら!!」
「あらあら……落ち着きなさいマオ。《フリーフォール》の最中は、動く事は出来ないのよ?」

リマが言い終わると同時にエアームドは空中で一回転して、その勢いを利用してムーランドを振り落とす。
受け身を取れず地面へ叩き付けられたムーランドは戦闘不能にはなっていないものの、
かなりのダメージを受けた。

ヨロヨロと立ち上がるムーランドを見て、マオは唇を噛む。

(たった1度攻撃を受けただけでこのザマなんて、私のプライドが許さない!!)

「今度こそ《炎の牙》!」

ムーランドは鋭い牙に炎を纏わせ、エアームドの翼に噛み付く。
翼の部分を噛み付かれ、しかも効果抜群の技を受けた所為か、エアームドの顔が苦痛に歪んだ。

「流石に翼の部分はマズいわね〜《ドリル嘴》で引き剥がすのよ〜」

(ここで無様に攻撃を喰らいたくないわ!)

「ムーランド!離れなさ──……?」
「エアームド?」

リマの指示が聞こえている筈なのに、エアームドは動かない。
《炎の牙》の効果の1つ、怯みが発動したのだ。

「あらあら。怯んじゃったのね〜」
「チャンスよ!もう1度《炎の牙》!」

ムーランドは翼から牙を離すと、再び牙に炎を纏わせてもう片方の翼に噛み付く。
効果抜群の攻撃を2度も、しかも1番鎧に覆われていない翼に受けたエアームド。
マオは口元に笑みを浮かべ、目を閉じる。

(これでエアームドは戦闘不能。フフフ!これで完全勝利への道が1歩近付いたわ!)

まずは1勝を確信したマオ。
しかし、その甘い考えはあっさりと覆された。

『ギャンッ!』


──ムーランドの、悲痛な声によって。


「なっ……!?」

マオが驚いて目を開けると、目の前には唸り声を上げているムーランド。
そして、そんなムーランドを翼を広げて静かに見下ろすエアームドだった。

「どうして!?何でまだ動けるのよ!?」
「ふぅ。翼を重点的に狙われるとは思ってなかったから、お母さん少しヒヤヒヤしちゃった。
 でも、意外と大したダメージにならなくて良かったわ〜」
「!」

ニコニコと笑うリマに唖然としたのはマオだけでなく、今まで静かに観戦していたリオ達もだった。

「……効果抜群の技を2回も受けてピンピンしてるとか、無理ゲーだろ。俺だったら軽く凹むぞ」
「まだバトルは始まったばかりだし、こんな事を言うのもアレだけど……お姉ちゃん勝てるのかな」

不安気な顔で息を吐いて、膝に乗せた手をギュッと握るリオにアキラは首を傾げる。
リオは特別マオと仲が良い……というわけでは無い。
マオはいつも妹であるリオを小馬鹿にしているし、リオもそんな破天荒で女王様気質の姉に
頭を抱える事が多い。

(それなのに……)

「マオさんを応援するなんて、リオって意外と姉ちゃん想いなんだな」
「べ、別に良いじゃない。私が誰を応援したって」

目を細めて笑うと案の定リオに睨まれた。

「顔が赤いから全然恐くねぇんだけど」
「赤くない。目の錯覚じゃない?」
「はいはい。俺もリオを真似して今回はマオさんを応援すっかな」

そんなほのぼのした会話を余所に、バトルは続いていた。

「くっ、ムーランド《起死回生》!」

ムーランドは大きく吠えると、力を振り絞ってエアームドを攻撃する。
《起死回生》は自分の体力が少ない程威力が上がる技──ムーランドの体力が少ない今、
本来ならかなりの威力になるはずだが、防御に特化してるのか、エアームドは平然としている。

「《鋼の翼》よ〜」

エアームドは発達した丈夫な足で長い髭を掴んでムーランドの怒濤の攻撃を止めると、
そのまま硬化した翼でムーランドの顔面を攻撃した。

ムーランドは、そのままグラリ、と力なく後ろへ倒れた。

「まずは1勝ね」
「……戻りなさい、ムーランド。まあまあ仕事したけど次はもっと頑張りなさい」

マオは目を回しているムーランドを戻し、次のボールを手に取る。

「完全勝利は逃したけれど、まだ私のポケモンは残っているわ。母さんに、ここから一気に
 華麗な逆転劇を見せてあげるわ!」
「うふふ、楽しみね」


リマとエアームドは静かに、美しく笑った。